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特許7160767打込式注入管、打込式注入管用二重管、および土壌浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】打込式注入管、打込式注入管用二重管、および土壌浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20221018BHJP
   B09C 1/06 20060101ALI20221018BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B09C1/02
B09C1/06
B09C1/10 ZAB
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019131163
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021013911
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-03-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載日 令和 1年 6月28日 掲載アドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/subject/VII-19/advanced http://committees.jsce.or.jp/zenkoku/taxonomy/term/5
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
(72)【発明者】
【氏名】須網 功二
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159259(JP,A)
【文献】特開2018-069204(JP,A)
【文献】特開2010-000454(JP,A)
【文献】特開2000-354854(JP,A)
【文献】特開平08-309332(JP,A)
【文献】特開2005-245344(JP,A)
【文献】特開2018-131843(JP,A)
【文献】特開2015-155614(JP,A)
【文献】特開2006-283309(JP,A)
【文献】特開2020-067276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端コーン、無孔鋼管、有孔鋼管、二重管、異径管継手を有し、
前記二重管が、内側の小径無孔鋼管、外側の非導電性樹脂パイプからなり、
前記異径管継手が導電性であり、前記小径無孔鋼管と、前記無孔鋼管または前記有孔鋼管とを接続することを特徴とする打込式注入管。
【請求項2】
前記無孔鋼管、前記有孔鋼管、前記二重管の外径が、いずれも61mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の打込式注入管。
【請求項3】
前記無孔鋼管、前記有孔鋼管、前記二重管の外径の最大値と最小値との差が、1mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の打込式注入管。
【請求項4】
内側に小径無孔鋼管、外側に非導電性樹脂パイプを備える二重管であることを特徴とする打込式注入管用二重管。
【請求項5】
有機化合物で汚染された土壌について、土壌調査を実施し、低透水性汚染層、高透水性汚染層、非汚染層の深さ位置を確認する調査工程、
複数本の請求項1~3のいずれかに記載の打込式注入管を、前記無孔鋼管、前記有孔鋼管、前記二重管が、それぞれ前記低透水性汚染層、前記高透水性汚染層、前記非汚染層の深さ位置となるように接続しながら、土壌に打込む打込工程、
前記複数本の打込式注入管に電圧を印加して、前記低透水性汚染層と前記高透水性汚染層を加温する加温工程、
前記打込式注入管の前記有孔鋼管から、前記高透水性汚染層に浄化剤を注入する注入工程、
を有することを特徴とする土壌浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打込式注入管と、この打込式注入管の部材である打込式注入管用二重管、この打込式注入管を用いた土壌浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中に拡散した化学汚染物質を、非掘削(原位置)で浄化する技術として、汚染物質の回収(土壌ガス吸引、スパージング、揚水(循環)処理、気液混合抽出法)、汚染物質の化学分解(酸化剤注入、鉄粉混合)、生物分解(バイオスパージング、有機物供給による嫌気脱塩素処理)、土壌加熱法(スチーム法、直接加熱法、電気加温法)などがある。これらの原位置浄化技術は、塩素化エチレン類に代表される揮発性有機塩素化合物によって汚染された帯水層(地下水が存在する層)が対象となる場合が多い。これは、1)テトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)などの塩素化エチレン類が幅広い業種で洗浄剤などとして過去に利用され、それらが漏洩して生じた汚染例が多い、2)地盤内で分解が遅く、分解で生じるシス-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)やクロロエチレン(VCM)などの分解副成物も環境規制物質であるため、長期的に残留する(化1参照)、3)水より比重が重く、液体の粘性も低いため、地下深部に移行しやすい、等の理由による。
【0003】
【化1】
【0004】
汚染物質である揮発性有機塩素化合物が、地盤に浸透する過程で透水性の低い粘土層やシルト層などが存在すると、汚染物質が透水性の低い層に浸透、濃縮されて、低透水性汚染層となる。低透水性汚染層は、上下(特に上層)の帯水層(砂層などの地下水が流れやすい層)に対して長期的に汚染物質を供給する汚染源となる。そのため、地下水が長期的に汚染されることを防止するためには、低透水性汚染層に浸透した揮発性有機塩素化合物の濃度を低減する必要がある。
【0005】
近年、低透水性汚染層を浄化する方法として、土壌加熱法が着目されている(特許文献1)。土壌加熱法は、土壌を加熱することで、粘土層やシルト層に存在する揮発性有機塩素化合物を加温して移行速度を高め、または、さらに加温して気化させることによって揮発性有機塩素化合物を粘土層やシルト層から溶脱して水相もしくは気相に移行させ、移行した揮発性有機塩素化合物を揚水(気液混合抽出)によって回収するものである。
土壌加熱法は、浄化対象とする地盤の温度を確実に設定した温度まで上昇させることができれば、他の浄化工法と比べても安定して浄化を行える技術である。一方、効率を高めるためには温度が高い方が有利であるが、使用する電力も多くなるため、コストが割高になることが課題である。電力消費量を削減する方法として、特許文献2には、電極の一部の外周に非導電部を設け、汚染されていない領域を加熱しない技術が提案されている。
【0006】
一方、有害化学物質に汚染された土壌及び地下水を微生物によって浄化する生物分解法(バイオレメディエーション)が、環境負荷及び浄化コストの小さい方法として注目されている。例えば、本発明者らは、特許文献3~5に、揮発性有機塩素化合物の脱塩素化、分解が可能な菌を報告している。ここで、塩素化エチレン類の生物分解には、「テトラクロロエチレン(PCE)→トリクロロエチレン(TCE)→シス-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)→塩化ビニルモノマー(VCM)→エチレン」という還元的脱塩素化反応により塩素化エチレン類を無害化する嫌気性脱塩素化菌が必要である。しかし、PCE、TCEを、cis-DCEまで分解できる菌は、多くの種類が存在するのに対し、cis-DCEをエチレンまで分解できる菌は、Dehalococcoides属細菌しか報告されておらず、土壌中で生物分解により塩素化エチレン類をエチレンまで処理する期間が長くなる場合が多い。
【0007】
特許文献6には、土壌加熱法と生物分解法を組み合わせた土壌浄化方法が、提案されている。この方法は、土壌を50~70℃に加熱し、気化した塩素化エチレン類を土壌中に生息する微生物によりcis-DCEまで分解し、土壌中で生じたcis-DCEを地上に吸引、回収して処理するものである。これは、PCE、TCEを、cis-DCEまで分解できるClostridium属細菌は50~70℃でも分解活性を有するのに対し、cis-DCEをエチレンまで分解できるDehalococcoides属細菌は、50~70℃では分解活性を発揮できないため、特許文献6に記載された方法では、土壌中でcis-DCE以降の脱塩素化処理を微生物によって行うことができないためである。そのため、特許文献6に記載された方法は、揚水したcis-DCEを含む汚染水を何らかの方法で回収し、地上で処理する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-231050号公報
【文献】特開2016-159259号公報
【文献】特開2004-173549号公報
【文献】特開2004-350529号公報
【文献】特開2014-108061号公報
【文献】特開2015-112556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
土壌加熱法と生物分解法を組み合わせた効率的でコストの安い土壌浄化方法を可能とする打込式注入管と、この打込式注入管の部材である打込式注入管用二重管、この打込式注入管を用いた土壌浄化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決する手段は、以下の通りである。
1.先端コーン、無孔鋼管、有孔鋼管、二重管、異径管継手を有し、
前記二重管が、内側の小径無孔鋼管、外側の非導電性樹脂パイプからなり、
前記異径管継手が導電性であり、前記小径無孔鋼管と、前記無孔鋼管または前記有孔鋼管とを接続することを特徴とする打込式注入管。
2.前記無孔鋼管、前記有孔鋼管、前記二重管の外径が、いずれも61mm以下であることを特徴とする1.に記載の打込式注入管。
3.前記無孔鋼管、前記有孔鋼管、前記二重管の外径の最大値と最小値との差が、1mm以下であることを特徴とする1.または2.に記載の打込式注入管。
4.内側に小径無孔鋼管、外側に非導電性樹脂パイプを備える二重管であることを特徴とする打込式注入管用二重管。
5.有機化合物で汚染された土壌について、土壌調査を実施し、低透水性汚染層、高透水性汚染層、非汚染層の深さ位置を確認する調査工程、
複数本の1.~3.のいずれかに記載の打込式注入管を、前記無孔鋼管、前記有孔鋼管、前記二重管が、それぞれ前記低透水性汚染層、前記高透水性汚染層、前記非汚染層の深さ位置となるように接続しながら、土壌に打込む打込工程、
前記複数本の打込式注入管に電圧を印加して、前記低透水性汚染層と前記高透水性汚染層を加温する加温工程、
前記打込式注入管の前記有孔鋼管から、前記高透水性汚染層に浄化剤を注入する注入工程、
を有することを特徴とする土壌浄化方法。
6.前記加温工程において、前記低透水性汚染層を35℃以上、前記高透水性汚染層を20℃以上35℃以下に加温することを特徴とする5.に記載の土壌浄化方法。
7.前記有機化合物が、揮発性有機塩素化合物であることを特徴とする5.または6.に記載の土壌浄化方法。
8.前記浄化剤が、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属細菌を含むことを特徴とする5.~7.のいずれかに記載の土壌浄化方法。
9.前記注入工程において、前記有孔鋼管から、前記高透水性汚染層に空気を供給することを特徴とする5.または6.に記載の土壌浄化方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の打込式注入管は、無孔鋼管が土壌加熱法における加熱部位、有孔鋼管が生物分解法における注入井戸として機能する。本発明の打込式注入管を用いることにより、電極となる鋼材と注入井戸の両方を掘削する必要がないため、資材量、施工量、施工時間を低減することができる。また、本発明の打込式注入管は、二重管の外側に非導電性樹脂パイプを備えており、この二重管は加熱部位として作用しないため、加熱が不要な層に電流を流さずに、加熱が必要な層のみに電流を流すことができる。
無孔鋼管、有孔鋼管、二重管の外径が、いずれも61mm以下である打込式注入管は、比較的小さな力で地盤に打込むことができるため、打込に使用する機械の小型化と、機械の小型化に伴う騒音、振動の低減を実現することができる。無孔鋼管、有孔鋼管、二重管の外径の最大値と最小値との差が1mm以下である打込式注入管は、その外径が略同一で側面の段差が小さいため、地盤に打込む際の抵抗を最小限にすることが可能であり、管の破損を防ぐことができる。
【0012】
本発明の打込式注入管に電圧を印加するだけで、特別な制御、操作をすることなく、低透水性汚染層をより高温に、高透水性汚染層をより低温に加熱することができる。そして、低透水性汚染層における有機化合物の溶脱と、高透水性汚染層における微生物分解のいずれも促進することができるため、効率的に有機化合物の処理を行うことができる。この際、高透水性汚染層に、デハロコッコイデス属細菌を含む浄化剤を注入することにより、塩素化エチレン類を地盤中でエチレンまで処理することができ、cis-DCEを含む汚染水の揚水、揚水した汚染水の地上での処理を不要とすることができる。また、空気(酸素)を供給することにより、好気性微生物による分解処理や汚染物質の気化回収を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の打込式注入管の模式図。
図2】本発明の土壌浄化方法の概略図。
図3】実験1における塩素化エチレン類濃度の経時変化を示す図。
図4】実施例1の実施現場における土壌断面の概略図。
図5】実施例1の実施現場の平面概略図。
図6】実施例1のエリア1における土壌の温度測定の結果を示す図。
図7】実施例1のエリア2における土壌の温度測定の結果を示す図。
図8】実施例1のエリア1における打込式注入管に流れた電流量を示す図。
図9】実施例1のエリア2における打込式注入管に流れた電流量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
・打込式注入管
図1に本発明の打込式注入管の一実施態様である模式図を示す。
一実施態様である打込式注入管1は、先端コーン15、無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13、異径管継手14を有し、二重管13が、内側の小径無孔鋼管131と外側の非導電性樹脂パイプ132からなり、異径管継手14が、導電性であり、小径無孔鋼管131と、無孔鋼管11または有孔鋼管12とを接続する。
なお、図1に示す打込式注入管1は一実施態様であり、本発明の打込式注入管において、無孔鋼管、有孔鋼管、二重管の接続数、接続順は、下記で詳述するように、無孔鋼管が低透水性汚染層、有孔鋼管が高透水性汚染層、二重管が非汚染層に設置されるように選択される。
【0015】
先端コーン15は、土壌に杭や管を挿入する際に使用されるものを特に制限することなく使用することができる。
無孔鋼管11は、黒管(亜鉛メッキが施されていない炭素鋼鋼管)、白管(亜鉛メッキが施されている炭素鋼鋼管)等の導電性の鋼管を特に制限することなく使用することができる。
有孔鋼管12は、黒管、白管等の導電性の鋼管の側面に、開口を備えるものである。有孔鋼管としては、開口を通じて浄化剤を土壌中に注入できるものを特に制限することなく使用することができる。例えば、特開2012-193534号公報に記載の管体の外周に、管体の長尺方向が長さ方向となる細長い矩形状のスリットが複数形成され、スリット幅が0.2mm以上0.6mm以下であり、複数のスリットの総開口面積が管体の内空断面積の3倍以下である有孔管材を好適に使用することができる。
【0016】
二重管13は、内側に小径無孔鋼管131、外側に非導電性樹脂パイプ132を備える。小径無孔鋼管131は、黒管、白管等の導電性の鋼管を特に制限することなく使用することができる。非導電性樹脂パイプ132は、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル等の非導電性樹脂からなるパイプを特に制限することなく使用することができる。小径無孔鋼管131は、非導電性樹脂パイプ132に挿入しやすいように、その外径が、非導電性樹脂パイプの内径よりも1mm以上小さいことが好ましい。
【0017】
異径管継手14は、小径無孔鋼管131と、無孔鋼管11または有孔鋼管12とを接続するものであり、導電性である。本発明の打込式注入管は、無孔鋼管11、有孔鋼管12、小径無孔鋼管131、異径管継手14の全てが導電性であるため、電極として作用することができる。異径管継手14を形成する導電性部材は特に制限されないが、強度、コストの点から金属であることが好ましい。また、異径管継手14は、管形状であり、下記で詳述するように、内部を浄化剤が通ることができる。
異径管継手14は、大径部141と小径部142とを備え、大径部141は小径無孔鋼管131と、小径部142は無孔鋼管11または有孔鋼管12と接続される。なお、図1に示す異径管継手14は一態様であり、例えば、非汚染層より上方に低透水性汚染層または高透水性汚染層が位置する場合は、下方の小径無孔鋼管と、上方の無孔鋼管または有孔鋼管を接続できる異径管継手を用いる。
【0018】
無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13(非導電性樹脂パイプ132)の外径は、61mm以下であることが好ましく、49mm以下であることがより好ましい。これらの外径が小さいほど、打込式注入管1の打込みに必要な力が小さくなる。また、各管の外径は30mm以上であることが好ましい。各管の外径が30mm未満では、管が折れる、曲がる等の不都合が生じやすくなる。また、無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13の外径の最大値と最小値との差は、1mm以下であることが好ましく、0.6mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましい。各管の外径の最大値と最小値との差が1mmより大きいと、打込む際に各管の接続箇所に存在する段差に大きな力が加わり、打込式注入管1が破損しやすくなる。上記した条件を満足するものとして、(1)無孔鋼管と有孔鋼管として40A(外径48.6mm、内径38.4mm)、小径無孔鋼管として32A(外径42.7mm、内径33.5mm)、非導電性樹脂パイプとしてVU40(塩ビ薄肉管、外径48.0mm、内径44.0mm)、または(2)無孔鋼管と有孔鋼管として50A(外径60.5mm、内径43.1mm)、小径無孔鋼管として40A(外径48.6mm、内径38.4mm)、非導電性樹脂パイプとしてVP50(塩ビ厚肉管、外径60.0mm、内径51.8mm)の組み合わせを使用することが、いずれも市販品であるため、容易に入手可能、かつ、低コストである点から好ましく、より小径であることから上記(1)の組み合わせで使用することがより好ましい。
【0019】
無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13の長さは、特に制限されないが、一般的に使用されるバイブロドリル、サイレントパイラー等の打込機を用いて打込む場合は、1m以上1.5m以下であることが、各管を継ぎ足しながら打込むことができるため好ましい。この際、各管は、螺合により接続できることが好ましい。螺合により接続するには、無孔鋼管11、有孔鋼管12、小径無孔鋼管131として、一端に雄ねじ他端に雌ねじを備えた鋼管を使用し、この雄ねじと雌ねじとを直接、または異径管継手14を介して螺合すればよい。
【0020】
・土壌浄化方法
図2に、本発明の土壌浄化方法の概略図を示す。
本発明の土壌浄化方法は、本発明の打込式注入管1を用いるものであり、複数本の打込式注入管1(図2には1本のみ記載)を、無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13が、それぞれ低透水性汚染層、高透水性汚染層、非汚染層の深さ位置となるよう土壌に打込み、この打込式注入管1に電圧を印加して、低透水性汚染層と高透水性汚染層を加温する土壌加熱法と、有孔鋼管12から浄化剤を注入するバイオレメディエーションとを併用するものである。
【0021】
本発明の土壌浄化方法が処理対象とする有機化合物としては、土壌加熱法と生物浄化法により処理可能なものであれば特に制限されず、好気性条件下、嫌気性条件下のいずれか、または両方で生分解される有機化合物、具体的には、脂肪族炭化水素、ベンゼン等の芳香族炭化水素、塩素化エチレン類等の揮発性有機塩素化合物等が挙げられる。本発明の土壌浄化方法は、これらの中で従来の方法では原位置での浄化が困難であった揮発性有機塩素化合物、さらに塩素化エチレン類に特に好適に用いることができる。
【0022】
以下、本発明の土壌浄化方法を、工程順に沿って説明する。
・調査工程
まず、有機化合物で汚染された土壌について、ボーリング調査を実施し、低透水性汚染層、高透水性汚染層、非汚染層の深さ位置を確認する。
低透水性汚染層とは、その上下に位置する層よりも透水性が低く、有機化合物が濃縮される層である。粘土層、シルト層等が、低透水性汚染層となり得る。
高透水性汚染層とは、低透水性汚染層よりも透水性の高い、有機化合物で汚染された層、または、隣接した低透水性汚染層よりも透水性が高く、隣接した低透水性汚染層の加温によって有機化合物が移行するおそれのある層である。砂層、礫層、砂礫層等が、高透水性汚染層となり得る。
非汚染層は、有機化合物に汚染されていない層である。
【0023】
・打込工程
調査工程の結果に応じて、複数本の打込式注入管1を打込む。打込式注入管を打込む範囲、位置、間隔、数等は、特に制限されず、土壌加熱法における常法に従って打込むことができる。例えば、1辺が2m以上10m以内の正三角形からなる三角格子の頂点位置に打込むことができる。また、必要に応じて、打込位置近傍、例えば、三角格子の頂点位置に打込まれた打込式注入管が形成する三角形の中心点を削孔し、このボーリング孔に異なる深さ位置での土壌温度を測定する温度センサーを設置することもできる。
【0024】
打込式注入管1は、予め実施したボーリング調査の結果に応じて、無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13が、それぞれ低透水性汚染層、高透水性汚染層、非汚染層の深さ位置となるように接続しながら打込む。本発明において、無孔鋼管、有孔鋼管、二重管の接続数、接続順は、無孔鋼管が低透水性汚染層、有孔鋼管が高透水性汚染層、二重管が非汚染層に設置されるように選択される。打込式注入管1の打込方法は特に制限されないが、打込式注入管の側面と土壌との密着性に優れ、より電気を通しやすくなることから、打撃または圧入で打込むことが好ましく、圧入で打込むことがより好ましい。
【0025】
・加温工程
打込式注入管1を、地上に設置した電源装置と接続し、複数本の打込式注入管の間に電圧を印加し、無孔鋼管11が接する低透水性汚染層と、有孔鋼管12が接する高透水性汚染層とを加温する。打込式注入管1は、小径無孔鋼管131、異径管継手14、有孔鋼管12、無孔鋼管11が導電性であるため、打込式注入管と電源装置との接続作業は、打込完了後に地上で行うことができる。打込式注入管が打込まれた領域内を効率的に加温することができる。電源装置は、交流電源、特に、3相交流電源であることが好ましい。また、印加する電圧は、隣接する打込式注入管どうしの間隔、処理対象である有機化合物の沸点等に応じて調整することができ、例えば、80V以上250V以下とすることができる。
【0026】
透水性の低い粘土層やシルト層は、透水性の高い砂礫層よりも比抵抗値が小さい。打込式注入管に電圧を印加すると、粘土層やシルト層等からなる比抵抗値の小さい低透水性汚染層は、砂礫層等からなる比抵抗値の大きな高透水性汚染層よりも大きな電流が流れるため、より高温に加熱される。この際、二重管13は、その外側に非導電性樹脂パイプ132を備えているため、非汚染層に電流は流れず、加温されない。
【0027】
ここで、低透水性汚染層は、有機化合物の溶脱を効率的に進めるために、温度が高いほうが好ましい。一方、高透水性汚染層は、微生物による分解処理を進めるために、微生物が活発に活動できる温度域であることが好ましく、多くの微生物において至適温度は20℃以上35℃以下程度である。上記のように、本発明の土壌浄化方法は、特段の工夫をせずに打込式注入管に電圧を印加するだけで、低透水性汚染層を高透水性汚染層より高温に加熱することができるため、各層を浄化に適した温度域に保つことができる。低透水性汚染層の温度は処理対象である有機化合物の沸点等に応じて、高透水性汚染層の温度は生分解に関わる微生物の活動性等に応じて調整することができる。具体的には、低透水性汚染層を35℃以上、高透水性汚染層を20℃以上35℃以下とすることが好ましい。低透水性汚染層の温度は、100℃以下であることが好ましい。低透水性汚染層の温度が100℃を越えると、高透水性汚染層が高温になりすぎる場合がある。
【0028】
・注入工程
打込式注入管1の有孔鋼管12から、高透水性汚染層に浄化剤を注入する。
本発明の打込式注入管1は、無孔鋼管11、有孔鋼管12、二重管13、異径管継手14のいずれも管形状であり、長さ方向全体に亘って中空が挿通している。そのため、地上から打込式注入管1の内部に浄化剤を注入することにより、有孔鋼管12の開口から高透水性汚染層に浄化剤を浸透させることができる。浄化剤としては、浄化対象である有機化合物の微生物による分解を促進できるものであれば特に制限されず、微生物の増殖、活動に必要な窒素やリンなどの栄養塩、水素供与体となる各種有機物(糖、有機酸(脂肪酸)、タンパク質、アミノ酸など)、分解微生物そのもの、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0029】
ベンゼンや油類(炭化水素化合物)等の好気条件下において生分解される有機化合物を処理する場合には、好気性微生物の活動を促進するために、浄化剤として窒素やリン等の無機栄養塩等を供給すると共に、空気(酸素)を供給することが好ましい。揮発性有機塩素化合物(塩素化エチレン類)を処理する場合は、嫌気性脱塩素細菌の活動を促進できる浄化剤を用いることが好ましい。また、浄化剤に嫌気性脱塩素細菌を含有させる場合は、デハロコッコイデス属細菌が好ましく、上記特許文献5に記載のデハロコッコイデス・エスピーUCH007株(NITE AP-1471、以下、UCH007株という。)と、スルフロスピリラム・エスピーUCH001株(NITE AP-1469、以下、UCH001株という。)とスルフロスピリラム・エスピーUCH003株(NITE AP-1470)のいずれかまたは両方を、好適に用いることができる。
【実施例
【0030】
「実験1:デハロコッコイデス属細菌の塩素化エチレン分解活性の温度依存性」
全量82mlの広口バイアル瓶に、汚染サイトから採取した汚染地下水50mlと汚染土壌10g、0.1%レサズリンナトリウム溶液0.1ml、ビール酵母エキスを主成分とする有機資材(特許第5841001号公報参照)0.7ml(終濃度225mgC/L)を添加した。また、地下水の塩素化エチレン類濃度が低濃度であったため、各バイアル瓶にTCE溶液を濃度1.5mg/Lとなるように添加してブチルゴム栓とアルミシールで密栓し、15℃~40℃まで5℃ごとに設定した恒温槽に入れ静置培養を実施した。有機資材を添加して培養24日目に、別途培養していたUCH007株とUCH001株の共培養液(UCH007株:2.7×10copies/ml)を0.5ml植菌した。
定期的に各バイアル瓶からシリンジを用いて地下水を1ml採取し、パージ&トラップGCMS(島津製作所:GCMS-QP2010 Ultra)により塩素化エチレン類濃度を測定した。結果を図3に示す。
【0031】
図3に示すとおり、UCH007株の塩素化エチレン類の分解速度は、一般的な地下水水温である約15℃より、20℃以上35℃以下の方が速いことが確認できた。すなわち、帯水層(地下水)にある揮発性有機塩素化合物(塩素化エチレン類)を、デハロコッコイデス属細菌を用いて生分解するには、温度を20℃以上35℃以下、好ましくは25℃以上30℃以下に保持することが、効率的であることが確かめられた。
【0032】
「実施例1」
非汚染領域において、本発明の打込式注入管を打込み、土壌を加温して、土壌温度の経時変化を測定した。図4に実施現場における土壌断面の概略図、図5に実施現場の平面概略図を示す。以下、図4、5を使用して説明する。
【0033】
・調査工程
過去に標準貫入試験を実施して、地盤のN値が確認済みである場所において、自走式の振動貫入装置(バイブロドリル)を持つ小型ボーリングマシン(株式会社ワイビーエム製、ECO-1VIV)を用いて無水コアボーリングにより土壌試料を採取して土質性状を確認した。
図4に示すとおり、地表からGL-14~-16mが粘土層、GL-8~-14mが砂礫層、GL-4~-8mがシルト層、GL-2~-4mが粘土層、GL0~-2mが埋土であった。また、GL-11~-14mに礫混じり細砂からなる硬い地盤が存在した。
汚染現場であると想定し、GL-14~-16mの粘土層を低透水性汚染層、砂礫層のうちGL-12~-14mの部分を高透水性汚染層、その他の層を非汚染層と仮定した。
【0034】
・打込工程
(1)無孔鋼管と有孔鋼管として40A、小径無孔鋼管として32A、非導電性樹脂パイプとしてVU40(塩ビ薄肉管)を組み合わせた打込式注入管1、(2)無孔鋼管と有孔鋼管として50A、小径無孔鋼管として40A、非導電性樹脂パイプとしてVP50(塩ビ厚肉管)を組み合わせた打込式注入管2を用いた。各鋼管は、長さ1mで、その一端が雄ねじ、他端が雌ねじとなっており、螺合により接続できる。
【0035】
図5に示すように、一辺の長さが2.5mの正三角形の頂点位置となるように、油圧式バイブロドリル(株式会社ワイビーエム製、装置名:ECO-3V)を用いて、先端に先端コーンを接続した無孔鋼管、有孔鋼管、異径管継手を介して二重管を継ぎ足しながら、打込式注入管1-1~3を打ち込んだ。1本の打設時間は、およそ40分であった。
【0036】
同様にして、打込式注入管2を打ち込んだところ、打込注入管2は、GL-12m程度までしか打込めなかった。これは、GL-11~-14mに存在する硬い地盤のためである。そのため、外径86mmのサンプラーを用いてGL-14mまで先行掘削を実施し、この開孔部に対して、打込式注入管2-1~3を打込んだ。1本の打設時間は、先行掘削と合わせて約145分であった。
【0037】
次いで、三本の打込式注入管が構成する正三角形の中央を、自走式ボーリングマシン(ジオプローブ・システムズ社製、モデル6712DT)で掘孔した穴のGL-15.6m、-14.5m、-13.5m、-11.5mの位置に、温度センサーを設置した後、地上部を蓋で密閉した。
【0038】
・加温工程
打込式注入管を構成する管のうち、最上部に接続された二重管(小径無孔鋼管)の内側に溶接により設けた接続端子と、3相交流110Vの電源装置を接続して電圧を印加し、低透水性汚染層と前記高透水性汚染層を加温した。電圧印加条件は、以下の通りである。
0~35日目:印加電圧110V-AC、出力75%で供給(各電極に均等に供給)
35~37日目:停止
37~73日目:印加電圧110V-AC、出力100%で供給(各電極に均等に供給)
43-45日目:停止
73~96日目:印加電圧110V-AC、出力を電極ごとに調整
1-1:100%、1-2: 77%、1-3: 79%
2-1: 70%、2-2:100%、2-3: 80%
【0039】
電圧を印加した後の土壌の温度変化と、各埋込式注入管に流れた電流量を測定した。温度測定の結果を図6、7、各打込式注入管に流れた電流量を図8、9に示す。
打込式注入管1を打込んだエリア(以下、エリア1という)と、打込式注入管2を打込んだエリア(以下、エリア2という)を比較すると、両エリアとも温度の上昇が確認できた。
エリア1では低透水性汚染層と仮定した粘土層(GL-15.6m、-14.5m)の温度は、70日経過後に60~70℃まで上昇したが、高透水性汚染層と仮定した砂礫層(GL-13.5m、-11.5m)の温度は、30℃前後に維持された。すなわち、何ら特別な操作、制御を行うことなく、電圧を印加するだけで、低透水性汚染層をより高温に、高透水性汚染層をより低温に、約30℃の温度差を有する状態に加温できることが確かめられた。そして、高透水性汚染層の温度が30℃前後であるため、微生物による生分解処理が促進されることが示唆された。
【0040】
エリア2は、エリア1よりも温度上昇が遅く、低透水性汚染層と仮定した粘土層(GL-15.6m、-14.5m)の温度は、70日経過後に35~40℃までしか上昇しなかった。各打込式注入管に流れた電流量から、エリア1では3本の電極の間に安定して電流が流れていたのに対して、エリア2では3本のうち1本の打込式注入管2-2で電流量が少なかったため、温度が上昇しなかったと推測される。打込式注入管2-2で電流の流れが悪かった要因は、先行削孔を行った結果、打込式注入管2-2と地盤との密着性が低くなったことと推測される。また、打込式注入管2と地盤との密着性が高ければ、エリア1と同等の結果が得られたものと推測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9