(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】水性白色導電性プライマー塗料組成物及びそれを用いた複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20221018BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20221018BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221018BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221018BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20221018BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20221018BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20221018BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20221018BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20221018BHJP
B05D 1/04 20060101ALI20221018BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20221018BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221018BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/24
C09D5/02
C09D7/61
C09D133/00
C09D123/00
B05D7/02
B05D5/06 G
B05D5/12 B
B05D1/04 H
B05D1/36 B
B05D5/06 101Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 303G
B05D7/24 302P
B05D7/24 302G
B05D3/00 D
B05D1/04 E
B05D1/04 K
(21)【出願番号】P 2021546928
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035048
(87)【国際公開番号】W WO2021054352
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2019172015
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓夢
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】殿村 浩規
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107573779(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109456657(CN,A)
【文献】国際公開第2005/012449(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121242(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109777214(CN,A)
【文献】国際公開第2007/046532(WO,A1)
【文献】特開2004-075735(JP,A)
【文献】特開2006-232884(JP,A)
【文献】特開2006-219521(JP,A)
【文献】特開2016-084423(JP,A)
【文献】特開2017-066321(JP,A)
【文献】特開2015-051621(JP,A)
【文献】特開2020-180185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分(A)
、カーボンナノチューブ分散液(B)
及び酸化チタン顔料(C)を含有する水性白色導電性プライマー塗料組成物であって、該水性白色導電性プライマー塗料組成物により形成される塗膜のCIE等色関数に基づく白色度によるL
*値が80以上でありかつ表面電気抵抗率が10
8Ω/□以下であり、
前記バインダー成分(A)が、アクリル樹脂(A1)及びポリオレフィン樹脂(A2)を含有
し、
前記酸化チタン顔料(C)の含有量が前記バインダー成分(A)の固形分100質量部を基準として、50~250質量部の範囲内である、水性白色導電性プライマー塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリル樹脂(A1)が、重合性不飽和モノマーを重合して得られるアクリル樹脂であって、該重合性不飽和モノマー100質量部を基準としてイソボルニル(メタ)アクリレートを10~50質量部含有するアクリル樹脂(A11)である請求項1に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂(A2)が、重量平均分子量が50,000~150,000の範囲内であるポリオレフィン樹脂(A21)である請求項1又は2に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ分散液(B)が下記(1)~(4)を満たすカーボンナノチューブ分散液(B1)である請求項1~3のいずれか1項に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
(1)カーボンナノチューブ(a)と、水溶性樹脂(b)と、水とを含有すること。
(2)カーボンナノチューブ(a)は、単層であり、透過型電子顕微鏡における画像解析における平均外径が0.5~5nmであり、比表面積が400~800m
2/gであること。
(3)カーボンナノチューブ(a)の炭素成分100質量部に対して、水溶性樹脂(b)を400質量部以上、2000質量部以下含有すること。
(4)カーボンナノチューブ分散液のレーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が1.5~40μmであること。
【請求項5】
以下の工程(1)~(4)を含む複層塗膜の形成方法。
(1)プラスチック基材に
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物を塗装し、未硬化の白色導電性プライマー層を形成する工程
(2)前記白色導電性プライマー層の上に、干渉色ベース塗料組成物を静電塗装し、未硬化の干渉色ベース層を形成する工程
(3)前記干渉色ベース層の上に、クリヤー塗料組成物を静電塗装し、未硬化のクリヤー層を形成する工程
(4)工程(1)~(3)により形成された3層の塗膜を同時に焼付ける工
程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用バンパーなどのプラスチック基材に、導電性及び明度に優れた複層塗膜を形成できる水性白色導電性プライマー塗料組成物、及びそれを用いた複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック基材の塗装は、エアスプレー、エアレススプレー等の吹き付け塗装によって行われてきたが、省エネルギーや有害物の環境への排出を少なくするため、塗着効率の優れた静電塗装が検討され、採用されつつある。
【0003】
プラスチック基材は、一般に電気抵抗が高い(一般的には、表面電気抵抗率が1×1012~1×1016Ω/□程度)ため、静電塗装によってプラスチック基材の表面に塗料を直接塗装することは極めて困難である。そのため、通常は、プラスチック基材自体又はその表面に導電性を付与した後、静電塗装が行う必要がある。
【0004】
例えば、プラスチック基材に塗料を静電塗装するにあたり、該基材に導電性を付与するために、プラスチック基材に導電性プライマーが塗装される場合がある。この導電性プライマーとしては、樹脂成分と導電性フィラーとを含有する塗料が使用されるのが一般的である。また、最近は環境保護の観点から、導電性プライマー塗料として水性塗料を使用することが望まれている。
【0005】
また、自動車用バンパー等において、プラスチック基材上に導電性プライマー塗料、ベース塗料及びクリヤー塗料を用いてホワイトパール色を形成する場合、通常、導電性プライマー塗料として白色の導電性プライマー塗料が使用される。また、ベース塗料として光干渉性顔料を含有し、かつ下層の白色プライマー塗膜が透けて見えるベース塗料が使用されるが、塗膜の質感の観点から、上記白色プライマー塗膜が高明度の白色塗膜であることが求められる場合がある。
【0006】
特許文献1には、(a)塩素含有率が10~40重量%である塩素化ポリオレフィン樹脂と、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の改質樹脂との樹脂混合物100重量部、(b)架橋剤5~50重量部、並びに(c)二酸化チタン粒子表面に、酸化スズ及びリンを含む導電層を有し、且つ不純物としての原子価4以下の金属元素の含有量が、特定量以下である白色導電性二酸化チタン粉末10~250重量部を含有することを特徴とする白色導電性プライマー塗料が開示されている。
【0007】
特許文献2には、塩素化ポリオレフィン(a)、及びその他の樹脂(b)の固形分合計100重量部に対して、白色顔料(c)を50~200重量部、導電性金属酸化物粒子でマイカを被覆した顔料(d)を10~150重量部配合してなる白色導電性プライマー塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2005/012449号
【文献】日本国特開2004-75735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の白色導電性プライマー塗料は、耐候性が不十分な場合がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の白色導電性プライマー塗料は、明度が不十分だったり、形成される塗膜の平滑性が不十分だったりする場合がある。
【0011】
したがって、本発明は、高明度且つ十分な導電性を有する塗膜をプラスチック基材上に形成できる水性白色導電性プライマー塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、バインダー成分(A)及びカーボンナノチューブ分散液(B)を含有する水性白色導電性プライマー塗料組成物であって、該水性白色導電性プライマー塗料組成物により形成される塗膜のCIE等色関数に基づく白色度によるL*値が80以上でありかつ表面電気抵抗率が108Ω/□以下である水性白色導電性プライマー塗料組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.バインダー成分(A)及びカーボンナノチューブ分散液(B)を含有する水性白色導電性プライマー塗料組成物であって、該水性白色導電性プライマー塗料組成物により形成される塗膜のCIE等色関数に基づく白色度によるL*値が80以上でありかつ表面電気抵抗率が108Ω/□以下である水性白色導電性プライマー塗料組成物。
2.前記バインダー成分(A)が、アクリル樹脂(A1)及びポリオレフィン樹脂(A2)から選ばれる少なくとも一種を含有する前記1に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
3.前記アクリル樹脂(A1)が、重合性不飽和モノマーを重合して得られるアクリル樹脂であって、該重合性不飽和モノマー100質量部を基準としてイソボルニル(メタ)アクリレートを10~50質量部含有するアクリル樹脂(A11)である前記2に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
4.前記ポリオレフィン樹脂(A2)が、重量平均分子量が50,000~150,000の範囲内であるポリオレフィン樹脂(A21)である前記2又は3に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
5.前記カーボンナノチューブ分散液(B)が下記(1)~(4)を満たすカーボンナノチューブ分散液(B1)である前記1~4のいずれか1に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
(1)カーボンナノチューブ(a)と、水溶性樹脂(b)と、水とを含有すること。
(2)カーボンナノチューブ(a)は、単層であり、透過型電子顕微鏡における画像解析における平均外径が0.5~5nmであり、比表面積が400~800m2/gであること。
(3)カーボンナノチューブ(a)の炭素成分100質量部に対して、水溶性樹脂(b)を400質量部以上、2000質量部以下含有すること。
(4)カーボンナノチューブ分散液のレーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が1.5~40μmであること。
6.さらに酸化チタン顔料(C)を含有する前記1~5のいずれか1に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
7.前記酸化チタン顔料(C)の含有量が前記バインダー成分(A)の固形分100質量部を基準として、50~250質量部の範囲内である前記6記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物。
8.以下の工程(1)~(4)を含む複層塗膜の形成方法。
(1)プラスチック基材に前記1~7のいずれか1に記載の水性白色導電性プライマー塗料組成物を塗装し、未硬化の白色導電性プライマー層を形成する工程
(2)前記白色導電性プライマー層の上に、干渉色ベース塗料組成物を静電塗装し、未硬化の干渉色ベース層を形成する工程
(3)前記干渉色ベース層の上に、クリヤー塗料組成物を静電塗装し、未硬化のクリヤー層を形成する工程
(4)工程(1)~(3)により形成された3層の塗膜を同時に焼付ける工程
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性白色導電性プライマー塗料組成物によれば、バインダー成分(A)及びカーボンナノチューブ分散液(B)を含有し、形成される塗膜のCIE等色関数に基づく白色度によるL*値が80以上でありかつ表面電気抵抗率が108Ω/□以下であることにより、高明度且つ十分な導電性を有する塗膜をプラスチック基材上に形成できる。このことにより、該塗膜の上層塗膜として隠ぺい力の低い塗膜を形成する場合に、高明度及び/又は高彩度の複層塗膜を形成できる。また、該塗膜上に、着色塗料及び/又はクリヤー塗料等の上塗り塗料組成物を、塗着効率に優れた静電塗装により塗装することができ、被塗物に塗着しない無駄な塗料を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水性白色導電性プライマー塗料組成物(以下、単に「本発明の塗料組成物」ともいう。)は、バインダー成分(A)及びカーボンナノチューブ分散液(B)を含有する水性白色導電性プライマー塗料組成物であって、該水性白色導電性プライマー塗料組成物により形成される塗膜のCIE等色関数に基づく白色度によるL*値が80以上でありかつ表面電気抵抗率が108Ω/□以下である。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
<バインダー成分(A)>
バインダー成分(A)は、それ自体、成膜性を有するものであり、非架橋型及び架橋型のいずれであってもよく、なかでも架橋型であることが好ましい。該バインダー成分(A)としては、従来から塗料のバインダー成分として使用されているそれ自体既知の被膜形成性樹脂を使用できる。
【0017】
上記被膜形成性樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。該被膜形成性樹脂は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の架橋性官能基を有していることが好ましい。これらはそれぞれ単独で若しくは2種以上組み合わせて使用できる。これらの中でもアクリル樹脂及びポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。なかでも、アクリル樹脂とポリオレフィン樹脂とを併用することが、塗膜の付着性及び外観の向上の観点から、より好ましい。
【0018】
また、前記バインダー成分(A)としては、上記被膜形成性樹脂に加え、架橋剤を使用できる。バインダー成分(A)の一部として上記架橋剤を使用する場合、上記被膜形成性樹脂としては、通常、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの架橋性官能基を有し、該架橋剤と反応することにより、架橋した被膜を形成できる樹脂(基体樹脂)を使用できる。本発明の水性白色導電性プライマー塗料組成物は、形成される塗膜の耐水性等の観点から、上記基体樹脂及び架橋剤を含有する架橋型塗料を使用することが好ましい。
【0019】
上記基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、該基体樹脂が、水酸基含有樹脂であることが好ましく、水酸基含有アクリル樹脂であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の塗料組成物におけるバインダー成分(A)の配合割合は、本発明の塗料組成物の用途や使用形態などに応じて変えることができるが、導電性及び付着性などの点から、塗料組成物の不揮発分の重量を基準にして、好ましくは30~70質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは35~45質量%である。
【0021】
アクリル樹脂及びポリオレフィン樹脂を含有する場合、アクリル樹脂及びポリオレフィン樹脂との混合割合は、塗膜の付着性及び外観の向上の観点から、両者の合計に基づいて、前者が10~90質量%及び後者が90~10質量%とするのが好ましく、より好ましくは前者が20~80質量%及び後者が80~20質量%である。当該混合割合は、固形分重量に基づく。
【0022】
尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。また、「(メタ)アクリル」は「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0023】
<<アクリル樹脂(A1)>>
アクリル樹脂(A1)は、重合性不飽和モノマーを重合して得られるアクリル樹脂であることが好ましく、水酸基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを重合して得られる水酸基含有アクリル樹脂であることがより好ましい。また、水への溶解性乃至分散性、架橋性等のために、カルボキシル基を有することが好ましい。重合方法は常法を用いることができる。
【0024】
上記水酸基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する化合物である。該水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物;該(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド;アリルアルコール、さらに、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0025】
その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のC1~24アルキル(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドメチルエーテル、N-メチロールアクリルアミドブチルエーテルなどの(メタ)アクリルアミド又はその誘導体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ベオバモノマー(シェル化学社製)、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンなどの紫外線吸収性もしくは紫外線安定性重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。これらの化合物は、1種で、又は2種以上を組合せて使用できる。
【0026】
上記重合性不飽和モノマーを重合して共重合体を得るための重合方法は、特に限定されるものではなく、それ自体既知の重合方法、例えばラジカル重合開始剤の存在下において、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状-懸濁二段重合法等、なかでも溶液重合法を好適に使用できる。
【0027】
溶液重合法による重合方法としては、例えば、前記重合性不飽和モノマーを有機溶媒に溶解もしくは分散せしめ、上記ラジカル重合開始剤の存在下で、通常、80℃~200℃程度の温度で撹拌しながら加熱する方法を挙げることができる。反応時間は通常1~24時間程度が適当である。
【0028】
上記アクリル樹脂(A1)としては、得られる塗膜の外観の向上の観点から、イソボルニルアクリレート及び/又はイソボルニルメタアクリレート、好ましくはイソボルニルアクリレートを、重合性不飽和モノマー100質量部を基準として、該イソボルニルアクリレート及びイソボルニルメタアクリレートの合計量として15~65質量部、好ましくは20~55質量部、さらに好ましくは25~45質量部含有するアクリル樹脂(A11)を好適に使用できる。また、上記アクリル樹脂(A11)はさらに水酸基を有することが好ましく、水酸基及びカルボキシル基を有することがさらに好ましい。
【0029】
アクリル樹脂(A1)は、通常、数平均分子量が2,000~100,000程度、好ましくは10,000~70,000程度であるのが適当である。
【0030】
なお、本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー株式会社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」、「TSKgel G-2000HXL」(いずれも東ソー株式会社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0031】
アクリル樹脂(A1)が前記水酸基含有アクリル樹脂である場合、該水酸基含有アクリル樹脂は、通常、水酸基価が10~100mgKOH/g程度、好ましくは30~70mgKOH/g程度である。また、該アクリル樹脂(A1)がカルボキシル基を含有する場合、該アクリル樹脂(A1)は、酸価が10~100mgKOH/g程度、好ましくは20~50mgKOH/g程度である。
【0032】
<<ポリオレフィン樹脂(A2)>>
本発明の塗料組成物において使用されるポリオレフィン樹脂としては、ポリオレフィン及び変性ポリオレフィンのいずれも用いることができる。ポリオレフィンには、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセンなどの炭素数が2~10のオレフィンの1種もしくは2種以上を(共)重合せしめてなるポリオレフィンが包含される。また、変性ポリオレフィンには、該ポリオレフィンの不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性物、アクリル変性物、塩素化物、またこれらの変性を組合せて用いて得られる変性ポリオレフィンなどが包含される。
【0033】
本発明の塗料組成物において使用されるポリオレフィンとしては、プロピレンを重合単位として含有するものが特に好適であり、ポリオレフィン中におけるプロピレン単位の重量分率は、他の成分との相溶性や形成塗膜の付着性などの観点から、一般に0.5以上、特に0.6~1、さらに特に0.7~0.95の範囲内にあるものが好適である。
【0034】
ポリオレフィンとしては、それ自体既知のものを特に制限なく使用できるが、得られるポリオレフィンの分子量分布が狭く且つランダム共重合性等にも優れている等の点から、重合触媒としてシングルサイト触媒を用いてオレフィンを(共)重合することにより製造されるものが好ましい。
【0035】
シングルサイト触媒は、活性点構造が均一(シングルサイト)な重合触媒であり、該シングルサイト触媒の中でも特にメタロセン系触媒が好ましい。該メタロセン系触媒は、共役五員環配位子を少なくとも一個有する周期律表の4~6族又は8族の遷移金属化合物や3族の希土類遷移金属化合物であるメタロセン(ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体及びその誘導体)と、これを活性化するアルミノキサンやボロン系等の助触媒、さらにトリメチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物を組合せることにより調製できる。オレフィンの(共)重合は、それ自体既知の方法に従い、例えば、プロピレンやエチレン等のオレフィンと水素を反応容器に供給しながら連続的にアルキルアルミニウムとメタロセンを添加することにより行うことができる。
【0036】
不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィンは、例えば、ポリオレフィンに、不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物を、それ自体既知の方法に従ってグラフト重合することにより製造できる。変性に使用し得る不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物としては、1分子中に少なくとも1個、好ましくは1個の重合性二重結合を含有する炭素数が3~10の脂肪族カルボン酸が包含され、具体的には例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などを挙げることができ、中でも特にマレイン酸もしくはその酸無水物が好適である。ポリオレフィンに対する該不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物のグラフト重合量は、変性ポリオレフィンに望まれる物性などに応じて変えることができるが、一般には、ポリオレフィンの固形分重量を基準にして好ましくは1~20質量%、より好ましくは1.5~15質量%、さらに好ましくは2~10質量%の範囲内が適当である。
【0037】
アクリル変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンに対してそれ自体既知の適当な方法で、少なくとも1種のアクリル系不飽和モノマーをグラフト重合することにより製造できる。このアクリル変性に使用し得るアクリル系不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC1~C20アルキルエステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC1~C21ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのその他の(メタ)アクリル系モノマーやさらにスチレン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0038】
ポリオレフィンのアクリル変性は、例えば、まず、前述の如くして製造される不飽和カルボン酸又は酸無水物変性ポリオレフィン中のカルボキシル基に対して反応性を有するアクリル系不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリル酸グリシジルなどを反応させてポリオレフィンに重合性不飽和基を導入し、次いで、該重合性不飽和基に上記アクリル系不飽和モノマーを単独でもしくは2種以上組合せて(共)重合させることにより行うことができる。ポリオレフィンのアクリル変性における上記アクリル系不飽和モノマーの使用量は、変性ポリオレフィンに望まれる物性などに応じて変えることができるが、他の成分との相溶性や形成塗膜の付着性などの点から、一般には、得られる変性ポリオレフィンの固形分重量を基準にして好ましくは30質量%以下、特に0.1~20質量%、さらに特に0.15~15質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
ポリオレフィンの塩素化物はポリオレフィンを塩素化することにより製造できる。ポリオレフィンの塩素化は、例えば、ポリオレフィン又はその変性物の有機溶剤溶液又は分散液に塩素ガスを吹き込むことによって行うことができ、反応温度は好ましくは50~120℃である。ポリオレフィンの塩素化物(固形分)中の塩素含有率は、ポリオレフィンの塩素化物に望まれる物性などに応じて変えることができるが、形成塗膜の付着性などの点から、一般には、ポリオレフィンの塩素化物の重量を基準にして35質量%以下、特に10~30質量%、さらに特に12~25質量%の範囲内とすることが望ましい。
【0040】
本発明において使用するポリオレフィンは、他の成分との相溶性、形成塗膜のポリオレフィン基材との付着性や上塗り塗膜層との層間付着性などの点から、通常、融点が30~120℃、好ましくは50~110℃、さらに好ましくは70~100℃の範囲内にあり、そして重量平均分子量(Mw)が50000~150000、好ましくは70000~130000、さらに好ましくは80000~120000の範囲内にあることが好ましい。また、ポリオレフィンもしくは変性ポリオレフィン(A)は、形成塗膜の基材との付着性や上塗り塗膜層との層間付着性などの点から、一般に、融解熱量が1~50mJ/mgであることが好ましく、特に好ましくは2~50mJ/mgである。
【0041】
ここで、ポリオレフィンもしくは変性ポリオレフィンの融点及び融解熱量は、示査走査熱量測定装置「DSC-5200」(セイコー電子工業社製、商品名)により、ポリオレフィン又は変性ポリオレフィン20mgを用い、昇温速度10℃/分にて熱量を測定することにより得られたものである。ポリオレフィンもしくは変性ポリオレフィンの融点は、ポリオレフィンのモノマー組成、特にα-オレフィンモノマーの量を変化させることにより調整できる。また、融解熱量が求め難い場合には、測定試料を一旦120℃まで加熱した後、10℃/分で室温まで冷却してから、上記の方法で熱量を測定できる。
【0042】
また、ポリオレフィンもしくは変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値であり、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ装置として「HLC/GPC150C」(Water社製、60cm×1)及び溶媒としてo-ジクロロベンゼンを使用し、カラム温度135℃、流量1.0ml/minで測定したものである。注入試料は、o-ジクロロベンゼン3.4mlに対しポリオレフィン5mgの溶液濃度となるようにして140℃で1~3時間溶解することにより調製した。なお、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィのためのカラムとしては「GMHHR-H(S)HT」[東ソー(株)社製、商品名]を使用できる。数平均分子量も上記と同様にして求めることができる。また、上記ポリオレフィンもしくは変性ポリオレフィンの重量平均分子量として、オレフィン系重合体メーカーのカタログ値を用いてもよい。
【0043】
さらに、本発明で使用するポリオレフィンもしくは変性ポリオレフィン(A)は、他の成分との相溶性や形成塗膜の付着性などの点から、一般に、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は好ましくは1.5~7.0、より好ましくは1.8~5.0、さらに好ましくは2.0~4.0である。
【0044】
上記ポリオレフィンは、有機溶剤で希釈して使用でき、或いは水分散液として使用することもできる。
【0045】
上記ポリオレフィンを希釈するための有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロオクタン、シクロナノン等の脂環式炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール系溶剤などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0046】
上記ポリオレフィンの水分散化は、通常、不飽和カルボン酸又は酸無水物変性ポリオレフィンを原料として用い、その中のカルボキシル基の一部もしくは全部をアミン化合物で中和するか及び/又は乳化剤で水分散化することにより行うことができる。水分散性向上の点からは、中和と乳化剤での水分散化とを併用することが望ましい。
【0047】
中和に使用するアミン化合物として、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの3級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、モルホリンなどの2級アミン;プロピルアミン、エタノールアミンなどの1級アミン等が挙げられる。
【0048】
上記アミン化合物を使用する場合には、その使用量は、不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィン中のカルボキシル基に対して通常0.1~1.0モル当量の範囲内であることが好ましい。
【0049】
上記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのノニオン系乳化剤;アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩等のアニオン系乳化剤等が挙げられ、さらに1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基とを有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤や、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤などが挙げられる。これらの乳化剤はそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0050】
上記の乳化剤は、通常、不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィンの固形分100質量部に対して1~20質量部の範囲内で使用できる。
【0051】
かくして得られる不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィンの水分散体は、必要に応じて、水分散された不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィンの存在下に、アクリル系不飽和モノマーを乳化重合することにより、さらにアクリル変性された不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィンの水分散体とし得る。
【0052】
前記バインダー成分(A)として使用できるポリエステル樹脂は、通常、多塩基酸と多価アルコールとのエステル化反応によって得ることができる。多塩基酸は1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物(無水物を含む)であり、また、多価アルコールは1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であって、それぞれこの分野で通常使用されるものを使用できる。さらに、一塩基酸、高級脂肪酸、油成分等で変性することもできる。
【0053】
ポリエステル樹脂は水酸基を有してもよく、2価アルコールと共に3価以上のアルコールを併用することによって水酸基を導入できる。また、ポリエステル樹脂には、水酸基と共にカルボキシル基を併有していてもよく、一般に、1,000~100,000程度、好ましくは1,500~70,000程度の範囲内の重量平均分子量を有していることが好ましい。
【0054】
前記架橋剤は、上記基体樹脂中の水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の架橋性官能基と反応して、本発明の塗料組成物を硬化し得る化合物である。該架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、カルボジイミド基含有化合物、エポキシ基含有化合物、オキサゾリン化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドラジド基含有化合物、セミカルバジド基含有化合物などが挙げられる。これらのうち、水酸基と反応し得るポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物及びアミノ樹脂、カルボキシル基と反応し得るカルボジイミド基含有化合物が好ましく、ブロック化ポリイソシアネート化合物及びアミノ樹脂が特に好ましい。架橋剤は、単独でもしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0055】
前記ポリイソシアネート化合物は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物であって、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、該ポリイソシアネートの誘導体等を挙げることができる。
【0056】
上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトヘキサン酸メチル(慣用名:リジンジイソシアネート)等の脂肪族ジイソシアネート;2,6-ジイソシアナトヘキサン酸2-イソシアナトエチル、1,6-ジイソシアナト-3-イソシアナトメチルヘキサン、1,4,8-トリイソシアナトオクタン、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアナトヘキサン、2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアナト-5-イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0057】
前記脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4-メチル-1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート(慣用名:水添TDI)、2-メチル-1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-もしくは1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物、メチレンビス(4,1-シクロヘキサンジイル)ジイソシアネート(慣用名:水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,6-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)-ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン等の脂環族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0058】
前記芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、メチレンビス(4,1-フェニレン)ジイソシアネート(慣用名:MDI)、1,3-もしくは1,4-キシリレンジイソシアネート又はその混合物、ω,ω'-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-又は1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物等の芳香脂肪族ジイソシアネート;1,3,5-トリイソシアナトメチルベンゼン等の芳香脂肪族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0059】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(慣用名:2,4-TDI)もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(慣用名:2,6-TDI)もしくはその混合物、4,4'-トルイジンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;トリフェニルメタン-4,4',4''-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエン等の芳香族トリイソシアネート;4,4'-ジフェニルメタン-2,2',5,5'-テトライソシアネート等の芳香族テトライソシアネート等を挙げることができる。
【0060】
また、前記ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネートのダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、クルードTDI等を挙げることができる。
【0061】
上記ポリイソシアネート及びその誘導体は、それぞれ単独で用いてもよく又は2種以上併用してもよい。また、これらポリイソシアネートのうち、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート及びこれらの誘導体が好ましい。
【0062】
また、前記ポリイソシアネート化合物としては、上記ポリイソシアネート及びその誘導体と、該ポリイソシアネートと反応し得る化合物とを、イソシアネート基過剰の条件で反応させてなるプレポリマーを使用してもよい。該ポリイソシアネートと反応し得る化合物としては、例えば、水酸基、アミノ基等の活性水素基を有する化合物が挙げられ、具体的には、例えば、多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂、アミン、水等を使用できる。
【0063】
また、前記ポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基含有重合性不飽和モノマーの重合体、又は該イソシアネート基含有重合性不飽和モノマーと該イソシアネート基含有重合性不飽和モノマー以外の重合性不飽和モノマーとの共重合体を使用してもよい。
【0064】
また、上記ポリイソシアネート化合物としては、得られる塗膜の平滑性などの観点から、水分散性ポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。該水分散性ポリイソシアネート化合物としては、水性媒体中に安定に分散可能なポリイソシアネート化合物であれば制限なく使用できるが、なかでも、親水性に変性した親水化ポリイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物と界面活性剤とを予め混合することにより水分散性を付与したポリイソシアネート化合物等を好適に使用できる。
【0065】
上記ポリイソシアネート化合物はそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0066】
上記ポリイソシアネート化合物としては、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、「バイヒジュール3100」(商品名、住化コベストロウレタン社製、親水性ヘキサメチレンジイソシアヌレート)等が挙げられる。
【0067】
前記ブロック化ポリイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、ブロック剤でブロックした化合物である。
【0068】
前記ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチル等のフェノール系;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等のラクタム系;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコール等の脂肪族アルコール系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール等のエーテル系;ベンジルアルコール、グリコール酸、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチル、乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール系;ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系;ブチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、2-メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール等のメルカプタン系;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミド等の酸アミド系;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミド等のイミド系;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N-フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミン等アミン系;イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素等の尿素系;N-フェニルカルバミン酸フェニル等のカルバミン酸エステル系;エチレンイミン、プロピレンイミン等のイミン系;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリ等の亜硫酸塩系;アゾール系の化合物等が挙げられる。上記アゾール系の化合物としては、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-フェニルピラゾール等のピラゾール又はピラゾール誘導体;イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール又はイミダゾール誘導体;2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン等のイミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0069】
なかでも、好ましいブロック剤としては、活性メチレン系のブロック剤、ピラゾール又はピラゾール誘導体が挙げられる。
【0070】
ブロック化を行なう(ブロック剤を反応させる)にあたっては、必要に応じて溶剤を添加して行なうことができる。ブロック化反応に用いる溶剤としてはイソシアネート基に対して反応性でないものが良く、例えば、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類、酢酸エチルのようなエステル類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)のような溶剤を挙げることができる。
【0071】
また、上記ブロック化ポリイソシアネート化合物としては、得られる塗膜の平滑性などの観点から、水分散性ブロック化ポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。該水分散性ブロック化ポリイソシアネート化合物としては、水性媒体中に安定に分散可能なブロック化ポリイソシアネート化合物であれば制限なく使用できるが、なかでも、親水性に変性した親水化ブロック化ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物と界面活性剤とを予め混合することにより水分散性を付与したブロック化ポリイソシアネート化合物等を好適に使用できる。
【0072】
上記ブロック化ポリイソシアネート化合物はそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用できる。
【0073】
前記アミノ樹脂としては、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分メチロール化アミノ樹脂又は完全メチロール化アミノ樹脂を使用できる。アミノ成分としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。アルデヒド成分としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0074】
また、上記メチロール化アミノ樹脂のメチロール基を、適当なアルコールによって、部分的に又は完全にエーテル化したものも使用できる。エーテル化に用いられるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0075】
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂が好ましい。メラミン樹脂としては、例えば、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基を上記アルコールで部分的に又は完全にエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂を使用できる。
【0076】
上記アルキルエーテル化メラミン樹脂としては、例えば、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂;部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂;部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコール及びブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチル-ブチル混合エーテル化メラミン樹脂等を好適に使用できる。また、これらのメラミン樹脂はイミノ基が併存しているものも使用できる。これらは疎水性及び親水性のいずれでも差し支えない。
【0077】
また、上記メラミン樹脂は、重量平均分子量が400~6,000の範囲内であることが好ましく、500~4,000の範囲内であることがより好ましく、600~2,000の範囲内であることが更に好ましい。
【0078】
メラミン樹脂としては市販品を使用できる。市販品の商品名としては、例えば、「サイメル202」、「サイメル203」、「サイメル238」、「サイメル251」、「サイメル303」、「サイメル323」、「サイメル324」、「サイメル325」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル385」、「サイメル1156」、「サイメル1158」、「サイメル1116」、「サイメル1130」(以上、オルネクスジャパン社製)、「ユーバン120」、「ユーバン20HS」、「ユーバン20SE60」、「ユーバン2021」、「ユーバン2028」、「ユーバン28-60」(以上、三井化学社製)等が挙げられる。
【0079】
以上に述べたメラミン樹脂は、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0080】
上記カルボジイミド基含有化合物としては、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、「カルボジライトSV-02」、「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトV-04」、「カルボジライトE-01」、「カルボジライトE-02」(いずれも、日清紡社製、商品名)等が挙げられる。
【0081】
上記エポキシ基含有化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂である。エポキシ基含有化合物は、カルボキシル基を有する、水性ポリオレフィン系樹脂、水性アクリル系樹脂、水性ポリエステル系樹脂、水性ポリウレタン系樹脂等を架橋硬化させるのに有効である。
【0082】
上記オキサゾリン化合物は、カルボキシル基を有する、水性ポリオレフィン系樹脂、水性アクリル系樹脂、水性ポリエステル系樹脂、水性ポリウレタン系樹脂等を架橋硬化させるのに有効な親水性化合物である。親水性のオキサゾリン化合物としては、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、「エポクロスWS-500」(日本触媒社製、商品名)等が挙げられる。
【0083】
本発明の塗料組成物が、上記架橋剤を含有する場合、前記基体樹脂と上記架橋剤との配合割合は、形成される塗膜の平滑性及び耐水性の向上の観点から、両者の合計量に基づいて、前者が、好ましくは30~95質量%、より好ましくは40~90質量%、さらに好ましくは50~80質量%であり、後者が、好ましくは5~70質量%、より好ましくは10~60質量%、さらに好ましくは20~50質量%であることが好適である。
【0084】
<カーボンナノチューブ分散液(B)>
また、本発明の塗料組成物におけるカーボンナノチューブ分散液(B)の配合割合は、導電性及び塗膜の明度などの点から、バインダー成分(A)の固形分100質量部を基準として後記のカーボンナノチューブ(a)の含有量が、好ましくは0.01~1質量部、より好ましくは0.02~0.5質量部、さらに好ましくは0.03~0.3質量部である配合割合であることが好適である。
【0085】
本発明におけるカーボンナノチューブ分散液(B)は、下記(1)~(4)を満たすカーボンナノチューブ分散液(B1)であることが好ましい。
(1)カーボンナノチューブ(a)と、水溶性樹脂(b)と、水とを含有すること。
(2)カーボンナノチューブ(a)は、単層であり、透過型電子顕微鏡における画像解析における平均外径が0.5~5nmであり、比表面積が400~800m2/gであること。
(3)カーボンナノチューブ(a)の炭素成分100質量部に対して、水溶性樹脂(b)を400質量部以上、2000質量部以下含有すること。
(4)カーボンナノチューブ分散液のレーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が1.5~40μmであること。
【0086】
<カーボンナノチューブ(a)>
本発明に用いるカーボンナノチューブ(a)は、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれであってもよいが、導電性の点から単層カーボンナノチューブであることが好ましい。単層カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有しており、一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。
【0087】
カーボンナノチューブ(a)の平均外径は0.5~5nmであることが好ましく、1~3nmであることがより好ましく、1~2nmであることがさらに好ましい。カーボンナノチューブ(a)の平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の短軸の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ平均外径(nm)とする。
【0088】
カーボンナノチューブ(a)の比表面積は、400~800m2/gであることが好ましく、より好ましくは400~600m2/gである。比表面積を400m2/g以上とすることにより、塗膜中でカーボンナノチューブのネットワークが形成され易く導電性が向上する。また、比表面積が800m2/g以下であることにより、分散工程においてカーボンナノチューブを解すための必要なエネルギーを低減し、カーボンナノチューブの構造破壊の進行を抑え、導電性を向上できる。
【0089】
カーボンナノチューブ(a)の炭素成分は70~90%であることが好ましく、80~90%であることがより好ましい。炭素成分が70~90%の範囲であれば、カーボンナノチューブの凝集力が弱く水溶性樹脂(b)の吸着が容易に進み、貯蔵安定性、導電性に優れたカーボンナノチューブ分散液が得られる。
【0090】
カーボンナノチューブ(a)は触媒成分を含む場合があり、カーボンナノチューブ(a)から触媒成分を引いた値を炭素成分と表記する。炭素成分の値は式(1)に従い、空気中900℃の存在下で5時間焼成した後の灰分を測定することで算出する。
カーボンナノチューブの炭素成分(%)=[1-{焼成後の灰分重量(g)/焼成前のカーボンナノチューブ重量(g)}]×100・・・・式(1)
【0091】
カーボンナノチューブ(a)は、レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50)は500~1300μmであることが好ましく、より好ましくは800~1200μmであり、更に好ましくは900~1100μmである。なお、本明細書において50%粒子径(D50)とは、特に記載がない限りレーザー回折式粒度分布測定によって算出された値を示す。
【0092】
このようなカーボンナノチューブ(a)としては、例えば、単層カーボンナノチューブとして、日本ゼオン社製ZEONANO SG101(外径:3~5nm)、OCSiAl社製TUBALL(80%)(外径:1~2nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
<水溶性樹脂(b)>
水溶性樹脂(b)は、カーボンナノチューブに対して、分散工程における濡れを促進させ、分散安定化に寄与する分散剤として機能する水溶性の樹脂を表す。水溶性樹脂(b)は特に限定されないが、好適な例として以下の化合物が例示できる。
【0094】
水溶性樹脂(b)としては、例えば、アルギン酸類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム等の水溶性高分子化合物;スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-メタクリル酸樹脂、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-マレイン酸エステル樹脂、メタクリル酸-メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、イソブチレン-マレイン酸樹脂、ビニル-エステル樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のエチレン性二重結合含有樹脂;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン等のアミン系樹脂;等が挙げられる。
【0095】
水溶性樹脂(b)として使用できる市販の樹脂型分散剤としては、ビックケミー社製のDisperbyk-180、183、184、187、190、191、192、193、194、2010、2013、2015、2090、2091、2095、2096等;日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-20000、27000、41000、41090、43000、44000、46000、47000、53095、54000等;BASFジャパン社製のDispex AA4030、AA4040、AA4140、CX4230、CX4231、CX4234、CX4240、CX4320、Dispex Ultra FA4404、FA4416、FA4425、FA4431、FA4437、FA4480、FA4483、PA4550、PA4560、PA4575、PA4585等;Joncryl HPD-196、HPD-96J、PDX-6137A、63J、60J、70J、JDX-6639、JDX-6500、PDX-6102B等;味の素ファインテクノ社製のアジスパーPA111、PB711、PB821、PB822、PB824等が挙げられる。
【0096】
水溶性樹脂(b)は、前記バインダー成分(A)への相溶性や、塗料の高い全光線透過率や導電性を示すという理由から、イオン性であることが好ましく、ポリアクリル酸系のような酸性官能基を有する樹脂であることがより好ましく、スチレン構造を有することが好ましく、スチレン-アクリル構造を有することが更に好ましい。また、酸価を有することが好ましく、固形分酸価が10~250mgKOH/gであることがより好ましく、10~100mgKOH/gであることがより好ましい。上記範囲内であると、カーボンナノチューブ(a)との相互作用により分散安定性が優れるためである。また、水溶性樹脂(b)は、アミン価を有してもよい。
【0097】
水溶性樹脂(b)の好ましい形態としては、スチレン-アクリル構造を有し、かつ酸価が10~250mgKOH/gである樹脂が挙げられる。また、他の好ましい形態としては、酸価が10~100mgKOH/gである樹脂が挙げられる。
【0098】
ここで、水溶性樹脂(b)の固形分酸価は、JIS K 0070(1992年)の電位差滴定法に準拠し、測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0099】
また、水溶性樹脂(b)の固形分アミン価は、ASTM D 2074(2013年)の方法に準拠し、測定した全アミン価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0100】
また、カーボンナノチューブ分散液は、分散液中に界面活性剤を含んでもよい。イオン性界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤及び陰イオン性界面活性剤が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などが挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤及びカルボン酸系界面活性剤などが挙げられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0101】
非イオン性界面活性剤しては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤が挙げられる。上記において、アルキルとは炭素数が1-20から選択されるアルキルであってよい。界面活性剤は、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に芳香族系非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0102】
<カーボンナノチューブ分散液(B)の作製>
本発明におけるカーボンナノチューブ分散液(B)は、水溶性樹脂(b)を分散剤として、カーボンナノチューブ(a)を水中に分散したものである。この場合、水溶性樹脂(b)とカーボンナノチューブ(a)を同時、又は順次添加し、混合することで、水溶性樹脂(b)をカーボンナノチューブ(a)に作用(吸着)させつつ分散する。但し、カーボンナノチューブ分散液の製造をより容易に行うためには、水溶性樹脂(b)を水中に溶解、膨潤、又は分散させ、その後、液中にカーボンナノチューブ(a)を添加し、混合することで水溶性樹脂(b)をカーボンナノチューブ(a)に作用(吸着)させることが、より好ましい。
【0103】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用できる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
カーボンナノチューブ(a)の分散後の50%粒子径(D50)は1.5~40μmであることが好ましく、より好ましくは4~40μm、さらに好ましくは4~30μm、特に好ましくは4~20μmである。一般的には、D50が小さいほど分散性が高く、さらにはカーボンナノチューブを孤立分散させた方がよいとされるが、導電性と透明性の観点からは上記範囲で分散することが好ましい。D50が1.5μm以上であると、また40μm以下であると導電性及び透明性を向上できる。
【0105】
カーボンナノチューブ分散液(B)における水溶性樹脂(b)の含有量は、カーボンナノチューブ(a)の炭素成分100質量部に対して好ましくは400質量部以上2000質量部以下、より好ましくは800質量部~1200質量部である。水溶性樹脂(b)の含有量が400質量部以上であることにより、バインダー成分(A)への相溶性を向上でき、2000質量部以下であることにより導電性を向上できる。
【0106】
さらにはカーボンナノチューブ分散液(B)の製造方法において、カーボンナノチューブ(a)のある一定の平均長さを保つことが重要となる。具体的には、カーボンナノチューブ分散液(B)中における、分散後の平均長さは2μm以上10μm以下であることが好ましく、5μm以上10μm以下であることがより好ましい。前記平均長さが2μm以上であると導電性を向上でき、10μm以下であると、バインダー成分(A)への相溶性を向上できる。尚、カーボンナノチューブ(a)の平均長さは、透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の長軸の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ平均長さ(μm)とする。
【0107】
さらには、分散後のカーボンナノチューブ(a)の平均長さをA、分散前の平均長さをBとすると、A/Bが0.3以上であることが好ましい。0.3以上であると、カーボンナノチューブ(a)の長さが変化しにくく、カーボンナノチューブ(a)表面のグラフェン構造の欠陥を低減し、導電性を向上できる。
【0108】
カーボンナノチューブ分散液(B)の粘度は、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて8000~30000mPa・sであることが好ましく、10000~20000mPa・sであることがより好ましい。
【0109】
カーボンナノチューブ分散液中の溶液中のカーボンナノチューブ濃度は0.1~1%であることが好ましく、0.3~0.7%であることがより好ましい。
【0110】
<顔料>
本発明の塗料組成物は、さらに顔料を含有することが好ましい。顔料の含有量は、形成塗膜の明度、付着性、耐水性などの点から、バインダー成分(A)の合計固形分100質量部を基準として、好ましくは50~250質量部、より好ましくは100~200質量部、さらに好ましくは125~175質量部である。
【0111】
上記顔料には、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料、導電性顔料などが包含される。なかでも、本発明の塗料組成物が、上記顔料の少なくとも1種として着色顔料を含有することが好ましい。
【0112】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン[以下、酸化チタン顔料(C)ともいう]、酸化亜鉛、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等が挙げられ、なかでも、酸化チタン顔料(C)を好適に使用できる。
【0113】
体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等が挙げられ、なかでも、硫酸バリウム及び/又はタルクを使用することが好ましい。
【0114】
光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム(蒸着アルミニウムを含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母、ガラスフレーク、ホログラム顔料等を挙げることができ。これらの光輝性顔料は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。アルミニウム顔料には、ノンリーフィング型アルミニウムとリーフィング型アルミニウムがあるが、いずれも使用できる。
【0115】
導電性顔料としては、形成される塗膜に導電性を付与し得るものであれば特に制限はなく、粒子状、フレーク状、ファイバー(ウィスカーを含む)状のいずれの形状のものであってもよく、例えば、導電性カーボンブラック、グラファイト等の炭素粉や、銀、ニッケル、銅、アルミニウム等の金属粉が例示され、さらに、アンチモンがドープされた酸化錫、リンがドープされた酸化錫、酸化錫/アンチモンで表面被覆された針状酸化チタン、酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛、インジウム錫オキシド、カーボンやグラファイトのウィスカー表面に酸化錫等を被覆した顔料;フレーク状のマイカ表面に酸化錫やアンチモンドープ酸化錫、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、リンドープ酸化錫及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性金属酸化物を被覆した顔料;二酸化チタン粒子表面に酸化錫及びリンを含む導電性を有する顔料などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0116】
特に、本発明の塗料組成物は、顔料として白色顔料、その中でも特に酸化チタン顔料(C)を用いることが好ましく、意匠性や耐薬品性などの点から、その平均粒子径は0.05~2μmであることが好ましく、特に好ましくは0.1~1μmである。
【0117】
本発明の塗料組成物における酸化チタン顔料(C)の含有量は、バインダー成分(A)の固形分100質量部を基準として、50~250質量部であることが好ましく、より好ましくは100~200質量部、さらに好ましくは125~175質量部である。
【0118】
<イオン性液体>
本発明の塗料組成物はイオン性液体を含有してもよい。本発明の塗料組成物において使用されるイオン性液体には、室温で液体状態にある融解塩(又は溶融塩)が包含される。通常の塩は一般に常温で固体であるが、融解塩は、特定のカチオンとアニオンとがイオン結合したものであり、室温で液体となる。ここで、室温とは約20℃の温度であり、また、室温付近とは約10~約40℃の温度を意味する。
【0119】
このようなイオン性液体は、1種又は2種以上のカチオンと1種又は2種以上のアニオンとの種々の組み合わせのイオン結合を含むものであり、カチオン種としては、特に、アンモニウム塩、ホスホニウム塩及びスルホニウム塩から選ばれる少なくとも1種のオニウム塩構造を有するカチオンが好適である。
【0120】
イオン性液体としては、例えば、アルキル鎖を有するイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピラゾリジニウム、イソチアゾリジニウム、イソオキサゾリジニウムなどの含窒素複素環構造の4級アンモニウムカチオンや、脂肪族のアンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオンなどのカチオンと、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、トリス(トリフロロメチルスルホニル)硝酸、トリス(トリフロロメチルスルホニル)炭素酸、トリフルオロメチルスルホニルイミド、有機カルボン酸、ハロゲンなどから誘導されるアニオンとの組み合わせを含むものが挙げられる。ここで、有機カルボン酸としては、例えば、乳酸などが挙げられ、又はハロゲンには、フッ素、塩素、臭素、よう素が包含される。
【0121】
イオン性液体の具体例としては、例えば、1,2-ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート、N-ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフラート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、N-ブチルピリジニウムクロリド、N,N-ジエチル-N-メチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N-ジエチル-N-メチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-(L)-ラクテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム-(L)-ラクテートなどが挙げられる。
【0122】
イオン性液体としては、通常、無色透明なものを用いることが望ましいが、形成塗膜の色に影響ない範囲で着色したものであってもよい。イオン性液体には、水に溶解するもの、水に難溶性もしくは不溶性のものが存在するが、本発明の塗料組成物の形態等により、イオン性液体を使い分けることが好ましい。
【0123】
本発明の塗料組成物におけるイオン性液体の配合割合は、本発明の塗料組成物の用途や使用形態などに応じて変えることができるが、導電性、付着性、耐水性などの点から、一般に、塗料組成物の不揮発分の質量を基準にして0.5~20質量%、好ましくは0.75~15質量%、さらに好ましくは1~10質量%の範囲内とし得る。
【0124】
本発明の塗料組成物は、以上に述べた各成分を既知の方法で、有機溶剤、水又はこれらの混合物中に、溶解又は分散させて、固形分含量を好ましくは10~80質量%に調節することにより調製できる。本発明の塗料組成物は、水性型であることにより、VOCを低減できる。有機溶剤としては、各成分製造時に用いたものを、そのまま用いてもよいし、適宜追加してもよい。
【0125】
本発明の塗料組成物に使用できる有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系有機溶剤;イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系有機溶剤;n-ヘプタン、n-ヘキサン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶剤;N-メチル-ピロリドン等のその他の有機溶剤等を挙げることができる。
【0126】
<塗料組成物の塗装方法>
本発明の塗料組成物を塗装する基材としては、各種プラスチック基材が挙げられる。プラスチック基材の材質としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセンなどの炭素数2~10のオレフィンの少なくとも1種を重合せしめてなるポリオレフィンが特に好適であるが、これらに限られるものではなく、ポリカーボネート、ABS樹脂、ウレタン樹脂、ナイロンなどの材質であってもよい。また、これらのプラスチック基材は、予め、それ自体既知の方法で、脱脂処理、水洗処理などを適宜行っておくことができる。
【0127】
プラスチック基材としては、特に限定されないが、具体的には例えば、バンパー、スポイラー、グリル、フェンダーなどの自動車外装部、家庭電化製品の外装部などに使用される各種プラスチック部材などが挙げられる。
【0128】
本発明の塗料組成物の塗装は、公知の塗装方法により塗装することにより形成できる。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装等を挙げることができる。塗装膜厚は、通常、硬化膜厚として、10~50μm程度、好ましくは15~45μm、より好ましくは20~40μm程度の範囲である。
【0129】
本発明の塗料組成物の塗膜を、室温放置、予備加熱又は加熱硬化することにより、通常、表面電気抵抗率が108Ω/□以下である未硬化又は硬化塗膜を形成できる。表面電気抵抗率が108Ω/□以下であることにより、該塗膜上に、例えば、着色塗料組成物又は/及びクリヤー塗料組成物等の上塗り塗料組成物の静電塗装が可能となる。
【0130】
本発明の塗料組成物の塗装後の塗膜に、予備加熱又は加熱硬化を施す手段としては、既知の加熱手段を用いることができ、例えば、エアブロー、赤外線加熱、遠赤外線加熱、誘導加熱、誘電加熱等を挙げることができる。また、必要に応じて、プラスチック基材を加温しておいてもよい。
【0131】
本発明の塗料組成物は、JIS Z 8781-4(2013)に規定されるL*a*b*表色系に基づく明度(L*値)として80以上という白色度が高い塗膜を形成できる。本明細書におけるL*値は、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算した数値として定義するものとする。この明度は、次のようにして測定できる。即ち、該塗料組成物を、プラスチック基材に、硬化膜厚が30μm程度となるようにスプレー塗装し、次いで80~120℃程度の温度で20~40分間程度加熱硬化して得られた塗膜の明度(L*値)を、上記分光光度計を用いて測定できる。
【0132】
本発明の塗料組成物を用いる複層塗膜形成方法としては、例えば、下記の3コート1ベークによる複層塗膜形成方法Iが挙げられる。該複層塗膜形成方法により、プラスチック基材表面上に、明度が高く、高い質感を有する複層塗膜を形成できる。
【0133】
複層塗膜形成方法Iは、以下の工程(1)~(4)を含む。
(1)プラスチック基材に本発明の塗料組成物を塗装し、未硬化の白色導電性プライマー層を形成する工程
工程(1)は、プラスチック基材に、本発明の塗料組成物を、通常、硬化膜厚で10~50μm程度、好ましくは15~45μm程度、より好ましくは20~40μm程度となるように塗装し、未硬化の白色導電性プライマー層を形成する工程である。
(2)前記白色導電性プライマー層の上に、干渉色ベース塗料組成物を静電塗装し、未硬化の干渉色ベース層を形成する工程
工程(2)は、工程(1)で形成した未硬化の白色導電性プライマー層上に、干渉色ベース塗料組成物を、通常、硬化膜厚で5~30μm程度、好ましくは10~25μm程度となるように静電塗装し、未硬化の干渉色ベース層を形成する工程である。
(3)前記干渉色ベース層の上に、クリヤー塗料組成物を静電塗装し、未硬化のクリヤー層を形成する工程
工程(3)は、工程(2)で形成した未硬化の干渉色ベース層上に、クリヤー塗料組成物を、通常、硬化膜厚で5~50μm程度、好ましくは10~40μm程度となるように静電塗装し、未硬化のクリヤー層を形成する工程である。
(4)工程(1)~(3)により形成された3層の塗膜を同時に焼付ける工程
工程(4)は、工程(1)~(3)により形成された3層の塗膜を、同時に加熱硬化する工程である。
【0134】
上記複層塗膜形成方法Iにおいて、プライマー塗料組成物、干渉色ベース塗料組成物及びクリヤー塗料組成物の塗装後に、必要に応じて、放置又は予備加熱してもよい。放置は、通常、室温で、1~20分程度行う。また、予備加熱は、通常、40~120℃程度の温度で、1~20分程度加熱して行なう。
【0135】
また、プライマー塗料組成物、干渉色ベース塗料組成物及びクリヤー塗料組成物からなる3層塗膜の加熱硬化は、通常、60~140℃程度の温度で、10~60分間程度加熱することにより、行うことができる。加熱硬化は、好ましくは、80~120℃程度の温度で、10~40分間程度行う。
【0136】
また、各塗料組成物の塗装後に、必要に応じて、放置又は予備加熱してもよい。放置は、通常、室温で、1~20分間程度行う。また、予備加熱は、通常、40~120℃程度の温度で、1~20分間程度加熱して行なう。
【0137】
上記方法Iにおける干渉色ベース塗料組成物としては、上塗りベースコート用の干渉色ベース塗料としてそれ自体公知の塗料組成物をいずれも使用できる。例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂、架橋剤及び光干渉性顔料を、水及び/又は有機溶剤に溶解又は分散させて得られる塗料組成物を、好適に使用できる。
【0138】
上記基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基などを挙げることができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂などを挙げることができる。
【0139】
前記光干渉性顔料としては、例えば、天然マイカ、人工マイカ、アルミナフレーク、シリカフレーク、ガラスフレーク等の半透明の基材を金属酸化物で被覆した顔料を使用できる。
【0140】
金属酸化物被覆マイカ顔料は、天然マイカ又は人工マイカを基材とし、基材表面に金属酸化物を被覆した顔料である。天然マイカとは、鉱石のマイカ(雲母)を粉砕した鱗片状基材であり、人工マイカとは、SiO2、MgO、Al203、K2SiF6、Na2SiF6等の工業原料を加熱し、約1500℃の高温で熔融し、冷却して結晶化させて合成したものであり、天然のマイカと比較した場合において、不純物が少なく、大きさや厚さが均一なものである。具体的には、フッ素系雲母、カリウム四ケイ素雲母、ナトリウム四ケイ素雲母、Naテニオライト、LiNaテニオライト等が知られている。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。被覆金属酸化物によって、干渉色を発現できるものである。
【0141】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料は、アルミナフレークを基材とし、基材表面に金属酸化物が被覆した顔料である。アルミナフレークとは、鱗片状(薄片状)酸化アルミニウムを意味し、無色透明なものである。酸化アルミニウム単一成分である必要はなく、他の金属の酸化物を含有するものであってもよい。金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料は、被覆金属酸化物によって、干渉色を発現するものである。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。
【0142】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料は、表面が平滑で且つ厚さが均一な基材である鱗片状シリカを、基材とは屈折率が異なる金属酸化物で被覆したものである。金属酸化物被覆シリカフレーク顔料は、被覆金属酸化物によって、干渉色を発現するものである。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。
【0143】
金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料とは、鱗片状のガラス基材に金属酸化物を被覆したものであって、基材表面が平滑なため、強い光の反射が生じて粒子感を発現する。金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料は、被覆金属酸化物によって、干渉色を発現するものである。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。
【0144】
上記干渉性顔料は、分散性や耐水性、耐薬品性、耐候性等を向上させるための表面処理が施されたものであってもよい。上記干渉性顔料は、単独又は2種以上組み合わせて用いられうる。
【0145】
本発明の方法に使用される干渉色ベース塗料組成物は、干渉性顔料を干渉色ベース塗料組成物の全樹脂固形分100質量部に対して例えば1~80質量部、好ましくは2~60質量部の範囲で含有する。
【0146】
干渉色ベース塗料組成物は、白色度を大きく低下させない範囲で、その他の顔料をさらに含むことができる。前記その他の顔料として、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等の無機系又は有機系のソリッドカラー顔料等が挙げられる。前記顔料は、単独又は2種以上組み合わせて用いられうる。
【0147】
干渉色ベース塗料組成物は、必要に応じて各種塗料用添加剤をさらに含むことができる。
【0148】
上記複層塗膜形成方法Iにおけるクリヤー塗料組成物としては、上塗りクリヤーコート用の塗料組成物としてそれ自体公知の塗料をいずれも使用できる。例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂及び架橋剤を、水及び/又は有機溶剤に溶解又は分散させて得られる塗料組成物を、好適に使用できる。
【0149】
上記基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基などを挙げることができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂などを挙げることができる。
【0150】
クリヤー塗料組成物には、必要に応じて、透明性を阻害しない程度に着色顔料、光輝性顔料、体質顔料、染料、紫外線吸収剤、光安定化剤、表面調整剤等を適宜配合できる。
【0151】
また、本発明の塗料組成物を複層塗膜形成方法としては、例えば、下記の複層塗膜形成方法II~IVが挙げられる。いずれの方法においても、本発明の塗料組成物を下層に用いることにより高明度化が可能となり、上層の色の選択肢を広げることができるものである。
【0152】
複層塗膜形成方法II:複層塗膜形成方法Iにおける工程(1)と工程(2)との間に、下記工程(1a)をさらに含む方法。
(1a)前記白色導電性プライマー層の上に、水性白色非導電性プライマー塗料組成物を塗装し、未硬化の白色非導電性プライマー層を形成する工程。
【0153】
工程(1a)においては、通常、硬化膜厚で5~50μm程度、好ましくは10~40μm程度となるように水性白色非導電性プライマー塗料組成物を塗装する。水性白色非導電性プライマー塗料組成物とは、単独でその塗膜を、室温放置、予備加熱又は加熱硬化することにより、通常、表面電気抵抗率が108Ω/□を超える未硬化又は硬化塗膜を形成することのできるプライマー塗料組成物をいう。水性白色非導電性プライマー塗料組成物としては、例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂、架橋剤及び白色顔料を、水に溶解又は分散させて得られるプライマー塗料組成物を好適に使用できる。
【0154】
前記プラスチック基材上における前記白色導電性プライマー層及び上記白色非導電性プライマー層からなる複層塗膜のL*値は81以上であることが好ましく、85以上であることがより好ましく、90以上であることが特に好ましい。該複層塗膜形成方法により、プラスチック基材表面上に、極めて明度が高く、高い質感を有する干渉性を有する複層塗膜を形成できる。
【0155】
複層塗膜形成方法III:複層塗膜形成方法Iにおける工程(2)に替えて、下記工程(2a)を含む方法。
(2a)前記白色導電性プライマー層の上に、水性白色ベース塗料組成物を静電塗装し、未硬化の白色ベース層を形成する工程。
【0156】
水性白色ベース塗料組成物としては、上塗りベースコート用の白色ベース塗料としてそれ自体公知の塗料組成物をいずれも使用できる。例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂、架橋剤及び白色顔料を、水及び/又は有機溶剤に溶解又は分散させて得られる塗料組成物を、好適に使用できる。
【0157】
前記プラスチック基材上における前記白色導電性プライマー層及び上記白色ベース層からなる複層塗膜のL*値は81以上であることが好ましく、85以上であることがより好ましく、90以上であることが特に好ましい。該複層塗膜形成方法により、プラスチック基材表面上に、極めて明度が高い白色の複層塗膜を形成できる。
【0158】
複層塗膜形成方法IV:複層塗膜形成方法Iにおける工程(2)に替えて、下記工程(2b)を含む方法。
(2b)前記白色導電性プライマー層の上に、水性高彩度ベース塗料組成物を静電塗装し、未硬化の高彩度ベース層を形成する工程。
【0159】
工程(2b)においては、通常、硬化膜厚で5~50μm程度、好ましくは10~40μm程度となるように水性高彩度ベース塗料組成物を塗装する。水性高彩度ベース塗料組成物とは、赤等の彩度が高い塗膜を形成できる塗料組成物である。水性高彩度ベース塗料組成物のL*値が80の白色塗膜上に硬化膜厚15μmで塗装した塗膜の彩度はC*値で20以上、好ましくは30以上、特に好ましくは40以上である。
【0160】
なお、上記C*値は、JIS Z 8781-4(2013)に規定されるL*a*b*表色系に基づくクロマ(C*値)である。該C*値は、分光光度計CM512m3(商品名、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、塗膜表面の垂直な軸に対して45度の照射光で、塗膜表面に対して90度で受光した分光反射率から計算した数値として定義するものとする。
【実施例】
【0161】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらにより限定されない。各例において、「部」及び「%」は、特記しない限り、質量基準による。また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づく。
【0162】
<バインダー成分(A)>
<アクリル樹脂(A1)の調製>
<<アクリル樹脂(A11)の製造>>
【0163】
撹拌機、温度計、還流冷却器等の備わった反応槽に、エチレングリコールモノブチルエーテル40部、イソブチルアルコール30部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから下記の単量体等の混合物を3時間かけて滴下した。
【0164】
スチレン 10部
メチルメタクリレート 18部
イソボルニルアクリレート 35部
n-ブチルアクリレート 10部
2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト 20部
アクリル酸 7部
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル 1部
イソブチルアルコール 5部
【0165】
滴下終了後、更に30分間100℃に保持した後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.5部とエチレングリコールモノブチルエーテル10部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下した。さらに100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却し、イソブチルアルコール15部を加え、75℃になったところでN,N-ジメチルアミノエタノール4部を加え、30分間撹拌して固形分含量50%のアクリル樹脂(A11-1)溶液を得た。このアクリル樹脂(A11-1)の水酸基価は86mgKOH/g、酸価は54.5mgKOH/g、数平均分子量は22,000であった。
【0166】
<<アクリル樹脂(A12)の製造>>
撹拌機、温度計、還流冷却器等の備わった反応槽に、エチレングリコールモノブチルエーテル40部、イソブチルアルコール30部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから下記の単量体等の混合物を3時間かけて滴下した。
【0167】
スチレン 10部
メチルメタクリレート 38部
n-ブチルアクリレート 25部
2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト 20部
アクリル酸 7部
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル 1部
イソブチルアルコール 5部
【0168】
滴下終了後、更に30分間100℃に保持した後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.5部とエチレングリコールモノブチルエーテル10部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下した。さらに100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却し、イソブチルアルコール15部を加え、75℃になったところでN,N-ジメチルアミノエタノール4部を加え、30分間撹拌して固形分含量50%のアクリル樹脂(A12-1)溶液を得た。このアクリル樹脂(A12-1)の水酸基価は86mgKOH/g、酸価は54.5mgKOH/g、数平均分子量は20,000であった。
【0169】
<<ポリオレフィン樹脂(A2)>>
・水性ポリオレフィン系樹脂(A2-1) 融点:80℃、重量平均分子量(Mw):80000
・水性ポリオレフィン系樹脂(A2-2) 融点:95℃、重量平均分子量(Mw):90000
【0170】
<<ポリエステル樹脂>>
トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及びアジピン酸を用いて常法によりエステル化反応せしめた。数平均分子量4500、水酸基価120、酸価10。
【0171】
<<メラミン樹脂>>
重量平均分子量1200、イミノ基含有メチルブチル混合エーテル化メラミン。
【0172】
<<ブロックポリイソシアネート化合物(E)>>
ヘキサメチレンジイソシアネートをマロン酸ジメチルでフルブロックした化合物。
【0173】
<カーボンナノチューブ分散液(B)の調製>
<<カーボンナノチューブ(a)>>
・TUBALL(80%):OCSiAl社製シングルウォールカーボンナノチューブ、平均外径:1.5nm、炭素成分80%、平均長さ12μm、50%粒子径(D50)920μm、比表面積490m2/g、単層
・TUBALL(93%):OCSiAl社製シングルウォールカーボンナノチューブ、平均外径:1.5nm、炭素成分93%、平均長さ10μm、50%粒子径(D50)1010μm、比表面積850m2/g、単層
・カーボンナノチューブ(a-1):平均外径:1.5nm、炭素成分70%、平均長さ8μm、50%粒子径(D50)1190μm、比表面積750m2/g、単層
・カーボンナノチューブ(a-2):平均外径:1.5nm、炭素成分91%、平均長さ9μm、50%粒子径(D50)1350μm、比表面積1200m2/g、単層
【0174】
尚、カーボンナノチューブ(a-1)及びカーボンナノチューブ(a-2)は下記の製造例に沿って作製を行った。
【0175】
<<<カーボンナノチューブ(a-1)の製造>>>
スパッタ蒸着装置を用い、シリコンウェハー上へ厚さ1nmの鉄金属を蒸着した。これを反応炉に挿入し、アルゴン雰囲気下で800℃まで昇温させた後、アルゴン水素混合ガスを1000cc/分、エチレンガスを100cc/分中で10分間反応させ、カーボンナノチューブを回収した。さらに、ステンレス容器にカーボンナノチューブとガラスビーズを仕込み、ペイントコンディショナーで乾式粉砕処理を1時間行い、カーボンナノチューブを任意の長さに調整し、カーボンナノチューブ(a-1)を得た。
【0176】
<<<カーボンナノチューブ(a-2)の製造>>>
スパッタ蒸着装置を用い、シリコンウェハー上へ厚さ1nmの鉄金属を蒸着した。これを反応炉に挿入し、アルゴン雰囲気下で1000℃まで昇温させた後、アルゴン水素混合ガスを1000cc/分、エチレンガスを100cc/分中で10分間反応させ、カーボンナノチューブを回収した。さらに、ステンレス容器にカーボンナノチューブとガラスビーズを仕込み、ペイントコンディショナーで乾式粉砕処理を1時間行い、カーボンナノチューブを任意の長さに調整し、カーボンナノチューブ(a-2)を得た。
【0177】
<<水溶性樹脂(b)>>
・Joncryl HPD-96J:BASFジャパン社製、スチレン-アクリル酸系、固形分酸価240mg KOH/g、不揮発分34%
・Joncryl JDX-6500:BASFジャパン社製、オールアクリル系(スチレンフリー)、固形分酸価215mg KOH/g、不揮発分29.5%
・Dispex Ultra PA 4550:BASFジャパン社製、変性ポリアクリル酸塩ポリマー、固形分酸価0mg KOH/g、固形分アミン価54mg KOH/g、不揮発分50%
・BYK-190:ビックケミー社製、スチレン系ブロック共重合、固形分酸価25mgKOH/g、不揮発分40%
・BYK-2010:ビックケミー社製、アクリルエマルション、固形分酸価50mgKOH/g、固形分アミン価50mg KOH/g、不揮発分40%
【0178】
なお、本発明に用いたカーボンナノチューブの50%粒子径(D50)はレーザー回折式粒度分布(島津製作所社製「SALD-2300」)により、比表面積は全自動比表面積測定装置(マウンテック社製「HM Model-1200」)により算出した。
【0179】
<<カーボンナノチューブ分散液(B)の製造>>
<<<カーボンナノチューブ分散液B-1>>>
カーボンナノチューブ(a)としてTUBALL 0.5部、水溶性分散樹脂(b)としてJoncryl JPD-96J 4.7部、消泡剤としてサーフィノール104E 0.3部、精製水94.5部をヘラで予備分散をした後に、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gを分散メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、4時間分散処理し、カーボンナノチューブ分散液B-1を得た。
【0180】
<<<カーボンナノチューブ分散液B-2~B-13、B-15~B-33>>>
表1に示す水溶性樹脂(b)の種類と量、分散処理時間に変更した以外は、カーボンナノチューブ分散液B-1と同様にして、カーボンナノチューブ分散液B-2~B-13、B-15~B-33を得た。
【0181】
<<<カーボンナノチューブ分散液B-14>>>
界面活性剤として「デモールN」(花王ケミカル社製、βーナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)を0.04部加えたこと以外は、カーボンナノチューブ分散液B-7と同様にして、カーボンナノチューブ分散液B-14を得た。
【0182】
<<カーボンナノチューブ分散液(B)の評価>>
得られたカーボンナノチューブ分散液について、以下の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0183】
(粘度)
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が0.1Pa・s未満の場合はNo.1を、0.1Pa・s以上0.5Pa・s未満の場合はNo.2を、0.5Pa・s以上2.0Pa・s未満の場合はNo.3を、2.0Pa・s以上10Pa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。得られた粘度値が10Pa・s以上の場合については、「>10」と記載したが、これは評価に用いたB型粘度計では評価不可能なほどに高粘度であったことを表す。分散直後から5時間以内に測定した粘度を、初期粘度とした。
【0184】
(分散液の粒度分布)
分散液のカーボンナノチューブ(a)の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラックMT300II」)により、50%粒子径(D50)を算出した。
【0185】
【0186】
【0187】
<水性白色導電性プライマー塗料組成物の製造>
水性白色導電性プライマー塗料組成物の材料として、上記したバインダー成分(A)及びカーボンナノチューブ分散液(B)の他、下記を用いた。
・酸化チタン(C-1):商品名「TI-PURE R-706」、ケマーズ社製、ルチル型酸化チタン。
・酸化チタン(C-2):商品名「JR-806」、テイカ社製、ルチル型酸化チタン。
・導電性酸化チタン:商品名「ET-500W」、石原産業社製、白色導電性酸化チタン。
・導電性マイカ:商品名「Iriotec 7310」、メルク社製。
・イオン性液体:商品名「CIL-313」、日本カーリット社製
【0188】
前記各成分を、下記表1に示す配合割合(カーボンナノチューブ分散液(B)はカーボンナノチューブ(a)の固形分の質量部を、カーボンナノチューブ分散液(B)以外の成分は固形分の質量部を各々示す)で混合し、ミキサーで十分に攪拌し、各種水性白色導電性プライマーを得た。
【0189】
<試験塗装板の作製>
ポリプロピレン板(脱脂処理済)に、上記の通り作製した各塗料組成物を硬化膜厚で30μmになるようにエアスプレー塗装した。得られた塗装塗膜を、室温で3分間放置してセッティングしてから、60℃、3分間のプレヒートを施し、白色プライマー層を形成した。
【0190】
次に、その未硬化の白色プライマー層上に「WBC-713T No.062」(関西ペイント社製、水性干渉色ベース塗料)を硬化膜厚で15μmとなるように静電塗装し、室温で2分間放置してセッティングしてから、80℃、3分間のプレヒート加熱を施し、干渉色ベースコート層を形成した。続いて、その未硬化の白色プライマー層上にクリヤー塗料として「ソフレックス7175」(関西ペイント社製、アクリル樹脂・ウレタン樹脂系熱硬化性クリヤー塗料)を硬化膜厚が25μmとなるように静電塗装し、室温で7分間放置してセッティングした後、120℃で30分間加熱乾燥させて試験塗装板を作製した。
【0191】
<水性白色導電性プライマー塗料組成物の評価>
上記の通り作製した各試験塗装板を下記の性能試験に供した。その結果を表2に示す。
(1)プライマー塗膜面の表面電気抵抗率
黒色のポリプロピレン板(脱脂処理済)に、上記の通り作製した各塗料組成物をそれぞれ硬化膜厚で30μmになるようにスプレー塗装して形成したプライマー塗膜を室温で3分間放置してセッティングしてから、60℃、3分間のプレヒートを施した後、各塗膜面の表面電気抵抗率(Ω/□)を「MODEL150」(TREK社製)で20℃にて測定した。◎は表面電気抵抗率が106(Ω/□)未満、○は表面電気抵抗率が106(Ω/□)以上108(Ω/□)以下、×は表面電気抵抗率が108(Ω/□)超であることを示す。
【0192】
(2)明度(L*値)
黒色のポリプロピレン板(脱脂処理済)に、上記の通り作製した各塗料組成物をそれぞれ硬化膜厚で30μmになるようにスプレー塗装して形成したプライマー塗膜を室温で3分間放置してセッティングしてから、60℃、3分間のプレヒートを施した。次いで、120℃で30分間加熱した後、各試験塗装板について、それぞれマルチアングル分光測色計「CM-512m3」(コニカミノルタ社製)を用いて、塗膜面に垂直な軸に対し45°の角度から光を照射し、反射した光のうち塗膜面に垂直な方向の光について明度L*値を測定した。◎はL*値が83以上、○はL*値が80以上83未満、×はL*値が80未満であることを示す。
【0193】
(3)耐候性
前記の通り作製した各試験塗装板を、JIS K 5600-7-7に準じ、「スーパーキセノンウエザーメーター」(スガ試験機社製、耐候性試験機)を用いて、試験片ぬれサイクル:18分/2時間、ブラックパネル温度:61~65℃の条件で、促進耐候性試験を行った。次に、ランプの照射時間が1,000時間に達した時点で、試験塗装板の外観を目視で評価した。○は外観に異常が無いこと、×は外観に異常があることを示す。
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
表3~5に示すように、本発明の水性白色導電性プライマー塗料組成物を用いた実施例は、比較例と比較して、高明度であるとともに、優れた導電性を有する塗膜をプラスチック基材上に形成できることがわかった。
【0198】
本出願を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2019年9月20日出願の日本特許出願(特願2019-172015)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。