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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】星型分岐状ジエンゴム
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/40 20060101AFI20221018BHJP
   C08C 19/44 20060101ALI20221018BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20221018BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20221018BHJP
   C08C 19/25 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08C19/40
C08C19/44
C08F236/04
C08F279/02
C08C19/25
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020500722
(86)(22)【出願日】2018-07-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2018069292
(87)【国際公開番号】W WO2019016152
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】17182036.8
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・シュタインハウザー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・カルバウム
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-108978(JP,A)
【文献】特開2014-108977(JP,A)
【文献】特開平07-002958(JP,A)
【文献】特開平07-002959(JP,A)
【文献】特開2017-115085(JP,A)
【文献】特開2013-194219(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-283/00、283/02-289/00、
291/00-297/08、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
星型分岐状ジエンゴムであって、
前記星型分岐状ジエンゴムの合計質量を基準にして15質量%未満のビニル含量(FTIR分光光度法を使用してポリマーフィルムについて測定)、
30~80MUのムーニー粘度(100℃でのML1+4、標準ASTM D1646(1999)に従って測定)、
30~60mPasの範囲の溶液粘度(25℃で、サーモスタット内に置いたB型粘度計を使用し、スチレン中5重量%の濃度のポリブタジエンゴムについて測定)、
100未満のAPHA数(スチレン中5%溶液、DIN EN ISO 6271に準拠して測定)で表される低いゴム変色度、
を有し、かつ、
前記ムーニー粘度の前記溶液粘度に対する比率が1.0より大であり、
前記星型分岐状ジエンゴムが、少なくとも1種の共役ジエンゴムと、式(I):
-R -Si-(R (I)
[式中、
は、グリシドキシであり、
は、場合により置換されていてもよい、場合により1個又は複数の酸素を含んでいてもよいC ~C アルキレンであり、
は、C ~C アルコキシである]
で表されるカップリング剤との反応生成物を含む
星型分岐状ジエンゴム。
【請求項2】
そのポリマー鎖を製造するためのモノマーが、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-オクタジエン、又はそれらの混合物の群から選択される、請求項に記載の星型分岐状ジエンゴム。
【請求項3】
前記カップリング剤が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、請求項又はに記載の星型分岐状ジエンゴム。
【請求項4】
前記星型分岐状ジエンゴムが、300,000g/molより大のピーク分子量(Mp)(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の手段により、ポリスチレン標準を用いて較正して測定)を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の星型分岐状ジエンゴム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の星型分岐状ジエンゴムを製造するための方法であって、
少なくとも1種の共役ジエンモノマーを重合させ、それによって、ジエンポリマーを形成させる工程、及び
前記ジエンポリマーを式(I)で表されるカップリング剤と反応させる工程、
を含む、方法
-R-Si-(R (I)
[式中、
は、グリシドキシであり、
は、場合により置換されていてもよく、場合により1個又は複数の酸素を含んでいてもよいC~Cアルキレンであり、
は、C~Cアルコキシである]。
【請求項6】
前記少なくとも1種の共役ジエンモノマーが、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、1,3-オクタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、又はそれらの混合物から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記カップリング剤が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、請求項又はに記載の方法。
【請求項8】
前記星型分岐状ジエンゴムのpHを、11未満に調節する工程をさらに含む、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンドであって、
請求項1~のいずれか一項に記載の星型分岐状ジエンゴムを含み、
HIPSのためのポリスチレン部分、又はABSのためのスチレン-アクリロニトリルコポリマー部分が、前記星型分岐状ジエンゴムにグラフトされている、
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンド。
【請求項10】
前記星型分岐状ジエンゴムが、ポリ(1,3-ブタジエン)、ポリイソプレン、ポリ(2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン)、ポリ(1,3-ペンタジエン)、ポリ(1,3-ヘキサジエン)、ポリ(1,3-オクタジエン)、ポリ(3-ブチル-1,3-オクタジエン)、ポリ(2-フェニル-1,3-ブタジエン)、又はそれらの混合物の群から選択される、請求項に記載の、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンド。
【請求項11】
前記カップリング剤が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、請求項又は10に記載の、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンド。
【請求項12】
前記星型分岐状ジエンゴムが、グラフトする前に、11未満のpHを有する、請求項11のいずれか一項に記載の、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンド。
【請求項13】
前記星型分岐状ジエンゴムが、グラフトする前に、300,000g/molより大のピーク分子量を有する、請求項12のいずれか一項に記載の、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンド。
【請求項14】
請求項に記載の星型分岐状ジエンゴムの使用であって、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンドにおける、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、星型分岐状(star-branched)ジエンゴム、そのようなゴムを製造するための方法、並びに、たとえば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)及びアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)ポリマーにおけるその組み入れに関する。星型分岐状ポリマーは、慣用的には、1分子あたり少なくとも3個の反応性サイトを有するカップリング剤を使用して調製される。そのような、放射状的又は星型分岐状のマクロ構造を有するポリマーを調製するための方法は、当業者には公知である。カップリング剤を使用してブタジエンのポリマーを調製するための方法は、(特許文献1)及び(特許文献2)に記載されている。市販されている、四官能のカップリング剤を介して結合された、星型分岐状のアニオン重合されたポリブタジエンの一例は、Arlanxeoから入手可能なBuna CB 565ブランドのポリブタジエンである。
【背景技術】
【0002】
星型分岐状ジエンゴムは、HIPSタイプ及びABSタイプの樹脂で使用した場合に、それらの直鎖状の対応品に比較して、際だった利点を示す。それらが、ムーニー粘度対溶液粘度(MV/SV)の高い比率を有しているために、それらは、HIPS及びABSでの高い耐衝撃性を保持しながらも、高い表面光沢性を、効果的にバランスをとりながら達成することを可能にする。
【0003】
(特許文献3)には、ポリブタジエンにおいて、15~35%のビニル含量、25~85ムーニー単位のムーニー粘度(MV)、50~200mPasの溶液粘度(スチレン中、5質量%)、及び0.33<MV/SV<0.67のMV/SV範囲を有する、HIPSのためのポリブタジエンが記載されている。カップリング剤としては、四塩化ケイ素及び四塩化炭素が使用された。しかし、15%以上の高いビニル含量は、HIPSの低温性能を悪化させ、かつ、比較的低いMV/SVとするために、低いMV値(これは、望ましくない高いコールドフロー値をもたらす)、又は、高いSV値(これは、ゴムの溶解時間及びHIPS樹脂の中のゴム粒径に有害である)のいずれが必要とされる。
【0004】
(特許文献4)には、分岐状のブタジエンのホモポリマー及びコポリマーを使用する、HIPSを製造するための方法が記載されている。それらのブタジエンのホモポリマー及びコポリマーは、多官能ハロゲン化合物を用いて調製され、18~32mol%のビニル含量、40~90MUのMV、60~90mPasの溶液粘度(SV)、及び0.78≦ML/SV≦1.43を特徴としている。
【0005】
(特許文献5)では、60mPas未満のSV、85MU未満のMV、0.7を越えるMV/SVを有する星型分岐状ゴムの形成における、ケイ素ベースのカップリング剤が言及されている。これらのゴムは、HIPSタイプ及びABSタイプの樹脂を製造するために使用される。
【0006】
(特許文献6)には、HIPSの表面光沢性と耐衝撃性とをバランスさせるために星型分岐状ポリブタジエンを使用する利点が記載されている。この目的のために使用される星型分岐状ポリブタジエンは、以前はBayerからHX 565の名称で、そして現在ではArlanxeoからCB 565として知られている、市販グレードである。このグレードは、60MUのMV、44mPasのSV、及び1.36のMV/SVを有している。それは、カップリング剤としてのSiClを用いて製造されている。しかし、ハロゲン含有のカップリング剤を用いて製造した分岐状ゴムは、変色を起こすことで知られている。さらに、分岐状ゴムのためにハロゲン含有のカップリング剤を使用すると、それらのゴムをHIPS及びABSプロセスにおいて使用する際に、腐食の問題を起こし得る。
【0007】
ブタジエンゴムの変色を抑制するためのいくつかの手段の記述が存在する。しかし、それらの手段はすべて、重合プロセスの後で添加剤を加えることを必要としている[(特許文献7):脂肪族ジカルボン酸の添加;(特許文献8):エポキシ化ダイズオイルの添加;(特許文献9):亜ジチオン酸ナトリウムの添加;(特許文献10):リン酸エステルの添加]。
【0008】
したがって、HIPS及びABSポリマー用途のための、(高いMV/SVによって表される)高度の星型分岐、低い溶液粘度、及び低いゴム変色度を有する、星型分岐状ポリブタジエンを提供することについての必要性が認識されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第4,403,074A号明細書
【文献】国際公開第99/09081号パンフレット
【文献】米国特許第4,183,877号明細書
【文献】米国特許第4,639,494号明細書
【文献】欧州特許第0 277 687号明細書
【文献】国際公開第99/09081号パンフレット
【文献】米国特許第4,403,074号明細書
【文献】国際公開第9829457号パンフレット
【文献】国際公開第2001/094422号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2008/0114137号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、本発明による星型分岐状ブタジエンゴムが、上述した問題を克服するということが今や見出された。これらのブタジエンゴムは、ハロゲンフリーのカップリング剤を用いて製造され、15質量%未満のビニル含量、1.0を越えるMV/SV、30mPas<SV<60mPas、30MU<MV<80MUを有し、かつ、APHA数(スチレン中5%溶液)で表して、100未満の低いゴム変色度を示すことを特徴とする。
特に断らない限り、本明細書において言及及び引用したすべての特許、特許出願、公開特許、及びその他の刊行物は、本明細書において参照することにより、あたかもそれらのすべてが本明細書の中で言及されたがごとくに、そのすべてが本明細書に組み入れられたものとみなされる。
【0011】
広くは、本発明の少なくとも一つの現に好ましい実施態様によれば、ゴムの合計質量を基準にして15質量%未満のビニル含量、30~80MUのムーニー粘度(100℃でのML1+4)、30~60mPasの範囲の溶液粘度、APHA数(スチレン中5%溶液)で表して100未満の低いゴム変色度を有する星型分岐状ジエンゴムが企図される。ここで、ムーニー粘度の溶液粘度に対する比率は、1.0より大きい。さらに、一つの実施態様においては、前記星型分岐状ゴムは、少なくとも1種の共役ジエンゴムと式(I)で表されるカップリング剤との反応生成物を含む:
-R-Si-(R (I)
[式中、
は、グリシドキシであり、
は、場合によって置換されていてもよく、場合によって1個又は複数の酸素を含んでいてもよい、C~Cアルキレンであり、そして
は、C~Cアルコキシである。]
【0012】
一つの実施態様においては、ゴムの合計質量を基準にして15質量%未満のビニル含量、30~80MUの範囲のムーニー粘度、30~60mPasの範囲の溶液粘度、APHA数(スチレン中5%溶液)で表して100未満の低いゴム変色度、1.0より大の、ムーニー粘度の溶液粘度に対する比率を有する、星型分岐状ジエンゴムを製造するための方法が存在し、この方法には、少なくとも1種の共役ジエンモノマーをアニオン重合させ、それによりジエンポリマーを形成させる工程、及び、そのジエンポリマーの活性な鎖末端を、先に挙げた式(I)で表されるカップリング剤と反応させる工程が含まれる。
【0013】
さらなる実施態様においては、上述の星型分岐状ジエンゴムを含む、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)コンパウンド(compound)又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンド(compound)が存在する。これらのコンパウンドにおいては、HIPSのためのポリスチレン又はABSのためのスチレン-アクリロニトリルコポリマーが、前記星型分岐状ジエンゴムにグラフトされており、かつ、前記星型分岐状ジエンゴムが、前記グラフトの前に、ゴムの合計質量を基準にして15質量%未満のビニル含量、30~80MUのムーニー粘度(100℃でのML1+4)、30~60mPasの範囲の溶液粘度、APHA数(スチレン中5%溶液)で表して100未満の低いゴム変色度を有し、ムーニー粘度の溶液粘度に対する比率が1.0より大であり、さらに、前記星型分岐状ゴムが、少なくとも1種の共役ジエンゴムと、前述の式(I)で表されるカップリング剤との反応生成物を含んでいる。
【0014】
本発明の別の実施態様においては、その星型分岐状ジエンゴムのポリマー鎖を製造するためのモノマーが、以下の群から選択される:1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-オクタジエン、又はそれらの混合物。特に好ましいのは1,3-ブタジエンである。
【0015】
本発明の別の実施態様においては、そのカップリング剤が、3-グリシドキシ-プロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
【0016】
別の実施態様においては、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンドにおける、特にそれらの耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)又はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コンパウンドの変色性を改良するための、本発明の星型分岐状ジエンゴムの使用が存在する。
【0017】
本発明の他のさらなる特徴及び利点と共に、本発明をよりよく理解するためには、以下の記述を参照されたい。本発明の範囲は、添付の請求項で示される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、本発明の好ましい実施態様を説明しているが、本発明が、実施態様そのものに限定される訳ではなく、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、各種その他の変更及び修正が当業者によって実施され得ることを理解されたい。この時点で注意すべきことは、本発明の範囲には、本明細書に記述される、一般的な項目又は好ましい範囲とされた、成分、値及び/又は方法パラメーターの範囲のすべての可能な組合せが含まれるということである。
【0019】
相当するポリマーアニオンを調製するために慣用されている各種公知のいずれのジエンも、星型分岐状ジエンゴムを調製するためのモノマーとして使用することができる。カップリングされたジエンポリマーを製造するための好ましいジエンモノマーは、以下のものである:1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、及び/又は1,3-オクタジエン。特に好ましいのは1,3-ブタジエンである。
【0020】
それらのジエンポリマーは、アニオン溶液重合によって調製するのが好ましい。アニオン溶液重合方法のための重合開始剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属をベースとするもので、たとえば以下のものが挙げられる:メチルリチウム、エチルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、n-ペンチルリチウム、n-ヘキシルリチウム、シクロヘキシルリチウム、オクチルリチウム、デシルリチウム、2-(6-リチオ-n-ヘキソキシ)テトラヒドロピラン、3-(tert-ブチルジメチルシロキシ)-1-プロピルリチウム、フェニルリチウム、4-ブチルフェニルリチウム、1-ナフチルリチウム、p-トルイルリチウム、二級アミンのリチウムアミド、たとえば、リチウムピロリダイド、リチウムピペリダイド、リチウムヘキサミチレンイミド、リチウムジフェニルアミド。これらのリチウムアミドは、その場(in situ)で有機リチウム化合物を二級アミンと反応させることによって生成させることも可能である。n-ブチルリチウム及びsec-ブチルリチウムを使用するのが好ましい。
【0021】
アニオン溶液重合開始剤の量は、所望するポリマーの性質及び反応条件に依存して、変化させることができる。一つの実施態様においては、約0.05~約0.3phm(100質量部のモノマーあたりの部数)の重合開始剤を使用するのが好ましい。好ましくは約0.08~約0.25phm、そして特に好ましくは、約0.1~約0.22phmである。
【0022】
重合反応は、慣用される方法により、一段又は多段で、それぞれバッチ式又は連続式で実施することができる。直列に並べた複数の、好ましくは少なくとも2基、特には2~5基の反応器からなる、反応器カスケードでの連続法も可能である。
【0023】
溶液重合方法は、例えば以下の文献に記載がある:I.Franta,Elastomers and Rubber Compounding Materials,Elsevier,1989,pp.113~131;Houben-Weyl,Methoden der Organischen Chemie [Methods of Organic Chemistry],Thieme Verlag,Stuttgart,1961,Volume XIV/1、pp.645~673若しくはVolume E 20(1987),pp.114~134及びpp.134~153;並びに、Comprehensive Polymer Science,Vol.4,Part II(Pergamon Press Ltd.,Oxford,1989),pp.53~108。
【0024】
好適なジエン重合方法は、溶媒中で実施される。重合方法のために使用される好適な溶媒は、不活性な非プロトン性溶媒、たとえば、パラフィン系炭化水素、たとえば、異性体のブタン類、ペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類、オクタン類、及びデカン類、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、又は1,4-ジメチルシクロヘキサン、又は芳香族炭化水素、たとえば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、又はプロピルベンゼンなどである。これらの溶媒は、個別に使用しても、組み合わせて使用してもよい。好ましいのは、シクロヘキサン、n-ヘキサン、及びヘキサン異性体である。極性溶媒とブレンドすることも、同様に可能である。
【0025】
本発明による方法のための溶媒の量は、使用するモノマーの全量100gを規準にして、通常は100~1000g、好ましくは200~700gである。しかし、溶媒を存在させずに、使用するモノマーを重合させることも可能である。
【0026】
重合方法を実施するために可能な方法においては、モノマー及び溶媒を最初の仕込み物として使用し、次いで重合開始剤又は触媒を添加することによって、重合方法を開始させる。フィード方法において原料を重合させることも可能であり、その場合、モノマー及び溶媒を重合反応器に加えるが、重合開始剤又は触媒は、初期仕込み物として使用するか、又はモノマー及び溶媒と共に添加する。いくつかの変法も可能であって、たとえば、反応器内への初期仕込み物として溶媒を使用し、重合開始剤又は触媒を添加し、次いでモノマーを添加する。重合方法を連続法で実施することも可能である。いずれの場合においても、その重合方法の途中又は終了時に、さらなるモノマー及び溶媒を添加することも可能である。
【0027】
重合時間は、所望の転化率を得るのに必要とされる、数分から数時間までと、広く変化させることができる。一つの実施態様においては、その重合時間が、通常で約5分から4時間まで、好ましくは10分から2時間までである。重合方法は、大気圧或いは高圧(1~10bar)のいずれでも実施することができる。また別の実施態様においては、その転化率が、少なくとも約90パーセント、好ましくは少なくとも約99パーセントになるまで転化が実施される。温度は、約-20℃~約160℃、好ましくは約20℃~約140℃、より好ましくは約50℃~約120℃の間で変化させてよい。
【0028】
重合溶媒をその重合方法から、慣用される方法、たとえば、蒸留、水蒸気ストリッピング、又は真空をかけること、場合によっては高温で真空をかけることによって除去することができる。
【0029】
星型分岐状ジエンゴムを製造するためのカップリング反応は、当業者が利用可能な慣用される方法を使用して実施すればよく、その際、反応性の鎖末端を有するジエンポリマーを、カップリング剤と反応させる。このカップリング反応は、重合の場合と同じ反応器又は別の反応器の中、及び同じ溶媒又は別の溶媒中で実施することができる。
【0030】
本発明のカップリングされたポリマーの調製は、二段の工程で実施するのが好ましい。その第一の工程でポリジエンを調製し、それを、その第二の工程において本明細書で定義されたカップリング剤と反応させる。これらのカップリング剤は、調製されることとなるポリマーにおいて所望される性質に応じて、重合反応の任意の所望の時点で添加することができる。
【0031】
一つの好ましいアプローチにおいては、重合反応が完了した後でカップリング剤を添加する。したがって、ジエンポリマーとカップリング剤とのカップリング反応が、次いで、第二の工程で実施される。本発明のカップリング剤は、好ましくは少なくとも3個のポリジエン鎖に結合することが可能な多官能化合物である。そのようなカップリング剤は、式(I)で表される
-R-Si-(R (I)
[式中、
は、グリシドキシであり、
は、場合によって置換されていてもよく、場合によって1個又は複数の酸素を含んでいてよいC~Cアルキレンであり、
は、C~Cアルコキシである]。
【0032】
特に好ましいカップリング剤は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
【0033】
カップリング剤とポリジエンとの間のカップリング反応では、重合反応で得られた重合混合物を、上述のカップリング剤と混合することができる。そのカップリング剤は、重合工程に関連して先に挙げたような、適切な有機溶媒の中に溶解させてもよい。特に好ましい溶媒は、シクロヘキサンである。
【0034】
そのカップリング反応においては、カップリング反応を邪魔する可能性がある妨害化合物を排除するのが有利である。これらの妨害化合物の例としては、二酸化炭素、酸素、水、アルコール、並びに有機及び無機の酸が挙げられる。
【0035】
使用するカップリング剤の量は、所望されるカップリングの程度に依存する。カップリング剤の量は、好ましくは重合開始剤又は触媒の1モルあたり、0.1~0.4モルの範囲のカップリング剤、特には重合開始剤又は触媒の1モルあたり、0.2~0.3モルのカップリング剤である。
【0036】
カップリング反応は通常、重合反応終了時に得られる温度にほぼ対応する温度で実施される。このことは、そのカップリング反応が、約30℃~160℃、好ましくは50℃~120℃の温度で実施されることを意味している。カップリング反応は、大気圧、又はそうでなければ、昇圧下(1~10bar)で同様に実施することができる。反応時間が、約1分~約1時間の範囲であるのが好ましい。
【0037】
カップリング反応の後で、得られた反応混合物を、活性水素を含む停止剤、たとえば、アルコール、酸、若しくは水、又は適切な混合物を用いて、処理することができる。星型分岐状ポリマーを単離する前に、その反応混合物に、抗酸化剤を添加することもできる。
【0038】
一つの実施態様においては、得られた星型分岐状ジエンゴムのpHを、11未満、好ましくは10未満、より好ましくは9.5未満に調節する。このpHの調節は、慣用される手段、たとえば酸(たとえば、鉱酸、カルボン酸)を添加することにより達成すること、又は、pHの調節を、水蒸気ストリッピングし、その際そのストリッピング用の水に添加剤を添加すること、などによって達成することが可能である。
【0039】
溶媒は、慣用される方法、たとえば、蒸留、水蒸気ストリッピング、又は真空をかけること、場合によって高温で真空をかけることによって除去することができる。
【0040】
本発明の星型分岐状ジエンゴムの分子量は、広い範囲で変化させることができる。本発明のポリマーを従来の用途で用いるためには、そのピーク分子量を、300,000g/molより高くするのが好ましい。
【0041】
星型分岐状ジエンゴムのムーニー粘度(MV)及び溶液粘度(SV)は、出発物質、所望する性質、及び採用する方法に依存して、変化させることができる。しかし、カップリングされたジエンポリマーのムーニー粘度(100℃でのML1+4)は、典型的には約30~約80MU、好ましくは約40~約70、より好ましくは約45~約65MUである。
【0042】
スチレン中5パーセント溶液の溶液粘度は、摂氏25度の温度で測定して、典型的には約30~約60mPas、好ましくは約40~約50mPasである。
【0043】
本発明の星型分岐状ジエンゴムは、HIPS樹脂及びABS樹脂を製造する際に使用することができる。一つの実施態様においては、この星型分岐状ジエンポリマーを含むHIPS樹脂又はABS樹脂が存在する。好ましい実施態様においては、この星型分岐状ジエンポリマーを含むHIPS樹脂又はABS樹脂の相対的な変色度が、ハロゲン含有カップリング剤を使用して調製したカップリングされたジエンゴムを含むそのようなHIPS樹脂又はABS樹脂に比較して、低くなる。
【0044】
HIPS又はABS樹脂組成物の中に存在させる星型分岐状ジエンポリマーの量は、その組成物の合計質量を基準にして、約3~約20質量パーセントである。一つの好ましい実施態様においては、そのカップリングさせたジエンポリマーが、5~15質量パーセント、特に好ましくは7~13質量パーセントの量で存在している。
【0045】
HIPS樹脂又はABS樹脂と、カップリングさせたジエンポリマーとを含む本発明の組成物は、適切な量のカップリングさせたジエンポリマーの存在下で、それぞれ、スチレンを重合させること、又はスチレンとアクリロニトリルとを共重合させることにより調製するのが好ましい。
【0046】
HIPS組成物又はABS組成物中での星型分岐状ジエンポリマーの適切な量は、所望する特性に応じて変化するであろう。HIPS組成物のための一つの実施態様においては、スチレンを、スチレンと星型分岐状ジエンゴムとの合計質量を基準にして、約3~約20質量パーセントの星型分岐状ジエンゴムの存在下で重合させてもよい。一つのABS組成物の実施態様においては、スチレン及びアクリロニトリルを、スチレン、アクリロニトリル、及び星型分岐状ジエンゴムの合計質量を基準にして、2~約20質量パーセントの星型分岐状ジエンゴムの存在下で共重合させるのがよい。HIPS組成物及びABS組成物の中に、当業者に好ましいことが認められている追加のポリマーが含まれていてもよい。
【実施例
【0047】
実験
本明細書で使用されるムーニー粘度(MV)は、標準ASTM D1646(1999)によって求められ、100℃でサンプルのトルクを表す。測定したムーニー粘度は、「ムーニー単位」(MU、100MU=8.3Nm)で示される。ゴムサンプルを、1分間予熱し、4分後にトルクを読み取る(100℃でのML1+4)。
【0048】
本明細書で使用される溶液粘度(SV)は、25℃でのサーモスタット内に置いたB型粘度計を使用することにより、スチレン中5質量%の濃度のポリブタジエンゴムについて測定する。
【0049】
ビニル含量は、ポリマーフィルムについて、FTIR分光光度法を用いて測定する。
【0050】
ピーク分子量Mpは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の手段により、ポリスチレン標準を用いて較正して測定する。
【0051】
APHA色測定は、DIN EN ISO 6271に従って実施する。この方法では、ゴムのスチレン中5質量%の溶液の色を、APHAカラースケール(白金/コバルトスケール)と比較する。
【0052】
MV/SV比は、ムーニー粘度(上述)の溶液粘度(上述)に対する比として計算する。
【0053】
pH値は、以下の手順に従って測定する:2gのゴムを、18gのトルエン中に溶解させる。20gの水を加え、その2相系を2時間振盪させる。その後で、その水相のpH値を測定する。
【0054】
本発明を説明するために、以下に実施例を示すが、それらは、いかなる限定効果をもたらすものでもない。
【0055】
実施例1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いてカップリングされたポリブタジエンゴム
スターラー及びジャケットを取り付けた20Lのスチール製反応器に、不活性条件下で、8.5kgの工業用ヘキサン及び1.5kgのブタジエンを充填した。27.6mmolのn-ブチルリチウム(ヘキサン中23質量%溶液)を、シリンジを使って添加した。その反応混合物の温度を、60分間、70℃に保った。この重合工程の後、6.9mmolの3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシランを、シリンジを使って添加し、30分間撹拌を続けた。0.2質量%の安定剤:2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノールを添加してから、溶媒を除去するために、そのポリマー溶液に、スチーム-ストリッピングを適用した。そのストリッピング水には、ゴムの量を基準にして、0.2質量%の量の酢酸カルシウムを含んでいた。水で湿潤されたゴムの塊を、真空オーブン中65℃で16時間かけて乾燥させた。その乾燥させたポリブタジエンゴムは、57.5MUのムーニー粘度(100℃でのML1+4)、46.7mPasの溶液粘度、1.23のMV/SV、9.2質量%のビニル含量、341kg/molのピーク分子量、及び68のAPHA数を有していた。
【0056】
さらなるカップリング剤でも同じ手順を適用した。それらの結果を表1にまとめた。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の値から理解される通り、カップリング剤の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(実施例1及び2)を使用すると、高いピーク分子量及び100未満のAPHA数と組み合わせて、高いMV/SV比で表される高い星型分岐効率が得られる。