(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】メタクリル酸メチル又はメタクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/06 20060101AFI20221018BHJP
C07C 57/075 20060101ALI20221018BHJP
C07C 67/62 20060101ALI20221018BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20221018BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C07C51/06
C07C57/075
C07C67/62
C07C69/54 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019552059
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(86)【国際出願番号】 GB2018050759
(87)【国際公開番号】W WO2018172783
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-22
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ミツビシ ケミカル ユーケー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI CHEMICAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ティンデール、ニール
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-084708(JP,A)
【文献】特開2004-155757(JP,A)
【文献】米国特許第03210419(US,A)
【文献】国際公開第2015/140549(WO,A1)
【文献】特表2002-509533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトンシアノヒドリンプロセスによるメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸の製造におけるポリマータールの蓄積を低減する方法であって、安定剤がアミド段階の反応媒体と接触し、安定剤は、不安定水素原子を前記媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位を含み、前記安定剤はスクアラン(別名ペルヒドロスクアレン;2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン;スピナカン;及びドデカヒドロスクアラン)
;9,10-ジヒドロアントラセン;アダマンタン;tert-ドデシルポリスルフィド;テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン);フルオレン(α-ジフェニレンメタン);デカリン
;5,12-ジヒドロテトラセン;ジヒドロクマリン;アントロン;スクアレン;ヘミスクアラン;ショウノウ;4-メチルノナン、トリアコンタン;ビタミンE(トコフェロールとも呼ばれ、4つの光学異性体全てを含む);ビシクロヘキシル;石油ディーゼル(別名ペトロディーゼル、自動車燃料);ブチルシクロヘキサン;及びデカンからなる群のうちの1つ以上から選択される、方法。
【請求項2】
a.アセトンシアノヒドリン(ACH)を過剰の濃硫酸と接触させて、スルファトイソブチルアミド(SIBAM)と、ヒドロキシイソブチルアミド(HIBAM)と、任意選択的なメタクリルアミドとの混合物を生成する工程;並びに
b.濃硫酸媒体中でSIBAM及び/又はHIBAMをメタクリルアミドに熱変換する工程;並びに
c.前記メタクリルアミドを水又は水とメタノールに接触させる工程;
を含む、メタクリル酸メチル又はメタクリル酸の製造方法であって、
工程b中、安定剤が存在し、安定剤は、不安定水素原子を前記媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位として添加され、前記安定剤はスクアラン(別名ペルヒドロスクアレン;2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン;スピナカン;及びドデカヒドロスクアラン)
;9,10-ジヒドロアントラセン;アダマンタン;tert-ドデシルポリスルフィド;テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン);フルオレン(α-ジフェニレンメタン);デカリン
;5,12-ジヒドロテトラセン;ジヒドロクマリン;アントロン;スクアレン;ヘミスクアラン;ショウノウ;4-メチルノナン、トリアコンタン;ビシクロヘキシル;石油ディーゼル(別名ペトロディーゼル、自動車燃料);ブチルシクロヘキサン;及びデカンからなる群のうちの1つ以上から選択される、方法。
【請求項3】
i.メタクリルアミド、スルファトイソブチルアミド、及びヒドロキシイソブチルアミドのうちの1種以上;
ii.濃硫酸;並びに
iii.不安定水素原子を濃硫酸媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位を含む安定剤;の混合物を含み、前記安定剤はスクアラン(別名ペルヒドロスクアレン;2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン;スピナカン;及びドデカヒドロスクアラン)
;9,10-ジヒドロアントラセン;アダマンタン;tert-ドデシルポリスルフィド;テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン);フルオレン(α-ジフェニレンメタン);デカリン
;5,12-ジヒドロテトラセン;ジヒドロクマリン;アントロン;スクアレン;ヘミスクアラン;ショウノウ;4-メチルノナン、トリアコンタン;ビシクロヘキシル;石油ディーゼル(別名ペトロディーゼル、自動車燃料);ブチルシクロヘキサン;及びデカンからなる群のうちの1つ以上から選択される、
メタクリル酸メチル又はメタクリル酸の製造のための反応系。
【請求項4】
アセトンシアノヒドリン(ACH)プロセスによるメタクリル酸及び/又はメタクリル酸メチルの製造における安定剤の使用であって、前記安定剤は、不安定水素原子を濃硫酸媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位を含み、前記安定剤はスクアラン(別名ペルヒドロスクアレン;2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン;スピナカン;及びドデカヒドロスクアラン)
;9,10-ジヒドロアントラセン;アダマンタン;tert-ドデシルポリスルフィド;テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン);フルオレン(α-ジフェニレンメタン);デカリン
;5,12-ジヒドロテトラセン;ジヒドロクマリン;アントロン;スクアレン;ヘミスクアラン;ショウノウ;4-メチルノナン、トリアコンタン;ビシクロヘキシル;石油ディーゼル(別名ペトロディーゼル、自動車燃料);ブチルシクロヘキサン;及びデカンからなる群のうちの1つ以上から選択される、使用。
【請求項5】
前記安定剤が、ACHプロセスのアミド段階で見られる条件下で水素原子移動反応に関与するように作用可能な水素移動剤である、請求項1又は2に記載の方法であって、水素原子が同じ媒体中の化学反応性種に移動し、そうすることで、そうでなければ種が関与する可能性がある副反応の一部又は全てが防止される、方法。
【請求項6】
前記安定剤はアセトンシアノヒドリンプロセスのアミド段階でみられる条件下で水素原子移動反応に関与できる水素移動剤であり、水素原子は同じ媒体内中で化学反応性種に移動することによって、この移動がない場合に前記化学反応性種が関与し得る副反応の一部又は全てを防止する、請求項3に記載の反応系。
【請求項7】
前記安定剤はアセトンシアノヒドリンプロセスのアミド段階でみられる条件下で水素原子移動反応に関与できる水素移動剤であり、水素原子は同じ媒体内中で化学反応性種に移動することによって、この移動がない場合に前記化学反応性種が関与し得る副反応の一部又は全てを防止する、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
前記安定剤が、0.005重量%以上の量で前記反応混合物中に存在する、請求項1,2,
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記安定剤が、0.005重量%以上の量で前記反応混合物中に存在する、請求項3
又は6に記載の反応系。
【請求項10】
前記安定剤が、0.005重量%以上の量で前記反応混合物中に存在する、請求項4
又は7に記載の使用。
【請求項11】
前記安定剤が前記メタクリルアミド誘導体に不安定水素原子を供与できる前記濃硫酸媒体が、アミド段階の反応媒体の形態である、請求項1,2,5,
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記安定剤が前記メタクリルアミド誘導体に不安定水素原子を供与できる前記濃硫酸媒体が、アミド段階の反応媒体の形態である、請求項3,6,
9のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項13】
前記安定剤が前記メタクリルアミド誘導体に不安定水素原子を供与できる前記濃硫酸媒体が、アミド段階の反応媒体の形態である、請求項4,7,
10のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトンシアノヒドリン(ACH)プロセスを使用してメタクリル酸メチル(「MMA」)又はメタクリル酸(「MAA」)を製造する際のタール状物質の蓄積を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MMAの調製のために数多くの商業的プロセスが使用されている。そのようなプロセスのうちの1つでは、MMAはアセトンシアノヒドリン(「ACH」)から調製される。このプロセスの例は、特許文献1に記載されている。一般的に、ACHプロセスでは、ACHは過剰の濃硫酸に溶解し、加水分解することで、溶液中でスルファトイソブチルアミド(「SIBAM」)とヒドロキシイソブチルアミド(「HIBAM」)との混合物を生成する。濃硫酸中で溶液形態のままで、HIBAMとSIBAMはメタクリルアミド(「MAM」)と少量のメタクリル酸(「MAA」)へと熱的に変換される。ACHと濃硫酸との最初の混合から、SIBAMとHIBAMのMAMへの熱変換の終わりまでのこれらのプロセスの工程は、プロセスの「アミド段階」と総称されている。
【0003】
プロセスの目的最終生成物がMAAである場合、MAMの濃硫酸溶液であるプロセスのアミド段階の生成物が水と混合されて、MAMの加水分解によってMAAが生成する。目的生成物がMMAである場合、MAMの濃硫酸溶液が水及びメタノールと混合されて、MAMの加水分解とエステル化の組み合わせによってMMAが生成する。
【0004】
MMA又はMAAへのアセトンシアノヒドリンルートは、典型的には連続プロセスとして設計され、生産量は10~20te/hrの範囲である。
SIBAMとHIBAMからMAMへの熱変換を促進するために、熱と滞留時間の両方を与える必要がある。目的のMAMへの熱変換率が低下すると、プロセス全体の収率が低下するため、高い温度と比較的長い滞留時間が典型的には使用される。残念なことに、プロセスのアミド段階、特に高温熱変換段階では望ましくない副生成物も形成される。望ましくない副生成物は、多くのスルホン化された化合物、並びに複数のオリゴマー及びポリマー状物質を含む様々な化学成分から構成される。
【0005】
濃硫酸の非水性溶媒特性は、プロセスのアミド段階を通して、望ましくない副生成物を反応溶液に溶解したままにする。しかし、反応溶液が加水分解(MAAについて)又はエステル化(MMAについて)のプロセス段階に移動する際には、水又は水とメタノールを添加して必要とされる化学変換を行わなければならない。水又は水とメタノールを添加すると、その前には非水性であったものから強酸性の水性媒体が形成されるため、溶媒媒体の特性が大きく変化する。この新しい溶媒環境では、濃硫酸には溶けていたかもしれないが新しい媒体にはほとんど溶けない成分が溶液から析出し、小さな液滴又は更には固体粒子を形成する可能性がある。小さな液滴又は固体粒子の凝集プロセスが起こる可能性があり、その結果、より大きな液滴及び粒子が、プロセス反応容器、プロセス装置、及び配管の上に最終的に堆積物を形成する。
【0006】
固体の堆積した材料は、典型的には「ポリマータール」又は単に「タール」と呼ばれる。タールは粘性のべとつきのある固体であり、未処理の場合、これはプロセス容器、プロセス装置、及び配管に蓄積される。アセトンシアノヒドリンプロセスの加水分解又はエステル化段階でのプロセス装置の閉塞は、十分に多量のタールの蓄積が生じた場合に発生する。閉塞は、ポンピング、化学洗浄、又は溶解などの従来の手段によって除去することが困難である。
【0007】
ACHプロセスの加水分解又はエステル化のプロセス工程は、それぞれMAA又はMMAを生成し、これらは液液分離、蒸留、又は水蒸気ストリッピングなどのプロセスによって硫酸反応溶液から回収されて粗生成物を形成することができ、これらはその後更に精製されることで商業的に純粋な製品を生成することができる。粗製MAA又はMMAの回収が完了した後、残りの硫酸含有混合物は、「廃酸」又は「副生成物酸」として当業者に知られている。MAA又はMMAへのアセトンシアノヒドリンルートから比較的多量の廃酸が生成されるため、及び未使用の硫酸が比較的高価なため、MAA又はMMAへのアセトンシアノヒドリンルートからの廃酸は、典型的には硫酸回収(「SAR」)プロセスとして知られている別個のプロセス工程でリサイクルされる。
【0008】
典型的なSARプロセスは特許文献2及び特許文献3に記載されており、どちらにも燃料及び空気又は酸素と共に廃酸がエアロゾル液滴の形態で炉に導入されるSARプロセスが開示されている。燃料/空気混合物は、燃焼して、任意の汚染物質と共に酸を蒸発、解離、及び分解するために必要な熱を発生し、この汚染物質は、主に水、二酸化炭素、窒素、及び二酸化硫黄から構成されるガス流を形成するためにも存在し得る。二酸化硫黄は、その後、後続のプロセス工程で濃硫酸に戻される。
【0009】
エアロゾル液滴は、典型的には多数のスプレーガンを使用してSAR炉で生成される。各スプレーガンのスループットは限られているため、十分な数の稼働するスプレーガンを用意して、管理すべき加水分解反応又はエステル化反応からの廃酸の全量の処理できるようにしなければならない。
【0010】
一般的に、スプレーガンは、液体の廃酸を圧力下で小さな直径のオリフィスに強制的に通すことで機能する。残念なことに、廃酸の供給流にポリマー又は他の固体材料が存在すると、スプレーガンのオリフィスが詰まることがあり、スプレーガンのそれ以上の作動が妨げられ、その結果廃酸を処理できる速度が低下する。
【0011】
廃酸の処理速度がMAA又はMMAの製造速度を制限する要因である現場では、廃酸の処理速度に制約があると、有用な商品の生産速度が低下することになる。結果として、組織にとって経済的な損失になる。
【0012】
経済的及び安全上の両方の理由から、タールの著しい堆積物の形成及び蓄積を回避することが非常に望まれる。
例えばタールの液化作用を得るために撹拌と組み合わせた強酸と界面活性剤の使用が開示されている特許文献4などの、タールを除去するこれまでの試みは、そうでなければ連続的であるプロセスを停止することで管理されており、その後に排水、汚染除去、機械的手段による洗浄が続く。このような汚れを落とすための停止は達成に1~5日かかる場合があり、プロセスはそれ以外は継続的であり、1時間あたり数トンの製品を製造することから、あらゆる停止は収益性の大きな損失を意味する。汚れを落とす作業に関与している人々が有害な硫酸を含有する処理液に触れる可能性があるため、汚れを落とす作業の停止も望ましくない。
【0013】
望ましくない副生成物の形成を防止するために、重合禁止剤などの安定剤も使用されてきた。しばらくの間、最も広く展開されてきた安定剤はフェノチアジン(「PTZ」)であった。しかしながら、フェノチアジンは有毒な結晶性材料であり、プロセスへの正確な添加とプロセス内での均一な分散を促進するために、適切な溶媒に溶解させなければならない。適切な溶媒としては、非常に可燃性でありこれをわずかしか溶解させないアセトン、又は腐食性かつ有害であり周囲温度であっても溶液の中でこれの有効性を徐々に低下させる濃硫酸が挙げられる。
【0014】
固体のPTZの取り扱いとその適切な溶媒への溶解は、プロセスに危険な可能性のある工程を導入することになり、有毒なPTZ粉塵や可燃性又は腐食性の溶媒から作業員を保護するために、作業者のための高価な保護層を用いて設計しなければならない。
【0015】
存在する他の成分との望ましくない副反応に新しい化学添加剤が関与する;新しい微量の不純物でプロセスの目的生成物を汚染し得るように新しい化学添加剤が分解する;反応混合物が発泡する;及び/又は新しい化学物質がプロセス装置に腐食又はその他の損傷を生じさせる;などの多くの重大なリスクがもたらされるため、大規模な連続化学プラントの作業者は、典型的には、プロセスに新しい化学物質を追加したがらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許第4529816号明細書
【文献】欧州特許第1057781号明細書
【文献】米国特許第5531169号明細書
【文献】米国特許第6245216号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
これらの理由から、ACHプロセスでの望ましくない副生成物を減らすためのより効果的で利用しやすい方法を見出すことが、長い間プロセスを操業する者の目標であった。
したがって、本発明の態様の目的は、上述した問題又は他の問題のうちの1つ以上に対処することである。より具体的には、本発明の目的は、MMA及びMAAの製造のためのACHプロセスの際のタールの蓄積及び/又は他の望ましくない副生成物を低減する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様によれば、アセトンシアノヒドリンプロセスによるメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸の製造におけるポリマータールの蓄積を低減する方法が提供され、安定剤はアミド段階の反応媒体と接触し、この安定剤は、不安定水素原子を前記媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位を含む。
【0019】
ACHプロセスを用いるメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸の製造では、ACHは過剰の濃硫酸に溶解され、加水分解することで、溶液中でスルファトイソブチルアミド(「SIBAM」)とヒドロキシイソブチルアミド(「HIBAM」)との混合物液を生成する。濃硫酸中で溶液形態のままで、HIBAMとSIBAMはメタクリルアミド(「MAM」)と少量のMAAへと熱的に変換される。ACHと濃硫酸との最初の混合から、SIBAMとHIBAMのMAMへの熱変換の終わりまでのこれらのプロセスの工程は、プロセスの「アミド段階」と総称されている。
【0020】
本発明の安定剤により、反応媒体中に濃硫酸が存在するにもかかわらず、多量のMAMがモノマー形態のまま存在できることは驚くべきことである。
本明細書における「濃硫酸」という用語は、少なくとも93重量%の硫酸と最大7重量%の水を含むものとして定義することができる。好ましくは、安定剤がメタクリルアミド誘導体に不安定水素原子を供与できる濃硫酸は、アミド段階の反応媒体の形態である。アミド段階の反応媒体では、硫酸は少なくとも93重量%の溶媒を構成していてもよく、含水率は最大7重量%であってもよい。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、
a.アセトンシアノヒドリン(ACH)を過剰の濃硫酸と接触させて、スルファトイソブチルアミド(SIBAM)と、ヒドロキシイソブチルアミド(HIBAM)と、任意選択的なメタクリルアミドとの混合物を生成する工程;並びに
b.濃硫酸媒体中でSIBAM及び/又はHIBAMをメタクリルアミドに熱変換する工程;並びに
c.メタクリルアミドを水又は水とメタノールに接触させる工程;
を含む、メタクリル酸メチル又はメタクリル酸の製造方法であって、
工程b中、好ましくは工程a及びb中に安定剤が存在し、この安定剤は、不安定水素原子を前記媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位として添加される、製造方法が提供される。
【0022】
好適には、第2の態様の方法は、MAA及び/又はMMAのACH製造におけるタール蓄積を低減する方法である。好ましくは、ACHプロセスのアミド段階中のタール成分の生成を低減する方法である。
【0023】
本発明の更なる態様によれば、
i.メタクリルアミド、スルファトイソブチルアミド、及びヒドロキシイソブチルアミドのうちの1種以上;
ii.濃硫酸;並びに
iii.不安定水素原子を濃硫酸媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位を含む安定剤;
の混合物を含む反応系が提供される。
【0024】
本発明の更なる態様によれば、アセトンシアノヒドリン(ACH)プロセスによるメタクリル酸及び/又はメタクリル酸メチルの製造における安定剤の使用であって、安定剤は、不安定水素原子を濃硫酸媒体中の条件下で前記不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与できる炭化水素部位を含む、使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の安定剤は、ACHプロセスのアミド段階でみられる条件下でこれらが水素原子移動反応に関与できるという点で、水素移動剤と呼ぶことができ、水素原子は同じ媒体内中で化学反応性種に移動し、そうすることで、そうでなければ種が関与する可能性がある副反応の一部又は全てを防止する。
【0026】
本発明の不安定水素は、典型的には、いずれの場合においても非環式であっても脂環式であってもよい三級炭素又は二級炭素に結合していてもよい。好ましい実施形態では、2つ以上のそのような不安定水素が存在していてもよい。念のために明記すると、不安定水素原子は芳香環原子には結合していない。
【0027】
添加される安定剤は式Iによるものであってもよい:
【0028】
【0029】
(式中、Caは炭素原子であり;
R1は水素であり;
R2は水素であるか、任意選択的に置換されていてもよい脂肪族、アリール、アリール脂肪族、脂肪族アリール、ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、及びヘテロ脂肪族アリールから選択され;好ましくは、水素、任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、アリール、アラルキル、アルカリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、及びヘテロアルカリールから選択され;好適には、水素、又は任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、C1~C17アルキル、C6~C15アリール、C6~C10アリール、C7~C15アルカリール若しくはアラルキルから選択され;最も好ましくは、水素又はC1~C10アルキルから選択され;
R3は、任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、アリール、アラルキル、アルカリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、及びヘテロアルカリールなどの、任意選択的に置換されていてもよい脂肪族、アリール、アリール脂肪族、脂肪族アリール、ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、及びヘテロ脂肪族アリールから選択され;好適には、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、C1~C17アルキル、C6~C15アリール、C6~C10アリール、C7~C15アルカリール、C7~C15アラルキル、又はC7~C15ヘテロアラルキルから選択され;
R4は、任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、アリール、アラルキル、アルカリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、ヘテロアルカリール、又は式IIによる基などの、任意選択的に置換されていてもよい脂肪族、アリール、アリール脂肪族、脂肪族アリール、ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、ヘテロ脂肪族アリール、又は式IIによる基から選択され;好適には、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、C1~C17アルキル、C6~C15アリール、C6~C10アリール、C7~C15アルカリール、アラルキル、又は式IIによる基から選択され;
R2~R6のうちの2つ以上が存在する場合、任意選択的にCa及び/又はCbと一緒に(存在する場合)複合基を形成していてもよく、複合基は単環式であっても多環式基であってもよく、この場合、R2~R6は本明細書で定義される基の二価と等価であるとみなすことができ、
上のいずれの場合でも、反応条件下で安定剤が140℃以上の沸点を有する、好ましくは安定剤が1baraの圧力で140℃以上、より好ましくは150℃以上、又は155℃以上、又は160oCの沸点を有することを任意選択の条件とし、
式IIは、
【0030】
【0031】
に従い、
式中、
Cbは炭素原子であり;
R7は水素であり;
R5及びR6は、水素、又は任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、アルカリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、及びヘテロアルカリールから独立して選択され、好ましくは水素又は任意選択的に置換されていてもよいアルキル、脂環式、ヘテロアルキル、及びヘテロ脂環式から独立して選択され;好適には、水素、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、C1~C17アルキルから選択され;好ましくはR5及びR6のうちの少なくとも1つは水素であり、より好ましくはR5は水素であり、R6は任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルである)。
【0032】
式Iに従う安定剤の一実施形態では、R4は式IIに従う基であり、R5及びR6は水素、又は任意選択的に置換されていてもよいアルキル、脂環式、ヘテロアルキル、及びヘテロ脂環式から独立して選択され;好適には水素、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルから選択され;好ましくはR5及びR6のうちの少なくとも1つは水素であり、より好ましくはR5は水素であり、R6は任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルであり;
R2及びR3は、水素、任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、及びヘテロ脂環式から独立して選択され;好適には、任意選択的に置換されていてもよいアルキル、脂環式、ヘテロアルキル、及びヘテロ脂環式から選択され;好ましくは、水素、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルから選択される。
【0033】
好ましくは、式Iに従う安定剤におけるいくつかの実施形態では、R2が水素でありR3が7個より少ない非水素原子を有する場合、R3及びR4は一緒になって炭素及び硫黄から選択される7個以上の原子を含み、好適にはC7以上である。ただし、R4が式IIの場合、R3は式IIと一緒になって炭素及び硫黄から選択される7個以上の原子を含み、好適にはC7以上であることを条件とする。
【0034】
式Iに従う安定剤において、R3及びR4がCaと一緒に単環式又は多環式複合基を形成する場合、R2は水素であってもよく、あるいはR4が式IIである場合、R3及びR5及び/又はR6がCa及びCbと一緒になって単環式又は多環式の複合基を形成する場合には、R2は水素であってもよい。
【0035】
式Iに従う安定剤の好ましい実施形態において、Caは三級炭素原子であり、より好ましくはCaは環に含まれない三級炭素原子であり;
R4は式IIに従う基であり、R5及びR6は、水素、又は任意選択的に置換されていてもよいアルキル、脂環式、ヘテロアルキル、及びヘテロ脂環式から独立して選択され;好適には水素、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルから選択され;好ましくはR5及びR6のうちの少なくとも1つは水素であり、より好ましくはR5は水素であり、R6は任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルであり;
R2及びR3は、水素、任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、及びヘテロ脂環式から独立して選択され;好適には任意選択的に置換されていてもよいアルキル、脂環式、ヘテロアルキル、及びヘテロ脂環式から選択され;好ましくは水素、任意選択的に置換されていてもよいC1~C50アルキル、C1~C30アルキル、C1~C25アルキル、C1~C20アルキル、又はC1~C17アルキルである。
【0036】
式Iに従う安定剤の更に好ましい実施形態において:
R1及びR2は水素であり;
R3は、任意選択的に置換されていてもよいアリール、アリール脂肪族、アルケニル、アルキニル、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、ヘテロアルケニル、及びヘテロアルキニルから選択され、ここで、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルケニル、及びヘテロアルキニルについては、不飽和炭素はCaに結合しており、好ましくはR3は、任意選択的に置換されていてもよいアリール(カルボニル置換アリールを含む)、アラルキル、ヘテロアリール、又はヘテロアラルキルから選択され;好適には、任意選択的に置換されていてもよいC6~C15アリール、C6~C10アリール、C7~C15アラルキル、又はC7~C11アラルキルから選択され;
R4は、任意選択的に置換されていてもよい脂肪族、アリール、アリール脂肪族、脂肪族アリール、ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、及びヘテロ脂肪族アリールから選択され;好ましくは任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、アリール、アラルキル、アルカリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、及びヘテロアルカリールから選択され;より好ましくは任意選択的に置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルから選択され;更に好ましくは任意選択的に置換されていてもよいアルケニル、アルキニル、アリール、アリール脂肪族、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族から選択され、ここで、アルケニル、アルキニル、ヘテロアルケニル、及びヘテロアルキニルについては、不飽和炭素はCaに結合しており;最も好ましくは、R4は、任意選択的に置換されていてもよいアリール、アラルキル、ヘテロアリール、又はヘテロアラルキルから選択され;好適には、任意選択的に置換されていてもよいC6~C15アリール、C6~C10アリール、C7~C15アラルキル、又はC7~C11アラルキルから選択される。
【0037】
式Iに従う安定剤の別の好ましい実施形態においては、R3は任意選択的に置換されていてもよいアラルキル又はヘテロアラルキルから選択され、R4は任意選択的に置換されていてもよいアリール又はヘテロアリールから選択され、R3及びR4はCaと一緒に多環式複合基を形成する。より好ましくは、この実施形態では、R3は任意選択的に置換されていてもよいC7~C15アラルキルであり、R4は任意選択的に置換されていてもよいC6~C15アリールであり、更に好ましくは、R3は任意選択的に置換されていてもよいC7~C11アラルキルであり、R4は任意選択的に置換されていてもよいC6~C10アリールである。
【0038】
したがって、式Iは、少なくとも1つの不安定水素原子R1、任意選択的なR2(水素の場合)、及び任意選択的なR7(R4が式IIに従う基である場合)を含む。
R2~R4のうちの1つ以上がアリール基であるか、Caに直接結合している不飽和炭素-炭素結合を含む式Iに従う安定剤の場合、Caに結合している不安定水素が失われると、Ca原子は直接結合しているアルケニル、アルキニル、又はアリール構造の存在により生じる分子内の共鳴効果の増加によって安定化されることができる。
【0039】
R4が式IIに従う基であり、したがってCaに隣接する炭素原子が不安定水素原子を含む式Iに従う安定剤の場合、水素移動反応が起こるためのエネルギー的な刺激は、隣接する炭素から2番目の水素原子が移動する後続のプロセスによって得ることができる。そのような安定剤は、隣接する炭素Cbから2番目の水素の喪失、及びその後のCaと隣接する炭素Cbとの間での二重結合の形成により、Ca炭素に不安定水素が移動した後により安定した構造をとることができる。
【0040】
R2~R4が脂肪族、アルキル、及び/又は脂環式基を含む場合、Caに結合している不安定水素が失われると、得られる中間体は、隣接する置換基の存在及び性質により生じ得る誘起電荷供与効果により安定化されることができる。これらの置換基は、それらの固有の電子豊富な又は分極可能な性質の結果として、そのような電荷供与誘起効果を与えることができる。
【0041】
「三級炭素」という用語は、他の3つの炭素原子に結合している炭素原子を意味する。「二級炭素」という用語は、他の2つの炭素原子に結合している炭素原子を意味する。
本明細書における脂肪族という用語は、直鎖、分岐鎖、又は環状であってもよく、また完全に飽和していてもよく、あるいは芳香族ではない1つ以上の不飽和単位を含んでいてもよい、炭化水素部位を意味する。「不飽和」という用語は、1つ以上の二重結合及び/又は三重結合を有する部位を意味する。したがって、「脂肪族」という用語は、アルキル、脂環式、アルケニル、又はアルキニル基を包含することが意図されている。脂肪族基は、好ましくは、1~30個の炭素原子、1~25個の炭素原子(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25個の炭素原子を有する脂肪族基)などの1~50個の炭素原子を含む。好ましくは、脂肪族基は、1~20個、1~17個、又は2~10個の炭素原子などの、1~25個の炭素原子を含む。
【0042】
アルキル基は、好ましくは1~50個の炭素原子を含む。アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルキル基は、好ましくは1~30個の炭素原子、1~25個の炭素原子(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25個の炭素原子を有するアルキル基)を含む。好ましくは、アルキル基は、1~20個、1~17個又は1~10個の炭素原子などの1~25個の炭素原子を含む。具体的には、アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、1-エチル-2-メチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチルなど、及びこれらの異性体が挙げられる。
【0043】
アルケニル基及びアルキニル基は、それぞれ好ましくは2~30個の炭素原子、2~25個の炭素原子、2~20個、2~17個、又は2~10個の炭素原子などの、2~50個の炭素原子を含む。そのような基は、2つ以上の炭素-炭素不飽和結合も含んでいてもよい。アルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
【0044】
脂環式基は、3~30個の炭素原子又は3~25個の炭素原子(すなわち3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25個の炭素原子を有する脂環式基)などの、3~50個の炭素原子を有する飽和又は部分的に不飽和の環状脂肪族単環式又は多環式(縮合、架橋、及びスピロ縮合を含む)の基であってもよい。好ましくは、脂環式基は、3~20個、より好ましくは3~17個、更に好ましくは3~12個、更に好ましくは3~10個の炭素原子、更に好ましくは3~6個の炭素原子を有する。「脂環式」という用語は、シクロアルキル、シクロアルケニル、及びシクロアルキニル基を包含する。脂環式基は、-CH2-シクロヘキシルなどの1以上の連結又は非連結アルキル置換基を有する脂環式環を含み得ることが理解されるであろう。具体的には、C3~20シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル、イソボルニル、及びシクロオクチルが挙げられる。
【0045】
アリール基は、6~30個の炭素原子、6~25個、6~20個、又は6~15個の炭素原子、又は6~10個の炭素原子などの6~12個の炭素原子などの、5~50個の炭素原子を有する単環式又は多環式の基である。アリール基は、好ましくは「C6~12アリール基」であり、6、7、8、9、10、11、又は12個の炭素原子で構成されるアリール基であり、単環式環基又は二環式環基などの縮合環基を含む。具体的には、「C6~10アリール基」の例としては、フェニル、ビフェニル、インデニル、ナフチル、又はアズレニルなどが挙げられる。インダンやテトラヒドロナフタレンなどの縮合環もアリール基に含まれることに留意すべきである。
【0046】
第1の部位と第2の部位などの2つ以上のタイプの部位を含む基、具体的には本明細書のアリール脂肪族、脂肪族アリール、アラルキル、及びアルカリールは、基が両方のタイプの部位を含むことを意味する。例えば、「アリール脂肪族」基は、アリール部位と脂肪族部位を含む。そのような基は、第1の名前の部位を介して、例えば「アリール脂肪族」についてはアリール部位を介して、Ca又はCbに結合しており、第2の名前の部位は第1の部位上の置換基であり、例えば「アリール脂肪族」については脂肪族基がアリール基上の置換基である。そのような基は、第2の部位による1つ以上の置換基を含んでいてもよく、例えば「アリール脂肪族」については、2つ以上の脂肪族置換基がアリール部位に存在していてもよい。念のために明記すると、脂肪族アリールという用語は、アリールで置換された脂肪族基を意味する。
【0047】
本発明の安定剤が1つ以上の単環式及び/又は多環式基を含む場合、前記環式基は1つ以上の脂環式及び/又は芳香族環を含んでいてもよい。前記基は、二環式又は三環式又は多環式であってもよい。念のために明記すると、Caは本発明の安定剤の環内に含まれる環原子であってもよい。
【0048】
ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、ヘテロ脂肪族アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、ヘテロアラルキル、ヘテロアルカリールなどにおける「ヘテロ」という用語の使用は、当該技術分野で周知である。ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、ヘテロ脂肪族アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロ脂環式、ヘテロアラルキル、ヘテロアルカリールは、1つ以上の炭素原子が該当する場合にはそれぞれ基の鎖及び/又は環においてヘテロ原子で置き換えられている、本明細書で定義の通りの脂肪族、アリール、アリール脂肪族、脂肪族アリール、アルキル、アルケニル、アルキニル、脂環式、アラルキル、アルカリール基を指す。ヘテロ原子は、硫黄、酸素、及び/又は窒素のうちの1つ以上であってもよい。
【0049】
ヘテロ原子は、安定剤の水素供与機能をなくさない任意の形態であってもよい。特に、Ca炭素に直接結合している原子以外の原子に結合している様々なヘテロ原子含有基が許容され得ることが見出された。濃硫酸の環境は、系内で安定剤を化学修飾し得ることが理解されるであろう。しかし、そのような安定剤も、修飾された安定剤が水素供与機能を保持する限り、依然として本発明の範囲内である。
【0050】
ヘテロ原子は、エーテル基;ヒドロキシル基(末端の場合);アミン又はアミド、より好ましくは環内の二級アミンなどの二級アミン;窒素、硫黄、及び酸素のヘテロ環;及び/又は少なくとも3個の硫黄原子を含むポリスルフィドなどの炭素骨格中のポリスルフィド基の形態であってもよい。通常、R2~R6は、炭素鎖中に、あるいは置換基のヒドロキシル、カルボニル、又はカルボキシル酸素として、全体で最大複数個のヘテロ原子を含んでいてもよく、より典型的には、カルボニル酸素置換基として存在する、あるいは炭素鎖又は炭素環に含まれておりそのため比較的不活性である最大4個のヘテロ原子、最も典型的には、1、2、又は3個のヘテロ原子を含んでいてもよい。最も好ましいものは、酸素及び窒素含有ヘテロ環、硫黄含有鎖、又はカルボニル置換基の酸素原子(好ましくはケトン基の形態)として存在するヘテロ原子である。そのようなヘテロ原子含有基は特に安定であることが分かっている。好ましくは、ヘテロ原子はCa原子に直接結合しておらず、より好適にはヘテロ原子は少なくとも2個の炭素原子によってCa原子から離されている。
【0051】
化学種のリストの先頭にある「任意選択的に置換されていてもよい」という用語は、リスト中の置換可能な全ての種が任意選択的に置換されていてもよいことが意図されている。つまり、リストに記載されている最初の種のみが任意選択的に置換されていてもよいことを意図するものではない。本明細書で使用される場合、任意選択的に置換されていてもよいという用語は、無置換であるか、又は適切な基で置換されていることを意味する。適切な基は当業者に公知であろう。通常、そのような基は、置換されている基又は置換されている基が結合しているより大きな部位の機能に重大な悪影響を及ぼさないであろう。いくつかの場合では、当業者は、置換される基の機能を置換基が改善することを期待するであろう。好ましくは、本明細書において置換される場合、任意選択的な置換基は、Ca又はCb炭素に直接結合している原子以外の原子に結合している原子上にある。好適な置換基は、例えば、-COOH、エステル-OC(O)R10又は-C(O)OR10、-C(O)R19、エーテル-OR15、エポキシド、ヒドロキシル、ボリル、ボロン酸又はエステル、チオール、スルホン酸、スルホン酸エステル、スルホニル、スルホキシド、スルフィネート、シリル、シリルエーテル、ニトリル、シアネート又はイソシアネート、ハライド、ニトロ、イミン、-NCR13R14、アミン、-R16OR17、アミド、-NR9C(O)R9又は-C(O)-NR9(R9)、ホスフィニル、ホスホン酸エステル(-P(O)(OR18)(OR8)又は-OP(O)R(OR18))又は酸(-P(O)(OH)(OH ))、リン酸エステル(-OP(O)(OR18)(OR8))、及びホスホリル(-P(O)R11R12)から選択することができる。
【0052】
基R8、R11、R12、R13、R14、R18、及びR19は、上で定義した水素、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基であってもよい。特定の実施形態では、R8、R11
、R12、R13、R14、R18、及びR19は、それぞれ無置換の脂肪族、脂環式、又はアリールである。好ましくは、R8、R11
、R12、R13、R14、R18、及びR19は、それぞれ水素、メチル、エチル、プロピル、又はフェニルである。
【0053】
アミド基は好ましくは-NR9C(O)R9又は-C(O)-NR9(R9)であり、R9は、上で定義した水素、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基であってもよい。特定の実施形態では、R9は無置換の脂肪族、脂環式、又はアリールである。好ましくは、R9は、水素、メチル、エチル、プロピル、又はフェニルである。アミド基は、水素、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基によって終端していてもよい。
【0054】
エステル基は、好ましくは-OC(O)R10又は-C(O)OR10であり、式中のR10は、上で定義した水素、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基であってもよい。特定の実施形態では、R10は無置換の脂肪族、脂環式、又はアリールである。好ましくは、R10は、水素、メチル、エチル、プロピル、又はフェニルである。エステル基は、水素、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基によって終端していてもよい。
【0055】
エーテル基は、好ましくは-OR15又は-R16OR17であり、式中のR15、R16、及びR17は、上で定義した脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基であってもよい。特定の実施形態では、R15、R16、及びR17は、それぞれ無置換の脂肪族、脂環式、又はアリールである。好ましくは、R15、R16、及びR17は、それぞれメチル、エチル、プロピル、又はフェニルである。エーテル基は、水素、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、アリール、又はヘテロアリール基によって終端していてもよい。
【0056】
本明細書の脂肪族、アリール、アリール脂肪族、脂肪族アリール、ヘテロ脂肪族、ヘテロアリール、ヘテロアリール脂肪族、及びヘテロ脂肪族アリール基は、カルボニル基(好ましくはケトン基の形態)又はヒドロキシル基で任意選択的に置換されていてもよい。特に、式I及び/又は式IIの基。念のために明記すると、カルボニル基の炭素、又はヘテロ原子は、R2~R6の末端として表される場合、複合構造中の結合原子であってもよい。本発明の安定剤は、濃硫酸媒体中の条件下で不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与することができる、2つ以上の炭素に結合している不安定水素原子を含んでいてもよい。例えば、トコフェロールは、二環式構造中の炭素に結合している不安定水素原子と、二環式構造に結合している分岐脂肪族鎖中の炭素に結合している複数の不安定水素原子とを含む。好適には、安定剤は、炭素に結合している1~15個の不安定水素原子、又は炭素に結合している1~10個の不安定水素原子、又は炭素に結合している1~6個の不安定水素原子などの、濃硫酸媒体中の条件下で不安定水素原子と反応できるメタクリルアミド誘導体に供与することができる、炭素に結合している1~20個の不安定水素原子を含む。安定剤は、炭素に結合している3~20個の不安定水素原子、又は炭素に結合している4~20個若しくは5~20個の不安定水素原子などの、炭素に結合している2~20個の不安定水素原子を含んでいてもよい。本発明の好ましい実施形態では、安定剤は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個の不安定水素原子を含む。本発明の別の好ましい実施形態では、安定剤は、三級炭素に結合している不安定水素を含んでいてもよい。1つ以上のそのような不安定水素、例えば三級炭素に結合している少なくとも1、2、3、4、5、又は6個などの1~6個の不安定水素が存在していてもよい。
【0057】
したがって、式Iにおいて、置換基R2~R6は、それ自体が1つ以上の更なる不安定水素を含んでいてもよい。
好適には、安定剤は、少なくとも10個の炭素及び/又は硫黄原子、好ましくは少なくとも10個の炭素原子などの、少なくとも9個の炭素及び/又は硫黄原子、好ましくは少なくとも9個の炭素原子を含む。安定剤は、最大50個の炭素原子、最大40個の炭素原子、最大30個の炭素原子、及び特には最大20個の炭素原子を含んでいてもよい。
【0058】
式Iに従う本発明の安定剤は、2つ以上の配座異性体を有する化合物の全ての配座異性体を含んでいてもよい。
本発明の安定剤は、天然物であっても天然物から抽出されたものであってもよく、その1つの例はトコフェロールとしても知られるビタミンEである。
【0059】
本発明の方法は、好ましくは式Iに従う1種以上の安定剤による、2種以上の安定剤を含んでいてもよい。本発明の安定剤は、本発明による安定剤ではない化合物を含有する混合物中の成分であってもよい。
【0060】
本発明の安定剤は、スクアラン(別名ペルヒドロスクアレン;2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン;スピナカン;及びドデカヒドロスクアラン)などのイソプレノイド;9,10-ジヒドロアントラセン;アダマンタン;tert-ドデシルポリスルフィド;テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン);フルオレン(α-ジフェニレンメタン);デカリン;及び5,12-ジヒドロテトラセン;ジヒドロクマリン;アントロン;スクアレン;ヘミスクアラン;ショウノウ;4-メチルノナン、トリアコンタン;ビタミンE(トコフェロールとも呼ばれ、4つの光学異性体全てを含む);ビシクロヘキシル;石油ディーゼル(別名ペトロディーゼル、自動車燃料);ブチルシクロヘキサン;及びデカンからなる群のうちの1つ以上から選択されてもよい。石油ディーゼルは、C10~C15炭化水素の混合物から形成されていてもよく、また約75重量%のn-、iso-、及び/又は環状炭化水素(これらは飽和であっても不飽和であってもよく、分岐を含んでいてもよい)と約25重量%の芳香族炭化水素とから構成されていてもよく、ここでの「約」は、+/-25%として定義することができる。石油ディーゼル混合物の平均化学式は、C12H23などの、C10H20からC15H28の間であってもよい。
【0061】
好ましくは、安定剤は、9,10-ジヒドロアントラセン;スクワラン;アントロン;ヘミスクアラン;ショウノウ;4-メチルノナン;トコフェロール;石油ディーゼル;デカン、及びtert-ドデシルポリスルフィドからなる群のうちの1つ以上から選択される。
【0062】
本発明の方法は、任意の適切な量の安定剤を含んでいてもよい。反応混合物中の安定剤の量の上限は、反応混合物中で溶媒和できる量であるとみなすことができる。好適には、安定剤は、0.01重量%又は0.03重量%以上などの0.005重量%以上の量で反応混合物中に存在する。
【0063】
本発明において、前記不安定水素原子と反応することができるメタクリルアミド誘導体は、少なくとも1つの不対価電子を有する少なくとも1つの原子を有するメタクリルアミド誘導体と定義することができる。メタクリルアミド誘導体は、メタクリルアミドのラジカル;又はメタクリルアミド又はその加水分解生成物であるメタクリル酸から形成される種、例えばメタクリルアミド又はメタクリル酸から誘導される二量体、オリゴマー、又はポリマーであってもよい。メタクリルアミドから形成される前記種は、スルホネート基及び/又はスルフェート基のうちの1つ以上で置換された、メタクリルアミド又はメタクリルアミド含有二量体、オリゴマー又はポリマーであってもよい。
【0064】
複合基という用語は、それぞれのR基間に少なくとも1つの直接結合を有する基として定義することができ、典型的には、前記結合を形成するそれぞれの各原子から水素原子が結果として失われる。念のために明記すると、直接結合は、基がCaに結合している場合の基の間で形成される間接結合に付加される。
【0065】
複合基のヘテロ原子は、エーテル基;ヒドロキシル基(置換基の場合);アミン又はアミド、より好ましくは、環内の二級アミンなどの二級アミン;窒素、硫黄、及び酸素のヘテロ環;及び/又は少なくとも3個の硫黄原子を含むポリスルフィドなどの炭素骨格中のポリスルフィド基の形態であってもよい。例えば、ヘテロアルキルR基上の酸素原子は、酸素が複合基の中に挟まれるヘテロ原子であるようにアリールR基の炭素原子に直接結合していてもよい。したがって、そのような基は、エーテル基、又はアミノ基、カルボニル基、カルボキシル基の形態のヘテロ原子が挟まれている複合基の形態であってもよい。
【0066】
最も好ましいものは、酸素及び窒素含有ヘテロ環、硫黄含有鎖、又はカルボニル置換基酸素原子として存在する複合基のヘテロ原子である。そのようなヘテロ原子含有基は、特に安定であることが分かっている。好ましくは、ヘテロ原子はCa原子に直接結合しておらず、より好適には、ヘテロ原子は少なくとも2個の炭素原子によってCa原子から離されている。
【0067】
ACHプロセスのアミド段階の化学環境は、濃硫酸溶媒、高温、比較的長い滞留時間、及び溶存酸素の不存在の結果として強酸性かつ非水性であることから、MMA及びMAAを形成するために使用されるプロセスの中でも独特である。アクリルモノマーの重合に対して有効な他の市販の抑制剤化合物の群は、ACHプロセスの条件下では適切ではないことが分かっている。共阻害剤として作用する酸素が存在しないこと、及び/又は不可逆的な化学的分解及び/又は化学的不活性が起こることが分かっている。
【0068】
有利なことには、本発明の安定剤はタール蓄積の低減を達成し、それにより反応容器、プロセス装置、配管、スプレーガン、又は他の部品の閉塞を低減することが驚くべきことに見出された。一般的には、炭化水素族は比較的反応性が低いと理解されている。そのため、本発明の安定剤がACHプロセスのアミド段階で見られる困難な条件で安定剤として特に効果的であることは、驚くべきことである。
【0069】
更に有利なことには、本発明の安定剤は、ACHプロセス中に存在する他の成分との重大な望ましくない副反応に関与することは見出されておらず、プロセスの生成物が新しい微量不純物で汚染されたり、反応混合物を発泡させたり、プロセス装置に腐食やその他の損傷を生じさせたりするような形で分解することも見出されていない。
【0070】
本発明の安定剤を構成する化合物の多くは比較的安価かつ自由に入手可能であり、いくつかの場合には、石油精製のプロセス流として存在する炭化水素の複雑な混合物の成分である。そのため、安定剤はコスト効率に優れている。更に、安定剤は複数の製造業者/供給業者から入手できるため、その後の運用のためのサプライチェーンは比較的信頼性が高い。
【0071】
本発明の方法では、安定剤は、典型的には他の成分と十分に混合できるように反応媒体の中に導入される。
好ましくは、安定剤は、液体又は溶液の形態でプロセスに添加される。これにより、例えば計量ポンプを使用することにより、比較的少ない流量の安定剤を単純かつ正確に添加することができる。
【0072】
反応容器内の安定剤の完全な混合は、供給流の1つの成分としての添加、激しく撹拌されている反応媒体への別個の添加、又は他の添加されるプロセス流のうちの1つの導入を促進するために使用されるインラインスタティックミキサーにより、達成することができる。アミド段階の容器内の液体は、典型的には本質的に乱流であることから、比較的短期間で反応媒体容器中で十分に混合されるように全ての流れを入れることは比較的容易である。
【0073】
本発明を理解し易くするために、及びその実施形態がどのように実施できるかを示すために、例として以降の実験データを参照する。
【実施例】
【0074】
メタクリル酸モノマーへのACHルートのアミド段階に対する本発明による様々な安定剤化合物の有効性を、160℃の温度へ30分間暴露した後に残存するMAMの濃度を観察することによって測定した。
【0075】
試験した全ての本発明及び比較の化合物の完全なリスト、及び結果については、表1を参照のこと。
化合物の有効性を測定するために、これらは、重硫酸(D2SO4)中にメタクリルアミド(1重量%)と安定剤化合物(0.1重量%)が入っている溶液を調製することによってそれぞれ試験した。実際にはメタクリレートモノマーへのACHルートのアミドプロセス工程は不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で行われるため、水分及び酸素の取り込みを排除するために、窒素が充填されているグローブボックス中で取扱作業を行った。その後、直径5mmの高圧nmr管8本に溶液を入れてから、気密性のスクリューキャップをしっかりと取り付けて管を密封した。管を窒素雰囲気から出し、オイルの温度を160℃に設定したオイルバスの中に7本を入れた。6本の管を60分間かけて10分間隔で1回に1本ずつ取り出し、その後90分で最後の7本目の管を取り出し、それぞれ取り出し後すぐに周囲温度の水に浸漬することによって冷却し、様々な時間160℃の温度に暴露した一連の溶液を生成した。1Hnmrスペクトルは、溶液を空気に触れさせないまま、周囲温度の管で直接収集した。メタクリルアミドによるピークを分解及び積算することができた。この方法で実験を行うことにより、各候補化合物の時間に対するメタクリルアミドの分解の程度を示すグラフを作成することができた。候補化合物の有効性を比較する手段として30分時点での値を選択する前に、グラフを構成する点が規則的な曲線パターンを示した場合に、これをデータの品質が良好である指標とみなした。表1に示すように、結果を比較例1(安定剤なし)及び2(周知の従来技術の安定剤PTZ)と比較することにより、それぞれの安定剤の有効性を示すことができる。
【0076】
【0077】
【0078】
比較例1では、MAMは濃硫酸の存在下で分解し、それがタール蓄積の原因になることが示されている。本発明による実施例は、公知の安定剤PTZよりも優れた安定剤の利点を示している。
【0079】
本出願に関連して本明細書と同時に若しくはそれ以前に提出された、及び本明細書と共に公衆の閲覧に付された全ての論文及び文書に注意が向けられ、全てのそのような論文及び文書の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0080】
本明細書(添付の請求項、要約、及び図面を含む)に開示の全ての特徴、及び/又はそのように開示される任意の方法若しくはプロセスの全ての工程は、そのような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかが相互に排他的である場合の組み合わせを除いては、任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【0081】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示の各特徴は、別段の明記がない限り、同じ、同等の、又は類似の目的に役立つ代替の特徴に置き換えることができる。したがって、特段の明記がない限り、開示されている各特徴は、一般的な一連の同等の又は類似の特徴の1つの例にすぎない。
【0082】
本発明は、前述した実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示の特徴のうちの任意の新規なもの若しくは任意の新規な組み合わせ、又はそのように開示されている任意の方法又はプロセスの工程のうちの任意の新規なもの若しくは任意の新規な組み合わせにまで及ぶ。