(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】永久磁石内蔵型ソレノイド
(51)【国際特許分類】
H01F 7/122 20060101AFI20221019BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20221019BHJP
H01F 7/121 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H01F7/122 C
H01F7/16 Z
H01F7/121
(21)【出願番号】P 2018101444
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100156649
【氏名又は名称】野原 淳史
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【氏名又は名称】岡島 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【氏名又は名称】梅本 幸作
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】松井 健志
(72)【発明者】
【氏名】河原 寛之
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-051708(JP,A)
【文献】特開平11-040411(JP,A)
【文献】実開平04-070705(JP,U)
【文献】国際公開第2017/149726(WO,A1)
【文献】実開昭59-054272(JP,U)
【文献】特開平10-321433(JP,A)
【文献】実開平07-022510(JP,U)
【文献】実開平07-044047(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/122
H01F 7/16
H01F 7/121
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒軸方向に開口部を有する円筒状のボディと、前記ボディの一端側端面に配置された永久磁石と、前記ボディ内に配置されるコイルと、前記コイルに内挿される可動鉄心と、前記永久磁石をコイル軸方向に規制して磁路を形成する磁石磁路形成用ストッパと、を備える永久磁石内蔵型ソレノイドであって、
前記磁石磁路形成用ストッパは、コイル軸方向に断面凸部形状を有し、
前記断面凸部形状の突出部の内側には前記可動鉄心の移動を規制および吸着する可動鉄心吸着面を有し、
前記可動鉄心吸着面は前記一端側端面よりも前記ボディの外部方向に延出し、
前記ボディと前記磁石磁路形成用ストッパが近接する部分に磁気ギャップを有
し、
前記コイルの非通電時に前記永久磁石と前記ボディとガイドと前記可動鉄心と前記可動鉄心吸着面と前記磁石磁路形成用ストッパとの間に形成される第1磁路と、
前記コイルの通電時に前記永久磁石と前記磁石磁路形成用ストッパと前記ボディとの間に形成される前記第1磁路よりも磁路距離が短い第2磁路と、
前記コイル通電時のコイルとガイドと可動鉄心と固定鉄心とボディの間に形成されるコイル磁路と、
前記可動鉄心を非通電時の配置に戻す方向に弾発するリターンスプリングとを有し、
前記ボディと前記磁石磁路形成用ストッパはカバーを介して勘合されており、当該カバーにより前記磁気ギャップが設けられており、
前記カバーは鍔部を有し、
当該鍔部は前記永久磁石のコイル径方向の固定をして、前記鍔部によって前記永久磁石は前記ボディの内径と前記コイルの内径とに対して同心に位置決めされることを特徴とする永久磁石内蔵型ソレノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイドに係り、さらに詳細には永久磁石を付設した永久磁石内蔵型ソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ソレノイドは、ソレノイド内のコイルに通電することで電磁力を発生させ、コイル内側の可動鉄心(プランジャ)を吸引し移動させることができる。このようなソレノイドは、一般的にコイルが一つ(単コイル)の場合、コイルの通電によりコイルの動作方向一端の可動鉄心吸着面で可動鉄心を保持している。この可動鉄心吸着面でのコイル保持を維持するためには、コイルの通電をし続ける必要があるため、コイルの発熱や消費電力の増大などの問題があった。
【0003】
そこで、消費電力を低減しながら可動鉄心の自己保持やコイルの動作方向両端の可動鉄心吸着面で可動鉄心の保持を行う手段として、永久磁石を用いた自己保持型の単コイルソレノイド(例として特許文献1)や双方向性アシスト機能を備えた永久磁石を含んだ単コイルソレノイドが開示されている(例として特許文献2)。
【0004】
特許文献1には、コイル通電状態から非通電にした時に可動鉄心をスプリングの付勢力に抗して永久磁石にて固定鉄心へ吸着保持させ、コイルに最初の通電方向とは逆方向の電流を通電することで永久磁石の吸着保持を解除している、プランジャ型電磁石が開示されている。
【0005】
特許文献2には、単コイルが脱エネルギー状態にあるとき永久磁石に引き寄せられて保持ポジションを維持し、単コイルが有エネルギー状態にあるとき永久磁石と反発して押し引き力を発生させる磁極性を有する可動鉄心を含み、可動鉄心を保持するだけでなく、単コイルに通電されると可動鉄心を移動させる双方向性アシスト機能を備える永久磁石を有した単コイルソレノイドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平02-165606
【文献】特開2005-064491
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のプランジャ型電磁石では、永久磁石の自己保持を解除するためにコイルに最初の通電方向と逆方向の電流を流すため、ソレノイド制御が複雑化し、コストがアップする。
【0008】
また、特許文献2の双方向性アシスト機能を備え、永久磁石を有した単コイルソレノイドでは、永久磁石は、非磁性スペーサを介して可動鉄心を引き寄せる必要があり、且つコイル通電時に可動鉄心を反発させることができる磁力を有する必要があるので、磁石を大型化させて保持力を高める必要がある。
【0009】
さらに、コイルの磁路の磁束量が、永久磁石の磁路より過大となった場合、永久磁石に逆磁界がかかることで減磁して保持力が低下してしまう。そのため、減磁しないようにするには磁石の磁力およびコイルの磁路設計に大きな制限がかかる。つまりは、コイル通電時の電磁力を上げて可動鉄心の強制開放動作速度を上げようとしても磁石の劣化、保持力低下に係る影響を鑑みた設計を都度行う必要があり、設計工数の増加が問題となる。
【0010】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成の複雑化および大型化を伴うことなく、コイル通電時の電磁力を大きくした場合にも永久磁石の保持力が低下しない永久磁石内蔵型ソレノイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る永久磁石内蔵型ソレノイドは、
円筒軸方向に開口部を有する円筒状のボディと、前記ボディの一端側端面に配置された永久磁石と、前記ボディ内に配置されるコイルと、前記コイルに内挿される可動鉄心と、前記永久磁石をコイル軸方向に規制して磁路を形成する磁石磁路形成用ストッパと、を備える永久磁石内蔵型ソレノイドであって、
前記磁石磁路形成用ストッパは、コイル軸方向に断面凸部形状を有し、
前記断面凸部形状の突出部の内側には前記可動鉄心の移動を規制および吸着する可動鉄心吸着面を有し、
前記可動鉄心吸着面は前記一端側端面よりも前記ボディの外部方向に延出し、
前記ボディと前記磁石磁路形成用ストッパが近接する部分に磁気ギャップを有し、
前記コイルの非通電時に前記永久磁石と前記ボディとガイドと前記可動鉄心と前記可動鉄心吸着面と前記磁石磁路形成用ストッパとの間に形成される第1磁路と、
前記コイルの通電時に前記永久磁石と前記磁石磁路形成用ストッパと前記ボディとの間に形成される前記第1磁路よりも磁路距離が短い第2磁路と、
前記コイル通電時のコイルとガイドと可動鉄心と固定鉄心とボディの間に形成されるコイル磁路と、
前記可動鉄心を非通電時の配置に戻す方向に弾発するリターンスプリングとを有し、
前記ボディと前記磁石磁路形成用ストッパはカバーを介して勘合されており、当該カバーにより前記磁気ギャップが設けられており、
前記カバーは鍔部を有し、
当該鍔部は前記永久磁石のコイル径方向の固定をして、前記鍔部によって前記永久磁石は前記ボディの内径と前記コイルの内径とに対して同心に位置決めされることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る永久磁石内蔵型ソレノイドによれば、コイル通電時と非通電時とで永久磁石の磁路が切り替わる構造により複雑な構造にすることなく永久磁石の保持力低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コイル非通電時の本実施形態の永久磁石内蔵型ロックソレノイドの断面図である。
【
図2】コイル通電開始時の
図1に示す永久磁石内蔵型ロックソレノイドの磁路の変化を示す拡大図である。
【
図3】コイル通電時可動鉄心フルストローク状態の
図1および
図2の永久磁石内蔵型ロックソレノイドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、
図1から
図3を用いて、本発明の一実施形態に係る永久磁石内蔵型ロックソレノイドについて説明する。
図1は、本実施形態のコイル非通電時の永久磁石内蔵型ロックソレノイドの断面図である。
図2は、コイル通電開始時の永久磁石内蔵型ロックソレノイドの磁路の変化を示す拡大図である。
図3は、コイル通電時可動鉄心がフルストロークしている状態の永久磁石内蔵型ロックソレノイドの断面図である。
【0015】
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る永久磁石内蔵型ロックソレノイド10は、円筒軸方向に開口部を有する円筒状のボディ11内に永久磁石12およびコイル13が配置されている。ボディ11の一端側端面11aに永久磁石12を設置し、磁石磁路形成用ストッパ15の磁石軸方向規制面15bによって、永久磁石12はコイル軸方向の移動が規制されている。
【0016】
ボディ11と磁石磁路形成用ストッパ15の勘合部20aには非磁性体のカバー20が介在している。このカバー20の鍔部20bによって永久磁石12のコイル径方向の固定がされ、永久磁石12はボディ11の内径とコイル13内径に対して同心となるように位置決めされている。
【0017】
ボディ11には段付部11bが設けられており、ガイド16を介してコイル13を勘合する。ガイド着座面16aと磁石磁路形成用ストッパ15との間にはエアギャップの役割を果たす空間30が形成されている。また、ボディ11と磁石磁路形成用ストッパ15との間にはエアギャップ形成のために空間30aが形成されている。
【0018】
本実施形態は空間30、30aにて磁石磁路形成用ストッパ15とボディ11、磁石磁路形成用ストッパ15とガイド16の間にエアギャップを形成しているが、空間30、30aに非磁性体を詰めてもよい。また非磁性体を詰めることで永久磁石12や磁石磁路形成用ストッパ15の固定および段付部11bの代替としてガイド着座面16aの着座位置としてもよい。
【0019】
ガイド16の内径には可動鉄心14が摺動自在に嵌挿されており、可動鉄心14はコイル13の励磁の電磁力によりコイル13に内挿され、コイル軸方向に移動するようになっている。磁石磁路形成用ストッパ15の可動鉄心吸着面15aは、可動鉄心14の動作方向の一端を保持しており、且つボディ11の一端側端面11aよりもボディ11の外部方向に延出している。
【0020】
コイル13の一方の端部はガイド16と係合しており、他方の端部は固定鉄心17と係合されている。固定鉄心17にはエンドプレート18が係合され、固定鉄心17とエンドプレート18はボディ11でカシメ固定されている。ボディ11外周にはフランジ24を溶接や圧入等で固着し、永久磁石内蔵型ロックソレノイド10はフランジ24によって図示しない被固定対象物に固定される。
【0021】
可動鉄心14にはシャフト部材14aが延接されており、シャフト部材14aの外周部には可動鉄心14を非通電時の配置に戻す方向に弾発するリターンスプリング22が介在している。リターンスプリング22はスプリングガイド23で保持されており、シャフト部材14aの先端にはロック部材21を有し、ロック対象物の固定が可能である。
【0022】
本実施形態に係る永久磁石内蔵型ロックソレノイド10は、以上のように構成されるものであり、次にその動作ならびに作用効果について説明する。
【0023】
図1は、コイル13に通電がされていない状態であり、可動鉄心14は、リターンスプリング22と永久磁石12によって可動鉄心吸着面15aに固定され、保持されている。このとき永久磁石内蔵型ロックソレノイド10に発生する永久磁石12の磁束流れはボディ11とガイド16と可動鉄心13と可動鉄心吸着面15aと磁石磁路形成用ストッパ15との間の形成される第1磁路40となる。
【0024】
本来コイル13に通電がされていない状態では永久磁石12の磁束が発生しやすいのは、磁石磁路形成用ストッパ15と、磁石磁路形成用ストッパ15とボディ11の近接する嵌合部20aと、ボディ11間の、第1磁路40よりも磁路距離が短い
図2に示すような第2磁路41である。しかし、本実施形態では、本来磁束が発生しやすい嵌合部20aに非磁性体のカバー20が介していることで0.1~0.3mmの磁気ギャップGを設けている。この磁気ギャップGにより、コイル13に通電がされていない状態では磁気ギャップが生じない磁性体間の第1磁路40が優先的に形成されている。
【0025】
本実施形態の永久磁石12は、引用文献2のようにコイル13が通電されていない状態で非磁性スペーサを介した可動鉄心14の吸着をする必要が無い。そのため、非磁性体を介するゆえに必要である永久磁石12の大型化、すなわち磁力低下を見越した保持力増加が不要となる。
【0026】
コイル13を励磁し電磁力が発生すると
図2および
図3に示すようにコイル13とガイド16と可動鉄心14と固定鉄心17とボディ11の間に形成されるコイル磁路42が形成される。このコイル磁路42が形成されると、コイル磁路42と永久磁石12の第1磁路40の共有磁路となるガイド16にはコイル13の磁束で磁束飽和が発生するので、第1磁路40はコイル通電時においては対向した磁路方向となり通りにくくなる。そのため、永久磁石12の磁路は、ガイド16を通過しない磁路として、コイル通電時においては、永久磁石12と磁石磁路形成用ストッパ15とボディ11との間に形成される第1磁路40よりも磁路距離が短い第2磁路41を優先的に形成する。
【0027】
第2磁路41は可動鉄心吸着面15aを磁路としていない。そのため、コイル非通電時に可動鉄心14に働いていた永久磁石12による保持力が無くなるので、可動鉄心14はリターンスプリング22の弾発力に打ち勝つだけのコイル13の電磁力で移動を行うことができ、消費電力を抑えて可動鉄心14の固定鉄心17側への吸引・移動が可能となる。消費電力を抑えることができるということはコイル13の小型化にも寄与することとなる。
【0028】
さらに、コイル通電時にコイル13の磁束はガイド16を通り、永久磁石12を通過しない構造であるため、永久磁石12のパーミアンス係数の低下を抑制でき、永久磁石12の劣化、すなわち保持力の低減を防ぐことができる。
【0029】
また、コイル磁路42が永久磁石12を通過しない構造であるため、コイル13の電磁力を上げて、可動鉄心14の強制開放速度を上げても永久磁石12に逆磁界がかかりにくい構造となる。そのため、コイル13の通電量を上げる際に永久磁石12の劣化、保持力低下に係る影響を鑑みた設計が必要なく設計変更も容易となり、設計工数の低減を図ることが出来る。
【0030】
図1と
図3を対比すると分かるように磁石磁路形成用ストッパ15がコイル軸方向に断面凸部形状を有し、断面凸部形状の突出部の内側には可動鉄心14の移動を規制および吸着する可動鉄心吸着面15aを有することで、非通電時において可動鉄心14が内包される内包空間19となっている。内包空間19を有することで、可動鉄心14の移動距離を長くできるメリットがある。さらに、先述した磁気ギャップGを設けることで通電時、非通電時に磁路を変更される構造となっている。
【0031】
固定鉄心17には空洞17aを設けており、空洞17a部分を利用し組立時に可動鉄心14の移動距離(ストローク)測定および調整をすることができ、さらに位置検出を行うためのセンサを設置することも可能である。
【0032】
本実施形態において、リターンスプリング22はボディ11外部に露出した構造となっているがボディ11内部に内包する構造であってもよい。
【0033】
シャフト部材14aを実施形態では永久磁石12設置側外部方向に延出する設計としたが、固定鉄心17に設けた空洞部17aを介してボディ11外部にシャフト部材14aを延出する設計としてもよい。その場合は、コイル13通電時に対象物をロックする構造となる。
【0034】
磁気ギャップGを形成する、カバー20の形状は、本実施形態の形状に限定されるものではなく、磁石磁路形成用ストッパ15の外周円筒部とボディ11の間に磁気ギャップGを設けられればよく、例えば単純な円筒形状でもよい。その場合、例えば空間30aに非磁性体を詰めることで永久磁石12のコイル径方向の固定等を行えばよい。
【0035】
なお、本実施形態では永久磁石内蔵型ロックソレノイド10の電磁力をリターンスプリング22の弾発力に打ち勝ち、コイル通電によって可動鉄心14が強制的に移動(ロックを解除)する想定で説明を行ったが、リターンスプリング22の弾発力と同等の電磁力をコイル通電によってかけることで、ロック部材21にかかる荷重によって可動鉄心14が動作する状態にすることも可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 永久磁石内蔵型ロックソレノイド
11 ボディ
12 永久磁石
13 コイル
14 可動鉄心
15 磁石磁路形成用ストッパ
16 ガイド
17 固定鉄心
20 カバー
22 リターンスプリング
24 フランジ
40 第1磁路
41 第2磁路
42 コイル磁路
G 磁気ギャップ