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特許7160906トリフロキシストロビンの改善された調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】トリフロキシストロビンの改善された調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 249/02 20060101AFI20221018BHJP
   C07C 251/24 20060101ALI20221018BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20221018BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221018BHJP
   A01N 37/50 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C07C249/02
C07C251/24
B01J31/02 102Z
C07B61/00 300
A01N37/50
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020514615
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 IN2018050560
(87)【国際公開番号】W WO2019049167
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】201721032019
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】516242699
【氏名又は名称】ヒカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ロダ カムレシュ カンティライ
(72)【発明者】
【氏名】ウダワント サンディップ ポパトラオ
(72)【発明者】
【氏名】パサゲ ディーパク ババサヘブ
(72)【発明者】
【氏名】ラオ ラコンダ ナガプラサダ
(72)【発明者】
【氏名】ゴシュ サントシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ナンビアール スディール
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/144924(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/085747(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103787916(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110845358(CN,A)
【文献】特表2002-542225(JP,A)
【文献】国際公開第2008/067039(WO,A1)
【文献】Nongyao,2013年,Vol.52(4),p.258-259,262
【文献】Organic Letters,2015年,Vol.17(3),p.496-499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
A01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のトリフロキシストロビンの改善された調製方法であって、
【化1】
a)式(1)を有する1-アミノ-2-メチルベンゼンを酸の存在下でアルカリ金属亜硝酸塩と反応させることにより、式(2)を有する2-メチルベンゼンジアゾニウム塩化物を調製する工程と、
【化2】
)溶媒又は溶媒の混合物の中で式(3)を有する2-オキソ酢酸を塩基の存在下でメトキシルアミン塩酸塩と反応させることにより、式(4)を有する2-メトキシイミノ-酢酸を得る工程と、
【化3】
)溶媒又は溶媒の混合物の中で前記式(2)の化合物をカルボン酸の一ナトリウム塩、二ナトリウム塩、一カリウム塩若しくは二カリウム塩又は塩基と金属硫酸塩との存在下で前記式(4)の化合物と反応させることにより、式(5)を有する(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸を得る工程と、
【化4】
)溶媒若しくは溶媒の混合物を用いて又は用いずに、前記式(5)の化合物を酸及びメタノールと反応させることにより、式(6)を有する(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸メチルエステルを得る工程と、
【化5】
)溶媒又は溶媒の混合物の中で前記式(6)の化合物を塩基の存在下で触媒を用いて又は用いずにハロゲン酸金属塩又はN-ブロモスクシンイミドと反応させることにより、式(7)を有する(E)-2-(2-ハロメチルフェニル)-2-メトキシイミノ酢酸メチルエステルを得る工程と、
【化6】
)溶媒又は溶媒の混合物の中で前記式(7)の化合物を塩基の存在下で相間移動触媒を用いて又は用いずに式(8)を有する1-(3-トリフルオロメチル-フェニル)-エタノンオキシムと反応させることにより、トリフロキシストロビン 式(I)を得る工程と
【化7】
を備える方法。
【請求項2】
前記式(2)がインサイツで調製される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)で使用される前記アルカリ金属亜硝酸塩が、亜硝酸ナトリウム及び亜硝酸カリウムからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)の前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)で使用される前記溶媒が、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)の前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)の前記金属硫酸塩が硫酸銅である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)の前記溶媒が、ヘプタン、モノクロロベンゼン、イソパラフィン系炭化水素及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)の前記酸が、硫酸、塩酸及び塩化チオニルから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)の前記溶媒が、モノクロロベンゼン、二塩化エチレン、ジクロロベンゼン及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程(e)の前記ハロゲン酸金属塩が、臭素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、塩素酸カリウム、ヨウ素酸カリウム及びN-ブロモスクシンイミドからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程(e)の前記触媒が、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、アゾビスイソブチロニトリル及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程(e)の前記塩基が、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程(e)の水と組み合わせた前記溶媒が、二塩化エチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、アセトニトリル、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
工程(f)の前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
工程(f)の前記相間移動触媒が、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化カリウムからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
工程(f)の前記溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、トルエン、モノクロロベンゼン、プロピオニトリル、アセトニトリル及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
1又はすべての工程がインサイツで実施される請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率及び高化学純度で環境にやさしく商業的に実行可能な様式の式(I)のトリフロキシストロビンの改善された調製方法に関する。
【化1】
【背景技術】
【0002】
トリフロキシストロビンは、ストロビルリン系殺真菌剤のうちの1つである。トリフロキシストロビンは、化学的には、式(I)として表されるように、[(E)-メトキシイミノ]-{2-[1-(3-トリフルオロメチル-フェニル)-エト-(E)-イリデンアミノオキシメチル]-フェニル}-酢酸メチルエステルとして知られている。トリフロキシストロビンは、良好な予防特性及び治癒特性とともに広い範囲の殺真菌作用を保有することが知られている。広い範囲の活性及び商業的な関心を考慮して、トリフロキシストロビン及び中間体につながる多くの合成経路が文献で報告されている。それらは、以下の論述で要約される。
【0003】
米国特許第5,238,956号明細書は、標的分子の合成における中間体としての(2-ブロモメチル-フェニル)-[(E)-メトキシイミノ]-酢酸メチルエステル(中間体7)の使用を開示するが、調製方法は記載されていない。この特許は、(E,E)-メチル 3-メトキシ-2-[2-(メチル(3-トリフルオロメチルフェニル)オキシイミノメチル)フェニル]-プロペノエートのトリフロキシストロビンへの2工程での変換も開示する。この反応の出発物質の由来は記載されていない。
【0004】
米国特許第6,444,850号明細書は、フルオロビニルオキシフェニル部分を有する新規な殺真菌性化合物及びその調製方法を開示する。この文献は、(2-ブロモメチル-フェニル)-[(E)-メトキシイミノ]-酢酸メチルエステル(中間体7)の調製を開示する。この方法では、2-ブロモトルエンが、Grignard反応、オキシム形成、及びその後の臭素化反応により中間体(7)へと変換される。この中間体(7)は、次いで、トリフロキシストロビンへと変換される(スキーム1)。
【0005】
【化2】
【0006】
この方法の欠点は、鍵となる原料2-ブロモトルエンが比較的高価であること、Grignard反応は厳密な乾燥条件が維持されることを必要とすること、さらに、(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸メチルエステル(中間体6)が試薬N-ブロモスクシンアミド(NBS)を用いてブロモ誘導体(E)-2-(2-ブロモメチルフェニル)-2-メトキシイミノ酢酸メチルエステル(中間体7)へと変換されるが、このN-ブロモスクシンアミド(NBS)は他の臭素化反応への代替物と比べて高価な試薬であることである。
【0007】
米国特許第6,670,496号明細書は、[(E)-ヒドロキシイミノ]-o-トリル-酢酸メチルエステル(5A)の調製を記載するが、この中間体のさらなる利用は、この特許では明確には触れられていない。
【化3】
【0008】
国際公開第2013/144924A1号パンフレットは、2-メチル安息香酸から出発して、この酸が酸塩化物中間体(B)に変換され、次いで、これがシアン化ナトリウム(NaCN)で処理されてケトニトリル中間体を生成する多工程でのトリフロキシストロビンの調製を記載する(スキーム2)。このケトニトリルは、次に、メタノール中の乾燥塩化水素酸で処理され、所望の中間体(C)を形成する。しかしながら、この工程で、約25%収率分が、望まれない中間体(D)の形成のため失われる。さらに、NaCNは塩酸又は系中のいずれかの他の酸性残渣と反応して有毒なシアン化水素(HCN)の生成につながりうるので、NaCNの使用は深刻なリスクを伴う。周囲環境へのHCNの漏出を回避するために、HCNの存在は、工程2及び工程3で監視される必要がある。
【0009】
【化4】
【0010】
さらに、形成された所望の中間体(C)は、中間体(D)を伴う反応混合物の中に存在し、この中間体(D)は、物理的な方法によっては分離することができず、従って、中間体(C)は、実質的に及び選択的に加水分解されてケト酸を与える必要があり、このケト酸は、この合成の後半の段階で再びエステル化を受ける。それゆえ、これらの追加の操作は、この合成経路に2つの余分の合成工程の分の大きい負荷をかける。このようにして得られたケト酸は、メトキシルアミン塩酸塩で処理され、中間体(5)を約1:1の比のE/Z異性体混合物として与えた。この中間体(5)は、次に、塩化チオニル(SOCl)及びメタノールで処理され、(5つの)工程にわたって40%全収率でエステル中間体(6)を与えた。さらに、中間体(6)の臭素化は、中間体(7)を76%収率で与えた。次に、中間体(7)は、溶媒としてのメチルイソブチルケトン(MIBK)及び塩基としての炭酸カリウム(KCO)を用いて110℃~120℃で中間体(8)とカップリングされ、トリフロキシストロビンを65%単離収率で与えるが、これは、商業的な運転にとっては満足できるものではない。この経路の全収率は、わずか19%であり、これは、あまり高くはない。トリフロキシストロビンの調製のためのこの方法では、種々の工程が関与し、そのため、この経路の全体のサイクル時間は長いほうであり、より大量の流出物がこの方法により発生し、これは、本方法をより煩わしいものにする。
【0011】
国際公開第2017/085747A2号パンフレットは、トリフロキシストロビンの調製方法を開示する。2-メチルベンズアルデヒドがシアノヒドリン中間体へと変換され、この中間体はさらにアミド中間体へと加水分解され、このアミド中間体はさらにエステル化されてエステル中間体を与え、このエステル中間体はさらにケトエステル中間体へと変換される。このケトエステル中間体は、中間体(5)へと変換され、次いでエステル化されて中間体(6)を与え、この中間体(6)は臭素化されて中間体(7)を与えた。この特許出願は、(E)-2-(2-ブロモメチルフェニル)-2-メトキシイミノ酢酸メチルエステル(中間体7)と1-(3-トリフルオロメチル-フェニル)-エタノンオキシム(中間体8)とのカップリングでトリフロキシストロビンを生成すること(スキーム3に描かれているとおり)も記載する。使用される出発物質である2-メチルベンズアルデヒドは高価な原料である。
【0012】
【化5】
【0013】
トリフロキシストロビンを調製するための上記の先行技術の方法は、ある欠点を有する。例えば、上記方法のいくつかは、長い合成経路、シアン化ナトリウム/シアン化カリウム等の有毒な試薬の使用を伴う多工程を含み、他の方法のいくつかは、低収率及び経済的な実行可能性が低いという問題を抱える。先行技術の方法のいくつかは、Grignard反応を用いる方法等、厳密な乾燥条件を必要とする。一部の先行して報告された合成経路は、より高価な出発物質を利用している。さらに、長い合成経路に起因して、膨大な流出物が発生し、これは、結果としてトリフロキシストロビンの調製のコストを上昇させる。上述の欠点に基づくと、先行技術の方法は、商業規模の運転では、トリフロキシストロビンの調製に好適ではない可能性がある。
【0014】
先行技術におけるこれらの短所に対処するため、及びトリフロキシストロビンについての工業的にかつ経済的に実行可能な方法を開発するために、本発明者らは、本発明を探索する動機を持ち、そして驚くべきことに、簡単にトリフロキシストロビンへとさらに変換される[(E)-メトキシイミノ]-o-トリル-酢酸(化合物5)を一工程で選択的に調製するための改善された方法を見出した。
【0015】
本発明は、[(E)-メトキシイミノ]-o-トリル-酢酸(化合物5)の選択的合成及びこの[(E)-メトキシイミノ]-o-トリル-酢酸(化合物5)のトリフロキシストロビン(I)へのさらなる変換に関し、この経路は、o-トルイジンから出発して4つの単純な工程を含む。o-トルイジン(化合物1)は、亜硝酸ナトリウムで処理され、2-メチルベンゼンジアゾニウム塩化物(化合物2)を生成し、この2-メチルベンゼンジアゾニウム塩化物(化合物2)は、硫酸銅又は硫酸銅水和物の存在下でグリオキシル酸(E)メトキシム(化合物4)でさらに処理されて、(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸(化合物5)をより良好な収率及び純度で形成する。この化合物(5)は、選択的にE-異性体であり、次いで3つの単純な工程でトリフロキシストロビンへと非常に良好な収率及び高純度(98%超)で変換される。本発明における鍵となる出発物質はo-トルイジンであり、このo-トルイジンは、高価ではなく、商業的なレベルで簡単に入手することができる。o-トルイジンのジアゾ化の後、ジアゾ化物は、次いでカップリング相手である、安定であり必要に応じて固体生成物として単離することができるグリオキシル酸(E)メトキシム(化合物4。化合物3から調製される)で処理される。本発明では、化合物(5)は、単一異性体、すなわち必要とされる異性体の(E)で生成され、これは、メタノール及び硫酸、又はメタノール及び塩化チオニルを用いて、2工程にわたって60%全収率で(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸メチルエステル(化合物6)へとエステル化された。化合物(6)はハロゲン酸金属塩の存在下で臭素化され、化合物(7)を生成した。さらには、溶媒としてのアセトン及び塩基としてのKCOを用いた(E)-2-(2-ブロモメチルフェニル)-2-メトキシイミノ酢酸メチルエステル(化合物7)と化合物(8)との20℃~30℃でのカップリングにより、トリフロキシストロビンが90%単離収率で得られた。あるいは、粗製化合物(5)は、化合物(5)に対して酸-塩基処理を適用することにより、化合物(6)へ、さらに化合物(7)へと化合物(6)の単離なしに変換することができる。これは、反応時間を短縮することになり、商業規模での光熱費を低減することになる。本発明における合成工程は、容易であり、特別な設備は何も必要とはしない。全体的な取り扱い及び生成物収率は良好であり、商業的な大規模で再現可能である。トリフロキシストロビンの調製について成し遂げられる全収率は、報告されている全収率、すなわち19%、と比べて40.2%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許第5,238,956号明細書
【文献】米国特許第6,444,850号明細書
【文献】米国特許第6,670,496号明細書
【文献】国際公開第2013/144924A1号パンフレット
【文献】国際公開第2017/085747A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の主な目的は、単純で、経済的で、使いやすく及び商業的に実行可能である、式(I)の化合物の改善された調製方法を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、商業規模で実行しやすく、試薬(1又は複数種)及び有機溶媒(1又は複数種)の過剰な使用を回避しやすく、本発明を生態系に優しいものにする、式(I)の化合物の改善された調製方法の調製を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、高化学純度で高収率の式(I)の化合物の改善された調製方法の調製を提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸(化合物5)の単一の異性体の改善された調製方法を提供することである。
【0021】
本発明のなお別の目的は、化合物(5)、化合物(6)及び化合物(7)の単離をして、又は単離をしないで式(I)の化合物を調製することができるということである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って、本発明は、式(I)のトリフロキシストロビンの改善された調製方法であって、
【化6】
a)式(1)の化合物を酸の存在下でアルカリ金属亜硝酸塩と反応させることにより、式(2)の化合物を得る工程と、
b)好適な溶媒又はその溶媒の混合物の中で式(3)の化合物を塩基の存在下でメトキシルアミン塩酸塩と反応させることにより、式(4)の化合物を得る工程と、
c)好適な溶媒又はその溶媒の混合物の中で式(2)の化合物を酸の塩又は塩基と金属硫酸塩との存在下で式(4)の化合物と反応させることにより、式(5)の化合物を得る工程と、
d)好適な溶媒若しくはその溶媒の混合物を用いて又は用いずに、式(5)の化合物を酸及びメタノールと反応させることにより、式(6)の化合物を得る工程と、
e)好適な溶媒又はその溶媒の混合物の中で式(6)の化合物を塩基の存在下で触媒を用いて又は用いずにハロゲン酸金属塩と反応させることにより、式(7)の化合物を得る工程と、
f)好適な溶媒又はその溶媒の混合物の中で式(7)の化合物を塩基の存在下で相間移動触媒を用いて又は用いずに式(8)の化合物と反応させることにより、式(I)の化合物を得る工程とを備える方法を提供する。
【0023】
上記の方法は、以下の一般合成スキームに示される。
【化7】
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、今からこれ以降に、より十分に説明される。本発明は、多くの異なる形態で実施されてもよく、示される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が適用の法的必要条件を満たすように提供される。本願明細書で、及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、「the」は、文脈と明らかに矛盾しないかぎり、複数の指示対象を含む。
【0025】
上記目的に従い、本発明は、式(I)のトリフロキシストロビン及び(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸(化合物5)の単一の異性体の改善された調製方法を提供する。
【0026】
本発明の一実施形態では、工程(a)で使用される上記アルカリ金属亜硝酸塩は、好ましくは、亜硝酸ナトリウム(NaNO)、亜硝酸カリウム(KNO)等、最も好ましくは亜硝酸ナトリウムからなる群から選択される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、工程(a)の酸は、好ましくは、塩酸(塩化水素酸、HCl)、硫酸(HSO)等、最も好ましくは塩酸(塩化水素酸)からなる群から選択される。
【0028】
本発明の別の実施形態では、式(2)を有する工程(a)の化合物は、インサイツで(その場で、in-situ)調製される。
【0029】
本発明の別の実施形態では、工程(b)の上記塩基は、好ましくは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)等、最も好ましくは水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムからなる群から選択される。
【0030】
本発明の別の実施形態では、工程(b)で使用される上記溶媒は、好ましくは、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール等又はこれらの溶媒の混合物、最も好ましくは水からなる群から選択される。
【0031】
本発明の別の実施形態では、工程(c)の上記酸の塩は、好ましくは、酢酸等のカルボン酸の一ナトリウム塩又は二ナトリウム塩、一カリウム塩又は二カリウム塩、最も好ましくはカルボン酸の一ナトリウム塩又は二ナトリウム塩からなる群から選択される。
【0032】
本発明の別の実施形態では、工程(c)の上記塩基は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等、最も好ましくは炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される。
【0033】
本発明の別の実施形態では、工程(c)の上記金属硫酸塩は硫酸銅等である。
【0034】
本発明の別の実施形態では、工程(c)の上記溶媒は、好ましくは、ヘプタン、モノクロロベンゼン(MCB)、イソパラフィン系炭化水素(Isopar-G)等又はこれらの混合物、最も好ましくはヘプタン又はイソパラフィン系炭化水素からなる群から選択される。
【0035】
本発明の別の実施形態では、工程(d)の上記酸は、有機酸又は無機酸のいずれかである。上記酸は、より好ましくは、硫酸、塩酸(塩化水素酸)、塩化チオニル等、最も好ましくは硫酸又は塩化チオニルから選択される。
【0036】
本発明の別の実施形態では、工程(d)の上記溶媒は、好ましくは、モノクロロベンゼン、二塩化エチレン、ジクロロベンゼン等又はこれらの溶媒の混合物からなる群から選択される。
【0037】
本発明の別の実施形態では、工程(e)の上記ハロゲン酸金属塩(NaXO/KXO)は、好ましくは、臭素酸ナトリウム(NaBrO)、塩素酸ナトリウム(NaClO)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)、臭素酸カリウム(KBrO)、塩素酸カリウム(KClO)、ヨウ素酸カリウム(KIO)、N-ブロモスクシンイミド(NBS)等、最も好ましくは臭素酸ナトリウムからなる群から選択される。
【0038】
本発明の別の実施形態では、上記置換基Xは、塩素、臭素、ヨウ素からなる群から選択される。
【0039】
本発明の別の実施形態では、工程(e)の上記触媒は任意に使用され、この触媒は、好ましくは、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等又はこれらの混合物、最も好ましくはアゾビスイソブチロニトリルからなる群から選択される。
【0040】
本発明の別の実施形態では、工程(e)の上記塩基は、好ましくは、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等、最も好ましくは亜硫酸水素ナトリウムからなる群から選択される。
【0041】
本発明の別の実施形態では、工程(e)の水と組み合わせた上記溶媒は、好ましくは、二塩化エチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、アセトニトリル、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル等又はこれらの溶媒の混合物、最も好ましくは二塩化エチレンからなる群から選択される。
【0042】
本発明の別の実施形態では、工程(f)の上記塩基は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等、最も好ましくは炭酸カリウムからなる群から選択される。
【0043】
本発明の別の実施形態では、工程(f)の上記相間移動触媒は、好ましくは、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(TBAI)、塩化テトラブチルアンモニウム(TBACl)、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等、最も好ましくは臭化テトラ-n-ブチルアンモニウムからなる群から選択される。
【0044】
本発明の別の実施形態では、工程(f)の上記溶媒は、好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、トルエン、モノクロロベンゼン、プロピオニトリル、アセトニトリル等又はこれらの溶媒の混合物、最も好ましくはアセトンからなる群から選択される。
【0045】
本発明の別の実施形態では、粗製の式(I)の化合物は、好ましくは、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等又はこれらの混合物、最も好ましくはイソプロピルアルコールからなる群から選択される好適なアルコール系溶媒の中での結晶化により精製される。
【0046】
本発明の別の実施形態では、(a)~(f)の上記工程のいずれか1つ又はすべての工程は、インサイツで実施されてもよい。
【0047】
本発明の別の実施形態では、すべての粗製化合物は、好ましくはそのままで使用されるか、又は蒸留若しくは結晶化又は当業者に十分理解されている異なる精製技法によって精製される。
【0048】
本発明で使用される出発物質の調製は、先行技術において周知である。
【0049】
本発明は、以下の実施例によってさらに例証されるが、以下の実施例は、本発明の範囲を限定すると決して解釈されるべきではない。
【実施例
【0050】
実施例1;一工程での(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸(化合物5)の調製
【0051】
ポットA
メカニカルスターラー、サーモポケット及び水冷却器を備えた4つ口R.B.フラスコを配置した。水(o-トルイジンに対して3.0体積量)、続いて濃塩酸(o-トルイジンに対して3.0体積量)を撹拌下で投入し、これら反応物質を0℃~5℃に冷却した。o-トルイジン(1.0eq.)を、撹拌下、0℃~5℃で30分にわたって上記反応物質に滴下し、灰色がかった白色のスラリーを得た。この反応混合物(RM)を30分間撹拌した。水(o-トルイジンに対して1.0体積量)中のNaNO(1.0eq.)の溶液を、-15℃~0℃で30分にわたって少しずつ反応混合物に加えた。添加終了後、この溶液を次の操作のために使用した。
【0052】
ポットB
メカニカルスターラー、サーモポケット、水冷却器及び滴下ロートを備えた4つ口R.B.フラスコに、グリオキシル酸(1.5eq.)、メトキシルアミン塩酸塩(1.5eq.)、続いて水(o-トルイジンに対して4.0体積量)を撹拌下で投入して透明な溶液を得て、反応混合物を25℃~30℃で1.0hさらに撹拌した。水(o-トルイジンに対して6.0体積量)中の炭酸ナトリウム(2.0eq.)の溶液を、撹拌下でこれら反応物質に少しずつ加えた。硫酸銅五水和物の水溶液を、撹拌下で反応混合物に加え、さらにヘプタン又はイソパラフィン系炭化水素(o-トルイジンに対して3.2体積量)を加えた。次いで、反応温度を15℃~30℃に維持して、ポットAからのRMを2.0hにわたってポットBにゆっくり加えた。pHを、NaCO水溶液の添加により6.5~5.0に維持した。この反応混合物を25℃~30℃で2時間撹拌し、MDC(o-トルイジンに対して10体積量)を投入して15分間撹拌した。水層及び有機層を分離し、水層をMDCで抽出し、合わせた有機層を真空下でエバポレーションして、褐色物質を得た(純度ベースで収率77%、HPLC純度90%)。
【0053】
H NMR(CDCl,TMS) δ(ppm):7.35-7.09(m,4H),4.06(s,3H),2.18(s,3H)。13C NMR(CDCl,CHCl) δ(ppm):165.4,149.5,136.1,129.9,129.5,129.3,127.9,129.4,63.9,19.4。MS(m/z)(M-1)=192。
【0054】
実施例2:一工程での(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸(化合物5)の調製
【0055】
ポットA
メカニカルスターラー、サーモポケット及び水冷却器を備えた4つ口R.B.フラスコに、水(o-トルイジンに対して3.0体積量)、濃塩酸(o-トルイジンに対して3.0体積量)を撹拌下で投入し、次いで溶液を0℃に冷却した。o-トルイジン(1.0eq.)を、撹拌下、0℃で30分にわたって上記反応物質に滴下し、灰色がかった白色のスラリーを得て、さらに30分間撹拌した。水(o-トルイジンに対して1.0体積量)中のNaNO(1.0eq.)の溶液を、-5℃~0℃で30分にわたって反応混合物に滴下し、添加終了後、この溶液をそのまま次の操作のために使用した。
【0056】
ポットB
メカニカルスターラー、サーモポケット、水冷却器及び滴下ロートを備えた4つ口R.B.フラスコに、グリオキシル酸(1.5eq.)、メトキシルアミン塩酸塩(1.5eq.)及び水(o-トルイジンに対して4.0体積量)を撹拌下で投入して透明な溶液を得て、この反応混合物を0℃~5℃に冷却した。NaOH溶液(48%溶液、1.3eq.)を、撹拌下、5℃~10℃で上記反応物質に滴下した。NaOH溶液の添加終了後、この反応混合物を室温まで加温し、1.0h撹拌した。固体の酢酸ナトリウム三水和物(6.0eq.)を、撹拌下で少しずつ反応混合物に加え、pHをpH5~7に維持した。水(o-トルイジンに対して1.0体積量)中の硫酸銅五水和物溶液を撹拌下で反応混合物に加え、続いてヘプタン(o-トルイジンに対して5体積量)を加えた。反応温度を25℃~30℃に維持し、酢酸ナトリウムの添加によりpHを6.5~5.0に維持して、ポットAからの反応混合物を2.0hにわたってポットBにゆっくり加えた。添加終了後、反応混合物を25℃~30℃で2h撹拌した。このRMをブフナー漏斗を通して濾過し、濾液を静置し、ヘプタン層を分離した。水層をMDC(3×5.0体積量)で抽出し、有機層をそれまでに濾過した固形分と混合し、次いで減圧下で蒸留して、固体の褐色物質の化合物5を得た(純度ベースで収率68%、HPLC純度91%)。
【0057】
実施例3:(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸メチルエステル(化合物6)の調製
メカニカルスターラー、空気冷却器、サーモポケット、水浴を有する4つ口R.B.フラスコに、MeOH(化合物5に対して3~5体積量)中の化合物5(1.0eq.)の溶液を投入した。濃HSO(0.8eq.)を25℃~30℃で15分にわたって反応混合物にゆっくり滴下し、還流温度へ12h加熱した。この反応混合物を50℃~55℃に冷却し、水(化合物5に対して3.0体積量)を1h以内に少しずつ加えた。水の添加終了後、この反応混合物を20℃~25℃で3時間撹拌し、ブフナー漏斗で濾過し、固形分を水で洗浄し、粗生成物を乾燥した。この粗生成物をイソプロピルアルコール(中間体5に対して1.43体積量)に溶解させ、この混合物を60℃に加熱した。この溶液を室温まで冷却し、1h撹拌し、さらに-5℃~0℃に冷却した。得られた固形分をブフナー漏斗で濾過し、乾燥して、化合物6を得た(純度ベースで収率80%、HPLC純度97%.)。化合物(6)の特性解析の詳細は以下のとおりである。
H NMR(CDCl,TMS) δ(ppm):7.33-7.09(m,4H),4.04(s,3H),3.86(s,3H),2.18(s,3H)。13C NMR(CDCl,CHCl) δ(ppm):163.5,150.0,135.9,130.2,129.9,129.3,127.8,125.4,63.7,52.9,19.4。MS(m/z)(M+l)=208。
【0058】
同じ反応を、また、メタノール及び塩化チオニルを用いて実施した。化合物(6)の単離収率は、純度ベースで75%であり、HPLC純度98%であった。同様に、化合物(5)を最初に酸塩化物中間体に変換し、次いでメタノールで処理して化合物(6)を86%収率、HPLC純度94%で得る。
【0059】
実施例4:(E)-2-(2-ブロモメチルフェニル)-2-メトキシイミノ酢酸メチルエステル(化合物7)の調製
メカニカルスターラー、水冷却器、サーモポケット及びオイルバスを有する4つ口R.B.フラスコに、EDC(化合物6に対して5.0体積量)及び1eq.の化合物(6)を、撹拌下、25℃~30℃で投入し、透明な溶液を得た。水(化合物6に対して3.0体積量)をこの反応混合物に投入し、30分間撹拌した。NaBrO(1.25eq.)を、撹拌下で、反応混合物にゆっくり加え、透明な二相性溶液を得て、さらに5℃~10℃に冷却した。水(化合物6に対して2.0体積量)中の亜硫酸水素ナトリウム(2.0eq.)の溶液を、反応温度を5℃~10℃に維持して1hにわたって、滴下ロートを用いてこの反応物質にゆっくり滴下した。添加終了後、反応混合物を20℃~25℃に加温し、さらに70℃~75℃に加熱した。この反応物質を20℃~25℃に冷却し、有機層を分離し、溶媒を真空下で除去して粗製化合物(7)を得た。この粗製化合物をIPAを用いて再結晶した(純度ベースで収率77%、HPLC純度97%)。化合物(7)の特性解析は以下のとおりである。
H NMR(CDCl,TMS) δ(ppm):7.49-7.34(m,3H),7.15-7.13(m,1H),4.32(s,2H),4.06(s,3H),3.87(s,3H)。13C NMR(CDCl,CHCl) δ(ppm):162.6,148.5,135.3,130.0,129.7,129.4,128.3,128.0,63.4,52.6,30.5。MS(m/z)(M)=286。
【0060】
同じ反応を、また、触媒であるアゾビスイソブチロニトリルの存在下で実施したところ、この反応は1時間で完了した(純度ベースで収率70%、HPLC純度97%)。
【0061】
実施例5:トリフロキシストロビン 式(I)の調製
メカニカルスターラー、水冷却器、サーモポケット及び窒素注入口を有する4つ口R.B.フラスコに、化合物7(1.0eq.)、化合物8(1.05eq.)、アセトン(化合物7に対して3.0体積量)、TBAB(0.05eq.)、KCO(2.5eq.)を、撹拌下、25℃~30℃で投入した。この反応混合物を25℃~30℃で24h撹拌し、セライト床を通して濾過し、セライト床をアセトン(化合物7に対して3.0体積量)で洗浄した。合わせた有機層を真空下(15~20Torr(約2.0~約2.7kPa))、40℃~45℃で蒸溜し、粗製化合物を得た。この粗製化合物をIPAを用いて再結晶した(純度ベースで収率88%、HPLC純度99%)。化合物(I)の特性解析の詳細は以下のとおりである。
H NMR(CDCl,TMS) δ(ppm):7.86(bs,1H),7.79-7.77(m,1H),7.59-7.57(m,1H),7.50-7.36(m,4H),7.20-7.18(m,1H),5.14(s,2H),4.02(s,3H),3.81(s,3H),2.21(s,3H)。13C NMR(CDCl,CHCl) δ(ppm):163.0,153.3,149.3,136.9,135.8,130.4,129.7,129.1,129.0,128.6,128.5,128.3,127.5,125.3,123.8,122.5,74.7,63.4,52.4,12.1。MS(m/z)(M+l)=409。
【0062】
同じ反応を、また、より高い温度(40℃~45℃)で実施し、この反応は4~6時間で完了した。また、この反応をアセトニトリル又はプロピオニトリル中で実施し、式(I)の化合物の単離収率は90%へ上昇し、HPLC純度98.7%であった。
【0063】
略語
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
CHCOONa:酢酸ナトリウム
CuSO:硫酸銅(II)
DIPE:ジイソプロピルエーテル
DMA:ジメチルアセトアミド
DMF:ジメチルホルムアミド
EDC:二塩化エチレン
Eq.:当量
g:グラム
h:時間
O:水
SO:硫酸
HCl:塩酸(塩化水素酸)
HCN:シアン化水素
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
IPA:イソプロピルアルコール
Isopar-G:イソパラフィン系炭化水素
KBr:臭化カリウム
KBrO:臭素酸カリウム
KClO:塩素酸カリウム
KCN:シアン化カリウム
CO:炭酸カリウム
Kg:キログラム
KHCO:炭酸水素カリウム
KHSO:亜硫酸水素カリウム
KI:ヨウ化カリウム
KIO:ヨウ素酸カリウム
KNO:亜硝酸カリウム
KOH:水酸化カリウム
SO:亜硫酸カリウム
L:リットル
MCB:モノクロロベンゼン
MDC:二塩化メチレン
MeOH:メタノール
MeONH.HCl:メトキシルアミン塩酸塩
MIBK:メチルイソブチルケトン
mL:ミリリットル
NaBr:臭化ナトリウム
NaBrO:臭素酸ナトリウム
NaClO:塩素酸ナトリウム
NaCN:シアン化ナトリウム
NaCO:炭酸ナトリウム
NaHCO:炭酸水素ナトリウム
NaHSO:亜硫酸水素ナトリウム
NaI:ヨウ化ナトリウム
NaIO:ヨウ素酸ナトリウム
NaNO:亜硝酸ナトリウム
NaOBr:次亜臭素酸ナトリウム
NaOH:水酸化ナトリウム
NBS:N-ブロモスクシンアミド
PTC:相間移動触媒
R.B.フラスコ:丸底フラスコ
RM:反応混合物
rt:室温
SOCl:塩化チオニル
TBAB:臭化テトラn-ブチルアンモニウム
TBACl:塩化テトラブチルアンモニウム
TBAI:ヨウ化テトラブチルアンモニウム
Vol:体積量
【0064】
本発明の利点
1)中間体(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸(化合物5)は、より多くの工程を有する先行技術の方法と比べて、一工程で合成される。
2)o-トルイジン等の本発明の鍵となる原料は、一般的な出発物質であり、大規模に商業的なレベルで容易に入手可能である。
3)本発明では、(E)-2-メトキシイミノ-2-(o-トリル)酢酸は、(E)-異性体で直接得られ、これはトリフロキシストロビンへのさらなる変換にとって不可欠であり、他の文献の方法と比較して、本発明は独特であり有利である。
4)本発明では、トリフロキシストロビンは、より少ない数の工程を用いて40.2%の全収率で生成されるが、これに対して文献は、全収率19%の多くの工程の合成を報告する。
5)本発明は、有害なシアン化物試薬の使用をまったく必要としない。それゆえ上記方法は環境にやさしく及び安全である。
6)文献では、工程(f)は、より高い温度の約120℃で、DMF、DMA等の極性の高沸点溶媒を用いて実施されたが、このDMF、DMA等の極性の高沸点溶媒は、トリフロキシストロビンから分離することが困難である。高温反応は、不純物形成を引き起こし、これは、トリフロキシストロビンのより低い収率(約65%)を生じる。しかしながら、本発明は、アセトン等の低い沸点の溶媒を使用することにより室温(20℃~30℃)で実施され、トリフロキシストロビンを生成した(88%収率)。
7)本発明は、トリフロキシストロビンを高収率(90%)と高化学純度(98~99.5%)で生成する。