(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】パワーステアリングシステムにおける摩擦補償の方法および関連する推定方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20221018BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221018BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2020524818
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 FR2018052635
(87)【国際公開番号】W WO2019092341
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-09-17
(32)【優先日】2017-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギルモン アラン
(72)【発明者】
【氏名】ブードゥレ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】スラマ タール
(72)【発明者】
【氏名】ムレール パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ボドワン ニコラ
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-179748(JP,A)
【文献】特開2014-122017(JP,A)
【文献】特開2002-087309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0150389(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の電動パワーステアリングにおいて
、中間摩擦率の連続推定を行う方法であって、
a)前記電動パワーステアリングにおける電気モータの速度を測定するように構成された速度センサによって実行される、第1の速度を測定するステップと、
b)前記電動パワーステアリングにおけるハンドルとラックとの間のトルクを測定するように構成されたトルクセンサによって実行されるハンドル/運転者トルクの測定結果から、第2の速度を決定するステップであって、
(s1)前記電動パワーステアリングにおける前記ハンドルと前記ラックとの間のトルクを測定するように構成された前記トルクセンサによって実行される前記ハンドル/運転者トルクを測定するサブステップと、
(s2)前記トルクの測定値の時間微分を行うサブステップと、
(s3)前記サブステップs2で得られた導関数を既定の剛性kに適用するサブステップと、
(s4)トルク速度と呼ばれる前記第2の速度を得るサブステップと、
に従って実行される前記第2の速度を決定するステップと、
c)前記第1の速度と前記第2の速度との合計値であって、ハンドル速度と呼ばれる合計値を決定するステップと、
d)LuGreモデルを、該LuGreモデルの入力として用いられるステップ(c)で決定された前記合計値に適用するステップと、
e)前記中間摩擦率(w)の連続推定を得るステップであって、Vが前記車両の速度に対応し、Tが前記ステアリングの温度に対応し、a*がテストベンチ上で測定された前記システムの動摩擦係数に対応し、σ1が微少減衰に対応し、zが内部摩擦の状態に対応するものとすると、前記システムにおける摩擦係数μの連続推定が、
【数1】
によって表され、前記中間摩擦率wの決定が
【数2】
によって実行されるステップと、を備える
ことを特徴とする推定方法。
【請求項2】
電動パワーステアリングの摩擦を補償する方法であって、
請求項1に記載の連続推定方法によって得られる前記中間摩擦率の連続推定を考慮に入れる
ことを特徴とする補償方法。
【請求項3】
請求項2に記載の補償方法において、
E1 請求項1に記載の中間摩擦率の連続推定方法を実現することであって、前記中間摩擦率(w)の少なくとも1回の連続推定と、少なくとも1つの動摩擦振幅の推定値と、前記中間摩擦率(w)の連続推定による摩擦の推定(FRI)の調節と、を得るステップと、
E2 前記電動パワーステアリングにおける所望の摩擦
【数3】
に対応する既定の摩擦振幅を得るステップと、
E3 前記動摩擦振幅の推定値と前記所望の動摩擦振幅との間の差分を求めるステップと、
E4 補償されるべき摩擦の大きさ(X)を得るために、前記ステップE3で得られた差分の結果と、前記中間摩擦率(w)の連続推定と、の積を求めるステップと、
E5 前記ステップE4で得られた値(X)と、動きとは反対方向の力の集合の既定の推定(RFE)との間の差分を(RFEを補償するために)求めるステップと、
E6 前記運転者トルクの目標値および前記運転者トルクの測定値に応じて、コントローラ(CPU)によって該運転者トルクを監視することで前記パワーステアリングを補償するステップと、を少なくとも有する
ことを特徴とする補償方法。
【請求項4】
請求項3に記載の補償方法において、
前記ステップE2は、チャート、所定のデータベース、または既定のデータ入力によって得ることができる
ことを特徴とする補償方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の補償方法において
前記運転者トルクの監視は、閉ループで実行される
ことを特徴とする補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリングシステムの技術分野、特にハンドル上での運転者の感触に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーステアリングシステムにはいくつかのタイプがあるが、本発明は、車両のステアリングの際に運転者をアシストするために電気モータを用いる、「DAE」と呼ばれる電動パワーステアリングシステムに関する。
【0003】
電動パワーステアリングの第1の目的は、アシスト、つまり設定される動きにおけるハンドル/運転者トルクの低減である。したがって、ハンドル/運転者トルクセンサが、車両のステアリングコラム上で運転者によって行使されるトルクを測定するように構成され、そしてコンピュータが、関連するアシストを決定し、測定したトルクおよび運転条件に応じて電動パワーステアリングの電気モータを駆動させて、一方ではステアリングコラムによってハンドルに接続され他方ではステアリングタイロッドによって車輪に接続されたラックのピニオンに追加のトルクを提供する。電動パワーステアリングの第2の目的は、運転者に「操舵感」と呼ばれるハンドル上での良好な感触を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハンドル/運転者トルクのみに基づくこれら第1の「アシスト則」が失敗であるのは、運転者がステアリングの機械的摩擦を多く感じるということであるが、これは不正確であると考えられる。実際において、小さな動き、特にトルクがほとんどないゼロに近い動きにおいては、一方向に動きがある場合、トルクは解除され、アシストは停止しており、運転者はステアリングの摩擦で粘着感を持つ。つまり、電動パワーステアリングの機械的摩擦が、低負荷の運転者作用力の下でのラックの動きを低減または打ち消しさえして、これにより、細かな動き補正を実現するために強力で非線形の運転者トルク変動を加えることによって運転精度が低下する。ヒステリシスが次に考慮される。つまり、一方向のハンドル/運転者トルクは他方向のハンドル/運転者トルクとは異なる。感触を向上させるためには、運転者負荷が低い場合、ひいては変位速度が非常に低い場合を含めて、ステアリングの機械的摩擦を連続的に補償することによって、このヒステリシスを減らすことが必要である。
【0005】
速度が明確に設定されるとき、例えば速度が20°/sより大であるときは、電動パワーステアリングのモータ速度センサの測定により摩擦を補償することはかなり容易である。実際において、物理的には動摩擦は動きとは反対方向の一定の値であるため、動きの方向を検出して摩擦を補償することができる。
【0006】
しかしながら、粘着領域での、つまり絶対値で約2%より低い変位速度に対する摩擦補償機能には、絶対値で1より低い中間摩擦率(un taux intermediaire de frottement)を細かにそしてそれ故リアルタイムで推定する方法を知る必要性が示唆される。したがって、この要求は、センサノイズによって必然的に誘発される振動現象を避けるために電動パワーステアリングのモータの速度信号のみに基づき、よって閾値より低いモータ速度の絶対値には反応しない他の摩擦補償機能に対応する必要性よりはるかに制約がある。
【0007】
中間摩擦率の測定を可能にする物理的なセンサは、存在しない。この中間摩擦率はしかし数学的モデルによって推定することができる。摩擦を推定する多くのモデルがあるが、低振幅のサイクルでは不連続であるという問題があり、したがって摩擦補償機能に関連する場合はハンドル上の感触不良を引き起こす。
【0008】
本発明は、中間摩擦率の連続推定の方法であって、特に既定の閾値、つまり絶対値で約0.5°/sから3°/sの間、好ましくは絶対値で約1.5°/sから2.5°/sの間、さらに好ましくは2°/sである閾値より低い変位速度に対して、ハンドル上の感触を連続的に向上させるために、アシストモータによってグローバルな摩擦補償方法への統合が可能な方法を提案することによって、上記の欠点のすべてまたは一部を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両の電動パワーステアリングにおいて、特に既定の閾値より低い変位速度に対して、中間摩擦率の連続推定を行う方法であって、
a)電動パワーステアリングにおける電気モータの速度を測定するように構成された速度センサによって実行される、第1の速度を測定するステップと、
b)電動パワーステアリングにおけるハンドルとラックとの間のトルクを測定するように構成されたトルクセンサによって実行されるハンドル/運転者トルクの測定結果から、第2の速度を決定するステップと、
c)第1の速度と第2の速度との合計値であって、ハンドル速度と呼ばれる合計値を決定するステップと、
d)LuGreモデルを、該LuGreモデルの入力として用いられるステップ(c)で決定された合計値に適用するステップと、
e)中間摩擦率(w)の連続推定を得るステップと、を備える推定方法に関する。
【0010】
本発明による推定方法による、ハンドル/運転者トルクに対応する第2の速度の決定は、ハンドル上の運転者の非常に低い負荷を考慮に入れることができる。実際の場合、運転者の負荷が非常に低い場合は、パワーステアリングの様々な部品および機械的噛み合いに連結される、ハンドルと電気モータとの間に存在する摩擦が、電気モータの負荷を妨げる。したがって、第1の速度はゼロである。
【0011】
したがって、第2の速度の決定は、ハンドル上の運転者の低負荷に対するパワーステアリングの摩擦を考慮に入れ、よってこれを効果的に補償するのを可能にする。
【0012】
第1の速度および第2の速度の合計値は、第2の速度を介することによる、ハンドル上での運転者の低負荷と、第1の速度を介することによる、走行表面から生じかつラックに直接バイアスをかける低負荷と、の両方を考慮に入れることを可能にする。
【0013】
有利なこととして、本発明による推定方法は、不連続性の問題のないLuGreモデルを用いる。LuGreモデルは統合原理を用いるとともに、中間摩擦率に一定の連続性を持たせることを可能にする一方で、摩擦サイクルを表現するという特性を持つ。
【0014】
用いられれるLuGreモデルは、従来、下式によって記述される。
【0015】
【0016】
ここでvは2つの接触表面間の速度であり、zは内部摩擦の状態であり、Fは既定の摩擦力である。Dahlモデルに比べて、LuGreモデルは、定数の代わりに速度に依存する関数g(v)と、微小変位に関連する追加の減衰σ1と、速度に依存しメモリ機能のない項のための一般関数f(v)と、を有する。状態zは、Dahlモデルにおいて記述される作用力に類似し、平均偏差として解釈することができる。LuGreモデルは、小さな動きに対する戻り挙動を再構成する。ここでパラメータσ0は剛性であり、σ1は微小減衰であり、f(v)は粘性摩擦を表し、典型的にはf(v)=σ2vである。一定の速度に対して、摩擦力Fssの安定状態は、以下によって与えられる。
【0017】
【0018】
ここでg(v)はクーロンの摩擦の法則およびストライベック効果(Stribeck effect)に依存する。
【0019】
本発明の1つの特徴によれば、本発明に係るLuGreの適用は、その速度がLuGreモデルの入力によって表される単一のマスによってシステムをモデル化することに相当する。
【0020】
有利なこととして、LuGreモデルは、中間摩擦率を直接的に与えるのではなく、システムの摩擦係数μを推定する。
【0021】
本発明の別の特徴によれば、システムの摩擦係数μの連続推定は、下式によって表すことができる。
【0022】
【0023】
ここでVは車両の速度に対応し、Tはステアリング温度に対応し、a*はテストベンチ上で測定されたシステムの動摩擦係数に対応し、σ1は微小減衰に対応し、zは内部摩擦の状態に対応する。
【0024】
摩擦係数μは、ベンチ上で特定された理論値a*の+/-間で変動する。したがって、得られる摩擦係数μは、+a*と-a*との間で変動するように構成される。
【0025】
中間摩擦率wを得ることを可能にするのは、この係数μを理論値a*で割ることであり、これは-1と+1との間で変動する
従って、そして本発明の1つの実施形態によれば、中間摩擦率wの決定は、下式により実行される。
【0026】
【0027】
この結果、得られる中間摩擦率は、-1と+1との間を変動するように構成される。
【0028】
本発明の別の特徴によれば、ステップ(b)における第2の速度の決定は
(s1)電動パワーステアリングにおけるハンドルとラックとの間のトルクを測定するように構成されたトルクセンサによって実行されるハンドル/運転者トルクを測定するサブステップと、
(s2)トルクの測定値の時間微分を行うサブステップと、
(s3)サブステップs2で得られた導関数を既定の剛性kに適用するサブステップと、
(s4)トルク速度と呼ばれる第2の速度を得るサブステップと、
に従って実行される。
【0029】
本発明はまた、電動パワーステアリングの摩擦を補償する方法であって、本発明による連続推定方法によって得られる中間摩擦率の連続推定を考慮に入れる、補償方法に関する。
【0030】
本発明の別の特徴によれば、補償方法は少なくとも、
E1 前記中間摩擦率の連続推定方法を実現することであって、中間摩擦率(w)の少なくとも1回の連続推定と、少なくとも1つの動摩擦振幅の推定値と、前記中間摩擦率(w)の連続推定による摩擦の推定(FRI)の調節と、を得るステップと、
E2 電動パワーステアリングの所望の摩擦
【0031】
【0032】
に対応する既定の摩擦振幅を得るステップと、
E3 動摩擦振幅の推定値と所望の動摩擦振幅との間の差分を求めるステップと、
E4 値Xを得るために、ステップE3で得られた差分の結果と、中間摩擦率(w)の連続推定と、の積を求めるステップと、
E5 ステップE4で得られた値Xと、動きとは反対方向の力の集合の既定の推定(RFE)との間の差分を(RFEを補償するために)求めるステップと、
E6 運転者トルクの目標値および運転者トルクの測定値に応じて、コントローラ(CPU)によって運転者トルクを監視することによってパワーステアリングを補償するステップと、を包含する。
【0033】
補償方法において中間摩擦率の連続推定を考慮に入れることによって、ラック作用力推定手段(rack effort estimator)のヒステリシスを、該ヒステリシスが所望の摩擦に適合するように変更することが可能になる。したがって、この補償方法によって、ハンドル感触の精度をより高くする、つまり感じるヒステリシスをちょうど所望のレベルにすることができる。さらに、本方法によって、ロバストネス機能が可能となる。つまり本方法は、ステアリングの実際の摩擦に応じて自己適合を行う。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、ステップE2は、チャート、所定のデータベース、または既定のデータ入力によって得ることができる。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、運転者トルクの監視は、閉ループで実行される。
【0036】
本発明は、非限定の実施例によって与えられかつ以下の添付の概略図面を参照して説明される本発明の実施形態に関連する以下の説明によって、より良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本発明に係る推定方法を表すダイアグラムである。
【
図2】
図2は、本発明に係る補償方法を実現する電動パワーステアリングのコントローラの構成を表すダイアグラムである。
【
図3】
図3は、本発明に係る補償方法を表すダイアグラムである。
【
図4】
図4は、本発明が適用されるステアリング装置の概略図である。
【
図5】
図5は、摩擦補償あり/なしの2つのヒステリシス曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1に示すように、中間摩擦率の連続推定の方法は、車両の電気モータの速度センサによって第1の速度を測定するステップ(a)を備える。この第1の速度は参照符号
【0039】
【0040】
によって表される。
【0041】
本推定方法は第2の速度を決定するステップ(b)を備える。このステップ(b)は、参照符号
【0042】
【0043】
によって表されるハンドル/運転者トルクを測定するサブステップs1と、ハンドルトルクの測定値の時間微分であり、ゲインを導関数に適用するサブステップs2と、を備える。本推定方法は、参照符号Σが付されたボックスによって表される第1および第2の速度を合計するステップ(c)を備え、
【0044】
【0045】
と参照されるハンドル速度と呼ばれる速度が得られる。本推定方法のステップ(d)は。簡略化した一次元ステアリングモデル(質量)およびLuGre摩擦をシミュレートすることを含むボックスLuGreによって表され、その唯一の入力速度は、前のステップ(c)で得られた合計である。最後に、参照符号wによって表される電動パワーステアリングの中間摩擦率の連続推定が得られる。
【0046】
図2に、車両の電動パワーステアリングのコントローラCPUのダイアグラムを示す。
【0047】
図3に示すように、本補償方法は、連続推定方法を実現するステップE1を備える。この推定方法は、
図1に詳細に示されており、また摩擦補償方法において考慮に入れられる。
【0048】
図3では、FR1と付されたボックスは摩擦の推定を表し、
図1に示した方法によって得られる中間摩擦率wの連続推定である少なくとも1つの成分と、動摩擦振幅の推定値である別の成分と、を備える。さらに、チャートまたは所定のデータベース、例えば調節可能マップによって、電動パワーステアリングに所望される動摩擦振幅が得られる。これは、
図3においてFRCと付されたボックによって示される、本補償方法のステップE2である。本補償方法のステップE3では、動摩擦振幅の推定値と所望の動摩擦振幅との間の差分を求め、ステップE4では、差分の結果と、中間摩擦率wの連続推定との積を求め、これにより、補償されるべき摩擦の大きさtcompに対応する値Xを得ることができる。ステップE5では、ステップE4で得た値Xと、ラック作用力推定手段と呼称されるRFEと付されたボックスで表される、その動きとは反対方向の力の集合の既定の推定値と、の差分が得られる。この補償により、ラック作用力推定手段のヒステリシスは、監視された所望のヒステリシスを持つことになり、これはまた目標トルクの生成時のヒステリシスに影響を与えることになる。ステップE6では、
図2に示したコントローラCPUによる閉ループトルクの監視に際して、目標運転者トルクおよび測定された運転者トルクを考慮に入れる。ステップE6では、「考慮に入れる」というアクションは「閉ループで比較および監視を行う」ことを意味する。
【0049】
例えば、電動パワーステアリングは摩擦が400Nであり300Nの感触が所望されると、摩擦推定手段FRIは、ステアリングが400Nであると特定し、所望の摩擦値の入力は、300Nとなる。したがって、その差分は100Nであり、動きとは反対方向の力の集合の既定の推定は400Nであり、摩擦が所望の値300Nに対応するように100Nが減算される。
【0050】
図5に示すグラフは、度数で表されるハンドル角(横座標)に対する、Nmで表される運転者ハンドルトルク(縦座標)を示す2つの曲線を表す。実線の第1の曲線は、摩擦補償がない場合の運転者ハンドルトルクとハンドル角との間のヒステリシスを示す。点線の第2の曲線は、本発明の方法による摩擦補償がある場合のヒステリシスを示す。このヒステリシスを所望通りに減らすために、ハンドルの動きが逆転する+または-15°での反転領域が、点線で示した第2の曲線に示すように、連続的および漸進的に調整されている。
【0051】
図4に、本発明の推定方法および本発明の補償方法を実現することができるパワーステアリングを備えたステアリング装置を示す。それ自体が周知のように、または
図4に示すように、パワーステアリング装置1は、ハンドル3を備える。このハンドル3に運転者が「ハンドルトルク」T3と呼ばれる作用力を行使することによって、パワーステアリング装置1を操縦することができる。このハンドル3は、好ましくはステアリングコラム4上に載置され、ステアリングコラム4は車両2において回転するよう案内されまたステアリングラック6においてステアリングピニオン5によって噛み合う。ステアリングラック6自体は車両2に固定されたステアリングケーシング7内で並進移動するよう案内される。
【0052】
好ましくは、ステアリングラック6の両端部は、それぞれステアードホイール(操向輪)10,11(それぞれ左操向輪10および右操向輪11)のスタブ車軸に接続されたステアリングタイロッド8,9に、ラック6の並進における長さ方向の変位によってステアードホイールのステアリングアングル(ヨー角)を変更することができるように、連結される。さらに、ステアードホイール10,11はまた、好ましくは駆動輪であるのがよい。
【0053】
パワーステアリング装置1はまた、パワーステアリング装置1の操縦をアシストするように構成されたモータ12を備える。モータは、好ましくは両方向に動作する電気モータであり、好ましくはブラシレスタイプのロータリー電気モータである。
【0054】
パワーステアリング装置1はさらに、ハンドルトルクT3を測定するために、特にパワーステアリング装置1内(例えばステアリングコラム4上)に設置されるハンドルトルクセンサ14を備える。このハンドルトルクセンサ14は、該センサが用いる測定技術に関係なく、ハンドルトルクT3を測定するという主たる唯一とも言える目的を持つ。加えて、パワーステアリング装置1は、モータ12の回転速度を測定するよう意図されたモータ速度センサ24を備える。
【0055】
最後に、パワーステアリング装置1はまた、センサデータ14,24から推定方法および補償方法を実現するようにされた計算および制御ユニット20を備える。
【0056】
当然ながら、本発明は、添付の図面において記載および表現された実施形態に限定されない。特に様々な要素の構成という観点からまたは技術的等価物の代替によって、本発明の保護分野から逸脱することなく変更は可能である。