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特許7160950ゲニピンを含む電気化学的センサのセンシング膜または拡散制御膜の製造用架橋剤
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  • 特許-ゲニピンを含む電気化学的センサのセンシング膜または拡散制御膜の製造用架橋剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ゲニピンを含む電気化学的センサのセンシング膜または拡散制御膜の製造用架橋剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20221018BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G01N27/327 353J
G01N27/327 353B
G01N27/327 353T
G01N27/416 338
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020567131
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 KR2019006001
(87)【国際公開番号】W WO2019235755
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0066188
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510115030
【氏名又は名称】アイセンス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,イン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヒュンヘ
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヨン ジェ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-528083(JP,A)
【文献】特開2009-264920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0203144(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0350850(US,A1)
【文献】Fernandes, S. C. et al.,Genipin-Cross-Linked Chitosan as a Support for Laccase Biosensor,Electroanalysis,2013年,Vol.25, No.2,p.557-566
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327
G01N 27/416
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1のゲニピンを含む拡散制御膜製造用架橋剤と、PIとを含む、電気化学的センサの拡散制御膜:
【化1】
【請求項2】
下記の化学式1のゲニピンを含む電気化学的センサのセンシング膜用高分子支持体製造用架橋剤と、PIとを含む、電気化学的センサのセンシング膜:
【化2】
【請求項3】
電子伝達媒介体および酸化還元酵素をさらに含む、請求項2に記載の電気化学的センサのセンシング膜。
【請求項4】
前記酸化還元酵素は、
脱水素酵素(dehydrogenase)、酸化酵素(oxidase)、およびエステル化酵素(esterase)からなる群より選択された1種以上の酸化還元酵素である、請求項3に記載の電気化学的センサのセンシング膜。
【請求項5】
前記酸化還元酵素と共に、
フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide、FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide、NAD)、およびピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone、PQQ)からなる群より選択された1種以上の補助因子を含むものである、請求項3に記載の電気化学的センサのセンシング膜。
【請求項6】
請求項1に記載の拡散制御膜または請求項2に記載のセンシング膜を含む電気化学的バイオセンサ。
【請求項7】
2種以上の電極、絶縁体(insulator)および基板をさらに含むものである、請求項6に記載の電気化学的バイオセンサ。
【請求項8】
血中グルコース測定用である、請求項6に記載の電気化学的バイオセンサ。
【請求項9】
連続的な血糖モニタリングセンサである、請求項8に記載の電気化学的バイオセンサ。
【請求項10】
ゲニピンを架橋剤として用いて、PIを酸化還元酵素と架橋することによってセンシング膜を製造する段階、または、PVIを架橋することによって拡散制御膜を製造する段階を含む、電気化学的バイオセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2018年6月8日付の韓国特許出願第10-2018-0066188号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、電気化学的センサの製造に使用される新規な架橋剤に関し、より詳しくは、グルコース測定用電気化学的センサ中のセンシング膜または拡散制御膜の製造に使用されるゲニピンの架橋剤としての新規な用途に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、医療分野から環境および食品分野まで目標分析物の定量、定性分析のためにバイオセンサの開発への関心がますます増大している。特に、酵素を用いたバイオセンサは、生物体の機能物質または微生物などの生物体が特定物質に敏感に反応する生物感知機能を利用して試料に含有されている化学物質を選択的に検出計測するのに用いる化学センサで、主に血糖センサのような医療計測用途に開発されており、その他、食品工学や環境計測分野の応用においても研究が活発に行われている。
【0004】
糖尿管理において血糖の周期的な測定は極めて重要であり、よって、携帯用計測器を用いて簡単に血糖を測定できるように多様な血糖測定器が製作されている。このようなバイオセンサの作動原理は光学的方法または電気化学的方法に基づいており、このような電気化学的バイオセンサは、従来の光学的方法によるバイオセンサとは異なって酸素による影響を低減でき、試料が混濁していても試料を別途の前処理なしに使用可能であるという利点を有する。したがって、正確性と精密性を備えた多様な種類の電気化学的バイオセンサが幅広く用いられている。
【0005】
現在商用化された電気化学的血糖センサは主に酵素電極を用いるものであり、より具体的には、電気的信号を変換できる電極上にグルコース酸化酵素を化学的または物理的方法で固定させた構造を有する。このような電気化学的血糖センサは、血液などの分析物内のグルコースが酵素によって酸化して発生する電子を電極に伝達して生成される電流を測定することによって、分析物内のグルコースの濃度を測定する原理によるものである。このような酵素を安定して固定するためには高分子支持体が必要であり、このような高分子支持体の製造のためには、グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)、エチレングリコール-ジグリシジルエーテル(ethylenglycol-diglycidylether)などのような架橋剤を使用しなければならない。また、このような架橋剤は、生体内の試料から流入するグルコースの量を調節または制限するために使用される拡散制御膜の製造時にも使用可能である。
【0006】
また、このようなバイオセンサを用いるにあたり、少量の試料で正確かつ迅速な測定値を得ることは使用者の利便性を極大化する点で極めて重要な問題である。
【0007】
したがって、このような従来の電子伝達媒介体の欠点および測定時間の短縮を達成できる新たな電子伝達媒介体の開発は依然として要求されているのが現状である。
【0008】
一方、血糖を持続的に観察して糖尿病などの疾患を管理するために連続的な血糖モニタリング(continuous glucose monitoring;CGM)システムを用いるが、指先から血液を採取する既存の酵素センサは、採血時、針によって大きな苦痛を誘発するため、測定頻度を制限することから、このようなCGMに利用できない。このような問題点を解消するために、最近は身体に付着可能で侵襲を最小化する改善されたバージョンの酵素センサ(continuous glucose monitoring sensor;CGMS)が開発されてきている。このような連続的な血糖モニタリング酵素センサの場合、人体内にセンサの一部が入るため、体内に入る部分に含まれうる遷移金属などを含む電子伝達媒介体や電子伝達媒介体を固定する高分子支持体または拡散制御膜の製造に使用され、前記センサに含まれうる架橋剤などが人体に吸収されて毒性および副作用を生じうるという問題点が発生することがあり、これを最小化できる安全な技術または物質の使用が必要でこのような安全な物質の開発が要求されてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、血糖を定量および定性分析可能にするセンサ材料、具体的には、電気化学的センサにおいて酵素の安定化および分散(dispersing)を助ける役割を果たすセンシング膜の高分子支持体の製造または拡散制御膜の製造のために使用される新規な架橋剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、電気化学的センサにおいてセンシング膜の高分子支持体の製造または拡散制御膜の製造のために使用される、ゲニピンを含む架橋剤、これを用いて製造されたセンシング膜または拡散制御膜および前記センシング膜または拡散制御膜を含む電気化学的センサを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるゲニピンを含む架橋剤を用いて電気化学的センサのセンシング膜の高分子支持体または拡散制御膜を製造する場合、植物から抽出して使用可能なゲニピンの特性によって、従来の毒性の高い架橋剤に比べて高い生体適合性を有するだけでなく、アミン基を有する化合物、例えば、電子伝達媒介体との反応時、UV測定または存在するアミン基の量を測定して反応の進行程度を簡単に確認でき、センサとして適切なグルコースに対する敏感度を示すと同時に、高濃度のグルコースによるセンサ寿命の短縮を低減させるという利点を有する点から、電気化学的センサの製造において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】センシング膜の作製において本発明によるゲニピンを含む架橋剤の有無によるグルコース感応変化を比較したグラフである。図1で、aは、架橋剤のないセンシング膜を含む電極aの結果であり、電極bは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を含む電極bの結果に相当する。
図2】本発明によるゲニピンを含む架橋剤を用いて製造したPVI拡散制御膜の導入の有無によるグルコース感応変化を比較したグラフである。図2で、bは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を有するものの拡散制御膜は有しない電極bの結果であり、cは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を有し、拡散制御膜としてゲニピンを架橋剤として用いて製造したPVI拡散制御膜を有する電極cの結果を示す。
図3】本発明によるゲニピンを含む架橋剤を用いて製造したゼラチン拡散制御膜の導入の有無によるグルコース感応変化を比較したグラフである。図3で、bは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を有するものの拡散制御膜は有しない電極bの結果であり、dは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を有し、拡散制御膜としてゲニピンを架橋剤として用いて製造したゼラチン拡散制御膜を有する電極dの結果を示す。
図4】本発明によるゲニピンを含む架橋剤を用いて製造したキトサン拡散制御膜の導入の有無によるグルコース感応変化を比較したグラフである。図4で、bは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を有するものの拡散制御膜は有しない電極bの結果であり、eは、架橋剤としてゲニピンを用いて製造したセンシング膜を有し、拡散制御膜としてゲニピンを架橋剤として用いて製造したキトサン拡散制御膜を有する電極dの結果を示す。
図5】本発明によるゲニピンを架橋剤として用いた電極dの高濃度のグルコースに長期間保管時のグルコース敏感度を確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
上記の目的を達成するための一つの態様として、本発明は、ゲニピン(genipin)またはその誘導体を含む電気化学的バイオセンサのセンシング膜または拡散制御膜を製造するための架橋剤用組成物およびゲニピンの電気化学的バイオセンサの架橋剤としての用途に関する。
【0015】
本発明における用語「ゲニピン(genipin)」とは、イリドイド配糖体系の天然成分であるゲニポシド(geniposide)の非糖部分であってクチナシ果実(梔子)の主要薬理効能を示す成分を意味し、下記の化学式1で表すことができる。ゲニピンは、胃酸の分泌を促進し、抗酸化作用および酸化窒素(NO)生成阻害作用または肝毒性モデルで病理学的組織病変を改善させるなど他の薬理学的な用途が報告されているが、本発明で明らかにした電気化学的バイオセンサ、特にバイオセンサで使用されるセンシング膜または拡散制御膜の製造時、高分子の単量体を架橋させる架橋剤としての用途は本発明者によって最初に究明された。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明における用語「ゲニピン(genipin)の誘導体」とは、ゲニピンと同一の作用を示し、高分子単量体に対する架橋用途がある化合物は制限なく含まれるが、例えば、ゲニポシド(geniposide)、ゲニポシド酸(genipiodisic acid)、ペンタ-アセチルゲニポシド(penta-acetyl geniposide;Molecular Pharmacology,70(3),997-1004,2006)、6a-ヒドロキシゲニポシド(6a-hydroxygeniposide)、6b-ヒドロキシゲニポシド(6b-hydroxygeniposide)、6a-メトキシゲニポシド(6a-methoxygeniposide)または6b-メトキシゲニポシド(6b-methoxygeniposide)である(Journal of Health Science,52(6),743-747,2006)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明において、前記ゲニピンは、電気化学的センサで測定しようとする代謝物質と反応して還元されて生体の酸化還元反応を触媒する酵素を含むセンシング膜を構成し、酵素の安定化および分散(dispersing)を助ける役割を果たす水溶性高分子支持体に固定するための架橋剤として使用できる。このような高分子支持体はさらに、センシング膜に含まれる電子伝達媒介体と連結可能であり、この場合、電子伝達媒介体の分子または電子伝達媒介体複合体の末端にアミン基(NH2)を含む物質を用いて前記ゲニピンと架橋が容易に行われる。
【0019】
さらに、前記ゲニピンは、電気化学的センサ中の水溶性高分子拡散制御膜の製造において、架橋剤として使用できる。
【0020】
従来の電気化学的センサにおいて、上記のようなセンシング膜中の高分子支持体または拡散制御膜に使用される架橋剤としては、グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)、エチレングリコール-ジグリシジルエーテル(ethylenglycol-diglycidylether)などのような毒性の高い物質が使用されていたが、このような架橋剤を用いる場合、電気化学的センサ、特に連続的血糖測定センサのように人体に一定部分挿入される部分が存在する場合、それ自体の毒性によって人体に悪い影響を及ぼす可能性が高い。しかし、本発明による架橋剤であるゲニピンは、植物から抽出して使用可能な物質であって、従来の毒性の高い架橋剤に比べて高い生体適合性を有する点から、電気化学的センサの製造において非常に有用であるという利点を有する。さらに、アミン基を有する化合物、例えば、電子伝達媒介体との反応時、UV測定または存在するアミン基の量を測定して反応の進行程度を簡単に確認できるという利点も有している。
【0021】
本発明によるゲニピンを架橋剤として使用可能な高分子としては、ポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone;PVP)、ポリビニルイミダゾール(polyvinyl imidazole)などのようなN原子を有するヘテロ環を有する高分子、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol;PVA)、ポリフルオロスルホネート(perfluoro sulfonate)、ヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethyl cellulose;HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxypropyl cellulose;HPC)、カルボキシメチルセルロース(carboxy methyl cellulose;CMC)、セルロースアセテート(cellulose acetate)、ポリアミド(polyamide)、キトサンおよびゼラチンなどがあるが、これらに限定されるものではない。本発明によるゲニピンは前記高分子の架橋に十分な水準で使用できる。
【0022】
他の態様として、本発明は、前記ゲニピンを架橋剤として用いて製造された電気化学的センサ用センシング膜に関する。前記センシング膜は、ゲニピンを架橋剤として含んで製造された高分子支持体の他に、電子伝達媒介体および酸化還元酵素を含むことができる。
【0023】
酸化還元酵素は、生体の酸化還元反応を触媒する酵素を総称するもので、本発明では、測定しようとする対象物質、例えば、バイオセンサの場合には、測定しようとする代謝物質と反応して還元される酵素を意味する。このように還元された酵素は電子伝達媒介体と反応し、この時発生した電流変化などの信号を測定して代謝物質を定量する。本発明に使用可能な酸化還元酵素は、各種脱水素酵素(dehydrogenase)、酸化酵素(oxidase)、エステル化酵素(esterase)などからなる群より選択された1種以上であってもよいし、酸化還元または検出対象物質によって、前記酵素群に属する酵素の中から前記対象物質を基質とする酵素を選択して使用することができる。
【0024】
より具体的には、前記酸化還元酵素は、グルコース脱水素酵素(glucose dehydrogenase)、グルタミン酸脱水素酵素(glutamate dehydrogenase)、グルコース酸化酵素(glucose oxidase)、コレステロール酸化酵素(cholesterol oxidase)、コレステロールエステル化酵素(cholesterol esterase)、ラクテート酸化酵素(lactate oxidase)、アスコルビン酸酸化酵素(ascorbic acid oxidase)、アルコール酸化酵素(alcohol oxidase)、アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase)、ビリルビン酸化酵素(bilirubin oxidase)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0025】
一方、前記酸化還元酵素は、測定しようとする対象物質(例えば、代謝物質)から酸化還元酵素が奪ってきた水素を保管する役割を果たす補助因子(cofactor)を共に含むことができるが、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチド (flavin adenine dinucleotide、FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide、NAD)、ピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone、PQQ)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0026】
また、電子伝達媒介体は、代謝物質と反応して還元された酵素と酸化還元反応して還元され、このように形成された還元状態の電子伝達媒介体は、酸化電位が印加された電極表面で電流を発生させる役割を果たす。このような電子伝達媒介体は1種または2種以上であってもよく、Ru、Fe、Os、Rh、Mo、およびIrからなる群より選択された1種以上を含む金属含有錯体であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0027】
さらに他の態様として、本発明は、前記ゲニピンを架橋剤として用いて製造された電気化学的センサに関する。前記電気化学的センサは、好ましくは、血中グルコースを測定するための電気化学的センサであってもよいし、さらに好ましくは、連続的な血糖モニタリングセンサであってもよい。
【0028】
具体的には、前記電気化学的バイオセンサの種類には制限がないが、好ましくは、連続的な血糖モニタリングセンサであってもよい。
【0029】
このような連続的な血糖モニタリングセンサの構成として、本発明は、例えば、電極、絶縁体(insulator)、基板、前記電子伝達媒介体および酸化還元酵素を含むセンシング膜(sensing layer)、拡散制御膜(diffusion layer)、保護膜(protection layer)などを含むことができる。電極の場合、作動電極および対向電極のような2種の電極を含んでもよく、作動電極、対向電極および基準電極のような3種の電極を含んでもよい。一実施形態において、本発明によるバイオセンサは、少なくとも2つ、好ましくは、2つまたは3つの電極を備えた基板に、電子伝達媒介体と液体性生体試料を酸化還元させることができる酵素を含む試薬組成物を塗布した後、乾燥して作製した電気化学的バイオセンサであってもよい。例えば、電気化学的バイオセンサにおいて、作動電極および対向電極が基板の互いに反対面に備えられ、前記作動電極上に本発明によるゲニピンを用いて架橋されたセンシング膜が積層され、作動電極および対向電極が備えられた基板の両面に、順次に、絶縁体、ゲニピンを用いて架橋された拡散制御膜および保護膜が積層されることを特徴とする平面型電気化学的バイオセンサが提供される。
【0030】
具体的な態様として、前記基板は、PET(polyethylene terephthalate)、PC(polycarbonate)およびPI(polyimide)からなる群より選択される1種以上の素材からなるものであってもよい。
【0031】
また、作動電極は、炭素、金、白金、銀または銀/塩化銀電極を使用することができる。
【0032】
さらに、2電極を有する電気化学的バイオセンサの場合、対向電極が基準電極の役割まで一緒に果たすため、対向電極として金、白金、銀または銀/塩化銀電極を使用することができ、基準電極まで含む3電極の電気化学的バイオセンサの場合、基準電極として金、白金、銀または銀/塩化銀電極を使用することができ、対向電極として炭素電極を使用することができる。
【0033】
制限されない例として、2電極の場合、対向電極が基準電極の役割まで一緒に果たすため、塩化銀または銀が使用可能であり、3電極の場合、基準電極は塩化銀または銀が使用され、対向電極は炭素電極を使用することができる。
【0034】
さらに他の態様として、本発明は、ゲニピンを架橋剤として用いてセンシング膜または拡散制御膜を製造する段階を含む、電気化学的バイオセンサの製造方法に関する。このような本発明による電気化学的バイオセンサの製造方法は、ゲニピンをセンシング膜または拡散制御膜の製造のための架橋剤として用いることを特徴とし、具体的な製造工程、試薬などは、電気化学的バイオセンサの製造方法を制限なく使用することができる。好ましくは、前記電気化学的バイオセンサの製造方法によれば、高濃度のグルコースに対する感応線形性および電極の寿命が増加したバイオセンサを提供することができる。
【0035】
具体的な一実施例において、本発明者らは、ゲニピンを架橋剤として用いて電子伝達媒介体としてオスミウム-重合体であるPVI-Os(bpy)2Clを合成してこれを用いてセンシング膜を製造し、また、ゲニピンを架橋剤として用いて拡散制御膜を製造して作動電極を製造し、これを架橋剤を用いずに製造したオスミウム-重合体を含むセンシング膜および拡散制御膜を用いた作動電極を製造して、電気化学的センサとしての性能を確認した。その結果、ゲニピンを含む架橋剤を用いたセンシング膜を電極に適用させる場合、電極表面にセンシング膜が効果的に形成されて敏感度が上昇するという効果を有し、ゲニピンを含む架橋剤を用いた拡散制御膜を電極に適用させる場合、グルコースの拡散を減少させて高濃度のグルコースに対する感応線形性を向上させることができ、同時に高濃度のグルコースによる電極の損傷による電極の急激な寿命減少を短縮させることができるという効果を示すことを確認できて、ゲニピンは、電気化学的センサの製造、特にセンサ膜または拡散制御膜の製造において非常に有用な架橋剤として使用できるということを確認した。
【0036】
以下、本発明を下記の実施例によりさらに詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0037】
[実施例]
参照例1:電子伝達媒介体オスミウム-重合体(Os-polymer)の合成
センシング膜の製造のために、下記の化学式2を有するオスミウム-重合体(PVI-Os(bpy)2Cl2)を製造した。
【0038】
【化2】
【0039】
1-1:Os(bpy) 2 Cl 2 の合成
PVI-Os(bpy)2Cl2の製造のために、まず、下記の反応式1によりOs(bpy)2Cl2を合成した。
【0040】
【化3】
【0041】
250mlの丸底フラスコに、アンモニウムヘキサクロロオスメート(IV)5g(11.4mmol)、2,2-ビピリジン3.56g(22.8mmol)、エチレングリコール150mlを添加した後、温度を180℃に上げて1時間撹拌した。反応終結後、前記反応液を常温に温度を下げ、ソジウムヒドロスルファイト還元剤1M水溶液20Lを添加して生成された固体をろ過して、蒸留水、エチレンエーテルで洗浄、乾燥してOs(bpy)2Cl2を得た。(1g/77%)HRMS(Calculated for 574.0367、Found:574.0362)
【0042】
1-2:PVI-Os(bpy) 2 Clの合成
前記参照例1-1で製造されたOs(bpy)2Cl2を用いて、下記の反応式1によりPVI-Os(bpy)2Clを合成した。
【0043】
【化4】
【0044】
100mlの丸底フラスコに、PVI0.82g(8.7mmol)、Os(bpy)2Cl2 1g(1.74mmol)、エタノール25-30mlを添加した後、温度を100℃に上げて3日間撹拌した。反応終結後、前記反応液を常温に温度を下げた後、エーテル溶液1Lに滴下して沈殿物を生成した。生成された固体をろ過してエーテルで洗浄、乾燥してPVI-Os(bpy)2Clを得た。(1.5g/82%)
【0045】
実施例1:センシング膜の製造
本発明によるゲニピンを含む電気化学的センサ製造用架橋剤の性能を確認するために、次の実験方法により、ゲニピン(Sigmaaldrich、製品番号g4796)を用いたセンシング膜を下記の表1による組成および重量比によって製造した。
【0046】
【表1】
【0047】
(1)参考例1で製造されたオスミウム-重合体(Os-polymer)10mgを0.1M酢酸バッファー(acetic acid buffer;pH5.0)溶液1mLに溶かした。
【0048】
(2)ゲニピン5mgをDMSOと脱イオン水(deionized water)を1:9で混合した溶液1mLに溶かした。
【0049】
(3)グルコース酸化酵素40mgを脱イオン水1mLに溶かした。
【0050】
(4)段階(1)で製造された400uLのOs-polymer溶液に一定量のOs-polymer溶液に、段階(2)で製造された80uLのゲニピン溶液を入れて30分間反応させて、Os-polymerおよびゲニピンを含む反応溶液を製造した。
【0051】
(5)段階(4)で製造されたOs-polymerおよびゲニピンを含む反応溶液に、段階(3)で製造された67uLのグルコース酸化酵素溶液を入れて10分間反応させた。
【0052】
(6)Carbon printing電極に、前記段階(5)で製造した溶液5μLを落とした後、23℃で24時間乾燥させた。
【0053】
実施例2:拡散制御膜の製造
次の段階により、電気化学的センサ製造のための拡散制御膜を下記の表2による組成および重量比によって製造した。
【0054】
【表2】
【0055】
(1)ポリビニルイミダゾール(PVI)10mgを0.1M酢酸バッファー(pH5.0)溶液1mLに溶かした。
【0056】
(2)ゼラチン10mgを0.1M酢酸バッファー(pH5.0)溶液1mLに溶かした。
【0057】
(3)キトサン5mgを0.1M酢酸バッファー(pH5.0)溶液1mLに溶かした。
【0058】
(4)ゲニピン5mgをDMSOと脱イオン水を1:9で混合した溶液1mLに溶かした。
【0059】
(5)PVI溶液と段階(4)で製造されたゲニピン溶液、段階(2)で製造されたゼラチン溶液とゲニピン溶液、前記段階(3)で製造されたキトサン溶液とゲニピン溶液を表2の重量比に合わせてそれぞれ混合し、1時間反応させた。
【0060】
(6)センシング膜上に10μLを落とした後、23℃で24時間乾燥させて拡散制御膜を製造した。
【0061】
実施例3:作動電極の製造
実施例1および2で製造されたセンシング膜および拡散制御膜を用いて作動電極を製造した。
【0062】
スクリーンプリントされた炭素電極(screen printed carbon electrode;直径:5mm)を使用し、電極aおよびbの場合、実施例1で製造されたセンシング膜をそれぞれ前記炭素電極上に載せて乾燥させて作動電極を製造した。また、電極c、dおよびeの場合、実施例1で製造されたセンシング膜をそれぞれ前記炭素電極上に載せて乾燥させ、この後、実施例2で製造された拡散制御膜をそれぞれ前記センシング膜上に積層させて乾燥させて作動電極を製造した。
【0063】
実験例1:電気化学的センサの性能の確認
本発明によるゲニピンを含む架橋剤を含む電気化学的センサの性能を確認すべく、次の実験条件および方法により、グルコースの濃度に応じた電気的信号の変化を測定した。
【0064】
実験材料/条件
作動電極(working electrode):実施例3で製造された電極a、b、c、dおよびe
基準電極(Reference electrode):Ag/AgCl電極
対向電極(Counter electrode):白金ロッド(Platinum rod)
【0065】
試験パラメータ
-装置:CHI instrument
-Technique:amperometric i-t curve
-印加電位(applied potential):0.35V
-background electrolyte:10mM PBS、pH7.4(140mM NaCl)
【0066】
実験方法
ビーカーにPBS溶液50mLを入れて、実施例1および2で製造されたセンシング膜および/または拡散制御膜を含む電極を浸漬した後、30分間安定化させた。安定化が完了すると、高濃度のグルコース溶液を前記PBSバッファー(10mM PBS、pH7.4(140mM NaCl))が入っているビーカーに添加し、これに電極を浸漬して濃度に応じた信号の変化を測定した。グルコースの濃度はそれぞれ1mM、2mM、3mM、4mMおよび5Mmとなるようにした。この実験結果をそれぞれ図1~4、そして表3に示した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3および図1から確認できるように、本発明による架橋剤を含まないセンシング膜を含む電極aと、ゲニピンを含む架橋剤を用いて製造したセンシング膜を含む電極bを、それぞれグルコースが含まれている緩衝溶液に浸漬した場合、架橋剤なしに作製された電極aは電極表面で継続して溶出が発生することを確認できた。
【0069】
また、敏感度を比較すれば、架橋剤を用いずに作製したセンシング膜に比べて、架橋剤を用いて作製したセンシング膜の敏感度が7.1倍向上する結果を得ることができた。
【0070】
このような結果によれば、本発明によるゲニピンを含む架橋剤を用いる場合、架橋剤を用いなかった場合よりも、電極表面にセンシング膜が効果的に形成されたことを間接的に確認できた。
【0071】
さらに、表3および図2から確認できるように、PVIを拡散制御膜に導入した時のグルコース感応変化を比較した結果、グルコースの拡散程度を低下させるために、架橋剤としてゲニピンとPVIを架橋して製造した拡散制御膜を有する電極cは、拡散制御膜を有しない電極bに比べて敏感度が約1/50に低くなる効果を奏することができた。
【0072】
また、表3および図3から確認できるように、ゼラチンを拡散制御膜に導入した時のグルコース感応変化を比較した結果、グルコースの拡散程度を低下させるために、架橋剤のゲニピンとゼラチンを架橋して製造した拡散制御膜を有するセンサdは、拡散制御膜を有しない電極bに比べて敏感度が約1/6に低くなる効果を奏することができた。
【0073】
さらに、表3および図4から確認できるように、キトサンを拡散制御膜に導入した時のグルコース感応変化を比較した結果、グルコースの拡散程度を低下させるために、架橋剤のゲニピンとキトサンを架橋して製造した拡散制御膜を有するセンサeは、拡散制御膜を有しない電極bに比べて敏感度が約1/10に低くなる効果を奏することができた。
【0074】
このような結果をまとめると、ゲニピンを含む架橋剤を用いたセンシング膜を電極に適用させる場合、電極表面にセンシング膜が効果的に形成されて敏感度が上昇するという効果を有し、ゲニピンを含む架橋剤を用いた拡散制御膜を電極に適用させる場合、グルコースの拡散を減少させて高濃度のグルコースに対する感応線形性を向上させることができ、同時に高濃度のグルコースによる電極の損傷による電極の急激な寿命短縮を低減させることができるという効果を示すことを確認できた。
【0075】
実験例2:時間によるセンサ性能の確認試験
実施例3により製造された電極dを用いて時間によるセンサの性能を確認した。1日目に、実験例1と同様の方法により、グルコースの濃度別(1mM、2mM、3mM、4mMおよび5Mm)によるセンサの電気的信号を測定し、この後、前記センサを高濃度のグルコース(5mM)を含むPBS緩衝溶液に浸漬した後、印加電位として0.35Vをかけながら3日間保管した。
【0076】
保管中の2日目および3日目に、それぞれ前記高濃度のグルコースに保管されていた電極を用いて、1日目と同様に、濃度に応じたセンサの敏感度を確認して、その結果を図5に示した。
【0077】
図5から分かるように、1日目のセンサの敏感度傾きを基準として、2日目および3日目の傾きが98.8%まで維持されることを確認できた。これはつまり、本発明によるゲニピンを含む架橋剤を用いてセンシング膜や拡散制御膜を製造してこれを電極に適用する場合、センサとして適切なグルコースに対する敏感度を示すと同時に、高濃度のグルコースによるセンサ寿命の短縮を低減させるという利点を有する点から、電気化学的センサの製造において非常に有用であることを確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5