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<図1>
  • 特許-プーリ構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】プーリ構造体
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20221018BHJP
   F16D 41/20 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
F16H55/36 Z
F16D41/20 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019129361
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2020024038
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018140852
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】森本 隆史
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-120120(JP,A)
【文献】特開2018-100732(JP,A)
【文献】特開2002-227973(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0122610(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16D 41/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向の内側に設けられ、前記外回転体と同じ回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されたねじりコイルばねと、を備えたプーリ構造体であって、
前記外回転体及び前記内回転体のうち一方の回転体は、前記軸方向の一端側に位置する部分であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記ねじりコイルばねにおける前記一端側の領域が、前記ねじりコイルばねの拡径又は縮径に対する自己弾性復元力によって接触しているクラッチ係合部を有し、
前記ねじりコイルばねが、
拡径又は縮径方向にねじり変形することによって、前記外回転体及び前記内回転体と係合する係合状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクを伝達し、
トルクの伝達時と反対方向にねじり変形することによって、前記一方の回転体の前記クラッチ係合部と摺動する係合解除状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクの伝達を遮断する、ように構成され、
前記一方の回転体の前記クラッチ係合部を形成する周面に溝部が形成され、
前記溝部は、
前記軸方向に対して傾斜して延びた部分であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていないときに前記一端側の領域と前記径方向に離間して対向し、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクが伝達されるときに拡径又は縮径方向にねじり変形した前記ねじりコイルばねの前記一端側領域の周面と接触する底部と、
前記底部のうち前記プーリ構造体に外力が付与されていないときに前記一端側の領域と前記径方向に最も離間する部分と、前記クラッチ係合部とを繋ぐ部分であって、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクが伝達されるときに、拡径又は縮径方向にねじり変形した前記ねじりコイルばねの、前記一端側領域のばね線の断面における角部と接触する隅部と、を備えていることを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記底部は、前記軸方向の前記他端側に向かうほど、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記一端側の領域と前記径方向に離間するように、前記軸方向に対して傾斜して延びており、
前記溝部が、前記回転軸と直交する面と平行に延びていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記溝部は、前記軸方向のピッチが前記ばね線の前記軸方向のピッチと等しい螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記隅部の輪郭形状が、前記角部の輪郭形状と同じ形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプーリ構造体。
【請求項5】
前記係合解除状態における前記ねじりコイルばねのねじりトルクが1N・m以下に設定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のプーリ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじりコイルばねを備えたプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンの動力によってオルタネータ等の補機を駆動する補機駆動ユニットでは、オルタネータ等の補機の駆動軸に連結されるプーリと、エンジンのクランク軸に連結されるプーリにわたってベルトが掛け渡され、このベルトを介してエンジンのトルクが補機に伝達される。特に、他の補機に比べて大きい慣性を有するオルタネータの駆動軸に連結されるプーリには、例えば特許文献1に記載されているような、クランク軸の回転変動を吸収可能なプーリ構造体が用いられる。
【0003】
特許文献1に記載のプーリ構造体は、外回転体と、外回転体の内側に設けられ且つ外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、ねじりコイルばね(以下、単に「ばね」という)とを有し、ばねの拡径又は縮径変形により外回転体と内回転体との間でトルクが伝達又は遮断されるようになっている。このプーリ構造体のばねは、外回転体に巻回されるベルトのスリップを防止するため、外回転体と内回転体との間でトルクを一方向に伝達又は遮断する一方向クラッチ(コイルばね式クラッチ)として機能する。
【0004】
特許文献1に記載のようなコイルばね式クラッチを備えるプーリ構造体において、外回転体が内回転体に対して正方向に相対回転するときに、ばねが、外回転体及び内回転体のそれぞれと係合して係合状態となり、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達する。一方、外回転体が内回転体に対して逆方向に相対回転するときには、ばねが、外回転体又は内回転体に対して周方向に摺動(スリップ)して係合解除状態となり、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達しない。
【0005】
特許文献1に記載のプーリ構造体では、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、外回転体又は内回転体の回転軸に沿った軸方向の一端側で、ばねにおける一端側の領域の外周面がばねの拡径方向の自己弾性復元力によって接触している圧接面が、外回転体又は内回転体のばねと周方向に摺動するクラッチ係合部となっている。そのため、予め、ばねの一端側の領域を適当量縮径させて、ばねを外回転体と内回転体との間に収容する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-114947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1に記載のようなプーリ構造体において、ばねを外回転体と内回転体との間に収容する際に、ばねの一端側の領域を縮径させる量(クラッチ係合面への圧接力)を比較的小さくなるようにして、外回転体が内回転体に対して逆方向に相対回転し、縮径方向にねじれ変形したばね(クラッチ)が係合解除状態(摺動状態)となるときのばねのねじりトルク(以下、「スリップトルク」ともいう)を極力小さく(例えば1N・m程度)設定することを考える。スリップトルクを小さくすれば、圧接面(クラッチ係合部)とばねとが摺動(スリップ)する頻度が高くなり、その分、ベルトの張力変動の吸収機能が向上し、外回転体に巻回されるベルトのスリップが抑制され、ベルトの寿命が長くなる。
【0008】
しかしながら、スリップトルクを小さくするために、ばねを外回転体と内回転体との間に収容する際に、ばねの一端側の領域を縮径させる量を小さくすると、圧接面(クラッチ係合部)に対するばねの圧接力も小さくなってしまう。
【0009】
圧接面(クラッチ係合部)に対するばねの圧接力も小さくなると、外回転体が内回転体に対して正方向に相対回転し、ばねが、拡径方向にねじり変形することによって、外回転体及び内回転体のそれぞれと係合して、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達する際に、ばねと圧接面との間の係合力(グリップ力)が不足し、ばねと圧接面との間に滑り(空転)が生じてしまう。その結果、外回転体と内回転体との間でトルク伝達が不安定となり、エンジンのトルクが補機にスムーズに伝達されない虞がある。
【0010】
本発明の目的は、ベルトの寿命を長くするために、スリップトルクが小さくなるようにしつつも、クラッチ係合状態において、ねじりコイルばねと外回転体又は内回転体のねじりコイルばねが圧接する面との間に滑りが生じ、外回転体と内回転体との間でトルクの伝達が不安定となるのを抑制できるプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様に係るプーリ構造体は、ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、前記外回転体の径方向の内側に設けられ、前記外回転体と同じ回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されたねじりコイルばねと、を備えたプーリ構造体であって、前記外回転体及び前記内回転体のうち一方の回転体は、前記軸方向の一端側に位置する部分であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記ねじりコイルばねにおける前記一端側の領域が、前記ねじりコイルばねの拡径又は縮径に対する自己弾性復元力によって接触しているクラッチ係合部を有し、前記ねじりコイルばねが、拡径又は縮径方向にねじり変形することによって、前記外回転体及び前記内回転体と係合する係合状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクを伝達し、トルクの伝達時と反対方向にねじり変形することによって、前記一方の回転体の前記クラッチ係合部と摺動する係合解除状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクの伝達を遮断する、ように構成され、前記一方の回転体の前記クラッチ係合部を形成する周面に溝部が形成され、前記溝部は、前記軸方向に対して傾斜して延びた部分であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていないときに前記一端側の領域と前記径方向に離間して対向し、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクが伝達されるときに拡径又は縮径方向にねじり変形した前記ねじりコイルばねの前記一端側領域の周面と接触する底部と、
前記底部のうち前記プーリ構造体に外力が付与されていないときに前記一端側の領域と前記径方向に最も離間する部分と、前記クラッチ係合部とを繋ぐ部分であって、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクが伝達されるときに、拡径又は縮径方向にねじり変形した前記ねじりコイルばねの、前記一端側領域のばね線の断面における角部と接触する隅部と、を備えている。
【0012】
本発明では、外回転体と内回転体との間でトルクが伝達されるときに、拡径又は縮径方向にねじり変形したねじりコイルばねが、一端側の領域における周面の一部分において底部に接触するのに加えて、角部において隅部に接触する。したがって、ベルトの寿命を長くするために、クラッチ係合解除状態におけるばねのねじりトルク(スリップトルク)が小さくなるように設定しつつも、クラッチ係合状態において、ばねと上記一方の回転体との間のグリップ力を十分に確保することができる。これにより、ばねと上記一方の回転体のとの間に滑り(空転)が生じることを抑制できる。その結果、外回転体と内回転体との間でトルク伝達が安定して行われる。
【0013】
本発明の第2の態様に係るプーリ構造体は、第1の態様に係るプーリ構造体において、前記底部は、前記軸方向の前記他端側に向かうほど、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記一端側の領域と前記径方向に離間するように、前記軸方向に対して傾斜して延びており、前記溝部が、前記回転軸と直交する面と平行に延びている。
【0014】
外回転体と内回転体との間でトルクが伝達されるクラッチ係合状態となったときには、まず、ばね線の外周面のうち、軸方向の一端部が、底部のばねに最も近い部分(以下、頂部とする)に接触し、その後、ばね線が、頂部を支点として底部に沿うように倒れる。本発明では、底部は、軸方向の他端側に向かうほど、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において一端側の領域と径方向に離間するように、軸方向に対して傾いている。そのため、上述したようにばね線が倒れると、倒れたばね線が、これよりも軸方向他端側に位置するばね線に近づき、その結果、ばね線の螺旋方向の、回転軸と直交する平面に対する傾斜角度が小さくなる(この平面と平行な方向に近づく)。
【0015】
これに対して、本発明では、溝部が、一方の回転体の周方向に沿って、回転軸と直交する平面と平行に延びている。したがって、クラッチ係合状態において、拡径又は縮径方向にねじり変形したばねの一端側の領域は、周面が底部に接触し、角部が隅部に接触するように、溝部に嵌まり込みやすい。したがって、上述の効果をより確実に得ることができる。
【0016】
本発明の第3の態様に係るプーリ構造体は、第1の態様に係るプーリ構造体において、前記溝部は、前記軸方向のピッチが前記ばね線の前記軸方向のピッチと等しい螺旋状に形成されている。
【0017】
本発明では、溝部が軸方向のピッチがばね線の軸方向のピッチと等しい螺旋状に形成されているため、外回転体と内回転体との間でトルクが伝達されるクラッチ係合状態において、外回転体が内回転体に対して1周相対回転するまでに、拡径又は縮径方向にねじり変形したばねの一端側の領域が、周面が底部に接触し、角部が隅部に接触するように溝部に嵌まり込む。したがって、上述の効果をより確実なものとすることができる。
【0018】
本発明の第4の態様に係るプーリ構造体は、第1~第3の態様に係るプーリ構造体において、前記隅部の輪郭形状が、前記角部の輪郭形状と同じ形状である。
【0019】
本発明によると、ねじりコイルばねが、角部において隅部に接触するときの、角部と隅部との密着性が高くなり、ばねと一方の回転体との間のグリップ力を十分に確保することができる。
【0020】
本発明の第5の態様に係るプーリ構造体は、第1~第4の態様に係るプーリ構造体において、前記係合解除状態における前記ねじりコイルばねのねじりトルクが1N・m以下である。
【0021】
係合解除状態における前記ねじりコイルばねのねじりトルクが1N・m以下と小さい場合には、クラッチ係合状態において、ばねがクラッチ係合部を圧接する圧接力が小さく、ばねと上記一方の回転体のばねが圧接する面との間に滑り(空転)が生じる。したがって、このような場合において、クラッチ係合部に底部と隅部とを有する溝部を設け、クラッチ係合状態において、拡径又は縮径方向にねじり変形したばねの一端側の領域が、周面が底部に接触し、角部が隅部に接触するように溝部に嵌まり込むようにして、ばねとクラッチ係合部との間のグリップ力を確保する意義は大きい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、クラッチ係合解除状態におけるばねのねじりトルク(スリップトルク)が小さくなるように設定しつつも、クラッチ係合状態において、ばねと上記一方の回転体との間に滑り(空転)が生じることを抑制できる。その結果、外回転体と内回転体との間でトルク伝達が安定して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態のプーリ構造体の断面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4(a)は、図1のIVA部の拡大図であり、図4(b)は、クラッチが係合状態となっているときの図4(a)相当の図である。
図5図5は、第2実施形態の図1に対応する図である。
図6図6(a)は、図5のVIA部の拡大図であり、図6(b)は、クラッチが係合状態となっているときの図6(a)相当の図である。
図7図7は、第3実施形態の図1に対応する図である。
図8図8(a)は、図7のVIIIA部の拡大図であり、図8(b)は、クラッチが係合状態となっているときの図8(a)相当の図である。
図9図9は、第4実施形態の図1に対応する図である。
図10図10(a)は、図9のXA部の拡大図であり、図10(b)は、クラッチが係合状態となっているときの図10(a)相当の図である。
図11図11は、耐摩耗性試験装置の概略構成図である。
図12図12(a)は、実施例1~4における、ばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示す図であり、図12(b)は、比較例における、ばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示す図であり、図12(c)は、参考例における、ばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の好適な第1実施形態について説明する。
【0025】
第1実施形態のプーリ構造体1は、例えば、自動車の補機駆動システム(図示省略)において、オルタネータの駆動軸に設置される。なお、本発明のプーリ構造体は、オルタネータ以外の補機の駆動軸に設置してもよい。
【0026】
図1図3に示すように、プーリ構造体1は、外回転体2、内回転体3、コイルばね4(以下、単に「ばね4」ということもある)及びエンドキャップ5を含む。以下、図1における左右方向を前後方向とし、図1における左方を前方、右方を後方として説明する。エンドキャップ5は、外回転体2及び内回転体3の前端に配置されている。
【0027】
外回転体2及び内回転体3は、共に略円筒状であり、前後方向と平行な同一の回転軸を有する。外回転体2及び内回転体3の回転軸は、プーリ構造体1の回転軸である(以下、単に「回転軸」という)。また、回転軸方向を、単に「軸方向」という。内回転体3は、外回転体2の内側に設けられ、外回転体2に対して相対回転可能である。外回転体2の外周面に、ベルトBが巻回される。
【0028】
内回転体3は、筒本体3a、及び、筒本体3aの前端の外側に配置された外筒部3bを有する。筒本体3aに、オルタネータ等の駆動軸Sが嵌合される。外筒部3bと筒本体3aとの間に、支持溝部3cが形成されている。外筒部3bの内周面と筒本体3aの外周面は、支持溝部3cの溝底面3dを介して連結されている。
【0029】
外回転体2の後端の内周面と、筒本体3aの外周面との間に、転がり軸受6が介設されている。外回転体2の前端の内周面と、外筒部3bの外周面との間に、滑り軸受7が介設されている。軸受6、7によって、外回転体2及び内回転体3が相対回転可能に連結されている。
【0030】
外回転体2と内回転体3との間であって、転がり軸受6よりも前方には、空間9が形成されている。より詳細には、空間9は、外回転体2の内周面及び外筒部3bの内周面と、筒本体3aの外周面との間に形成されている。空間9にはばね4が収容されている。また、外回転体2の転がり軸受6と空間9との間に位置する部分には、径方向の内側に突出した突出部2cが設けられている。
【0031】
外回転体2の内径は、後方に向かって2段階で小さくなっている。最も小さい内径部分における外回転体2の内周面を圧接面2a、2番目に小さい内径部分における外回転体2の内周面を環状面2bという。圧接面2aにおける外回転体2の内径は、外筒部3bの内径よりも小さい。環状面2bにおける外回転体2の内径は、外筒部3bの内径と同じかそれよりも大きい。また、環状面2bは、軸方向の他端側に外筒部3b近傍まで延びており、外回転体2の環状面2bを形成している部分と、外筒部3bとの間の隙間の長さが、軸方向におけるばね4のばね線の長さに対して十分に短くなっている。
【0032】
筒本体3aは、前端において外径が大きくなっている。この部分における内回転体3の外周面を接触面3eという。
【0033】
ばね4は、ばね線(ばね線材)を螺旋状に巻回(コイリング)して形成されたねじりコイルばねである。ばね4は、左巻き(前端から後端に向かって反時計回り)である。ばね4の巻き数は、例えば5~9巻きである。以下の説明において、ばね線の断面又は断面形状とは、回転軸を通り且つ回転軸と平行な平面における断面又は断面形状のことである。ばね4のばね線は、断面形状が台形状の台形線である。ばね線の断面における4つの角部4gは、面取り形状(例えば、曲率半径0.3mm程度のR面)となっている。内径側軸方向長さは、外径側軸方向長さよりも長い。
【0034】
ばね4は、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定である。外力を受けていない状態でのばね4の外径は、圧接面2aにおける外回転体2の内径よりも大きい。ばね4は、後端側領域4c(本発明の「一端側の領域」)が縮径された状態で、空間9に収容されている。ばね4における後端側領域4cの外周面は、ばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって、圧接面2aに押し付けられている。後端側領域4cは、ばね4の後端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。例えば、ばね4の巻き数が7巻きである場合、後端側領域4cは、ばね4の後端から2周程度を上限とする領域である。
【0035】
また、プーリ構造体1が停止しており、ばね4における後端側領域4cの外周面がばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって圧接面2aに押し付けられた状態において、ばね4の前端側領域4bは、若干拡径された状態で、接触面3eと接触している。つまり、プーリ構造体1が停止している状態において、ばね4における前端側領域4bの内周面は、接触面3eに押し付けられている。前端側領域4bは、ばね4の前端4aから1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。例えば、ばね4の巻き数が7巻きである場合、前端側領域4bは、ばね4の前端4aから2周程度を上限とする領域である。
【0036】
このように、ばね4の後端側領域4cの外周面が、圧接面2aに押し付けられ、ばね4の前端側領域4bの内周面が、接触面3eに押し付けられる構成とすることにより、軸方向に圧縮された状態でのばね4の姿勢を安定化させることができる。
【0037】
ばね4は、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されており、ばね4の前端側領域4bの軸方向端面(以下、「前端面4e」という)の周方向一部分(前端4aから半周以上1周未満の範囲)が、内回転体3の溝底面3dに接触し、ばね4の後端側領域4cの軸方向端面(以下、「後端面4f」という)の周方向一部分(後端から1/4周程度の範囲)が、外回転体2の突出部2cの前面2c1に接触している。ばね4の軸方向の圧縮率は、例えば、20%程度である。なお、ばね4の軸方向の圧縮率とは、ばね4の自然長とプーリ構造体1に外力が作用していない状態でのばね4の軸方向長さとの差と、ばね4の自然長との比率である。
【0038】
また、ばね4の前端面4e及び後端面4fには、座研面が形成されている。座研面とは、研削加工が施されることによって形成された、ばね4の軸方向と直交する平面である。前端面4e及び後端面4fの座研面は、それぞれ、ばね4の端から周方向に約1/4周(90°)の範囲に形成されている。このように、ばね4の前端面4e及び後端面4fに座研面を形成することにより、軸方向に圧縮されているばね4の姿勢を安定させることができる。
【0039】
溝底面3dは、ばね4の前端面4eと接触できるように螺旋状に形成されている。支持溝部3cの溝底面3dと、ばね4の前端面4eとは、見かけ上、周方向全域が接触しているが、実際には、部品の加工公差によって、周方向の一部に隙間が生じることがある。部品の加工公差内での仕上り実績寸法の組み合わせによって当該隙間がゼロとなることを狙い、当該隙間は、部品の加工公差を考慮した寸法(ノミナル寸法)となっている(例えば軸方向隙間の狙い値0.35mm)。隙間をゼロにできるだけ近づけることで、ばね4が安定してねじり変形できる。そして、溝底面3dを螺旋面に形成することにより、外回転体2と内回転体と3の間で軸方向に圧縮されているばね4の姿勢を安定化させることができる。さらに、溝底面3dを螺旋面に形成することにより、振動等の外的要因によって、ばね4の中心軸が両回転体の回転軸に対して偏心や傾斜して、ばね4の姿勢が不安定になってしまうのを抑制することができる。
【0040】
一方、突出部2cの前面2c1は、後述するようにばね4の後端面4fと摺動するため、螺旋面とはなっておらず、平面となっている。
【0041】
また、ばね4の後端側領域4cの外周面と接触する圧接面2aには、溝部2dが形成されている。溝部2dは、圧接面2aの周方向の全周にわたって、前後方向と直交する平面と平行に延びている。図4(a)、(b)に示すように、溝部2dは、底部11と隅部12とを有する。
【0042】
底部11は、前方に向かうほど径が大きくなるように、前後方向に対して傾斜しており、後端において圧接面2aと接続されている。底部11の前後方向に対する傾斜角度は例えば0.5°程度である。また、外回転体2の径方向において、底部11の圧接面2aから最も離れた部分(図4(a)の左端)は、圧接面2aから40μm程度離れている。すなわち、溝部2dの最大の深さが40μm程度となっている。
【0043】
プーリ構造体1に外力が付与されていない状態では、図4(a)に示すように、ばね4の後端側領域4cの外周面は、底部11の径が最も小さい部分(圧接面2aとの接続部分、以下、この部分を頂部13とする)に接触し、底部11の頂部13よりも前方に位置する部分とは離間している。また、このとき、底部11の頂部13から遠い部分(図4(a)の左側の部分)ほど、ばね4の後端側領域4cの外周面との離間距離が大きくなっている。
【0044】
隅部12は、底部11の最も径の大きい部分である前端と、圧接面2aとを接続する部分である。隅部12の輪郭形状は、ばね4のばね線の角部4gの輪郭と同じ形状(例えば、曲率半径0.3mm程度の曲面)となっている。
【0045】
図2に示すように、前端側領域4bのうち、ばね4の前端4aから回転軸回りに90°離れた位置付近を第2領域4b2、第2領域4b2よりも前端側の部分を第1領域4b1、残りの部分を第3領域4b3という。また、ばね4の前端側領域4bと後端側領域4cの間の領域、即ち、圧接面2aと接触面3eのいずれにも接触しない領域を、自由部分4dとする。
【0046】
図2に示すように、内回転体3の前端部分には、内回転体3の周方向にばね4の前端4aと対向する当接面3fが形成されている。また、外筒部3bの内周面には、外筒部3bの径方向内側に突出して前端側領域4bの外周面と対向する突起3gが設けられている。突起3gは、第2領域4b2と対向している。
【0047】
次いで、プーリ構造体1の動作について説明する。
【0048】
先ず、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも大きくなった場合(即ち、外回転体2が加速する場合)について説明する。
【0049】
この場合、外回転体2は、内回転体3に対して正方向(図2及び図3の矢印方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域4cが、圧接面2aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が拡径方向にねじり変形(以下、「拡径変形」という)する。ばね4の後端側領域4cの圧接面2aに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大する。第2領域4b2は、ねじり応力を最も受け易く、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなると、接触面3eから離れる。このとき、第1領域4b1及び第3領域4b3は、接触面3eに圧接している。第2領域4b2が接触面3eから離れると略同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第2領域4b2の外周面が突起3gに当接する。第2領域4b2の外周面が突起3gに当接することで、前端側領域4bの拡径変形が規制され、ねじり応力がばね4における前端側領域4b以外の部分に分散され、特にばね4の後端側領域4cに作用するねじり応力が増加する。これにより、ばね4の各部に作用するねじり応力の差が低減され、ばね4全体で歪エネルギーを吸収できるため、ばね4の局部的な疲労破壊を防止できる。
【0050】
また、第3領域4b3の接触面3eに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど低下する。第2領域4b2が突起3gに当接すると略同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第3領域4b3の接触面3eに対する圧接力が略ゼロとなる。このときのばね4の拡径方向のねじり角度をθ1(例えば、θ1=3°)とする。ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1を超えると、第3領域4b3は、拡径変形することで、接触面3eから離れていく。しかし、第3領域4b3と第2領域4b2との境界付近において、ばね4が湾曲(屈曲)することはなく、前端側領域4bは円弧状に維持される。つまり、前端側領域4bは、突起3gに対して摺動し易い形状に維持されている。そのため、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなって前端側領域4bに作用するねじり応力が増加すると、前端側領域4bは、第2領域4b2の突起3gに対する圧接力及び第1領域4b1の接触面3eに対する圧接力に抗して、突起3g及び接触面3eに対して外回転体2の周方向に摺動する。そして、ばね4の前端4aが当接面3fを押圧することにより、外回転体2と内回転体3との間で確実にトルクを伝達できる。
【0051】
なお、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1以上且つθ2(例えば、θ2=45°)未満の場合、第3領域4b3は、接触面3eから離隔し且つ外筒部3bの内周面に接触しておらず、第2領域4b2は、突起3gに圧接されている。そのため、この場合、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1未満の場合に比べて、ばね4の有効巻数が大きく、ばね定数が小さい。また、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ2になると、ばね4の自由部分4dの外周面が環状面2bに当接することで、ばね4のそれ以上の拡径変形が規制されて、外回転体2及び内回転体3が一体的に回転するロック機構が働く。これにより、ばね4の拡径変形による破損を防止できる。
【0052】
また、このとき、本実施形態と異なり、軸方向において、外回転体2の環状面2bを形成している部分と、外筒部3bとの間の隙間の長さが、ばね4のばね線の長さに対して長いと、第2領域4b2の外周面が突起3gに当接しつつ、第3領域4b3の外周面が外筒部3bに当接して前端側領域4bの拡径変形が規制されるべきとき、或いは、自由部分4dの外周面が環状面2bに当接して自由部分4dの拡径変形が規制されるべきときに、ばね4のばね線が当該隙間に入り込むことで前端側領域4bや自由部分4dの拡径変形が規制されないことがある。そして、この場合には、ばね4が拡径変形によって破損してしまう虞がある。これに対して、本実施形態では、軸方向において、外回転体2の環状面2bを形成している部分と、外筒部3bとの間の隙間の長さが、ばね4のばね線の長さに対して十分に短い。したがって、ばね4のばね線が当該隙間に入り込むことがなく、ばね4の拡径変形による破損を確実に防止することができる。
【0053】
次に、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも小さくなった場合(即ち、外回転体2が減速する場合)について説明する。
【0054】
この場合、外回転体2は、内回転体3に対して逆方向(図2及び図3の矢印方向と逆の方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域4cが、圧接面2aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が縮径方向にねじり変形する(以下、「縮径変形」という)。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ3(例えば、θ3=約4°)未満の場合、後端側領域4cの圧接面2aに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干低下するものの、後端側領域4cは圧接面2aに圧接している。また、前端側領域4bの接触面3eに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干増大する。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ3以上の場合、後端側領域4cの圧接面2aに対する圧接力は略ゼロとなり、後端側領域4cは圧接面2aに対して外回転体2の周方向に摺動する。したがって、外回転体2と内回転体3との間でトルクは伝達されない(図12(a)参照)。すなわち、クラッチ(ばね4)が係合解除状態となる。
【0055】
また、第1実施形態では、上記のように、ばね4が縮径方向にねじれ変形してクラッチ(ばね4)が係合解除状態(摺動状態)となるときのばね4のねじりトルク(以下、「スリップトルクTs」とする)は、ゼロ近く(例えば1N・m程度)に設定されている。
【0056】
<効果>
ここで、第1実施形態と異なり、スリップトルクTsが、ゼロ近くに設定されずに、ばね4にねじり角度θ3よりも大きい縮径変形を生じさせるようなトルクに設定される場合を考える。具体的には、スリップトルクTsが、1N・m以上且つ10N・m以下(例えば3N・m程度)となるように設定される場合を考える。この場合には、クラッチの係合解除が、ばね4が大きく縮径変形することのある特定の運転走行パターン(例えば、エンジン始動時)に限定して行われるため、圧接面2aとばね4とが摺動する頻度が低くなり、圧接面2aのばね4と摺動する部分の摩耗を抑制できる。
【0057】
これに対して、第1実施形態のように、スリップトルクTsをゼロ近くにした場合には、クラッチの係合解除が上記の特定の運転走行パターン(例えば、エンジン始動時)に限定されず行われる。そのため、圧接面2a(クラッチ係合部)とばね4とが摺動(スリップ)する頻度が高くなる。これにより、ベルトの張力変動の吸収機能が向上し、外回転体2とベルトBとのスリップを抑制することができ、ベルトBの寿命を長くすることができる。
【0058】
しかしながら、スリップトルクTsをゼロ近くにするためには、ばね4を外回転体2と内回転体3との間に収容する際に、ばね4の後端側領域4cを縮径させる量を比較的小さくする必要がある。この場合、圧接面2a(クラッチ係合部)に対するばね4の圧接力も小さくなってしまう(例えば、圧接力指数が35程度となる)。ここで、圧接力指数とは、ばねの圧接力を、スリップトルクTsが3N・mに設定されたときの圧接力を100として指数化したものである。
【0059】
そのため、第1実施形態と異なり、圧接面2aに溝部2dが形成されていないとすると、上述したように、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が、拡径方向にねじり変形することによって、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する際に、ばね4と外回転体2との間のグリップ力が不足し、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまう虞がある。その結果、外回転体2と内回転体3との間でトルク伝達が不安定となり、エンジンのトルクが補機にスムーズに伝達されない虞がある。
【0060】
そこで、第1実施形態では、圧接面2aに底部11と隅部12とを有する溝部2dを形成している。この場合には、ばね4の後端側領域4cが拡径したときに、図4(b)に示すように、後端側領域4cの溝部2dと対向する部分のばね線が、頂部13を支点として倒れて、溝部2d内に嵌まり込む。そして、後端側領域4cの溝部2d内に嵌まり込んだ部分は、外周面において底部11に接触するのに加えて、ばね線の角部4gにおいて隅部12に接触する。これにより、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する際に、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのを抑制することができる。その結果、外回転体2と内回転体3との間でのトルク伝達が安定する。
【0061】
また、第1実施形態では、隅部12の輪郭形状が、ばね4のばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状である。したがって、ばね線の角部4gと隅部12とが接触するときのばね線の角部4gと隅部12との密着性が高くなり、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を十分に確保することができる。
【0062】
また、第1実施形態の場合には、底部11が、前方に向かうほど、外回転体2の径方向において圧接面2aから離れるように、前後方向に対して傾いている。したがって、図4(b)に示すように、ばね4の溝部2dと対向する部分のばね線は、ばね4のこの部分よりも前方に位置する部分のばね線に近づくように傾く。その結果、後端側領域4cにおけるばね線の螺旋方向の、前後方向と直交する平面に対する傾斜角度が小さくなる(当該平面と平行な方向に近づく)。
【0063】
これに対して、第1実施形態では、溝部2dが、圧接面2aの周方向の全周にわたって、前後方向と直交する平面と平行に延びている。これにより、ばね線の螺旋方向が、当該平面と近くなった後端側領域4cが、溝部2dに嵌まり込みやすい。すなわち、後端側領域4cが、外周面において底部11と接触し、ばね線の角部4gにおいて隅部12と接触する状態になりやすい。これにより、ばね4と外回転体2との間のグリップ力をより確実に確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのをより確実に抑制することができる。
【0064】
[第2実施形態]
次に、本発明の好適な第2実施形態について説明する。図5図6(a)、(b)に示すように、第2実施形態に係るプーリ構造体20は、圧接面2aに形成される溝部2eの形状が第1実施形態の溝部2dと異なる点がプーリ構造体1と異なるだけであるので、以下では、主に溝部2eについて説明する。
【0065】
図5に示すように、溝部2eは、圧接面2aの周方向の全周にわたって、前後方向と直交する平面と平行に延びている。また、図6(a)、(b)に示すように、溝部2eは、底部21と隅部22とを有する。底部21は、後方に向かうほど、径が大きくなるように、前後方向に対して傾斜しており、前端において圧接面2aと接続されている。底部11の前後方向に対する傾斜角度は例えば0.5°程度である。また、外回転体2の径方向において、底部21の圧接面2aから最も離れた部分(図6(a)の右端)は、圧接面2aから40μm程度離れている。すなわち、溝部2dの最大の深さが40μm程度となっている。
【0066】
プーリ構造体20に外力が付与されていない状態では、図6(a)に示すように、ばね4の後端側領域4cの外周面は、底部11の径が最も小さい部分(圧接面2aとの接続部分、以下、この部分を頂部23とする)に接触し、底部21の頂部23よりも後方に位置する部分とは離間している。また、このとき、底部21の頂部23から遠い部分(図6(a)の右側の部分)ほど、ばね4の後端側領域4cの外周面との離間距離が大きくなっている。
【0067】
隅部22は、底部21の最も径の大きい部分である後端と、圧接面2aとを接続する部分である。隅部22の輪郭形状は、ばね4のばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状(例えば、曲率半径0.3mm程度の曲面)となっている。
【0068】
そして、図6(b)に示すように、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が、拡径方向にねじり変形したとき(外回転体2と内回転体との間でトルクを伝達する際)に、後端側領域4cの溝部2eと対向する部分が、頂部23を支点として倒れて、溝部2e内に嵌まり込む。これにより、後端側領域4cの溝部2e内に嵌まり込んだ部分は、外周面において底部21に接触するのに加えて、ばね線の角部4gにおいて隅部22に接触する。これにより、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する際に、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのを抑制することができる。その結果、外回転体2と内回転体3との間でのトルク伝達が安定する。
【0069】
また、第2実施形態では、隅部22の輪郭形状が、ばね4のばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状である。したがって、ばね線の角部4gと隅部22が接触するときのばね線の角部4gと隅部22との密着性が高くなり、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を十分に確保することができる。
【0070】
[第3実施形態]
次に、本発明の好適な第3実施形態について説明する。図7図8(a)、(b)に示すように、第3実施形態に係るプーリ構造体30は、圧接面2aに形成される溝部2fの形状が第1、第2実施形態の溝部2d、2eと異なる点が、第1、第2実施形態のプーリ構造体1、20と異なるだけであるので、以下では、主に溝部2fについて説明する。
【0071】
図7に示すように、溝部2fは、圧接面2aの周方向に沿って、左巻きの螺旋状に延びている。また、溝部2fの前後方向のピッチは、ばね4のばね線の前後方向のピッチとほぼ等しくなっている。また、図8(a)、(b)に示すように、溝部2fは、底部31と隅部32とを有する。底部31は、前方に向かうほど、径が大きくなるように、前後方向に対して傾斜しており、後端において圧接面2aと接続されている。底部31の前後方向に対する傾斜角度は例えば0.5°程度である。また、外回転体2の径方向において、底部31の圧接面2aから最も離れた部分(図8(a)の左端)は、圧接面2aから40μm程度離れている。すなわち、溝部2fの最大の深さが40μm程度となっている。
【0072】
プーリ構造体30に外力が付与されていない状態では、図8(a)に示すように、ばね4の後端側領域4cの外周面は、底部31の径が最も小さい部分(圧接面2aとの接続部分、以下、この部分を頂部33とする)に接触しており、底部31の頂部33よりも前方に位置する部分とは離間している。また、このとき、底部31の頂部33から遠い部分(図8(a)の左側の部分)ほど、ばね4の後端側領域4cの外周面との離間距離が大きくなっている。
【0073】
隅部32は、底部31の最も径の大きい部分である前端と、圧接面2aとを接続する部分である。隅部32の輪郭形状は、ばね4のばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状(例えば、曲率半径0.3mm程度の曲面)となっている。
【0074】
そして、第3実施形態では、図8(b)に示すように、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が拡径方向にねじり変形したとき(外回転体2と内回転体との間でトルクを伝達する際)に、後端側領域4cの溝部2fと対向する部分が、頂部33を支点として倒れて、溝部2f内に嵌まり込む。これにより、後端側領域4cの溝部2f内に嵌まり込んだ部分は、外周面において底部31に接触するのに加えて、ばね線の角部4gにおいて隅部32に接触する。これにより、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する際に、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのを抑制することができる。その結果、外回転体2と内回転体3との間でのトルク伝達が安定する。
【0075】
また、第3実施形態では、隅部32の輪郭形状が、ばね4のばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状である。したがって、ばね線の角部4gと隅部32とが接触するときのばね線の角部4gと隅部32との密着性が高くなり、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を十分に確保することができる。
【0076】
また、第3実施形態の場合には、溝部2fが螺旋状に延びており、溝部2fの前後方向のピッチが、ばね4のばね線の前後方向のピッチとほぼ等しくなっている。これにより、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が拡径方向にねじり変形したときに、ばね4は、少なくとも内回転体3に対して1周相対回転するまでに、上述したように、後端側領域4cの溝部2fと対向する部分が溝部2fに嵌まり込む。これにより、ばね4と外回転体2との間のグリップ力をより確実に確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのをより確実に抑制することができる。
【0077】
[第4実施形態]
次に、本発明の好適な第4実施形態について説明する。図9図10(a)、(b)に示すように、第4実施形態に係るプーリ構造体40は、圧接面2aに形成される溝部2gの形状が第1~第3実施形態の溝部2d、2e、2fと異なる点が、第1~第3実施形態のプーリ構造体1、20,30と異なるだけであるので、以下では、主に溝部2gについて説明する。
【0078】
図9に示すように、溝部2gは、圧接面2aの周方向に沿って左巻きの螺旋状に延びている。また、溝部2gの前後方向のピッチは、ばね4のばね線の前後方向のピッチとほぼ等しくなっている。また、図10(a)、(b)に示すように、溝部2gは、底部41と隅部42とを有する。底部41は、後方に向かうほど、径が大きくなるように、前後方向に対して傾斜しており、前端において圧接面2aと接続されている。底部41の前後方向に対する傾斜角度は例えば0.5°程度である。また、外回転体2の径方向において、底部31の圧接面2aから最も離れた部分(図10(a)の右端)は、圧接面2aから40μm程度離れている。すなわち、溝部2gの最大の深さが40μm程度となっている。
【0079】
プーリ構造体40に外力が付与されていない状態では、図10(a)に示すように、ばね4の後端側領域4cの外周面は、底部41の径が最も小さい部分(圧接面2aとの接続部分、以下、この部分を頂部43とする)に接触しており、底部41の頂部43よりも後方に位置する部分とは離間している。また、このとき、底部41の頂部43から遠い部分(図10(a)の右側の部分)ほど、ばね4の後端側領域4cの外周面との離間距離が大きくなっている。
【0080】
隅部42は、底部41の最も径の大きい部分である後端と、圧接面2aとを接続する部分である。隅部42の輪郭形状は、ばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状(例えば、曲率半径0.3mm程度の曲面)となっている。
【0081】
そして、第4実施形態では、図10(b)に示すように、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が拡径方向にねじり変形したとき(外回転体2と内回転体との間でトルクを伝達する際)に、後端側領域4cの溝部2gと対向する部分が、頂部43を支点として倒れて、溝部2g内に嵌まり込む。これにより、後端側領域4cの溝部2g内に嵌まり込んだ部分は、外周面において底部41に接触するのに加えて、ばね線の角部4gにおいて隅部42に接触する。これにより、外回転体2と内回転体との間でトルクを伝達する際に、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのを抑制することができる。その結果、外回転体2と内回転体3との間でのトルク伝達が安定する。
【0082】
また、第4実施形態では、隅部42の輪郭形状が、ばね4のばね線の角部4gの輪郭形状と同じ形状である。したがって、ばね線の角部4gと隅部42とが接触するときのばね線の角部4gと隅部42との密着性が高くなり、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を十分に確保することができる。
【0083】
また、第4実施形態の場合には、溝部2gが螺旋状に延びており、溝部2gの前後方向のピッチが、ばね4のばね線の前後方向のピッチとほぼ等しくなっている。これにより、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が拡径方向にねじり変形したときに、ばね4は、少なくとも内回転体3に対して1周相対回転するまでには、上述したように、後端側領域4cの溝部2gと対向する部分が溝部2gに嵌まり込む。これにより、ばね4と外回転体2との間のグリップ力をより確実に確保することができ、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)が生じてしまうのをより確実に抑制することができる。
【実施例
【0084】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0085】
<実施例1~4>
実施例1~4のプーリ構造体は、上記第1~第4実施形態のプーリ構造体1、20,30、40と同様の構成である。これらのプーリ構造体では、コイルばね(4)のばね線を、ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠)とした。また、ばね線を、台形線として、内径側軸方向長さを3.8mmとし、外径側軸方向長さを3.6mmとし、径方向長さを5.0mmとした。コイルばね(4)の巻き数は7巻きとし、巻き方向は左巻きとした。また、ばね(4)の軸方向の圧縮率を、約20%とした。
【0086】
また、外回転体(2)を、材質が炭素鋼(S45C)であり、軟窒化処理による表面硬化処理を施したものとした。具体的には、表面処理前の外回転体(2)の表面硬度がHV200程度であるのに対して、表面処理後の表面硬度はHV600程度であった。また、上記の通り、実施例1~4では、スリップトルク(Ts)が1N・m程度に設定されるように、ばね(4)を外回転体(2)と内回転体(3)との間に収容する際に、ばね(4)の後端側領域(4c)を縮径させる量を比較的小さくした。
【0087】
<比較例>
比較例のプーリ構造体は、圧接面(2a)に溝部が形成されていない点が、実施例1~4のプーリ構造体と異なる。それ以外の点については、比較例のプーリ構造体を、実施例1~4のプーリ構造体と同じ構成とした。
【0088】
<参考例>
参考例のプーリ構造体は、圧接面(2a)に溝部が形成されていない点が、実施例1~4のプーリ構造体と異なる。また、参考例のプーリ構造体は、スリップトルク(Ts)が3N・m程度に設定されるように、ばね(4)を外回転体(2)と内回転体(3)との間に収容する際に、ばね(4)の後端側領域(4c)を縮径させる量を大きくした点が、実施例1~4のプーリ構造体と異なる。それ以外の点については、参考例のプーリ構造体を、実施例1~4のプーリ構造体と同じ構成とした。
【0089】
そして、実施例1~4、比較例及び参考例について、図11に示す耐摩耗試験装置100を用いてばね(4)のねじり角度とねじりトルクとの関係の測定を行った。耐摩耗試験装置100は、モータ101、トルク計102、エンコーダ103、軸受104、固定具105、データロガー106及びPC(Personal Computer)107を含む。対象となるプーリ構造体は、モータ101の軸101aの先端に取り付けられる。
【0090】
トルク計102は、軸101aに取り付けられており、データロガー106及びPC107と電気的に接続されている。トルク計102は、軸101aのトルク値(後述する図12(a)~図12(c)における、ねじりトルクに相当)を示すトルク信号をデータロガー106及びPC107に送信する。
【0091】
エンコーダ103は、軸101aに取り付けられており、データロガー106及びPC107と電気的に接続されている。エンコーダ103は、軸101aの回転角度(図12(a)~図12(c)における、ねじり角度に相当)を示す回転角度信号をデータロガー106及びPC107に送信する。
【0092】
固定具105は、一対のブロック105a,105bを含む。各ブロック105a,105bは、例えば金属からなり、V字状の凹面を有する。一対のブロック105a,105bは、凹面同士が対向するように配置され、軸101aの先端に取り付けられたプーリ構造体を挟持した状態で、凹面同士の対向方向に互いに近づく方向に押圧されることにより、プーリ構造体の外回転体(2)を回転不能に固定する。
【0093】
そして、実施例1~4、比較例及び参考例のプーリ構造体について、それぞれ、上述したように、固定具105により、外回転体(2)を回転不能に固定する。そして、モータ101を駆動して、軸101aとともに内回転体(3)を回転させる。このとき、軸101aの回転数(外回転体と内回転体との相対回転速度)を2rpmとした。また、このときの雰囲気温度を25±5℃とした。
【0094】
内回転体(3)の回転についてより詳細に説明すると、回転不能に固定された外回転体(2)に対して内回転体(3)を上記逆方向に相対回転させ、ばね(4)の縮径方向のねじり角度が30°となるまでの内回転体(3)のトルク値の変化を、トルク計102を用いて検出する。検出されたトルク値の変化は、トルク計102から送信される信号により、データロガー106に記録される。なお、図12(a)~(c)の「-30°」のような負の値で示すねじり角度は、縮径方向のねじり角度であることを示している。
【0095】
続いて、内回転体(3)を回転不能に固定された外回転体(2)に対して上記正方向に相対回転させ、ばね(4)のねじり角度がθ2(約70°)となるまでの内回転体(3)のトルク値の変化を、トルク計102を用いて検出する。検出されたトルク値の変化は、トルク計102から送信される信号により、データロガー106に記録される。ここで、拡径方向のねじり角度θ2(約70°)というのは、実施例1~4及び参考例における最大のねじり角度(上述のロック機構が働くときのねじり角度)のことである。
【0096】
そして、データロガー106に記録されたトルク値の変化をPC107で処理することによって、図12(a)~図12(c)のばね(4)のねじり角度とねじりトルクとの関係を示すグラフを得た。図12(a)が実施例1~4のグラフであり、図12(b)が比較例のグラフ、図12(c)が参考例のグラフである。
【0097】
図12(a)、図12(b)に示すように、実施例1~4及び比較例では、スリップトルク(Ts)が1N・m程度に設定されることが確認できた。また、実施例1~4及び比較例では、スリップトルク(Ts)が1N・m程度になったときの、縮径方向のねじり角度θ3は約4°であった。つまり、実施例1~4及び比較例では、縮径方向のねじり角度がθ3(約4°)から約30°までの間、ねじりトルク1N・m程度に維持され、ばね(4)が係合解除状態(摺動状態)となっていることが確認できた。
【0098】
図12(c)に示すように、参考例では、スリップトルク(Ts)が3N・m程度に設定されていることが確認できた。また、参考例では、スリップトルク(Ts)が3N・m程度になったときの、縮径方向のねじり角度θ4は約10°であった。つまり、参考例については、縮径方向のねじり角度がθ4(約10°)から約30°までの間、ねじりトルク3N・m程度に維持され、ばね(4)が係合解除状態(摺動状態)となっていることが確認できた。
【0099】
一方、図12(a)に示す、実施例1~4のプーリ構造体における、ばねのねじり角度とねじりトルクとの関係から、スリップトルク(Ts)がゼロ近くの1N・m程度に設定されていても、クラッチ係合状態において、ばね(4)と外回転体(2)との間に滑り(空転)は無く、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクの伝達が不安定となるのを抑制できていることがわかった。
【0100】
これに対して、図12(b)に示す、比較例のプーリ構造体における、ばねのねじり角度とねじりトルクとの関係から、クラッチ係合状態において、ばね(4)と外回転体(3)との間に滑り(空転)が生じ(このときのねじりトルク12N・m程度)、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクの伝達が不安定になることがわかった。
【0101】
また、比較例では、上述したように、クラッチ係合状態において、ばね(4)と外回転体(2)との間に滑り(空転)が生じることから、ばね(4)の拡径方向のねじり角度がθ2(約70°)となった状態でも、上述のロック機構が働いた状態とはなっていない。なお、ばね(4)の拡径方向のねじり角度がθ2(約70°)となったときのねじりトルクは、実施例1~4及び参考例では20N・m程度であったのに対して、比較例では15N・m程度であった。
【0102】
なお、図12(b)に示す関係では、上記滑り(空転)が1度だけ生じたあとは、上記滑り(空転)が生じることなく、ばねがねじり角度θ2(約70°)まで拡径変形した。ただし、ばね(4)に入力されるねじりトルクの大きさと、ばね(4)の後端側領域(4c)とクラッチ係合部との間のグリップ力の大きさとの兼ね合いや、2つの回転体の相対回転速度の水準等によって、クラッチ係合状態において、上記滑り(空転)が生じる際のねじり角度、滑り(空転)の程度、滑り(空転)の頻度等が変化し得る。
【0103】
そのため、例えば、ばね(4)に入力されるねじりトルクの大きさの方が、ばね(4)の後端側領域(4c)とクラッチ係合部との間のグリップ力の大きさよりも過度に大となった場合や、2つの回転体の相対回転速度の水準が比較的大きくなった場合は、ばね(4)がねじり角度θ2(約70°)まで拡径変形する間に、上記滑り(空転)が頻発し、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクの伝達が更に不安定になり得る。
【0104】
そして、図12(a)の実施例1~4の結果と、図12(b)の比較例の結果とを比較すれば、圧接面(クラッチ係合部)に溝部を形成することにより、スリップトルク(Ts)がゼロ近くに設定されていても、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクが伝達されるクラッチ係合状態において、ばね(4)の後端側領域(4c)と外回転体(2)との間の係合力(グリップ力)を確保できることが分かった。
【0105】
なお、図12(c)に示す参考例の結果から、スリップトルク(Ts)が比較的大きい3N・m程度に設定されている場合には、圧接面(クラッチ係合部)に溝部が形成されていなくても、クラッチ係合状態において、ばね(4)と外回転体(2)との間に滑り(空転)は無く、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクが安定して伝達されていることがわかった。このことから、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクを伝達する際に、ばね(4)と外回転体(2)との間に滑り(空転)が生じて、外回転体(2)と内回転体(3)との間でトルクの伝達が不安定となるという問題は、スリップトルク(Ts)が小さくなるように設定された場合に起こりやすいものであることが分かった。
【0106】
以上、本発明の好適な第1~第4実施形態について説明したが、本発明は、第1~第4実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の限りにおいて様々な変更が可能である。
【0107】
第1~第4実施形態では、隅部の輪郭形状が、ばね4の後端側領域4cにおけるばね線の断面の角部の輪郭形状と同じ形状であったが、これには限られない。ばね4の後端側領域4cが溝部に嵌まり込んだときに、隅部の輪郭形状は、ばね4のばね線の角部4gが隅部に接触する形状であれば、角部4gの輪郭形状と異なる形状であってもよい。
【0108】
第1~第4実施形態では、スリップトルクTsが1N・m程度となるように設定されていたが、これには限られない。スリップトルクTsは1N・mよりも小さくなるように設定されていてもよい。この場合には、第1~第4実施形態の場合よりもさらに、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する際に、ばねと圧接面2aとの間のグリップ力が小さく、ばね4と外回転体2との間に滑り(空転)がより生じやすい。したがって、圧接面2aに溝部を設けて上記グリップ力を確保する意義は大きい。
【0109】
あるいは、スリップトルクは1N・mよりも大きくてもよい。この場合でも、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する際に、ばね4と外回転体2との間のグリップ力を大きくできるため、外回転体2と内回転体3との間でトルクの伝達が不安定となるのを抑制する効果が得られる。
【0110】
また、第1~第4実施形態では、プーリ構造体に外力が付与されていない状態で、ばね4の後端側領域4cが圧接面2aと底部との接続部分である頂部と接触していたが、これには限られない。プーリ構造体に外力が付与されていない状態で、ばね4の後端側領域4cが頂部と離間していてもよい。この場合には、外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転し、ばね4が拡径方向にねじり変形したとき(外回転体2と内回転体との間でトルクを伝達する際)に、ばね4の後端側領域4cが頂部に接触した後、上述したのと同様に、後端側領域4cの溝部と対向する部分が、頂部を支点として倒れて、溝部内に嵌まり込む。
【0111】
また、第1~第4実施形態では、外回転体2がクラッチ係合部としての圧接面2aを備えていたが、これには限られない。内回転体がばねと摺動するクラッチ係合部を備えていてもよい。
【0112】
また、第1~第4実施形態では、ばね4が拡径方向にねじり変形したときに係合状態となり、ばね4が縮径方向にねじり変形したときに係合解除状態となるように構成されていたが、これには限られない。ばね4が縮径方向にねじり変形したときに係合状態となり、ばね4が拡径方向にねじり変形したときに外回転体2又は内回転体3と摺動することにより係合解除状態となるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1 プーリ構造体
2 外回転体
2d 溝部
3 内回転体
4 ばね
11 底部
12 隅部
20 プーリ構造体
2e 溝部
21 底部
22 隅部
30 プーリ構造体
2f 溝部
31 底部
32 隅部
40 プーリ構造体
2g 溝部
41 底部
42 隅部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12