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特許7161163環状成膜方法、環状成膜具および環状成膜用マスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】環状成膜方法、環状成膜具および環状成膜用マスク
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20221019BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20221019BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20221019BHJP
【FI】
G02B5/00 B
C23C14/04 A
G02B7/02 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017199737
(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公開番号】P2018066987
(43)【公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2016203442
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146009
【氏名又は名称】株式会社昭和真空
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 健介
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊明
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174767(JP,A)
【文献】特開2005-344203(JP,A)
【文献】特開平04-110457(JP,A)
【文献】特開2011-233510(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098808(WO,A1)
【文献】特開平06-088206(JP,A)
【文献】特開平10-050478(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0058458(KR,A)
【文献】特開2004-030975(JP,A)
【文献】特開2014-034722(JP,A)
【文献】特開2005-268822(JP,A)
【文献】特開2015-028193(JP,A)
【文献】特開2007-138256(JP,A)
【文献】特開2010-062125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
C23C 14/04
G02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物に環状の薄膜を形成する環状薄膜形成方法において、
少なくとも一部に磁性材料または磁石を有し実質的に円形のマスクを前記成膜対象物の一方の面に配置すると共に、前記一方の面と逆側から前記成膜対象物をホルダで保持し、前記成膜対象物の他方の面の近傍に前記磁性材料または磁石に作用する磁石または磁性体を配置して前記マスクを前記成膜対象物に接触させ、前記ホルダには、前記成膜対象物に平行な平面内にN極とS極が、前記マスクの直径に等しい間隔で設けられ、
前記マスクは、断面が裾拡がりとなって周辺部が前記成膜対象物に密着して前記周辺部に向かって薄くなるテーパ形状に形成され、前記成膜対象物に対する面は、前記成膜対象物の前記一方の面の形状に対応して、前記一方の面が凸状であれば凹状に、凹状であれば凸状に形成され、
その状態で、前記成膜対象物の前記一方の面に成膜材料を堆積させる
ことを特徴とする環状成膜方法。
【請求項2】
環状の薄膜を形成しようとする成膜対象物の一方の面に配置されるマスクと、
前記一方の面と逆側から前記成膜対象物を保持するホルダと、
を備え、
前記マスクはその少なくとも一部に磁性材料または磁石を有し、
前記ホルダには、前記磁性材料または磁石と作用して前記マスクを前記成膜対象物の所定の位置に配置する磁石または磁性体が設けられ
前記マスクは、前記磁性材料または磁石が前記成膜対象物の成膜対象面と平行な面内の少なくとも1方向に沿って実質的に円形に設けられて、
前記ホルダには、前記成膜対象物に平行な平面内にN極とS極が、前記マスクの直径に等しい間隔に設けられ、
前記マスクは、断面が裾拡がりとなって周辺部が前記成膜対象物に密着して前記周辺部に向かって薄くなるテーパ形状に形成され、前記成膜対象物に対する面は、前記成膜対象物の前記一方の面の形状に対応して、前記一方の面が凸状であれば凹状に、凹状であれば凸状に形成された、
ことを特徴とする環状成膜具。
【請求項3】
請求項に記載の環状成膜具において、
前記マスクは、少なくとも前記成膜対象物に接触する面の一部が、樹脂である
ことを特徴とする環状成膜具。
【請求項4】
請求項2または3に記載の環状成膜具において、
前記成膜対象物は樹脂レンズであり、前記マスクは、前記樹脂レンズの有効径の外側に遮光膜を成膜するための樹脂製マスクである
ことを特徴とする環状成膜具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状成膜方法環状成膜具および環状成膜用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
撮像機器のレンズには、不要な光の入射やレンズ系内での多重反射を防止するため、有効径内に設けられる反射防止膜に加え、有効径の外側に、遮光膜が設けられる。
【0003】
このような遮光膜は、レンズの中央部を除いて、外側だけに形成する必要がある。有効径が大きく高価なレンズであれば、手作業により膜材を塗布するウェットプロセスも可能である。一方、携帯機器等に搭載される小型カメラのレンズは、形状が小さいため手作業による塗布は困難であり、高コストになってしまう。
【0004】
また、ウェットプロセスでは、膜厚制御性が悪く、1μm以上の膜厚が必要になる。このため、厚く堆積された膜の応力により樹脂レンズの面形状が変化するなどし、撮画像へ悪影響を及ぼしてしまう。
【0005】
低コストで大量に生産するには、レンズの有効径内に遮光膜材料が堆積しないようにマスクで遮蔽した状態で、真空プロセスにより膜厚制御性良く遮光膜材料を堆積させることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-225102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空プロセスで遮光膜を成膜する場合、遮光膜の成膜エリアが環状であるため、従来は、成膜エリア外周側と内周側を架橋するブリッジを形成して、内周側のマスクを保持する必要があった。この場合、従来の機械加工では、マスク本体とブリッジおよび外周部とを同一平面上にしか形成できず、ブリッジ幅をできるだけ細くしても、ブリッジ部分に遮光膜を成膜することはできなかった。一方、3D造形を利用することで、ブリッジをレンズから浮いた状態とし、成膜材料を回り込ませることで、環状の成膜エリア全面に膜を堆積させることができる。しかし、それでもなお、ブリッジによる影の影響は避けられず、均一膜の形成には限界があった。また、ブリッジを含むマスク形状が複雑化することで、マスクの製作難易度および製作コストが共に高く、生産性が低い課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決し、単純な構成で精度の高い環状薄膜を成膜することのできる環状成膜方法、環状成膜具および環状成膜用マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の側面によると、成膜対象物に環状の薄膜を形成する環状薄膜形成方法において、少なくとも一部に磁性材料または磁石を有するマスクを成膜対象物の一方の面に配置すると共に、成膜対象物の他方の面の近傍にマスクの磁性材料または磁石に作用する磁石または磁性体を配置してマスクを成膜対象物に接触させ、その状態で、成膜対象物の前記一方の面に成膜材料を堆積させることを特徴とする環状成膜方法が提供される。
【0010】
本発明の第二の側面によると、環状の薄膜を形成しようとする成膜対象物の一方の面に配置されるマスクと、前記一方の面と逆側から成膜対象物を保持するホルダと、を備え、マスクはその少なくとも一部に磁性材料または磁石を有し、ホルダには、マスクの磁性材料または磁石と作用してマスクを成膜対象物の所定の位置に配置する磁石または磁性体が設けられることを特徴とする環状成膜具が提供される。
【0011】
ホルダに設けられる磁石または磁性体は、成膜対象物に向かって磁力が1点に集中する形状であることが望ましく、具体的には、球形、棒状、あるいは少なくとも成膜対象物側が半球状であることが望ましい。この場合、ホルダは、成膜対象物の中心とホルダの磁石または磁性体の磁力が集中する点とが一致するように磁石または磁性体と成膜対象物とを保持する構造であることが望ましい。
【0012】
マスクには、その少なくとも中央に、磁性材料または磁石が配置される。
【0013】
マスクには、磁性材料が、成膜対象物の成膜対象面と平行な面内の少なくとも1方向に沿って設けられてもよい。この場合、ホルダには、NおよびSの2つの磁極が、マスクの磁性材料の長さに対応する間隔で設けられる。マスクに設けられる磁性材料は、成膜対象面と平行な面内に実質的に円形に設けられ、ホルダの2つの磁極の間隔は、その円形の直径に対応していることが望ましい。ここで「実質的に」とは、実用上許容される場合に、完全な円形からずれた楕円あるいは多角形でも良いことを意味する。
【0014】
マスクは、成膜対象物が樹脂製である場合、少なくとも成膜対象物に接触する面の一部が、樹脂であることが望ましい。
【0015】
マスクは、周辺部が成膜対象物に密着する形状であって、成膜材料の堆積方向が成膜対象物に対して斜め方向であっても成膜できるように、周辺部に向かって薄くなるテーパ形状であることが望ましい。あるいは、マスクは、その全体が平坦に形成されていてもよい。
【0016】
本発明の第三の側面によると、成膜対象物に環状の薄膜を形成するためのマスクであって、成膜対象物を保持するホルダに設けられた磁石または磁性体と作用するように、少なくとも一部に磁性材料または磁石を有することを特徴とする環状薄膜形成用マスクが提供される。
【0017】
本発明の第四の側面によると、成膜対象物に環状の薄膜を形成するためのマスクであって、成膜対象物を保持するホルダに設けられたNおよびSの2つの磁極と作用するように、磁性材料が成膜対象物の成膜対象面と平行な面内の少なくとも1方向に沿って設けられていることを特徴とする環状薄膜形成用マスクが提供される。
【0018】
本発明は、特に樹脂レンズへの遮光膜の成膜への利用に適するが、それに限定されるものではなく、環状の薄膜を形成するどのような分野でも広く利用できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、単純な構成で精度の高い環状薄膜を成膜することができる。成膜対象物として樹脂レンズを用い、マスクとしてレンズ面の形状に合わせ適正化されたものを用いることで、樹脂レンズの有効径の外側に高い形状精度で遮光膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る環状成膜具を示す断面図である。
図2】成膜対象物の一例として樹脂レンズの一例を示す断面図である。
図3】樹脂レンズの別の例を示す断面図である。
図4図2の樹脂レンズの一方の面に対して用いられるマスクの種々の例を示す断面図である。
図5図2の樹脂レンズの他方の面に対して用いられるマスクの例を示す断面図である。
図6図3の樹脂レンズの一方の面に対して用いられるマスクの種々の例を示す断面図である。
図7図3の樹脂レンズの他方の面に対して用いられるマスクの種々の例を示す断面図である。
図8】マスクの別の例を示す断面図である。
図9】マスクのさらに別の例を示す断面図である。
図10】マスクのさらに別の例を示す断面図である。
図11】フィルム状のマスクの構成例を示す断面図であり、磁性材料をマスクの中央だけに設けた例を示す。
図12】フィルム状のマスクの別の構成例を示す断面図であり、磁性材料をマスク全面に設けた例を示す。
図13図1に示す実施形態の変形例であり、直径の小さい磁石を用いた例を示す断面図である。
図14図1に示す実施形態の変形例であり、棒状の磁石を用いた例を示す断面図である。
図15図1に示す実施形態の変形例であり、両端が球形の円柱磁石を用いた例を示す断面図である。
図16図1に示す実施形態の変形例を示す断面図であり、ホルダ内にNおよびSの2つの磁極を配置した例を示す。
図17図16に示す例のさらなる変形例を示す断面図であり、NおよびSの2つの磁極を1つの磁石で実現した例を示す。
図18図16に示す例のさらなる変形例を示す断面図であり、マスクとして平坦なものを用いた例を示す。
図19図17に示す例のさらなる変形例を示す断面図であり、マスクとして平坦なものを用いた例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明実施形態に係る環状成膜具を示す断面図である。ここでは、携帯機器用の小型カメラの樹脂レンズの有効径の外側に遮光膜を成膜するための構成を例に説明する。
【0022】
この環状成膜具は、環状の薄膜を形成しようとする成膜対象物であるレンズ11~14のそれぞれ一方の面に配置されるマスク21~24と、マスク21~24が配置された面の逆側からレンズ11~14を保持するホルダ40とを備える。ここで、マスク21~24はその少なくともその一部に磁性材料または磁石を有し、ホルダ40には、マスク21~24の磁性材料または磁石と作用してマスクを21~24成膜対象物の所定の位置に配置する磁石または磁性体として、磁石31~34が設けられる。磁石31~34は、ホルダ40のレンズ11~14とは逆側に設けられた穴に嵌め込まれ、カバー50により固定される。
【0023】
マスク21~24として、この実施形態では、全体が磁性材料製のもの、例えばプラスチック材料に磁性材料を分散させたものを用いる。また、磁石31~34として、この実施形態では、球形のボールマグネットを使用する。磁石31~34として球形のものを用いることで、中央で磁束密度が高くなり、周辺部はマスク21~24から距離も大きくなり磁力が弱くなるので、マスク21~24の中心位置を正確に磁石31~34の中心位置に一致させることができる。レンズ11~14に接触したマスク21~24は、外部から何らかの力により位置がずれることがあっても、その中心が磁石31~34の中心に一致するように戻り、その位置が安定に維持される。
【0024】
成膜は、真空プロセスにより行われる。すなわち、マスク21~24をレンズ11~14の一方の面に配置すると共に、成膜対象物の他方の面の近傍に磁石31~34を配置してマスク21~24をレンズ11~14に接触させ、その状態で、レンズ11~14のマスク21~24が配置された側の面に、成膜材料を堆積させる。
【0025】
実用的な真空プロセスでは、真空槽内にドーム形状の回転ホルダが設けられ、この回転ホルダに、図1に示す状態の環状成膜具が多数取り付けられる。そして、回転ホルダの回転中心とはずれた位置の蒸着源から、成膜材料が蒸着される。回転ホルダが回転することで、各成膜対象物(レンズ11~14)の蒸発源との位置関係が変化し、各成膜対象物に均等に成膜が施される。このとき、成膜対象物への成膜材料の堆積方向は変化し、垂直に堆積する成分はわずかである。このため、マスク21~24はそれぞれ、周辺部がレンズ11~14に密着する形状であって、成膜材料の堆積方向が成膜対象物に対して斜め方向であっても成膜できるように、周辺部に向かって薄くなるテーパ形状であることが望ましい。
【0026】
図2は成膜対象物の一例を示す断面図であり、図3は別の例を示す断面図である。図2および図3は共に、樹脂レンズの構造を示す。これらの図において、筐体に保持される部分を含むレンズの外径をφ1、有効径をφ2-1,φ2-2で表す。有効径φ2-1,φ2-2の外側に遮光膜を施す。図では単純化のため有効径φ2-1,φ2-2のすぐ外側を遮光エリアとして示すが、現実には、遮光エリアは有効径φ2-1,φ2-2から少し離れて設けられる。レンズの最外周は、筐体により隠れる部分であり、遮光は不要である。有効径、遮光エリアの内径および外径はそれぞれ、一般にはレンズの両側で異なる。したがって、マスク21~24の直径は、レンズ11~14のそれぞれに対して、その遮光エリアの内径に合わせておく必要がある。
【0027】
図4は、図2の樹脂レンズの一方の面に対して用いられるマスクの種々の例を示す断面図である。これらの例は、図1にレンズ11およびマスク21として示したものと同等またはその変形である。図4(A)は、マスクを21aとして示しているが、図1のマスク21と同等のものである。このマスク21aは、レンズ11の凹面に合わせて凸形状となっており、周辺部が、レンズ11に接する形状となっている。この例では、マスク21aのレンズ11とは反対側に、四角で示す部分が設けられている。これは、製造上および取り扱い上の理由によるもので、成膜そのものに関連するものではない。以下の例も同様である。図4(B)に示すマスク21bは、レンズ11に面する側が平坦となっている。図4(C)に示すマスク21cは、マスク21bの中央に凸部を設けたものである。この凸部は、磁石からの磁力が集中し、位置決め精度を高めることができる。図4(D)に示すマスク21dは、周辺部に突出部が設けられている。図4(E)に示すマスク21eは、図4(D)示すマスク21dの中央部に、マスク21cと同様の凸部を設けたものである。
【0028】
図5は、図2の樹脂レンズの他方の面に対して用いられるマスクの例を示す断面図である。これらの例は、図1にレンズ12およびマスク22として示したものと同等またはその変形である。図5(A)は、マスクを22aとして示しているが、図1のマスク22と同等のものである。このマスク22aは、レンズ12の凸面に合わせて凹形状となっており、周辺部が、レンズ12に接する形状となっている。図5(B)に示すマスク22bは、マスク21dと同等の形状をもち、レンズ12に面する面が平坦であって、周辺部に突出部が設けられている。
【0029】
図6は、図3の樹脂レンズの一方の面に対して用いられるマスクの種々の例を示す断面図である。これらの例は、図1にレンズ13およびマスク23として示したものと同等またはその変形である。図6(A)は、マスクを23aとして示しているが、図1のマスク23と同等のものである。このマスク23aは、レンズ13の凹面に合わせて凸形状となっており、周辺部が、レンズ13に接する形状となっている。図6(B)に示すマスク23bは、レンズ13に面する側が平坦となっている。図6(C)に示すマスク23cは、マスク23bの中央に凸部を設けたものである。図6(D)に示すマスク23dは、周辺部に突出部が設けられている。図6(E)に示すマスク23eは、図6(D)示すマスク23dの中央部に、マスク23cと同様の凸部を設けたものである。
【0030】
図7は、図3の樹脂レンズの他方の面に対して用いられるマスクの種々の例を示す断面図である。これらの例は、図1にレンズ14およびマスク24として示したものと同等またはその変形である。図7(A)は、マスクを24aとして示しているが、図1のマスク24と同等のものである。このマスク24aは、レンズ14の面が平面であるのに対し凹形状となっており、周辺部が、レンズ14に接する形状となっている。図7(B)に示すマスク24bは、マスク24aの中央に凸部を設けたものである。図7(C)に示すマスク24cは、マスク21b,23bと同様に、レンズ13に面する側が平坦となっている。図7(D)に示すマスク24dは、マスク22b,23dと同様に、レンズ13に面する面が平坦であって、周辺部に突出部が設けられている。図7(E)に示すマスク24eは、マスク21e,23eと同様に、マスク24cの中央部に、凸部を設けたものである。
【0031】
以上に示したマスクの材料としては、磁性材料であればどのようなものでも良い。例えば、樹脂レンズ成型の廃材を利用し、それに磁性体を混ぜて成型したものを用いることもできる。レンズの成型時には、どうしても余分な部分が生じてしまう。これをマスクの材料として再利用することができる。
【0032】
以上の説明では、マスク全体が磁性材料製であるものとしたが、マスクの一部だけが磁性材料製であってもよい。また、磁性特性の異なる材料を組み合わせて用いることもできる。例えば、非磁性材料製のマスクの中心に磁性材料を埋め込んでもよく、マスクの中心に磁性材料を埋め込むと共に、そのマスクの表面、特にレンズ側の面に、磁性材料部を設けてもよい。磁性材料製のマスクに対して、特性の異なる磁性材料を埋め込んだり、表面に磁性材料部を設けることもできる。さらに、非磁性材料製または磁性材料製のマスクに、磁石31~34と互いに引き合う極性で磁石を埋め込んだり、同様の極性で表面に磁石を設けることもできる。さらに、マスクの少なくとも一部を磁石とする場合、磁石31~34の代わりに、磁性体を用いることもできる。
【0033】
図8から図10はそれぞれ、非磁性材料製または磁性材料製のマスクに、磁石31~34と互いに引き合う極性で磁石を埋め込んだ例を示す断面図である。図8は、マスクの中心に棒状の磁石を設けた構成を示し、図9は、マスクの中心だけでなく成膜対象物に面する面にも磁石を設けた構成を示し、図10は、マスクの中心の成膜対象物側にのみ磁石を設けた構成を示す。
【0034】
図8(A)に示すマスク25aは、成膜対象物に面する面が平坦で、その中心に凸部が設けられ、そこに、棒状の磁石201が埋め込まれている。また、図8(B)に示すマスク25bは、周辺部が突出した形状をもち、中心には凸部が設けられ、その凸部の部分に、棒状の磁石201が埋め込まれている。図では成膜対象物側をS極として示すが、これは対向する磁石の磁極がN極と仮定したもので、磁石側がS極であれば、当然に、磁石201の成膜対象物側はN極とする。
【0035】
図9(A)に示すマスク26aは、図8(A)に示すマスク25aと同等の形状であるが、成膜対象物に面する面にも磁石202が設けられていることが異なる。また、図9(B)に示すマスク26bは、図8(B)に示すマスク25bと同等の形状であるが、成膜対象物に面する面にも磁石202が設けられていることが異なる。
【0036】
図10(A)に示すマスク27aは、成膜対象物に面する側が平坦で、その面の表面部分だけに磁石203が設けられていることが、図8(A)に示すマスク25aと異なる。図10(B)に示すマスク27bは、成膜対象物に面する側が凹面となっていることが、図10(A)に示すマスク27aと異なる。
【0037】
図8から図10にそれぞれ示した構造において、マスク本体が磁性材料または非磁性材料のいずれの場合でも、磁石201、202、203に代えて、マスク本体の材料とは異なる磁性材料を用いることもできる。マスク25a、25b、26a、26b、27aのレンズ側表面を、例えばフッ素樹脂などの軟性材を用いて表面処理することにより、成膜対象物の表面に傷がつくことを防止することができる。実施形態では、非磁性材料として樹脂を用いるものとするが、材料は適宜選択すればよい。
【0038】
以上の説明では、逆円錐マスクを例に説明したが、マスク形状をフィルム状の平坦なものとすることもできる。「フィルム状」とはいえ、マスクとしての形状維持が可能な厚みはあるものとする。マスクは1回の成膜にしか使えない消耗品のため、フィルムで作成できれば、コストは安くできる。
【0039】
図11は、フィルム状のマスクの構成例を示す断面図であり、磁性材料をマスクの中央だけに設けた例を示す。図11(A)に示すマスク28Aは、磁性材料281を2枚の非磁性材フィルム282で挟んだ構造を有する。磁性材料281は、非磁性材フィルムの中心に配置される。磁性材料281を非磁性材フィルム282の中央のみに設けることにより、マスク28aを所定の位置および向きで固定することができる。図11(B)に示すマスク28bは、図11(A)に示すマスク28aの成膜対象物側とは反対側の非磁性材フィルム282を省略した例を示す。レンズ側の非磁性材フィルム282は、例えばその材料として樹脂を用いることで、磁性材料181として硬質のものを用いた場合でも、成膜対象物の表面に傷がつくのを防止することができる。
【0040】
図12は、フィルム状のマスクの別の構成例を示す断面図であり、磁性材料をマスク全面に設けた例を示す。図12(A)に示すマスク29aは、磁性材料291を2枚の非磁性材フィルム292で挟んだ構造を有する。磁性材料291はマスク29aの全面に設けられる。図11に示した例に比べると、成膜対象物に対するマスク28bの位置決めが難しくなる可能性はあるが、製造は容易になる。図12(B)に示すマスク29bは、図12(A)に示すマスク29aの成膜対象物側とは反対側の非磁性材フィルム292を省略した例を示す。図12(C)に示すマスク29cは、全体をフィルム状の磁性材料291で形成したものである。非磁性材フィルム282,292のうち少なくとも成膜対象側のものについては、例えば樹脂を用いることが望ましい。樹脂を用いることで、磁性材料281,291として硬質のものを用いた場合でも、成膜対象物の表面に傷がつくことを防止することができる。図12(C)に示すマスク29cの磁性材料291としては、成膜対象物を傷つけるものでなければ、どのような材料を用いてもよい。
【0041】
図13は、図1に示す実施形態の変形例を示す断面図であり、図1におけるレンズ11、12に関連する部分のみを示す。この例では、磁石31,31の代わりに、直径の小さい磁石31a,32aを用いる。磁力が低下する可能性はあるが、中心位置精度は高くなる。
【0042】
図14は、図1に示す実施形態の変形例を示す断面図であり、棒状の磁石31b,32bを用いた例を示す。細長い磁石31b,32bを用いることで、磁力を保ちながら、中心位置精度を高くすることができる。
【0043】
図15図1に示す実施形態の変形例を示す断面図であり、円柱上で両端が球形の、すなわち薬用カプセル形の磁石31c,32cを用いた例を示す。
【0044】
また、例えば図8から図10に示すようにマスクに磁石25a,26a,27b,28bを設ける場合、あるいは図11図12に示す磁性材料281,291として磁石を用いる場合は、対向する磁石31~34,31a~31c,32a~32cの代わりに、磁性体を用いることもできる。
【0045】
図16は、図1に示す実施形態の変形例を示す断面図であり、ホルダ内にNおよびSの2つの磁極を配置した例を示す。この図では、明確さのため、ホルダ部分のハッチングを省略している。
【0046】
マスク(ここでは、マスク21,22のみを示す)の各々に対してホルダ内の磁極が1つの場合、磁力やマスクの形状およびマスクの重さにもよるが、マスクが裏返しになって磁石に引きつけられたり、マスクの縁の部分に磁力が集中して、マスクが立った状態で成膜対象物に接する可能性がある。そこで、図16に示す例では、マスク21,22に対して、それぞれ磁石311と312、磁石321と322を用いる。この場合、マスク21,22には、ホルダに設けられたNおよびSの2つの磁極と作用するように、磁性材料が、成膜対象物の成膜対象面と平行な面内の少なくとも1方向に沿って、望ましくはその面内に実質的に円形に、設けられる。ホルダには、マスク21に対して磁石311,312によるNおよびSの2つの磁極が、マスク22に対して磁石321,322によるNおよびSの2つの磁極が、それぞれ設けられる。
【0047】
2つの磁極の間隔は、マスク21,22内の磁性材料の長さに対応していることが望ましい。例えばマスク21,22の全体に磁性材料が分散している場合、磁石311,312の間隔がマスク21の直径と、磁石321,322の間隔がマスク22の直径と、それぞれ等しいことが望ましい。これは、磁力線が、磁石311,312の内側エッジおよび磁石321,322の内側エッジにそれぞれ集中し、マスク21,22を正確に所望の位置に配置できるからである。
【0048】
とはいえ、実用的には、図2図3を参照して説明したように、マスク21,22に要求される直径は、成膜対象物となるレンズの有効径によって異なる。このため、同じホルダを使用する場合でも、異なる直径のマスクをマスク21,22として使用することがある。マスクの直径が異なる場合でも、そのマスクに含まれる磁性材料部分の長さまたは直径が一定であれば、磁極の間隔が固定でもマスクを常に最適な位置に配置することができる。しかし、マスクを安価に製造するには、マスク全体に磁性材料を分散させることが望ましい。その場合、磁石の間隔は、誤差許容範囲を考慮して設定される。磁石の間隔がマスクの直径より小さい方が、大きい場合に比べて、マスクを適切な位置に配置できると考えられる。
【0049】
図17は、図16に示す例のさらなる変形例であり、NおよびSの2つの磁極を1つの磁石313,323で実現した例を示す断面図である。磁石313,323の長さ(図面横方向)は、それぞれマスク21,22の直径に対応している。磁石313,323は、それぞれ図面横方向に長い棒磁石でもよく、円形でその面内の両端がN,Sとなっている磁石や、U字磁石のようなものでもよい。
【0050】
図18および図19は、それぞれ図16および図17に示す例のさらなる変形例を示す断面図である。これらの例では、逆円錐形のマスク21、22に代えて、全体が平坦なマスク211、221を用いている。マスク211、221には磁性材料である金属板を用いるものとするが、磁性材料を平坦に成形したものや、例えば図12に示したように、樹脂製フィルムに磁性材料を取り付けたものであってもよい。実施例では平坦なマスクを用いるが、レンズ12に沿うように磁性材料を曲げ加工したマスクであってもよい。マスク211、221のレンズ12に接触する面は樹脂面であることが望ましく、金属板の表面を樹脂でコーティングしてもよい。
【0051】
なお、図18および図19の各々右側の例では、マスク221が平坦であることを明確にするため、マスク221の方向に凸となっているレンズ12に対して、マスク221の端部がレンズ12から浮くものとして示している。マスク221を可撓性のある材料で形成することで、マスク221をレンズ12の形状に沿って撓ませることができ、レンズ12に密着させるようにすることもできる。
【0052】
以上の実施形態によれば、環状成膜エリア全面を成膜源に露出することが可能となるため、均一な遮光膜を形成することができる効果がある。また、マスクを所望の位置に精度よく固定保持することで、高い形状精度で遮光膜を成膜することができる。さらに、ブリッジを有しない構造のため、マスクの製作難易度、製作コストを共に向上させ、生産性向上に寄与することができる。
【0053】
以上の説明では樹脂レンズに遮光膜を成膜する場合を例に説明したが、本発明は、他の環状膜の成膜にも同様に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
11~14、レンズ
21~24,21a~21e,22a,22b,23a~23e,24a~24e,25a,25b,26a,26b,27a,27b,28a,28b,29a~29c,211,221 マスク
31~34,25a,26a,27b,28b,31a,32b,31b,32b,31c,32c,311,312,321,322,313,323 磁石
40 ホルダ
50 カバー

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図5
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図19