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特許7160758溶接制御システム、および、溶接記録生成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】溶接制御システム、および、溶接記録生成方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20221018BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20221018BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K9/095 515Z
B23K9/095 501A
B23K31/00 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019094373
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020189304
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】多羅沢 湘
(72)【発明者】
【氏名】曽我 幸弘
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0041533(KR,A)
【文献】特開2017-192948(JP,A)
【文献】特開2017-170472(JP,A)
【文献】特開昭61-052989(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0173726(US,A1)
【文献】特開昭61-202782(JP,A)
【文献】特開2017-185529(JP,A)
【文献】特開2003-197684(JP,A)
【文献】特開2019-018240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、10/00 - 10/02
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接の開先形状を含む溶接方法を溶接方法データベースから選択させる溶接方法指定部と、
前記溶接方法指定部で選択された溶接方法を実行するときに、各層および各パスについて、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングを溶接作業者の操作から受け付け、溶接開始から溶接終了までの溶接時間における計測データと、各層および各パスを特定する識別番号とを対応付けた溶接記録データとして記録する溶接記録部と、
前記溶接の開先形状に対して、前記溶接記録データの各層および各パスを特定する識別番号を溶接の順序に沿って記載した積層図データを作成し、前記溶接記録データと対応付けて記録する積層図生成部と、を有する溶接記録生成装置と、溶接トーチとを含めて構成される溶接制御システムであって、
前記溶接記録部は、溶接開始から溶接終了までの溶接時間として、前記溶接作業者の操作から受け付けた溶接時間から、溶接作業に適さない除外時間を除外したものとし、
前記除外時間は、溶接開始のアップスロープ時間、溶接終了前のダウンスロープ時間、および、溶接終了前のクレータ処理時間のうちの少なくとも1つの時間であり、
前記溶接トーチには、加速度センサおよび角速度センサが取り付けられ、
前記溶接記録部は、加速度センサおよび角速度センサの変動情報から前記溶接トーチの異常動作を検出し、異常動作が検出されたアークの点弧時間も前記除外時間とすることを特徴とする
溶接制御システム
【請求項2】
溶接の開先形状を含む溶接方法を溶接方法データベースから選択させる溶接方法指定部と、
前記溶接方法指定部で選択された溶接方法を実行するときに、各層および各パスについて、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングを溶接作業者の操作から受け付け、溶接開始から溶接終了までの溶接時間における計測データと、各層および各パスを特定する識別番号とを対応付けた溶接記録データとして記録する溶接記録部と、
前記溶接の開先形状に対して、前記溶接記録データの各層および各パスを特定する識別番号を溶接の順序に沿って記載した積層図データを作成し、前記溶接記録データと対応付けて記録する積層図生成部と、を有する溶接記録生成装置と、前記溶接作業者の操作を受け付ける作業者端末とを含めて構成される溶接制御システムであって、
前記作業者端末は、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングの入力を受け付けると、それらのタイミングを前記溶接記録生成装置に通知し、
前記溶接記録部は、通知されたタイミングに従って、各層および各パスの前記溶接記録データを記録することを特徴とする
溶接制御システム
【請求項3】
前記溶接記録生成装置は、さらに、表示制御部を有しており、
前記溶接記録部は、各層および各パスの溶接時間の長さと、溶接ビードの長さをもとに溶接ビードの入熱量を前記溶接記録データとして計算し、
前記表示制御部は、前記溶接記録部が計算した現溶接における溶接ビードの入熱量と、事前に登録されている入熱量の適切範囲とを併せて表示部に表示することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の溶接制御システム
【請求項4】
前記溶接記録部は、複数回の溶接作業を行う場合には、溶接作業ごとに個別の前記溶接記録データおよび前記積層図データの組み合わせデータを作成し、
複数回の溶接作業とは、同一の前記溶接作業者による複数の溶接方法による作業、同一の前記溶接作業者による複数の溶接機を使用する作業、および、複数の前記溶接作業者による作業のいずれかであることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の溶接制御システム
【請求項5】
溶接制御システムは、溶接記録生成装置と、溶接トーチとを含めて構成されており、
溶接記録生成装置は、溶接方法指定部と、溶接記録部と、積層図生成部と、を有しており、
前記溶接方法指定部は、溶接の開先形状を含む溶接方法を溶接方法データベースから選択させ、
前記溶接記録部は、前記溶接方法指定部で選択された溶接方法を実行するときに、各層および各パスについて、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングを溶接作業者の操作から受け付け、溶接開始から溶接終了までの溶接時間における計測データと、各層および各パスを特定する識別番号とを対応付けた溶接記録データとして記録し、
前記積層図生成部は、前記溶接の開先形状に対して、前記溶接記録データの各層および各パスを特定する識別番号を溶接の順序に沿って記載した積層図データを作成し、前記溶接記録データと対応付けて記録し、
前記溶接記録部は、溶接開始から溶接終了までの溶接時間として、前記溶接作業者の操作から受け付けた溶接時間から、溶接作業に適さない除外時間を除外したものとし、
前記除外時間は、溶接開始のアップスロープ時間、溶接終了前のダウンスロープ時間、および、溶接終了前のクレータ処理時間のうちの少なくとも1つの時間であり、
前記溶接トーチには、加速度センサおよび角速度センサが取り付けられ、
前記溶接記録部は、加速度センサおよび角速度センサの変動情報から前記溶接トーチの異常動作を検出し、異常動作が検出されたアークの点弧時間も前記除外時間とすることを特徴とする
溶接記録生成方法。
【請求項6】
溶接制御システムは、溶接記録生成装置と、溶接作業者の操作を受け付ける作業者端末とを含めて構成されており、
溶接記録生成装置は、溶接方法指定部と、溶接記録部と、積層図生成部と、を有しており、
前記溶接方法指定部は、溶接の開先形状を含む溶接方法を溶接方法データベースから選択させ、
前記溶接記録部は、前記溶接方法指定部で選択された溶接方法を実行するときに、各層および各パスについて、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングを前記溶接作業者の操作から受け付け、溶接開始から溶接終了までの溶接時間における計測データと、各層および各パスを特定する識別番号とを対応付けた溶接記録データとして記録し、
前記積層図生成部は、前記溶接の開先形状に対して、前記溶接記録データの各層および各パスを特定する識別番号を溶接の順序に沿って記載した積層図データを作成し、前記溶接記録データと対応付けて記録し、
前記作業者端末は、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングの入力を受け付けると、それらのタイミングを前記溶接記録生成装置に通知し、
前記溶接記録部は、通知されたタイミングに従って、各層および各パスの前記溶接記録データを記録することを特徴とする
溶接記録生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接制御システム、および、溶接記録生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接作業者による溶接作業は、炭素鋼、高張力鋼、ステンレス鋼およびその他の合金を部材として、半自動のMIG(Metal Inert Gas)またはMAG(Metal Active Gas)溶接方法や、手溶接のTIG(Tungsten Inert Gas)溶接方法などにより実行される。この溶接作業の出来を決める重要なパラメータが入熱量であり、適切範囲外の入熱量は溶接金属および熱影響部に対して悪影響を及ぼすことがある。
例えば、入熱量が高すぎると、溶接金属の強度が低下し、溶接金属に割れが生じ易くなる。また、ステンレス鋼の場合で熱影響部に鋭敏化現象が生じ、耐食性が劣化することがある。一方、入熱量が低すぎると、急冷により金属組織の性能が劣化することがある。特に自動溶接と比べて、半自動溶接および手溶接の方が、安定な施工条件を維持することが困難であり、溶接不良が生じる可能性が高まる。
【0003】
入熱量を監視するために、例えば、溶接に関する各種計測値を接続先のセンサから取得して表示したり記録したりする溶接管理モニタが用いられる。溶接管理モニタは、例えば、愛知産業株式会社の溶接管理モニタ「WCM-2」である。
各種計測値とは、例えば、溶接電流、溶接電圧、パス(層)間温度である。なお、溶接管理モニタには、有線を介して電流・電圧・温度のセンサが接続されている。ここで、多数のケーブルが配置されている溶接環境の中で作業をするため、接続線が断線してしまうと、センサの計測データを取得できない。
【0004】
そこで、特許文献1には、溶接作業管理装置と電流及び電圧を計測するセンサユニットと溶接者用無線端末との間に、無線ネットワークを介して双方向通信可能に接続され、溶接に関するデータの処理及び管理を行い、溶接の合否を判定する溶接条件自動計測記録システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-110782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶接を終えて作成された製品に対して割れなどの欠陥が見つかった場合、その欠陥を生じさせてしまった原因を事後的に追及(トレース)することが溶接作業の品質改善に役立つ。よって、トレーサビリティ(追跡可能性)に優れた溶接作業の記録システムが望まれる。
例えば、溶接金属の中央部に割れを発見した場合、その中央部における溶接記録だけを大量の溶接記録から絞り込んで容易にアクセスできるようなデータ構造として事前に記録しておくことにより、欠陥への原因究明を効率的に行うことができる。
【0007】
一方、特許文献1などの従来の溶接記録システムでは、現在作業中の溶接の合否判定をすることはできるが、作業後のトレーサビリティは考慮されておらず、事後的な原因究明には不向きである。
【0008】
そこで、本発明は、溶接健全性の証明データを容易にトレースできるように溶接作業を記録することを、主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の溶接制御システムは、以下の特徴を有する。
本発明は、溶接の開先形状を含む溶接方法を溶接方法データベースから選択させる溶接方法指定部と、
前記溶接方法指定部で選択された溶接方法を実行するときに、各層および各パスについて、溶接ビードの溶接開始および溶接終了のタイミングを溶接作業者の操作から受け付け、溶接開始から溶接終了までの溶接時間における計測データと、各層および各パスを特定する識別番号とを対応付けた溶接記録データとして記録する溶接記録部と、
前記溶接の開先形状に対して、前記溶接記録データの各層および各パスを特定する識別番号を溶接の順序に沿って記載した積層図データを作成し、前記溶接記録データと対応付けて記録する積層図生成部と、を有する溶接記録生成装置と、溶接トーチとを含めて構成される溶接制御システムであって、
前記溶接記録部は、溶接開始から溶接終了までの溶接時間として、前記溶接作業者の操作から受け付けた溶接時間から、溶接作業に適さない除外時間を除外したものとし、
前記除外時間は、溶接開始のアップスロープ時間、溶接終了前のダウンスロープ時間、および、溶接終了前のクレータ処理時間のうちの少なくとも1つの時間であり、
前記溶接トーチには、加速度センサおよび角速度センサが取り付けられ、
前記溶接記録部は、加速度センサおよび角速度センサの変動情報から前記溶接トーチの異常動作を検出し、異常動作が検出されたアークの点弧時間も前記除外時間とすることを特徴とする
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶接健全性の証明データを容易にトレースできるように溶接作業を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に関する溶接制御システムの構成図である。
図2】本発明の一実施形態に関する溶接部材から作成される製品の斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に関するMIGまたはMAG消耗電極用の溶接トーチを示す。
図4】本発明の一実施形態に関するTIG非消耗電極用の溶接トーチを示す。
図5】本発明の一実施形態に関する溶接記録生成装置の構成図である。
図6】本発明の一実施形態に関する溶接部材の第1状態を示す斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に関する溶接部材の第2状態を示す斜視図である。
図8】本発明の一実施形態に関する溶接部材の第3状態を示す斜視図である。
図9】本発明の一実施形態に関する溶接部材の第4状態を示す斜視図である。
図10】本発明の一実施形態に関する溶接部材のXZ側面図である。
図11】本発明の一実施形態に関する図10の溶接部材に対して溶接後の積層図データである。
図12】本発明の一実施形態に関する図11の積層図データに対応して記録された溶接記録データである。
図13】本発明の一実施形態に関する溶接処理を示すフローチャートである。
図14】本発明の一実施形態に関する図13から続く溶接処理を示すフローチャートである。
図15】本発明の一実施形態に関する溶接方法の選択処理の画面図である。
図16】本発明の一実施形態に関する開先形状の選択処理の画面図である。
図17】本発明の一実施形態に関する溶接方向に対する溶着法の選択処理の画面図である。
図18】本発明の一実施形態に関する各層でのパス数の入力処理の画面図である。
図19】本発明の一実施形態に関する1層目1パス目の記録開始処理の画面図である。
図20】本発明の一実施形態に関する1層目1パス目の記録終了処理の画面図である。
図21】本発明の一実施形態に関する1層目2パス目の記録開始処理の画面図である。
図22】本発明の一実施形態に関する1層目2パス目の記録終了処理の画面図である。
図23】本発明の一実施形態に関する積層図データの表示処理の画面図である。
図24】本発明の一実施形態に関する図19の状態から図20の状態までの間に、不安定な時間において記録が停止されたときの画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、溶接制御システムの構成図である。溶接制御システムは、溶接機1と、溶接トーチ3と、溶接条件コントローラ4と、ワイヤ送給装置5と、作業者端末6と、溶接記録生成装置7と、温度計9とを含めて構成される。
【0014】
溶接作業者は、溶接現場監督者の指示に従い溶接トーチ3で溶接ビード11を形成することで、製品2を作成する。または、溶接トーチ3の自動走行装置より溶接ビード11を形成する自動溶接施工としてもよい。
溶接作業者は、溶接トーチ3に加え、個人用の無線端末である作業者端末6と、溶接機1を設定するための溶接条件コントローラ4とを操作する。また、溶接作業における溶接トーチ3付近の温度を測定する温度センサ9sと、その温度センサ9sで測定した温度を表示する温度計9も、溶接作業者の付近に備えられている。
【0015】
溶接機1は、ワイヤ送給装置5を介して溶接トーチ3にアーク放電を発生させるための電力を供給する。溶接機1には、操作パネル1dが設けられており、この操作パネル1dを介しても、溶接条件コントローラ4と同様に、供給する電力(電流・電圧)などの溶接条件を溶接機1に設定できる。
【0016】
溶接記録生成装置7は、溶接機1ごとに設置され、溶接機1と直接接続されている。溶接記録生成装置7は、溶接機1の電流・電圧の信号、および、温度計9の温度の信号を受け、溶接作業のデータとして記録する。溶接記録生成装置7には表示部7dが備えられており、その表示画面上でタッチ操作およびIN/OUTインタフェース8のマイクを介した音声識別システムによる操作にも対応する。
【0017】
無線ネットワーク10は、作業者端末6と溶接記録生成装置7との間での相互通信を可能とする。この相互通信により、表示部7dの表示画面と同じ画面を作業者端末6のタッチパネルにも表示したり、作業者端末6のマイクから入力された音声信号などの入力信号を、IN/OUTインタフェース8から入力されたものとして溶接記録生成装置7に処理させたりすることができる。つまり、作業者端末6は、溶接記録生成装置7の遠隔操作端末として用いることができる。
【0018】
図2は、溶接部材から作成される製品2の斜視図である。3つの母材2a,2b,2cを組み合わせて、それぞれの接続部を溶接ビード11で接続することにより、溶接作業者は、1つの製品2を作成する。
【0019】
図3は、溶接トーチ3の第1例として、MIGまたはMAG消耗電極用の溶接トーチ3aを示す。
溶接トーチ3aは、消耗電極33と、ボディ34と、供電スイッチ35と、電源ケーブル36とを含めて構成される。ボディ34の内部には、加速度センサ、角速度センサ、および、制御回路などを含めた制御機構32が備えられている。
【0020】
図4は、溶接トーチ3の第2例として、TIG非消耗電極用の溶接トーチ3bを示す。
溶接トーチ3bは、非消耗電極38と、ボディ37と、溶接スイッチ39と、溶接スイッチケーブル40と、非消耗電極溶接電源ケーブル41とを含めて構成される。ボディ37の内部には、図3と同様に制御機構32が備えられている。
溶接トーチ3aの電源ケーブル36、および、溶接トーチ3bの非消耗電極溶接電源ケーブル41は、それぞれ長時間の溶接作業ができるように供電用回線を備えるとともに、制御機構32の各センサの計測結果を溶接記録生成装置7に送信するための専有回線を備える。
溶接記録生成装置7は、専有回線から送信された計測結果から、アークの溶接時間を計測する。
【0021】
図5は、溶接記録生成装置7の構成図である。
溶接記録生成装置7は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、ハードディスクなどの記憶手段(記憶部)と、ネットワークインタフェースとを有するコンピュータとして構成される。
このコンピュータは、CPUが、メモリ上に読み込んだプログラム(アプリケーションや、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、各処理部により構成される制御部(制御手段)を動作させる。
溶接記録生成装置7は、処理部として、作業確認部71と、溶接方法指定部72と、溶接記録部73と、積層図生成部74と、表示制御部75とを有する。また、溶接記録生成装置7は、作業データベース76と、溶接方法データベース77と、溶接記録データ78と、積層図データ79とを記憶部に記憶する。
【0022】
作業確認部71は、事前に溶接技術管理者により用意される作業データベース76の登録内容を、作業者端末6を介して溶接作業者に確認させる。作業データベース76には、例えば、以下に列挙するような溶接作業に関する情報が登録されている。
(a)溶接作業内容(製品名、作業名、作業番号、溶接手順、溶接部材に関する部材番号、材料、形状、寸法、継手番号など)
(b)溶接作業者情報(溶接現場監督者が溶接作業内容に割り当てた溶接作業者、溶接作業内容に要する溶接士資格および有効期間など)
(c)溶接施工条件を示す溶接施工データシート(先行機の溶接条件、作業場内の溶接機の配置位置など)
【0023】
溶接方法指定部72は、作業者端末6を介して溶接作業者から今回の溶接に関する各種設定(溶接方法など)の指定を受ける。この各種設定は、事前に溶接方法データベース77に用意された設定から、溶接作業者は画面で選択することができる。
溶接記録部73は、溶接作業者が溶接中の各種測定値を溶接記録データ78に記録する。
積層図生成部74は、溶接記録データ78と連動して、溶接した製品2の側面図としての積層図データ79を生成する。
表示制御部75は、溶接記録データ78と積層図データ79とを表示部7dや作業者端末6に画面表示することで、溶接技術管理者などに溶接作業の詳細を把握させる。
【0024】
以下、図6図12を参照して、溶接記録データ78と積層図データ79とのデータの詳細と、そのデータに用いられる基本用語の定義を行う。
図6は、溶接部材の第1状態を示す斜視図である。作業データベース76の(a)溶接作業内容として指定される溶接部材は、例えば、2つの板状の母材211,212である。2つの母材211,212を1つの金属板のように接合するために、溶接作業が行われる。以下、母材211の輪郭219Lと、母材212の輪郭219Rとを用いて説明する。
【0025】
図7は、溶接部材の第2状態を示す斜視図である。輪郭219L,219R間をX軸方向に密着させることで、母材211,212の位置が溶接用に固定される。輪郭219L,219R間には、溶接部材が流れ込む先となる溝が「開先」として形成される。図7の開先は、アルファベットのX字のような形状の開先なので、X開先と呼ばれる。この「X開先」は、溶接方法データベース77に用意された設定の一例である。
【0026】
図8は、溶接部材の第3状態を示す斜視図である。ハッチング部で示すように、図7のX開先の交差部よりZ軸上側(表側)に、アークの発熱により溶け出した溶接材(ビード)が1本分付加されている。X開先の空間は広いので、さらにビードを付加する必要がある。
なお、単位「パス」とは、開先のY軸マイナス方向の端点からY軸プラス方向の端点までを通過する1本分の幅のビードである。図8では、1パス分を1本のビードで構成することとしたが、1パスの1/3長ずつ短いビードを流し、合計3本で1パスを形成するなど、複数のビードで1パスを形成する方法もある。
【0027】
図9は、溶接部材の第4状態を示す斜視図である。図8の状態から、さらにビードを増やした結果、輪郭219L,219R間のX開先を埋め尽くすようにビードが複数本付加(積層)されている。
なお、単位「層」とは、開先のZ軸方向に積層されるビードの数を示す。例えば、図9では、X開先の交差部よりも表側(Z軸上側)に3層の溶接が積層されており、裏側(Z軸下側)に3層の溶接が積層されている。
表側の第1層(表1層)は1パスで構成され、表2層は2パスで構成され、表3層は3パスで構成される。同様に、裏側の第1層(裏1層)は1パスで構成され、裏2層は2パスで構成され、裏3層も3パスで構成される。
このように開先をビードで積層することにより、2つの母材211,212が1つの金属板のように接合される。
【0028】
図10は、溶接部材のXZ側面図である。母材211の輪郭219Lと、母材212の輪郭219RとがX開先を形成し、その交差部215を中心として、表側の開先空間213と、裏側の開先空間214とが形成される。
図11は、図10の母材211,212に対して溶接後の積層図データ79である。積層図データ79は、表側の開先空間213に積層された各パスに、表側の溶接順を示すパスの識別番号(「1」~「13」)が割り当てられる。同様に、裏側の開先空間214に積層された各パスにも、裏側の溶接順を示すパスの識別番号(「1」~「9」)が割り当てられる。
【0029】
図12は、図11の積層図データ79に対応して記録された溶接記録データ78である。
溶接記録データ78は、図11に示した各層の各パス番号ごとに記録される。溶接記録データ78は、溶接トーチ3に供給された電力(電流・電圧)と、溶接トーチ3の移動量から求まる溶接速度と、温度計9が計測した予熱・パス間温度(予熱温度、パス間温度)と、溶接ビード11に噴射されるシールドガス流量と、アーク放電の入熱量とが対応付けて記録されたデータである。
この溶接記録データ78の各データの記録処理の詳細は、図13以降のフローチャートの説明で明らかにする。
【0030】
図13は、溶接処理を示すフローチャートである。図13の端点Aから図14の処理に続く。
溶接作業者は、溶接現場監督者から作業開始前に溶接作業内容の指示を受ける。溶接作業者は、指示された内容の通りに、溶接機1、製品2、溶接トーチ3などを準備する。以下、S101~S103は、作業データベース76の登録内容を用いた溶接作業者の前準備である。
【0031】
S101として、作業確認部71は、作業データベース76の(a)溶接作業内容を作業者端末6に表示する。なお、表示先は作業者端末6でもよいし、溶接記録生成装置7の表示部7dでもよい(以下、表示先を作業者端末6として説明する)。これにより、溶接作業者は、作業名、作業場所、溶接方法の種類などの溶接作業内容を確認できる。
S102として、作業確認部71は、作業データベース76の(b)溶接作業者情報を作業者端末6に表示する。これにより、溶接作業者は、S101で確認した作業を担当する溶接士氏名が正しいか(自分になっているか)、溶接士資格は適切か(自分のスキルで充分か)などを確認できる。
S103として、作業確認部71は、作業データベース76の(c)溶接施工データシートを作業者端末6に表示する。これにより、溶接作業者は、表示された溶接条件をもとに、溶接条件コントローラ4を介して溶接機1に溶接条件などを設定できる。
【0032】
図15は、溶接方法の選択処理(S111)の画面図である。
溶接方法指定部72は、溶接方法の選定画面110を作業者端末6に表示し、溶接作業者に溶接方法を選択させる。
溶接方法の選定画面110には、選択欄113の選択候補として、手動TIG溶接、MIG・MAG半自動溶接、被覆アーク溶接、組み合わせ溶接が示されており、太枠で囲まれた手動TIG溶接が現在選択されている。以降の画面図でも同様に、太枠で囲まれた要素が選択されている要素である。なお、画面内の選択操作は、画面のタッチでもよいし、音声入力でもよい。
なお、図示しない他の選択候補は、例えば、レーザ溶接、プラズマ溶接、サブマージドアーク溶接などが挙げられ、各選択候補は溶接方法データベース77に事前に登録されている。さらに、溶接方法の選定画面110には、前画面(図示省略したメインメニュー画面)に戻る矢印ボタン111と、次画面(図16の画面)に進む矢印ボタン112とが含まれている。
【0033】
図16は、開先形状の選択処理(S112)の画面図である。
溶接方法指定部72は、開先形状の選定画面120を作業者端末6に表示し、溶接作業者に開先形状を選択させる。
開先形状の選定画面120には、選択欄123の選択候補として、I開先、V開先、U開先、J開先、K開先、X開先、H開先、隅肉溶接が示されており、太枠で囲まれたX開先が現在選択されている(図7で前記したとおり)。
各選択候補は溶接方法データベース77に事前に登録されている。さらに、開先形状の選定画面120には、前画面(図15の画面)に戻る矢印ボタン121と、次画面(図17の画面)に進む矢印ボタン122とが含まれている。
【0034】
図17は、溶接方向に対する溶着法の選択処理(S113)の画面図である。
溶接方法指定部72は、溶着法の選択画面130を作業者端末6に表示し、溶接作業者に溶着法を選択させる。
溶着法の選択画面130には、S112で選択されたX開先134に加え、選択欄133の選択候補135として、前進法、後退法、対称法、全長多層法、飛石法、ブロック法が示されており、太枠で囲まれた全長多層法が現在選択されている。各選択候補は溶接方法データベース77に事前に登録されている。
さらに、溶着法の選択画面130には、前画面(図16の画面)に戻る矢印ボタン131と、次画面(図18の画面)に進む矢印ボタン132とが含まれている。
【0035】
S114として、溶接方法指定部72は、S113で選択された溶着法がビード分割を要するか否かを判定する。
前進法、全長多層法などのビード分割が不要な溶着法の場合(S114,No)、1パスの長さ=1ビードの長さであるので、溶接記録生成装置7が溶接作業から直接計測した1パス分の溶接トーチ3の移動量を、そのまま溶接したビードの長さとして自動入力することができる(S116)。
または、溶接方法指定部72は、作業データベース76の(a)溶接作業内容から読み込んだ溶接部材の全長(図8ではY方向の長さ)を、そのまま溶接したビードの長さとして自動入力してもよい。
これにより、ビードの長さを溶接作業者が手入力するために溶接作業を中断する時間を省略でき、作業効率が向上する。
【0036】
後退法、対称法、飛石法、ブロック法などのビード分割を要する溶着法の場合(S114,Yes)、以下のいずれかの方法により分割された各ビードの長さを手動で入力させる(S115)。
・ビードを等分割する場合、溶接方法指定部72は、作業データベース76の(a)溶接作業内容から読み込んだ溶接部材の全長(例えば30cm)を、手動で入力された分割数(例えば3分割)で除算することで、分割されたビードの長さ(例えば10cm)を求める。
・ビードを等分割しない場合、溶接方法指定部72は、分割された個々のビードの長さ(例えば5cm,20cm,5cm)を手動で入力させる。
【0037】
以上、図13を参照して、溶接前の準備について説明した。
さらに、溶接作業者は、溶接直前には、作業者端末6の表示画面を介して、使用予定の溶接機1の番号を選択するとともに、その溶接機1の設定情報を溶接機1および溶接記録生成装置7に入力する。設定情報は、例えば、作業データベース76の(c)溶接施工データシートで規定される溶接条件の最大値と最小値の範囲内になるような溶接の電流値、電圧値などである。
【0038】
図14は、図13から続く溶接処理を示すフローチャートである。このフローチャートでは、層数を示すカウンタ変数nと、パス数を示すカウンタ変数mとを用いて説明する。
S201として、溶接記録部73は、n=1層目、m=1パス目から記録を開始する。図11で示したように、開先の横幅は中央から遠ざかるほど(上下に離れるほど)徐々に広がるため、各層ごとにパス数は異なる。そこで、n層目にパスがいくつ形成されるかを個別に入力する必要がある。例えば、図11では、表1層目のパス数=1、表2層目のパス数=2、表3層目のパス数=2、…となる。
【0039】
図18は、各層でのパス数の入力処理(S211)の画面図である。
溶接記録部73は、溶接積層方法の入力画面140を作業者端末6に表示し、溶接作業者に溶接積層方法(パス数m)を選択させる。
溶接積層方法の入力画面140には、入力欄143と、前画面(図17の画面)に戻る矢印ボタン141と、次画面(図19の画面)に進む矢印ボタン142とが含まれている。
【0040】
入力欄143には、現在記録しているn層目の表示欄145と、現在選択している設定欄144と、mパス目の設定欄146とが含まれている。mパス目の設定欄146には、上から順に、太枠でハイライトされた現在の設定(図示ではn=1層目のパスm)と、そのmを手動で入力させるための「mの変更」ボタンと、そのmを予想値から読み込むための「読み込み」ボタンとが含まれている。予想値は、事前に溶接方法データベース77に登録されている。
なお、1層あたりのパス数mについて、溶接開先幅と関連しているので、任意パス数とするが、本実施形態では、パス数の最大値は99とする。また、太枠内のハイライト箇所は、予想される積層パス数および積層順序が表示される。この表示により、溶接作業者は、これから行うn層目の溶接作業を把握できる。
【0041】
設定欄144には、図13の前準備処理で選択された「X開先、全長多層法」などの溶接設定に加え、現在記録しているX開先形状の表溶接または裏溶接を選択するボタンと(図18では表溶接を選択中)、予熱・パス間温度についての計測結果の信号を温度計9から取り入れるためのボタンとが含まれている。
S212として、溶接記録部73は、設定欄144の予熱・パス間温度ボタンの押下を契機に計測された予熱・パス間温度が、作業データベース76の(c)溶接施工データシートで規定される適切な温度範囲内か否かを確認する。S212で適切な温度範囲外であることが検出されたときには、溶接記録部73は、溶接機1を介して溶接トーチ3への給電を遮断することで、アークを出さないようにする。そのため、溶接機1には、給電を遮断するための電気回路(安全回路)が組み込まれている。
【0042】
以下、図19図22を参照して、n層目、mパス目の溶接記録処理を順に説明する。
図19は、n=1層目、m=1パス目の記録開始処理(S213)の画面図である。
溶接記録部73は、溶接積層の記録画面150を作業者端末6に表示し、溶接作業者にn層目、mパス目の記録開始を指示させる。溶接積層の記録画面150には、入力欄153と、前画面(図18の画面)に戻る矢印ボタン151と、次画面(図20の画面)に進む矢印ボタン152とが含まれている。
入力欄153には、現在記録しているn層目mパス目の表示欄156と、現在選択している設定欄157と、記録開始ボタン154aと、記録終了ボタン154bと、記録中の溶接データ表示欄155とが含まれている。設定欄157は、図18の設定欄144の状態から予熱・パス間温度ボタンが現在の予熱・パス間温度の表示欄(○○℃)に置き換わっている。
溶接作業者は、記録開始ボタン154aを押下してから(太枠で示すようにハイライトしてから)、n層目mパス目の溶接を開始する。溶接データ表示欄155には、溶接機1の電流、電圧などの各計測値の瞬間値または平均値が表示される。
【0043】
図20は、1層目1パス目の記録終了処理(S214)の画面図である。
溶接作業者は、図19の状態からn層目mパス目の溶接を終了した後に、記録終了ボタン154bを押下する。これにより、太線のハイライトが記録開始ボタン154aから記録終了ボタン154bに遷移する。
なお、溶接データ表示欄155には、作業データベース76の(c)溶接施工データシートの内容(適切範囲)として、「適切入熱量」も併せて表示されている。
これにより、溶接作業者は、溶接データ表示欄155の内容から今回のパスの溶接が適切範囲内か否かを確認することができ、その確認結果を次のパスの溶接条件にフィードバックできる。このフィードバックにより、溶接不良を溶接途中の早い段階で発見することができ、良好な溶接品質が得られることで補修などのコストを抑制する。
【0044】
S215として、溶接記録部73は、以下の手順により溶接記録データ78を計算し、その計算結果を溶接データ表示欄155に表示する。
溶接記録部73は、記録開始処理(S213)~記録終了処理(S214)までの1パス分のアークの発生時間を溶接時間として検出する。
ここで、溶接記録部73は、溶接記録データ78が記録されるアークの溶接時間を、実質的に溶接が可能な時間に絞り込んでもよい。例えば、以下に列挙する各時間は、不安定な時間(テストアーク時間)としてアークの溶接時間から除外してもよい。
・溶接開始のアップスロープ時間。
・溶接終了前のダウンスロープ時間。
・溶接終了前のクレータ処理時間。
・溶接トーチ3の異常動作中にアーク点弧がある場合、そのアーク点弧時間。なお、異常動作の推定処理として、溶接記録生成装置7は、専有回線から送信された溶接前後、溶接途中の加速度センサおよび角速度センサの変動情報から、溶接トーチ3の姿勢および異常動作を推定する。そして、溶接記録生成装置7は、推定した情報と溶接アークの点弧時間とを照合することで、アーク点弧時間を求める。
【0045】
図24は、図19の状態から図20の状態までの間に、不安定な時間において記録が停止されたときの画面図である。
記録画面150には、「記録停止中」表示154cが表示される。この停止中状態において、溶接作業者は、記録開始ボタン154aの押下などの画面操作により、記録作業の停止状態と再開状態とを切り替えることもできる。これにより、溶接記録部73は、溶接途中のテストアーク時間を算出できる。
【0046】
溶接記録部73は、検出した溶接時間と、S115またはS116で入力されたビードの長さとから、溶接速度を計算する。そして、溶接記録部73は、以下の数式1により、溶接入熱量を計算する。
溶接入熱量(J/cm)=電流[A]×電圧[V]×60/溶接速度[cm/min] …(数式1)
【0047】
溶接記録部73は、以下に列挙するn層目、mパス目の溶接記録データ78を、溶接記録生成装置7の記憶部に記録する。
・溶接機1が供給した電流、電圧の信号
・温度計9が計測した予熱・パス間温度
・S115またはS116で入力されたビードの長さ
・S215で溶接記録部73が計算した溶接時間、溶接入熱量
・溶接部の板厚さ、積層の総積層数から平均値を用いて計算される、溶接積層パスの厚さ
【0048】
以上、S212~S215の処理により、1パス分の溶接継手の積層状況が記録される。
S216として、溶接記録部73は、今回のmパス目の溶接記録処理により、n層目の全パスの処理が完了したか否かを判定する。n層目で未処理のパスが残っている場合(S216,No)、溶接記録部73は、未処理である次パス(m+1パス)目の溶接記録処理を行うため、処理をS212に戻す。
図21および図22は、1層目2パス目の記録処理(記録開始処理、記録終了処理)を示す。図19および図20と同様に、記録開始処理(S213)~記録終了処理(S214)までの計測値と、計算値とがそれぞれ画面表示される。
【0049】
なお、溶接作業者の休憩時間などにより、全層、全パスを一度に記録するのではなく、溶接作業途中で記録処理が中断されることもある。そのときには、溶接記録部73は、中断直前の溶接記録データ78を記録するとともに、中断再開時には溶接記録データ78を読み込み、途中のn層目、mパス目から溶接を再開できるようにする。
つまり、溶接記録データ78は、作業データベース76の(a)溶接作業内容ごとに別々に記録される。溶接記録部73は、製品名や継手番号などを手がかりに、中断再開時には該当する作業についての中断直前の溶接記録データ78を読み込むことができる。
【0050】
S217として、溶接記録部73は、今回のn層目の溶接記録処理により、全層の溶接処理が完了したか否かを判定する。未処理の層目が残っている場合(S217,No)、溶接記録部73は、未処理である次層(n+1層)目の溶接記録処理を行うため、処理をS211に戻す。
溶接が終了したとき(S217,Yes)、溶接記録部73は、全層、全パスの記録された溶接記録データ78を、溶接記録生成装置7からUSB(Universal Serial Bus)メモリ、SDCARDなどの記録媒体に出力する。溶接現場監督者および溶接技術管理者は、溶接記録生成装置7から無線ネットワーク10を介して、または、記録媒体を自身のPCに読み込んで、溶接記録データ78を確認できる。
【0051】
図23は、積層図データ79の表示処理(S221)の画面図である。
積層図生成部74は、溶接記録データ78に対応する積層図データ79を作成する。そのため、積層図生成部74は、開先形状の選択処理(S112)で選択された開先(X開先)を先に描画し(図10では219L,219R)、その開先空間213,214に対して、溶接記録データ78の各層、各パスを識別番号付きで埋めていくことで、図11のような積層図データ79を作成する。つまり、溶接記録データ78と積層図データ79とは、同じ層の識別番号、同じパスの識別番号で対応付けられる。
積層図生成部74は、作成した積層図データ79を溶接積層の記録画面160として画面表示する。溶接積層の記録画面160には、入力欄163と、前画面(図22の画面)に戻る矢印ボタン161と、次画面(図示省略したメインメニュー画面)に進む矢印ボタン162とが含まれている。
【0052】
入力欄163には、開先全体の積層図データ79の表示欄164と、表示欄164の説明欄165と、層ごとの積層図データ79の表示欄166と、積層図データ79の保存ボタン167とが含まれている。
説明欄165に示すように、溶接途中の3層5パス目終了時点の積層状況が、表示欄164に表示されている。なお、表示欄164の表示範囲は拡大操作または縮小操作により変更させてもよい。この表示欄164により、溶接作業者は溶接中または溶接後に、積層状況を把握できる。なお、裏溶接の裏はつり作業を行う場合では、裏溶接を実行する前に裏はつりを表示欄164に表示してもよい。
保存ボタン167の押下により、溶接記録データ78と積層図データ79とが対応付けられて溶接記録生成装置7に保存される。
【0053】
以上、1回の溶接作業について図13のS111~図14のS221を参照して説明した。ここで、組み合わせ溶接など複数回の溶接作業を行う場合は(S222,Yes)、次の溶接作業を行うために、処理をS111に戻してループさせる(端子B)。溶接記録データ78および積層図データ79の組み合わせデータは、1回の溶接作業ごと(1回のループごと)に別々のデータとして記録される。
なお、複数回の溶接作業を行う場合には、前回以前に行われた溶接条件を溶接機1に読み込ませた状態から、次回の溶接を開始することが望ましい。以下が、複数回の溶接作業を行う一例である。
・二つ溶接方法以上の組み合わせ溶接施工の場合
・同一溶接方法でも、二つ以上の溶接機1を使用する溶接施工の場合
・二人以上の溶接士による前後の溶接施工の場合
・同一製品の同一溶接継手に対して、二人以上の溶接士または二つ以上の溶接方法の組み合わせによる溶接施工を行う場合
【0054】
以上説明した本実施形態では、以下の効果が得られる。
(効果1)入力作業の省力化。溶接記録生成装置7が溶接作業を記録することで、溶接作業を行う溶接作業者とは別の記録者を付近に配置させる必要がなくなる。さらに、溶接作業者は、図19図22で示したように、作業者端末6の表示画面から各パスの溶接開始、溶接終了のタイミングを入力するだけで、溶接中の各種パラメータが溶接記録データ78として自動的に記録される。
また、このタイミングの入力も、画面のタッチだけでなく音声入力にも対応しているので、両手を溶接作業だけに活用でき、記録作業が溶接作業を阻害せずに済むので、全体的に溶接作業時間を短縮できる。
【0055】
(効果2)溶接品質の監視。制御室内の溶接技術管理者は、溶接記録生成装置7の表示部7d(図20の溶接データ表示欄155)に表示された入熱量(実際の溶接施工条件)とその適切範囲(標準の溶接施工条件)とを見比べることで、現在行われている溶接作業が適切か否かを判定することができる。
これにより、高すぎる入熱量による割れの発生や、低すぎる入熱量による金属組織の性能劣化が発生する前に入熱量の異常状態を溶接作業者へフィードバックし、各施工条件制限範囲内での施工による品質を保証する。
【0056】
(効果3)製品溶接部の健全性の証明。溶接記録部73は、図12に示すように、溶接電流・電圧、溶接速度、溶接施工パスの施工順序を溶接記録データ78として記録する。また、溶接記録部73は、多層盛溶接の溶接継手の記録の場合に、溶接時間、当該溶接時間に対する積層パス数、当該パスの溶接ビードの長さなどのデータを溶接記録データ78として随時記録する。積層図生成部74は、その溶接記録データ78に対して作成した積層図データ79を対応付ける。
これにより、例えば、溶接金属の中央部に割れを発見した場合、その中央部における層番号、パス番号を積層図データ79から特定し、特定した層番号、パス番号の溶接記録だけを大量の溶接記録データ78から絞り込んで容易にアクセスできる(トレーサビリティに優れる)。よって、アクセスした溶接記録データ78をもとに、適性範囲内の溶接条件で溶接が行われたこと、つまり製品溶接部の健全性を書面で証明できる。そして、例えば、溶接作業そのものは適切だが、その後の地震発生により割れが発生したなどの欠陥への原因究明を効率的に行うことができる。
【0057】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、さまざまな変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。
また、前記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0058】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
さらに、各装置を繋ぐ通信手段は、無線LANに限定せず、有線LANやその他の通信手段に変更してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 溶接機
1d 操作パネル
2 製品
3 溶接トーチ
4 溶接条件コントローラ
5 ワイヤ送給装置
6 作業者端末
7 溶接記録生成装置
7d 表示部
8 IN/OUTインタフェース
9 温度計
10 無線ネットワーク
11 溶接ビード
71 作業確認部
72 溶接方法指定部
73 溶接記録部
74 積層図生成部
75 表示制御部
76 作業データベース
77 溶接方法データベース
78 溶接記録データ
79 積層図データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24