IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本リライアンス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-モータ制御装置 図1
  • 特許-モータ制御装置 図2
  • 特許-モータ制御装置 図3
  • 特許-モータ制御装置 図4
  • 特許-モータ制御装置 図5
  • 特許-モータ制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/32 20160101AFI20221018BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20221018BHJP
【FI】
H02P21/32
H02P6/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018214355
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020088882
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390014384
【氏名又は名称】株式会社REJ
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】柿 雄介
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184307(JP,A)
【文献】特開平10-323098(JP,A)
【文献】特開2007-236048(JP,A)
【文献】特開2010-11539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/32
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁電流指令から励磁電圧指令を生成し、トルク電流指令からトルク電圧指令を生成し、PMモータの速度フィードバックから電気角を生成し、当該電気角に基づいて、前記励磁電圧指令及び前記トルク電圧指令を3相交流電圧指令に変換し、当該3相交流電圧指令に基づいて、電力増幅器を介して前記PMモータを制御するモータ制御装置において、
予め設定された直流励磁電流指令に対し、所定の速度指令に基づくフィルタ処理を施し、前記励磁電流指令を生成し、当該励磁電流指令と励磁電流フィードバックとの間の励磁電流偏差が0になるように電流制御を行い、前記励磁電圧指令を生成する直流励磁制御部と、
前記速度指令と前記速度フィードバックとの間の速度偏差が0となるように、所定のゲインを用いた速度制御を行い、前記トルク電流指令を生成し、当該トルク電流指令とトルク電流フィードバックとの間のトルク電流偏差が0になるように電流制御を行い、前記トルク電圧指令を生成するトルク制御部と、
前記速度フィードバックに基づいて電気角速度を生成し、当該電気角速度に対し、前記速度指令に基づくフィルタ処理を施し、電気角速度指令を生成し、前記電気角速度及び前記電気角速度指令のうちのいずれか一方を選択して積分処理を施し、前記電気角を生成する電気角制御部と、
前記電気角制御部により生成された前記電気角に基づいて、前記直流励磁制御部により生成された前記励磁電圧指令及び前記トルク制御部により生成された前記トルク電圧指令を、前記3相交流電圧指令に変換する第1座標変換部と、
前記電気角制御部により生成された前記電気角に基づいて、前記電力増幅器と前記PMモータとの間に設けられた電流検出器により検出された3相交流電流フィードバックを、前記励磁電流フィードバック及び前記トルク電流フィードバックに変換する第2座標変換部と、を備え、
電源投入時の初期モードのときに、
前記直流励磁制御部は、
前記初期モードのときの0値の前記速度指令に基づく前記フィルタ処理にて、前記直流励磁電流指令を反映した前記励磁電流指令を生成し、前記電流制御にて、前記直流励磁電流指令を反映した前記励磁電圧指令を生成し、
前記トルク制御部は、
予め設定されたゲイン下限値を前記ゲインに設定し、前記初期モードのときの0値の前記速度指令に基づく前記ゲイン下限値を用いた前記速度制御にて、0値の前記トルク電流指令を生成し、前記電流制御にて、0値の前記トルク電圧指令を生成し、
前記電気角制御部は、
前記初期モードのときの0値の前記速度指令に基づく前記フィルタ処理にて、0値の前記電気角速度指令を生成し、当該電気角速度指令を選択して前記積分処理を施し、0°の前記電気角を生成する、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記直流励磁制御部は、
前記直流励磁電流指令をi0、前記速度指令をω*、所定のパラメータをP0、前記励磁電流指令をid *として、数式:id *=(1/(1+P0ω*2))・i0にて、前記フィルタ処理を行うフィルタと、
前記フィルタにより生成された前記励磁電流指令から前記励磁電流フィードバックを減算し、前記励磁電流偏差を求める減算器と、
前記減算器により求めた前記励磁電流偏差が0になるように前記電流制御を行い、前記励磁電圧指令を生成する電流制御器と、を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ制御装置において、
前記トルク制御部は、
前記速度指令から前記速度フィードバックを減算し、前記速度偏差を求める第1減算器と、
予め設定されたゲインをKV *、前記速度フィードバックをω、所定のパラメータをP0、フィルタ処理後のゲインをKV *’として、数式:KV *’=(P0ω2/(1+P0ω2))・KV *にて、フィルタ処理を行うフィルタと、
前記フィルタにより生成されたフィルタ処理後の前記ゲインが予め設定された閾値以下である場合、前記ゲイン下限値を出力し、フィルタ処理後の前記ゲインが前記閾値よりも大きい場合、予め設定された前記ゲインを出力するリミッタと、
前記第1減算器により求めた前記速度偏差が0になるように、前記リミッタにより出力された前記ゲイン下限値または前記ゲインを用いた前記速度制御を行い、前記トルク電流指令を生成する速度制御器と、
前記速度制御器により生成された前記トルク電流指令から前記トルク電流フィードバックを減算し、前記トルク電流偏差を求める第2減算器と、
前記第2減算器により求めた前記トルク電流偏差が0になるように前記電流制御を行い、前記トルク電圧指令を生成する電流制御器と、を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記電気角制御部は、
前記速度フィードバックに予め設定された対極数を乗算し、前記電気角速度を生成する乗算器と、
前記電気角速度をωe、前記速度指令をω*、所定のパラメータをP0、前記電気角速度指令をωe *として、数式:ωe *=(P0ω*2/(1+P0ω*2))・ωeにて、前記フィルタ処理を行うフィルタと、
前記初期モードのときに、前記フィルタにより生成された前記電気角速度指令を選択し、前記初期モードから運転モードに切り替わり、当該運転モードのときに、前記乗算器により生成された前記電気角速度を選択するスイッチと、
前記スイッチにより選択された前記電気角速度指令または前記電気角速度を積分し、前記電気角を生成する積分器と、を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM(Permanent Magnet:永久磁石)モータを制御するモータ制御装置に関し、特に、PMモータの磁極位相を0°に合わせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転子(ロータ)に永久磁石(強磁性体)を使用したPMモータが知られており、このPMモータを制御するためには、永久磁石の界磁位置である磁極位相を検出することが必要である。
【0003】
PMモータの磁極位相を検出するためには、例えば、PMモータに接続された絶対値エンコーダが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
PMモータを制御するモータ制御装置は、例えば電源投入時に、PMモータに接続された絶対値エンコーダから磁極位相を検出し、検出した磁極位相を、回転座標系のdq軸の信号と3相交流の信号との間の座標変換を行うための電気角として使用する。そして、モータ制御装置は、その後、PMモータの速度を検出するために設けられたエンコーダから速度フィードバックを入力し、速度フィードバックから電気角を算出し、前述の座標変換を行うことで、PMモータを制御する。
【0005】
このように、モータ制御装置では、絶対値エンコーダを用いることにより、PMモータの磁極位相を検出することができ、PMモータを制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-223582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の絶対値エンコーダは、磁極位相を検出するために、電源投入時のみに使用され、その後は、PMモータの制御のために使用されることはない。
【0008】
このため、PMモータを制御する設備の費用低減の観点から、絶対値エンコーダをなくし、絶対値エンコーダに代わる簡易な手段を設けることが所望されていた。例えば、電源投入時に、PMモータの磁極位相を0°に強制的に合わせることができれば、磁極位相を検出する必要がなく、絶対値エンコーダを使用する必要がなくなる。
【0009】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、PMモータの磁極位相を0°に合わせる手段を備えることで、絶対値エンコーダの使用を不要とするモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1のモータ制御装置は、励磁電流指令から励磁電圧指令を生成し、トルク電流指令からトルク電圧指令を生成し、PMモータの速度フィードバックから電気角を生成し、当該電気角に基づいて、前記励磁電圧指令及び前記トルク電圧指令を3相交流電圧指令に変換し、当該3相交流電圧指令に基づいて、電力増幅器を介して前記PMモータを制御するモータ制御装置において、予め設定された直流励磁電流指令に対し、所定の速度指令に基づくフィルタ処理を施し、前記励磁電流指令を生成し、当該励磁電流指令と励磁電流フィードバックとの間の励磁電流偏差が0になるように電流制御を行い、前記励磁電圧指令を生成する直流励磁制御部と、前記速度指令と前記速度フィードバックとの間の速度偏差が0となるように、所定のゲインを用いた速度制御を行い、前記トルク電流指令を生成し、当該トルク電流指令とトルク電流フィードバックとの間のトルク電流偏差が0になるように電流制御を行い、前記トルク電圧指令を生成するトルク制御部と、前記速度フィードバックに基づいて電気角速度を生成し、当該電気角速度に対し、前記速度指令に基づくフィルタ処理を施し、電気角速度指令を生成し、前記電気角速度及び前記電気角速度指令のうちのいずれか一方を選択して積分処理を施し、前記電気角を生成する電気角制御部と、前記電気角制御部により生成された前記電気角に基づいて、前記直流励磁制御部により生成された前記励磁電圧指令及び前記トルク制御部により生成された前記トルク電圧指令を、前記3相交流電圧指令に変換する第1座標変換部と、前記電気角制御部により生成された前記電気角に基づいて、前記電力増幅器と前記PMモータとの間に設けられた電流検出器により検出された3相交流電流フィードバックを、前記励磁電流フィードバック及び前記トルク電流フィードバックに変換する第2座標変換部と、を備え、電源投入時の初期モードのときに、前記直流励磁制御部が、前記初期モードのときの0値の前記速度指令に基づく前記フィルタ処理にて、前記直流励磁電流指令を反映した前記励磁電流指令を生成し、前記電流制御にて、前記直流励磁電流指令を反映した前記励磁電圧指令を生成し、前記トルク制御部が、予め設定されたゲイン下限値を前記ゲインに設定し、前記初期モードのときの0値の前記速度指令に基づく前記ゲイン下限値を用いた前記速度制御にて、0値の前記トルク電流指令を生成し、前記電流制御にて、0値の前記トルク電圧指令を生成し、前記電気角制御部が、前記初期モードのときの0値の前記速度指令に基づく前記フィルタ処理にて、0値の前記電気角速度指令を生成し、当該電気角速度指令を選択して前記積分処理を施し、0°の前記電気角を生成する、ことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2のモータ制御装置は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記直流励磁制御部が、前記直流励磁電流指令をi0、前記速度指令をω*、所定のパラメータをP0、前記励磁電流指令をid *として、数式:id *=(1/(1+P0ω*2))・i0にて、前記フィルタ処理を行うフィルタと、前記フィルタにより生成された前記励磁電流指令から前記励磁電流フィードバックを減算し、前記励磁電流偏差を求める減算器と、前記減算器により求めた前記励磁電流偏差が0になるように前記電流制御を行い、前記励磁電圧指令を生成する電流制御器と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3のモータ制御装置は、請求項1または2に記載のモータ制御装置において、前記トルク制御部が、前記速度指令から前記速度フィードバックを減算し、前記速度偏差を求める第1減算器と、予め設定されたゲインをKV *、前記速度フィードバックをω、所定のパラメータをP0、フィルタ処理後のゲインをKV *’として、数式:KV *’=(P0ω2/(1+P0ω2))・KV *にて、フィルタ処理を行うフィルタと、前記フィルタにより生成されたフィルタ処理後の前記ゲインが予め設定された閾値以下である場合、前記ゲイン下限値を出力し、フィルタ処理後の前記ゲインが前記閾値よりも大きい場合、予め設定された前記ゲインを出力するリミッタと、前記第1減算器により求めた前記速度偏差が0になるように、前記リミッタにより出力された前記ゲイン下限値または前記ゲインを用いた前記速度制御を行い、前記トルク電流指令を生成する速度制御器と、前記速度制御器により生成された前記トルク電流指令から前記トルク電流フィードバックを減算し、前記トルク電流偏差を求める第2減算器と、前記第2減算器により求めた前記トルク電流偏差が0になるように前記電流制御を行い、前記トルク電圧指令を生成する電流制御器と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4のモータ制御装置は、請求項1から3までのいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記電気角制御部が、前記速度フィードバックに予め設定された対極数を乗算し、前記電気角速度を生成する乗算器と、前記電気角速度をωe、前記速度指令をω*、所定のパラメータをP0、前記電気角速度指令をωe *として、数式:ωe *=(P0ω*2/(1+P0ω*2))・ωeにて、前記フィルタ処理を行うフィルタと、前記初期モードのときに、前記フィルタにより生成された前記電気角速度指令を選択し、前記初期モードから運転モードに切り替わり、当該運転モードのときに、前記乗算器により生成された前記電気角速度を選択するスイッチと、前記スイッチにより選択された前記電気角速度指令または前記電気角速度を積分し、前記電気角を生成する積分器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、PMモータの磁極位相を0°に合わせることができるから、絶対値エンコーダを使用して磁極位相を検出する必要がない。したがって、PMモータを制御する設備から絶対値エンコーダをなくすことができ、費用を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態によるモータ制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。
図2】直流励磁制御部の構成例を示すブロック図である。
図3】トルク制御部の構成例を示すブロック図である。
図4】電気角制御部の構成例を示すブロック図である。
図5】直流励磁により磁極位相δを0°に設定する動作を説明するタイムチャートである。
図6】シミュレーション結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、電源投入時の初期モードにおいて、PMモータが回転していないときに直流励磁を行い、磁極位相δを0°に合わせる(設定する)ことを特徴とする。
【0017】
〔モータ制御システム〕
まず、モータ制御システムについて説明する。図1は、本発明の実施形態によるモータ制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。このモータ制御システムは、モータ制御装置1、電力増幅器2、モータ3及びPG(パルスジェネレータ)4を備えている。
【0018】
モータ制御装置1は、モータ3をd軸及びq軸にてベクトル制御する装置である。モータ制御装置1は、電源投入時の初期モードにおいて、モータ3が回転していないときに電気角θeを0°に設定してモータ3を直流励磁することで、磁極位相δを0°に設定する。
【0019】
モータ制御装置1は、その後、初期モードから運転モードに切り替わると、PG4から入力する速度フィードバックω(モータ3の回転速度)に基づいて電気角θeを算出する。そして、モータ制御装置1は、電気角θeに基づいて、回転座標系のdq軸の信号と3相交流の信号との間の座標変換を行う。
【0020】
モータ制御装置1は、座標変換後の3相交流電圧指令であるU相交流電圧指令Vu *、V相交流電圧指令Vv *及びW相交流電圧指令Vw *を電力増幅器2へ出力する。
【0021】
モータ制御装置1は、電力増幅器2とモータ3との間に設けられた電流検出器により検出された3相交流電流フィードバックであるU相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを入力する。そして、モータ制御装置1は、座標変換により、励磁電流フィードバックid及びトルク電流フィードバックiqを生成する。このようにして、モータ制御装置1はモータ3を制御する。モータ制御装置1の詳細については後述する。
【0022】
電力増幅器2はインバータを備えている。電力増幅器2は、モータ制御装置1からU相交流電圧指令Vu *、V相交流電圧指令Vv *及びW相交流電圧指令Vw *を入力し、これらの3相交流電圧指令からPWM信号を生成する。そして、電力増幅器2は、PWM信号によってインバータのスイッチング素子のゲートをオンオフし、インバータに入力される直流バス電圧をスイッチングして交流電圧に変換する。電力増幅器2は、交流電圧をモータ3へ供給する。
【0023】
モータ3はPMモータであり、例えばPMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor:永久磁石同期電動機)が用いられる。
【0024】
PG4は、モータ3の回転に応じたパルス信号を発生し、パルス信号のカウント値から得られるモータ3の回転速度を、速度フィードバックωとしてモータ制御装置1へ出力する。尚、図1には、速度フィードバックωがPG4からモータ制御装置1へ入力されるように、省略して示してある。
【0025】
〔モータ制御装置1〕
次に、図1に示したモータ制御装置1について詳細に説明する。このモータ制御装置1は、直流励磁制御部10、トルク制御部11、電気角制御部12及び座標変換部13,14を備えている。図1には、本発明に直接関連する構成部のみを示しており、直接関連しない構成部は省略してある。
【0026】
直流励磁制御部10は、予め設定された直流励磁電流指令i0を入力すると共に、所定の速度指令ω*を入力し、さらに、座標変換部14から励磁電流フィードバックidを入力する。直流励磁制御部10は、電源投入時の初期モードにおいて、直流励磁を行い、電流制御にて生成した励磁電圧指令Vd *を座標変換部13に出力する。一方、直流励磁制御部10は、運転モードにおいて、電流制御にて生成した励磁電圧指令Vd *=0(0値、0%の値)を座標変換部13に出力する。
【0027】
具体的には、直流励磁制御部10は、電源投入時の初期モードにおいて、速度指令ω*=0であることを利用して励磁電流指令id *=i0を生成する。そして、直流励磁制御部10は、励磁電流指令id *=i0と励磁電流フィードバックidとの間の励磁電流偏差が0となるように、電流制御にて励磁電圧指令Vd *を生成し、励磁電圧指令Vd *を座標変換部13に出力する。
【0028】
これにより、後述するトルク制御部11により出力されるトルク電圧指令Vq *=0及び電気角制御部12により出力される電気角θe=0の状態(詳細は後述する)において直流励磁が行われ、モータ3の磁極位相δが0°に設定される。
【0029】
直流励磁制御部10は、初期モードから運転モードに切り替わると、所定の速度パターンによる運転が開始し、直流励磁を停止する。直流励磁制御部10は、運転モードにおいて、速度指令ω*>0であることを利用して励磁電流指令id *=0を生成し、励磁電流指令id *=0に基づいた電流制御にて励磁電圧指令Vd *=0を生成し、励磁電圧指令Vd *=0を座標変換部13に出力する。
【0030】
トルク制御部11は、所定の速度指令ω*を入力すると共に、速度フィードバックωを入力し、さらに、座標変換部14からトルク電流フィードバックiqを入力する。また、トルク制御部11は、電源投入時の初期モードであるか否かを示す初期モード信号INIT@を入力する。トルク制御部11は、電源投入時の初期モードにおいて、速度制御にて変化の小さいトルク電流指令iq *=0を生成し、電流制御にて生成した変化の小さいトルク電圧指令Vq *=0を座標変換部13に出力する。また、トルク制御部11は、運転モードにおいて、速度制御にてトルク電流指令iq *を生成し、電流制御にて生成したトルク電圧指令Vq *を座標変換部13に出力する。
【0031】
具体的には、トルク制御部11は、電源投入時の初期モードにおいて、速度フィードバックω=0であることを利用して、後述する速度制御器33のゲインを最小値に設定し、速度制御器33により算出されるトルク指令T*の変化を抑える。また、トルク制御部11は、電源投入時の初期モードであることを示す初期モード信号INIT@=1(オン)を入力することで、後述する負荷フィードフォワード補償器35の推定負荷推定値TL^を0に設定し、推定負荷推定値TL^をトルク指令T*に反映させないようにする。
【0032】
トルク制御部11は、速度指令ω*=0及び速度フィードバックω=0であることを利用して速度制御にて変化の少ないトルク電流指令iq *=0を生成し、トルク電流指令iq *=0に基づいた電流制御にて変化の少ないトルク電圧指令Vq *=0を生成する。
【0033】
これにより、電源投入時の初期モードには、トルク制御部11により出力されるトルク電圧指令Vq *=0の変化が抑えられる。この場合、速度フィードバックω=0が速度フィードバックω≠0に変化しても、変化の少ないトルク電流指令iq *=0が生成され、トルク電圧指令Vq *=0が生成される。そして、トルク電圧指令Vq *=0の状態において直流励磁が行われ、モータ3の磁極位相δが0°に設定される。
【0034】
トルク制御部11は、初期モードから運転モードに切り替わると、所定の速度パターンによる運転が開始し、速度フィードバックω>0となり、後述する速度制御器33のゲインを通常値に設定する。また、トルク制御部11は、初期モード信号INIT@=0(オフ)を入力することで、後述する負荷フィードフォワード補償器35にて推定負荷推定値TL^を出力し、推定負荷推定値TL^をトルク指令T*に反映させる。トルク制御部11は、トルク電流指令iq *に基づいた電流制御にてトルク電圧指令Vq *を生成し、トルク電圧指令Vq *を座標変換部13に出力する。
【0035】
電気角制御部12は、速度フィードバックωを入力すると共に、所定の速度指令ω*を入力し、さらに、初期モード信号INIT@を入力する。電気角制御部12は、電源投入時の初期モードにおいて、電気角θe=0を座標変換部13,14に出力し、運転モードにおいて、速度フィードバックωから算出した電気角θeを座標変換部13,14に出力する。
【0036】
具体的には、電気角制御部12は、電源投入時の初期モードにおいて、初期モード信号INIT@=1を入力し、後述する積分器43をリセットすると共に、速度指令ω*=0であることを利用して電気角θe=0を生成する。電気角制御部12は、電気角θe=0を座標変換部13,14に出力する。
【0037】
これにより、電源投入時の初期モードには、電気角θe=0に基づいた座標変換が行われる。つまり、電気角θe=0の状態において直流励磁が行われ、モータ3の磁極位相δが0°に設定される。
【0038】
電気角制御部12は、初期モードから運転モードに切り替わると、初期モード信号INIT@=0を入力し、所定の速度パターンによる運転が開始して速度フィードバックω>0となる。そして、電気角制御部12は、速度フィードバックωに基づいた電気角θeを生成し、電気角θeを座標変換部13,14に出力する。
【0039】
座標変換部13は、直流励磁制御部10から励磁電圧指令Vd *を入力すると共に、トルク制御部11からトルク電圧指令Vq *を入力し、さらに電気角制御部12から電気角θeを入力する。
【0040】
座標変換部13は、電気角θeに基づいて、回転座標系の励磁電圧指令Vd *及びトルク電圧指令Vq *を、U相交流電圧指令Vu *、V相交流電圧指令Vv *及びW相交流電圧指令Vw *に座標変換する。座標変換部13は、U相交流電圧指令Vu *、V相交流電圧指令Vv *及びW相交流電圧指令Vw *を電力増幅器2へ出力する。
【0041】
座標変換部14は、電力増幅器2とモータ3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを入力する。また、座標変換部14は、電気角制御部12から電気角θeを入力する。
【0042】
座標変換部14は、電気角θeに基づいて、U相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを、回転座標系の励磁電流フィードバックid及びトルク電流フィードバックiqに座標変換する。座標変換部14は、励磁電流フィードバックidを直流励磁制御部10に出力すると共に、トルク電流フィードバックiqをトルク制御部11に出力する。
【0043】
〔直流励磁制御部10〕
次に、図1に示した直流励磁制御部10について詳細に説明する。図2は、直流励磁制御部10の構成例を示すブロック図である。この直流励磁制御部10は、フィルタ20、減算器21及び電流制御器22を備えている。
【0044】
フィルタ20は、直流励磁電流指令i0を入力すると共に、所定の速度指令ω*を入力し、直流励磁電流指令i0に対し、以下の式にてフィルタ処理を施し、励磁電流指令id *を算出し、励磁電流指令id *を減算器21に出力する。
[数1]
d *=(1/(1+P0ω*2))・i0 ・・・(1)
0は、予め設定された閾値である。
【0045】
ここで、フィルタ20は、電源投入時の初期モードにおいて、ユーザによる運転オンの操作があると、直流励磁電流指令i0を入力する。電源投入時の初期モードにおいては速度指令ω*=0であるから、フィルタ20は、励磁電流指令id *=i0を算出して減算器21に出力する。
【0046】
そして、初期モードから運転モードに切り替わると、所定の速度パターンによる運転が開始し、速度指令ω*>0となる。運転モードにおいては前記式(1)の分母>>1となるから、フィルタ20は、励磁電流指令id *=0を算出して減算器21に出力する。
【0047】
減算器21は、フィルタ20から励磁電流指令id *を入力すると共に、座標変換部14から励磁電流フィードバックidを入力し、励磁電流指令id *から励磁電流フィードバックidを減算し、励磁電流偏差を求める。そして、減算器21は、励磁電流偏差を電流制御器22に出力する。
【0048】
電流制御器22は、減算器21から励磁電流偏差を入力し、励磁電流偏差が0になるように、予め設定された比例ゲイン及び積分ゲインを用いてPI制御による電流制御を行い、励磁電圧指令Vd *を算出する。そして、電流制御器22は、励磁電圧指令Vd *を座標変換部13に出力する。
【0049】
ここで、電流制御器22は、電源投入時の初期モードにおいて、励磁電流指令id *=i0に基づき電流制御にて算出した励磁電圧指令Vd *を座標変換部13に出力する。これにより、直流励磁が行われる。
【0050】
そして、初期モードから運転モードに切り替わると、電流制御器22は、運転モードにおいて、励磁電流指令id *=0に基づき電流制御にて算出した励磁電圧指令Vd *=0を座標変換部13に出力する。
【0051】
このように、直流励磁制御部10によれば、電源投入時の初期モードにおいて、フィルタ20は、速度指令ω*=0であることを利用して、励磁電流指令id *=i0を生成する。そして、電流制御器22は、電流制御にて生成した励磁電圧指令Vd *を座標変換部13に出力する。これにより、直流励磁が行われる。
【0052】
また、運転モードにおいて、フィルタ20は、速度指令ω*>0であることを利用して、励磁電流指令id *=0を生成し、電流制御にて生成した励磁電圧指令Vd *=0を座標変換部13に出力する。これにより、通常のモータ制御が行われる。
【0053】
〔トルク制御部11〕
次に、図1に示したトルク制御部11について詳細に説明する。図3は、トルク制御部11の構成例を示すブロック図である。このトルク制御部11は、減算器30,38、フィルタ31、リミッタ32、速度制御器33、乗算器34,37、負荷フィードフォワード補償器35、加算器36及び電流制御器39を備えている。
【0054】
減算器30は、所定の速度指令ω*を入力すると共に、速度フィードバックωを入力し、速度指令ω*から速度フィードバックωを減算し、速度偏差を求める。そして、減算器30は、速度偏差を速度制御器33に出力する。
【0055】
フィルタ31は、速度フィードバックωを入力すると共に、予め設定されたゲインKV *を入力し、ゲインKV *に対し、以下の式にてフィルタ処理を施し、ゲインKV *’を算出し、ゲインKV *’をリミッタ32に出力する。
[数2]
V *’=(P0ω2/(1+P0ω2))・KV * ・・・(2)
【0056】
リミッタ32は、フィルタ31からゲインKV *’を入力し、ゲインKV *’にリミッタ処理を施し、予め設定されたゲインKV *または予め設定されたゲイン下限値KVminをゲインKVとして速度制御器33に出力する。
【0057】
具体的には、リミッタ32は、ゲインKV *’と予め設定された閾値とを比較し、ゲインKV *’が閾値以下であると判定した場合、予め設定されたゲイン下限値KVminをゲインKVとして速度制御器33に出力する。
【0058】
一方、リミッタ32は、ゲインKV *’が閾値よりも大きいと判定した場合、予め設定されたゲインKV *をゲインKVとして速度制御器33に出力する。ゲインKV *は、フィルタ31が入力するゲインKV *と同じである。
【0059】
速度制御器33は、減算器30から速度偏差を入力すると共に、リミッタ32からゲインKVを入力する。そして、速度制御器33は、速度偏差が0になるように、ゲインKVを用いてP制御による電流制御を行い、トルク指令T*を算出する。そして、速度制御器33は、トルク指令T*を加算器36及び乗算器34に出力する。
【0060】
ここで、電源投入時の初期モードにおいては、速度フィードバックω=0であるから、フィルタ31は、ゲインKV *’=0を出力し、リミッタ32は、ゲインKV *’=0が閾値以下であると判定し、ゲインKV=KVminを出力する。そして、速度制御器33は、速度指令ω*=0及び速度フィードバックω=0から算出された速度偏差0を入力し、ゲインKVの下限値であるゲイン下限値KVminを用いて速度制御を行い、トルク指令T*を出力する。これにより、電源投入時の初期モードにおいては、速度フィードバックω=0が速度フィードバックω≠0に変化しても、トルク指令T*は、変化の少ない0の指令となる。
【0061】
そして、初期モードから運転モードに切り替わると、所定の速度パターンによる運転が開始し、速度指令ω*>0及び速度フィードバックω>0となる。フィルタ31は、フィルタ処理を施したゲインKV *’を出力し、リミッタ32は、ゲインKV *’が閾値よりも大きいと判定し、ゲインKV=KV *を出力する。そして、速度制御器33は、ゲインKV=KV *を用いて速度制御を行い、トルク指令T*を出力する。これにより、運転モードにおいては、通常のゲインKV=KV *を用いて算出されたトルク指令T*が出力される。
【0062】
乗算器34は、速度制御器33からトルク指令T*を入力し、トルク指令T*にトルク定数推定値KT^を乗算し、乗算結果を負荷フィードフォワード補償器35に出力する。尚、トルク定数推定値KT^は、図示しない演算部により推定されたトルク定数とする。
【0063】
負荷フィードフォワード補償器35は、乗算器34から乗算結果を入力すると共に、速度フィードバックωを入力し、さらに、初期モード信号INIT@を入力する。そして、負荷フィードフォワード補償器35は、初期モード信号INIT@、乗算結果及び速度フィードバックωに基づいて、負荷トルクを補償するための推定負荷推定値TL^を算出し、推定負荷推定値TL^を加算器36に出力する。
【0064】
加算器36は、速度制御器33からトルク指令T*を入力すると共に、負荷フィードフォワード補償器35から推定負荷推定値TL^を入力し、トルク指令T*に推定負荷推定値TL^を加算し、負荷フィードフォワード補償後のトルク指令T*を求める。そして、加算器36は、負荷フィードフォワード補償後のトルク指令T*を乗算器37に出力する。
【0065】
乗算器37は、加算器36から負荷フィードフォワード補償後のトルク指令T*を入力し、負荷フィードフォワード補償後のトルク指令T*にトルク定数推定値KT^を乗算し、トルク電流指令iq *を求め、トルク電流指令iq *を減算器38に出力する。
【0066】
ここで、電源投入時の初期モードにおいては、負荷フィードフォワード補償器35は、初期モード信号INIT@=1を入力すると、推定負荷推定値TL^=0を設定し、推定負荷推定値TL^=0を出力する。加算器36は、速度制御器33から入力したトルク指令T*をそのまま出力し、乗算器37は、負荷フィードフォワード補償がされていないトルク電流指令iq *を出力する。
【0067】
そして、初期モードから運転モードに切り替わると、負荷フィードフォワード補償器35は、運転モードにおいて、初期モード信号INIT@=0を入力し、乗算器34から入力した乗算結果に基づいてモータ3の速度推定値を求める。そして、負荷フィードフォワード補償器35は、速度推定値と速度フィードバックωとの間の偏差を求め、偏差に基づいて推定負荷推定値TL^を求め、推定負荷推定値TL^を出力する。推定負荷推定値TL^は、偏差に基づく負荷トルクを補償するための値となる。乗算器37は、負荷フィードフォワード補償がされたトルク電流指令iq *を出力する。
【0068】
減算器38は、乗算器37からトルク電流指令iq *を入力すると共に、座標変換部14からトルク電流フィードバックiqを入力し、トルク電流指令iq *からトルク電流フィードバックiqを減算し、トルク電流偏差を求める。そして、減算器38は、トルク電流偏差を電流制御器39に出力する。
【0069】
電流制御器39は、減算器38からトルク電流偏差を入力し、トルク電流偏差が0になるように、予め設定された比例ゲイン及び積分ゲインを用いてPI制御による電流制御を行い、トルク電圧指令Vq *を算出する。そして、電流制御器39は、トルク電圧指令Vq *を座標変換部13に出力する。
【0070】
ここで、電流制御器39は、電源投入時の初期モードにおいて、トルク電流指令iq *=0に基づく電流制御にてトルク電圧指令Vq *=0を算出し、トルク電圧指令Vq *=0を座標変換部13に出力する。
【0071】
そして、初期モードから運転モードに切り替わると、電流制御器39は、運転モードにおいて、トルク電流指令iq *に基づく電流制御にて算出したトルク電圧指令Vq *を座標変換部13に出力する。
【0072】
このように、トルク制御部11によれば、電源投入時の初期モードにおいて、速度制御器33は、速度フィードバックω=0であることを利用して生成されたゲイン下限値KVminをゲインKVとして速度制御し、変化の少ないトルク指令T*=0を生成する。乗算器37は、同様に変化の少ないトルク電流指令iq *=0を生成する。そして、電流制御器39は、電流制御にて生成した変化の少ないトルク電圧指令Vq *=0を座標変換部13に出力する。これにより、直流励磁が行われる。
【0073】
また、運転モードにおいて、速度制御器33は、通常のゲインKV *をゲインKVとして速度制御し、トルク指令T*を生成し、乗算器37は、トルク電流指令iq *を生成する。そして、電流制御器39は、電流制御にて生成したトルク電圧指令Vq *を座標変換部13に出力する。これにより、通常のモータ制御が行われる。
【0074】
〔電気角制御部12〕
次に、図1に示した電気角制御部12について詳細に説明する。前述のとおり、電気角制御部12は、電源投入時の初期モードにおいて、電気角θe=0を座標変換部13,14に出力し、運転モードにおいて、速度フィードバックωから算出した電気角θeを座標変換部13,14に出力する。
【0075】
図4は、電気角制御部12の構成例を示すブロック図である。この電気角制御部12は、乗算器40、フィルタ41、スイッチ42及び積分器43を備えている。
【0076】
乗算器40は、速度フィードバックωを入力し、速度フィードバックωに予め設定された対極数NPを乗算し、電気角速度ωeを求め、電気角速度ωeをフィルタ41及びスイッチ42に出力する。
【0077】
フィルタ41は、乗算器40から電気角速度ωeを入力すると共に、所定の速度指令ω*を入力し、電気角速度ωeに対し、以下の式にてフィルタ処理を施し、電気角速度指令ωe *を算出し、電気角速度指令ωe *をスイッチ42に出力する。
[数3]
ωe *=(P0ω*2/(1+P0ω*2))・ωe ・・・(3)
【0078】
スイッチ42は、初期モード信号INIT@を入力すると共に、フィルタ41から電気角速度指令ωe *を入力し、さらに、乗算器40から電気角速度ωeを入力する。
【0079】
スイッチ42は、電源投入時の初期モードにおいて、初期モード信号INIT@=1を入力すると、a接点のリレーを導通すると共にb接点のリレーを非導通とする。スイッチ42は、フィルタ41から入力した電気角速度指令ωe *を積分器43に出力する。
【0080】
また、スイッチ42は、初期モードから運転モードに切り替わり、初期モード信号INIT@=0を入力すると、a接点のリレーを非導通とする共にb接点のリレーを導通する。スイッチ42は、乗算器40から入力した電気角速度ωeを積分器43に出力する。
【0081】
積分器43は、初期モード信号INIT@を入力すると共に、スイッチ42から電気角速度指令ωe *または電気角速度ωeを入力する。積分器43は、初期モード信号INIT@を入力したタイミングで、カウンタをリセットする。積分器43は、電気角速度指令ωe *または電気角速度ωeを積分することでカウンタをインクリメントし、電気角θeを求め、電気角θeを座標変換部13,14に出力する。
【0082】
ここで、電源投入時の初期モードにおいては、速度指令ω*=0であるから、フィルタ41は、電気角速度指令ωe *=0を、スイッチ42のa接点を介して積分器43に出力する。また、積分器43は、電源投入時の初期モードにおいて、初期モード信号INIT@=0を入力するとカウンタをリセットし、電気角速度指令ωe *=0を入力し、電気角θe=0を出力する。これにより、電源投入時の初期モードにおいては、電気角θe=0が座標変換部13,14に出力され、直流励磁が行われる。
【0083】
そして、初期モードから運転モードに切り替わると、所定の速度パターンによる運転が開始し、速度指令ω*>0及び速度フィードバックω>0となる。乗算器40は、速度フィードバックωから算出した電気角速度ωeを、スイッチ42のb接点を介して積分器43に出力する。そして、積分器43は、電気角速度ωeを入力し、電気角速度ωeから求めた電気角θeを出力する。これにより、運転モードにおいては、速度フィードバックωから算出した電気角θeが座標変換部13,14に出力され、モータ制御が行われる。
【0084】
このように、電気角制御部12によれば、電源投入時の初期モードにおいて、フィルタ41は、速度指令ω*=0であることを利用して生成した電気角速度指令ωe *=0を積分器43に出力する。そして、積分器43は、電気角速度指令ωe *=0を入力して電気角θe=0を出力する。これにより、座標変換部13,14にて、電気角θe=0に基づいて座標変換が行われ、直流励磁が行われる。
【0085】
また、運転モードにおいて、積分器43は、速度フィードバックωから算出された電気角速度ωeを入力して電気角θeを求め、電気角θeを出力する。これにより、座標変換部13,14にて、速度フィードバックωから算出された電気角θeに基づいて座標変換が行われ、通常のモータ制御が行われる。
【0086】
〔動作〕
次に、電源投入時の初期モードにおける直流励磁の動作等について説明する。図5は、直流励磁により磁極位相δを0°に設定する動作を説明するタイムチャートである。図5には、速度指令ω*、速度フィードバックω、初期モード信号INIT@、直流励磁電流指令i0、励磁電流指令id *、トルク電流指令iq *、電気角θe及び磁極位相δが示されており、横軸は時間である。
【0087】
モータ制御装置1によるモータ制御の動作モードは、電源投入時の初期モード、及び所定の速度パターンにより制御が行われる運転モードの2つがある。前者の初期モードのときに直流励磁が行われ、磁極位相δが0°に設定される。
【0088】
図5を参照して、電源投入がなされると初期モードとなり、初期モード信号INIT@=1が設定される(a)。このとき、モータ3の初期の磁極位相δ(初期位相)は-90°であるとする(b)。初期モードにおいては、速度指令ω*=0及び速度フィードバックω=0である。
【0089】
初期モードにおいて運転操作がなされると(c)、直流励磁制御部10において、直流励磁電流指令i0が入力され(d)、直流励磁電流指令i0を反映した励磁電流指令id *が生成される(e)。そして、励磁電圧指令Vd *が生成される。
【0090】
また、トルク制御部11において、速度指令ω*=0及び速度フィードバックω=0であるため、トルク電流指令iq *=0が生成される(f)。そして、トルク電圧指令Vq *=0が生成される。
【0091】
また、電気角制御部12において、速度指令ω*=0及び速度フィードバックω=0であるため、電気角θe=0が生成される(g)。
【0092】
これにより、座標変換部13において、電気角θe=0に基づいて、直流励磁電流指令i0を反映した励磁電圧指令Vd *及びトルク電圧指令Vq *=0が、U相交流電圧指令Vu *、V相交流電圧指令Vv *及びW相交流電圧指令Vw *に座標変換される。そして、この3相交流電圧指令が電力増幅器2へ供給され、モータ3の磁極位相δが0°に設定される(h)。
【0093】
一方、初期モードから運転モードに切り替わると、初期モード信号INIT@=0が設定され、運転モードとなり(i)、所定の速度パターンによる運転が開始し、速度指令ω*>0(j)及び速度フィードバックω>0となる(k)。
【0094】
直流励磁制御部10において、速度指令ω*>0となると、励磁電流指令id *=0が生成され(l)、励磁電圧指令Vd *=0が生成される。
【0095】
また、トルク制御部11において、速度指令ω*と速度フィードバックωとの間の速度偏差等に応じたトルク電流指令iq *が生成され、トルク電圧指令Vq *が生成される。
【0096】
また、電気角制御部12において、速度フィードバックωに基づいた電気角θeが生成される(m)。
【0097】
これにより、座標変換部13において、電気角θeに基づいて、励磁電圧指令Vd *=0及びトルク電圧指令Vq *が、U相交流電圧指令Vu *、V相交流電圧指令Vv *及びW相交流電圧指令Vw *に座標変換される。そして、この3相交流電圧指令が電力増幅器2へ供給され、モータ3の制御が行われる。
【0098】
〔シミュレーション結果〕
次に、図1に示したモータ制御装置1による計算機のシミュレーション結果について説明する。図6は、シミュレーション結果を説明する図である。グラフの上部から、速度フィードバックω、励磁電流フィードバックid、トルク指令T*、磁極位相ずれsinδ及び初期モード信号INIT@を示している。横軸は時間である。
【0099】
初期モード信号INIT@=1の初期モードにおいて、運転操作がなされると(a)、トルク指令T*=0の状態で、励磁電流フィードバックidが0%から50%に変化し、直流励磁が行われることがわかる。
【0100】
そして、モータ3の初期の磁極位相δ=-90°が0°に設定され、磁極位相ずれsinδ=-1から0に変化する。
【0101】
一方、初期モードから運転モードに切り替わると、初期モード信号INIT@=0の運転モードにおいて、所定の速度パターンによる運転が開始し、モータ3の制御が行われ、速度フィードバックωが0%から100%へ変化し0%へ戻る値をとるようになる。
【0102】
以上のように、本発明の実施形態によるモータ制御装置1によれば、直流励磁制御部10は、電源投入時の初期モードにおいて、速度指令ω*=0であることを利用して励磁電流指令id *=i0を生成する。そして、直流励磁制御部10は、励磁電流指令id *=i0に基づいた電流制御にて励磁電圧指令Vd *を生成する。
【0103】
一方、直流励磁制御部10は、運転モードにおいて、速度指令ω*>0であることを利用して励磁電流指令id *=0を生成し、励磁電流指令id *=0に基づいた電流制御にて励磁電圧指令Vd *=0を生成する。
【0104】
トルク制御部11は、電源投入時の初期モードにおいて、速度指令ω*=0及び速度フィードバックω=0であることを利用して速度制御にてトルク電流指令iq *=0を生成する。そして、トルク制御部11は、トルク電流指令iq *=0に基づいた電流制御にてトルク電圧指令Vq *=0を生成する。
【0105】
ここで、トルク制御部11は、速度フィードバックω=0であることを利用してゲインKvを下限値に設定し、速度制御を行う。つまり、トルク制御部11は、速度フィードバックω=0が速度フィードバックω≠0に変化しても、変化の少ないトルク電流指令iq *=0を生成する。そして、トルク制御部11は、変化の少ないトルク電圧指令Vq *=0を生成する。
【0106】
また、トルク制御部11は、電源投入時の初期モードにおいて、負荷フィードフォワード補償器35により推定負荷推定値TL^=0を設定し、負荷フィードフォワード補償されていないトルク電流指令iq *=0を生成し、トルク電圧指令Vq *=0を生成する。
【0107】
一方、トルク制御部11は、運転モードにおいて、速度制御にてトルク電流指令iq *を生成し、トルク電流指令iq *に基づいた電流制御にてトルク電圧指令Vq *を生成する。
【0108】
電気角制御部12は、電源投入時の初期モードにおいて、速度指令ω*=0であることを利用して電気角θe=0を生成し、運転モードにおいて、速度フィードバックωに基づいた電気角θeを生成する。
【0109】
座標変換部13は、電源投入時の初期モードにおいて、電気角θe=0に基づいて、直流励磁電流指令i0に基づく励磁電圧指令Vd *及びトルク電圧指令Vq *=0を3相交流電圧指令に変換し、3相交流電圧指令を電力増幅器2へ出力する。
【0110】
これにより、電力増幅器2から交流電圧がモータ3へ供給され、モータ3の磁極位相δが0°に設定される。
【0111】
座標変換部13は、運転モードにおいて、速度フィードバックωから生成された電気角θeに基づいて、励磁電圧指令Vd *=0及びトルク電圧指令Vq *を3相交流電圧指令に変換し、3相交流電圧指令を電力増幅器2へ出力する。
【0112】
これにより、電力増幅器2から交流電圧がモータ3へ供給され、モータ3の制御が行われる。
【0113】
したがって、電源投入時の初期モードにおいて、モータ3の磁極位相δを0°に合わせることができるから、絶対値エンコーダを使用して磁極位相δを検出する必要がない。したがって、モータ3を制御する設備から絶対値エンコーダをなくすことができ、費用を低減することが可能となる。
【0114】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば実施形態において、図1ではモータ3をPMSMとしたが、本発明は、モータ3をPMSMに限定するものではない。モータ3は、例えばIPM(Interior Permanent Magnet)モータまたはSPM(Surface Permanent Magnet)モータであってもよい。要するに、モータ3は、PMモータであればよい。
【符号の説明】
【0115】
1 モータ制御装置
2 電力増幅器
3 モータ
4 PG(パルスジェネレータ)
10 直流励磁制御部
11 トルク制御部
12 電気角制御部
13,14 座標変換部
20,31,41 フィルタ
21,30,38 減算器
22,39 電流制御器
32 リミッタ
33 速度制御器
34,37,40 乗算器
35 負荷フィードフォワード補償器
36 加算器
42 スイッチ
43 積分器
ω* 速度指令
ω 速度フィードバック
INIT@ 初期モード信号
i0 直流励磁電流指令
d * 励磁電流指令
q * トルク電流指令
d 励磁電流フィードバック
q トルク電流フィードバック
u U相交流電流フィードバック
v V相交流電流フィードバック
w W相交流電流フィードバック
d * 励磁電圧指令
q * トルク電圧指令
u * U相交流電圧指令
v * V相交流電圧指令
w * W相交流電圧指令
* トルク指令
V,KV *,KV *’ ゲイン
Vmin ゲイン下限値
T^ トルク定数推定値
0 閾値
TL^ 推定負荷推定値
ωe 電気角速度
ωe * 電気角速度指令
θe 電気角
P 対極数
δ 磁極位相
sinδ 磁極位相ずれ
図1
図2
図3
図4
図5
図6