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特許7160794実装構造体の製造方法およびこれに用いられるシート材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】実装構造体の製造方法およびこれに用いられるシート材
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20221018BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20221018BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L21/56 R
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019510058
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018013011
(87)【国際公開番号】W WO2018181597
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2017071781
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 卓幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西村 和樹
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209563(JP,A)
【文献】特開2001-352014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/54-21/56
H01L23/00-23/04
H01L23/06-23/10
H01L23/16-23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回路部材と、前記第1回路部材に搭載される複数の第2回路部材と、を備えるとともに、前記第1回路部材と前記第2回路部材との間に空間が形成された実装部材を準備する工程と、
熱硬化性樹脂と硬化剤と熱可塑性樹脂と無機充填剤とを含むシート材を準備する工程と、
前記第2回路部材に対向するように、前記シート材を前記実装部材に配置する工程と、
前記シート材を前記第1回路部材に対して押圧するとともに、前記シート材を加熱して、前記空間を維持しながら、前記第2回路部材を封止する封止工程と、を具備し、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂に含まれる、塩化物イオンと、ナトリウムイオンと、カリウムイオンとの合計が、質量基準で30ppm以下であり、
前記シート材に含まれる、塩化物イオンと、ナトリウムイオンと、カリウムイオンとの合計が、質量基準で25ppm以下である、実装構造体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記塩化物イオンが、質量基準で15ppm以下であり、
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記ナトリウムイオンが、質量基準で10ppm以下であり、
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記カリウムイオンが、質量基準で5ppm以下である、請求項1に記載の実装構造体の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がアクリル樹脂である、請求項1または2に記載の実装構造体の製造方法。
【請求項4】
前記シート材が、熱硬化性樹脂100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂を5~200質量部含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の実装構造体の製造方法。
【請求項5】
温度85℃、相対湿度85%、バイアス電圧6Vの条件で高温高湿バイアス試験を行った後の硬化後の前記シート材の絶縁抵抗値が、1×108Ω・cm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の実装構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法により得られた実装構造体を、前記第2回路部材ごとにダイシングして個片化する個片化工程を具備する、個片化実装構造体の製造方法。
【請求項7】
熱硬化性樹脂と、硬化剤と、熱可塑性樹脂と、無機充填剤と、を含むシート材であって、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂に含まれる、塩化物イオンと、ナトリウムイオンと、カリウムイオンとの合計が、質量基準で30ppm以下であり、
前記シート材に含まれる、塩化物イオンと、ナトリウムイオンと、カリウムイオンとの合計が、質量基準で25ppm以下である、シート材。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記塩化物イオンが、質量基準で15ppm以下であり、
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記ナトリウムイオンが、質量基準で10ppm以下であり、
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記カリウムイオンが、質量基準で5ppm以下である、請求項7に記載のシート材。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂がアクリル樹脂である、請求項7または8に記載のシート材。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂を5~200質量部含
、請求項7~9のいずれか一項に記載のシート材。
【請求項11】
温度85℃、相対湿度85%、バイアス電圧6Vの条件で高温高湿バイアス試験を行った後の絶縁抵抗値が、1×108Ω・cm以上である、請求項7~10のいずれか一項に記載のシート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実装構造体の製造方法であって、詳細には、封止された実装構造体の製造方法、および、実装部材の封止に用いられるシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板に搭載される電子部品(回路部材)の中には、回路基板との間に空間を必要とする場合がある。例えば、携帯電話などのノイズ除去に用いられるSAWチップは、圧電基板(圧電体)上を伝搬する表面波を利用して所望の周波数をフィルタリングするため、圧電体上の電極と、SAWチップが搭載される回路基板との間に空間が必要である。このような内部に空間(内部空間)を有する実装部材を封止する際、シート状の封止材(以下、シート材と称す。)が用いられる場合がある。
【0003】
封止材には、低い透湿性が要求される。回路部材に水分が付着すると、ショートや腐食が生じる場合があるためである。さらに、封止材には、高温および/または高湿に曝された場合のイオン性不純物の発生量が少ないことが求められる。イオン性不純物は、実装構造体に使用される金属のマイグレーションを引き起こし得るためである。上記のような内部空間を有する実装部材の場合、封止材に由来するイオン性不純物は内部空間に留まり易い。そのため、特に、イオン性不純物の発生を抑制することが求められる。特許文献1には、特定の条件の下で抽出されるイオン性不純物の量が少ないシート材が教示されている。
【0004】
特許文献1では、樹脂封止された実装構造体などの耐湿性を評価する目的で開発されたプレッシャークッカー試験(Pressure Cooker Test、PCT)に準じた条件により、シート材に対して、イオン性不純物の溶出試験が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-209563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、実装構造体の耐湿性試験として、高温高湿バイアス試験がよく採用される。この試験では、高温および高湿度下で試料に一定のバイアス電圧が印加されるため、実機での使用を想定した評価が可能となる。そのため、PCTよりもイオン性不純物の溶出による問題が起こり易い。特許文献1のように、PCTに準じた条件において、シート材から総量で10ppm以上のイオンが水中に溶出される場合、高温高湿バイアス試験の条件では、絶縁不良が生じたり、実装構造体が腐食したりすることなどによる故障が発生し易い。特に、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等は、腐食を引き起こし易く、これらの総量を管理することが重要になる。近年、回路部材は高密度で実装される傾向にあり、上記のようなマイグレーションや腐食が特に起こり易い。そのため、封止材に由来するイオン性不純物の低減が重要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み、本発明の一局面は、第1回路部材と、前記第1回路部材に搭載される複数の第2回路部材と、を備えるとともに、前記第1回路部材と前記第2回路部材との間に空間が形成された実装部材を準備する工程と、熱硬化性樹脂と硬化剤と熱可塑性樹脂と無機充填剤とを含むシート材を準備する工程と、前記第2回路部材に対向するように、前記シート材を前記実装部材に配置する工程と、前記シート材を前記第1回路部材に対して押圧するとともに、前記シート材を加熱して、前記空間を維持しながら、前記第2回路部材を封止する封止工程と、を具備し、前記熱可塑性樹脂に含まれる、塩化物イオンと、ナトリウムイオンと、カリウムイオンとの合計が、質量基準で30ppm以下である、実装構造体の製造方法に関する。
【0008】
本発明の他の一局面は、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、熱可塑性樹脂と、無機充填剤と、を含むシート材であって、前記熱可塑性樹脂に含まれる、塩化物イオンと、ナトリウムイオンと、カリウムイオンとの合計が、質量基準で30ppm以下である、シート材に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性樹脂に含まれる塩化物イオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンの量が極めて少ないシート材を用いて実装構造体が封止されるため、高温高湿バイアス試験のような環境下であっても、シート材からイオン性不純物が発生することが抑制される。よって、信頼性の高い実装構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態にかかる実装構造体を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる製造方法を、実装部材あるいは実装構造体の断面により模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る方法により製造される実装構造体の一例を、図1に示す。図1は、実装構造体10を模式的に示す断面図である。
実装構造体10は、第1回路部材1と、例えばバンプ3を介して、第1回路部材1に搭載される複数の第2回路部材2と、第2回路部材2を封止する封止材4と、を備える。第1回路部材1と第2回路部材2との間には、空間(内部空間S)が形成されている。
【0012】
封止材4は、シート材の硬化物である。本発明は、このシート材を包含する。シート材は、熱硬化性樹脂と硬化剤と熱可塑性樹脂と無機充填剤とを含む。
【0013】
シート材には、シート化剤(例えば、プレゲル化剤)として熱可塑性樹脂が配合される。熱可塑性樹脂が高温および/または高湿に曝されると、その構造上、その他の原料(特に、熱硬化性樹脂)と比較して、イオン性不純物が発生し易い。そのため、原料として熱可塑性樹脂を含むシート材から生じるイオン性不純物を低減するためには、熱可塑性樹脂に含まれ、イオン性不純物として発生し得る原因元素(例えば、イオン化傾向の高い元素)のイオン(以下、原因イオンと称す。)の量を制御することが重要である。
【0014】
このとき、熱可塑性樹脂から水中に溶出し得る原因イオンの量(以下、溶出イオン量と称す。)ではなく、熱可塑性樹脂に含まれる原因イオンの絶対量を制御することが望ましい。例えば、従来、シート材にイオンキャッチャーを配合して、溶出イオンを捕捉させる試みがなされている。しかし、イオンキャッチャーによる溶出イオンの捕捉では、本実施形態のレベルにまで、イオン性不純物を抑制することは困難である。また、イオンキャッチャーに捕捉された溶出イオンが、再び解放されてしまう場合もある。さらに、この方法では、原因イオンの極性や種類に対応した複数種のイオンキャッチャーを配合する必要がある。よって、シート材の作製が煩雑になったり、シート材の機能が損なわれたりする場合がある。ただし、本実施形態は、イオンキャッチャーの使用を制限するものではない。
【0015】
本実施形態では、熱可塑性樹脂を合成する際に使用される触媒等に含まれ、熱可塑性樹脂に残留し易いナトリウムイオン(Naイオン)、カリウムイオン(Kイオン)および塩化物イオン(Clイオン)に着目し、これら原因イオンの絶対量が、極めて低いレベルにまで低減された熱可塑性樹脂を用いる。これにより、高温高湿バイアス試験のような環境下であっても、シート材からのイオン性不純物の発生によるマイグレーションおよび腐食等の問題が抑制される。特に、実装構造体がアルミニウムを含む電極を有する場合、Clイオンの絶対量を低減することにより、マイグレーションおよび腐食は抑制され易くなる。熱可塑性樹脂に含まれる原因イオンの絶対量を低減することにより、シート材から溶出する溶出イオン量は、劇的に低減する。
【0016】
[シート材]
シート材は、第2回路部材2を封止する部材であり、熱硬化性樹脂と硬化剤と熱可塑性樹脂と無機充填剤とを含む熱硬化性樹脂組成物により構成される。
【0017】
封止前の熱硬化性樹脂は、未硬化状態でもよく、半硬化状態でもよい。半硬化状態とは、熱硬化性樹脂がモノマーおよび/またはオリゴマーを含む状態であり、熱硬化性樹脂の三次元架橋構造の発達が不十分な状態をいう。半硬化状態の熱硬化性樹脂は、室温(25℃)では溶剤に溶解しないが硬化は不完全な状態、いわゆるBステージにある。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでもエポキシ樹脂が好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式脂肪族エポキシ樹脂、有機カルボン酸類のグリシジルエーテルなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。エポキシ樹脂は、プレポリマーであってもよく、ポリエーテル変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂のようなエポキシ樹脂と他のポリマーとの共重合体であってもよい。なかでも、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。特に、耐熱性および耐水性に優れ、かつ安価である点で、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂は、樹脂組成物の粘度調節のために、エポキシ基を分子中に1つ有する1官能エポキシ樹脂を、エポキシ樹脂全体に対して0.1~30質量%程度含むことができる。このような1官能エポキシ樹脂としては、フェニルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、エチルジエチレングリコールグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエングリシジルエーテル、2-ヒドロキシエチルグリシジルエーテルなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
エポキシ樹脂に含まれるNaイオン、KイオンおよびClイオンの合計の絶対量(総絶対量)は、300ppm以下であることが好ましく、250ppm以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂に含まれる総絶対量がこの範囲であれば、高温高湿バイアス試験のような環境下であっても、シート材に起因するイオン性不純物によるマイグレーションや腐食が抑制され易くなる。なお、絶対量は質量基準で算出される(以下、同じ)。
【0022】
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂の硬化剤を含む。硬化剤は、特に限定されないが、例えば、フェノール系硬化剤(フェノール樹脂等)、ジシアンジアミド系硬化剤(ジシアンジアミド等)、尿素系硬化剤、有機酸ヒドラジド系硬化剤、ポリアミン塩系硬化剤、アミンアダクト系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化剤の種類は、熱硬化性樹脂に応じて適宜選択される。なかでも、硬化時の低アウトガス性、耐湿性、耐ヒートサイクル性などの点から、フェノール系硬化剤を用いることが好ましい。
【0023】
硬化剤の量は、硬化剤の種類によって異なる。エポキシ樹脂を用いる場合、例えば、エポキシ基1当量あたり、硬化剤の官能基の当量数が0.001~2当量、さらには0.005~1.5当量となる量の硬化剤を用いることが好ましい。
【0024】
なお、ジシアンジアミド系硬化剤、尿素系硬化剤、有機酸ヒドラジド系硬化剤、ポリアミン塩系硬化剤、アミンアダクト系硬化剤は、潜在性硬化剤である。潜在性硬化剤の活性温度は、60℃以上、更には80℃以上であるのが好ましい。また、活性温度は、250℃以下、更には180℃以下であるのが好ましい。これにより、活性温度以上で迅速に硬化する熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
熱硬化性樹脂組成物は、原因イオンの絶対量の少ない熱可塑性樹脂(以下、高純度熱可塑性樹脂と称す。)を含む。高純度熱可塑性樹脂は、シート化剤として配合される。熱硬化性樹脂組成物がシート化されることにより、封止工程における取り扱い性が向上するとともに、熱硬化性樹脂組成物のダレ等が抑制されて、内部空間Sが維持され易くなる。
【0026】
高純度熱可塑性樹脂は、原因イオンの絶対量が少ない限り特に限定されない。高純度熱可塑性樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリウレタン、ブロックイソシアネート、ポリエーテル、ポリエステル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ブチラール樹脂、ポリアミド、塩化ビニル、セルロース、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性フェノール樹脂などが挙げられる。なかでも、シート化剤としての機能に優れ、また、合成法上、原因イオンの絶対量が低減され易い点で、アクリル樹脂が好ましい。高純度熱可塑性樹脂の量は、熱硬化性樹脂100質量部あたり、5~200質量部が好ましく、10~100質量部が特に好ましい。
【0027】
熱硬化性樹脂組成物に添加する際の高純度熱可塑性樹脂の形態は、特に限定されない。高純度熱可塑性樹脂は、例えば、重量平均粒子径0.01~200μm、好ましくは0.01~100μmの粒子であってもよい。上記粒子は、コアシェル構造を有していてもよい。この場合、コアは、例えば、n-、i-およびt-ブチル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのモノマー由来のユニットを含む重合体であってもよいし、その他の(メタ)アクリレート由来のユニットを含む重合体であってもよい。シェル層は、例えば、メチル(メタ)アクリレート、n-、i-またはt-ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等の単官能モノマーと1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等の多官能モノマーとの共重合体であってもよい。また、溶剤に分散あるいは溶解させた高純度熱可塑性樹脂を、熱硬化性樹脂組成物に添加してもよい。
【0028】
高純度熱可塑性樹脂に含まれるNaイオン、KイオンおよびClイオンの合計の絶対量(総絶対量)は、30ppm以下である。そのため、高温高湿バイアス試験のような環境下であっても、シート材に起因するイオン性不純物によるマイグレーションおよび腐食の発生が極めて少なくなる。総絶対量は、20ppm以下であることが好ましく、15ppm以下であることがより好ましい。
【0029】
なかでも、高純度熱可塑性樹脂に含まれるClイオンの絶対量は、15ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましい。高純度熱可塑性樹脂に含まれるNaイオンの絶対量は、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。高純度熱可塑性樹脂に含まれるKイオンの絶対量は、5ppm以下であることが好ましく、2ppm以下であることがより好ましい。特に、高純度熱可塑性樹脂に含まれるClイオンの絶対量がこの範囲であると、実装構造体がアルミニウムを含む電極を有する場合のマイグレーションおよび腐食が、さらに抑制され易くなる。
【0030】
各原因イオンの絶対量は、次のような方法により定量できる。
Clイオンは、例えば、燃焼イオンクロマトグラフ法により定量できる。燃焼イオンクロマトグラフ法では、燃焼分解装置等を使用して高純度熱可塑性樹脂を燃焼させ、燃焼ガスを吸収液に保持あるいは吸収させる。この吸収液をイオンクロマトグラフ分析することにより、Clイオンを定量することができる。燃焼温度は、例えば900~1000℃である。吸収液としては、例えば、臭素(Br)を内部標準物質として添加したイオン交換水が使用される。
【0031】
NaイオンおよびKイオンは、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により定量できる。ICP発光分光分析の前に、高純度熱可塑性樹脂に灰化等の前処理を施し、塩酸溶解したものを試料としてもよい。灰化の方法は特に限定されず、乾式法でもよいし、湿式法であってもよい。なかでも、シンプルな方法である点で、乾式法が好ましい。乾式法における加熱温度は特に限定されず、例えば500℃程度である。
【0032】
絶対量が極めて少ない場合、溶出イオン量(溶出イオン濃度)も低減する。例えば、高純度熱可塑性樹脂(粒子である場合は、100メッシュパス(平均粒径150μm以下)の樹脂粒子)100gを、2気圧、20時間、121℃のイオン交換水1000gに浸漬したとき、上記イオン交換水に含まれるClイオン、NaイオンおよびKイオンの合計の溶出イオン濃度(総溶出イオン濃度)は20ppm以下になり得る。総溶出イオン濃度は、10ppm以下であることが好ましい。高純度熱可塑性樹脂における総溶出イオン量がこの範囲であれば、高温高湿バイアス試験のような環境下であっても、シート材に起因するイオン性不純物によるマイグレーションや腐食が抑制され易くなる。平均粒径は、体積粒度分布の累積体積50%における粒径(D50。以下同じ。)である。なお、溶出イオン濃度は質量基準で算出される(以下、同じ)。
【0033】
なかでも、高純度熱可塑性樹脂におけるNaイオンの溶出イオン濃度は、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。高純度熱可塑性樹脂におけるKイオンの溶出イオン濃度は、5ppm以下であることが好ましく、2ppm以下であることがより好ましい。高純度熱可塑性樹脂におけるClイオンの溶出イオン濃度は、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。
【0034】
ここで、上記溶出イオン濃度は、シート状ではなく、粒子状あるいは液体状の高純度熱可塑性樹脂を試料とする方法により定量される。そのため、上記溶出イオン濃度は、高純度熱可塑性樹脂に含まれる各原因イオンの絶対量とみなすことができる。溶出イオン量は、上記イオン交換水をICP発光分光分析法あるいはイオンクロマトグラフィーによって分析することにより求められる。後述するシート溶出イオン量も同様である。
【0035】
高温高湿バイアス試験は、HHBT試験(high temperature and high humidity bias test)ともいわれ、高温、高湿条件下で、実装構造体10を模したTEG(Test Element Group)基板に、バイアス電圧(例えば、3~100V)をかけながら行われる。
【0036】
本実施形態においては、温度85℃、相対湿度85%、バイアス電圧6Vの条件下に実装構造体10を曝した場合にも、実装構造体10のマイグレーションおよび腐食は抑制される。すなわち、封止材4(つまり、硬化後のシート材)の絶縁性が維持される。例えば、実装構造体10を上記の環境下に曝した後に測定される封止材4の絶縁抵抗値は、1×108Ω・cm以上である。絶縁抵抗値がこの範囲であれば、第2回路部材2の短絡は十分に抑制される。封止材4の絶縁抵抗値は1×1010Ω・cm以上であることがより好ましい。上記絶縁抵抗値は、硬化後のシート材を単体で、上記環境下に曝した後に測定してもよい。
【0037】
熱硬化性樹脂組成物は、無機充填剤を含む。無機充填剤としては、例えば、溶融シリカなどのシリカ、炭酸カルシウム、チタンホワイト、炭化珪素、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。なかでも、イオン性不純物が少ない点で、溶融シリカが好ましい。無機充填剤の平均粒径は、例えば0.01~100μmである。無機充填剤の量は、熱硬化性樹脂100質量部あたり、1~5000質量部が好ましく、10~3000質量部がより好ましい。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物は、上記以外の第三成分を含んでもよい。第三成分としては、硬化促進剤、重合開始剤、イオンキャッチャー、難燃剤、顔料、シランカップリング剤、チキソ性付与剤などを挙げることができる。熱硬化性樹脂組成物は、高純度熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでもよいが、その量は少ないことが好ましい。例えば、高純度熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂の量は、熱硬化性樹脂100質量部あたり、50質量部未満が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0039】
硬化促進剤は、特に限定されないが、変性イミダゾール系硬化促進剤、変性脂肪族ポリアミン系促進剤、変性ポリアミン系促進剤などが挙げられる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂などの樹脂との反応生成物(アダクト)として使用することが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化促進剤の活性温度は、保存安定性の点から、60℃以上、更には80℃以上が好ましい。また、活性温度は、250℃以下、更には180℃以下であるのが好ましい。ここで、活性温度とは、潜在性硬化剤および/または硬化促進剤の作用により、熱硬化性樹脂の硬化が急速に早められる温度である。
【0040】
硬化促進剤の量は、硬化促進剤の種類によって異なる。通常、エポキシ樹脂100質量部あたり、0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。なお、硬化促進剤をアダクトとして使用する場合、硬化促進剤の量は、硬化促進剤以外の成分(エポキシ樹脂など)を除いた硬化促進剤の正味の量を意味する。
【0041】
重合開始剤は、光照射および/または加熱により、硬化性を発現する。重合開始剤としては、ラジカル発生剤、酸発生剤、塩基発生剤などを用いることができる。具体的には、ベンゾフェノン系化合物、ヒドロキシケトン系化合物、アゾ化合物、有機過酸化物、芳香族スルホニウム塩、脂肪族スルホニウム塩などのスルホニウム塩などを用いることができる。重合開始剤の量は、エポキシ樹脂100質量部あたり、0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。
【0042】
シート材の厚さは特に限定されないが、例えば、1~1500μmである。シート材の厚さがこの範囲であれば、第2回路部材2の短絡を抑制することが容易になる。さらに、内部空間を維持しながら、第2回路部材2を封止するのに十分な強度が確保され易い。シート材の厚さは、10~1000μmがより好ましく、20~500μmが特に好ましい。シート材は、複数の層が積層された積層体であってもよい。また、封止工程の際、内部空間Sが維持され易い点で、シート材(シート材が積層体である場合は、少なくとも第2回路部材2に対向させる層)の第2回路部材2が封止されるときの温度tにおける損失正接tanδは、1以下であることが好ましい。
【0043】
第2回路部材2が封止されるときの温度tとは、内部空間Sが維持された状態で、第2回路部材2の表面が積層シート4Pによって覆われたときの積層シート4Pの温度である。積層シート4Pの温度は、封止工程における積層シート4Pに対する加熱手段の設定温度に代替できる。積層シート4Pの加熱手段がプレス機である場合、加熱手段の温度とは、プレス機の設定温度である。積層シート4Pの加熱手段が第1回路部材1を加熱する加熱機である場合、加熱手段の温度とは、第1回路部材1の加熱機の設定温度である。温度tは、積層シート4Pの材質等に応じて変更し得るが、例えば、室温+15℃(40℃)から、200℃までの間である。具体的には、温度tは、例えば50~180℃である。第2回路部材2が封止されるとき、積層シート4Pは未硬化状態であってもよいし、半硬化状態であってもよい。
【0044】
シート材は、シート化剤として高純度熱可塑性樹脂を含む。そのため、シート材全体に含まれ、イオン性不純物として発生し得る原因イオンの量(シート絶対量)も極めて少ない。例えば、Naイオン、KイオンおよびClイオンの合計のシート絶対量(総シート絶対量)は、質量基準で25ppm以下になり得、15ppm以下になり得る。このとき、Clイオンのシート絶対量は、質量基準で10ppm以下であることが好ましく、9ppm以下であることがより好ましく、7ppm以下であることが特に好ましい。Naイオンのシート絶対量は、質量基準で10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましくい。Kイオンのシート絶対量は、質量基準で5ppm以下であることが好ましく、2ppm以下であることがより好ましい。シート絶対量は、高純度熱可塑性樹脂における絶対量と同様の方法により定量することができる。
【0045】
シート絶対量が極めて少ない場合、当然、シート材から水中に溶出し得るイオンの量(シート溶出イオン量(濃度))も少ない。例えば、シート材を粉砕して得られる100メッシュパス(平均粒径150μm以下)の粒子100gを、2気圧、20時間、121℃のイオン交換水1000gに浸漬したとき、上記イオン交換水に含まれるClイオン、NaイオンおよびKイオンの合計のシート溶出イオン濃度(総シート溶出イオン濃度)は、15ppm以下になり得る。総シート溶出イオン濃度は、10ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましい。上記シート溶出イオン量も、シート材そのものではなく、シート材を粉砕した粒子を試料として用いて、定量される。そのため、上記シート溶出イオン濃度は、シートに含まれる各原因イオンの絶対量(すなわち、上記のシート絶対量)とみなすことができる。つまり、上記シート溶出イオン濃度がこの範囲であると、高温高湿バイアス試験のような環境下であっても、実装構造体のマイグレーションおよび腐食等は抑制される。
【0046】
なかでも、Naイオンのシート溶出イオン濃度は、8ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましい。Kイオンのシート溶出イオン濃度は、3ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましい。Clイオンのシート溶出イオン濃度は、7ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。
【0047】
[実装構造体の製造方法]
本実施形態にかかる製造方法を、図2を参照しながら説明する。図2は、本実施形態にかかる製造方法を、実装部材あるいは実装構造体10の断面により模式的に示す説明図である。
【0048】
実装構造体10は、第1回路部材1と、例えばバンプ3を介して、第1回路部材1に搭載される複数の第2回路部材2と、を備えるとともに、第1回路部材1と第2回路部材2との間に内部空間Sが形成された実装部材を準備する第1準備工程と、高純度熱可塑性樹脂を含むシート材4Pを準備する第2準備工程と、第2回路部材2に対向するように、シート材4Pを実装部材に配置する配置工程と、シート材4Pを第1回路部材1に対して押圧するとともに、シート材4Pを加熱して、内部空間Sを維持しながら、第2回路部材2を封止する封止工程と、を具備する方法により製造される。さらに、得られた実装構造体10を、第2回路部材2ごとにダイシングする個片化工程を行ってもよい。
【0049】
(第1準備工程)
第1回路部材1と、第1回路部材1に搭載される複数の第2回路部材2と、を備える実装部材を準備する(図2(a))。第2回路部材2は、例えばバンプ3を介して第1回路部材1に搭載されている。そのため、第1回路部材1と第2回路部材2との間には、内部空間Sが形成されている。
【0050】
第1回路部材1は、例えば、半導体素子、半導体パッケージ、ガラス基板、樹脂基板、セラミック基板およびシリコン基板よりなる群から選択される少なくとも1種である。これら第1回路部材は、その表面に、ACF(異方性導電フィルム)やACP(異方性導電ペースト)のような導電材料層を形成したものであってもよい。樹脂基板は、リジッド樹脂基板でもフレキシブル樹脂基板でもよく、例えば、エポキシ樹脂基板(例えば、ガラスエポキシ基板)、ビスマレイミドトリアジン基板、ポリイミド樹脂基板、フッ素樹脂基板などが挙げられる。第1回路部材1は、内部に半導体チップ等を備える部品内蔵基板であってもよい。
【0051】
第2回路部材2は、第1回路部材1にバンプ3を介して搭載されている。これにより、第1回路部材1と第2回路部材2との間には内部空間Sが形成される。第2回路部材2は、この内部空間Sを維持した状態で封止(中空封止)されることを要する電子部品である。第2回路部材2としては、例えば、RFIC、SAW、センサーチップ(加速度センサー等)、圧電振動子チップ、水晶振動子チップ、MEMSデバイスなどが挙げられる。
【0052】
バンプ3は導電性を有しており、第1回路部材1と第2回路部材2とは、バンプ3を介して電気的に接続されている。バンプ3の高さは特に限定されないが、例えば、40~70μmであればよい。バンプ3の材料も導電性を有する限り特に限定されず、例えば、半田ボールなどが挙げられる。
【0053】
すなわち、実装部材は、各種第1回路部材1上に第2回路部材2が搭載されたチップ・オン・ボード(CoB)構造(チップ・オン・ウエハ(CoW)、チップ・オン・フィルム(CoF)、チップ・オン・グラス(CoG)を含む)、チップ・オン・チップ(CoC)構造、チップ・オン・パッケージ(CoP)構造およびパッケージ・オン・パッケージ(PoP)構造を有することができる。実装部材は、第2回路部材2が搭載された第1回路部材1に、さらに第1回路部材1および/または第2回路部材2を積層したような多層実装部材であってもよい。
【0054】
(第2準備工程)
高純度熱可塑性樹脂を含むシート材4Pを準備する(図2(a))。
シート材4Pの製造方法は、特に限定されない。シート材4Pは、例えば、上記熱硬化性樹脂組成物を含む溶剤ペーストあるいは無溶剤ペースト(以下、単にペーストと総称する。)を調製する工程と、上記ペーストから薄膜を形成する工程(薄膜形成工程)と、を含む方法により形成される。薄膜形成工程の後、必要に応じて、得られた薄膜をゲル化させる工程(ゲル化工程)が行われる。
【0055】
薄膜は、例えば、ダイ、ロールコーター、ドクターブレードなどを用いて、剥離性基材にペーストを塗工することにより形成される。この場合、ペーストの塗工時の粘度を、10~10000mPa・sとなるように調整することが好ましい。溶剤ペーストを用いた場合、その後、70~150℃、1~10分間乾燥して、溶剤を除去してもよい。ペーストがプレゲル化剤を含む場合、薄膜形成工程の後、ゲル化工程が行われる。ゲル化工程は、薄膜を熱硬化性樹脂の硬化温度未満(例えば、70~150℃)で、1~10分間加熱することにより行われる。ゲル化工程と溶剤の除去とは、同時に実施され得る。
【0056】
(配置工程)
第2回路部材2に対向するように、シート材4Pを実装部材に配置する(図2(b))。
このとき、複数の第2回路部材2を、一枚のシート材4Pで覆ってもよい。これにより、シート材4Pを一括して、複数の第2回路部材2の表面および第2回路部材2同士の間の第1回路部材1の表面に対向するように配置することができる。シート材4Pが積層体である場合、第2回路部材2が封止されるときの温度tにおける損失正接tanδが1以下である層を、第2回路部材2に対向させる。
【0057】
(封止工程)
シート材4Pを第1回路部材1に対して押圧するとともに、シート材4Pを加熱して硬化させる。これにより、内部空間Sを維持しながら、第2回路部材2が封止される(図2(c))。
【0058】
シート材4Pの第1回路部材1に対する押圧は、例えば、シート材4Pを加熱しながら行われる(熱プレス)。これにより、シート材4Pは、第2回路部材2の表面に密着するとともに、第2回路部材2同士の間の第1回路部材1の表面に達するまで伸展することが容易となり、各第2回路部材2の封止の信頼性を高めることができる。熱プレスは、大気圧下で行ってもよいし、減圧雰囲気(例えば0.001~0.05MPa)で行ってもよい。押圧時の加熱の条件は、特に限定されず、押圧方法や熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜設定すればよい。上記加熱は、例えば、40~200℃(好ましくは50~180℃)で、1秒~300分間(好ましくは3秒~300分間)行われる。
【0059】
続いて、シート材4Pを加熱して、シート材4P中の熱硬化性樹脂を硬化させて、封止材4を形成する。これにより、第2回路部材2が封止される。シート材4Pの加熱(熱硬化性樹脂の硬化)の条件は、熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜設定すればよい。熱硬化性樹脂の硬化は、例えば、50~200℃(好ましくは120~180℃)で、1秒~300分間(好ましくは60分~300分間)行われる。
【0060】
熱プレスと熱硬化性樹脂の硬化とは、別々に実施してもよく、同時に実施してもよい。例えば、減圧雰囲気下、シート材4Pに含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度未満で熱プレスした後、減圧を解除して、大気圧下でさらに高温で加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させてもよい。あるいは、大気圧下で、シート材4Pに含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度未満で熱プレスした後、さらに高温で加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させてもよい。また、減圧雰囲気下、硬化温度で熱プレスすることにより、減圧中に熱硬化性樹脂を硬化させてもよい。
【0061】
(個片化工程)
得られた実装構造体10を、第2回路部材2ごとにダイシングする個片化工程を行ってもよい(図2(d))。これにより、チップレベルの実装構造体(実装チップ20)が得られる。
【0062】
[実施例]
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0063】
<実施例1>
(1)シート材の作製
以下の熱硬化性樹脂組成物を調製し、シート材A(厚み200μm、温度t(100℃)におけるtanδ:0.9)を得た。
エポキシ樹脂A(熱硬化性樹脂:商品名LX01、(株)大阪ソーダ製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂):100質量部
ビフェニレンタイプフェノールノボラック(フェノール系硬化剤):110質量部
アクリル樹脂A(高純度熱可塑性樹脂:商品名SG-700AS、ナガセケムテックス(株)製):80部
溶融シリカ(無機充填剤:球状、平均粒径25μm):1100質量部
2-フェニルイミダゾール(硬化促進剤):2質量部
【0064】
使用したアクリル樹脂AにおけるNaイオンとKイオンとClイオンの絶対量および溶出イオン量を表1に示す。シート材AにおけるNaイオンとKイオンとClイオンのシート絶対量およびシート溶出イオン量を、併せて表1に示す。
【0065】
アクリル樹脂Aに含まれるClイオンの絶対量の定量は、燃焼クロマトグラフ法により行った。
燃焼条件((株)三菱化学アナリテック製、燃焼分解装置 AQF-2100H)
燃焼温度:900~1000℃
酸素流量:400ml/分
アルゴン流量:200ml/分
吸収液:イオン交換水(内部標準:Br)
吸収液量:10ml
イオンクロマト設定条件(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、イオンクロマトグラフ ICS-3000)
検出器:電気伝導度
移動相:2.7mol/l 炭酸カリウム
流量:1.5ml/分
カラム温度:35℃
測定量:250μl
【0066】
アクリル樹脂Aに含まれるNaイオンおよびKイオンの絶対量の定量は、アクリル樹脂A1gを灰化処理した後、塩酸水溶液に溶解させた水溶液を試料として用いて、ICP発光分光分析法により行った。灰化処理は、アクリル樹脂Aを、550℃で120分間、電気炉で加熱することにより行った。
【0067】
アクリル樹脂Aにおける各溶出イオンの定量は、液体状のアクリル樹脂A100gを、2気圧、20時間、121℃のイオン交換水1000gに浸漬した後、イオン交換水をイオンクロマトグラフィーによって分析することにより行った。
【0068】
なお、エポキシ樹脂Aに含まれるNaイオンとKイオンとClイオンとの総絶対量は、116ppmであった。エポキシ樹脂Aに含まれる各原因イオンの絶対量は、アクリル樹脂Aに含まれる各原因イオンの絶対量と同様にして定量した。
【0069】
シート材Aに含まれるClイオンのシート絶対量は、試料としてシート材Aを粉砕して得られた粒子(100メッシュパス)を用いたこと以外は、アクリル樹脂Aに含まれるClイオンの絶対量の定量と同様にして定量した。
【0070】
シート材Aに含まれるNaイオンおよびKイオンのシート絶対量の定量は、試料としてシート材Aを粉砕して得られた粒子(100メッシュパス)を用いたこと以外は、アクリル樹脂Aに含まれるNaイオンおよびKイオンの絶対量の定量と同様にして定量した。
【0071】
シート材Aにおける各溶出イオンの定量は、試料としてシート材Aを粉砕して得られた粒子(100メッシュパス)を用いたこと以外は、アクリル樹脂Aにおける溶出イオンの定量と同様にして定量した。
【0072】
(2)実装構造体の作製
アルミニウム製の櫛形電極を備える第2回路部材を、半田ボール(バンプ)を介してシリコン基板(第1回路部材)上に搭載した後、加熱および冷却して実装部材を得た。得られた実装部材の第2回路部材側をシート材で覆った後、減圧雰囲気(0.01MPa)で、熱プレス(温度100℃、1分間)し、その後、150℃で180分間硬化することにより封止を行い、実装構造体Aを得た。実装構造体Aにおける封止材の電気抵抗値(初期の電気抵抗値)は、3×1016Ω・cmであった。
【0073】
(3)高温高湿バイアス試験
85℃、相対湿度85%、バイアス電圧6Vの条件下に500時間、実装構造体Aを曝した。その後、実装構造体Aの封止材の電気抵抗値を測定した。また、実装構造体Aを櫛形電極の断面がわかる位置で切断して、電子顕微鏡(500倍)により観察し、櫛形電極の腐食の有無を確認した。結果を併せて表1に示す。
【0074】
<実施例2>
エポキシ樹脂Aに替えて、エポキシ樹脂B(商品名LX02F、(株)大阪ソーダ製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂)を用い、硬化剤を125部としたこと以外は、実施例1と同様にしてシート材Bおよび実装構造体Bを作製し、評価を行った。結果を、表1に示す。なお、エポキシ樹脂Bに含まれるNaイオンとKイオンとClイオンとの総絶対量は、135ppmであり、実装構造体Bにおける封止材の初期の電気抵抗値は、3×1016Ω・cmであった。
【0075】
<実施例3>
アクリル樹脂Aに替えて、アクリル樹脂B(高純度熱可塑性樹脂:商品名SG-600TEA、ナガセケムテックス(株)製、アクリル樹脂)を50重量部用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシート材Cおよび実装構造体Cを作製し、評価を行った。結果を、表1に示す。なお、実装構造体Cにおける封止材の初期の電気抵抗値は、3×1016Ω・cmであった。
【0076】
<比較例1>
アクリル樹脂Aとは異なるアクリル樹脂a(商品名F320、日本ゼオン(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシート材aおよび実装構造体aを作製し、評価を行った。結果を、表1に示す。なお、実装構造体aにおける封止材の初期の電気抵抗値は、2×1016Ω・cmであった。
【0077】
【表1】
【0078】
原因イオンの絶対量の少ない高純度熱可塑性樹脂を使用した実施例1~3では、実装構造体を高温高湿バイアス試験に準じた環境に置いても、櫛形電極の腐食は見られなかった。また、封止材の電気抵抗値は、いずれも高いレベルに維持されていた。
【0079】
実施例2では、熱硬化性樹脂として、実施例1よりも純度の低いエポキシ樹脂を使用した。しかし、シート材Bから溶出する溶出イオン量は、実施例1のシート材Aとほぼ同じであり、マイグレーションおよび腐食の発生には、熱可塑性樹脂に含まれる原因イオンの絶対量が大きく影響することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の実装構造体は、高温高湿下であってもイオン性不純物が発生し難いため、様々な用途に用いられる。
【符号の説明】
【0081】
10:実装構造体
1:第1回路部材
2:第2回路部材
3:バンプ
4P:シート材
4:封止材(シート材の硬化物)
20:実装チップ
図1
図2