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特許7160826塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20221018BHJP
   B29C 41/18 20060101ALI20221018BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20221018BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221018BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20221018BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20221018BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20221018BHJP
   B29K 27/06 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C08L27/06
B29C41/18
B32B5/18
B32B27/30 101
B32B27/40
C08K5/10
C08L33/06
B29K27:06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019549243
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2018038111
(87)【国際公開番号】W WO2019078112
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2017200592
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】590000927
【氏名又は名称】龍田化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】武貞 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】細見 幸平
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-258448(JP,A)
【文献】特開平04-198247(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141461(WO,A1)
【文献】特表2008-512544(JP,A)
【文献】特開2000-336219(JP,A)
【文献】特開2002-194126(JP,A)
【文献】特開2010-285506(JP,A)
【文献】特開平09-143330(JP,A)
【文献】特開平09-067498(JP,A)
【文献】特開2010-090326(JP,A)
【文献】特開平01-215845(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045930(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B29C
B32B
B29K
B29L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂、可塑剤およびアクリル系重合体を含有する塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体であって、
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を110質量部以上150質量部以下含有し、
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、アクリル系重合体を4質量部以上含有し、
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を50質量%以上含み、前記(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる一つ以上を含み、
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面は、光学顕微鏡の反射光で観察した場合、長径が30μm以上500μm以下である不規則な鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子が界面部を介して連なった形状を有し、かつ長径が30μm以上100μm以下であるアクリル系重合体凝集粒子が10個/mm2以下存在しており、
JIS K 7125:1999に準じて測定した動摩擦係数が0.75以下であることを特徴とするパウダースラッシュ成形体。
【請求項2】
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記界面部のラマンスペクトルには、波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが存在する請求項1に記載のパウダースラッシュ成形体。
【請求項3】
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度が、前記界面部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度より高い請求項1又は2に記載のパウダースラッシュ成形体。
【請求項4】
前記界面部の厚さが1μm以上20μm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のパウダースラッシュ成形体。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のパウダースラッシュ成形体。
【請求項6】
前記可塑剤が、トリメリット酸エステル系可塑剤を含む請求項1~5のいずれか1項に記載のパウダースラッシュ成形体。
【請求項7】
車両内装材用表皮である請求項1~6のいずれか1項に記載のパウダースラッシュ成形体。
【請求項8】
発泡ポリウレタン層と、請求項1~7のいずれか1項に記載のパウダースラッシュ成形体とが積層されてなる積層体。
【請求項9】
車両内装材である請求項8に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装部品の表皮材として好適に用いる塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂組成物は、優れた耐薬品性や耐久性を有する上、可塑剤を配合した塩化ビニル系樹脂組成物を成形した成形体は、柔軟性に優れ、肌さわり感も良好であり、高級感をもたらすため、インストルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品の表皮材として多く使用されている。特に、塩化ビニル系樹脂組成物をパウダースラッシュ成形した成形体とポリウレタン樹脂等との積層体等が自動車内装部品として好適に用いられている。
【0003】
しかしながら、可塑剤を配合した塩化ビニル系樹脂組成物を成形した成形体は、熱や光等の影響により、可塑剤が表面に移行し、成形体が柔軟性を失いやすいという問題があることから、柔軟性を向上させるため、可塑剤の配合量を増加させることが行われているが、可塑剤の配合量が多いと、布で成形体表面の汚れをふき取る際に繊維が付着してしまう問題等があった。そこで、特許文献1では、可塑剤を配合した塩化ビニル系樹脂組成物にさらに水酸基変性シリコーンオイルを配合することで、毛羽付き性及び添加剤のブリード性を低減することが提案されている。特許文献2では、二種類の異なる平均粒径の塩化ビニル系樹脂粒子と、変性ポリオルガノシロキサン粒子を含む塩化ビニル系樹脂組成物を用いることで成形体の表面特性と柔軟性を良好にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-7026号公報
【文献】特開2015-117314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物を用いた成形体では、熱老化後の柔軟性を良好に保ちつつ、表面特性をさらに向上させることが求められていた。
【0006】
本発明は、熱老化後の柔軟性が高い上、良好な表面特性を有する塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体及び積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤及びアクリル系重合体を含有する塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体であって、前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を110質量部以上150質量部以下含有し、前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面は、光学顕微鏡の反射光で観察した場合、長径が30μm以上500μm以下である不規則な鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子が界面部を介して連なった形状を有し、かつ長径が30μm以上100μm以下であるアクリル系重合体凝集粒子が10個/mm2以下存在することを特徴とするパウダースラッシュ成形体に関する。
【0008】
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記界面部のラマンスペクトルには、波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが存在することが好ましい。また、前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度が、前記界面部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度より高いことが好ましい。前記界面部の厚さが1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0009】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を50質量%以上含み、前記(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる一つ以上を含むことが好ましい。前記可塑剤が、トリメリット酸エステル系可塑剤を含むことが好ましい。
【0010】
本発明において、前記パウダースラッシュ成形体は、車両内装材用表皮であることが好ましい。
【0011】
本発明は、また、発泡ポリウレタン層と、前記のパウダースラッシュ成形体とが積層されてなる積層体に関する。
【0012】
本発明において、前記積層体は車両内装材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱老化後の柔軟性が高い上、良好な表面特性を有する塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体及びそれを用いた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像である。(a)は20倍の画像であり、(b)はその部分拡大図である。
図2図2は、アクリル系重合体A1をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図3図3は、ペースト用塩化ビニル系樹脂(塩化ビニル単独重合体、平均重合度1300、平均粒子径10μm)をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図4図4は、可塑剤(トリメリット酸トリ(n-オクチル))をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図5図5は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、塩化ビニル系樹脂粒子の内部をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図6図6は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、界面部をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図7図7は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、塩化ビニル系樹脂粒子の内部をレーザーラマン分光法で分析した波数500cm-1以上800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図8図8は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、界面部をレーザーラマン分光法で分析した波数500cm-1以上800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図9図9は、比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像である。(a)20倍の画像であり、拡大1~3はその部分拡大図である。
図10図10は、比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像において、粒子1(白色の円形物)をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図11図11は、比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像において、粒子2(白色の円形物)をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
図12図12は、アクリル系重合体A8をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、塩化ビニル系樹脂、可塑剤およびアクリル系重合体を含有する塩化ビニル系樹脂組成物のパウダースラッシュ成形体(以下において、「塩化ビニル系樹脂成形体」とも記す。)において、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を110質量部以上150質量部以下含有させるとともに、前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した場合、長径が30μm以上500μm以下である不規則な鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子が界面部を介して連なるようにし、かつ長径が30μm以上100μm以下であるアクリル系重合体凝集粒子を10個/mm2以下にすることで、熱老化後の柔軟性が高い(耐熱老化性が高い)とともに、良好な表面特性を有する(動摩擦係数が低い)ことを見出した。塩化ビニル系樹脂成形体の動摩擦係数が低いほど、該塩化ビニル系樹脂成形体がべたつかないことを意味する。光学顕微鏡としては、例えば、ニコン製の実体顕微鏡SMZ-1500を用いることができる。
【0016】
本発明において、「鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子」とは、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、鱗片状物を意味する。また、本発明において、「不規則」とは、大きさ及び/又は形状が一定ではないことを意味する。また、本発明において、「塩化ビニル系樹脂粒子の長径」とは、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、鱗片状物の外周の任意の二つの点を結んだ直線のうち、最大長となる直線を意味し、任意に選択した20個の鱗片状物の長径を測定し、それらを平均したものである。本発明において、「界面部」とは、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、鱗片状物を囲んでいる不規則なリング状物を意味する。
【0017】
本発明において、「アクリル系重合体凝集粒子」とは、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、円形物を意味する。また、本発明において、「アクリル系重合体凝集粒子の長径」とは、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、円形物の外周の任意の二つの点を結んだ直線のうち、最大長となる直線を意味する。本発明において、前記アクリル系重合体凝集粒子の個数(個/mm2)は、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に20個の箇所(500μm×500μm)を選択し、それぞれの箇所における円形物(アクリル系重合体凝集粒子)の個数を測定し、それらを平均したものを1mm2当たりの個数に換算したものである。
【0018】
本発明において、「塩化ビニル系樹脂」とは、JIS K 7369:2009に準じて測定した平均粒子径が50μm以上500μm以下のものを意味する。本発明において、「ペースト用塩化ビニル系樹脂」とは、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置で測定した平均粒子径が0.01μm以上50μm未満の塩化ビニル系樹脂を意味する。
【0019】
前記塩化ビニル系樹脂粒子の長径は、30μm以上500μm以下であれば特に限られないが、例えば、60μm以上であることが好ましく、90μm以上であることがより好ましい。また、前記塩化ビニル系樹脂粒子の長径は、例えば、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。より具体的には、前記塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば、60μm以上300μm以下であることが好ましく、90μm以上300μm以下であることがより好ましく、90μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。塩化ビニル系樹脂粒子の長径が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ウレタン層との接着性が向上する。
【0020】
前記アクリル系重合体凝集粒子は、熱老化後の柔軟性を高める観点から7個/mm2以下であることが好ましく、5個/mm2以下であることがより好ましく、3個/mm2以下であることがさらに好ましく、0個/mm2、すなわちアクリル系重合体凝集粒子が存在しないことが特に好ましい。
【0021】
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記界面部のラマンスペクトルには、波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが存在することが好ましい。一方、前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルでは、通常、波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが観察されないが、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルでも波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが観察された場合、前記界面部のラマンスペクトルにおける波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークの強度が、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークの強度より高い。
【0022】
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度が、前記界面部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度より高いことが好ましい。より効果的にべたつきを抑制(動摩擦係数を低減)する観点から、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度は、前記界面部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤由来のピークの強度の1.2倍以上であることが好ましく、1.4倍以上であることがより好ましく、1.6倍以上であることがさらに好ましい。
【0023】
前記パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面をレーザーラマン分光法で分析した場合、前記界面部のラマンスペクトルにはアクリル系重合体由来のピークが存在し、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける可塑剤由来のピークの強度は、前記界面部のラマンスペクトルにおける可塑剤由来のピークの強度より高いことから、前記界面部にはアクリル系重合体が多く、前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部には可塑剤が多く存在すると推測される。それゆえ、可塑剤は、アクリル系重合体を多く含む界面部で囲まれている塩化ビニル系樹脂粒子の内部に保持され、塩化ビニル系樹脂粒子の表面に出にくくなり、塩化ビニル系樹脂成形体の表面のべたつきが抑制(動摩擦係数を低減)されると推測される。
【0024】
本発明において、塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける所定の波数のピークの強度は、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に選択した一つの鱗片状物において、任意に選択した4カ所をレーザーラマン分光法で分析し、得られた4つのラマンスペクトルにおける所定の波数のピークの強度を平均したものであり、界面部のラマンスペクトルにおける所定の波数のピークの強度は、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に選択した一つのリング状物において、任意に選択した4カ所をレーザーラマン分光法で分析し、得られた4つのラマンスペクトルにおける所定の波数のピークの強度を平均したものである。なお、本発明において、ラマンスペクトルにおける所定の波数のピークの強度は、波数750cm-1と波数575cm-1の2点でベースラインを引き、所定の波数でのピーク高さを測定することで算出する。
【0025】
前記界面部の厚さは、特に限定されないが、例えば、べたつきをより抑制する観点から、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。また、例えば、熱老化後の柔軟性をより高める観点から、前記界面部の厚さは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。本発明において、「界面部の厚さ」は、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、界面部における任意に20個の箇所を選択し、それぞれの箇所における界面部の厚さを測定し、それらを平均したものである。
【0026】
前記塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は50μm以上500μm以下であれば特に限られないが、例えば、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。また、前記塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。より具体的には、前記塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば、100μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましく、150μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。前記塩化ビニル系樹脂の平均粒子径が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まるとともに、塩化ビニル系樹脂組成物を成形した塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ウレタン層との接着性が向上する。
【0027】
前記塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1350以上であれば特に限定されない。塩化ビニル系樹脂組成物の粉体化をより容易にする観点から、平均重合度が1400以上であることが好ましい。また、塩化ビニル系樹脂の平均重合度の上限は特に限定されず、例えば、3800以下であればよく、塩化ビニル系樹脂組成物を成形した塩化ビニル系樹脂成形体の柔軟性を高める観点から、平均重合度が3500以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましい。より具体的には、塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1350以上3800以下であることが好ましく、1350以上3500以下であることがより好ましく、1400以上3000以下であることがさらに好ましい。本発明において、前記塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、JIS K 6720-2:1999に準じて測定する。
【0028】
前記塩化ビニル系樹脂は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル単量体の単独重合体、及び/又は、塩化ビニル単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0029】
前記塩化ビニル系樹脂は、例えば、懸濁重合法、塊状重合法等公知のいずれの重合法で製造してもよいが、コストが低く、熱安定性に優れる観点から、懸濁重合法より製造することが好ましい。
【0030】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂を30質量%以上含んでもよく、35質量%以上含んでもよい。また、塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば、前記塩化ビニル系樹脂を60質量%以下含んでもよく、55質量%以下含んでもよく、50質量%以下含んでもよく、45質量%以下含んでもよい。より具体的に、前記塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば、前記塩化ビニル系樹脂を30質量%以上60質量%以下含んでもよく、35質量%以上55質量%以下含んでもよい。
【0031】
前記塩化ビニル系樹脂組成物において、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤の配合量は110質量部以上150質量部以下であれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂成形体の耐熱老化性を高める観点から、115質量部以上であることが好ましい。また、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体化を容易にする観点から145質量部以下であることが好ましい。より具体的に、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤の配合量は115質量部以上150質量部以下であることが好ましく、115質量部以上145質量部以下であることがより好ましい。
【0032】
前記可塑剤としては、塩化ビニル系樹脂の可塑剤として使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、トリメリット酸エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤及び脂肪族系可塑剤等を用いることができる。可塑剤の移行性やブリードアウト性が少なく、耐熱老化性をより高める観点から、トリメリット酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0033】
前記トリメリット酸エステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(n-オクチル)、トリメリット酸トリイソオクチル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸ジ(n-オクチル)モノ(n-デシル)、トリメリット酸ジイソオクチルモノイソデシル等が挙げられる。
【0034】
前記フタル酸系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸ジ(n-ブチル)、フタル酸ジ(n-オクチル)、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル、イソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0035】
前記ピロメリット酸系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸テトラ(2-エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ(n-オクチル)等が挙げられる。前記エポキシ系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。前記ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸(1,3-ブタンジオール)(2-エチルヘキサノール)系ポリエステル、セバシン酸(1,6-ヘキサンジオール)(2-エチルヘキサノール)系ポリエステル、アジピン酸(プロピレングリコール)(椰子油脂肪酸)系ポリエステル等が挙げられる。
【0036】
前記脂肪族系可塑剤は、脂肪酸エステル系可塑剤であってもよい。具体的に、脂肪族系可塑剤としては、例えば、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル及びアジピン酸エステルからなる群より選択される1種以上を用いることができる。より具体的に、脂肪族系可塑剤としては、例えば、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOS)、アゼライン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOZ)、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)及びアジピン酸ジイソノニル(DINA)からなる群より選択される1種以上を用いることができる。
【0037】
上述した可塑剤は、一種を単独で用いても良く、二種以上を組合わせて使用してもよい。
【0038】
前記塩化ビニル系樹脂組成物において、特に限定されないが、例えば、べたつきをより抑制する、すなわち動摩擦係数を低減する観点から、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、前記アクリル系重合体の配合量は4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、9質量部以上であることがさらに好ましい。また、柔軟性及び熱老化後の柔軟性を高める観点から前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アクリル系重合体の配合量は23質量部以下であることが好ましく、22質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。より具体的に、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アクリル系重合体の配合量は4質量部以上23質量部以下であることが好ましく、5質量部以上22質量部以下であることがより好ましく、7質量部以上20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記アクリル系重合体は、例えば、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性を高める観点から、平均粒子径が0.01μm以上10μm以下であればよく、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、前記アクリル系重合体の平均粒子径は、例えば、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。より具体的に、前記アクリル系重合体の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上2μm以下であることがより好ましい。本発明において、前記アクリル系重合体の平均粒子径は、動的光散乱法粒度分布測定器にて測定する。
【0040】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を50質量%以上含む。すなわち、前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上含むモノマー混合物を重合したものである。本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。成形体の表面特性及び柔軟性を良好にする観点から、前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、90質量%以上含むことがさらにより好ましい。
【0041】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルにおいて、前記脂肪族アルコールは、直鎖、分岐鎖及び環式のいずれであってもよい。
【0042】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。これにより、アクリル系重合体と可塑剤の相溶性が高くなり、塩化ビニル系樹脂成形体の表面に可塑剤が移行することを抑制することができる。前記炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、すなわち、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、及び(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。前記芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、及び(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルにおいて、特に限定されないが、例えば、良好な表面特性を有する成形体が得られやすい観点から、炭素数は2以上24以下であることが好ましく、乳化重合又は微細懸濁重合しやすい観点から2以上12以下であることがより好ましく、2以上8以下であることがさらに好ましい。また、成形体の表面特性をより向上させる観点から、前記炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸tert-ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の炭素数が4の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸n-ブチル及び/又は(メタ)アクリル酸イソブチルであることがより好ましい。また、成形体の表面特性をより向上させる観点から、前記炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを含んでもよい。また、粉体特性に優れる観点から、前記炭素数が2以上の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシルからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0044】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数が1である脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、例えば、(メタ)アクリル酸メチルを含んでもよい。
【0045】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位に加えて、他のモノマー由来の構成単位を含んでもよい。他のモノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、カルボニル基含有(メタ)アクリレート類、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、エポキシ基含有(メタ)アクリレート類、及びアミノ基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸2-サクシノロイルオキシエチル、メタクリル酸2-マレイノイルオキシエチル、メタクリル酸2-フタロイルオキシエチル、及びメタクリル酸2-ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等が挙げられる。スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、アリルスルホン酸等が挙げられる。カルボニル基含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。エポキシ基含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記アミノ基含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、コストが安く、(メタ)アクリル酸エステルとの重合性に優れる観点から、メタクリル酸やアクリル酸が好適に用いられる。
【0046】
前記アクリル系重合体は、例えば、塩化ビニル系樹脂成形体の表面特性を良好にし、熱老化後の柔軟性を高める観点から、(メタ)アクリル酸メチル由来の構成単位を40質量%以上95質量%以下と、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸tert-ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を5質量%以上60質量%以下含むことが好ましい。塩化ビニル系樹脂組成物(粉体)のブロッキング性を高める観点から、(メタ)アクリル酸メチル由来の構成単位を50質量%以上95質量%以下と、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸tert-ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を5質量%以上50質量%以下含むことがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル由来の構成単位を60質量%以上95質量%以下と、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸tert-ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を5質量%以上40質量%以下含むことがさらに好ましい。前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸メチル由来の構成単位及び炭素数が4の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位に加えて、他のモノマー成分由来の構成単位を含んでもよい。前記アクリル系重合体において、他のモノマー成分由来の構成単位の含有量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0047】
前記アクリル系重合体は、特に限定されないが、例えば、質量平均分子量(Mw、重量平均分子量とも称される。)が5万以上250万以下であってもよく、熱老化後の柔軟性を高める観点から、質量平均分子量は15万以上であることが好ましく、30万以上であることがより好ましく、35万以上であることがさらに好ましい。また、熱老化後の柔軟性を高める観点から、質量平均分子量は135万以下であることが好ましく、130万以下であることがより好ましく、120万以下であることがさらに好ましい。より具体的に、前記アクリル系重合体は、質量平均分子量が15万以上135万以下であることが好ましく、30万以上130万以下であることがより好ましく、35万以上120万以下であることがさらに好ましい。本発明において、アクリル系重合体の質量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)にて測定する。
【0048】
前記アクリル系重合体は、例えば、乳化重合法、シード乳化重合法、微細懸濁重合法、シード微細懸濁重合法等の公知のいずれの重合法で製造してもよいが、分子量、粒子構造、粒子径の制御が容易であり、工業的生産に適している観点から、乳化重合法又は微細懸濁重合法を用いることが好ましい。乳化重合法又は微細懸濁重合法の場合、重合開始剤、界面活性剤(乳化剤及び/又は分散剤として機能する)、連鎖移動剤等を適宜に用いることができる。
【0049】
前記重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等を用いることができる。
【0050】
前記界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルザルコシン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩等のカチオン性界面活性剤を適宜用いることができる。
【0051】
前記連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、主鎖の炭素数が2~12のアルキルメルカプタン、メルカプトアルコール等を好適に例示できる。主鎖の炭素数が2~12のアルキルメルカプタンとしては、n-オクチルメルカプタン(1-オクタンチオールとも称される。)、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコール等が例示され、メルカプトアルコールとしては、2-メルカプトエタノール等が挙げられる。
【0052】
前記アクリル系重合体は、均一構造粒子であってもよく、コアシェル構造を有するコアシェル粒子であってもよい。前記アクリル系重合体がコアシェル粒子の場合、特に限定されないが、例えば、コア部分とシェル部分の質量比は、10:90から90:10の範囲であってもよい。
【0053】
前記アクリル系重合体が均一構造粒子の場合、モノマー混合物を重合して得られた重合体のラテックスを噴霧乾燥することでアクリル系重合体を作製することができる(一段重合とも記す。)。前記アクリル系重合体がコアシェル粒子の場合、モノマー混合物を重合して得られた重合体(コア部分)のラテックスに、さらにモノマー混合物を添加して重合を続けて重合体(コアシェル構造を有する)のラテックスを得る後、噴霧乾燥することでアクリル系重合体を作製することができる(二段重合とも記す。)。なお、コア部分及び/又はシェル部分を二段以上で重合してもよい。
【0054】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば、引張特性の10%応力で表現される柔軟性付与の観点から、さらに、平均粒子径が0.01μm以上50μm未満のペースト用塩化ビニル系樹脂を含んでもよい。ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。より具体的に、ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒子径が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まる。本発明において、前記ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置、例えば、粒度分布測定装置(日機装株式会社製MICROTRAC/HRA(9320-X100))にて測定する。
【0055】
前記ペースト用塩化ビニル系樹脂は、平均重合度が特に限られず、例えば、500以上であってもよく、800以上であってもよい。また、ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均重合度の上限は特に限られないが、例えば、2000以下であってもよく、1500以下であってもよい。より具体的には、ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、例えば、500以上2000以下であってもよく、800以上1500以下であってもよい。ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均重合度が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まるとともに、成形加工性が良好になる。本明細書において、ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、JIS K 6720-2:1999に準じて測定される。
【0056】
前記ペースト用塩化ビニル系樹脂は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル単量体の単独重合体、及び/又は、塩化ビニル単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0057】
前記ペースト用塩化ビニル系樹脂は、例えば、乳化重合法、シード乳化重合法、微細懸濁重合法、シード微細懸濁重合法等公知のいずれの重合法で製造してもよいが、微粒子が得られやすい観点から、微細懸濁重合法より製造することが好ましい。
【0058】
前記塩化ビニル系樹脂組成物において、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、前記ペースト用塩化ビニル系樹脂の配合量は36質量部以下であることが好ましく、動摩擦係数を低くする観点から、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。また、前記ペースト用塩化ビニル系樹脂の配合量の下限は、溶融性を高める観点から、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。また、前記塩化ビニル系樹脂に対するペースト用塩化ビニル系樹脂の配合量が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まる。
【0059】
前記塩化ビニル系樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂成形体の動摩擦係数を低減し、熱老化後の柔軟性を高める観点から、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アクリル系重合体及びペースト用塩化ビニル系樹脂の合計配合量は、15質量部以上40質量部以下であることが好ましく、15質量部以上35質量部以下であることがより好ましく、15質量部以上30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0060】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、成形体の動摩擦係数をさらに低減させ、表面特性を向上させる観点から、アクリル変性ポリオルガノシロキサンを含んでもよく、例えば、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アクリル変性ポリオルガノシロキサンの配合量は0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよい。熱老化後の柔軟性を高める観点から、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アクリル変性ポリオルガノシロキサンの配合量は5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましい。より具体的に、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アクリル変性ポリオルガノシロキサンの配合量は0.5質量部以上5質量部以下であってもよく、1質量部以上5質量部以下であってもよく、1質量部以上4質量部以下であってもよい。
【0061】
本発明において、アクリル変性ポリオルガノシロキサンは、シリコーン(ポリオルガノシロキサン)の含有量が60質量%以上である。前記アクリル変性ポリオルガノシロキサンは、滑剤としての機能も有する。
【0062】
前記アクリル変性ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、ポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸エステルを乳化グラフト共重合して得られたアクリル変性ポリオルガノシロキサンを用いてもよい。
【0063】
ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化1】
【0065】
前記一般式(I)において、R1、R2及びR3は、それぞれ同一又は異なる炭素数1~20の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基である。前記炭化水素基は、例えば、アルキル基又はアリール基(例えば、炭素数6~10のアリール基)であってもよい。前記ハロゲン化炭化水素基は、例えば、ハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アリール基(例えば、炭素数6~10のハロゲン化アリール基)であってもよい。
【0066】
前記一般式(I)において、Yは、ラジカル反応性基、SH基、ラジカル反応性基を含む有機基、又はSH基を含む有機基である。前記ラジカル反応性基は、例えば、ビニル基、アリル基、γ-アクリロキシプロピル基、γ-メタクリロキシプロピル基又はγ-メルカプトプロピル基であってもよい。
【0067】
前記一般式(I)において、Z1及びZ2は、それぞれ同一又は異なる水素原子、低級アルキル基又はトリオルガノシリル基である。前記低級アルキル基は、例えば、炭素数1~4のアルキル基であってもよい。前記トリオルガノシリル基は、例えば、下記一般式(II)で表されるトリオルガノシリル基であってもよい。
【0068】
【化2】
【0069】
前記一般式(II)において、R4及びR5は、それぞれ同一又は異なる炭素数1~20の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基である。前記炭化水素基は、例えば、アルキル基又はアリール基(例えば、炭素数6~10のアリール基)であってもよい。前記ハロゲン化炭化水素基は、例えば、ハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アリール基(例えば、炭素数6~10のハロゲン化アリール基)であってもよい。
【0070】
前記一般式(II)において、R6は、炭素数1~20の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ラジカル反応性基、SH基、ラジカル有機基含む有機基又はSH基を含む有機基である。前記炭素数1~20の炭化水素基は、例えば、アルキル基又はアリール基(例えば、炭素数6~10のアリール基)であってもよい。前記ハロゲン化炭化水素基は、例えば、ハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アリール基(例えば、炭素数6~10のハロゲン化アリール基)であってもよい。前記ラジカル反応性基は、例えば、ビニル基、アリル基、γ-アクリロキシプロピル基、γ-メタクリロキシプロピル基又はγ-メルカプトプロピル基であってもよい。
【0071】
前記一般式(I)において、mは10000以下の正の整数(例えば、500~8000)であり、nは1以上(例えば、1~500)の整数である。
【0072】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、下記一般式(III)で表される(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。
【0073】
【化3】
【0074】
前記一般式(III)において、R7は水素原子又はメチル基であり、R8はアルキル基(例えば、炭素数1~18のアルキル基)、アルコキシ置換アルキル基(例えば、炭素数3~6のアルコキシ置換アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、炭素数6又は7のシクロアルキル基)又はアリール基(例えば、炭素数6~10のアリール基)である。
【0075】
前記アクリル変性ポリオルガノシロキサンは、平均粒子径が0.1μm以上100μm以下であってもよく、1μm以上100μm以下であってもよく、5μm以上100μm以下であってもよく、0.1μm以上80μm以下であってもよく、0.1μm以上50μm以下であってもよい。本発明において、前記アクリル変性ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置、例えば、粒度分布測定装置(日機装株式会社製MICROTRAC/HRA(9320-X100))にて測定する。
【0076】
前記アクリル変性ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、日信化学工業株式会社製のシリコーン・アクリル系ハイブリット樹脂(シャリーヌ(登録商標))等の市販品を用いることができる。
【0077】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、さらに、安定剤、着色剤、酸化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤等の樹脂配合剤を適宜含んでもよい。また、アクリル変性ポリオルガノシロキサンの以外の滑剤を適宜含んでもよい。
【0078】
前記安定剤としては、例えば、エポキシ系安定剤、バリウム系安定剤、カルシウム系安定剤、スズ系安定剤、亜鉛系安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤、カルシウム-亜鉛系(Ca-Zn系)及びバリウム-亜鉛系(Ba-Zn系)等の複合安定剤も使用することができる。前記安定剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。前記安定剤は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上8質量部以下配合することが好ましい。
【0079】
前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等を挙げることができる。また、前記着色剤としては、青顔料、赤顔料等の市販の顔料を用いてもよい。前記着色剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0080】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、前記塩化ビニル系樹脂、アクリル系重合体、及び可塑剤と、必要に応じて、ペースト用塩化ビニル系樹脂、アクリル変性ポリオルガノシロキサン樹脂、及びその他の樹脂配合剤を適宜混合することで、製造することができる。混合方法は、特に限定されないが、例えば、ドライブレンド法が好ましい。混合機としては、特に限定されないが、例えば、スーパーミキサー等を用いることができる。
【0081】
前記塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、50μm以上であってもよく、60μm以上であってもよく、100μm以上であってもよく、150μm以上であってもよい。また、前記塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、500μm以下であってもよく、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。より具体的には、前記塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、例えば、50μm以上500μm以下であってもよいが、粉体流動性の観点から、例えば、100μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましく、150μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。前記塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、JIS K 7369:2009に準じて測定する。
【0082】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、特に限定されないが、ブロッキング性に優れる観点から、付着力が250gf/cm2(24.5kPa)以下であることが好ましく、200gf/cm2以下であることがより好ましく、150gf/cm2以下であることがさらに好ましく、100gf/cm2以下であることがさらにより好ましく、50gf/cm2以下であることが特に好ましい。本発明において、付着力は、後述するとおりに測定算出する。
【0083】
前記塩化ビニル系樹脂組成物をパウダースラッシュ成形することで塩化ビニル系樹脂成形体が得られる。なお、前記塩化ビニル系樹脂成形体の断面を観察すると、パウダースラッシュ成形に用いた塩化ビニル系樹脂組成物(塩化ビニル系樹脂粒子)間の界面が確認されることにより、当該成形体がパウダースラッシュ成形により製造されたものであること、すなわち当該成形体がパウダースラッシュ成形体であることを確認することができる。
【0084】
パウダースラッシュ成形の方法は特に限定されないが、例えば、パウダーボックスとスラッシュ成形用金型(以下において、単に「金型」とも記す。)とを備えたスラッシュ成形機において、パウダーボックスに前記塩化ビニル系樹脂組成物を投入するとともに、金型を所定の温度(例えば、230℃以上280℃以下)に加熱し、次いで、スラッシュ成形機を反転させて、所定の温度に加熱された金型の表面に前記塩化ビニル系樹脂組成物を接触させて所定時間(例えば、3秒以上15秒以下)保持し、その後、スラッシュ成形機を再び反転させて金型を冷却(例えば、10℃以上60℃以下)し、冷却された金型から成形体を剥離する方法を用いることができる。
【0085】
前記塩化ビニル系樹脂成形体の形状は特に限られないが、例えば、シート状であってもよい。前記塩化ビニル系樹脂成形体がシート状である(以下において、塩化ビニル系樹脂シートとも記す。)場合、その厚さは、特に限定されないが、例えば、3.0mm以下であってもよく、2.0mm以下であってもよく、1.6mm以下であってもよい。また、例えば、0.5mm以上であってもよく、0.6mm以上であってもよく、0.8mm以上であってもよい。より具体的に、前記塩化ビニル系樹脂成形体がシート状である場合、その厚さは、例えば、0.5mm以上3.0mm以下であってもよく、0.6mm以上2.0mm以下であってもよく、0.8mm以上1.6mm以下であってもよい。
【0086】
前記塩化ビニル系樹脂成形体は、例えば、JIS K 7125:1999に準じて測定した動摩擦係数が0.75以下であることが好ましく、0.73以下であることがより好ましく、0.68以下であることがさらに好ましく、0.62以下であることがさらにより好ましく、0.57以下であることがさらにより好ましく、0.52以下であることが特に好ましい。
【0087】
前記塩化ビニル系樹脂成形体は、熱老化後(125℃で200時間加熱された後)の伸び率10%時の引張応力が(以下において、10%引張応力とも記す。)、例えば、14.0MPa以下であることが好ましく、13.5MPa以下であることがより好ましく、13.0MPa以下であることがさらに好ましく、12.5MPa以下であることがさらにより好ましく、12.0MPa以下であることが特に好ましい。本発明において、引張試験は、JIS K 6251:2010において、標線間距離に代えて、試料(塩化ビニル系樹脂成形体)を保持する一対のチャック間の距離を採用するよう改変した方法で行う。なお、熱老化後の引張試験に用いる塩化ビニル系樹脂成形体としては、塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン層を積層して形成した樹脂積層体を125℃で200時間加熱した後、該樹脂積層体から剥がされた塩化ビニル系樹脂成形体を用いることができる。
【0088】
前記塩化ビニル系樹脂成形体は、特に限定されないが、例えば、自動車等の車両のインストルメントパネル、ドアトリム、トランクトリム、座席シート、ピラーカバー、天井材、リアトレイ、コンソールボックス、エアバッグカバー、アームレスト、ヘッドレスト、メーターカバー、クラッシュパッド等の車両内装材用表皮として好適に用いることができる。
【0089】
前記塩化ビニル系樹脂成形体と、発泡ポリウレタン層(発泡ウレタン成形体とも記す。)を積層して積層体として用いることができる。積層方法としては、特に限定されず、例えば、塩化ビニル系樹脂成形体と、発泡ポリウレタン成形体とを別途作製した後に、熱融着又は熱接着或いは公知の接着剤等を用いることにより貼り合わせる方法;塩化ビニル系樹脂成形体上にて、発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類等を反応させて重合を行うとともに、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより積層する方法等が挙げられる。後者の方が、工程が簡素であり、かつ、種々の形状の積層体を得る場合においても、塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体の接着を確実に行うことができるので好適である。
【0090】
前記積層体は、発泡ポリウレタン層と、発泡ポリウレタン層の一方の表面に積層された塩化ビニル系樹脂成形体(塩化ビニル系樹脂層とも記す。)と、発泡ポリウレタン層の他方の表面に積層された他の樹脂層とを有してもよい。前記他の樹脂層は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン及び/又はポリエチレン-ポリプロピレン共重合体)又はABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の層であってもよい。このような積層体は、例えば、当該塩化ビニル系樹脂層と、当該他の樹脂層との間で、ポリウレタンの発泡成形を行うことにより製造することができる。
【0091】
前記積層体は、特に限定されないが、例えば、自動車等の車両のインストルメントパネル、ドアトリム、トランクトリム、座席シート、ピラーカバー、天井材、リアトレイ、コンソールボックス、エアバッグカバー、アームレスト、ヘッドレスト、メーターカバー、クラッシュパッド等の車両内装材として好適に用いることができる。
【実施例
【0092】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0093】
(アクリル系重合体の製造例1)
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及びフィードポンプを備えた2L重合装置に、脱イオン水380gを入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら昇温し、内温が80℃に到達した時点で2%の過硫酸ナトリウム23.5gを添加した。次に、メタクリル酸メチル(MMA)420.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)280.0g、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム2.5g、1-オクタンチオール0.05g、及び脱イオン水230.0gを混合攪拌して作製したモノマー乳化液を2時間かけて滴下し、滴下後も80℃にて2時間攪拌を継続してラテックスを得た。得られたラテックスを室温まで冷却し、スプレードライヤー(大川原化工機株式会社L-12-LS型)を用いて、入口温度130℃、出口温度60℃、アトマイザーディスク回転速度20000rpmにて噴霧乾燥し、アクリル重合体A1を製造した。
【0094】
(アクリル系重合体の製造例2)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を525.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を175.0gに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A2を製造した。
【0095】
(アクリル系重合体の製造例3)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を560.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を140.0gに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A3を製造した。
【0096】
(アクリル系重合体の製造例4)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を595.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を105.0gに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A4を製造した。
【0097】
(アクリル系重合体の製造例5)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を630.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を70.0gに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A5を製造した。
【0098】
(アクリル系重合体の製造例6)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を665.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を35.0gに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A6を製造した。
【0099】
(アクリル系重合体の製造例7)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を280.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を420.0gに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A7を製造した。
【0100】
(アクリル系重合体の製造例8)
モノマー乳化液中のメタクリル酸メチル(MMA)を700.0gに変更し、メタクリル酸イソブチル(iBMA)を抜いた以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体A8を製造した。
【0101】
(アクリル系重合体の製造例9)
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及びフィードポンプを備えた2L重合装置に、脱イオン水380gを入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら昇温し、内温が80℃に到達した時点で2%の過硫酸ナトリウム17.5gを添加した。次に、メタクリル酸メチル(MMA)200.0g、メタクリル酸n-ブチル(nBMA)150.0g、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム1.2g、脱イオン水120.0gを混合攪拌して作製したモノマー乳化液(コア部分用)を1時間かけて滴下し、滴下後も80℃にて80分攪拌を継続してラテックスを得た。得られたラテックスに2%の過硫酸ナトリウム6.0gを添加し、メタクリル酸メチル(MMA)227.0g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)123.0g、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム1.4g、1-オクタンチオール0.05g、及び脱イオン水130.0gを混合攪拌して作製したモノマー乳化液(シェル部分用)を45分かけて滴下し、滴下後も80℃にて30分攪拌を継続して二段重合ラテックスを得た。得られた二段重合ラテックスを実施例1と同様の方法で乾燥し、アクリル重合体B1を得た。アクリル重合体B1において、コア部分:シェル部分の質量比は50:50であった。
【0102】
(アクリル系重合体の製造例10)
モノマー乳化液から1-オクタンチオールを抜いた以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体C1を製造した。
【0103】
(アクリル系重合体の製造例11)
モノマー乳化液中の1-オクタンチオールを0.25gに増量した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体C2を製造した。
【0104】
(アクリル系重合体の製造例12)
モノマー乳化液に使用したメタクリル酸イソブチル(iBMA)をメタクリル酸n-ブチル(nBMA)に変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル重合体D1を製造した。
【0105】
(アクリル系重合体の製造例13)
モノマー乳化液中のメタクリル酸イソブチル(iBMA)70.0gを、メタクリル酸ドデシル(DMA)70.0gに変更した以外は、製造例5と同様にしてアクリル重合体E1を製造した。
【0106】
(アクリル系重合体の製造例14)
モノマー乳化液中のメタクリル酸イソブチル(iBMA)70.0gを、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)70.0gに変更した以外は、製造例5と同様にしてアクリル重合体E2を製造した。
【0107】
アクリル系重合体A1~A8、B1、C1~C2、D1、E1及びE2の平均粒子径を動的光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「Nanotrac Wave-EX150」)を用いて測定し、質量平均分子量(Mw)を高速GPC装置(東ソー(株)製「HCL-8220」、カラム:東ソー(株)製「TSKguardcolumnHZ-H」及び「TSKgelSuperHZM-H」、GPC溶媒:THF)にて測定し、その結果を下記表1に示した。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例1)
<塩化ビニル系樹脂組成物の製造>
100Lのスーパーミキサー(株式会社カワタ製)に、前記塩化ビニル系樹脂(塩化ビニル単独重合体、平均重合度1700、平均粒子径152μm、株式会社カネカ製「KS-1700」)100質量部、可塑剤(トリメリット酸トリ(n-オクチル)、株式会社ADEKA製「C-8L」)120質量部、安定剤としてステアリン酸亜鉛5質量部、過塩素酸ナトリウム1.5質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)0.3質量部及びエポキシ化大豆油5質量部、並びに顔料(黒)3質量部を添加し、70℃で混合した。次に、得られた混合物をドライアップした後、50℃以下に冷却し、アクリル系重合体A1を20質量部添加して混合し、塩化ビニル系樹脂組成物(粉末状)を作製した。
【0110】
<塩化ビニル系樹脂成形体の製造>
上記で得られた塩化ビニル系樹脂組成物を用い、シボ付平板(縦22cm×横31cm)を有するスラッシュ成形用金型とパウダーボックス(縦22cm×横31cm×深さ16cm)とを備えた箱型スラッシュ成形機を使用して、パウダースラッシュ成形を行った。具体的に、まず、パウダーボックスに塩化ビニル系樹脂組成物2kgを投入するとともに、280℃に加熱したスラッシュ成形用金型をスラッシュ成形機にセットした。次いで、金型が260℃となった時点で、スラッシュ成形機を反転させ、塩化ビニル系樹脂シート(PVCシートとも記す。)の厚みが1.0mmとなるように、塩化ビニル系樹脂組成物を当該金型内に約10~12秒間保持した後、スラッシュ成形機を反転させた。60秒間経過した時点で金型を冷却水で50℃になるまで冷却した。次に、PVCシートを金型から剥がし、塩化ビニル系樹脂成形体を得た。
【0111】
<積層体の製造>
発泡成形用金型(190mm×240mm×11mm)底面に、上記で得られたPVCシートを敷いた。次に、PVCシートの上に、4,4´-ジフェニルメタンージイソシアネートを含むA液36gと、ポリエーテルポリオールを含むB液(トリエチレンジアミン1.0質量%、水1.6質量%含有)78gとを混合して調製された原料液を注ぎ、金型を密閉した。所定の時間後、厚さ約1mmのPVCシート(表皮)と、当該PVCシートに積層された厚さ約9mmの発泡ポリウレタン層(裏打ち材)を有する積層体を金型から回収した。
【0112】
(実施例2)
20質量部のアクリル系重合体A1に代えて、アクリル系重合体A1を10質量部と、ペースト用塩化ビニル系樹脂(塩化ビニル単独重合体、平均重合度1300、平均粒子径10μm、株式会社カネカ製「PSM-31」)を10質量部用いた以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0113】
(実施例3)
アクリル変性ポリシロキサン(シリコーン・アクリル系ハイブリット樹脂、シリコーン含有量80質量%、アクリル含有量20質量%、平均粒子径30μm、日信化学工業株式会社「シャリーヌ(登録商標)R-181S」)2質量部をさらに添加した後に、70℃で混合した以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0114】
(実施例4~7)
20質量部のアクリル系重合体A1に代えて、アクリル系重合体A1と、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSM-31」)を下記表2に示した配合量で用いた以外は、実施例3と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0115】
(実施例8)
20質量部のアクリル系重合体A1に代えて、アクリル系重合体A1と、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSM-31」)、ペースト用塩化ビニル系樹脂(塩化ビニル単独重合体、平均重合度1000、平均粒子径10μm、株式会社カネカ製「PSL-31」)を下記表2に示した配合量で用いた以外は、実施例3と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0116】
(実施例9~12、15~20)
アクリル系重合体A1に代えて、下記表2~表4に示すアクリル系重合体を用いた以外は、実施例6と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0117】
(実施例13)
前記塩化ビニル系樹脂として、塩化ビニル単独重合体(平均重合度1400、平均粒子径159μm、株式会社カネカ製「S1004D」)を用い、可塑剤の配合量を110質量部に変更した以外は、実施例8と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0118】
(実施例14)
20質量部のアクリル系重合体A1に代えて、アクリル系重合体A1を7質量部と、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSM-31」)を13質量部用いた以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0119】
(実施例21)
可塑剤を125質量部用いた以外は、実施例12と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0120】
(実施例22~23)
アクリル系重合体A5に代えて、下記表4に示すアクリル系重合体を用いた以外は、実施例21と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0121】
(比較例1)
アクリル系重合体A1に代えて、アクリル系重合体A8を用いた以外は、実施例3と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0122】
(比較例2) アクリル系重合体A1に代えて、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSM-31」)を用いた以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0123】
(比較例3)
アクリル系重合体A1の配合量を3質量部、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSM-31」)の配合量を17質量部に変更した以外は、実施例4と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0124】
(比較例4)
アクリル系重合体A1に代えて、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSM-31」)を用いた以外は、実施例3と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0125】
(比較例5)
アクリル系重合体A1に代えて、ペースト用塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製「PSL-31」)を用いた以外は、実施例3と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0126】
(比較例6)
可塑剤の配合量を100質量部に変更した以外は、実施例13と同様にして、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0127】
(比較例7)
アクリル系重合体A5に代えて、アクリル系重合体A8を用いた以外は、実施例21と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0128】
実施例1の塩化ビニル系樹脂成形体及び比較例1の塩化ビニル系樹脂成形体の断面を下記のように光学顕微鏡で観察し、レーザーラマン分光法でラマン分析を行った。その結果を図1図7に示した。
【0129】
(断面の分析方法)
剃刀刃を用いて、塩化ビニル系樹脂成形体の厚さ方向に平行な断面の切片(厚さ約1000μm)を作製し、断面の光学顕微鏡観察とラマン分析を実施した。使用した装置と条件は下記のとおりであった。
<光学顕微鏡>
装置:Nikon製 SMZ-1500
観察条件:観察モード 反射
<顕微ラマン分光分析装置(μラマン)>
装置:HORIBAJY製 LabRam HR-800
分析条件
対物レンズ:×100
ビーム径:1μm
フィルター 試料測定時:D0.6(全エネルギーの1/4),標品測定時:なし
積算時間 試料測定時:10秒,標品測定時:20秒
積算回数 試料測定時:10回,標品測定時:5回
光源 He-Neレーザー 633nm
【0130】
図1は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像である。(a)は20倍の画像であり、(b)はその部分拡大図である。図1から分かるように、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面は、光学顕微鏡の反射光で観察した場合、不規則な鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子(黒色の鱗片状物)が界面部(白色のリング状物)を介して連なった形状を有していた。図示はないが、実施例2~23のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察したところ、不規則な鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子(黒色の鱗片状物)が界面部(白色のリング状物)を介して連なった形状を有していた。
【0131】
また、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像を用い、任意に選択した20個の鱗片物について、鱗片状物の外周の任意の二つの点を結んだ直線のうち最大長となる直線の長さを測定し、それらを平均することで算出した塩化ビニル系樹脂粒子の長径は147μmであった。また、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に20個の箇所を選択し、それぞれの箇所における界面部の厚さを測定し、それらを平均することで算出した界面部の厚さは11μmであった。なお、図1から分かるように、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面には、白色の円形物、すなわちアクリル系重合体凝集粒子は存在しなかった。図示はないが、実施例1の場合と同様にして、実施例の中で動摩擦係数が高い方の実施例14のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に20個の箇所を選択し、それぞれの箇所におけるアクリル系重合体凝集粒子の個数と各アクリル系重合体凝集粒子の長径を測定したところ、長径が40μm以上80μm以下のアクリル系重合体凝集粒子が2個/mm2(20箇所に存在しているアクリル系重合体凝集粒子の個数を平均したものを1mm2当たりの個数に換算したもの)存在していた。また、図示はないが、実施例1の場合と同様にして、実施例の中で動摩擦係数が高い方の実施例16のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に20個の箇所を選択し、それぞれの箇所におけるアクリル系重合体凝集粒子の個数と各アクリル系重合体凝集粒子の長径を測定したところ、長径が40μm以上58μm以下のアクリル系重合体凝集粒子が7個/mm2(20箇所に存在しているアクリル系重合体凝集粒子の個数を平均したものを1mm2当たりの個数に換算したもの)存在していた。
【0132】
図1の実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、塩化ビニル系樹脂粒子が黒色顔料を含んでいることから、鱗片状物は黒色を呈し、アクリル系重合体は顔料を含んでいないことから、リング状物(界面部)は白色を呈していた。塩化ビニル系樹脂粒子が顔料を含まず、アクリル系重合体が黒色顔料を含む場合、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、鱗片状物は白色を呈し、リング状物(界面部)は黒色を呈することになる。塩化ビニル系樹脂粒子及びアクリル系重合体が両方とも黒色顔料を含んでいる場合、塩化ビニル系樹脂粒子及びアクリル系重合体が両方とも顔料を含んでいない場合、及び塩化ビニル系樹脂粒子とアクリル系重合体が異なる色の顔料を含んでいる場合は、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像に対して白黒化する画像処理を行うことにより、鱗片状物(塩化ビニル系樹脂粒子)とリング状物(界面部)が互いに異なる色(黒色及び白色のいずれか一方)を呈するように調整することができる。なお、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、円形物(アクリル系重合体凝集粒子)は、リング状物と同じ色を呈することになる。
【0133】
図2図3及び図4は、それぞれ、アクリル系重合体A1、ペースト用塩化ビニル系樹脂(塩化ビニル単独重合体、平均重合度1300、平均粒子径10μm)及び可塑剤(トリメリット酸トリ(n-オクチル))をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。図5及び図6は、それぞれ、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、塩化ビニル系樹脂粒子の内部と、界面部をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。図7は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、塩化ビニル系樹脂粒子の内部をレーザーラマン分光法で分析した波数500cm-1以上800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。図8は、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、界面部をレーザーラマン分光法で分析した波数500cm-1以上800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。図2図4のラマンスペクトルに基づいて、図5図8のラマンスペクトルを対比すると分かるように、実施例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面において、界面部と塩化ビニル系樹脂粒子の内部をレーザーラマン分光法で分析した場合、界面部のラマンスペクトルには波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが存在するが、塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルには波数600±5cm-1のアクリル系重合体由来のピークが存在しなかった。
【0134】
また、図7の塩化ビニル系樹脂粒子の内部の4箇所をレーザーラマン分光法で分析して得られた4つのラマンスペクトルのそれぞれにおいて、波数750cm-1と波数575cm-1の2点でベースラインを引き、ピーク高さを測定することで算出した波数666±5cm-1の可塑剤(芳香環)由来のピークの強度は、それぞれ、127.218(n=1)、157.248(n=2)、162.153(n=3)、179.750(n=4)であり、その平均値は156.592であった。図8の界面部の4箇所をレーザーラマン分光法で分析して得られた4つのラマンスペクトルのそれぞれにおいて、波数750cm-1と波数575cm-1の2点でベースラインを引き、ピーク高さを測定することで算出した波数666±5cm-1の可塑剤(芳香環)由来のピークの強度は、それぞれ、43.444(n=1)、97.034(n=2)、67.751(n=3)、123.212(n=4)であり、その平均値は82.860であった。前記塩化ビニル系樹脂粒子の内部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤(芳香環)由来のピークの強度が、前記界面部のラマンスペクトルにおける波数666±5cm-1の可塑剤(芳香環)由来のピークの強度の1.9倍であった。
【0135】
図9は、比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像である。(a)20倍の画像であり、拡大1~3はその部分拡大図である。図9から分かるように、比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、白色の円形物、すなわちアクリル系重合体凝集粒子が複数存在していた。図9のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に20個の箇所を選択し、それぞれの箇所におけるアクリル系重合体凝集粒子の個数と各アクリル系重合体凝集粒子の長径を測定したところ、長径が31μm以上89μm以下のアクリル系重合体凝集粒子が18個/mm2(20箇所に存在しているアクリル系重合体凝集粒子の個数を平均したものを1mm2当たりの個数に換算したもの)存在していた。図9の比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、塩化ビニル系樹脂粒子が黒色顔料を含んでいることから、鱗片状物は黒色を呈し、アクリル系重合体は顔料を含んでいないことから、リング状物(界面部)及び円形物は白色を呈していた。また、図示はないが、比較例1の場合と同様に、比較例7のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察して得られた画像において、任意に20個の箇所を選択し、それぞれの箇所におけるアクリル系重合体凝集粒子の個数と各アクリル系重合体凝集粒子の長径を測定したところ、長径が31μm以上99μm以下のアクリル系重合体凝集粒子が12個/mm2(20箇所に存在しているアクリル系重合体凝集粒子の個数を平均したものを1mm2当たりの個数に換算したもの)存在していた。
【0136】
図10図12は、それぞれ、比較例1のパウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した画像において、粒子1(白色の円形物)、粒子2(白色の円形物)及びアクリル系重合体A8をレーザーラマン分光法で分析した波数200cm-1以上3800cm-1以下の範囲のラマンスペクトルである。図10及び図11と、図12の対比から、粒子1及び粒子2には、アクリル系重合体A8と共通するピークが多数存在しており、白色の円形物がアクリル系重合体凝集粒子であることが確認できた。なお、粒子1及び粒子2は、主にアクリル系重合体で構成されているが、少量の可塑剤も含んでいた。
【0137】
実施例及び比較例において、塩化ビニル系樹脂組成物の付着力を下記のように測定した。また、実施例及び比較例において、塩化ビニル系樹脂成形体の動摩擦係数、初期及び熱老化後の10%引張応力、破断応力及び破断伸度を下記のように測定・評価した。これらの結果を下記表2~4に示した。
【0138】
(付着力)
内径5cmの円筒状セルに塩化ビニル系樹脂組成物40gを充填した後、30℃の恒温槽に入れ加温した。塩化ビニル系樹脂組成物の温度が30℃に上昇した後、1.3kgのピストンと5kgの錘(荷重トータル0.32kgf/cm2)を乗せた。その後、60℃の恒温槽内に2時間保持した。2時間経過後、23℃、50%RHの環境下にて取り出して、1時間冷却して錘とピストンを取り外し、円筒状セルから塩化ビニル系樹脂組成物のケーキを取り出した。得られたケーキの圧壊強度をレオメーター(株式会社レオテック製RT-2010J-CW)で測定し、下記式で付着力を算出した。
付着力(gf/cm2)=2×B/(3.14×R×D)
B:圧壊試験における荷重(N)
R:ケーキの直径(mm)
D:ケーキの厚み(mm)
【0139】
(動摩擦係数)
JIS K 7125:1999に準拠して測定した。具体的には、万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン)を使用し、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下にて、試験速度100mm/分、垂直荷重1.96N平面圧子仕様で相手材であるNBRゴムシート(黒ゴム)をPVCシートの上を滑らしてその動摩擦力を測定し、動摩擦係数を算出した。動摩擦係数が0.80以下を合格とした。
【0140】
(初期の10%引張応力、破断応力及び破断伸度)
PVCシートを3号ダンベル形状に打ち抜いて、当該3号ダンベル形状の試料を得た。次いで、この試料の両端を一対のチャック(チャック間距離は40mm)で保持した。そして、-10℃のチャンバー内において、試料を3分間保持した後、引張速度200mm/分にて、引張試験を行い、10%引張応力、破断応力及び破断伸度を測定した。
【0141】
(熱老化後の10%引張応力、破断応力及び破断伸度)
積層体をオーブンに入れ、125℃で200時間加熱することにより、当該積層体を熱老化させた。その後、積層体からPVCシートを剥がした。そして、剥がされたPVCシートを3号ダンベル形状に打ち抜いて、当該3号ダンベル形状の試料を得た。次いで、この試料の両端を一対のチャック(チャック間距離は40mm)で保持した。そして、-10℃のチャンバー内において、試料を3分間保持した後、引張速度200mm/分にて、引張試験を行い、10%引張応力、破断応力及び破断伸度を測定した。熱老化後の10%引張応力が14.0MPa以下のPVCシートは合格と判断した。
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
上記表2の結果から分かるように、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した場合、不規則な鱗片状の塩化ビニル系樹脂粒子が界面部を介して連なった形状を有し、アクリル系重合体凝集粒子が存在しない実施例1、及びアクリル系重合体凝集粒子が10個/mm2以下である実施例14及び16では、動摩擦係数が低く、表面特性が良好である上、熱老化後の10%引張応力が低く、熱老化後の柔軟性が良好であった。また、上記表2~4の結果から分かるように、実施例2~23の塩化ビニル系樹脂成形体も、動摩擦係数が低く、表面特性が良好である上、熱老化後の10%引張応力が低く、熱老化後の柔軟性が良好であった。実施例1と実施例3の対比、実施例2と実施例6の対比から、アクリル変性ポリオルガノシロキサンを含むと、動摩擦係数がより低くなり、表面特性が向上することが分かった。実施例3~8の対比から、アクリル系重合体の配合量が多いほど、動摩擦係数がより低くなり、表面特性が向上することが分かった。実施例6、9~12、15及び16の対比から、アクリル系重合体が(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸tert-ブチルからなる群から選ばれる少なくとも一種を10質量%以上50質量%以下含むと、動摩擦係数がより低くなり、表面特性が向上することが分かった。
【0146】
一方、表3の結果から分かるように、パウダースラッシュ成形体の厚さ方向に平行な断面を光学顕微鏡の反射光で観察した場合、長径が30μm以上100μm以下であるアクリル系重合体凝集粒子が10個/mm2を超えている比較例1及び7では、動摩擦係数が0.80を超えており、表面特性が悪かった。また、比較例1では、熱老化後の10%引張応力が14.0MPaを超えており、熱老化後の柔軟性も悪かった。また、表3の結果から分かるように、比較例2~5のパウダースラッシュ成形体は、動摩擦係数が0.80を超えており、表面特性が悪かった。可塑剤の配合量が110質量部未満の比較例6の場合、熱老化後の10%引張応力が14.0MPaを超えており、熱老化後の柔軟性が悪かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12