(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】カラー印刷段ボールシートの製造方法及びカラー印刷段ボールシート
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
B41M5/00 132
(21)【出願番号】P 2019005319
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】新谷 栄一
(72)【発明者】
【氏名】島田 真典
(72)【発明者】
【氏名】山田 太志
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-51872(JP,A)
【文献】特開2015-134914(JP,A)
【文献】特開2014-83789(JP,A)
【文献】特開2011-12226(JP,A)
【文献】特開2007-161823(JP,A)
【文献】特開2007-136734(JP,A)
【文献】特表2007-535425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程と、
前記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をする工程とを有し、
前記プレコート剤は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含む
ことを特徴とするカラー印刷段ボールシートの製造方法。
【請求項2】
前記ライナに前記プレコート剤を塗工する工程と、前記インクジェット印刷をする工程とを行った後に、段ボールシートに加工する貼り合わせ工程を有する請求項1に記載のカラー印刷段ボールシートの製造方法。
【請求項3】
前記ライナの一方の面上に白色古紙の層を有する請求項1又は2に記載のカラー印刷段ボールシートの製造方法。
【請求項4】
段ボールシートの一方の面上にプレコート層を有し、該プレコート層上にインクジェット印刷により形成された印刷層を有し、
前記プレコート層は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むプレコート剤からなる層である
ことを特徴とするカラー印刷段ボールシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー印刷段ボールシートの製造方法及びカラー印刷段ボールシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、段ボールを中心とした包装容器の分野において、付加価値向上の観点から、高品質なデザインを再現することが可能なインクジェット印刷方式に対する関心が高まっている。
【0003】
通常、段ボールシートで用いるライナは褐色の茶ライナであり、茶ライナ上に直接インクジェット印刷をすると、地の色が透けて見えてしまうことや、インクが沈み込んで発色が充分に得られないといった問題があった。
【0004】
その一方で、インク発色が良い白ライナを使用する方法が検討されているが、茶ライナよりも強度に乏しいことや、地合いが目立ちやすいといった問題や、白ライナにはインクジェット印刷に適した低坪量のものが希少であるといった問題があった。
【0005】
そこで、通常の茶ライナ上に白インキを塗布して白地を形成し、その上から印刷する方法が検討されている。
例えば、特許文献1では、フレキソ印刷機により茶ライナに白インキからなる白地(プレプリント層)を形成し、該プレプリント層上にカラー印刷を行うカラー印刷段ボールの製造方法が開示されている。
【0006】
ところが、特許文献1で開示された技術では、インクジェット印刷を施した際にインクのにじみが生じることがあり、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性を充分に兼ね備えたカラー印刷段ボールシートを形成することができず、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたカラー印刷段ボールシートを得ることができるカラー印刷段ボールシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ライナにプレコート剤を塗工してプレコートライナを作製する工程と、上記プレコートライナにインクジェット印刷をして、カラー印刷ライナを作製する工程と、上記カラー印刷ライナを段ボールシートに加工する貼り合わせ工程とからなるカラー印刷段ボールシートの製造方法において、上記プレコート剤として、白色顔料、イオン塩、及び、所定の酸価を有する水性樹脂を含むものを用いることにより、段ボールシートに隠蔽性と塗膜耐性とを好適に付与することができ、さらに上記プレコート剤の塗工された面上にインクジェット印刷をすることにより、イオン塩による塩析作用が好適に働き、インクジェット印刷用インキに含まれる顔料やバインダー樹脂等の成分が原紙に浸透しにくくすることができるので、優れたインクジェット印刷適性を付与することができ、上記の課題を全て解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程と、上記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をする工程とを有し、
上記プレコート剤は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むことを特徴とするカラー印刷段ボールシートの製造方法に関する。
【0011】
上記ライナに上記プレコート剤を塗工する工程と、上記インクジェット印刷をする工程とを行った後に、段ボールシートに加工する貼り合わせ工程を有することが好ましい。
本発明のカラー印刷段ボールシートの製造方法において、上記ライナの一方の面上に白色古紙の層を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、段ボールシートの一方の面上にプレコート層を有し、該プレコート層上にインクジェット印刷により形成された印刷層を有し、上記プレコート層は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むプレコート剤からなる層であることを特徴とするカラー印刷段ボールシートでもある。
【0013】
本発明のカラー印刷段ボールシートの製造方法は、ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程と、上記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をする工程とを有し、
上記プレコート剤は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むことを特徴とする。
【0014】
(プレコート剤を塗工する工程)
本発明のカラー印刷段ボールシートの製造方法は、ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程を有する。
【0015】
まずは、上記ライナについて説明する。
上記ライナとしては特に限定されず、例えば、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ等の一種、又は、二種以上を適宜混合されて得られるライナ原紙等が挙げられる。
上記ライナは、強度や耐候性が求められるため、ポリアクリルアミドや変性でん粉等の紙力増強剤を添加したり、吸湿防止のためのサイズ剤や撥水剤を使用してもよい。
また、上記ライナは、紙層が少なくとも最外となる表層を含む2層以上の多層構造を有していてもよい。2層以上である場合、表層は段ボールシートの表面を形成し、裏層は段ボールシートの中芯と接着される裏面を形成する。表層と裏層との間に形成される中層、表層と中層との間に形成される表下層を備えていてもよい。
【0016】
上記ライナの坪量としては、280g/m2未満であることが好ましく、170g/m2未満であることがより好ましい。上記範囲であると、インクジェット印刷に好適であり、さらにコストダウンや、軽量化を図ることができ、様々な用途に用いることができる。
【0017】
上記ライナとしては、茶系のライナであることが好ましい。茶系のライナであれば、ライナを構成するパルプ等の繊維長を長くすることができるので、充分な強度を付与することができる。また、上記坪量の範囲を好適に満たすものを容易に入手することができ、さらに、地合いが目立たないので、美粧性を好適に付与することもできる。
なお、上記茶系のライナとは、白色度の低いパルプ、例えば未漂白パルプや未漂白古紙パルプを主原料とする原料が表層に使用されているライナを意味する。
【0018】
上記ライナは、一方の面上に白色古紙の層を有することが好ましい。
この場合、後述するプレコート剤は、上記白色古紙の層上に塗工されることが好ましい。
このような白色古紙の層を有することにより、隠蔽性をより好適に付与することができる。
ここで、白色古紙とは、下記で例示される古紙で構成された、ISO2470で規定される白色度が50以上のものをいう。
上記白色古紙としては、隠蔽性をさらに好適に付与する観点から、白色度が60以上であることが好ましい。
なお、上記白色度は、ISO2470で規定される方法により測定することができ、例えば、スガ試験機(株)製、白色度測定装置 カラーテスター MODEL SC-3にて測定することができる。
【0019】
上記白色古紙としては、例えば、上白・罫白等の一度使用されているが印刷部分の少ない紙、カード・模造・色上・ケント・白アート等の印刷物や色づけされ一度は使用された紙類、印刷用塗工紙、飲料用パック、オフィスペーパー等使用済みの上質系古紙、さらに特上切・別上切・中質反古・ケントマニラ等の事業系中質古紙、新聞・雑紙等の一般中質古紙、切茶・無地茶・雑袋・段ボール等の茶系古紙等が挙げられる。
なかでも、入手しやすく、古紙処理が容易で、白色度が上がりやすいという観点から、新聞古紙及び雑誌古紙などの一般中質古紙が好ましい。
【0020】
次いで、上記プレコート剤について説明する。
上記プレコート剤は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含有する。
【0021】
上記白色顔料としては、無機白色顔料、及び、有機白色顔料が挙げられる。
上記無機白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、二酸化ジルコニウム、イットリア安定化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化スズ、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、微粉ケイ酸、ケイ酸カルシウム、タルク、及び、クレイ等が挙げられる。
また、上記有機白色顔料としては、特開平11-129613号に示される有機化合物塩、特開平11-140365号、特開2001-234093号に示されるアルキレンビスメラミン誘導体等が挙げられる。
なかでも、隠蔽性を好適に付与する観点から、ルチル型、アナターゼ型等の各種の酸化チタンが好ましく、表面をアルミナで被覆処理された酸化チタンがより好ましい。
上記酸化チタンを被覆処理する方法としては、例えば、水系処理、気相処理等の公知の方法を用いることができる。
なお、上記白色顔料は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0022】
上記白色顔料の平均粒子径は特に限定されないが、隠蔽性を好適に付与する観点から、平均粒子径が100~500nmであることが好ましく、150~400nmであることがより好ましい。
なお、平均粒子径は、レーザー回析式粒度測定法、測定装置:ナノトラック(UPA-EX150、日機装社製)で測定した体積平均粒子径を意味する。
【0023】
上記白色顔料は、隠蔽性を好適に付与する観点から、プレコート剤の全質量に対して、30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0024】
上記イオン塩としては、有機イオン塩、及び、無機イオン塩が挙げられる。
上記有機イオン塩としては、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加リン酸エステル塩、4級アンモニウム塩、ベタイン等の有機イオン塩が挙げられる。
【0025】
上記無機イオン塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられ、なかでも、インクジェット印刷適性を好適に付与する観点から、解離性多価金属塩であることが好ましい。
上記解離性多価金属塩としては、カルシウムやマグネシウム等の塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の無機塩類あるいは酢酸塩、ギ酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。具体的には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、及び、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
なかでも、後述する水性媒体への溶解性が良好であることから、カルシウム塩類であることがより好ましく、塩化カルシウム又は硝酸カルシウムであることが更に好ましく、インクジェット印刷適性をより好適に付与する観点から、塩化カルシウムであることが特に好ましい。
なお、上記イオン塩は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0026】
上記解離性多価金属塩は、インクジェット印刷適性を好適に付与する観点から、プレコート剤の全質量に対して、3~30質量%用いることが好ましく、3~15質量%用いることがより好ましい。
【0027】
上記酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂(以下、単に上記水性樹脂ともいう)としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂等が挙げられる。
なかでも、プレコート剤の塗膜の凝集性に優れ、塗膜耐性を好適に付与する観点から、アクリル系樹脂が好ましい。
上記水性樹脂は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0028】
上記水性樹脂は、酸価が50mgKOH/g以下である。
上記水性樹脂の酸価が50mgKOH/gを超えると、プレコート剤中の上記イオン塩と、上記水性樹脂との間に相互作用が発生し、上記白色顔料と上記イオン塩との相互作用による塩析効果が低下する傾向があり、インクジェット印刷適性が低下する。
上記水性樹脂は、酸価が30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがより好ましい。
なお、上記水性樹脂の酸価は、電位差滴定法を用いて測定することができる。例えば、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」等に基づいて行うことができる。このような電位差滴定装置として例えば電位差自動滴定装置AT610(京都電子工業社製)が挙げられる。
【0029】
上記水性樹脂は、ガラス転移温度が70℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、塗膜耐性をより好適に付与する観点から、20℃以下であることが更に好ましい。
また、上記水性樹脂のガラス転移温度の下限は、-10℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。
なお、上記水性樹脂のガラス転移温度は、例えば、JIS K 7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」等に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により行うことができる。
【0030】
上記水性樹脂は、プレコート剤の全質量に対して、固形分で3~20質量%含有されていることが好ましい。上記水性樹脂の含有量が3質量%未満であると、プレコート剤の塗膜の凝集力が低下して、塗膜耐性が低下することがある。一方、上記水性樹脂の含有量が20質量%を超えると、顔料その他の成分を配合する余地が減少し、発明の効果が不充分になることがある。
上記水性樹脂は、塗膜耐性を好適に付与する観点から、プレコート剤の全質量に対して、固形分で7~15質量%含有されていることがより好ましい。
【0031】
上記水性樹脂としては、例えば、上記水性樹脂を低分子の乳化剤を用いて後述する水性媒体中に乳化させた物、高分子の乳化剤を用いて後述する水性媒体中に乳化させた物、自己乳化によって後述する水性媒体に乳化させた物等が挙げられる。
上記水性樹脂としては、上記イオン塩との混和性に優れることから、低分子の乳化剤を用いて各種ポリマーを水性媒体中に乳化させた物が好ましい。
【0032】
上記低分子の乳化剤としては、単糖又は多糖の脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、脂肪酸アミドアミン、アルキルピリジニウム塩、アルキルベタイン、及び、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0033】
上記水性媒体としては、水又は水と水混和性溶剤との混合物が挙げられる。水混和性溶剤としては、例えば、低級アルコール類、多価アルコール類、及び、それらのアルキルエーテルまたはアルキルエステル類等が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール等の低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及び、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
上記水性媒体は、流動性を好適に付与する観点、プレコート剤の塗膜に耐摩耗性を好適に付与する観点から、プレコート剤の全質量に対して、1~50質量%となるように含有されていることが好ましく、2~40質量%となるように含有されていることがより好ましい。
【0035】
上記のプレコート剤は、上記水性樹脂に含まれる水性媒体に加えて、他の水性媒体を加えてもよい。
上記他の水性媒体としては、上記水性樹脂に含まれる水性媒体と同様のものが挙げられるが、取扱上の安全性の観点から、水が好ましい。
上記プレコート剤に含まれる水性媒体(上記水性樹脂に含まれる水性媒体、及び、他の水性媒体)は、プレコート剤の全質量に対して、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。
【0036】
上記プレコート剤は、上記白色顔料を好適に分散させる観点から、顔料分散剤を含有することが好ましい。
上記顔料分散剤としては、カルボジイミド系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤、脂肪酸アミン系分散剤、ポリアクリレート系分散剤、ポリ(スチレン-マレイン酸)系分散剤、変性ポリウレタン系分散剤、多鎖型高分子非イオン系分散剤、高分子イオン活性剤等が挙げられる。
なかでも、上記白色顔料をより好適に分散させる観点から、ポリアクリレート系分散剤及びポリ(スチレン-マレイン酸)系分散剤が好ましい。
なお、上記顔料分散剤は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0037】
上記プレコート剤に含まれる分散剤は、上記白色顔料の質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。
【0038】
上記プレコート剤は、プレコート剤の塗膜に塗膜耐性を好適に付与する観点から、ポリオレフィンワックスを含有することが好ましい。
上記ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造したワックス及びそのコポリマーが挙げられ、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。
なかでも、プレコート剤の塗膜に塗膜耐性をより好適に付与する観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。
ポリオレフィンワックスとしては、市販されているものを利用することができ、例えば、ノプコートPEM17(サンノプコ社製)、ケミパールW400、ケミパールW4005(三井化学社製)、AQUACER515、AQUACER593(ビックケミー・ジャパン社製)等を用いることができる。
【0039】
上記プレコート剤に含まれるポリオレフィンワックスは、プレコート剤の全質量に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがより好ましい。
【0040】
上記プレコート剤には、上記に示した成分以外に、必要に応じて、顔料分散助剤、湿潤剤、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤等種々の添加剤を適宜選択して使用することができる。
【0041】
上記プレコート剤を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記白色顔料、上記分散剤及び上記水性媒体を加えて混錬した後、上記水性樹脂、上記イオン塩及び上記ポリオレフィンワックス、必要に応じて添加剤等を加えてさらに混錬する方法等が挙げられる。
【0042】
上記ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工してプレコートライナを作製する方法としては、特に限定されず、公知の印刷又は塗工方式を用いることができ、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷及びインクジェット印刷等の印刷方式や、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター、エアードクターコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレイコータ及びスロットオリフィスコーター等の塗工方式を用いることができる。
【0043】
上記プレコート剤の塗布量としては、固形分で1~20g/m2とすることが好ましく、塗膜耐性を好適に付与する観点から、固形分で3~10g/m2とすることがより好ましい。
上記プレコート剤の塗布量が1g/m2未満であると、本発明の効果が充分に得られないことがあり、上記プレコート剤の塗布量が20g/m2を超えると、バックトラッピングが発生しやすく、塗膜耐性を充分に付与できないこともある。
【0044】
上記プレコート剤が塗布されたプレコートライナの乾燥方法としては、この分野で使用されている一般的な乾燥機、例えば、熱風乾燥機が挙げられる。なお、上記プレコートライナは、完全に乾燥された状態であっても、半乾燥状態であってもよい。
【0045】
(カラー印刷ライナを作製する工程)
本発明のカラー印刷段ボールシートの製造方法は、上記プレコートライナの前記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をして、カラー印刷ライナを作製する工程を有する。
上記インクジェット印刷の方法としては、特に限定されず、公知のインクを用いて、公知の印刷機により印刷する方法を適宜用いることができる。
【0046】
(貼り合わせ工程)
上記ライナは、貼り合わせ工程を行うことにより、段ボールシートに加工される。
上記貼り合わせ工程は、上記プレコート剤を塗工する工程の前に行ってもよいし、上記ライナにプレコート剤を塗工する工程と、上記インクジェット印刷をする工程とを行った後に行ってもよい。
上記段ボールシートに加工する貼り合わせ工程としては、従来公知の段ボールの製造方法をそのまま適用でき、例えば、中芯とライナとを、接着性物質を介して貼合するコルゲーター処理を経て製造することができる。接着性物質としては、澱粉糊や合成樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、スチレンーブタジエンーアクリロニトリル共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル系共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体等)等が挙げられる。
中芯としては、特に限定されず、一般の段ボールシートに使用されているものが使用できる。
【0047】
上記段ボールシートに加工する貼り合わせ工程について、具体的には、中芯の表面に、澱粉系の糊の塗布により接着剤層を形成してから、これらを重ね合わせ、加圧及び加熱して接着する方法が挙げられる。
【0048】
上記コルゲーター処理を1回実施することで、片面段ボールシートが製造され、複数回繰り返し実施することで、両面段ボールシートや複数段の段ボールシートが製造される。両面段ボールシートは、例えば、中芯とライナとを加熱加圧ロールで貼合し片面段ボールシートとするシングルフェーサ(SF)と、SFで得られた片面段ボールシートの中芯側に更にライナを重ね、加圧しながら熱盤上を走行させ貼合するダブルフェーサ(DF)とを有するコルゲーターを用いて製造することができる。加熱加圧条件は特に制限はないが、例えば、SFの加熱温度150~200℃、線圧20~40kN/m、加圧時間0.01~0.20秒、DFの加熱温度150~200℃、線圧0.1~1.0kN/m、加圧時間2~7秒等が好ましい。
【0049】
(カラー印刷段ボールシート)
本発明は、段ボールシートの一方の面上にプレコート層を有し、該プレコート層上にインクジェット印刷により形成された印刷層を有し、上記プレコート層は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むプレコート剤からなる層であることを特徴とするカラー印刷段ボールシートでもある。
【0050】
本発明のカラー印刷段ボールシートは、上記プレコート層上にインクジェット印刷をすることにより、上記プレコート層に含まれるイオン塩による塩析作用が好適に働き、インクジェット印刷用インキに含まれる顔料やバインダー樹脂等の成分が原紙に浸透しにくくすることができるので、インクジェット印刷適性に優れ、高精細なカラー印刷段ボールシートを得ることができる。
上記段ボールシートやプレコート剤は、上述した本発明のカラー印刷段ボールシートの製造方法で記載したものを好適に用いることができる。
また、本発明のカラー印刷段ボールシートは、上述した本発明のカラー印刷段ボールシートの製造方法により、好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたカラー印刷段ボールシートの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0053】
下記の実施例及び比較例において、プレコート剤を調製するために用いた材料は以下の通りである。
<白色顔料>
酸化チタン(テイカ社製、チタニックス JR-809)
<分散剤>
Tego Dispers 750W(Evonik社製、固形分40%)
<水性樹脂>
アクリル樹脂エマルション(P-1)(日本カーバイド社製、FX2043、酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)
その他のアクリル樹脂エマルションは以下の手順に従って合成した。
アクリル酸1.5質量部、メタクリル酸メチル68.5質量部、アクリル酸ブチル30質量部からなる単量体の混合物に、界面活性剤としてアクアロンHS-10(第一工業製薬社製)を3質量部加え、更に蒸留水46質量部に過硫酸カリウム0.3質量部を溶解した水溶液を加え、撹拌機であらかじめ乳化した。撹拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた重合容器に蒸留水20質量部を入れ、窒素置換し80℃に昇温したところへ、上記単量体の乳化液を3時間かけて滴下し、さらに2時間反応させて重合を終えた。ただし、重合後期に少量の過硫酸カリウムを添加して残存単量体を消費させた。得られたエマルジョンに水酸化ナトリウムを加えてpHを7に調整したのち、固形分濃度が50%となるように蒸留水を加えて、アクリル樹脂エマルション(P-2)(酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度30℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸1.5質量部、メタクリル酸メチル89.5質量部、アクリル酸ブチル9質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-3)(酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度70℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸1.5質量部、メタクリル酸メチル40質量部、アクリル酸ブチル58.5質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-4)(酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度-10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸4質量部、メタクリル酸メチル53質量部、アクリル酸ブチル43質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-5)(酸価30mgKOH/g、ガラス転移温度10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸9.0質量部、メタクリル酸メチル44.7質量部、アクリル酸ブチル46.3質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-6)(酸価70mgKOH/g、ガラス転移温度10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
<ポリオレフィンワックス>
ポリエチレン系ワックス(三井化学社製、ケミパールW-400)
<イオン塩>
塩化カルシウム
【0054】
(製造例1)
表1に記載の配合比にて、酸化チタン、分散剤及び水を撹拌混合し、ビーズミルを使用して常法に従い混練後、アクリル樹脂エマルション(P-1)、ポリエチレン系ワックス、及び、塩化カルシウムを添加してさらに混錬を行い、プレコート剤を得た。
【0055】
(製造例2~10)
表1に記載の配合に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、プレコート剤を得た。
【0056】
【0057】
(実施例1)
ライナ(Kライナ、坪量140g/m2、茶系ライナ)の一方の面上に、ハンドプルーファー(165線)を用いて、固形分5g/m2となるように製造例1で得られたプレコート剤を塗布し、ドライヤーにて乾燥させてプレコートライナを作製した。
得られたプレコートライナのプレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷用のプリンター(エプソン社製、PX105)により、インクジェット用インク(エプソン社製、IC4CL69)を用いて、0.3mmの細線を印刷し、印刷ライナを得た。
【0058】
(実施例2~7、比較例1~3)
プレコート剤を表2に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして印刷ライナを得た。
【0059】
(実施例8)
ライナ(Kライナ、坪量140g/m2、茶系ライナ)の表面に、接着剤(コニシ社製、ボンド木工用CH18)を塗布して接着剤層を形成し、中芯(坪量120g/m2)と重ね合わせ、加圧及び加熱して接着し、片面の段ボールシートを製造した。
得られた段ボールシートの一方の面上に、ハンドプルーファー(165線)を用いて、固形分5g/m2となるように製造例1で得られたプレコート剤を塗布し、ドライヤーにて乾燥させてプレコート段ボールシートを作製した。
得られたプレコート段ボールシートのプレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷用のプリンター(エプソン社製、PX105)により、インクジェット用インク(エプソン社製、IC4CL69)を用いて、0.3mmの細線を印刷し、印刷面を有する段ボールシートを製造した。
【0060】
(実施例9)
ライナ(Kライナ、坪量140g/m2、茶系ライナ)の一方の面上に、離解した新聞古紙を原材料としてテスト紙作製機(熊谷理機工業製、半自動シートマシン)により作成した白色古紙(坪量50g/m2、白色度50%)を貼り付け白色古紙の層を形成した。
得られた白色古紙の層を有するライナの白色古紙の層に対して、ハンドプルーファー(165線)を用いて、固形分5g/m2となるように製造例1で得られたプレコート剤を塗布し、ドライヤーにて乾燥させてプレコートライナを作製した。
得られたプレコートライナのプレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷用のプリンター(エプソン社製、PX105)により、インクジェット用インク(エプソン社製、IC4CL69)を用いて、0.3mmの細線を印刷した。
【0061】
(インクジェット印刷適性評価)
実施例1~9、比較例1~3で得られた印刷ライナ又は段ボールシートの印刷面を、目視にて観察し、以下の基準でインクジェット印刷適性を評価した。
〇:印刷が鮮明で滲みが全くない
△:印刷に僅かな滲みはあるが、2倍以上の太りは観察されなかった
×:印刷に部分的な滲みと2倍以上の太りが観察された
××:滲みと2倍以上の太りが非常に多く、使用が困難
【0062】
(塗膜耐性評価)
実施例1~9、比較例1~3の製造過程において得られた、プレコートライナ又はプレコート段ボールシートから分離したプレコートライナを2.5cm×25cmに切断し、サンプルピースを得た。
学振型耐摩擦試験機(テスター産業社製)を用いて、得られたサンプルピース表面(プレコート剤を塗工した面側)を、水を5滴滴下したカナキン綿布を当紙として、200g加重で2往復した。
その後、サンプルピースの表面を目視にて観察し、以下の基準で塗膜耐性を評価した
◎:塗膜取られなし
〇:当紙にわずかに白色顔料が付着。プレコート層の白色顔料がわずかに取られている
△:当紙全面に白色顔料が付着。プレコート層の白色顔料が取られ、一部原紙が見える
×:当紙全面に白色顔料が濃く付着。プレコート層の白色顔料が取られ、原紙の大部分が見える
【0063】
(隠蔽性評価)
実施例1~9、比較例1~3の製造過程において得られた、プレコートライナ又はプレコート段ボールシートのプレコート剤を塗工した面側について目視にて観察し、以下の基準で隠蔽性を評価した。
◎:塗膜が充分に白く、下地のライナが見えない
○:塗膜は白いが、下地のライナが完全には隠蔽されていない
△:塗膜がやや白い程度で、下地のライナの茶色が見える
×:塗膜が透明で、下地のライナがそのまま透けて見える
【0064】
(白色度)
実施例1~9、比較例1~3の製造過程において得られた、プレコートライナ又はプレコート段ボールシートのプレコート剤を塗工した面側について、コニカミノルタ(株)製、スペクトロフォトメーター MODEL CM-3600にて白色度を測定した。
【0065】
【0066】
表2に示すように、実施例1~9の印刷ライナ又は印刷段ボールは、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れることが確認された。
特に、白色古紙の層を有する実施例9では、隠蔽性において特に優れており、白色度も高い値が得られていた。
なお、実施例1~7及び9、並びに、比較例1~3で得られた印刷ライナは、上述した貼り合わせ工程を行うことにより、段ボールシートとすることができる。
一方で、所定のプレコート剤が塗工されていない比較例1~3では、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性のいずれかに劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたカラー印刷段ボールシートを得ることができるカラー印刷段ボールシートの製造方法を提供できる。