IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

<>
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図1
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図2
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図3
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図4
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図5
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図6
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図7
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図8
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図9
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図10
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図11
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図12
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図13
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図14
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図15
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図16
  • 特許-粒子線治療装置及びその作動方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】粒子線治療装置及びその作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019026903
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020130539
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島倉 智一
(72)【発明者】
【氏名】中島 千博
(72)【発明者】
【氏名】遠竹 聡
(72)【発明者】
【氏名】富田 和雄
(72)【発明者】
【氏名】藤田 毅
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/140236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を二次元走査する走査部と、
患部のサイズに基づいて前記走査部の照射野の拡大が必要であると判断された場合には前記走査部から出た粒子線の偏向により前記照射野をシフトさせて拡大照射野を生じさせ、前記患部のサイズに基づいて前記走査部の照射野の拡大が必要でないと判断された場合には前記照射野のシフトを行わないシフト部と、
を含み、
前記照射野は、走査中心軸に直交する面上において前記走査部単体で形成可能な二次元照射領域であり、
前記拡大照射野は、前記走査中心軸に直交する第1走査方向及び第2走査方向の内で少なくとも前記第1走査方向に連結された複数の照射野に相当する複数の照射野区画を含む、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
前記粒子線の走査を行っている走査期間において前記走査部の動作条件を動的に切り換え、前記粒子線の照射を行っていない中断期間において前記シフト部の動作条件を静的に切り換える制御部を含む、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項3】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
前記走査部は、
前記走査中心軸に直交する前記第1走査方向に前記粒子線を走査する第1走査電磁石と、
前記走査中心軸及び前記第1走査方向に直交する前記第2走査方向に前記粒子線を走査する第2走査電磁石と、
を有し、
前記シフト部は前記第1走査方向に前記照射野をシフトさせる第1シフト電磁石を有する、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項4】
請求項3記載の粒子線治療装置において、
前記第1走査電磁石により形成される磁場の静定時間は前記第1シフト電磁石により形成される磁場の静定時間よりも短い、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項5】
請求項3記載の粒子線治療装置において、
前記第1走査電磁石のインダクタンスは前記第1シフト電磁石のインダクタンスよりも小さい、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項6】
請求項3記載の粒子線治療装置において、
前記シフト部における前記第1走査方向のシフト段数はm個(但しmは3以上の奇数)である、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項7】
請求項3記載の粒子線治療装置において、
前記シフト部は前記第2走査方向に前記照射野をシフトさせる第2シフト電磁石を有する、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項8】
請求項7記載の粒子線治療装置において、
前記シフト部における前記第1走査方向のシフト段数はm個(但しmは3以上の奇数)であり、
前記シフト部における前記第2走査方向のシフト段数はn個(但しnは3以上の奇数)であり、
前記拡大照射野はm×n個の照射野区画の集合に相当する、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項9】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
前記粒子線のエネルギーに応じて前記照射野のシフトの要否が判断される、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項10】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
組織像を含む参照画像を形成する参照画像形成部を含み、
前記参照画像は、前記組織像に合成される像であって前記照射野のシフトにより形成される複数の照射野区画を表す区画像を含み、
治療計画段階及び治療中の少なくとも一方において前記参照画像が表示される、
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項11】
粒子線治療装置の走査部が治療用の粒子線を二次元走査する工程と、
前記粒子線治療装置のシフト部が、患部のサイズに基づいて前記走査部の照射野の拡大が必要であると判断された場合には前記走査部から出た粒子線の偏向により前記照射野をシフトさせて拡大照射野を生じさせ、前記患部のサイズに基づいて前記走査部の照射野の拡大が必要でないと判断された場合には前記照射野のシフトを行わない工程と、
を含み、
前記照射野は、走査中心軸に直交する面上において前記走査部単体で形成可能な二次元照射領域であり、
前記拡大照射野は、前記走査中心軸に直交する第1走査方向及び第2走査方向の内で少なくとも前記第1走査方向に連結された複数の照射野に相当する複数の照射野区画を含む、
ことを特徴とする粒子線治療装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線治療装置及びその作動方法に関し、特に、照射野を拡大する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置は、悪性腫瘍等の患部への粒子線の照射により、患部の治療を行う装置である。粒子線を構成する粒子として、電子、陽子、ヘリウムイオン、炭素イオン等の荷電粒子があげられる。炭素イオン及びそれよりも重いイオンを利用した粒子線治療装置は一般に重粒子線治療装置と呼ばれる。重粒子線治療装置によれば、正常組織の損傷を軽減しつつ、高い治療効果を期待できる。以下、炭素線治療装置を例にとり、その構成について説明する。
【0003】
炭素線治療装置は、例えば、イオン源、直線加速器、シンクロトロン、輸送装置、照射装置、等により構成される。イオン源で生成された炭素イオンが直線加速器において加速され、加速された炭素イオンがシンクロトロンにおいて更に加速される。シンクロトロンにおいては、炭素イオンのエネルギーがその照射で必要となるエネルギーまで高められる。シンクロトロンから連続的に又はパルス列として取り出された一定のエネルギーを有する炭素イオン集団が炭素線として輸送装置を介して照射装置へ導かれる。照射装置から出た炭素線が生体中の患部へ照射される。
【0004】
照射装置には、走査部が備わっており、その走査部により、照射中心軸に対して直交するX方向及びY方向に炭素線が走査される。走査部は、一般に、X方向走査用電磁石及びY方向走査電磁石により構成される。例えば、特許文献1に記載のように、炭素線を照射する三次元の照射領域が炭素線の進行方向に複数のレイヤに分割され、各レイヤ上に配置された複数の照射スポットに対し、決められた順番に従って、走査された炭素線がスポット単位で順次照射される。生体に対して±180度の範囲内で様々な角度から炭素線を照射できるように回転ガントリが用いられることもある。回転ガントリは、輸送装置の一部及び照射装置が搭載された回転運動する大型構造体である。
【0005】
なお、特許文献2に記載された粒子線治療装置においては、粒子線の軸方向に並んで配置された周波数応答特性の異なる2つの走査部が利用されている。それらは連携して動作するものであり、それらは同時に動的に制御されている。特許文献3に記載された粒子線治療装置においては、走査用電磁石の上流側に照射野移動用電磁石が設けられている。照射野移動に伴って下流側の走査用電磁石が機械的に動かされており、その構成には現実的でない面が認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-131399号公報
【文献】国際公開2012/008190号公報
【文献】特開平8-257148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粒子線治療においては、大きな患部の治療その他の目的から、走査部単体で粒子線の照射を行える範囲としての照射野(radiation field)を拡大することが求められている。
【0008】
本開示の目的は、粒子線治療において、走査部単体で形成される照射野よりも大きな照射野を形成することにある。あるいは、本発明の目的は、粒子線治療において、上記第1の方法及び上記第2の方法とは異なる照射野拡大方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る粒子線治療装置は、粒子線を走査して照射野を生じさせる走査部と、前記走査部から出た粒子線の偏向により前記照射野をシフトさせて拡大照射野を生じさせるシフト部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る粒子線治療装置の作動方法は、治療用の粒子線の走査により照射野を生じさせる工程と、前記走査後の粒子線の偏向により前記照射野をシフトさせて拡大照射野を生じさせる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る装置及び方法によれば、走査部単体により形成される照射野よりも大きな照射野を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る粒子線治療装置を示す模式図である。
図2】比較例に係る照射野の形成を示す図である。
図3】比較例に係る照射野を示す図である。
図4】第1実施例に係る拡大照射野の形成を示す図である。
図5】第1実施例に係る拡大照射野を示す図である。
図6】第1実施例でのシフト部の動作を説明するための図である。
図7】照射シーケンスの一例を示す図である。
図8】実施形態に係る粒子線治療装置の動作を示すフローチャートである。
図9】第2実施例を示す模式図である。
図10】第3実施例を示す模式図である。
図11】第3実施例により形成される拡大照射野を示す図である。
図12】第4実施例により形成される拡大照射野を示す図である。
図13】第5実施例により形成される拡大照射野を示す図である。
図14】治療計画装置を示すブロック図である。
図15】治療計画段階で表示される参照画像の一例を示す図である。
図16】第1変形例を示す図である。
図17】第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る粒子線治療装置は、走査部及びシフト部を含む。走査部は、粒子線を走査して照射野を生じさせる機構である。シフト部は、走査部から出た粒子線の偏向により照射野をシフトさせて拡大照射野を生じさせる機構である。
【0015】
上記構成によれば、走査部の後段に設けられたシフト部により拡大照射野を生じさせることができる。よって、照射野の拡大に際して、走査部の大型化等を回避でき、また、走査部から目標中心点までの距離を増大させなくてもよくなる。もちろん、走査部の構成や走査部から目標中心点までの距離を変更した上で、照射野のシフトを行ってもよい。見方を変えると、上記構成によれば、必要なサイズの拡大照射野を得られる限りにおいて、走査部単体で形成される照射野を小さくすることができるので、走査部又はそれを含む照射装置の小型化という利点を得られる。
【0016】
実施形態に係る粒子線治療装置は、粒子線の走査を行っている走査期間において走査部の動作条件を動的に切り換え、粒子線の照射を行っていない中断期間においてシフト部の動作条件を静的に切り換える制御部を含む。後述する制御装置は制御部の一態様である。
【0017】
走査部の動作条件の動的切り換えは、照射位置の動的な変更のために行われるものである。実施形態においては、走査期間において走査部の動作条件が断続的又は連続的に繰り返し切り換えられる。シフト部の動作条件の静的切り換えは、上記の動的切り換えに対比されるものであり、実施形態においては、中断期間に行われる照射野シフト単位での1回の動作条件の切り換えを意味する。実施形態において、照射野シフト後、シフト部の動作条件が次の照射野シフトまで維持される。照射を停止した中断期間において照射野シフトを行えば、生体における無用な被曝を防止又は軽減でき、つまり治療計画に沿った線量を照射して照射精度を向上できる。
【0018】
なお、粒子線軌道の補正その他の理由から、シフト部の動作条件を緩やかにつまり静的に変更する変形例も考えられる。各動作条件には、例えば、磁場の強度を規定する電流の大きさが含まれる。
【0019】
実施形態において、走査部は、走査中心軸方向に直交する第1走査方向に粒子線を走査する第1走査電磁石と、走査中心軸方向及び第1走査方向に直交する第2走査方向に粒子線を走査する第2走査電磁石と、を有し、シフト部は第1走査方向に照射野をシフトさせる第1シフト電磁石を有する。
【0020】
上記構成は少なくとも第1走査方向へ照射野を拡大するものである。第1走査方向は、後述するX方向及びY方向の内の一方方向であり、第2走査方向は、後述するX方向及びY方向の内の他方方向である。
【0021】
実施形態において、第1走査電磁石により形成される磁場の静定時間は、第1シフト電磁石により形成される磁場の静定時間よりも短い。別の表現を採用すると、第1走査電磁石のインダクタンスは、第1シフト電磁石のインダクタンスよりも小さい。一般に、インダクタンスが大きくなると磁場の静定時間が長くなる。
【0022】
このように、実施形態に係る構成は、応答特性を優先させた走査電磁石と、偏向特性を優先させたシフト電磁石とを併用し、照射装置の小型化と照射野の拡大を両立させるものである。特に、動的に制御される走査部の後段に静的に制御されるシフト部を設けたので、照射装置の設計、製作及び制御に当たって生じる諸々の困難が大きく軽減される。
【0023】
実施形態において、シフト部における第1走査方向のシフト段数はm個(但しmは3以上の奇数)である。実施形態においては、電流の向きを異ならせることにより、シフト方向(正方向又は負方向)が切り換えられ、電流のオンオフによりシフトの有無が切り換えられる。すなわち、簡便な制御で、照射野のシフトを実現できる。
【0024】
実施形態において、シフト部は第2走査方向に照射野をシフトさせる第2シフト電磁石を有する。この構成によれば、第1シフト電磁石及び第2シフト電磁石を利用して、第1走査方向及び第2走査方向に照射野を移動させることが可能となる。各走査方向におけるシフト量は、ステップ状に可変され、あるいは、連続的に可変される。後者の場合、照射野のシフト方向及びシフト量を任意に定め得る。
【0025】
実施形態において、シフト部における第1走査方向のシフト段数はm個(但しmは3以上の奇数)であり、シフト部における第2走査方向のシフト段数はn個(但しnは3以上の奇数)であり、拡大照射野はm×n個の照射野区画の集合に相当する。電流オフの場合におけるシフトなしの場合をシフト段数に含める場合、通常、m及びnはいずれも奇数となる。なお、照射野区画は、拡大照射野を構成する1単位であり、その実体は照射野である。
【0026】
実施形態においては、粒子線のエネルギーに応じて照射野のシフトの要否が判断される。磁場中を粒子線が通過する場合、その粒子線(正確には粒子)のエネルギーに依存して、その軌道の曲がり度合いが変化する。粒子線のエネルギーが低ければ、走査部だけである程度のサイズをもった照射野を形成できるが、粒子線のエネルギーが高くなると、大きな照射野の形成が困難となる。そこで、上記構成は粒子線のエネルギーに応じて照射野のシフトの有無を切り換えるものである。治療実行中にシフトの要否が判断されてもよいし、治療計画段階でシフトの要否が判断されてもよい。いずれの場合もそのような判断を行う部分は制御部の一部とみなせる。
【0027】
実施形態に係る粒子線治療装置は、組織像を含む参照画像を形成する参照画像形成部を含み、参照画像は、組織像に合成される像であって照射野のシフトにより形成される複数の照射野区画を表す区画像を含み、治療計画段階及び治療中の少なくとも一方において参照画像が表示される。
【0028】
上記構成によれば、治療中における照射野のシフトを前提として治療計画を立てることが可能となり、あるいは、治療中において照射野のシフトにより設定される複数の照射野区画との対比において組織像を観察することが可能となる。
【0029】
実施形態に係る照射野形成方法は、治療用の粒子線の走査により照射野を生じさせる工程と、走査後の粒子線の偏向により照射野をシフトさせて拡大照射野を生じさせる工程と、を含む。
【0030】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る粒子線治療装置の全体構成が模式図として示されている。図示された粒子線治療装置は、具体的には、炭素線治療装置10である。炭素線治療装置10は、生体中の患部に炭素線を照射してその治療を行う医療装置である。炭素線治療装置10において、以下に説明する照射野形成方法が実施される。なお、以下に説明する構成が陽子線治療装置等、他の粒子線治療装置に適用されてもよい。
【0031】
炭素線治療装置10は、図示された構成例において、イオン源12、直線加速器14、円形加速器としてのシンクロトロン15、輸送装置16、照射装置18、制御装置20等を有する。輸送装置16の一部分及び照射装置18は回転ガントリ22の筐体に取り付けられている。回転ガントリ22は、生体に対して±180度の範囲内で任意の方向から炭素線を照射するための回転構造体である。回転ガントリに代わるものとして270度以下の範囲内で任意の方向から炭素線を照射し得るハーフガントリを備える粒子線治療装置や、回転ガントリを備えない粒子線治療装置に対して以下の構成が適用されてもよい。
【0032】
イオン源12においては炭素イオンが生成される。直線加速器14は、炭素イオンを予備的に加速するものである。イオン源12及び直線加速器14は入射系とも呼ばれる。図示された構成以外の入射系が採用されてもよい。
【0033】
シンクロトロン15は、主加速器として機能するものである。具体的には、シンクロトロン15は、炭素イオンを加速して、そのエネルギーを高める装置である。生体内における炭素線の到達深度は炭素イオンのエネルギーに依存する。シンクロトロン15においては、炭素イオンのエネルギーが照射点深度(レイヤ深度)に対応するレベルまで高められる。エネルギーの可変は、周回時間を規定する周波数の可変によって行える。シンクロトロン15に代えて、サイクロトロンやシンクロサイクロトロン等の他の加速器が利用されてもよい。シンクロトロン15におけるビーム取り出し器24から、一定のエネルギーをもった炭素イオン集団が炭素線として取り出される。その場合、照射方式に応じて、炭素線が連続的に取り出され、あるいは、炭素線がパルス列として取り出される。シンクロトロン15の動作を制御することにより、炭素線の照射及び非照射が切り換えられる。
【0034】
炭素線は、輸送管26等を含む輸送装置16を介して、照射装置18へ送られる。輸送装置16は、図示の構成例において、3つの偏向電磁石28,30,32を有している。それぞれの偏向電磁石28,30,32により炭素線の軌道が曲げられる。輸送装置16は、炭素線の集束又は整形を行う複数の四極電磁石を備えているが、それらの図示は省略されている。なお、個々の電磁石には電源が接続されているが、それらの図示も省略されている。
【0035】
図示の構成例では、シンクロトロン15から出射した炭素線の進行方向において最終段の偏向電磁石32の後段に、すなわち下流側に、照射装置18が設けられている。図1は、照射装置18の第1実施例を示すものである。照射装置18は、走査部34及びシフト部36を有する。具体的には、走査部34の下流側にシフト部36が設けられている。
【0036】
なお、図1において、Z方向は、炭素線の進行方向(具体的には走査中心軸方向)に平行な方向である。Z方向に直交するY方向はガントリの回転中心軸に平行な方向である。X方向はZ方向及びY方向に直交する方向である。アイソセンタOは目標中心点であり、それは走査中心軸と回転ガントリ22の回転中心軸の交点として定義される。
【0037】
走査部34は、炭素線の二次元走査を行う機構である。すなわち、炭素線をY方向及びX方向に走査する機構である。走査部34それ単体で形成可能な二次元走査領域照射野である。照射野は、一般に、走査中心軸に直交しアイソセンタOを横切る平面上の二次元走査領域として定義され得る。
【0038】
走査部34は、具体的には、炭素線の進行方向における上流側から順に配置された第1走査電磁石38及び第2走査電磁石40を有する。例えば、第1走査電磁石38は、磁場の作用により炭素線をY方向に偏向して走査する電磁石であり、第2走査電磁石40は、磁場の作用により炭素線をX方向に偏向して走査する電磁石である。実施形態においては、第1走査電磁石38は第2走査電磁石40に比べてより高速の走査を行えるものである。第1走査電磁石38の性能と第2走査電磁石40の性能を同一にしてもよい。また、第1走査電磁石38及び第2走査電磁石40の間で走査方向や走査速度を入れ換えてもよい。
【0039】
シフト部36は、磁場による粒子線の軌道の屈曲により、走査部34により形成される照射野をシフトさせる機構である。換言すれば、シフト部36は、走査部34単体では得られない大きな照射野を生じさせる機構である。具体的には、シフト部36は、第1実施例において、炭素線の進行方向における上流側から順に配置された第1シフト電磁石42と第2シフト電磁石44とにより構成される。例えば、第1シフト電磁石42は、走査部34により偏向された炭素線を磁場の作用によりさらに偏向してY方向へ照射野をシフトさせる電磁石である。第2シフト電磁石44は、走査部34により偏向された炭素線を磁場の作用によりさらに偏向してX方向へ照射野をシフトさせる電磁石である。第1シフト電磁石42と第2シフト電磁石44の走査方向を入れ換えてもよい。なお、走査部34により形成される照射野をシフト部36がシフトすることにより得られる大きな照射野を拡大照射野と呼ぶ。
【0040】
第1シフト電磁石42への電流供給のオンオフ、及び、第1シフト電磁石42へ供給する電流の向きの切り換えにより、+Y方向シフト、-Y方向シフト、及び、シフトなしのいずれか、が選択される。その場合のシフト段数(m)は3である。同様に、第2シフト電磁石44への電流供給のオンオフ、及び、第2シフト電磁石44へ供給する電流の向きの切り換えにより、X方向に関しては、+X方向シフト、-X方向シフト、及び、シフトなし、のいずれかが選択される。その場合のシフト段数(n)は3である。
【0041】
第1実施例においては、シフト部36により、シフトなしの場合を含めて9通りのシフト態様を実現できる。これにより、走査部34により形成される照射野の9倍の大きさを有する拡大照射野を生じさせることが可能である。よって、患者の位置の変更を要せず、拡大照射野に入り得る大きな患部に対して炭素線の照射を行える。
【0042】
第1走査電磁石38と第1シフト電磁石42は、Y方向への炭素線の偏向を行う点において同じ機能を有するが、第1走査電磁石38は高速で動作する電磁石であり、換言すれば動的に制御される電磁石である。それとの比較において、第1シフト電磁石42は低速で動作する電磁石であり、換言すれば、静的に制御される電磁石である。
【0043】
定量的に比較すると、第1走査電磁石38における磁場の静定時間は第1シフト電磁石42における磁場の静定時間よりも短い。第1走査電磁石38における磁場の静定時間は例えば数十μs程度であり、第1シフト電磁石42における磁場の静定時間は例えば数ms程度である。磁場の静定時間は、一般に、磁場生成の条件を設定又は変更してから目標値を基準として定められる一定の範囲内に磁場の変動がおさまるまでの時間である。
【0044】
別の観点から説明すると、第1走査電磁石38のインダクタンスは、第1シフト電磁石42のインダクタンスよりも小さい。第1走査電磁石38のコイル巻数はかなり少なく、例えば10ターン程度である。そのような第1走査電磁石38に対して大きな電流を流すことにより炭素線の走査で必要な強度を有する走査磁場が生成されている。第1シフト電磁石42のコイル巻数は相対的に見て多く、例えば100ターン程度である。そのような第1シフト電磁石42に対して相対的に見て小さな電流を流すことにより炭素線の屈曲で必要な強度を有するシフト磁場が生成されている。なお、本願明細書に記載する数値はいずれも例示に過ぎないものである。
【0045】
第2走査電磁石40と第2シフト電磁石44の関係も、上記の第1走査電磁石38と第1シフト電磁石42の関係と同様である。すなわち、第2走査電磁石40と第2シフト電磁石44は、X方向への炭素線の偏向を行う点において同じ機能を有するが、第2走査電磁石40は高速で動作する電磁石であり、換言すれば動的に制御される電磁石である。それとの比較において、第2シフト電磁石44は低速で動作する電磁石であり、換言すれば静的に制御される電磁石である。第2走査電磁石40における磁場の静定時間は第2シフト電磁石44における磁場の静定時間よりも短い。第2走査電磁石40のインダクタンスは、第2シフト電磁石44のインダクタンスよりも小さい。なお、照射野のシフトにより照射野サイズ又は倍率が変わる場合には補正が適用される。
【0046】
照射装置18において、シフト部36の下流側には、線量モニタ、炭素線位置モニタ、リッジフィルタ等が設けられているが、図1においてはそれらの図示が省略されている。同様に、図1においては、生体を載置する治療台、X線照射装置、X線検出装置、等の図示が省略されている。
【0047】
なお、第1走査電磁石38及び第2走査電磁石40を一体化させてもよく、第1シフト電磁石42及び第2シフト電磁石44を一体化させてもよい。図1においては、走査部34とシフト部36が離れているが、走査部34に対してシフト部36を近接させてもよい。
【0048】
制御装置20は、通常、複数台の情報処理装置により構成される。個々の情報処理装置は、プログラムに従って動作するCPUを備える。図示の構成例において、制御装置20は、主制御部46及び複数の個別制御部を有する。主制御部46は複数の個別制御部を介して炭素線治療装置10の全体を制御するものである。主制御部46には治療計画装置からの治療計画情報54が与えられている。主制御部46の中に治療計画装置が含まれてもよい。主制御部46に後述する参照画像形成部が設けられてもよい。
【0049】
複数の個別制御部には、シンクロトロン制御部48、輸送制御部50及び照射制御部52が含まれる。その他の個別制御部についてはその図示が省略されている。シンクロトロン制御部48は、周波数制御により、炭素線のエネルギーを制御する。シンクロトロン制御部48は、炭素線の照射及び非照射の制御も行う。照射制御部52は、走査部34の制御及びシフト部36の制御を行うものである。シフト部36の制御に際しては、照射制御部52は、第1シフト電磁石42への電流供給のオンオフ、第1シフト電磁石42へ供給する電流の向きの切り換え、第2シフト電磁石44への電流供給のオンオフ、及び、第2シフト電磁石44へ供給する電流の向きの切り換え、を行う。これにより、照射野が段階的にシフトされ、拡大照射野が形成される。
【0050】
もっとも、炭素線のエネルギーが低い場合、走査部34により大きなサイズを有する照射野を形成できるので、照射野シフトの必要性が乏しくなる。照射制御部52は、炭素線のエネルギーが一定値以上の場合に照射野シフトを実行するようにしている。もちろん、シフトしない状態での照射野に患部が包摂される場合、照射野のシフトは不要である。
【0051】
図2及び図3には、比較例が示されている。図2には、走査部により形成される走査磁場60が示されている。走査磁場60はY方向走査磁場であり、X方向走査磁場の図示は省略されている。Y方向における炭素線の走査62により、及び、図2には示されていないが、X方向における炭素線の走査により、照射面64上に照射野が画定される。照射面64はアイソセンタOを通過し走査中心軸に直交する仮想的な面である。
【0052】
図3には、比較例に係る照射野66が示されている。図3においては、横軸がX方向に対応しており、縦軸がY方向に対応している。符号68は照射点のY方向走査を示している。図示の例では、Y方向が高速走査方向(主走査方向)であり、X方向が低速走査方向(副速走査方向)である。この比較例に示すように、走査部により照射野を拡大するには、走査部における炭素線の偏向角を大きくするための磁場の強度の引き上げ、又は、走査部とアイソセンタOとの間の距離の増大、を行う必要がある。しかし、前者の方法によると、大きく偏向する炭素線を通過させるために磁極間の距離を広げたり、磁場強度を上げるためにコイルのターン数を増やしたりする必要があり走査部が大型化してしまう。また、コイルのターン数増加によりインダクタンスが高くなり磁場の静定時間の増大、すなわち、走査速度の低下という問題も生じる。一方、後者の方法によると、走査部とアイソセンタOとの間の距離を確保するために照射装置及びそれを含む回転ガントリが大型化してしまう。照射装置及び回転ガントリの大型化により、製造コストの増加や、炭素線の照射位置精度の悪化という問題も生じてしまう。
【0053】
図4及び図5には、第1実施例が示されている。図4には、走査部により形成される走査磁場が符号60で示されており、シフト部により形成されるシフト磁場が符号70で示されている。走査磁場60はY方向走査磁場であり、シフト磁場70はY方向シフト磁場である。X方向走査磁場及びX方向シフト磁場の図示は省略されている。
【0054】
符号62は、Y方向におけるシフトなしの場合の炭素線の走査範囲を示しており、符号72は、+Y方向へのシフトを行った場合の炭素線の走査範囲を示しており、符号74は、-Y方向へのシフトを行った場合の炭素線の走査範囲を示している。X方向においても同様の切り換え制御が適用される。
【0055】
その結果、図5に示すように、もとの照射野80の9倍のサイズを有する拡大照射野78を形成することが可能となる。拡大照射野78は、9個の照射野区画#1~#9の集合体として構成される。個々の照射野区画#1~#9は拡大照射野78を構成する1単位であり、その実体は照射野である。符号82は、1つの照射野区画内での照射点のY方向走査を示している。
【0056】
図6には、第1実施例におけるシフト部の制御方法が示されている。符号84は、Y方向へのシフトを行う第1シフト電磁石の制御条件を示している。既に説明したように、第1シフト電磁石へ電流を流さないと(オフの場合)、Y方向へのシフトは行われない。第1シフト電磁石へ流す電流の向きを正方向にすると(+の場合)、炭素線を+Y方向へ屈曲させる磁場が生じる。第1シフト電磁石へ流す電流の向きを負方向にすると(-の場合)、炭素線を-Y方向へ屈曲させる磁場が生じる。
【0057】
符号86は、X方向へのシフトを行う第2シフト電磁石の制御条件を示している。既に説明したように、第2シフト電磁石へ電流を流さないと(オフの場合)、X方向へのシフトは行われない。第2シフト電磁石へ流す電流の向きを正方向にすると(+の場合)、炭素線を+X方向へ屈曲させる磁場が生じる。第2シフト電磁石へ流す電流の向きを負方向にすると(-の場合)、炭素線を-X方向へ屈曲させる磁場が生じる。Y方向についてのシフト段数3及びX方向についてのシフト段数3により、既に説明したように、9個の照射野区画#1~#9が形成される。電流制御という簡便な方法で、9個の照射野区画#1~#9の中から所望の照射野区画が選択される。
【0058】
以上のように、第1実施例によれば、比較例との対比において、走査部の構成を維持しつつも、X方向及びY方向に3倍に拡大された拡大照射野を形成することが可能となる。シフト部は静的に制御されるものであるから、シフト部を製作するのは比較的に容易である。
【0059】
図7には、照射シーケンスが示されている。図示された照射シーケンスは第1実施例において実行されるものであるが、後述する他の実施例でも同じ照射シーケンスが適用され得る。個々の走査期間90において、選択された照射野区間内において炭素線の走査(照射)が行われる。その際においては走査部に対して動的な制御が適用される。すなわち、照射位置が連続的に又は断続的に繰り返し変更されるように走査部が制御される。
【0060】
隣接する2つの走査期間90の間に中断期間92が設けられている。個々の中断期間92においては、生体における無用な被曝を防止するために、炭素線の照射が停止される。符号94で示されるように、そのような照射停止状態において、シフト部の動作条件が切り換えられ、照射野がシフトされる。すなわち、現在の照射野区画から次の照射野区画への変更が行われる。それは上記の動的な制御との対比において静的な制御と言い得るものである。シフト部に対する動作条件の設定が完了し、磁場が静定した後、炭素線の照射が再開される。個々の走査期間においてはシフト部の動作条件が維持される。但し、磁場補正その他の必要からその動作条件が静的につまり緩やかに変更されてもよい。個々の走査期間90は例えば数百ms~数sの範囲内であり、個々の中断期間92は例えば数msである。
【0061】
図8には、第1実施例の動作がフローチャートとして示されている。以下に説明する他の実施例においても図8に示された各工程が実行される。
【0062】
S10では、主制御部の制御により、深さが設定される。これにより炭素線のエネルギーEが設定される。エネルギーEが閾値E1未満である場合、ある程度大きな照射野を形成できるため、シフト動作は不要であると判断され、S14が実行される。S14では、走査部34により炭素線の走査が実行される。
【0063】
一方、S12において、エネルギーEが閾値E1以上であると判断された場合、S16において、照射対象である患部のサイズを考慮して、照射野シフトが必要であるか否か、つまり拡大照射野の形成の要否が判断される。照射野シフトが不要であれば、シフト部は照射野のシフトを行わず、上記のS14が実行される。照射野シフトが必要であれば、S18が実行される。S18では、照射野区画が選択される。すなわち、シフト態様が選択される。シフト部の設定が完了した後、S20において、選択された照射野区間内において炭素線の走査が実行される。その終了後、S22において、他の照射野区間に対する照射が必要であれば、S18において、新たな照射野区画が選択された上で、S20において当該照射野区画に対する炭素線の走査が実行される。このような過程が現在選択されているレイヤにおいて患部全体に炭素線が照射されるまで繰り返される。
【0064】
S24では、他のレイヤへの変更が必要であるか否かが判断され、その変更が必要であれば、S10において、次のレイヤの深度に対応する、炭素線のエネルギーが設定される。その上で、S12以降の工程が繰り返し実行される。
【0065】
なお、S10が治療計画段階で実行されてもよい。そのような場合、炭素線のエネルギーに応じてシフトの要否を判断した結果に従って、実際の照射制御が遂行される。
【0066】
図9には、第2実施例に係る照射装置が示されている。なお、図1に示した要素と同様の要素には同一符号を付し、その説明を省略する。このことは図10以降の各図においても同様である。
【0067】
図9に示す第2実施例においては、偏向電磁石30と偏向電磁石32の間に走査部34Aが設けられている。走査部34Aは、第1走査電磁石38Aと第2走査電磁石40Aとを含む。第1走査電磁石38Aは図1に示した第1走査電磁石38に相当するものであり、第2走査電磁石40Aは図1に示した第2走査電磁石40に相当するものである。
【0068】
偏向電磁石32の下流側には、走査部を介さずに、シフト部36Aが設けられている。シフト部36Aは、第1実施例と同様に、第1シフト電磁石42と第2シフト電磁石44とを含む。このような構成によっても、走査部による照射野シフトにより拡大照射野を生じさせることが可能である。
【0069】
シフト部36Aを設けずに走査部34A単体で大きな照射野を形成する場合、走査部34Aでの最大走査角度を大きくする必要があり、それに合わせて、偏向電磁石32として大きなギャップ幅を有する偏向電磁石を利用する必要がある。これに対して、第2実施例によれば、走査部34Aでの走査角度を小さくできるので、偏向電磁石32として、小さなギャップ幅を有する偏向電磁石を利用することが可能となる。その場合においても、大きな照射野を形成できる。なお、ギャップ幅は一対の磁極間のサイズ又は距離である。
【0070】
図10には、第3実施例に係る照射装置が示されている。第3実施例においては、走査部96が1つのシフト電磁石98のみを備えている。シフト電磁石98は、Y方向及びX方向の内で、一方の方向について照射野シフトを行うものである。例えば、シフト電磁石98はY方向への照射野シフトを行う電磁石である。
【0071】
そのような構成が採用される場合、図11に示される拡大照射野100が形成され得る。拡大照射野100は3つの照射野区画#1~#3により構成される。個々の照射野区画#1~#3すなわち個々の照射野は、図示の例において、X方向に伸長した形態を有する。図示の例では、Y方向が高速走査方向である(符号102を参照)。
【0072】
図12には、第4実施例に係る拡大照射野104が示されている。第4実施例においては、図13に示した構成と基本的に同様の構成が採用される。但し、シフト電磁石98がX方向への照射野シフトを行う。拡大照射野104は、3つの照射野区画#1~#3により構成される。個々の照射野区画#1~#3すなわち個々の照射野は、図示の例において、Y方向に伸長した形態を有する。図示の例では、Y方向が高速走査方向である(符号108を参照)。
【0073】
なお、第3実施例及び第4実施例において、X方向走査を行う走査電磁石とY方向走査を行う走査電磁石の順番を入れ換えてもよい。あるいは、高速走査を行う走査電磁石と低速走査を行う走査電磁石の順番を入れ換えてもよい。個々の照射野区画の形態又はサイズを互いに異ならせてもよい。
【0074】
図13には、第5実施例に係る拡大照射野110が示されている。第5実施例では、X方向のシフト段数(m)は5であり、Y方向のシフト段数(n)も5である。これにより25個の照射野区画からなる拡大照射野110が形成されている。X方向においては、電流の値が5段階(+2,+1,0,-1,-2)に切り換えられ、Y方向においても、電流の値が5段階(+2,+1,0,-1,-2)に切り換えられる。一般に、mは3以上の奇数であり、nも3以上の奇数である。
【0075】
図14には、治療計画装置200が例示されている。治療計画装置200は例えば情報処理装置により構成される。X線CT装置、MRI装置等からの生体の画像情報204が治療計画装置200へ送られる。その画像情報204に基づいて治療計画が立てられる。治療計画装置200で生成された治療計画情報54が図1に示した主制御部に送られる。治療計画装置200は画像形成部202を有する。画像形成部202は、治療計画の過程において、患部の組織像(断面像)に区画像を合成することにより、参照画像を形成するモジュールである。画像形成部202は、例えば、プログラム動作するCPU、画像形成プロセッサ、等により構成される。
【0076】
図15には、表示器に表示された表示画像114が例示されている。表示画像114には上記の参照画像116が含まれる。参照画像116は、患部等の組織を示す組織像118と複数の照射野区画を示す区画像120とを含むものである。区画像120の内で、照射が行われる照射野区画122aはハイライト表現されており、一方、照射が行われない、つまりシフトによる選択が行われない照射野区画122bは半透明表現されている。このように、照射が行われる照射野区画であるか否かを識別表示してもよい。参照画像116が治療中に表示されてもよい。
【0077】
図16には、第1変形例が示されている。符号128はシフトを行わない場合における照射野を示している。符号124はシフトによって形成される拡大照射野を示している。拡大照射野124の範囲内で、患部126の位置及びサイズに応じて、シフトにより、照射野130を形成するようにしてもよい。患部126は、照射野128にはカバーされていないが、それと同じサイズを有する照射野130にカバーされている。この構成によれば、シフトによる照射野設定後、それを更にシフトさせなくてもよくなる。
【0078】
図17には、第2変形例が示されている。拡大照射野124の範囲内において、患部132の位置及び大きさに従って、相互に密に連結された4つの照射野からなる照射野集合134が設定される。照射野集合134はある意味で拡大照射野であり、その観点から見て、それは4つの照射野区画#1~#4により構成される。第2変形例によれば、シフトの回数を少なくできる。
【0079】
以上説明した実施形態によれば、応答特性を優先させた走査部と、偏向特性を優先させたシフト部とを併用することにより、照射装置の小型化と照射野の拡大を両立させることが可能となる。特に、動的に制御される走査部の後段に静的に制御されるシフト部を設けたので、照射装置の設計、製作及び制御に当たって生じる諸々の困難が大きく軽減される。上記実施形態に係る構成は、特に回転ガントリを備えた重粒子線治療装置に適用されることが望まれるが、上記実施形態に係る構成が他の粒子線治療装置に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 炭素線治療装置、12 イオン源、14 線形加速器、15 シンクロトロン、16 輸送装置、18 照射装置、20 制御装置、22 回転ガントリ、34 走査部、36 シフト部、38 第1走査電磁石、40 第2走査電磁石、42 第1シフト電磁石、44 第2シフト電磁石、78 拡大照射野、80 照射野。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17