(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ASPERGILLUS NIGERにおけるフィターゼの発現
(51)【国際特許分類】
C07K 14/38 20060101AFI20221018BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20221018BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20221018BHJP
C12N 9/26 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C07K14/38 ZNA
C12N15/55
C12N9/16 B
C12N9/26 A
(21)【出願番号】P 2019553458
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 CN2018081272
(87)【国際公開番号】W WO2018177402
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】201710203473.5
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710741963.0
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518303697
【氏名又は名称】南京百斯杰生物工程有限公司
【氏名又は名称原語表記】NANJING BESTZYME BIO-ENGINEERING CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 4120, Building 1, 28 Yongxi Road, Science Park, Jiangning, Nanjing, Jiangsu, 211100
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイ,アイシ
(72)【発明者】
【氏名】リ,フェン
(72)【発明者】
【氏名】ビアン,フーロン
(72)【発明者】
【氏名】シュ,ジドン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ホン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-503150(JP,A)
【文献】国際公開第2004/050695(WO,A2)
【文献】国際公開第2003/057247(WO,A1)
【文献】特表2003-531574(JP,A)
【文献】特開2010-183885(JP,A)
【文献】特表2012-524530(JP,A)
【文献】特開昭62-272988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aspergillus nigerから選択される糸状菌において
配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するためのシグナルペプチドであって、前記シグナルペプチドが、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼに由来するものであり、配列番号13に示されるアミノ酸配列を有する、前記シグナルペプチド。
【請求項2】
配列番号12に示されるヌクレオチド配列
によってコードされる、請求項1に記載の、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するためのシグナルペプチド。
【請求項3】
前記Escherichia coliのフィターゼの変異体が、配列番号15または配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する、請求項
1に記載の、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するためのシグナルペプチド。
【請求項4】
前記Escherichia coliのフィターゼまたはその変異体をコードするDNA配列が、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号8に示されるヌクレオチド配列に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の
同一性を有し、かつフィターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項1に記載の、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するためのシグナルペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学の分野に関すると共に、グラム陰性細菌に由来するフィターゼ(特にEscherichia coliのフィターゼ)を糸状菌(特にAspergillus niger)において高効率で発現させることに関する。
【背景技術】
【0002】
フィターゼ(すなわち、ミオイノシトール六リン酸ホスホヒドロラーゼ)は、オルトリン酸モノエステルホスホヒドロラーゼであり、オルトリン酸モノエステルホスホヒドロラーゼは、フィチン酸を加水分解することで低分子化イノシトールリン酸誘導体及び無機リン酸の生成を触媒する。場合によっては、フィチン酸は、加水分解を受けて遊離のイノシトールに変換され得る。フィチン酸は、作物(穀物、マメ、及び油料作物など)の種子に最も豊富に含まれており、最大で1%~3%の量で存在し、植物におけるリンの総含有量の60%~80%を占める。しかしながら、フィチン酸中のリンは、直接的に吸収及び利用できないものであり、消化管において加水分解を受けて無機リン酸に変換される必要がある。単胃動物(例えば、ブタ、ニワトリ、アヒル、及びガチョウなど)は、フィターゼを有していないため、フィチン酸中のリンの利用度が低いことが研究によって示されている。また、フィチン酸は、電気陰性度が高いことから、二価陽イオンまたは三価陽イオン(Ca2+、Zn2+、及びFe2++など)と共に不溶性の塩を形成し、これによって小腸におけるミネラルの吸収が妨げられる。フィチン酸は、タンパク質、アミノ酸、及び脂肪酸と複合体を形成し、これによってもフィチン酸の吸収及び利用に影響が及ぶ。フィチン酸は、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、及び他のものに結合して消化酵素の活性も低減する。したがって、単胃動物のための飼料にフィターゼを添加することで、飼料におけるリンの利用度を向上させ、動物の排泄物中のリン含有量を低減し、タンパク質及び飼料のエネルギー利用率を向上させることができる。
【0003】
市販のフィターゼは、主に、Aspergillus niger(US5436156に記載されるようなもの)、Escherichia coli(US7432098に記載されるようなもの)、Citrobacter genus(US20100261259に記載のCitrobacter braakii株など)、及びBrucella(US8143046に記載のButtiauxellaの1種など)などに由来する。こうしたフィターゼは、その起源が異なることから、酸及び熱に対する抵抗性が異なる。Nielsen et al.(J Agric Food Chem.2015,63(3):943-50)は、市販のフィターゼの能力を比較し、Escherichia coliのフィターゼの能力が最も高いことを示した。Escherichia coliの市販フィターゼ製品は、すべて酵母(分裂酵母及びPichia pastorisなど)において発現されており、中国市場に存在するフィターゼ製品のほとんどがPichia pastorisによって生産される。フィターゼが使用される分野が主に飼料及び食品の分野であることに加えて、Pichia pastorisにおけるタンパク質の発現時には、タンパク質発現を誘導するための炭素源としてPichia pastorisがメタノールを使用する必要があるため、原料としてのメタノールを市販のフィターゼから完全に除去することは困難であり、それによって潜在的な安全上の危険が生じる。さらに、メタノールは、可燃性かつ爆発性の性質を有することから、輸送及び生産の間、特別な安全保護が必要であり、このことによって生産コストの上昇を招いている。さらに、生産環境にかかる要件が厳しくなる上に、生産従事者には、ある特定の潜在的危険性がつきまとう。したがって、食品及び飼料の添加物の生産にPichia pastorisを使用することは好ましくない。糸状菌は、有用な製品(酵素など)を生産するための細胞工場としてよく知られている。その中で、Aspergillus ni
ger及びAspergillus oryzaeは、それらが「一般に安全と認められる(Generally Recognized As Safe)(GRAS)」特性を有することから、発現宿主として広く使用される。発酵プロセス中に毒性物質が全く生じない上に、発酵のための原料は、すべて穀類及びその副産物(大豆ミール、コーンシロップなど)である。したがって、酵素を生産するための産業では、Aspergillus niger及びAspergillus oryzaeが、より好ましい。グラム陰性細菌に由来するフィターゼを発現させるためにAspergillus nigerを使用することは困難であることが研究によって明らかとなっている。例えば、US20100261259では、Citrobacter braakii(グラム陰性細菌)のフィターゼを発現させるためにAspergillus oryzae、Aspergillus niger、及び酵母を使用することについて記載されている。この結果では、Aspergillus oryzae及び酵母ではフィターゼが十分に分泌及び発現し得るが、Aspergillus nigerではフィターゼがほとんど発現し得ないことが示されている。上記のように、グラム陰性細菌(Escherichia coli)に由来するフィターゼ及びその変異体は優れた特性を有しており、したがって、GRASであるAspergillus nigerにおける発現が期待される。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するシグナルペプチドを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異体をコードするコドン最適化遺伝子を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するための方法を提供することである。
【0008】
本発明のこれらの目的は、下記の技術的解決法を介して達成することができる:
【0009】
1つの態様では、本発明は、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するためのシグナルペプチドを提供し、シグナルペプチドは、配列番号13に示されるアミノ酸配列を有する、Aspergillus
oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドから選択される。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、シグナルペプチドのヌクレオチド配列は、配列番号12に示されるものである。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、糸状菌は、Aspergillus nigerから選択される。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、Escherichia coliのフィターゼは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。
【0013】
本発明の別の実施形態では、Escherichia coliのフィターゼの変異体は、配列番号15または配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する。
【0014】
別の態様では、本発明は、Escherichia coliのフィターゼまたはその
変異体をコードするコドン最適化遺伝子を提供し、当該コドン最適化遺伝子は、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号7に示されるヌクレオチド配列に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有し、かつフィターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。
【0015】
本発明の1つの実施形態では、Escherichia coliのフィターゼは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。
【0016】
本発明の別の実施形態では、Escherichia coliのフィターゼの変異体は、配列番号15または配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列を提供し、当該コドン最適化DNA配列は、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号8に示されるヌクレオチド配列に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有し、かつフィターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列は、配列番号14に示されるものである。
【0019】
本発明の別の実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列は、配列番号16に示されるものである。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、糸状菌においてEscherichia coliのフィターゼまたはその変異体の分泌発現を増進するための方法を提供する。この方法は、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドを、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするDNA配列に連結すること、及び当該配列を含む発現カセットを、発現のための糸状菌に挿入すること、を含み、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのヌクレオチド配列は、配列番号12に示されるものである。
【0021】
本発明の1つの実施形態では、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのアミノ酸配列は、配列番号13に示されるものである。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、糸状菌は、Aspergillus nigerから選択される。
【0023】
本発明の1つの実施形態では、Escherichia coliのフィターゼは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、Escherichia coliのフィターゼの変異体は、配列番号15または配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするDNA配列は、コドンが最適化されたものではない。
【0025】
本発明の別の実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするDNA配列は、コドンが最適化されたものである。
【0026】
本発明の別の実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列は、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号8に示されるヌクレオチド配列に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の相同性を有し、かつフィターゼ活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列は、配列番号14に示されるものである。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列は、配列番号16に示されるものである。
【0029】
Escherichia coliのフィターゼをコードする遺伝子を含む発現カセット、組換え発現ベクター、組換え株、トランスジェニック細胞株、または組換え株も提供される。
【0030】
Escherichia coliのフィターゼの発現カセットを構築するためには、特定のプロモーター、ターミネーター、シグナルペプチド配列、及び制御配列(例えば、5’UTR、3’UTR、及び同様のもの)が必要である。
【0031】
プロモーターは、Aspergillus nigerに由来する内在性プロモーター(Aspergillus nigerに由来するグリコシラーゼ遺伝子プロモーター、中性アミラーゼ遺伝子プロモーター、酸性アミラーゼ遺伝子プロモーター、及びα-グルコシダーゼ遺伝子プロモーターなど)、または外来性プロモーター(Aspergillus oryzaeに由来する中性アミラーゼ遺伝子プロモーター、Rhizopus oryzaeに由来するグリコシラーゼ遺伝子プロモーターなど)、またはプロモーター変異体(Aspergillus nigerの中性アミラーゼ遺伝子プロモーター変異体など)であり得る。本発明では、Aspergillus nigerのグリコシラーゼ遺伝子プロモーター、またはAspergillus nigerの中性アミラーゼ遺伝子プロモーター変異体が好ましい。
【0032】
プロモーターの3’末端には制御配列を連結することができ、こうした制御配列は、例えば、適切なリーダー配列(5’UTR)(すなわち、宿主細胞における翻訳に重要なmRNAの非翻訳領域)(Aspergillus oryzaeの中性アミラーゼのリーダー配列及びAspergillus nidulansのトリオース-リン酸イソメラーゼのリーダー配列など)である。
【0033】
特定のタンパク質の分泌発現にはシグナルペプチド配列が必要であり、本発明では、Escherichia coliのフィターゼ向けのものとして、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドが好ましい。
【0034】
ターミネーターは、Aspergillus nigerのグリコシラーゼ遺伝子、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼ遺伝子、Aspergillus nidulansのアントラニル酸シンターゼ遺伝子、Aspergillus nigerアルファ-グルコシダーゼ遺伝子、及びFusarium oxysporumのトリプシン様プロテアーゼ遺伝子から得られるものが好ましい。
【0035】
プロモーター、制御配列、シグナルペプチド配列、及びターミネーターに特定の遺伝子を連結することで発現カセットが形成される。発現カセットは、通常の方法によってAspergillus nigerのゲノムに挿入することができ、ゲノムに無作為に挿入するか、または1つもしくは複数の遺伝子座に組込むことができる。任意選択の遺伝子座には、gla(グリコシラーゼ)、amya(中性アミラーゼ)、amyb(中性アミラーゼ)、aa(酸性アミラーゼ)、agda(アルファグルコシダーゼ)、及びagdb(アルファグルコシダーゼ)が含まれる。
【0036】
発現カセットは、好ましくは、1つまたは複数の選択可能マーカーと連結することができ、こうした選択可能マーカーによって、形質転換、遺伝子導入、及び形質導入されている細胞または株を簡単に選択することが可能になる。選択可能マーカーは、殺生物性またはウイルス抵抗性、重金属に対する抵抗性、栄養要求株に対する原栄養性、及び同様のものが、その産物によって付与される遺伝子である。糸状菌宿主細胞のための選択可能マーカーには、限定はされないが、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、bar(ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ)、hyg(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)、niaD(硝酸還元酵素)、pyrG(オロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼ)、sC(硫酸アデニリルトランスフェラーゼ)、及びtrpC(アントラニル酸シンターゼ)、ならびにそれらの同等物が含まれる。Aspergillus細胞において使用するには、Aspergillus nidulansまたはAspergillus oryzaeのamdS及びhygが好ましい。
【0037】
発現カセットは、好ましくは、1つまたは複数の対抗選択可能マーカー(負選択マーカー)に連結される。糸状菌宿主細胞のための選択可能マーカーには、限定はされないが、amdS(アセトアミダーゼ)、pyrG(オロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼ)、及びhsvTK(単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ)が含まれる。
【0038】
組換え発現ベクターは、Escherichia coliのフィターゼ遺伝子または当該遺伝子を含む発現カセットを発現ベクターに挿入することによって得られる。
【0039】
組換え株は、組換え発現ベクターを目的の宿主株に導入することによって得られ、目的の宿主株は、好ましくは、Aspergillus nigerである。
【0040】
Escherichia coliのフィターゼの発現レベルの向上においてEscherichia coliのフィターゼ遺伝子を使用することが示される。
【0041】
Escherichia coliのフィターゼの発現レベルの向上において発現カセット、組換え発現ベクター、及び組換え株を使用することも示される。
【0042】
Escherichia coliのフィターゼを生産するための方法が提供され、この方法は、トランスジェニック組換え株の発酵及び培養によってEscherichia
coliのフィターゼを得ることを含む。
【0043】
本発明では、DNA断片をAspergillus nigerに導入するための方法は、当該技術分野の通常の方法である。
【0044】
コドン最適化は、利用頻度が低いコドンまたは希少なコドンの代わりに好ましいコドンを使用することによって遺伝子を再設計することを指す。コドン最適化の詳細な説明については、Joshua B.Plotkin and Grzegorz Kudlaの
文献(Nat Rev Genet.2011;12(1):32-42.)を参照のこと。コドン最適化は、異種発現系において広く使用されている。
【0045】
本発明の有利な効果:
本発明者らは、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異体をコードする遺伝子については、コドンを最適化した後に人工遺伝子を合成し、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドと連結した後に、構築した発現カセットを、発現のためのAspergillus nigerに導入することが好ましい。このようにして、分泌及び発現したフィターゼを培養上清に大量に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】pHphtkプラスミドのマッピングである。
【
図2】pGla-Phy-Phyプラスミドのマッピングである。
【
図3】pGla-Gla-Phyプラスミドのマッピングである。
【
図4】pGla-Amy-Phyプラスミドのマッピングである。
【
図5】pGla-Phy-PhyOPTプラスミドのマッピングである。
【
図6】pGla-Gla-PhyOPTプラスミドのマッピングである。
【
図7】pGla-Amy-PhyOPTプラスミドのマッピングである。
【
図8】pGla-Amy-PhyM1プラスミドのマッピングである。
【
図9】pGla-Amy-PhyM2プラスミドのマッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
実施例1:pHphtkプラスミドの構築
プラスミドは、下記の3つの部分を含み、Nanjing Kingsray Biotechnology Co.,Ltd.によって構築されたものであり、このプラスミドのマッピングは
図1に示される。
(1)pUC57プラスミドをXbaI-PciIで二重消化することによって得られた2305bpの断片、
(2)配列番号18に示される配列を有するhph遺伝子発現カセット、及び
(3)配列番号19に示される配列を有するHSV-tk発現カセット。
【0048】
実施例2:さまざまなシグナルペプチドによってガイドされるEscherichia coliのフィターゼが組込まれたプラスミドの構築
Escherichia coliのフィターゼの発現カセットを、発現のためのAspergillus nigerのグリコシラーゼ遺伝子座に組込み、ここでは、グリコシラーゼのプロモーター及びグリコシラーゼのターミネーターを使用した。pGla-Phy-Phyプラスミド、pGla-Gla-Phyプラスミド、及びpGla-Amy-Phyプラスミドをそれぞれ構築した。Escherichia coliの野生型フィターゼ成熟ペプチドをコードするDNA配列Phy(配列番号3)に対してさまざまなシグナルペプチド配列(Escherichia coliのフィターゼのシグナルペプチド(配列番号5)、Aspergillus nigerのグリコシラーゼのシグナルペプチド(配列番号10)、及びAspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチド(配列番号12)を含む)をそれぞれ連結した後、Aspergillus nigerのグリコシラーゼ遺伝子の置換に使用した。Escherichia coli ATCC8739に由来するフィターゼ成熟ペプチドをコードするDNA配列Phy(配列番号3)は、Nanjing Kingsray Biotech
Co.,Ltd.によって合成されたものであり、PhyシグナルペプチドのDNA配列は、Nanjing Kingsray Biotech Co.,Ltd.によって合成されたものであり、Aspergillus nigerのグリコシラーゼのシグナ
ルペプチド(配列番号10)及びAspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチド(配列番号12)は、プライマーを使用してPCRによってPhy配列に導入した。組込みプラスミドは、下記のように構築した。ベクター-Fプライマー及びベクター-RプライマーによってpHphtkプラスミドを直鎖化した。Aspergillus nigerのゲノム(受入番号CICC2462としてChina Center of Industrial Culture Collectionから入手したもの)をテンプレートとして使用し、Gla-5’-F及びGla-5’-RならびにGla-3’-F及びGla-3’-Rをそれぞれ使用することで、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接配列及び3’隣接配列を増幅し、その際、それぞれの断片の長さを2000bpとした。Phy-Phy-F及びPhy-Phy-Rを使用してEscherichia coliの野生型フィターゼ配列Phy(配列番号1)を増幅した。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにPhy断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kit(E2611,New England Biolabs)によって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-PepWTを得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図2に示される。Gla-Phy-F及びPhy-Phy-Rをプライマーとして使用し、Phy断片(配列番号1)をテンプレートとし使用することで、PCR増幅によってGla-Phy断片を得た。この断片には、Aspergillus nigerのグリコシラーゼのシグナルペプチド配列が導入されている。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにGla-Phy断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kitによって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-Gla-Phyを得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図3に示される。アミラーゼ-Phy-F及びPhy-Phy-Rをプライマーとして使用し、Phy断片(配列番号1)をテンプレートとして使用することで、PCR増幅によってアミラーゼ-Phy断片を得た。この断片には、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチド配列が導入されている。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにアミラーゼ-Phy断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kitによって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-Amy-Phyを得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図4に示される。グリコシラーゼ遺伝子の5’末端隣接DNA配列(2kb)は、配列番号20に示され、3’末端隣接DNA配列(2kb)は、配列番号21に示される。Phy-Phy、Gla-Phy、及びAmy-Phyは、それぞれ配列番号22、配列番号23、及び配列番号24に示される。
関連プライマー配列は、以下に記載される:
【表1】
【0049】
実施例3:Escherichia coliのコドン最適化フィターゼ組込みプラスミドの構築
pGla-Phy-PhyOPTプラスミド、pGla-Gla-PhyOPTプラスミド、及びpGla-Amy-PhyOPTプラスミドをそれぞれ構築した。Escherichia coliのコドン最適化フィターゼ配列PhyOPT(配列番号8)に対してさまざまなシグナルペプチド配列(Escherichia coliのフィターゼのシグナルペプチド、Aspergillus nigerのグリコシラーゼのシグナルペプチド、及びAspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドを含む)をそれぞれ連結した後、Aspergillus nigerのグリコシラーゼ遺伝子の置換に使用した。Escherichia coli ATCC8739に由来するフィターゼ配列のコドンを最適化して配列番号8に示される配列とした。この配列は、Nanjing Kingsray Biotechnology Co.,Ltdによって合成されたものである。同様に、Phyシグナルペプチドを最適化して配列番号9に示される配列とした。組込みプラスミドは、下記のように構築した。ベクター-Fプライマー及びベクター-RプライマーによってpHphtkプラスミドを直鎖化した。Aspergillus nigerのゲノム(受入番号CICC2462としてChina Center of Industrial Culture Collectionから入手可能なもの)をテンプレートとして使用し、Gla-5’-F及びGla-5’-RならびにGla-3’-F及びGla-3’-Rをそれぞれ使用することで、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接配列及び3’隣接配列を増幅し、その際、それぞれの断片の長さを2000bpとした。Escherichia coliの最適化フィターゼ配列PhyOPTを、Phy-PhyOPT-F及びPhy-PhyOPT-R(当該プライマーには、最適化Phyシグナルペプチド配列が導入されている)を使用して増幅した。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにPhy断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kit(E2611,New England Biolabs)によって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-Phy-PhyOPTを得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図5に示される。Gla-PhyOPT-F及びPhy-PhyOPT-Rをプライマーとして使用し、PhyOPT断片をテンプレートとして使用することで、PCR増幅によってGla-PhyOPT断片を得た。この断片には、Aspergill
us nigerのグリコシラーゼのシグナルペプチド配列が導入されている。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにGla-PhyOPT断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kitによって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-Gla-Phyを得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図6に示される。アミラーゼ-PhyOPT-F及びPhy-PhyOPT-Rをプライマーとして使用し、PhyOPT断片をテンプレートとして使用することで、PCR増幅によってアミラーゼ-PhyOPT断片を得た。この断片には、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチド配列が導入されている。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにアミラーゼ-PhyOPT断片をGibson
Assembly(登録商標)Master Mix Kitによって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-アミラーゼ-PhyOPTを得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図7に示される。グリコシラーゼ遺伝子の5’末端隣接DNA配列(2kb)は、配列番号20に示され、3’末端隣接DNA配列(2kb)は、配列番号21に示される。Phy-PhyOPT発現カセット、Gla-PhyOPT発現カセット、及びAmy-PhyOPT発現カセットの配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、及び配列番号27に示される。
関連プライマー配列は、以下に記載される:
【表2】
【0050】
実施例4:Escherichia coliのコドン最適化フィターゼ変異体組込みプラスミドの構築
US7432098では、Escherichia coliのフィターゼ変異体であるNOV9Xが、良好な耐熱性を有しており、飼料の分野において使用する上で、より適したものであることが記載されている。NOV9Xは、本発明のEscherichia
coliのフィターゼと比較して、アミノ酸変異を9つ有する。Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼシグナルのガイド下でNOV9Xが効率的に発現し得るかどうかを検証するために、PhyOPTに17塩基の変異を導入してNOV9XのDNA配列を得た。このDNA配列は、配列番号14に示される。NOV9Xは、Escherichia coliのフィターゼ成熟ペプチドのコドン最適化DNA配列(配
列番号8)に対して98.6%の配列同一性を有する。NOV9Xは、Nanjing Kingsray Biotechnology Co.,Ltd.によって合成されたものであり、NOV9Xによってコードされる成熟ペプチド配列は、配列番号15に示される。43塩基の変異をNOV9Xにさらに導入してNOV9XMを形成させた。NOV9XMは、配列番号16に示されており、Escherichia coliのフィターゼ成熟ペプチドをコードするコドン最適化DNA配列(配列番号8)に対して95.9%の配列同一性を有する。NOV9XMは、Nanjing Kingsray Biotechnology Co.,Ltd.によって合成されたものであり、NOV9XMによってコードされる成熟ペプチド配列は、配列番号17に示される。pGla-Amy-PhyM1プラスミド及びpGla-Amy-PhyM2プラスミドを構築することで、Amy-NOV9X及びAmy-NOV9XMをAspergillus nigerのグリコシラーゼ遺伝子座にそれぞれ組込んだ。組込みプラスミドは、下記のように構築した。ベクター-Fプライマー及びベクター-RプライマーによってpHphtkプラスミドを直鎖化した。Aspergillus nigerのゲノム(受入番号CICC2462としてChina Center of Industrial Culture Collectionから入手したもの)をテンプレートとして使用し、Gla-5’-F及びGla-5’-RならびにGla-3’-F及びGla-3’-Rをそれぞれ使用することで、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接配列及び3’隣接配列を増幅し、その際、それぞれの断片の長さを2000bpとした。アミラーゼ-PhyOPT-F及びPhy-PhyOPT-Rをプライマーとして使用し、NOV9X断片及びNOV9XM断片をテンプレートとしてそれぞれ使用することで、PCR増幅によってアミラーゼ-PhyM1断片及びアミラーゼ-PhyM2断片を得た。これら2つの断片には、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチド配列が導入されている。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにアミラーゼ-PhyM1断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kitによって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-アミラーゼ-PhyM1を得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図8に示される。直鎖化したpHphtkベクター、グリコシラーゼ遺伝子の5’隣接断片及び3’隣接断片、ならびにアミラーゼ-PhyM2断片をGibson Assembly(登録商標)Master Mix Kitによって組換えることで、組込みプラスミドであるpGla-アミラーゼ-PhyM2を得た。この組込みプラスミドの配列は、シークエンシングによって確認した。このプラスミドのマッピングは、
図9に示される。グリコシラーゼ遺伝子の5’末端隣接DNA配列(2kb)は、配列番号20に示され、3’末端隣接DNA配列(2kb)は、配列番号21に示される。Amy-PhyM1発現カセット及びAmy-PhyM2発現カセットは、それぞれ配列番号28及び配列番号29に示される。
関連プライマー配列は、以下に記載される:
【表3】
【0051】
実施例5:Aspergillus nigerへのそれぞれの発現カセットの組込み
この実施例では、AND4Lを出発株とした。AND4Lは、CICC2462株に由来するグリコシラーゼ遺伝子、真菌アミラーゼ遺伝子、及び酸性アミラーゼ遺伝子をノックアウトすることによって得た。Aspergillus nigerの遺伝子をノックアウト/ノックインする方法は、CN103937766AまたはCN104962594Aの実施例に開示される技術的方法を参照することによって実施できる。この実施例でのグリコシラーゼ遺伝子座へのPhyPhyOPT及びPhyMの組込みは、CN104962594Aの実施例に示されるものと同一の様式で達成し、すなわち、Delmas
et al.(Appl Environ Microbiol.2014,80(11):3484-7)によって記載される方法によって達成した。具体的には、glaの5’隣接配列及び3’隣接配列、選択可能マーカー、リバース選択可能マーカー(または負選択可能マーカー)、及びEscherichia coliの複製配列を含む環状DNAベクター(すなわち、実施例1~4に記載のプラスミド)が使用される。この環状ベクターをAspergillus nigerに導入し、組換え株をフォワード選択によって得た。ノックアウト/ノックイン株は、リバース選択可能マーカーによって得た。
【0052】
プロトプラストの形質転換を使用することで、pGla-Phy-Phy、pGla-Gla-Phy、pGla-Amy-Phy、pGla-Phy-PhyOPT、pGla-Gla-PhyOPT、pGla-Amy-PhyOPT、pGla-Amy-PhyM1、及びpGla-Amy-PhyM2を別々に導入した。具体的な段階は、以下ように実施した。
【0053】
プロトプラストの調製:栄養素含有量の高いTZ液体培地(牛肉エキス粉末(0.8%)、酵母エキス(0.2%)、ペプトン(0.5%)、NaCl(0.2%)、及びスクロース(3%)を含む(pH5.8))においてAspergillus nigerの菌糸体を培養した。mira-cloth(Calbiochem)によって液体培地から菌糸体をろ過分離し、0.7MのNaCl(pH5.8)で洗浄した。菌糸体の水分を切り、セルラーゼ(Sigma)を1%、ヘリカーゼ(Sigma)を1%、及び溶壁酵素(lywallzyme)(Sigma)を0.2%含む酵素加水分解緩衝液(pH5.8)に菌糸体を移し、酵素による加水分解を30℃、65rpmで3時間実施した。次に、プロトプラストを含む酵素加水分解緩衝液を氷上に置き、4層のレンズペーパーに通してろ過した。得られたろ液を4℃で10分間、3000rpmで穏やかに遠心分離し、上清を捨てた。チューブの壁に付着したプロトプラストをSTC緩衝液(D-ソルビトール(1M)、CaCl2(50mM)、トリス(10mM)を含む(pH7.5))で1回洗浄し、最終的に、適量のSTC緩衝液に再浮遊させた。
【0054】
環状プラスミドであるpGla-Phy-Phy、pGla-Gla-Phy、pGla-Amy-Phy、pGla-Phy-PhyOPT、pGla-Gla-PhyOPT、pGla-Amy-PhyOPT、pGla-Amy-PhyM1、及びpGla-Amy-PhyM2を、100μlのプロトプラスト浮遊液にそれぞれ10μl(濃度:100ng/μl)添加し、均一化するまで混合した後、室温で25分間静置した。次に、総体積900μlのPEG溶液を3回添加し、均一化するまで混合した後、室温で25分間静置した。この溶液を、室温で10分間、3000rpmで遠心分離した。上清を捨て、チューブの壁に付着したプロトプラストを1mlのSTC緩衝液に再浮遊させた。この浮遊液を、約45℃に事前冷却したTB3培地(酵母エキス(0.3%)、酸加水分解カゼイン(0.3%)、スクロース(20%)、及び寒天(0.7%)を含む)と混合し、平板を形成させた。固化させた後、プレートを静置し、34℃のインキュベーターにおいて培養した。24時間後、300ng/μlのハイグロマイシンを含むTB3固体培地(寒天を1%含むものであり、残りの成分は、上記のものと同一である)の平板層を上記プレートの上にさらに形成させ、このプレートを、34℃のインキュベーターにおいて4~5日さらにインキュベートした。上層の培地から増殖した形質転換体を、組込みが生じた形質転換体であると見なした。いくつかの組込み形質転換体を無作為にピッキングし、300ng/μlのハイグロマイシンを含むTB3固体培地でそれぞれ継代培養した。34℃の一定温度で3日間インキュベートした後、菌糸体を収集し、液体窒素において凍結した後、粉砕した。その後、組込み形質転換体のゲノムDNAを真菌ゲノム抽出キット(Hangzhou Bori Technology Co.,Ltd.)で抽出した。最終的に、組込み形質転換体のゲノムDNAをPCRによって同定し、その際、Pep-5test-F及びPep-5test-RならびにPep-3test-F及びPep-3test-Rを同定用プライマーとした。PCR産物をシークエンシングし、グリコシラーゼ遺伝子座への組込みが生じていることを確認した。
関連プライマー配列は、以下に記載される:
【表4】
【0055】
陽性であることが確認された形質転換体の適量の粉砕菌糸体をピッキングし、1mlの滅菌水を含む遠心チューブに入れ、ボルテックスして菌糸体浮遊液を形成させた。100μlを取り、10μMの5-F2dU(5-フルオロ-2-デオキシウリジン、製造業者:Sigma)を含むTB3固体プレートに塗り広げ、34℃の一定温度で4~5日間インキュベートした。ノックアウト形質転換体を増殖させた。形質転換体であれば、10μMの5-F2dUを含むプレートで2世代を経た後(これによって不純な形質転換体が阻止される)、300ng/μlのハイグロマイシンを含むプレートで増殖できないはずである。次に、ノックアウト形質転換体のゲノムDNAをPCRによって同定し、その際、プライマー配列及びゲノム抽出方法は、上記のものと同一のものとした。Pep-5test-F及びPep-3test-Rを使用してPCRによって同定すると、陽性の形質転換体産物は5.5kbであり、陰性の形質転換体は6.3kbであることが示された。陽性の質転換体について、PCR産物をシークエンシングによって確認することで、AND4L-Phy-Phy株、AND4L-Gla-Phy株、AND4L-Amy-Phy株、AND4L-Phy-PhyOPT株、AND4L-Gla-PhyOPT株、A
ND4L-Amy-PhyOPT株、AND4L-Amy-PhyM1株、及びAND4L-Amy-PhyM2株を得た。
【0056】
実施例6:株の振とうフラスコ発酵
実施例5において得られたAND4L-Phy-Phy株、AND4L-Gla-Phy株、AND4L-Amy-Phy株、AND4L-Phy-PhyOPT株、AND4L-Gla-PhyOPT株、AND4L-Amy-PhyOPT株、AND4L-Amy-PhyM1株、及びAND4L-Amy-PhyM2株を、50mlのYPG培地(酵母エキス(2g/L)、ペプトン(2g/L)、及びグルコース(10%)を含む)を含む振とうフラスコにそれぞれ播種し、34℃、220rpmで6日間培養した。上清を、変性条件のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した。それぞれの株の発現の詳細については、表1を参照のこと。
【表5】
【0057】
表1から確認できるように、Escherichia coliのフィターゼまたはその変異体をコードするDNAのコドン最適化後、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドのガイド下では、上清の発現レベルは良好であり、他のシグナルペプチド配列の存在下では、タンパク質発現は全く生じていない。最適化を実施していない配列については、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼのシグナルペプチドのガイド下においても、発現レベルは非常に低く、このことは、DNA配列の最適化もまた、発現に非常に重要であることを証明するものである。最適化された配列に対して17の変異及び50の変異を導入した後にもまた、良好な発現をそれぞれが達成することができる。
【配列表】