(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】液体燃料噴射器
(51)【国際特許分類】
F23R 3/14 20060101AFI20221019BHJP
F02C 7/232 20060101ALI20221019BHJP
F23R 3/28 20060101ALI20221019BHJP
F23R 3/30 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
F23R3/14
F02C7/232 B
F23R3/28 B
F23R3/30
(21)【出願番号】P 2021554160
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035022
(87)【国際公開番号】W WO2021079657
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019192534
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 武彦
(72)【発明者】
【氏名】金井 洸太
(72)【発明者】
【氏名】廣光 永兆
(72)【発明者】
【氏名】高和 潤弥
(72)【発明者】
【氏名】石崎 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克昌
(72)【発明者】
【氏名】井出 智広
(72)【発明者】
【氏名】喜多 翔ノ介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光紀
(72)【発明者】
【氏名】岩城 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】安藤 成美
(72)【発明者】
【氏名】服部 均
(72)【発明者】
【氏名】米倉 一男
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0100837(US,A1)
【文献】実公昭47-012180(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23R 3/14; 3/28; 3/34
F02C 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有する円筒状のプライマリ燃料噴射体と、
前記プライマリ燃料噴射体の径方向外側に同心配置された環状のシュラウドと、
前記プライマリ燃料噴射体と前記シュラウドの間にこれらと同心配置された環状のセカンダリ燃料噴射体と、を備え、
前記プライマリ燃料噴射体と前記セカンダリ燃料噴射体の間に形成された環状の内側空気通路には、周方向に等間隔で配置された複数の内側旋回翼が設けられており、
前記セカンダリ燃料噴射体と前記シュラウドの間に形成された環状の外側空気通路には、周方向に等間隔で配置された複数の外側旋回翼が設けられており、
前記プライマリ燃料噴射体は圧力噴霧式噴射器として構成されており、
前記セカンダリ燃料噴射体、並びに、前記内側空気通路及び前記外側空気通路は、協働して気流微粒化式噴射器を構成
し、
前記内側旋回翼及び前記外側旋回翼のそれぞれは、
前記内側空気通路及び前記外側空気通路内の空気の流れ方向において、上流側に配置された案内翼と、下流側に配置されたヘリカル翼とから成っており、
前記ヘリカル翼のプロファイルの中心線は、前縁から後縁までの全域に亘って、前記中心軸の方向を基準として実質的に一定の角度で周方向に傾斜しており、
前記案内翼のプロファイルの中心線は、前縁においては実質的に前記中心軸の方向に配向されており、後縁においては実質的に前記ヘリカル翼の前記前縁における前記プロファイルの中心線と同じ方向に配向されている、
液体燃料噴射器。
【請求項2】
前記プライマリ燃料噴射体の内部に形成されたプライマリ燃料通路は、
燃料プレナムと、
前記燃料プレナムと直接的に接続された環状の空間である燃料アニュラスと、
複数の旋回付与通路を介して前記燃料アニュラスと接続された円柱状の空間である旋回チャンバと、を含み、
前記旋回付与通路は、前記燃料アニュラスから流入した燃料を、前記中心軸
の周りの旋回速度成分を有する状態で前記旋回チャンバ内へ流出させるように構成されている、
請求項1に記載の液体燃料噴射器。
【請求項3】
前記内側旋回翼及び前記外側旋回翼のうち少なくとも一方において、前記案内翼と前記ヘリカル翼とは、前記中心軸の方向に間隔をあけて配置されている、
請求項1又は2に記載の液体燃料噴射器。
【請求項4】
前記内側旋回翼及び前記外側旋回翼のうち少なくとも一方において、前記案内翼と前記ヘリカル翼は一体に形成されている、
請求項1又は2に記載の液体燃料噴射器。
【請求項5】
前記内側旋回翼より下流側の前記内側空気通路は、
当該内側空気通路の径方向内側境界及び径方向外側境界が、少なくともそれらが径方向に対向する部位で、前記中心軸の方向に沿って一定の径を有するように構成されており、
前記外側旋回翼より下流側の前記外側空気通路は、
当該外側空気通路の径方向内側境界及び径方向外側境界が、少なくともそれらが径方向に対向する部位で、前記中心軸の方向に沿って一定の径を有するように構成されている、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の液体燃料噴射器。
【請求項6】
前記内側空気通路及び前記外側空気通路のそれぞれの下流端より下流側に、
前記内側空気通路及び前記外側空気通路のそれぞ
れから流出する空気流を径方向外向きに配向するためのガイド部が設けられている、請求項
5に記載の液体燃料噴射器。
【請求項7】
前記内側空気通路から流出する空気流のための前記ガイド部である内側旋回空気流ガイド部は、前記プライマリ燃料噴射体の下流端に設けられた、下流へ向かって径が拡大する円錐台状の部位の外面によって形成されており、
前記外側空気通路から流出する空気流のための前記ガイド部である外側旋回空気流ガイド部は、前記シュラウドの内面のうち下流へ向かって径が拡大する部位によって形成されている、
請求項
6に記載の液体燃料噴射器。
【請求項8】
前記プライマリ燃料噴射体の前記円錐台状の部位の下流端面には、上流側へ向かって陥没する三角形断面の環状の凹部が形成されており、これにより、燃料噴射孔が形成されている前記円錐台状の中央部は、前記凹部の底部から下流側へ向かって突出している、請求項
7に記載の液体燃料噴射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体燃料噴射器、特にガスタービンエンジンの燃焼器において用いられる液体燃料噴射器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの燃焼器において液体燃料を燃焼させる場合、液体燃料の気化及び燃焼用空気との混合を促進するために、液体燃料を微粒化することが望ましい。液体燃料の微粒化は、燃焼反応の速度を高めることを通じて、NOx(窒素酸化物)、並びに、未燃燃料及びCO(一酸化炭素)の排出量低減にも寄与する。
【0003】
液体燃料の微粒化方式の一つに、気流微粒化方式がある。これは、環状の液膜として噴射された液体燃料を、その径方向内側及び外側に隣接して流れる旋回空気流との間に作用する剪断力(速度差に起因)を利用して微粒化する方式である。
【0004】
従来のガスタービンエンジンの燃焼器用の液体燃料噴射器として、複数の気流微粒化式噴射器を同心配置した多重構造のものが知られている。
【0005】
この多重構造の液体燃料噴射器においては、内径側に配置された噴射流量の小さい気流微粒化式噴射器が、ガスタービンエンジンの始動から定格負荷運転までの全運転範囲に亘って作動するパイロット噴射器(プライマリ噴射器)として、外径側に配置された噴射流量の大きい気流微粒化式噴射器が、ガスタービンエンジンの高負荷運転範囲において作動するメイン噴射器(セカンダリ噴射器)として、それぞれ使用されている(以下、「第1の特徴」という;特許文献1及び2参照)。
【0006】
また、それぞれの気流微粒化式噴射器において、径方向内側及び外側の空気通路のそれぞれに設けられた旋回翼は、例えば、そのプロファイル(断面形状)の中心線が、前縁から後縁までの全域に亘って、軸方向を基準として実質的に一定の角度で周方向に傾斜したヘリカル翼として形成されている(以下、「第2の特徴」という;特許文献1及び2参照)。
【0007】
更に、それぞれの気流微粒化式噴射器において、径方向内側及び外側の空気通路は、いずれも、旋回翼より下流側に絞り部(すなわち、通路面積が下流へ向かって縮小している部位)を有し、旋回翼によって空気流に付与された角速度を増大させ、強い旋回空気流を生成するように構成されている。このような強い旋回空気流は、遠心力の作用によって径方向外側へ拡散するため、液体燃料の噴霧を円錐状に拡大させる作用を有する。なお、径方向内側の空気通路から流出する旋回空気流の径方向外側への拡散を適正に制御すべく、径方向外側の空気通路は径方向内向きに配向されている(以下、「第3の特徴」という;特許文献1及び2参照)。
【0008】
また、内径側に配置された気流微粒化式噴射器は、その出口部の径方向中心部に、ピントル(pintle)と呼ばれる後方へ向かって径がラッパ状に拡大する棒状の部材を備えている。ピントルの周囲を流れる微粒化用空気流は、ピントルのラッパ状に拡大する部位に沿って円錐状に広がり、これにより液体燃料の噴霧の分散性を向上させる(以下、「第4の特徴」という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5193695号明細書
【文献】米国特許第10190774号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した多重構造の液体燃料噴射器を構成する個々の気流微粒化式噴射器は、その内部を通過する空気の流速の低下と共に微粒化性能が悪化するという特性を有している。そのため、空気流量の少ないガスタービンエンジンの始動時には、パイロット噴射器の着火性が悪化し、ガスタービンエンジンを円滑に始動できない可能性があった。また、ガスタービンエンジンの高負荷運転時に、NOx排出量を低減すべく希薄燃焼を行う場合、低負荷条件でのメイン噴射器及びパイロット噴射器の双方の燃焼安定性が低下し、特にガスタービンエンジンの急加減速時(負荷の急変動時)には吹き消えが生じる可能性もあった。
【0011】
本開示は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、空気流量の少ない運転条件における着火性、及び、広範な運転条件における燃焼安定性を向上させることができる液体燃料噴射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本開示の液体燃料噴射器は、中心軸を有する円筒状のプライマリ燃料噴射体と、前記プライマリ燃料噴射体の径方向外側に同心配置された環状のシュラウドと、前記プライマリ燃料噴射体と前記シュラウドの間にこれらと同心配置された環状のセカンダリ燃料噴射体と、を備え、前記プライマリ燃料噴射体と前記セカンダリ燃料噴射体の間に形成された環状の内側空気通路には、周方向に等間隔で配置された複数の内側旋回翼が設けられており、前記セカンダリ燃料噴射体と前記シュラウドの間に形成された環状の外側空気通路には、周方向に等間隔で配置された複数の外側旋回翼が設けられており、前記プライマリ燃料噴射体は圧力噴霧式噴射器として構成されており、前記セカンダリ燃料噴射体、並びに、前記内側空気通路及び前記外側空気通路は、協働して気流微粒化式噴射器を構成する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の液体燃料噴射器によれば、空気流量の少ない運転条件における着火性、及び、広範な運転条件における燃焼安定性を向上させることができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の実施形態の液体燃料噴射器の全体概略断面図である。
【
図2A】従来の液体燃料噴射器のプライマリ燃料噴射体の燃料噴射チップ部において、凹部を有さないピントルの後端外周部の下流側に生成される循環流の態様を説明する図である。
【
図2B】
図1の液体燃料噴射器のプライマリ燃料噴射体の燃料噴射チップ部において、後面に凹部が形成されたピントルの後端外周部の下流側に生成される循環流の態様を説明する図である。
【
図3A】本開示の別の実施形態の液体燃料噴射器を説明する図であって、当該液体燃料噴射器の要部概略断面図を示している。
【
図3B】本開示の別の実施形態の液体燃料噴射器を説明する図であって、燃料噴射通路形成体内に形成された燃料噴射通路の全体概略斜視図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本開示の実施形態の液体燃料噴射器の全体概略断面図である。なお、本明細書においては、液体燃料噴射器内の空気及び液体燃料の流れ方向における上流側、下流側を、それぞれ前側、後側と称することにする。
【0017】
液体燃料噴射器100は、中心軸Cを有する円筒状のプライマリ燃料噴射体110と、プライマリ燃料噴射体110の径方向外側に同心配置された環状のシュラウド130と、プライマリ燃料噴射体110とシュラウド130の間にこれらと同心配置された環状のセカンダリ燃料噴射体120と、を備えている。なお、液体燃料噴射器100は、例えばガスタービンエンジンの燃焼器において用いられ得るものである。
【0018】
ここで、プライマリ燃料噴射体110は後述する内側旋回翼115を介してセカンダリ燃料噴射体120と、セカンダリ燃料噴射体120は後述する外側旋回翼125を介してシュラウド130と、それぞれ結合されているが、これらの構成要素から成る液体燃料噴射器100は、全体として一体に形成されている。なお、液体燃料噴射器100の一体形成には、例えば3Dプリンタを用いたAM(Additive Manufacturing)技術(積層造形技術)を適用することが有効である。
【0019】
プライマリ燃料噴射体110は、燃料送給管部112と、燃料送給管部112の後端側の外周に位置するスリーブ部114と、スリーブ部114の後端側に位置する燃料噴射チップ部116とから成っている。なお、
図1においては、説明の都合上、燃料送給管部112とスリーブ部114、スリーブ部114と燃料噴射チップ部116を、それぞれ破線で区切って示しているが、これらの部材は、実際には、後述するプライマリ燃料供給配管部CFpと共に一体に形成されていてもよい。
【0020】
燃料送給管部112は、円筒状の管であって、内部にプライマリ燃料通路PFpが形成されている。プライマリ燃料通路PFpには、燃料送給管部112の前端近傍に結合されたプライマリ燃料供給配管部CFpを通じて、液体燃料であるプライマリ燃料が供給される。なお、プライマリ燃料供給配管部CFpの結合部位は、燃料送給管部112の前端近傍に限られず、任意の位置であってよい。
【0021】
スリーブ部114は、燃料送給管部112の後端側の外周に位置する円筒状の部位である。スリーブ部114の後部の内側には、燃料送給管部112の後端と、後述する燃料噴射チップ部116の前方突出部116Fの前面との間に、円柱状の空間である燃料プレナムFPが形成されている。また、スリーブ部114の後端部の内面と上述した燃料噴射チップ部116の前方突出部116Fの外面との間には、環状の燃料アニュラスFAが形成されている。なお、燃料プレナムFPの形状は円柱状に限られず、円錐状、円錐台状,半球状などでもよい。
【0022】
燃料噴射チップ部116は、スリーブ部114の後端側に位置する部位であって、円柱状の前部と後方へ向かって径が拡大する円錐台状の後部とから成るピントル部116Pと、ピントル部116Pの前面から前方へ向かって突出する円柱状の前方突出部116Fとから成っている。
【0023】
ピントル部116Pの径方向中央部には、円柱状の前部空間と後方へ向かって径が縮小する円錐台状の後部空間とから成る旋回チャンバSCが形成されており、旋回チャンバSCの後端は、燃料噴射孔116Aを経て後方の空間と連通している。
【0024】
また、ピントル部116Pの前面には、上述した燃料アニュラスFAと旋回チャンバSCとを接続する複数(例えば4個)の旋回付与通路116Sが、周方向に等間隔で設けられている。
【0025】
旋回付与通路116Sは、燃料アニュラスFAから流入したプライマリ燃料を、中心軸C周りの旋回速度成分を有する状態で旋回チャンバSC内へ流出させるように構成されている。そのために、旋回付与通路116Sは、例えば、その出口端が、旋回チャンバSCの円柱状の前部の外周に対して接線方向に接続されるように形成されていてもよい。
【0026】
以上のように構成されたプライマリ燃料噴射体110において、プライマリ燃料は、矢印FFpで示されるように、プライマリ燃料供給配管部CFpから燃料送給管部112内のプライマリ燃料通路PFpに流入した後、燃料プレナムFPから燃料アニュラスFAに流入する。その後、プライマリ燃料は、旋回付与通路116Sを経て旋回速度成分を有する状態で旋回チャンバSCに流入し、旋回速度成分を維持した状態で燃料噴射孔116Aを経て噴射され、円錐状に広がる燃料噴霧を形成する。
【0027】
このように、プライマリ燃料噴射体110は、圧力噴霧式噴射器として機能する。圧力噴霧式噴射器は、気流微粒化式噴射器のように微粒化性能が空気流量の影響を受けず、広範な運転条件で良好な微粒化性能を発揮する。したがって、圧力噴霧式噴射器として構成されたプライマリ燃料噴射体110を採用することにより、液体燃料噴射器100においては、複数の気流微粒化式噴射器を同心配置した多重構造の液体燃料噴射器と比較して(背景技術欄において説明した第1の特徴参照)、空気流量の少ない運転条件における着火性、及び、広範な運転条件における燃焼安定性を向上させることができる。
【0028】
セカンダリ燃料噴射体120は、環状の外側壁122及び内側壁124が一体に形成された二重円管であり、内部に環状のセカンダリ燃料通路PFsが形成されている。なお、外側壁122及び内側壁124は、後述するセカンダリ燃料供給配管部CFsと共に一体に形成されている。
【0029】
セカンダリ燃料通路PFsには、外側壁122の前端近傍に結合されたセカンダリ燃料供給配管部CFsを通じて、液体燃料であるセカンダリ燃料が供給される。なお、セカンダリ燃料供給配管部CFsの結合部位は、外側壁122の前端近傍に限られず、任意の位置であってよい。
【0030】
このように構成されたセカンダリ燃料噴射体120において、セカンダリ燃料は、矢印FFsで示されるように、セカンダリ燃料供給配管部CFsからセカンダリ燃料通路PFsに流入した後、その下流端から環状の液膜として噴射される。
【0031】
プライマリ燃料噴射体110とセカンダリ燃料噴射体120(より厳密には、内側壁124)の間、セカンダリ燃料噴射体120(より厳密には、外側壁122)とシュラウド130の間には、それぞれ環状の内側空気通路PAi、外側空気通路PAoが形成されている。そして、内側空気通路PAiのうち、プライマリ燃料噴射体110のスリーブ部114と、セカンダリ燃料噴射体120の内側壁124との間には、複数の内側旋回翼115が、周方向に等間隔で配置されている。同様に、外側空気通路PAoには、複数の外側旋回翼125が、周方向に等間隔で配置されている。
【0032】
空気は、内側空気通路PAi及び外側空気通路PAoに、それぞれ矢印FAi及びFAoで示されるように流入し、それぞれ内側旋回翼115及び外側旋回翼125を通過する際に旋回を付与され、周方向速度成分を有する旋回空気流として流出する。
【0033】
以上のように構成されたセカンダリ燃料噴射体120と、内側旋回翼115を備える内側空気通路PAi及び外側旋回翼125を備える外側空気通路PAoは、協働して気流微粒化式噴射器IABとして機能する。すなわち、液体燃料であるセカンダリ燃料は、矢印FFsで示されるように、セカンダリ燃料噴射体120の下流端から環状の液膜として噴射される。このとき、噴射された液体燃料は実質的に周方向速度成分を有していないため、上述したように周方向速度成分を有する状態で内側空気通路PAi及び外側空気通路PAoのそれぞれから流出する空気流FAi及びFAoとの速度差に起因する剪断力が作用し、これにより液体燃料が微粒化される。
【0034】
ここで、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100における上述した気流微粒化式噴射器IABは、内側空気通路PAi及び外側空気通路PAoの下流端部の形状に特徴を有しているが、これについて以下で詳述する。
【0035】
本開示の実施形態の液体燃料噴射器100において、内側空気通路PAi及び外側空気通路PAoの下流端部は、絞り部を有しておらず、且つ、流出する旋回空気流が軸方向(中心軸Cの方向)又は径方向外向きに配向されるように構成されている。
【0036】
具体的には、内側空気通路PAiの下流端部(内側旋回翼115より下流側の部位)において、その径方向内側境界及び外側境界をそれぞれ画定するプライマリ燃料噴射体110の燃料噴射チップ部116のピントル部116Pの円柱状の前部(の外面)及びセカンダリ燃料噴射体120の内側壁124(の内面)は、少なくとも径方向に互いに対向する部位において、いずれも軸方向に沿って一定の径を有するように構成されている。同様に、外側空気通路PAoの下流端部(外側旋回翼125より下流側の部位)において、その径方向内側境界及び外側境界をそれぞれ画定するセカンダリ燃料噴射体120の外側壁122(の外面)及びシュラウド130(の内面)は、少なくとも径方向に互いに対向する部位において、いずれも軸方向に沿って一定の径を有するように構成されている。
【0037】
これにより、内側空気通路PAi及び外側空気通路PAoは、いずれも、その下流端部において絞り部を有さないこととなる。
【0038】
一方、内側空気通路PAiの径方向外側境界を画定するセカンダリ燃料噴射体120の内側壁124の下流端より後方において、当該通路の径方向内側境界を画定するプライマリ燃料噴射体110の燃料噴射チップ部116のピントル部116Pの円錐台状の後部の外面116Poは、上述したように、後方へ向かって径が拡大する形状を有している。同様に、外側空気通路PAoの径方向内側境界を画定するセカンダリ燃料噴射体120の外側壁122の下流端より後方において、当該通路の径方向外側境界を画定するシュラウド130の内面130iは、後方へ向かって径が拡大する形状を有している。
【0039】
これにより、内側空気通路PAiから流出する旋回空気流は、プライマリ燃料噴射体110の燃料噴射チップ部116のピントル部116Pの円錐台状の後部の外面116Po(内側旋回空気流ガイド部)によって案内され、外側空気通路PAoから流出する旋回空気流は、シュラウド130の内面130i(外側旋回空気流ガイド部)よって案内され、それぞれ径方向外向きに配向されることとなる。
【0040】
以上のように、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100の気流微粒化式噴射器IABにおいては、従来の気流微粒化式噴射器において旋回空気流を径方向外向きに配向するための手段として用いられていた空気流の絞りに代えて(背景技術欄において説明した第3の特徴参照)、上述した内側及び外側旋回空気流ガイド部を採用している。そのため、旋回空気流のフローパターンを直接的に制御しやすく、所望の態様で径方向外側へ拡散する旋回空気流及び燃料噴霧を得ることができる。また、内側空気通路PAi及び外側空気通路PAoのいずれも絞り部を有さないため、液体燃料噴射器100の構造上実現可能な最大の通路面積を利用することができ、液体燃料噴射器100をコンパクトに構成することが可能となる。
【0041】
ここで、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100における上述した気流微粒化式噴射器IABは、上述した特徴に加えて、内側旋回翼115及び外側旋回翼125の態様に特徴を有しているが、これについて以下で詳述する。
【0042】
図示した実施例において、内側旋回翼115は、内側空気通路PAi内において上流側(前側)に配置された案内翼115Gと、下流側(後側)に配置されたヘリカル翼115Hとから成っている。
【0043】
このうち、ヘリカル翼115Hは、従来の気流微粒化式噴射器において用いられていたものと同様のものであって、そのプロファイル(断面形状)の中心線は、前縁から後縁までの全域に亘って、軸方向を基準として実質的に一定の角度で周方向に傾斜している(背景技術欄において説明した第2の特徴参照)。
【0044】
一方、案内翼115Gは、内側空気通路PAiを経て流入する空気流を転向させるためのものであって、そのプロファイルの中心線は、前縁においては実質的に軸方向に配向されており、後縁においては実質的にヘリカル翼115Hの前縁におけるプロファイルの中心線と同じ方向に配向されている。
【0045】
以上のように構成された内側旋回翼115を通過する空気は、内側空気通路PAiを経て実質的に軸方向に案内翼115Gに流入した後、当該案内翼115Gを通過する間に転向され、下流に配置されたヘリカル翼115Hに円滑に(すなわち、実質的にインシデンスがゼロの状態で)流入し、当該ヘリカル翼115Hを通過する間に旋回を付与され、旋回空気流として流出する。
【0046】
従来の気流微粒化式噴射器のように、旋回翼がヘリカル翼のみから成る場合、実質的に軸方向にヘリカル翼に流入する空気流は、ヘリカル翼の前縁の下流で剥離する可能性が高い。そのため、従来の気流微粒化式噴射器における旋回翼は、圧損の増大、あるいは、剥離に起因して有効通路面積が減少することによる流量の減少という問題を有していた。
【0047】
これに対して、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100における旋回翼115では、ヘリカル翼115Hの上流に案内翼115Gを配置したことにより、ヘリカル翼115Hの前縁の下流における空気流の剥離が防止される。これにより、従来の気流微粒化式噴射器の場合と比較して大きな有効通路面積を確保することができるので、同一の空気流量を得るために必要となる旋回翼の実通路面積が小さく抑えられ、液体燃料噴射器100をコンパクトに構成することが可能となる。
【0048】
なお、図示した実施例において、案内翼115Gとヘリカル翼115Hとは、軸方向に間隔をあけて(すなわち、間に環状の空間を有する状態で)配置されている。これは、内側空気通路PAiを経て内側旋回翼115に流入する空気流が、例えば上流側にプライマリ燃料供給配管部CFpが配置されていることにより、周方向に全圧分布を有する不均一な流れであった場合に、当該不均一性を低減させることを目的としたものである。すなわち、周方向に全圧分布を有する状態で案内翼115Gに流入した空気流は、当該全圧分布が実質的に保存された状態で案内翼115Gを流出するが、ヘリカル翼115Hとの間に形成された環状の空間において周方向における全圧の不均一性が緩和されてヘリカル翼115Hに流入することになる。これにより、空気は、周方向において実質的に均一な流れとして、ヘリカル翼115Hを流出することになる。
【0049】
外側空気通路PAoと比較して径の小さい内側空気通路PAiでは、その上流側に配置された構造物に起因する周方向の不均一性の影響が、外側空気通路PAoにおける場合よりも顕著に表れるため、上述したような案内翼115Gとヘリカル翼115Hとに分割された構造の旋回翼115を採用することが特に有利である。
【0050】
なお、旋回翼115は、例えば流入する空気流の周方向における不均一性が許容し得る程度に小さい場合などには、案内翼115Gの後縁とヘリカル翼115Hの前縁とが接続された一体の翼として形成されていてもよい。
【0051】
更に、図示した実施例において、外側旋回翼125は、内側旋回翼115における案内翼115Gと同様に構成された案内翼部と、内側旋回翼115におけるヘリカル翼115Hと同様に構成されたヘリカル翼部とから成る一体の翼として形成されているが、内側旋回翼115と同様に、案内翼部とヘリカル翼部とを、軸方向に間隔をあけて配置してもよい。
【0052】
ここで、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100におけるプライマリ燃料噴射体110の燃料噴射チップ部116は、そのピントル部116Pの形状に特徴を有しているが、これについて以下で詳述する。
【0053】
ピントル部116Pの後部は、上述したとおり、後方へ向かって径が拡大する円錐台状に形成されている。この形状は、従来の気流微粒化式噴射器において採用されていたピントルの形状と類似したものであり(背景技術欄において説明した第4の特徴参照)、その後端外周部の下流側には循環流が生成される。
【0054】
しかしながら、
図2Aに示されるように、従来のピントルPTにおいては、その後端外周部で生成される循環流CF‘が小さく、気流微粒化式噴射器IAB’によって生成された燃料噴霧FS‘の最内径側において循環流CF‘に巻き込まれ上流側へ戻ってくる燃料液滴は、未蒸発のままピントルPTの後面に付着する傾向があった。付着した燃料液滴は、下流側に位置する燃焼領域からの入熱によって炭化し、ピントルPTの後面にカーボンとして堆積することになるが、堆積したカーボンCD’が例えばピントルPTの後端外周部から径方向外方へはみ出すと、周囲の空気の流れを阻害することになり望ましくない。
【0055】
そこで、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100においては、燃料噴射チップ部116のピントル部116Pの後面に、前方へ向かって陥没する三角形断面の環状の凹部116PRが形成されている。これにより、燃料噴射孔116Aが形成されているピントル部116Pの中央部は、凹部116PRの底部から後方へ突出した状態となる。
【0056】
このように、ピントル部116Pの後面に凹部116PRが形成されていると、ピントル部116Pの後端外周部は、後方へ向かって尖った形状となる。その結果、そこで生成される循環流は大きくなり(
図2B参照)、気流微粒化式噴射器IABによって生成された燃料噴霧FSの最内径側において循環流CFに巻き込まれ上流側へ戻ってくる燃料液滴は、既に蒸発し気体の状態でピントル部116Pの後面に衝突する。このような気体状態の燃料は、ピントル部116Pの後面に付着することはなく、したがって、そこにカーボンの堆積が生じることもない。更に、ピントル部116Pの中央部が凹部116PRの底部から後方へ突出していることにより、そこに形成された燃料噴射孔116Aから噴射されるプライマリ燃料の誘引気流による凹部116PRへの巻き込み付着を防止することができる。
【0057】
以上のように、本開示の実施形態の液体燃料噴射器100においては、従来の気流微粒化式噴射器におけるピントルに対応するプライマリ燃料噴射体110の燃料噴射チップ部116のピントル部116Pの後面に、カーボンの堆積が生じることを防止することができる。
【0058】
ここで、上述した実施形態においては、プライマリ燃料噴射体110において、燃料プレナムFPから旋回チャンバSCへ至るプライマリ燃料の通路は、環状の燃料アニュラスFA及び旋回付与通路116Sから形成されている。しかしながら、当該通路を、これとは異なる態様で形成してもよい。
【0059】
図3Aは、本開示の別の実施形態の液体燃料噴射器200の要部概略断面図である。
【0060】
プライマリ燃料噴射体210の外形形状は、
図1に示された液体燃料噴射器100のプライマリ燃料噴射体110と同一であり、その後端の径方向中央部には燃料噴射孔216Aが形成されている。
【0061】
一方、プライマリ燃料噴射体210の内部に形成された燃料噴射通路FIPは、
図3Bに示されるように、燃料プレナムFPと連通する供給プレナムSPと、円柱状の前部と後方へ向かって径が縮小する円錐台状の後部とから成る旋回チャンバSCと、供給プレナムSPと旋回チャンバSCとを接続する複数(例えば4個)の旋回付与通路SAとから成っている。複数の旋回付与通路SAのそれぞれは、供給プレナムSPから流入するプライマリ燃料を、旋回速度成分を有する状態で旋回チャンバSC内へ流出させるように構成されている。そのために、旋回付与通路SAは、例えば、その出口端が、旋回チャンバSCの円柱状の前部の外周に対して接線方向に接続されるように形成されていてもよい。また、旋回付与通路SAは、その内部における圧損を可及的に低く抑えるために、図示したように屈曲部を有さない滑らかな形状を有するものとして形成されることが望ましい。
【0062】
(本開示の態様)
本開示の第1の態様の液体燃料噴射器は、中心軸を有する円筒状のプライマリ燃料噴射体と、前記プライマリ燃料噴射体の径方向外側に同心配置された環状のシュラウドと、前記プライマリ燃料噴射体と前記シュラウドの間にこれらと同心配置された環状のセカンダリ燃料噴射体と、を備え、前記プライマリ燃料噴射体と前記セカンダリ燃料噴射体の間に形成された環状の内側空気通路には、周方向に等間隔で配置された複数の内側旋回翼が設けられており、前記セカンダリ燃料噴射体と前記シュラウドの間に形成された環状の外側空気通路には、周方向に等間隔で配置された複数の外側旋回翼が設けられており、前記プライマリ燃料噴射体は圧力噴霧式噴射器として構成されており、前記セカンダリ燃料噴射体、並びに、前記内側空気通路及び前記外側空気通路は、協働して気流微粒化式噴射器を構成する。
【0063】
本開示の第2の態様の液体燃料噴射器において、前記プライマリ燃料噴射体の内部に形成されたプライマリ燃料通路は、燃料プレナムと、前記燃料プレナムと直接的に接続された環状の空間である燃料アニュラスと、複数の旋回付与通路を介して前記燃料アニュラスと接続された円柱状の空間である旋回チャンバと、を含み、前記旋回付与通路は、前記燃料アニュラスから流入した燃料を、前記中心軸周りの旋回速度成分を有する状態で前記旋回チャンバ内へ流出させるように構成されている。
【0064】
本開示の第3の態様の液体燃料噴射器において、前記内側旋回翼及び前記外側旋回翼のそれぞれは、前記内側空気通路及び前記外側空気通路内の空気の流れ方向において、上流側に配置された案内翼と、下流側に配置されたヘリカル翼とから成っており、前記ヘリカル翼のプロファイルの中心線は、前縁から後縁までの全域に亘って、前記中心軸の方向を基準として実質的に一定の角度で周方向に傾斜しており、前記案内翼のプロファイルの中心線は、前縁においては実質的に前記中心軸の方向に配向されており、後縁においては実質的に前記ヘリカル翼の前記前縁における前記プロファイルの中心線と同じ方向に配向されている。
【0065】
本開示の第4の態様の液体燃料噴射器において、前記内側旋回翼及び前記外側旋回翼のうち少なくとも一方において、前記案内翼と前記ヘリカル翼とは、前記中心軸の方向に間隔をあけて配置されている。
【0066】
本開示の第5の態様の液体燃料噴射器において、前記内側旋回翼及び前記外側旋回翼のうち少なくとも一方において、前記案内翼と前記ヘリカル翼は一体に形成されている。
【0067】
本開示の第6の態様の液体燃料噴射器において、前記内側旋回翼より下流側の前記内側空気通路は、その径方向内側境界及び径方向外側境界が、少なくともそれらが径方向に対向する部位で、前記中心軸の方向に沿って一定の径を有するように構成されており、前記外側旋回翼より下流側の前記外側空気通路は、その径方向内側境界及び径方向外側境界が、少なくともそれらが径方向に対向する部位で、前記中心軸の方向に沿って一定の径を有するように構成されている。
【0068】
本開示の第7の態様の液体燃料噴射器において、前記内側空気通路及び前記外側空気通路のそれぞれの下流端より下流側に、それぞれの前記空気通路から流出する空気流を径方向外向きに配向するためのガイド部が設けられている。
【0069】
本開示の第8の態様の液体燃料噴射器において、前記内側空気通路から流出する空気流のための前記ガイド部である内側旋回空気流ガイド部は、前記プライマリ燃料噴射体の下流端に設けられた、下流へ向かって径が拡大する円錐台状の部位の外面によって形成されており、前記外側空気通路から流出する空気流のための前記ガイド部である外側旋回空気流ガイド部は、前記シュラウドの内面のうち下流へ向かって径が拡大する部位によって形成されている。
【0070】
本開示の第9の態様の液体燃料噴射器において、前記プライマリ燃料噴射体の前記円錐台状の部位の下流端面には、上流側へ向かって陥没する三角形断面の環状の凹部が形成されており、これにより、燃料噴射孔が形成されている前記円錐台状の中央部は、前記凹部の底部から下流側へ向かって突出している。
【符号の説明】
【0071】
110 プライマリ燃料噴射体
115 内側旋回翼
115G 案内翼
115H ヘリカル翼
116S 旋回付与通路
116Po プライマリ燃料噴射体の燃料噴射チップ部のピントル部の外面(内側旋回空気流ガイド部)
116PR プライマリ燃料噴射体の燃料噴射チップ部のピントル部の後面に設けられた環状の凹部
120 セカンダリ燃料噴射体
125 外側旋回翼
130 シュラウド
130i シュラウドの内面(外側旋回空気流ガイド部)
FA 燃料アニュラス
FP 燃料プレナム
PAi 内側空気通路
PAo 外側空気通路
SC 旋回チャンバ