(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電源装置と電源装置の排出弁の開弁検出方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20221018BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20221018BHJP
H01M 50/30 20210101ALI20221018BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M50/20
H01M50/30
H01M50/342
(21)【出願番号】P 2020516174
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015052
(87)【国際公開番号】W WO2019208156
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2018083308
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 真史
(72)【発明者】
【氏名】増田 司
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-012490(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H01M 50/20 - 50/298
H01M 50/30 - 50/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内圧が設定圧力よりも高くなると開弁する排出弁を有する電池と、
前記電池を収納しているケースと、
前記ケース内の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサで検出される検出温度で前記排出弁の開弁を検出する検出回路と、
を備え、
前記検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値よりも高く、かつ、前記検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値を越えるタイミングから、前記検出温度が基準温度以下に低下するタイミングまでの高温時間(t1)が、高温時間設定値よりも長いことを検出して、前記検出回路が前記排出弁の開弁を検出することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記ケース内に複数の前記温度センサを備え、
前記検出回路が、各々の前記温度センサの検出温度から前記排出弁の開弁を検出することを特徴とする請求項1に記載される電源装置。
【請求項3】
複数の前記温度センサの少なくとも一つは、前記ケース内の排出ガスの経路に配設されることを特徴とする請求項2に記載される電源装置。
【請求項4】
複数の前記温度センサの少なくとも一つは、前記電池に直接的あるいは間接的に熱結合して配設されることを特徴とする請求項2に記載される電源装置。
【請求項5】
前記検出回路が、前記検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配よりも高くなるタイミングから、上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配以下に低下するタイミングまでの上昇時間(t2)が、上昇時間設定値を越えることを検出して前記排出弁の開弁を検出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載される電源装置。
【請求項6】
前記温度センサが、電池温度を検出する温度センサを併用してなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載される電源装置。
【請求項7】
内圧が設定圧力よりも高くなると開弁する排出弁を有する電池と、
前記電池を収納しているケースと、
前記ケース内の温度を検出する温度センサと、
を備える電源装置の排出弁の開弁検出方法であって、
前記温度センサで検出される検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)を検出すると共に、上昇勾配が上昇勾配設定値を越えてから基準温度以下に低下するまでの高温時間(t1)を検出し、上昇勾配(ΔT/Δt)が予め設定している上昇勾配設定値よりも大きく、高温時間(t1)が高温時間設定値よりも長い状態で前記排出弁が開弁したと判定することを特徴とする電源装置の排出弁の開弁検出方法。
【請求項8】
前記ケース内に複数の前記温度センサを配置し、前記温度センサで複数の測定点の温度を検出し、
何れかの温度センサの検出温度の前記上昇勾配(ΔT/Δt)と前記高温時間(t1)とが設定値を越えることを検出すると、前記排出弁が開弁したと判定することを特徴とする請求項7に記載される電源装置の排出弁の開弁検出方法。
【請求項9】
検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配よりも高くなるタイミングから、上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配以下に低下するタイミングまでの上昇時間(t2)が上昇時間設定値を越えることを検出して前記排出弁が開弁したと判定することを特徴とする請求項7又は8に記載される電源装置の排出弁の開弁検出方法。
【請求項10】
前記温度センサに、電池温度を検出する温度センサを併用することを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載される電源装置の排出弁の開弁検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電できる電池をケースに配置している電源装置に関し、とくに電池の内圧が異常な圧力に上昇すると開弁する排出弁を備える電源装置と、この電源装置の排出弁の開弁を検出する検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケースに電池を内蔵する電源装置は、電池の破裂等の弊害を防止するために電池に排出弁を設けている。排出弁は、電池の内圧を検出して開弁する。排出弁は、電池の内圧が設定圧よりも高くなると開弁し、内部の高圧ガスを噴出して内圧の上昇を防止する。電池の内圧は、電池が異常な状態で使用されて上昇する。排出弁が開弁する電池の異常な状態は、たとえば、過大な充放電電流が流れ、あるいは正負の電極が内部でショートする等が原因で発生する。排出弁は異常な使用状態で開弁するので、開弁した状態を速やかに検出することが大切である。温度を検出して排出弁の開弁を判定する電源装置は開発されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温度を検出して排出弁の開弁を検出する装置は、電池温度や周囲温度を検出して判定している。電池は排出弁が開弁する状態で温度が上昇するので、電池温度や周囲温度で開弁を検出できる。しかしながら、電池の温度は、周囲温度などの外的条件で変動し、さらに電池を充放電する電流の大きさでも変化するので、確実にしかも速やかに検出するのが難しい。さらに、温度で排出弁の開弁を判定する装置は、温度センサに誘導されるノイズが温度の正確な検出を阻害するので、このことによっても排出弁の開弁の速やかで確実な検出を難しくしている。
【0005】
本発明は従来の以上の弊害を解消することを目的として開発されたもので、本発明の大切な目的は、温度を検出して排出弁の開弁を正確に、しかも速やかに検出できる電源装置と排出弁の開弁を検出する方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電源装置は、内圧が設定圧力よりも高くなると開弁する排出弁を有する電池1と、電池1を収納しているケース3と、ケース3内の温度を検出する温度センサ5と、温度センサ5で検出される検出温度で排出弁の開弁を検出する検出回路7とを備え、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値よりも高く、かつ、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値を越えるタイミングから、検出温度が基準温度以下に低下するタイミングまでの高温時間(t1)が高温時間設定値よりも長いことを検出して、検出回路7が排出弁の開弁を検出する。
【0007】
本発明の電源装置は、ケース3内に複数の温度センサ5を備えて、検出回路7が、各々の温度センサ5の検出温度から排出弁の開弁を検出することができる。複数の温度センサ5の少なくとも一つは、ケース3内の排出ガスの経路に配設することができる。また、複数の温度センサの少なくとも一つは、電池1に直接的あるいは間接的に熱結合して配設して電池温度を検出することができる。
【0008】
本発明の電源装置は、検出回路7が、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配よりも高くなるタイミングから、上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配以下に低下するタイミングまでの上昇時間(t2)が上昇時間設定値を越えることを検出して排出弁の開弁を検出することができる。
【0009】
本発明の電源装置は、温度センサ5が、電池温度を検出する温度センサ5を併用することができる。
【0010】
本発明の電源装置の排出弁の開弁検出方法は、内圧が設定圧力よりも高くなると開弁する排出弁を有する電池1と、この電池1を収納しているケース3と、ケース1内の温度を検出する温度センサ5とを備える電源装置の排出弁の開弁を検出する方法であって、温度センサ5で検出される検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)を検出すると共に、上昇勾配が上昇勾配設定値を越えてから基準温度以下に低下するまでの高温時間(t1)を検出し、上昇勾配(ΔT/Δt)が予め設定している上昇勾配設定値よりも大きく、高温時間(t1)が高温時間設定値よりも長い状態で排出弁が開弁したと判定する。
【0011】
本発明の電源装置の排出弁の開弁検出方法は、ケース3内に配置している複数の温度センサ5で複数の測定点の温度を検出し、何れかの温度センサ5の検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)と高温時間(t1)とが設定値を越えることを検出すると、排出弁が開弁したと判定することができる。
【0012】
本発明の電源装置の排出弁の開弁検出方法は、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配よりも高くなるタイミングから、上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配以下に低下するタイミングまでの上昇時間(t2)が上昇時間設定値を越えることを検出して排出弁が開弁したと判定することができる。
【0013】
本発明の排出弁の開弁検出方法は、温度センサ5に、電池温度を検出する温度センサ5を併用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電源装置と電源装置の排出弁の開弁検出方法は、温度を検出して排出弁の開弁を正確に、しかも速やかに検出できる特徴がある。とくに、以上の電源装置と開弁検出方法は、温度センサの検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)に加えて、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値を越えてから、検出温度が基準温度以下に低下するまでの高温時間(t1)も検出して、この高温時間(t1)が高温時間設定値を越えることをも検出して排出弁の開弁を検出するので、温度センサに誘導されるノイズの影響を無視して、正確に排出弁の開弁を検出できる特徴がある。温度センサは、ケース内の電池温度などを簡単な回路構成で検出できるが、温度センサに誘導されるノイズの影響を皆無にできない。温度センサのノイズは、スイッチング電源などの電源回路から電源ラインを介して誘導され、さらに種々のスイッチング回路からの放射ノイズとして誘導される。温度センサは検出温度とノイズの両方で検出電圧が変動するので、ノイズによる電圧変動は検出温度の誤差の原因となる。ノイズの完全な除去は極めて難しく、ノイズによる検出温度の誤差は、排出弁の開弁を正確に検出するのを阻止する。
【0015】
本発明の電源装置と開弁検出方法は、ノイズで検出温度が変動する状態にあっても、正確に排出弁の開弁を検出できる。それは、以上の電源装置と開弁検出方法が、温度の上昇勾配(ΔT/Δt)と、温度が低下するまでの高温時間(t1)の両方で排出弁の開弁を検出するからである。排出弁が開弁して電池から高温の排出ガスが噴出されると、ケース内の温度は急激に上昇し、さらに、温度が上昇した後、基準温度に低下するまでに時間がかかり、温度が低下するまでの時間が、ノイズの周期に比較して相当に長くなる。このため、上昇勾配(ΔT/Δt)を上昇勾配設定値に比較し、さらに温度が基準温度に低下するまでの高温時間(t1)を高温時間設定値に比較して、両方が設定値を越えることを検出することで、短周期で変動するノイズによる誤動作を解消して排出弁の開弁を確実に検出する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる電源装置の概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる電源装置の概略構成図である。
【
図3】排出弁の開弁時における温度センサの検出温度が変化する状態を示すグラフである。
【
図4】排出弁が開弁しない状態で温度センサに誘導されるノイズによって検出温度が変化する状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための電源装置と電源装置の排出弁の開弁検出方法を例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0018】
本発明の電源装置は、多数の電池をケースに内蔵している大容量の電源、たとえばバックアップ電源等に最適であるが、自転車や車両の走行モータに電力を供給する車両用の電源装置など他の種々の用途に使用される。
【0019】
図1及び
図2の概略図に示す電源装置100は、複数の電池1を電池ユニット2としてケース3に内蔵している。ケース3は、電池ユニット2と回路基板4と、回路基板4に接続している温度センサ5とを内蔵している。電池ユニット2は、充電できる複数の電池1を金属板のリード板(図示せず)を介して直列や並列に接続してブロック状に連結している。
【0020】
電池1は円筒形電池や角形電池である。電池1は密閉構造の金属ケースに電極と電解液を収納している。金属ケースは、底を閉塞している外装缶の開口部を封口板で気密に固定している。外装缶は金属板をプレス加工して製作される。封口板はパッキンを介して外装缶の開口部周縁にカシメ加工して気密に固定される。
【0021】
電池1は、図示しないが、密閉構造の金属ケースの内圧が上昇したときに破損するのを防止するために、排出弁を設けている。排出弁は封口板に、あるいは外装缶の底面に設けられる。排出弁は、内圧が設定圧力、たとえば1.5MPaよりも高くなると開弁して、内圧上昇による金属ケースの破壊を防止する。排出弁は、異常な状態で開弁される。したがって、排出弁が開弁する状態では、電池1の温度も非常に高くなっている。このため、開弁する排出弁から噴出されるガスや電解液(噴出物)は異常な高温の排出ガスとなる。とくに、電池1をリチウムイオン電池とする電池装置は、排出ガスが異常な高温となる。さらに、リチウムイオン電池は、非水系の電解液を充填していることから、これが高温で排出される燃焼ガスとなって、さらに異常な高温となることがある。リチウムイオン電池に限らず、他の充電できる電池にあっても、排出弁は異常な使用状態で開弁するので、排出ガスは異常な高温となる。
【0022】
ケース3は金属製又はプラスチック製で、密閉構造とし、あるいは閉鎖されるが密閉されない構造として、電池1から排出される排出ガスを外部に排出する排出口(図示せず)を設けている。排出口のあるケース3は、電池1から噴出される排出ガスを排出口から外部に排出する。ただ、密閉構造や閉鎖構造のケース3は、必ずしも特定の排出口を設けることなく、部分的に隙間を設けて、この隙間から排出ガスを外部に排出する構造とすることもできる。
【0023】
図1の電源装置100は、ケース3の全体形状を四角形の箱形として、内部に電池ユニット2と回路基板4を配置している。
図1の電源装置は、ケース3に3組の電池ユニット2を配置しているが、本発明の電源装置は、ケース3に収納する電池1の個数と接続状態を特定しない。
【0024】
回路基板4は、リード線6を介して温度センサ5を接続している。温度センサ5はケース3内の特定部位の温度を検出して、電池1の排出弁が開弁したことを検出する。ケース3に複数の電池1を内蔵する電源装置は、いずれの電池1の排出弁が開弁しても、開弁したことを正確に検出することが大切である。
図1と
図2の電源装置100は、ケース3内に複数の温度センサ5を配置して、全ての温度センサ5の検出温度で排出弁の開弁を検出する。
図1と
図2の電源装置は、電池温度を検出する温度センサ5Aと、開弁する排出弁から噴出される排出ガスの温度を検出する温度センサ5Bとを設けている。
【0025】
電池温度を検出する温度センサ5Aは、電池ユニット2を構成する電池1に、直接的あるいは間接的に熱結合して配設される。金属板のリード板で電池1を直列や並列に接続している電池ユニット2は、温度センサ5Aをリード板に熱結合するように配置して、リード板を介して電池1に熱結合するように配置することもできる。リード板は複数の電池1に接続されるので、リード板を介して電池1に熱結合している温度センサ5Aは、リード板を接続している複数の電池1の温度を速やかに検出できる。ただ、温度センサ5Aは、電池ケースの表面に熱結合して配置することもできる。図の電源装置100は、電池ユニット2の上面と下面に、電池温度を検出する複数の温度センサ5Aを配置している。各々の温度センサ5Aは、熱結合している電池1の温度を検出する。図の電源装置100は、電池1の個数よりも温度センサ5Aの数が少なく、特定の電池1の温度を検出する。電源装置100は、各々の電池1を同じ電流で充放電して、温度差が少なくなるように設計されるので、全ての電池温度を検出することなく、特定の電池1の温度が検出される。電源装置100は、電池1を保護するために電池温度を検出しているので、例えば、温度変化の大きい電池1の温度を検出して電池1を保護しながら充放電させる。ただ、電源装置は、全ての電池1に温度センサ5Aを熱結合して温度を検出することもできる。
【0026】
排出ガスの温度を検出する温度センサ5Bは、電池ユニット2の間や電池ユニット2とケース3内面との間であって、電池1から排出される排出ガスの通路に配置される。
図1と
図2の電源装置100は、排出ガスの温度を検出する温度センサ5Bを、電池ユニット2とケース3との間に配置している。この温度センサ5Bは、ケース3の内面に沿って流れる排出ガスの温度を検出して、排出弁の開弁を検出する。排出ガスの温度センサ5Bは、電池1に熱結合して配置することで、電池1の温度を検出する温度センサ5Aにも併用できる。
【0027】
回路基板4は、リード線6を介して温度センサ5に連結されて排出弁の開弁を検出する検出回路7と、電池1に接続されて電池1の充放電をコントロールする保護回路8を実装している。検出回路7は、ケース3内の電池温度やガス通路の温度を検出して排出弁の開弁を検出する。排出弁が開弁されると高温の排出ガスがケース3内に噴出される。したがって、ケース3内の温度を検出して排出弁の検出を判定できる。しかしながら、ケース3内の温度は、排出弁の開弁以外の条件でも変動し、たとえばケース3の周囲温度や電池1を充放電する電流値で変動する。このため、排出弁が開弁しない状態においても、周囲温度が高くなり、あるいは電池1を充放電する電流が大きくなると、ケース3内の温度は高くなる。ケース3内の温度が、排出弁が開弁して高くなり、また周囲温度や充放電の電流によっても高くなるので、ケース3内の温度を設定値に比較して排出弁の開弁を判定すると、正確に検出できなくなる。排出弁が開弁しない状態であっても、周囲温度が高く、充放電の電流が大きくなるとケース3内の温度が高くなるからである。
【0028】
周囲温度や充放電の電流で温度が上昇することが、排出弁の開弁の正確な判定を難しくする欠点を解消するために、電源装置は、温度センサ5の検出温度を設定値に比較するのに代わって、検出温度が上昇する勾配、すなわち温度の上昇勾配(ΔT/Δt)を予め設定している上昇勾配設定値に比較して排出弁の開弁を判定する。ただ、温度センサ5の検出温度は、排出弁が開弁すると上昇するが、温度センサ5に誘導されるノイズによっても上昇するので、上昇勾配(ΔT/Δt)のみで排出弁の開弁を判定すると、ノイズによる誤動作が発生する。電源装置は、ノイズによる温度センサ5の検出温度の変動と、排出弁の開弁による検出温度の変動を識別するために、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値を越え、さらに上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値を越えてから予め設定している基準温度以下に低下するまでの時間、すなわち排出弁が開弁して温度が上昇している高温時間(t1)を、高温時間設定値に比較し、上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値よりも大きく、さらに、高温時間(t1)が高温時間設定値よりも長い状態に限って排出弁が開弁と判定する。
【0029】
温度の上昇勾配(ΔT/Δt)と高温時間(t1)の両方で排出弁の開弁を検出する検出回路7は、上昇勾配設定値と、高温時間設定値とをメモリに記憶している。上昇勾配設定値と、高温時間設定値と、基準温度は、ケース3内のひとつの電池1を強制的に熱暴走させて排出弁を開弁し、温度センサ5の検出温度を測定し、さらに温度センサ5に誘導されるノイズを測定して、ノイズに影響されることなく排出弁の開弁を正確に判定できる値に設定される。
【0030】
図3は、排出弁の開弁時における温度センサ5の検出温度が変化する状態を示している。また、
図4は、排出弁が開弁しない状態で温度センサ5に誘導されるノイズによって検出温度が変化する状態を示している。これらの図は、横軸を時間軸、縦軸を温度センサ5の検出温度としている。温度センサ5は、サーミスタなどの温度で電気抵抗が変化する素子が使用され、検出回路7は、温度センサ5の電気抵抗を電圧に変換して温度を検出する。
図3と
図4において、温度センサ5の検出温度はノイズで上下に変動している。これらの図は、所定の検出周期で温度を検出してプロットしている。検出周期は、温度変化を速やかに検出できるように、例えば100msec~500msecに設定される。さらに、検出回路7は、温度検出精度を高くするために、設定周期よりも短い周期、たとえば、5msec~10msecのサンプリング周期で温度を検出し、サンプリング周期で検出する複数回の検出温度を平均して設定周期における温度変化を演算している。
【0031】
図3に示すように、ノイズが誘導された温度センサ5の検出温度は上下に変化し、排出弁が開弁する状態で検出温度が上昇し、またノイズによっても検出温度は上昇する。ノイズの影響を無視して、排出弁の開弁を正確に検出するために、検出回路7は、上昇勾配設定値と、高温時間設定値と、基準温度を設定する。上昇勾配設定値は、排出弁の開弁による温度上昇を確実に検出するために、たとえば1℃/secに設定される。高温時間設定値と基準温度は、排出弁が開弁してから温度が低下するまで状態を考慮して、たとえば、高温時間設定値を20sec、基準温度を上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値を越えたときの検出温度に設定する。上昇勾配設定値と高温時間設定値は、小さすぎるとノイズの影響を受けやすく、反対に大きすぎると排出弁の開弁を正確に検出できなくなる。また、排出弁が開弁して温度が上昇する勾配と低下する状態は、ケース3の内容積、電池1の型式や大きさ、電池1の個数や配置、さらに温度センサ5の配置場所などによって変化するので、上昇勾配設定値と高温時間設定値と基準温度は、排出弁を開弁して確実に開弁を検出する値に設定される。
【0032】
検出回路7は、必ずしも1sec間における上昇勾配設定値を設定することなく、1secよりも短く、あるいは1sec以上の時間帯における温度の上昇勾配を記憶することができる。たとえば、2sec間の上昇勾配設定値を記憶する検出回路7は、2sec間における上昇勾配(ΔT/Δt)を上昇勾配設定値に比較して排出弁の開弁を判定する。
【0033】
さらに、検出回路7は、上昇勾配(ΔT/Δt)と、高温時間(t1)と、基準温度に加えて、検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配よりも高くなるタイミングから、上昇勾配(ΔT/Δt)が設定勾配以下に低下するタイミングまでの上昇時間(t2)を上昇時間設定値に比較して、上昇時間設定値を越えることをも検出して排出弁の開弁を判定することで、より正確に排出弁の開弁を判定できる。上昇時間設定値は、たとえば1sec~2secに設定する。ただ、上昇時間設定値も、ケース3の内容積、電池1の型式や大きさ、電池1の個数や配置、さらに温度センサ5の配置場所などによって変化するので、ノイズの影響を受けることなく、排出弁の開弁を確実に判定できる値に設定される。
【0034】
図1と
図2の電源装置100は、複数の温度センサ5を備えている。この電源装置100は、何れかの温度センサ5で検出する検出温度の上昇勾配(ΔT/Δt)が上昇勾配設定値よりも大きく、高温時間(t1)が高温時間設定値よりも長い状態で、さらに上昇時間(t2)が上昇時間設定値よりも長い状態で排出弁が開弁したと判定して、排出弁の開弁を速やかに、しかも正確に判定できる。さらに、複数の温度センサ5を備える電源装置は、各々の温度センサ5に別々に上昇勾配設定値と、高温時間設定値と、上昇時間設定値とを設けて、排出弁の開弁を判定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、排出弁を備える複数の電池をケースに配置している電源装置に有効に利用される。
【符号の説明】
【0036】
100…電源装置
1…電池
2…電池ユニット
3…ケース
4…回路基板
5、5A、5B…温度センサ
6…リード線
7…検出回路
8…保護回路