(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】(チオ)ニコチンアミドリボフラノシド塩および組成物、製造方法、およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07H 19/048 20060101AFI20221018BHJP
A61K 31/706 20060101ALN20221018BHJP
A61P 3/02 20060101ALN20221018BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20221018BHJP
A23L 33/15 20160101ALN20221018BHJP
【FI】
C07H19/048
A61K31/706
A61P3/02 104
A23L33/10
A23L33/15
(21)【出願番号】P 2020563991
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2019062769
(87)【国際公開番号】W WO2019219895
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-12-18
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウルス シュピッツ
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター シャーベルト
(72)【発明者】
【氏名】アイセル ゾイデミール
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ビック
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/161165(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146517(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103709220(CN,A)
【文献】国際公開第2005/070911(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/080410(WO,A1)
【文献】Chem. Commun.,1999年,Vol.8,p.729-730
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 19/048
A61K 31/706
A61P 3/02
A23L 33/10
A23L 33/15
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも工程(A):
(A) 各Rはアシルから独立に選択される、化学式IIのテトラ-O-アシル-β-D-リボフラノースを、
【化1】
酢酸中の臭化水素に供し、化学式III
【化2】
の臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを生成する工程を含む、化学式O-Ia
【化3】
の結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または化学式S-Ia
【化4】
の結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの製造方法
であって、
前記方法は、さらに工程(B)及び(D)、並びに任意に工程(C):
(B) 化学式IIIの化合物と化学式O-IVのニコチンアミド
【化5】
とを反応させ、化学式O-Va:
【化6】
の臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを得る、または前記化学式IIIの化合物と化学式S-IVのチオニコチンアミド
【化7】
とを反応させ、化学式S-Va:
【化8】
の臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを得る工程であって:
ここで工程(B)は前記化学式IIIの化合物を含む前記工程(A)で得られた反応混合物、または前記化学式IIIの化合物を含む前記工程(A)で得られた反応混合物の少なくとも一部を含む組成物を化学式O-IVのニコチンアミドまたは化学式S-IVのチオニコチンアミドとの反応に供することにより行われ;
ここで、前記工程(A)で得られた反応混合物は、前記化学式IIIの化合物に加えて、酢酸および臭化水素を含む工程;
(C) 工程(B)において得られた化学式Vaの化合物を、結晶化および/または再結晶化によって精製する工程;
(D) 工程(B)または工程(C)において得られた前記化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を、酢酸中の臭化水素を使用してR基を除去することによって脱保護し、化学式O-Iaまたは化学式S-Iaの化合物を得る工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記Rはアルキルカルボニル、アリールカルボニル、およびヘテロアリールカルボニルから独立に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学式O-IVまたはS-IVの化合物は、その酢酸塩の形態である、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
工程(B)において前記化学式O-IVまたは化学式S-IVの化合物は、前記化学式IIIの化合物と比較して過剰に使用される、請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(A)において使用される前記化学式IIの化合物に対する臭化水素のモル比は、1.1:1から1.3:1の範囲である、請求項1または
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(A)において使用される臭化水素に対する工程(B)において使用される前記化学式O-IVのニコチンアミドまたは前記化学式S-IVのチオニコチンアミドのモル比は、1.05:1から1.2:1である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(B)はアセトニトリルに溶解された化学式O-IVのニコチンアミドまたはアセトニトリルに溶解された化学式S-IVのチオニコチンアミドを、前記化学式IIIの化合物およびアセトニトリル、臭化水素および酢酸を含む溶液に添加することによって行われる、請求項
1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(E):
(E) 工程(D)で得られた前記化学式O-Iaまたは化学式S-Iaの化合物を、結晶化および/または再結晶化によって精製する工程
をさらに含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(I):
(I) 前記化学式O-Iaの臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または前記化学式S-Iaの臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用してイオン交換に供
し、結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩、または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを製造し、ここで前記塩のアニオンは前記薬学的に許容されるアニオンである、工程
をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩、または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を製造する方法であって、ここで前記塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオンであって、前記方法は:
(II) 請求項
1~8のいずれか一項に記載の方法に従って化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドまたは化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを製造
し、そして前記化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を薬学的に許容されるアニオンおよびプロトンの存在下で脱保護
し;そして続いて形成された生成物を、前記薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用してイオン交換に供する工程;または
(III) 請求項
1~8のいずれか一項に記載の方法に従って化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドまたは化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを製造
し、そして前記化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を前記薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用して薬学的に許容されるアニオンとのイオン交換に供
し;そして続いて形成されたイオン交換生成物(ion exchanged product)をプロトンおよび前記薬学的に許容されるアニオンの存在下で脱保護する工程
を含む、方法。
【請求項11】
(I)において、前記薬学的に許容されるアニオンは塩化物イオンであり、化学式O-Ib
【化9】
の結晶性塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;もしくは化学式S-Ib
【化10】
の結晶性塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを与える;
または、ここで(I)において、前記薬学的に許容されるアニオンは硫酸イオンまたはリン酸イオンであり、ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドもしくはチオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの結晶性硫酸塩もしくはリン酸塩を与える、請求項
9または10に記載の方法。
【請求項12】
非結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または非結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を含む組成物を製造する方法であって、ここで前記塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオン、および担体であって、前記方法は、
請求項9から11のいずれか一項に記載の方法による結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を製造することを含
み、そして工程(F):
(F)
前記塩を担体および一つまたは複数の溶媒と接触させる工程
をさらに含む
、方法。
【請求項13】
工程(G):
(G) 工程(F)で得られた混合物から一つまたは複数の溶媒を除去し、ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩またはチオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩が非晶形で存在する前記組成物の固体を得る工程
をさらに含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記担体は、リン酸カルシウム、二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、プルラン、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidine)、低融点ワックス(low melting waxes)、イオン交換樹脂、クロスカルメロースカーボン(croscarmellose carbon)、アラビアゴム、アルファ化デンプン
、クロスポビドン、HPMC、ポビドン、二酸化チタン、多結晶性セルロース、aluminum methahydroxide、寒天、トラガント、またはそれらの混合物から選択される、請求項
12または13に記載の方法。
【請求項15】
RはC
1-10
アルキルカルボニルおよびベンゾイルから独立に選択され、及びRは任意にC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、C
1-6
チオアルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、NH(C
1-6
アルキル)、N(C
1-6
アルキル)
2
、およびSO
2
N(C
1-6
アルキル)
2
から選択される一つまたは複数の置換基で独立に置換されている、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
Rはアセチルである、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記化学式O-IVのニコチンアミドまたは前記化学式S-IVのチオニコチンアミドのアセトニトリル溶液の温度は50℃から75℃の範囲に保持され、そして前記化学式(III)の化合物を含む溶液の温度は-10℃から30℃の温度範囲に保持される、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記薬学的に許容可能な塩が、塩化物塩、硫酸塩、及びリン酸塩から選択される、請求項9、10または12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記担体はプルランである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性(チオ)ニコチンアミドリボフラノシド塩、そのような結晶塩の製造方法、同じものを含む医薬組成物、および上記結晶塩の栄養補助食品(nutritional (dietary) supplement)としての使用に関する。
【0002】
さらに、本発明は、非晶形の(チオ)ニコチンアミドリボフラノシドを含む組成物、同じものを製造する方法、および栄養補助食品(nutritional supplement)または医薬組成物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ニコチンアミドリボシド(ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;CAS番号 1341-23-7)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+/NADH)およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+/NADPH)の前駆体である。さらに、ニコチンアミドリボシドはナイアシン(ビタミンB3)の等価物である。ニコチンアミドリボシドは、医薬組成物および栄養補助食品(nutritional supplement)またはNAD(H)またはNADP(H)の化学合成における中間生成物において使用することもできる。
【0004】
国際公開第2016/014927号は、塩化ニコチンアミドリボシドの結晶形を開示しており、たとえば、非晶形と比較してよりよく精製できるため、非晶形に対して有利な性質を有することを記載している。結晶塩化物塩は、極性溶媒、たとえばメタノール中における再結晶化によって非晶形塩化物塩から得られる。
【0005】
Lee et al. (Chem. Commun., 1999, 729-730)は、臭化β-ニコチンアミドリボシドの化学合成を開示する。上記合成は、臭素化剤としてCH2Cl2中の臭化水素を使用して、テトラアセチル-β-D-リボフラノースを臭化糖(sugar bromide)中間化合物の1.5:1 β:α混合物に変換することを含む。臭化糖中間化合物とSO2中のニコチンアミドとの-10℃での反応とそれに続く5:1 アセトン-ButOMeにより、アセチル化ニコチンアミドリボシド(β:α=25:1)が90%の収率で得られたとされている。
【0006】
Lee et al.に記載されている代替的方法によれば、3.3:1(β:α)アノマー混合物は、糖化(glycosylation)工程においてSO2の代わりにアセトニトリルを使用した場合に得られ、アセチル化ニコチンアミドリボシドの純粋なβ-アノマーは、反応混合物(-15℃)から65%の収率で選択的に結晶化したとされている。さらに、メタノール中のアンモニアによる脱アセチル化(すなわち、脱保護)とそれに続く結晶化により、結晶性のβ-ニコチンアミド臭化物塩が80%の単離収率で得られることが報告されている。
【0007】
当技術分野におけるこれらの努力にも関わらず、ニコチンアミドリボシドの従来の製造方法は、費用がかかり、工業規模でのニコチンアミドリボシド生産には適さず、および/または、特に製品純度に関して、必要な製品品質をもたらさない。
【0008】
発明の目的
上記を考慮して、低コストで工業規模で製造することができる高純度のβ-ニコチンアミドリボシド塩が当技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、予期せぬことに、たとえば適切な臭素化剤、脱保護剤、および/または精製/結晶化条件等の特定の反応条件を使用することにより、β-(チオ)ニコチンアミドリボフラノシド化合物の結晶臭化物塩または結晶塩化物塩、ならびに薬学的に許容されるアニオンのさらなる塩、たとえば硫酸塩およびリン酸塩を工業規模で高純度かつ高収率で費用効率の高い生産をもたらし、β-(チオ)ニコチンアミドリボフラノシドを生産するプロセスを改善できることを発見した。
【0010】
第一の態様によれば、本発明は、少なくとも工程(A):
(A) 各Rは、アシルから独立して選択され、ここで各Rは、好ましくはアセチルである、化学式IIのテトラ-O-アシル-β-D-リボフラノースを、
【0011】
【0012】
酢酸中の臭化水素に供し、化学式III
【0013】
【0014】
の臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを生成する工程
を含む、化学式O-Ia
【0015】
【0016】
の結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または化学式S-Ia
【0017】
【0018】
の結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの製造方法に関する。
【0019】
本発明の方法は、以下の工程(B):
(B) 化学式IIIの化合物と化学式O-IVのニコチンアミド
【0020】
【0021】
とを反応させ、化学式O-Va:
【0022】
【0023】
の臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを得る、または化学式IIIの化合物と化学式S-IVのチオニコチンアミド
【化7】
【0024】
とを反応させ、化学式S-Va:
【0025】
【0026】
の臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを得る工程をさらに含んでもよい。
【0027】
さらに、本発明の方法は、以下の工程(D):
(D) 工程(B)、または工程(B)において得られた化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を精製する任意の工程(C)において得られた化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を、酢酸中の臭化水素を使用してR基を除去することによって脱保護し、化学式O-Iaまたは化学式S-Iaの化合物を与える工程をさらに含んでもよい。
【0028】
第二の態様によると、本発明は、塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオン、具体的には塩化物アニオン、硫酸アニオン、またはリン酸アニオンであり、
(I) 第一の態様による方法に従って化学式O-Iaの結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または化学式S-Iaの結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを製造する;および続いて化学式O-Iaの結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または化学式S-Iaの結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを上記薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用してイオン交換に供する工程;または
(II) 本明細書に記載の方法(たとえば、第一の態様の方法の工程(B)、または工程(B)および工程(A)、または工程(B)および工程(A)および工程(C))に従って化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドまたは化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを製造する、および化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を薬学的に許容されるアニオンおよびプロトンの存在下で脱保護する;および続いて形成された生成物を、上記薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用してイオン交換に供する工程;または
(III) 本明細書に記載の方法(たとえば、第一の態様の方法の工程(B)、または工程(B)および工程(A)、または工程(B)および工程(A)および工程(C))に従って化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドまたは化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを製造する、および化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を上記薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用して薬学的に許容されるアニオンとのイオン交換に供する;および続いて形成されたイオン交換生成物(ion exchanged product)をプロトンおよび上記薬学的に許容されるアニオンの存在下で脱保護する工程
を含む、結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩、または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩の製造方法に関する。
【0029】
第三の態様によると、本発明は、Rはアセチルであり、以下の
図1に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド;または以下の
図2に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式O-Iaの結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;またはRはアセチルであり、以下の
図3に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式O-Vbの結晶性塩化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド;または以下の
図4に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式O-Ibの結晶性塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;またはRはアセチルであり、以下の
図5に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド;または以下の
図6に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式S-Iaの結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;または以下の
図7に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式S-Ibの結晶性塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;またはRはアセチルであり、以下の
図8に記載の粉末X線回折パターンを特徴とする、化学式S-Vbの結晶性塩化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドに関する。
【0030】
本発明の第三の態様によると、本発明は、第一の態様の方法によって得られる、化学式O-Iaの結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または化学式S-Iaの結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;または第二の態様の方法によって得られる、塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオン(すなわち、臭化物イオンではない)、特に塩化物イオン、硫酸イオン、およびリン酸イオンである、結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩にさらに関する。
【0031】
第四の態様によると、本発明は、第三の態様の結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩の栄養補助食品としての使用に関する。さらに、第四の態様はまた、上記結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または上記結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を含む医薬組成物に関する。
【0032】
第五の態様によると、本発明は、塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオン、具体的には塩化物イオン、硫酸イオン、およびリン酸イオン、および担体であって、第二の態様の方法による結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を製造することを含む、および工程(F)、および任意に工程(G):
(F) 塩を担体、たとえばプルラン、および一つまたは複数の溶媒と接触させる工程;
(G) 工程(F)で得られた混合物から一つまたは複数の溶媒を除去し、ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩またはチオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩が非晶形で存在する組成物の固体を得る工程
をさらに含む、非結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または非結晶性チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩の製造方法に関する。
【0033】
第六の態様によると、本発明は、塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオン、具体的には塩化物イオン、硫酸イオン、およびリン酸イオン、および担体であって、ここで上記ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩または上記チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩は非結晶性である、ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩またはチオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を含む組成物に関する。好ましくは、組成物は第五の態様による方法によって製造される。
【0034】
第六の方法による組成物は、第四の態様、すなわち栄養補助食品としてまたは任意に担体、たとえばプルランを含む医薬組成物中の医薬成分として、第四の態様で定義されるものと同一の用途または使用のために使用することができる。
【0035】
第七の態様によると、本発明は、工程(a):
(a) 各Rはアシルから独立に選択され、ここで各Rは、好ましくはアセチルである、化学式IIのテトラ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを、
【0036】
【0037】
酢酸中の臭化水素に供する工程を含む、化学式III
【0038】
【0039】
の臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを製造する方法に関する。
【0040】
第八の態様によると、本発明は、各Rはアシルから独立に選択され、ここで各Rは、好ましくはアシルであり、少なくとも工程(i)または(ii):
(i) 化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物を酢酸中の臭化水素と反応させる工程;
(ii) 化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの化合物をメタノール中の塩化水素と反応させる工程
を含む、化学式O-Vaの臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドもしくは化学式O-Vbの塩化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシド
【0041】
【0042】
から、または化学式S-Vaの臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドもしくは化学式S-Vbの塩化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシド
【0043】
【0044】
からアシル基、具体的にはアセチル基を除去する方法に関する。
【0045】
さらなる態様は添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0046】
本発明は、添付の図面によりさらに記載されている。
【0047】
{それぞれ、x軸:位置[2θ](銅(Cu));y軸:カウント}
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す(R=アセチル)。
【
図2】
図2は、化学式O-Ia の結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す。
【
図3】
図3は、化学式O-Vbの結晶性塩化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す(R=アセチル)。
【
図4】
図4は、化学式O-Ibの結晶性塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す。
【
図5】
図5は、化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す(R=アセチル)。
【
図6】
図6は、化学式S-Iaの結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す。
【
図7】
図7は、化学式S-Ibの結晶性塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す。
【
図8】
図8は、化学式S-Vbの結晶性塩化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチルβ-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す(R=アセチル)。
【
図9】
図9は、非晶質のプルラン支持塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの粉末X線パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
次に、本発明の様々な態様を、図を参照してより詳細に説明する。
【0050】
結晶性臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドO-IaまたはS-Iaの製造方法(第一の態様)
第一の態様によると、本発明は化学式O-Ia
【0051】
【0052】
の結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または化学式S-Ia
【0053】
【0054】
の結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの製造方法に関する。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「(チオ)ニコチンアミド」は、用語「ニコチンアミド」、および「チオニコチンアミド」、たとえばニコチンアミド-β-D-リボフラノシドおよびチオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを包含する。
【0056】
本発明による方法は、少なくとも工程(A):
(A) 各Rはアシル基から独立に選択される、化学式IIのテトラ-O-アシル-β-D-リボフラノースを、
【0057】
【0058】
酢酸中の臭化水素に供し、化学式III
【0059】
【0060】
のトリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを生成する工程を含む。
【0061】
化学式IIの化合物において用語「アシル」と同義的に使用される用語「アシル」は、アシル基がアルキルカルボニル、アリールカルボニル、またはヘテロアリールカルボニルから独立に選択されうることを意味する。
【0062】
用語「アルキルカルボニル」は、用語「アルカノイル」と同義的に使用される。
【0063】
一つの実施形態では、Rはアルキルカルボニル、アリールカルボニル、およびヘテロアリールカルボニルから独立に選択され、好ましくはC1-10アルキルカルボニル、およびベンゾイルから独立に選択され、好ましくはアセチルである。
【0064】
一つの実施形態では、アシルは置換されていてもよい。
【0065】
一つの実施形態では、アシルは以下の置換基の一つまたは複数で独立に置換されていてもよい: C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6チオアルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、NH(C1-6アルキル)、N(C1-6アルキル)2、およびSO2N(C1-6アルキル)2。
【0066】
一つの実施形態では、アリールはアルカノイル、たとえばホルミル、アセチル、プロピニル、ブチリル、バレリル、またはシクロヘキシルであり、任意に上記の置換基のうちの一つまたは複数で置換されている。
【0067】
別の実施形態では、アシルはベンゾイルまたはナフトイル、好ましくはベンゾイルであり、任意に上記の置換基のうちの一つまたは複数で置換されている。
【0068】
化学式IIのテトラ-O-アシル-β-D-リボフラノースは、既知の化合物であるか、または既知の方法に従って調製することができる。
【0069】
好ましい実施形態では、市販のテトラ-O-アセチル-β-D-リボフラノース(CAS番号 13035-61-5)
【0070】
【0071】
を工程(A)で使用する。
【0072】
したがって、Rは好ましくはアセチルである。
【0073】
工程(A)で使用される酢酸、好ましくは氷酢酸中の臭化水素は市販されている。好ましい組成物は、氷酢酸中に33重量%の臭化水素を含む(CAS番号 37348-16-6)。
【0074】
好ましくは、反応は、非プロトン性極性溶媒、好ましくはニトリル中で行われる。好ましい実施形態では、アセトニトリルを、酢酸中の臭化水素を添加する前に、化学式IIの化合物を溶解または懸濁する溶媒として使用する。
【0075】
酢酸中の化合物IIと臭化水素とのわずかな発熱反応を制御するため、反応温度は、有利には-10~10℃、たとえば-5~5℃の範囲に保持される。
【0076】
化学式IIIの化合物は、溶液および酢酸を蒸発させることによって反応混合物から単離することができる。
【0077】
しかしながら、本発明の発明者らは、一般的に使用される反応器における工業規模での溶媒および酢酸の蒸発が、分解および副反応、たとえばエピマー化または開環による収率に関して、得られる化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの特性に著しく悪影響を及ぼしうることを見出した。
【0078】
さらに、以下に定義される所望の化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドまたは化学式S-Vaの臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドに対する、化学式O-IVのニコチンアミドまたは化学式S-IVのチオニコチンアミド(ニコチンアミド O-IV、CAS番号98-92-0;チオニコチンアミド S-IV、CAS番号 4621-66-3)との、工程(B)における次の反応は大幅に阻害され、それぞれ結晶性生成物の単離は全く不可能である。
【0079】
したがって、本発明者らは、工程(A)で得られた粗生成物、すなわち化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシド、酢酸、および臭化水素を含む生成物を、次の工程(B)で(チオ)ニコチンアミド IVと反応させることができるかどうかを研究した。(チオ)ニコチンアミドと酢酸の塩形成の結果としての(チオ)ニコチンアミドの求核性の低下により、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを化学式O-IVのニコチンアミドまたは化学式S-IVのチオニコチンアミドで置換することは阻害されるか、または失敗することさえあると予想された。
【0080】
本発明の発明者らは、予想に反して、工程(A)で得られた反応混合物を、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシド中の臭化物を(チオ)ニコチンアミド IVによって高収率で置換するために使用できることを見出した。これは予想外であり、したがって驚くべきことであった。
【0081】
理論に拘束されることなく、工程(B)における酢酸の存在に起因する酢酸塩形成時の化学式IVの(チオ)ニコチンアミドの求核性の低下は、工程(A)で得られた粗生成物を使用して化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドに臭化物を置換する場合、置換を行うために依然として十分であると考えられている: それはさらに副反応、たとえば開環反応、エピマー化、または分解反応が可能な限り回避されるような、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドとの円滑な反応に寄与する。これは、化学式Vaの結晶化アシル化生成物、すなわち化学式O-Vaの臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボシド、または化学式S-Vaの臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボシドの形成を促進する。
【0082】
この予想外の知見は、反応を工業規模に成功裏に拡大するために決定的に重要であることが証明された。
【0083】
したがって、好ましい実施形態では、工程(A)で形成された化学式IIIの化合物は単離されないが、本発明による方法の次の工程(B)で粗生成物として使用される、すなわち工程(A)で得られた反応混合物に含まれる生成物として使用される。
【0084】
したがって、一つの実施形態では、本発明による方法の次の工程(B)は、(チオ)ニコチンアミド IVをその酢酸塩形態で使用して行う。
【0085】
別の実施形態では、好ましくは、工程(A)で得られた反応混合物の少なくとも一部を含む組成物である(チオ)ニコチンアミドおよび酢酸をそれぞれ含む、工程(A)で得られた粗反応混合物を使用する。
【0086】
したがって、方法は以下の工程(B):
(B) 化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドと化学式O-IV:
【0087】
【0088】
のニコチンアミド、化学式S-IV:
【0089】
【0090】
のチオニコチンアミドとをそれぞれ反応させ、化学式O-Va:
【化20】
【0091】
の臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシド、化学式S-Va:
【0092】
【0093】
の臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボシドをそれぞれ得ることをさらに含む。
【0094】
好ましい実施形態では、ニコチンアミド O-IV、チオニコチンアミド S-IVはそれぞれ、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドと比較して過剰に使用される。
【0095】
さらに、および有利には、化学式O-IVのニコチンアミド、化学式S-IVのチオニコチンアミドはそれぞれ、その基本的な特性のため、工程(A)で形成された反応混合物にまだ含まれる過剰の臭化水素および酢酸を中和するのに十分な量で使用される。得られた塩臭化(チオ)ニコチンアミドおよび/または酢酸塩は、反応混合物から沈殿し、濾過によって簡単に分離することができる。
【0096】
得られた濾液は、(化学式Vaの臭化(チオ)ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの中間体、および過剰の(チオ)ニコチンアミド IVが適切に選択された場合、比較的少量の(チオ)ニコチンアミド IVのみを含む。
【0097】
化学式IIIの化合物はアノマーの混合物の形で提供されるため、化学式Vaの臭化(チオ)ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドはアノマーの混合物として形成される。
【0098】
化学式Vaの中間体化合物は、典型的には約5:1~6:1の比率のアノマーβ:αの混合物として生成される。これは、上記のLee参考文献に開示されている方法を改良したものであり、同様の反応により、アノマー臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドのβ:α混合物の3.3:1というあまり好ましくない比率が得られた。
【0099】
化学式Vの中間化合物におけるβ:αアノマーのこの好ましい比率は、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドもまた、典型的には約5:1~6:1の比率のアノマーβ:αの混合物として生成されると仮定する。これは、上記のLee参考文献に開示されている方法に対する追加の改善であり、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの製造のためのジクロロメタン中の臭化水素を使用する類似の反応は、アノマー臭化糖のβ:α混合物に関して、1.5:1のあまり好ましくない比率を提供した。
【0100】
本発明者らは、大規模反応の成功は、以下に示す特定の条件下でのみ可能であることを見出した。
【0101】
具体的には、本発明者らは、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドにおける臭化物の置換のための酢酸(チオ)ニコチンアミドの使用に加えて、臭素化工程(A)で使用される臭化水素の量に合わせた過剰な化学式O-IVのニコチンアミドまたは化学式S-IVのチオニコチンアミドの使用が、大規模反応における反応を行うために非常に重要であることを見出した。
【0102】
化学式IIのアシル化合物(1モルの化学式IIの化合物に対して、約1.2モルの臭化水素)と比較して、工程(A)の臭化反応において臭化水素がわずかにモル過剰で使用されるので、また、化学式IVの(チオ)ニコチンアミドは、反応混合物中にまだ含まれている上記臭化水素を中和するために工程(B)において適切な過剰で使用されるべきである。そうでなければ、上記臭化水素は糖化に悪影響を与えるためである。これは、反応が過剰の化学式IVの(チオ)ニコチンアミドの非存在下で行われる場合、化学式Vaの化合物の収率の低下に見られうる。
【0103】
さらに、驚くべきことに、濾液は、化学式IVの(チオ)ニコチンアミドの上記過剰にかかわらず、その少量のみを含み、これはアセトンからのそれぞれ化学式O-Va、化学式S-Vaの実質的に純粋な化合物の自発的結晶化を促進する。
【0104】
したがって、好ましい実施形態では、工程(A)で使用される臭化水素対化学式IIのアシル化合物のモル比は、1.1:1から1.3:1の範囲となるように選択され、ここで工程(B)で使用される化学式IVの(チオ)ニコチンアミド対工程(A)で使用される臭化水素のモル比は、1.05~1.2:1の範囲である。
【0105】
さらなる好ましい実施形態では、工程(A)で使用される臭化水素対化学式IIのアシル化合物のモル比は、1.15:1から1.25:1の範囲となるように選択され、ここで工程(B)で使用される化学式IVの(チオ)ニコチンアミド対工程(A)で使用される臭化水素のモル比は、1.1~1.15:1の範囲である。
【0106】
さらに、アセトニトリル中の化学式IVの(チオ)ニコチンアミドの加熱溶液が、化学式IIIのトリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドおよび溶媒、好ましくはアセトニトリルを含む冷却溶液に添加されるように、工程(B)を実施することが有利である。
【0107】
理論に拘束されることなく、上記条件下での糖化は化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの競合する分解より有利に速いと考えられている。
【0108】
したがって、好ましい実施形態では、工程(B)は、アセトニトリルに溶解された化学式IVの(チオ)ニコチンアミドが、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドおよびアセトニトリル、臭化水素、および酢酸を含む溶液に添加されるよう行われ、ここで化学式IVの(チオ)ニコチンアミドのアセトニトリル溶液の温度は50℃~75℃の範囲に保持され、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを含む溶液の温度は、-10℃~30℃の温度範囲に保持される。
【0109】
好ましい実施形態では、アセトニトリル中の化学式IVの(チオ)ニコチンアミドの溶液の温度は、70℃~75℃の範囲に保持され、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドを含む溶液の温度は、0℃~20℃の温度範囲に保持される。
【0110】
沈殿した(チオ)ニコチンアミド臭化水素酸塩、酢酸塩をそれぞれ濾過した後、および溶媒、好ましくはアセトニトリルを蒸発させた後、化学式Va(O-VaまたはS-Va)の化合物を単離することができる。
【0111】
粗生成物を次の工程で使用することができるが、化学式Vaの化合物を精製および結晶化することが有利である。本発明による方法の脱保護工程、すなわち工程(D)で、精製および結晶化された化学式Vaの化合物を使用すると、化学式Ia、O-IaまたはS-Iaのいずれかの標的化合物の性質を改善し、結晶化された、したがって実質的に純粋な形態をもたらす。
【0112】
好ましくは、化学式Vaの化合物はアセトンから再結晶化することができる。純粋なβ-アノマーが得られる。
【0113】
したがって、一つの実施形態では、方法は工程(C):
(C) 工程(B)で得られた生成物を精製する工程
をさらに含む。
【0114】
好ましくは、工程(C)による精製は、結晶化または再結晶化である。
【0115】
工程(B)および(C)にわたる収率は、典型的には40~50%の範囲である。
【0116】
本発明による方法の次の工程では、工程(B)または(C)で得られた生成物のアシル基は開裂され、すなわち、保護されたヒドロキシル基は脱保護される。
【0117】
基本的に、当技術分野で知られている任意の方法を使用して、保護されたOH基からアシル基を除去することができる。
【0118】
一つの実施形態では、アンモニア、たとえばメタノール中ンアンモニアを、上記のLee参考文献に解除されているように、脱保護のために使用することができる。本発明の発明者は、この方法を大規模で容易に繰り返すことができず、開裂の程度が反応混合物中のアンモニアの初期濃度および総量に大きく依存し得るという、上記Lee参考文献におけるそれぞれの開示を確認することができる。さらに、褐色がかった生成物をもたらす好ましくないエピマー化および分解生成物が観察でき、これは、結晶化形態での化学式Iaの化学式O-Iaまたは化学式S-Iaのいずれかの標的化合物の形成に悪影響を及ぼしうる。
【0119】
本発明の発明者らは、対処された欠点(addressed rawbacks)なしに、酢酸中の臭化水素を使用して切断を有利に行うことができることを見出した。
【0120】
反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。好ましい溶媒はメタノールである。
【0121】
したがって、この方法は、工程(D):
(D) 工程(B)または(C)において得られた化学式Va、すなわち化学式O-Vaまたは化学式S-Vaのいずれかの化合物を、酢酸中の臭化水素を使用してR基を除去することによって脱保護し、化学式Ia、すなわち化学式O-Iaまたは化学式S-Iaのいずれかの化合物を得る工程
をさらに含む。
【0122】
この反応は、大規模でも有益に行うことができる。
【0123】
脱保護反応はわずかに発熱性であるため、反応温度を制御することが好ましい。好ましい実施形態では、温度は、-5℃~25℃、たとえば0℃~20℃の範囲に保持される。
【0124】
一つの実施形態では、アシル基の開裂、すなわち脱保護工程の後、必要に応じて、アシル残基に由来する酢酸および形成された酸を真空中で蒸留除去することができる。
【0125】
化学式O-Iaまたは化学式S-Iaの形成された標的化合物は、脱保護工程で得られた溶液から結晶の形で直接沈殿することが多い。
【0126】
必要に応じて、種晶の添加により結晶化を促進することができる。
【0127】
結晶化生成物O-IaまたはS-Iaは、97%を超える純度で、すなわち、α-アノマーをほとんど含まず、化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの臭化物を置換するため、過剰な臭化水素を中和するためにそれぞれ使用された少量の化学式IVの(チオ)ニコチンアミドのみを含む。
【0128】
さらに必要な場合、化学式O-Iaまたは化学式S-Iaの化合物は、好ましくは再結晶化によってさらに精製されてもよい。好適な溶媒は、たとえばメタノールである。
【0129】
好ましい実施形態では、方法は、工程(E):
(E) 工程(D)で得られた生成物を精製する工程
をさらに含む。
【0130】
好ましい実施形態では、工程(E)による精製は、結晶化もしくは再結晶化を含む、または結晶化もしくは再結晶化である。
【0131】
工程(D)および(E)にわたる収率は、典型的には60~70%の範囲である。
【0132】
塩化物は典型的には臭化物よりも薬学的に許容されるため、化学式Ia(O-IaまたはS-Ia)の化合物は、必要に応じて、塩化物Ib(O-IbまたはS-Ib)に移動してもよい。
【0133】
有利には、アニオンが薬学的に許容されるアニオンである他の結晶性塩を、化学式Iaの臭化物から出発して調製することができる。好ましくは、硫酸塩およびリン酸塩を調製することができる。
【0134】
結晶性塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドまたは別の薬学的に許容される塩の製造方法(第二の態様)
第二の態様によれば、本発明は結晶性ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩、または結晶性(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を製造する方法に関し、ここで塩のアニオンは、第一の態様に記載されている化学式Ia(O-IaまたはS-Ia)の(脱保護)生成物またはVa(O-VaまたはS-Va)(脱保護)生成物から出発する、薬学的に許容されるアニオン、たとえば塩化物イオンまたは任意の他の薬学的に許容されるアニオンである。
【0135】
標的化合物は、少なくとも3つの実施形態によって、すなわち、
- 化学式O-IaまたはS-Iaの化合物中の臭化物イオンを、イオン交換を介して、薬学的に許容されるアニオン、たとえば塩化物イオンと交換する(実施形態1);または
- 薬学的に許容されるアニオン、およびプロトン、たとえば塩化水素の存在下で、脱保護、すなわち化学式O-VaまたはS-Vaの化合物中のアシル基を開裂させ、続いて形成された生成物をそれぞれの薬学的に許容されるアニオン、たとえば塩化物イオンとのイオン交換に供する(実施形態2);または
- 化学式O-VaまたはS-Vaの化合物を薬学的に許容されるアニオン、たとえば塩化物イオンとのイオン交換に供し、続いて形成されたイオン交換生成物を上記薬学的に許容されるアニオンのそれぞれの酸、たとえば塩化水素で脱保護する(実施形態3)
のいずれかによって調製することができる。
【0136】
これらの実施形態は、以下でより詳細に記載される。
【0137】
実施形態1: 臭化物イオンを塩化物イオンまたは他の薬学的に許容されるアニオンと交換すること
【0138】
特定の実施形態によると、本発明は、化学式O-Ibの結晶性塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドまたは化学式S-Ibの結晶性塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを製造する方法に関する。
【0139】
この方法は、第一の態様による方法で形成された化学式O-IaまたはS-Iaの生成物を、塩化物イオンを負荷したイオン交換体を使用したイオン交換に供する方法を包含する。
【0140】
したがって、一つの実施形態では、本発明は、工程(b):
(b) 第一の態様[工程(a)]に記載されている化学式O-IaまたはS-Iaの結晶性化合物を、塩化物イオンを負荷したイオン交換体を使用したイオン交換に供する工程
を含む、化学式O-Ib
【0141】
【0142】
の結晶性塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド;もしくは化学式S-Ib
【0143】
【0144】
の結晶性塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを製造する方法を含む。
【0145】
好適なイオン交換体は、最新技術から知られている: イオン交換は、一般的に知られている方法によって行ってもよい。
【0146】
発明者らはさらに、化学式O-IaまたはS-Iaの臭化物を化学式O-IbまたはS-Ibの塩化物にイオン交換によって変換する方法が、イオン交換体に負荷できる塩化物とは異なるアニオンに移動できることを見出した。
【0147】
基本的に、当技術分野で薬学的に許容されるアニオンと見なされる任意のアニオンを、イオン交換に使用することができる。
【0148】
好ましい実施形態では、上記アニオンは無機酸、好ましくは硫酸水素、硫酸、リン酸二水素、リン酸水素、またはリン酸から選択される。
【0149】
有機酸のアニオンも使用することができる。好適なアニオンは、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、酢酸、およびメタンスルホン酸のアニオンである。
【0150】
したがって、本発明による方法は、第一の態様による方法で形成される化学式O-IaまたはS-Iaの生成物を、アニオン、たとえば硫酸水素または硫酸、好ましくは硫酸水素、またはリン酸二水素、リン酸水素、またはリン酸、好ましくはリン酸二水素、またはフマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、酢酸、およびメタンスルホン酸を負荷したイオン交換体を使用したイオン交換に供する方法を包含する。
【0151】
したがって、さらなる好ましい実施形態では、本発明は、結晶性(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を製造する方法に関し、ここで当該塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオンであり、工程(bb):
(bb) 第一の態様に記載されている化学式O-IaまたはS-Iaの結晶性化合物を薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用したイオン交換に供する工程
を含む。
【0152】
イオン交換は、既知の方法によって行うこともできる。交換は水および/または有機溶媒中で行ってもよく、使用した出発原料の溶解度に依存する。
【0153】
実施形態2: 塩化物イオンまたは別の薬学的に許容されるアニオンの存在下で化学式O-VaまたはS-Vaの化合物を脱保護し、続いてイオン交換を行うこと
別の特定の実施形態では、アシル基の開裂、すなわち脱保護が、塩化物イオンの存在下で行われる場合、第一の態様に定義されている工程(D)による開裂で形成される生成物の少なくとも一部を、塩化物イオンに変換することができる。
【0154】
好ましい実施形態では、塩化物イオンは塩化水素に由来する、すなわち、開裂は塩化水素、好ましくはメタノール中の塩化水素の存在下で行われる。次に、一般的に混合塩が。たとえば臭化物塩と塩化物塩の混合物、たとえば20:80~30:70の範囲で得られる。
【0155】
次に、混合塩を塩化物イオンを負荷したイオン交換体に供し、化学式Ibの純粋な塩化物を製造する。
【0156】
しかし、塩化イオンの負荷に応じて、必要に応じて、化学式Iaの塩化物および化学式Ibの塩化物の混合物も調製することもできる。
【0157】
同様に、開裂が上記の薬学的に許容されるアニオンの存在下で行われる場合、第一の態様に定義されている工程(D)による開裂で形成された生成物の少なくとも一部を、上記で開示される塩化物イオンと異なる薬学的に許容されるアニオンに変換することができる。
【0158】
好ましい実施形態では、薬学的に許容されるアニオンはそれぞれの酸から生じる、すなわち、開裂はそれぞれの酸、好ましくはメタノール中の酸の存在下で行われる。次に、通常、混合塩、たとえば臭化物および薬学的に許容されるアニオンの混合物が得られる。
【0159】
次に、必要に応じて、混合塩を薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体に供し、それぞれの純粋な塩を製造する。
【0160】
したがって、特定の実施形態では、方法は工程(b)の前に工程(c):
(c) 第一の態様で定義されている工程(B)または(C)において得られる化学式O-VaまたはS-Vaの化合物をR基、すなわちアシル保護基を、酢酸中の臭化水素を使用して塩化物イオンの存在下で、除去することによって脱保護する工程
を含む。
【0161】
より一般的な実施形態では、方法は工程(b)の前に工程(cc):
(cc) 薬学的に許容されるアニオンの存在下で酢酸中の臭化水素を使用して、R基、すなわちアシル保護基を除去することにより、第一の態様で定義される工程(B)または(C)で得られた化学式Vaの化合物(O-VaまたはS-Va)を脱保護する工程
を含む。
【0162】
実施形態3: 化学式O-VaまたはS-Vaの化合物を、塩化物または別の薬学的に許容されるアニオンとのイオン交換に供し、続いて脱保護すること
さらに特定の実施形態では、化学式O-VaまたはS-Vaの化合物中の臭化物を、塩化物アニオンを負荷したイオン交換体中の塩化物によって交換し、続いて、形成された生成物O-VbまたはS-Vbを脱保護する、すなわち、形成された生成物を塩化水素に供したときに、リボシドからアシル基を切断することも可能である。
【0163】
【0164】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、工程(d):
(d) 第一の態様で定義される化学式O-VaまたはS-Vaの結晶性化合物を、塩化物イオンを負荷したイオン交換体を使用してイオン交換に供する工程
を含む、化学式O-IbまたはS-Ibの化合物を製造する方法に関する。
【0165】
続いて、工程(d)で得られた生成物を塩酸に供して、工程(d)で形成された生成物を脱保護する、すなわち、アシル基を切断して、標的化合物を得る。
【0166】
したがって、方法は工程(e):
(e) 工程(d)で形成された生成物を塩化水素に供する工程
を含む。
【0167】
より一般的な実施形態では、第一の態様で定義される化学式O-VaまたはS-Vaの結晶性化合物は、薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用するイオン交換に供され、続いて、イオン交換によって形成された生成物を薬学的に許容されるアニオン、すなわちプロトン化された薬学的に許容されるアニオンに供し、イオン交換工程において形成された生成物を脱保護する、すなわち標的化合物を得るためにアシル基を切断する。
【0168】
したがって、より一般的な実施形態では、本発明は、結晶性(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩を作製する方法に関し、ここで、塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオンであり、工程(d)および(e):
(d) 第一の態様で定義される化学式O-VaまたはS-Vaの結晶性化合物を、薬学的に許容されるアニオンを負荷したイオン交換体を使用するイオン交換に供する工程;
(e) 工程(d)で形成された生成物をプロトン化された薬学的に許容されるアニオンに供する工程
を含む。
【0169】
化学式Vaの化合物と比較して、化学式O-IaまたはS-Iaの臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドは、一般に水中での安定性が低く、それぞれ有機溶媒への溶解度が悪いため、実施形態3に従って、すなわち、化学式O-Vaまたは化学式S-Vaの臭化(チオ)ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボシドから出発して、イオン交換を実施することが有利でありうる。
【0170】
本発明の方法によって製造した化学式Vaの臭化(チオ)ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシド等の塩および化学式Iaの臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドおよび化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド等の標的塩は、結晶化された形態で得られる。アミドは白色から淡黄色の固体であり、溶液中では無色であるのに対し、チオアミドは明るい黄色の固体である。
【0171】
結晶化は、それぞれの粉末X線回折パターンによって証明することができる。
【0172】
結晶性(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩(第三の態様)
第三の態様によれば、一つの実施形態では、本発明は、化学式O-Vaの結晶性臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドに関し、ここでR=アセチルであり、
図1に定義されている粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0173】
結晶形態もまた、実質的に以下の表1に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0174】
【0175】
別の実施形態では、本発明は、
図2に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式O-Iaの結晶性臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドに関する。
【0176】
結晶形態もまた、実質的に以下の表2に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0177】
【0178】
別の実施形態では、本発明は、
図3に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式O-Vbの結晶性塩化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドに関する。
【0179】
結晶形態もまた、実質的に以下の表3に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0180】
【0181】
別の実施形態では、本発明は、
図4に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式O-Ibの結晶性塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドに関する。
【0182】
結晶形態もまた、実質的に以下の表4に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0183】
【0184】
別の実施形態では、本発明は、
図5に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式S-Vaの結晶性臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドに関する。
【0185】
結晶形態もまた、実質的に以下の表5に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0186】
【0187】
別の実施形態では、本発明は、
図6に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式S-Iaの結晶性臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドに関する。
【0188】
結晶形態もまた、実質的に以下の表6に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0189】
【0190】
別の実施形態では、本発明は、
図7に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式S-Ibの結晶性塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドに関する。
【0191】
結晶形態もまた、実質的に以下の表7に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0192】
【0193】
別の実施形態では、本発明は、
図8に定義される粉末X線回折パターンを特徴とする化学式S-Ibの結晶性塩化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドに関する。
【0194】
結晶形態もまた、実質的に以下の表8に提供されるようなピーク±0.2度 2θを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0195】
【0196】
別の実施形態では、本発明は、化学式Ia(O-IaまたはS-Ia)またはIb(O-IbまたはS-Ib)の結晶性化合物に関し、ここで当該化合物は臭化物イオンまたは塩化物アニオンの代わりに、硫酸アニオンまたはリン酸アニオン等の、別の薬学的に許容されるアニオンを有する。
【0197】
別の実施形態では、化学式Iaの化合物は、第一の態様に定義される方法によって得られる。
【0198】
別の実施形態では、化学式Ibの化合物は、第二の態様に定義される方法によって得られる。
【0199】
結晶性臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドおよびその薬学的に許容される塩の使用(第四の態様)
第四の態様によると、一つの実施形態では、本発明は、第一または第二の態様に定義される方法によって得られる化学式Iaの臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドもしくは化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの使用、または第三の態様に定義される化学式Iaの臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドもしくは化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの栄養補助食品としての使用に関する。
【0200】
別の実施形態では、本発明は、第二の態様に定義される方法によって得られる化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの使用、または第三の態様に定義される化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの栄養補助食品としての使用に関し、ここで当該化合物は薬学的に許容されるアニオンとしての塩化物アニオンの代わりに、別の薬学的に許容されるアニオン、好ましくは硫酸アニオンまたはリン酸アニオンを有する。
【0201】
別の実施形態では、本発明は、第一または第二の態様に定義される方法によって得られる化学式Iaの臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドまたは化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを含む、または第三の態様に定義される化学式Iaの臭化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドまたは化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを含む、医薬組成物に関する。
【0202】
別の実施形態では、本発明は、第二の態様に定義される方法によって得られる化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを含む、または第三の態様に定義される化学式Ibの塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを含む、医薬組成物に関し、ここで当該化合物は薬学的に許容されるアニオンとしての塩化物アニオンの代わりに、別の薬学的に許容されるアニオン、好ましくは硫酸アニオンまたはリン酸アニオンを有する。
【0203】
一つの実施形態では、化学式IaもしくはIbの臭化または塩化(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド、または薬学的に許容されるアニオンとしての塩化物アニオンの代わりに、別の薬学的に許容されるアニオン、好ましくは硫酸アニオンまたはリン酸アニオンを有する化合物Ibは、NAD+生合成のニコチンアミドリボシドキナーゼ経路または他の経路に関連する疾患または状態の予防または治療において使用される。これらの経路は当技術分野で知られている。
【0204】
担持された(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩の製造方法(第五の態様)
第五の態様では、本発明は担持された(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩の製造方法に関し、ここで(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩は、第二の態様に定義される塩である。
【0205】
方法は、第二の態様に定義される方法を含み、工程(F):
(F) 塩のアニオンは薬学的に許容されるアニオン、および一つまたは複数の溶媒である、担体を(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩と接触させる工程
をさらに含む。
【0206】
工程(F)で定義されるような接触は、単に混合することによって行うことができる。
【0207】
好ましくは、(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩は、第二の態様に定義される方法によって製造される。
【0208】
好ましくは、一つまたは複数の溶媒は、水である、または水を含む。一つの実施形態では、遊離体(educt)は水溶液として提供される。
【0209】
標的化合物を単離し、凝固させるために、方法は一つまたは複数の溶媒の除去をさらに必要とする。
【0210】
したがって、方法は、工程(G):
(G) 工程(F)で得られた混合物から一つまたは複数の溶媒を除去する工程
をさらに含む。
【0211】
工程(G)に定義される一つまたは複数の溶媒の除去は、溶媒を蒸留除去することによって、または好ましくは凍結乾燥によって行うことができる。
【0212】
本明細書で使用する用語「担体(carrier)」は、用語「担体」(support)」と同義で使用される。
【0213】
好適な担体は、たとえばリン酸カルシウム、二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、プルラン、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidine)、低融点ワックス、イオン交換樹脂、クロスカルメロース炭素、アラビアゴム、アルファ化デンプン、クロスポビドン、HPMC、ポビドン、二酸化チタン、多結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド(aluminum metahydroxide)、寒天、トラガント、またはそれらの混合物を含んでもよい。
【0214】
一つの好ましい担体はプルランである。
【0215】
用語「プルラン」は、製薬用途の分野で知られている様々な種類のプルランを包含する。
【0216】
一つの実施形態では、一つまたは複数の溶媒は、当技術分野で知られている薬学的に許容される溶媒から選択される。一つの実施形態では、溶媒は水である、または水を含む。
【0217】
少なくとも担体として使用されるプルランの場合、支持された(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩は、典型的には、光学的に透明なガラス様材料または白色固体として得られる。この固体は、結晶の存在を示す鋭いピークを提供しないXRD分析によって示されるように、通常は非晶質である。
【0218】
(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩および担体を含む組成物(第六の態様)
第六の態様によれば、本発明は(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩および担体を含む組成物に関する。
【0219】
好ましくは、(チオ)ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド塩は、第二の態様で定義される方法に従って調製され、組成物は、第五の態様で定義される方法に従って調製される。
【0220】
さらに好ましくは、担体は第五の態様で定義されるような担体、好ましくはプルランである。
【0221】
第六の態様で定義される組成物は、第四の態様で定義されるものと同じ用途(application)または用途(use)に使用することができる。
【0222】
化学式IIIの臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの製造方法(第七の態様)
第七の態様によると、本発明は、化学式III
【0223】
【0224】
の臭化トリ-O-アシル-β-D-リボフラノシドの製造方法に関し、当該方法は、工程(a):
(a) 各Rはアシルから独立に選択される、化学式IIのテトラ-O-アシル-β-D-リボフラノースを、
【0225】
【0226】
酢酸中の臭化水素に供する工程を含む。
【0227】
臭化または塩化(チオ)ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドからアシル基を除去する方法(第八の態様)
第八の態様によると、本発明は、化学式O-V
【0228】
【0229】
または化学式S-V
【0230】
【0231】
の化合物からアシル基を除去する方法に関し、ここで各Rはアシルから独立に選択され、当該方法は、工程(i)または(ii):
(i) 化学式O-Vまた化学式S-Vの化合物を酢酸中の臭化水素と反応させる工程;
(ii) 化学式O-Vまたは化学式S-Vの化合物をメタノール中の塩化水素と反応させる工程
を含む。
【実施例】
【0232】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する。
【0233】
実施例1: 臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(化学式O-Vaの化合物)の調製
274 gのβ-D-リボフラノース1,2,3,5-テトラアセテートを274 mlのアセトニトリルに溶解した。氷酢酸中の臭化水素180 ml(濃度33%)を、温度を0℃~5℃の間に保持しながら、攪拌溶液に添加した。さらに15分間撹拌し続けた。さらに15分間撹拌しながら、41 gのニコチンアミドを添加した。次に、700 mlのアセトニトリル中の96 gのニコチンアミドの加熱(70℃)溶液を添加し、混合物を約0℃~5℃に冷却した。 撹拌を15時間継続し、続いて形成された懸濁液を濾過した。濾液を蒸留に供した。得られた油性残留物をアセトンで希釈し、表題生成物の結晶化をもたらした。表題生成物を濾過し、乾燥させて、167 g(43%収率)のほぼ無色の生成物を得た。融点:133~134℃。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): 2.09 (s, 6H), 2.13 (s, 3H) 4.45 (m, 2H, H5’), 4.69 (m, 1H, H4’), 5.43 (t, 1H, H3’), 5.62 (dd, 1H, H2’), 6.69 (d, 1H, H1’), 8.23 (s, 1H, NH), 8.41 (dd, 1H, H5), 8.74 (s, 1H, NH), 9.13 (d, 1H, H4), 9.28 (d, 1H, H6), 9.49 (s, 1H, H2);
13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6): 20.3, 20.4, 20.5, 62.1 (C5‘), 68.7 (C3‘), 75.3 (C2‘), 81.8 (C4‘), 97.2 (C1‘), 128.1 (C5), 133.9 (C3), 141.2 (C2), 143.1 (C6), 145.5 (C4), 162.7 (CONH2), 169.2, 169.4, 170.1.
【0234】
実施例2: 化学式O-Iaの臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの調製
167 gの実施例1で得られた生成物を870 mlのメタノールに溶解した。酢酸中の臭化水素(濃度33%)を、温度を5℃~10℃の間に保持しながら、撹拌溶液に添加した。得られた混合物を2日間20℃で撹拌し、ここで生成物は結晶化を開始した。形成された結晶を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させた。表題化合物は、77 g(63%)の収量で淡黄色の結晶性粉末として得られた。融点:118~119℃。
1H-NMR (400 MHz, D2O): 3.83 (dd, 1H, H5’), 3.98 (dd, 1H, H5’), 4.29 (t, 1H, H3’), 4.39-4.48 (m, 2H, H4’, H2’), 6.18 (d, 1H, H1’), 8.22 (t, 1H, H5), 8.91 (d, 1H, H4), 9.20 (d, 1H, H6), 9.52 (s, 1H, H2);
13C-NMR (100 MHz, D2O): 60.0 (C5‘), 69.5 (C3‘), 77.2 (C2‘), 87.5 (C4‘), 99.7 (C1‘), 128.3 (C5), 133.7 (C3), 140.2 (C2), 142.5 (C6), 145.5 (C4), 165.6 (CONH2).
【0235】
実施例3: 化学式O-Ibの塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの調製
25 gの実施例2で得られた生成物を140 mLの水に溶解し、140 gのイオン交換樹脂Amberlite IRA-402 (塩化物フォーム)を添加し、2時間撹拌した。樹脂を濾過により除去し、140 mlの水で洗浄した。濾液に105 gのイオン交換樹脂を添加し、再び2時間撹拌し、濾過し、40 mlの水で洗浄した。この交換をさらに2回、それぞれ105 gのイオン交換体を使用して繰り返した。最終濾液を蒸発させて、21.8 gの透明な淡黄色の樹脂を与えた。この樹脂を100 mlエタノールおよび100 mlメタノールの加熱混合物に溶解した。氷浴で冷却後に得られた結晶を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させて12.8 g(59%)の表題化合物を無色結晶として得た。臭化物の含有量は0.1%未満であった。融点:123~124℃。
1H-NMR (400 MHz, D2O): 3.84 (dd, 1H, H5’), 3.98 (dd, 1H, H5’), 4.30 (t, 1H, H3’), 4.40-4.47 (m, 2H, H4’, H2’), 6.19 (d, 1H, H1’), 8.22 (t, 1H, H5), 8.92 (d, 1H, H4), 9.21 (d, 1H, H6), 9.54 (s, 1H, H2);
13C-NMR (100 MHz, D2O): 60.3 (C5‘), 69.8 (C3‘), 77.5 (C2‘), 87.7 (C4‘), 99.9 (C1‘), 128.5 (C5), 134.0 (C3), 140.4 (C2), 142.7 (C6), 145.7 (C4), 165.8 (CONH2).
【0236】
実施例4: 塩化/臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド(化学式O-Ib/O-Iaの混合塩)の調製
10 gの実施例1で得られた中間生成物を50 mlのメタノールに溶解した。15 mlのエタノール中の塩化水素(濃度 6モル/L)を次に温度を5℃~10℃の間に保持した撹拌溶液に添加した。得られた混合物を20℃で一晩撹拌し、それによって生成物は結晶化した。結晶を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させた。表題化合物の混合物を4.6 g(73%)の収量で得た。塩化物対臭化物の比率は約3:1であった。
【0237】
実施例5: 臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(化学式S-Vaの化合物)の調製
30 gのβ-D-リボフラノース1,2,3,5-テトラアセテートを30 mlのアセトニトリルに溶解した。氷酢酸中の臭化水素19.8 ml(濃度33%)を、温度を0℃~5℃の間に保持しながら、攪拌溶液に添加した。さらに15分間撹拌し続けた。さらに15分間撹拌しながら、4.5 gのチオニコチンアミドを添加した。次に、510 mlのアセトニトリル中の12 gのチオニコチンアミドの加熱(65℃)溶液を添加し、混合物を約0℃~5℃に冷却した。撹拌を0℃で15時間継続し、続いて形成された懸濁液を濾過した。濾液を蒸留に供した。得られた油性残留物をエタノールおよびイソプロパノールの混合物(1:1)で希釈し、表題生成物の結晶化をもたらし、当該表題生成物を濾過し、乾燥させて、22 g(50%収率)の黄色結晶性粉末を得た。融点:134℃。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): 2.06 (s, 3H), 2.09 (s, 3H), 2.14 (s, 3H) 4.43 (m, 2H, H5’), 4.70 (m, 1H, H4’), 5.43 (t, 1H, H3’), 5.63 (dd, 1H, H2’), 6.68 (d, 1H, H1’), 8.31 (dd, 1H, H5), 8.99 (d, 1H, H4), 9.20 (d, 1H, H6), 9.49 (s, 1H, H2), 10.30 (s, 1H, NH), 10.66 (s, 1H, NH);
13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6): 20.3, 20.4, 20.6, 62.3 (C5‘), 68.9 (C3‘), 75.3 (C2‘), 82.0 (C4‘), 97.1 (C1‘), 127.6 (C5), 138.6 (C3), 140.4 (C2), 142.3 (C6), 144.2 (C4), 192.5 (CSNH2), 169.2, 169.4, 170.0.
【0238】
実施例6: 化学式S-Iaの臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの調製
実施例5で得られた18.6 gの生成物を110 mlのメタノールに溶解した。14 mlの酢酸中の臭化水素(濃度33%)を次に温度を5℃~10℃の間に保持した撹拌溶液に添加した。得られた混合物を20℃で2日間撹拌し、それによって生成物は結晶化し始めた。懸濁液を0℃に冷却し、黄色結晶を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させた。表題化合物を9.3 g(68%)の収量で得た。融点:123℃。
1H-NMR (400 MHz, D2O): 3.84 (dd, 1H, H5’), 3.99 (dd, 1H, H5’), 4.31 (t, 1H, H3’), 4.38-4.50 (m, 2H, H4’, H2’), 6.18 (d, 1H, H1’), 8.15 (t, 1H, H5), 8.83 (d, 1H, H4), 9.13 (d, 1H, H6), 9.60 (s, 1H, H2);
13C-NMR (100 MHz, D2O): 60.2 (C5‘), 69.7 (C3‘), 77.4 (C2‘), 87.5 (C4‘), 100.0 (C1‘), 128.0 (C5), 139.6 (C3), 139.9 (C2), 141.6 (C6), 143.8 (C4), 194.5 (CSNH2).
【0239】
実施例7: 臭化/塩化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(化学式O-Va/O-Vbの混合塩)の調製
274 gのβ-D-リボフラノース1,2,3,5-テトラアセテートを274 mlのアセトニトリルに溶解した。氷酢酸中の臭化水素180 ml(濃度33%)を、温度を0℃~5℃の間に保持しながら、攪拌溶液に添加した。さらに15分間撹拌し続けた。さらに15分間撹拌しながら、41 gのニコチンアミドを添加した。次に、1,800 mlのアセトニトリル中の96 gのニコチンアミドの加熱(55℃)溶液を添加し、混合物を約0℃~5℃に冷却した。撹拌を15時間継続し、続いて形成された懸濁液を濾過した。濾液に、湿度を除去するために使用前にアセトニトリルで洗浄した塩化物フォームの強塩基アニオン交換樹脂Amberlite IRA-402を3,600 g添加した。樹脂を3時間撹拌し、次に濾過した。濾液を蒸留に供した。得られた油性残留物をアセトンで希釈し、表題生成物の結晶化をもたらした。表題生成物を濾過し、乾燥させて、147 g(41%収率)のほぼ無色の生成物を得た。塩化物対臭化物の比率は約8:1であった。融点:141℃。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): 2.10 (s, 6H), 2.14 (s, 3H) 4.47 (m, 2H, H5’), 4.69 (m, 1H, H4’), 5.45 (t, 1H, H3’), 5.65 (dd, 1H, H2’), 6.70 (d, 1H, H1’), 8.23 (s, 1H, NH), 8.40 (dd, 1H, H5), 9.07 (s, 1H, NH), 9.13 (d, 1H, H4), 9.26 (d, 1H, H6), 9.31 (s, 1H, H6), 9.63 (s, 1H, H2);
13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6): 20.8, 20.9, 21.0, 62.7 (C5‘), 69.2 (C3‘), 75.7 (C2‘), 82.3 (C4‘), 97.2 (C1‘), 128.5 (C5), 134.4 (C3), 141.9 (C2), 143.6 (C6), 146.2 (C4), 163.1 (CONH2), 169.7, 169.9, 170.6.
【0240】
実施例8: 化学式O-Vbの塩化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドの脱保護による、化学式O-Ibの塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの調製
基本手順: 塩化ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドをメタノールに溶解した(4.9 mL/g)。その後、2当量の塩酸のエタノール溶液(7.6 N)を滴下して添加し、反応混合物を室温で4時間撹拌した。粗生成物を濾過し、イソプロピルアルコールおよびメタノールで洗浄し、減圧下で48時間乾燥させ、純粋な塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを白色固体(49~64%)として得た。
a) 塩化ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド=9.5 L MeOH中1.95 kg (4.679 mol)
7.6 N HCl (9.357 mol, 2.0当量, 1.231 L)
室温で4時間
1*2 L IPA, 1*2 L MeOH
塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド=672 g (2.312 mol、49%)
b) 塩化ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド=8.5 L MeOH中1.70 kg (4.079 mol)
7.6 N HCl (2.0当量, 8.157 mol, 1.073 L)
室温で4時間
1*2 L IPA, 1*2 L MeOH
塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド=757 g (2.604 mol、64%)
純度(HPLC) 99.3 area-%
不純物(ニコチンアミド) 0.3%
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ ppm 3.85 (dd, J=13.0, 3.5 Hz, 1 H) 3.96 - 4.03 (m, 1 H) 4.29 - 4.34 (m, 1 H) 4.40 - 4.50 (m, 2 H) 6.21 (d, J=4.6 Hz, 1 H) 8.24 (t, J=6.8 Hz, 1 H) 8.94 (d, J=8.3 Hz, 1 H) 9.23 (d, J=6.1 Hz, 1 H) 9.55 (s, 1 H).
【0241】
実施例9~12: イオン交換樹脂を使用した、ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドおよびニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドの硫酸塩およびリン酸塩の調製
イオン交換樹脂の活性化: 40 gのAmbersep(登録商標) 900 水酸化フォーム(The Dow Chemical Company)を250 mLの10% H2SO4または10%のH3PO4水溶液でリンスし、洗浄溶液のpH値が一定のままになるまで水で洗浄した。
【0242】
基本手順: 本発明の方法に従って調製した化学式O-Iaの臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドまたは化学式O-Vaの臭化ニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドの水溶液を活性化イオン交換樹脂を通して濾過し、凍結乾燥して対応する硫酸塩または二水素リン酸塩を固体として得た:
【0243】
実施例9: 4.0 gの臭化ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(8.67 mmol;1当量)を15 mLの水に溶解し、120 gのH2SO4-活性化イオン交換樹脂を通して濾過し、400 mLの水で洗浄し、凍結乾燥させ、3.71 gの硫酸ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(7.77 mmol、90%)を黄色固体として得た。
【0244】
臭化物含有量(IC):0.0%; 硫酸塩含有量(IC):6.9%; 1H-NMR (400 MHz, D2O) δ ppm 2.11 (s, 3 H) 2.15 (s, 3 H) 2.18 (s, 3 H) 4.47 - 4.60 (m, 2 H) 4.84 - 4.98 (m, 1 H) 5.47 (t, J=5.4 Hz, 1 H) 5.59 (dd, J=5.4, 3.9 Hz, 1 H) 6.61 (d, J=3.8 Hz, 1 H) 8.30 (dd, J=8.0, 6.4 Hz, 1 H) 9.02 (dt, J=8.1, 1.4 Hz, 1 H) 9.22 (ddd, J=6.2, 1.5 Hz, 1 H) 9.46 (s, 1 H).
【0245】
実施例10: 1.3 gの臭化ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(2.82 mmol;1当量)を5 mLの水に溶解し、40 gのH3PO4-活性化イオン交換樹脂を通して濾過し、150 mLの水で洗浄し、凍結乾燥して1.27 gのリン酸二水素ニコチンアミド-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシドを白色固体として得た。
【0246】
臭化物含有量(IC):0.0%; 硫酸塩含有量(IC):19.1%
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ ppm 2.10 (s, 3 H) 2.14 (s, 3 H) 2.17 (s, 3 H) 4.45 - 4.61 (m, 2 H) 4.81 - 4.97 (m, 1 H) 5.46 (t, J=5.4 Hz, 1 H) 5.57 (dd, J=5.3, 4.0 Hz, 1 H) 6.60 (d, J=4.1 Hz, 1 H) 8.29 (t, J=6.7 Hz, 1 H) 8.94 - 9.08 (m, 1 H) 9.21 (d, J=6.2 Hz, 1 H) 9.45 (s, 1 H).
【0247】
実施例11: 1.3 gの臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド(3.88 mmol;1当量)を5 mLの水に溶解し、40 gのH2SO4-活性化イオン交換樹脂を通して濾過し、150 mLの水で洗浄し、凍結乾燥して1.27 gの硫酸ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド(3.62 mmol、93%)を白色固体として得た。
【0248】
臭化物含有量(IC):0.0%; 硫酸塩含有量(IC):13.0%
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ ppm 3.83 (dd, J=13.0, 3.6 Hz, 1 H) 3.91 - 4.02 (m, 1 H) 4.25 - 4.34 (m, 1 H) 4.36 - 4.41 (m, 1 H) 4.46 (t, J=4.7 Hz, 1 H) 6.20 (d, J=4.4 Hz, 1 H) 8.24 (t, J=6.9 Hz, 1 H) 8.93 (d, J=8.3 Hz, 1 H) 9.23 (d, J=6.2 Hz, 1 H) 9.53 (s, 1 H).
【0249】
実施例12: 1.3 gの臭化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド(3.88 mmol;1当量)を5 mLの水に溶解し、40 gのH3PO4-活性化イオン交換樹脂を通して濾過し、150 mLの水で洗浄し、凍結乾燥して1.42 gのリン酸二水素ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドを白色固体として得た。
【0250】
臭化物含有量(IC):0.0%; リン酸塩含有量(IC):20.8%
1H NMR (400 MHz, D2O) δ ppm 3.81 (dd, J=13.0, 3.6 Hz, 1 H) 3.96 (dd, J=13.0, 2.8 Hz, 1 H) 4.21 - 4.33 (m, 1 H) 4.39 (d, J=3.9 Hz, 1 H) 4.43 (t, J=4.7 Hz, 1 H) 6.16 (d, J=4.6 Hz, 1 H) 8.20 (t, J=6.9 Hz, 1 H) 8.89 (d, J=7.7 Hz, 1 H) 9.19 (d, J=6.3 Hz, 1 H) 9.51 (s, 1 H).
【0251】
実施例13~17: プルランを含む組成物
実施例13および14: 本発明の方法に従って調製したプルランおよび塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドのストック溶液を、以下の割合で混合した:
-実施例13: 1.8 mLのプルラン水溶液(120 mg/ml)を0.050 mLの塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの水溶液と混合した。
-実施例14: 4 mLのプルラン水溶液(120 mg/ml)を0.050 mLの塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドの水溶液と混合した。
両方の溶液から、0.4 mLのアリコートを固体表面にピペットで移し、21℃、湿度30%で15時間乾燥させて、非晶質でガラス状の硬いレンズ形状のプルラン塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド錠剤を得た。
【0252】
実施例15~17: 塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシドをプルランの水溶液(5 mg/mL)に添加した。反応混合物を超音波で5分間均質化し、一晩凍結乾燥して特定の(specific)塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド-プルラン複合体を白色固体として得た。白色固体はXRD分析で示されたように、鋭い回折ピークはないため、非晶質であった。実施例15:250 mgプルラン;250 mg 塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド。実施例16:500 mgプルラン;250 mg塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド。実施例17:1.2 gプルラン;250 mg塩化ニコチンアミド-β-D-リボフラノシド。
【0253】
実施例18: 塩化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド(化学式S-Ibの化合物)の調製
15 gの実施例6由来の臭化チオニコチンアミド-β-D-リボフラノシド S-Iaを80 mlの水に溶解した。66 gのイオン交換樹脂Amberlite IRA-402 (塩化物フォーム)を橙黄色の溶液に添加し、30分間撹拌した。樹脂を濾過によって除去し、150 mlの水で3回に分けて洗浄した。濾液に66 gのイオン交換樹脂を添加し、再び30分間撹拌し、濾過して150 mlの水で3回に分けて洗浄した。この交換をさらに3回、それぞれ66 gのイオン交換体を使用して繰り返した。最終濾液を蒸発させて、14.7 gの透明な橙黄色の油を得た。この油を30 mlのメタノールに溶解し、冷凍庫に入れ、それによって一晩でいくらかの結晶を形成した。次の日、結晶化は氷浴中で撹拌し、濃い黄色の懸濁液を45 mlのメタノールおよび75 mlのエタノールの混合物で希釈することによって完了した。生成物を濾過し、エタノールで数回洗浄し、乾燥させて、6.7 g(51%)の表題化合物を淡黄色の結晶として得た。臭化物含量(IC)は0.1%未満であった。融点:117℃。
【0254】
母液からさらに3.63 g(28%)の黄色の結晶を単離した。融点:116℃。
1H-NMR (400 MHz, D2O): 3.85 (dd, 1H, H5’), 3.99 (dd, 1H, H5’), 4.31 (t, 1H, H3’), 4.40-4.50 (m, 2H, H4’, H2’), 6.18 (d, 1H, H1’), 8.16 (t, 1H, H5), 8.84 (d, 1H, H4), 9.14 (d, 1H, H6), 9.61 (s, 1H, H2);
13C-NMR (100 MHz, D2O): 60.2 (C5‘), 69.7 (C3‘), 77.4 (C2‘), 87.6 (C4‘), 100.0 (C1‘), 128.0 (C5), 139.6 (C3), 139.9 (C2), 141.7 (C6), 143.9 (C4), 194.6 (CSNH2).
【0255】
実施例19:塩化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド(化学式S-Vbの化合物)の調製
10 gの実施例5由来の臭化チオニコチンアミド-2,3,5-トリ-O-アセチル-β-D-リボフラノシド S-Vaを50 mlの水に溶解した。44 gのイオン交換樹脂Amberlite IRA-402 (塩化物フォーム)を橙黄色の溶液に添加し、30分間撹拌した。樹脂を濾過によって除去し、100 mlの水で2回に分けて洗浄した。濾液に44 gのイオン交換樹脂を添加し、再び30分間撹拌し、濾過して100 mlの水で2回に分けて洗浄した。この交換をさらに3回、それぞれ44 gのイオン交換体を使用して繰り返した。最終濾液を蒸発させて、9.6 gの透明な橙黄色の樹脂を得た。樹脂の大半を20 mlのエタノールに溶解し、すぐに淡黄色の沈殿物が形成された。樹脂の残りは30 mlびエタノールで1時間、40℃でさらに撹拌する間に結晶化した。懸濁液を5℃で一晩保管した。20 mlのイソプロパノールを添加し、黄色の懸濁液を5℃で1時間もう一度撹拌した。生成物を濾過し、イソプロパノールで数回洗浄し、乾燥させて8.8 g(90%)の表題化合物を黄色の結晶性粉末として得た。臭化物含有量(IC)は0.1%未満であった。融点:138℃。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): 2.07 (s, 3H), 2.11 (s, 3H), 2.14 (s, 3H) 4.47 (m, 2H, H5’), 4.70 (m, 1H, H4’), 5.47 (t, 1H, H3’), 5.69 (dd, 1H, H2’), 6.71 (d, 1H, H1’), 8.31 (dd, 1H, H5), 9.14 (d, 1H, H4), 9.27 (d, 1H, H6), 9.63 (s, 1H, H2), 10.70 (s, 1H, NH), 10.88 (s, 1H, NH);
13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6): 20.8, 20.9, 21.1, 62.9 (C5‘), 69.6 (C3‘), 75.7 (C2‘), 82.6 (C4‘), 97.6 (C1‘), 127.9 (C5), 138.8 (C3), 141.0 (C2), 142.8 (C6), 145.3 (C4), 192.7 (CSNH2), 169.7, 169.9, 170.5.