(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】廃水処理システムの動作方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20221018BHJP
C25B 9/15 20210101ALI20221018BHJP
C25B 9/17 20210101ALI20221018BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20221018BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20221018BHJP
【FI】
C02F1/461 101C
C25B9/15
C25B9/17
C25B9/23
C25B15/02
(21)【出願番号】P 2019569685
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 US2018041856
(87)【国際公開番号】W WO2019014467
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-16
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513305179
【氏名又は名称】アクシン ウォーター テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Axine Water Technologies Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】クラソヴィク,ジュリア,リン
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】カナダ国特許出願公開第02740759(CA,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0174942(US,A1)
【文献】特表2014-522309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/46-1/48
C25B1/00-9/77
C25B13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水を処理する方法であって、
a.少なくとも1の電気化学セルを有する廃水処理システムを提供するステップであって、電気化学セルが、同じ触媒組成の寸法安定性電極を含み、電極が廃水に浸される、ステップと、
b.電源から電気化学セルに電力を供給するステップと、
c.予め設定された電流密度および予め設定された電圧で電気化学セルを動作させて、廃水中の汚染物質を分解するステップと、
d.電源の電圧を監視するステップと、
e.電源の電圧が予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、電気化学セルの極性を反転させるステップと、
f.
電源の電圧が再び予め設定された電圧より前記予め設定された電圧差だけ高くなって、前記電気化学セルが不動態化されるまで、反転させた極性で電気化学セルを動作させ続けるステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
予め設定された電圧差が2~3ボルトであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
処理すべき廃水を濾過して、廃水から金属化合物を分離するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
廃水を処理する方法であって、
a.少なくとも1のアクティブな電気化学セルおよび少なくとも1の非アクティブな電気化学セルを含む廃水処理システムを提供するステップであって、アクティブな電気化学セルおよび非アクティブな電気化学セルの各々が、同じ触媒組成の寸法安定性電極を含み、電極が廃水に浸される、ステップと、
b.電源からアクティブな電気化学セルに電力を供給するステップと、
c.予め設定された電流密度および予め設定された電圧でアクティブな電気化学セルを動作させて、廃水中の標的汚染物質を分解するステップと、
d.電源の電圧を監視するステップと、
e.電源の電圧が予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、電気化学セルの極性を反転させるステップと、
f.セルの極性を反転させた後に、電源の電圧を監視し続けるステップと、
g.電源の電圧が
再び予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、
廃水の処理に使用されていなかった少なくとも1の非アクティブなセルをアクティブにするステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
予め設定された電圧差が2~3ボルトであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法において、
処理すべき廃水を濾過して、廃水から金属化合物を分離するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
廃水を処理するシステムであって、
ギャップによって分離された寸法安定性アノードおよび寸法安定性カソードを有し、かつ処理すべき廃水に浸される少なくとも1のアクティブな電気化学セルと、
アクティブな電気化学セルが予め設定された
電流密度および予め設定された電圧で動作して廃水中の標的汚染物質を分解するように、
アクティブな電気化学セルに電力を供給する電源と、
電源の電圧を監視するための電圧計と、
監視される電源の電圧が予め設定された電圧より
予め設定された電圧差だけ高くなったときに、アクティブな電気化学セルの極性の反転を指令
し、電源の電圧が再び予め設定された電圧より前記予め設定された電圧差だけ高くなって、前記アクティブな電気化学セルが不動態化されるまで、反転させた極性で前記アクティブな電気化学セルを動作させ続けるためのシステムコントローラとを備えることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のシステムにおいて、
予め設定された電圧差が2~3ボルトであることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項7に記載のシステムにおいて、
寸法安定性アノードが、アノード支持体と、その上に配置されたアノード触媒層とを含み、寸法安定性カソードが、カソード支持体と、その上に配置されたカソード触媒層とを含み、アノード触媒層およびカソード触媒層が同じ組成を有することを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムにおいて、
アノード支持体および/またはカソード支持体が板状であることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のシステムにおいて、
アノード支持体および/またはカソード支持体がメッシュ状であることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項9に記載のシステムにおいて、
アノード触媒およびカソード触媒が、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウムイリジウム、酸化イリジウムタンタル、酸化ルテニウムタンタル、酸化イリジウムルテニウムチタンタンタル、白金、白金黒、ダイヤモンドおよびホウ素ドープダイヤモンドを含む群のなかから選択されていることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項9に記載のシステムにおいて、
アノード支持体およびカソード支持体の材料が、チタン、ニッケル、セリウムおよび鋼を含む群のなかから選択されていることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項7に記載のシステムにおいて、
アノードとカソードとの間に、それらの間のギャップを占める固体高分子膜電解質が介在していることを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項7に記載のシステムにおいて、
ギャップによって分離された寸法安定性アノードおよび寸法安定性カソードを有し、かつ処理すべき廃水に浸される少なくとも1の非アクティブな電気化学セルをさらに備え、
アクティブな電気化学セルの極性が一旦反転した後、監視される電源の電圧が予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、非アクティブな電気化学セルがシステムコントローラによってアクティブにされることを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムにおいて、
予め設定された電圧差が2~3ボルトであることを特徴とするシステム。
【請求項17】
請求項15に記載のシステムにおいて、
非アクティブな電気化学セルが、アクティブな電気化学セルと同じ構造および材料を有することを特徴とするシステム。
【請求項18】
請求項15に記載のシステムにおいて、
アノードとカソードとの間に、それらの間のギャップを占める固体高分子膜電解質が介在していることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を交換することなく、システムの動作時間を増加させるための廃水処理システムの動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人口の増加および生成される廃水の量の増加、厳格な廃水品質規制、清浄水のコストの増加および水不足、清浄水源の保護に対する認識および老朽化した廃水処理インフラの交換によって、新しい廃水処理の需要が大幅に増加している。業界は、厳しい排出基準とコスト圧力の両方を強いられており、排出前に厄介な廃水汚染物質を除去し、オンサイトの水再利用およびリサイクルシステムを採用して、給水および排水のコスト上昇を回避している。その要件は、化学物質の追加を必要とせず、二次汚染を引き起こさず、厳格な水質基準に準拠し、最小限の運転要件およびメンテナンス要件を持つ、費用対効果の高い持続可能な水処理システムに対するものである。
【0003】
産業廃水は有機化合物を含むことがあり、その多くは毒性がありかつ難分解性であり、従来の生物学的および化学的廃水処理に抵抗する。厄介な廃水を処理するための好ましいアプローチは、汚染物質を無機化し、廃棄物の有機負荷と毒性を減らすことができる電気化学的酸化などの非化学的酸化技術によるものである。電気化学的酸化は、持続可能で安全であり、残留性有機汚染物質、ダイオキシン、窒素種(例えば、アンモニア)、医薬品、病原体、微生物、重点汚染物質および殺虫剤の大部分など、多種多様な汚染物質を除去する高い処理効果を有している。廃水の電気化学的処理の分野では、廃水中の汚染物質を酸化するための2つの主要なアプローチがある。第1の方法は、アノード表面上に直接ある有機および/または無機汚染物質の直接電気化学的酸化である。第2の方法は、化学的酸化種(ヒドロキシル、塩素、酸素または過塩素酸塩ラジカル、または次亜塩素酸塩、オゾン、過酸化水素などの化合物)の現場生成による有機および/または無機汚染物質の間接電気化学的酸化である。これらの化学的酸化種は、アノード表面で直接生成され、その後、廃水溶液内の汚染物質を酸化する。
【0004】
廃水の直接および間接電気化学的酸化のために、ギャップまたは膜によって分離されたフロースルー平行板、積層ディスク、同心円筒、移動床電極およびフィルタプレスを含む様々なセル構造が開発されてきた。廃水を処理するために、膜によって分離されたアノードおよびカソードと、2枚の流れ場プレートとを有し、一方の流れ場プレートが廃水をアノードに供給する電気化学セルも採用されている。しかしながら、それら電気化学セル構造のすべてに共通するのは、電極の寿命が比較的短く、消耗した電極を交換する必要によって生じるシステムのコストが増大することである。
【0005】
廃水処理に電気化学的酸化を使用するシステムでは、アノード触媒は、白金、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化イリジウム(IrOx)、ダイヤモンド、ホウ素ドープダイヤモンドなどであり、カソード触媒は、アノードおよびカソードがともにタンク内で浸されて処理すべき廃水に曝される場合には、アノード触媒と同じものとすることができる。他のシステム、例えば、アノードおよびカソードが膜によって分離されて、流れ場プレートが廃水をアノードに供給する電気化学セルを有するシステムでは、カソード触媒は、上述したアノード触媒とは異なるものとすることができ、例えば、カソードは、Ni、ステンレス鋼、Ti、NiCoLaOxなどとすることができる。
【0006】
廃水処理に電気化学的酸化を使用するシステムでは、アノードは物理的に消耗しないため、寸法安定性アノード(DSA)である。これは、アノード材料のイオンがアノードから放出されることによりセルの動作中に電極が物理的に消耗する他の水処理方法(例えば、電気凝固、凝集)とは異なる。そのような場合、消耗した電極によって残される空の場所に、暫くしてから新しい電極を設置する必要がある。このような電極は、「犠牲」電極と呼ばれる。そのようなシステムでは、例えば米国特許第9,540,258号または米国特許出願第2009/0008269号に記載されているように、所望のアノード/カソード表面比および電極上の均一な摩耗を提供するように電極の極性を周期的に反転することができる。これは、例えば、米国特許第9,540,258号に記載されているように、カソードが、所定の時間、アノードの役割を果たした後、アノード/カソード表面比を再確立したら、それを再びカソードに戻すように切り替えることによって達成される。これは、実質的に同じペースで物理的に消耗するアノードおよびカソードをもたらす。
【0007】
寸法安定性電極を使用する水処理システムでは、電極は、いかなる物質も物理的に失うことはないが、電極汚れが発生する可能性があり、そのような場合、一時的/周期的なセル反転によって電極のクリーンアップが時々行われる。例えば、米国特許出願第2002/0139689号には、水または下水処理に使用される次亜塩素酸ナトリウムを製造するための電解セルが記載されており、当該電解セルが、酸化イリジウムおよび白金族金属の混合物および結合材からなるコーティングを有する電極、好ましくは酸化チタンを含み、それにより、硬水中の溶解した多価金属イオンが電極表面に付着し、電気化学反応を妨害する可能性がある。この先行技術文献に記載されているように、電極の動作寿命を延ばすために、印加電圧の極性を反転する技術が用いられており、より低い電流密度での電解セルの反転極性動作が、電極に沈殿したスケールを清浄化または除去するために利用されている。
【0008】
別の例では、米国特許出願第2014/0174942号には、導電性ダイヤモンドアノードおよびカソードを含む、次亜塩素酸塩などの酸化剤のオンサイト生成のためのシステムが示されるとともに、無機物蓄積/スケールを除去して電極の再活性化を補助するために、電極の極性を短時間反転することが記載されている。この先行技術文献には、ルテニウムまたはイリジウムの酸化物などの導電性酸化物を含む寸法安定性電極を使用するシステムが、逆の極性の下で機能を停止して、電極が早期に分解し、電極寿命および信頼性を低下させる傾向があることが記載されている。また、逆の極性で動作させた場合に、ステンレス鋼カソードが酸化を受け易い(錆を発生し易い)ことも述べられている。これを防ぐために、システムは、導電性ダイヤモンドアノードと、好ましくは導電性ダイヤモンド、タングステン、グラファイト、ステンレス鋼、ジルコニウムまたはチタンのうちの1つを含むカソードとを使用している。
【0009】
本出願人の米国特許第9,440,866号にさらに言及されているように、副反応としての水電気分解によるアノード側での酸素発生が、いかなる有機蓄積も含まないように電極を保つのに役立つため、セル電極を汚染することなくモデル廃水を処理することができる。しかしながら、一時的なセル反転により電極のクリーンアップを時々実行することは、当技術分野で一般に知られている。
【0010】
廃水処理システムで使用される寸法安定性電極の場合、例えばIrOx、RuOx、Pt、Pt黒、ダイヤモンド(例えば、ホウ素ドープダイヤモンド)等で被覆された電極の場合、触媒が、その活性特性、例えば電気触媒特性を徐々に失うことがあり(不動態となることがあり)、電極が完全に不動態化された場合、交換が必要となり、それが複雑で高価なプロセスになることがある。
【0011】
このため、廃水処理業界では、不動態化された電極を交換する必要なく、寸法安定性電極を使用する廃水処理システムの連続運転時間を増加させる必要がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、廃水を処理する方法であって、
a.少なくとも1の電気化学セルを有する廃水処理システムを提供するステップであって、電気化学セルが、同じ触媒組成を有する寸法安定性電極を含み、電極が廃水に浸される、ステップと、
b.電源から電気化学セルに電力を供給するステップと、
c.予め設定された電流密度および予め設定された電圧で電気化学セルを動作させて、廃水中の汚染物質を分解するステップと、
d.電源の電圧を監視するステップと、
e.電源の電圧が予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、電気化学セルの極性を反転させるステップと、
f.不動態化されるまで、反転させた極性で電気化学セルを動作させ続けるステップとを含む方法を述べる。
【0013】
本記載の方法において、予め設定された電圧差は、好ましくは2~3ボルトである。
【0014】
好ましい実施形態において、本方法は、廃水が電気化学セルに供給されて処理される前に、処理すべき廃水を濾過して、廃水から金属化合物を分離するステップをさらに含む。これは、電気化学セルの動作中に電極上にそのような金属化合物が付着するのを防止する。
【0015】
本方法の別の実施形態は、
a.少なくとも1のアクティブな電気化学セルおよび少なくとも1の非アクティブな電気化学セルを含む廃水処理システムを提供するステップであって、アクティブな電気化学セルおよび非アクティブな電気化学セルの各々が、同じ触媒組成を有する寸法安定性電極を含み、電極が廃水に浸される、ステップと、
b.電源からアクティブな電気化学セルに電力を供給するステップと、
c.予め設定された電流密度および予め設定された電圧でアクティブな電気化学セルを動作させて、廃水中の標的汚染物質を分解するステップと、
d.電源の電圧を監視するステップと、
e.電源の電圧が予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、電気化学セルの極性を反転させるステップと、
f.極性反転後に、電源の電圧を監視し続けるステップと、
g.電源の電圧が予め設定された電圧より予め設定された電圧差だけ高くなったときに、少なくとも1の非アクティブなセルをアクティブにするステップとを含む。
【0016】
この方法では、予め設定された電圧差が、好ましくは2~3ボルトである。そのような方法は、処理すべき廃水を濾過して、廃水から金属化合物を分離するステップも含むことができる。
【0017】
本発明は、廃水を処理するシステムにも関し、当該システムが、ギャップによって分離された寸法安定性アノードおよび寸法安定性カソードを有し、かつ処理すべき廃水に浸された少なくとも1のアクティブな電気化学セルと、電気化学セルが予め設定された電流および予め設定された電圧で動作して廃水中の標的汚染物質を分解するように、電気化学セルに電力を供給する電源と、電源の電圧を監視するための電圧計と、監視される電源の電圧が予め設定された電圧より第1の予め設定された電圧差だけ高くなったときに、アクティブな電気化学セルの極性の反転を指令するためのシステムコントローラとを備える。予め設定された電圧差は、好ましくは2~3ボルトである。
【0018】
寸法安定性アノードは、アノード支持体と、その上に配置されたアノード触媒層とを含み、寸法安定性カソードは、カソード支持体と、その上に配置されたカソード触媒層とを含み、アノード触媒層およびカソード触媒層が同じ組成を有する。アノード支持体および/またはカソード支持体は、プレートまたはメッシュの形状を有することができる。アノード触媒およびカソード触媒は、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化イリジウム(IrOx)、酸化ルテニウムイリジウム(RuIrOx)、酸化イリジウムタンタル(IrTaOx)、酸化ルテニウムタンタル(RuTaOx)、酸化イリジウムルテニウムチタンタンタル(IrRuTiTaOx)、白金、白金黒、ダイヤモンドおよびホウ素ドープダイヤモンドを含む群のなかから選択される。
【0019】
アノード支持体およびカソード支持体の材料は、チタン、ニッケル、セリウムおよび鋼を含む群のなかから選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、固体高分子膜電解質が、アノードとカソードとの間に介在される。
【0021】
好ましい実施形態では、本システムが、ギャップによって分離された寸法安定性アノードおよび寸法安定性カソードを有し、かつ処理すべき廃水に浸された少なくとも1の非アクティブな電気化学セルをさらに備え、監視される電源の電圧が予め設定された電圧より、好ましくは2~3ボルトの予め設定された電圧差だけ高くなったときに、非アクティブな電気化学セルがシステムコントローラによってアクティブにされる。
【0022】
この実施形態の非アクティブな電気化学セルは、アクティブな電気化学セルと同じ構造および材料を有することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、非アクティブな電気化学セルが、アノードとカソードとの間に介在し、それらの間のギャップを占有する固体高分子膜電解質を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面は、本発明の特定の好ましい実施形態を示しているが、決して本発明の主旨または範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【
図1】
図1は、本発明に係る廃水処理システムの概略図を示している。
【
図2】
図2は、
図1に示すシステムの電気化学セルの一実施形態の概略図を示している。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、
図1に示すシステムの電気化学セルの別の実施形態の概略図および分解図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書では特定の用語が使用されるが、それらは以下に与えられる定義に従って解釈されることを意図している。また、「a」や「comprises」などの用語は、オープンエンドと見なされるべきである。さらに、本明細書で引用したすべての米国特許公報および他の文献は、引用によりそれらの全体が援用されることを意図している。
【0026】
本明細書において、SPEは、固体高分子電解質を表し、Nafion(登録商標)などの任意の適切なイオン伝導性イオノマー(アニオンまたはカチオン、有機または無機形態の何れか)であり得る。したがって、SPE電気化学セルは、電気エネルギーが供給されて所望の電気化学反応をもたらす(セルのアノードに正電圧が印加される)、電解質としてSPEを含むセルである。
【0027】
本発明に係る廃水処理用の例示的なシステムが
図1に概略的に示されている。本システム100は、処理される廃水112を収容する反応器タンク110に浸された複数の電気化学セル101,102,103,104,105,106を備える。各電気化学セルは、アノードおよびカソードを含む。システム内の電気化学セルの一部、例えばセル101,102,103はアクティブであり、それらのアノード131,133,135はDC電源120の正の出力122に接続され、それらのカソード132,134,136はDC電源120の負の出力124に接続されている。この段階において、電気化学セル104,105,106は非アクティブ状態を維持し、それらのアノード137,139,141およびカソード138,140,142はDC電源120から切り離されている。
【0028】
処理される廃水112は、反応器タンク110に供給され、この廃水内に電気化学セルが浸されて、当該廃水がアノードおよびカソードを取り囲んで、アノードとカソードの間のギャップ11,12,13,14,15,16を占める。このようなギャップは一般に小さく、例えば2~4mmである。いくつかの実施形態では、固体高分子膜が、
図3Aおよび
図3Bにさらに示すように、各セルのアノードとカソードとの間に配置される。
【0029】
電気化学セル101,102,103をDC電源に接続することにより、電気化学反応が、各電気化学セルのアノードおよびカソードで生じて、清浄な処理水を得るための廃水の処理につながる。そのような電気化学反応は、当業者に知られている。
【0030】
例えば、アノードに関する化学反応は、以下のものを含むことができる。
電子移動による有機化合物Rの直接電気分解:
R→P+e-
水からの酸素移動および発生した酸素による有機化合物Rの無機化については:
R+n/2H2O→無機生成物[CO2+塩等]+nH++ne-
2H2O→O2+4H++4e-
R+n/4O2→無機生成物[CO2+塩等]+nH++ne-
ヒドロキシルおよび酸素ラジカル、および触媒表面でのO2発生の中間体については:
H2O→OH*
ads+H++e-
(h+)vac+H2O→(OH*)ads+H++e-
R+[OH*ラジカル/O*種/中間体]ads
→無機生成物[CO2+塩等]+nH++ne-
アンモニアの酸化については:
4NH3+3O2→2N2+6H2O
NH3/NH4+OH*→N2+H2O+H++e-
廃水がアルカリ性である場合、遊離塩素による除去
HOCl+2/3NH3→1/3N2+H2O+H++Cl-
NH3/NH4+HOCl/OCl-→N2+H2O+H++Cl-
無機酸化剤の生成については、例えば:
2CO3
2-→C2O6
2-+2e-
2PO4
3-→P2O8
4-+2e-
2HSO4
-→S2O8
2-+2H++2e-
原位置での酸化剤、例えば、廃水中のNaClの生成:
2Cl-→Cl2+2e-
1/2Cl2+H2O→HOCl+H++Cl-
HOCl→H++OCl-
H2Sについては:
H2S→S0+2H++2e-
そして、廃水がアルカリ性である場合、電気化学堆積を介して、アルカリ分解を促進するためにpH制御装置を使用するようにしてもよい。
金属イオン[例えば鉄、マンガンなどの遷移金属イオン]については:
ヒドロキシルラジカルおよび酸素による酸化
ヒドロキシルラジカルによる酸化、例えば、Mn+OH*→Mn-1+OH-
または酸素による酸化、例えば、
2Fe2++1/2O2+5H2O→2Fe(OH)3↓+4H+
Mn2++1/2O2+H2O→MnO3↓+2H+
そのような目的のために、流体拡散層上に積層された触媒層に酸素発生電気触媒を組み込むことが望ましい。また、触媒層と接触する廃水の滞留時間を長くして、酸化を完了させるようにしてもよい。廃水が処理される前に廃水から金属化合物を除去するために、フィルタをシステムに使用することが好ましい。
触媒分解については:
H2O2→H2O+1/2O2
【0031】
アノード流体拡散層およびアノード触媒層には、汚染物質特異的分解および酸化触媒を含有させることが望ましい。これらは、より低い電圧、より高い流量およびより低いエネルギー消費で汚染物質の分解および/または酸化を提供することができる。
【0032】
ガスへと酸化および/または分解する汚染物質については、1または複数の脱ガスユニットまたは方法をシステムで使用して、結果として生じる生成ガスを除去することができる。
【0033】
一方、カソードでは、以下のように水素発生が生じる:
nH++ne-→n/2H2(g)
【0034】
図1に示したシステムの1つの電気化学セル101が、
図2に概略的に示されている。電気化学セル101は、アノード支持体142およびアノード支持体上に置かれたアノード触媒層144からなるアノード131と、カソード支持体146およびカソード支持体上に置かれたカソード触媒層148からなるカソード132とを含む。
【0035】
本発明におけるアノード触媒層は、カソード触媒層と同じ組成を有し、これは、触媒がアノードおよびカソードの両方として機能するように触媒組成が選択されることを意味する。本発明では、アノードおよびカソード触媒として、白金(Pt)、白金黒、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化イリジウム(IrOx)、酸化ルテニウム-イリジウム(RuIrOx)、酸化イリジウム-タンタル(IrTaOx)、酸化ルテニウム-タンタル(RuTaOx)、酸化イリジウム-ルテニウム-チタン-タンタル(IrRuTiTaOx)を用いることができる。いくつかの実施形態では、アノードおよびカソードがダイヤモンド電極、例えばホウ素ドープダイヤモンド電極である。
【0036】
アノード触媒およびカソード触媒はそれぞれ寸法安定性であり、反応器タンク内で生じる電気酸化プロセス中に物理的に消耗しない。
【0037】
本発明で使用することができる電気化学セルの別の実施形態が
図3に示されている。電気化学セル201は、アノード支持体242およびアノード支持体上に積層されたアノード触媒層244からなるアノード231と、カソード支持体246およびカソード支持体上に積層されたカソード触媒層248からなるカソード232とを含む。電気化学セルは、膜250の形状の固体高分子電解質(SPE)をさらに含み、アノード触媒層244と膜250との間、およびカソード触媒層248と膜250との間にそれぞれギャップがないように、アノードとカソードとの間に膜が介在している。
【0038】
図1~
図3に示す本システムの実施形態では、電極が、廃水によって囲まれている開放型の反応器タンク内に浸される。代替的な実施形態では、電極が閉鎖型エンクロージャ内に配置され、そのエンクロージャに、処理すべき廃水が入口を介して供給されるとともに、エンクロージャの出口で清浄な水が収集される。代替的な実施形態では、廃水がエンクロージャに供給され、エンクロージャ内に配置された電極が廃水内に浸され、部分的に清浄化された廃水がエンクロージャを出て、フロースルー反応器設計として知られるものにおける更なる処理のためにエンクロージャに戻される。本発明で開示するすべての実施形態では、電極が、処理される廃水に浸される。これは、アノードの隣に配置された流れ場プレートのチャネルを介して廃水がアノード触媒に供給される従来技術のいくつかの電気化学セルとは異なる。
【0039】
次に、本発明に係る
図1に示す水処理システムの動作を説明する。動作中、アノード触媒は、タンク内の廃水を処理するための電気酸化反応を可能にし、時間とともに触媒的に消耗し得る一方で、カソード触媒は、カソードで生じる反応の性質のために、触媒的に保護されて、消耗しない。アノード触媒層が完全に消耗すると、電圧計160によって監視される電源の電圧が、通常の動作電圧に対して2~3Vの上昇を記録する。これは、少なくとも1つのアクティブ電気化学セルのアノード不具合を知らせるとともに、システムコントローラ170に伝達され、システムコントローラが、そのアクティブ電気化学セルの極性を反転させることを命令し、それにより、それらのカソードが、ここで正の電荷に接続されて、アノードとして動作し、一方で、アノードが、電源の負の電荷に接続されて、カソードとして動作する。この切替は可能である。何故なら、各電気化学セルのアノードおよびカソードが同じ触媒を有し、かつ各電気化学セルのアノード支持体(例えば、142)がアノード触媒の消耗後に無傷のままであり、電気化学セルの極性が反転したときにカソードとして機能することができるからである。
【0040】
DC電源220に接続された
図3に示す電気化学セルは、同様に動作し、システムコントローラ270は、電圧計260が通常の動作電圧を超える2~3Vの上昇を示すときに、セルの極性を反転させる。
【0041】
この動作方法は、消耗した電極の交換を必要とすることなく、電気化学セルの動作時間を延ばす上で実質的な利点を提供する。動作条件、処理される廃水の種類、および使用される電極の種類に応じて、本方法は、システム内の電気化学セルの寿命をほぼ2倍にすることができる。
【0042】
例えば、0~14のpH、50~400mA/cm2の電流密度、20~80℃の温度で動作するシステムであって、アノードと電極との間のギャップが2~4mmであるか、またはNafion 115膜のようなSPEによって分離される電気化学セルを有するシステムにおいて、従来の動作方法に従って動作する電気化学セルの寿命が2~24ヶ月間である場合に、本方法に従って動作するシステムにおいて、各電気化学セルは、何れの電極も交換することなく、4~48ヶ月間動作することとなる。
【0043】
また、本システムは、システムの動作の開始時に非アクティブに保たれるいくつかの電気化学セル104,105,106も備える。本システムの動作方法は、アクティブセルの極性が既に一旦反転された後に、電圧計が2~3Vの電圧上昇を記録するときに、非アクティブセルのうちの少なくとも1つをアクティブにするステップと、アクティブセルパックからの少なくとも1の電気化学セルの両電極の触媒が、現在触媒的に消耗している(不動態化されている)ことを示すステップとを含む。
【0044】
システム内のいくつかの以前に非アクティブなセルをアクティブにすることによって、システムの連続動作時間を、通常動作の時間の2倍以上に増やすことができる。
【0045】
好ましい実施形態では、処理される廃水が、一般に電極の働きを妨げる可能性のある特定の汚染物質、例えば、鉄、マグネシウムまたはカルシウムを含有しない。従来技術では、電極表面に付着するそのような汚染物質は、電気化学セルの極性の周期的な反転によって除去されるが、従来技術で認識されているように、ある種の触媒については、周期的なセルの反転が触媒を損傷し、触媒を動作不能にする。本方法の好ましい実施形態において、そのような汚染物質は、廃水が廃水処理システムの反応器タンクに供給されて処理される前に濾過される。
【0046】
本廃水処理において、各電気化学セルのアノードとカソードとの間のギャップ11,12,13,1,15,16は、同じであっても異なっていてもよい。さらに、電気化学セルの各々のアノード支持体およびカソード支持体は、例えば本出願人の米国特許出願第62/279,631号に開示されているように、中実プレートまたはメッシュであってもよい。アノードまたはカソード支持体として機能する中実プレートまたはメッシュの材料は、チタン、ニッケル、セリウムおよび鋼を含む群のなかから選択される。
【0047】
従来技術の解決策と比較した本発明の利点は、アノード触媒が不動態化されていることを電圧上昇が示すときに電気化学セルの極性を切り替えて、その後、以前の動作モードに切り替えて戻ることなくカソードをセルのアノードとして動作させ続けることにある。これは、短い期間だけセルの極性を周期的に反転させる従来技術の寸法安定性電極を有する電気化学セルの動作方法とは異なる。
【0048】
2017年7月12日に出願された米国仮特許出願第62/531,539号の開示は、その全体が本明細書に援用されるものとする。
【0049】
本発明の特定の要素、実施形態および用途を開示および説明してきたが、特に上述した教示に鑑みて、本開示の主旨および範囲から逸脱することなく当業者によって変更を加えることができるため、当然のことながら、本発明はそれらに限定されるものではないことを理解されたい。そのような変更は、本明細書に添付される特許請求の範囲内で検討されるべきである。