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特許7161161金属光沢を有する物品及びトナー並びに金属光沢を有する物品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】金属光沢を有する物品及びトナー並びに金属光沢を有する物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20221019BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 39/06 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20221019BHJP
   G03G 9/09 20060101ALI20221019BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20221019BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L69/00
C08L39/06
C08L25/06
C08L33/10
C08L25/14
C08L65/00
G03G9/09
G03G9/087
C08J3/20 C CER
C08J3/20 C CEZ
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017108861
(22)【出願日】2017-05-31
(65)【公開番号】P2018012831
(43)【公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2016136489
(32)【優先日】2016-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】宮本 克真
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056591(WO,A1)
【文献】特開2014-153691(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021405(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08J 3/20
C03G 9/00- 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体を、溶媒としてニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレンの少なくともいずれかを用いて混合し、前記溶媒を除去することで固化させ、物品の重量を100とした場合、前記チオフェン重合体の重量は11以上20以下の範囲、かつ前記樹脂の重量は80以上89以下の範囲となっている金属光沢を有する物品の製造方法。
【請求項2】
ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体を、溶媒としてニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレンの少なくともいずれかを用いて混合して得られる溶液の粘度を低くし、インクジェットノズルを用いた噴霧により所望の粒径より少し大きい程度の液滴を形成し、この液滴から前記溶媒を除去することで固化させ、トナーの重量を100とした場合、前記チオフェン重合体の重量は11以上50以下の範囲、かつ前記樹脂の重量は50以上89以下の範囲となっている微小な粒子とする金属光沢を有するトナーの製造方法。
【請求項3】
前記トナーの重量を100とした場合、前記チオフェン重合体の重量は11以上20以下の範囲、かつ前記樹脂の重量は80以上89以下の範囲となっている請求項2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体と、溶媒としてニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレンの少なくともいずれかを含み、前記溶媒を除去し固化させることで、物品の重量を100とした場合、前記チオフェン重合体の重量は11以上20以下の範囲、かつ前記樹脂の重量は80以上89以下の範囲となっている金属光沢を有する物品を製造するための溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢を有する物品及びトナー並びに金属光沢を有する物品の製造方法に関する。
【0002】
金属は一般に硬く、家電や自動車等、機械的強度が必要な部品に使用されているだけでなく、金属光沢を有するため質感に優れ、家具や雑貨等、日常生活のありとあらゆる物品において使用されている。特に金は、高級感を出すことができ人気が高い。しかしながら、金属は材料そのものが高価であるだけでなく加工も容易ではなく、高価となってしまうといった課題がある。
【0003】
上記の課題を解決するための手段として、例えば、高分子やガラスといった物品の表面に金属の薄膜を被覆する金属めっき方法や、微粒子又はフレーク状の金属を添加した塗料を物品の表面に塗布する方法等の表面処理技術がある。この技術を用いると、高分子化合物で物品を製造する一方、その表面に金属薄膜又は金属を含む塗料を被覆することで、安価に金属光沢を有する物品を製造することができるといった効果がある。
【0004】
しかしながら、上記金属めっき方法は、表面処理を行うことができる材質に制限が少なからずある。また上記表面技術は結局のところ金属を使用するものであり、物品全部を金属で使用する場合よりは少なくて済むが結局高価となってしまう。特に、上記金属を添加した塗料は塗料中のポリマーバインダーと金属との比重の違いにより、金属粒子が沈降し、塗膜にしたときに斑が生じやすくなってしまう、金属が腐食されて光沢が失われてしまう、塗膜が重いといった課題もある。
【0005】
そこで、金属以外の物質を用いて金属光沢を示す物質が存在すれば、上記課題を解決することができると考えられており、金属光沢(金色光沢及び銅色光沢)を示す非金属物質に関する技術として、例えば下記特許文献1に記載された技術がある。この非金属物質は、溶媒に溶解することができ、ガラス・プラスチックフィルム・金属・紙に均一に塗布でき、塗布膜が金色調あるいは銅色調の光沢を発現し、さらに光沢が何年も持続する世界初の物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO/2014/021405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に記載の技術は、金属光沢を示す膜を形成することができるが、その強度において課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、高い強度を備えた金属光沢を有する物品及びトナー並びに金属光沢を有する物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る金属光沢を有する物品は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体が混合された金属光沢を有すものである。
【0010】
なおこの観点において、限定されるわけではないが、チオフェン重合体の重量は、物品の重量を100とした場合、0.1以上99.9以下の範囲となっていることが好ましい。
【0011】
なおこの観点において、限定されるわけではないが、物品は立体物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の他の一観点に係るトナーは、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体が混合された金属光沢を有するものである。
【0013】
また、本観点において、限定されるわけではないが、チオフェン重合体の重量は、物品の重量を100とした場合、0.1以上99.9以下の範囲となっていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の他の一観点に係る物品の製造方法は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体を、溶媒を用いて混合し、前記溶媒を除去することで固化させる金属光沢を有するものである。
【0015】
また、本観点において、限定されるわけではないが、チオフェン重合体の重量は、物品の重量を100とした場合0.1以上99.9以下の範囲となっていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の他の一観点に係る物品の製造方法は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体と、溶媒を、を含む金属光沢を有する物品を製造するための溶液である。
【0017】
また、本発明の他の一観点に係る立体物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体と、が混合されたものである。
【0018】
また、本発明の他の一観点に係る金属光沢を有するトナーは、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体と、が混合されたものである。
【0019】
また、本発明の他の一観点に係る金属光沢を有する立体物の製造方法は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体を、溶媒を用いて混合し、溶媒を除去することで固化させるものである。
【0020】
また、本発明の他の一観点に係る金属光沢を有する物品を製造するための溶液は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体と、溶媒を、を有するものである。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明によって、高い強度の金属光沢を有する物品及びトナー並びに金属光沢を有する物品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る物品の概略を示す図である。
図2】実施形態に係る物品の他の形状の一例を示す図である。
図3】ニトロメタン溶液から作製された膜を示す図である。
図4】GBL溶液から作製された膜を示す図である。
図5】ニトロメタン溶液から作製された膜の正反射スペクトルを示す図である。
図6】GBL溶液から作製された膜の正反射スペクトルを示す図である。
図7】ニトロメタン溶液から作製された膜の色度図である。
図8】GBL溶液から作製された膜の色度図である。
図9】ニトロメタン溶液から作製された膜と金蒸着膜との差を示す図である。
図10】GBL溶液から作製された膜と金蒸着膜との差を示す図である。
図11】ニトロメタン溶液から作製された膜と金蒸着膜との色差を示す図である。
図12】GBL溶液から作製された膜と金蒸着膜との色差を示す図である。
図13】実施例に係る立体的形状とした物品の写真図である。
図14】実施例にて作製した金色調膜の写真図である。
図15】実施例にて作製した金色調膜の全反射スペクトルを示す図である。
図16】実施例にて作製した金色調膜の全反射スペクトルを示す図である。
図17】実施例にて作製した金色調膜の全反射スペクトルを示す図である。
図18】実施例にて作製した金色調膜の測色データの絶対値を示す図である。
図19】実施例にて作製した金色調膜の測色データの絶対値を示す図である。
図20】実施例にて作製した金色調膜の測色データの絶対値を示す図である。
図21】金蒸着膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図22】金蒸着膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図23】金蒸着膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図24】樹脂なしの金色調膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図25】樹脂なしの金色調膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図26】樹脂なしの金色調膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図27】実施例にて作製した金色調膜の写真図である。
図28】実施例にて作製した金色調膜の全反射スペクトルを示す図である。
図29】実施例にて作製した金色調膜の測色データの絶対値を示す図である。
図30】金蒸着膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図31】樹脂なしの金色調膜と実施例の金色調膜との色差を示す図である。
図32】X線回折スペクトルを示す図である。
図33】PES表面及びPMMA裏面のワイドスキャンXPSスペクトルである。
図34】PES表面及びPMMA裏面のS2p領域のXPSスペクトルである。
図35】PES表面及びPMMA裏面のCl2p領域のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0024】
(物品)
図1は、本実施形態に係る金属光沢を有する物品(以下「本物品」ともいう。)1の概略図である。本図の本物品は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかと、チオフェン重合体と、が混合されたものであり、基板の上に物品が形成された膜の形態となっている例であるが、例えば図2で示す、より立体的で複雑な形状とすることも可能である。
【0025】
(ポリエステル樹脂)
本物品において、ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体からなる樹脂をいい、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリトリテトラメチレンナフタレート及びこれらの混合物等を例示することができるがこれに限定されない。
【0026】
また本物品において、ポリエステル樹脂の平均分子量は、金属光沢を有する限りにおいて限定されるわけではないが、1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは3000以上100000以下である。
【0027】
(ポリカーボネート樹脂)
本物品において、ポリカーボネート樹脂とは、カーボネート基を構成要素として有する樹脂であって、例えばビスフェノールAとホスゲンによって製造可能な樹脂である。また本物品において、ポリカーボネート樹脂の平均分子量は、金属光沢を有する限りにおいて限定されるわけではないが、1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは3000以上100000以下である。
【0028】
(ポリビニルピロリドン(PVP)樹脂)
本物品において、ポリビニルピロリドン樹脂とは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した樹脂をいう。また本物品において、ポリビニルピロリドン樹脂の平均分子量は、金属光沢を有する限りにおいて限定されるわけではないが、1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは3000以上100000以下である。
【0029】
(ポリスチレン樹脂)
本物品において、ポリスチレン樹脂とは、スチレンを重合してなる樹脂をいう。また本物品において、ポリスチレン樹脂の平均分子量は、金属光沢を有する限りにおいて限定されるわけではないが、1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは3000以上500000以下であり、さらにこのましくは300000以下である。
【0030】
(ポリメタクリル酸メチル樹脂(アクリル樹脂))
本物品において、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂とは、アクリル酸エステルを重合させた樹脂をいう。またポリメタクリル酸メチル樹脂の平均分子量は、金属光沢を有する限りにおいて限定されるわけではないが、1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは3000以上500000以下である。
【0031】
(スチレンアクリル共重合体樹脂)
本物品において、スチレンアクリル共重合体樹脂とは、アクリルニトリルとスチレンの共重合化合物をいう。スチレンアクリル共重合体樹脂の平均分子量は、金属光沢を有する限りにおいて限定されるわけではないが、1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは3000以上500000以下である。
(チオフェン重合体)
また本物品において「チオフェン重合体」とは、二以上のチオフェンが互いに結合して重合したものをいい、下記一般式で示される化合物をいう。
【化1】
【0032】
上記式において、Rは置換基であり、膜に金属光沢を付与できる限りにおいて限定されるわけではないが、アルコキシ基、アミノ基、アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、シアノ基、又は、ハロゲンのいずれかであることが好ましい。また、Rは一つのチオフェン環に一つであっても、二つであってもよい。また、本実施形態に係るチオフェン重合体において、各チオフェンの上記Rは同じであっても異なっていてもよい。さらに、チオフェン重合体は陰イオンによってドーピングされていると、金及び銅に近い金色調及び銅色調を呈する。陰イオンとしては、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン等を挙げることができる。
【0033】
なお「チオフェン」は、上記の記載からも明らかなように、硫黄を含む複素環式化合物であって、下記一般式で示される化合物である。式中Rの定義は上記と同様である。
【化2】
【0034】
なお、上記式中Rがアルコキシ基である場合、限定されるわけではないが、炭素数は1以上8以下であることが好ましく、より具体的には、3-メトキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-プロポキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-メトキシ-4-メチルチオフェン、3-エトキシ-4-メチルチオフェン、3-ブトキシ-4-メチルチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン等を例示することができる。
【0035】
また、上記式中Rがアルキル基である場合、限定されるわけではないが、炭素数は1以上12以下であることが好ましく、より具体的には、3-メチルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3,4-ジエチルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-ノニルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ウンデシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-ブロモ-4-メチルチオフェン等を例示することができる。
【0036】
また、上記式中Rがアミノ基である場合、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-メチルアミノチオフェン、3-ジメチルアミノチオフェン、3-チオフェンカルボキシアミド、4-(チオフェン-3-イル)アニリン等を例示することができる。
【0037】
また本物品において、「チオフェン重合体」の分子量としては、金属光沢を有するものとすることができ、膜として形成できるものである限りにおいて限定されるわけではないが、GPC測定法により求められる重量平均分子量の分布のピークが200以上30000以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは500以上10000以下の範囲内である。
【0038】
また、本物品において、 チオフェン重合体の重量は、物品全体の重量を100とした場合、0.1以上99.9以下の範囲となっていることが好ましく、より好ましくは0.5以上99以下の範囲である。
【0039】
また本物品において、チオフェン重合体は、作製することができる限りにおいて限定されず種々の方法を採用することができる。例えば、チオフェン重合体は、化学重合又は電解重合によって作製することができる。
【0040】
(化学重合)
ここで「化学重合法」とは、酸化剤を用いて液相及び固相の少なくともいずれかにおいて行う重合をいう。
【0041】
この方法では、具体的に(1)酸化剤を用いてチオフェンを重合してチオフェン重合体を含む溶液とする工程、(2)チオフェン重合体を含む溶液から未反応原料及び副生成物を除去してチオフェン重合体粉末を得る工程、を有する。
【0042】
まず、この方法では、(1)酸化剤を用いてチオフェンを重合し、このチオフェン重合体を含む溶液を作製する。ここで用いる「チオフェン」及び得られる「チオフェン重合体」は、上記したものである。チオフェン重合体は、上記の通り、いわゆるオリゴマーの範囲にあることが好ましく、具体的には重量平均分子量の分布ピークが200以上30000以下の範囲内となるように重合することが好ましい。
【0043】
本工程において、酸化剤は、チオフェン重合体を製造することができる限りにおいて限定されず様々なものを使用することができるが、例えば第二鉄塩、第二銅塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素及びヨウ素を挙げることができ、中でも第二鉄塩が好ましい。なお水和物であっても良い。また、この場合において、この対となるイオンも適宜調整可能であって限定されるわけではなく、例えば塩化物イオン、臭化物イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等を挙げることができ、その中でも、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、及び、パラトルエンスルホン酸イオンの少なくともいずれかを用いると、測色計による数値評価で規定される金色に近い金属光沢を得ることができ好ましい。金色に近い金属光沢を得ることができる理由は、推測の域であるが、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、パラトルエンスルホン酸イオンが重合の際、チオフェン重合体にドーパントとして組み込まれ、チオフェン重合体内に生成されるカチオン部位と結合して安定化し、規則正しい分子配向構造の形成(ラメラ結晶構造の形成)に寄与するためであると考えられる。実際のところ金属光沢を有する膜を分析するとこれらが安定的に存在することが確認されている。
【0044】
また本工程において、重合は溶媒を用い、この溶媒中において行うことが好ましい。用いる溶媒は、上記酸化剤及びチオフェンを十分に溶解し効率的に重合させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、高い極性を有し、ある程度の揮発性を有する有機溶媒であることが好ましく、例えばアセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、ニトロメタン、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、アニソール、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、エタノール、ブタノール、ピリジン、ジオキサン、及びこれらの混合物等を用いることができるが、アセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレンはチオフェン重合体が可溶であり、より良好な金属光沢を備えた膜となりやすく好ましい。
【0045】
なお本工程において、溶媒に対し用いるチオフェン、酸化剤の量は適宜調整可能であり限定されるわけではないが、溶媒の重量を1とした場合、チオフェンの重量は0.00007以上7以下であることが好ましく、より好ましくは0.0007以上0.7以下であり、過塩素酸鉄(III)n水和物の場合、重量は0.0006以上6以下であることが好ましく、より好ましくは0.006以上0.6以下である。
【0046】
また、本工程において、用いるチオフェンと酸化剤の比としてはチオフェンの重量を1とした場合、0.1以上1000以下であることが好ましく、1以上100以下であることがより好ましい。
【0047】
また本工程は、チオフェンと酸化剤を溶媒に一度に加えてもよいが、溶媒にチオフェンを加えた溶液と、酸化剤を溶媒に加えた溶液の二種類の溶液を別途作製し、これらを加え合わせることで重合反応を行わせても良い。
【0048】
またこの方法において、上記作製したチオフェン重合体は、溶媒を除去して粉末状のチオフェン重合体(チオフェン重合体粉末)としておくことが好ましい。このようにしておくことで後述の溶媒に溶解させつつポリエステル樹脂と混合し、金属光沢を有する物品を製造することが可能となる。なお、酸化剤において上記過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、パラトルエンスルホン酸イオンを含むものを用いた場合、上記重合体に安定的に結合されているため残り、金属光沢の状態を安定的に維持することができる。
【0049】
(電解重合)
また、本物品において、上記のとおりチオフェン重合体は、電解重合を用いて製造することもできる。本実施形態において、電解重合とは、重合体の前駆体となる物質(モノマー)を、支持電解質を含む溶液に溶解し、その後モノマーを電極酸化することにより、導電体上に溶液不溶性重合体膜を形成する手法をいう。
【0050】
また、本実施形態において、陽極酸化させる際、電位掃引法を用いることが好ましい。電位掃引法とは、支持電解質を含む溶液に一対の電極を浸漬し、一定の速度で電位を変化させつつ印加する処理をいう。
【0051】
また本実施形態において用いられる溶液の溶媒としては、特に限定されるわけではないが、例えば水、アルコールの他、藤島昭、相澤益男、井上徹、電気化学測定法、技報堂出版、上巻107―114頁、1984年に記載の溶媒を採用できる。また、種々の溶媒の混合溶媒も好ましい。さらに、ドデシル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤、及びポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン性界面活性剤を用いると、測色計による数値評価で規定される金色に近い金属光沢を得ることができ好ましい。
【0052】
また本実施形態において用いられる溶液の支持電解質は、電気分解において必須の成分であり、溶媒に十分溶解し、電気分解されにくいカチオン又はアニオンを構成要素とするものが好ましく、限定されるわけではないが、カチオンに注目すれば例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩の少なくともいずれかを用いることが好ましく、アニオンに注目すれば例えばハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、四フッ化ホウ酸塩、六フッ化リン酸塩の少なくともいずれかを用いることが好ましい。支持電解質の濃度は、限定されるわけではないが0.001M以上溶解度以下であることが好ましく、0.01M以上5M以下であることがより好ましい。
【0053】
また、本実施形態において、電解重合で用いられるチオフェンモノマーの電解溶液中における濃度は、限定されるわけではないが、0.1mM以上溶解度以下であることが好ましく、より具体的には0.5mM以上1M以下であることがより好ましい。
【0054】
また本実施形態において、電解重合は溶液を入れた電解容器に導電体(動作電極として機能させる)を浸漬し、これに対向電極、必要に応じて電位の基準となる参照電極の3本の電極を用いる3電極式、又は、導電体と対向電極だけを用いる2電極式を採用することができる。なお、導電体の電位を基準となる参照電極に対して厳密に規定することのできる3電極式は、本方法によって形成されるチオフェン重合体を含む金属光沢を有する物品を再現性良く作製することができる点においてより好ましい。
【0055】
動作電極としての導電体は、3電極式及び2電極式のいずれの場合においても、電極酸化に対して安定な物質であれば良く、限定されるわけではないが、例えば上記したように、酸化インジウムスズ(以下「ITO」と略記する。)や酸化錫が塗布された透明ガラス電極、金属電極、ステンレス等の合金電極、グラシーカーボン電極等を好適に用いることができる。また、対向電極としては、上記電極材料に加え、ステンレスや銅板などの金属電極を好適に用いることができる。また参照電極は、限定されるわけではないが例えば銀・塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、飽和カロメル電極を好適に用いることができる。
【0056】
また、本実施形態において電解重合における電位掃引法は、負電位と正電位の間で掃引することが好ましい。またこの場合において、負電位は、-1.5V以上-0.01V以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは-1.0V以上-0.1V以下の範囲、さらに好ましくは-0.7V以上-0.2V以下の範囲である。また、正電位は、+1.0V以上+3.0V以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは+1.0V以上+2.0V以下の範囲、さらに好ましくは+1.0V以上+1.5V以下の範囲内である。
【0057】
また本実施形態において、電位掃引法は、掃引速度について、金属光沢を有する物品を製造することができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.1mV/秒以上10V/秒以下の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは1mV/秒以上1V/秒以下の範囲、さらに好ましくは2mV/秒以上300mV/秒以下の範囲内である。
【0058】
また電解重合の時間としては、金属光沢を有する物品を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、上記印加電圧の範囲内において1秒以上5時間以下の範囲内において行うことが好ましく、10秒以上1時間以下の範囲内において行うことがより好ましい。
【0059】
また、この電気分解の温度としては電解重合により金属光沢を有する物品を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、-20℃以上60℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0060】
また、この電気分解は、大気中の成分物質が関与することの少ない反応でありまた比較的低電位で行われるため、大気中で行うことができる。電解液中の溶存酸素の酸化など、生成した膜を汚染する可能性を回避する観点から、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましいが、汚染の心配はほとんど無い。しかしながらそれでもやはり、電解重合を形成する場合、溶液中に酸素が多く存在すると電極反応に影響を与えてしまうおそれがあるため、不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)によるバブリングを行うことも有用である。
【0061】
(製造方法)
本物品は、上記の化学重合あるいは電解重合で合成されたチオフェン重合体とポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかを混合することで作製するが、この混合においては、溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、上記ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体を混合させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばニトロメタン、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン及びこれらの混合物を用いることができるがこれに限定されない。
【0062】
また、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体の比率は上記した範囲でよいが、溶媒とこの混合物の濃度の比は、溶解が可能で、必要な粘度とすることができる限りにおいて適宜調整可能であれば限定されるものではないが、例えば、上記ポリエステル樹脂とチオフェン重合体の総重量を1とした場合、0.1以上500以下であることが好ましい。
【0063】
そして、上記作製した溶液を板等の上に塗布し、所望の形状に形成した後、乾燥させて溶媒を除去することで、所望の立体的形状を維持した物品を形成することができる。もちろん、立体的形状には膜が含まれており、この膜の強度は後述の実施例から明らかなように、非常に高い強度を備えている。
【0064】
以上、本物品では、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体を混合させたとしても金属光沢を失わず、より強度の高い物品を提供することができる。
【0065】
なお、本物品において、チオフェン重合体が金属光沢を示す理由は推測の域にあるが、チオフェン重合体を構成する分子が規則的に配向し、特定の波長を反射するためであると考えられる。このことは、作製されたチオフェン重合体を含む膜がX線回折において鋭いピークを示していることからも裏付けられる。
【0066】
しかしながら、上記の背景を考えると、通常、チオフェン重合体に他の混合物である樹脂を混合させた場合、上記の特殊な規則的な配列は乱され、金属光沢を示す構造は実現できないものと考えられる。しかしながら、本物品では、数ある樹脂の中でもポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかを採用することで、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかが入り込んできたとしても金属光沢を失わないことを見出した。しかもポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかは適宜分子量の調整が可能であり、また混合する溶媒を調整することでその溶液の粘度を調整することが可能である。
【0067】
(トナー)
ところで、本実施形態に係る物品は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体を混合したものとなっている。ポリエステル樹脂自体は、例えばプリンターやコピー機等で用いられるトナーのバインダーとして使用されており、この物品はプリンター等のトナーとして用いることが可能である。トナーとする場合、上記ポリエステル樹脂とチオフェン重合体の混合物を微小な粒子とすることで実現できる。なお、微小な粒子とする方法としては上記ポリエステル樹脂とチオフェン重合体を混合した物品を破砕して所望の粒径とすることができるが、例えば上記作製した溶液の粘度を低くし、インクジェットノズルを用いた噴霧等により所望の粒径より少し大きい程度の液滴を形成し、この液滴から溶媒を除去させることで乾燥した粒とすることができる。もちろん、他の樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂なども可能である限り用いることができる。
【0068】
以上、本実施形態によって、より強度の高い金属光沢を有する物品を得ることができる。
【実施例
【0069】
ここで、上記実施形態に係る物品について、実際にその製品の作製を行い効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0070】
(チオフェン重合体)
まず、3-メトキシチオフェン(以下、「3MeOT」とする)のモノマーを重合前に蒸留し、不純物を除去した。蒸留したモノマー5.418gをアセトニトリル475mlに、窒素をバブリングしながら30分間プロペラ攪拌機で攪拌し、モノマー溶液0.1mol/lを調製した。
【0071】
次に、酸化剤として過塩素酸鉄(III)・n水和物(Fe(ClO・nHO)48.02 gをアセトニトリル475 mlに加え、20分間、超音波分散させて溶解し、酸化剤溶液0.2mol/lを調製した。
【0072】
そして、モノマー溶液を重合セルに入れ、酸化剤溶液をビュレットでゆっくり滴下し、2時間重合させた。この操作により、濃青色を呈する3MeOTオリゴマーを得た。
【0073】
そして、ガラスろ過器に、重合後の3MeOTオリゴマーを含む溶液を入れ、吸引ろ過した。ガラスろ過器のフィルター上に残った残渣をメタノールを用いて洗浄し、そして吸引ろ過をする操作を繰り返した。
【0074】
その後、洗浄後の残渣を真空乾燥機に入れ、50℃下で90分間真空乾燥を行い、オリゴマーを乾燥させた。
【0075】
(チオフェン重合体とポリエステル樹脂の混合)
上記作製したオリゴマー、高分子樹脂であるポリエステル(PES)樹脂(東洋紡社製 バイロン200、平均分子量17,000)、そして溶媒であるニトロメタン及びγ-ブチロラクトン(以下、GBLとする)をそれぞれ下記表1、表2で示す量で混合し、撹拌した。なお、下記表中、3MeOT:PESはオリゴマーとポリエステルの重量比を表し、以降その表記をサンプル名とする。従って、1:0は樹脂を含まない、オリゴマーのみの溶液を表す。
【表1】
【表2】
【0076】
(物品の製造)
よく洗浄したガラス基板上に上記溶液をスポイトで滴下して塗布した。ニトロメタン溶媒の塗膜は、室温で1時間(20℃、40%RH)乾燥、GBL溶媒の塗膜は、恒温温風乾燥機で30分間(45℃)乾燥させた。
【0077】
図3に、上記表1において示したニトロメタン溶液から作成された膜を示す。なお図中の比は3MeOT : PESの質量比である。また、1:0はPESが含まれていないオリゴマーのみの膜である。
【0078】
また、図4に、上記表2において示したGBL溶液から作成された膜を以下に示す。なお図中の比は3MeOT:PESの質量比である。また、1:0はPESが含まれていない、オリゴマーのみの膜である。
【0079】
(正反射スペクトル)
ここで、図5及び図6に、上記表1および表2それぞれの溶液から作成された塗布膜の正反射スペクトルを顕微紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製 MSV-370)で測定した結果を示す。なお波長間隔は0.5nm、アパーチャーサイズは100×100μmとした。
【0080】
図5で示すニトロメタン溶液から作成された塗膜の正反射スペクトルによると、塗布膜は、高分子樹脂の添加により反射率は多少低下するが、立ち上がり波長のシフトは見られないことを確認した。
【0081】
また、図6で示すGBL溶液から作製された塗膜は、高分子樹脂の添加によって反射率が向上していることを確認した。また、立ち上がり波長は、高分子樹脂の添加によって短波長シフトしていることから、樹脂の添加によって色味を変化させることができることがわかった。
【0082】
(測色データ)
また、分光測色計(コニカミノルタ社製 CM-600d)を用いて膜の測色の結果を以下の表3、4にそれぞれ示す。この場合において、光源はD65、視野角は10度、測定は正反射光を含んだ結果で測色を行った。
【0083】
図7及び図8は、CIE1976(L,a,b) 色空間(http://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/part1/07.html)におけるL,a,bの値をそれぞれプロットしたものである。
【表3】
【表4】
【0084】
また、真空蒸着によって作製した金の膜と比較した値を表5、表6にそれぞれ示す。なお、ΔE*abは色差(色空間における距離)を表す。また、この塗膜と金蒸着膜との差について図9、38にニトロメタン溶液及びGBL溶液それぞれの場合を示し、図11図12に、ニトロメタン溶液及びGBL溶液それぞれの場合における塗膜と金蒸着膜との色差ΔE*abについて示しておく。
【表5】
【表6】
【0085】
(機械的強度の測定)
次に、塗膜の機械的性質を引っかき硬度(JIS5600-5-4)に基づいて評価した。鉛筆は、三菱鉛筆ハイユニを使用し、塗膜にキズ跡が生じなかったもっとも硬い鉛筆の硬度を表7、表8にそれぞれ示す。
【表7】
【表8】
【0086】
この結果、高分子樹脂の添加量を増やすことで、塗膜の強度が向上した。
【0087】
以上、金属調光沢を発現する3-メトキシチオフェンオリゴマーとポリエステル樹脂を混合した塗布液を作製し、基板上に塗布したところ、金色調光沢を失うことなく機械的強度に優れた金属調光沢膜を作製することができた。
【0088】
(立体形状の作製)
なお、上記作製した溶液の粘度を調整することで、膜ではなく立体的形状の物品を作成することができる。図13に、膜ではなく実際の立体的形状とした物品の例について写真図を示しておく。本図で示すように、高い強度を備えた立体的形状の物品とすることが可能である。
【0089】
(他の樹脂との組み合わせ:チオフェン重合体と樹脂の混合塗布液作製)
上記PESの例と同様、他の樹脂との組み合わせを行い、塗布液を作製した。具体的には、下記表9で示す種々の樹脂10mgをγ-ブチルラクトン1.0g(以下「GBL」という。)又はニトロメタン1.0gに完全に溶解させ、その溶液に上記作製したチオフェン重合体10mgを混合し、撹拌した。
【表9】
【0090】
(他の樹脂との組み合わせ:膜の作成)
そして、よく洗浄したガラス基板上に上記作製した塗布液をスポイトで滴下して塗布し、塗膜を恒温温風乾燥機で1時間(60℃)乾燥させた。なおいずれも膜厚は18μm程度であった。
【0091】
図14に、上記作製した塗膜と、比較例として樹脂を含まない塗膜の写真図を示す。図中、上段左から、比較例として樹脂を含まない塗膜(ニトロメタン溶媒)、比較例として樹脂を含まない塗膜(GBL溶媒)、PES-N、PES-Gを示し、下段左から、PC、PVP、PS、PMMA、StAcをそれぞれ示している。なお、PS、PMMA、StAcについては、膜の裏側が金色を発現したため、裏側の写真図とした。
【0092】
(他の樹脂との組み合わせ:反射スペクトル)
図15乃至図17に、分光測色計(コニカミノルタ製CM-600d)を用いて、反射スペクトルを測定した。光源はD65、視野角は10度、測定は制反射を含んだ測定法(SCI方式)で測定を行った。なお図15はニトロメタン溶媒から作製した樹脂を含まない膜及びPEN-N膜の全反射スペクトルを示し、図16は、GBL溶媒から作製した樹脂を含まない膜及びPES-G膜、PC膜及びPVP膜の全反射スペクトルを示し、また図17は、GBL溶媒から作製した樹脂を含まない膜及び、PES膜、PMMA膜及びStAc膜の全反射スペクトルをそれぞれ示している。
【0093】
(分光測色)
次に、上記した分光測色計を用い、上記図で示した膜の金色調面の測色を行った。光源はD65、視野角は10度、測定は制反射光を含んだ測定法(SCI方式)で測色を行った。なお、L、a、bの値は、CIE1976(L,a,b)色空間における明度L、色相と彩度a、bを表し、JISZ8781-4:2013の規格に基づいている。この結果得られた測色の絶対値データについて下記表10に示し、その値のL、a、bのグラフを図18乃至20に示す。なお図18中の●は金蒸着膜を、■1はニトロメタン溶媒から作製された樹脂を含有しない金色調膜、■2はPES-N膜をそれぞれ示している。また、図19中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含まない金色調膜、■2はPES-G膜を、■3はPC膜を、■4はPVP膜をそれぞれ示す。また、図20中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含有しない金色調膜、■2はPS膜、■3はPMMA膜、■4はStAc膜をそれぞれ示している。
【表10】
【0094】
次に、ここで得られた金色調膜と、蒸着金属金との色の比較をするために、金の蒸着膜の測色値を基準としたときの色差ΔEabと、L、a、bの値の差ΔL、Δa、Δbの値を下記表11に示し、図21乃至図23にプロットした結果を示す。ただし、色差ΔEabは、空間における基準色(金蒸着膜)との直線距離であり、下記式で与えられる。なお図21は、金蒸着膜との色差を表し、図中●は金蒸着膜を、■1はニトロメタン溶媒から作製された樹脂を含有しない金色調膜、■2はPES-N膜をそれぞれ示している。また、図22も、金蒸着膜との色差を表し、図中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含まない金色調膜、■2はPES-G膜を、■3はPC膜を、■4はPVP膜をそれぞれ示す。また、図23中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含有しない金色調膜、■2はPS膜、■3はPMMA膜、■4はStAc膜をそれぞれ示している。
【数1】
【表11】
【0095】
次に樹脂を含まない膜との比較を行った。具体的には、上記得られた膜と、樹脂を含まない膜との色の比較をするために、チオフェン儒剛体のみで作製した膜の測色値を基準とし、色差ΔEabと、L、a、bの値の差ΔL、Δa、Δbを下記表12に示し、図24乃至26にプロットした結果を示す。なお図24は、金蒸着膜との色差を表し、図中●は金蒸着膜を、■1はニトロメタン溶媒から作製された樹脂を含有しない金色調膜、■2はPES-N膜をそれぞれ示している。また、図25も、金蒸着膜との色差を表し、図中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含まない金色調膜、■2はPES-G膜を、■3はPC膜を、■4はPVP膜をそれぞれ示す。また、図26中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含有しない金色調膜、■2はPS膜、■3はPMMA膜、■4はStAc膜をそれぞれ示している。
【表12】
【0096】
(樹脂の添加量を変化させた場合の金色膜形成)
次に、樹脂の添加量をオリゴマーに対し8倍以上に増量したときの塗布膜において、同様の金色調光沢の発現が確認された。以下にその結果について示す。
【0097】
(作製)
チオフェン重合体は上記実施例と同様に行った。また、下記表13で示す種々の樹脂80mgを1.0gのGBLに完全に溶解させ、その溶液に上記作製した3MeOTオリゴマー10mgを混合し、撹拌した。次いで、よく洗浄したガラス基板上に上記溶液をスポイトで滴下して塗布し、塗膜を恒温温風乾燥機で1時間(60℃)乾燥させた。膜厚は約50μm程度であった。
【表13】
【0098】
ここで、図27に、上記で作成した膜と、樹脂を含まない膜(60℃乾燥)の写真を示す。ただし、PS、PMMA、StAcはガラス基板との接着面(裏面)を撮影したものである。
【0099】
(正反射スペクトル)
図28に、上記作製された塗布膜のうち、PESの表面及びPS、PMMA、StAcのガラス基板との接着面(裏面)の正反射スペクトルを、兼備紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製MSV-370)で測定した結果をそれぞれ示す。本図の結果と上記した同様の結果を比較すると、立ち上がり波長や反射率に差がないことから、樹脂をオリゴマーに対して過剰に混合しても金色光沢が発現することが確認された。
【0100】
(分光測色)
次に、それぞれの膜のL、a、bの値を下記表14に示し、その値のLとa-bのグラフを図29に示す。結果として、いずれの樹脂膜とも金蒸着と近い値をとっているがa及びbの値は金蒸着膜と比較してやや低い値となり、緑と青みがやや強いことがわかる。なお、上記俵と比較すると樹脂を増量しても色調に変化はあまりなかった。なお図中の●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含まない金色調膜、■2はPES膜を、■3はPS膜を、■4はPMMA膜を、■5はStAc膜をそれぞれ示す。
【表14】
【0101】
次に、上記金色調膜と、蒸着金属金との色の比較をするために、金の蒸着膜の測色値を基準としたときの色差ΔL、Δa、Δbを下記表15に示し、図30にプロットした結果を示す。なお本図において、●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含まない金色調膜、■2はPES膜を、■3はPS膜を、■4はPMMA膜を、■5はStAc膜をそれぞれ示す。
【表15】
【0102】
次に、上記金色調膜と、樹脂を含まない膜との色の比較をするために、金の蒸着膜の測色値を基準としたときの色差ΔL、Δa、Δbを下記表16に示し、図31にプロットした結果を示す。なお本図において、●は金蒸着膜を、■1はGBL溶媒から作製された樹脂を含まない金色調膜、■2はPES膜を、■3はPS膜を、■4はPMMA膜を、■5はStAc膜をそれぞれ示す。
【表16】
【0103】
(X線回折スペクトル)
ここで、金色調光沢が発現しているPES膜の表面とPMMA膜の裏面のX線回折分析を行い、チオフェン重合体に起因する結晶性構造(ラメラ構造)の有無に関する知見を得た。測定には、リガク社製SmartLabを用いて、薄膜法で測定を行った。この場合の膜厚は50μm程度であった。
【0104】
図32にそれらのXRDパターンを示す。いずれのパターンにおいても7.79度付近に鋭いピークが確認され、膜中にはラメラ結晶が存在し、ラメラ相関距離が1.13nmであることが産出された。
【0105】
(X線光電子分光分析(XPS))
X線高電子分光分析により、膜の表面(深さ2.5nm程度までの表面)の構成元素と存在量に関する知見を得た。測定にはPHI社製QuanteraIIを用い、X線源は単色化Al(1486.6eV)とした。
【0106】
図32にワイドスキャンスペクトルを示す。これによるとPESもPMMAも酸素O、炭素C、塩素Cl、硫黄Sのピークのみが確認された。
【0107】
また、S2pとCl2p付近のナロースキャンスペクトルを図33、34に示す。金色調光沢が発現しているPES表面もPMMA表面も、深さ2.5nm以内にチオフェン環に由来する硫黄とドーパントの過塩素酸に由来する塩素のシグナルが明瞭に観察された。すなわち、50μm厚のフィルム最表面及び最裏面にチオフェン重合体が存在することがわかり、そのチオフェン重合体が形成するラメラ結晶によって金色調の色調が発現することが分かった。なお、得られたスペクトルから得られる塩素と硫黄の原子数濃度を下記表17に示しておく。この濃度から、本実施例によって得られたチオフェン重合体は、チオフェン環10ユニットに対して塩化物イオンが約3個の割合でドーピングされていることが分かった。
【表17】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、金属光沢を有する物品およびその製造方法として産業上の利用可能性がある。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35