(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
H02M3/28 C
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2019030142
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2018146839
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【審査官】猪瀬 隆広
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102497106(CN,A)
【文献】国際公開第2007/000830(WO,A1)
【文献】特開2013-158122(JP,A)
【文献】特開2008-043060(JP,A)
【文献】特開2011-166949(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212843(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同極性に巻かれた一次コイルと二次コイルとを有するトランスと、
前記一次コイルを含む電流路を導通又は遮断するべく制御される少なくとも1つの一次側スイッチング素子と、
前記トランスの二次側に接続された少なくとも1つのリアクトルと、
前記トランスの二次側の出力端と基準電位端との間に接続された平滑コンデンサと、を有するワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源において、
前記リアクトルの一端が前記二次コイルの一端に接続されており、さらに、
前記リアクトルの一端と前記基準電位端との間に接続された第1の整流要素と、
前記リアクトルの他端と前記出力端との間に接続された第2の整流要素と、
前記二次コイルの他端と前記基準電位端との間に接続された第3の整流要素と、
前記リアクトルの他端と前記基準電位端との間の電流路を導通又は遮断するべく前記一次側スイッチング素子と同じタイミングで制御される少なくとも1つの二次側スイッチング素子と、を有することを特徴とするワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源。
【請求項2】
前記少なくとも1つの一次側スイッチング素子が、前記一次コイルの電流をそれぞれ導通又は遮断するように互いに背反的に制御される、少なくとも1つの第1グループの一次側スイッチング素子及び少なくとも1つの第2グループの一次側スイッチング素
子により構成され、
前記二次コイルの他端にその一端を接続された第2のリアクトルと、
前記第2のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続された第4の整流要素と、
前記第2のリアクトルの他端と前記基準電位端との間の電流路を導通又は遮断するべく制御される第2の二次側スイッチング素子と、をさらに有し、
一方の前記二次側スイッチング素子が前記第1グループの一次側スイッチング素子と同じタイミングで制御されると共に、他方の前記二次側スイッチング素子が前記第2グループの一次側スイッチング素子と同じタイミングで制御されることを特徴
とする請求項1に記載のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源。
【請求項3】
さらに第3のリアクトルと第5の整流要素とを有し、前記第3のリアクトルの一端が前記二次コイルの一端に接続され、前記第5の整流要素が、前記第3のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続されており、かつ、
さらに第4のリアクトルと第6の整流要素とを有し、前記第4のリアクトルの一端が前記二次コイルの他端に接続され、前記第6の整流要素が、前記第4のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続されていることを特徴とする請求項2に記載のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源。
【請求項4】
前記二次コイルの他端と出力端との間に接続された第4の整流要素をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源。
【請求項5】
前記第3の整流要素が、前記一次側スイッチング素子と同期して制御されるスイッチング素子であることを特徴とする請求項4に記載のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源。
【請求項6】
さらに第2のリアクトルと第5の整流要素とを有し、前記第2のリアクトルの一端が前記二次コイルの一端に接続され、前記第5の整流要素が、前記第2のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源に関する。
【背景技術】
【0002】
交流を直流に電力変換するスイッチング電源として、力率改善回路としての非絶縁型昇圧コンバータとその後段の絶縁型DC/DCコンバータとからなるツーコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源が知られている。後段の絶縁型DC/DCコンバータの代表的な方式として、フォワード方式とフライバック方式がある。大出力電源にはフォワード方式が適している。
【0003】
一方、特許文献1、2等のように、非絶縁型昇圧コンバータと後段の絶縁型DC/DCコンバータを1つに統合したワンコンバータ方式のスイッチング電源も知られている。
【0004】
また、絶縁型スイッチング電源の一次側のスイッチング素子は、原理的には1つでよいが、大出力化やスイッチング素子の耐圧特性の軽減のために、特許文献3等のように複数のスイッチング素子からなるフルブリッジ回路やプッシュプル回路等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-236749号公報
【文献】特開2002-300780号公報
【文献】特開2015-70716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源には、幾つかの問題点がある。力率を良好とするフライバック方式を採用した場合、スイッチング素子のオフ時に生じるフライバック電圧に大きなスパイク電圧が加重されるため、一次側のスイッチング素子に耐圧特性が要求される。
【0007】
また、スイッチング電源の大出力化を図るためにフォワード方式を採用した場合、スイッチング素子のオン時にトランスの二次コイルに生じる起電圧が、出力端の平滑コンデンサの電圧を超えたときにのみ出力電流が流れる。従って、二次コイルの起電圧が小さい範囲では電流が出力されず、このことが力率を悪化させる。
【0008】
さらに、フルブリッジ方式及び/又は同期整流方式等を採用した場合、一次側と二次側のスイッチングタイミングの調整やデッドタイム制御等の精密かつ煩雑な制御が必要であった。
【0009】
以上の現状から、本発明は、ワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源において、スイッチング素子のオフ時に生じるスパイク電圧を抑制し、一次側と二次側のスイッチング制御を簡素化し、かつ力率を良好とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
・本発明の態様は、同極性に巻かれた一次コイルと二次コイルとを有するトランスと、
前記一次コイルを含む電流路を導通又は遮断するべく制御される少なくとも1つの一次側スイッチング素子と、
前記トランスの二次側に接続された少なくとも1つのリアクトルと、
前記トランスの二次側の出力端と基準電位端との間に接続された平滑コンデンサと、を有するワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源において、
前記リアクトルの一端が前記二次コイルの一端に接続されており、さらに、
前記リアクトルの一端と前記基準電位端との間に接続された第1の整流要素と、
前記リアクトルの他端と前記出力端との間に接続された第2の整流要素と、
前記二次コイルの他端と前記基準電位端との間に接続された第3の整流要素と、
前記リアクトルの他端と前記基準電位端との間の電流路を導通又は遮断するべく前記一次側スイッチング素子と同じタイミングで制御される少なくとも1つの二次側スイッチング素子と、を有する。
・ 第1の好適な形態では、前記少なくとも1つの一次側スイッチング素子が、前記一次コイルの電流をそれぞれ導通又は遮断するように互いに背反的に制御される、少なくとも1つの第1グループの一次側スイッチング素子及び少なくとも1つの第2グループの一次側スイッチング素子により構成され、
前記二次コイルの他端にその一端を接続された第2のリアクトルと、
前記第2のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続された第4の整流要素と、
前記第2のリアクトルの他端と前記基準電位端との間の電流路を導通又は遮断するべく制御される第2の二次側スイッチング素子と、をさらに有し、
一方の前記二次側スイッチング素子が前記第1グループの一次側スイッチング素子と同じタイミングで制御されると共に、他方の前記二次側スイッチング素子が前記第2グループの一次側スイッチング素子と同じタイミングで制御される。
・ 上記第1の好適な形態において、さらに好適には、さらに第3のリアクトルと第5の整流要素とを有し、前記第3のリアクトルの一端が前記二次コイルの一端に接続され、前記第5の整流要素が、前記第3のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続されており、かつ、
さらに第4のリアクトルと第6の整流要素とを有し、前記第4のリアクトルの一端が前記二次コイルの他端に接続され、前記第6の整流要素が、前記第4のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続されている。
・ 第2の好適な形態では、前記二次コイルの他端と出力端との間に接続された第4の整流要素をさらに有する。
・ 上記第2の好適な形態において、さらに好適には、前記第3の整流要素が、前記一次側スイッチング素子と同期して制御されるスイッチング素子である。
・ 上記第2の好適な形態において、さらに好適には、さらに第2のリアクトルと第5の整流要素とを有し、前記第2のリアクトルの一端が前記二次コイルの一端に接続され、前記第5の整流要素が、前記第2のリアクトルの他端と前記出力端との間に接続されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源は、スイッチング素子のオフ時に生じるスパイク電圧を抑制し、一次側と二次側のスイッチング制御を簡素化し、力率を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第1の実施形態の回路例の概略構成図である。
【
図3】
図3(a)(b)は、
図1の回路におけるモードIaとモードIIaの期間に流れる電流を概略的に示している。
【
図4】
図4(a)(b)は、
図1の回路におけるモードIbとモードIIbの期間に流れる電流を概略的に示している。
【
図5】
図5は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第2の実施形態の回路例を概略的に示した図である。
【
図7】
図7(a)(b)は、
図5の回路におけるモードIとモードIIの期間に流れる電流を概略的に示している。
【
図8】
図8は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第3の実施形態の回路例の概略構成図である。
【
図10】
図10(a)(b)は、
図8の回路におけるモードIaとモードIIaの期間に流れる電流を概略的に示している。
【
図11】
図11(a)(b)は、
図8の回路におけるモードIbとモードIIbの期間に流れる電流を概略的に示している。
【
図12】
図12は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第4の実施形態の回路例を概略的に示した図である。
【
図14】
図14(a)(b)は、
図12の回路におけるモードIとモードIIの期間に流れる電流を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、例として示した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面中、各実施形態における同一又は類似の構成要素については、同一又は類似の符号を付している。また、本明細書では、各実施形態に共通する説明は、初出の実施形態でのみ行う場合がある。
【0014】
本発明のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源は、好適例ではAC/DCコンバータである。従って、典型的な入力電圧は、正弦波の交流電圧を整流したものである。しかしながら、本発明のスイッチング電源は、入力電圧が、正弦波以外の方形波若しくは三角波の電圧、又は一定電圧のときも、同様に機能することができる。
【0015】
(1)第1の実施形態
(1-1)第1の実施形態の回路構成
図1は、本発明のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源の第1の実施形態の回路例を概略的に示している。
【0016】
<トランスTの一次側の構成>
図1の絶縁型スイッチング電源は、一例として正弦波の交流電圧を全波整流した入力電圧が入力端子1、2に入力される。ここでの交流電圧は、例えば、系統電源又は各種の発電装置で生成される数Hz~数十Hz程度の周波数を有する正弦波である。しかしながら、入力電圧の波形は正弦波に限られず、正の電位をもつ任意の波形とすることができる。また、全波整流に替えて半波整流した入力電圧でもよい。なお、交流電圧を整流する整流部は、周知であるので図示及び説明を省略する。
【0017】
トランスTは、一次コイルN1と二次コイルN2が同極性に巻かれたトランスである(コイルの巻き始端を黒丸で示す)。これは、いわゆるフォワードトランスである。トランスTの一次側には、入力電圧により一次コイルN1に流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子を含むスイッチング部が設けられている。
【0018】
図1のスイッチング部は、フルブリッジ回路を構成している。このフルブリッジ回路は、4個のスイッチング素子A1、A2、B1、B2を有し、ここでは一例としてNチャネルMOSFETである。フルブリッジ回路は、大出力のスイッチング電源に好適である。スイッチング素子A1、A2が、同時にオンオフ制御される第1のグループ(以下「グループA」と称する)を構成し、スイッチング素子B1、B2が、同時にオンオフ制御される第2のグループ(以下「グループB」と称する)を構成する。
【0019】
スイッチング部の各スイッチング素子は、制御端であるゲートに印加される制御電圧によりオンオフ制御される。制御電圧は、好適にはPWM信号である(ここでは、制御電圧がPWM信号である場合を例として説明する)。PWM信号の周波数は、入力交流の周波数よりも高い、例えば数十kH~数百kHである。グループAの各スイッチング素子は、制御電圧VAによりオンオフ制御され、グループBの各スイッチング素子は、制御電圧VBによりオンオフ制御される。
【0020】
図示しないが、制御電圧VA、VBとしての所定のPWM信号を生成し、出力する制御部が別途設けられている。
【0021】
<トランスTの二次側の構成>
トランスTの二次コイルN2の一端(巻き始端)には、第1のリアクトルLAの一端とダイオードD1のカソードが接続されている。ダイオードD1のアノードは、負の出力端である接地端nに接続されている。接地端nは、二次側の基準電位端である。第1のリアクトルLAの他端にはダイオードD2のアノードが接続されている。ダイオードD2のカソードは、正の出力端pに接続されている(以下で単に「出力端」というときは正の出力端pを意味する。)。
【0022】
リアクトルLAの他端と接地端nとの間にはスイッチング素子A3が接続されている。スイッチング素子A3は、一例としてNチャネルMOSFETであり、ドレインがリアクトルLAの他端に、ソースが接地端nに接続されている。スイッチング素子A3のゲートは、制御電圧Vaによりオンオフ制御される。
【0023】
トランスTの二次コイルN2の他端には、第2のリアクトルLBの一端とダイオードD3のカソードが接続されている。ダイオードD3のアノードは、接地端nに接続されている。第2のリアクトルLBの他端にはダイオードD4のアノードが接続されている。ダイオードD4のカソードは、出力端pに接続されている。
【0024】
リアクトルLBの他端と接地端nとの間にはスイッチング素子B3が接続されている。スイッチング素子B3は、一例としてNチャネルMOSFETであり、ドレインがリアクトルLBの他端に、ソースが接地端nに接続されている。スイッチング素子B3のゲートは、制御電圧Vbによりオンオフ制御される。
【0025】
出力端pと接地端nの間には平滑コンデンサCが接続されている。
【0026】
スイッチング素子A3の制御電圧Vaは、基本的に、一次側のAグループのスイッチング素子の制御電圧VAと同じタイミングでオンオフするPWM信号である。同様に、スイッチング素子B3の制御電圧Vbは、基本的に、一次側のBグループのスイッチング素子の制御電圧VBと同じタイミングでオンオフするPWM信号である。
【0027】
但し、トランスTの一次側と二次側の絶縁を確保するために、一次側のスイッチング素子の制御電圧VA、VBを直接、スイッチング素子A3、B3のゲートに印加することは好ましくない。従って、制御電圧VA、VBを二次側のスイッチング素子A3、B3の制御電圧Va、Vbとして用いる場合は、絶縁手段を介してそれらの電圧信号を伝達する。別の例として、制御電圧VA、VBと同じタイミングの独立した制御電圧Va、Vbをそれぞれ生成し、スイッチング素子A3、B3に伝達する。この制御電圧に関する一次側と二次側の絶縁の確保については、後述する各実施形態でも同様である。
【0028】
(1-2)第1の実施形態の回路動作
図2、
図3及び
図4を参照して、
図1に示した第1の実施形態の回路の動作を説明する。
【0029】
図2(a)~(d)は、
図1の回路における各スイッチング素子のオンオフ制御信号を模式的に示している。
【0030】
図2(a)は、フルブリッジ回路のグループAのスイッチング素子の制御電圧V
Aである。
図2(b)は、フルブリッジ回路のグループBのスイッチング素子の制御電圧V
Bである。
【0031】
図2(a)(b)に示すように、グループAのスイッチング素子とグループBのスイッチング素子とは、互いに背反的にオンオフ制御される。すなわち、制御電圧V
AとV
Bは、同じ周波数とデューティ比を有し、互いの位相差は180°である。但し、グループAとグループBのスイッチング素子が同時にオンとなると短絡するので、デッドタイム(双方がオフになる期間)を設けている。
【0032】
図2(c)は、二次側のスイッチング素子A3の制御電圧V
aである。
図2(d)は、二次側のスイッチング素子B3の制御電圧V
bである。
【0033】
図2(c)(d)に示すように、二次側のスイッチング素子A3、B3は、基本的に、一次側のAグループ、Bグループの各スイッチング素子とそれぞれ同じタイミングでオンオフ制御される。従って、スイッチング素子A3とスイッチング素子B3も、互いに背反的にオンオフ制御されることになる。
【0034】
図2(e)(f)(g)(h)は、各構成要素に流れる電流波形の一例を示すタイミング図である。なお、
図2(e)(f)(g)(h)では、不連続モードの電流を示しているが、負荷の軽重に応じて電流が臨界モード又は連続モードとなることも有り得る(以下の各実施形態のタイミング図についても同様)。
【0035】
図2に示すように、回路動作に関して、Aグループのスイッチング素子のオン期間をモードIaと称し、オフ期間をモードIIaと称する。また、Bグループのスイッチング素子のオン期間をモードIbと称し、オフ期間をモードIIbと称する。図示の通り、2つのモード(例えばモードIIaとモードIb)が時間的に重なる場合があるが、各モードの回路動作はそれぞれ独立して行われる。
【0036】
<モードIaの動作>
図3(a)は、モードIaにおける電流を示している(電流の流れを矢印付き実線で示している。以下同様)。
図3(a)を参照すると、一次側においてスイッチング素子A1、A2がオンになると、入力電圧により一次コイルN1に電流ia1が流れる(
図2(e)参照)。
【0037】
一次コイルに電流ia1が流れると、相互誘導により二次コイルN2に起電圧を生じ、順バイアスとなるダイオードD3を通して二次コイルN2に電流ia2が流れる(
図2(f)参照)。このとき、スイッチング素子A3もオンとなっているので、リアクトルLAの出力側の端子は接地電位となる。ダイオードD1、D2は逆バイアスとなる。従って、電流ia2は、ダイオードD3→二次コイルN2→リアクトルLA→スイッチング素子A3→接地端nの経路で流れる(
図2(f)(g)参照)。電流ia2は負荷に供給されないが、電流ia2によりリアクトルLAが励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。
【0038】
ここで、定常状態における平滑コンデンサCは、リップル変動を除いてほぼ一定の電圧で充電されている。一般的なフォワード方式の電源におけるフォワード電流は、二次コイルN2の起電圧が平滑コンデンサCの電圧を超えたときにのみ流れる。入力端子1、2に、例えば正弦波の入力電圧が印加される場合、入力電圧の小さい範囲では、二次コイルN2の起電圧も小さいため、フォワード電流が流れることができない。このことが、一般的なフォワード方式の電源において力率を低下させる原因となる。
【0039】
それに対し、
図1の回路では、二次コイルN2の起電圧の大きさに関わらず、リアクトルLAに電流ia2が流れることができる。従って、入力電圧の大きさに関係なく、スイッチング素子のオン期間にトランスTの一次側から二次側に電力が伝達され、その電力はリアクトルLAに蓄積される。このことは、良好な力率に寄与する。
【0040】
<モードIIaの動作>
図3(b)は、モードIIaにおける電流を示している。一次側において、スイッチング素子A1、A2がオフになると、一次側の電流ia1が遮断され、二次側の電流ia2も遮断される(
図2(e)(f)参照)。トランスTの一次コイルN1、二次コイルN2及びリアクトルLAには逆起電圧が生じる。ダイオードD1、D2が順バイアスとなる。従って、電流ia3が、ダイオードD1→リアクトルLA→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図2(g)参照)。電流ia3により、モードIaにおいてリアクトルLAに蓄積された磁気エネルギーが放出される。ダイオードD1は、フリーホイーリングダイオードの役割を果たす。
【0041】
<モードIb及びモードIIbの動作>
図4(a)(b)は、モードIb及びモードIIbにおける電流をそれぞれ示している。モードIb及びモードIIbにおける回路動作は、それぞれ上述したモードIa及びモードIIaにおける回路動作とは極性が逆になり、ほぼ対称的となるが、実質的に同じである。
【0042】
図4(a)に示すように、モードIbでは、モードIaにおける電流ia2と対称的な電流ib2が流れる(
図2(f)参照)。また、
図4(b)に示すように、モードIIbでは、モードIIaにおける電流ia3と対称的な電流ib3が流れる。
【0043】
<回路動作の特徴>
本回路においては、入力電圧の大きさに関わらず、トランスTの一次コイルに電流が流れると二次コイルN2に電流が流れることができ、その電流により、二次コイルN2に直列接続されたリアクトルLA、LBに磁気エネルギーが蓄積される。この結果、入力電圧の大きさに関わらず、トランスTにおいて一次側から二次側に相互誘導によって常に電力が伝達される。従って、トランスTにはほとんど磁気エネルギーが蓄積されない。この結果、トランスTの一次側及び二次側の双方においてスパイク電圧が発生しないことから、スナバ回路等のスパイク抑制手段又は磁束リセット手段が不要となるか、又は、それらを極めて小規模とすることができる。同じ理由から、フルブリッジ回路における入力側への還流電流もほとんど発生しない。これらにより、電力損失が低減され、電力変換効率を向上させることができる。
【0044】
さらに、二次側のスイッチング素子A3及びB3のオンオフは、それぞれ一次側のAグループ及びBグループの各スイッチング素子のオンオフと、基本的に同じタイミングであるが、厳密に同期させる必要はない。この結果、スイッチング素子のオンオフ制御のための構成を簡素化できる。
【0045】
例えば、
図2(a)及び
図2(c)を参照すると、一次側のAグループのスイッチング素子がオフになる時点t
Aよりも、二次側のスイッチング素子A3がオフになる時点t
aが若干早かったとする。その場合、スイッチング素子A3がオフになった時点t
aで、
図3(a)の電流ia2が、
図3(b)の電流ia3に転流してリアクトルLAから磁気エネルギーが早めに放出されるだけである。
【0046】
逆に、一次側のAグループのスイッチング素子がオフになる時点t
Aよりも、二次側のスイッチング素子A3がオフになる時点t
aが若干遅かったとする。その場合、
図3(a)の電流ia2はゼロになるが、スイッチング素子A3がオフになるまでリアクトルLAに磁気エネルギーが保持され、スイッチング素子A3がオフになった時点で
図3(b)の電流ia3が流れ、リアクトルLAから磁気エネルギーが放出される。
【0047】
このように、スイッチング素子A3のオンオフのタイミングが、一次側のAグループのスイッチング素子のオンオフと多少ずれても、スイッチング素子A3の短絡の問題は生じない。
【0048】
また、例えば
図2(b)と
図2(d)を参照すると、一次側のBグループのスイッチング素子がオンになる時点t
Bと、二次側のスイッチング素子B3がオンになる時点t
bとが、多少前後しても、双方がオンになった時点から
図4(a)の電流ib2が流れ始めるだけである。
【0049】
本明細書において、二次側のスイッチング素子のオンオフ制御に関し、一次側のスイッチング素子と「同じタイミング」とは上記のような意味で用いている。それに対し「同期」とは、例えば同期整流方式におけるように、スイッチング素子の短絡を生じないように厳密にオンオフのタイミングを制御する(例えば一方を先にオフとした後に他方をオフにする等)ことを意味する。
【0050】
(2)第2の実施形態
(2-1)第2実施形態の回路構成
図5は、本発明のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源の第2の実施形態の回路例を概略的に示している。
【0051】
<トランスTの一次側の構成>
図5の絶縁型スイッチング電源は、一例として正弦波の交流電圧を全波整流した入力電圧が入力端子1、2に入力される。入力電圧については、第1の実施形態と同様である。また、一次コイルN1と二次コイルN2を有するトランスTについても、第1の実施形態と同様のフォワードトランスである。入力端子1は、トランスTの一次コイルN1の一端(巻き始端)に接続されている。
【0052】
第2の実施形態では、トランスTの一次側において、入力電圧により一次コイルN1に流れる電流を導通又は遮断するべくオンオフ制御される1つのスイッチング素子Q1を有する。スイッチング素子Q1は、ここでは一例としてNチャネルMOSFETである。ドレインが一次コイルN1の他端に、ソースが一次側の基準電位端(接地端)である入力端子2に接続されている。スイッチング素子Q1は、制御端であるゲートに印加される制御電圧VQによりオンオフ制御される。制御電圧VQは、好適にはPWM信号であり、第1の実施形態と同様である。
【0053】
図示しないが、制御電圧VQとしての所定のPWM信号を生成し、出力する制御部が別途設けられている。
【0054】
<トランスTの二次側の構成>
トランスTの二次コイルN2の一端(巻き始端)には、リアクトルLの一端とダイオードD1のカソードが接続されている。ダイオードD1のアノードは、負の出力端である接地端nに接続されている。接地端nは、二次側の基準電位端である。リアクトルLの他端にはダイオードD2のアノードが接続されている。ダイオードD2のカソードは、正の出力端子である出力端pに接続されている。
【0055】
リアクトルLの他端と接地端nとの間にはスイッチング素子Q2が接続されている。スイッチング素子Q2は、一例としてNチャネルMOSFETであり、ドレインがリアクトルLの他端に、ソースが接地端nに接続されている。スイッチング素子Q2のゲートは、制御電圧Vqによりオンオフ制御される。スイッチング素子Q2の制御電圧Vqは、基本的に、一次側のスイッチング素子Q1の制御電圧VQと同じタイミングでオンオフするPWM信号である。
【0056】
トランスTの二次コイルN2の他端には、ダイオードD3のカソードが接続されている。ダイオードD3のアノードは、接地端nに接続されている。また、二次コイルN2の他端には、ダイオードD4のアノードも接続されている。ダイオードD4のカソードは、出力端pに接続されている。
【0057】
好適例では、ダイオードD3の替わりに、鎖線で囲った部分に示したスイッチング素子Q3を設けることができる。スイッチング素子Q3は、一例としてNチャネルMOSFETであり、ドレインが二次コイルN2の他端に、ソースが接地端nに接続されている。スイッチング素子Q3のゲートは、一次側のスイッチング素子Q1の制御電圧VQと同期した制御電圧Vq3によりオンオフ制御される。スイッチング素子Q3を用いた場合は、ダイオードD3を用いた場合におけるダイオードの順方向電圧降下による損失がない点で有利である。
【0058】
本発明の各実施形態では、整流要素の典型例としてダイオードを用いているが、スイッチング素子Q3のように制御によりダイオードと同様に機能する素子も、整流要素の範疇に含まれるものとする
【0059】
出力端pと接地端nの間には平滑コンデンサCが接続されている。
【0060】
(2-2)第2実施形態の回路動作
図6及び
図7を参照して、
図5に示した第2の実施形態の回路の動作を説明する。
【0061】
図6(a)(b)は、
図5の回路における各スイッチング素子のオンオフ制御信号を模式的に示している。
【0062】
図6(a)は、一次側のスイッチング素子Q1の制御電圧V
Qである。
図6(b)は、二次側のスイッチング素子Q2の制御電圧V
qである。二次側のスイッチング素子Q2は、基本的に一次側のスイッチング素子Q1と同じタイミングでオンオフ制御される。
図5の回路において、ダイオードD3に替えてスイッチング素子Q3を用いる場合、一次側のスイッチング素子Q1と同期するようにオンオフ制御される。
【0063】
図6(c)(d)(e)は、各構成要素に流れる電流波形の一例を示すタイミング図である。
【0064】
図6に示すように、回路動作に関して、スイッチング素子のオン期間をモードIと称し、オフ期間をモードIIと称する。モードIとモードIIは、交互に繰り返される。
【0065】
<モードIの動作>
図7(a)は、モードIにおける電流の流れを示している。一次側においてスイッチング素子Q1がオンになると、入力電圧により一次コイルN1に電流i1が流れる(
図6(c)参照)。一次コイルに電流i1が流れると、相互誘導により二次コイルN2に起電圧を生じ、順バイアスとなるダイオードD3(又はスイッチング素子Q3)を通して二次コイルN2に電流i2が流れる(
図6(d)参照)。このとき、スイッチング素子Q2がオンであるのでリアクトルLの出力側の端子は接地電位となる。ダイオードD1、D2、D4は逆バイアスとなる。従って、電流i2は、ダイオードD3(又はスイッチング素子Q3)→二次コイルN2→リアクトルL→スイッチング素子Q2→接地端nの経路で流れる(
図6(d)(e)参照)。電流i2は負荷には供給されないが、電流i2によりリアクトルLが励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。
【0066】
図5の回路においても、
図1の回路と同様に、二次コイルN2の起電圧の大きさに関わらず、リアクトルLに電流ia2が流れることができる。従って、入力電圧の大きさに関係なく、スイッチング素子のオン期間にトランスTの一次側から二次側に電力が伝達され、その電力はリアクトルLに蓄積される。このことは、良好な力率に寄与する。
【0067】
<モードIIの動作>
図7(b)は、モードIIにおける電流を示している。一次側においてスイッチング素子Q1がオフになると、一次コイルN1の電流i1が遮断され、二次側の電流i2も遮断される(
図6(c)(d)参照)。トランスTの一次コイルN1、二次コイルN2及びリアクトルLには逆起電圧が生じる。ダイオードD1、D4が順バイアスとなり、ダイオードD1→二次コイルN2→ダイオードD4→出力端pの経路で電流i4が流れる(
図6(d)参照)。これにより、トランスTに残留する磁気エネルギーが二次側に放出される。
【0068】
一方、スイッチング素子Q2がオフとなり、リアクトルLの出力側の端子が高電位となると、ダイオードD2が順バイアスとなる。従って、電流i3が、ダイオードD1→リアクトルL→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図6(e)参照)。電流i3により、モードIにおいてリアクトルLに蓄積された磁気エネルギーが放出される。ダイオードD1は、フリーホイーリングダイオードの役割を果たす。
【0069】
<回路動作の特徴>
本回路においては、入力電圧の大きさに関わらず、トランスTの一次コイルに電流が流れると二次コイルN2に電流が流れることができ、その電流により、二次コイルN2に直列接続されたリアクトルLに磁気エネルギーが蓄積される。この結果、入力電圧の大きさに関わらず、トランスTにおいて一次側から二次側に相互誘導によって常に電力が伝達される。従って、トランスTにはほとんど磁気エネルギーが蓄積されない。この結果、トランスTの一次側及び二次側の双方においてスパイク電圧が発生しないことから、スナバ回路等のスパイク抑制手段又は磁束リセット手段が不要となるか、又は、それらを極めて小規模とすることができる。この結果、電力損失が低減され、電力変換効率を向上させることができる。
【0070】
さらに、二次側のスイッチング素子Q2のオンオフは、一次側のスイッチング素子Q1のオンオフと同じタイミングであるが、厳密に同期させる必要がない。この結果、オンオフ制御のための構成を簡素化できる。これについては、上述した第1の実施形態において、
図2(a)~(d)の符号tA、ta及び符号tB、tbを参照して説明した通りである。
【0071】
なお、整流要素として機能するスイッチング素子Q3については、短絡を避けるために同期制御が必要である。スイッチング素子Q3は、スイッチング素子Q1がオフになる前にオフとしなければならない。
【0072】
(3)第3の実施形態
第3の実施形態は、第1の実施形態の変形形態であるので、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0073】
(3-1)第3の実施形態の回路構成
図8は、本発明のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源の第3の実施形態の回路例を概略的に示している。
【0074】
<トランスTの一次側の構成>
トランスTの一次側の構成は、第1の実施形態と同じである。
【0075】
<トランスTの二次側の構成>
第3の実施形態は、トランスTの二次側において、第1の実施形態が有する構成要素の全てを有する。さらに第3の実施形態は、トランスTの二次側において、付加的な構成要素を有する。付加的な構成要素として、リアクトルLA1とダイオードD5を有し、リアクトルLA1の一端がトランスTの二次コイルN2の一端に接続され、ダイオードD5がリアクトルLA1の他端と出力端pとの間に接続されている。さらなる付加的構成要素として、リアクトルLB1とダイオードD6を有し、リアクトルLB1の一端がトランスTの二次コイルN2の他端に接続され、ダイオードD6がリアクトルLB1の他端と出力端pとの間に接続されている。
【0076】
(3-2)第3の実施形態の回路動作
図9、
図10及び
図11を参照して、
図8に示した第3の実施形態の回路の動作を説明する。
【0077】
図9(a)~(d)は、
図8の回路における各スイッチング素子のオンオフ制御信号を模式的に示している。これらは、
図2(a)~(d)と全く同じである。
【0078】
図9(e)に示すトランスTの一次コイルN1の電流は、タイミングと波形(増減の変化)に関して
図2(e)と実質的に同じである。
【0079】
図9(f)に示すトランスTの二次コイルN2の電流は、
図2(f)に示した電流ia2、ib2に対し、リアクトルLA1に流れる電流ia4、ib4が加わる場合がある。但し、電流ia4、ib4は、入力電圧の大きさに応じて流れるときと流れないときがあるので、括弧付きで示している。
【0080】
図9(g)(h)に示すリアクトルLA、LBに流れる電流は、
図2(g)(h)に示した電流ia2、ia3、ib2、ib3と同じである。
【0081】
図9(i)(j)は、追加されたリアクトルLA1、LB1に流れる電流を示している。なお、電流ia5、ib5は、電流ia4、ib4が流れるときにのみ流れるので、括弧付きで示している。
【0082】
図9においても、
図2と同様に、回路動作に関して、Aグループのスイッチング素子のオン期間をモードIaと称し、オフ期間をモードIIaと称する。また、Bグループのスイッチング素子のオン期間をモードIbと称し、オフ期間をモードIIbと称する。
【0083】
<モードIaの動作>
図10(a)は、モードIaにおける電流を示している。一次側においてスイッチング素子A1、A2がオンになると、入力電圧により一次コイルN1に電流ia1が流れる(
図9(e)参照)。
【0084】
一次コイルに電流ia1が流れると、相互誘導により二次コイルN2に起電圧を生じ、順バイアスとなるダイオードD3を通して二次コイルN2に電流ia2が流れる(
図9(f)参照)。電流ia2は、ダイオードD3→二次コイルN2→リアクトルLA→スイッチング素子A3→接地端nの経路で流れる(
図9(f)(g)参照)。電流ia2は負荷に供給されないが、電流ia2によりリアクトルLAが励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。電流ia2は、二次コイルN2の起電圧の大きさに関係なく流れる。
【0085】
さらに、二次コイルN2の起電圧が、平滑コンデンサCの電圧を超えるときは、リアクトルLA1及びダイオードD5を通して出力端pへ電流ia4が流れることができる。電流ia4は、ダイオードD3→二次コイルN2→リアクトルLA1→ダイオードD5→出力端pの経路で流れる(
図9(i)参照)。電流ia4は、フォワード方式のスイッチング電源におけるフォワード電流に相当する。電流ia4は負荷に供給されると共に、電流ia4によりリアクトルLA1が励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。一方、二次コイルN2の起電圧が、平滑コンデンサCの電圧を超えないときは、電流ia4は流れない。電流ia4が流れるか否かは、入力電圧の大きさに依存する。
【0086】
<モードIIaの動作>
図10(b)は、モードIIaにおける電流を示している。一次側において、スイッチング素子A1、A2がオフになると、一次側の電流ia1が遮断され、二次側の電流ia2も遮断される(
図9(e)(f)参照)。トランスTの一次コイルN1、二次コイルN2及びリアクトルLAには逆起電圧が生じる。ダイオードD1、D2が順バイアスとなる。従って、電流ia3が、ダイオードD1→リアクトルLA→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図9(g)参照)。電流ia3により、モードIaにおいてリアクトルLAに蓄積された磁気エネルギーが放出される。ダイオードD1は、フリーホイーリングダイオードの役割を果たす。
【0087】
上述したモードIaにおいて電流ia4が流れる場合、モードIIaにおいて電流ia5が流れる。電流ia5は、ダイオードD1→リアクトルLA1→ダイオードD5→出力端pの経路で流れる(
図9(i)参照)。電流ia5が流れることにより、モードIaでリアクトルLA1に蓄積された磁気エネルギーが放出される。モードIaにおいて電流ia4が流れないときは、当然にモードIIaにおいて電流ia5も流れない。
【0088】
<モードIb及びモードIIbの動作>
図11(a)(b)は、モードIb及びモードIIbにおける電流をそれぞれ示している。モードIb及びモードIIbにおける回路動作は、上述したモードIa及びモードIIaにおける回路動作とは極性が逆になり、ほぼ対称的となるが、実質的に同じである。
【0089】
図11(a)に示すように、モードIbでは、モードIaにおける電流ia2、ia4と対称的な電流ib2、ib4が流れる(
図9(f)(j)参照)。また、
図11(b)に示すように、モードIIbでは、モードIIaにおける電流ia3、ia5と対称的な電流ib3、ib5が流れる(
図9(f)(j))。但し、ib4、ib5は、二次コイルN2の起電圧が平滑コンデンサCの電圧を超えたときにのみ流れることができる。
【0090】
<回路動作の特徴>
第3の実施形態では、入力電圧が大きいとき、すなわちトランスTの二次コイルN2の起電圧が平滑コンデンサCの電圧を超えるとき、リアクトルLA1及びダイオードD5を通して、又はリアクトルLB1及びダイオードD6を通して、フォワード電流を出力することができる。従って、第3の実施形態は、第1の実施形態について上述した特徴と同じ特徴を有すると共に、第1の実施形態よりも大きな電力を出力することが可能となる。
【0091】
(4)第4の実施形態
第4の実施形態は、第2の実施形態の変形形態であるので、第2の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0092】
(4-1)第4の実施形態の回路構成
図12は、本発明のワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源の第4の実施形態の回路例を概略的に示している。
【0093】
<トランスTの一次側の構成>
トランスTの一次側の構成は、第2の実施形態と同じである。
【0094】
<トランスTの二次側の構成>
第4の実施形態は、トランスTの二次側において、第2の実施形態が有する構成要素の全てを有する。さらに第4の実施形態は、トランスTの二次側において、付加的な構成要素として、リアクトルL1とダイオードD5を有する。リアクトルL1の一端がトランスTの二次コイルN2の一端に接続され、ダイオードD5がリアクトルL1の他端と出力端pとの間に接続されている。
【0095】
(4-2)第4の実施形態の回路動作
図13及び
図14を参照して、
図12に示した第4の実施形態の回路の動作を説明する。
【0096】
図13(a)(b)は、
図12の回路における各スイッチング素子のオンオフ制御信号を模式的に示している。これらは、
図6(a)(b)と全く同じである。
【0097】
図13(c)に示すトランスTの一次コイルN1の電流は、タイミングと波形(電流の増減)に関して
図6(c)と基本的に同じである。
【0098】
図13(d)に示すトランスTの二次コイルN2の電流は、
図6(d)に示した電流i2に対し、リアクトルL1に流れる電流i5が加わる場合がある。但し、電流i5は、入力電圧の大きさに応じて流れるときと流れないときがあるので、括弧付きで示している。
【0099】
図13(e)に示すリアクトルLに流れる電流は、
図6(e)に示した電流i2、i3と同じである。
【0100】
図13(f)は、リアクトルL1に流れる電流を示している。電流i6も、電流i5が流れるときにのみ流れるので、括弧付きで示している。
【0101】
図13においても、
図6と同様に、回路動作に関して、スイッチング素子のオン期間をモードIと称し、オフ期間をモードIIと称する。
【0102】
<モードIの動作>
図14(a)は、モードIにおける電流を示している。一次側においてスイッチング素子Q1がオンになると、入力電圧により一次コイルN1に電流i1が流れる(
図13(c参照)。
【0103】
一次コイルに電流i1が流れると、相互誘導により二次コイルN2に起電圧を生じ、順バイアスとなるダイオードD3を通して二次コイルN2に電流i2が流れる(
図13(d)参照)。電流i2は、ダイオードD3→二次コイルN2→リアクトルL→スイッチング素子Q2→接地端nの経路で流れる(
図13(d)(e)参照)。電流i2は負荷に供給されないが、電流i2によりリアクトルLが励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。電流i2は、二次コイルN2の起電圧の大きさに関係なく流れる。
【0104】
さらに、二次コイルN2の起電圧が、平滑コンデンサCの電圧を超えるときは、リアクトルL1及びダイオードD5を通して出力端pへ電流i5が流れることができる。電流i5は、ダイオードD3→二次コイルN2→リアクトルL1→ダイオードD5→出力端pの経路で流れる(
図13(e)参照)。電流i5は、フォワード方式のスイッチング電源におけるフォワード電流に相当する。電流i5は負荷に供給されると共に、電流i5によりリアクトルL1が励磁されて磁気エネルギーが蓄積される。一方、二次コイルN2の起電圧が、平滑コンデンサCの電圧を超えないときは、電流i5は流れない。電流i5が流れるか否かは、入力電圧の大きさに依存する。
【0105】
<モードIIの動作>
図14(b)は、モードIIにおける電流を示している。一次側において、スイッチング素子Q1がオフになると、一次側の電流i1が遮断され、二次側の電流i2も遮断される(
図13(c)(d)参照)。トランスTの一次コイルN1、二次コイルN2及びリアクトルLには逆起電圧が生じる。ダイオードD1、D2が順バイアスとなる。従って、電流i3が、ダイオードD1→リアクトルL→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図13(e)参照)。電流i3により、モードIにおいてリアクトルLに蓄積された磁気エネルギーが放出される。ダイオードD1は、フリーホイーリングダイオードの役割を果たす。
【0106】
上述したモードIにおいて電流i5が流れるときは、モードIIにおいて電流i6が流れる。電流i6は、ダイオードD1→リアクトルL1→ダイオードD5→出力端pの経路で流れる(
図13(e)参照)。電流i6が流れることにより、モードIでリアクトルL1に蓄積された磁気エネルギーが放出される。モードIにおいて電流i5が流れないときは、当然にモードIIにおいて電流i6も流れない。
【0107】
<回路動作の特徴>
第4の実施形態では、入力電圧が大きいとき、すなわちトランスTの二次コイルN2の起電圧が平滑コンデンサCの電圧を超えるとき、リアクトルL1及びダイオードD5を通してフォワード電流を出力することができる。従って、第4の実施形態は、第2の実施形態について上述した特徴と同じ特徴を有すると共に、第2の実施形態よりも大きな電力を出力することが可能となる。
【0108】
(5)その他の実施形態
図示しないが、上述した第1又は第3の実施形態の回路における一次側のスイッチング部の別の構成として、プッシュプル回路又はハーフブリッジ回路を適用することができる。
【0109】
上述した各実施形態おいて、スイッチング部におけるスイッチング素子は、MOSFET以外にIGBT又はバイポーラトランジスタでもよい。
【0110】
上述した各実施形態おいて、各ダイオードは、一方向への電流を導通可能でありかつ逆方向の電流を遮断する整流要素の一例である。従って、同様の機能を有する他の素子又は回路に置き換えることができる。
【0111】
以上に説明した本発明の絶縁型スイッチング電源は、図示の構成例に限られず、本発明の主旨に沿う範囲において多様な変形が可能である。
【符号の説明】
【0112】
p 正の出力端
n 接地端
T トランス
LA、LB、L、LA1、LB1、L、L1 リアクトル
N1 一次コイル
N2 二次コイル
A1、A2、A3、B1、B2、B3、Q1、Q2、Q3 スイッチング素子(MOSFET)
D1、D2、D3、D4、D5、D6 ダイオード
C 平滑コンデンサ