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特許7160945交換結合膜ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】交換結合膜ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/08 20060101AFI20221018BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20221018BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20221018BHJP
   H01F 10/12 20060101ALI20221018BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01L43/08 M
G01R33/09
H01F10/12
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020563049
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048560
(87)【国際公開番号】W WO2020137558
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2018244446
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019097861
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019153669
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正路
(72)【発明者】
【氏名】小池 文人
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/029883(WO,A1)
【文献】特開2007-299880(JP,A)
【文献】特開2007-049135(JP,A)
【文献】特開2017-157662(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340598(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/08、43/10、
G01R 33/09、
H01F 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性層と強磁性層とが積層され、
前記反強磁性層は、IrMn層、第1のPtMn層、PtCr層および第2のPtMn層が、この順番で前記IrMn層が前記強磁性層に近位になるように積層された構造を有することを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
反強磁性層と強磁性層とが積層され、
前記反強磁性層は、第1のPtMn層、PtCr層および第2のPtMn層が、この順番で前記第1のPtMn層が前記強磁性層に近位になるように積層され、前記PtCr層の厚さが前記第1のPtMn層の厚さおよび前記第2のPtMn層の厚さのいずれよりも厚い構造を有することを特徴とする交換結合膜。
【請求項3】
前記反強磁性層は、前記第1のPtMn層と前記強磁性層との間に、Mnの含有量が50原子%超であるMn含有層を有してなる、請求項2に記載の交換結合膜。
【請求項4】
前記Mn含有層は、IrMn層またはMn層からなる請求項3に記載の交換結合膜。
【請求項5】
前記Mn含有層の厚さは2Å以上12Å以下である、請求項3または請求項4に記載の交換結合膜。
【請求項6】
前記第2のPtMn層の厚さが0Å超60Å未満である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項7】
前記第2のPtMn層の厚さが15Å以上55Å以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項8】
前記PtCr層の厚さが100Å以上である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項9】
前記反強磁性層の全体の厚さが200Å以下である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の交換結合膜とフリー磁性層とが積層され、前記交換結合膜の強磁性層は、固定磁性層の少なくとも一部を構成することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
請求項10に記載の磁気抵抗効果素子を備えていることを特徴とする磁気検出装置。
【請求項12】
同一基板上に請求項10に記載の磁気抵抗効果素子を複数備えており、
複数の前記磁気抵抗効果素子には、前記固定磁性層の固定磁化方向が異なるものが含まれる請求項11に記載の磁気検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交換結合膜ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反強磁性層と固定磁性層とを備えた交換結合膜は、磁気抵抗効果素子や磁気検出装置として用いられる。特許文献1には、磁気記録用媒体において、強磁性膜としてのCo合金と、反強磁性膜としての種々の合金とを組み合わせることにより交換結合膜を構成できることが記載されている。反強磁性膜としては、CoMn、NiMn、PtMn、PtCrなどの合金が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-215431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気検出装置は、磁気効果素子を基板に実装する際、はんだをリフロー処理(溶融処理)する必要があり、また、エンジンの周辺のような高温環境下において、用いられることがある。このため、磁気検出装置に用いられる交換結合膜は、広いダイナミックレンジで磁界を検出可能とするために、固定磁性層の磁化の方向が反転する磁界(Hex)が大きいことが好ましい。
【0005】
また、近時、大出力モータなど強磁場発生源の近傍に配置されて強磁場が印加される環境であっても、固定磁性層の磁化の向きが影響を受けにくいこと、すなわち、強磁場耐性が求められている。
【0006】
本発明は、固定磁性層など反強磁性層と交換結合する強磁性層の磁化の向きが反転する磁界(Hex)が大きく、ゆえに強磁場耐性に優れる交換結合膜、ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために提供される本発明は、一態様において、反強磁性層と強磁性層とが積層され、前記反強磁性層は、IrMn層、第1のPtMn層、PtCr層および第2のPtMn層が、この順番で前記IrMn層が前記強磁性層に近位になるように積層された構造を有することを特徴とする交換結合膜である。前記IrMn層は前記強磁性層に接するように積層されていてもよいし、前記IrMn層と前記強磁性層との間にさらにPtMn層が積層された構造を有していてもよい。
【0008】
図1は、本発明に係る交換結合膜の磁化曲線のヒステリシスループを説明する図である。通常、軟磁性体のM-H曲線(磁化曲線)が作るヒステリシスループは、H軸とM軸との交点(磁界H=0A/m、磁化M=0A/m)を中心として対称な形状となるが、図1に示されるように、本発明に係る交換結合膜のヒステリシスループは、反強磁性層と交換結合する強磁性層を備える固定磁性層に対して交換結合磁界Hexが作用するため、交換結合磁界Hexの大きさに応じてH軸に沿ってシフトした形状となる。交換結合膜の固定磁性層は、この交換結合磁界Hexが大きいほど外部磁界が印加されても磁化の向きが反転しにくいため、良好な固定磁性層となる。
【0009】
このH軸に沿ってシフトしたヒステリシスループの中心(この中心の磁界強度が交換結合磁界Hexに相当する。)とヒステリシスループのH軸切片との差によって定義される保磁力Hcが交換結合磁界Hexよりも小さい場合には、外部磁場が印加されて交換結合膜の固定磁性層がその外部磁場に沿った方向に磁化されたとしても、外部磁場の印加が終了すれば、保磁力Hcよりも相対的に強い交換結合磁界Hexによって、固定磁性層の磁化の方向を揃えることが可能となる。すなわち、交換結合磁界Hexと保磁力Hcとの関係がHex>Hcである場合には、交換結合膜は良好な強磁場耐性を有する。
【0010】
本発明の一態様に係る交換結合膜は、反強磁性層が、IrMn層と第1のPtMn層とPtCr層と第2のPtMn層とが積層されてなる構成とすることにより、交換結合磁界Hexを大きくすることが実現される。また、本発明に係る交換結合膜は、第2のPtMn層が積層されていない場合との対比で、PtCr層の厚さが小さくても交換結合磁界Hexを高くすることができる。それゆえ、反強磁性層の全体の厚さ(総厚)を相対的に小さくすることができ、生産効率などの観点からも好ましい。
【0011】
本発明は、他の一態様として、反強磁性層と強磁性層とが積層され、前記反強磁性層は、第1のPtMn層、PtCr層および第2のPtMn層が、この順番で前記第1のPtMn層が前記強磁性層に近位になるように積層され、前記PtCr層の厚さが前記第1のPtMn層の厚さおよび前記第2のPtMn層の厚さのいずれよりも厚い構造を有することを特徴とする交換結合膜を提供する。かかる積層構造体から形成された反強磁性層を備える交換結合膜は、交換結合磁界Hexが高く、かつ、保磁力Hcとの関係がHex>Hcとなりやすく、良好な強磁場耐性を有する。また、かかる交換結合膜はブロッキング温度が高くなる傾向を有する場合がある
【0012】
上記の反強磁性層は、前記第1のPtMn層と前記強磁性層との間に、Mnの含有量が50原子%超であるMn含有層を有してなるものであってもよい。前記Mn含有層は複数の層が積層されていてもよい。前記Mn含有層は、IrMn層およびMn層からなる群から選ばれる少なくとも1層を含んでいてもよい。Mn含有層がIrMn層からなる場合や、IrMn層とPtMn層との積層体からなる場合に、上記の本発明の一態様に係る交換結合膜と同様の構成となる。反強磁性層を構成するために成膜された膜の厚さのばらつきが反強磁性層の特性(交換結合磁界Hexの大きさなど)に与える影響を抑える観点から、Mn含有層の厚さは12Å以下であることが好ましい場合がある。
【0013】
上記の交換結合膜において、前記第2のPtMn層の厚さが0Å超60Å未満であることが好ましい場合があり、前記第2のPtMn層の厚さが15Å以上55Å以下であることが好ましい場合がある。上記の交換結合膜において、前記PtCr層の厚さが100Å以上であることが好ましい場合があり、前記反強磁性層の全体の厚さが200Å以下であることが好ましい場合がある。
【0014】
本発明は、別の一態様として、上記の交換結合膜とフリー磁性層とが積層され、前記交換結合膜の強磁性層は、固定磁性層の少なくとも一部を構成することを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0015】
本発明は、また別の一態様として、上記の磁気抵抗効果素子を備えていることを特徴とする磁気検出装置を提供する。
【0016】
上記の磁気検出装置は、同一基板上に上記の磁気抵抗効果素子を複数備えており、複数の前記磁気抵抗効果素子には、前記固定磁性層の固定磁化方向が異なるものが含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、強磁場耐性に優れる交換結合膜が提供される。したがって、本発明の交換結合膜を用いれば、強磁場環境下に置かれても安定な磁気検出装置とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る交換結合膜の磁化曲線のヒステリシスループを説明する図、
図2】本発明の第1の実施形態の交換結合膜10の膜構成を示す説明図、
図3】本発明の第2の実施形態の交換結合膜20の膜構成を示す説明図、
図4】本発明の実施形態の磁気センサ30の回路ブロック図、
図5】磁気センサ30に使用される磁気検出素子11を示す平面図、
図6】実施例1に係る積層体22の膜構成を示す説明図、
図7】交換結合磁界Hexの反強磁性層2の厚さ(総厚)に対する依存性を示すグラフ、
図8】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の反強磁性層2の厚さ(総厚)に対する依存性を示すグラフ、
図9】交換結合磁界Hexの第2のPtMn層2dの厚さd4に対する依存性を示すグラフ、
図10】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の第2のPtMn層2dの厚さd4に対する依存性を示すグラフ、
図11】交換結合磁界Hexの反強磁性層の総膜厚に対する依存性を示すグラフ、
図12】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の反強磁性層の総膜厚に対する依存性を示すグラフ、
図13】比較例11から比較例13および実施例12についての、交換結合磁界Hexの測定温度依存性を示すグラフ、
図14】比較例11から比較例13および実施例12についての、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の測定温度依存性を示すグラフ、
図15】比較例14および比較例15ならびに実施例11から実施例14についての、交換結合磁界Hexの測定温度依存性を示すグラフ、
図16】比較例14および比較例15ならびに実施例11から実施例14についての、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の測定温度依存性を示すグラフ、
図17】本発明の第3の実施形態の交換結合膜70の膜構成を示す説明図、
図18】本発明の第3の実施形態の変形例の一つに係る交換結合膜71の膜構成を示す説明図、
図19】本発明の第3の実施形態の変形例の他の一つに係る交換結合膜72の膜構成を示す説明図、
図20】本発明の第3の実施形態の変形例の別の一つに係る交換結合膜73の膜構成を示す説明図、
図21】実施例21に係る積層体221の膜構成を示す説明図、
図22】実施例27から実施例31に係る積層体222の膜構成を示す説明図、
図23】交換結合磁界Hex(左側軸)および交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)(右側軸)と、Mn含有層の厚さ(Mn,IrMn挿入厚)との関係を示すグラフ、
図24】交換結合磁界Hexの第2のPtMn層8dの厚さD4に対する依存性を示すグラフ、
図25】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の第2のPtMn層8dの厚さD4に対する依存性を示すグラフ、
図26】交換結合磁界Hexの固定磁性層3(Co90at%Fe10at%)の厚さXに対する依存性を示すグラフ、
図27】交換結合磁界Hexの固定磁性層3(Co40at%Fe60at%)の厚さXに対する依存性を示すグラフ、
図28】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の固定磁性層3(Co90at%Fe10at%)の厚さXに対する依存性を示すグラフ、
図29】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の固定磁性層3(Co40at%Fe60at%)の厚さXに対する依存性を示すグラフ、
図30】交換結合磁界Hexの第2のPtMn層2dの厚さd4に対する依存性を示すグラフ、
図31】交換結合磁界Hexの反強磁性層2の総厚に対する依存性を示すグラフ、
図32】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の第2のPtMn層2dの厚さd4に対する依存性を示すグラフ、
図33】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の反強磁性層2の総厚に対する依存性を示すグラフ、
図34】交換結合磁界HexのIrMn層2aの厚さd1に対する依存性を示すグラフ、
図35】保磁力HcのIrMn層2aの厚さd1に対する依存性を示すグラフ、
図36】交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)のIrMn層2aの厚さd1に対する依存性を示すグラフ、
図37】交換結合磁界Hexの反強磁性層2の総厚に対する依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1の実施形態>
図2に本発明の第1の実施形態に係る交換結合膜10を使用した磁気検出素子11の膜構成が示されている。
磁気検出素子11は、基板SBの表面から、下地層1、反強磁性層2、強磁性層からなる固定磁性層3、非磁性材料層4、フリー磁性層5および保護層6の順に積層されて成膜されている(いわゆるボトムタイプ)。反強磁性層2は、IrMn層2a、第1のPtMn層2b、PtCr層2cおよび第2のPtMn層2dが、この順番で、IrMn層2aが強磁性層(固定磁性層3)に近位になるように積層された積層構造を有する。IrMn層2aが固定磁性層3に接するように積層されていてもよい。これら各層は、例えばスパッタ工程やCVD工程で成膜され、成膜後にアニール処理が行われることにより反強磁性層2と固定磁性層3との間に交換結合が生じる。反強磁性層2と固定磁性層3とが本発明の第1の実施の形態の交換結合膜10である。
【0020】
磁気検出素子11は、いわゆるシングルスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用した積層素子であり、固定磁性層3の固定磁化のベクトルと、フリー磁性層5の外部磁界によって変化する磁化のベクトルとの相対関係で電気抵抗が変化する。
【0021】
基板SBとして、例えばシリコン基板上にアルミナ層が形成されたものが用いられる。下地層1は、NiFeCr合金(ニッケル・鉄・クロム合金)、CrあるいはTaなどで形成される。本実施形態の交換結合膜10において固定磁性層3の磁化の向きが反転する磁界(以下、適宜「Hex」ともいう)を高くするために、NiFeCr合金が好ましい。
【0022】
反強磁性層2は、IrMn層2aと第1のPtMn層2bとPtCr層2cと第2のPtMn層2dとが積層された構造を有する。このような構造を有することにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)が1以上となりやすい。それゆえ、強磁場耐性に優れる交換結合膜10が得られる。
【0023】
IrMn層2aの厚さは、12Å以下であることが好ましく、4Å以上10Å以下であることがより好ましい。IrMn層2aの厚さがこの範囲にあることにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、Hex/Hcをも高めることができる。また、IrMn層2aの厚さがこの範囲にあることにより、第1のPtMn層2bの厚さのばらつきが、交換結合磁界HexやHex/Hcに影響を与えにくくなる。第2のPtMn層2dの厚さは、0Å超60Å未満であることが好ましく、10Å以上50Å以下であることまたは15Å以上55Å以下であることがより好ましく、20Å以上50Å以下であることが特に好ましい。第2のPtMn層2dの厚さがこの範囲にあることにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、Hex/Hcをも高めることができる。
【0024】
PtCr層2cの厚さは、100Å以上であることが好ましく、110Å以上であることがより好ましい。PtCr層2cが100Å以上であることにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、Hex/Hcをも高めることができる。PtCr層2cの厚さの上限は、生産効率などの観点から、200Å以下であることが好ましい場合がある。
【0025】
反強磁性層2の全体の厚さは、200Å以下であることが好ましい。反強磁性層2の全体の厚さが200Å以下であっても、交換結合磁界Hexを高めることが可能であるから、交換結合膜10の生産効率を高めることが可能である。
【0026】
本実施形態では、反強磁性層2をアニール処理して規則化し、強磁性層からなる固定磁性層3との間(界面)で交換結合を生じさせる。この交換結合に基づく磁界(交換結合磁界Hex)によって交換結合膜10は外部磁場が印加されても磁化の向きが反転しにくくなって強磁場耐性が向上する。なお、交換結合膜10に交換結合磁界Hexを生じさせるために行うアニール処理の際に、反強磁性層2のPtCr層2c、第1のPtMn層2bおよびIrMn層2aならびに第2のPtMn層2dに含まれる各原子(Pt,Cr,Mn,Ir)は相互拡散する。
【0027】
固定磁性層3は、強磁性のCoFe合金(コバルト・鉄合金)で形成される。CoFe合金は、Feの含有割合を高くすることにより、保磁力が高くなる。固定磁性層3はスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果に寄与する層であり、固定磁性層3の固定磁化方向Pが延びる方向が磁気検出素子11の感度軸方向である。交換結合膜10の強磁場耐性を高める観点から、固定磁性層3の膜厚は、12Å以上30Å以下であることが好ましい場合がある。
【0028】
非磁性材料層4は、Cu(銅)などを用いて形成することができる。
フリー磁性層5は、その材料および構造が限定されるものではないが、例えば、材料としてCoFe合金(コバルト・鉄合金)、NiFe合金(ニッケル・鉄合金)などを用いることができ、単層構造、積層構造、積層フェリ構造などとして形成することができる。
保護層6は、Ta(タンタル)などを用いて形成することができる。
【0029】
<第2の実施形態>
図3に本発明の第2の実施形態の交換結合膜20を使用した磁気検出素子21の膜構成を示す説明図が示されている。本実施形態では、図2に示す磁気検出素子11と機能が同じ層に同じ符号を付して、説明を省略する。
第2の実施形態の磁気検出素子21では、交換結合膜20が、セルフピン止め構造の固定磁性層3と反強磁性層2とが接合されて構成されている。また、非磁性材料層4とフリー磁性層5が固定磁性層3よりも基板SBに近位に形成されている(いわゆるトップタイプ)点において、図2の磁気検出素子11と相違している。
【0030】
磁気検出素子21も、いわゆるシングルスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果を利用した積層素子である。固定磁性層3の第1磁性層3Aの固定磁化のベクトルと、フリー磁性層5の外部磁界によって変化する磁化のベクトルとの相対関係で電気抵抗が変化する。
【0031】
固定磁性層3は、第1磁性層3Aおよび第2磁性層3Cと、これらの二層の間に位置する非磁性中間層3Bと、で構成されたセルフピン止め構造となっている。第1磁性層3Aの固定磁化方向P1と、第2磁性層3Cの固定磁化方向P2とは、相互作用により反平行となっている。非磁性材料層4に隣接する第1磁性層3Aの固定磁化方向P1が固定磁性層3の固定磁化方向である。この固定磁化方向P1が延びる方向が磁気検出素子11の感度軸方向である。
【0032】
第1磁性層3Aおよび第2磁性層3Cは、FeCo合金(鉄・コバルト合金)で形成される。FeCo合金は、Feの含有割合を高くすることにより、保磁力が高くなる。非磁性材料層4に隣接する第1磁性層3Aはスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果に寄与する層である。
非磁性中間層3BはRu(ルテニウム)などで形成されている。Ruからなる非磁性中間層3Bの膜厚は、3~5Åまたは8~10Åであることが好ましい。
【0033】
なお、交換結合膜10を製造する際、PtCr層2cなど合金層を成膜する際には、合金を形成する複数種類の金属(PtCr層2cの場合にはPtおよびCr)を同時に供給してもよいし、合金を形成する複数種類の金属を交互に供給してもよい。前者の具体例として合金を形成する複数種類の金属の同時スパッタが挙げられ、後者の具体例として異なる種類の金属膜の交互積層が挙げられる。合金を形成する複数種類の金属の同時供給が交互供給よりもHexを高めることにとって好ましい場合がある。
【0034】
<第3の実施形態>
図17に本発明の第3の実施形態の交換結合膜70を使用した磁気検出素子110の膜構成を示す説明図が示されている。本実施形態では、図2に示す磁気検出素子11と機能が同じ層に同じ符号を付して、説明を省略する。
また、非磁性材料層4とフリー磁性層5が固定磁性層3よりも基板SBに遠位に形成されている(いわゆるボトムタイプ)点において、図2の磁気検出素子11と共通している。
【0035】
反強磁性層80は、第1のPtMn層8bとPtCr層8cと第2のPtMn層8dとが積層され、PtCr層8cの厚さD3が第1のPtMn層8bの厚さD2および第2のPtMn層8dの厚さD4のいずれよりも厚い構造を有する。このような構造を有することにより、交換結合磁界Hexが特に大きくなり、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)が1よりも大きくなりやすい。それゆえ、強磁場耐性に優れる交換結合膜70が得られる。また、第3の実施形態に係る交換結合膜70のブロッキング温度Tbは、第1の実施形態に係る交換結合膜10のブロッキング温度Tbよりも高くなる傾向が見られることもある。
【0036】
第2のPtMn層8dの厚さD4は、0Å超60Å未満であることが好ましく、10Å以上50Å以下または15Å以上55Å以下であることがより好ましく、20Å以上50Å以下であることが特に好ましい。第2のPtMn層2dの厚さD4がこの範囲にあることにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、Hex/Hcを高めることができる。PtCr層8cの厚さD3の第1のPtMn層8bの厚さD2に対する比は2倍~10倍程度であることが、交換結合磁界Hexを高めたり、Hex/Hcを高めたりする観点から好ましい場合がある。PtCr層8cの厚さD3の第2のPtMn層8dの厚さD4に対する比は2倍~10倍程度であることが、交換結合磁界Hexを高めたり、Hex/Hcを高めたりする観点から好ましい場合がある。
【0037】
PtCr層8cの厚さは、100Å以上であることが好ましく、110Å以上であることがより好ましい。PtCr層8cが100Å以上であることにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、Hex/Hcをも高めることができる。PtCr層8cの厚さの上限は、生産効率などの観点から、200Å以下であることが好ましい場合がある。
【0038】
反強磁性層2の全体の厚さは、200Å以下であることが好ましい。反強磁性層2の全体の厚さが200Å以下であっても、交換結合磁界Hexを高めることが可能であるから、交換結合膜70の生産効率を高めることが可能である。
【0039】
本実施形態では、反強磁性層80をアニール処理して規則化し、強磁性層からなる固定磁性層3との間(界面)で交換結合を生じさせる。この交換結合に基づく磁界(交換結合磁界Hex)によって交換結合膜10は外部磁場が印加されても磁化の向きが反転しにくく強磁場耐性が向上する。なお、交換結合膜70に交換結合磁界Hexを生じさせるために行うアニール処理の際に、反強磁性層80を構成する各層(第1のPtMn層8b、PtCr層8cおよび第2のPtMn層8d)に含まれる各原子(Pt,Cr,Mn,Ir)は相互拡散する。
【0040】
図18に示されるように、本実施形態の一変形例に係る交換結合膜71は、第1のPtMn層8bと固定磁性層3との間に、Mnの含有量が50原子%超であるMn含有層8aを有してなるものであってもよい。このMn含有層8aは複数の層が積層されていてもよい。Mn含有層8aは、IrMn層およびMn層からなる群から選ばれる少なくとも1層を含んでいてもよい。Mn含有層8aがIrMn層からなる場合や、IrMn層とPtMn層との積層体からなる場合に、上記の本発明の第1実施形態に係る交換結合膜10と同様の構成となる。Mn含有層8aの厚さは、12Å以下であることが好ましく、4Å以上10Å以下であることがより好ましい。IrMn層2aの厚さがこの範囲にあることにより、交換結合磁界Hexが大きくなり、Hex/Hcをも高めることができる。また、Mn含有層8aの厚さがこの範囲にあることにより、第1のPtMn層2bの厚さのばらつきが、交換結合磁界HexやHex/Hcに影響を与えにくくなる。
【0041】
第1の実施形態に係る交換結合膜10と第2実施形態に係る交換結合膜20との関係に対応して、第3の実施形態に係る交換結合膜70、71と同様の構成を有しつつ、トップタイプで、かつ固定磁性層3がセルフピン止め構造を有する交換結合膜72、73を使用した磁気検出素子112、113の膜構成を、図19および図20に示す。
【0042】
<磁気センサの構成>
図4に、図2に示す磁気検出素子11を組み合わせた磁気センサ(磁気検出装置)30が示されている。図4では、固定磁化方向P(図2参照)が異なる磁気検出素子11を、それぞれ11Xa,11Xb,11Ya,11Ybの異なる符号を付して区別している。磁気センサ30では、磁気検出素子11Xa,11Xb,11Ya,11Ybが同一基板上に設けられている。
【0043】
図4に示す磁気センサ30は、フルブリッジ回路32Xおよびフルブリッジ回路32Yを有している。フルブリッジ回路32Xは、2つの磁気検出素子11Xaと2つの磁気検出素子11Xbとを備えており、フルブリッジ回路32Yは、2つの磁気検出素子11Yaと2つの磁気検出素子11Ybとを備えている。磁気検出素子11Xa,11Xb,11Ya,11Ybはいずれも、図4に示した磁気検出素子11の交換結合膜10の膜構造を備えている。これらを特に区別しない場合、以下適宜、磁気検出素子11と記す。
【0044】
フルブリッジ回路32Xとフルブリッジ回路32Yとは、検出磁場方向を異ならせるために、図4中に矢印で示した固定磁化方向が異なる磁気検出素子11を用いたものであって、磁場を検出する機構は同じである。そこで、以下では、フルブリッジ回路32Xを用いて磁場を検出する機構を説明する。
【0045】
フルブリッジ回路32Xは、第1の直列部32Xaと第2の直列部32Xbが並列に接続されて構成されている。第1の直列部32Xaは、磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbとが直列に接続されて構成され、第2の直列部32Xbは、磁気検出素子11Xbと磁気検出素子11Xaとが直列に接続されて構成されている。
【0046】
第1の直列部32Xaを構成する磁気検出素子11Xaと、第2の直列部32Xbを構成する磁気検出素子11Xbに共通の電源端子33に、電源電圧Vddが与えられる。第1の直列部32Xaを構成する磁気検出素子11Xbと、第2の直列部32Xbを構成する磁気検出素子11Xaに共通の接地端子34が接地電位GNDに設定されている。
【0047】
フルブリッジ回路32Xを構成する第1の直列部32Xaの中点35Xaの出力電位(OutX1)と、第2の直列部32Xbの中点35Xbの出力電位(OutX2)との差動出力(OutX1)-(OutX2)がX方向の検知出力(検知出力電圧)VXsとして得られる。
【0048】
フルブリッジ回路32Yも、フルブリッジ回路32Xと同様に作用することで、第1の直列部32Yaの中点35Yaの出力電位(OutY1)と、第2の直列部32Ybの中点35Ybの出力電位(OutY2)との差動出力(OutY1)―(OutY2)がY方向の検知出力(検知出力電圧)VYsとして得られる。
【0049】
図4に矢印で示すように、フルブリッジ回路32Xを構成する磁気検出素子11Xaおよび磁気検出素子11Xbの感度軸方向と、フルブリッジ回路32Yを構成する磁気検出素子11Yaおよび各磁気検出素子11Ybの感度軸方向とは互いに直交している。
【0050】
図4に示す磁気センサ30では、それぞれの磁気検出素子11のフリー磁性層5の向きが外部磁場Hの方向に倣うように変化する。このとき、固定磁性層3の固定磁化方向Pと、フリー磁性層5の磁化方向との、ベクトルの関係で抵抗値が変化する。
【0051】
例えば、外部磁場Hが図4に示す方向に作用したとすると、フルブリッジ回路32Xを構成する磁気検出素子11Xaでは感度軸方向と外部磁場Hの方向が一致するため電気抵抗値は小さくなり、一方、磁気検出素子11Xbでは感度軸方向と外部磁場Hの方向が反対であるため電気抵抗値は大きくなる。この電気抵抗値の変化により、検知出力電圧VXs=(OutX1)-(OutX2)が極大となる。外部磁場Hが紙面に対して右向きに変化するにしたがって、検知出力電圧VXsが低くなっていく。そして、外部磁場Hが図3の紙面に対して上向きまたは下向きになると、検知出力電圧VXsがゼロになる。
【0052】
一方、フルブリッジ回路32Yでは、外部磁場Hが図4に示すように紙面に対して左向きのときは、全ての磁気検出素子11で、フリー磁性層5の磁化の向きが、感度軸方向(固定磁化方向P)に対して直交するため、磁気検出素子11Yaおよび磁気検出素子11Xbの電気抵抗値は同じである。したがって、検知出力電圧VYsはゼロである。図4において外部磁場Hが紙面に対して下向きに作用すると、フルブリッジ回路32Yの検知出力電圧VYs=(OutY1)―(OutY2)が極大となり、外部磁場Hが紙面に対して上向きに変化するにしたがって、検知出力電圧VYsが低くなっていく。
【0053】
このように、外部磁場Hの方向が変化すると、それに伴いフルブリッジ回路32Xおよびフルブリッジ回路32Yの検知出力電圧VXsおよびVYsも変動する。したがって、フルブリッジ回路32Xおよびフルブリッジ回路32Yから得られる検知出力電圧VXsおよびVYsに基づいて、検知対象の移動方向や移動量(相対位置)を検知することができる。
【0054】
図4には、X方向と、X方向に直交するY方向の磁場を検出可能に構成された磁気センサ30を示した。しかし、X方向またはY方向の磁場のみを検出するフルブリッジ回路32Xまたはフルブリッジ回路32Yのみを備えた構成としてもよい。
【0055】
図5に、磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbの平面構造が示されている。図4図5は、BXa-BXb方向がX方向である。図5(A)(B)に、磁気検出素子11Xa,11Xbの固定磁化方向Pが矢印で示されている。磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbでは、固定磁化方向PがX方向であり、互いに逆向きである。
【0056】
図5に示すように、磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbは、ストライプ形状の素子部12を有している。素子部12の長手方向がBYa-BYb方向に向けられている。素子部12は複数本が平行に配置されており、隣り合う素子部12の図示右端部が導電部13aを介して接続され、隣り合う素子部12の図示左端部が導電部13bを介して接続されている。素子部12の図示右端部と図示左端部では、導電部13a,13bが互い違いに接続されており、素子部12はいわゆるミアンダ形状に連結されている。磁気検出素子11Xa,11Xbの、図示右下部の導電部13aは接続端子14aと一体化され、図示左上部の導電部13bは接続端子14bと一体化されている。
【0057】
各素子部12は複数の金属層(合金層)が積層されて構成されている。図2に素子部12の積層構造が示されている。なお、各素子部12は図3に示す積層構造であってもよい。
【0058】
なお、図4図5に示す磁気センサ30では、磁気検出素子11を図3に示す第2の実施形態の磁気検出素子21に置き換えることが可能である。
【0059】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、上記の交換結合膜では、IrMn層2aが固定磁性層3に接している、すなわち、積層された固定磁性層3の上に直接的にIrMn層2aが積層されているが、IrMn層2aと固定磁性層3との間にMnを含有する他の層(Mn層およびPtMn層が例示される。)が積層されてもよい。また、本発明に係る交換結合膜において反強磁性層に接する強磁性層は固定磁性層に限定されない。例えば、フリー磁性層の少なくとも一部を構成する強磁性層と反強磁性層とから本発明に係る交換結合膜が構成されていてもよい。また、上記の説明では、本発明に係る交換結合膜を備える磁気検出素子として、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を例示したが、本発明に係る交換結合膜を備える磁気検出素子はトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子であってもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1から実施例7および比較例1から比較例10-2)
以下の膜構成を備える積層体22(図6参照)を交換結合膜40の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体22を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜40を含む積層体22を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(20)]/固定磁性層3:Co40at%Fe60at%(18.5)/反強磁性層2[IrMn層2a:Ir22at%Mn78at%(d1)/第1のPtMn層2b:Pt50at%Mn50at%(d2)/PtCr層2c:Pt51at%Cr49at%(d3)/第2のPtMn層2d:Pt50at%Mn50at%(d4)]/保護層6:Ta(100)
【0062】
IrMn層2aの厚さd1は0Åから8Åの範囲で変更した。第1のPtMn層2bの厚さd2は0Åから300Åの範囲で変更した。PtCr層2cの厚さd3は0Åから300Åの範囲で変更した。第2のPtMn層2dの厚さD1は0Åから180Åの範囲で変更した。各実施例および各比較例のd1からd4および反強磁性層2の全体の厚さ(総厚)を表1および表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例・比較例に係る交換結合膜40の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表1および表2に示した。
【0066】
図7は、表1の結果に基づくものであって、交換結合磁界Hexの反強磁性層2の厚さ(総厚)に対する依存性を示すグラフである。図8は、表1の結果に基づくものであって、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の反強磁性層2の厚さ(総厚)に対する依存性を示すグラフである。表1ならびに図7および図8から明らかなように、実施例1に係る構成の反強磁性層2を備える交換結合膜40では、総厚が200Å以下でありながら交換結合磁界Hexが1000Oe以上と大きくなり、しかも、Hex/Hcが1よりも大きくなった。したがって、実施例1に係る交換結合膜を備える磁気検出素子(例えば磁気抵抗効果素子)は、高温環境下や強磁場環境下であっても優れた磁気特性を示すことができる。
【0067】
これに対し、反強磁性層がPtMn層からなる場合(比較例1および比較例2)やPtCr層からなる場合(比較例3)には、保磁力Hcとの対比で交換結合磁界Hexが相対的に低く、Hex/Hcは1未満であった。
【0068】
また、IrMn層2a、第1のPtMn層2bおよびPtCr層2cが積層されてなり第2のPtMn層2dを有しない場合(比較例4から比較例8)には、PtCr層2cの厚さが小さくなると交換結合磁界Hexが小さくなる傾向があり、Hex/Hcは1.0程度またはそれ以下であった。
【0069】
図9は、表2の結果に基づくものであって、交換結合磁界Hexの第2のPtMn層2dの厚さd4に対する依存性を示すグラフである。図10は、表2の結果に基づくものであって、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の第2のPtMn層2dの厚さd4に対する依存性を示すグラフである。表2ならびに図9および図10から明らかなように、第2のPtMn層2dの厚さd4が0Å超60Å未満である場合、好ましくは第2のPtMn層2dの厚さd4が10Å超60Å未満である場合、より好ましくは第2のPtMn層2dの厚さd4が15Å以上55Å以下である場合、特に好ましくは第2のPtMn層2dの厚さd4が20Å以上50Å以下である場合(実施例1から実施例3)には、第1のPtMn層2bおよびPtCr層2cが積層されてなり第2のPtMn層2dを有しない場合(比較例7)に比べて、交換結合磁界HexおよびHex/Hcが顕著に高くなることが確認された。第2のPtMn層2dの厚さd4が60Å以上である場合(実施例4から実施例6)には、反強磁性層2の厚さ(総厚)が等しいが第2のPtMn層2dを有しない場合(比較例7)や、反強磁性層2の厚さ(総厚)が等しいがIrMn層とPtMn層との積層構造からなる場合(比較例9)に比べて、交換結合磁界Hexが高くなることが確認された。
【0070】
(実施例11から実施例15および比較例11から比較例15)
以下の膜構成を備える積層体22、221(図6図21参照)を交換結合膜40、74の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体22を10kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜40を含む積層体22を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(20)]/固定磁性層3:Co40at%Fe60at%(100)/反強磁性層2[IrMn層2a:Ir22at%Mn78at%(d1)/第1のPtMn層2b:Pt50at%Mn50at%(d2)/PtCr層2c:Pt51at%Cr49at%(d3)/第2のPtMn層2d:Pt50at%Mn50at%(d4)]/保護層6:[Ru(20)/Ta(100)]
【0071】
IrMn層2aの厚さd1は0Åから80Åの範囲で変更した。第1のPtMn層2bの厚さd2は0Åから300Åの範囲で変更した。PtCr層2cの厚さd3は0Åから250Åの範囲で変更した。第2のPtMn層2dの厚さd4は0Åから30Åの範囲で変更した。各実施例および各比較例のd1からd4および反強磁性層2の全体の厚さ(総厚)を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例・比較例に係る交換結合膜40の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表3に示した。
【0074】
図11は、表3の結果に基づくものであって、交換結合磁界Hexの反強磁性層2の厚さ(総厚)に対する依存性を示すグラフである。図12は、表3の結果に基づくものであって、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)の反強磁性層2の厚さ(総厚)に対する依存性を示すグラフである。表3ならびに図11および図12から明らかなように、実施例11から実施例14に係る構成の反強磁性層2を備える交換結合膜40では、比較例11から比較例14に係る構成の反強磁性層2を備える交換結合膜40よりも交換結合磁界Hexが大きくなった。実施例11から実施例14を対比することにより、PtCr層2cの厚さd3が大きくなるほど交換結合磁界Hexが大きくなるとともに、Hex/Hcが大きくなり、実施例12から実施例14に係る構成の反強磁性層2を備える交換結合膜40ではHex/Hcが1よりも大きくなることが確認された。したがって、実施例11から実施例14に係る交換結合膜を備える磁気検出素子(例えば磁気抵抗効果素子)は、強磁場環境下であっても検出機能を適切に果たすことができる、すなわち、強磁場耐性を有する。特に、実施例12から実施例14に係る交換結合膜を備える磁気検出素子は、外部磁場の印加が解除されると交換結合磁界Hexに基づく方向に磁化が揃うため、優れた強磁場耐性を有する。
【0075】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、比較例11から比較例15および実施例11から実施例15に係る交換結合膜40の磁化曲線を、環境温度(単位:℃)を変化させながら測定し、得られたヒステリシスループから、各温度の交換結合磁界Hex(単位:Oe)を求めた。各温度の交換結合磁界Hex、および各温度の交換結合磁界Hexを室温での交換結合磁界Hexで規格化した値(室温規格化の交換結合磁界)を表4から表12に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
【表9】
【0082】
【表10】
【0083】
【表11】
【0084】
【表12】
【0085】
表4から表12の結果に基づいて各例のブロッキング温度Tb(単位:℃)を求めた。その結果を表13に示す。表13に示されるように、Mn含有層としてのIrMn層2aを備える交換結合膜40(実施例11から実施例14)のブロッキング温度Tbは、410℃となった。また、Mn含有層を備えない交換結合膜74(実施例15に係る交換結合膜74)のブロッキング温度Tbは、510℃となった。したがって、特に過酷な高温環境で用いられる場合には、Mn含有層を備えない構成の交換結合膜40を用いることが好ましい可能性が示唆された。
【0086】
【表13】
【0087】
図13は、比較例11から比較例13および実施例12に係る交換結合膜40についての、交換結合磁界Hexの測定温度依存性を示すグラフである。図14は、比較例11から比較例13および実施例12に係る交換結合膜40についての、室温規格化の交換結合磁界の測定温度依存性を示すグラフである。図15は、比較例14および比較例15ならびに実施例11から実施例14に係る交換結合膜40についての、交換結合磁界Hexの測定温度依存性を示すグラフである。図16は、比較例14および比較例15ならびに実施例11から実施例14に係る交換結合膜40についての、室温規格化の交換結合磁界の測定温度依存性を示すグラフである。
【0088】
図13および図14は、反強磁性層2の総膜厚が180Åである場合の対比であって、それぞれ、反強磁性層2がPtCr層のみからなる場合(比較例11)、比較例11との対比でPtCr層の固定磁性層3側の一部をPtMn層に置き換えた場合(比較例12)、比較例12との対比でPtMn層の固定磁性層3側の一部をIrMn層に置き換えた場合(比較例13)、比較例13との対比でPtCr層の保護層6側の一部をPtMn層に置き換えた場合(実施例12)となる。比較例11では、交換結合磁界Hexが50Oe以下であったが、PtCr層の固定磁性層3側の一部をPtMn層に置き換えることにより、交換結合磁界Hexを100Oe以下程度まで高めることができた(比較例12)。さらに、PtMn層の固定磁性層3側の一部をIrMn層に置き換えることにより、交換結合磁界Hexを150Oe以下程度まで高めることができた(比較例13)。ただし、交換結合膜40のブロッキング温度Tbは50℃程度低下した。加えて、PtCr層の保護層6側の一部をPtMn層に置き換えることにより、交換結合磁界Hexを200Oe程度まで高めることができた(実施例12)。
【0089】
図15および図16は、実施例に係る構成の反強磁性層2と、PtCr層と固定磁性層3との間に位置する膜が単独で反強磁性層2を構成した場合とを対比したものである。具体的には、比較例14では反強磁性層2はPtMn層からなり、比較例15では反強磁性層2はIrMn層からなる。図16において特に明確なように、実施例に係る交換結合膜40のブロッキング温度Tbは、PtCr層の厚さに依らず410℃程度であった。また、PtMn層からなる反強磁性層2やIrMn層からなる反強磁性層2を備える交換結合膜40のブロッキング温度Tbは、実施例に係る交換結合膜40のブロッキング温度Tbよりも低くなった。したがって、本発明に係る交換結合膜は、従来技術に係る交換結合膜よりも高温環境下において安定的に機能することが可能である。実施例15に係る交換結合膜74のブロッキング温度Tbは交換結合膜40のブロッキング温度Tbよりも高くなり、実施例15に係る交換結合膜74は特に過酷な高温環境においても適切に機能しうると期待される。
【0090】
(実施例21)
以下の膜構成を備える積層体221(図21参照)を交換結合膜74の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体221を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層84の磁化を固定して交換結合膜74を含む積層体221を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co40at%Fe60at%(18)/反強磁性層84[第1のPtMn層8b:Pt50at%Mn50at%(16)/PtCr層8c:Pt51at%Cr49at%(130)/第2のPtMn層8d:Pt50at%Mn50at%(30)]/保護層6:Ta(100)
【0091】
(実施例22から実施例26)
以下の膜構成を備える積層体22(図6参照)を交換結合膜40の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体22を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜40を含む積層体22を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co40at%Fe60at%(18)/反強磁性層2[IrMn層2a:Ir20at%Mn80at%(d1)/第1のPtMn層2b:Pt50at%Mn50at%(16)/PtCr層2c:Pt51at%Cr49at%(130)/第2のPtMn層2d:Pt50at%Mn50at%(30)]/保護層6:Ta(100)
【0092】
IrMn層2aの厚さd1は2Åから10Åの範囲で変更した。各実施例のd1を表14に示す。
【0093】
【表14】
【0094】
(実施例27から実施例31)
以下の膜構成を備える積層体222(図22参照)を交換結合膜75の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体222を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層85の磁化を固定して交換結合膜75を含む積層体222を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co40at%Fe60at%(18)/反強磁性層85[Mn層8a1:Mn(D1)/第1のPtMn層8b:Pt50at%Mn50at%(16)/PtCr層8c:Pt51at%Cr49at%(130)/第2のPtMn層8d:Pt50at%Mn50at%(30)]/保護層6:Ta(100)
【0095】
Mn層2a1の厚さd1は2Åから10Åの範囲で変更した。各実施例のd1を表14に示した。
【0096】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例に係る交換結合膜74、40、75の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表14および図22に示した。
【0097】
表14および図22に示されるように、実施例21から実施例31に係る交換結合膜74、40、75は、高い交換結合磁界Hexを有していた。また、実施例21から実施例31に係る交換結合膜74、40、75は、いずれもHex/Hcが1よりも高くなった。したがって、実施例21から実施例31に係る交換結合膜を備える磁気検出素子(例えば磁気抵抗効果素子)は、強磁場環境下であっても優れた磁気特性を示すことができる。
【0098】
(実施例41から実施例48および比較例41から比較例47)
以下の膜構成を備える積層体221(図21参照)を交換結合膜74の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体221を10kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層84の磁化を固定して交換結合膜74を含む積層体221を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co90at%Fe10at%(100)/反強磁性層84[第1のPtMn層8b:Pt50at%Mn50at%(D2)/PtCr層8c:Pt51at%Cr49at%(D3)/第2のPtMn層8d:Pt50at%Mn50at%(D4)]/保護層6:Ta(100)
【0099】
第1のPtMn層8bの厚さD2は0Åまたは20Åとした。PtCr層8cの厚さD3は0Åから180Åの範囲で変更した。第2のPtMn層8dの厚さD4は0Åから160Åの範囲で変更した。反強磁性層84の全体の厚さ(総厚)は180Åで固定した。各実施例のD2,D3およびD4を表15に示した。
【0100】
【表15】
【0101】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例に係る交換結合膜74の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表15ならびに図24および図25に示した。
【0102】
表15ならびに図24および図25に示されるように、実施例41から実施例48に係る交換結合膜74は、高い交換結合磁界Hexを有していた。また、実施例41から実施例48に係る交換結合膜74は、いずれもHex/Hcが比較例41(0.10)よりも高くなった。第2のPtMn層8dの厚さD4の厚さが10Å超60Å未満である場合、好ましくは第2のPtMn層8dの厚さD4の厚さが15Å以上55Å以下である場合、より好ましくは第2のPtMn層8dの厚さD4の厚さが20Å以上50Å以下である場合(実施例42から実施例44)には、交換結合磁界HexおよびHex/Hcが顕著に高くなることが確認された。したがって、実施例41から実施例48に係る交換結合膜74を備える磁気検出素子(例えば磁気抵抗効果素子)は、強磁場環境下であっても優れた磁気特性を示すことができる。なお、比較例42と実施例43との対比より、交換結合磁界HexおよびHex/Hcが顕著に高い実施例43の構成において固定磁性層3側に位置する第1のPtMn層8bをPtCr層に変更することにより、交換結合磁界Hexおよび保磁力Hcの双方が著しく低下することが確認された。この点を換言すれば、反強磁性層84の総厚180Åとの対比では極めて薄い厚さである20Åの第1のPtMn層8bが、交換結合磁界HexおよびHex/Hcを高めることについて特に重要な役割を有していることが確認された。
【0103】
(実施例51から実施例56および比較例51から比較例56)
以下の膜構成を備える積層体221(図21参照)を交換結合膜74の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体221を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層84の磁化を固定して交換結合膜74を含む積層体221を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co90at%Fe10at%(X)またはCo40at%Fe60at%(X)/反強磁性層84[第1のPtMn層8b:Pt50at%Mn50at%(D2)/PtCr層8c:Pt51at%Cr49at%(D3)/第2のPtMn層8d:Pt50at%Mn50at%(D4)]/保護層6:Ta(100)
【0104】
第1のPtMn層8bの厚さD2は20Åまたは180Åとした。PtCr層8cの厚さD3は0Åまたは130Åとした。第2のPtMn層8dの厚さD4は0Åまたは30Åとした。反強磁性層84の全体の厚さ(総厚)は180Åで固定した。固定磁性層3の組成は、Co90at%Fe10at%またはCo40at%Fe60at%とし、それぞれの厚さXを18Åから100Åの範囲で変更した。各実施例のD2,D3およびD4ならびにXを表16に示した。
【0105】
【表16】
【0106】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例に係る交換結合膜74の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表16ならびに図26から図29に示した。
【0107】
表16ならびに図26から図29に示されるように、固定磁性層3の組成に依らず、固定磁性層3の厚さが薄くなると、交換結合磁界HexおよびHex/Hcは高くなる傾向が見られた。したがって、実施例51から実施例56に係る交換結合膜74を備える磁気検出素子(例えば磁気抵抗効果素子)は、強磁場環境下であっても優れた磁気特性を示すことができる。特に、固定磁性層3の厚さが薄くてもよい場合には、固定磁性層3の厚さを調整することにより、交換結合磁界HexおよびHex/Hcを高くすることが可能である。
【0108】
(実施例61から実施例78ならびに比較例61および比較例62)
以下の膜構成を備える積層体22(図6参照)を交換結合膜40の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体22を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜40を含む積層体222を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co90at%Fe10at%(100)/反強磁性層2[IrMn層2a:Ir20at%Mn80at%(8)/第1のPtMn層2b:Pt50at%Mn50at%(12)/PtCr層2c:Pt51at%Cr49at%(d3)/第2のPtMn層2d:Pt50at%Mn50at%(d4)]/保護層6:Ta(100)
【0109】
PtCr層2cの厚さd3は130Åまたは160Åとした。第2のPtMn層2dの厚さd4は0Åから80Åの範囲で変更した。各実施例のd3およびd4を表17に示した。
【0110】
【表17】
【0111】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例に係る交換結合膜40の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表17および図30から図33に示した。
【0112】
表17ならびに図30および図32に示されるように、PtCr層2cの厚さd3に依らず、第2のPtMn層2dが10Å超60Å未満である場合に、交換結合磁界HexおよびHex/Hcは高くなる傾向が見られた。また、第2のPtMn層2dが10Å超60Å未満である場合には、PtCr層2cの厚さd3が130Åであっても、160Åであっても、交換結合磁界Hexの値およびHex/Hcの値はほぼ等しくなった。したがって、交換結合膜40の第2のPtMn層2dが10Å超60Å未満である場合には、PtCr層2cの厚さのばらつきが磁気特性に影響を与えにくくなることが確認された。
【0113】
さらに、一般的には、反強磁性層の厚さが厚くなると交換結合磁界HexおよびHex/Hcは高くなる傾向が見られるところ、表17ならびに図31および図33に示されるように、本発明例に係る交換結合膜40では、反強磁性層2の総厚が厚くなると、交換結合磁界HexおよびHex/Hcが特異的に高くなる厚さ領域を有する傾向が見られた。
【0114】
(実施例81から実施例105および比較例81から比較例83)
以下の膜構成を備える積層体22、221(図6図21参照)を交換結合膜40、74の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体22を15kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜40、74を含む積層体22、221を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co90at%Fe10at%(100)/反強磁性層2[IrMn層2a:Ir20at%Mn80at%(d1)/第1のPtMn層2b:Pt50at%Mn50at%(d2)/PtCr層2c:Pt51at%Cr49at%(130)/第2のPtMn層2d:Pt50at%Mn50at%(30)]/保護層6:Ta(100)
【0115】
IrMn層2aの厚さd1は0Åから20Åの範囲で変更し、第1のPtMn層2bの厚さd2は0Åから22Åの範囲で変更することにより、180Åから186Åの範囲の異なる総厚を有する交換結合膜40を得た。各実施例のd1、第1のPtMn層2bの厚さd2および総厚を表18に示す。
【0116】
【表18】
【0117】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例に係る交換結合膜40の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表18および図34から図36に示した。
【0118】
表18および図34から図36に示されるように、IrMn層2aの厚さd1が12Å以下の範囲であれば、第1のPtMn層2bの厚さd2が変動しても、高い交換結合磁界Hexを維持できることが確認された。特に、IrMn層2aが4Å以上10Å以下の範囲であれば、高い交換結合磁界Hex、および高いHex/Hc(具体的には1.0以上)を安定的に実現しうることが確認された。換言すれば、交換結合膜40を製造する際に、第1のPtMn層2bの厚さd2の公差を相対的に緩く設定することが可能であることが確認された。
【0119】
(実施例111から実施例128および比較例111から比較例131)
以下の膜構成を備える積層体22(図6参照)を交換結合膜40の特性評価の目的で製造した。以下の実施例および比較例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。積層体22を10kOeの磁場中において350℃で20時間アニール処理し、強磁性層からなる固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜40を含む積層体22を得た。
基板SB:表面にアルミナ層が形成されたシリコン基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(30)/Ru(20)]/固定磁性層3:Co90at%Fe10at%(100)/反強磁性層2[IrMn層2a:Ir22at%Mn78at%(d1)/第1のPtMn層2b:Pt50at%Mn50at%(d2)/PtCr層2c:Pt51at%Cr49at%(d3)/第2のPtMn層2d:Pt50at%Mn50at%(d4)]/保護層6:/Ta(100)
【0120】
IrMn層2aの厚さd1は0Åから8Åの範囲で変更した。第1のPtMn層2bの厚さd2は0Åから300Åの範囲で変更した。PtCr層2cの厚さd3は0Åから300Åの範囲で変更した。第2のPtMn層2dの厚さd4は0Åから30Åの範囲で変更した。各実施例および各比較例のd1からd4および反強磁性層2の全体の厚さ(総厚)を表19に示す。
【0121】
【表19】
【0122】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、各実施例・比較例に係る交換結合膜40の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)を求めた。結果を表19および図37に示した。
【0123】
図37の実施例111から実施例116の結果(黒丸、実線)に示されるように、交換結合膜74のようにMn含有層としてのIrMn層2aを有しない場合には、反強磁性層2の厚さが増えるにつれて交換結合磁界Hexも大きくなり、反強磁性層2の総厚が300Åにおいては交換結合磁界Hexが500Oe以上となった。したがって、強磁場耐性が特に求められる場合には、Mn含有層を有しない構成の交換結合膜40が好ましい可能性がある。一方、図37の実施例123から実施例128の結果(白丸、破線)に示されるように、交換結合膜40のようにIrMn層2aを有する場合には、交換結合磁界Hexの大きさは、反強磁性層2の総厚の影響を相対的に受けにくくなる。特に、反強磁性層2の総厚が150Åから300Åの範囲であれば、交換結合磁界Hexの大きさは300Oeから350Oeの範囲で安定するため、この構成の交換結合膜40は製造過程における成膜ばらつきの影響を受けにくいことが確認された。
【符号の説明】
【0124】
Hex 交換結合磁界
Hc 保磁力
M0 残留磁化
Ms 飽和磁化
10,20,40,70,71,72,73,74,75 交換結合膜
1 下地層
2,80,81,82,83,84,85 反強磁性層
2a IrMn層
2b,8b 第1のPtMn層
2c,8c PtCr層
2d,8d 第2のPtMn層
3 固定磁性層(強磁性層)
3A 第1磁性層
3B 非磁性中間層
3C 第2磁性層
4 非磁性材料層
5 フリー磁性層
6 保護層
8a Mn含有層
8a1 Mn層
d1 IrMn層2aの膜厚
D1 Mn含有層の膜厚
d2,D2 第1のPtMn層2bの膜厚
d3,D3 PtCr層2cの膜厚
d4,D4 第2のPtMn層2bの膜厚
11,11Xa,11Xb,11Ya,11Yb,21,110,111 磁気検出素子22,221,222 積層体
30 磁気センサ(磁気検出装置)
P 固定磁性層3の固定磁化方向
P1 第1磁性層3Aの固定磁化方向
P2 第2磁性層3Cの固定磁化方向
32X,32Y フルブリッジ回路
33 電源端子
Vdd 電源電圧
34 接地端子
GND 接地電位
32Xa フルブリッジ回路32Xの第1の直列部
35Xa 第1の直列部32Xaの中点
OutX1 第1の直列部32Xaの中点35Xaの出力電位
32Xb フルブリッジ回路32Xの第2の直列部
35Xb 第2の直列部32Xbの中点
OutX2 第2の直列部32Xbの中点35Xbの出力電位
32Ya フルブリッジ回路32Yの第1の直列部
35Ya 第1の直列部32Yaの中点
OutY1 第1の直列部32Yaの中点35Yaの出力電位
32Yb フルブリッジ回路32Y第2の直列部
35Yb 第2の直列部32Ybの中点
OutY2 第2の直列部32Ybの中点35Ybの出力電位
H 外部磁場
12 素子部
13a,13b 導電部
14a,14b 接続端子
SB 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37