(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】直接形電力変換器用の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221019BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H02M7/48 Y
H02M7/12 Q
(21)【出願番号】P 2019047374
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103229
【氏名又は名称】福市 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 憲一
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-061422(JP,A)
【文献】特開2015-076921(JP,A)
【文献】特開2015-084637(JP,A)
【文献】特開2016-082680(JP,A)
【文献】特開2011-193678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接形電力変換器(100)を制御する制御装置(10)であって、
前記直接形電力変換器は、
直流リンク(7)と、
単相交流電圧(Vin)を整流し、交流電力を直流電力に変換して第1瞬時電力(Pin)を出力するコンバータ(3)と、
前記コンバータおよび前記直流リンクとの間で電力を授受し、第2瞬時電力(Pbuf)でバッファリングする電力バッファ回路(4)と、
前記直流リンクにおける直流電圧を交流電圧に変換して出力するインバータ(5)と
を備え、
前記制御装置は、
前記コンバータから前記直流リンクに第1電流(irec1)が流れるデューティである第1デューティ(drec’,drec’’)と、前記電力バッファ回路から前記直流リンクに第2電流(ic)が流れるデューティである第2デューティ(dc’,dc’’)とを生成するデューティ生成部(1020)と、
前記第1デューティおよび前記第2デューティと、前記インバータが出力する電圧の指令値(Vu*,Vv*,Vw*)とに基づいて、前記インバータの動作を制御するインバータ制御信号(SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwn)を出力するインバータ制御部(101)と
を備え、
前記第1デューティは第1積と第2積との和と等しく、
前記第1積は、前記交流電圧の振幅(Vm)に対する所定電圧(Vdc)の第1比(Vdc/Vm)と前記交流電圧の位相(ωt)の正弦値の絶対値(|sin(ωt)|)との積であり、
前記第2積は、第3電流(il0-il,il’)と前記第1比と値√2との積(√2・(il0-il)・(Vdc/Vm),√2・il’・(Vdc/Vm))であり、
前記第3電流は、前記直流リンクから前記電力バッファ回路に入力する第4電流(il)の高調波成分(il’)の少なくとも一部または前記第4電流の基本波成分と前記第4電流との差(il0-il)を、前記コンバータ(3)に入力する入力電流(Iin)の実効値(Im/√2)で正規化した電流である、直接形電力変換器用の制御装置。
【請求項2】
前記電力バッファ回路(4)は、
コンデンサ(C4)と、前記コンデンサを前記直流リンクに接続する第1スイッチ(Sc,D42)とを有する放電回路(4a)と、
前記コンデンサを充電する充電回路(4b)と
を含み、
前記制御装置は、
前記第2デューティ(dc’,dc’’)に基づいて前記第1スイッチを導通させる第1スイッチ信号(SSc)を出力し、
前記第2デューティは第3積から第4積を減じた値と等しく、
前記第3積は、前記コンデンサの両端の電圧である両端電圧(Vc,Vc*)に対する前記所定電圧(Vdc)の第2比(Vdc/Vc)と前記交流電圧の位相(ωt)の余弦値の二乗(cos
2(ωt))との積であり、
前記第4積は、前記両端電圧に対する前記振幅(Vm)の第3比(Vm/Vc)と前記第2積(√2・(il0-il)・(Vdc/Vm),√2・il’・(Vdc/Vm))と前記正弦値の前記絶対値(|sin(ωt)|)との積である、請求項1記載の直接形電力変換器用の制御装置。
【請求項3】
前記第3電流(il0-il)は、前記入力電流(Iin)が有する高調波成分の、前記入力電流の基本波に対する含有率から決定される、請求項2記載の直接形電力変換器用の制御装置。
【請求項4】
前記第3電流(il’)は、前記第4電流(il)が有する高調波成分の少なくとも一つの周波数成分の少なくとも一部の、前記入力電流(Iin)の基本波に対する含有率である、請求項2記載の直接形電力変換器用の制御装置。
【請求項5】
前記デューティ生成部は、
前記第1積で原第1デューティ(drec)を、前記第3積で原第2デューティ(dc)を、それぞれ得るデューティ演算部(1021)と、
前記第2積と前記原第1デューティから前記第1デューティ(drec’,drec’’)を、前記第4積と前記原第2デューティから前記第2デューティ(dc’,dc’’)を、それぞれ得るデューティ補正部(1023)と
を有する、請求項2から請求項4のいずれか一つに記載の直接形電力変換器用の制御装置。
【請求項6】
前記充電回路(4b)は、
エネルギーを前記コンデンサ(C4)に蓄積するリアクトル(L4)と、
前記リアクトルに前記コンバータ(3)を接続して前記リアクトルにエネルギーを蓄積させる第2スイッチ(Sl,D41)と
を有し、
前記第2スイッチに、前記単相交流電圧(Vin)の半周期においてオン、オフを一回ずつ行わせる第2スイッチ信号(SSl)を生成するスイッチ信号生成部(1031)
を更に備える、請求項2から請求項5のいずれか一つに記載の直接形電力変換器用の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電力を変換する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
単相交流電源から得られる電力には、電源周波数の2倍の周波数で脈動する成分が存在する。整流回路を用いて一定の直流電圧を得るために、大容量のエネルギー蓄積要素が望まれる。
【0003】
アクティブバッファを構成するコンデンサを、スイッチング素子を介して直流リンクに接続し、電圧源として機能させる技術が提案されている。このような技術において基本的には、アクティブバッファに流れる電流の波形は正弦波である。
【0004】
本開示に関連する先行技術文献として特許文献1を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、電力変換器へ入力される入力電流の波形の、正弦波からの歪みを低減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の直接形電力変換器用の制御装置は、直接形電力変換器(100)を制御する制御装置(10)である。前記直接形電力変換器は、直流リンク(7)と、単相交流電圧(Vin)を整流し、交流電力を直流電力に変換して第1瞬時電力(Pin)を出力するコンバータ(3)と、前記コンバータおよび前記直流リンクとの間で電力を授受し、第2瞬時電力(Pbuf)でバッファリングする電力バッファ回路(4)と、前記直流リンクにおける直流電圧を交流電圧に変換して出力するインバータ(5)とを備える。
【0008】
前記制御装置の第1の態様は、前記コンバータから前記直流リンクに第1電流(irec1)が流れるデューティである第1デューティ(drec’,drec’’)と、前記電力バッファ回路から前記直流リンクに第2電流(ic)が流れるデューティである第2デューティ(dc’,dc’’)とを生成するデューティ生成部(1020)と、前記第1デューティおよび前記第2デューティと、前記インバータが出力する電圧の指令値(Vu*,Vv*,Vw*)とに基づいて、前記インバータの動作を制御するインバータ制御信号(SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwn)を出力するインバータ制御部(101)とを備える。
【0009】
前記第1デューティは第1積と第2積との和と等しい。前記第1積は、前記交流電圧の振幅(Vm)に対する所定電圧(Vdc)の第1比(Vdc/Vm)と前記交流電圧の位相(ωt)の正弦値の絶対値(|sin(ωt)|)との積である。前記第2積は、第3電流(il0-il,il’)と前記第1比と値√2との積(√2・(il0-il)・(Vdc/Vm),√2・il’・(Vdc/Vm))である。
【0010】
前記第3電流は、前記直流リンクから前記電力バッファ回路に入力する第4電流(il)の高調波成分(il’)の少なくとも一部または前記第4電流の基本波成分と前記第4電流との差(il0-il)を、前記コンバータ(3)に入力する入力電流(Iin)の実効値(Im/√2)で正規化した電流である。
【0011】
前記制御装置の第2の態様が制御する前記直接形電力変換器において前記電力バッファ回路(4)は、コンデンサ(C4)と、前記コンデンサを前記直流リンクに接続する第1スイッチ(Sc,D42)とを有する放電回路(4a)と、前記コンデンサを充電する充電回路(4b)とを含む。
【0012】
前記制御装置の第2の態様は、その第1の態様であって、前記第2デューティ(dc’,dc’’)に基づいて前記第1スイッチを導通させる第1スイッチ信号(SSc)を出力する。
【0013】
前記第2デューティは第3積から第4積を減じた値と等しい。前記第3積は、前記コンデンサの両端の電圧である両端電圧(Vc,Vc*)に対する前記所定電圧(Vdc)の第2比(Vdc/Vc)と前記交流電圧の位相(ωt)の余弦値の二乗(cos2(ωt))との積である。前記第4積は、前記両端電圧に対する前記振幅(Vm)の第3比(Vm/Vc)と前記第2積(√2・(il0-il)・(Vdc/Vm),√2・il’・(Vdc/Vm))と前記正弦値の前記絶対値(|sin(ωt)|)との積である。
【0014】
前記制御装置の第3の態様は、その第2の態様であって、前記第3電流(il0-il)は、前記入力電流(Iin)が有する高調波成分の、前記入力電流の基本波に対する含有率から決定される。
【0015】
前記制御装置の第4の態様は、その第2の態様であって、前記第3電流(il’)は、前記第4電流(il)が有する高調波成分の少なくとも一つの周波数成分の少なくとも一部が、前記入力電流(Iin)の基本波に対する含有率である。
【0016】
前記制御装置の第5の態様は、その第2の態様から第4の態様のいずれか一つであって、前記デューティ生成部は、前記第1積で原第1デューティ(drec)を、前記第3積で原第2デューティ(dc)を、それぞれ得るデューティ演算部(1021)と、前記第2積と前記原第1デューティから前記第1デューティ(drec’,drec’’)を、前記第4積と前記原第2デューティから前記第2デューティ(dc’,dc’’)を、それぞれ得るデューティ補正部(1023)とを有する。
【0017】
前記制御装置の第6の態様が制御する前記直接形電力変換器において前記充電回路(4b)は、エネルギーを前記コンデンサ(C4)に蓄積するリアクトル(L4)と、前記リアクトルに前記コンバータ(3)を接続して前記リアクトルにエネルギーを蓄積させる第2スイッチ(Sl,D41)とを有する。
【0018】
前記制御装置の第6の態様は、その第2の態様から第5の態様のいずれか一つであって、前記第2スイッチに、前記単相交流電圧(Vin)の半周期においてオン、オフを一回ずつ行わせる第2スイッチ信号(SSl)を生成するスイッチ信号生成部(1031)を更に備える。
【0019】
この開示にかかる直接形電力変換器用の制御装置の第1の態様によれば、入力電流の波形の正弦波に対する歪みが低減される。
【0020】
この開示にかかる直接形電力変換器用の制御装置の第2の態様~第5の態様は、インバータが出力する電力の脈動を低減する観点で有利である。
【0021】
この開示にかかる直接形電力変換器用の制御装置の第6の態様は、スイッチングノイズを低減する観点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】直接形電力変換器の構成を例示するブロック図である。
【
図2】直接形電力変換器の等価回路を示す回路図である。
【
図3】直接形電力変換器での電力の収支を模式的に示すブロック図である。
【
図4】直接形電力変換器の動作を例示するグラフである。
【
図5】リアクトルに流れる電流の波形を例示するグラフである。
【
図6】直接形電力変換器の動作を例示するグラフである。
【
図7】制御装置の構成を例示するブロック図である。
【
図8】リアクトルに流れる電流の波形を例示するグラフである。
【
図9】直接形電力変換器の動作を例示するグラフである。
【
図10】放電制御部の第1の構成およびその近傍を例示するブロック図である。
【
図11】放電制御部の第2の構成およびその近傍を例示するブロック図である。
【
図12】入力電流の高調波のスペクトルを例示するグラフである。
【
図13】リアクトルに流れる電流の波形を例示するグラフである。
【
図14】入力電流の高調波のスペクトルを例示するグラフである。
【
図15】入力電流の高調波のスペクトルを例示するグラフである。
【
図16】直接形電力変換器の動作を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
{A.電力変換器およびその制御装置の構成}
図1は直接形電力変換器100の構成を例示するブロック図である。当該直接形電力変換器100に、本開示にかかる制御技術を適用することができる、当該直接形電力変換器100は、コンバータ3と、フィルタ2と、電力バッファ回路4と、インバータ5と、直流リンク7とを備える。電力バッファ回路4は上述のアクティブバッファとして機能する。
【0024】
コンバータ3は例えばダイオードブリッジを採用し、ダイオードD31~D34を備える。ダイオードD31~D34はブリッジ回路を構成する。コンバータ3には単相交流電源1から単相の交流電圧Vin(=Vm・sin(ωt))が入力される。コンバータ3は交流電圧Vinを単相全波整流した後の整流電圧Vrec(=|Vin|)を得て、整流電圧Vrecをフィルタ2および電力バッファ回路4へ出力する。コンバータ3には単相交流電源1から入力電流Iinが流れ込む。コンバータ3は電流irec(=|Iin|;Iin=Im・sin(ωt))を出力する。
【0025】
フィルタ2は、リアクトルL2とコンデンサC2とを備えている。リアクトルL2の一端はコンバータ3の出力側の高電位端3A、具体的にはダイオードD31,D33のカソードの両方に接続される。リアクトルL2の他端はコンデンサC2を介して、コンバータ3の出力側の低電位端3B、具体的にはダイオードD32,D34のアノードの両方に接続される。
【0026】
よってフィルタ2では、リアクトルL2とコンデンサC2との直列接続において整流電圧Vrecが入力され、コンデンサC2が支持する電圧が出力される。但し、フィルタ2は電流の高周波成分を除去する機能を担うので、以下の説明ではコンデンサC2が支持する電圧も整流電圧Vrecと等しいとして取り扱う。
【0027】
直流リンク7は直流電源線LLと、直流電源線LLよりも電位が高い直流電源線LHとを有する。直流電源線LHは、後述する逆電流阻止回路8とリアクトルL2とを介して、コンバータ3の高電位端3Aに接続される。直流電源線LLはコンバータ3の低電位端3Bに接続される。
【0028】
電力バッファ回路4は放電回路4a、充電回路4bを有する。電力バッファ回路4はコンバータ3および直流リンク7との間で電力を授受する。放電回路4aはバッファコンデンサとしてコンデンサC4を含み、充電回路4bは整流電圧Vrecを昇圧してコンデンサC4を充電する。
【0029】
放電回路4aはダイオードD42と、ダイオードD42と逆並列接続されたトランジスタ(ここでは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:以下「IGBT」と略記)Scとを更に含んでいる。トランジスタScはコンデンサC4に対して直流電源線LH側で、直流電源線LH,LLの間で直列に接続されている。
【0030】
ここで逆並列接続とは、順方向が相互に逆となって並列に接続されていることを指す。具体的にはトランジスタScの順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向であり、ダイオードD42の順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向である。トランジスタScとダイオードD42とはまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSc)として把握することができる。スイッチScの導通によってコンデンサC4が直流リンク7に接続され、コンデンサC4が放電して直流リンク7へと電力を授与する。
【0031】
充電回路4bは、例えばダイオードD40と、リアクトルL4と、トランジスタ(ここではIGBT)Slとを含んでいる。ダイオードD40は、カソードと、アノードとを備え、当該カソードはスイッチScとコンデンサC4との間に接続される。かかる構成はいわゆる昇圧チョッパとして知られている。
【0032】
リアクトルL4は高電位端3AとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlは直流電源線LLとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlにはダイオードD41が逆並列接続されており、両者をまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSl)として把握することができる。具体的にはトランジスタSlの順方向は高電位端3Aから低電位端3Bへと向かう方向であり、ダイオードD41の順方向は低電位端3Bから高電位端3Aへと向かう方向である。
【0033】
コンデンサC4は充電回路4bにより充電され、コンデンサC4の両端の電圧Vc(以下、単に「両端電圧」とも称す)は整流電圧Vrecよりも高い。スイッチSlは、自身が導通することにより、リアクトルL4にコンバータ3を接続してリアクトルL4にエネルギーを蓄積する。具体的には高電位端3AからスイッチSlを経由して低電位端3Bへと電流を流すことによってリアクトルL4にエネルギーを蓄積する。その後にスイッチSlをオフすることによって当該エネルギーがダイオードD40を経由してコンデンサC4に蓄積される。
【0034】
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、基本的にはダイオードD42には電流が流れない。従ってスイッチScの導通/非導通は専らトランジスタScのそれに依存する。ここで、ダイオードD42は両端電圧Vcが整流電圧Vrecより低い場合の逆耐圧を確保するとともに、インバータ5が異常停止したときに誘導性負荷6から直流リンク7へ還流する電流を逆導通させるように作用する。
【0035】
また、ダイオードD41の順方向は低電位端3Bから高電位端3Aに向う方向であるので、基本的にはダイオードD41には電流が流れない。従ってスイッチSlの導通/非導通は専らトランジスタSlのそれに依存する。ここで、ダイオードD41は逆耐圧や逆導通をもたらすためのダイオードであり、IGBTで実現されるトランジスタSlに内蔵されるダイオードとして例示したが、ダイオードD41それ自体は回路動作には関与しない。
【0036】
逆電流阻止回路8はフィルタ2と直流電源線LHとの間に設けられ、放電回路4aからフィルタ2へと逆流する電流を阻止する。逆電流阻止回路8は例えばダイオードD43で実現される。ダイオードD43のアノードはフィルタ2、より具体的にはリアクトルL2を介して高電位端3Aに接続される。ダイオードD43のカソードは直流電源線LHに接続される。かかる逆電流阻止回路8は例えば特許第5772915号公報によって公知である。
【0037】
フィルタ2を介してコンバータ3から逆電流阻止回路8へ入力される電流irec1と、フィルタ2を介さずにコンバータ3から電力バッファ回路4へ、より具体的には充電回路4bへ流れる電流ilとを導入すると、コンバータ3から出力される電流irecは、電流irec1,ilの和である。リアクトルL4には電流ilが流れ、il=irec-irec1の関係にある。電流ilは例えば周知の電流センサによって測定される。電流ilを得るための構成は周知の技術であるので、図示を省略する。
【0038】
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、スイッチScが導通するときには電流irec1は値0をとる。
【0039】
なお、リアクトルL4を高電位端3Aに直接に接続せず、リアクトルL2を介して接続することもできる。しかしその場合には、フィルタ2には電流irec1ではなく電流ilも流れるので、フィルタ2に要求される電流容量が大きい。換言すればフィルタ2の電流容量を低減し、ひいてはフィルタ2を小型化する観点ではリアクトルL4をフィルタ2よりもコンバータ3に近い側に接続することが望ましい。
【0040】
インバータ5は直流リンク7における、より具体的には直流電源線LH,LLの間の直流電圧を交流電圧に変換して出力端Pu,Pv,Pwに出力する。当該直流電圧は、スイッチScが導通するときには両端電圧Vcをとる。当該直流電圧は、逆電流阻止回路8およびリアクトルL2での電圧降下を無視すると、スイッチScが導通しないときには整流電圧Vrecをとる。
【0041】
インバータ5は例えば三相の電圧形インバータであって、6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Supは出力端Puと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Svpは出力端Pvと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Swpは出力端Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sunは出力端Puと直流電源線LLとの間に接続され、スイッチング素子Svnは出力端Pvと直流電源線LLとの間に接続され、スイッチング素子Swnは出力端Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
【0042】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvpはスイッチング素子Svpと並列に接続され、ダイオードDwpはスイッチング素子Swpと並列に接続され、ダイオードDunはスイッチング素子Sunと並列に接続され、ダイオードDvnはスイッチング素子Svnと並列に接続され、ダイオードDwnはスイッチング素子Swnと並列に接続される。出力端Puからは負荷電流iuが出力され、出力端Pvからは負荷電流ivが出力され、出力端Pwからは負荷電流iwが出力される。負荷電流iu,iv,iwは三相交流電流を構成する。例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnのいずれにもIGBTが採用される。
【0043】
誘導性負荷6は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列に接続され、この直列体の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Rv,Rwについても同様である。またこれらの直列体の他端同士が相互に接続される。
【0044】
誘導性負荷6を同期機として説明を行う。速度検出部9は、誘導性負荷6に流れる負荷電流iu,iv,iwを検出する。速度検出部9は、負荷電流iu,iv,iwから得られる同期機6の回転角速度ωm、q軸電流Iqおよびd軸電流Idを(正確に言えばそれらを示す情報を;以下同様)直接形電力変換器用の制御装置10に与える。
【0045】
制御装置10には、回転角速度ωm、q軸電流Iqおよびd軸電流Idの他、単相交流電圧Vinの振幅Vm,角速度ω(あるいはこれと時間tとの積である位相θ=ωt)、回転角速度ωmの指令値ωm*および電流ilが入力される。
【0046】
{B.直接形電力変換器の等価回路と各種デューティ}
図2は、
図1に示された直接形電力変換器100の等価回路を示す回路図である。当該等価回路は、例えば特許第5804167号公報、および/または特許第5874800号公報で紹介されている。当該等価回路において電流irec1は、スイッチSrecが導通するときにこれを経由する電流irec1として等価的に表されている。同様に、電流icは、スイッチScが導通するときにこれを経由する電流icとして等価的に表されている。
【0047】
インバータ5において出力端Pu,Pv,Pwが直流電源線LH,LLのいずれか一方に共通して接続されるときにインバータ5を介して誘導性負荷6に流れる電流は、スイッチSzが導通するときにこれを経由して流れる零相電流izとして等価的に表されている。
【0048】
インバータ5および誘導性負荷6は、直流電流Idcを流す電流源Idcとして等価的に表されている。
【0049】
図2では、充電回路4bを構成するリアクトルL4とダイオードD40とスイッチSlとが示される。リアクトルL4を流れる電流ilが示される。
【0050】
当該等価回路において、スイッチSrec,Sc,Szが導通するそれぞれのデューティdrec’,dc’,dz’を導入する。特許第5804167号公報、および/または特許第5874800号公報から公知のように、0≦drec’≦1,0≦dc’≦1,0≦dz’≦1,drec’+dc’+dz’=1である。
【0051】
デューティdrec’はコンバータ3が直流リンク7に電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティである。以下、コンバータ3が直流リンク7に電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティを「第1デューティ」と称することがある。
【0052】
デューティdc’は、コンデンサC4が放電するデューティである。以下、コンデンサC4が放電するデューティを「第2デューティ」と称することがある。
【0053】
デューティdz’はインバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティである。インバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティを以下「第3デューティ」と称することがある。
【0054】
直流電流Idcはインバータ5を経由して誘導性負荷6に流れる電流である。電流irec1,ic,izはそれぞれ、直流電流Idcとデューティdrec’,dc’,dz’の積である。電流irec1,ic,izはそれぞれ、スイッチSrec,Sc,Szのスイッチング周期における平均値である。デューティdrec’,dc’,dz’は、各電流irec1,ic,izに対する直流電流Idcの電流分配率と見ることもできる。
【0055】
コンバータ3にダイオードブリッジを採用する場合、コンバータ3が能動的に第1デューティdrec’でスイッチングすることはできない。第3デューティdz’と、第2デューティdc’とに従って、それぞれインバータ5と、スイッチScがスイッチングすることによって、電流irec1を得ることができる。
【0056】
電力バッファ回路4の動作の概略.
コンバータ3に入力される瞬時電力Pinは式(1)で表される。式(1)の導出において入力電流Iinの振幅Imを採用し、入力力率を1とした。
【0057】
【0058】
瞬時電力Pinは、式(1)の最右辺の第2項で示される交流成分(-1/2)・Vm・Im・cos(2ωt)を有する。以下、この交流成分を「交流成分Pin^」とも称す。
【0059】
図3は
図1に示された直接形電力変換器100での電力の収支を模式的に示すブロック図である。
【0060】
図1に示された電力変換器は、下記のように把握することができる。
【0061】
コンバータ3は単相交流電圧Vinを整流し、交流電力を直流電力に変換して瞬時電力Pinを出力する。電力バッファ回路4はコンバータ3および直流リンク7との間で瞬時電力Pbufでバッファリングする。バッファリングされる瞬時電力Pbufは、瞬時電力Pcから瞬時電力Plを差し引いた電力差(Pc-Pl)と等しい。電力バッファ回路4に瞬時電力Plがコンバータ3から入力され、電力バッファ回路4は瞬時電力Pcを直流リンク7へ出力する。
【0062】
充電回路4bには、コンバータ3から電流iLが入力されて瞬時電力Plが入力される。瞬時電力Pcは、電力バッファ回路4(より具体的には放電回路4a)から直流リンク7に流れる電流icと両端電圧Vcとによって得られる瞬時電力である。瞬時電力Pdcは、瞬時電力Pinと瞬時電力Pcとの和から瞬時電力Plを引いた瞬時電力(=Pin+Pc-Pl)と等しい。インバータ5の損失を無視すれば瞬時電力Pdcは、インバータ5が出力する瞬時電力Poutと等しい。
【0063】
瞬時電力Precは、コンバータ3からフィルタ2および逆電流阻止回路8を介して直流リンク7に流れる電流irec1と整流電圧Vrecとによって得られる瞬時電力である。瞬時電力Precは電力差(Pin-Pl)に等しい。よってPdc=Prec+Pcが成立する。
【0064】
インバータ5は直流リンク7における直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ5には直流リンク7から瞬時電力Pdcが入力され、インバータ5は負荷電流iu,iv,iwを出力する。
【0065】
電力バッファ回路4が、交流成分Pin^の絶対値|Pin^|に相当する電力を直流リンク7との間で授受している場合、Pdc=Pin-Pin^であって、式(2)が成立する。
【0066】
【0067】
特許文献1と同様にして、直流リンク7においてインバータ5への電力供給に利用される直流電圧Vdcを導入する。直流電圧Vdcは、
図2において電流源Idcの両端における電圧として付記される。
【0068】
式(2)を考慮して直流電流Idcは式(3)で表現できる。直流電圧Vdcは式(4)で表現できる。
【0069】
【0070】
【0071】
通常の交流負荷の動作について、良く知られたdq軸の制御を行う場合を例にとる。dq軸上の電力式は一般に式(5)で示される。記号V*,Iはそれぞれ交流負荷に印加される電圧の指令値と、交流負荷に流れる電流とを示す。これらはいずれも交流であるので、複素数として表されることを示すドットが記号V*,Iのそれぞれに載っている。q軸電圧はその指令値Vq*に、d軸電圧はその指令値Vd*に、それぞれ理想的に追従するとしている。
【0072】
【0073】
直流電源線LH,LLからインバータ5に供給される瞬時電力Pdcには無効電力が存在しない。瞬時電力Pdcは式(5)の最右辺の第2項を無視して、式(6)で表される。
【0074】
【0075】
よって式(6)の脈動(交流成分)を0にする制御を行うことにより、式(3),(4)を実現する制御を行うことができる。上記の制御を行うための構成の一例は、例えば特許文献1で公知であるので、説明を省略する。
【0076】
{C.電流ilが正弦波の場合}
原第1デューティdrecおよび原第2デューティdcを、それぞれ式(7),(8)で定義する。但し直流電圧Vdcにはその指令値Vdc*を採用することができる。つまり以下において直流電圧Vdcは所定電圧として取り扱う。
【0077】
【0078】
【0079】
Vdc≦Vmである限り、0≦drec≦1を満足する。また直流電圧Vdcを指令値Vc*以下に設定することにより、0≦dc≦1を満足させるような設定が可能である。
【0080】
式(7),(8)から式(9)が求められ、これは式(4)においてdrec’=drec,dc’=dc,dz’=dzと設定した場合と一致する。よって式(4),(9)は第1デューティdrec’として原第1デューティdrecを採用し、第2デューティdc’として原第2デューティdcを用いた制御の妥当性を示す。
【0081】
【0082】
式(3),(7)から、原第1デューティdrecを用いた制御を行う場合の電流irec1は式(10)で求められる。
【0083】
【0084】
特許第5804167号公報、特許第5874800号公報で示されるように、電流ilが式(11)で示される値il0=irec1をとるときに、原第1デューティdrecおよび原第2デューティdcを用いた制御を行うことで、入力電流Iinが正弦波となる。
【0085】
【0086】
図4は、
図1に示された直接形電力変換器100の動作を例示するグラフである。当該動作は、電流ilが値il0をとり、原第1デューティdrecおよび原第2デューティdcで制御を行った場合について例示される。dz=1-dc-drecである。両端電圧Vcは指令値Vc*に正確に追従する。
【0087】
図4において、最上段にデューティdrec,dc,dzが示され、上から二段目に直流電圧Vdcおよびこれを構成する電圧drec・Vrec,dc・Vc(式(4)参照)並びに直流電流Idcが示され、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1が示され、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,-Pl,Precが示される。
【0088】
図4において横軸は位相ωtを「度」を単位として採用して示した。電流Idc,irec,ic,il,irec1は、振幅Imの実効値Im/√2で正規化した値を採用した。この正規化はIm=√2としてこれらの電流の値を換算したことと等価である。電圧Vrec・drec,Vc・dcは振幅Vmを1として換算し、Vc=1.14Vmを設定した。Vdc=0.86Vmを設定することにより、dz=1-dc-drecの最小値が0である。瞬時電力Pin,Pout,Pbuf,Pc,-Pl,Precは、上記のように換算された電圧と、電流との積として求められている。
【0089】
{D.電流ilが高調波成分を有する場合(I)}
原第1デューティdrecを用いた制御において、正弦波の絶対値の波形をとらない電流ilを流すと、入力電流Iinが正弦波から歪む可能性がある。この場合、値il0は電流ilの基本波成分である。
【0090】
以下のように原第1デューティdrecを補正して第1デューティdrec’を得て、第1デューティdrec’を用いて直接形電力変換器100の制御を行う。電流の連続性に鑑みて式(12)の関係が成立する第1デューティdrec’を導入する。
【0091】
【0092】
式(12)の第2式の右辺第2項(il0-il)/Idcを原第1デューティdrecに対する補正量Δdrec’とする。即ちdrec’=drec+Δdrec’である。il=il0であればdrec’=drec,Δdrec’=0である。これは上記「C.電流ilが正弦波の場合.」に相当する。
【0093】
式(10)を変形して式(13)が得られ、更に変形して式(14)が得られる。式(14)は、直流電流Idcを、入力電流Iinの実効値Im/√2で正規化した値として考えることができる。
【0094】
【0095】
【0096】
補正量Δdrec’は式(14)を用いて式(15)で表される。
【0097】
【0098】
式(7)から原第1デューティdrecは第1積として表される。第1積は、振幅Vmに対する直流電圧Vdcの比(Vdc/Vm)と、位相ωtの正弦値sin(ωt)の絶対値|sin(ωt)|との積である。
【0099】
補正量Δdrec’は、比(Vdc/Vm)と値√2と電流(il0-il)/(Im/√2)との積である。電流(il0-il)/(Im/√2)は、電流(il0-il)を、実効値Im/√2で正規化した値として考えることができる。電流(il0-il)は、電流ilの基本波成分il0と電流ilとの差であり、電流ilの高調波成分であると捉えることができる。
【0100】
比(Vdc/Vm)と、値√2と、電流ilの高調波成分を実効値Im/√2で正規化した値との積を第2積として説明する。第1デューティdrec’は原第1デューティdrecと補正量Δdrec’との和であり、従って第1積と第2積との和と等しい。
【0101】
式(15)に式(11)を適用して式(16)が得られる。
【0102】
【0103】
括弧[]の中の第1項|sin(ωt)|は、波高値を1としたときの入力電流Iinの基本波成分の絶対値と捉えることができる。irec=|Iin|=irec1-ilの関係があり、il0=irec1である(式(11)参照)。よって括弧[]は入力電流Iinの、基本波成分に対する高調波成分の含有率から決定できる。高調波成分の含有率が0のときにはn≧2においてin=0であり、補正量Δdrec’=0である。
【0104】
電流ilの高調波成分はそのまま電流irecに反映され、ひいては入力電流Iinの高調波成分に影響する。第1デューティdrec’を採用することにより、電流ilの波形によらず、入力電流Iinの正弦波に対する歪みが低減する。
【0105】
第1デューティdrec’の採用に伴い、
図3で例示された電力の収支を維持する。これは瞬時電力Pout(=Pdc)の脈動を低減する観点で有利である。
【0106】
以下のように原第2デューティdcを補正して得られる第2デューティdc’を用いて直接形電力変換器100の制御を行う。電流の連続性に鑑みて式(17)の関係が成立する第2デューティdc’を導入する。
【0107】
【0108】
式(15)、(17)から、補正量Δdc’を導入して式(18)が得られる。il=il0であればΔdc’=0,dc’=dcである。
【0109】
【0110】
式(8)から原第2デューティdcは第3積として表される。両端電圧Vcは指令値Vc*に追従するので、両者は等しいと考えられる。第3積は、両端電圧Vcに対する直流電圧Vdcの比(Vdc/Vc)と、位相ωtの余弦値cos(ωt)の二乗cos2(ωt)との積である。
【0111】
式(18)の第2式から、補正量Δdc’は第4積として表される。第4積は、両端電圧Vcに対する振幅Vmの比(Vm/Vc)と、補正量Δdrec’に等しい第2積と、正弦値sin(ωt)の絶対値(|sin(ωt)|)との積である。
【0112】
式(18)の第1式から、第2デューティdc’は、第3積から第4積を減じた値と等しい。
【0113】
第2デューティdc’を採用することにより、電流ilの波形によらず、瞬時電力Poutが平滑され、脈動分が除去される。
【0114】
瞬時電力Poutは積Vdc・Idcに等しく、これが瞬時電力Pdcに等しいことから、式(2),(9),(11)を参照して式(19)が成立する。
【0115】
【0116】
これは式(4)と一致し、第1デューティdrec’および第2デューティdc’を採用することにより直流電圧Vdcを一定にする制御が可能であることがわかる。
【0117】
電流ilの波形が正弦波の絶対値を呈さなくても、入力電流Iinの高調波成分を低減しつつ、電力のバッファリングを行うことができる。
【0118】
入力電流Iinの振幅Imおよび直流電流Idcは、原第1デューティdrecおよび原第2デューティdc、補正量Δdrec’,Δdc’のいずれについてもその取得に必要ではない。
【0119】
電流ilが高調波成分を有する場合の例を説明する。部分スイッチングは、充電電流の制御を簡易に行うスイッチングであり、「単相力率改善型コンバータの簡易スイッチング法」(菅、木全、打田、電気学会論文誌D,第116巻第4号、pp.420-426、平成8年)および「力率改善型エアコン用単相倍電圧コンバータ回路」(植杉、外4名、電気学会論文誌D,第119巻第5号、p.592-598、平成11年)で公知である。
【0120】
本実施の形態に即して言えば、スイッチSlのスイッチングに部分スイッチングを採用し、電流ilが制御される。例えばスイッチSlは整流電圧Vrecの一周期(これは単相交流電圧Vinの半周期に等しい)において、オン、オフをそれぞれ一回ずつ行う。電流ilは単相交流電圧Vinの半周期未満で連続して流れる。
【0121】
部分スイッチングでは従来のアクティブバッファを用いた方式よりもスイッチング回数が低い。スイッチSlのスイッチングに部分スイッチングを採用することで、当該スイッチング回数が低減する。当該スイッチング回数が低減することは、スイッチSlが発生するノイズの発生を低減する観点で有利である。
【0122】
電源高調波を低減する観点からは、入力電流Iinが正弦波から歪む量を小さくすることが望ましい。よって部分スイッチングを採用したときの電流ilを例にとって、本実施の形態の動作を説明する。
【0123】
図5は、部分スイッチングを採用したときの電流ilの波形を例示するグラフである。ここでは位相ωtが0~180度の領域を示す。位相ωtが180~360度の領域でも電流ilは同一の波形を示す。参考のため、値il0の波形も併記される。これらの波形は実効値Im/√2で正規化して示される。
【0124】
図5では位相0度でスイッチSlの導通が開始し、位相ωt=φ(0<φ<180)(度)においてスイッチSlが非導通となり、位相180度までスイッチSlの非導通が維持される場合が例示される。スイッチSlの導通が開始する位相、非導通となる位相の設定については、特許文献1、上述の文献「単相力率改善型コンバータの部分スイッチング法」、「力率改善型エアコン用単相倍電圧コンバータ回路」において公知であるので、詳細な説明を省略する。
【0125】
図6は、
図1に示された直接形電力変換器100の動作を例示するグラフであり、第1デューティdrec’、第2デューティdc’、第3デューティdz’(=1-drec’-dc’)を採用した場合の動作を示す。電流ilの波形として
図5に示された波形を採用した。
【0126】
図6においても振幅Imを√2として、振幅Vmを1として、それぞれ換算し、Vc=1.14Vm,Vdc=0.76Vmを設定した。
図6も
図4と同様に諸量を示す。具体的には、最上段にデューティdrec’,dc’,dz’が示され、上から二段目に直流電圧Vdcおよびこれを構成する電圧drec’・Vrec,dc’・Vc(式(19)参照)並びに直流電流Idcが示され、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1が示され、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,-Pl,Precが示される。
【0127】
部分スイッチングを採用して電力バッファ回路4に電流ilを流しても、第1デューティdrec’および第2デューティdc’を用いた制御を行うことにより、瞬時電力Pdcのみならず直流電圧Vdcおよび直流電流Idcが一定となる。電流irecの波形は正弦波の絶対値を呈することから、入力電流Iinの波形が正弦波であることがわかる。
【0128】
直流電圧Vdcをより高く設定すると、計算上dz’<0となる領域が発生する場合がある。このような場合のデューティdrec’,dc’,dz’デューティの修正については特許文献1、特許第5794273号公報で公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0129】
図7は制御装置10の構成を例示するブロック図である。制御装置10は、インバータ制御部101と、放電制御部102と、充電制御部103とを備える。
【0130】
インバータ制御部101は、第2デューティdc’と、第1デューティdrec’と、指令値Vu*,Vv*,Vw*とに基づいて、インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。
【0131】
指令値Vu*,Vv*,Vw*は、それぞれインバータ5が出力する電圧のVu,Vv,Vwの指令値である。インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnは、それぞれスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの動作を制御する。
【0132】
インバータ制御部101は、電圧指令生成部1011を有する。電圧指令生成部1011は位相θ(=ωt)、q軸電流Iq、d軸電流Id、回転角速度ωmおよびその指令値ωm*に基づいて、指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0133】
インバータ制御部101は更に、振幅変調指令部1012、演算部1013、比較部1014、論理演算部1015を有する。
【0134】
振幅変調指令部1012は、第2デューティdc’と第1デューティdrec’とに基づいて、演算部1013の動作を制御する。演算部1013は、図示の簡単のために乗算器のみの記号で示されるものの、指令値Vu*,Vv*,Vw*と、第2デューティdc’および第1デューティdrec’とを用いた積和演算を行って信号波Mを生成する。当該積和演算それ自体は公知の技術であるので詳細な説明は省略する。
【0135】
比較部1014は、信号波MとキャリアCAとの値を比較した結果を論理演算部1015へ出力する。当該結果に対して論理演算部1015は論理演算を行って、インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。
【0136】
放電制御部102は、デューティ演算部1021、比較器1022、デューティ補正部1023を有する。
【0137】
デューティ演算部1021には、位相θ、振幅Vm、両端電圧Vcの指令値Vc*、直流電圧Vdcの指令値Vdc*が入力される。これらを用いてデューティ演算部1021は原第2デューティdcと原第1デューティdrecとを求める。
【0138】
デューティ補正部1023は原第1デューティdrecを補正量Δdrec’を用いて補正して第1デューティdrec’を得る。デューティ補正部1023は原第2デューティdcを補正量Δdc’を用いて補正して第2デューティdc’を得る。
【0139】
当該補正において直流電圧Vdcが必要となるが、これは式(9)で示される様に原第1デューティdrecおよび原第2デューティdcと、振幅Vmと位相θ、指令値Vc*から計算される。あるいは指令値Vdc*を用いてもよい。
【0140】
デューティ演算部1021とデューティ補正部1023とをまとめて、第2デューティdc’および第1デューティdrec’を生成するデューティ生成部1020として捉えることができる。
【0141】
比較器1022は第2デューティdc’とキャリアCAとを比較して、スイッチ信号SScを生成する。スイッチ信号SScはスイッチScのオン、オフを制御する。
【0142】
このようなインバータ制御部101および比較器1022の動作それ自体は公知の技術(例えば特許第5804167号公報、および/または、特許第5874800号公報)である。よってインバータ制御部101および比較器1022の構成の詳細を省略する。
【0143】
充電制御部103はスイッチ信号生成部1031を有する。スイッチ信号生成部1031はスイッチ信号SSlを生成する。スイッチ信号SSlはスイッチSlのオン、オフを制御する。スイッチ信号生成部1031は上述の文献「単相力率改善型コンバータの簡易スイッチング法」、および/または、「力率改善型エアコン用単相倍電圧コンバータ回路」で公知であるので、その詳細は省略する。
【0144】
例えばスイッチ信号生成部1031は瞬時電力Poutと、振幅Vmとに基づいてスイッチ信号SSlを生成する。
【0145】
{E.電流ilが高調波成分を有する場合(II)}
以下のように原第1デューティdrecを補正して第1デューティdrec’’を得て、第1デューティdrec’’を用いて直接形電力変換器100の制御を行う。補正量il’は電流ilの高調波成分のうちの少なくとも一部であり、電流の次元を有する。補正量il’は電流ilのうち、入力電流Iinにおいて低減したい周波数の少なくともいずれか一つの周波数の成分であり、かつその成分の少なくとも一部である。つまり{D.電流ilが高調波成分を有する場合(I)}とは異なり、電流ilの高調波成分の所望の周波数成分の所望の量について低減することが想定される。
【0146】
式(20)は、式(12)において形式的に、第1デューティdrec’を第1デューティdrec’’に、電流(il0-il)を補正量il’に、それぞれ置き換えて得られる。
【0147】
【0148】
式(20)の第2式の右辺第2項(il’/Idc)を原第1デューティdrecに対する補正量Δdrec’’とする。即ちdrec’’=drec+Δdrec’’である。il’=0であればdrec’’=drec,Δdrec’’=0である。これは上記「C.電流ilが正弦波の場合.」に相当する。
【0149】
式(15),(16)と同様にして式(21)が得られる。但し、式(16)とは異なり、n≧2である。
【0150】
【0151】
補正量Δdrec’’は、比(Vdc/Vm)と値√2と電流(il’)/(Im/√2)との積であり、電流(il’)/(Im/√2)は、補正量il’を、実効値Im/√2で正規化した値として考えることができる。よって補正量Δdrec’’も、第2積として捉えることができ、第1デューティdrec’’も第1積と第2積との和に等しい。
【0152】
同様に、式(17)において形式的に、第2デューティdc’を第2デューティdc’’に、電流(il0-il)を値(-il’)に、それぞれ置き換えて式(22)が得られる。
【0153】
【0154】
式(18)に対応して式(23)が得られる。
【0155】
【0156】
式(23)から、補正量Δdc’’も両端電圧Vcに対する振幅Vmの比(Vm/Vc)と、第2積と、正弦値sin(ωt)の絶対値(|sin(ωt)|)との積である。よって補正量Δdc’’も第4積であるということができ、第2デューティdc’’も第2デューティdc’と同様に、第3積から第4積を減じた値と等しい。
【0157】
式(8),(22)から式(24)が得られる。
【0158】
【0159】
このようにして得られた第1デューティdrec’’、第2デューティdc’’を用いて式(19)と同様に計算して、式(25)が得られる。つまり第1デューティdrec’’および第2デューティdc’’を採用することにより直流電圧Vdcを一定にする制御が可能であることがわかる。
【0160】
【0161】
電流ilの波形が正弦波の絶対値を呈さなくても、入力電流Iinの高調波成分を低減しつつ、電力のバッファリングを行うことができる。
【0162】
入力電流Iinの振幅Imおよび直流電流Idcは、原第1デューティdrecおよび原第2デューティdc、補正量Δdrec’’,Δdc’’のいずれについてもその取得に必要ではない。
【0163】
補正量Δdrec’’,Δdc’’は、補正量il’に基くので、電流ilの高調波成分の所望の周波数成分の所望の量について低減することができる。
【0164】
図8は電流ilの波形を例示するグラフである。単相交流電圧Vinの半周期分、具体的には位相ωtが0~180度の領域を示す。位相ωtが180~360度の領域でも電流ilは同一の波形を示す。電流ilは実行値Im/√2で正規化して示される。
【0165】
スイッチSlが非導通から導通へ移行する位相は約36度であり、スイッチSlが導通から非導通へ移行する位相は約68度であり、この位相で電流ilは最大値をとる。その後に位相が増大するにつれ電流ilは減少し、約155度で電流ilは0となる。
【0166】
本実施の形態では全波整流が行われているので、スイッチSlは位相が約216(=36+180)度~約248(=68+180)度の間でも導通し、電流ilは位相が約216度~約335(=155+180)度の間でも流れ、約248(=68+180)度の位相でも最大値をとる。
【0167】
例えば、高調波を規制する規格であるIEC61000-3-2では、定格電圧230Vという条件下で、実効値2.30Aまでの3次高調波成分を入力電流Iinに許容する。
図7に例示された波形の電流ilを流すとき、電圧実効値が230Vのときには入力電流Iinの3次高調波成分の実効値が2.87Aである。よって入力電流Iinの3次高調波成分をIEC61000-3-2が規定する許容値に納めるには、補正量il’として3次高調波の0.571(=2.87-2.30)Aの電流に相当する値を採用する。
【0168】
図9は補正量il’をこのように採用したときの第1デューティdrec’’、第2デューティdc’’、第3デューティdz’’を設定した場合の直接形電力変換器100の動作を例示するグラフである。dz’’=1-drec’’-dc’’である。
図9においても振幅Imを√2として、振幅Vmを1として、それぞれ換算し、Vc=1.14Vmを設定した。但しVdc=0.82Vmを設定した。
【0169】
図9も
図6と同様に諸量を示す。具体的には、最上段にデューティdrec’’,dc’’,dz’’が示され、上から二段目に直流電圧Vdcおよびこれを構成する電圧drec’’・Vrec,dc’’・Vc並びに直流電流Idcが示され、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1が示され、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,-Pl,Precが示される。Vdc=0.82Vmに設定することにより、第3デューティdz’’の最小値を正値ではなく0にすることができる。
【0170】
図7に例示された電流ilの波形は、
図5に示された電流ilの波形よりも歪みが大きい。しかし
図9で例示された動作では、特定の周波数の高調波成分(ここでは3次高調波成分)の所望量(ここでは0.571Aの電流に相当する値)のみに基づいた制御が行われ、
図6で例示された動作では高調波成分を全て低減する制御が行われる。かかる制御の相違により、第1デューティdrec’’、第2デューティdc’’を用いた制御で得られる直流電圧Vdc(
図9に即して言えばVdc=0.82Vm)は、第1デューティdrec’、第2デューティdc’を用いた制御で得られる直流電圧Vdc(
図6に即して言えばVdc=0.76Vm)よりも高い直流電圧Vdcを得やすい。
【0171】
図10は、第1デューティdrec’’、第2デューティdc’’を得るための放電制御部102の第1の構成およびその近傍を例示するブロック図である。かかる放電制御部102も、
図7に示されたインバータ制御部101、充電制御部103と共に、制御装置10を構成する。
【0172】
図10において放電制御部102は、
図7を用いて説明されたデューティ演算部1021、比較器1022、デューティ補正部1023に加え、補正量生成部1025を備える。デューティ補正部1023には、電流ilに代えて補正量il’が入力される。デューティ補正部1023は原第1デューティdrecを補正量Δdrec’’を用いて補正して第1デューティdrec’’を得る。デューティ補正部1023は原第2デューティdcを補正量Δdc’’を用いて補正して第2デューティdc’’を得る。
【0173】
補正量生成部1025は入力電流Iinと高調波成分の許容量との関係から、低減されるべき補正量il’を生成して出力する。例えば入力電流Iinの大きさに対応して当該許容値が決定されるテーブルが補正量生成部1025に格納される。
【0174】
補正量生成部1025は、瞬時電力Pout、振幅Vm、および位相ωtに基づいて、入力電流Iinを計算することができる。例えば式(26)を採用することができる。
【0175】
【0176】
このような第1の構成は例えば特許文献1によって公知であるので、詳細な説明を省略する。第1の構成においては、入力電流Iinの歪みに基づいて補正量il’を求める。よって第1の構成では制御装置10には電流ilは不要である。
【0177】
図11は、第1デューティdrec’’、第2デューティdc’’を得るための放電制御部102の第2の構成およびその近傍を例示するブロック図である。かかる放電制御部102も、
図7に示されたインバータ制御部101、充電制御部103と共に、制御装置10を構成する。
【0178】
図11において放電制御部102は、
図7を用いて説明されたデューティ演算部1021、比較器1022、デューティ補正部1023に加え、補正量生成部1026を備える。デューティ補正部1023には、電流ilに代えて補正量il’が入力される。デューティ補正部1023は原第1デューティdrecを補正量Δdrec’’を用いて補正して第1デューティdrec’’を得る。デューティ補正部1023は原第2デューティdcを補正量Δdc’’を用いて補正して第2デューティdc’’を得る。
【0179】
補正量生成部1026は、電流ilに対して高速フーリエ変換を行って、そのn次周波数の成分毎の振幅Ilh(n)を求める。次数毎に設定された許容値を超える高調波の次数が選択される。選択された次数(以下、α次として示す)について、α次高調波成分の振幅Ilh(α)が、α次高調波について設定された許容値を超える量を、α次高調波の補正量Il’(α)として求められる。選択されなかった次数の補正量Il’(β)(β≠α)は0とされる。補正量Il’(n)あるいは補正量Il’(α)を用いた逆高速フーリエ変換を行って、補正量il’が求められる。
【0180】
このような第2の構成は例えば特許文献1によって公知であるので、詳細な説明を省略する。第2の構成においては、電流ilの歪みに基づいて補正量il’が求められる。
【0181】
上述の第1デューティdrec’,drec’’、第2デューティdc’,dc’’のいずれの導出においても、電流ilの歪みは部分スイッチングに由来することを前提としてはいない。よって第1デューティdrec’,drec’’、第2デューティdc’,dc’’を用いた技術は、部分スイッチングを前提としないことは明白である。
【0182】
式(7)から原第1デューティdrecは第1積として表される。第1積は、振幅Vmに対する直流電圧Vdcの比(Vdc/Vm)と、位相ωtの正弦値sin(ωt)の絶対値|sin(ωt)|との積である。
【0183】
補正量Δdrec’,Δdrec’’は第2積として表される。式(12),(20)を参照して、第2積は、比(Vdc/Vm)と値√2と、所定の電流との積である。
【0184】
第1デューティdrec’は原第1デューティdrecと補正量Δdrec’との和であり、第1デューティdrec’’は原第1デューティdrecと補正量Δdrec’’との和であり、従って第1積と第2積との和と等しい。
【0185】
但し、当該所定の電流は、電流ilの高調波成分の少なくとも一部を、または電流ilの基本波成分il0と電流ilとの差(il0-il)を、入力電流Iinの実効値(Im/√2)で正規化した電流である。
【0186】
当該所定の電流が電流ilの高調波成分の少なくとも一部を実効値(Im/√2)で正規化した電流であるときには補正量Δdrec’’が第2積と等しい。当該所定の電流が電流ilの基本波成分il0と電流ilとの差(il0-il)を実効値(Im/√2)で正規化した電流であるときには補正量Δdrec’が第2積と等しい。よって第2積は補正量Δdrec’,Δdrec’’を総括的に表すと言える。
【0187】
原第1デューティdrecに代えて第1デューティdrec’,drec’’を採用することより、入力電流Iinの波形の正弦波に対する歪みが低減される。
【0188】
第2デューティdc’,dc’’は式(18)、(23)から、第3積から第4積を減じた値と等しい、と言える。ここで第3積は、両端電圧Vc(あるいはその指令値Vc*)に対する直流電圧Vdcの比(Vdc/Vc)と位相ωtの余弦値cos(ωt)の二乗cos2(ωt)との積である。第4積は、両端電圧Vcに対する振幅Vmの比(Vm/Vc)と、第2積と、位相ωtの正弦値sin(ωt)の絶対値|sin(ωt)|との積である。
【0189】
上述のように、第2積は補正量Δdrec’,Δdrec’’を総括的に示す。第2積が補正量Δdrec’に対応する場合には第4積が補正量Δdc’に等しく、第3積と第4積が第2デューティdc’に等しい。第2積が補正量Δdrec’’に対応する場合には第4積が補正量Δdc’’に等しく、第3積と第4積が第2デューティdc’’に等しい。
【0190】
原第2デューティdcに代えて第2デューティdc’,dc’’を採用することは、インバータ5が出力する瞬時電力Poutの脈動を低減する観点で有利である。
【0191】
irec=irec1+ilであり、式(11),(15),(16)を考慮して、電流(il0-il)は、入力電流Iinが有する高調波成分の、前記入力電流の基本波に対する含有率から決定できる。
【0192】
同様に、補正量il’は、電流ilが有する高調波成分の少なくとも一つの周波数成分の少なくとも一部の、入力電流Iinの基本波に対する含有率であるといえる。
【0193】
第1積で原第1デューティdrecを、第2積で補正量Δdrec’,Δdrec’’を、第3積で原第2デューティdcを、第4積で補正量Δdc’,Δdc’’を、それぞれ求めることができる。上述の例では第1積と第3積とがデューティ演算部1021で得られ、第2積と第4積とがデューティ補正部1023で得られる。
【0194】
スイッチSlに、整流電圧Vrecの一周期(これは交流電圧Vinの半周期でもある)においてオン、オフを一回ずつ行わせて、部分スイッチングを行わせることができる。部分スイッチングは、スイッチングの回数が少ないので、スイッチングノイズを低減する観点で有利である。上述の例では、スイッチSlにかかるオン、オフを行わせるスイッチ信号SSlがスイッチ信号生成部1031で生成される。
【0195】
図12は、
図13に例示される電流ilが流れたときの入力電流Iinの高調波のスペクトルを例示するグラフである。横軸には次数(基本波成分に対応する1次を除く)をとり、高調波成分は棒グラフで示される。
【0196】
高調波を規制する規格として、上述のIEC61000-3-2の他、IEC61000-3-12が知られている。
図12はIEC61000-3-12に鑑みたスペクトルを例示する。
【0197】
図13は
図12のスペクトルが得られる電流ilの波形を例示するグラフである。ここでは位相ωtが0~180度の領域を示す。位相ωtが180~360度の領域でも電流ilは同一の波形を示す。参考のため、値il0の波形も併記される。これらの波形は実効値Im/√2で正規化して示される。
【0198】
IEC61000-3-12では13次までの高調波成分についての許容値(上限)が規定される。当該許容値は
図12において折れ線G2で示される。但し縦軸には高調波電流の基本波成分に対する含有率をとっており、当該許容値も入力電流Iinの基本波成分に対する含有率に換算して示される。この換算は、IEC61000-3-12の1.0版(2011年版)ではなく、2.0版(2004年版)に依拠した換算である。
【0199】
IEC61000-3-12の1.0版では、電流についての全高調波ひずみ(total harmonic distortion:図中THと表記)と、部分加重高調波ひずみ(partial weighted harmonic distortion:図中PWと表記)についても、許容値(上限)が規定される。
図12においてこれらの許容値が直線G3で示される。全高調波ひずみについての許容値と、部分加重高調波ひずみについての許容値とは等しいので、直線G3は折れ線とはなっていない。
【0200】
上記折れ線G2で示される値、直線G3で示される値はいずれも、短絡比(short circuit ratio)が33の場合の許容値である。
【0201】
図12から看取されるように3次高調波と全高調波ひずみが、IEC61000-3-12が規定する許容値を上回る。部分加重高調波ひずみはIEC61000-3-12が規定する許容値を下回る。部分加重高調波ひずみは14~40次の高調波成分に基づいて算出される。よって電流ilにおいて低減の対象となる高調波成分の次数から14~40次を除外して考察する。
【0202】
この次数の除外の観点から、電流ilの基本波成分および2~13次高調波成分を用いて再構築した計算で、近似波形ilmを求める。近似波形ilmは
図13に併記した。
【0203】
このような波形が電流ilに採用されるときの入力電流Iinの3次高調波成分が、IEC61000-3-12が規定する許容値を満足するように、式(21)におけるin(但しn=3)を設定する。例えば入力電流Iinの3次高調波成分は、IEC61000-3-12が規定する3次高調波成分の許容値の106.3%である。よって当該許容値の6.3%に相当する電流以上の低減値で、電流ilの3次高調波成分を低減する。また全高調波ひずみは2~40次の高調波成分を考慮するので、電流ilの3次高調波成分の低減で、入力電流Iinの全高調波ひずみがIEC61000-3-12が規定する許容値を満足するように、電流ilの3次高調波成分を低減することができる。
【0204】
図14は入力電流Iinの高調波のスペクトルを例示するグラフである。
図14は、
図12で例示された棒グラフに加え、
図13で例示された電流ilの3次高調波成分を、IEC61000-3-12の許容値の7.2%に相当する電流値で低減した場合の棒グラフを示す。同じ次数の棒グラフは並べて二本示されており、左側の棒グラフは
図12に示された場合を再掲し、右側の棒グラフは3次高調波成分を低減した場合を示した。
【0205】
右側の棒グラフで示された入力電流Iinの3次高調波成分は、IEC61000-3-12の規格による許容値よりも低い。右側の棒グラフで示された入力電流Iinの全高調波ひずみは、IEC61000-3-12が規定する許容値を満足する。
【0206】
電流ilの、複数の次数についての高調波成分を低減してもよい。
図15は、
図13に示される電流ilが流れたときの入力電流Iinの高調波のスペクトルを例示するグラフである。横軸には次数(基本波成分に対応する1次を除く)をとり、高調波成分は棒グラフで示される。
【0207】
図15では
図12とは異なり、IEC61000-3-2に鑑みたスペクトルを示す。IEC61000-3-2では40次までの高調波成分についての許容値(上限)が規定される。当該許容値は
図15において折れ線G1で示される。但し縦軸には高調波電流をとっている。
【0208】
入力電流Iinの3次高調波成分と7次高調波成分とは、IEC61000-3-2の許容値を越えており、これらを低減することが望ましい。但し縦軸には高調波電流の値をとっており、当該許容値も入力電流Iinの基本波成分を考慮して電流値に換算して示される。
【0209】
図16は直接形電力変換器100の動作を例示するグラフである。
図16は、電流ilの3次高調波成分と7次高調波成分とを低減して、入力電流Iinの3次高調波成分と7次高調波成分とにIEC61000-3-2の許容値を満足させる第1デューティdrec’’、第2デューティdc’’、第3デューティdz’’を設定した場合を示す。
【0210】
図16においても振幅Imを√2として、振幅Vmを1として、それぞれ換算し、Vc=1.14Vmを設定した。但しVdc=0.81Vmを設定した。
【0211】
図16も
図6、
図9と同様に諸量を示す。具体的には、最上段にデューティdrec’’,dc’’,dz’’が示され、上から二段目に直流電圧Vdcおよびこれを構成する電圧drec’’・Vrec,dc’’・Vc並びに直流電流Idcが示され、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1が示され、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,-Pl,Precが示される。Vdc=0.81Vmに設定することにより、第3デューティdz’’の最小値を正値ではなく0にすることができる。
【0212】
上述のように原第1デューティdrecに代えて第1デューティdrec’,drec’’を採用することより、入力電流Iinの波形の正弦波に対する歪みが低減される。原第2デューティdcに代えて第2デューティdc’,dc’’を採用することは、インバータ5が出力する瞬時電力Poutの脈動を低減する観点で有利である。
【0213】
補正量Δdrec’’,Δdc’’は、補正量il’に基くので、電流ilの高調波成分の所望の周波数成分の所望の量について低減することができる。
【0214】
式(7),(8)で示されるように、原第1デューティdrecおよび原第2デューティdcの取得には入力電流Iinの振幅Imおよび直流電流Idcは必要ではない。入力電流Iinの実効値Im/√2で正規化された諸量に基づいた考察により、補正量Δdrec’,Δdc’,Δdrec’’,Δdc’’は式(16),(18),(21),(23)に示されるように、振幅Imおよび直流電流Idcを用いずに取得される。
【0215】
上述のようにdrec’=drec+Δdrec’、dc’=dc-Δdc’,drec’’=drec+Δdrec’’、dc’’=dc-Δdc’’であるので、第1デューティdrec’,drec’’、第2デューティdc’,dc’’の設定にも振幅Imおよび直流電流Idcは必要ではない。これは電流センサを省略し、直接形電力変換器100を制御するために必要な部品を削減できる観点で望ましい。
【0216】
スイッチSlに、交流電圧Vinの半周期においてオン、オフを一回ずつ行わせて、部分スイッチングを行わせることは、スイッチングの回数が少ないことに由来して、スイッチングノイズを低減する観点で有利である。
【0217】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。上述の各種の実施形態および変形例は相互に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0218】
3 コンバータ
4 電力バッファ回路
4a 放電回路
4b 充電回路
5 インバータ
7 直流リンク
10 制御装置
101 インバータ制御部
1020 デューティ生成部
1021 デューティ演算部
1023 デューティ補正部
1031 スイッチ信号生成部
C4 コンデンサ
L4 リアクトル
Sc,Sl スイッチ