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特許7160798金属酸化物粒子の精製方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】金属酸化物粒子の精製方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/08 20060101AFI20221018BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20221018BHJP
   B03C 1/28 20060101ALI20221018BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20221018BHJP
   H01F 1/03 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 49/06 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C01G49/08 A
B03C1/00 A
B03C1/28 107
C01G49/00 H
H01F1/03 113
A61K49/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019514771
(86)(22)【出願日】2017-09-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 AU2017050981
(87)【国際公開番号】W WO2018049468
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】2016903721
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506018639
【氏名又は名称】ロイヤル・メルボルン・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アマンダ・アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】ビプル・バンサル
(72)【発明者】
【氏名】ジョス・ローリー・キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】ラジェシュ・ラマナタン
(72)【発明者】
【氏名】ジョティ・アローラ
(72)【発明者】
【氏名】ラビ・シュクラ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103316614(CN,A)
【文献】特表2010-512463(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0203351(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0220178(US,A1)
【文献】特開2015-171700(JP,A)
【文献】特開2004-043287(JP,A)
【文献】特表2013-534893(JP,A)
【文献】Preparation of Water-Soluble Magnetite Nanocrystals from Hydrated Ferric Salts in 2-Pyrrolidone: Mechanism Leading to Fe3O4,Angew. Chem. Int. Ed.,2005年,44,123-126.
【文献】Gelification: An Effective Measure for Achieving Differently Sized Biocompatible Fe3O4 Nanocrystals through a Single Preparation Recipe,J. Am. Chem. Soc.,2011年,133,19512-19523.
【文献】Preparation of magnetite nanocrystals with surface reactive moieties by one-pot reaction,JOURNAL OF COLLOID AND INTERFACE SCIENCE,2007年,311,469-474.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
25/00-47/00
49/00-99/00
C01F 1/00-17/38
C01B 13/00-13/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-オクタデセン中のオレイン酸鉄錯体およびオレイン酸の間の熱分解合成プロセスから製造された複数の酸化鉄粒子を精製する方法であって、
a)1:1(体積/体積)比のジエチルエーテルおよびメタノールを含む第1の溶媒組成物中で複数の酸化鉄粒子を洗浄するステップ;
b)1:1(体積/体積)比のヘキサンおよびエタノールを含む第2の溶媒組成物中で該複数の洗浄された酸化鉄粒子をさらに洗浄するステップ;ならびに
c)ヘキサン中に該複数の洗浄された酸化鉄粒子を分散させるステップ;
を含む方法。
【請求項2】
ステップa)の後であるが、ステップb)の前に、
a1)物理的分離手順を使用して、第1の溶媒組成物からの複数の洗浄された酸化鉄粒子を分離するステップ;をさらに含むか、または
ステップb)の後であるが、ステップc)の前に、
b1)物理的分離手順を使用して、第2の溶媒組成物からの複数のさらに洗浄された酸化鉄粒子を分離するステップ;をさらに含むか、または
ステップa1)およびb1)をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
磁気共鳴映像法(MRI)用の造影剤としての、または磁気分離、磁気指向ターゲティング、および磁気誘導加熱からなるプロセスの群から選択される磁気援用プロセスにおける磁気粒子としての、請求項1または2に記載の方法に従って精製された酸化鉄粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、合成プロセスから製造された金属酸化物粒子を精製する方法、およびその使用に関する。より具体的には、本発明は、熱分解合成プロセスから製造された複数の酸化鉄粒子を生物医学的用途および/または他の消費者向け用途に使用できるように精製する方法に関する。
【0002】
本発明の背景技術に関する以下の説明は、本発明の理解を容易にするためのものである。しかしながら、議論が、言及した資料のいずれかが本明細書の請求項のうちのいずれか1つの優先日において、オーストラリアまたは他の国で公表されたか、知られているか、または一般常識の一部であることを認容または承認するものではないことを理解すべきである。
【背景技術】
【0003】
過去10年間にわたり、治療薬、バイオセンシング、細胞分離および染色、ならびに磁気共鳴画像法(MRI)などの一連の生物医学的用途のための磁性(ナノ)粒子の製造に多くの注目が向けられてきた。
【0004】
異なる磁気特性を有する酸化鉄粒子を、公知の文献の方法に従って製造することができる。しかしながら、これらの方法に従って製造された酸化鉄粒子の純度は望まれることを多く残しており、それは、それらを上記で強調された生物医学的用途の多くにとって不適当なものにする。
【0005】
これらの既知の文献の方法に概説されている洗浄または精製手順は十分に記載されていない。多くの場合、酸化鉄粒子を製造するために使用される合成方法が何であれ、洗浄または精製手順は、典型的には過剰量の試薬および/または使用した合成方法に伴う望ましくない副生成物を除去するために、製造時の粒子を多量の低級アルコールで洗浄することを含む。
【0006】
たとえば、酸化鉄粒子の製造に最も一般的に使用される方法の1つは、合成後に得られる粒子の単分散性および高結晶性などの、この技術に関連する利点のために熱分解技術である。この特定の技術の最後の部分では、得られた酸化鉄粒子を、エタノールを用いて溶液から沈殿させる。しかしながら、ここで、酸化鉄粒子は、熱分解反応の間に使用される広範な未反応有機化合物(オレイン酸)および反応溶媒(1-オクタデセン)ならびに反応から生じる副生成物内に粒子が埋め込まれているために未だに不純である。Park et al[1]は、文献中で、不純な酸化鉄粒子を大量のエタノールで洗浄することによって過剰のオレイン酸および1-オクタデセン不純物を除去するための方法を概説している。それでも、実際には、エタノールを単独で使用することが、この熱分解反応に伴うすべての不純物を除去できるということを示唆する証拠はほとんどない。
【0007】
生物医学的用途および他の消費者ベースの用途にとって、不純物は磁性粒子性能、サイズおよびその後のこれらの粒子の水性または他の極性溶媒への相転移などの広範n要因に影響を及ぼし得るので、金属酸化物粒子の精製は重要である。たとえば、粒子の表面が十分にきれいでないならば、そのような不純な粒子を含む溶液はコロイド懸濁液のように振る舞わず、粒子を凝集させ、それが次にそれらの磁気特性に影響を与え、そしてその後それらの用途に影響を与える。さらに、粒子凝集による大きなサイズは、それらの生物学的適用性、たとえば、異なる器官、細胞小器官およびリンパ系によるそれらの取り込みメカニズムにも影響を及ぼすであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、そのような金属酸化物粒子の表面から制御可能で再現可能な方法で過剰の反応副生成物を除去することが重要な必要性を有する。
【0009】
本発明は、先行技術の欠点の少なくともいくつかを克服するかまたは実質的に改善する、化学合成後の金属酸化物粒子の精製方法およびその使用を提供すること、または少なくとも代替案を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概略
本発明の第1の態様に従って、合成プロセスから製造された複数の金属酸化物粒子を精製する方法であって、
a)i)少なくとも1つの脂肪族エーテル;およびii)少なくとも1つの凝集剤;を含む第1の溶媒組成物中で複数の金属酸化物粒子を洗浄するステップ;を含む方法を提供する。
【0011】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテルは、少なくとも1つの凝集剤と少なくとも部分的に混和性である。
【0012】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテルおよび少なくとも1つの凝集剤は、1:1(体積/体積)比である。
【0013】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテルは、第一級脂肪族エーテル、第二級脂肪族エーテルおよび第三級脂肪族エーテルからなる群から選択される。
【0014】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテルは、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテルおよびジ-n-オクチルエーテルからなる群から選択される。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの凝集剤は、アルコール、アルデヒドおよびケトンからなる群から選択される。
【0016】
好ましくは、少なくとも1つの凝集剤は、第一級アルコール、第二級アルコールおよび第三級アルコールからなる群から選択されるアルコールである。
【0017】
好ましくは、アルコールは、メタノール、エタノールおよびn-プロパノールからなる群から選択される第一級アルコールである。
【0018】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテルは、ジエチルエーテルであり、少なくとも1つの凝集剤は、メタノールである。
【0019】
好ましくは、第1の溶媒組成物は、少なくとも1つの非極性溶媒をさらに含む。
【0020】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテルおよび少なくとも1つの非極性溶媒は、少なくとも1つの凝集剤と少なくとも部分的に混和性である。
【0021】
好ましくは、少なくとも1つの脂肪族エーテル、少なくとも1つの非極性溶媒および少なくとも1つの凝集剤は、1:1:2(体積/体積)比である。
【0022】
好ましくは、少なくとも1つの非極性溶媒は、ヘキサンである。
【0023】
好ましくは、方法は、ステップa)の後に、
b)i)少なくとも1つの非極性溶媒;およびii)少なくとも1つの凝集剤;を含む第2の溶媒組成物中で複数の洗浄された金属酸化物粒子をさらに洗浄するステップ;を含む。
【0024】
好ましくは、少なくとも1つの非極性溶媒は、少なくとも1つの凝集剤と少なくとも部分的に混和性である。
【0025】
好ましくは、少なくとも1つの非極性溶媒および少なくとも1つの凝集剤は、1:1(体積/体積)比である。
【0026】
好ましくは、少なくとも1つの非極性溶媒は、ヘキサンであり、少なくとも1つの凝集剤は、エタノールである。
【0027】
好ましくは、方法は、ステップa)の後であるが、ステップb)の前に、
a1)物理的分離手順を使用して、第1の溶媒組成物からの複数の洗浄された金属酸化物粒子を分離するステップ;をさらに含む。
【0028】
好ましくは、物理的分離手順は、磁気分離、遠心分離、ろ過およびデカンテーションからなる群から選択される。
【0029】
好ましくは、方法は、ステップb)の後に、
c)i)少なくとも1つの非極性溶媒からなる第3の溶媒組成物中に、さらに洗浄された前記複数の金属酸化物粒子を分散させるステップ;をさらに含む。
【0030】
好ましくは、少なくとも1つの非極性溶媒は、ヘキサンである。
【0031】
好ましくは、方法は、ステップb)の後であるが、ステップc)の前に、
b1)物理的分離手順を使用して、第2の溶媒組成物からの複数のさらに洗浄された金属酸化物粒子を分離するステップ;をさらに含む。
【0032】
好ましくは、物理的分離手順は、磁気分離、遠心分離、ろ過およびデカンテーションからなる群から選択される。
【0033】
本発明の2の態様に従って、1-オクタデセン中のオレイン酸鉄錯体およびオレイン酸の間の熱分解合成プロセスから製造された複数の酸化鉄粒子を精製する方法であって、
a)1:1(体積/体積)比のジエチルエーテルおよびメタノールを含む第1の溶媒組成物中で複数の酸化鉄粒子を洗浄するステップ;
b)1:1(体積/体積)比のヘキサンおよびエタノールを含む第2の溶媒組成物中で該複数の洗浄された酸化鉄粒子をさらに洗浄するステップ;および
c)ヘキサン中に該複数の洗浄された酸化鉄粒子を分散させるステップ;
を含む方法を提供する。
【0034】
好ましくは、方法は、ステップa)の後であるが、ステップb)の前に、
a1)物理的分離手順を使用して、第1の溶媒組成物からの複数の洗浄された酸化鉄粒子を分離するステップ;をさらに含む。
【0035】
好ましくは、方法は、ステップb)の後であるが、ステップc)の前に、
b1)物理的分離手順を使用して、第2の溶媒組成物からの複数のさらに洗浄された酸化鉄粒子を分離するステップ;をさらに含む。
【0036】
好ましくは、方法は、
d)ステップa)~c)を1回以上繰り返すステップ;をさらに含む。
【0037】
本発明の第3の態様に従って、磁気共鳴映像法(MRI)用の造影剤としての第2の態様の方法に従って精製された酸化鉄粒子の使用を提供する。
【0038】
本発明の第4の態様に従って、磁気分離、磁気指向ターゲティングおよび磁気誘導加熱からなる群から選択される磁気援用プロセスにおける磁気粒子としての第2の態様の方法に従って精製された酸化鉄粒子の使用を提供する。
【0039】
本発明の他の態様も開示される。
【0040】
添付の図面を参照して、本発明の範囲内に含まれ得る他のいかなる形態にもかかわらず、本発明の好ましい実施態様が、ほんの一例として、ここに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】1:1比の非極性溶媒(ジエチルエーテル):凝集剤(メタノール)を含む第1の溶媒組成物が関与する本発明の好ましい実施態様による方法を用いて精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像を、(ii)洗浄前の酸化鉄粒子、(iii)オレイン酸、(iv)オレイン酸鉄、および(v)洗浄後の酸化鉄粒子のFTIRスペクトルとともに示す。
図2】第2の溶媒組成物を用いる1つ以上の追加の洗浄ステップを伴う好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図3】第2の溶媒組成物を用いる1つ以上の追加の洗浄ステップを伴う好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図4】第2の溶媒組成物を用いる1つ以上の追加の洗浄ステップを伴う、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図5A-5E】それぞれ、第1の溶媒組成物および金属酸化物粒子の間の比が変化する、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図6】第1の溶媒組成物中の非極性溶媒が、ジ-n-プロピルエーテルに置換される、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図7】第1の溶媒組成物中の非極性溶媒が、tert-ブチルメチルエーテルに置換される、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図8】比較のために、第1および第2の溶媒組成物が凝集剤(エタノール)のみを含む方法を用いて精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図9】第1の溶媒組成物中の非極性溶媒および凝集剤が、それぞれ1:1比のヘキサンおよびアセトンに置換される、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図10】第1および第2の溶媒組成物が、1:2比のヘキサン:アセトンを含む、図9の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図11】比較のために、非極性溶媒(ペトロール)のみを含む第1の溶媒組成物および1:1比の非極性溶媒(ヘキサン):凝集剤(エタノール)を含む第2の溶媒組成物が関与する方法を用いて精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図12】第1の溶媒組成物中の非極性溶媒が、ペトロールに置換され、凝集剤が、メタノールに置換される、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
図13】第1の溶媒組成物が、2つの非極性溶媒(ジエチルエーテルおよびヘキサン)および凝集剤(メタノール)を含む、好ましい実施態様の方法によって精製された酸化鉄粒子の(i)TEM画像および(ii)FTIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
特定の実施態様の詳細な記載
本発明は、熱分解法、水熱合成法、共沈法およびマイクロエマルション技術を含むがこれらに限定されない多数の金属酸化物粒子合成方法のいずれか1つに従って製造された金属酸化物粒子の精製方法の発見に基礎を置く。合成プロセスにかかわらず、すべての金属酸化物粒子合成プロセスは、過剰な反応物および付随する副生成物を除去するためにある程度の厳密な精製を必要とする。
【0043】
酸化鉄粒子を製造するために最も一般的に使用され、そして好ましい合成方法の1つは、単分散性および高い結晶性ならびに大規模製造の傾向などの、この方法を使用して達成される望ましい性質のためにParkら[1]により使用される熱分解法である。熱分解法の最終段階では、エタノールを用いて酸化鉄粒子を反応溶液から沈殿させる。このようにして得られた酸化鉄粒子は、典型的には、過剰のオレイン酸および1-オクタデセンなどの合成中に使用される未反応有機化合物および反応溶媒内に埋め込まれる。これに対処するために、Parkら[1]は、沈殿した酸化鉄粒子を大量のエタノール中で洗浄して望ましくない有機汚染物質を除去する精製工程を利用する。しかしながら、実際には、エタノールの使用のみでこれらの不要な有機汚染物質を除去するのに十分であるという証拠はほとんどない。
【0044】
本発明の実施態様は、Parkら[1]によって採用された熱分解法に従って製造された複数の酸化鉄粒子を精製することに関して説明される。しかしながら、当業者であれば、以下に概説する厳密な洗浄プロトコルを、他の重要な合成方法の1つに従って製造された酸化鉄粒子、そして実際には、他の金属酸化物粒子の精製に同様に使用できることを理解するであろう。
【0045】
方法
次に、本発明の好ましい実施態様による、1-オクタデセン中の鉄-オレイン酸錯体とオレイン酸との間の熱分解合成プロセスから製造された複数の酸化鉄粒子を精製する方法について説明する。
【0046】
方法は、第1のステップであるステップa)として、脂肪族エーテルおよび溶媒の形態の凝集剤を含む第1の溶媒組成物中で、製造されたままの複数の酸化鉄粒子を洗浄するステップを含む。
【0047】
本発明者らは、脂肪族エーテルおよび凝集剤の選択は、これらの溶媒が互いに少なくとも部分的に混和性であるべきであるという根拠に依存することを見出した。
【0048】
脂肪族エーテルは、第一級、第二級または第三級脂肪族エーテルでありうる。
【0049】
以下の実施例に記載されるように、脂肪族エーテルが、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)およびジ-n-オクチルエーテルからなる群から選択される場合、以下の実施例に記載されるように、良好な結果が得られた。
【0050】
好ましい実施態様では、脂肪族エーテルは、ジエチルエーテルである。
【0051】
凝集剤は、アルコール、アルデヒドおよびケトンからなる群から選択される。
【0052】
適切には、凝集剤は、第一級アルコール、第二級アルコールおよび第三級アルコールからなる群から選択される低級アルコールである。
【0053】
1つの実施態様では、低級アルコールは、メタノール、エタノールおよびn-プロパノールからなる群から選択される第一級アルコールである。
【0054】
好ましい実施態様では、凝集剤は、メタノールである。
【0055】
本発明者らは、第1の溶媒組成物中の脂肪族エーテル:凝集剤の比率が最大20%まで変動しても(たとえば、いずれかの溶媒について約5mlの変動)、依然として有効な洗浄プロトコルを達成することを見出した。
【0056】
好ましい実施態様では、脂肪族エーテルおよび凝集剤は、1:1(体積/体積)比である。この1:1(体積/体積)比の有効性を詳述する良好な結果は、下記の実施例および表に見出すことができる。
【0057】
本発明者らはまた、第1の溶媒組成物に使用される溶媒の酸化鉄粒子の量に対する比が、良好な洗浄プロトコルを達成するために重要であることを見出した。たとえば、表1に示されるように、下記の実施例5A~5Eに例示されるような研究は、溶媒:酸化鉄粒子の比が、 49.0:1.0から47.0:3.0に移行するにつれて、洗浄プロトコルの有効性が着実に悪化することを実証する。
【0058】
ある特定の理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、この洗浄効率の低減化は、少なくとも部分的には、粒子表面に結合した汚染物質種と溶媒中のものとの共存に関与する平衡状態と共に、洗浄に使用した溶媒混合物と製造したままの酸化鉄粒子に結合した汚染物質種の有限の混和性によるものであると考える
【0059】
下記の実施例1に記載されるように、第1の溶媒組成物が、1:1(体積/体積)比でジエチルエーテルおよびメタノールを含む場合、優れた結果が得られ、ここで、溶媒:酸化鉄粒子の比は、49:1である。
【0060】
本発明者らはまた、第1の溶媒組成物が、脂肪族エーテルおよび凝集剤に加えて、非極性溶媒をさらに含みうることを見出した。非極性溶媒、脂肪族エーテルおよび凝集剤の選択が、これらの溶媒が互いに少なくとも部分的に混和性であるべきであるという根拠に依存することは当業者によって理解されるであろう。
【0061】
好ましい実施態様では、非極性溶媒は、ヘキサンである。
【0062】
下記の実施例19に記載されるように、第1の溶媒組成物が、1:1:2(体積/体積)比でヘキサン、ジエチルエーテルとおよびメタノールを含む場合、優れた結果が得られ、ここで、溶媒:酸化鉄粒子の比は、49:1である。
【0063】
一旦洗浄されると、次いで、物理的分離手順を用いて、第1の溶媒組成物から複数の洗浄された酸化鉄粒子が単離される。磁気分離、遠心分離、濾過およびデカンテーションを含むがこれらに限定されない、洗浄された酸化鉄粒子を単離するための多くの標準的な手順のうちのいずれか1つを使用できることが当業者には理解されよう。
【0064】
下記の実施例に記載されるように、複数の洗浄された酸化鉄粒子が、磁気分離を用いて第1の溶媒組成物から分離される場合、優れた結果が得られた。
【0065】
方法は、第2のステップであるステップb)として、ステップa)に従って洗浄された複数の酸化鉄粒子を、非極性溶媒および凝集剤を含む第2の溶媒組成物中でさらに洗浄するステップを含む。
【0066】
また、本発明者らは、非極性溶媒および凝集剤の選択が、これらの溶媒が互いに少なくとも部分的に混和性であるべきであるという根拠に依存することを見出した。
【0067】
好ましい実施態様では、非極性溶媒は、ヘキサンであり、凝集剤は、エタノールであり、1:1(体積/体積)比で用いられる。
【0068】
一旦洗浄されると、次いで、磁気分離などの物理的分離手順を用いて、第2の溶媒組成物から複数のさらに洗浄された酸化鉄粒子が単離される。
【0069】
方法は、第3のステップであるステップc)として、複数のさらに洗浄された酸化鉄粒子を、非極性溶媒を含む第3の溶媒組成物中に分散させるステップを含む。
【0070】
好ましい実施態様では、非極性溶媒は、ヘキサンである。
【0071】
所望の純度を達成するために、ステップd)に従って、上記の洗浄プロトコルのステップa)~c)のうちのいずれか1つを繰り返してもよいことが当業者には理解されよう。
【0072】
本質的に、本発明者らは、上記の洗浄プロトコルのステップa)~c)のそれぞれを実施することによって、治療薬、バイオセンシング、細胞分離および染色、溶液中の所望の実体をたとえば化学反応物および/または副産物から分離するための磁気分離技術、磁気指向ターゲティング、磁気誘導加熱、ならびに共鳴イメージング(MRI)用の磁気造影剤として、などのさまざまな生物医学的用途にそれらを実行可能にするのに十分な純度の酸化鉄粒子を得ることが可能であることを見出した。
【0073】
以下の実施例および図面は、説明目的のために提供される。従って、実施例および図は限定として解釈されるべきではないことが理解される。当業者は、本明細書に記載された原理のさらなる修正を明らかに想到することができるであろう。
実施例
【実施例1】
【0074】
塩化鉄(III)六水和物の代わりに無水塩化鉄(III)前駆体を合成に使用し、大量のエタノールを使用して溶液から得られた酸化鉄粒子を沈殿させる合成後工程を使用しなかったという点でわずかな相違はあるが、Parkら[1]に概説されている熱分解法に従って不純な酸化鉄粒子を得た。
【0075】
簡単に言えば、得られた酸化鉄粒子1mLに、非極性溶媒であるジエチルエーテル、および凝集剤であるメタノールの(1:1体積/体積)混合物を含む49mLの第1の溶媒組成物を添加した。高度にワックス状の酸化鉄粒子は、第1の溶媒組成物中に容易に分散し、そして大部分の粒子は、溶液から直ちに析出した。
【0076】
次いで、混合物を5分間超音波処理して、酸化鉄粒子の効率的洗浄を促進した。次いで、反応容器の外側に迅速に磁石を約2~3分間適用することによって、酸化鉄粒子を溶液から磁気的に分離した。酸化鉄粒子の磁気分離は、洗浄前と同様に精製を示した;熱分解プロセスから得られた不純な酸化鉄粒子は、周囲の有機溶媒および不純物から磁気的に分離することができなかった。今、分離された酸化鉄粒子を外部磁場のために容器の底に残したまま、上清をデカントした。次いで、磁石を取り除き、次いで、半精製酸化鉄粒子を、ヘキサンの形態の非極性溶媒およびエタノールの形態の凝集剤を含む第2の溶媒組成物に付した。ここでは、ヘキサン(10 mL)を最初に添加して、半精製酸化鉄粒子を溶液に再分散させ、溶液を黒色にした。次いで、溶液にエタノール(10 mL)を添加し、得られる混合物を5分間超音波処理した。酸化鉄粒子を、上記と同じ手順に従って再び磁気的に分離した。洗浄された酸化鉄粒子は、黒く湿っており、油性の光沢または残渣がないように見えた。最後に、洗浄した酸化鉄粒子をヘキサン中に分散させてコロイド懸濁液を形成した。
【0077】
実施例1の洗浄プロトコルの効率を、周囲条件下で乾燥させた得られた酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡法(TEM)およびフーリエ変換赤外分光法(FTIR)により、評価した。
【0078】
本実施例では、残留溶媒および有機不純物からの酸化鉄粒子の精製のための、迅速(5~15分)、低コスト(精製用の数十リットルの有機溶媒に対して~0.2 L)、環境に優しい(有機溶媒の無駄を最小限に抑える)、高収率、かつ、より効果的な(すなわち、より良い洗浄)方法を示す。さらに、さらに、精製プロセスを通して洗浄された酸化鉄粒子を磁気的に分離する能力は、このプロトコルの優れた洗浄効力のさらなる証拠である。
【0079】
図1(i)に示されるように、上述の洗浄プロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子のTEM画像は、この方法の有効性を実証する。実際に、TEM画像は、単離され、そして単分散された酸化鉄粒子を明らかにし、熱分解合成に伴う過剰の反応物および副生成物がこれらの酸化鉄粒子の表面から完全に除去されたことを確認する。
【0080】
FTIRは、熱分解合成、前精製および後精製から得られた酸化鉄粒子の表面上に存在しうるあらゆる有機不純物の性質および相対存在量を評価するための有用な技術である。これは、次に、特定の洗浄プロトコルによって達成された精製のレベルに反映する。
【0081】
図1(v)は、実施例1のプロトコルを用いた洗浄後の酸化鉄粒子のFTIRスペクトルを示す。次いで、このスペクトルのFTIRシグネチャ(signature)を、洗浄前の不純な酸化鉄粒子の対応するFTIRスペクトルのシグネチャ(図1(ii))、および熱分解合成に使用した化学前駆体、すなわち、オレイン酸(図1(iii))およびオレイン酸鉄(図1(iv))のFTIRスペクトルのシグネチャと比較する。
【0082】
図1(ii)に示されるFTIRスペクトルは、不純な酸化鉄粒子が異なる振動周波数で多数のピークを示すことを明らかにし、それらの多くは熱分解合成中に用いられる化学前駆体に関連するFTIRシグネチャと重なる。このピークの重なりは、不純な酸化鉄粒子の表面に多数の不純物が結合したままであることを示唆する。
【0083】
対照的に、不純な酸化鉄粒子が上述のプロトコルを使用することによって洗浄される場合、洗浄された酸化鉄粒子は限られた特徴しか示さず、それによって第1の例では、ほとんどの不純物が洗浄プロセス中に除去されたことが示唆される。具体的には、図1(v)のFTIRスペクトルから明らかなように、洗浄された酸化鉄粒子は、1200 cm-1~1600 cm-1および2800 cm-1~3000 cm-1の範囲の主要な振動特性を示す。これらの特徴は、天然オレイン酸に関連するもの(図1(iii))とよく一致するが、オレイン酸鉄(図1(iv))とは一致せず、大部分のオレイン酸鉄が洗浄プロセス中に除去されることを確認する。オレイン酸鉄(高度にワックス状の半固体)は、標準的な洗浄または精製プロトコルの間に除去することが極めて困難であることを考慮すると、これらの観察は、実施例1に記載された洗浄プロトコルの高い有効性を支持する。
【0084】
洗浄された酸化鉄粒子のスペクトル(図1(v))で観察されたFTIR振動を注意深く分析すると、洗浄中に大部分のオレイン酸鉄および遊離オレイン酸が除去され、一方で、オレイン酸分子は、高度に組織化されたコンパクトな方法で粒子表面に結合することが確認される。たとえば、清浄化された酸化鉄粒子のFTIRスペクトル中の1377 cm-1および1463 cm-1における小さなピーク(図1(v))は、金属カルボキシレートの非対称および対称振動に対応する。νas(COO-)およびνs(COO-)IRバンドの間の波数間隔(Δν0)は、カルボキシレートと金属イオンの間の相互作用を決定するために使用することができる。(Bronstein、2007)[3]。洗浄された酸化鉄粒子の場合、波数間隔(Δν0)は86 cm-1であり、これはCOO-基が鉄原子と共有結合を形成する二座キレート配位に起因する。この結果は、洗浄後、少量のオレイン酸鉄がカルボキシレートとして粒子表面に化学吸着したままであり、それによって粒子を凝集に対して安定化されたことを示唆する。
【0085】
洗浄された酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図1(v))において観察された他の重要なピークは、1716 cm-1に生じ、これは、オレイン酸に関連する振動に対応する。このピークは、オレイン酸鉄についてのFTIRスペクトル(図1(iv))からは明らかに欠けている。このピークは、オレイン酸分子のカルボキシル基(C=O)の伸縮振動から生じる。特に、洗浄された酸化鉄粒子におけるこのピークの強度は、オレイン酸における強度よりも著しく低い。これは、オレイン酸鉄でキャップされた酸化物粒子の周りのオレイン酸の著しく減少した表面層の存在を支持する。
【0086】
洗浄された酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図1(v))中の2850 cm-1および2918 cm-1におけるさらなるピークは、メチレン(CH2)結合の対称および非対称伸縮振動に対応する。これらの純粋な前駆体のFTIRスペクトルから明らかなように、オレイン酸とオレイン酸鉄の両方の長鎖炭素鎖がこれらのFTIRシグネチャに寄与している。しかしながら、この振動範囲で観察されたシグネチャは、オレイン酸(図1(iii))および洗浄された酸化鉄粒子(図1(v))のFTIRスペクトルと比較して、オレイン酸鉄のFTIRスペクトル(図1(iv))および不純な酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図1(ii))において著しく広い。洗浄された酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図1(v))におけるこれらの特徴の鮮明化は、粒子を取り囲む単層中の炭化水素鎖の高度に密集した結晶構造化を示す。これは、洗浄後、オレイン酸鉄が洗浄された酸化鉄粒子のすぐ周りに第1の単層を形成し、続いて追加のオレイン酸層を形成するという上記の概念を支持する。この集合体において、オレイン酸鉄の長い炭素鎖とオレイン酸との間の有意な疎水性相互作用は、メチレン(CH2)伸縮振動の緊密なパッキングをもたらす。
【0087】
したがって、要約すると、本発明者らは、驚くべきことに、実施例1の洗浄プロトコルが、単純な洗浄プロセスで、熱分解合成に関連する未反応の化学前駆体および副生成物のほとんどを除去することを見出した。
【0088】
凝集剤であるメタノールは、エタノール、プロパノールまたはアセトンと交換することができることが理解されよう。
【実施例2】
【0089】
第2の溶媒組成物による2倍の洗浄
本実施例は、ここに記載された洗浄プロトコルが、洗浄された酸化鉄粒子を、第2の溶媒組成物(1:1比のヘキサンおよびエタノール)により2度目に洗浄する追加のステップを含むことを除いて、実施例1に記載されたものと同様の洗浄プロトコルに従う。
【0090】
図2(i)に示されるように、実施例2のプロトコルに従って洗浄された精製酸化鉄粒子のTEM画像は、第2の溶媒組成物を含む追加の洗浄ステップは、得られた酸化鉄粒子の品質にさらなる影響を及ぼさないように見えることを実証し、ここで、粒子は単分散のままであり、よく分離されたままである。
【0091】
しかしながら、図2(ii)に示されるFTIRスペクトルは、洗浄された酸化鉄粒子の表面上に存在する有機分子におけるいくつかの変化を示す。主な変化は、1200 cm-1~1600 cm-1の振動範囲に見られ、金属カルボキシレートの非対称および対称振動は、それぞれ1375および1541 cm-1で観察された。これは、vas(COO-)およびvs(COO-)IRバンドの間の(Δv0)を、86 cm-1(実施例1の洗浄プロトコルに関して観察されるように)から実施例2のプロトコルにおける166 cm-1にシフトさせる。
【0092】
1つの特定の理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、この値の変化は、金属イオンへのCOO-基の配位の性質が、二座キレート化から主に架橋配位子配置へと変化することを強く示唆すると考えている。そのため、これは、酸化鉄粒子とオレイン酸塩種との間の結合の性質が、共有結合からイオン結合および水素結合へと変化したことを示す。共有結合の強さが他の結合の強さよりもかなり高いことを考慮すると、第2の溶媒組成物(1:1比のヘキサン:エタノール)が関与する追加の洗浄ステップは、酸化鉄粒子の表面に結合した有機分子の層を緩めるように見える。
【実施例3】
【0093】
第2の溶媒組成物による4倍の洗浄
本実施例は、本明細書に記載の洗浄プロトコルにおいて、第2の溶媒組成物(1:1比のヘキサン:エタノール)を用いて洗浄した酸化鉄粒子を洗浄するステップをさらに3回繰り返す以外は、実施例1に記載したのと同様の粒子洗浄プロトコルに従う。
【0094】
図3(i)に示されるように、実施例3のプロトコルに従って洗浄された精製酸化鉄粒子のTEM画像は、第2の溶媒組成物が関与する追加の洗浄ステップは、洗浄された酸化鉄粒子の品質にさらなる影響を及ぼさないように見えることを実証し、ここで、粒子は単分散のままであり、よく分離されたままである。
【0095】
しかしながら、実施例2の場合と同様に、実施例3のプロトコルに従って洗浄した精製酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図3(ii))は、洗浄した酸化鉄粒子の表面上に存在する有機分子の有意な変化を明らかに示している。たとえば、1200 cm-1~1600 cm-1の振動範囲では、金属カルボキシレートの非対称および対称振動がそれぞれ1405 cm-1および1532 cm-1に観察され、これは127 cm-1の波数間隔(Δv0)に対応し、これは、実施例2の場合のように、COO-の金属イオンへの配位の性質が主に架橋配位子配置のままであることを意味する。この配置は、洗浄された酸化鉄粒子の表面上のあまり強く結合されていないオレイン酸塩種に対応する。
【0096】
洗浄した酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図3(ii))には、他にも多くの変化が見られ、ここで、ピークは、オレイン酸のFTIRスペクトル(図1(ii))よりもオレイン酸鉄のFTIRスペクトル(図1(iv))に示されるピークに、より類似しているように見える。
【0097】
たとえば、洗浄された酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトルにおいて観察された1066 cm-1および3675 cm-1における新たなピークは、実施例1(図1(v))および実施例2(図2(ii))のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子のFTIRスペクトルには存在しなかった。同様に、図3(ii)で観察された2800 cm-1~3000 cm-1の範囲のピークの広がりは、オレイン酸鉄のFTIRスペクトル(図1(iv))で観察されたものと類似しているが、オレイン酸についてのFTIRスペクトル(図1(iii))で観察されたものとは類似しない。メチレン(CH2)振動に対応するこれらのピークの広がりは、アルキル鎖間の疎水性相互作用の緩和を示唆している。これは、本明細書の実施例3で論じられるように、洗浄プロトコル中に洗浄ステップの数が増加するにつれて、ほとんどの表面結合オレイン酸が除去されるためである。
【0098】
要約すると、FTIR分析は、実施例3のプロトコルによる複数の洗浄ステップの後、オレイン酸分子の層が、酸化鉄粒子の表面上の優勢なキャッピング剤になることを明らかに示している。
【実施例4】
【0099】
第2の溶媒組成物による6倍の洗浄
本実施例は、本明細書に記載の洗浄プロトコルにおいて、第2の溶媒組成物(1:1比のヘキサン:エタノール)を用いて洗浄した酸化鉄粒子を洗浄するステップをさらに5回繰り返す以外は、実施例1に記載したのと同様の粒子洗浄プロトコルに従う。
【0100】
図4(i)に示されるように、実施例4のプロトコルに従って洗浄された精製酸化鉄粒子のTEM画像は、ヘキサン/エタノールである第2の溶媒組成物が関与する追加の5回の洗浄サイクルは、酸化鉄粒子の品質にさらなる影響を及ぼさないように見えることを実証し、ここで、粒子は、画像化中に単分散のままであり、よく分離されたままである。
【0101】
同様に、洗浄された酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図4(ii))は、このスペクトルにおいて観察されたピークが、著しくより顕著であるが、実施例3のプロトコルに従って得られた酸化鉄粒子のピーク(図3(II))に対応することを明らかに示す。
【0102】
いずれかの特定の理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、非常に微細なオレイン酸の層のみが実施例4のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子の表面を覆うと考えている。これらの粒子の適用性に対するこの影響は、これらの酸化鉄粒子が一旦溶液から沈殿すると、これらの粒子を非極性または極性溶媒のいずれかに再分散することが極めて困難になることである。
【0103】
したがって、要約すると、本発明者らは、実施例1および2に記載のプロトコルに従って精製された酸化鉄粒子が、非極性または極性溶媒に、より容易に再分散されることを見出した。
【実施例5】
【0104】
実施例5A-5E
第1の溶媒組成物:酸化鉄粒子比を変化させて
本実施例は、精製されるべき酸化鉄粒子に対する第1の溶媒組成物(1:1=ジエチルエーテル:メタノール):の比を、実施例1のプロトコルで用いた49:1の比から、48.75:1.25(実施例5A)、48.5:1.5(実施例5B)、48.25:1.75(実施例5C)、48.0:2.0(実施例5D)、および47.0:3.0(実施例5E)に徐々に減少させた以外は、実施例1に記載の同様の粒子洗浄プロトコルに従う。これは、洗浄プロトコルで使用される第1の溶媒組成物の体積に対して、不純な酸化鉄粒子の量を増加させることの影響を評価するために行われた。
【0105】
粒子に対する溶媒の比率を連続的に減少させることによって、洗浄効率は著しく低下し、その結果、洗浄された酸化鉄粒子は十分に分離されず、そして油性層が粒子凝集体の周りに見られることは、実施例5A~5Bのプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子についてのTEM画像(図5A(i)、図5B(i)、図5C(i)、図5D(i)および図5E(i))から明らかである。実際に、第1の溶媒組成物の量が減少するにつれて、洗浄された酸化鉄粒子の品質はますます悪化する。
【0106】
また、実施例5A~5Bのそれぞれのプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子は、反応容器の壁に適用された外部磁石を使用して分離することができた(ある程度の洗浄を示唆する)が、実施例1のプロトコルに従って酸化鉄粒子を洗浄するよりも酸化鉄粒子を分離するのに時間がかかるので(非効率的な洗浄を示唆する)、プロセスは特に効率的というものではなかった。このようにして磁気分離を使用して得られた酸化鉄粒子は、上記の実施例1で見られたものとは対照的に、効率的ではない洗浄プロトコルを示唆する、軽度かから強度の油性の光沢を示した。
【0107】
実施例5A~5Bのプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図5A(ii)、図5B(ii)、図5C(ii)、図5D(ii)および図5E(ii))は、これらの異なる溶媒:粒子比のそれぞれで得られた半洗浄酸化鉄粒子は、洗浄前の不純な酸化鉄粒子(図1(ii))と同様であることを明らかに示した。
【0108】
したがって、要約すると、本発明者らは、適切な溶媒:粒子比が効率的な洗浄方法にとって重要であることを見出した。
【実施例6】
【0109】
第1の溶媒組成物中の非極性溶媒の炭素鎖長が洗浄効率に及ぼす影響
本実施例は、第1の溶媒組成物に用いた非極性溶媒(ジエチルエーテル)をジ-n-プロピルエーテルに置換する以外は、実施例1に記載の同様の洗浄プロトコルに従う。これは、第1の溶媒組成物に関して、エーテルの炭素鎖長の増加が洗浄効率に及ぼす影響を評価するために行われた。
【0110】
本発明者らは、酸化鉄粒子を、第1の溶媒組成物(実施例1)においてジエチルエーテルを用いた場合と同程度に精製することはできなかったが、酸化鉄粒子を、第1の洗浄ステップの後にまだ磁気分離可能であることを見出したが、これは、第1の洗浄ステップが、ある程度の洗浄であることを示す。
【0111】
実際に、実施例6のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子のTEM画像(図6(i))から、酸化鉄粒子は部分的にしか洗浄されていないことが明らかである。ここでは、酸化鉄粒子の大部分は大きな凝集体の形態であり、独立した粒子として現れる酸化鉄粒子はごくわずかであることが観察された。これは、ジ-n-プロピルエーテルが第1の溶媒組成物に洗浄のために使用される場合に、追加の洗浄ステップが必要とされうることを意味しうる。
【0112】
図6(ii)に示されるように、これらの部分的に洗浄された酸化鉄粒子のFTIRスペクトルは、洗浄前の酸化鉄粒子で観察されたもの(図1(ii))と非常に類似しているが、
実施例1(図1(v))のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子で観察されたものとは非常に異なる。
【0113】
要約すると、本発明者らは、少なくとも第1の溶媒組成物において使用するための溶媒の選択が効率的な洗浄方法を実現するために重要であることを見出した。
【実施例7】
【0114】
第1の溶媒組成物中のジエチルエーテルをジオクチルエーテルに置換
本実施例は、第1の溶媒組成物が、ジエチルエーテルとは対照的に、非極性溶媒であるジオクチルエーテルを含むこと以外は、実施例1に記載したものと同様の洗浄プロトコルを使用する。C2(エチル)からC8(オクチル)への炭素鎖長のこの増加は、溶媒の非極性の増加に対応する。この点において、ジエチルエーテルとジオクチルエーテルの対称構造の類似性は、評価されるべき酸化鉄粒子の洗浄効率に対するエーテル側基の非極性の影響を潜在的に可能にするかもしれない。
【0115】
しかしながら、本発明者らは、ジオクチルエーテルの非極性の程度が、それを、メタノール凝集剤である第1の溶媒組成物の他の成分と不混和性にすることを見出した。結果として、この不混和性溶媒混合物に添加された不純な酸化鉄粒子は、メタノール相と相互作用することなくジオクチルエーテル相にのみ分散した。これは、適切な凝集剤(すなわち、メタノール)を直接利用できない場合、酸化鉄粒子を沈殿させることができなかったので、実施例7の酸化鉄粒子洗浄手順中に問題であることが判明した。したがって、さらなる精製ステップを行うことができず、第1の溶媒組成物を用いて酸化鉄粒子を精製することができなかった。
【実施例8】
【0116】
第1の溶媒組成物中のジエチルエーテルをジフェニルエーテルに置換
本実施例は、第1の溶媒組成物が、ジエチルエーテルとは対照的に、非極性溶媒であるジフェニルエーテルを含むこと以外は、実施例1に記載したものと同様の洗浄プロトコルにしたがう。ジエチルエーテルは、酸素分子の両側に2つの脂肪族エチル基を有するが、ジフェニルエーテルの側基は、芳香族基である。この点において、ジエチルエーテルとジフェニルエーテルの対称構造における類似性は、評価されるべき洗浄プロトコルに対する両側鎖の非極性の影響を潜在的に可能にするかもしれない。
【0117】
しかしながら、ここで、実施例7と同様に、本発明者らは、第1の溶媒組成物のジフェニルエーテル成分とメタノール成分が混和しないことを見出した。したがって、この不混和性溶媒混合物に不純な酸化鉄粒子を添加した場合、酸化鉄粒子は、メタノール相と相互作用することなくジフェニルエーテル相にのみ分散した。これもまた、適切な凝集剤(すなわち、メタノール)を直接利用できない場合、酸化鉄粒子を沈殿させることができなかったので、実施例8の粒子洗浄プロトコル中に問題であることが判明した。したがって、さらなる精製ステップを行うことができず、第1の溶媒組成物を用いて酸化鉄粒子を精製することができなかった。
【実施例9】
【0118】
第1の溶媒組成物中のジエチルエーテルをtert-ブチルエチルエーテル(TBME)に置換
本実施例は、第1の溶媒組成物が、ジエチルエーテルとは対照的に、非極性溶媒であるtert-ブチルエチルエーテル(TBME)を含むこと以外は、実施例1に記載したものと同様の洗浄プロトコルにしたがう。これは、エーテル基の位置およびエーテルの対称性が洗浄効率に与える影響を評価するために行われた。TBMEは、(CH3)3COCH3という化学構造をもつ非対称エーテルであるので、選択された。この構造における著しい変化を用いて、その特徴的な官能基を維持しながら、R≠R’を用いる精製プロセスへの影響を決定した。
【0119】
実施例9のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子のTEM画像(図7(i))およびFTIRスペクトル(図7(ii))から、第1の溶媒組成物中の非極性溶媒をジエチルエチルからTBMEに変更することによって、ジエチルエチル(実施例1)で観察されたのと同じ効率ではないが、不純な粒子を部分的に洗浄することができたことが明らかである。
【0120】
したがって、要約すると、本発明者らは、適切な溶媒の選択が、効率的な洗浄方法を実現するために重要であることを見出した。
【実施例10】
【0121】
第1の溶媒組成物中のメタノール凝集剤をブタノールに置換
本実施例の洗浄プロトコルは、本実施例では、第1の溶媒組成物中の凝集剤として使用された低級アルコール(メタノール、エタノールまたはプロパノールなど)を、高級アルコール(ブタノールなど)に置き換えた以外は、実施例1のものと同様である。これは、低級アルコールの使用が精製プロセスにとって重要であるかどうかを評価するために行われた。
【0122】
しかしながら、本発明者らは、ブタノールは、ジエチルエーテルと混和性ではなく、これは、不純な酸化鉄粒子が上部のジエチルエーテル相に残っているのに対し、下部のブタノール層は透明なままであることを意味することを見出した。激しく超音波処理した後、これらの粒子を独立して遠心分離および磁気分離に付した。しかしながら、得られた酸化鉄粒子を、これらの技術のいずれによっても分離することはできなかった。
【0123】
要約すると、本発明者らは、実施例1において実証されるように、酸化鉄粒子の高い洗浄効率を達成するためには、第1の溶媒組成物中の非極性溶媒および綿状物の少なくとも部分的な混和性が最も重要であることを見出した。
【実施例11】
【0124】
ジエチルエーテルのみを含む第1の溶媒組成物
本実施例に従って、凝集剤としてメタノールまたは他の低級アルコールの使用が精製プロセスにとって重要であるかどうかを決定するために、凝集剤であるメタノールが第1の溶媒組成物から除去された。
【0125】
本プロトコルに従って、ジエチルエーテル(49mL)を1mLの不純な酸化鉄粒子と混合し、得られた混合物を10分間超音波処理した。次いで、酸化鉄粒子を遠心分離および磁気分離に付した。しかしながら、酸化鉄粒子を、これらの技術のいずれによっても分離することができなかった。
【0126】
要約すると、本発明者らは、第1の溶媒組成物中に低級アルコールおよび/または凝集剤を含めることが、実施例1の洗浄プロトコルに示されているのと同じレベルの純度への酸化鉄粒子の精製を達成するために重要であることを見出した。
【実施例12】
【0127】
Parkら [1] が採用した洗浄プロトコルに基づく比較例
本比較例は、過剰量の低級アルコール(Parkら[1]の場合、エタノール)を用いる反復洗浄ステップを介して酸化鉄粒子が洗浄された、Parkら[1]に記載された酸化鉄粒子洗浄プロトコルに従う。
【0128】
これを達成するために、100mLの不純な酸化鉄粒子を50mLの遠心分離管中の50mLのエタノールに添加し、次いで、2時間超音波処理により混合した。粒子溶液は、長期間の超音波処理後でさえもエタノールと不混和性であるように見えた。次いで、遠心分離によって粒子を回収し、上清を捨てた。遠心分離後、遠心分離管の内壁に酸化鉄粒子を付着させた。次いで、追加のエタノール50mLを加え、遠心分離管の内壁から酸化鉄粒子を除去するために、溶液をさらに2時間超音波処理して、それらをエタノールに懸濁させた。このプロセスを数日間にわたって10回繰り返した。
【0129】
しかしながら、ここで、本発明者らは、洗浄プロセスの各段階における溶液の超音波処理にもかかわらず、各洗浄プロセス後に多くの酸化鉄粒子を回収することができないことを見出した。特に、4回目のエタノール洗浄後までに酸化鉄粒子を磁気的に分離することは不可能であり、その時点で試料の半分未満しか磁気的に分離することができず、この段階ではわずかな程度の洗浄しか行われないことが示唆された。
【0130】
本発明者らは、エタノール洗浄の回数が増えるにつれて、磁気的に分離できる酸化鉄粒子の量が徐々に増えることを観察した。しかしながら、洗浄ステップ中にかなりの割合(50%を超える)の酸化鉄粒子が失われることは広範に明らかである。
【0131】
得られた酸化鉄粒子のTEM画像(図8(i))から、実施例12の洗浄プロトコルにおいてエタノールを用いることによって、妥当な程度の単分散性を有し、明らかな不純物の兆候がないを有する酸化鉄粒子を得ることが可能であったことが明らかである。
【0132】
しかしながら、実施例12の洗浄プロトコルに従って得られたエタノール精製酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図8(ii))と、不純な酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図1(ii))、および実施例1の洗浄プロトコルに従って得られた酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図1(v))との比較から、エタノールで洗浄することで酸化鉄粒子をある程度洗浄することができるが、これらの粒子は実施例1のプロトコルに従って洗浄したものほどきれいではないことは明らかである。
【0133】
要約すると、本発明者らは、溶媒としてのエタノールの使用が妥当な洗浄効果をもたらし得るとしても、時間、労力、コスト、および溶媒集約性(solvent-intensiveness)を含むこのアプローチに関連する重大な欠点だけでなく、洗浄プロセス中の生成物の重大な損失もあることを見出した。
【実施例13】
【0134】
Burdinski、2013 [2] によって使用された洗浄プロトコルに基づく比較例
この比較例は、先行技術(Burdinski、2013)[2]で頻繁に引用されている酸化鉄洗浄プロトコルに従っており、そこで、第1の溶媒組成物は、半混和性または完全混和性の極性溶媒、最も一般的にはエタノール、プロパノール、またはアセトンと組み合わせた、非極性溶媒であるヘキサンを含む。
【0135】
この洗浄プロトコルは、このアプローチの効力および有効性を実施例1で採用された方法と比較するために調査された。
【0136】
代表的な凝集剤として、アセトンとヘキサンを(1:1=体積/体積)比で組み合わせた。次いで、不純な酸化鉄粒子をこの溶媒混合物に(1:49=体積/体積)比で加え、混合物を5分間超音波処理した。
【0137】
本発明者らは、本アプローチに従って洗浄された酸化鉄粒子を、溶液から磁気的に分離することができず、たがって、それらは、10,000 RPMでの10分間の遠心分離によって収集されることを見出した。次いで、得られた酸化鉄粒子を10mLのヘキサンに懸濁し、10mLのエタノールを加えた。次いで、得られた溶液を10分間混合し、5分間超音波処理し、次いで、酸化鉄粒子を磁気的に分離した。
【0138】
この洗浄プロセスを用いて得られた酸化鉄粒子のTEM像(図9(i))に示されるように、酸化鉄粒子は、ヘキサンおよびアセトンを含む第1の溶媒組成物を使用して限られた範囲までしか洗浄できないことが明らかである。実際に、酸化鉄粒子の多くは、小さな塊の形で凝集したままであった。
【0139】
実際に、これらの半洗浄酸化鉄のFTIRスペクトル(図9(ii))を洗浄前の不純な酸化鉄粒子についてのFTIRスペクトル(図1(ii))と比較すると、多くの類似点が明らかになり、したがって、明らかに、実施例1のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子について得られたFTIRスペクトル(図1(v))とは非常に異なる。
【0140】
したがって、要約すると、本発明者らは、ヘキサンおよびアセトンを含む第1の溶媒組成物は、中程度の洗浄を提供するが、このようにして得られた酸化鉄粒子は実施例1の洗浄プロトコルに従って得られたものほどきれいではないことを見出した。
【実施例14】
【0141】
凝集剤を2倍に増加した実施例13の洗浄プロトコルに基づく比較例
溶媒組成物中の凝集剤の量を増加させると、粒子の沈殿および精製が改善されることが報告されている(Burdinski、2013)[2]
【0142】
本実施例は、第1の溶媒組成物に使用された凝集剤(アセトンまたはエタノール)の量が実施例13に使用されたヘキサンのそれの2倍であるという違いはあるが、実施例13の洗浄プロトコルに類似している。ここで、1mLの不純な酸化鉄粒子を50℃に加熱し、同様に50℃に加熱された10mLのヘキサンを、加熱された酸化鉄粒子に添加して均一な溶液を得た。これに、20 mLのアセトンを加えて酸化鉄粒子を沈殿させた。続いて、沈殿した粒子を5000rpmで30分間の遠心分離によって回収し、5mLのヘキサンに再懸濁し、続いて、10mLのアセトンを添加した。粒子を遠心分離によって再び回収し、洗浄プロセスを2回以上繰り返した。
【0143】
図10(i)に示されるように、実施例14のプロトコルに従って洗浄した酸化鉄粒子のTEM画像は、凝集剤の量を増やしても、実施例13に記載のプロトコルにより得られたそれらより酸化鉄粒子の品質および/または単分散性が改善されなかったことを明らかにする。
【0144】
半洗浄された酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図10(ii))は、洗浄前の対応する不純な酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図1(ii))とよく似ており、実施例1(図1(v))の洗浄プロトコルに従って得られた洗浄された酸化鉄粒子について観察されたものとは非常に異なった。
【実施例15】
【0145】
第1の溶媒組成物中のジエチルエーテルをヘキサンに置換する比較例
本実施例によれば、第1の溶媒組成物は、非極性溶媒であるヘキサン、および凝集剤としてのメタノールまたはブタノールのいずれかの形態の低級アルコールの組み合わせを含み、これらは両方ともヘキサンと不混和性のままである。
【0146】
第1の溶媒組成物に不純酸化鉄粒子を添加した場合、本発明者らは、超音波処理により強制混合した後でも、不純な酸化鉄粒子はヘキサンの上部溶媒層に残り、一方底部のメタノールまたはブタノール層は完全に透明なままであることを見出した。さらに、酸化鉄粒子の全てが溶液中に残り、沈殿することができなかった、30分間10,000rpmでの遠心分離による酸化鉄粒子を回収する全ての試みは失敗した。
【実施例16】
【0147】
非極性溶媒であるジエチルエーテルおよびヘキサンのみを含む第1の溶媒組成物
本実施例によれば、第1の溶媒組成物は、ヘキサン:ジエチルエーテル(1:1)の組み合わせを含んだ。洗浄プロトコルは、49mLの第1の溶媒組成物を1mLの不純な酸化鉄粒子に添加することによって実施された。混合物を10分間超音波処理し、次いで、10,000 rpmにて30分間の遠心分離に付した。しかしながら、粒子は、遠心分離によって沈殿させることはできなかった。さらに、これらの粒子は、磁気分離によって分離することができなかった。さらなるステップでは、次いで、この混合物に凝集剤として49 mLのエタノールを添加して、酸化鉄粒子の沈殿を促進した。しかしながら、遠心分離によって粒子を集めることはまだ不可能であった。
【実施例17】
【0148】
ペトロールのみを含む第1の溶媒組成物
その非極性という性質および複合組成に基づいて、粒子洗浄剤としてのペトロールの適合性を評価した。本実施例によれば、おおよその濃度で、n-ヘキサンからn-ノナン(12%)、異性体アルカンおよびn-ブタン(11%)、シクロへキサンおよび誘導体(5%)、ブテンからヘキセン(25%)、1-ノネン(12%)、トルエン(1%)、キシレン(22%)および高級芳香族(11%)を含有する無鉛ペトロールを使用した。本実施例は、第1の洗浄ステップが、ジエチルエーテルおよびメタノールを含有する溶媒組成物の代わりにペトロールを含むこと以外は、実施例1と同様である。ここで、49 mLのペトロールを1 mLの不純な酸化鉄粒子と組み合わせた。この溶液を10分間の超音波処理によって混合した。この一次洗浄ステップに続いて、粒子の一部を磁気的に分離することができたが、これは、酸化鉄粒子を洗浄する際にペトロールがある程度の有効性を有することを示唆している。しかしながら、酸化鉄粒子の総量を回収するために、5000 rpmにて30分間遠心分離を行った。得られた酸化鉄粒子を、(1:1=体積/体積)比のヘキサン:エタノールを含む20 mLの第2の溶媒組成物に再懸濁させた。次いで、この混合物を10分間超音波処理し、次いで、磁気分離を介して酸化鉄粒子を回収した。
【0149】
図11(i)に示されるように、実施例17のプロトコルに従って酸化鉄粒子を洗浄したTEM像は、酸化鉄粒子はある程度洗浄されているが、有機物質中に埋め込まれたまま凝集物として現れることを示している。
【0150】
これらの半洗浄酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図11(ii))は、洗浄前の不純な酸化鉄粒子についてFTIRスペクトル(図1(ii))で観察されたものよりも弱いFTIRシグネチャを明らかにし、ある程度の洗浄を示唆するが、これらのシグネチャは、実施例1の洗浄プロトコルに従って精製された酸化鉄粒子のFTIRスペクトル(図1(v))におけるものよりも著しく顕著である。
【実施例18】
【0151】
ペトロールおよびメタノールを含む第1の溶媒組成物
本実施例は、第1の溶媒組成物にペトロール:メタノール(1:1)を用いたこと以外は、実施例1に記載した洗浄プロトコルと同様である。洗浄後、酸化鉄粒子は磁気的に分離され、第1の溶媒組成物中のジエチルエーテルの代わりにペトロールが適している可能性があることが示唆された。本実施例によって洗浄された酸化鉄粒子は、第1の溶媒組成物においてペトロールのみを使用した実施例17における粒子よりも容易に磁気的に分離することができたことは注目に値する。これは、可能な限り最高の粒子洗浄効率を得るために、非極性溶媒を適切な凝集剤および/または低級アルコールと組み合わせることの重要性を強調するための何らかの方法で行われる。
【0152】
本実施例のプロトコルに従って洗浄された酸化鉄粒子の品質は、TEM画像(図12(i))およびFTIRスペクトル(図12(ii)洗浄された酸化鉄粒子)によって確認されるように、実施例17のものとほぼ同じであるように思われる。
【実施例19】
【0153】
ジエチルエーテル、ヘキサンおよびメタノールを含む第1の溶媒組成物
本実施例は、1:1:2(体積/体積)比の第1の溶媒組成物が2つの非極性溶媒(ジエチルエーテルおよびヘキサン)および1つの凝集剤(メタノール)からなる以外は、実施例1に記載の洗浄プロトコルと同様である。
【0154】
一次洗浄ステップに関連する第1の溶媒組成物へのヘキサンの添加は、実施例1の洗浄プロトコルで観察されたものに匹敵する高いレベルまで粒子を洗浄するように思われる。この観察された改善の証拠は、図13(i)のTEM画像において明らかであり、粒子は単分散でよく分離されているように見え、これは、実施例1のプロトコルにより洗浄された粒子について得られたTEM画像(図1(v))において観察されたものと同様である。FTIRスペクトル(図13(ii))は、粒子表面に存在する有機分子の数の大幅な減少を実証する。主な変化は、金属カルボキシレートの非対称および対称振動が、1397および1524 cm-1で観察されるように、1200-1600 cm-1の振動範囲に見られる。これにより、実施例19のプロトコルにおいて、vas(COO-)およびvs(COO-)IRバンドとの間の波数分離(Δν0)が86 cm-1から(実施例1の洗浄プロトコルに関して観察されるように)127 cm-1にシフトする。これは、COO-基の金属イオンへの配位の性質が、二座キレート化から主に架橋配位子配置へと変化することを意味する。これは、酸化鉄粒子とオレイン酸塩種との間の結合の性質が、共有結合からイオン結合および水素結合へと変化したことを示す。共有結合の強度が他の結合の強度よりも著しく高いことを考慮すると、一次洗浄ステップに関連する第1の溶媒組成物中のジエチルエーテルおよびメタノールへのヘキサンの添加は、粒子表面に結合した有機分子の層を緩めるように見える。
【0155】
第1表
【表1】
【表2】
* 50℃にて加熱
【0156】
方法および材料
RCI Labscan Ltd(オーストラリアの代理店)からヘキサン(純度95%)を得、さらに精製することなく使用した。Chem-Supply Pty Ltd(サウスオーストラリア)からメタノール(純度99.8%)、エタノール(純度99.5%)、プロパン-2-オール(純度99%)およびジエチルエーテル(純度99.5%)を得、さらに精製することなく使用した。Sigma Aldrichからブタノール(純度99.8%)、ジ-n-プロピルエーテル(純度99%)、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)(純度98%)およびジ-n-オクチルエーテル(純度99%)を得、さらに精製することなく使用した。Mobil Oil Australia Pty Ltdから無鉛ペトロールグレード(ペトロール);製品コード 010066-85、22004-85、929141-85)を得、さらに精製することなく使用した。
【0157】
参考文献
[1] Park、J.、An、K.、Hwang、Y.、Park、J-G.、Noh、H-J.、Kim、J-Y.、Park、J-H.、Hwang、N-M.、Hyeon、T.、Nature Materials、2004、vol. 3、891-895.
[2] Burdinskiら、US Patent Application No. 2013/0089740 A1.
[3] Bronstein、L. M.、Huang、X.、Retrum、J.、Schmucker、A.、Pink、M.、Stein、B. D.、Dragnea、B. 2007、“Influence of iron oleate complex structure on iron oxide nanoparticle formation”、Chemistry of Materials、19、3624-3632. 2007.
【0158】
明細書に範囲が付与されるときは常に、たとえば、温度範囲、時間範囲、または濃度範囲、すべての中間の範囲および部分範囲、ならびに与えられた範囲に含まれるすべての個々の値は、本開示に含まれることが意図される。本明細書の説明に含まれる範囲または部分範囲内の任意の部分範囲または個々の値が、本明細書の特許請求の範囲から除外されうることができることが理解されよう。
【0159】
定義
本明細書で定義および使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書中の定義、および/または定義された用語の通常の意味を統制すると理解されるべきである。
【0160】
凝集剤(flocculant)、または凝集剤(flocculating agent)(フロック剤(flocking agent)としても知られている)は、液体中のコロイドおよび他の懸濁粒子を凝集させてフロックを形成させることによって凝集を促進する化学物質である。
【0161】
本明細書中で使用される不定冠詞「a」および「an」は、そうでないことが明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0162】
本明細書で使用される「および/または」という語句は、そのように結合された要素の「いずれか、または両方」、すなわち場合によっては結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味すると理解されるべきである。「および/または」で列挙された複数の要素は、同じように、すなわちそのように結合された要素の「1つまたは複数」であると解釈されるべきである。具体的に識別された要素に関連するかどうかにかかわらず、「および/または」節によって具体的に識別された要素以外の他の要素が任意に存在してもよい。したがって、非限定的な例として、「含む」などのオープンエンド言語と共に使用される場合の「Aおよび/またはB」への言及は、1つの実施態様では、Aのみ(場合によりB以外の要素を含む)、別の実施態様では、Bのみ(場合によりA以外の要素を含む)、さらに別の実施態様では、AとBの両方(場合により他の要素を含む)などを示すことができる。
【0163】
本発明を限定された数の実施態様に関して説明してきたが、前述の説明を考慮すると、多くの代替形態、変更形態、および変形形態が可能であることが当業者には理解されよう。したがって、本発明は、開示された本発明の趣旨および範囲内に含まれうるようなすべてのそのような代替形態、変更形態および変形形態を包含することを意図している。
【0164】
本明細書(特許請求の範囲を含む)において「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含まれた(comprised)」または「含む(comprising)」という用語が使用されている場合、それらは述べられた特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を特定するものとして解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップもしくは構成要素、またはそれらのグループの存在を予め排除するものではない。
【0165】
本出願は、1つまたは複数の将来の出願に関して基礎または優先権として使用されてもよく、そのような将来の出願の特許請求の範囲は、本出願に記載されている任意の1つの特徴または特徴の組合せに関するものでありうる。そのような将来の出願はいずれも、一例として与えられ、任意の将来の出願において請求され得るものに関して非限定的である、1つまたは複数の以下の特許請求の範囲を含みうる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
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図10
図11
図12
図13