(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】TiAlNコーティングを有する工具とその工具の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20221018BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20221018BHJP
C23C 16/36 20060101ALI20221018BHJP
C23C 16/56 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
C23C16/36
C23C16/56
(21)【出願番号】P 2018503744
(86)(22)【出願日】2016-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2016065908
(87)【国際公開番号】W WO2017016826
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-05-07
(32)【優先日】2015-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506297474
【氏名又は名称】ヴァルター アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シュティーンス, ディルク
(72)【発明者】
【氏名】マンス, トルステン
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-052133(JP,A)
【文献】国際公開第2014/173755(WO,A1)
【文献】特表2013-510946(JP,A)
【文献】特開2014-133267(JP,A)
【文献】特開2015-124407(JP,A)
【文献】特開2014-193521(JP,A)
【文献】特表2008-545063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
C23C 16/36
C23C 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金、サーメット、セラミック、鋼又は高速度鋼の基体と、CVD法中にそれに堆積し、2μmから25μmの範囲内の厚さを有する単層又は多層摩耗保護コーティングとを有する工具であって、
摩耗保護コーティングが、1μmから16μmの範囲の厚さを有し、>85体積%の面心立方(fcc)結晶構造を有する、0.40≦x≦0.95、y=0且つ0.85≦z≦1.15の少なくとも一のTi
1-xAl
xC
yN
z層を含み、
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、結晶子内部よりも高いAl含有量を有するTi
1-xAl
xC
yN
z結晶子の粒界でTi
1-oAl
oC
pN
qの析出物を含み、0.95≦o≦1.00、p=0、0.85≦q≦1.15且つ(o-x)≧0.05であり、
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、>1.
5のテクスチャ係数TC(111)により特徴付けられる、結晶{111}面に対して好ましい配向の結晶成長を有し、テクスチャ係数TC(111)が、以下:
[式中、
- I(hkl)は、X線回折により測定された回折反射の強度であり、
- I
0(hkl)は、pdfカード00-046-1200による回折反射の標準強度であり、
- nは計算に使用された反射の数であり、
- TC(111)の計算のために、反射(111)、(200)、(220)及び(311)が使用される。]
のとおり規定されることを特徴とする、工具。
【請求項2】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、少なくとも90体積
%の面心立方(fcc)結晶構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が円柱状の微細構造を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の工具。
【請求項4】
結晶子内部よりも高いAl含有量を有するTi
1-xAl
xC
yN
z結晶子の粒界のTi
1-oAl
oC
pN
qの析出物が、六方晶系ウルツ鉱型構造を有するAlN(w-AlN)を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の工具。
【請求項5】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、0.60≦x≦0.90、y=0且つ0.85≦z≦1.15の化学量論係数を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の工具。
【請求項6】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、2700HV
超のビッカース硬さ(HV)を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の工具。
【請求項7】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、結晶{111}面に対して好ましい配向の結晶成長を有する
ために、X線回折(XRD)及び/又は電子後方散乱(EBSD)により測定された結晶{111}面のX線回折ピークの最大値が、基体の表面の法線に対して、角度α=±20度
内で測定されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の工具。
【請求項8】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、最大150n
mの厚さのラメラを有するラメラ構造を有することを特徴とし、
Ti及びAlの交互に異なる化学量論的割合を有し、同じ結晶構造(=結晶相)及び/又は同じ結晶配向を有するTi
1-xAl
xC
yN
z層の周期的交互領域からラメラが形成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の工具。
【請求項9】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、sin
2ψ法によりfcc-Ti
1-xAl
xC
yN
z相
の81.5~82度2シータで{222}反射で測定された、残留圧縮応力を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の工具。
【請求項10】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、<0MPaから-5000MPaの範
囲の残留圧縮応力を有することを特徴とする、請求項9に記載の工具。
【請求項11】
a)基体とTi
1-xAl
xC
yN
z層との間に、TiN層、高温CVD若しくは中温CVD(MT-CVD)により堆積するTiCN層、Al
2O
3層、h-AlN層及びそれらの組合せより選択される、0.05μmから7μ
mの厚さを有する少なくとも一の更なる硬質材料層が提供されること、及び/又は
b)Ti
1-xAl
xC
yN
z層上に
、α-Al
2O
3、κ-Al
2O
3、γ-Al
2O
3、TiN、MT-TiCN、h-AlN及びそれらの組合せより選択される、少なくとも一の更なる硬質材料層が提供されること
を特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の工具。
【請求項12】
超硬合金、サーメット、セラミック、鋼又は高速度鋼の基体と、CVD法によりそれに堆積する、2μmから25μmの範囲内の厚さを有する単層又は多層摩耗保護コーティングとを有する工具の製造のための方法であって、以下の工程:
- CVD法中に、625から800℃の範囲内の処理温度で、1μmから16μmの範囲内の厚さを有する、0.40≦x≦0.95、y=0且つ0.85≦z≦1.15のTi
1-xAl
xC
yN
z層を堆積させること、
- 空気排除下、700~950℃の範囲内の温度で、1から6時間の持続時間にわたり、堆積したTi
1-xAl
xC
yN
z層をアニーリングすることであって、Ti
1-xAl
xC
yN
z結晶子の粒界で、結晶内部よりも高いAl含有量を有し、0.95≦o≦1.00、p=0、0.85≦q≦1.15且つ(o-x)≧0.05のTi
1-oAl
oC
pN
qの析出物が生成されるように、条件が選択されること、
を含み、
Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、>1.
5のテクスチャ係数TC(111)により特徴付けられる、結晶{111}面に対して好ましい配向の結晶成長を有し、テクスチャ係数TC(111)が、以下:
[式中、
- I(hkl)は、X線回折により測定された回折反射の強度であり、
- I
0(hkl)は、pdfカード00-046-1200による回折反射の標準強度であり、
- nは計算に使用された反射の数であり、
- TC(111)の計算のために、反射(111)、(200)、(220)及び(311)が使用される。]
のとおり規定される、
方法。
【請求項13】
アニーリング後に、Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、2700HV
超のビッカース硬さ(HV)を呈するように、アニーリング中の温度及び持続時間の条件が選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アニーリング後のTi
1-xAl
xC
yN
z層中のTi
1-oAl
oC
pN
qの析出物の生成後に、Ti
1-xAl
xC
yN
z層中の面心立方(fcc)結晶構造の残存する含有量が、>85体積%であるように、アニーリング中の温度及び持続時間の条件が選択されることを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
堆積したTi
1-xAl
xC
yN
z層のアニーリングが、750~900
℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層の堆積のためのCVD法がLP-CVD法であることと、CVD法が、0.05から8kPaの範囲
内のCVD反応器中の処理圧力で行われることを特徴とする、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼又は高速度鋼の基体と、CVD法においてそれに堆積する、2μmから25μmの範囲の厚さを有する単層又は多層摩耗保護コーティングとを含む工具に関し、摩耗保護コーティングは、1μmから16μmの範囲の厚さを有し、>85体積%の面心立方(fcc)結晶構造を有する少なくとも一のTi1-xAlxCyNz層(0.40≦x≦0.95、0≦y≦0.10且つ0.85≦z≦1.15)を含む。本発明はさらに、本発明の工具の製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切屑形成金属機械加工のための工具は、多くの場合、切削特性及び/又は摩耗特性の改善のための単層又は多層硬質材料コーティングが備えられている、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼又は高速度鋼の基体から成る。硬質材料コーティングは、一金属原子性又は混合金属原子性の硬質材料相の層から成る。一金属原子性の硬質材料相の例は、TiN、TiC、TiCN、AlN及びAl2O3である。一の結晶内で金属がある程度別の金属で置き換えられている混合金属原子性相の例は、TiAlN及びTiAlCNである。前述のタイプのコーティングは、CVD法(化学蒸着)、PCVD法(プラズマ助長CVD法)又はPVD法(物理蒸着)により堆積する。
【0003】
ほぼ全ての材料において、製造プロセスによる並びに/又は機械的、熱的及び/若しくは化学的処理の残留応力が存在する。CVD法での基体のコーティングによる工具の製造中、例えば、コーティングと基材との間の、及びコーティングの個々の層間の残留応力は、それぞれ、材料の熱膨張の異なる係数をもたらす。残留応力は、引張応力又は圧縮応力でありうる。PVD法により堆積するコーティングにおいては、一般に、他の原因の中でも、この方法におけるイオン衝撃による残留圧縮応力が存在する。これに対し、CVD方法は、一般的に、コーティングにおける残留引張応力を生成する。
【0004】
残留応力は三種類に区別される:材料の巨視的領域にわたってほぼ均一に分布するマクロ応力、例えば粒子内のような微小領域内で均一であるミクロ応力、及び微小レベルでさえも不均一である不均一ミクロ応力。実用的観点から、及び、切削工具の機械的特性には、マクロ応力が特に重要である。
【0005】
硬質材料コーティングにおける残留応力は、工具の耐摩耗性に有利又は不利な効果を有するコーティングの特性に著しい影響を及ぼす。それぞれの材料の引張制限を超える残留引張応力は、残留引張応力の方向に垂直なコーティングに破裂及び亀裂を生じさせうる。一般に、コーティングにおいては特定量の残留圧縮応力が望ましく、それは、特定量の圧縮応力が表面の亀裂を防止し、閉じ、コーティングの疲労特性、それにより工具を改善するためである。しかしながら、高すぎる残留圧縮応力は、接着の問題及びコーティングのチップをもたらすことがある。
【0006】
工具の硬質材料コーティング、特に、CVD法において堆積する硬質材料コーティングにおける残留圧縮応力を増加させるために、工具に機械的表面処理を施すことが知られている。公知の機械的処理法は、ブラッシング及び乾式ブラスト又は湿式ブラストによる処理である。ブラスト処理において、増加した圧力下で圧縮空気を使用して、微粒子のブラスト媒体がコーティングの表面上に向けられる。そのような表面処理は、最外層及びその下に配置される硬質材料コーティングの層における残留引張応力を低減させ、残留圧縮応力を増加させることができる。
【0007】
切屑形成金属機械加工のための工具の単層又は多層摩耗保護コーティングは、しばしば、一又は複数の主に面心立方結晶構造を有する多結晶TiAlN及び/又はTiAlCN(fcc-TiAlN、fcc-TiAlCN)層を含む。特に、fcc-TiAlN層は、多くの切屑形成用途のための工具の摩耗保護に価値があることが証明されている。六方晶系構造(w-AlN)を有する硬質材料相fcc-TiN、fcc-TiCN又はAlNの一金属原子性境界システムと比較して、fcc-TiAlN及びfcc-TiAlCN層は、増加した硬度及び耐酸化性の有利な組み合わせにより特性評価される。Fcc-TiAlN及びfcc-TiAlCN層は、熱力学的に準安定である。PVD法により堆積するTiAlNは、上昇した温度で、初めにスピノーダル分解により、fcc-AlNのAlリッチドメイン及びfcc-TiNのTiリッチドメインにそれぞれ分解する。これは、硬さの増加に伴い、「時効硬化効果」として知られている。温度を更に上昇させることにより、層は、熱力学的に安定な相w-AlN(ウルツ鉱型構造を有するAlN)及びfcc-TiNに分解する。例えば、P.H.Mayrhofer等のApplied Physics Letters,83/10(2003)、2049-2051ページは、PVD法において堆積するTi0,5Al0,5N層の、コーティング材料のバルクから開始する860℃でのスピノーダル分解について記載している。コーティングの硬さは、約850℃で減少し始め、950℃超では、アニーリングされていない状態よりも低い。Adibi等のJ.Appl.Phys.,69/9(1991)、6437-6450ページは、Ti0,5Al0,5NコーティングのPVD堆積について記載しており、その中で、表面開始スピノーダル分解が540~560℃の温度範囲で観察され、温度が更に上昇につれて、fcc-TiN及びAlNへの相分離が観察されている。fcc-TiAlN相及びfcc-TiN相よりも柔らかいかなりの割合のw-AlN相は、コーティングの望ましくない機械的特性及びトライボロジー特性をもたらす。相変換は、積層欠陥により促進される。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、鋼又は鋳込材料の切屑形成金属機械加工のための、特に旋盤細工及びフライス加工のためのコーティングされた工具を提供することであったが、それは、先行技術と比較して、乾燥機械加工において、及び冷却剤の使用下において、改善した耐摩耗性及び改善した櫛状亀裂に対する耐性を呈する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】断面における工具基材3上の硬質材料コーティングの略図を示す。
【
図2】
図1と類似するが、本発明の方法におけるアニーリング工程により形成される結晶子4の粒界5でのTi
1-oAl
oC
pN
qの本発明の析出物を有する本発明の硬質材料コーティングの略図を示す。
【
図3】二の隣接する結晶子の粒界にわたるTi
1-xAl
xC
yN
z層における化学量論的Al割合(x)の濃度プロファイルを概略的に示す。
【
図4】アニーリングされていないTi
1-xAl
xC
yN
z層と、以下に記載される実施例1の工具1から11上3時間(コーティング1)及び5時間(コーティング2)の持続時間にわたってそれぞれ異なる温度でアニーリングされたTi
1-xAl
xC
yN
z層のミクロ硬度の測定値を示す。
【
図5】フライス加工パスにわたるフライス加工試験において5時間アニーリングされた後続の実施例の工具7から11の櫛状亀裂形成を示す。
【
図6】フライス加工パスにわたるフライス加工試験において5時間アニーリングされた後続の実施例の工具7から11の最大側面摩耗を示す。
【
図7】フライス加工パスにわたるフライス加工試験において5時間アニーリングされた後続の実施例の工具7から11の平均側面摩耗を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この目的は、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼又は高速度鋼の基体と、CVD法においてそれに堆積する、2μmから25μmの範囲の厚さを有する単層又は多層摩耗保護コーティングとを含む工具であって、摩耗保護コーティングが、1μmから16μmの範囲の厚さを有し、>85体積%の面心立方(fcc)結晶構造を有する少なくとも一のTi1-xAlxCyNz層を含み、Ti1-xAlxCyNz層が、結晶子内部よりも高いAl含有量を有するTi1-xAlxCyNz結晶子の粒界でTi1-oAloCpNqの析出物を含むことを特徴とし、0.95≦o≦1.00、0≦p≦0.10、0.85≦q≦1.15且つ(0-x)≧0.05である工具により解決される。
【0011】
CVD法において堆積する本発明の化学量論のTi1-xAlxCyNz層は、CVD法において生成される硬質材料層の大部分の場合のように、通常、堆積後に残留引張応力を呈する。摩耗保護コーティング中にそのような層を有する切屑形成金属機械加工のための工具は、したがって、亀裂形成、特に櫛状亀裂形成を通じて摩耗する。Ti1-xAlxCyNz層中の以下に記載されるように製造される本発明の工具において、粒界での析出により、耐摩耗性及び耐亀裂性、特に櫛状亀裂に対する耐性の改善をもたらす残留応力条件、有利には残留圧縮応力が生成される。これは、同じ層配列を有し、粒界で本発明の析出物を含むか含まないかを問わないTi1-xAlxCyNz摩耗保護層を含むコーティングされた工具と比較した実験により証明することができた。フライス加工試験において、本発明の工具は、比較用の工具と比較して、Ti1-xAlxCyNz摩耗保護層のより長い寿命、より少ない櫛状亀裂形成及び高い熱安定性を呈した。
【0012】
Ti1-xAlxCyNz結晶子の内部よりも高いAl含有量を有するTi1-oAloCpNqの本発明の析出物は、本発明の方法に従った工具の製造中に生成され、これは、これ以降より詳細に記載される。発明者は、理論に縛られずに、Ti1-oAloCpNqの析出物は、本質的に、六方晶系ウルツ鉱型構造(w-AlN)を有するAlNから成り、析出物は低割合のTi及びCを含有することができると想定する。面心立方結晶構造を有するTi1-xAlxCyNz結晶子からの析出物の生成中、六方晶系相への相変換が生じることが想定される。六方晶系w-AlN相は、析出物中に確認することができた。更に、分析結果は、w-AlN粒界析出物と隣接するfcc-Ti1-xAlxCyNz結晶子のそれぞれとの間には、エピタキャシャル関係が存在することを示唆する。六方晶系w-AlN相は、面心立方相よりも高体積を有するため、変換は、一見すると体積の膨張を伴うようである。したがって、Ti1-xAlxCyNz結晶子の粒界でのこの体積の膨張は、残留圧縮応力増加をもたらし、次に、耐摩耗性及び耐亀裂性、特に、櫛状亀裂に対する耐性の改善を生じさせることが更に想定される。
【0013】
Ti1-xAlxCyNz結晶子の表面から開始するTi1-oAloCpNq析出物の平均厚さは、4nmから200nm、好ましくは10nmから100nm、特に好ましくは25nmから75nmの範囲である。Ti1-oAloCpNqの平均厚さが低すぎる場合、Ti1-xAlxCyNz層における残留圧縮応力の増加は、改善された耐摩耗性及び耐亀裂性の本明細書に記載される本発明の利点を達成するには低すぎるであろう。Ti1-oAloCpNq析出物が大きすぎる厚さを有する場合、析出物の総量は大きい。析出物は面心立方晶Ti1-xAlxCyNzよりも柔らかい高割合の六方晶系w-AlNを含有するため、高すぎる割合の析出物は、層の硬さの望ましくない減少と低下した切削特性をもたらす。
【0014】
本発明の析出物は、例えば、コーティングの十分に薄い電子透過性研磨断面上の走査型透過電子顕微鏡(STEM)において、好ましくは集束イオンビーム(FIB)により調製されるラメラを通じて示すことができ、それらの厚さはSTEM画像を使用して決定することができる。好ましくは、HAADF検出器(高角度円環状暗視野検出器)が使用され、析出物は、BF-画像(明視野)及びHAADF画像の逆のコントラストで見られるようになる。それにより、結晶子内部よりも高いAl含有量を有するTi1-oAloCpNq析出物は、BF画像においてTi1-xAlxCyNz結晶子よりも明るく見え、HAADF画像において、Ti1-oAloCpNq析出物はTi1-xAlxCyNz結晶子よりも暗く見える。
【0015】
電子ビームに対するTi1-xAlxCyNz結晶子の適切な試料の厚さ及び配向で、高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM)により、画像を得ることができ、それにより、Ti1-xAlxCyNz結晶子からの回折画像及び粒界でのTi1-oAloCpNq排出の領域からの回折画像が、フーリエ変換法によって得ることができる。回折画像を指数化することにより、面心立方(fcc)相がTi1-xAlxCyNz結晶子に存在すること、Ti1-oAloCpNq粒界析出物の結晶子ドメインがw-AlN構造を有すること、及びfccTi1-xAlxCyNz結晶子とw-AlN析出物との間にエピタキャシャル関係が存在することを示すことができる。
【0016】
あるいは、析出物は、包埋金属組織研磨断面中又は表面と平行に研磨された試料中、走査型電子顕微鏡(SEM)において見えるようにすることができる。これにより、後に記載される調製方法の最終的な研磨工程において、w-AlNは立方晶相の領域よりもエッチングが強くなるという効果を利用する。本発明の析出物は、高割合の六方晶系w-AlNを含有するため、調製された研磨断面においてはっきりと見える。
【0017】
記載される分析に関する研磨断面の調製のために、製造された工具は分離され、包埋され、その後以下の方法で処理される:研削砥石Struers Piano220及び水を使用する6分間の研削;Struers 9μm MD-Largoダイヤモンド懸濁液を使用する3分間の研磨;Struers 3μμm MD-Dacダイヤモンド懸濁液を使用した3:40分間の研磨;Struers 1μm MD-Napダイヤモンド懸濁液を使用した2分間の研磨;Struers OP-S(0,04μmの平均粒子サイズを有するコロイド状二酸化ケイ素の懸濁液)を使用した少なくとも12分間の化学研磨。
【0018】
後続のSEM試験の前に、試料は超音波浴中で洗浄され、減磁される。そのように生成された研磨断面上、本発明のTi1-xAlxCyNz層は、2.5kVの加速電圧及び3~10mmの典型的な作動距離で、第二次電子検出器を使用して、FE-SEMにおいて画像化される。それにより、本発明の試料の研磨断面において、アニーリングされていない条件で約100%の面心立方(fcc)構造を有するTi1-xAlxCyNz層の円柱状構造が観察される。上記の調製における化学研磨の最終工程において結晶子よりも強くエッチングされる粒界での本発明の析出物は、トポグラフィー及び原子番号コントラストにより、暗い領域として同定することができる。相補的なXRD及びEBSDの結果と、アニーリングされていないTi1-xAlxCyNz層および純w-AlN層の研磨断面上の比較試験より、結晶子は本質的に100%の面心立方相を含有するのに対して、アニーリングを通じて形成されるw-AIN相の割合は、Ti1-oAloCpNq粒界析出物に含有されると結論づけることができ、それにより、Ti1-oAloCpNq粒界析出物は主にw-AlNから成ると推定される。Ti1-oAloCpNq粒界析出物の幅広さの決定及び本発明のTi1-xAlxCyNz層におけるfcc相の最小含有量の決定は、一般的に、画像を測定することにより、又は確立された画像分析手順を適用することにより、そのように生成された画像上において可能である。
【0019】
本発明のTi1-xAlxCyNz層におけるfcc相の最小量の決定のために、調製した研磨断面上でEBSD測定が行われた。実施例で生成された層の試験のために、EBSD検出器(EDAX Digiview)を備えたFE-SEM(Zeiss Supra 40 VP)が使用された。EBSD回折パターンの記録のために、電子ビームは、十分に小さい増分を適用する立方晶系パターンにおいて(典型的には0.03~0.04μ;SEM画像から評価された平均結晶子の幅広さよりも少なくとも5倍小さい)、15kVの加速電圧、70°の傾き、及び60μm又は120μmの開口部の適用で、「高電流」モードで記録される。
【0020】
Ametek EDAXのOIM Analysis 7ソフトウェアを使用したEBSDマップのデータ分析は、以下のように行われた:第一の工程において、EBSDマップは、Ti1-xAlxCyNz層のデータポイントのみがデータセットに残るように、及び、調製方法により研磨が平らではない上部及び下部協会での領域もまたクロップされるように、「クロップ」機能を使用してクロップされる。記載される調製方法を適用するとき、残存するマップは、依然として、Ti1-xAlxCyNz層の少なくとも50%、通常>75%の厚さを占める。第二の工程において、5°の許容角度(「粒子許容角度」)及び5データポイントの最小粒子サイズを適用して、CI標準化(「粒子CI標準化」)が行われる。第三の工程において、そのように生成されたデータセットの分割はフィルタCI>0.1を適用して行われる、即ち、CI標準化の後、信頼性指標が低いすべてのデータポイントは無視される。
【0021】
本質的に100%の面心立方(fcc)相からなるアニーリングされていないTi1-xAlxCyNz層の比較試料について、すなわち、X線回折図においてw-AlNの信号が見えず、研磨断面上のSEMにおいて調製により生じるエッチング効果は粒界では見られないが、この種のEBSD測定及び分析により、クロップされたマップのデータポイントの典型的に>95%はfcc相として指数化され、1%未満はw-AlNとして指数化され、残りのCI<0.1は無視される。記載された相補的分析手順により、試料がほぼ100%fcc相からなることが決定されたため、「w-AlN」データポイントの非常に低い割合がソフトウェアによる誤った指標の結果でなければならないと結論づけることができる。CI<0.1の無視されたデータ点については、これらの測定点において、fcc相が実際に存在すると仮定することができる。これらのデータポイントは、主に粒界に存在し、隣接する粒子の回折画像の重なりが数nm未満の粒界から測定点の横方向の距離で生じる可能性がある。さらに、配向依存性のエッチングによって、隣接する粒子間に高さの差異が生じる可能性がある。両方の効果は、粒界に近いものを比較的悪い品質の回折像が現れるようにし、相及び方向の指数化をソフトウェアによって確実に行うことができない。このように、EBSD測定の記載された方法は、粒界に近い範囲(約≦50nmの距離)にあるTi1-xAlxCyNz層のそれらの割合の相及び配向に関する情報を提供せず、本発明のTi1-oAloCpNq粒界析出物は、粒子サイズが小さすぎるため、また、調製によって生成される形態のために検出されない。しかしながら、この方法は、Ti1-xAlxCyNz層の結晶子中に存在する面心立方(fcc)相を確実に検出し、したがって、Ti1-xAlxCyNz層におけるfcc相の最小含有量の値を提供する。それによって、約100%のfcc相の実際の含有量を有するアニーリングされていないTi1-xAlxCyNz層について、fcc相の面積比の>95%の典型的な値が得られる。Ti1-oAloCpNq粒界析出物を有するアニーリングされている試料について、EBSDによって決定されたfcc相の最小割合は、数パーセント低く、アニーリングされていない比較試料中のfcc相の測定された最小割合と比較した差異より、形成された粒界析出物の体積割合を推定することができる。表4に示すように、実施例の製造されたコーティングの測定結果は、本発明のTi1-xAlxCyNz層におけるTi1-oAloCpNq粒界析出物が10%未満の体積割合を構成することを示している。
【0022】
本発明の析出物の厚さ又は体積割合は、それぞれ、本発明のTi1-xAlxCyNz層の調製中に、特に、本発明の工具の調製のための方法に従って、アニーリングの持続時間及び温度により変化しうる。これについては後に詳述する。当業者は、本発明を知っていれば、ほんの数回の実験によって、所望の析出物厚さ又は析出物体積比についての本発明の範囲内の持続時間及び温度の適切なパラメータを決定することができる。
【0023】
本発明のTi1-xAlxCyNz層は、主に面心立方(fcc)結晶構造を有する。しかしながら、より柔らかい他の相、例えば六方晶系AlNの割合は、層中に存在することができるが、fcc-Ti1-xAlxCyNz構造と一緒に共蒸着することによって形成される場合には望ましくなく、これは、硬度及び耐摩耗性に悪影響を及ぼすからである。したがって、本発明の工具のTi1-xAlxCyNz層(結晶粒界におけるw-AlN析出物の体積割合を含む全層)が、少なくとも90体積%、好ましくは少なくとも95体積%、特に好ましくは少なくとも98体積%の面心立方(fcc)結晶構造を含む場合が好ましい。Ti1-xAlxCyNz層中の面心立方(fcc)結晶構造の割合が高いほど、耐摩耗性が高い。本発明に関連して実施された実験は、層材料中の非常に低い割合のw-AlN析出物が、既に硬度、残留応力及び耐摩耗性に関する有利な本発明の特性を得ているという結論を可能にする。
【0024】
本発明の別の好ましい実施態様において、Ti1-xAlxCyNz層が柱状の微細構造を有する。CVD法において製造されるTiAlCN及び/又はTiAlNのポリ結晶硬質材料層は、柱状の微細構造を除き、やや等軸の微細構造もまた呈しうる。柱状の微細構造を有するTi1-xAlxCyNz層は、体積膨張に沿ったTi1-oAloCpNq粒界析出物の形成中に、Ti1-xAlxCyNz結晶子の平面圧縮引張が基材と平行に達成され、したがって、等軸構造においてよりもw-AlNの割合に対する残留応力のより大きな変化が達成させるという利点を有する。加えて、等軸構造では、一般に、柱状構造よりも顕著ではない成長テクスチャが形成され、本発明の好ましい実施形態によって望ましい{111}繊維テクスチャが形成されない。
【0025】
本発明の別の好ましい実施態様において、Ti1-xAlxCyNz層は、0.60≦x≦0.90、y=0且つ0.85≦z≦1.15の化学量論係数を有する。この実施態様において、Ti1-xAlxCyNz層は、不可避不純物及び/又は製造の条件である不純物を除き、化合炭素を本質的に含まない。この本質的に純粋な窒化物層は、CVDコーティング中により簡潔なプロセス制御の利点を有する。更に、一のコーティングバッチ内の層特性及び層組成のより均一な制御が促進される。更に、TiAlCN層に関して、限定された量の炭素のみが立方相の格子に溶解し、余分な炭素は非晶質形態で存在することができ、これは層の高度の低下及び工具の寿命に悪影響を有しうる不利なトライボロジー特性をもたらしうることを考慮しなければならない。
【0026】
本発明の工具の別の好ましい態様において、Ti1-xAlxCyNz層は、2700HV超、好ましくは3000HV超、特に好ましくは3200HV超のビッカース硬さ(HV)を有する。低すぎるビッカース硬さは、望ましくない切削特性及び低すぎる耐摩耗性の欠点を有する。高いビッカース硬さは、後に詳述される工具の製造のための本発明の方法の適用により達成される。Ti1-xAlxCyNz層のアニーリング中に高すぎる温度及び/又は長すぎるアニーリング時間が適用される場合、Ti1-xAlxCyNz層のビッカース硬さは、2500HV未満に著しく低下することがあり、これにより、工具は、特定の用途に適しなくなり、耐摩耗性が低下する。950℃を超える温度では、発明者は一般的に硬さの著しい低下を観察した。本発明の特性を達成するために必要な温度及び/又は持続時間は、層構造の特徴に依拠し、例えば、異なる粒子サイズ及び粒子形状で異なるが、簡潔な一連の実験により、当業者によって決定されうる。本発明の文脈におけるビッカース硬さの表示は、25mNの適用試験荷重に関連する。
【0027】
本発明の工具の別の好ましい実施態様において、Ti
1-xAl
xC
yN
z層は、結晶{111}面に対する結晶成長の好ましい配向を有する。これは、>1.5、好ましくは>2、特に好ましくは>3のテクスチャ係数TC°(111)により特徴づけられる。テクスチャ係数TC (111)は、ハリスの式:
によって定義され、
式中、
- I(hkl)は、X線回折により測定された回折反射の強度であり、
- I
0(hkl)は、pdfカード00-046-1200による回折反射の標準強度であり、
- nは計算に使用された反射の数であり、
- TC(111)の計算のために、反射(111)、(200)、(220)及び(311)が使用される。
【0028】
>1.5、好ましくは>2、特に好ましくは>3のテクスチャ係数TC (111)を有する本発明のTi1-xAlxCyNz層の結晶成長の好ましい配向は、特に有利であることが分かっている。他の好ましい配向のTi1-xAlxCyNz層と比較して、著しく長い寿命が観察される。この原因は明らかではないが、面心立方結晶格子中の滑り面である{111}結晶面が存在し、これによりコーティング表面に平行な変形能が提供されていることから、より均質であり、他の好ましい配向と比較して、より低い摩耗が達成されることが推定されうる。{001}優先配向の存在下で最高の耐摩耗性が観察され、それに沿って菱面体結晶中の{001}滑り面の有利な配向が起こる、α-酸化アルミニウム層から匹敵する効果が知られている(S. Ruppi, Surface & Coatings Technology, 202 (2008), 4257~4269ページ)。既知のα-酸化アルミニウム層と同様に、本発明のTi1-xAlxCyNzコーティングについても、この効果は、TC(111)<1.5を有する非常に弱いテクスチャについては有意ではなく、TC(111)>2を有するより高い優先配向でのみ顕著に現れ、TC(111)>3を有する非常に顕著なテクスチャの場合には、さらに著しい耐用年数の増加が達成される。
【0029】
本発明の別の好ましい実施態様において、Ti1-xAlxCyNz層は、結晶{111}面に対して、好ましい配向の結晶成長を有することを特徴とし、X線回折(XRD)及び/又は電子後方散乱により測定される結晶{111}面のX線回折ピークの最大値が、基体の表面に対して垂直に、角度α=±20度内、好ましくは、角度α=±10度内、特に好ましくは、角度α=±5度内、さらに特に好ましくは、α=±1度内で測定されることを特徴とする。本明細書に関連するものは、方位角β(試料表面の法線の周囲の回転角)にわたる強度の統合後のfcc-Ti1-xAlxCyNzの{111}面の極点図による断面である。
【0030】
本発明の別の好ましい実施態様において、結晶{111}面のX線回折ピークの半値幅(FWHM)は、<1°2θ、好ましくは<0.6°2θ、特に好ましくは<0.45°2θである。Ti1-xAlxCyNzの{111}面のX線回折ピークの高すぎる半値幅(FWHM)は、より低い粒子サイズの面心立方(fcc)相の粒子サイズがより小さいこと又は非晶質相の割合がより低いことを示す。これまでに行われた試験において、これは、耐摩耗性には不利であることを示している。
【0031】
本発明の工具の別の実施態様において、Ti1-xAlxCyNz層は、最大150nm、好ましくは最大100nm、特に好ましくは50nmの厚さのラメラを有するラメラ構造を有し、ここで、ラメラは、Ti及びAlの交互に異なる化学量論的含有量を有し、同じ結晶構造(=結晶相)及び/又は同じ結晶配向を有するTi1-xAlxCyNz層の周期的交互領域から形成される。
【0032】
驚くべきことに、上記のような本発明のラメラ構造は、切削動作において、工具の良好な耐用年数を提供することが発見された。耐用年数はまた、先行技術から公知であり交互の結晶構造、即ちラメラの交互の面心立方晶構造及び六方晶構造を有するラメラ状TiAlN又はTiAlCN構造よりも著しく高い。
【0033】
本発明の工具の別の好ましい実施態様において、Ti1-xAlxCyNz層はsin2ψ法によりfcc-Ti1-xAlxCyNz相の≒81.5~82度2シータで{222}反射で測定された、好ましくは<0MPaから-5000MPaの範囲、特に好ましくは-300MPaから-3500MPaの範囲の残留圧縮応力を有する。
【0034】
Ti1-xAlxCyNz層の残留圧縮応力により、亀裂形成、特に櫛状亀裂形成に対する耐性、したがって工具の耐摩耗性が改善される。しかし、Ti1-xAlxCyNz層の高すぎる残留圧縮応力は、接着の問題及び層のチップをもたらすことがある。
【0035】
本発明の別の好ましい実施態様において、基体とTi1-xAlxCyNz層との間に、TiN層、高温CVD若しくは中温CVD(MT-CVD)により堆積するTiCN層、Al2O3層、h-AlN層及びそれらの組合せより選択される、0.05μmから7μm、好ましくは0.1μmから5μm、特に好ましくは0.2μmから3μmの厚さを有する少なくとも一の更なる硬質材料層が提供される。
【0036】
更に、Ti1-xAlxCyNz層上に、好ましくはα-Al2O3、κ-Al2O3、γ-Al2O3、TiN、MT-TiCN、h-AlN及びそれらの組合せより選択される、少なくとも一の更なる硬質材料層が提供されることが好ましい。特に好まれるものは、α-Al2O3層であり、Al2O3層は高温CVD(CVD)又は中温CVD(MT-CVD)により堆積する。
【0037】
本発明はまた、超硬合金、サーメット、セラミック、鋼又は高速度鋼の基体と、CVD法においてそれに堆積する、2μmから25μmの範囲の厚さを有する単層又は多層摩耗保護コーティングとを有する、本明細書に記載される本発明の工具の製造のための方法であって、以下の工程
- CVD法において、1μmから16μmの範囲内の厚さを有する、0.40≦x≦0.95、0≦y≦0.10且つ0.85≦z≦1.15であるTi1-xAlxCyNz層を625から800℃の範囲内の処理温度で堆積させること、
- 空気排除下、700~950℃の範囲内の温度で、0,5から12時間の持続時間の間、堆積したTi1-xAlxCyNz層をアニーリングすることであって、Ti1-xAlxCyNz結晶の粒界で、Ti1-oAloCpNqの析出物が生成され、結晶内部よりも高いAl含有量を有し、0.95≦o≦1.00、0≦p≦0.10、0.85≦q≦1.15且つ(o-x)≧0.05である方法で条件が選択されること
を含む、方法にも関する。
【0038】
特に好ましいアニーリング中の温度及び持続時間の条件は、アニーリング後に、Ti
1-xAl
xC
yN
z層が、2700HV超、好ましくは3000HV超、特に好ましくは3200HV超のビッカース硬さ(HV)を有する方法で、それぞれ選択されるか又は調整される。それぞれの硬さの利点は上に記載されている。アニーリング中の温度及び持続時間は、立方晶系AlN相がそれほど沈殿せず、Ti
1-xAl
xC
yN
z層の硬さが好ましい値未満に低下しない方法で選択される。したがって、高温の、短い持続時間のアニーリングが選択される必要があり、逆の場合も同じである。本発明を理解する当業者は、簡潔な実験によって最適なパラメータを決定することができる。添付の
図4は、異なるアニーリング温度及び異なる持続時間、ここではそれぞれ3時間又は5時間での硬さの変化を示す。
【0039】
本発明の方法の別の好ましい実施態様において、アニーリング中の温度及び持続時間の条件は、Ti1-xAlxCyNz層中の面心立方(fcc)結晶構造の残存する含有量が、アニーリング後のTi1-xAlxCyNz層中のTi1-oAloCpNqの析出物の生成後に、>85体積%である方法で選択される。
【0040】
既に記載したように、CVD法において基体上に堆積し、本発明による化学量論を有するTi1-xAlxCyNz層は、堆積後、一般に、切屑形成金属機械加工における亀裂形成、特に櫛状亀裂形成による摩耗の既知の欠点を呈する残留引張応力を有する。
【0041】
本発明の方法において、Ti1-xAlxCyNz層のそのような既知の堆積後、本発明の析出物が生成されるアニーリング処理が続く。それにより、アニーリングは、それぞれ空気又は酸素の排除下、700~950の範囲内の温度で、0.5~12時間の持続時間にわたって行われることが不可欠である。
【0042】
Ti1-xAlxCyNz層及びコーティングの任意選択的な更なる層の堆積後に、別々の方法及び/又は硬質材料層の堆積とは異なる反応器中で、アニーリングは行われうる。しかし、アニーリングはまた、Ti1-xAlxCyNz層の堆積の直後に同じ反応器中で行われてもよい。例えば、それは、CVDによるTi1-xAlxCyNz層上の一又は複数の更なる硬質材料層の後続の堆積の一部でありうる。それにより、後続の堆積法(複数可)は、本発明の方法のために本明細書中で定義された上限を下回る温度及び持続時間で行われることが考慮されなければならない。したがって、950℃超の温度を使用する熱的CVD法は適していないが、その一方、例えば、MT-CVD法は一般的に約700~900℃で行われるため、本発明の方法の温度範囲内である。驚くべきことに、本発明のタイプの工具は、アニーリングされていない工具及び本発明に不可欠な処理パラメータ外、特に高すぎる温度でアニーリングされた工具よりも、著しく高い耐摩耗性、特に側面摩耗に対する耐性、及び亀裂形成、特に櫛状亀裂形成に対する著しく高い耐性を呈することが明らかになった。したがって、本発明によれば、アニーリング中の本明細書に記載される処理パラメータが、残存するTi1-xAlxCyNz層中の面心立方(fcc)結晶構造が少なくとも85体積%であるような方法で、観察され、調整されることが特に有利である。
【0043】
本発明の方法の別の好ましい実施態様において、堆積したTi1-xAlxCyNz層のアニーリングは、750から900℃、好ましくは800から850℃の範囲内の温度で、及び/又は1から-6時間の持続時間にわたって行われる。
【0044】
不可欠な処理条件は空気の排除でもあり、これは、排除しなければ、Ti1-xAlxCyNz層が酸化する可能性があるためである。該方法は、例えば、減圧下、又はアルゴン、水素若しくは窒素のような保護ガス雰囲気下で行われうる。
【0045】
粒界で本発明の方法において形成される析出物は、Ti1-xAlxCyNz層において、残留応力条件、有利には残留圧縮応力を生成し、耐摩耗性及び亀裂形成に対する耐性、特に櫛状亀裂形成に対する耐性を生じさせる。
【0046】
当業者は、本発明に従ったものとして本明細書に示される範囲内の処理パラメータの変化によって、本発明の方法に従って製造された工具の特性を最適化することは自明である。アニーリング中の高温は、低温よりも短いアニーリング持続時間を必要とすることがある。しかしながら、本発明の範囲内の最適なパラメータは、当業者によりほんの数回の実験によって、以下に記載する実施例を考慮して決定することができる。特に、当業者は、アニーリング中に形成される析出物の量及び厚さを観察し、金属機械加工の各操作が工具特性に異なる要求を課すため、要求に応じて工具を適合させる。
【0047】
好ましくは、Ti1-xAlxCyNz層の堆積のための本発明のCVD法は、LP-CVD法(低圧CVD法)であり、この方法は、0.05から8kPaの範囲内、好ましくは0.1から7kPaの範囲内、特に好ましくは0.3から2kPaの範囲内のCVD反応器における処理圧力で行われる。高温の処理圧力では、一般的に、面心立方晶及び円柱状構造を有するTi1-xAlxCyNz層は得られないが、かなりの割合のw-AlNを有する層が得られる。より低い処理圧力は、真空の発生のための著しく高い技術的努力を必要とし、加えて、より低い圧力でのコーティング処理は、複雑な形状の部品にわたるコーティングの厚さの均等な分配のために低い投射力を有する。
【0048】
定義及び方法
走査電子顕微鏡法(SEM):
走査電子顕微鏡法の画像に関して、カール・ツァイスの電界放出カソードを有するSupra 40 VP電子顕微鏡が使用された。本発明の粒界析出物を発見し、特性評価するための撮影条件は、上に記載される。
【0049】
電子後方散乱回折(EBSD):
EBSD分析は、カール・ツァイスのSupra 40 VP FE-SEMにおいて、Ametek EDAXのDigiview IV検出器を使用して実施された。EBSDに関する記録条件及び評価プロセスは、上により詳細に記載される。
【0050】
透過型電子顕微鏡法(TEM):
300kVの加速電圧で電界放出カソードを有する透過型電子顕微鏡FEI Titan 80-300が使用された。走査透過型電子顕微鏡の画像は、明視野(BF;明視野)検出器及び高角度円環状暗視野(HAADF)検出器を使用して撮影された。透過型電子顕微鏡用の試料の調製のために、液体ガリウムイオン源又は電子源としての電界放出カソード、並びにイオンのためのシステム-及びPtの電子支援堆積を備えた組み合わされたFIB/SEMシステム(FIB=集束イオンビーム)が使用された。このシステムの助けを借りて、In-Situ Lift-Outを用いてラメラとして層から研磨断面が調製され、十分な電子透過性を得るために薄くされた。
【0051】
電子分散X線顕微鏡法(EDX):
EDX測定は、カール・ツァイスの走査電子顕微鏡Supra 40 VP上、15kVで、英国のOxford InstrumentsのタイプINCA x-actのEDX分光計を用いて行われた。透過型電子顕微鏡Titan 80-300 80-300 TEM/STEM上のEDX測定には、英国のOxford InstrumentのInca EDX Systemも使用された。
【0052】
X線回折(XRD):
X線回析測定は、CuKα線を用いてGE Sensing&Inspection Technologies PTS3003のタイプの回折計で行われた。θ-2θ-スキャンに関して、残留応力及び極点図測定のために、1次側面のポリキャピラリー及びコリメータとしての2mmピンホールからなる平行ビーム光学系が使用された。2次側面上では、0.4°の発散を有する平行プレートコリメータニッケルKβフィルタが使用された。
【0053】
ピーク強度及び半値幅は、θ-2θ測定より決定された。バックグラウンド除去後、擬フォークト関数は測定データにフィッティングされ、それによって、Kα2除去は、Kα1/Kα2ダブレットフィッティングによって行われた。ピーク強度及び半値幅は、したがって、フィッティングされたKα1干渉に関する。格子定数は、それぞれpdfカード38-1420及び00-046-1200によるTiN及びAlNの格子定数を使用して、ヴェガード則に従って計算された。
【0054】
X線回折において、立方晶Ti1-xAlxCyNzの六方晶系AlNの{101}又は{202}干渉、及び{111}又は{222}反射は、それぞれ、化学組成に応じて多かれ少なかれ顕著に重ね合わされる。立方晶Ti1-xAlxCyNzの{200}面の干渉のみが、例えば基体又は上若しくは下に配置された任意の層などの更なる干渉によって重ね合わされず、無作為な配向のために最も高い強度を有する。
【0055】
測定された体積中の六方晶系AlNの体積割合を評価するため、及び立方晶Ti1-xAlxCyNzの{111}及び{200}強度に関する誤解を避けるために、測定(θ-2θ-スキャン)は、二の異なる傾斜角ψ(ψ=0°及びψ=54.74°)の下で行われた。{111}及び{200}の表面の法線環の角度は約54.74°であるため、強い{111}繊維テクスチャは、傾斜角ψ=54.74°で{200}反射の強度最大をもたらすが、その一方、{111}反射の強度はゼロに近い。逆の場合も同様に、傾斜角ψ=54.74°で、{111}反射の強い強度最大が強い{200}繊維テクスチャで得られるが、その一方、{200}反射の強度はゼロに近い。
【0056】
この方法において、製造されたTi1-xAlxCyNz層に関して、2θ≒38.1°での測定強度が、主に面心立方晶Ti1-xAlxCyNz相に割り当てられうるかが調査された。X線回折とEBSD測定はどちらも一貫して、アニーリングされていないTi1-xAlxCyNz層にわずかな割合のAlN相を示した。
【0057】
極点図:
{111}反射の極点図は、0°≦α≦75°(増分5°)及び0°≦β≦360°(増分5°)の角度範囲にわたり、測定点の円形配置を伴って、2θ=38.0°で記載された工学を使用してXRDにより調製された。測定され、逆算された全ての極点図の強度分布は、ほぼ回転対称であった。即ち、調査された層は繊維テクスチャを呈した。{111}極点図に加えて、優先配向を踏査するために、極点図は{200}及び{220}反射上で測定された。配向密度分布関数(ODF)は、ポーランドのLaboSoftのソフトウェアLaboTex3.0を使用して計算され、優先配向は逆の極点図によって表された。本発明のコーティングにおいて、強度最大は、設定された優先配向に相当するか又は<111>から≦20°の角度偏差内の結晶方向<111>中に存在した。
【0058】
残留応力測定:
残留応力の分析に関して、面心立方晶Ti1-xAlxCyNz層の{222}干渉は、上記の測定光学を用いて、回折計GE Sensing&Inspection Technologies PTS3003を使用して、-60°から+60°(増分5°)の25ψ角度を適用したsin2ψ法に従って測定された。バックグラウンド除去、ローレンツ偏光補正及びKα2除去(Rachinger分離)後、干渉線の位置は、プロファイル関数を測定データにフィッティングすることにより決定された。適用された弾性定数は、1/2s2=1.93TPa-1及びs1=-0.18TPa-1であった。残留応力は、一般的に、メガパスカル単位(MPa)で示され、これによって、残留引張応力は、正の算術符号(+)で、残留圧縮応力は負の算術符号(-)で表される。
【0059】
Ti
1-x
Al
x
C
y
N
z
層中のラメラ構造の特性評価:
X線回折(XRD)と従来の及び高解像透過型電子顕微鏡(TEM及びHR-TEM)とによる本発明のTi1-xAlxCyNz層におけるラメラ構造の存在の確定及び特性評価が、J. Keckes et al., 「Self-organized periodic soft-hard nanolamellae in polycrystalline TiAlN thin films」, Thin Solid Films 545 (2013), 29-32ページに記載されるように行われた。
【0060】
ミクロ硬さ(ビッカース硬さ)及び圧入係数(E
IT
)の決定:
ミクロ硬さの測定及び圧入係数の測定は、万能試験機である、ドイツ、ジンデルフィンゲンのHelmut Fischer GmbHのFischerscope H100を使用して、コーティングされた本体の研磨断面上で、DIN EN ISO 14577に従って行われた。ミクロ硬さの測定は、25mNの試験荷重を適用して行われた。
【0061】
本発明は、これ以降、非制限的な実施例及び添付図面の説明によって更に記載される。
【0062】
図面
図1は、断面における工具基材3上の硬質材料コーティングの略図を示す。基材3上には、CVD法において堆積されるコーティング層2が初めに提供され、これは、例えば、TiNの接着層でありうる。コーティング層2の上には、先行技術により知られるように、又は、アニーリング前に本発明のように見えるように、本発明の析出物を有さない、アニーリングされていないTi
1-xAl
xC
yN
z層が提供される。Ti
1-xAl
xC
yN
z層1は、結晶子4及び粒界5を有する円柱状の構造を有する。
【0063】
図2は、
図1と類似するが、本発明の方法におけるアニーリング工程により形成される結晶子4の粒界5でのTi
1-oAl
oC
pN
qの本発明の析出物を有する本発明の硬質材料コーティングの略図を示す。Ti
1-oAl
oC
pN
qの析出物は、Ti
1-xAl
xC
yN
z結晶子内部よりも高いAlN含有量を有する。
【0064】
図3は、二の隣接する結晶子の粒界にわたるTi
1-xAl
xC
yN
z層における化学量論的なAlの割合(x)の濃度プロファイルを概略的に示す。先行技術によるアニーリングされていない材料(破線)において、粒界に対する隣接するTi
1-xAl
xC
yN
z結晶子内部の化学量論的なAlの割合(x)は、一定である。反対に、本発明によってアニーリングされた材料(非破線)において、粒界に対する隣接するTi
1-xAl
xC
yN
z結晶子の内部から出発する化学量論的なAlの割合(x)は、隣接するTi
1-xAl
xC
yN
z結晶子内部のAl割合を上回る。粒界には本発明の析出物が存在する。
【0065】
図4は、アニーリングされていないTi
1-xAl
xC
yN
z層と、以下に記載される実施例1の工具1から11上3時間(コーティング1)及び5時間(コーティング2)の持続時間にわたってそれぞれ異なる温度でアニーリングされたTi
1-xAl
xC
yN
z層のミクロ硬度の測定値を示す。それぞれ675℃(コーティング1)及び700℃(コーティング2)の温度値を超えて示され、「アニーリングされていない」と表される値は、アニーリングされていない工具に割り当てられる。675℃(コーティング1)及び700℃(コーティング2)の温度は、それぞれ、堆積温度に相当する。3時間の保持時間、950℃を超える温度、即ち1000℃及1050℃のアニーリング温度では硬さが急激に低下することを明確に理解することができる。5時間のより長い保持時間では、硬さの著しい低下はより低い温度、即ち950℃で開始する。アニーリングされていない比較の工具と比較して、硬さの増加はどちらの保持時間においても低かったが、本発明によってアニーリングされた工具は、摩耗試験において、著しく良好な結果を達成した。
【0066】
図5、6、7は、フライス加工パスにわたるフライス加工試験において5時間アニーリングされた後続の実施例の工具7から11の櫛状亀裂形成(
図5)、最大側面摩耗(
図6)及び平均側面摩耗(
図7)を示す。
【実施例】
【0067】
実施例1:コーティングされた超硬合金の割り出し可能な切削インサートの調製及び分析
これらの実施例において、90.5重量%のWC、8重量%のCo及び1.5重量%の(NbC+TaC)の組成を有するSEHW1204AFNの形状の超硬合金の割り出し可能な切削インサートを、基体として使用した。
【0068】
超硬合金の割り出し可能な切削インサートのコーティングに関して、高さ1250mm、直径325mm及びチャージ配置の体積40リットルのBernex BPX325SタイプのCVDコーティング反応器を使用した。ガス流は反応器の縦軸に対して放射状であった。
【0069】
本発明のTi
1-xAl
xC
yN
z層の接着と、超硬合金基材の直上の比較層の接着とに関して、表1に示される堆積条件下、CVDによって約0.3μmの厚さのTiN層を初めに堆積させた。
【0070】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層の調製に関して、出発化合物TiCl
4及びAlCl
3を含有する第一の前駆体ガス混合物(VG1)と、反応性窒素成分として出発化合物NH
3を含有する第二の前駆体ガス混合物を、二のガス流のブレンドが、反応ゾーンへのエントリー時よりも早く生じないように、反応器中に別々に導入した。前駆体ガス混合物(VG1)及び(VG2)の体積ガス流は、反応器中の反応ガスの平均保持時間τ及び通常条件
下で総体積流が達成される方法で設定した。Ti
1-xAl
xC
yN
z層の調製のパラメータを表2に示す。Ti
1-xAl
xC
yN
z層の厚さは、コーティング1については約8μm、コーティング2については約6μmであった。
【0071】
コーティング後、調製された割り出し可能な切削インサートに異なる温度処理を施した。温度条件を以下の表3に示す。
【0072】
Ti
1-xAl
xC
yN
z層の特性評価に関して、X線回折(XRD)、電子回折、特にEBSD、走査電子顕微鏡法(SEM)、走査透過型電子顕微鏡法(STEM)及び透過電子顕微鏡法(TEM)と、ミクロ硬さの測定を適用した。
【0073】
本発明のTi1-xAlxCyNz層の断面を走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して、電子透過試料の適切な調製後、走査透過型電子顕微鏡法(STEM)及び透過電子顕微鏡法(TEM)も使用して、検査した。それにより、STEM画像において、Ti1-oAloCpNq析出物は粒界で見え、それは、BF画像においては高いAl含有量によってTi1-xAlxCyNz結晶子よりも明るく見え、HAADF画像においては、Ti1-oAloCpNq析出物はTi1-xAlxCyNz結晶子よりも暗く見える。Ti1-xAlxCyNz結晶子上のHRTEM及びフーリエ変換法によって、結晶子における面心立方(fcc)結晶相の存在、隣接する粒界でのTi1-oAloCpNq析出物中の結晶子ドメインに対するエピタキャシャル関係、及びTi1-oAloCpNq析出物中のw-AlN相の存在を証明することができた。w-AlN構造を有する析出物の厚さは約25nmであった。
【0074】
更に、いくつかの結晶子において、ラメラ構造はSTEM画像において見えた。観察された明/暗コントラストの鮮明さと、これによるラメラ構造の可視性は、電子ビームに対する結晶子の配向に依拠する。本発明のTi1-xAlxCyNz層のラメラ構造は、明視野(BF)及び「高角度円環状暗視野」(HAADF)の画像モデルにおける反転明/暗コントラストにより特徴づけられている。このコントラスト反転は、ラメラ構造の明領域及び暗領域の異なる化学組成を示す。明るく見える領域と暗く見える領域は、一般的に異なる厚さを有する。EDS分析によって、BFで暗く見え、HAADFで明るく見えるラメラの領域は、逆の画像コントラストを示す領域よりも高いTi割合と低いAl割合とを有することを示すことができた。高いTi割合の領域は、一般に、ラメラ構造のAlリッチ領域よりも本発明のTi1-xAlxCyNz層において著しく薄い。EDSによって決定された全組成は、XRDによって決定された全組成と一致した。
【0075】
ラメラ領域の高解像HRTEM画像によって、全構造が面心立方(fcc)結晶相から成ることを更に示すことができた。これを示すために、Tiがよりリッチで、且つAlがよりリッチな領域を含むHRTEM画像のセクションのフーリエ変換を行った。フーリエ変換のスポットパターンは、電子回折画像に相当する変換セクションの結晶の対称性及び配向についての情報を含む。これらは、全ラメラ構造が面心立方(fcc)結晶相から成り、それにより、一の結晶子内に同一の配向が存在することを示す。回折画像より決定された格子定数は、方法の正確性の範囲内で、XRDによって決定された格子定数と一貫している。
【0076】
実施例2:切削試験
実施例1(本発明の実施例番号8及び9、並びに比較例番号7、10及び11)で調製された超硬合金の割り出し可能な切削インサートを使用して、フライス加工動作を、以下の切削条件下で行った。
【0077】
工具の櫛状亀裂形成(
図5)、最大側面摩耗V
B,
max(
図6)及び平均側面摩耗V
B(
図7)は、それぞれ、800mm、1600mm、2400mm、3200mm、4000mm及び4800mmのフライス加工距離後、主要切削端部で決定した。結果を
図5、6及び7に示す。