(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】信号供給装置、鍵盤装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 7/00 20060101AFI20221018BHJP
G10H 1/14 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G10H7/00
G10H1/14
(21)【出願番号】P 2019506233
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2018010044
(87)【国際公開番号】W WO2018168953
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2019-07-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017050143
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大場 保彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】田之上 美智子
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】國分 直樹
【審判官】新井 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-59534(JP,A)
【文献】特開平11-175065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作体に入力された操作に応じた指示信号に基づいて、第1音信号と第2音信号とを生成する生成部と、
前記指示信号に基づいて前記操作体の加速度を算出し、当該加速度に基づいて前記第1音信号と前記第2音信号との関係を調整する調整部と、
を備え、
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との発生タイミングの関係を含
み、
前記調整部は、前記指示信号に基づいて前記操作体の速度をさらに算出し、当該速度に基づいて前記発生タイミングの関係の調整態様を変化させ、当該速度が所定の値である場合において、前記加速度が第1値であるときに前記第2音信号が前記第1音信号より前に発生し、前記加速度が前記第1値よりも小さい第2値であるときに前記第2音信号が前記第1音信号より後に発生するように、前記発生タイミングの関係を調整する、信号供給装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記加速度が大きいほど、前記第2音信号の発生タイミングから前記第1音信号の発生タイミングまでの時間が長くなるように、前記発生タイミングの関係を調整する、請求項1に記載の信号供給装置。
【請求項3】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との出力レベルの関係を含む、請求項1
または請求項2に記載の信号供給装置。
【請求項4】
前記指示信号は、前記操作体または当該操作体に連動する連動部材を複数の位置で検出する検出部による検出結果に基づいて生成される、請求項1から請求項
3のいずれかに記載の信号供給装置。
【請求項5】
前記指示信号は、前記操作体または当該操作体に連動する連動部材を連続的な位置で検出する検出部による検出結果に基づいて生成される、請求項1から請求項
3のいずれかに記載の信号供給装置。
【請求項6】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との音色の関係を含む、請求項1から請求項
5のいずれかに記載の信号供給装置。
【請求項7】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との音高の関係を含む、請求項1から請求項
6のいずれかに記載の信号供給装置。
【請求項8】
前記調整部は、さらに、前記操作体に操作が加えられていることを表す信号に基づいて前記関係を調整する、請求項1から請求項
7のいずれかに記載の信号供給装置。
【請求項9】
前記第1音信号は、アコースティック楽器の発音体が発音した楽音を表し、
前記第2音信号は、前記発音体に発音させる際に操作された演奏操作子と他の部材との衝突によって生じる衝突音を表す、請求項1から請求項
8のいずれかに記載の信号供給装置。
【請求項10】
請求項1から請求項
9のいずれかに記載の信号供給装置と、
各々が前記操作体である複数の鍵と、
を備える鍵盤装置。
【請求項11】
前記複数の鍵は、第1鍵と第2鍵とを含み、
前記生成部は、前記第1鍵が操作された場合と、前記第2鍵とが操作された場合とで、前記第1音信号の音高を変化させる一方、前記第2音信号の音高を変化させず、または第2音信号の音高を前記第1音信号の音高の変化よりも少ない音高差で変化させる、請求項
10に記載の鍵盤装置。
【請求項12】
コンピュータに、
操作体に入力された操作に応じた指示信号に基づいて、第1音信号と第2音信号とを生成し、
前記指示信号に基づいて前記操作体の加速度を算出し、当該加速度に基づいて前記第1音信号と前記第2音信号との発生タイミングの関係を調整する
ことを実行させるためのプログラム
であって、
前記調整は、前記指示信号に基づいて前記操作体の速度をさらに算出し、当該速度に基づいて前記発生タイミングの関係の調整態様を変化させ、当該速度が所定の値である場合において、前記加速度が第1値であるときに前記第2音信号が前記第1音信号より前に発生し、前記加速度が前記第1値よりも小さい第2値であるときに前記第2音信号が前記第1音信号より後に発生するように、前記発生タイミングの関係を調整することを含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アコースティック楽器が発した音を表す音信号を供給する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押鍵速度に応じて発音の強さを制御する電子鍵盤楽器が知られていた。しかし、アコースティックピアノにおいて、鍵が速く弱く押下されたときには弱く発音されるのに対して、従来の電子鍵盤楽器では、鍵が速く押下されると強く押下されたと認識されてしまう。このため、あたかも鍵が強く押下されたように発音されてしまい、逆に、鍵が遅く強く押下された場合は、鍵が弱く押下されたと認識されて弱く発音されてしまう。また、アコースティックピアノでは、鍵盤の下に木製の棚板が配置されており、押鍵時には鍵と棚板との衝突により音(以下、棚板衝突音という)が発生する。その棚板衝突音は演奏による発音に影響を与える。しかし、従来の電子鍵盤楽器では、棚板衝突音が発音されなかった。特許文献1には、棚板衝突音を再現することができる電子楽器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アコースティックピアノでは、押鍵方法によって打弦音および棚板衝突音の相対的な発音タイミングおよび音量が変化するが、特許文献1に開示された技術ではそのような発音を再現することはできなかった。
【0005】
本発明の目的の一つは、アコースティックピアノにおける打弦音および棚板衝突音のように、鍵などの操作体への操作によって発生する複数の音の関係を、当該操作に応じて変化させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、操作体に入力された操作に応じた指示信号に基づいて、第1音信号と第2音信号とを生成する生成部と、前記指示信号に基づいて前記操作体の加速度を算出し、当該加速度に基づいて前記第1音信号と前記第2音信号との関係を調整する調整部と、を備える信号供給装置が提供される。
【0007】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との発生タイミングの関係を含んでもよい。
【0008】
前記調整部は、前記第2音信号の発生タイミングから前記第1音信号の発生タイミングまでの時間は、前記加速度が大きいほど長くなるように、前記発生タイミングの関係を調整してもよい。
【0009】
前記調整部は、前記指示信号に基づいて前記操作体の速度をさらに算出し、当該速度に基づいて前記発生タイミングの関係の調整態様を変化させ、当該速度が所定の値である場合において、前記加速度が第1値であるときに前記第2音信号が前記第1音信号より前に発生し、前記加速度が前記第1値よりも小さい第2値であるときに前記第2音信号が前記第1音信号より後に発生するように、前記発生タイミングの関係を調整してもよい。
【0010】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との出力レベルの関係を含んでもよい。
【0011】
前記指示信号は、前記操作体または当該操作体に連動する連動部材を複数の位置で検出する検出部による検出結果に基づいて生成されてもよい。
【0012】
前記指示信号は、前記操作体または当該操作体に連動する連動部材を連続的な位置で検出する検出部による検出結果に基づいて生成されてもよい。
【0013】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との音色の関係を含んでもよい。
【0014】
前記関係は、前記第1音信号と前記第2音信号との音高の関係を含んでもよい。
【0015】
前記調整部は、さらに、前記操作体に操作が加えられていることを表す信号に基づいて前記関係を調整してもよい。
【0016】
前記第1音信号は、アコースティック楽器の発音体が発音した楽音を表し、前記第2音信号は、前記発音体に発音させる際に操作された演奏操作子と他の部材との衝突によって生じる衝突音を表してもよい。
【0017】
また、本発明の一実施形態によれば、上記記載の信号供給装置と、各々が前記操作体である複数の鍵と、を備える鍵盤装置が提供される。
【0018】
前記複数の鍵は、第1鍵と第2鍵とを含み、前記生成部は、前記第1鍵が操作された場合と、前記第2鍵とが操作された場合とで、前記第1音信号の音高を変化させる一方、前記第2音信号の音高を変化させず、または第2音信号の音高を前記第1音信号の音高の変化よりも少ない音高差で変化させてもよい。
【0019】
また、本発明の一実施形態によれば、コンピュータに、操作体に入力された操作に応じた指示信号に基づいて、第1音信号と第2音信号とを生成し、前記指示信号に基づいて前記操作体の加速度を算出し、当該加速度に基づいて前記第1音信号と前記第2音信号との関係を調整することを実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アコースティックピアノにおける打弦音および棚板衝突音のように、鍵などの操作体への操作によって発生する複数の音の関係を、当該操作に応じて変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態における電子鍵盤楽器に設けられた白鍵に関連する構造を模式的に示す図である。
【
図2】第1実施形態における電子鍵盤楽器の構成を示すブロック図である。
【
図4】(a)は打弦音量テーブルの構成を示す図であり、(b)は棚板衝突音量テーブルの構成を示す図である。
【
図6】CPUが実行する処理を示すフローチャートである。
【
図7】制御部が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図7に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【
図10】電子鍵盤楽器の機能を示すブロック図である。
【
図11】信号生成部の機能を示すブロック図であって、特に、打弦音信号生成部の機能を示すブロック図である。
【
図12】信号生成部の機能を示すブロック図であって、特に、棚板衝突音信号生成部の機能を示すブロック図である。
【
図13】第2実施形態における電子鍵盤楽器に設けられた白鍵に関連する構造を模式的に示す図である。
【
図14】第3実施形態における電子鍵盤楽器に設けられた白鍵に関連する構造を模式的に示す図である。
【
図15】発音タイミングおよび音量に関して、棚板衝突音と打弦音との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、アコースティックピアノにおける棚板衝突音とハンマーが弦を打つことにより発生する音(以下、打弦音という)との関係について説明する。
【0023】
図15は、発音タイミングおよび音量に関して、棚板衝突音と打弦音との関係を示す図である。
図15に示す「弱打」および「強打」は、ある加速度Aaにおいて鍵を押下する強さを示す。これらに対応して示される打弦音と棚板衝突音との波形は、音量と発生タイミングとの関係を示している。棚板衝突音の発生タイミングを基準にすると、「弱打」のときには打弦音が棚板衝突音より先行し、「強打」のときには打弦音が棚板衝突音より遅れる。
【0024】
図15に示す「強打加速」は、「強打」においてAaよりも大きい加速度Abで鍵を押下することを示す。一方、「強打減速」は、Aaよりも小さい加速度Acで鍵を押下することを示す。これらに対応して示される波形のように、「強打加速」では、「強打」に比べて、棚板衝突音が大きくなり、打弦音の発生タイミングが遅くなる。「強打減速」では、「強打」に比べて、棚板衝突音が小さくなり、打弦音の発生タイミングが早くなる。
【0025】
すなわち、
図15に示すように、「弱打」の場合は、打弦音の後に棚板衝突音が発生している。一方、「強打」、「強打加速」および「強打減速」の場合においては、棚板衝突音の後に打弦音が発生している。また、「強打」、「強打加速」および「強打減速」に示すように、同じ打弦音量の場合でも、棚板衝突音の音量が異なる場合がある。なお、
図15では加速度を異ならせた例は「強打」の場合だけ示しているが、「弱打」の場合でも同様に加速度に応じて、打弦音と棚板衝突音との関係が同じように変化する。なお、鍵を押下する強さによっては、打弦音と棚板衝突音との発生タイミングの前後関係が、押鍵加速度によって入れ替わる場合と、入れ替わらない場合がある。
【0026】
このように、アコースティックピアノにおける演奏では、打弦音と棚板衝突音とに関して、発生タイミングの関係および音量の関係が相対的に変化する。この変化を利用して演奏表現がされることがある。しかしながら、従来の電子鍵盤楽器では、このような打弦音と棚板衝突音との関係を調整することができなかった。
【0027】
以下、本発明の一実施形態における信号供給装置が設けられた電子鍵盤楽器について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0028】
〈第1実施形態〉
本願発明の第1実施形態の信号供給装置について図を参照しながら説明する。以下の各実施形態では、本願発明の信号供給装置が設けられた電子鍵盤楽器(鍵盤装置)を例に挙げて説明する。
【0029】
[白鍵に関連する構造]
本実施形態の信号供給装置が設けられた電子鍵盤楽器には複数の白鍵および黒鍵が備えられているが、ここでは白鍵の構造を例に挙げて説明する。
【0030】
図1は、第1実施形態における電子鍵盤楽器に設けられた白鍵に関連する構造を模式的に示す図である。
図1において図面左方が電子鍵盤楽器の前方であり、図面右方が電子鍵盤楽器の後方である。
図1に示すように、白鍵10は、鍵フレーム14の上方に配置されている。鍵フレーム14は、上板部14aと、前板部14bと、底板部14cと、前板部14dと、後板部14eと、底板部14fとを備える。上板部14aは、前後方向および左右方向に延びる。前板部14bは、上板部14aの前端から下方へ垂直に延びる。底板部14cは、前板部14bの下端から前方へ水平に延びる。前板部14dは、底板部14cの前端から上方へ垂直に延びる。後板部14eは、上板部14aの後端から下方へ垂直に延びる。底板部14fは、後板部14eの下端から後方へ水平に延びる。鍵フレーム14は、フレーム20の上面に固定されている。
【0031】
上板部14aの後端寄りの上面から鍵支持部材11が突出形成されている。白鍵10の後端は、鍵支持部材11に軸部材11aを介して揺動可能に軸支されている。前板部14dの上端面から、白鍵10の揺動をガイドするための鍵ガイド12が突出形成されている。鍵ガイド12は、白鍵10に下方から侵入している。白鍵10の前端寄りの下面からは、駆動部13が下方に延びている。駆動部13は、上下に延びた前壁と、この前壁の左右端からそれぞれ後方へ延びた側壁とを有する。駆動部13は、前壁と側壁とによって、後方に開放した中空状に形成されている。駆動部13の下端は下端壁により閉じている。その下端壁の下端には緩衝部材19が取付けられている。
【0032】
上板部14aの下方であって白鍵10と対向する部位には、ハンマー16が配置されている。ハンマー16は、基部16aと、連結棒16bと、質量体16cとを備える。上板部14aの前端寄りの下面からは、ハンマー支持部15が下方に向けて突出形成されている。そのハンマー支持部15には、ハンマー16の基部16aが軸部材15aを介して揺動可能に軸支されている。基部16aは、その前端部に上下一対の脚部16a1および脚部16a2を備える。上側に位置する脚部16a1は下側に位置する脚部16a2より短く形成されている。前板部14bには、上下方向に長いスリット状の開口部14b1が形成されている。基部16aの前端部は、開口部14b1を通って、前板部14bよりも前方に突出している。脚部16a1と脚部16a2との間には、駆動部13の下端壁および緩衝部材19が侵入している。緩衝部材19は脚部16a2の上面に当接している。基部16aの後端上部には連結棒16bの前端が取付けられている。連結棒16bの後端には質量体16cが取付けられている。
【0033】
この実施形態では、基部16aは合成樹脂により形成され、連結棒16bおよび質量体16cはそれぞれ金属により形成されている。また、緩衝部材19は、ゴム、ウレタン、フエルトなどの衝撃吸収材により形成されている。
【0034】
鍵フレーム14の上板部14aの裏面には、下限ストッパ17が設けられている。下限ストッパ17は、押鍵時にハンマー16の質量体16cの上面に当接して、ハンマー16の後端部の上方への変位を規制することにより、白鍵10の前端部の下方への変位を規制する。下限ストッパ17は、ストッパレール17aおよび緩衝材17bから構成されている。ストッパレール17aは、上板部14aの裏面から突出しており、左右方向に延びている。ストッパレール17aの下端面には緩衝材17bが固着されている。
【0035】
また、フレーム20の上面であって、質量体16cと対向する部位には、上限ストッパ18が設けられている。上限ストッパ18は、離鍵時に、質量体16cの下面に当接して、ハンマー16の後端部の下方への変位を規制することにより、白鍵10の前端部の上方への変位を規制する。上限ストッパ18は、下限ストッパ17と同様に、ストッパレール18aおよび緩衝材18bから構成されている。
【0036】
この実施形態では、緩衝材17b,18bは、それぞれゴム、フエルトなどの衝撃吸収材により形成されている。
【0037】
上板部14aの上面であって白鍵10の底面と対向する部位には、検出部75が設けられている。検出部75は、スイッチA~Cを含む。後方から順に、スイッチA、スイッチB、スイッチCが所定間隔で離隔して並んでいる。つまり、スイッチA~Cは、白鍵10の可動範囲のうち互いに異なる複数の位置で、白鍵10を検出するように設けられている。スイッチA~Cは、それぞれプッシュオン式の感圧スイッチであり、白鍵10を下限まで押下する過程において、スイッチA、スイッチB、スイッチCが順にオンになる。スイッチA~Cの各動作信号は、押鍵速度および押鍵加速度の演算に用いられ、その演算結果に基づいて、打弦音および棚板衝突音を発生させるときのタイミングと音量とが決定される。
【0038】
[電子鍵盤楽器の構成]
次に、電子鍵盤楽器の構成について、
図2を参照しつつ説明する。なお、以下では、白鍵10および黒鍵を総称して鍵(操作体)という。
【0039】
図2は、第1実施形態における電子鍵盤楽器の構成を示すブロック図である。電子鍵盤楽器1は、電子鍵盤楽器1の動作を制御するCPU35を備える。CPU35には、CPUバス(データバスおよびアドレスバス)39を介してRAM33と、ROM34と、記憶装置36と、通信インターフェース(図では通信I/Fと記載)37と、演奏操作子30と、設定操作子31と、表示器32と、音源部40とがそれぞれ電気的に接続されている。音源部40は、サウンドシステム38と電気的に接続されている。CPU35および音源部40がサウンドシステム38に信号を供給する信号供給装置として機能する。
【0040】
ROM34には、CPU35が実行する各種のコンピュータプログラム、CPU35が所定のコンピュータプログラムを実行する際に参照する各種のテーブルデータなどが読出し可能に記憶されている。RAM33は、CPU35が所定のコンピュータプログラムを実行する際に発生する各種データなどを一時的に記憶するワーキングメモリとして使用される。あるいは、RAM33は、現在実行中のコンピュータプログラムやそれに関連するデータを一時的に記憶するメモリなどとして使用される。記憶装置36には、各種のアプリケーションプログラムやそれに関連する各種のデータなどが記憶されている。
【0041】
演奏操作子30は、各鍵に対応して設けられたスイッチA~Cなどから構成されている。設定操作子31は、音量調節ダイヤルなど、各種の設定を行う操作子から構成されている。表示器32は、液晶表示装置(LCD)、または、有機ELなどから構成されており、この電子鍵盤楽器1の制御状態、設定操作子31による設定内容や制御内容などを表示する。サウンドシステム38は、音源部40から出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換部、このD/A変換部から出力される信号を増幅するアンプ、このアンプから出力される信号を放音するスピーカなどから構成されている。通信インターフェース37は、この電子鍵盤楽器1と図示しない外部機器(たとえば、サーバやMIDI機器など)との間で制御プログラム、やそれに関連する各種データ、演奏操作に対応したイベント情報などを送受信するためのインターフェースである。この通信インターフェース37は、たとえば、MIDIインターフェース、LAN、インターネット、電話回線などのインターフェースであってもよい。また、通信インターフェース37は、有線のインターフェースでもよいし、無線のインターフェースでもよい。
【0042】
[音源部の構成]
ここで、音源部40の構成について、
図3を参照しつつ説明する。なお、音源部40は、CPU35からの指示信号(ノートオン、ノートオフ、押鍵速度V、押鍵加速度α等)に基づいて発音制御を行う。
【0043】
図3は、音源部の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、音源部40は、制御部41と、打弦音波形メモリ42と、棚板衝突音波形メモリ43と、打弦音量テーブル44と、棚板衝突音量テーブル45と、遅延時間テーブル46と、供給部47とを備える。打弦音波形メモリ42は、アコースティックピアノの各鍵の打弦音をサンプリングした打弦音波形データを記憶している。したがって、打弦音波形データは、打弦音を示す信号(第1音信号)を生成するためのデータである。各打弦音波形データは、打弦音の音高および音色を表しており、電子鍵盤楽器1の各鍵と対応付けられている。棚板衝突音波形メモリ43は、アコースティックピアノの各鍵を押鍵した際に発生する棚板衝突音をサンプリングした棚板衝突音波形データを記憶している。したがって、棚板衝突音波形データは、棚板衝突音を示す信号(第2音信号)を生成するためのデータである。各棚板衝突音波形データは、棚板衝突音の音高および音色を表しており、電子鍵盤楽器1の各鍵と対応付けられている。以下の説明では、打弦音を示す信号および棚板衝突音を示す信号が、それぞれ、単に打弦音および棚板衝突音として表される場合がある。
【0044】
なお、棚板衝突音の音高については、各鍵によらず変化がなくてもよいし、打弦音の音高の変化よりも少ない変化であってもよい。すなわち、第1鍵が操作された場合と第2鍵が操作された場合とでは、打弦音の音高が変化する一方、棚板衝突音の音高が変化しなくてもよいし、打弦音の音高の変化よりも少ない音高差で変化してもよい。
【0045】
図4(a)は打弦音量テーブルの構成を示す図であり、
図4(b)は棚板衝突音量テーブルの構成を示す図である。打弦音量テーブル44は、押鍵時の打弦音の音量(以下、打弦音量という)を決定するためのテーブルである。打弦音量テーブル44は、
図4(a)に示すように、打弦音量VoDと、押鍵時の鍵の速度(以下、押鍵速度という)Vとを対応付けた関係を規定する。押鍵速度Vは、CPU35(
図2)によって、スイッチA(
図1)がオンになってからスイッチBがオンになるまでに要した時間tABに基づいて演算される。
図4(a)に示されるように、押鍵速度Vと打弦音量VoDとは比例関係にあり、押鍵速度Vが増加すると、打弦音量VoDが増大する。また、打弦音量テーブル44は、
図4(a)に示した形式に限定されるものではなく、所望の形態でよい。例えば、打弦音量テーブル44は、テーブル形式でなく演算式で求めるものでもよい。
【0046】
棚板衝突音量テーブル45は、押鍵時の棚板衝突音の音量(以下、棚板衝突音量という)を決定するためのテーブルである。
図4(b)に示すように、棚板衝突音量テーブル45は、棚板衝突音量VoTと、押鍵時の鍵の加速度(以下、押鍵加速度という)αとを対応付けた関係を、打弦音量VoDのそれぞれの値に対して規定する。押鍵加速度αは、CPU35(
図2)によって、スイッチA(
図1)がオンになってからスイッチBがオンになるまでに要した時間tABと、スイッチBがオンになってからスイッチCがオンになるまでに要した時間tBCとの時間差Δtに基づいて演算される。
図4(b)では、所定のVoD値XXXXのテーブルを示しており、押鍵加速度αと棚板衝突音量VoTとは比例関係にあり、押鍵加速度αが増加すると、棚板衝突音量VoTが増大する。このような押鍵加速度αと棚板衝突音量VoTとの関係が各打弦音量VoDの値に対して設けられている。なお、棚板衝突音量テーブル45は、このような形態に限定されるものではなく、所望の形態でよい。例えば、棚板衝突音量テーブル45は、VoD値と押鍵加速度αとをそれぞれ縦軸・横軸として、それぞれのセルに棚板衝突音量VoTを規定する表で規定されてもよい。この場合、検出されたVoD値と押鍵加速度αとから対応する棚板衝突音量VoTを求める。また、棚板衝突音量テーブル45は、テーブル形式でなく演算式で求めるものでもよい。
【0047】
図5は、遅延時間テーブルの構成を示す図である。遅延時間テーブル46は、打弦音および棚板衝突音の発生タイミングを決定するためのテーブルである。遅延時間テーブル46は、
図5に示すように、打弦音の遅延時間t1および棚板衝突音の遅延時間t2と、押鍵加速度αとを対応付けた関係を、打弦音量VoDのそれぞれの値に対して規定する。打弦音および棚板衝突音の発生タイミングが同一(t1=t2)になるときの押鍵加速度をα2とすると、押鍵加速度α2よりも小さい押鍵加速度α1のとき、つまり減速(加速度が負)となる「強打減速」および「弱打減速」のときは、打弦音が棚板衝突音よりも早いタイミングで発生する。押鍵加速度α2よりも大きい押鍵加速度α3のとき、つまり加速となる「強打加速」および「弱打加速」のときは、棚板衝突音が打弦音よりも早いタイミングで発音される(
図15)ように設定される。
【0048】
ここでは、遅延時間t1=t2となる押鍵加速度α2は「0」である場合を例示したが、必ずしも「0」でなくてもよい。この場合、α1が負の値、α3が正の値という関係にならないこともある。また、打弦音量VoD値によってこの関係が異なってもよいし、遅延時間t1=t2となる押鍵加速度が存在しなくてもよい。すなわち、全ての押鍵加速度に対して、t1>t2になる場合があってもよいし、t1<t2になる場合があってもよい。なお、遅延時間テーブル46は、このような形態に限定されるものではなく、所望の形態でよい。例えば、遅延時間テーブル46は、VoD値と押鍵加速度αをそれぞれ縦軸・横軸としてそれぞれのセルに遅延時間量t1,t2の値を規定する表で規定されてもよい。この場合、検出されたVoD値と押鍵加速度αから対応する打弦音と棚板衝突音のそれぞれの遅延量を求める。
【0049】
なお、棚板衝突音量テーブル45は、押鍵加速度αと棚板衝突音量VoTとの関係を、打弦音量VoDのそれぞれの値に対して規定するようにしたが、打弦音量VoDにかえてベロシティ値のそれぞれの値に対して規定するようにしてもよい。また、遅延時間テーブル46は、押鍵加速度αと遅延時間t1、t2との関係を、打弦音量VoDのそれぞれの値に対して規定するようにしたが、打弦音量VoDにかえてベロシティ値のそれぞれの値に対して規定するようにしてもよい。このように、遅延時間テーブル46および棚板衝突音量テーブル45は、このような構造を取ることによって、同じ打弦音量であっても、加速度によって、音量とタイミングの値が変わるようになる。
【0050】
制御部41(
図3)は、CPU35(
図2)が演算した押鍵速度Vおよび押鍵加速度αに基づいて、打弦音量VoDおよび棚板衝突音量VoTを決定し、かつ、打弦音および棚板衝突音の発生タイミングの遅延時間t1、t2を決定する。また、制御部41は、押鍵された鍵に対応する打弦音波形データを打弦音波形メモリ42から読出し、かつ、棚板衝突音波形データを棚板衝突音波形メモリ43から読出し、上記決定した遅延時間t1、t2にて各波形データをサウンドシステム38へ出力する。つまり、制御部41は、打弦音波形メモリ42から出力される打弦音波形データから打弦音信号を生成し、棚板衝突音波形メモリ43から出力される棚板衝突音波形データから棚板衝突音信号を生成する生成部としての機能を有する。また、制御部41は、打弦音信号と棚板衝突音信号との関係、この例では、これらの信号の音量(出力レベル)および発生タイミングなどの生成態様を調整する調整部としての機能を有する。なお、調整部のように制御部41によって実現される機能の一部または全部は、CPU35によってコンピュータプログラムを実行されることによって実現されてもよい。
【0051】
供給部47は、制御部41により生成態様が調整された打弦音波形データおよび棚板衝突音波形データを出力してサウンドシステム38へ供給する。
【0052】
[発音制御]
次に、CPU35および制御部41による打弦音および棚板衝突音の発音制御について図を参照しつつ説明する。
【0053】
図6は、CPU35が実行する処理を示すフローチャートである。
図7は、制御部41が実行する処理を示すフローチャートである。
図8は、
図7に示す処理の続きを示すフローチャートである。
図9は、
図8に示す処理の続きを示すフローチャートである。なお、これらの処理は、各鍵に対応して実行される。
【0054】
(CPU35による制御)
図6に示すように、CPU35は、RAM33(
図2)に格納される各種レジスタやフラグのリセットおよび初期値のセットなどの初期化を行う(ステップ(以下、Sと略す)1)。また、このS1では、音源部40に対して各種レジスタやフラグ類を初期化するよう指示する。続いて、CPU35は、押鍵操作により、スイッチA(
図1)のオン・オフが変化したか否か、変化があった場合にはオンになったかオフになったかを判定する(S2)。スイッチAのオン・オフが変化していない場合(S2;なし)には、処理がS5に進む。CPU35は、スイッチAがオフからオンになったと判定した場合は(S2;オン)、そのオンになったスイッチAに対応する鍵の鍵番号を検出し、その検出した鍵番号をレジスタに格納する(S3)。続いて、CPU35は、スイッチAがオンになってからスイッチBがオンになるまでに要する時間tABの計測を開始する(S4)。
【0055】
続いて、CPU35は、スイッチBのオン・オフが変化したか否か、変化があった場合にはオンになったかオフになったかを判定する(S5)。スイッチBのオン・オフが変化していない場合(S5;なし)には、処理がS9に進む。CPU35は、スイッチBがオフからオンになったと判定した場合は(S5;オン)、時間tABの計測を終了する(S6)。続いて、CPU35は、計測した時間tABに基づいて押鍵速度Vを演算し、その演算した押鍵速度Vをレジスタに格納する(S7)。押鍵速度Vの演算は、時間tABと押鍵速度Vとを対応付けたテーブルを用いて行うことができる。なお、押鍵速度Vは、ここで示すような演算で得られるような速度に相当する値であればよく、実際の速度と一致している場合に限らない。
【0056】
続いて、CPU35は、スイッチBがオンになってからスイッチCがオンになるまでに要する時間tBCの計測を開始する(S8)。続いて、CPU35は、スイッチCのオン・オフが変化したか否か、変化があった場合にはオンになったかオフになったかを判定する(S9)。スイッチBのオン・オフが変化していない場合(S9;なし)およびオフになった場合(S9;オフ)には、CPU35は、S2に処理を戻す。CPU35は、スイッチCがオフからオンになったと判定した場合は(S9;オン)、時間tBCの計測を終了する(S10)。続いて、CPU35は、計測した時間tABおよび時間tBCの時間差Δtに基づいて、押鍵加速度αを演算し、その演算した押鍵加速度αをレジスタに格納する(S11)。押鍵加速度αの演算は、時間差Δtと押鍵加速度αとを対応付けたテーブルを用いて行うことができる。なお、押鍵加速度αは、ここで示すように所定の演算で得られるような加速度に相当する値であればよく、実際の加速度と一致している場合に限らない。続いて、CPU35は、S3においてレジスタに格納した鍵番号と、S7においてレジスタに格納した押鍵速度Vと、S11においてレジスタに格納した押鍵加速度αとを有するノートオンコマンドを作成し、それを音源部40の制御部41へ送信する(S12)。
【0057】
また、CPU35は、S2において、スイッチAがオンからオフに変化したと判定した場合は(S2;オフ)、そのオフになったスイッチAに対応する鍵の鍵番号を検出し、その検出した鍵番号をレジスタに格納する(S13)。CPU35は、そのレジスタに格納した鍵番号を有するノートオフコマンドを音源部40の制御部41へ送信し(S14)、対応する鍵の時間tAB、tBC、押鍵速度V、押鍵加速度αをリセットする(S15)。
【0058】
また、CPU35は、S5において、スイッチBがオンからオフに変化したと判定した場合は(S5;オフ)、時間tBCの計測中でなければ(S16;No)、S9に処理を進め、時間tBCの計測中であれば(S16;Yes)、対応する鍵の時間tBCをリセットして(S17)、S9に処理を進める。
【0059】
このように、CPU35は、検出部75(スイッチA~C)による検出結果に基づいて、ノートオンコマンドおよびノートオフコマンド等の指示信号を音源部40に出力する。
【0060】
(制御部41による生成態様の調整)
図7に示すように、制御部41は、CPU35からコマンドを受信したか否かを判定し(S20)、コマンドを受信したと判定した場合は(S20;Yes)、その受信したコマンドがノートオンコマンドであるか否かを判定する(S21)。ここで、制御部41は、ノートオンコマンドであると判定した場合は(S21:Yes)、その受信したノートオンコマンドに含まれる各データ、つまり、鍵番号、押鍵速度Vおよび押鍵加速度αをレジスタに格納する(S22)。
【0061】
続いて、制御部41は、打弦音量テーブル44(
図4(a))を参照し、レジスタに格納されている押鍵速度Vに対応付けられている打弦音量VoDを選択し、その選択した打弦音量VoDをレジスタに格納する(S23)。続いて、制御部41は、棚板衝突音量テーブル45(
図4(b))に規定される押鍵加速度αと棚板衝突音量VoTとの関係のなかからS23で選択した打弦音量VoDに対応する関係を参照し、レジスタに格納されている押鍵加速度αに対応付けられている棚板衝突音量VoTを選択し、その選択した棚板衝突音量VoTをレジスタに格納する(S24)。続いて、制御部41は、遅延時間テーブル46(
図5)に規定される押鍵加速度αと遅延時間t1、t2との関係のなかからS23で選択した打弦音量VoDに対応する関係を参照し、レジスタに格納されている押鍵加速度αに対応付けられている遅延時間t1、t2を選択し、その選択した遅延時間t1、t2をレジスタに格納する(S25)。
【0062】
続いて、制御部41は、遅延時間t1、t2に対応するタイミングを得るための経過時間を計測するために、タイマーのカウントを開始する(S26)。また、制御部41は、打弦音波形メモリ42(
図3)から打弦音波形データを読出している状態であることを示す読出状態フラグDと、棚板衝突音波形メモリ43(
図3)から棚板衝突音波形データを読出している状態であることを示す読出状態フラグTとをそれぞれ0にリセットし(S27)、S20に処理を戻す。
【0063】
制御部41は、S21において、受信したコマンドはノートオンコマンドではないと判定した場合は(S21;No)、受信したコマンドはノートオフコマンドであるか否かを判定する(S28)。制御部41は、ノートオフコマンドではないと判定した場合は(S28;No)、S20に処理を戻す。制御部41は、ノートオフコマンドであると判定した場合は(S28;Yes)、ノートオフコマンドに含まれる鍵番号などのデータをレジスタに格納する(S29)。続いて、制御部41は、生成中の打弦音波形データに乗算するエンベロープをリリース波形に変更し(S30)、離鍵状態を示すリリース状態フラグRを1にセットする(S31)。
【0064】
そして、制御部41は、例えば、次の処理サイクルにて、コマンドを受信していないと判定すると(S20;No)、最小単位時間が経過したか否かを判定し(
図8のS32)、経過していない場合は(S32;No)、S20に処理を戻す。ここで、最小単位時間とは、S26においてカウントを開始したタイマーがカウントするタイマクロック1周期分の時間である。
【0065】
続いて、制御部41は、最小単位時間が経過したと判定した場合は(S32;Yes)、読出状態フラグDが0であるか否かを判定する(S33)。制御部41は、読出状態フラグDが0であると判定した場合は(S33;Yes)、打弦音の発生タイミングを決定するための遅延時間t1のデクリメントを開始する(S34)。続いて、制御部41は、遅延時間t1が0になったか否か、つまり、打弦音の発生タイミングになったか否かを判定する(S35)。制御部41は、t1が0ではないと判定した場合は(S35;No)、S39に処理を進める。制御部41は、t1が0になったと判定した場合は(S35;Yes)、打弦音波形メモリ42(
図3)を参照し、レジスタに格納されている鍵番号に対応付けられている打弦音波形データを選択し、その読出しを開始する(S36)。続いて、制御部41は、読み出した打弦音波形データにエンベロープ波形を乗算するエンベロープ処理を開始する(S37)。なお、エンベロープ処理には、公知のADSR(Attack、Decay、Sustain、Release)制御が施される。
【0066】
続いて、制御部41は、読出状態フラグDを1にセットし(S38)、読出状態フラグTが0であるか否かを判定する(S39)。ここで、制御部41は、読出状態フラグTが0であると判定した場合は(S39;Yes)、棚板衝突音の発生タイミングを決定するための遅延時間t2のデクリメントを開始する(S40)。続いて、制御部41は、遅延時間t2が0になったか否か、つまり、棚板衝突音の発生タイミングになったか否かを判定する(S41)。制御部41は、t2が0ではないと判定した場合は(S51;No)、S44に処理を進める。制御部41は、t2が0になったと判定した場合は(S41;Yes)、棚板衝突音波形メモリ43(
図3)を参照し、レジスタに格納されている鍵番号に対応付けられている棚板衝突音波形データを選択し、その読出しを開始する(S42)。続いて、制御部41は、読出状態フラグTを1にセットする(S43)。
【0067】
続いて、制御部41は、S20(
図7)に処理を戻し、コマンドを受信していないと判定すると(S20;No)、S32(
図8)に処理を進める。制御部41は、最小時間が経過したと判定すると(S32;Yes)、先のS38において読出状態フラグDが1にセットされているため、読出状態フラグDが0にリセットされていないと判定して(S33;No)、S39に処理を進める。続いて、制御部41は、先のS43において読出状態フラグTが1にセットされているため、読出状態フラグTが0にリセットされていないと判定し(S39;No)、S44(
図9)に処理を進める。ここで、制御部41は、読出状態フラグDが1にセットされているか否かを判定し(S44)、読出状態フラグDが1でないと判定すると(S44;No)、S49に処理を進める。制御部41は、読出状態フラグDが1であると判定すると(S44;Yes)、先のS36において読出しを開始した打弦音波形データの読出しと、打弦音波形データにエンベロープを乗算する処理とを継続する(S45)。
【0068】
続いて、制御部41は、リリース状態フラグRが1にセットされているか否か、つまり、離鍵状態になったか否かを判定し(S46)、リリース状態フラグRが1ではないと判定した場合は(S46;No)、読出状態フラグTが1にセットされているか否かを判定する(S49)。ここで、制御部41は、読出状態フラグTが1ではないと判定した場合は(S49;No)、S52に処理を進める。制御部41は、読出状態フラグTが1であると判定した場合は(S49;Yes)、棚板衝突音波形データの読出しを継続する(S50)。
【0069】
続いて、制御部41は、読出状態フラグDまたは読出状態フラグTが1にセットされているか否か、つまり、打弦音波形データおよび棚板衝突音波形データの少なくとも一方が読出中であるか否かを判定する(S52)。制御部41は、読出状態フラグDおよびTが1ではない(双方が0である)と判定した場合は(S52;No)、
図7のS20に処理を戻す。制御部41は、読出状態フラグDまたはTが1であると判定した場合は(S52;Yes)、現時点で読み出されている打弦音波形データおよび棚板衝突音波形データのレベルを、打弦音量VoDおよび棚板衝突音量VoTに応じたレベルに調整する(S53)。
【0070】
続いて、制御部41は、そのレベル調整された打弦音波形データおよび棚板衝突音波形データを加算した波形データをサウンドシステム38(
図2)に供給するように供給部47を制御し(S54)、S20(
図7)に処理を戻す。この加算により生成された加算波形データに含まれる打弦音および棚板衝突音は、遅延時間t1、t2に応じて発生タイミングが調整され、打弦音量VoDおよび棚板衝突音量VoTに応じて出力レベルが調整されている。なお、一方の波形データが読み出されていない場合には、実質的には加算されるわけではなく、読み出されている波形データが出力されることになる。
【0071】
このような処理によれば、押鍵加速度αが小さい場合、加算波形データは、押鍵加速度αが大きい場合に比べて、打弦音の遅延時間t1よりも棚板衝突音の遅延時間t2の方が長く設定された状態、または遅延時間t1よりも遅延時間t2の方が短いときに時間差が少なく設定された状態で得られたデータである。一方、上記と同じ強さで鍵が押下された場合において、押鍵加速度αが大きい場合、押鍵加速度αが小さい場合に比べて、棚板衝突音の遅延時間t2に対する打弦音の遅延時間t1がさらに長く設定された状態で得られたデータである。すなわち、押鍵速度Vが同じ場合に押鍵加速度αが大きいほど、棚板衝突音の発生タイミングから打弦音の発生タイミングまでの時間が長くなる。このため、サウンドシステム38では、
図15に示す例のように、押鍵加速度αが大きい(強打加速)ほど、棚板衝突音の発生タイミングから打弦音の発生タイミングまでの遅れを大きくすることを再現することができる。。
【0072】
また、制御部41は、受信したコマンドはノートオンコマンドではないと判定した場合は(
図7のS21;No)、受信したコマンドがノートオフコマンドであるか否かを判定する(S28)。制御部41は、ノートオフコマンドではないと判定した場合は(S28;No)、S20に処理を戻す。制御部41は、ノートオフコマンドであると判定した場合は(S28;Yes)、ノートオフコマンドに含まれる鍵番号などのデータをレジスタに格納する(S29)。続いて、制御部41は、生成中の打弦音波形データに乗算するエンベロープをリリース波形に変更し(S30)、離鍵状態を示すリリース状態フラグRを1にセットし(S31)、S20に処理を戻す。
【0073】
S46(
図9)の判定処理において、リリース状態フラグRが1にセットされている状態では、制御部41は、リリース状態フラグRが1であると判定し、つまり、離鍵されたと判定する(S46;Yes)。この場合、制御部41は、エンベロープレベルが0になったか否かを判定し(S47)、エンベロープレベルが0ではないと判定した場合は(S47;No)、S49に処理を進める。制御部41は、エンベロープレベルが0になったと判定した場合は(S47;Yes)、読出状態フラグD、読出状態フラグTおよびリリース状態フラグRをそれぞれ0リセットし(S48)、S49に処理を進める。
【0074】
[発音制御の機能構成]
ここまで、発音制御を、処理の流れとしてフローチャートを用いて説明した。続いて、発音制御を、電子鍵盤楽器1の機能構成としてブロック図を用いて説明する。
【0075】
図10は、電子鍵盤楽器の機能を示すブロック図である。
図10において、
図2および
図3と同じ構成を示す部分は、同じ符号を付し、その説明を省略する。CPU35においては、制御信号生成部350、打弦速度算出部351および加速度算出部355の各機能が実現されている。制御部41においては、信号生成部110、打弦音量調整部411、棚板衝突音量調整部412、遅延調整部415の各機能が実現されている。
【0076】
信号生成部110は、制御信号生成部350、打弦音量調整部411、棚板衝突音量調整部412、および遅延調整部415から出力される各パラメータに基づいて、打弦音を示す信号(打弦音信号)および棚板衝突音を示す信号(棚板衝突音信号)を生成して出力する。
【0077】
制御信号生成部350は、検出部75から出力される検出信号に基づいて、発音内容を規定する制御信号を生成する。検出信号には、鍵を示す情報KC、スイッチA~Cがオンのときにそれぞれ出力される信号KP1、KP2、KP3を含む。この制御信号は、この例では、MIDI形式のデータであって、ノート番号Note、ノートオンNonおよびノートオフNoffを生成して信号生成部110に出力する。制御信号生成部350は、検出部75から信号KP3が出力されると、ノートオンNonを生成して出力する。ノート番号Noteは、信号KP3に対応して出力された信号KCに基づいて決定される。一方、制御信号生成部350は、ノートオンNonを生成した後に、対応する鍵番号KCの信号KP1の出力が停止されると、ノートオフNoffを生成して出力する。
【0078】
打弦速度算出部351は、検出部75から出力される信号に基づいて、押鍵速度Vを算出する。例えば、KP1とKP2との出力時間差(tABに対応)に基づいて押鍵速度Vが算出される。加速度算出部355は、検出部75から出力される信号に基づいて、押鍵加速度αを算出する。例えば、KP1とKP2との出力時間差(tABに対応)およびKP2とKP3との出力時間差(tBCに対応)に基づいて押鍵加速度αが算出される。押鍵速度Vおよび押鍵加速度αは、上述した制御信号に対応付けて出力される。
【0079】
打弦音量調整部411は、打弦音量テーブル44を参照して、押鍵速度Vから打弦音量VoDを決定する。棚板衝突音量調整部412は、棚板衝突音量テーブル45を参照して、打弦音量VoDと押鍵加速度αとから棚板衝突音量VoTを決定する。遅延調整部415は、遅延時間テーブル46を参照して、打弦音量VoDと押鍵加速度αとから遅延時間t1、t2を決定する。
【0080】
図11は、信号生成部の機能を示すブロック図であって、特に、打弦音信号生成部の機能を示すブロック図である。信号生成部110は、打弦音信号生成部1100、棚板衝突音信号生成部1200および波形合成部1112を含む。打弦音信号生成部1100は、検出部75から出力される信号に基づいて、打弦音信号を生成する。棚板衝突音信号生成部1200は、検出部75から出力される検出信号に基づいて、衝突音信号を生成する。波形合成部1112は、打弦音信号生成部1100において生成される打弦音信号と、棚板衝突音信号生成部1200において生成される棚板衝突音信号とを合成して、音信号Soutとして出力する。音信号Soutは、供給部47からサウンドシステム38に供給される。
【0081】
打弦音信号生成部1100は、波形読出部111(波形読出部111-k;k=1~n)、EV(エンベロープ)波形生成部112(112-k;k=1~n)、乗算器113(113-k;k=1~n)、遅延器115(115-k;k=1~n)および増幅器116(116-k;k=1~n)を備える。上記の「n」は、同時に発音できる数(同時に生成できる音信号の数)に対応し、この例では32である。すなわち、この打弦音信号生成部1100によれば、32回の押鍵まで発音した状態が維持され、全てが発音している状態で33回目の押鍵があった場合には、最初の発音に対応する音信号が強制的に停止される。
【0082】
波形読出部111-1は、制御信号生成部350から得られた制御信号(例えばノートオンNon)に基づいて、打弦音波形メモリ42から読み出すべき打弦音波形データSW-1を選択して読み出して、ノート番号Noteに応じた音高の音信号を生成する。波形読出部111-1は、ノートオフNoffに応じて生成した音信号が消音するまで、打弦音波形データSWを読み出し続ける。
【0083】
EV波形生成部112-1は制御信号生成部350から得られた制御信号および予め設定されたパラメータに基づいて、エンベロープ波形を生成する。例えば、エンベロープ波形は、アタックレベルAL、アタックタイムAT、ディケイタイムDT、サスティンレベルSLおよびリリースタイムRTのパラメータで規定される。
【0084】
乗算器113-1は、波形読出部111-1において生成された音信号に対して、EV波形生成部112-1において生成されたエンベロープ波形を乗算し、遅延器115-1に出力する。
【0085】
遅延器115-1は、設定された遅延時間に応じて音信号を遅延させて増幅器116-1に出力する。この遅延時間は、遅延調整部415により決定された遅延時間t1に基づいて設定される。このようにして、遅延調整部415は、打弦音信号の発生タイミングを調整する。
【0086】
増幅器116-1は、設定された増幅率に応じて音信号を増幅させて波形合成部1112に出力する。この増幅率は、打弦音量調整部141において決定された打弦音量VoDに基づいて設定される。このようにして、打弦音量調整部141は、打弦音量CoDに基づいて打弦音信号の出力レベルを調整する。
【0087】
なお、k=1の場合(k=1~n)について例示したが、波形読出部111-1から打弦音波形データSW-1が読み出されているときに次の押鍵がある度に、k=2、3、4・・・と順に、制御信号生成部350から得られた制御信号が適用されていく。例えば、次の押鍵であれば、k=2の構成に制御信号が適用されて、上記と同様に乗算器113-2から音信号が出力される。この音信号は、遅延器115-2において遅延され、増幅器116-2において増幅されて、波形合成部1112に出力される。
【0088】
図12は、信号生成部の機能を示すブロック図であって、特に、棚板衝突音信号生成部の機能を示すブロック図である。棚板衝突音信号生成部1200は、波形読出部121(波形読出部121-j;j=1~m)、遅延器125(125-j;j=1~m)および増幅器126(126-j;j=1~m)を備える。上記の「m」は、同時に発音できる数(同時に生成できる音信号の数)に対応し、この例では32である。ここでは、「m」は、打弦音信号生成部1100における「n」と同じである。この棚板衝突音信号生成部1200によれば、32回の押鍵まで発音した状態が維持され、全てが発音している状態で33回目の押鍵があった場合には、最初の発音に対応する音信号が強制的に停止される。なお、ほとんどの場合には、棚板衝突音波形データCWの読み出しが打弦音波形データSWの読み出しよりも短い時間で終了するため、「m」は「n」より少なくてもよい(「m<n」)。
【0089】
波形読出部121-1は、制御信号生成部350から得られた制御信号(例えばノートオンNon)に基づいて、棚板衝突音波形メモリ43から読み出すべき衝突音波形データCW-1を選択して読み出して音信号を生成し、遅延器125-1に出力する。上述したように、波形読出部121-1は、ノートオフNoffとは関係なく、衝突音波形データCW-1を最後まで読み出すと、読み出しを終了する。
【0090】
遅延器125-1は、設定された遅延時間に応じて音信号を遅延させて増幅器126-1に出力する。この遅延時間は、遅延調整部415により決定された遅延時間t2に基づいて設定される。このようにして、遅延調整部415は、棚板衝突音信号の発生タイミングを調整する。すなわち、遅延調整部415によって、打弦音信号の発生タイミングと、衝突音信号の発生タイミングとの相対関係が調整される。
【0091】
増幅器126-1は、設定された増幅率に応じて音信号を増幅させて波形合成部1112に出力する。この増幅率は、棚板衝突音量調整部412において決定された棚板衝突音量VoTに基づいて設定される。このようにして、棚板衝突音量調整部412は、棚板衝突音量VoTに基づいて棚板衝突音信号の出力レベルを調整する。
【0092】
なお、j=1の場合(j=1~m)について例示したが、波形読出部121-1から衝突音波形データCW-1が読み出されているときに次の押鍵がある度に、j=2、3、4・・・と順に、制御信号生成部350から得られた制御信号が適用されていく。例えば、次の押鍵であれば、j=2の構成に制御信号が適用されて、上記と同様に、波形読出部121-2から音信号が出力される。この音信号は、遅延器115-2において遅延され、増幅器116-2において増幅されて、波形合成部1112に出力される。
【0093】
波形合成部1112は、打弦音信号生成部1100から出力される打弦音信号と、棚板衝突音信号生成部1200から出力される棚板衝突音信号とを合成して、供給部47に出力する。以上が、電子鍵盤楽器1の機能、特に、CPU35および音源部40における機能を実現するための構成の説明である。
【0094】
[第1実施形態の効果]
(1)上述した第1実施形態の信号供給装置を備えた電子鍵盤楽器1を実施すれば、打弦音量および棚板衝突音量の関係と、打弦音および棚板衝突音の発生タイミングの関係とを調整することができる。このため、アコースティックピアノにおける打弦音量および棚板衝突音量の変化を再現するとともに、打弦音および棚板衝突音の相対的な発生タイミングの変化を再現することができる。つまり、電子鍵盤楽器1を用いれば、アコースティックピアノによる演奏をしたときの発音に近い発音を行うことができる。
【0095】
(2)スイッチAがオンになってからスイッチBがオンになるまでに要した時間tABに基づいて押鍵速度Vを求め、その求めた押鍵速度Vに基づいて打弦音量VoDを調整することができる。時間tABと、スイッチBがオンになってからスイッチCがオンになるまでに要した時間tBCの時間差Δtに基づいて押鍵加速度αを求め、その求めた押鍵加速度αに基づいて棚板衝突音量VoTを調整することができる。つまり、加速度センサを設けなくても、押鍵操作によって動作する3つのスイッチによって、打弦音量VoDおよび棚板衝突音量VoTと、打弦音および棚板衝突音の発音タイミングである遅延時間t1、t2とを調整することができる。このため、電子鍵盤楽器1の製造コストを抑制することができる。
【0096】
〈第2実施形態〉
本願発明の第2実施形態の電子鍵盤楽器について図を参照しながら説明する。第2実施形態では、検出部の構成がスイッチではなく、ストロークセンサである点で、第1実施形態とは異なっている。
【0097】
図13は、第2実施形態における電子鍵盤楽器に設けられた白鍵に関連する構造を模式的に示す図である。
【0098】
白鍵10の下面と鍵フレーム14の上板部14aとの間には、白鍵10の位置を連続的に検出することが可能なストロークセンサ21が設けられている。ストロークセンサ21は、第1実施形態における検出部75に対応し、センサ部21aと、反射部21bと、壁21cとにより構成されている。鍵フレーム14の上板部14aの上面には、発光および受光を行うセンサ部21aが設けられている。白鍵10の下面であってセンサ部21aと対向する部位には、センサ部21aから発光された光を反射する反射部21bが設けられている。また、白鍵10の下面と上板部14aの上面との間には、センサ部21aおよび反射部21bの周囲を囲むように壁21cが設けられている。壁21cは、外来光がセンサ部21aに侵入しないようにするための部材であり、軟質ゴムなどの可撓性材料により形成されている。
【0099】
センサ部21aから発光された光は反射部21bにおいて反射され、その反射光はセンサ部21aにより受光される。押鍵操作により白鍵10が下降すると、センサ部21aと反射部21bとの距離が小さくなり、センサ部21aの受光量が増加する。つまり、白鍵10の下降量に応じてセンサ部21aの受光量が連続して変化する。センサ部21aは受光量に応じた電気信号をA/D変換部(図示せず)に出力し、そのA/D変換部によってデジタルデータに変換された信号がCPU35へ出力される。
【0100】
そして、CPU35は、入力信号の変化に基づいて押鍵速度Vおよび押鍵加速度αを演算し、その演算結果を音源部40の制御部41(
図3)へ出力する。この実施形態では、CPU35は、押鍵開始から押鍵停止に至る範囲のうち、押鍵開始から押鍵停止の直前(当該範囲における予め決められた位置)までの区間における入力信号の変化に基づいて押鍵速度Vを演算し、押鍵停止直前から押鍵停止までの区間における入力信号の変化に基づいて押鍵加速度αを演算する。
【0101】
そして、制御部41は、押鍵速度Vに基づいて打弦音量VoDを演算し、押鍵加速度αに基づいて棚板衝突音量VoTおよび遅延時間t1,t2を演算する。アコースティックピアノでは、押鍵操作が停止し、鍵が棚板と衝突したときに棚板衝突音が発生する。このため、押鍵操作停止直前から押鍵操作停止までの区間における入力信号の変化に基づいて押鍵加速度αを演算することにより、アコースティックピアノに近い音量および発音タイミングで棚板衝突音を発生させることができる。
【0102】
〈第3実施形態〉
本願発明の第3実施形態の電子鍵盤楽器について図を参照しながら説明する。第3実施形態では、第1実施形態の構成に加えて、鍵にタッチセンサが用いられている。
【0103】
図14は、第3実施形態における電子鍵盤楽器に設けられた白鍵に関連する構造を模式的に示す図である。
【0104】
白鍵10の下面と上板部14aとの間には、第1実施形態と同様のスイッチA,B,Cが設けられている。白鍵10の表面には、演奏者の指が白鍵10に触れていることを検出するタッチセンサ22が設けられている。タッチセンサ22としては、感圧センサまたは静電容量式センサなどを用いることができる。タッチセンサ22による検出信号は、鍵10に操作が加えられていることを示す信号としてCPU35(
図2)に入力され、CPU35(
図2)は、タッチセンサ22がオンであるか否かを判定する。第1実施形態と同様に、CPU35は、スイッチAがオンになってからスイッチBがオンになるまでに要した時間tABに基づいて押鍵速度Vを演算し、スイッチBがオンになってからスイッチCがオンになるまでに要した時間tBCに基づいて押鍵加速度αを演算する。そして、制御部41(
図3)は、押鍵速度Vに基づいて打弦音量VoDを演算し、押鍵加速度αに基づいて棚板衝突音量VoTおよび遅延時間t1、t2を演算する。
【0105】
CPU35は、スイッチBがオンになった後にオフになったときに、スイッチAおよびタッチセンサ22がオンになっている場合、つまり、演奏者が白鍵10を押鍵前の初期位置まで戻していない場合は、スイッチBがオフになってから再度オンにするまでに要する時間の計測を開始し、再度スイッチBがオンになったときに時間の計測を終了し、その計測した時間に基づいて押鍵速度Vを演算する。そして、制御部41は、押鍵速度Vに対応する打弦音波形データをサウンドシステム38へ出力し、サウンドシステム38が打弦音を再生する。
【0106】
つまり、演奏者が、指を白鍵10に乗せて押鍵前の初期位置へ復帰しないようにしつつ連続して押鍵した場合に、その押鍵速度に対応する打弦音を連続再生することができる。アコースティックピアノでは、ダンパーが下がる前に再度押鍵するとハンマーが打弦し、打弦音を発音することができる。このため、ダンパーが下がる前に鍵を連打するトレモロというアコースティックピアノ特有の奏法をすることができる。この実施形態の信号供給装置を備える電子鍵盤楽器を実施すれば、そのようなアコースティックピアノ特有の奏法を再現することができる。
【0107】
〈他の実施形態〉
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の一実施形態は、以下のように様々な形態に変形することもできる。また、上述した実施形態および以下に説明する変形例は、それぞれ互いに組み合わせて適用することもできる。
【0108】
(1)第2実施形態の電子鍵盤楽器に第3実施形態のタッチセンサ22を設けることにより、トレモロのようなアコースティックピアノ特有の奏法を再現できるように構成することもできる。
【0109】
(2)押鍵速度Vと押鍵加速度αとの関係を表す係数を実験などによって予め求めておき、押鍵速度Vと上記係数とを対応付けたテーブルを音源部40に設けてもよい。この場合には、制御部41は、演算された押鍵速度Vに対応付けられている係数を上記テーブルから読出し、その読出した係数と押鍵速度Vを乗算することにより押鍵加速度αを求めることもできる。
【0110】
(3)鍵の動作を検出する機構としてさらに別の連続量での検出が可能なセンサはストロークセンサに限られない。例えば、グレースケールが形成された反射部材を鍵に設け、その反射部材と対向する箇所であって可動しない箇所に光センサを設ける構成を用いることもできる。ここで、グレースケールとは、白色および黒色、並びに濃度値が段階的に設定された灰色からなり、画像を白から黒に亘る明暗で表現するために用いられるものである。光センサは、反射部材に光を出射し、反射部材にて反射した光を受光し、その受光量の変化に対応する信号をCPU35へ出力する。そして、CPU35は、入力信号の変化に基づいて押鍵速度Vおよび押鍵加速度αを演算する。
【0111】
(4)鍵に連動するハンマー16(連動部材)にスイッチA~Cを設け、各スイッチから出力される信号に基づいて押鍵速度Vおよび押鍵加速度αを演算することもできる。第2実施形態のようにストロークセンサまたは上記のグレースケールを用いたセンサによってハンマー16の動作を検出するようにしてもよい。
【0112】
(5)スイッチA~Cの感圧スイッチに代えて磁気センサまたは静電容量センサなどのセンサを用いることもできる。
【0113】
(6)前述した各実施形態では、音のサンプリング対象のアコースティック楽器は、アコースティックピアノであったが、チェレスタ、チェンバロ(ハープシコード)、グロッケンシュピールなどのアコースティック楽器でもよい。
【0114】
(7)打弦音波形データおよび棚板衝突音波形データの生成態様を調整することにより、打弦音および棚板衝突音の音量に代えてあるいは音量に加えて音高および音色の少なくとも1つと、発音タイミングとをそれぞれ調整するように構成することもできる。たとえば、音高または音色と、押鍵速度または押鍵加速度とを対応付けたテーブルを用い、押鍵速度または押鍵加速度に応じて打弦音および棚板衝突音を調整する。この構成を備えた電子鍵盤楽器を実施すれば、アコースティックピアノによる演奏に近い音高や音色を再現し、あるいはさらに音量も再現した演奏を行うことができる。
【符号の説明】
【0115】
1…電子鍵盤楽器、10…鍵、11…鍵支持部材、11a…軸部材、12…鍵ガイド、13…駆動部、14…鍵フレーム、14a…上板部、14b…前板部、14b1…開口部、14c…底板部、14d…前板部、14e…後板部、14f…底板部、15…ハンマー支持部、15a…軸部材、16…ハンマー、16a…基部、16a1…脚部、16a2…脚部、16b…連結棒、16c…質量体、17…下限ストッパ、17a…ストッパレール、17b…緩衝材、18…上限ストッパ、18a…ストッパレール、18b…緩衝材、19…緩衝部材、20…フレーム、30…演奏操作子、31…設定操作子、32…表示器、36…記憶装置、37…通信インターフェース、38…サウンドシステム、39…バス、40…音源部、41…制御部、42…打弦音波形メモリ、43…棚板衝突音波形メモリ、44…打弦音量テーブル、45…棚板衝突音量テーブル、46…遅延時間テーブル、47…供給部、75…検出部、110…信号生成部、111…波形読出部、112…EV波形生成部、113…乗算器、115…遅延器、116…増幅器、121…波形読出部、125…遅延器、126…増幅器、141…打弦音量調整部、350…制御信号生成部、351…打弦速度算出部、355…加速度算出部、411…打弦音量調整部、412…棚板衝突音量調整部、415…遅延調整部、1100…打弦音信号生成部、1112…波形合成部、1200…棚板衝突音信号生成部