(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の電極用結着剤、電極用結着剤組成物、負極、およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221018BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20221018BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2022113448
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2022-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
(72)【発明者】
【氏名】石田 久征
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘一
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 宗騎
(72)【発明者】
【氏名】西川 明良
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/019598(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/217730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方、(B)水添ポリブタジエンポリオール、(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸、および(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を含む、リチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項2】
負極活物質としてSiOを含むリチウム二次電池の負極用である、請求項1に記載の電極用結着剤。
【請求項3】
(A)脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方、(B)水添ポリブタジエンポリオール、(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸、および(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩、
導電剤、並びに、
水を含む、リチウム二次電池の電極用結着剤組成物。
【請求項4】
前記導電剤が繊維状ナノカーボンを含む、請求項3に記載の電極用結着剤組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の電極用結着剤または請求項3に記載の電極用結着剤組成物の固形分と、SiOを含む負極活物質と、を含む、リチウム二次電池の負極。
【請求項6】
導電剤として繊維状ナノカーボンを含む、請求項5に記載の負極。
【請求項7】
請求項5に記載の負極を備えるリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、リチウム二次電池の電極用結着剤、電極用結着剤組成物、負極、およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、リチウムイオン二次電池とも称され、高電圧、高エネルギー密度の蓄電デバイスとして、例えば電子機器の駆動用電源に用いられている。リチウム二次電池の電極は、通常、電極活物質、導電剤および結着剤の混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することにより製造される。結着剤は、電極活物質と集電体との間に接着力を付与するために用いられる。そのため、結着剤がリチウム二次電池の特性に与える影響は大きい。
【0003】
リチウム二次電池の電極用結着剤として、特許文献1には、ポリイソシアネートと、オレフィン系ポリオールと、1個以上の活性水素基と親水基を有する化合物と、鎖伸長剤からなるポリウレタンの水分散体を含むものが開示されている。また、オレフィン系ポリオールとして、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添化ポリブタジエンポリオール、及び水添化ポリイソプレンポリオールの中から選択された1種又は2種以上が用いられることが開示されている。さらに、活性水素基と親水基を有する化合物として、カルボン酸含有化合物及びその塩が用いられることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、体積変化の大きな活物質を用いた場合でも、高い耐久性を示す電極が得られる電極用結着剤組成物として、ポリウレタンとともに繊維状ナノカーボン材料を併用することが開示されている。また、該ポリウレタンとして、ポリイソシアネート、ポリオール、1個以上の活性水素基と親水基を有する化合物および鎖伸長剤を反応させて得られるものが用いられることが開示されている。さらに、該ポリオールとして、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添化ポリブタジエンポリオール、および水添化ポリイソプレンポリオールの中から選択された1種または2種以上が用いられることが開示されている。また、活性水素基と親水基を有する化合物として、カルボン酸含有化合物及びその塩が用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/019598号
【文献】国際公開第2020/217730号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、負極活物質がSiOを含む場合、充放電により電極が膨張し、リチウム二次電池の性能が劣化してしまう。そのため、充放電による電極の膨張を低減することが求められる。
【0007】
上記特許文献1および2には、結着剤として用いられるポリウレタンにおいて、ポリオールとしてポリブタジエンポリオールやポリイソプレンポリオールとともにそれらの水素添加物を用いてもよいこと、および、活性水素基と親水基を有する化合物としてカルボン酸含有化合物及びその塩が用いてもよいことが開示されている。しかしながら、水添ポリブタジエンポリオールとカルボン酸のナトリウム塩との組合せは開示されておらず、それにより充放電による電極の膨張を低減できることも開示されていない。
【0008】
本発明の実施形態は、充放電による電極の膨張を低減することができるリチウム二次電池の電極用結着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] (A)脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方、(B)水添ポリブタジエンポリオール、(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸、および(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を含む、リチウム二次電池の電極用結着剤。
[2] 負極活物質としてSiOを含むリチウム二次電池の負極用である、[1]に記載の電極用結着剤。
[3] (A)脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方、(B)水添ポリブタジエンポリオール、(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸、および(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩、導電剤、並びに、水を含む、リチウム二次電池の電極用結着剤組成物。
[4] 前記導電剤が繊維状ナノカーボンを含む、[3]に記載の電極用結着剤組成物。
[5] [1]もしくは[2]に記載の電極用結着剤または[3]もしくは[4]に記載の電極用結着剤組成物の固形分と、SiOを含む負極活物質と、を含む、リチウム二次電池の負極。
[6] 導電剤として繊維状ナノカーボンを含む、[5]に記載の負極。
[7] [5]または[6]に記載の負極を備えるリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、充放電による電極の膨張を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るリチウム二次電池の電極用結着剤は、(A)成分としての脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方と、(B)成分としての水添ポリブタジエンポリオールと、(C)成分としての1個以上の活性水素基を有するカルボン酸と、(D)としての鎖伸長剤とを反応させて得られる、ポリウレタンのナトリウム塩(以下、単に「ポリウレタン」ということがある。)の水分散体を含む。
【0012】
一般に、電極活物質がSiOを含む場合、リチウム二次電池の充放電により電極が膨張する。これに対し、本実施形態に係る電極用結着剤であると、電極活物質がSiOを含む場合でも電極の膨張を低減することができる。また、電極活物質がSiOを含む場合に、上記カルボン酸に由来するカルボキシ基がアミン塩であると、ガスが発生しやすい。これに対し、該カルボキシ基がナトリウム塩であることによりガスの発生を抑えることができる。
【0013】
[(A)脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方]
本実施形態では、ポリイソシアネートとして、(A)脂肪族ポリイソシアネートおよび/または脂環式ポリイソシアネートが用いられる。
【0014】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
(A)成分の量は、特に限定されず、例えば、上記ポリウレタン100質量%に対して5~40質量%でもよく、10~30質量%でもよい。
【0017】
[(B)水添ポリブタジエンポリオール]
本実施形態では、ポリオールとして、(B)水添ポリブタジエンポリオールが用いられる。水添ポリブタジエンポリオールに、上記カルボン酸のナトリウム塩を組み合わせることにより、充放電後における電極の膨張を低減することができる。
【0018】
水添ポリブタジエンポリオールとしては、1分子当たり平均1.3個以上のヒドロキシ基を有するものが好ましく用いられ、より好ましくは平均1.5~2.5個のヒドロキシ基を有するもの、更に好ましくは平均1.7~2.2個のヒドロキシ基を有するものである。本明細書において、1分子当たりのヒドロキシ基の数(官能基数)は、下記式により算出される値である。
官能基数={(水酸基価)×(Mn)}/(56.1×1000)
【0019】
水添ポリブタジエンポリオールとしては、分子中に1,4-結合型、1,2-結合型またはそれらが混在したポリブタジエン構造を有し、かつ末端にヒドロキシ基を有するポリブタジエンポリオールに対して水添(水素添加)した構造を持つものが好ましく用いられる。より好ましくは、水添ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエン構造の両末端にそれぞれヒドロキシ基を有するポリブタジエンポリオールに対して水添した構造を持つものである。
【0020】
水添ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエンポリオールに含まれている不飽和二重結合の一部又は全てが水添されたものである。水添ポリブタジエンポリオールの水添の度合いは特に限定されず、例えばヨウ素価が40g/100g以下でもよく、30g/100g以下でもよく、25g/100g以下でもよく、15g/100g以下でもよい。本明細書において、ヨウ素価はJIS K0070:1992に準じて測定される。
【0021】
水添ポリブタジエンポリオールの分子量は特に限定されず、例えば、数平均分子量(Mn)が600~10000でもよく、800~6000でもよく、1000~5000でもよく、1200~4000でもよい。
【0022】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。詳細には、GPCの条件として、カラム:東ソー(株)製「TSKgel Hxl」、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、移動相流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃、試料注入量:50μL、試料濃度:0.2質量%として測定することができる。
【0023】
水添ポリブタジエンポリオールの水酸基価は特に限定されず、例えば10~200mgKOH/gでもよく、15~120mgKOH/gでもよく、20~100mgKOH/gでもよく、50~90mgKOH/gでもよい。本明細書において、水酸基価はJIS K1557-1:2007のA法に準じて測定される。
【0024】
(B)成分である水添ポリブタジエンポリオールの量は、特に限定されないが、上記ポリウレタン100質量%に対して40~90質量%であることが好ましく、より好ましくは50~80質量%である。
【0025】
[(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸]
本実施形態では、活性水素基を有する化合物として、(B)水添ポリブタジエンポリオールとともに、(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸が用いられる。(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸は、1個以上の活性水素基とカルボキシ基を有する化合物である。該カルボン酸の活性水素基の数は1~3個でもよく、より好ましくは1個または2個である。活性水素基とは、イソシアネート基と反応する活性水素を含む基であり、例えばヒドロキシ基、一級アミノ基(-NH2)、二級アミノ基(-NHR)が挙げられる。
【0026】
ここで、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX。X:カルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。但し、電極用結着剤または電極用結着剤組成物に含まれるポリウレタンにおいて、該カルボン酸に由来するカルボキシ基は、ナトリウム塩(-COONa)として存在する。これにより、電極活物質がSiOを含む場合であっても、充放電による電極の膨張を低減し、またガスの発生を抑制することができる。
【0027】
1個以上の活性水素基を有するカルボン酸としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、ジヒドロキシ安息香酸、ジアミノ安息香酸等のヒドロキシ酸およびその誘導体ならびにそれらの塩が挙げられる。1個以上の活性水素基を有するカルボン酸としては、また、例えば、アラニン、アミノ酪酸、アミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン等のアミノ酸が挙げられる。これらのいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記カルボキシ基は、中和して塩にすることにより、最終的に得られるポリウレタンを水分散性にすることができる。この場合の中和剤として、本実施形態では水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。中和は、ウレタン化反応前、反応中、または反応後のいずれにおいても行うことができる。
【0029】
(C)成分である1個以上の活性水素基を有するカルボン酸の量は、特に限定されないが、ポリウレタンにおけるカルボキシ基の含有量を表す酸価が5~50mgKOH/gが好ましく、より好ましくは5~45mgKOH/g以下である。ポリウレタンの酸価が5mgKOH/g以上であることにより、水への分散性を向上することができ、酸価が50mgKOH/g以下であることにより、耐電解液性を向上することができる。本明細書において、酸価は、JIS K0070-1992に準拠して、ポリウレタン水分散体の固形分1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するのに要するKOH量(mg)より求めることができる。
【0030】
(C)成分の量は、特に限定されず、例えば、上記ポリウレタン100質量%に対して1~15質量%でもよく、2~10質量%でもよい。
【0031】
[(D)鎖伸長剤]
(D)成分の鎖伸長剤としては、本技術分野で一般的に使用される鎖伸長剤を用いることができる。鎖伸長剤として、具体的にはアミン、即ちジアミンやポリアミンが好ましく用いられる。ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどを例示することができ、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等を例示することができる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(D)成分の量は、特に限定されず、例えば、上記ポリウレタン100質量%に対して0.3~10質量%でもよく、0.5~5質量%でもよい。
【0033】
[電極用結着剤]
本実施形態に係る電極用結着剤は、上記(A)~(D)成分を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を含む。すなわち、(A)~(D)成分を反応させて得られるポリウレタンは、(C)成分に由来するカルボキシ基がナトリウム塩となって水中に分散している。そのため、電極用結着剤は、水と、水中に分散したポリウレタンのナトリウム塩とを含む。
【0034】
上記ポリウレタンは、(A)~(D)成分のみで構成されてもよいが、本実施形態の効果を損なわない限り、ポリイソシアネートとして、(A)成分以外のポリイソシアネート、例えば芳香族ポリイソシアネートや芳香脂肪族ポリイソシアネートを含んでもよい。また、ポリオールとして、(B)成分以外のポリオール、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコールを含んでもよい。
【0035】
電極用結着剤において、上記ポリウレタンの濃度は特に限定されず、例えば5~50質量%でもよく、10~40質量%でもよい。
【0036】
上記ポリウレタンのナトリウム塩の水分散体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、次の方法が用いられる。(B)成分と(C)成分に対し、(A)成分を溶剤なしに、または活性水素基を有しない有機溶媒中で反応させて、イソシアネート末端のウレタンプレポリマーを合成する。その際、(A)成分は、(B)成分と(C)成分に含まれる活性水素基の合計量よりも、イソシアネート基が化学量論的に過剰、たとえばイソシアネート基と活性水素基との当量比1:0.85~0.99となるように用いられる。上記ウレタンプレポリマーの合成後、水酸化ナトリウムにより(C)成分のカルボキシ基の中和を行ってから、水中に分散乳化させる。その後、残存するイソシアネート基より少ない当量(例えば、イソシアネート基と鎖伸長剤の活性水素基との当量比1:0.50~0.95)にて(D)鎖伸長剤を加えて、乳化ミセル中のイソシアネート基と鎖伸長剤とを界面重合反応させてウレア結合を生成させる。これにより、乳化ミセル内の架橋密度が向上し、三次元架橋構造が形成される。その後、必要に応じて使用した溶剤を除去することにより、ポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を得ることができる。
【0037】
上記ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネート基と不活性で、かつ、生成するウレタンプレポリマーを溶解し得る有機溶剤を用いてもよい。そのような有機溶剤としては、例えば、ジオキサン、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。本実施形態に係る電極用結着剤において、ポリウレタンのナトリウム塩を分散させる媒体には、水とともにこれらの有機溶剤が含まれてもよく、含まれなくてもよい。これらの有機溶剤は、最終的に除去されることが好ましい。
【0038】
本実施形態において、ポリウレタンのナトリウム塩の水分散体の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、0.005~0.5μmの範囲でもよい。また、ポリウレタンのナトリウム塩の数平均分子量(Mn)は特に限定されず、例えば10,000以上でもよく、50,000以上でもよい。
【0039】
[電極用結着剤組成物]
本実施形態に係るリチウム二次電池の電極用結着剤組成物は、上記(A)~(D)成分を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩、導電剤、および、水を含む。詳細には、該電極用結着剤組成物は、上記ポリウレタンのナトリウム塩と導電剤を水に分散した状態に含むものである。電極用結着剤組成物は、例えば、上記ポリウレタンのナトリウム塩の水分散体と、導電剤の水分散体とを混合することにより調製されてもよい。
【0040】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料を使用することができる。導電剤の具体例としては、繊維状ナノカーボン、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0041】
導電剤として、好ましくは繊維状ナノカーボンを用いることである。繊維状ナノカーボンは、電極活物質がSiOを含む場合における電極の膨張に追従することができ、充放電の繰り返し時における導電経路の破損を抑制することができる。
【0042】
繊維状ナノカーボンは、ナノメートルオーダーの繊維径を持つ繊維状カーボンである。繊維状ナノカーボンの平均繊維長は、特に限定されず、例えば50nm~10mmであることが好ましく、より好ましくは0.5~100μmである。繊維状ナノカーボンの平均繊維径は、特に限定されず、例えば0.5~200nmであることが好ましく、より好ましくは1~100nmである。平均繊維長および平均繊維径は、原子間力顕微鏡(AFM)画像において、無作為に選択された50個の繊維状ナノカーボンの寸法を測定し、その相加平均をとることにより求めることができる。原子間力顕微鏡により測定できないmmオーダーの長さについてはマイクロスコープによる画像を用いて測定すればよい。
【0043】
繊維状ナノカーボンの具体例としては、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、ナノカーボンファイバーなどが挙げられ、これらをいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でもカーボンナノチューブが好ましく、より好ましくはSWCNTである。
【0044】
一実施形態に係る結着剤組成物は、上記ポリウレタンのナトリウム塩(X)と繊維状ナノカーボン(Y)を、(X):(Y)=60:40~99.6:0.4(質量比)にて含有することが好ましい。これにより、リチウム二次電池の充放電サイクル特性の向上効果を高めることができる。
【0045】
一実施形態に係る結着剤組成物は、導電剤として、繊維状ナノカーボンとともにカーボンブラックを含むことが好ましい。この場合、カーボンブラックは導電助剤として電極活物質の周りの導通を担い、電極の膨張に追従する繊維状ナノカーボンの導電性をより効果的に発揮させることができる。繊維状ナノカーボンとカーボンブラックの含有比は特に限定されず、例えば、繊維状ナノカーボン100質量部に対して、カーボンブラックが100~2000質量部でもよい。
【0046】
導電剤は、媒体に分散させた状態で用いられることが好ましい。媒体としては、通常は水が用いられるが、アルコール、ケトン系溶媒などの極性有機溶媒、またはそれらの極性有機溶媒と水の混合溶媒を用いてもよい。導電剤を媒体に分散させる分散装置としては、例えばジェットミル、高圧分散装置、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0047】
繊維状ナノカーボンやカーボンブラックなどの導電剤を水に分散させた水分散体を調製する際には、分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびそのアルカリ金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類、セルロースナノファイバー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダなどのポリカルボン酸系化合物、ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン構造を有する化合物、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、カンテン、デンプンなどが挙げられる。これらの中でもカルボキシメチルセルロース塩が好適に使用できる。
【0048】
電極用結着剤組成物において、上記ポリウレタンの濃度は特に限定されず、例えば5~50質量%でもよく、10~40質量%でもよい。導電剤の濃度も特に限定されず、例えば5~35質量%でもよく、15~30質量%でもよい。
【0049】
[電極用塗工液組成物]
本実施形態に係る電極用結着剤および電極用結着剤組成物は、リチウム二次電池の電極を製造するための電極用塗工液組成物を調製するために用いられる。電極用結着剤を用いる場合、電極用塗工液組成物(1)は、電極用結着剤と、電極活物質と、導電剤とを含む。電極用結着剤組成物を用いる場合、電極用塗工液組成物(2)は、電極用結着剤組成物と、電極活物質とを含む。
【0050】
これらの電極用塗工液組成物は、リチウム二次電池の負極を製造するために好ましく用いられる。そのため、電極活物質は、好ましくは負極活物質である。負極活物質としては、金属リチウムまたはリチウムイオンを挿入/脱離することができるものを用いることができる。負極活物質の具体例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素などの炭素材料、金属リチウムや合金、スズ化合物などの金属材料、リチウム遷移金属窒化物、結晶性金属酸化物、非晶質金属酸化物、ケイ素化合物、導電性ポリマー等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
これらの中でも、高容量化を図ることができることから、負極活物質は、SiO(一酸化ケイ素)を含むことが好ましい。負極活物質としては、SiOと黒鉛との混合物でもよいが、好ましくはSiOのみを負極活物質として用いることである。
【0052】
電極用塗工液組成物において、上記ポリウレタンのナトリウム塩の含有量は、特に限定されないが、電極活物質(負極活物質)の含有量に対して1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは2~13質量%である。
【0053】
上記電極用塗工液組成物(1)において、導電剤は、具体例および好ましい組成等も含めて、電極用結着剤組成物において上述したとおりであり、説明は省略する。
【0054】
電極用塗工液組成物において、導電剤の含有量は、特に限定されないが、電極活物質(負極活物質)の含有量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~10質量%である。
【0055】
電極用塗工液組成物は、当該組成物をスラリー化するための粘性調整剤として、水溶性高分子などの増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダなどのポリカルボン酸系化合物、ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン構造を有する化合物、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、カンテン、デンプン等が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でもカルボキシメチルセルロース塩が好ましい。
【0056】
電極用塗工液組成物の固形分における電極活物質(負極活物質)の含有量は特に限定されず、例えば65~99質量%でもよく、75~97質量%でもよい。電極用塗工液組成物における水等の分散媒の含有量は特に限定されず、例えば20~80質量%でもよく、40~70質量%でもよい。
【0057】
電極用塗工液組成物の調製方法は特に限定されない。上記各成分を混合する際には、例えば、乳鉢、ミルミキサー、遊星型ボールミルまたはシェイカー型ボールミルなどのボールミル、メカノフュージョン等を用いることができる。
【0058】
[リチウム二次電池の負極]
実施形態に係るリチウム二次電池の負極は、上記電極用塗工液組成物を集電体に塗布し、分散媒を蒸発させることにより製造することができる。すなわち、負極は、集電体と、該集電体上に形成された負極合材層(活物質層とも称される。)とを備え、該負極合材層が上記電極用塗工液組成物の固形物からなる。一実施形態において、電極用塗工液組成物は、上記電極用結着剤または電極用結着剤組成物とともに、負極活物質としてSiOを含む。そのため、一実施形態に係るリチウム二次電池の負極は、電極用結着剤または電極用結着剤組成物の固形分と、SiOを含む負極活物質と、を含む。
【0059】
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を用いることができる。負極用の集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものが挙げられる。これらの集電体材料は表面が酸化処理されてもよい。集電体の形状としては、例えば、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体が挙げられる。集電体の厚みは特に限定されないが、1~100μmのものが通常用いられる。
【0060】
負極合材層の厚みは特に限定されず、例えば15~150μmでもよい。
【0061】
[リチウム二次電池]
実施形態に係るリチウム二次電池は、上記負極を備えるものである。詳細には、リチウム二次電池は、負極と、正極と、負極と正極との間に配置されたセパレータと、電解質とを備え、該負極に、上記電極用塗工液組成物を用いて作製した電極が用いられる。正極、セパレータ及び電解質については、例えば上記特許文献1または特許文献2に記載された公知の構成を採用することができ、特に限定されない。
【0062】
実施形態に係るリチウム二次電池は、円筒型、コイン型、角型、その他任意の形状に形成することができ、電池の基本構成は形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更して実施することができる。例えば、円筒型では、負極集電体に負極活物質を塗布してなる負極と、正極集電体に正極活物質を塗布してなる正極とを、セパレータを介して捲回した捲回体を電池缶に収納し、非水電解液を注入し上下に絶縁板を載置した状態で密封して得られる。また、コイン型リチウム二次電池に適用する場合では、円盤状負極、セパレータ、円盤状正極、及びステンレスの板が積層された状態でコイン型電池缶に収納され、非水電解液が注入され、密封される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0064】
実施例で使用したポリオール、繊維状ナノカーボン水分散体1、繊維状ナノカーボン水分散体2、アセチレンブラック水分散体、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の詳細は以下のとおりである。
【0065】
・水添ポリブタジエンポリオール(A1):日本曹達(株)製「NISSO-PB GI-1000」(Mn:1500、ヨウ素価11g/100g、水酸基価69KOHmg/g、官能基数:1.8)
【0066】
・水添ポリブタジエンポリオール(A2):日本曹達(株)製「NISSO-PB GI-3000」(Mn:3100、ヨウ素価12g/100g、水酸基価30KOHmg/g、官能基数:1.7)
【0067】
・ポリブタジエンポリオール:日本曹達(株)製「NISSO-PB G-1000」(Mn:1400、水酸基価70KOHmg/g、官能基数:1.7)
【0068】
・ポリイソプレンポリオール:出光興産(株)製「Polyip」(Mn:2500、水酸基価47KOHmg/g、官能基数:2.1)
【0069】
・繊維状ナノカーボン水分散体1:シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)としてOCSiAl社製「TUBALL BATT」(CNT純度>93%、平均径1.6±0.5nm)を用いて、下記製造手順により、繊維状ナノカーボンの濃度が1質量%である繊維状ナノカーボン水分散体1を調製した。得られた水分散体1について、下記測定方法により繊維状ナノカーボンの平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比を測定したところ、平均繊維径は3nm、平均繊維長は3000nm、アスペクト比は1000であった。
【0070】
(繊維状ナノカーボン水分散体の製造手順)
SWCNT0.5gを、カルボキシメチルセルロース塩(第一工業製薬(株)製「セロゲン7A」)の1質量%水溶液50gへ、ビーカー中で混合し、攪拌した後、ビーカーと超音波ホモジナイザー(US-600T 日本精機製作所社製)と循環ユニットとチューブポンプとを用いて、スラリーを循環させながら100μAの出力で90分間分散させることにより、繊維状ナノカーボン水分散体を得た。
【0071】
(繊維状ナノカーボンの測定方法)
繊維状ナノカーボンの平均繊維径、平均繊維長は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(日本電子社製、AFM-5300E)を用いて計測した。すなわち、繊維状ナノカーボン水分散液を、繊維状ナノカーボンの濃度が0.01質量%になるまで水で希釈した後、マイカ基板上に展開して溶媒を蒸発させた。そして、このサンプルのAFM像を観察し、先に述べた方法に従い、平均繊維径、平均繊維長を算出した。また、これらの値を用いてアスペクト比を下記の(式1)に従い算出した。
アスペクト比=平均繊維長(nm)/平均繊維径(nm)…(式1)
【0072】
・繊維状ナノカーボン水分散体2:シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)としてSUSN NANOTECH社製「HCNT2」(CNT純度>96%、平均径1~4nm)を用いて、上記水分散体1と同様の製造手順により、繊維状ナノカーボンの濃度が1質量%である繊維状ナノカーボン水分散体2を調製した。得られた水分散体2について、上記測定方法により繊維状ナノカーボンの平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比を測定したところ、平均繊維径は3nm、平均繊維長は35000nm、アスペクト比は11666であった。
【0073】
・アセチレンブラック水分散体:アセチレンブラックとしてデンカ(株)製「Li400」を用いた。アセチレンブラック100gを、カルボキシメチルセルロース塩(第一工業製薬(株)製「セロゲン7A」)の1質量%水溶液300g中に、高速ディスパにて攪拌しながら加え、均一になるまで攪拌した。これにより、アセチレンブラックの濃度が25質量%であるアセチレンブラック水分散体を得た。
【0074】
・カルボキシメチルセルロースナトリウム塩:第一工業製薬(株)製「セロゲンBSH-6」
【0075】
[ポリウレタンの水分散体の合成]
(製造例1:結着剤1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに水添ポリブタジエンポリオール(A1)69.17質量部、ジメチロールプロピオン酸4.17質量部、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)25.97質量部、メチルエチルケトン150質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量2.1質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、水酸化ナトリウム1.24質量部と水233質量部からなる水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えてホモジナイザーを使用して乳化分散させた。続いて、ジエチレントリアミン1.48質量部を水37質量部で希釈した水溶液を加え、1時間鎖伸長反応を行った。これを減圧、50℃での加熱下、脱溶剤を行い、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤1)を得た。
【0076】
(製造例2:結着剤2)
水添MDI25.97質量部に代えてイソホロンジイソシアネート(IPDI)25.97質量部を用い、また、ジエチレントリアミンの量を2.57質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤2)を得た。
【0077】
(製造例3:結着剤3)
水添MDI25.97質量部に代えてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)25.97質量部を用い、また、ジエチレントリアミンの量を4.9質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤3)を得た。
【0078】
(製造例4:結着剤4)
水添ポリブタジエンポリオール(A1)69.17質量部に代えて水添ポリブタジエンポリオール(A2)69.17質量部を用い、また、ジエチレントリアミンの量を2.94質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤4)を得た。
【0079】
(製造例5:結着剤5)
ジメチロールプロピオン酸4.17質量部に代えてジメチロールブタン酸4.17質量部を用い、また、水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を69.22質量部とし、水添MDIの量を25.99質量部とし、水酸化ナトリウムの量を1.13質量部とし、ジエチレントリアミンの量を2.26質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤5)を得た。
【0080】
(製造例6:結着剤6)
ジエチレントリアミン1.48質量部に代えてエチレンジアミン1.29質量部を用い、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤6)を得た。
【0081】
(製造例7:結着剤7)
水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を66.97質量部とし、ジメチロールプロピオン酸の量を6.14質量部とし、水添MDIの量を25.89質量部とし、水酸化ナトリウムの量を1.83質量部とし、ジエチレントリアミンの量を0.63質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤7)を得た。
【0082】
(製造例8:結着剤8)
水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を71.39質量部とし、ジメチロールプロピオン酸の量を2.19質量部とし、水添MDIの量を26.06質量部とし、水酸化ナトリウムの量を0.65質量部とし、ジエチレントリアミンの量を2.32質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤8)を得た。
【0083】
(比較製造例1:結着剤C1)
水添ポリブタジエンポリオール(A1)69.17質量部に代えてポリブタジエンポリオール69.76質量部を用い、また、水添MDIの量を25.47質量部とし、ジメチロールプロピオン酸の量を4.10質量部とし、水酸化ナトリウムの量を1.22質量部とし、ジエチレントリアミンの量を1.28質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤C1)を得た。
【0084】
(比較製造例2:結着剤C2)
水酸化ナトリウム1.24質量部に代えて25質量%アンモニア水溶液2.12質量部を用い、また、水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を69.28質量部とし、水添MDIの量を26.01質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのアンモニウム塩の水分散体(結着剤C2)を得た。
【0085】
(比較製造例3:結着剤C3)
ジメチロールプロピオン酸4.17質量部に代えてジメチロールブタン酸4.24質量部を用い、水酸化ナトリウム1.24質量部に代えて水酸化カリウム1.61質量部を用い、また、水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を68.83質量部とし、水添MDIの量を25.84質量部とし、ジエチレントリアミンの量を1.47質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのカリウム塩の水分散体(結着剤C3)を得た。
【0086】
(比較製造例4:結着剤C4)
水酸化ナトリウム1.24質量部に代えて水酸化カリウム1.74質量部を用い、また、水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を68.83質量部とし、水添MDIの量を25.84質量部とし、ジメチロールプロピオン酸の量を4.15質量部とし、ジエチレントリアミンの量を1.47質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのカリウム塩の水分散体(結着剤C4)を得た。
【0087】
(比較製造例5:結着剤C5)
水酸化ナトリウム1.24質量部に代えてトリエチルアミン3.07質量部を用い、また、水添ポリブタジエンポリオール(A1)の量を67.51質量部とし、水添MDIの量を25.35質量部とし、ジメチロールプロピオン酸の量を4.07質量部とし、ジエチレントリアミンの量を1.44質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのトリエチルアミン塩の水分散体(結着剤C5)を得た。
【0088】
(比較製造例6:結着剤C6)
水添ポリブタジエンポリオール(A1)69.17質量部に代えてポリイソプレンポリオール69.17質量部を用い、また、ジエチレントリアミンの量を2.31質量部とし、その他は製造例1と同様にして、不揮発分約32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤C6)を得た。
【0089】
[ポリウレタン水分散体の評価]
得られた結着剤1~8,結着剤C1~6について、ポリウレタンの構成成分を表1に示す。表1では、(C)成分のカルボン酸について中和後の塩での化合物名と含有量を示した。また、結着剤1~8,結着剤C1~6について、ポリウレタンの酸価と、ポリウレタン水分散体の平均粒子径を測定した。測定方法は以下のとおりである。
【0090】
・ポリウレタンの酸価:JIS K0070-1992に準じて測定した。
・ポリウレタン水分散体の平均粒子径:日機装(株)製「Microtrac UPA-UZ152」にて測定し、50%累積の粒子径、すなわちd50(メジアン径)として算出した。
【0091】
【0092】
[リチウム二次電池の作製]
(実施例1)
(負極の作製) 負極活物質としてSiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m2/g)を88.85質量部、導電剤として繊維状ナノカーボン水分散体1を40質量部とアセチレンブラック水分散体を4.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の1.5質量%水溶液を43.3質量部、および、結着剤1のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体30質量部、イオン交換水14質量部を用い、これらを遊星型ミキサーで混合し、固形分49質量%になるように負極スラリーを調製した。集電体として厚み10μmの電解銅箔を用いて、電解銅箔上に上記負極スラリーからなる負極合材層を形成した。詳細には、上記負極スラリーを塗工機で電解銅箔上にコーティングを行い、ロールプレス処理後、130℃で減圧乾燥することにより、負極活物質2.7mg/cm2の負極を得た。
【0093】
(正極の作製) 正極活物質であるLiNiCoAlO2(NCA)を92質量部、導電剤としてアセチレンブラック(デンカ(株)製「Li-400」)を4質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン4質量部、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン49.2質量部を遊星型ミキサーで混合し、固形分67質量%になるように正極スラリーを調製した。この正極スラリーを塗工機で厚み15μmのアルミニウム箔上にコーティングを行い、130℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、正極活物質16.6mg/cm2の正極を得た。
【0094】
(電池の作製) 上記で得られた負極と正極を組み合わせて、電極間にセパレータとしてポリオレフィン系(PE/PP/PE)セパレータを挟んで積層し、各正負極に正極端子と負極端子を超音波溶接した。この積層体をアルミラミネート包材に入れ、注液用の開口部を残しヒートシールした。正極面積18cm2、負極面積19.8cm2とした注液前電池を作製した。次にエチレンカーボネートとジエチルカーボネート(30/70vol比)とを混合した溶媒にLiPF6(1.0mol/L)を溶解させた電解液を注液し、開口部をヒートシールし、評価用電池を得た。
【0095】
(実施例2~8および比較例1~6)
負極スラリーを調製する際に、結着剤として下記表2に記載の結着剤2~8およびC1~6を用い、その他は実施例1と同様にして、負極を作製し、さらに評価用電池を作製した。
【0096】
(実施例9)
負極スラリーを調製する際に、導電剤として繊維状ナノカーボン水分散体2を40質量部とアセチレンブラック水分散体を4質量部用い、その他は実施例1と同様にして、負極を作製し、さらに評価用電池を作製した。
【0097】
[評価]
作製した負極について結着性を評価した。また、評価用電池について、電極の膨張低減効果を確認するために充放電後の電極膨張率(1回目)および電極膨張率(2回目)を測定した。また、評価用電池について、ガス発生の有無、セルインピーダンスと充放電サイクル特性を測定・評価した。試験方法は以下のとおりである。
【0098】
(結着性)
負極を3×6cmに切り出し、塗工面を内側に3×3cmになるように180°折り曲げて戻した後に、塗工面の活物質の脱落程度(折り曲げ部に対する脱落部の長さ)を目視で判断した。評価基準は以下のとおりである。
評価基準:
5点:脱落0%(脱落無し)
4点:脱落5%以下(ごくわずかに電解銅箔が見える)
3点:脱落5%を超えて25%未満
2点:脱落25%を超えて50%未満
1点:脱落50%以上(折り曲げ周辺部からも脱落あり)
【0099】
(電極膨張率)
評価用電池組立時の負極厚み、充電前の電池の厚み(充電前セル厚み)、および各充放電後の電池の厚み(各評価後セル厚み)をマイクロメーターで測定し、以下の計算式より算出した。
電極膨張率=(各評価後セル厚み-充電前セル厚み)/負極合材層厚み×100%
負極合材層厚み=負極厚み-銅箔厚み
充放電条件は以下の通りであり、1回目と2回目の充放電後において電極膨張率を測定した。
充放電条件:0.2C相当の電流密度で4.2VまでCC(定電流)充電を行い、続いて4.2VでCV(定電圧)充電に切り替え、0.02C相当の電流密度まで充電した。放電は0.2C相当の電流密度で2.7VまでCC(定電流)放電を行った。
【0100】
(ガス発生)
評価用電池を上記電極膨張率測定と同じ充電条件で初回充電し、その後開封して減圧シールを実施した。その際に電解液の臭気ではないアミン臭を感じるものをガス発生ありとし、アミン臭を感じないものをガス発生なしとした。
【0101】
(セルインピーダンス)
上記電極膨張率測定と同じ充電条件で初回充電後の評価用電池について、ACミリオームハイテスター(日置電機(株)製「3560」)を使用して、周波数1kHzでのセルインピーダンス(mΩ)を測定した。
【0102】
(充放電サイクル特性)
評価用電池について、充放電装置にて以下の条件で充放電サイクル試験を行った。1C相当の電流密度で4.2VまでCC(定電流)充電を行い、続いて4.2VでCV(定電圧)充電に切り替え、1.5時間もしくは電流密度0.1Cになるまで充電した後、1C相当の電流密度で2.7VまでCC放電するサイクルを20℃で200回行い、初回1C放電容量に対する200回後の1C放電容量比を充放電サイクル保持率(%)として求めた。充電と放電の間の休止は10分間とした。
【0103】
【0104】
結果は表2に示すとおりである。結着剤として、水添でないポリブタジエンポリオールを用いて合成したポリウレタンの水分散体を用いた比較例1では、充放電時における負極の膨張率が高かった。また、比較例1では負極において結着剤による結着性に劣っていた。結着剤として、イソプレンポリオールを用いて合成したポリウレタンの水分散体を用いた比較例6でも、充放電時における負極の膨張率が高かった。
【0105】
比較例2~5では、結着剤として用いたポリウレタンがナトリウム塩ではなくカリウム塩やアミン塩であったため、充放電時における負極の膨張率が高かった。また、ポリウレタンがアミン塩である比較例2,5では充放電時にガスが発生し、臭気が認められた。ポリウレタンがカリウム塩である比較例3,4では結着剤による結着性に劣っていた。
【0106】
これに対し、実施例1~9であると、結着剤による結着性に優れるとともに、比較例1に対して、充放電後の電極膨張率(1回目)および電極膨張率(2回目)が低く、充放電による負極の膨張を低減することができた。また、充放電時におけるガスの発生がなく、さらにセルインピーダンスが小さく、充放電サイクル特性にも優れていた。
【0107】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0108】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
【課題】充放電による電極の膨張を低減することができるリチウム二次電池の電極用結着剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係るリチウム二次電池の電極用結着剤は、(A)脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方、(B)水添ポリブタジエンポリオール、(C)1個以上の活性水素基を有するカルボン酸、および(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を含む。
【選択図】なし