(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20221018BHJP
B22D 17/24 20060101ALI20221018BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20221018BHJP
C22C 47/08 20060101ALI20221018BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
B22D19/00 E
B22D17/24 Z
C04B41/88 U
C22C47/08
C22C21/02
(21)【出願番号】P 2020211772
(22)【出願日】2020-12-21
(62)【分割の表示】P 2016535986の分割
【原出願日】2015-07-24
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2014151148
(32)【優先日】2014-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健志
(72)【発明者】
【氏名】広津留 秀樹
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/030676(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/125878(WO,A1)
【文献】特開平11-269578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00
B22D 17/24
C04B 41/88
C22C 47/08
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の多孔質無機構造体に繊維状無機材料を隣接配置しながら金属を含浸させる複合体の製造方法において、
前記複合体が、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体、及び80~
94体積%の気孔率を有する繊維状無機材料を用いることにより、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体に金属が含浸されている第1相と、繊維状無機材料に金属が含浸されている第2相とが互いに隣接している構造を有する複合体であり、
第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合が50~80体積%であり、
第2相中に占める繊維状無機材料の割合が
6~20体積%であることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項2】
金属を含浸させる方法がダイキャスト法又は溶湯鍛造法であることを特徴とする請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記繊維状無機材料の厚みは0.5μm以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
繊維状無機材料が多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の周囲全面を覆う状態とするか、又は、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体を繊維状無機材料2枚で挟む状態とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
20~50体積%の気孔率を有する平板状の多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体に金属が含浸されている第1相と、80~
94体積%の気孔率を有する繊維状無機材料に金属が含浸されている第2相とが互いに隣接している構造を有し、
第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合が50~80体積%であり、
第2相中に占める繊維状無機材料の割合が
6~20体積%であることを特徴とする複合体。
【請求項7】
前記金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記繊維状無機材料の厚みは0.5μm以上であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の複合体。
【請求項9】
前記第2相が前記第1相の周囲全面を覆う状態であるか、又は、前記第2相の表裏板面のみに前記第1相が形成された状態であることを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属-セラミックス複合体は、金属、セラミックスの各々単独では得られない機械的及び熱的性質の向上を達成できる材料として期待されている。このような複合体は、例えば、自動車のピストン部品の耐磨耗材料、ヒートシンク等の放熱材料としての応用が挙げられる。
【0003】
金属-セラミックス複合体を構成するセラミックスとしては、セラミック粉、セラミック繊維を成形し、必要な場合には、さらにこれを焼成して作製した多孔質セラミックス構造体を用いる。このような構造体を、所望の型内の空間に配置し、この空間に溶融金属を流し込むことによって、前記多孔質セラミックス構造体に前記金属を含浸させ、これを凝固させることにより作製する。
溶融金属を含浸させる方法としては、粉末冶金法に基づく方法、例えば、ダイキャスト法(特許文献1)や溶湯鍛造法(非特許文献1)等の圧力鋳造による方法、自発浸透による方法(特許文献2)等といった各種の方法が知られている。
【文献】特表平5-508350号公報
【文献】特開平2-197368号公報
【文献】西田義則、「加圧含浸法による複合材料製造研究の展開」、まてりあ、公益社団法人日本金属学会、平成9年1月1日、第36巻、第1号、40-46ページ
【発明の概要】
【0004】
従来の製造方法では、金属を含浸させる際に、多孔質無機構造体が、それを支える治具、金型等を通じて熱を放散し、局部的な温度不均一を伴い、均質な複合体とならないといった問題がある。或いは、溶融金属が金型に接することにより温度が低下し、部分的な流動性の低下が起こり、それに圧力が加わることにより、多孔質無機構造体が破損される等といった問題がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、複合体に含まれる多孔質無機構造体の破損が抑制され、安定して複合体を作製することができる製造方法及びこの製造方法により製造される複合体を提供する。
【0006】
本発明によれば、平板状の多孔質無機構造体に繊維状無機材料を隣接配置しながら金属を含浸させる複合体の製造方法において、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体、及び繊維状無機材料を用いることにより、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体に金属が含浸されている第1相と、繊維状無機材料に金属が含浸されている第2相とが互いに隣接している構造を有する複合体であり、第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合が50~80体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合が3~20体積%であることを特徴とする複合体の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の一態様によれば、上記の複合体の製造方法は、金属を含浸させる方法がダイキャスト法又は溶湯鍛造法であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様によれば、上記の複合体の製造方法は、前記金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様によれば、上記の複合体の製造方法は、前記第2相からなる層の厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様によれば、上記の複合体の製造方法は、繊維状無機材料が多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の周囲全面を覆う状態とするか、又は、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体を繊維状無機材料2枚で挟む状態とすることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、平板状の多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体に金属が含浸されている第1相と、繊維状無機材料に金属が含浸されている第2相とが互いに隣接している構造を有し、第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合が50~80体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合が3~20体積%であることを特徴とする複合体が提供される。
【0012】
本発明の一態様によれば、上記の複合体は、前記金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様によれば、上記の複合体は、前記第2相からなる層の厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様によれば、上記の複合体は、前記第2相が前記第1相の周囲全面を覆う状態であるか、又は、前記第2相の表裏板面のみに前記第1相が形成された状態であることを特徴とする。
【0015】
本発明の複合体の製造方法によれば、複合体に含まれる多孔質無機構造体の破損が抑制され、安定して複合体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合体の概念的な構成を示す図であって、
図1(a)は複合体の板面方向からの平面図であり、
図1(b)は
図1(a)のA-A’における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の複合体の製造方法及びこの製造方法により製造される複合体の一実施形態を説明する。しかし本発明は、これらの実施形態に限定されないことは自明である。
【0018】
[複合体の製造方法]
本実施形態の複合体の製造方法は、平板状の多孔質無機構造体に繊維状無機材料を隣接配置しながら金属を含浸させる複合体の製造方法において、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体、及び繊維状無機材料を用いることにより、多孔質炭化珪素セラミックス焼結体に金属が含浸されている第1相と、繊維状無機材料に金属が含浸されている第2相とが互いに隣接している構造を有する複合体であり、第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合が50~80体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合が3~20体積%であることを特徴とする。
【0019】
上記の構成からなる複合体の製造方法では、金属を含浸させる際に、多孔質無機構造体からの治具、金型等を通しての熱の放散が少なくなるため、該構造体の局部的な温度不均一が抑えられ、均質な複合体を得ることができる。また、溶融金属の金型等との接触による部分的温度低下も防ぐことができるため、溶融金属の部分的な固化にともなう流動性の低下が起こらず破損が少ないという効果を奏する。
【0020】
多孔質無機構造体を構成する多孔質炭化珪素セラミックス焼結体としては、金属を含浸し得る気孔を有し、含浸操作等において変形、破壊等が生じがたい、例えば10MPa程度の機械的強さを有する各種の多孔質炭化珪素セラミックス焼結体が挙げられる。
【0021】
多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の製造方法に関して、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、原料である炭化珪素(SiC)粉末に、シリカやアルミナ等を結合材として添加して、混合、成形し、800℃以上で焼成することによって得ることができる。
構造体の成形方法についても、特に制限は無く、プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等を用いることができ、必要に応じて保形用バインダーの併用が可能である。
【0022】
多孔質無機構造体に金属を含浸させた第1相の重要な特性は、熱伝導率と熱膨張係数である。多孔質無機構造体中の炭化珪素の含有率が高い方が、熱伝導率が高く、熱膨張係数が小さくなるため好ましいが、炭化珪素の含有率が高くなるとアルミニウム合金が十分に含浸しない場合がある。
実用的には、平均粒子径が、好ましくは40μm以上の粗い炭化珪素粉末を40質量%以上含み、多孔質無機構造体の相対密度が好ましくは55~75%の範囲にあるものが好適である。多孔質無機構造体の強度は、取り扱い時や含浸中の割れを防ぐため、曲げ強度で3MPa以上あることが好ましい。なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(例えば日本電子社製「JSM-T200型」)と画像解析装置(例えば日本アビオニクス社製)を用い、1000個の粒子について求めた径の平均値を算出することによって測定することができる。また、相対密度は、アルキメデス法等によって測定することができる。曲げ強度は、引張試験機(例えば島津製作所社製)によって測定することができる。
【0023】
炭化珪素粉末については、粒度調整を行うことが好ましい。粗粉と微粉とを混合することで、強度発現性が低下せず、得られる複合体の熱伝導率が向上する。そのため、平均粒子径が、好ましくは40~150μmの粗粉40~80質量%と、平均粒子径が好ましくは5~15μmの微粉60~20質量%とを混合した混合粉末が好適である。
【0024】
多孔質炭化珪素セラミックス焼結体は、炭化珪素粉末に結合材を添加した混合物の成形体を、脱脂、焼成することにより得られる。焼成温度が800℃以上であれば、焼成時の雰囲気に関係なく、曲げ強度が3MPa以上の焼結体が得られる。
酸化性雰囲気中では、1100℃を超える温度で焼成すると、炭化珪素の酸化が促進され、アルミニウム-炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下してしまう場合があるので、酸化性雰囲気中では、1100℃以下の温度で焼成することが好ましい。焼成時間は、焼結体の大きさ、焼成炉への投入量、焼成雰囲気等の条件に合わせて適宜決められる。
【0025】
本実施形態の多孔質無機構造体は、上述したとおりに、金属或いは合金を含浸させることが可能な開放気孔を有し、しかも含浸操作において破壊することのない機械的強度を有する炭化珪素セラミックス焼結体であれば、どのようなものでも構わない。
【0026】
上記のような方法によって得られた、平板状の多孔質無機構造体には繊維状無機材料が隣接配置される。繊維状無機材料としては、繊維状のアルミナが好ましい。アルミナ繊維としては、アルミナ含有量が70%以上の結晶質のアルミナ繊維であることが、含浸させる金属との親和性が良いため特に好ましい。アルミナ繊維は、安価で入手し易い。
【0027】
繊維状無機材料としては、特に機械的な強さを必要とせず、ブランケット、マット等のいずれの状態であっても構わない。
【0028】
多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体、及び繊維状無機材料に含浸させる金属については、本実施形態の目的を達成し得れば、どのようなものであっても構わないが、高熱伝導性、軽量性を達成する目的から、アルミニウム、マグネシウム等の軽合金又はそれらの合金が好ましい。前記合金についても格別の制限はなく、汎用のアルミニウム合金やマグネシウム合金を用いることができる。
【0029】
アルミニウム合金の場合には、鋳造のしやすさ、高熱伝導性の発現の点から、Si含有量が4~10%のAC2A、AC2B、AC4A、AC4B、AC4C、AC8B、AC4D、AC8C、ADC10、ADC12等の鋳造用アルミニウム合金や、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系の展伸用アルミニウム合金が特に好ましい。
【0030】
上記の多孔質無機構造体と金属の組み合わせに関して、金属としてアルミニウムあるいはアルミニウム系合金、多孔質無機構造体として炭化珪素を用いたアルミニウム-炭化珪素複合体は、軽量、高熱伝導、セラミック基板との熱膨張の適合性の点で特に優れた組合せである。
【0031】
本実施形態において、金属の含浸方法としては、従来公知のいろいろな含浸方法を適用することができるが、複合体表面に金属を多量に含む第2相を形成させる必要から、圧力鋳造による方法が望ましい。すなわち、ダイキャスト法による場合には、金型のキャビティをプリフォームよりも表面層の分だけ大きめに作り、キャビティのプリフォーム以外の空間に繊維状無機材料を配置して金属を含浸させることにより、表面に第2相を持った複合体を容易に作製することができる。
【0032】
溶湯鍛造による場合には、多孔質無機構造体の表裏面及び/又は側面を繊維状無機材料で挟み、或いは全面を包んだ状態で金属を含浸させることにより、或いは、金型の内面に繊維状無機材料を配置して金属を含浸させることにより容易に作製することができる。
【0033】
本実施形態において、繊維状無機材料は多孔質無機構造体に隣接して設置されていれば良い。「隣接」とは、多孔質無機構造体と繊維状無機材料とが、隣り合って直接的に接している状態を意味する。本実施形態において、繊維状無機材料は、多孔質無機構造体の表裏面及び/又は側面に隣接して設置することができる。繊維状無機材料が多孔質無機構造体の周囲全面(つまり、表裏面及び側面)を覆う状態の場合には、得られる複合体の表面に切削加工性に富む第2相が存在することになり、好ましい。
【0034】
第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は50~80体積%が好ましい。また第2相中に占める繊維状無機材料の割合は3~20体積%が好ましい。このような構成とすることにより、金属を含浸させる際に、局部的に温度が不均一となることを抑制して均質な複合体を作製することができ、溶融金属の部分的な流動性の低下によって多孔質無機構造体が破損されることを抑制することができる。このため、安定して、生産性良く複合体を得ることができる
この様な構成は、第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の気孔率を20~50体積%、また第2相中に占める繊維状無機材料の気孔率を80~97体積%とすることで作製することができる。
【0035】
なお、気孔率は、理論密度と相対密度(アルキメデス法により測定)の差から計算により求めることができる。また、気孔率を調整する方法は、特に限定されない。例えば、繊維状無機材料の気孔率は、フェルト状の繊維状無機材料を圧縮又はほぐす等して調整することができる。多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の気孔率は、使用する炭化珪素粉の粒度配合やバインダーの添加量等によって調整することができる。
【0036】
更に、本実施形態によれば、多孔質無機構造体、繊維状無機材料と溶融金属を流し込む型内空間の大きさとを調整することで、例えば、一部がフィン状に突出した形状の第2相からなる層を有する複合体、第2相からなる層で埋まった穴を有する複合体、一部に肉厚の大きな第2相からなる層を有する複合体等を作製することができ、しかも前記第2相からなる層を従来公知の金属加工法を適用することでいろいろな形状の複合体を得ることができる。
ここで、従来公知の金属加工法としては、前記の平面研削方法、穴あけ加工方法に例示される機械加工法に限定されるものでなく、金属の加工に適用できるあらゆる方法をいう。
【0037】
従って、第2相からなる層の厚み、従って多孔質無機構造体に隣接配置する繊維状無機材料の厚みについては、選択される金属加工方法、加工後の複合体の寸法精度等により異なるが、少なくとも0.5μm以上であれば良い。
金属加工法のうち安価で生産性の高い汎用の機械加工法を適用する場合には、前記第2相からなる層の厚みとしては50μm以上が好ましく、1mm以上であることが一層好ましい。尚、その上限値に関しては、特に限定するべき理由がないが、20mmを越えるときには、例えば、半導体搭載用回路基板の放熱部品として用いるときに、高熱伝導、低熱膨張率であるという複合体の特徴を発揮することが出来ないおそれがある。また、第1相と第2相の熱膨張率の著しい違いにより、複合体の平面度の保持も難しくなる。よって、第2相からなる層の厚みは、好ましくは20mm以下である。
【0038】
[複合体]
上記の実施形態の複合体の製造方法によれば、
図1に示すような、平板状の多孔質炭化珪素セラミックス焼結体からなる多孔質無機構造体に金属が含浸されている第1相2と、繊維状無機材料に金属が含浸されている第2相3とが互いに隣接している構造を有し、第1相2中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合が50~80体積%であり、第2相3中に占める繊維状無機材料の割合が3~20体積%であることを特徴とする複合体1を得ることができる。
【0039】
上記の構成からなる複合体1は、第1相2と第2相3とが互いに同一の金属により連続的につながっているので、互いに隣接する多孔質無機構造体と繊維状無機材料とが形成する界面で剥離等が起こるのを防止できる効果がある。
【0040】
図1の例では、平板状の複合体1の表裏板面を貫通する貫通孔4が設けられている。貫通孔4の周囲には、貫通孔4を形成する際の加工性の点から、第1相2は形成されていないことが好ましい。このような構造とするためには、多孔質無機構造体を形成するときに、予め、貫通孔4が形成される部分の周囲に切欠き部を設けるか、貫通孔4より大きな径を有する貫通孔を設ければよい。
【0041】
図1の例では、第1相2と第2相3との周囲全面を覆うように金属層5が形成されている。金属層5は、複合体の表裏板面にのみ設けられてもよい。
【0042】
上記の実施形態に係る複合体は、例えば、自動車のピストン部品の耐磨耗材料、ヒートシンクなどの放熱材料としての応用が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
平均粒径30μmの炭化珪素(屋久島電工社製:GS-500S)に、バインダーとしてシリカゾル(日産化学工業株式会社製:スノーテックス)を固形分濃度で5質量%添加し、混合し、プレス成形した後、空気中900℃で2時間焼成し、気孔率40%で、大きさ100mm×100mm×3mmの多孔質炭化珪素構造体を作製した。
【0044】
前記の多孔質炭化珪素構造体10個について、それぞれを厚さ10mmのアルミナ質のフェルト(電気化学工業(株)製、アルセンフェルト気孔率90%)2枚で挟み、内径200mmの金型内に納め、更に金型内に800℃で溶融した12質量%のSi、1質量%のMgを含むアルミニウム合金を流し込み、押し棒にて100MPaの圧力で加圧し、複合体を作製した。
冷却後、複合体を切り出した。ここで、第2相(アルミナ質のフェルトにアルミニウム合金が含浸された相)の厚みは2mmであった。破損状態を目視にて観察したが、何ら異常を認めなかった。
【0045】
なお、この場合の第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は60体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合は10体積%であった。
【0046】
〔実施例2〕
平均粒径220μm(大平洋ランダム株式会社製:NG-F80)、16μm(屋久島電工株式会社製:GC#750)、0.8μm(大平洋ランダム株式会社製、NG-4S)の炭化珪素を6:3:1の割合でブレンドし、バインダーとしてシリカゾル(日産化学工業株式会社製:スノーテックス)を固形分濃度で5質量%添加し、混合し、プレス成形した後、空気中900℃で2時間焼成し、気孔率25%で、大きさ100mm×100mm×3mmの多孔質炭化珪素構造体を作製した。
【0047】
前記の多孔質炭化珪素構造体10個について、電気化学工業(株)製、アルセンフェルト(気孔率90%)をほぐして気孔率94%としたアルミナ質のフェルト(厚さ10mm)2枚で挟み、内径200mmの金型内に納め、更に金型内に800℃で溶融した12質量%のSi、1質量%のMgを含むアルミニウム合金を流し込み、押し棒にて100MPaの圧力で加圧し、複合体を作製した。
冷却後、複合体を切り出した。第2相(アルミナ質のフェルトにアルミニウム合金が含浸された相)の厚みは1.5mmであった。破損状態を目視にて観察したが、何ら異常を認めなかった。
【0048】
なお、この場合の第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は75体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合は6体積%であった。
【0049】
〔実施例3〕
平均粒径100μm(大平洋ランダム株式会社製、NG-F150)、11μm(屋久島電工株式会社製、GC-1000F)、炭化珪素を7:3の割合でブレンドし、バインダーとしてシリカゾル(日産化学工業株式会社製:スノーテックス)を固形分濃度で5質量%添加し、混合し、プレス成形した後、空気中900℃で2時間焼成し、気孔率45%で、大きさ100mm×100mm×3mmの多孔質炭化珪素構造体を作製した。
【0050】
前記の多孔質炭化珪素構造体10個について、電気化学工業(株)製、アルセンフェルト(気孔率90%)を圧縮し気孔率82%としたアルミナ質のフェルト(厚さ10mm)2枚で挟み、内径200mmの金型内に納め、更に金型内に800℃で溶融した12質量%のSi、1質量%のMgを含むアルミニウム合金を流し込み、押し棒にて100MPaの圧力で加圧し、複合体を作製した。冷却後、複合体を切り出した。第2相(アルミナ質のフェルトにアルミニウム合金が含浸された相)の厚みは2.5mmであった。破損状態を目視にて観察したが、何ら異常を認めなかった。
【0051】
なお、この場合の第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は55体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合は18体積%であった。
【0052】
〔比較例1〕
アルミナ質のフェルトを用いないこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、得られた10個の複合体について、異常の有無を観察した。超音波探傷試験機にて複合体内部の多孔質炭化珪素構造体が短手方向全幅で割れているものが1個、外観目視にて複合体に3~10mm程度のクラックが認められたものが4個であった。なお、この場合の第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は60体積%であった。
【0053】
〔比較例2〕
アルミナ質のフェルトの気孔率を75%とした以外は、実施例3と同じ操作を行い、得られた10個の複合体について、異常の有無を観察したところ、アルミナ質フェルト部にアルミニウム合金の未含浸が3個認められた。第2相(アルミナ質のフェルトにアルミニウム合金が含浸された相)の厚みは5mmであった。
【0054】
なお、この場合の第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は55体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合は25体積%であった。
【0055】
〔比較例3〕
実施例2と同様の操作にて気孔率15%の多孔質炭化珪素構造体を得ようとしたが作製不可であった。なお、ここで想定した第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は85体積%であった。
【0056】
〔比較例4〕
実施例2と同様の操作にて気孔率60%の多孔質炭化珪素構造体を得ようとしたが作製不可であった。なお、ここで想定した第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は40体積%であった。
【0057】
〔比較例5〕
アルミナ質のフェルトの気孔率をアルセンフェルト(気孔率90%)をほぐして気孔率98%とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、得られた10個の複合体について、異常の有無を観察したところ、外観目視にて3~10mm程度のクラックが認められたものが4個であった。第2相(アルミナ質のフェルトにアルミニウム合金が含浸された相)の厚みは1mmであった。なお、この場合の第1相中に占める多孔質炭化珪素セラミックス焼結体の割合は60体積%であり、第2相中に占める繊維状無機材料の割合は2体積%であった。
【0058】
上記の実施例1から3及び比較例1から5についてまとめたものを表1に示す。
【0059】
【0060】
表1の結果からわかるように、本発明に係る製造方法で作製された複合体は、多孔質炭化珪素構造体に割れやクラックが生じたり、また金属が含浸されていない部分が存在することがない。このように、本発明の複合体の製造方法及びこの製造方法により製造される複合体によれば、複合体に含まれる多孔質無機構造体の破損が抑制され、安定して複合体を作製することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 複合体
2 第1相
3 第2相
4 貫通孔
5 金属層