(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】アシストドア
(51)【国際特許分類】
E05D 15/06 20060101AFI20221018BHJP
E05F 15/60 20150101ALI20221018BHJP
【FI】
E05D15/06 122
E05F15/60
(21)【出願番号】P 2021032891
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2021-10-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 佳枝
(72)【発明者】
【氏名】川島 歩
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-125398(JP,A)
【文献】特開2014-70370(JP,A)
【文献】特許第6418565(JP,B2)
【文献】特開2001-164826(JP,A)
【文献】特開2002-349122(JP,A)
【文献】特開2003-3726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 15/00-15/58
E05F 15/00-15/79
E06B 3/04-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の縦枠の上部間に上枠が該上枠の左右端部を縦枠に当接させて連結された扉枠と、該扉枠内に配置され、上記上枠に吊り下げられて扉枠内で左右方向にスライド移動可能な扉とを備え、扉のスライド移動がアシストされるアシストドアであって、
上記扉枠は壁部の開口内に施工されたインセット構造であり、
上記上枠の下面に吊戸レールが取り付けられ、該吊戸レールには、上記扉を少なくとも左右端部で吊り下げて吊戸レール内を移動する吊車と、該吊車を駆動して扉のスライド移動をアシストするアシスト装置とが設けられており、
少なくとも一方の上記縦枠において、該縦枠に対向する他方の縦枠側の内面には、扉の閉じ位置で戸先側端部を収容する扉収容溝が少なくとも上枠下面の位置まで延びるように形成され、
上記吊戸レールは、レール幅が上記扉収容溝の溝幅よりも広くて端部が上記上枠下側の縦枠の内面において上記扉収容溝の高さ範囲内の位置に当接又は近接しており、
上記吊車は、吊戸レール内を移動する移動部と、該移動部に垂下するように連結された固定部とを有し、
上記吊車は、扉の戸先側端部が上記扉収容溝に収容されたときに該吊車が上記吊戸レールの端部から脱落しない程度の所定距離だけ
、上記吊車の固定部の戸先側端面が該扉の戸先側端面から扉幅方向の内側にずれた内側位置に取り付けられていることを特徴とするアシストドア。
【請求項2】
請求項1のアシストドアにおいて
、
扉の戸先側端面には、
吊車の固定部を嵌合して取り付ける取付凹部が形成され、
上記取付凹部の左右方向の深さは吊車の固定部の左右方向の厚さよりも大きく、
上記吊車の固定部は取付凹部内に扉の戸先側端面との間に空間部が形成された状態で嵌合されて固定されており、
上記空間部にキャップ部材が充填されていることを特徴とするアシストドア。
【請求項3】
請求項1又は2のアシストドアにおいて、
アシスト装置は、吊戸レールに固定された固定子と、該固定子によって駆動され、吊車に移動一体に連結された可動子と、該可動子の動作を固定子により制御して扉のスライド移動時のアシスト力をコントロールするコントローラとを備えたリニアモータ装置であることを特徴とするアシストドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉枠内に吊り下げられてスライド移動する扉を備え、その扉の移動をアシストするようにしたアシストドアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアシストドアとして、例えば特許文献1に示されるように、扉の上側に吊戸レールが設けられ、その吊戸レール内に扉を吊り下げて移動する吊車が移動可能に収容され、吊車の移動により扉がスライド移動する上吊り式の引戸において、吊車を吊戸レール内のリニアモータ装置によって駆動して、扉の移動をアシストするようにしたものは知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上吊り式の引戸では、左右の縦枠と上枠とを備えた三方枠の扉枠を備えており、上枠の下面に吊戸レールが固定され、その吊戸レールに吊車を介して扉が吊り下げられている。吊車は通常は2つで扉の左右端部(扉幅方向の端部)に固定されている。この2つの吊車を扉の左右端部に固定する理由について説明すると、扉に吊車を取り付ける場合、扉上部に掘り込みを加工して、その掘り込みに吊車を収容するようにしている。その掘り込みが大きいと、吊車を固定する部材が別途必要になり、その分だけ施工の手間が増えるだけでなく、扉において、吊車が固定されていない部分の扉強度が低下するという問題が生じる。そこで、扉上部の掘り込みの加工を最小限で行い、吊車の固定部がぴったり嵌合される大きさにするために、吊車を扉の左右端部に固定するようにして、上記問題の発生を回避している。
【0005】
一方、縦枠の内面(対向する縦枠側の面)に扉収容溝を形成しておき、扉が閉じ位置にあるときにその戸先側端部を扉収容溝に収容することで、扉の戸先側端部と縦枠との間に隙間が生じないようにして、隙間からの光や空気の漏れを遮断することが行われる。
【0006】
そのため、上記吊車を吊り下げる吊戸レールは、上記縦枠の扉収容溝内まで端部が該扉収容溝内に位置するように延びており、扉が閉じ位置にあって戸先側端部が扉収容溝に収容されているときでも、吊車が吊戸レールで支持されるようになっている。
【0007】
しかし、上記特許文献1のアシストドアのように、吊戸レール内に吊車だけでなく、その吊車を駆動するリニアモータ装置等のアシスト装置が収容されていると、その分、吊戸レールの前後幅(奥行)は、アシスト装置がなくて吊車だけ収容されているものに比べて大きくなる。そうなると、吊戸レールの端部を縦枠の扉収容溝内に配置するには、その扉収容溝の溝幅を拡げる必要があり、それに伴い縦枠の前後幅(奥行)も大きくなり、扉枠の大型化や外観見映えの低下を招く問題が生じる。
【0008】
前後幅の大きい吊戸レールの端部を縦枠の扉収容溝の外部に配置すれば、上記問題は生じないが、吊戸レールの長さが吊戸の移動範囲よりも短くなり、扉の戸先側端部が扉収容溝内に収容されたときに吊車が吊戸レールの端部から脱落する虞れが生じる。
【0009】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アシストドアの構造の改良により、アシスト装置の収容により前後幅の大きい吊戸レールの端部を縦枠の扉収容溝内に配置しない構造を採用しつつ、閉じ位置にある扉の戸先側端部が扉収容溝に収容されているときに、吊車が吊戸レールにその端部から脱落せずに支持されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、扉に対する吊車の取付位置を扉の戸先側端面よりも内側に意図的にずらすようにした。
【0011】
具体的には、第1の発明は、左右の縦枠の上部間に上枠が該上枠の左右端部を縦枠に当接させて連結された扉枠と、該扉枠内に配置され、上記上枠に吊り下げられて左右方向にスライド移動可能な扉とを備え、扉のスライド移動がアシストされるアシストドアが対象である。
【0012】
このアシストドアでは、上記扉枠は壁部の開口内に施工されたインセット構造であり、上記上枠の下面に吊戸レールが取り付けられ、該吊戸レールには、上記扉を少なくとも左右端部で吊り下げて吊戸レール内を移動する吊車と、該吊車を駆動して扉のスライド移動をアシストするアシスト装置とが設けられており、少なくとも一方の上記縦枠において、該縦枠に対向する他方の縦枠側の内面には、扉の閉じ位置で戸先側端部を収容する扉収容溝が少なくとも上枠下面の位置まで延びるように形成され、上記吊戸レールは、レール幅が上記扉収容溝の溝幅よりも広くて端部が上記上枠下側の縦枠の内面において上記扉収容溝の高さ範囲内の位置に当接又は近接しており、上記吊車は、吊戸レール内を移動する移動部と、該移動部に垂下するように連結された固定部とを有する。この吊車は、扉の戸先側端部が上記扉収容溝に収容されたときに該吊車が上記吊戸レールの端部から脱落しない程度の所定距離だけ、上記吊車の固定部の戸先側端面が該扉の戸先側端面から扉幅方向の内側にずれた内側位置に取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
この第1の発明では、扉枠は壁部の開口内に施工されたインセット構造であり、その扉枠の上枠下面に取り付けられた吊戸レール内で吊車が移動し、この吊車に吊り下げられた扉が扉枠内で左右方向にスライド移動して扉枠内の開口部が開閉され、その扉のスライド移動が吊戸レール内のアシスト装置によってアシストされる。
【0014】
そして、上記吊戸レールのレール幅は縦枠の扉収容溝の溝幅よりも広く、吊戸レールの端部は上枠下側の縦枠の内面において上記扉収容溝の高さ範囲内の位置に当接又は近接している。そのため、内部に吊車だけでなくアシスト装置が収容されて前後幅(レール幅)が大きくなった吊戸レールであっても、その端部を配置するために縦枠の扉収容溝の溝幅を拡げる必要がなく、その縦枠の前後幅(奥行)も小さくて済み、扉枠が大型化したり外観見映えが低下したりすることはなくなる。
【0015】
また、吊戸レールの端部が縦枠の扉収容溝の外側に配置されるので、扉の閉じ位置で戸先側端部が扉収容溝内に収容されたときに、通常では吊車が吊戸レールの端部から脱落する虞れがあるが、本発明では、吊車はその固定部の戸先側端面が扉の戸先側端面から扉幅方向の内側に所定距離だけずれた内側位置に取り付けられているので、扉の戸先側端部が扉収容溝に収容された状態でも、上記吊車が縦枠の扉収容溝の外側にある吊戸レールの端部から脱落することはない。
【0016】
そして、上記吊車として、扉の掘り込みに取り付けられる従来の一般的な吊車を用いる場合、その一方の吊車を固定するための掘り込みを扉幅方向中央に向かって深くし、吊車の固定部の戸先側端面の位置を変更するだけで、吊車の取付位置をずらすことができ、従来の一般的な吊車を用いつつ、その取付位置の位置変更を容易に達成することができる。
【0017】
これらによって、インセット構造のアシストドアにおいて、縦枠の前後幅(奥行)の増大防止と、扉の戸先側端部の扉収容溝への収容状態での吊車の脱落防止とを併せ図ることができる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明のアシストドアにおいて、扉の戸先側端面には、吊車の固定部を嵌合して取り付ける取付凹部が形成され、この取付凹部の左右方向の深さは吊車の固定部の左右方向の厚さよりも大きく、上記吊車の固定部は取付凹部内に扉の戸先側端面との間に空間部が形成された状態で嵌合されて固定されており、上記空間部にキャップ部材が充填されていることを特徴とする。
【0019】
この第2の発明では、扉の戸先側端面に取付凹部が形成され、この取付凹部に吊車の固定部が嵌合して取り付けられており、扉は吊車を介して吊戸レールにスライド移動可能に支持される。扉の戸先側端面の取付凹部についての左右方向の深さは吊車の固定部の左右方向の厚さよりも大きいので、吊車の固定部は取付凹部内に扉の戸先側端面との間に空間部が形成された状態で嵌合されて固定される。この空間部が形成される固定構造により、吊車は扉の戸先側端面から所定距離離れた内側位置にずれて取り付けられることになり、扉の戸先側端部が扉収容溝に収容された状態で吊車が縦枠の扉収容溝の外側にある吊戸レールの端部から脱落する構造が具体的に得られる。そして、空間部にキャップ部材が充填されているので、空間部が露出したままにして違和感が生じるのを防ぎ、見映えを良くすることができる。
【0020】
第3の発明は、第1又は第2の発明のアシストドアにおいて、アシスト装置は、吊戸レールに固定された固定子と、該固定子によって駆動され、吊車に移動一体に連結された可動子と、該可動子の動作を固定子により制御して扉のスライド移動時のアシスト力をコントロールするコントローラとを備えたリニアモータ装置であることを特徴とする。
【0021】
この第3の発明では、閉じ位置にある扉が開かれ、或いは開き位置にある扉が閉じられると、アシスト装置としてのリニアモータ装置が作動し、そのコントローラによる固定子に対する制御により可動子の移動がコントロールされ、それに伴い、可動子に移動一体に連結されている吊車及び扉の移動もコントロールされる。このことで扉のスライド移動がアシストされる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によると、縦枠及び上枠を備えた扉枠の上枠の吊戸レールに扉がスライド移動可能に吊り下げられ、そのスライド移動がアシストされる上吊り式の引戸からなるアシストドアにおいて、戸先側の縦枠に形成されて、閉じ位置にある扉の戸先側端部を収容する扉収容溝の溝幅に比べ吊戸レールの幅を大きくして、吊戸レールの端部を扉収容溝の外側に配置し、吊戸レール内を移動する移動部と、移動部に垂下するように連結された固定部とを有する吊車は、その固定部の戸先側端面が扉の戸先側端面から所定距離内側にずれた内側位置に位置するように取り付けて、扉の戸先側端部が扉収容溝に収容されたときでも吊戸レールの端面から脱落しないようにした。このことにより、縦枠の前後幅の大きくなるのを防いで、扉枠の大型化や外観見映えの低下を回避できるとともに、扉の戸先側端部の扉収容溝への収容状態での吊車の脱落を防止して、アシストドアの作動信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るアシストドアの全体構成を示す正面図である。
【
図2】
図2は、アシストドアの全体構成を拡大して示す水平断面図である。
【
図3】
図3は、アシストドアの全体構成を拡大して示す垂直断面図である。
【
図4】
図4は、アシストドアの全体構成を分解して示す斜視図である。
【
図5】
図5は、方立を含めた扉枠の分解斜視図である。
【
図6】
図6は、鴨居を下側から見て示す平面図である。
【
図7】
図7は、吊戸レールを鴨居下面に取り付ける状態を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、扉の取付凹部に吊戸レールの吊車を取り付ける状態を拡大して示す斜視図である。
【
図9】
図9は、左右の吊車がリニアモータ装置の可動子によって移動一体に連結された状態を示す正面図である。
【
図10】
図10は、吊戸レールを鴨居から取り外した状態で吊戸レール内のリニアモータ装置に対する電源配線の接続構造を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、吊戸レール内のリニアモータ装置に対する電源配線の接続構造を示す正面図である。
【
図12】
図12は、鴨居端部の切欠き部と縦枠とにより形成される配線挿通孔を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、鴨居端部の切欠き部と縦枠との間の配線挿通孔からまぐさに配線用ドリル孔を形成する状態を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、鴨居端部の切欠き部と縦枠との間の配線挿通孔、及びまぐさに形成された電源配線用ドリル孔を示す平面図である。
【
図16】
図16は、戸先側縦枠の扉収容溝と吊戸レールとの配置関係を拡大して示す水平断面図である。
【
図17】
図17は、戸先側吊車が扉の戸先側端面から所定距離ずれた内側位置に取り付けられている状態を拡大して示す断面図である。
【
図18】
図18は、扉の戸先側端面の取付凹部に取り付けられた戸先側吊車の固定部と扉の戸先側端面との間の空間部にキャップ部材を充填する状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0025】
図1~
図3は本発明の実施形態に係るアシストドアAの全体構成を示す。このアシストドアAは、建物における壁部の開口内に施工されたインセット構造の片引き戸からなる。具体的には、
図7や
図10にも示すように、例えば建物の壁部に、左右の柱1,1と、両柱1,1の高さ方向中間部間に架設された横架材としてのまぐさ2と、床部3とで囲まれた開口4が形成され、この開口4にアシストドアAの扉枠10がインセット構造で施工されている。尚、説明においては、壁部で区画された一方側を「前」側として、また他方側を「後」側としてそれぞれ説明し、左右は前側から後側を見たときの「左右」側として説明する。また、それら前後の方向を図中にも記載している。
【0026】
図4及び
図5に示すように、上記扉枠10は、左側の縦枠11及び右側の控壁縦枠12と、両縦枠11,12の上部間に連結された上枠としての鴨居13とを有する三方枠からなり、左側の縦枠11は扉枠10外側にある左側の柱1に、また右側の控壁縦枠12は同様に扉枠10外側にある右側の柱1にそれぞれ固定され、鴨居13はまぐさ2の下面に固定されている。
図5に示すように、鴨居13の左右端部は左右の縦枠11,12の対向側面に突き合わされてビスV,V,…により連結されており、扉枠10は縦枠勝ちの構造となっている。また、鴨居13の左右長さ方向の略中央部後側には方立15の上端部がビスVにより連結固定され、この方立15の下端部は床部3に固定されている。
【0027】
右側の控壁縦枠12は戸尻側縦枠である。一方、左側の縦枠11は戸先側縦枠であり、前後幅が右側の控壁縦枠12よりも大きい広幅の厚肉板材からなり、その前端面は控壁縦枠12の前端面と同じ前後位置にあるが、後端部は控壁縦枠12よりも後側に突出している。
【0028】
図6は鴨居13を下側から見た状態を示し、左側部が右側部よりも後側に突出していて、左側部の前後幅が右側部よりも大きく、右側部左端の後面に方立切欠き13bが形成され、この方立切欠き13bに上記方立15の上端部が嵌合されて固定されている。
【0029】
そして、
図2に示すように、方立15と右側の控壁縦枠12の後部との間に控壁5が施工され、この控壁5により方立15及び控壁縦枠12の間の開口部(空間)が閉塞されている。このことで、扉枠10内に縦枠11、方立15、鴨居13及び床部3で囲まれる開口部が形成され、この開口部が後述する扉35によって開閉される。尚、控壁5の前側壁パネル5aは、方立15の右側面前部と控壁縦枠12の左側面後部との間に固定され、後側壁パネル5bは、方立15の右側面後部から控壁縦枠12右側の柱1を超えて右側に延びている。
【0030】
再び
図6に示すように、上記鴨居13の下面(左側部では前側部分)には、鴨居13の長さ方向の全体に亘り断面矩形状のレール取付溝17が形成され、その前側には幕板取付溝18が、また後側には左側部のみに幕板取付溝19がそれぞれレール取付溝17と平行に形成され、これら幕板取付溝18,19にそれぞれ幕板20,21(
図3及び
図4参照)が上端部を嵌合して取付固定されている。
【0031】
図3、
図4及び
図7に示すように、上記レール取付溝17には、その全体に亘って延びる吊戸レール23が嵌合されてビスV,V,…(
図7参照)により取付固定されている。この吊戸レール23は、下側に開放された断面略コ字状の角形レールからなり、開放された両下端部は互いに近づくように内側に折り曲げられて、その折曲げ部分の上面がレール面となっている。吊戸レール23内は上下の空間に区画されている。吊戸レール23には、戸先側及び戸尻側の左右2つの吊車25,26(
図7及び
図10参照)が移動可能に支持されている。
【0032】
上記左右の吊車25,26は互いに同じもので、吊戸レール23内の下側空間に位置する基部27と、その基部27の左右両側部に前後方向(吊戸レール23の幅方向)の軸心回りに回転可能に支持された前後4つのローラ28,28,…とを有し、これらの基部27とロ-ラ28,28,…とで吊戸レール23内の下側空間を移動する移動部29が構成されている。そして、4つのローラ28,28,…が吊戸レール23下端部の上記レール面上を転動することにより、吊車25,26が吊戸レール23内で移動するようになっている。
【0033】
各吊車25,26の基部27には固定部31が、上下方向に延びる1本の棒状の連結部30を介して基部27から垂下するように連結されている。連結部30の上端部は基部27において左右ローラ28,28間の位置に連結され、下端部は吊戸レール23外であってその下側まで延びている。固定部31は、後述する扉35の取付凹部36に嵌合されて取り付けられる略矩形箱形状のもので、その上端部において左右端よりも内側(吊戸レール23の左右長さ方向中央側)寄りの位置に上記連結部30の下端が連結されている。固定部31の外面(吊戸レール23の左右長さ方向両端側の面)は、全体として平面状に形成されている。
【0034】
図1~
図4に示すように、扉枠10内には、該扉枠10内の開口部を開閉する1枚の板状の扉35が配置されている。この扉35は、鴨居13(上枠)に吊り下げられて左右方向にスライド移動する上吊り引戸であり、扉35が左側に移動したときに扉枠10内の開口部が閉じられる。そのため、扉35の左側が戸先側に、また右側が戸尻側になる。
図3及び
図8に拡大して示すように、扉35の左右端面つまり戸先側及び戸尻側端面の上端部には取付凹部36,36が形成されている。この各取付凹部36は、扉35の左右端面の上端部を左右方向(扉幅方向)が深さになるように断面略矩形状に孔開けしたもので、取付凹部36は扉35の上面にも開口している。つまり取付凹部36は、扉35の左右上端角部の扉厚さ方向の一部を切り欠いた構造であり、扉35の左右端面及び上面に開口している。そして、この各取付凹部36に上記吊車25,26の固定部31が扉35の左右端面側から嵌合されて図外のロック構造により取付固定されており、吊車25,26の連結部30及び移動部29は取付凹部36の上側開口(扉35の上端面)から扉35の上側に突出している。すなわち、上記吊車25,26は、扉35の左右端部の取付凹部36,36に取り付けられる従来の一般的なものが用いられている。そして、この状態で、吊戸レール23内での吊車25,26の移動により扉35が左右方向にスライド移動し、
図2に実線にて示すように、扉35が左側に移動したときに、その扉35は控壁5と前後に重ならない状態になって、扉枠10内の開口部を閉じる一方、仮想線にて示すように、右側に移動したときに、扉35は控壁5と前後に重なって、開口部を開くようになっている。図中、38,38は扉35の戸先側端部(左端部)の前後面に取り付けられたハンドルである。
【0035】
尚、床部3には、方立15の前側位置に床付けガイドピン7が固定されている(
図1、
図3及び
図4参照)。
図3に示すように、扉35の下面には左右方向(扉幅方向)に延びるガイド溝35aが形成されており、このガイド溝35aに床付けガイドピン7を嵌合させることで、扉35の下部が床部3に前後方向に振れ止めされた状態で左右方向にスライド移動可能に支持されている。
【0036】
図3、
図4、
図7、
図10及び
図11に示すように、上記吊戸レール23内には、吊車25,26を駆動して扉35のスライド移動をアシストするアシスト装置としてのリニアモータ装置40(リニアエンジン)が収容されている。このリニアモータ装置40は、吊戸レール23に固定された固定子41と、この固定子41によって駆動され、吊車25,26に移動一体に連結された可動子42と、この可動子42の動作を固定子41により制御して扉35のスライド移動時のアシスト力をコントロールするコントローラ43とを備えている。具体的には、
図9及び
図10に示すように、可動子42は、吊戸レール23の長さ方向に延びかつ扉35の左右幅と同程度の長さを有する板状の永久磁石の集合体からなるもので、吊戸レール23の下側の空間に配置されている。可動子42の両端部に上記左右の両吊車25,26の基部27,27が移動一体に連結されている。よって、可動子42、左右の吊車25,26及び扉35は吊戸レール23に沿って一体的に移動する。
【0037】
上記固定子41及びコントローラ43は、吊戸レール23の上側の空間に収容されて固定されている。固定子41は、界磁コイルを有する電磁石からなり、その左右長さは吊戸レール23の長さよりも短い。この固定子41は、吊戸レール23の左右中央部に配置されて固定されており、扉35が開閉方向のどの位置にあっても固定子41が可動子42の少なくとも一部と上下方向に重なって可動子42との間に磁界が形成される。コントローラ43は、固定子41よりも左側(戸先側縦枠1側)に配置されており、コントローラ43は固定子41に電気的に接続されているだけでなく、電源配線45により後述する電源ボックス46と接続されている。そして、コントローラ43によって固定子41の可動子42に対する磁界の作用を制御し、扉35が閉じ位置から開き操作されたときには、その操作や移動距離の検出により固定子41が可動子42を介して扉35に開き方向のアシスト力(推力)を加えて扉35の開き動作をアシストし、扉35が開き位置に近付くにつれてアシスト力を低下させる一方、逆に扉35が開き位置から閉じ操作されたときには、同様にして閉じ操作や移動距離の検出により固定子41が可動子42を介して扉35に閉じ方向のアシスト力を加えて扉35の閉じ動作をアシストし、扉35が閉じ位置に近付くにつれてアシスト力を低下させるようになっている。扉35の移動距離(移動行程)に対しアシスト力の大きさが変化する特性は、例えば扉35の移動開始から所定距離に達するまではアシスト力が次第に増大し、所定距離に達すると、アシスト力が一定値に保たれ、扉35の移動停止の位置から所定距離手前側の位置に達すると、アシスト力が一定値から次第に低下するものとなっている。
【0038】
尚、上記リニアモータ装置40の構成や作動は公知のものである。また、吊車25,26、リニアモータ装置40の可動子42、固定子41及びコントローラ43は吊戸レール23にその端部から挿入されて収容される。
【0039】
図6、
図12~
図14に示すように、扉枠10における鴨居13の左端部には、その前後幅方向の中間部を矩形状に切り欠いた切欠部13aを有する配線挿通孔14が形成されている。この配線挿通孔14は、鴨居13の左端部を左側の縦枠11に突き合わせて連結した状態で切欠部13aの開口が縦枠11内面によって閉じられて貫通孔となるようになっており、配線挿通孔14に上記リニアモータ装置40の電源配線45が挿通される。また、配線挿通孔14の上側でまぐさ2上部の壁内には、予め電源ボックス46が埋め込まれている(図では説明のために実線で表している)。そして、
図13に示すように、施工時には電源配線45をまぐさ2を通して電源ボックス46に接続するために、まぐさ2に対し下側から配線挿通孔14を通してドリルDにより配線用ドリル孔2aの孔開け加工が行われる。
【0040】
図2及び
図15に示すように、上記左側の戸先側縦枠10の右側面(控壁縦枠12と対向する面)には、扉35が閉じ位置にあるときにその戸先側端部を収容する扉収容溝48が形成され、この扉収容溝48は縦枠の高さ方向全体に亘って延びている。扉収容溝48の溝幅W1は扉35の前後厚さよりも大きく、閉じ位置にある扉35の左端部(戸先側端部)を扉収容溝48内に収容して、扉35の戸先側端部と縦枠11との間の隙間の発生をなくし、その隙間による光や空気の漏れを遮断するようにしている。尚、扉収容溝48の上端部には、鴨居13と略同じ厚さのスペーサ49(
図12参照)が嵌合され、このスペーサ49により扉収容溝48の上端が閉じられている。
【0041】
上記吊戸レール23は、内部にリニアモータ装置40が収容されているので、リニアモータ装置40が収容されていない通常のものよりも大きくなっている。そのため、
図16に示すように、吊戸レール23の前後方向のレール幅W2は上記縦枠11における扉収容溝48の溝幅W1よりも広くなっている(W2>W1)。そして、吊戸レール23の左端部は縦枠11の内面に当接している(又は近接していてもよい)。
【0042】
さらに、
図17に示すように、上記左側の戸先側吊車25は、扉35の閉じ位置でその戸先側端部が上記左側縦枠11の扉収容溝48に収容されたときに、同吊車25が吊戸レール23の左端部から脱落しないように扉35の戸先側端面から扉幅方向の内側に所定のずれ距離L(例えばL=3mm)だけずれた内側位置に取り付けられている。
【0043】
具体的には、扉35の左右端面にある戸先側及び戸尻側の取付凹部36,36に吊車25,26の固定部31が嵌合されて取り付けられるとき、その固定部31の平面状の外面が扉35の左右端面に面一ないし略面一になるのが通常の基準取付位置である。これに対し、本実施形態では、扉35左側の戸先側の取付凹部36のみの左右方向の深さd(扉35の左端面からの深さ)が、左側の吊車25の固定部31の左右方向の厚さtよりも大きく(d>t)なっており、このことで、固定部31の取付位置が基準取付位置よりも内側(戸尻側、右側)に意図的かつ積極的にずらされている。そのため、吊車25の固定部31は取付凹部36内に扉35の戸先側端面との間に空間部51が形成された状態で嵌合されて固定され、吊車25は扉35の戸先側端面から扉幅方向(左右方向)の内側に所定のずれ距離Lだけずれた内側位置に位置している。そして、
図18に示すように、上記取付凹部36において吊車25の固定部31と戸先側端面との間に形成されている上記空間部51にキャップ部材52が充填され、このキャップ部材52の外面は扉35の戸先側端面と面一になっている。上記戸先側吊車25のずれ距離Lの最大値は、縦枠11の扉収容溝48の深さとするのが好ましく、例えば6mmが好ましい。尚、右側の戸尻側吊車26にあっては、上記通常の基準取付位置に取り付けられている。
【0044】
したがって、上記実施形態のアシストドアAにおいては、扉35が移動範囲左端の閉じ位置にあるときに、使用者によって扉35が閉じ位置から右側に開き操作されると、リニアモータ装置40のコントローラ43によって固定子41が可動子42を駆動し、その駆動により可動子42及び吊車25,26を介して扉35に開き方向のアシスト力が加えられて扉35の開き動作がアシストされる。扉35が移動範囲右端の開き位置に近付くにつれてアシスト力が低下して、開き位置ではアシストが終了する。逆に、扉35が移動範囲右端の開き位置にあるときに、使用者によって扉35が開き位置から左側に閉じ操作されると、同様にしてリニアモータ装置40により、扉35に閉じ方向のアシスト力が加えられて扉35の閉じ動作がアシストされ、扉35が閉じ位置に近付くにつれてアシスト力が低下し、閉じ位置でアシストが終了する。
【0045】
上記扉35の閉じ位置では、扉35の左端部(戸先側端部)が縦枠11の右側面の扉収容溝48内に収容される。このことで、扉35の戸先側端部と縦枠11との間に隙間が生じなくなり、その隙間による光や空気の漏れを遮断することができる。
【0046】
そして、扉35を吊車25,26によってスライド移動可能に吊下げ支持している吊戸レール23は、その内部に吊車25,26の移動部29,29だけでなく、扉35の移動のアシストのためにリニアモータ装置40が収容されて前後のレール幅W2が大きくなっており、この吊戸レール23の左端部は縦枠11の上記扉収容溝48内に配置されておらず、扉収容溝48外に位置して縦枠11の左側面に当接(又は近接)している。そのため、吊戸レール23の左端部の収容配置のために扉収容溝48の溝幅W1を拡げる必要はなく、その分、縦枠11の前後幅(奥行)も大きくせずに済み、この縦枠11の前後幅の小幅化によって扉枠10の大型化や外観見映えの低下を避けることができる。
【0047】
このように、吊戸レール23の端部が縦枠11の扉収容溝48の外側に配置される構造においては、扉35の閉じ位置で戸先側端部が扉収容溝48内に収容されたときに、その戸先側端部は吊戸レール23よりも突出することになり、通常の構造では戸先側吊車25が吊戸レール23の左端部から脱落する虞れがある。
【0048】
しかし、本実施形態においては、扉35の戸先側端面に形成されて戸先側の吊車25の固定部31が嵌合して取り付けられる戸先側の取付凹部36の深さdが吊車25の固定部31の左右方向の厚さtよりも大きくなっており、吊車25の固定部31が取付凹部36に戸先側端面との間に空間部51が形成された状態で嵌合されて固定されている。このような固定構造により、吊車25は扉35の左端面(戸先側端面)から所定のずれ距離Lだけ離れた右側の内側位置にずれて取り付けられることになる。そのため、扉35の戸先側端部が扉収容溝48に収容された状態であっても、上記吊車25が縦枠11の扉収容溝48の外側にある吊戸レール23の左端部から脱落することはない。このことによって、アシストドアAの作動信頼性を確保することができる。
【0049】
そして、上記吊車25,26は、扉35の左右端部の取付凹部36,36に取り付けられる従来の一般的な吊車であり、その戸先側の一方の吊車25を固定するための取付凹部36のみを扉幅方向中央に向かって深くするだけで、該吊車25の取付位置を基準取付位置からずらすことができ、従来の一般的な吊車を用いつつ、その取付位置の位置変更を容易に達成することができる。
【0050】
以上のことから、扉枠10が壁部の開口内に施工されたインセット構造のアシストドアAにおいて、縦枠11の前後幅(奥行)の増大防止と、扉35の戸先側端部の扉収容溝48への収容状態での吊車25の脱落防止とを併せ図ることができることとなる。
【0051】
また、扉35の戸先側の取付凹部36において、吊車25の固定部31と戸先側端面との間に形成される空間部51が露出したままにしておくと、固定部31のずれによる段差が見えて違和感が生じる。しかし、この空間部51にキャップ部材52が充填されているので、違和感が生じるのを防ぐことができ、見映えを良くすることができる。
【0052】
また、扉枠10が壁部の開口内に施工されたインセット構造のアシストドアAにおいて、鴨居13下部に吊戸レール23が固定され、その吊戸レール23内にアシスト装置としてのリニアモータ装置40が収容されている場合、そのリニアモータ装置40に接続される電源配線45を扉枠10外に引き出して電源ボックス46(電源)に接続する必要がある。仮に、その電源配線45がアシストドアAの外側に露出していると、外観の見映えが著しく低下するのは避けられない。
【0053】
本実施形態では、鴨居13の左端部に切欠部13aが形成され、鴨居13の左端部が左側の縦枠11に突き合わされて連結された状態で、その切欠部13aの開口が縦枠11によって閉じられて扉枠10における貫通状の配線挿通孔14となり、この配線挿通孔14に上記リニアモータ装置40の電源配線45が挿通されている。このことで、インセット構造のアシストドアAであっても、リニアモータ装置40の電源配線45を扉枠10外にその露出を招くことなく引き出すことができる。よって、インセット構造のアシストドアAの外観の見映えを向上させることができる。
【0054】
(その他の実施形態)
上記実施形態は、扉35を前側から見て右側に引いて開く右引きタイプのアシストドアAであるが、扉35を左側に引いて開く左引きタイプであってもよいのは勿論である。
【0055】
また、上記実施形態では、扉35が左右端部の2箇所で吊車25,26により吊戸レール23に吊り下げられるようにしているが、例えば扉35の左右方向の長さが大きい場合や重量のある扉35の場合には、吊車の数を増やして、扉35の左右中間部でも吊車により吊り下げられるようにしてもよい。
【0056】
上記実施形態は、片引き戸のアシストドアAの例であるが、本発明は引き違い戸や引込み戸からなるアシストドアに対しても適用することができ、扉の閉じ位置で戸先側となる縦枠に扉の戸先側端部を収容する扉収容溝が形成されているアシストドアであればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、アシスト装置としてリニアモータ装置40を用いているが、例えばベルト装置、ワイヤ装置、ねじ送り装置等の他のタイプのアシスト装置を用いることもできる。
【0058】
さらに、上記実施形態は、扉枠10が壁部の開口内に施工されたインセット構造のアシストドアAであるが、本発明は扉枠10が壁部の開口外に施工されたアウトセット構造のアシストドアにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、引戸タイプのアシストドアにおいて、縦枠の奥行の増大防止と、扉の戸先側端部の扉収容溝への収容状態での吊車の脱落防止とを図り得る点で極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0060】
A アシストドア
10 扉枠
11 縦枠(戸先側縦枠)
12 控壁縦枠(戸尻側縦枠)
13 鴨居(上枠)
14 配線挿通孔
15 方立
23 吊戸レール
W2 レール幅
25 戸先側吊車
L ずれ距離
26 戸尻側吊車
29 移動部
31 固定部
t 厚さ
35 扉
36 取付凹部
d 深さ
40 リニアモータ装置(アシスト装置)
41 固定子
42 可動子
43 コントローラ
45 電源配線
46 電源ボックス
48 扉収容溝
W1 溝幅
51 空間部
52 キャップ部材