(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】亜鉛トランスポーター発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/538 20060101AFI20221019BHJP
A61K 36/534 20060101ALI20221019BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221019BHJP
A61P 3/12 20060101ALI20221019BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20221019BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221019BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20221019BHJP
A61P 27/00 20060101ALN20221019BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20221019BHJP
A61P 15/00 20060101ALN20221019BHJP
A61P 37/00 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
A61K36/538
A61K36/534
A61P43/00 111
A61P3/12
A61P43/00 121
A61K8/9789
A61Q19/00 ZNA
A23L33/105
A61P27/00
A61P17/00
A61P15/00
A61P37/00
(21)【出願番号】P 2018117231
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106963812(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0016331(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0058117(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105232821(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-99/00
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-31/15
A23L 33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイガイの
花穂の熱水抽出物
と、ハッカの
地上部の熱水抽出物
の混合物を有効成分として含有する、亜鉛トランスポーターZIPの発現促進剤。
【請求項2】
ケイガイの
花穂の熱水抽出物
と、ハッカの
地上部の熱水抽出物
の混合物を有効成分として含有する、細胞内への亜鉛取り込み促進剤。
【請求項3】
ケイガイの
花穂の熱水抽出物
と、ハッカの
地上部の熱水抽出物
の混合物を含有する、細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
【請求項4】
前記組成物が、医薬品、医薬部外品、又は化粧品である、請求項3に記載の細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
【請求項5】
前記組成物が、飲食品である、請求項3に記載の細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
【請求項6】
亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状の治療又は予防のために用いられる、請求項3~5のいずれか1項に記載の細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛トランスポーター発現促進剤、細胞内への亜鉛取り込み促進剤、ならびに亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状の治療又は予防を目的とする亜鉛取り込み促進用の各種組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は、細胞増殖、分化、受精、生体防御など様々な生物学的現象と関わりを有する重要な必須微量元素であり、300種類を超える酵素の活性中心の形成や、様々な転写因子やシグナル伝達分子の立体構造の維持に関与していると考えられている。そのため、亜鉛は、ヒトの生体内に僅か0.003%程度しか存在しないにも関わらず、その欠乏は味覚異常、貧血、口内炎、男性機能異常、易感染症、骨粗しょう症、皮膚炎、脱毛など広範かつ重篤な疾患や症状の原因となる。さらに、肝硬変、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、慢性腎臓病患者の多くは、血清亜鉛値が低下しており、亜鉛欠乏状態であることが指摘されている(非特許文献1)。また、現在、日本では、子供と老人及び若い女性を中心に亜鉛が不足している状況にあると考えられている(非特許文献2)。これは、近年日本の食卓で利用されることの多い加工食品に、亜鉛キレート作用の強い食品添加物が多く使われていることや、過度のダイエット等が原因として考えられている。また、老化に伴う亜鉛欠乏の原因としては、細胞内に亜鉛を取り込むために必要な遺伝子の発現低下等が示唆されている(非特許文献3)。単身や共働き世帯の増加を背景に、加工食品への依存度は今後さらに増加し、また社会の高齢化の進行も併せて、亜鉛不足は今後ますます拡大することが予測される。世界規模でみても亜鉛欠乏症の人々は発展途上国を中心に20億人存在すると推定されており(非特許文献4)、公衆衛生上の重要な問題として大規模な対策が望まれている。
【0003】
上述の通り、亜鉛はヒトの生体内にごく微量にしか存在していないが、その働きは非常に重要である。そのため、生体における亜鉛の恒常性は20種類を超える亜鉛トランスポーターによって厳密に制御されている。亜鉛トランスポーターは大きく分けて2つのファミリーに分類される。ZIPファミリー(Zrt-, Irt-like protein, SLC39Aファミリー)は、細胞質内の亜鉛イオン濃度を上昇させ、反対にZnTファミリー(Zn transporter, SLC30Aファミリー)は減少させるように機能する。これらの亜鉛トランスポーターはそれぞれ発現する組織や細胞内における局在が異なり、必要に応じて細胞内の亜鉛濃度の調節を行っている(非特許文献1)。例えば、ZIP1のように生体内の各組織に普遍的(ubiquitous)に発現したり、ZIP3のように広範な組織に発現するトランスポーターが存在する一方で、ZIP4のように小腸上皮細胞の細胞膜に局在するものも存在する。ZIP4は、食品中の亜鉛の取り込みを主に制御していると考えられている。また、ZIP2は、表皮細胞の細胞膜に発現することが確認されており、細胞の分化に関わることが知られている(非特許文献5)。その他、ZIP7やZIP13等のように細胞膜ではなく、細胞内小器官の一つであるゴルジ体に局在するものも存在する(非特許文献1)。複数の先行研究から、ZIPの発現亢進は、細胞内への亜鉛の取り込みや細胞内亜鉛レベルの向上に繋がることが報告されている(非特許文献5-11)。このことから、亜鉛欠乏症の根本的な治療、予防のために亜鉛トランスポーター、中でも亜鉛の細胞内への取り込みに関与するZIPの発現を亢進する素材の探索が進められている(非特許文献12)。さらに、亜鉛やそのトランスポーターは、体性幹細胞や多能性幹細胞の増殖や分化の制御にも関わっていることが近年明らかになりつつある(非特許文献13、14)。そのため、次世代医療として期待される再生医療への応用の観点からも、亜鉛トランスポーターの発現を制御するメカニズムの解明や素材の探索は重要である。
【0004】
ケイガイ(学名:Schizonepeta tenuifolia)は、シソ科イヌハッカ属の一年草であり、生薬の荊芥穂(けいがいすい)は、ケイガイの花穂(カスイ)を乾燥させたもので、特有の芳香があり、発汗、解熱、鎮痛、抗炎症等の作用を有する漢方薬に用いられている。ケイガイの抽出物は、単独で又は他の植物抽出物と組み合わせて、表皮細胞のカテプシンD産生抑制剤(特許文献1)、アクアポリン3の発現亢進剤(特許文献2)、及び神経突起伸長抑制剤(特許文献3)等として使用できることが報告されている。ハッカ(学名:Mentha arvensis L.var.piperascens)はシソ科ハッカ属の多年草であり、生薬の薄荷(はっか)、薄荷葉(はっかよう)は、それぞれハッカの茎葉、ハッカの葉を乾燥させたもので、特有の芳香と清涼感があり、解熱、発汗、健胃等の作用を有する漢方薬に用いられている。また、ハッカは、薄荷能(L-メントール結晶)、ハッカ油の製造原料となり、これらは防虫剤、消臭剤、歯磨き剤、飴類にも配合される。ハッカの抽出物は、単独で又は他の植物抽出物と組み合わせて、副腎皮質ホルモン分泌抑制剤(特許文献4)、血小板凝集抑制剤(特許文献5)、生体内抗酸化剤(特許文献6)、TGR5活性化剤(特許文献7)等として使用できることが報告されている。しかしながら、ケイガイ、ハッカの抽出物の細胞内への亜鉛取り込み促進効果については、これまで何ら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-322940号公報
【文献】特開2011-32191号公報
【文献】特開2016-204310号公報
【文献】特開平9-227399号公報
【文献】特開2012-153671号公報
【文献】特開2011-236149号公報
【文献】特開2016-8197号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】亜鉛欠乏症の診療指針2016、一般社団法人 日本臨床栄養学会
【文献】駒井三千夫、亜鉛栄養治療6巻1号、2015年
【文献】Wong CPら、J Nutr Biochem., 2013, 24: 353-9.
【文献】Prasad ASら、BMJ., 2003, 22; 326: 409-410.
【文献】Inoue Yら、J Biol Chem., 2014, 289: 21451-62.
【文献】Dufner-Beattie Jら、J Biol Chem., 2003, 278: 33474-33481.
【文献】Wang Fら、Mol Genet., 2004, 13: 563-571.
【文献】Kim BEら、J Biol Chem., 2004, 279: 4523-4530.
【文献】Mao Xら、J Biol Chem., 2007, 282: 6992-7000.
【文献】Kambe Tら、Mol Cell Biol., 2009, 29: 129-139.
【文献】Li Mら、Proc Natl Acad Sci., U S A. 2007, 104: 18636-18641.
【文献】Hashimoto Aら、Biochem J., 2015, 472: 183-93.
【文献】Ohashi W ら、PLoS Genet., 2016, e1006349.
【文献】Stefanie Pfaenderら、Neural Plast., 2016, 3760702.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑み、細胞内への亜鉛の取り込みや細胞内亜鉛レベルの向上に関与する亜鉛トランスポーターZIPの発現を亢進する新たな因子を見出し、亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状の治療又は予防に有効な製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物が亜鉛トランスポーターZIPの発現を促進し、細胞内亜鉛濃度を上昇させる優れた効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を有効成分として含有する、亜鉛トランスポーターZIPの発現促進剤。
(2)ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を有効成分として含有する、細胞内への亜鉛取り込み促進剤。
(3)ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を含有する、細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
(4)前記組成物が、医薬品、医薬部外品、又は化粧品である、(3)に記載の細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
(5)前記組成物が、飲食品である、(3)に記載の細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
(6)亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状の治療又は予防のために用いられる、(3)~(5)のいずれかに記載の細胞内への亜鉛取り込み促進用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を有効成分として含有する亜鉛トランスポーターZIPの発現促進剤、及び細胞内への亜鉛取り込み促進剤が提供される。ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物は、細胞における亜鉛トランスポーターZIPの発現を促進し、細胞内への亜鉛の取り込みを促進することができる。その結果、細胞内の亜鉛濃度が上昇するので、亜鉛の欠乏に関連する様々な疾患又は症状の治療又は予防に有効である。また、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物は、天然の食用植物であるため、副作用がなく安全性が高い。よって、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を含む医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品は、安心して服用もしくは摂取、あるいは使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明に係る亜鉛トランスポーターZIPの発現促進剤は、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を有効成分として含有する。
【0012】
本発明において用いるケイガイとは、シソ科イヌハッカ属ケイガイ(Schizonepeta tenuifolia)をいい、中国を原産地とする一年草である。本発明において、ケイガイの抽出物とは、ケイガイの植物体全体(全草)、あるいは、葉、茎、花、芽、実、種子、根等の植物体の一部またはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、特に、花穂が好ましい。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0013】
本発明において用いるハッカとは、シソ科ハッカ属ニホンハッカ(Mentha arvensis L.var.piperascens)をいい、中国を原産地とする多年草である。本発明において、ハッカの抽出物とは、ハッカの植物体全体(全草)、あるいは、地上部(葉、枝、樹皮、幹、茎、果実、種子、花等)、根茎等の植物体の一部またはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、特に、地上部(例えば、茎葉)が好ましい。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0014】
ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物の抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが好ましく、水、エタノールがより好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良く、例えば30~70v/v%のエタノール水溶液を使用することもできる。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0015】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記ケイガイ及び/又はハッカ(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。より具体的には、ケイガイの花穂、ハッカの地上部に水を加え、95~100℃における熱水抽出を行うことで、ケイガイ及びハッカの抽出物を得ることができる。あるいは、ケイガイの花穂、ハッカの地上部に低級アルコール(例えば、エタノール等)又は液状多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)を添加し、常温(例えば5~35℃)で抽出を行うことで、ケイガイ及びハッカの抽出物を得ることができる。
【0016】
抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0017】
亜鉛トランスポーターは、細胞質から細胞外や細胞内小器官内の向きに亜鉛を輸送するZnT(Zn transporter, SLC30Aファミリー)と、細胞外や細胞内小器官内から細胞質内に亜鉛を輸送するZip(Zrt-, Irt-like protein, SLC39Aファミリー)に大別され、いずれも多回数の膜貫通領域を有する膜貫通型タンパク質である。本発明の発現制御の対象となる亜鉛トランスポーターは、後者のZipトランスポーター(本発明においては「亜鉛トランスポーターZIP」と記載する)をいう。亜鉛トランスポーターZIPは、現在までのところ、ZIP1、ZIP2、ZIP3、ZIP4、ZIP5、ZIP6、ZIP7、ZIP8、ZIP9、ZIP10、ZIP11、ZIP12、ZIP13、ZIP14が同定されている。よって、本発明の亜鉛トランスポーターZIPの発現促進剤が作用するZIPは、ZIP1~14のいずれか1種であってもよく、2種以上であってもよく、特に限定はされない。例えば、先天性の亜鉛欠乏症である腸性肢端皮膚炎の原因遺伝子として同定され、食事由来の亜鉛吸収の中心的役割を果たすZIP4、亜鉛トランスポーターの発現異常と亜鉛依存的な疾患又は症状との関連が明らかとなっているZIP1~ZIP3 (発育異常)、ZIP10(獲得免疫の不全、毛包や表皮の形成不全)、ZIP13(皮膚や骨等の組織における異常)等が、本発明による亜鉛トランスポーターZIPの発現制御の対象として好ましい。
【0018】
また、亜鉛トランスポーターZIPの発現を促進する細胞は、亜鉛トランスポーターZIPを細胞膜又は細胞内小器官膜に発現し、生体組織に存在する細胞であれば特に限定はされない。例えば表皮細胞、毛母細胞、消化管(食道、胃、小腸、大腸)の上皮細胞、呼吸器(鼻腔、咽頭、気道、肺)の上皮細胞、角膜上皮細胞、リンパ球、筋肉細胞、線維芽細胞等が挙げられる。また、細胞は未分化・多能性の幹細胞であってもよく、胚性の幹細胞(ES細胞);骨髄、血液、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、脂肪、毛包、脳、神経、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する体性の幹細胞;遺伝子導入等により人工的に作製された幹細胞(人工多能性幹細胞:iPS細胞)が挙げられる。細胞の由来は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、サル等の哺乳類由来の細胞が好ましい。細胞は、生体内の細胞であっても、単離された細胞であってもよい。単離された細胞は、公知の手法によって維持及び培養をすることができる。
【0019】
ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物は、亜鉛トランスポーターZIPの発現促進により、細胞内への亜鉛取り込みを促進することができるので、細胞内への亜鉛取り込み促進剤として使用することができる。ここで、「細胞内」とは、細胞内全体、細胞質(細胞内小器官を除く)内をいう。
【0020】
ケイガイの抽出物とハッカの抽出物はいずれか1種を用いてもよいが、2種を併用すると亜鉛トランスポーターZIPの発現促進効果及び細胞内への亜鉛取り込み促進効果が増強するので好ましい。ケイガイの抽出物とハッカの抽出物を併用する場合、混合比率は限定されないが、好ましくは1:10~10:1であり、より好ましくは1:5~5:1であり、さらに好ましくは1:2~2:1であり、最も好ましくは1:1である。
【0021】
また、本発明の亜鉛トランスポーターZIPの発現促進剤又は細胞内への亜鉛取り込み促進剤は、亜鉛トランスポーターによる亜鉛輸送のメカニズム、亜鉛及び亜鉛トランスポーターが幹細胞の増殖や分化に与える影響を解明するための研究試薬として利用できる。
【0022】
ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物は、亜鉛トランスポーターZIPの発現促進、細胞内への亜鉛取り込み促進作用により、亜鉛の欠乏に関連する様々な疾患又は症状を治療、改善、又は予防するのに有効である。ここで、亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状には、感覚器官の障害、皮膚障害、生殖機能の障害、免疫機能の不全、代謝障害、発育障害などが知られている。具体的には、味覚障害、臭覚異常、夜盲症(暗順応障害)、腸性肢端皮膚炎、四肢肢端や開口部(眼、口、鼻孔、耳孔、外陰部等)周辺、爪周囲に発生する皮膚炎、創傷治癒の遅延(褥瘡等)、口内炎、脱毛症、発育障害(低身長、体重増加不良等)、性腺機能不全(二次性徴の発達不全、精子減少症やED、不妊症、月経不順等)、インスリン代謝の異常(糖尿病)、貧血、食欲低下、下痢、骨粗鬆症、免疫低下による易感染症、精神障害(うつ病)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0023】
ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに、上記の亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状の治療又は予防を目的とした細胞内への亜鉛取り込み促進用の医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の各種組成物に配合して提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
【0024】
ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0025】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0026】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0027】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。また、亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状で、前記皮膚関連の疾患又は症状を治療、改善、又は予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0028】
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物として0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。
【0029】
ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0030】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、クリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の医薬品、医薬部外品、化粧品におけるケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物の乾燥物に換算して、0.001~30重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましい。上記の量があくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0032】
また、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0033】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0034】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0035】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0036】
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程においてケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、ケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6等のビタミン類、カルシウムなどのミネラル類、食物繊維等)を添加することもできる。
【0037】
本発明の飲食品におけるケイガイの抽出物及び/又はハッカの抽出物の配合量は、細胞内への亜鉛取り込み促進効果を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
ケイガイ、ハッカの抽出物を以下のとおり製造した。
(製造例1)ケイガイの熱水抽出物の調整
乾燥させたケイガイの花穂10gに水を200g加え、90~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥することによりケイガイの熱水抽出物1.5gを得た。
【0040】
(製造例2)ケイガイの50%エタノール抽出物の調整
乾燥させたケイガイの花穂20gに50%(v/v)エタノールを200g加え、常温で静置し1週間抽出した。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥することによりケイガイの50%エタノール抽出物0.87gを得た。
【0041】
(製造例3)ケイガイのエタノール抽出物の調整
乾燥させたケイガイの花穂20gにエタノールを200g加え、常温で静置し1週間抽出した。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥することによりケイガイのエタノール抽出物0.14gを得た。
【0042】
(製造例4)ハッカの熱水抽出物の調整
乾燥させたハッカの地上部10gに水を200g加え、90~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥することによりハッカの熱水抽出物1.3gを得た。
【0043】
(製造例5)ハッカの50%エタノール抽出物の調整
乾燥させたハッカの地上部20gに50%(v/v)エタノールを200g加え、常温で静置し1週間抽出した。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥することによりハッカの50%エタノール抽出物0.65gを得た。
【0044】
(製造例6)ハッカのエタノール抽出物の調整
乾燥させたハッカの地上部20gにエタノールを200g加え、常温で静置し1週間抽出した。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を減圧濃縮し、凍結乾燥することによりハッカのエタノール抽出物0.33gを得た。
【0045】
[実施例2]
実施例1で調製したケイガイ、ハッカの1種の抽出物、又は2種の抽出物の混合物を用いてZIP遺伝子発現促進効果及び細胞内への亜鉛取り込み促進効果の試験を次のとおり行った。なお、2種の抽出物の混合物を用いる場合、その比率は1:1(重量比)とした。
【0046】
(実験例1)各種ZIP遺伝子発現促進効果の評価
市販の正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製)を12well plateに1x104個ずつ播種し、Keratinocyte-SFM(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて4日間培養した。その際、実施例1で調製した各種抽出物(製造例1~6の抽出物、製造例1と製造例4の抽出物の等量混合物)を最終濃度が0.01%になるように添加した。培養後、細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、ZIP1、ZIP2、ZIP3の遺伝子発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従った。
【0047】
[ZIP1遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'- GCGCCTACCCTCATACCTAT-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'- GAGGCCAGAGAAGATACCAAA -3'(配列番号2)
[ZIP2遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'- GGTCATCACCGGCGAGTC -3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'- TCCAGGGCTTCAGCAGTCATA-3'(配列番号4)
[ZIP3遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'- CGGGAGTTGCTGGACTGAGA -3'(配列番号5)
リバースプライマー:5'- CCAAGTCCCACGATGTGCTAC -3'(配列番号6)
[内部標準グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'-CCGTGTTCCTACCCCCAAT-3'(配列番号7)
リバースプライマー:5'-TGCCTGCTTCACCACCTTCT-3'(配列番号8)
【0048】
ZIP遺伝子発現促進効果は、試料未添加群の表皮角化細胞におけるZIP遺伝子発現量の内部標準であるGAPDH 遺伝子発現量に対する割合として算出したZIP遺伝子相対発現量(ZIP遺伝子発現量/GAPDH 遺伝子発現量)を1とし、これに対し、試料添加群の表皮角化細胞における各ZIP遺伝子の同相対発現量を算出して評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示されるように、ケイガイの抽出物、ハッカの抽出物、ケイガイ及びハッカの抽出物の混合物の全てに、顕著なZIP遺伝子発現促進効果が認められた。特に、ケイガイ及びハッカの抽出物を混合した場合に、その効果はより顕著であった。
【0051】
(実験例2)亜鉛取り込み促進効果の評価
市販の正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製)を6cmディッシュに5x104個ずつ播種し、Keratinocyte-SFM(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて4日間培養した。その際、実施例1で調製した各種抽出物(製造例1~6の抽出物、製造例1と製造例4の抽出物の等量混合物)を最終濃度が0.01%になるように添加した。培養後、トリプシン処理により細胞を回収し、PBS(-)中で亜鉛検出用蛍光指示薬FluoZin-3(最大励起波長λex:494nm、最大蛍光波長λem:516nm、Molecular Probes社製)で1時間反応させた(125nM濃度)。反応後、細胞をPBS(-)で洗浄し、未反応の指示薬を除去し、最終的にPBS(-)に懸濁した。次に、細胞懸濁液をフローサイトメーター(FACS Aria:BD社製)を用いて解析し、FluoZin-3陽性細胞の割合を求めた。ここで、「FluoZin-3陽性細胞」とは、蛍光指示薬FluoZin-3で細胞を染色した結果、当該指示薬で未染色の細胞の示す自家蛍光の強度を指標に設定した基準値よりも高い蛍光強度を示す細胞をいう。これらの試験結果を以下の表2に示す。
【0052】
【0053】
表2に示すように、ケイガイの抽出物、ハッカの抽出物、ケイガイ及びハッカの抽出物の混合物の全てに、顕著な細胞内への亜鉛取り込み促進効果が認められた。特に、ケイガイ及びハッカの抽出物を混合した場合に、その効果はより顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、亜鉛の欠乏に関連する疾患又は症状の治療又は予防を目的とした医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品の製造分野において利用できる。
【配列表】