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  • 特許-サージ防護素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
   H01T 2/02 20060101AFI20221019BHJP
   H01T 4/12 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H01T2/02 F
H01T4/12 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019031431
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020136202
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】久保田 英徳
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107674(JP,A)
【文献】特開平7-26166(JP,A)
【文献】特開平7-62570(JP,A)
【文献】特開2001-234092(JP,A)
【文献】特開2017-195141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/00 - 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記絶縁性管の内周面に形成され炭素を含有した放電補助部とを備え、
前記絶縁性管の内周面の少なくとも一部に、酸化物を含有した酸素源層が形成され
前記酸素源層が、前記絶縁性管の内周面に露出した状態で前記放電補助部とは異なる位置に形成されている ことを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記絶縁性管が、アルミナで形成され、
前記酸素源層が、前記酸化物としてSiOを含むことを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項2に記載のサージ防護素子において、
前記酸素源層が、SiO粉とケイ酸ナトリウムとを含むことを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサージ防護素子において、
前記酸素源層が、前記放電補助部の近傍に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT、液晶テレビおよびプラズマテレビ等の画像表示駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1に示すように、一対の封止電極から対向状態に突出した一対の突出電極部を備え、絶縁性管の内面に放電補助部が形成されたアレスタ型のサージ防護素子が記載されている。
このようなアレスタ型のサージ防護素子は、碍子である絶縁性管の内壁に放電補助部としてカーボントリガ線を形成し、不活性ガスを満たした状態で対向した一対の封止電極を絶縁性管にロウ付けして作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-54586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来のアレスタ型のサージ防護素子では、波尾の短い電流サージを繰り返し印加した際は、放電電極のダメージが少ないので、特性への影響は少ないが、波尾の長い電流サージを繰り返し印加すると、放電電極のダメージが大きく、電極材料が蒸発して壁面に付着してしまうことで、電極間距離が見かけ上短くなって放電開始電圧Vsが低下してしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、波尾の長い電流サージが繰り返し印加されても放電開始電圧Vsの低下を抑制することができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記絶縁性管の内周面に形成され炭素を含有した放電補助部とを備え、前記絶縁性管の内周面の少なくとも一部に、酸化物を含有した酸素源層が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、絶縁性管の内周面の少なくとも一部に、酸素源層が形成されているので、波尾の長い電流サージが印加された際、アーク放電の熱により酸素源層中の酸化物から発生した酸素と放電補助部の炭素とが反応して生じたCOガスやCOガスにより放電開始電圧Vsの低下を抑制することができる。
すなわち、波尾の長い電流サージが印加された際、封止電極間に波尾に応じた時間だけアーク放電が形成され、このアーク放電の熱により酸素源層中の酸化物が溶けて分解され酸素が発生し、この酸素と放電補助部の炭素とが反応することで絶縁性管内にCOガスやCOガスを発生する。その結果、絶縁性管内のガスが増えることで、低下傾向にある放電開始電圧Vsを再び上昇させることができる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記絶縁性管が、アルミナで形成され、前記酸素源層が、前記酸化物としてSiOを含むことを特徴とする。
すなわち、融点が2072℃のアルミナ(Al)で形成されている絶縁性管の内周面の一部は溶融するが、融点が1650℃のSiOを含む酸素源層も溶融して酸素を発生させることができる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第2の発明において、前記酸素源層が、SiO粉とケイ酸ナトリウムとを含むことを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、酸素源層が、SiO粉とケイ酸ナトリウムとを含むので、SiOが粉を含んだ水ガラスとして酸素源層を絶縁性管の内周面に容易に付着させることができる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記酸素源層が、前記放電補助部の近傍に形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、酸素源層が、放電補助部の近傍に形成されているので、酸素源層から発生した酸素と放電補助部の炭素とが反応し易くなり、放電開始電圧Vsの上昇を抑制するCOガスやCOガスをより発生させ易くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、絶縁性管の内周面の少なくとも一部に、酸化物を含有した酸素源層が形成されているので、波尾の長い電流サージが印加された際、アーク放電の熱により酸素源層中の酸化物から発生した酸素と放電補助部の炭素とが反応して生じたCOガスやCOガスにより放電開始電圧Vsの低下を抑制することができる。
したがって、本発明に係るサージ防護素子では、特に波尾の長い電流サージによるアーク放電に対して特性の影響が少なく、放電開始電圧の変動幅を小さくでき、安定した放電が可能になる。
特に、本発明に係るサージ防護素子は、大電流サージ耐性が要求されるインフラ用(鉄道関連、再生エネルギー関連(太陽電池、風力発電等))の電源及び通信設備に好適である。また、サージ耐量が向上しているため、素子の小型化も可能になり、小型電子機器及び実装基板への応用も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るサージ防護素子の一実施形態を示す軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサージ防護素子の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサージ防護素子1は、図1に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管2の内周面に形成され炭素を含有した放電補助部4とを備えている。
上記絶縁性管2の内周面の少なくとも一部には、酸化物を含有した酸素源層5が形成されている。
特に、酸素源層5は、放電補助部4の近傍に形成されている。
【0016】
上記絶縁性管2は、例えば円筒状のアルミナ(Al)で形成されている。
また、酸素源層5は、酸化物としてSiOを含んでいる。
本実施形態では、酸素源層5が、SiO粉(珪砂)とケイ酸ナトリウムとの混合物のいわゆる水ガラスで構成されている。
【0017】
上記一対の封止電極3は、内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部3aを有している。
上記放電補助部4は、炭素材で形成された導電性材料であって、いわゆるカーボントリガ線である。
なお、本実施形態では、放電補助部4は、絶縁性管2の内周面に軸線に沿って直線状に形成されている。
【0018】
図1では、放電補助部4を軸線に沿った2本のみ図示しているが、周方向に互いに間隔を空けて3本以上形成しても構わない。
また、これら放電補助部4の近傍であって放電補助部4に沿って酸素源層5を絶縁性管2の内周面に複数形成している。本実施形態では酸素源層5を、図1に示すように、放電補助部4に沿った帯状に形成しているが、絶縁性管2の内周面の周方向に沿った帯状などに形成しても構わない。酸素源層5を帯状以外に、円状,楕円状,四角形状又は点状などに形成しても構わない。いずれの場合も、酸素源層5は、放電補助部4の近傍に設けることが好ましい。
なお、本実施形態では、一対の突出電極部3a間の空間に対抗した位置に酸素源層5を配置している。
【0019】
上記封止電極3は、例えば42アロイ(Fe:58wt%、Ni:42wt%)やCu等で構成されている。
封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材(図示略)により加熱処理によって密着状態に固定されている円板状のフランジ部3bを有している。このフランジ部3bの内側に、内方に突出していると共に絶縁性管2の内径よりも外径の小さな円柱状の突出電極部3aが一体に設けられている。
【0020】
上記導電性融着材は、例えばAgを含むろう材としてAg-Cuろう材で形成されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF,CO,C,C,CF,H,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
【0021】
このサージ防護素子1を製造するには、絶縁性管2の内周面に放電補助部4を形成すると共に放電補助部4の直近にSiO粉(珪砂)とケイ酸ナトリウムとの混合物を塗布し、乾燥させて酸素源層5を形成した後、この絶縁性管2の両端開口部を閉塞するように一対の封止電極3を配置すると共に内部をArガス等の放電制御ガスを満たした状態で封止を行う。
【0022】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、絶縁性管2の内周面の少なくとも一部に、酸化物を含有した酸素源層5が形成されているので、波尾の長い電流サージが印加された際、アーク放電の熱により酸素源層5中の酸化物から発生した酸素と放電補助部4の炭素とが反応して生じたCOガスやCOガスにより放電開始電圧Vsの低下を抑制することができる。
【0023】
すなわち、波尾の長い電流サージが印加された際、封止電極3間に波尾に応じた時間だけアーク放電が形成され、このアーク放電の熱により酸素源層5中の酸化物が溶けて分解され酸素が発生し、この酸素と放電補助部4の炭素とが反応することで絶縁性管2内にCOガスやCOガスを発生する。その結果、絶縁性管2内のガスが増えることで、低下傾向にある放電開始電圧Vsを再び上昇させることができる。
【0024】
なお、アーク放電の熱で融点が2072℃のアルミナ(Al)で形成されている絶縁性管2の内周面の一部が変質するが、アルミナより低いが融点1650℃のSiOを含む酸素源層5は溶融して酸素を発生させることができる。酸素源層5は、絶縁性管2の材料より低い融点の酸化物を含有することが好ましい。
【0025】
また、酸素源層5が、SiO粉とケイ酸ナトリウムとを含むので、SiOが粉を含んだ水ガラスとして酸素源層5を絶縁性管の内周面に容易に付着させることができる。
さらに、酸素源層5が、放電補助部4の近傍に形成されているので、酸素源層5から発生した酸素と放電補助部4の炭素とが反応し易くなり、放電開始電圧Vsの上昇を抑制するCOガスやCOガスをより発生させ易くなる。
【0026】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1…サージ防護素子、2…絶縁性管、3…封止電極、4…放電補助部、
5…酸素源層
図1