(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】冷却材流れの溝を有するフライス工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/28 20060101AFI20221018BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B23C5/28
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2019534342
(86)(22)【出願日】2017-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2017082546
(87)【国際公開番号】W WO2018121989
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-13
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ピッタラ, ガエターノ
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0140780(US,A1)
【文献】特開2013-035094(JP,A)
【文献】特開2010-188451(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104732(WO,A1)
【文献】特開2008-238342(JP,A)
【文献】国際公開第2009/122937(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0356083(US,A1)
【文献】米国特許第04285618(US,A)
【文献】特開2006-231504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/28
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向軸(21)、および細長い切削ヘッド(12)に沿って軸方向に延在する複数の歯(20)を有する前記ヘッド(12)であって、
各歯(20)が、切れ刃(15)によって径方向外側の領域において終端するすくい面(19)、および後刃(16)によって径方向外側の領域において終端する逃し面(18)を有
し、各歯において、前記長手方向軸から前記切れ刃までの径方向距離が、前記長手方向軸から前記後刃までの径方向距離よりも大きい、前記ヘッド(12)と、
各フルート(14)がそれぞれ隣接した歯(20)の前記すくい面(19)と前記逃し面(18)の間に画成される複数のフルート(14)と、
各歯(20)において前記切れ刃(15)と前記後刃(16)の間に画成されるランド(17)と
を備えるフライス工具(10)であって、
前記後刃(16)内に凹んでおり、各歯(20)の前記逃し面(18)および前記ランド(17)内に延在する複数の溝(22)であって、
前記溝(22)のそれぞれが、前記ランド(17)において前記後刃(16)から前記切れ刃(15)の方向に延在し、前記切れ刃(15)に到達する前に終端して
おり、前記溝が、前記切れ刃に向けて冷却材流体を導くように構成されている、複数の溝(22)を特徴とする、フライス工具。
【請求項2】
前記ヘッド(12)に沿って軸方向に延在する少なくとも1つの冷却材通路を備え、前記通路が、前記フルート(14)のうちの少なくとも1つのフルートの領域に位置決めされる少なくとも1つの末端部を有する、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記少なくとも1つの冷却材通路が、前記ヘッド(12)内に延在する少なくとも1つの内部ボアとして形成され、前記末端部が、前記フルート(14)のうちの少なくとも1つのフルートの径方向内側の底領域(24)の開口部(23)として形成される、請求項2に記載の工具。
【請求項4】
前記少なくとも1つの通路が、複数の末端部を備え、前記端部のそれぞれが、前記それぞれのフルート(14)のうちの各フルートの前記底領域(24)の開口部(23)として形成される、請求項3に記載の工具。
【請求項5】
前記溝(22)のそれぞれが、幅方向に前記ランド(17)を横切って前記後刃(16)から前記切れ刃(15)に向かって延在する距離(C)は、前記切れ刃と前記後刃がそれに沿って延在する長手方向に対して垂直に整合された方向において、前記切れ刃(15)と前記後刃(16)との間の前記ランド(17)の幅(B)の80%以下の範囲にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の工具。
【請求項6】
前記範囲が20~80%である、請求項5に記載の工具。
【請求項7】
前記範囲が50%以下である、請求項5に記載の工具。
【請求項8】
前記溝(22)のそれぞれが前記逃し面(18)に沿って延在する径方向の距離(E)が、各フルート(14)の径方向に最も深い領域(24)と、前記切れ刃(15)によって画成される切削円(31)の径方向位置との間の半径に沿った前記フルート(14)のうちのそれぞれのフルートの対応する深さ(D)の50%未満である、請求項1から7のいずれか一項に記載の工具。
【請求項9】
前記距離(E)が、前記フルート(14)のうちのそれぞれのフルートの前記径方向深さ(D)の5~40%の範囲にある、請求項8に記載の工具。
【請求項10】
前記歯における前記溝(22)のうちのそれぞれの溝のそれぞれの最大長さ、幅、および深さが、均一である、請求項1から9のいずれか一項に記載の工具。
【請求項11】
前記溝(22)のうちのそれぞれの溝が、前記逃し面(18)内に凹んだV字形状の輪郭を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の工具。
【請求項12】
前記逃し面(18)において、前記溝(22)のうちのそれぞれの溝の幅が、径方向に最も内側の領域(24)から前記ヘッドの径方向に最も外側の領域に向かう方向に増大する、請求項1から11のいずれか一項に記載の工具。
【請求項13】
前記ランド(17)において、前記溝(22)のうちのそれぞれの溝の幅が、前記切れ刃(15)から前記後刃(16)に向かう方向に増大する、請求項1から12のいずれか一項に記載の工具。
【請求項14】
各溝(22)の長さ方向における各溝(22)の配向が、前記ヘッド(12)の前記長手方向軸(21)に対して実質的に垂直である、請求項1から13のいずれか一項に記載の工具。
【請求項15】
前記溝(22)のうちのそれぞれの溝が、前記切れ刃(15)と前記後刃(16)の間の方向において前記ランド(17)の幅(B)に等しい距離だけ、前記ヘッド(12)の前記長手方向軸(21)の方向に互いに離間している、請求項1から14のいずれか一項に記載の工具。
【請求項16】
各歯(20)が、前記後刃(16)において10個~30個の範囲の溝(22)を備える、請求項1から15のいずれか一項に記載の工具。
【請求項17】
前記ヘッド(12)の1つの軸方向端部(12a)から延在するシャフト(11)を備える、請求項1から16のいずれか一項に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細長い切削ヘッドに形成された複数の切削歯を有する回転フライス工具に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの異なるタイプの材料から幅広い部品が機械加工され、それぞれの材料は、合金化要素、熱処理、硬度などにより影響を受ける異なる物理特性および機械特性を有する。したがって、加工物材料を機械加工するために、様々な異なる切削工具、特に回転フライス工具が開発されてきた。従来、回転フライス工具は、らせん状の、または軸方向に真っ直ぐな歯が設けられた工具本体を備えており、それらの歯がフルートによって分離される。切断の速度が速く、かなりの熱応力が工具に生じることから、フルートを介して切削歯の領域に液体冷却材を送達することが一般的である。冷却によって、工具の切削効率、および耐用寿命が増大する。
【0003】
特開2010-188451は、らせん状の歯およびフルートを備える回転フライス工具を開示している。フルートの径方向内側の底領域にそれぞれの出口端部を有する、軸方向に延在する内部ボアを介して、冷却材が切削領域に供給される。
【0004】
しかし、既存の回転フライス工具はいくつかの点で不利である。述べたように、異なる加工物材料は、異なる物理特性および機械特性を示し、それらは切削効率および工具の耐用寿命に影響を及ぼす。特に、耐熱超合金(ISOS材料)は、典型的には、切断するのが困難な、工具の寿命を著しく低減させる「固着しやすい(sticky)」材料とみなされており、その原因は主に、構成刃先(BUE)によるものである。この摩耗メカニズムは、工具に対して切りくずが加圧溶接されることから生じ、低炭素鋼およびステンレス鋼、ならびにアルミニウムベースの材料について、低速での切削でよく起こる。したがって、これらの問題に対処し、特にISOS、および他の難しい合金を、少ない摩耗で、特にBUEを最小に抑えてフライス加工するのに適したフライス工具が、必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一目的は、耐熱超合金、すなわちチタン合金を含むISOS材料などの非常に難しい合金を機械加工するために適用されたときに、工具の耐用寿命を最大限まで延ばすように、少なくとも1つまたは複数の異なる摩耗メカニズムに対して耐性を示す回転フライス工具を提供することである。
【0006】
さらに特定の目的は、切削歯およびフルートを有するように構成されたフライス工具であって、切削歯の領域が、切削に関連する高い温度を効果的に分散して、切れ刃の摩耗、特に構成刃先(BUE)摩耗をなくすまたは低減するように構成されたフライス工具を提供することである。さらなる目的は、切削歯間(すなわちフルート)の領域からの切りくずの排出を向上させて、さらに工具摩耗の速度を低下させ、機械加工された加工物の壁の逸脱を最小限に抑えることに関して、効率のよい正確な切削を実現する切削工具を提供することである。
【0007】
この目的は、複数の歯およびフルートが設けられた細長い切削ヘッドであって、各歯の(切れ刃と後刃の間の)ランド領域に、複数の冷却溝が凹んでつくられた切削ヘッドを有する切削工具によって達成される。重要なことには、ランドの溝は、切れ刃まで延在しておらず、切れ刃から物理的に分離している。このような構成は、径方向に均一な切れ刃を介した切削のため、および歯の後方の側/領域、すなわち後刃および逃し面からの熱交換および放熱を促進するために最適化された工具を提供するのに有利である。各歯の各溝は、切れ刃から分離された末端部を含むように、各ランドに凹んでつくられている。これは、切れ刃において歯を弱くすることなく、フルートから溝を通るように液体冷却材の流路をつくることによって歯の冷却速度を上げるのに有利である。特に、流体が溝に入り、高速で切れ刃に向かって効果的に導かれ、加速するにつれて、歯の最も高温の領域(すなわち切れ刃)において流体の冷却効果が増大する。
【0008】
冷却流体を導くように構成されるが、ランドに位置決めされ切れ刃からは離間しているそれぞれの末端部を有する溝の特定の構成による対象発明は、たとえばフランク摩耗、クレータ摩耗、およびノッチ摩耗、エッジチッピングを含む様々な多数の異なる摩耗メカニズムの発生およびその規模、ならびに切れ刃における熱クラックの生成を、最小限に抑えるのに有利である。発明者は、歯の切れ刃が凹所またはくぼみによって遮られるならば、これらのメカニズムのうちの少なくともいくつかの発生する規模および可能性が増大することを特定した。したがって、対象発明は、切れ刃の損傷、または上の摩耗メカニズムのうちのいずれか1つから生じる摩耗に関して、歯の強度を犠牲にすることなく、切れ刃の作業温度を最小に抑えるように改善された工具を提供する。特に、発明者らは、BUEの発生を低減させることにより、フルートからの切りくずの排出が促進されることを特定した。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、長手方向軸、および細長い切削ヘッドに沿って軸方向に延在する複数の歯を有する当該ヘッドであって、各歯が、切れ刃によって径方向外側の領域において終端するすくい面、および後刃によって径方向外側の領域において終端する逃し面を有する、当該ヘッドと、各フルートがそれぞれ隣接した歯のすくい面と逃し面の間に画成される複数のフルートと、各歯において切れ刃と後刃の間に画成されるランドとを備えるフライス工具であって、後刃内に凹んでおり、各歯の逃し面およびランド内に延在する複数の溝であって、溝のそれぞれが、ランドにおいて後刃から切れ刃の方向に延在し、切れ刃に到達する前に終端している、複数の溝を特徴とする、フライス工具が提供される。
【0010】
好ましくは、歯およびフルートはらせん状であり、それにより、切れ刃および後刃は、経路が軸かららせん角度だけ逸れた状態で、工具(およびヘッド)の長手方向軸周りにこの曲線状のらせん経路をたどる。任意選択で、歯およびフルートは、真っ直ぐとみなされるように、工具の長手方向軸に対して全体的に平行に整合されてもよい。こうした実装形態によれば、切れ刃および後刃は、長手方向軸に対して全体的に平行に整合される。
【0011】
好ましくは、工具は、ヘッドに沿って軸方向に延在する少なくとも1つの冷却材通路を備え、この通路が、フルートのうちの少なくとも1つのフルートの領域に位置決めされる少なくとも1つの末端部を有する。より好ましくは、この少なくとも1つの冷却材通路は、ヘッド内に延在する少なくとも1つの内部ボアとして形成され、末端部は、フルートのうちの少なくとも1つのフルートの径方向内側の底領域の開口部として形成される。任意選択で、冷却材通路は、フルートのうちの少なくとも1つのフルートの底領域で軸方向に延在し、その中に凹んだ開放経路として形成されてもよい。好ましい実装形態によれば、少なくとも1つの通路は、複数の末端部を備え、この端部のそれぞれが、それぞれのフルートのうちの各フルートの底領域の開口部として形成される。任意選択で、冷却材通路は、1つの末端部、2つ~8つ、3つ~6つ、または4つ~6つの末端部を備える。任意選択で、冷却材通路は、フルートの数に対応する複数の末端部、またはフルートの数よりも少ない、またはそれよりも多い末端部を備え、各フルートは、1つまたは複数の開口部(冷却材供給通路の出口端部)を有する。したがって、この工具は、好ましくは、冷却材流体をフルートに供給することによって、内部から冷却される。
【0012】
対象発明は、冷却材流体を逃し面に沿って特に切れ刃に向かって導く(またはその流路をつくる)ように、逃し面に溝を配向することによって、有利になる。フルートの径方向に最も内側の底領域から、径方向に最も外側のランドに向かうこの流体流れは、これら2つの領域間で流体流れの通路を効果的に短くする溝によって、大幅に促進される。各後刃の領域の溝は、歯の回転方向において後方の領域の表面積を増大させて、切れ刃の領域から放熱するための冷却「ラジエータ」効果を提供するのに、さらに有益である。
【0013】
任意選択で、溝のそれぞれが、幅方向にランドを横切って後刃から切れ刃に向かって延在する距離は、切れ刃および後刃がそれに沿って延在する長手方向に対して垂直に整合された方向において、切れ刃と後刃との間のランドの幅の80%以下、50%以下、10~50%、20~50%、20~40%、25~40%、または30~40%の範囲にある。歯(およびフルート)がらせん状の場合には、ランドの幅は、切れ刃および後刃がその角度で延在するらせん角度に対して垂直に整合される。歯(およびフルート)が、工具の長手方向軸に対して全体的に平行に整合される場合には、ランドの幅は、工具の長手方向軸に対して垂直に、したがって、切れ刃および後刃の軸方向の整合に対して垂直に整合される。ランドを横切って幅方向に溝が延在するこの相対距離は、溝の冷却効果を最大限にすることと、歯を「弱く」せず、フランク摩耗もしくはノッチ摩耗、または熱クラックの生成などのさらなる摩耗メカニズムが生じる可能性を増大させないこととの間で妥協点を提供するのに有利である。
【0014】
任意選択で、溝のそれぞれが逃し面に沿って延在する径方向の距離は、各フルートの径方向に最も深い領域と、切れ刃によって画成される切削円の径方向位置との間の半径に沿った、フルートのうちのそれぞれのフルートの対応する深さの50%未満、40%未満、35%未満、5~50%、5~40%、10~40%、15~30%、または20~30%の範囲にある。同様に、こうした構成によって、冷却の向上と、構造的完全性の維持、したがって工具耐用寿命の最長化との間の適切な妥協点が提供される。
【0015】
好ましくは、歯における溝のうちのそれぞれの溝のそれぞれの最大長さ、幅、および深さは均一である。理解されるように、こうした構成によって、回転方向にバランスのとれた工具が実現される。任意選択で、溝のうちのそれぞれの溝が、逃し面内に凹んだV字形状の輪郭を含む。しかし、さらなる実装形態によれば、溝は、溝の壁および/または底を画成する1つまたは複数の溝表面によって画成される任意の傾斜したもしくは曲線状の断面輪郭を含んでもよい。任意選択で、溝は、矩形または正方形の断面輪郭、部分的に円形の断面輪郭、またはU字形状の断面輪郭を含んでもよい。
【0016】
任意選択で、逃し面において、溝のうちのそれぞれの溝の幅は、径方向に最も深い(すなわち径方向に最も内側の)領域からヘッドの径方向に最も外側の領域に向かう方向に増大する。任意選択で、ランドにおいて、溝のうちのそれぞれの溝の幅は、切れ刃から後刃に向かう方向に増大する。こうした構成は、この溝があることによって実現される、歯の構造的完全性に対する影響を最小に抑えることに加えて、冷却材流体の切れ刃への送達を導き、潜在的にはそれを加速するのに有利である。好ましくは、各溝の長さ方向における各溝の配向は、ヘッドの長手方向軸に実質的に垂直である。こうした構成は、フルート内から切れ刃に向かって冷却材流体を送達する(またはその流路をつくる)必要な角度を提供するのに有利である。
【0017】
任意選択で、溝のうちのそれぞれの溝は、切れ刃と後刃の間の方向においてランドの幅におおよそ等しい距離だけ、ヘッドの長手方向軸の方向に互いに離間している。この場合も、軸方向における溝のこの相対的な間隔によって、溝の冷却効果を最大化することと、溝が存在することによって歯の径方向外側の領域から取り除かれる材料の「理論的な量」を最小に抑えることとの間で、適切なバランスが実現される。任意選択で、また特定の実装形態によれば、各歯は、後刃において、10~40個、15~35個、または20~30個の範囲の溝を備える。
【0018】
好ましくは、工具は、ヘッドの一方の軸方向端部から延在するシャフト(あるいはシャンクと呼ばれる)を備える。任意選択で、シャフトは、ヘッドと一体形成されても、非一体的に形成されてもよい。シャフトがヘッドと非一体的に形成される場合には、工具は、シャフトとヘッドの結合を実現するように少なくとも1つの取付けインターフェースを備えてもよい。
【0019】
好ましくは、工具は、工具ヘッドの実質的に全体、またはその一部分に提供される表面コーティングまたはフィルムを含む。任意選択で、コーティングは、多結晶ベースの材料、多結晶ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素などの超硬質材料を含み、こうしたさらなるコーティングは、当業者にはよく知られている。
【0020】
本発明の特定の実装形態を、単なる例として、添付図面を参照しながらここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の特定の実装形態による、らせん状フルートによって分離された複数のらせん状歯を備える回転フライス工具の斜視図である。
【
図3】
図2の工具のIII-IIIを通る断面図である。
【
図5】本発明の特定の実装形態による、
図2の工具のらせん状の切削歯およびフルートの斜視図である。
【
図6】
図2の工具の切削歯の径方向外側の領域の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1および
図2を参照すると、細長い回転フライス工具10は、全体的に参照符号12によって示されるヘッドと、ヘッド12と一体形成されたシャフト11とを備え、ヘッド12とシャフト11は両方とも、共通の長手方向軸21を有する。ヘッド12には、第1の近位ヘッド端部12a(ヘッド12とシャフト11の接合部に位置決めされる)および第2の遠位(または末端)ヘッド端部12bから連続して延在する5つのらせん状切削歯20が設けられる。歯20は、ヘッド12において軸21に対して軸方向および径方向に延在する盛り上がった隆線として形成され、隣接する歯20同士は、軸21周りに周方向の対応するらせん状フルート14によって分離される。したがって、各歯20は、逃し面18および反対側のすくい面19によって画成され、各歯20の(周方向の)厚さは、対向する逃し面とすくい面18、19の間に画成される。逃し面18は、らせん状に延在する後刃16によって、径方向の最も外側の領域において終端し、すくい面19も同様に、切れ刃15として径方向の最も外側の領域において終端する。ランド17は、ランド17がヘッドの第1と第2の端部12a、12b間に軸方向に延在する状態で、後刃と切削歯16、15の間に画成される。内側ボア(図示せず)が、(シャフト11およびヘッド12を含む)工具10を貫通して軸方向に延在する。特に、内部ボアは、シャフト11の末端部11aからヘッド12の領域内に延在する。特に、内部ボアは、各フルート14の径方向に最も深い/最も内側の底領域に位置決めされた開口部23として形成された5つの末端部を備える。したがって、冷却材流体を、内部ボアを介して工具10の切削領域に導入して、開口部23を介してフルート14内に流体を送達することが可能である。
【0023】
対象発明によれば、複数の溝が各後刃16内に凹んでおり、この溝22は、ヘッドの第1と第2の端部12a、12b間で軸方向に(後刃16において)離間している。ヘッドの第2の末端部12bに向かって軸方向に位置決めされる領域13には溝22がなく、それにより溝22によって遮られない連続して曲線状の後刃16を備える。反対側の第2の端部12bにも、対応する(溝22のない)領域が設けられる。特定の実装形態によれば、各歯20は、ヘッド端部12aと12bの間で軸方向に均一な離間距離だけ離間した16個の溝22を備える。
【0024】
図1および
図2は、第2の遠位ヘッド端部12bを概略的に示す。特に、対象発明によるヘッド端部12bには、典型的には、工具10の軸方向に最も前方の切削端を表す軸方向端部歯が設けられる。こうした歯は、典型的には、軸21から径方向に延在するように整合され、各歯は、歯20のうちのそれぞれの歯の軸方向末端部を表す1つまたは複数の切れ刃および/または切削面を有する。
【0025】
理解されるように、工具10は、切れ刃15を適切な加工物(図示せず)に入るよう駆動して、所望の回転フライス加工動作を実現するように、回転方向Rに応じて軸21周りに回転することを意図している。理解されるように、削られた材料は、すくい面19に沿って進むように押しやられた後に、逃し面18と接触し、ここで切りくずが、後刃16を介してフルート14から排出される。フルート14に冷却流体を供給することによって、切りくずの排出を促進するとともに、歯20の径方向外側の領域において工具10の温度(典型的には軸21周りに工具10が回転する速い切削速度から生じる)を最小に抑えそれを調整する役割も果たす。
【0026】
図3および
図4を参照すると、(後刃と切れ刃16、15の間の)ランド17の一部分内に凹んでおり、それに沿って延在する全体的に参照符号22aによって示される第1の部分と、逃し面18の一部分内に凹んでおり、それに沿って延在する全体的に参照符号22bによって示される第2の部分とを備えるように、各溝22は、後刃16の領域において各歯20内に凹んでいる。それぞれの完全な(第1の部分22aおよび第2の部分22bを含む)溝22は、軸21に対しておおよそ垂直に配向された最大長さを備え、この長さ30は、溝の第1の端部28a(ランド17に位置決めする)と溝の第2の端部28b(逃し面18に位置決めする)の間に画成される。特定の実装形態によれば、溝の長さ30に垂直な平面における各溝22の断面輪郭は、端部28a、28b間の各溝22の全長に沿って全体的にV字形状である。したがって、各溝22の内側空洞領域は、互いに交差するように整合された対向する平坦な溝面29a、29bの対によって画成される。特定の実装形態によれば、(ランド17内の)溝部分22bの長さは、(逃し面18内の)溝部分22bにおおよそ等しい。
【0027】
図5に示すように、溝の第1の端部28aは、切れ刃15から空間的に離間しており、それにより、ランド17は、ランドの幅方向(それぞれの歯20の経路に垂直な方向)に第1の部分17a(切れ刃15の最も近くに位置決めする)と第2の部分17b(後刃16の最も近くに位置決めする)に分けられると考えることができる。したがって、ランドの第1の部分17aには溝22がなく、それにより各歯20のらせん方向における部分17aのランドは、各歯20の径方向に最も外側の領域を画成する全体的に滑らかな、連続した径方向外向きに面する表面によって形成される。それとは対照的に、各歯20のらせん方向におけるランドの部分17bは、凹んだ溝22によって遮られており、それにより輪郭が切り込まれていないランド部分17aに対して、高低差のある部分または輪郭が切り込まれた表面を画成する。同様に、各逃し面18は、径方向において第1の径方向内側部分18aと、第2の径方向外側部分18bとに分けられると考えることができる。内側部分18aには溝22がなく、したがって滑らかな全体的に連続した曲線状の表面として形成される。それとは対照的に、径方向外側部分18bは、凹んだ溝22によって遮られた高低差のある領域の部分として形成される。したがって、各逃し面18の径方向外側部分18bは、径方向内側部分18aに比べて輪郭が切り込まれ、またはリブが付けられている。
【0028】
特定の実装形態によれば、また
図5を参照すると、溝部分22aがランド17を横切って(ランドの幅方向に)後刃16から切れ刃15に向かって延在する距離Cは、切れ刃と後刃15、16の間の方向におけるランド17の総幅Bの50%未満である。特定の実装形態によれば、距離Cは、距離Bのおおよそ30~40%である。したがって、ランドの第1の部分17aは、軸方向においてランドの第2の部分17bよりも広い。しかし、溝22が存在することから、ランドの第2の部分17bにおける総表面積は、溝22、特に溝面29a、29bが存在することから、増大する。逃し面部分18bも、逃し面18内に延在する溝部分22b内の溝面29a、29bがあることから、相対的に大きい表面積を含む。
【0029】
図6を参照すると、各溝22が工具10の半径に沿って延在する距離Eは、(切れ刃15によって画成される)切削円31と各フルート14の径方向に最も深い領域24との間でヘッド12の半径に沿った距離によって画成される各フルート14の全体の/完全な深さDよりも短い。特に、また特定の実装形態によれば、距離Eは、距離Dの20~30%の範囲にある。したがって、径方向内側の領域18aは、逃し面18の大部分を表しており、溝22がない。
【0030】
溝のない部分17aを介して、切れ刃15から溝22を空間的に離間することによって、歯20の構造的完全性が維持され、したがって、特に熱クラックの生成またはノッチ摩耗もしくはフランク摩耗の発生を含む、任意の1つまたは複数の摩耗メカニズムによる切れ刃15の望ましくない、早くに生じる摩耗が回避される。ランド17内に延在する部分22aと、逃し面18内に延在する部分22bとを有する溝22は、歯20の周囲領域、特に切れ刃15への冷却流体の送達を促進するのに有益である。さらに、i)逃し面18において(フルートの底領域24から後刃15に向かう径方向に)増大し、ii)ランド17において(後刃16から切れ刃15に向かう軸方向に)減少する(溝長さ30に対して垂直な)幅を有する溝22の形状輪郭は、フルート14の領域から切れ刃15に冷却材流体を高速で送達するのに有利である。径方向外向きの冷却材の流速、および逃し面18において冷却材の「流路がつくられた」送達は、逃し面18とランド17の両方においてそれぞれの溝長さ30および溝幅を変えることによって、選択的に調整することができる。すなわち、またさらなる実施形態によれば、溝の第2の端部28bは、各フルート14の中央径方向深さDに、それに向かって、またはそれを越えて位置決めされてもよい。
【0031】
溝22はさらに、各フルート14から切りくずの排出を促進するのに有利である。改善された切りくずの排出は、部分的には、切れ刃15の領域における構成刃先(BUE)の発生する規模およびその可能性が低減されることによるものであってもよく、これは、切れ刃15の領域において熱を放散させ、低くすることからもたらされる。すなわち、溝22を有する歯20のこの構成は、切れ刃15と後刃16の領域との間で温度差を最大にする「ラジエータ」効果を提供するものと考えることができる。この効果は、第1に、部分17b、18bにおいて表面積を増大させること、第2に、特に切れ刃15に向かう方向へ、冷却された流体の広い流路をつくること、したがってその量/送達速度を増大させることによるものとすることができる。