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特許7160852リチウムイオン電池用正極及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20221018BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221018BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/139
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020016237
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021125313
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大倉 仁寿
(72)【発明者】
【氏名】川北 健一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/194164(WO,A1)
【文献】特開2017-054703(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194872(WO,A1)
【文献】特開2008-251776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と前記集電体の表面に配置された正極組成物層とを有するリチウムイオン電池用正極であって、
前記集電体と前記正極組成物層とは接着されておらず、
前記正極組成物層が、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含み、
前記高分子化合物(A)が、
メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、
イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートのみを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、
ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)であり、
前記共重合体の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が、前記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%であり、
前記高分子化合物(A)の重量平均分子量が300,000以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極。
【請求項2】
前記正極組成物層の厚みが100~800μmである請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項3】
集電体と前記集電体の表面に配置された正極組成物層とを有するリチウムイオン電池用正極の製造方法であって、
正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む正極組成物を圧縮成形して正極組成物層を作製する工程と、
前記正極組成物層を前記集電体上に載せ替える工程とを有し、
前記高分子化合物(A)が、
メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、
イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートのみを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、
ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)であり、
前記共重合体の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が、前記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%であり、
前記高分子化合物(A)の重量平均分子量が300,000以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されている。また、用途の拡大に伴って、リチウムイオン電池の大容量化に対する要望が高まってきている。
【0003】
リチウムイオン電池の容量を大きくする方法の1つとして、電極の面積を大きくする方法が挙げられる。しかし、一般的に、リチウムイオン電池の電極を大面積化すると充放電に伴う電極活物質層の体積変化の影響が大きくなり、電極活物質層が自壊したり、集電体表面から剥離しやすくなるため、サイクル特性を向上させることが困難であった。
特許文献1には、充放電に伴う電極活物質層の体積変化に伴う課題を解決するために、集電体と電極活物質層の間に圧力緩和層を配置する方法が開示されている。また、特許文献2には、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である樹脂を用いて電極活物質の表面を被覆することで電極の体積変化を緩和する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-101624号公報
【文献】国際公開第2015/5117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された方法は、電極活物質層の体積変化の影響が大きい大面積の電極においては充分な効果があるとはいえなかった。また、エネルギー密度及びサイクル特性の観点からみても、さらなる改善の余地があった。
【0006】
すなわち、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、エネルギー密度及びサイクル特性に優れ、大面積化することが可能なリチウムイオン電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、集電体と上記集電体の表面に配置された正極組成物層とを有するリチウムイオン電池用正極であって、上記集電体と上記正極組成物層とは接着されておらず、上記正極組成物層が、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含み、上記高分子化合物(A)が、メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)であり、上記共重合体の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が、上記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%であり、上記高分子化合物(A)の重量平均分子量が300,000以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極、及び、集電体と上記集電体の表面に配置された正極組成物層とを有するリチウムイオン電池用正極の製造方法であって、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む正極組成物を圧縮成形して正極組成物層を作製する工程と、上記正極組成物層を上記集電体上に載せ替える工程とを有し、上記高分子化合物(A)が、メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)であり、上記共重合体の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が、上記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%であり、上記高分子化合物(A)の重量平均分子量が300,000以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、かつ、サイクル特性に優れ、大面積化することが可能なリチウムイオン電池用正極を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、集電体と上記集電体の表面に配置された正極組成物層とを有するリチウムイオン電池用正極であって、上記集電体と上記正極組成物層とは接着されておらず、上記正極組成物層が、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含み、上記高分子化合物(A)が、メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)であり、上記共重合体の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が、上記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%であり、上記高分子化合物(A)の重量平均分子量が300,000以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、集電体を有する。
上記集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
これらの材料のうち、軽量化、耐食性、高導電性の観点から、導電性高分子材料であることが好ましい。
【0012】
上記集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体であってもよい。また、上記集電体は、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0013】
上記集電体は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体であることが好ましい。
上記樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、導電性高分子や樹脂に、必要に応じて導電剤を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電剤としては、金属系導電剤[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン及びこれらの金属を含む合金等]、炭素系導電剤[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、炭素系導電剤及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及び炭素系導電剤であり、特に好ましくは炭素系導電剤である。
またこれらの導電剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電剤のうち金属系導電剤]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0014】
導電剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0015】
導電剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電剤として実用化されている形態であってもよい。
【0016】
導電剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0017】
導電剤の含有量は、導電剤の分散性の観点から、樹脂集電体の重量を基準として、1~79重量%であることが好ましく、2~30重量%であることがさらに好ましく、5~25重量%であることがさらに好ましい。
【0018】
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリシクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びポリシクロオレフィンが好ましく、さらに好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルペンテンである。
【0019】
導電性高分子材料を構成する樹脂の含有量は、樹脂強度の観点から、樹脂集電体の重量を基準として、好ましくは20~98重量%、より好ましくは40~95重量%、さらに好ましくは60~92重量%である。
【0020】
上記樹脂集電体は、例えば、以下の方法で製造することができる。
まず、樹脂、導電剤及び必要に応じてその他の成分を混合することにより、樹脂集電体用材料を得る。
混合の方法としては、導電性フィラーのマスターバッチを得てから、さらに樹脂と混合する方法、樹脂、導電剤及び必要に応じてその他の成分のマスターバッチを用いる方法、及び、全ての原料を一括して混合する方法等があり、その混合にはペレット状又は粉体状の成分を適切な公知の混合機、例えばニーダー、インターナルミキサー、バンバリーミキサー及びロールを用いることができる。
【0021】
混合時の各成分の添加順序には特に限定はない。得られた混合物は、さらにペレタイザーなどによりペレット化してもよく、粉末化してもよい。
【0022】
得られた樹脂集電体用材料を例えばフィルム状に成形することにより、上記樹脂集電体が得られる。フィルム状に成形する方法としては、Tダイ法、インフレーション法及びカレンダー法等の公知のフィルム成形法が挙げられる。なお、上記樹脂集電体は、フィルム成形以外の成形方法によっても得ることができる。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、正極組成物層を有する。
正極組成物層は、集電体と接着されていない。
上記正極組成物層は、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む。
【0024】
上記正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0025】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、好ましくは0.01~100μm、より好ましくは0.1~35μm、さらに好ましくは2~30μmである。
【0026】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置[マイクロトラック・ベル(株)製のマイクロトラック等]を用いることができる。
【0027】
上記高分子化合物(A)は、メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)である。
【0028】
上記共重合体(A1)、(A2)及び(A3)の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合は、上記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%である。上記共重合体(A1)、(A2)及び(A3)の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が0.2重量%未満であると、電池中で電解液により樹脂が膨潤するため、正極組成物層中において正極活物質粒子同士の位置を固定するのに充分な強度が発揮できず、1重量%を超えると樹脂の粘着性が低下するため、正極組成物層中において正極活物質粒子同士の位置を固定するのに充分な強度が発揮できない。
上記共重合体(A1)、(A2)及び(A3)の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合は、超臨界流体中に共重合体を溶解させ、得られたオリゴマー成分をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法で解析する等の方法で測定することができる。
【0029】
上記高分子化合物(A)の重量平均分子量[以下、Mwと略記する。測定は後述するゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、300,000以下である。上記高分子化合物(A)のMwが300,000を超えると樹脂溶液の粘度が上がりすぎる為、良好な被覆を得られない。
高分子化合物(A)のMwは200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましい。また、高分子化合物(A)のMwは、30,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがより好ましい。
【0030】
本発明におけるGPCによるMwの測定条件は以下のとおりである。
装置:高温ゲルパーミエイションクロマトグラフ[「AllianceGPC V2000」、Waters(株)製]
溶媒:オルトジクロロベンゼン
基準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列[ポリマーラボラトリーズ(株)製]
カラム温度:135℃
【0031】
上記高分子化合物(A)は、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル等)]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等)等}を使用して公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合開始剤の使用量は、Mwを好ましい範囲に調整する等の観点から、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%、さらに好ましくは0.1~1.5重量%であり、重合温度及び重合時間は重合開始剤の種類等に応じて調整されるが、重合温度は好ましくは-5~150℃、(より好ましくは30~120℃)、反応時間は好ましくは0.1~50時間(より好ましくは2~24時間)で行われる。
【0032】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2~8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1~8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4~8、例えばn-ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)及びケトン(炭素数3~9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、その使用量はモノマーの合計重量に基づいて好ましくは5~900重量%、より好ましくは10~400重量%、特に好ましくは30~300重量%であり、モノマー濃度としては、好ましくは10~95重量%、より好ましくは20~90重量%、特に好ましくは30~80重量%である。
【0033】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
【0034】
溶液重合における溶液のモノマー濃度、並びに、乳化重合及び懸濁重合における分散液のモノマー濃度は、好ましくは5~95重量%、より好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは15~85重量%である。重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。
【0035】
被覆正極活物質粒子は、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆されている。被覆層は、必要に応じてさらに導電材料を含んでいてもよい。
上記正極活物質粒子の重量に対する上記高分子化合物(A)の重量割合は特に限定されるものではないが、被覆正極活物質粒子間の位置を固定する観点、及び、正極組成物層の成形性の観点から0.1~10重量%であることが好ましい。
【0036】
上記被覆正極活物質粒子は、例えば、上記正極活物質を万能混合機に入れて30~50rpmで撹拌した状態で、上記高分子化合物(A)を含む樹脂溶液を1~90分かけて滴下混合し、さらに必要に応じて導電材料を混合し、撹拌したまま50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持することにより得ることができる。
【0037】
上記正極組成物層は、導電助剤を含む。上記導電助剤としては、前述した樹脂集電体に含まれる導電剤と同様のものを好適に用いることができる。
上記正極組成物層に含まれる上記導電助剤の重量割合は、電気特性の観点から、上記正極組成物層の重量を基準として0.1~10重量%であることが好ましい。
上記導電助剤は、正極活物質粒子を覆う被覆層に含まれていてもよいし、上記被覆層以外に含まれていてもよい。
【0038】
上記正極組成物層の厚みは、特に限定されるものではないが、エネルギー密度の観点から、100~800μmであることが好ましい。
【0039】
本発明のリチウムイオン電池用正極において、上記集電体と上記正極組成物層とは接着されていない。そのため、充放電に伴い正極組成物層の体積変化が起こっても集電体の追随がなく、正極組成物層の自壊や集電体の不可逆的な剥離は生じにくい。
本発明において、集電体と正極組成物層とが接着されていないとは、集電体と正極組成物層との接着強さが20N以下であることを指す。集電体と正極組成物層との接着強さは、JIS K6850:1999の接着強さ試験に準拠して測定することができる。測定条件等は以下の通りである。
試験環境:25℃ 湿度50%
測定装置:島津AUTOGRAPH AGS-10kNX
測定条件:試験片にはJIS規格の金属板ではなく、集電体を用いた。電池セル内部での環境を再現するため、集電体と正極組成物層との接着面に1kgf/cmの荷重をかけた状態で測定を行った。
【0040】
[リチウムイオン電池用正極の製造方法]
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法は、集電体と上記集電体の表面に配置された正極組成物層とを有するリチウムイオン電池用正極の製造方法であって、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む正極組成物を圧縮成形して正極組成物層を作製する工程と、上記正極組成物層を上記集電体上に載せ替える工程とを有し、上記高分子化合物(A)が、メタクリル酸、ラウリルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A1)、イソボルニルメタクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A2)、又は、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸-2-エチルヘキシル及び1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを構成単量体とする共重合体(A3)であり、上記共重合体の構成単量体に含まれる1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートの重量割合が上記共重合体の構成単量体の合計重量を基準として0.2~1重量%であり、上記高分子化合物(A)の重量平均分子量が300,000以下であることを特徴とする。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法は、正極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物(A)を含む被覆層で被覆された被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む正極組成物を圧縮成形して正極組成物層を作製する工程を有する。
圧縮成形は、油圧プレス装置等の任意の加圧装置及び加圧治具を用いて行うことができる。例えば、円筒形状の有底容器内に正極組成物を入れて、その上から上記有底容器の内径より少しだけ小さい径の丸棒形状の加圧治具を挿入し、加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体である正極組成物層が得られる。
加圧治具の形状を変更することにより、任意の形状の成形体を得ることができる。
【0042】
圧縮成形における圧縮条件としては、上記正極組成物にかかる圧力は100~3000MPaであることが好ましい。また、加圧時間は1~300秒であることが好ましい。
【0043】
上記圧縮成形する工程は、集電体上で行ってもよいし、集電体以外の離型材上で行ってもよい。離型材としては、特に限定されず、公知の離型紙や、離型フィルムを適宜選択して用いることができる。
離型材としては、グラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙等の離型紙や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)等の非フッ素樹脂や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の含フッ素樹脂等の離型フィルムが挙げられる。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池用正極の製造方法は、上記圧縮成形する工程で得た正極組成物層を集電体上に載せ替える工程を有する。
正極組成物層を集電体上に載せ替える方法は特に限定されず、公知の転写方法を用いることができる。例えば、上記圧縮成形する工程で離型材上に成形された正極組成物層を集電体上に重ね、離型材を剥離することで本発明のリチウムイオン電池用正極を得ることができる。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部、%は重量%を意味する。
【0046】
<製造例1:高分子化合物(A-1)の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸4.6部、ラウリルメタクリレート95.0部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.4部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液を撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の被覆層用高分子化合物(A-1)溶液を得た。
【0047】
<製造例2:高分子化合物(A-2)の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、イソボルニルメタクリレート99.55部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.45部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液を撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の被覆層用高分子化合物(A-2)溶液を得た。
【0048】
<製造例3:高分子化合物(A-3)の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、ラウリルメタクリレート29.5部、メタクリル酸-2-エチルヘキシル70.0部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.5部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液を撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の被覆層用高分子化合物(A-3)溶液を得た。
【0049】
<製造例4:高分子化合物(A’-1)の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸-2-エチルヘキシル69.5部、Ω-メタクリロイル-ポリメタクリル酸メチル30.0部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.5部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の被覆層用高分子化合物(A’-1)溶液を得た。
【0050】
<製造例5:高分子化合物(A’-2)の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、イソボルニルメタクリレート20.0部、アクリル酸-2-エチルヘキシル49.5部、ブチルメタクリレート30.0部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.5部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の被覆層用高分子化合物(A’-2)溶液を得た。
【0051】
<製造例6:高分子化合物(A’-3)の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸4.75部、ラウリルメタクリレート95.15部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.10部、及びDMF116.50部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の被覆層用高分子化合物(A’-3)溶液を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
<製造例7:被覆正極活物質粒子(CA-1)の作製>
正極活物質粉末(C-1)(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)96部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液(A-1)6.667部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]2.0部を分割しながら26分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子(CA-1)を得た。
【0054】
被覆用高分子化合物溶液(A-1)を(A-2)~(A-3)、(A’-1)~(A’-3)にそれぞれ変更した以外は製造例7と同様にして、被覆正極活物質粒子(CA-2)~(CA-3)、(CA’-1)~(CA’-3)を得た。組合せの詳細は表2の通りである。
【0055】
<製造例8:被覆正極活物質粒子(CA-4)の作製>
正極活物質粉末(C-2)(LiMnO粉末、体積平均粒子径15μm)91.5部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液(A-1)7.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)] 6.4部を分割しながら26分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子(CA-4)を得た。
【0056】
被覆用高分子化合物溶液(A-1)を(A-2)~(A-3)、(A’-1)~(A’-3)にそれぞれ変更した以外は製造例8と同様にして、被覆正極活物質粒子(CA-5)~(CA-6)、(CA’-4)~(CA’-6)を得た。組合せの詳細は表2の通りである。
【0057】
<製造例9:電解液の作製>
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒(体積比率1:1)にLiPFを1mol/Lの割合で溶解させ、リチウムイオン電池用電解液を作製した。
【0058】
<製造例10:集電体の作製>
2軸押出機にて、商品名「サンアロマーPB522M」[サンアロマー(株)製]10部、商品名「サンアロマーPM854X」[サンアロマー(株)製]25部、商品名「サンテックB680」[旭化成ケミカルズ(株)製]10部、黒鉛粒子「SNG-WXA1」40部、アセチレンブラック1「エンサコ250G」10部及び商品名「ユーメックス1001(酸変性ポリプロピレン)」[三洋化成工業(株)製]5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して樹脂集電体用材料を得た。
得られた樹脂集電体用材料をTダイから押し出し、50℃に温調した冷却ロールで圧延することで、樹脂集電体を得た。
【0059】
<実施例1>
製造例7で得た被覆正極活物質粒子(CA-1)5gと導電助剤である炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-242]0.026gと薄片状黒鉛[日本黒鉛(株)製 UP-5-α]0.2632gを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて1500rpmで3分間混合した。
さらに、製造例9で作製した電解液0.14gを加えて1500rpmで1分間混合する工程を2回繰り返し、合計0.28gの電解液を加えて、正極組成物を得た。
上記正極組成物0.217gを秤量し、内径15mmの円筒形状の有底容器内に入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された正極組成物層(CE-1)を得た。
加圧条件は、加圧圧力150MPa、加圧時間5秒であり、加圧装置(加圧治具)の温度は加圧時の室温と等しく20℃であった。
【0060】
<実施例2~6、比較例1~6>
被覆正極活物質粒子(CA-1)を被覆正極活物質粒子(CA-2)~(CA-6)、(CA’-1)~(CA’-6)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして正極組成物層(CE-2)~(CE-6)、(CE’-1)~(CE’-6)を作製した。組合せの詳細は表2の通りである。
【0061】
<セルの内部抵抗評価>
厚み1mmのPP製シート(アズワン社製)を2cm角に切り出したものを準備し、中心部にφ18mmの穴を設けた。作製した正極組成物層(CE-1)とφ15mmに切り出したLi箔とを、PP製セパレーター(セルガード社製)φ18mmを挟んで両極に配置した状態で、PP製シートの中心部に設けられたφ18mmの穴の中に納め、電解液を正極組成物層(CE-1)及びセパレーターの空隙に対して110%となるように注液し、正極組成物層(CE-1)及びLi箔のそれぞれの外側に製造例10で得た樹脂集電体及び銅箔を2cm角に切り出したものを配置した。これを減圧ヒートシールして、評価用セルを作製した。
このとき、樹脂集電体にリード付きの2cm角のAl箔を当て、銅箔にリード付きの2cm角のCu箔を当てて、リードだけが外に出るようにしてアルミラミネートパックで減圧ヒートシールした。それぞれのリードを充放電装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]に接続し、以下の条件でDCRの評価を行った。
1Cで4.2VまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止したのち、0.1Cで2.5Vまで放電を行った。放電を行う直前の電圧をV、放電後10秒経過後の電圧をV、放電中の電流をIとし、(V-V)/Iを直流抵抗(DCR)として各セルの内部抵抗評価を行った。評価は下記の基準で行った。結果は表2に記載した。
◎:DCRが15Ω・cm未満
○:DCRが15Ω・cm以上、21Ω・cm未満
△:DCRが21Ω・cm以上、26Ω・cm未満
×:DCRが26Ω・cm以上
【0062】
<サイクル特性評価>
DCR評価と同様に評価用セルを充放電装置に接続し、以下の条件でサイクル特性の評価を行った。
0.1Cで4.2CまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止したのち、0.01Cで2.5Vまで放電を行った。このときの放電容量を初回容量Xとした。これを50回繰り返し、50サイクル目の放電容量Xを得た。このX/Xを、50サイクル放電容量維持率として、サイクル特性の評価を行った。評価は下記の基準で行った。結果は表2に記載した。
◎:放電容量維持率が97%以上
○:放電容量維持率が93%以上、97%未満
△:放電容量維持率が89%以上、93%未満
×:放電容量維持率が89%未満
【0063】
【表2】
【0064】
表2の結果より、本発明のリチウムイオン電池用正極を用いて製造されたリチウムイオン電池は、セルの内部抵抗が低く、サイクル特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池用正極として有用である。