(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】プリンタの用紙搬送機構
(51)【国際特許分類】
B65H 5/06 20060101AFI20221018BHJP
B41J 13/02 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B65H5/06 P
B41J13/02
(21)【出願番号】P 2018224070
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000214836
【氏名又は名称】長野日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 毅
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-030915(JP,A)
【文献】特開平02-261763(JP,A)
【文献】特開2004-075259(JP,A)
【文献】特開平09-002702(JP,A)
【文献】特開2005-067778(JP,A)
【文献】特開2009-132503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/06
B41J 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙搬送路に沿って所定間隔おきに配した上下一対のローラを有する搬送ローラ部により用紙を搬送するプリンタの用紙搬送機構であって、ジャム処理の対象となる前記搬送ローラ部における一方のローラの回動変位により、他方のローラの左右方向における一側のみを、当該回動変位の伝達により前記一方のローラから離間変位可能なローラ変位機構部と、前記一方のローラを回動操作可能なローラ操作部とを有するジャム処理機構部を備えることを特徴とするプリンタの用紙搬送機構。
【請求項2】
前記用紙は、350〔gsm〕以上,又は厚さ0.3〔mm〕以上の厚紙を適用可能であることを特徴とする請求項1記載のプリンタの用紙搬送機構。
【請求項3】
前記ローラ変位機構部は、前記一方のローラの回動変位が入力するトルクリミッタと、このトルクリミッタに対して一体に設けたリリースカム部と、前記トルクリミッタの回動変位が入力して接続される第一ワンウェイクラッチと、前記他方のローラに設け、かつ前記リリースカム部が係合可能な係合従部と、前記離間変位した位置に前記リリースカム部を保持するストッパ部とを備えることを特徴とする請求項1又は2記載のプリンタの用紙搬送機構。
【請求項4】
前記係合従部は、係合ギアにより構成するとともに、前記リリースカム部は、カム面に、前記係合ギアに噛合可能なギア部を形成してなることを特徴とする請求項3記載のプリンタの用紙搬送機構。
【請求項5】
前記ローラ操作部は、前記一方のローラの回動変位が入力して接続される第二ワンウェイクラッチと、この第二ワンウェイクラッチに対して一体に設けた操作ノブを備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のプリンタの用紙搬送機構。
【請求項6】
前記一方のローラは、下側に配したドライブローラであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のプリンタの用紙搬送機構。
【請求項7】
前記他方のローラは、上側に配したピンチローラであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のプリンタの用紙搬送機構。
【請求項8】
前記他方のローラは、上方変位可能に支持し、かつ下方へ弾性手段により付勢する支持機構部により支持することを特徴とする請求項7記載のプリンタの用紙搬送機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙搬送路に沿って所定間隔おきに配した上下一対の搬送ローラ部により用紙の搬送を行うプリンタの用紙搬送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真方式及びインクジェット方式を用いたプリンタは広く普及しているが、時代の進展と共に、この種のプリンタによりプリントされる用紙の種類も多様化している。特に、近時では、大小のカード類に使用する厚紙に対するプリント需要が増加する傾向があり、厚紙に対するプリントを考慮したプリンタも提案されている。
【0003】
従来、この種のプリンタとしては、特許文献1及び2に開示される画像形成装置が知られている。特許文献1の画像形成装置は、厚紙等の腰の強い記録紙や封筒のような特殊紙を給送させようとすると、湾曲搬送路の曲率部の曲率半径が小さいため、湾曲搬送路を形成する内郭ガイド部材に対する搬送抵抗が大きくなってしまい、曲率部を構成する搬送路に沿って進行することができず、ジャムや搬送不良を生じて安定した給送動作ができない問題点を解決することを目的としたものであり、具体的には、湾曲搬送路の内側曲率部を形成している固定ガイド部材である第1搬送ガイド板の一部を代えた第1搬送ガイド板を配設するとともに、給送される用紙から受ける力によって第2搬送ガイド板との開口間隔を広げる方向に変位可能な可動部材としての可動ガイド板で構成したものである。
【0004】
また、特許文献2の画像形成装置は、厚紙や腰の強い用紙が搬送される場合に、これに応じて搬送路の形状を変えてジャムの減少を図ることを目的としたものであり、比較的厚い用紙が上に向かって搬送されてくると、その先端が第2のシュートの面に当たったときこれを上方に押し上げ、第2のシュートがその支点を中心に時計回りに回転すると、スペーサによって第3のシュートも同様に回転し、シュートのこの回転動作は、用紙自身の腰の強さとバランスしたところで停止するため、用紙の腰が強く、搬送路に沿って屈曲しにくい程、両シュートの回転量が大きくなり、第2のシュートの面と第3のシュートの下面とで形成される搬送路の曲率が緩やかになり、C字形に湾曲した搬送路の通過が容易になるように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-131455号公報
【文献】特開平9-34191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来におけるプリンタ(画像形成装置)は、次のような問題点があった。
【0007】
即ち、厚紙に対する需要が増加するにつれ、厚紙自身のスペックが高まるとともに、厚みも厚くなる傾向があり、従来は、350〔gsm〕(厚さ:0.3〔mm〕)の厚紙が主流となっていたが、現在は、400~450〔gsm〕(厚さ:0.5〔mm〕)の厚紙が一般的になっている。
【0008】
このため、厚紙の腰もより強まる傾向があり、搬送時にジャムが発生した際のジャム処理対応が問題となる。即ち、厚紙の腰が強くなった場合、普通紙と同様のジャム処理を行うことは、腰が強いゆえに様々な課題を生じる。具体的には、用紙搬送機構の構造上の限界からジャム処理が困難になる虞れがあるとともに、無理なジャム処理を行う場合には、搬送ローラを含む周辺機構に悪影響を及ぼしかねない。しかも、ジャム処理に無用な時間が費やされてしまう。
【0009】
厚紙については、このような潜在的な課題も存在するが、従来の技術は、搬送路の曲率半径を大きくするなど、厚紙に対して搬送性を高める技術が中心になっており、特に、腰がより強い傾向の厚紙のジャム処理に対する対応技術については、ほとんど提案されていないのが実情である。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したプリンタの用紙搬送機構の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するため、用紙搬送路Rに沿って所定間隔おきに配した上下一対のローラ3…,4…を有する搬送ローラ部2…により用紙Pを搬送するプリンタMの用紙搬送機構1を構成するに際して、ジャム処理の対象となる搬送ローラ部2sにおける一方のローラ4sの回動変位により、他方のローラ3sの左右方向における一側3spのみを、当該回動変位の伝達により一方のローラ4sから離間変位可能なローラ変位機構部5と、一方のローラ4sを回動操作可能なローラ操作部6とを有するジャム処理機構部7を備えることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、用紙Pは、350〔gsm〕以上,又は厚さ0.3〔mm〕以上の厚紙Psを適用することができる。一方、ローラ変位機構部5には、一方のローラ4sの回動変位が入力するトルクリミッタ11と、このトルクリミッタ11に対して一体に設けたリリースカム部12と、トルクリミッタ11の回動変位が入力して接続される第一ワンウェイクラッチ13と、一方のローラ4sに設け、かつリリースカム部12が係合可能な係合従部14と、離間変位した位置Xrにリリースカム部12を保持するストッパ部15とを設けることができる。この際、係合従部14は、係合ギア14gにより構成するとともに、リリースカム部12は、カム面12fに、係合ギア14gに噛合可能なギア部12gを形成することが望ましい。また、ローラ操作部6には、一方のローラ4sの回動変位が入力して接続される第二ワンウェイクラッチ16と、この第二ワンウェイクラッチ16に対して一体に設けた操作ノブ17を設けることができる。なお、一方のローラ4sには、下側に配したドライブローラを適用するとともに、他方のローラ3sには、上側に配したピンチローラを適用することが望ましい。この場合、他方のローラ3sは、上方変位可能に支持し、かつ下方へ弾性手段19により付勢する支持機構部18により支持することができる。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を有する本発明に係るプリンタの用紙搬送機構1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) ジャム処理の対象となる搬送ローラ部2sにおける一方のローラ4sの回動変位により、他方のローラ3sの左右方向における一側3spのみを、当該回動変位の伝達により一方のローラ4sから離間変位可能なローラ変位機構部5と、一方のローラ4sを回動操作可能なローラ操作部6とを有するジャム処理機構部7を備えるため、特に腰の強い厚紙Psのプリント時においてジャムが発生した場合であっても、無理を生じることなく容易にジャム処理を行うことができる。この結果、ジャム処理により、搬送ローラ部2sを含む周辺機構に悪影響を及ぼす弊害を排除できるとともに、迅速かつ能率的なジャム処理を行うことができる。
【0015】
(2) 他方のローラ3sの一側3spを、一方のローラ4sに対して離間変位させるに際し、一方のローラ4sの回動操作により変位させるため、離間変位した他方のローラ3sを元の位置に復帰させる際には、搬送ローラ部2sの通常動作により、いわば自動で復帰させることが可能となる。この結果、離間変位を解除する別途の機構が不要、即ち、追加部品が不要になるため、サイズアップを招くことなく、容易かつ低コストに実施できる。
【0016】
(3) 好適な態様により、用紙Pとして、350〔gsm〕以上,又は厚さ0.3〔mm〕以上の厚紙Psを適用可能にすれば、特に腰の強い厚紙Psを使用した際におけるジャム処理対応にも適用できるため、より望ましい効果を確保できる最適な形態として実施できる。
【0017】
(4) 好適な態様により、ローラ操作機構部5を構成するに際し、一方のローラ4sの回動変位が入力するトルクリミッタ11と、このトルクリミッタ11に対して一体に設けたリリースカム部12と、トルクリミッタ11の回動変位が入力して接続される第一ワンウェイクラッチ13と、他方のローラ3sに設け、かつリリースカム部12が係合可能な係合従部14と、離間変位した位置Xrにリリースカム部12を保持するストッパ部15とを設けて構成すれば、構成部品となる、トルクリミッタ11,リリースカム部12及び第一ワンウェイクラッチ13は、一方のローラ4sの同軸上に配することができるとともに、係合従部14は、他方のローラ3sの同軸上に配することができるため、構成上の小型シンプル化を実現する観点から好適な形態として実施できる。
【0018】
(5) 好適な態様により、係合従部14を係合ギア14gにより構成するとともに、リリースカム部12のカム面12fに、係合ギア14gに噛合可能なギア部12gを形成すれば、他方のローラ3sの離間変位及びこの離間変位の解除は、ギア部12gと係合ギア14gの噛合により行うことができるため、より確実かつ安定した、離間変位及び離間変位の解除、更にはジャム処理を行うことができる。
【0019】
(6) 好適な態様により、ローラ操作部6を構成するに際し、一方のローラ4sの回動変位が入力して接続される第二ワンウェイクラッチ16と、この第二ワンウェイクラッチ16に対して一体に設けた操作ノブ17を設けて構成すれば、ローラ操作部6を一方のローラ4sの一側に配し、かつ前述したローラ操作機構部5を当該一方のローラ4sの他側に配することができるため、これらを組合わせて構成する際の小型シンプル化を図る観点から最適な形態として実施できる。
【0020】
(7) 好適な態様により、一方のローラ4sに、下側に配したドライブローラを適用すれば、搬送ローラ部2sの通常動作、即ち、ドライブローラの通常動作により、離間変位した他方のローラ3sを自動で元の位置に復帰させる機能を実現できるなど、一方のローラ4sを選定する観点から最適な形態として実施できる。
【0021】
(8) 好適な態様により、他方のローラ3sに、上側に配したピンチローラを適用すれば、空転ローラとなる他方のローラ3sの一側3spを昇降変位させることができるため、構造の簡略化,動作の確実化及び安定化を図ることができるなど、他方のローラ3sを選定する観点から最適な形態として実施できる。
【0022】
(9) 好適な態様により、他方のローラ3sを、上方変位可能に支持し、かつ下方へ弾性手段19により付勢する支持機構部18により支持するようにすれば、通常のピンチローラに付随する機構(機能)を、本発明における他方のローラ3sに対する復帰機能、即ち、離間変位した他方のローラ3sを元の位置に復帰させる機能に、そのまま又は一部仕様の変更程度により兼用させることができるため、追加部品が不要になり、サイズアップを招くことなく、容易かつ低コストに実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る用紙搬送機構に備える搬送ローラ部の他方のローラを離間位置に変位させた状態の一部断面を含む正面図、
【
図2】同用紙搬送機構に備える搬送ローラ部の他方のローラを離間位置に変位させた状態の側面図、
【
図3】同用紙搬送機構のジャム処理時における平面図、
【
図4】同用紙搬送機構のジャム処理時における側面断面図、
【
図5】同用紙搬送機構の正常動作時における平面図、
【
図6】同用紙搬送機構を備えるプリンタの一例を示す概要図、
【
図7】同用紙搬送機構のジャム処理時における各部の動作を説明するためのフローチャート、
【
図8】同用紙搬送機構の正常動作時における一部断面を含む正面図、
【
図9】同用紙搬送機構の正常動作時における一部断面を含む側面図、
【
図10】同用紙搬送機構のジャム処理時における一部断面を含む正面図、
【
図11】同用紙搬送機構のジャム処理時における一部断面を含む側面図、
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
最初に、本実施形態に係る用紙搬送機構1の理解を容易にするため、同用紙搬送機構1を用いて好適なプリンタMの概要について、
図6を参照して説明する。
【0026】
図6は、同用紙搬送機構1を内蔵したプリンタMの一例を示す。なお、プリンタMのプリント方式には、電子写真方式及びインクジェット方式など、各種プリント方式を適用可能であり、特定のプリント方式に限定されるものではない。
【0027】
例示のプリンタMは、仮想線で示すキャビネット(外郭筺体)51を備え、このキャビネット51の一側(図中右側)に、給紙トレイ52を備えるとともに、他側(図中左側)に、排紙トレイ53を備える。この場合、給紙トレイ52には、特に、用紙Pとして、厚紙Psをセットすることができる。厚紙Psとしては、350〔gsm〕以上,又は厚さ0.3〔mm〕以上の厚紙Psを適用可能である。したがって、近時、厚紙Psとして一般的な400~450〔gsm〕,又は厚さ:0.5〔mm〕の厚紙Psも十分に使用可能である。このように、本実施形態に係る用紙搬送機構1を内蔵するプリンタMでは、特に腰の強い厚紙Psを使用した際におけるジャム処理にも対応できるため、より望ましい効果を確保できる最適な形態として実施できる。
【0028】
プリンタMの内部には、用紙搬送路R(
図5参照)が配設され、給紙トレイ52から搬入される厚紙Ps(用紙P)が、用紙搬送路Rにより搬送され、排紙トレイ53上に搬出される。また、用紙搬送路Rの上流側には、搬送される厚紙Psに対してプリント処理を行うプリント部54が配設される。そして、このプリント部54と排紙トレイ53間に、本実施形態に係る用紙搬送機構1を配設する。その他、プリンタMの内部における主要構成部として、プリンタコントローラ部55、カセット給紙部56等を備えるとともに、プリンタMの外郭を構成するキャビネット51には、表示部を含む操作パネル部57、ジャム処理時に開くことにより用紙搬送機構1を露出させる開閉式の外カバー部58等が設けられる。この場合、プリンタコントローラ部55は、プリンタMにおけるシーケンス制御処理等の各種制御機能を司るとともに、カセット給紙部56には、普通紙をはじめ各種サイズ及び紙種の用紙Pがセットされることにより自動給紙が行われる。
【0029】
これにより、給紙トレイ52上にセットされた厚紙Ps…は、図示を省略した給紙機構により、一枚ずつキャビネット51の内部に搬入され、用紙搬送路Rを搬送される。この際、プリント部54によりプリント処理が行われるとともに、プリント処理された厚紙Psは、用紙搬送機構1を通して排紙トレイ53上に排出される。
【0030】
次に、本実施形態に係る用紙搬送機構1の構成について、
図1~
図6を参照して具体的に説明する。
【0031】
用紙搬送機構1は、
図3~
図5に示すように、用紙搬送路Rに沿って所定間隔おきに配した上下一対のローラ3…,4…を有する搬送ローラ部2…を備え、厚紙Ps(用紙P)を搬送することができる。図面上は、所定間隔おきに配した三つの搬送ローラ部2…を示すが、搬送ローラ部2…の数や間隔は、プリンタMの仕様により任意に設定される。また、この用紙搬送機構1には、本実施形態に係るジャム処理方法を実施する際における具体的な処理の対象となるジャム処理機構部7を備える。
図3~
図5に示す中央の搬送ローラ部2は、ジャム処理の対象となるジャム処理機構部7を構成する搬送ローラ部2sとなる。なお、
図4中、59…は用紙搬送路Rを形成する上下に配したガイドプレート、60はジャム処理時に開くことができる開閉式の内カバー部を示す。
【0032】
搬送ローラ部2sは、
図1に示すように、上下一対のローラ3s,4s、即ち、下側に配した一方のローラ(以下、下ローラと記載)4sと上側に配した他方のローラ(以下、上ローラと記載)3sを備え、下ローラ4sは、ドライブローラとして機能し、上ローラ3sは、ピンチローラとして機能する。この場合、上ローラ3sは、摩擦係数の大きいゴム等の弾性素材により形成した円筒状のローラ本体21と、このローラ本体21の中心に固定したローラシャフト22を備えるとともに、下ローラ4sも、上ローラ3sと同様に構成した円筒状のローラ本体23と、このローラ本体23の中心に固定したローラシャフト24を備える。
【0033】
このように、下ローラ4sとして、下側に配したドライブローラを適用すれば、搬送ローラ部2sの通常動作、即ち、ドライブローラの通常動作により、離間変位した他方のローラ3sを自動で元の位置に復帰させる機能を実現できるなど、一方のローラ4sを選定する観点から最適な形態として実施できるとともに、上ローラ3sとして、上側に配したピンチローラを適用すれば、空転ローラとなる上ローラ3sの一側3spを昇降変位させることができるため、構造の簡略化,動作の確実化及び安定化を図ることができるなど、上ローラ3sを選定する観点から最適な形態として実施できる。
【0034】
また、下ローラ4sのローラシャフト24は、両端付近がシャーシ25…に設けた左右一対の軸受部26,27により回動自在に支持される。一方、上ローラ3sは、上方変位可能に支持され、かつ下方へ弾性手段19により付勢される支持機構部18により支持される。例示する支持機構部18は、
図1に示すように、上ローラ3sのローラシャフト22の両端付近に、左右一対の軸受部28,29を回動自在に嵌込み、この軸受部28,29を、シャーシ25…に設けた長孔ガイド部により上下変位可能に支持するとともに、さらに、軸受部28,29の外方におけるローラシャフト22に、カラー(軸受部)30,31を嵌込み、このカラー30,31を、弾性手段19を構成する圧縮スプリングを用いた加圧部32,33により下方へ付勢するようにした。
【0035】
上ローラ3sを、このような構造により支持すれば、通常のピンチローラに付随する機構(機能)を、本発明における上ローラ(他方のローラ)3sに対する復帰機能、即ち、離間変位した上ローラ3sを元の位置に復帰させる機能に、そのまま又は一部仕様の変更程度により兼用させることができるため、追加部品が不要になり、サイズアップを招くことなく、容易かつ低コストに実施できる。
【0036】
そして、この搬送ローラ部2sを利用してジャム処理機構部7を構成する。ジャム処理機構部7は、
図1に示すように、搬送ローラ部2sの一側に配するローラ変位機構部5と搬送ローラ部2sの他側に配するローラ操作部6を備える。
【0037】
ローラ変位機構部5は、下ローラ4sの一側4spに配するトルクリミッタ11,リリースカム部12,第一ワンウェイクラッチ13及び
図2に示すストッパ部15を備え、また、下ローラ4sの他側4sqに配する第二ワンウェイクラッチ16及び操作ノブ17を備えるとともに、上ローラ3sの一側3spに配する係合従部14を備えて構成する。
【0038】
この場合、下ローラ4sのローラシャフト24の一端24p付近に、第一ワンウェイクラッチ13を取付け、この第一ワンウェイクラッチ13の内方におけるローラシャフト24上に、トルクリミッタ11,リリースカム部12を順次取付ける。この際、第一ワンウェイクラッチ13には下ローラ4sの回動変位が入力し、かつこの第一ワンウェイクラッチ13の出力はトルクリミッタ11に入力するように構成(接続)する。さらに、リリースカム部12は、このトルクリミッタ11に一体に設けるとともに、ストッパ部15は、
図2に示すように、リリースカム部12のカム面12fが上方に向いた位置Xrで当該リリースカム部12に当接し、その位置を保持(規制)できる配設位置を選定する。
【0039】
このように、ローラ操作機構部5を構成するに際し、下ローラ4sの回動変位が入力するトルクリミッタ11と、このトルクリミッタ11に対して一体に設けたリリースカム部12と、トルクリミッタ11の回動変位が入力して接続される第一ワンウェイクラッチ13と、上ローラ3sに設け、かつリリースカム部12が係合可能な係合従部14と、離間変位した位置Xrにリリースカム部12を保持するストッパ部15とを設けて構成すれば、構成部品となる、トルクリミッタ11,リリースカム部12及び第一ワンウェイクラッチ13は、下ローラ4sの同軸上に配することができるとともに、係合従部14は、上ローラ3sの同軸上に配することができるため、構成上の小型シンプル化を実現する観点から好適な形態として実施できる。
【0040】
また、係合従部14は係合ギア14gにより構成するとともに、リリースカム部12のカム面12fには、係合ギア14gに噛合可能なギア部12gを形成する。このように構成(形成)すれば、上ローラ3sの離間変位及びこの離間変位の解除は、ギア部12gと係合ギア14gの噛合により行うことができるため、より確実かつ安定した、離間変位及び離間変位の解除、更にはジャム処理を行うことができる。
【0041】
さらに、上ローラ3sの左右方向の一側3spが下ローラ4sから離間変位する変位量Lhは、当該上ローラ3sの一側3spの圧接が解除され、かつ当該上ローラ3sの一側3sp及びこの一側3spに対向する下ローラ4sの一側4spの回動変位が厚紙Psに伝達されない量(間隔)に設定する。したがって、この変位量Lhは、1〔mm〕以内の僅かな変位量に設定可能である。変位量Lhをこのように設定すれば、最も少ない変位量(傾斜の少ない変位量)の設定が可能になるため、ジャム処理時における厚紙Psの移動をより確実に行うことができるとともに、機構設計における簡略化(小型化)にも寄与できる。
【0042】
他方、ローラ操作部6は、下ローラ4sの回動変位が入力して接続される第二ワンウェイクラッチ16と、この第二ワンウェイクラッチ16に対して一体に設けた操作ノブ17を設けて構成する。このように構成するローラ操作部6を設ければ、上述したローラ操作機構部5を下ローラ4sの一側4spに配し、かつ当該ローラ操作部6を下ローラ4sの他側4sqに配することができるため、これらを組合わせて構成する際の小型シンプル化を図る観点から最適な形態として実施できる。
【0043】
以上により、ジャム処理の対象となる搬送ローラ部2sにおける上ローラ3sの左右方向の一側3spのみを、下ローラ4sの回動変位により、当該下ローラ4sから離間変位可能なローラ変位機構部5と、下ローラ4sを回動操作可能なローラ操作部6とを備えるジャム処理機構部7が構成される。なお、下ローラ4sのローラシャフト24には、被動ギア35を固定し、この被動ギア35の近傍に、駆動モータ36を配設するとともに、駆動モータ36のモータシャフトに固定した駆動ギア37と被動ギア35間を、ベルト要素又はギア要素を用いた回転伝達機構38を介して接続することにより、下ローラ(ドライブローラ)4sに対する回転駆動系を構成する。
【0044】
次に、本実施形態に係る用紙搬送機構1の動作を含むジャム処理機構部7の機能及び使用方法について、各図を参照しつつ
図7に示すフローチャートに従って説明する。
【0045】
今、用紙搬送機構1を備えるプリンタMは、正常動作が行われている場合を想定する(ステップS1)。この場合、用紙搬送機構1は、
図8及び
図9に示す状態となり、厚紙Psは、搬送方向Ffに対して正常に搬送される。この際、
図1及び
図2に示す駆動モータ36の回転は、駆動ギア37,回転伝達機構38,被動ギア35の順に伝達され、下ローラ4sとなるドライブローラは、
図9中の時計方向Ftに回転する。この際、下ローラ4sに取付けた第一ワンウェイクラッチ13及び第二ワンウェイクラッチ16は、搬送方向Ffに対してフリー、即ち、接続解除の状態になるため、下ローラ4sの回転は、操作ノブ17及びリリースカム部12(トルクリミッタ11)に伝達されない。これにより、特に、リリースカム部12は、自重作用により、
図9に示すように、カム面12fが下方を向いた状態になり、係合ギア14gに対する係合は解除された状態になる。また、上ローラ3sとなるピンチローラは、
図8に示すように、ドライブローラ(下ローラ4s)に対して平行になって厚紙Psに圧接する。したがって、正常動作が継続すれば、プリント処理の終了により動作も終了する(ステップS3)。
【0046】
一方、正常動作中に、ジャムが発生した場合を想定する(ステップS2)。
図11に、ジャム発生時における厚紙Psの状態を例示した。ジャムの発生により用紙搬送機構1は、停止(自動停止)する。即ち、厚紙Psの搬送が停止する(ステップS4)。
図1~
図4はいずれもジャム発生時の態様を示している。例示の場合、ジャムが発生した際は、
図6に示す外カバー部58を開き、さらに、
図4に示す内カバー部60を開くことにより、ジャム処理を行うことができるジャム処理エリアHeを設けることができる。なお、
図4中、実線の内カバー部60は開いた状態、仮想線の内カバー部60は閉じた状態をそれぞれ示している。
【0047】
次いで、プリンタMの使用者は、操作ノブ17を、搬送方向Ffに対して逆方向Fr(
図11中、反時計方向Fn)に回動操作する(ステップS5)。これにより、第二ワンウェイクラッチ16及び第一ワンウェイクラッチ13は、逆方向Frに対して接続されるため、操作ノブ17の回動変位は、第二ワンウェイクラッチ16,下ローラ4sのローラシャフト24,第一ワンウェイクラッチ13及びトルクリミッタ11を介してリリースカム部12に伝達される。この結果、リリースカム部12は回動変位、即ち、
図9中、反時計方向Fnへ回動変位する(ステップS6)。なお、
図2中、仮想線で示すリリースカム部12は、反時計方向Fnへの回動途中の状態を示している。
【0048】
そして、リリースカム部12の回動変位により、リリースカム部12は係合ギア14gに当接するとともに、さらに、回動変位することにより、ギア部12gは係合ギア14gに噛合する。これにより、係合ギア14gは、
図11に示すように、リリースカム部12により押上げられ、上ローラ3sの一側3spが上昇変位する(ステップS7)。この状態が
図10及び
図11に示す状態となる。この場合、上ローラ3sの一側3spのみが上昇変位し、上ローラ3sの一側3spと厚紙Psの上面間には間隔Lhsの隙間が生じるとともに、上ローラ3sの他側3sqは、厚紙Psの上面に対して圧接した状態となる。さらに、リリースカム部12が回動変位することにより、
図2に示すように、リリースカム部12はストッパ部15に当接し、この位置Xrに保持される(ステップS8)。
【0049】
また、リリースカム部12は、トルクリミッタ11及び第一ワンウェイクラッチ13を介して下ローラ4sに取付けられているため、操作ノブ17の回動操作は、トルクリミッタ11に設定されたトルクに抗して、更に継続させることができる(ステップS9)。この結果、上ローラ3sの一側3spを、下ローラ4sに対して離間変位した位置Xrに保持したまま、下ローラ4sを逆方向Frへ回動させることができるため、上ローラ3sの他側3sqと下ローラ4sの他側4sqにより圧接された厚紙Psの他側部位のみが逆方向Frへ送られる(ステップS10)。
【0050】
この結果、厚紙Psの他側部位(他側辺部)には、
図3及び
図4に示すような湾曲部Psrが発生する(ステップS11)。したがって、プリンタMの使用者は、湾曲部Psrの下方に生じた空間に指を入れ、厚紙Psを掴むとともに、後方(逆方向Fr)へ引張ることにより、搬送ローラ部2sから容易に引き抜くことができるとともに、ジャム処理エリアHeから取り出すことができる(ステップS12)。
【0051】
これにより、一連のジャム処理が終了するため、プリンタMの動作を再開させれば、搬送ローラ部2sは、搬送方向Ffに対して正常な搬送動作を行う(ステップS13,S14)。そして、これに伴い、係合ギア14gが搬送方向Ffに回転するため、係合ギア14gに噛合するギア部12g、即ち、リースカム部12は搬送方向Ffへ回動変位する(ステップS15)。この結果、下ローラ4sに対する上ローラ3sの離間変位が解除されるため、上ローラ3sの一側3spは下降変位し、正規の位置に戻される(ステップS16)。この場合、
図8に示すように、上ローラ3sとなるピンチローラは、ドライブローラ(下ローラ4s)に対して平行に位置する。なお、リリースカム部12を取り付けた第一ワンウェイクラッチ13は、下ローラ4s(ローラシャフト24)に対して、搬送方向Ffはフリー、即ち、接続解除の状態になるため、下ローラ4sの回転は、操作ノブ17及びリリースカム部12(トルクリミッタ11)には伝達されない。これにより、リリースカム部12は、自重作用により、
図9に示すように、カム面12fが下方を向いた状態になる。
【0052】
このように、本実施形態に係るプリンタMの用紙搬送機構1は、基本構成として、ジャム処理の対象となる搬送ローラ部2sにおける一方のローラ4sの回動変位により、他方のローラ3sの左右方向における一側3spのみを、当該回動変位の伝達により一方のローラ4sから離間変位可能なローラ変位機構部5と、一方のローラ4sを回動操作可能なローラ操作部6とを有するジャム処理機構部7を備えるため、特に腰の強い厚紙Psのプリント時においてジャムが発生した場合であっても、無理を生じることなく容易にジャム処理を行うことができる。この結果、ジャム処理により、搬送ローラ部2sを含む周辺機構に悪影響を及ぼす弊害を排除できるとともに、迅速かつ能率的なジャム処理を行うことができる。また、他方のローラ3sの一側3spを、一方のローラ4sに対して離間変位させるに際し、回動操作により変位させるため、離間変位した他方のローラ3sを元の位置に復帰させる際には、搬送ローラ部2sの通常動作により、いわば自動で復帰させることが可能になる。この結果、離間変位を解除する別途の機構が不要、即ち、追加部品が不要になるため、サイズアップを招くことなく、容易かつ低コストに実施できる。
【0053】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0054】
例えば、用紙Pには、350〔gsm〕以上,又は厚さ0.3〔mm〕以上の厚紙Psを適用可能であるが、普通紙等の他の用紙の適用を排除するものではない。一方、ローラ変位機構部5として、一方のローラ4sの回動変位が入力するトルクリミッタ11と、このトルクリミッタ11に対して一体に設けたリリースカム部12と、トルクリミッタ11の回動変位が入力して接続される第一ワンウェイクラッチ13と、一方のローラ4sに設け、かつリリースカム部12が係合可能な係合従部14と、離間変位した位置Xrにリリースカム部12を保持するストッパ部15とを設けて構成した場合を示したが、同様の機能を有する他の構成により置換できる。また、ローラ操作部6として、一方のローラ4sの回動変位が入力して接続される第二ワンウェイクラッチ16と、この第二ワンウェイクラッチ16に対して一体に設けた操作ノブ17を設けて構成した場合を示したが、同様の機能を有する他の構成により置換できるとともに、第二ワンウェイクラッチ16は必ずしも設けることを要しない。さらに、係合従部14は、係合ギア14gにより構成するとともに、リリースカム部12は、カム面12fに、係合ギア14gに噛合可能なギア部12gを形成することが望ましいが、ギア部12g及び係合ギア14gを設けないリリースカム部12及びカム従動子の組合わせを排除するものではない。他方、一方のローラ4sに、下側に配したドライブローラを適用するとともに、他方のローラ3sに、上側に配したピンチローラを適用することが望ましいが、これらを入れ替えたローラにより実施する場合を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る用紙搬送機構は、電子写真方式及びインクジェット方式等を用いた各種プリンタに利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1:用紙搬送機構,2…:搬送ローラ部,2s:搬送ローラ部,3…:ローラ,3s:他方のローラ(上ローラ),3sp:他方のローラの左右方向における一側,4…:ローラ,4s:一方のローラ(下ローラ),5:ローラ変位機構部,6:ローラ操作部,7:ジャム処理機構部,11:トルクリミッタ,12:リリースカム部,12f:カム面,12g:ギア部,13:第一ワンウェイクラッチ,14:係合従部,14g:係合ギア,15:ストッパ部,16:第二ワンウェイクラッチ,17:操作ノブ,18:支持機構部,19:弾性手段,R:用紙搬送路,P:用紙,Ps:厚紙,M:プリンタ,Ff:搬送方向,Xr:位置