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特許7160934ベンゾピラン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む溶液形態の点眼剤
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  • 特許-ベンゾピラン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む溶液形態の点眼剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ベンゾピラン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む溶液形態の点眼剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20221018BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/02
A61P27/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020545255
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 KR2019001894
(87)【国際公開番号】W WO2019168289
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0024470
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512046866
【氏名又は名称】ハンリム ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】2-27 Yeongmun-ro, Cheoin-gu,Yongin-si,Gyeonggi-do 17040 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】シン,ドンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】キム,フソン
(72)【発明者】
【氏名】イ,グンヒョグ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ギョンジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ユンソク
(72)【発明者】
【氏名】オ,ミジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミジョン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-509643(JP,A)
【文献】特開平10-236951(JP,A)
【文献】特表2016-506966(JP,A)
【文献】特開2011-011984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に、(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;安定化剤としてプロピレングリコール;およびpH調整剤を含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤。
【請求項2】
前記(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩が、3mg/ml以上の濃度で存在することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
前記(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩が、3~10mg/mlの濃度で存在することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項4】
前記プロピレングリコールが、1~20mg/mlの濃度で存在することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項5】
前記プロピレングリコールが、5~17mg/mlの濃度で存在することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項6】
前記プロピレングリコールが、10~15mg/mlの濃度で存在することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項7】
前記点眼剤が、4.2~4.7のpHを有することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項8】
前記点眼剤が、約4.5のpHを有することを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項9】
安定化補助剤、緩衝剤、および保存剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項10】
前記安定化補助剤が、エチレンジアミン四酢酸またはその塩およびトロメタミンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の点眼剤。
【請求項11】
前記緩衝剤が、ホウ砂、ホウ酸、リン酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびアミノカプロン酸からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の点眼剤。
【請求項12】
前記保存剤が、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸類、クロロブタノール、およびパラベン類からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の点眼剤。
【請求項13】
水性媒体中に、(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;プロピレングリコール;エチレンジアミン四酢酸またはその塩;トロメタミン;ホウ砂;ホウ酸;塩化ベンザルコニウム;およびpH調整剤を含む、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項14】
水性媒体中に、3~10mg/mlの(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;1~20mg/mlのプロピレングリコール;0.01~1.0mg/mlのエチレンジアミン四酢酸またはその塩;0.05~10.0mg/mlのトロメタミン;1.0~11.0mg/mlのホウ砂;0.1~18.0mg/mlのホウ酸;0.01~0.5mg/mlの塩化ベンザルコニウム;およびpH調整剤を含む、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項15】
水性媒体中に、3~10mg/mlの(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;10~15mg/mlのプロピレングリコール;0.5mg/mlのエチレンジアミン四酢酸またはその塩;0.35mg/mlのトロメタミン;5.8~5.9mg/mlのホウ砂;0.5~0.6mg/mlのホウ酸;0.05~0.15mg/mlの塩化ベンザルコニウム;およびpH調整剤を含む、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の点眼剤を遮光容器に充填して得られる、黄斑変性の予防または治療のための医薬品。
【請求項17】
前記医薬品が、前記点眼剤を遮光容器に充填した後、紙ケースで包装して得られる、請求項16に記載の黄斑変性の予防または治療のための医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾピラン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む溶液形態の点眼剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、ベンゾピラン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩および特定の安定化剤を含み、特定のpH範囲を有する、溶液形態の点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の化学式1で表されるベンゾピラン誘導体は、その化学名が(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランで表され、癌、関節リウマチ等に治療効果を有する化合物として知られている(韓国特許第10-0492252号)。
<化学式1>
【0003】
また、化学式1の化合物は、低分子物質をベースとする点眼製剤としても調製することができ;抗体注射療法のように患部に直接注射することを必要とせずに、黄斑変性の予防および治療に有用に適用することができる(韓国特許公開第10-2012-0112162号)。韓国特許公開第10-2012-0112162号は、溶液または懸濁液形態の点眼剤を開示している。例えば、韓国特許公開第10-2012-0112162号は、溶解補助剤(solubilizer)としてポリエチレングリコールとグリセリンを使用して製造された、化学式1の化合物を0.06w/v%および0.09w/v%の濃度で含有する溶液形態の点眼剤を開示している。
【0004】
一方、黄斑変性の効果的な治療のために、化学式1の化合物を高濃度で、例えば、0.3w/v%以上の濃度(すなわち、3.0mg/ml以上の濃度)で、含有する溶液形態の点眼剤が必要である。しかし、化学式1の化合物は水難溶性物質なので、韓国特許公開第10-2012-0112162号に開示されている溶液形態の点眼剤は、化学式1の化合物を3.0mg/ml以上の高濃度で溶解させることができない問題がある。また、化学式1の化合物は、水性媒体中で、低い安定性を有する。したがって、化学式1の化合物を3.0mg/ml以上の高濃度で含有する場合、分解産物の発生が大幅に増加する問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、水性媒体中に化学式1の化合物を高濃度(例えば、3.0mg/ml以上の濃度)で含有し、また改善された安定性を有する溶液形態の点眼剤を開発するために、様々な研究を行った。その結果、本発明者らは、溶液のpHを特定の範囲(すなわち、pH4.0~pH5.0)に調節し、また、特定の安定化剤(すなわち、プロピレングリコール)を使用して製剤化を行うことにより、化学式1の化合物を高濃度で含有し、また、優れた安定性を有する、溶液形態の点眼剤を製造することができることを見出した。また、本発明者らは、得られた点眼剤を遮光容器に充填する場合、長期間の保管が可能な医薬品を得ることができるということを見出した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、化学式1の化合物またはその薬学的に許容可能な塩;および安定化剤としてプロピレングリコールを含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、前記点眼剤を遮光容器に充填して得られる、黄斑変性の予防または治療のための医薬品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によって、水性媒体中に、(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;安定化剤としてプロピレングリコール;およびpH調整剤を含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤が提供される。
【0009】
本発明の点眼剤において、前記(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩は、3mg/ml以上の濃度で、好ましくは3~10mg/mlの濃度で存在してもよい。また、前記プロピレングリコールは、1~20mg/mlの濃度で、好ましくは5~17mg/mlの濃度で、より好ましくは10~15mg/mlの濃度で存在してもよい。本発明の点眼剤は、好ましくは4.2~4.7のpH、より好ましくは約4.5のpHを有してもよい。
【0010】
本発明の点眼剤は、安定化補助剤、緩衝剤、および保存剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含んでいてもよい。前記安定化補助剤は、エチレンジアミン四酢酸またはその塩およびトロメタミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。前記緩衝剤は、ホウ砂、ホウ酸、リン酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびアミノカプロン酸からなる群から選択される1種以上であってもよい。前記保存剤は、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸類、クロロブタノール、およびパラベン類からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0011】
本発明の別の一態様によって、前記点眼剤を遮光容器に充填して得られる、黄斑変性の予防または治療のための医薬品が提供される。好ましくは、本発明の黄斑変性の予防または治療のための医薬品は、前記点眼剤を遮光容器に充填した後、紙ケースで包装して得られてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る溶液形態の点眼剤は、化学式1の化合物を高濃度で含有することができ、優れた安定性を有する。また、本発明に係る医薬品は、長期間保管することができる。したがって、本発明に係る溶液形態の点眼剤および医薬品は、黄斑変性の予防または治療のために有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、黄斑変性の動物モデルで、本発明の点眼剤の血管漏出(vascular leakage)に対する抑制効果を評価して得られた結果を示す。
図2図2は、黄斑変性の動物モデルで、本発明の点眼剤の病因性の網膜血管新生(pathogenic retinal angiogenesis)に対する抑制効果を評価して得られた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、水性媒体中に、(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;安定化剤としてプロピレングリコール;およびpH調整剤を含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤を提供する。
【0015】
本発明の点眼剤において、前記水性媒体は、注射用蒸留水、滅菌精製水、生理食塩水などを含む。
【0016】
本発明の点眼剤において、前記(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランは、前記したように、化学式1の化学構造を有する。前記化学式1の化合物の薬学的に許容可能な塩は、韓国特許公開第10-2012-0112162号に開示された、酸付加塩、アルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩の形態であってもよいが、これらに限定されない。本発明の点眼剤において、前記化学式1の化合物は、3mg/ml以上の濃度で、好ましくは3~10mg/mlの濃度で存在してもよい。
【0017】
安定化剤としてプロピレングリコールを使用して化学式1の化合物の製剤化を行う場合、得られる点眼剤の安定性が著しく改善されることが、本発明によって明らかになった。前記プロピレングリコールは、1~20mg/mlの濃度で、好ましくは5~17mg/mlの濃度で、より好ましくは10~15mg/mlの濃度で、特に好ましくは約13mg/mlの濃度(すなわち、12~14mg/mlの濃度)で存在してもよい。
【0018】
また、溶液形態の点眼剤のpHを特定の範囲(すなわち、pH4.0~pH5.0)に調節する場合、化学式1の化合物を高濃度で、沈殿物が生成せずに、溶解させることができるということが、本発明によって明らかになった。本発明の点眼剤は、好ましくは4.2~4.7のpH、より好ましくは約4.5のpH(すなわち、pH4.4~pH4.6)を有してもよい。前記pH調節は、点眼剤の分野で使用される通常のpH調整剤を使用して行われてもよく、例えば、pH調整剤として塩酸および/または水酸化ナトリウムを使用してもよいが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の点眼剤は、安定化補助剤、緩衝剤、および保存剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含んでいてもよい。前記添加剤の使用量は、それぞれの機能を考慮して、本技術分野の当業者によって適切に選択してもよい。
【0020】
前記安定化補助剤は、エチレンジアミン四酢酸またはその塩(例えば、そのナトリウム塩等)およびトロメタミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。例えば、前記安定化補助剤は、0.05~10.0mg/mlの量で使用してもよいが、これに限定されない。
【0021】
前記緩衝剤は、ホウ砂、ホウ酸、リン酸塩(例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウムなど)、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびアミノカプロン酸からなる群から選択される1種以上であってもよい。例えば、前記緩衝剤は、0.05~18.0mg/mlの量で使用してもよいが、それは種類に応じて異なる。
【0022】
前記保存剤は、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸類(例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウムなど)、およびパラベン類(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンなど)からなる群から選択される1種以上であってもよい。例えば、前記保存剤は、0.01~0.5mg/mlの量で使用してもよいが、これに限定されない。
【0023】
必要に応じて、本発明の点眼剤は、例えば、0.2μmメンブレンフィルターのような細菌フィルターなどで滅菌濾過した後、適切な容器に充填してもよい。
【0024】
一実施形態において、水性媒体中に、(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;プロピレングリコール;エチレンジアミン四酢酸またはその塩;トロメタミン;ホウ砂;ホウ酸;塩化ベンザルコニウム;およびpH調整剤を含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤が提供される。
【0025】
別の一実施形態において、水性媒体中に、3~10mg/mlの(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;1~20mg/mlのプロピレングリコール;0.01~1.0mg/mlのエチレンジアミン四酢酸またはその塩;0.05~10.0mg/mlのトロメタミン;1.0~11.0mg/mlのホウ砂;0.1~18.0mg/mlのホウ酸;0.01~0.5mg/mlの塩化ベンザルコニウム;およびpH調整剤を含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤が提供される。
【0026】
さらに別の一実施形態において、水性媒体中に、3~10mg/mlの(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランまたはその薬学的に許容可能な塩;10~15mg/mlのプロピレングリコール;0.5mg/mlのエチレンジアミン四酢酸またはその塩;0.35mg/mlのトロメタミン;5.8~5.9mg/mlのホウ砂;0.5~0.6mg/mlのホウ酸;0.05~0.15mg/mlの塩化ベンザルコニウム;およびpH調整剤を含み、4.0~5.0のpHを有する、溶液形態の点眼剤が提供される。
【0027】
また、本発明は、前記点眼剤を遮光容器に充填して得られる、黄斑変性の予防または治療のための医薬品を提供する。好ましくは、本発明の黄斑変性の予防または治療のための医薬品は、前記点眼剤を遮光容器に充填した後、紙ケースで包装して得られてもよい。前記遮光容器は、例えば、不透明LDPE容器(non-transparent low-density polyethylene container)、不透明PP容器(non-transparent polypropylene container)などを含むが、これに限定されない。
【実施例
【0028】
以下、実施例を参照することによって本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を一例として説明するためのものであり、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0029】
以下の参照例、実施例、および試験例において、HL217とは、(2R,3R,4S)-6-アミノ-4-[N-(4-クロロフェニル)-N-(1H-イミダゾール-2-イルメチル)アミノ]-3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ジメトキシメチル-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピランを意味する。
【0030】
参照例1:高濃度を有する点眼剤の製造可能性の評価
韓国特許公開第10-2012-0112162号の製剤例1及び2に開示されている点眼液(0.06w/v%及び0.09w/v%点眼液)において、HL217の含有量として0.3w/v%の濃度(すなわち、3.0mg/mlの濃度)を使用したことを除いては、同じ方法でHL217を溶解させて、溶液形態の点眼剤の製造可能性を評価した。すなわち、表1に示した成分及び含有量に従って、滅菌精製水に、HL217、ポリエチレングリコール400、グリセリン、EDTA、およびホウ酸を、攪拌しながら加えた。塩酸水溶液および/または水酸化ナトリウム水溶液でpHを6.5に調整した後、滅菌精製水を加えて最終体積を調節した。下記表1の含有量は、総体積1mL当たりの各成分の含有量を示す。
<表1>
【0031】
上記のように、活性成分であるHL217の濃度を3.0mg/mlに増加させたとき、沈殿物が発生して、溶液が製造されなかった。
【0032】
参照例2:HL217の可溶化および安定性の評価
(1)HL217の可溶化
HL217を高濃度(0.3w/v%以上の濃度)で溶解させるために、様々な物理化学的因子を評価した。点眼剤において、ポリエチレングリコール400の米国食品医薬品局(FDA)の最大許容基準は、50mg/mlであるため、ポリエチレングリコール400の使用量を1/10(すなわち、15.0mg)に調節し、それに応じてグリセリンの使用量も1/10(すなわち、12.0mg)に調節して、HL217の可溶化を評価した。様々な物理化学的因子による影響を評価したところ、溶液のpHがHL217の可溶化に大きな影響を与えることが発見された。すなわち、様々な因子の中でpHを4.5±0.5の範囲で調整した場合、沈殿物が発生せずに、透明な溶液が得られた。具体的には、表2の成分と含有量に従って、滅菌精製水に、HL217、ポリエチレングリコール400、グリセリン、EDTA、およびホウ酸を、攪拌しながら加えた。塩酸水溶液および/または水酸化ナトリウム水溶液でpHを4.5に調整した後、滅菌精製水を加えて最終体積を調節した。下記表2の含有量は、総体積1mL当たりの各成分の含有量を示す。
<表2>
【0033】
上記表2の結果から分かるように、溶解補助剤(すなわち、ポリエチレングリコール400およびグリセリン)の含有量が1/10倍にもかかわらず、透明な溶液がpH4.5の条件で、沈殿物が発生せずに、得られた。
【0034】
(2)安定性の評価
参照例2-1、2-2、および2-3の溶液を、それぞれ冷蔵条件(5±3℃)、室温条件(25±2℃、40±5%RH)、および加速条件(40±2℃、25%RH)で4週間保管して、分解産物の含有量を測定した。分解産物の含有量として、最大分解産物の含有量および総分解産物の含有量を、下記条件の下で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。
<HPLC条件>
-検出器:UV/vis 吸光光度計(測定波長:254nm)
-カラム:Luna C8 column (4.6 * 250 mm、5 μm)
-流速:1.0mL/分
-注入量:20μL
-移動相:ギ酸アンモニウム緩衝液/アセトニトリル=50/50
(ギ酸アンモニウム緩衝液は、10mMギ酸アンモニウム溶液をリン酸でpH5.5に調整して製造した。)
-カラム温度:約30℃
-サンプル温度:約4℃
上記のように分解産物の含有量を測定して得られた結果は、以下の表3~表5に示す。
【0035】
<表3>
参照例2-1の溶液の分解産物の含有量
【0036】
<表4>
参照例2-2の溶液の分解産物の含有量
【0037】
<表5>
参照例2-3の溶液の分解産物の含有量
【0038】
上記表3~5の結果から分かるように、参照例2-1~2-3の溶液は、すべての条件で2週間後および4週間後に分解産物が大幅に増加したので、分解産物の含有量の許容基準(最大分解産物:1%以下、総分解産物:2%以下)に不適合である。
【0039】
実施例1および2:HL217を含有する安定した溶液形態の点眼剤の製造
(1)溶液形態の点眼剤の製造
表6の成分および含有量に従って、ポリエチレングリコール/グリセリンの代わりに、プロピレングリコールを含有する溶液形態の点眼剤を製造した。すなわち、表6の成分および含有量に従って、滅菌精製水に、HL217、プロピレングリコール、安定化剤(EDTA、および/またはトロメタミン)、緩衝剤(ホウ酸およびホウ砂)、および塩化ベンザルコニウムを、攪拌しながら加えた。塩酸水溶液および/または水酸化ナトリウム水溶液でpHを4.5に調整した後、滅菌精製水を加えて最終体積を調節した。下記表6の含有量は、総体積1mL当たりの各成分の含有量を示す。
【0040】
<表6>
【0041】
(2)安定性の評価
実施例1および2の溶液を、それぞれ冷蔵条件(5±3℃)、室温条件(25±2℃、40±5%RH)、および加速条件(40±2℃、25%RH)で4週間保管して、分解産物の含有量を測定した。分解産物の含有量として、最大分解産物の含有量および総分解産物の含有量を、参照例2の(2)と同様の方法で測定した。その結果は、以下の表7および表8に示す。
【0042】
<表7>
実施例1の溶液の分解産物の含有量
【0043】
<表8>
実施例2の溶液の分解産物の含有量
【0044】
上記表6~8の結果から分かるように、プロピレングリコールを使用し、溶液のpHを4.5に調整した場合、透明な溶液が、沈殿物が発生せず、得られただけでなく、すべての条件(すなわち、冷蔵条件、室温条件、および加速条件)で、分解産物の発生が顕著に減少した。したがって、上記点眼剤は、分解産物の含有量の許容基準(最大分解産物:1%以下、総分解産物:2%以下)に適合している。また、トロメタミンを安定化剤としてさらに添加して製造した溶液は、有意性はないが、トロメタミン非添加の溶液に比べて、加速条件で若干の安定性の増加を示した。
【0045】
実施例3および4:HL217を含有する安定した溶液形態の点眼剤の製造
(1)溶液形態の点眼剤の製造
表9の成分および含有量に従って、溶液形態の点眼剤を製造した。すなわち、HL217の濃度をそれぞれ5.0mg/ml及び10.0mg/mlに増加させ、実施例2と同様の方法で、溶液形態の点眼剤を製造した。下記表9の含有量は、総体積1mL当たりの各成分の含有量を示す。
【0046】
<表9>
【0047】
(2)安定性の評価
実施例3および4の溶液を、それぞれ冷蔵条件(5±3℃)、室温条件(25±2℃、40±5%RH)、および加速条件(40±2℃、25%RH)で4週間保管して、分解産物の含有量を、参照例2の(2)と同様の方法で測定した。その結果は、以下の表10および表11に示す。
【0048】
<表10>
実施例3の溶液の分解産物の含有量
【0049】
<表11>
実施例4の溶液の分解産物の含有量
【0050】
上記表9~11の結果から分かるように、プロピレングリコールを使用し、溶液のpHを4.5に調整した場合、HL217を高濃度(例えば、10mg/ml)で含有する透明な溶液が得られ、すべての条件(すなわち、冷蔵条件、室温条件、および加速条件)で、分解産物の含有量の許容基準(最大分解産物:1%以下、総分解産物:2%以下)に適合している。
【0051】
実施例5~7:HL217を含有する安定した溶液形態の点眼剤の製造
(1)溶液形態の点眼剤の製造
表12の成分および含有量に従って、溶液形態の点眼剤を製造した。すなわち、プロピレングリコールの濃度をそれぞれ1.0mg/ml、5.0mg/ml及び20.0mg/mlに変化させ、実施例2と同様の方法で、溶液形態の点眼剤を製造した。下記表12の含有量は、総体積1mL当たりの各成分の含有量を示す。
【0052】
<表12>
【0053】
(2)安定性の評価
実施例5~7の溶液を、それぞれ冷蔵条件(5±3℃)、室温条件(25±2℃、40±5%RH)、および加速条件(40±2℃、25%RH)で4週間保管して、分解産物の含有量を、参照例2の(2)と同様の方法で測定した。その結果は、以下の表13~表15に示す。
【0054】
<表13>
実施例5の溶液の分解産物の含有量
【0055】
<表14>
実施例6の溶液の分解産物の含有量
【0056】
<表15>
実施例7の溶液の分解産物の含有量
【0057】
上記表12~15の結果から分かるように、プロピレングリコールを1mg/ml~20mg/mlの濃度で使用した場合、沈殿物が発生せず、透明な溶液が得られ、すべての条件(すなわち、冷蔵条件、室温条件、および加速条件)で、分解産物の含有量の許容基準(最大分解産物:1%以下、総分解産物:2%以下)に適合している。
【0058】
試験例1:光安定性試験
透明容器として透明な低密度ポリエチレン(LDPE)容器[PurellPE1810E natural(GERRESHEIMER)]、不透明容器として不透明な低密度ポリエチレン(LDPE)容器[PurellPE1810E white(GERRESHEIMER)]を使用し、また、紙ケースをそれぞれ使用して、点眼剤の光安定性を評価した。すなわち、実施例2で製造した点眼剤を下記表16の保管条件で保管した。それぞれの試験群を光チャンバー(photochamber)に入れて、5w/mの条件で40時間紫外線にさらさせたり、または30000lux/hrの条件で40時間可視光線にさらさせた。40時間の暴露後、参照例2の(2)と同様の方法で分解産物の含有量を測定した。その結果を表17に示す。
【0059】
<表16>
【0060】
<表17>
【0061】
上記表17の結果から分かるように、HL217含有の点眼剤は、不透明容器に充填することが好ましく、不透明容器に充填して、紙ケースに保管することがより好ましい。
【0062】
試験例2:動物での効能試験
加齢黄斑変性(age-related macular degeneration、AMD)の動物モデルとして超低密度リポタンパク質受容体(very-low-density lipoprotein receptor、vldlr)遺伝子がノックアウトされたマウス(C57B1/6 mouse、Jackson Laboratory、USA)を利用して、黄斑変性に対する治療効能を検証した。陽性対照群としてルセンティスTM注射剤(LucentisTM injection、Norvatis、Basel、Switzerland)を使用した。
【0063】
対照群は、正常マウスの両眼に滅菌生理食塩水を毎日2回、3週間1滴ずつ点眼した(n=8)。AMD誘発群は、vldlr遺伝子がノックアウトされたマウス(vldlr -/-マウス)の両眼に滅菌生理食塩水を毎日2回、3週間1滴ずつ点眼した。陽性対照群は、vldlr -/-マウスの両眼にルセンティスTM注射剤1μl(50ng/μlのラニビズマブを含有)をハミルトンシリンジ(Hamiltion syringe)(Hamilton company、Reno、NV、USA)を用いて、眼の硝子体内に単回投与した。試験群は、実施例2の点眼剤をvldlr -/-マウスの両眼に毎日2回、3週間1滴ずつ点眼した。
【0064】
血管新生の形成および異常な血管透過性などの網膜血管の異常の有無を確認するために、次の実験を実施した。剖検時、10mg/kgのゾラゼパム(Zoletil、Virbac、Carros、France)と10mg/kgのキシラジン塩酸塩(Rumpun、Bayer、Frankfurt、Germany)を腹腔内注射して、麻酔を誘導した。腹腔および胸腔を開いて心臓を確保し、滅菌PBS(1mL)中の50mg/mlのフルオレセイン-デキストラン(10Kda molecular weight、Sigma、St. Luois、MO、USA)と10mg/mlのHoechst 33342(sigma)を左心室に注射した。10分後、眼球を摘出して、4%パラホルムアルデヒドで2時間固定し、網膜を分離した。分離された網膜をスライド上に置いて、水性封入剤(aqueous mounting medium)(FluoromountTM、Sigma、St. Louis、MO、USA)を滴下した後、蛍光顕微鏡で観察した。トレーサー染料の定量分析のために、染料注射10分後に心臓から血液を採取し、滅菌PBSでかん流して、血管内残留染料を除去した後、眼球を摘出して網膜を分離した。分離された網膜は、100μLのPBSで均質化した後、遠心分離して上澄み液を得て、蛍光分光光度計を使用してFITC-デキストランの量を測定した。蛍光強度は、485nmの励起および530nmの発光の条件の下で測定し、血液中のFITC蛍光値と網膜タンパク質濃度を補正して、計算した。上記結果は、図1に示す。
【0065】
また、網膜下血管新生を評価するために、次の実験を実施した。分離された網膜組織を4%パラホルムアルデヒドで1時間固定した後、Alexa Fluor 594-conjuated Griffonia bandeiraea simplicifolia isolectin B4(IB4 Alexa Fluor 594、1:100 dilution; Molecular probes、USA)と2時間反応させた。PBSで十分に洗浄した後、網膜組織をスライド上に置いて、水性封入剤(aqueous mounting medium)(FluoromountTM、Sigma、St. Louis、MO、USA)を滴下した。十分に乾燥した後、蛍光顕微鏡下で観察し、撮影した。網膜部位(retinal section)に対してH&E染色を実行した後、網膜下新血管形成(subretinal neovascularization)をImageJ software(National Institutes of Health、Bethesda、MD、USA)を用いて分析した。その結果は、図2に示す。
【0066】
図1に示すように、正常マウスでは、血管の境界がはっきりし、正常の血管形態(normal vascular integrity)がよく維持されている。しかし、vldlr -/-マウスでは、血管内に注入した蛍光トレーサー染料(tracer dye)が血管外に流出されて(白矢印)、網膜の蛍光強度が増加した。また、青色蛍光を示すHoechst 33342染色物質も、血管外に流出されて、血管漏出(vascular leakage)所見が多数観察され、網膜下新血管形成部位(subretinal neovascularization area、赤矢印)が観察された。しかし、実施例2の点眼剤で処理した眼球では、血管漏出(vascular leakage)と病因性の血管新生(pathogenic angiogenesis)が抑制された。陽性対照群では、薬物投与の第2週でのみ有意な効果を示した。
【0067】
図2から分かるように、イソレクチンB4染色分析の場合、vldlr -/-マウスは、複数の散在された場所で、網膜下新生血管叢(subretinal neovascular tufts、白矢印)が見られたが、その面積は実施例2の点眼剤投与により減少した。また、網膜部位(retinal section)のH&E染色分析の場合も、vldlr -/-マウスは、網膜下部位(矢印の部分)で、多数の異常な新血管形成を示したが、それは実施例2の点眼剤投与により減少した。
図1
図2