(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】粘度測定装置及び粘度測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
G01N11/00 A
(21)【出願番号】P 2018124560
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 博
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-310844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0007658(US,A1)
【文献】特開2009-085639(JP,A)
【文献】特表平04-505512(JP,A)
【文献】米国特許第05024080(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00~11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の液面に向けてガスをパルス状に噴射する噴射部と、
前記液面への前記ガスの衝突によって励起される前記液面の変位量を、前記液面へ測定光を照射することにより得る非接触式の変位量取得部と、
前記変位量と時間との関係を示す測定情報を利用して、前記試料の粘度を得る処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記試料の減衰特性を示す係数と前記粘度との関係を示す第1試料情報を保持する第1情報保持部と、
前記測定情報を利用して、振動波形の包絡線として示される前記減衰特性を示す係数である第1測定情報を得る第1測定情報取得部と、
前記第1試料情報と前記第1測定情報とを利用して、前記粘度を得る第1換算部と、を有する粘度測定装置。
【請求項2】
前記処理部は、
単位時間あたりの前記液面の変位量と前記粘度との関係を示す第2試料情報を保持する第2情報保持部と、
前記測定情報を利用して、前記試料における単位時間あたりの前記液面の変位量を示す第2測定情報を得る第2測定情報取得部と、
前記第2試料情報と前記第2測定情報とを利用して、前記粘度を得る第2換算部と、を有する、請求項1に記載の粘度測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記測定情報が含む前記変位量の極値の数を判定し、前記判定の結果に基づいて、前記第1換算部による処理又は前記第2換算部による処理のいずれか一方を選択する、請求項2に記載の粘度測定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の粘度測定装置と、
前記試料を収容する容器と、を備える粘度測定システム。
【請求項5】
前記容器の開口部は、円形である、請求項4に記載の粘度測定システム。
【請求項6】
試料の液面に向けてガスをパルス状に噴射する噴射部と、
前記液面への前記ガスの衝突によって励起される前記液面の変位量を、前記液面へ測定光を照射することにより得る非接触式の変位量取得部と、
前記変位量と時間との関係を示す測定情報を利用して、前記試料の粘度を得る処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記液面が
単位時間あたり
に前記ガスが噴射される前の状態に近づく変位量
である変位量回復速度と前記粘度との関係を示す第3試料情報を保持する第3情報保持部と、
前記測定情報を利用して、前記試料
の前記液面が単位時間あたり
に前記ガスが噴射される前の状態に近づく変位量を示す第3測定情報
である変位量回復速度を得る第3測定情報取得部と、
前記第3試料情報
であって予め取得された変位量回復速度と前記第3測定情報
であって測定によって得た変位量回復速度とを利用して、前記粘度を得る第3換算部と、を有する、粘度測定装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記測定情報が含む前記変位量の極値の数を判定し、前記極値の数が1つである場合に、前記第3換算部によって前記第3試料情報と前記第3測定情報とを利用して前記粘度を得る、請求項6に記載の粘度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度測定装置及び粘度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
粘度は、物質の性質を示す基本量であり、工業製品の品質評価などにしばしば用いられる物理量である。そこで、粘度の測定にはいわゆる粘度計を用いる。粘度計には、いくつかの種類がある。例えば、回転式粘度計は、試料に沈めた物体を回転させた時に生じる抵抗力を利用して粘度を得る。また、細管粘度計は、細管を試料が通り抜けるために要した時間を利用して粘度を得る。細管粘度計と類似する技術として、特許文献1が開示するガスの粘度測定装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-269341号公報
【文献】特開2012-154819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、試料を評価するための測定を行うに際し、試料に触れることなく所望の評価値を得る技術が注目されている。例えば、特許文献2は、試料に触れることなく試料の硬度を得るハンディ型硬さ測定装置を開示する。一方、粘度の測定にあっては、上述した回転式粘度計や細管粘度計は、いずれも装置の一部を試料に対して直接に接触させていた。
【0005】
そこで、本発明は、試料に触れることなく試料の粘度を得ることが可能な粘度測定装置及び粘度測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態である粘度測定装置は、試料の液面に向けてガスをパルス状に噴射する噴射部と、液面へのガスの衝突によって励起される液面の変位量を、液面へ測定光を照射することにより得る非接触式の変位量取得部と、変位量と時間との関係を示す測定情報を利用して、試料の粘度を得る処理部と、を備え、処理部は、試料の減衰特性を示す係数と粘度との関係を示す第1試料情報を保持する第1情報保持部と、測定情報を利用して、振動波形の包絡線として示される減衰特性を示す係数である第1測定情報を得る第1測定情報取得部と、第1試料情報と第1測定情報とを利用して、粘度を得る第1換算部と、を有する。
【0007】
この粘度測定装置は、試料に変位を生じさせ、当該変位量と時間との関係を示す測定情報を利用して、試料の粘度を得る。ここで、粘度測定装置は、ガスをパルス状に噴射して試料の液面に変位を生じさせる。つまり、試料に直接に接触することなく、試料に対して変位を生じさせることができる。従って、粘度測定装置は、試料に触れることなく試料の粘度を得ることができる。さらに、この構成によれば、比較的小さい粘度を有する試料を測定対象として、精度の良い粘度を得ることができる。
【0008】
一形態において、処理部は、単位時間あたりの液面の変位量と粘度との関係を示す第2試料情報を保持する第2情報保持部と、測定情報を利用して、試料における単位時間あたりの液面の変位量を示す第2測定情報を得る第2測定情報取得部と、第2試料情報と第2測定情報とを利用して、粘度を得る第2換算部と、を有してもよい。この構成によれば、比較的大きい粘度を有する試料を測定対象として、精度の良い粘度を得ることができる。
【0009】
一形態において、処理部は、測定情報が含む変位量の極値の数を判定し、判定の結果に基づいて、第1換算部による処理又は第2換算部による処理のいずれか一方を選択してもよい。この構成によれば、比較的大きい粘度から比較的小さい粘度に至る広い範囲を測定可能な範囲とすることができる。
【0010】
本発明の別の形態である粘度測定システムは、上記の粘度測定装置と、試料を収容する容器と、を備える。この粘度測定システムは、上記の粘度測定装置を備えている。従って、容器に収容された試料に直接に接触することなく、試料に対して変位を生じさせることができる。従って、粘度測定システムは、試料に触れることなく試料の粘度を得ることができる。
【0011】
別の形態において、容器の開口部は、円形であってもよい。この形状によれば、測定情報に含まれる可能性のあるノイズ成分、例えば発生させる液面の振動波形情報のひずみ成分等を低減することができる。従って、精度のよい粘度を得ることができる。
【0012】
本発明のさらに別の形態である粘度測定装置は、試料の液面に向けてガスをパルス状に噴射する噴射部と、液面へのガスの衝突によって励起される液面の変位量を、液面へ測定光を照射することにより得る非接触式の変位量取得部と、変位量と時間との関係を示す測定情報を利用して、試料の粘度を得る処理部と、を備え、処理部は、単位時間あたりの液面の変位量と粘度との関係を示す第3試料情報を保持する第3情報保持部と、測定情報を利用して、試料における単位時間あたりの液面の変位量を示す第3測定情報を得る第3測定情報取得部と、第3試料情報と第3測定情報とを利用して、粘度を得る第3換算部と、を有する。この粘度測定装置は、試料に触れることなく試料の粘度を得ることができる。さらに、この構成によれば、比較的大きい粘度を有する試料を測定対象として、精度の良い粘度を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料に触れることなく試料の粘度を得ることが可能な粘度測定装置及び粘度測定システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態の粘度測定システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、処理装置を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した粘度測定システムを用いて粘度を測定するためのフロー図である。
【
図4】
図4は、ノズルから噴射される圧縮空気の時間履歴と、当該圧縮空気によって励起される液面変位の時間履歴の一例である。
【
図5】
図5は、変位量回復速度と粘度との関係を示す情報の一例である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の粘度測定システムが備える処理装置を示す機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、
図6に示した粘度測定システムを用いて粘度を測定するためのフロー図である。
【
図8】
図8は、低粘度である試料における液面変位の時間履歴の一例である。
【
図9】
図9は、減衰特性に関する係数と粘度との関係を示す情報の一例である。
【
図10】
図10は、第3実施形態の粘度測定システムが備える処理装置を示す機能ブロック図である。
【
図11】
図11は、
図10に示した粘度測定システムを用いて粘度を測定するためのフロー図である。
【
図12】
図12の(a)部は反射成分を含む液面変位の時間履歴の一例であり、
図12の(b)部は反射成分を含まない液面変位の時間履歴の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示すように、粘度測定システム1は、フレームユニット2と、容器3と、粘度測定装置4と、を有する。粘度測定システム1は、容器3に収容した液体である試料100の粘度を粘度測定装置4によって測定する。粘度測定装置4は、測定に際して、試料100に直接に接しない。粘度測定装置4は、試料100の液面100aの変位を励起し、当該変位に基づいて、試料100の粘度を得る。
【0017】
フレームユニット2は、粘度測定装置4と容器3に収容された試料100との位置関係を調整及び維持する。具体的には、フレームユニット2は、粘度測定装置4と液面100aとの間の距離を調整及び維持する。フレームユニット2は、さらに、ベース6と、コラム7と、高さ調整部8と、を有する。ベース6は、フレームユニット2の基部である。ベース6の主面6aには容器3が載置される。なお、ベース6は、必要に応じて防振装置9を備えていてもよい。防振装置9によれば、粘度(η)の測定に対してノイズとなりえる意図しない液面100aの振動の発生を抑制できる。また、ベース6の主面6aには、コラム7が取り付けられている。コラム7は、主面6aと直交する方向に伸びるいわゆる柱部材である。コラム7には、高さ調整部8が設けられている。高さ調整部8は、コラム7に対して高さ方向における位置を変更及び維持することができる。高さ調整部8には、粘度測定装置4が取り付けられている。従って、高さ調整部8の位置を調整することにより、粘度測定装置4の位置を調整することができる。
【0018】
容器3は、液体である試料100を収容する。容器3は、例えば開口部を有する円筒状を呈する。従って、容器3に収容された試料100の断面は、円形である。この形状によれば、測定情報に含まれる可能性のあるノイズ成分、例えば発生させる液面100aの振動波形情報のひずみ成分等を低減することができる。従って、精度のよい粘度を得ることができる。
【0019】
粘度測定装置4は、主要な構成要素として、噴射装置11(噴射部)と、距離センサ12(変位量取得部)と、処理装置13(処理部)と、ディスプレイ15と、を有する。粘度測定装置4は、噴射装置11から圧縮空気102(ガス)を液面100aに向けて噴射する。圧縮空気102を受けた液面100aは、変形を生じる。液面100aの状態は、試料100の物理的特性(粘度(η))に応じて、元の静定状態に次第に収束する。距離センサ12は、変形が生じたのちに静定状態に戻るまでの液面100aの変化を捉える。具体的には、距離センサ12は、粘度測定装置4と液面100aとの間の距離の時間変化を得る。そして、処理装置13は、当該距離の時間変化を利用して、試料100の粘度(η)を得る。
【0020】
噴射装置11は、ガスタンク11aと、電磁弁11bと、ノズル11cと、を有する。ガスタンク11aは、液面100aに吹き付ける圧縮空気102を収容する。ガスタンク11aは、電磁弁11bを介してノズル11cに接続されている。従って、ガスタンク11aは、ノズル11cに圧縮空気102を提供する。ノズル11cへの圧縮空気102の提供とその停止とは、電磁弁11bによって制御される。この電磁弁11bは、処理装置13から送信される制御信号に基づいて、開閉制御を行う。このような構成を有する噴射装置11は、処理装置13によって開閉制御される電磁弁11bに基づいて、ノズル11cへの圧縮空気102の提供と停止とが切り替わる。一例として、ノズル11cからの圧縮空気102の噴射は、パルス状であり、その噴射継続時間は0.1ミリ秒である。
【0021】
距離センサ12は、発光素子17と、受光素子18と、を有する非接触式のセンサである。発光素子17は、液面100aに対して測定光L1を照射する。受光素子18は、液面100aにおいて反射した反射光L2を受ける。距離センサ12は、受光素子18が受けた反射光L2に基づいて、粘度測定装置4と液面100aとの間の距離を得る。
【0022】
ディスプレイ15は、処理装置13によって得られた測定結果である試料100の粘度(η)を表示する。なお、ディスプレイ15は、そのほかの測定結果に関する情報を表示してもよい。また、ディスプレイ15は、タッチ操作を受け入れ可能な装置であってもよい。
【0023】
処理装置13は、いわゆるコンピュータであり、
図3のフロー図に示された動作を規定するプログラムが実行されることにより、
図2の機能ブロック図に示された機能構成要素が実現される。
【0024】
図2に示すように、処理装置13は、制御部21と、算出部22と、を有する。制御部21は、処理装置13に接続された距離センサ12といった機器を制御する。算出部22は、距離センサ12から受けたデータを利用して、試料100の粘度(η)を得る。
【0025】
制御部21は、噴射制御部23と、センサ制御部24と、表示制御部26と、を有する。噴射制御部23は、電磁弁11bに制御信号を提供し、電磁弁11bの開状態(噴射)と閉状態(噴射停止)とを相互に切り替える。センサ制御部24は、距離センサ12の動作を制御する。表示制御部26は、ディスプレイ15の動作を制御する。
【0026】
算出部22は、データ取得部27と、静定状態判定部28と、グラフ処理部29と、粘度取得部31と、を有する。データ取得部27は、距離センサ12から測定結果としてのデータを受け取る。静定状態判定部28は、液面100aが静定状態(後述)であるか否かを判定する。グラフ処理部29は、データ取得部27から提供されるデータをグラフ化する。粘度取得部31は、データ取得部27又はグラフ処理部29から提供されるデータを用いて粘度(η)を算出する。粘度取得部31は、さらに高粘度取得部32として、変位量回復速度取得部33(第2測定情報取得部、第3測定情報取得部)と、粘度換算部34(第2換算部、第3換算部)と、換算情報保持部36(第2情報保持部、第3情報保持部)と、を有する。変位量回復速度取得部33は、データ取得部27又はグラフ処理部29から提供されるデータから粘度(η)の算出処理に必要な変位量回復速度(Vdr)を得る。粘度換算部34は変位量回復速度(Vdr)を粘度(η)に換算する。換算情報保持部36は、粘度換算部34の動作に要する換算のための情報を保持する。
【0027】
以下、
図2及び
図3を参照しつつ、処理装置13の動作について説明する。はじめに、測定のための準備を行う。具体的には、試料100を容器3に入れる(ステップS1)。このとき、試料100は、所定の深さとなるまで入れておくとよい。次に、試料100を収容した容器3をベース6の主面6aに載置する(ステップS2)。次に、試料100の液面100aと粘度測定装置4との間隔を調整する(ステップS3)。なお、この調整において、距離センサ12を動作させて、距離センサ12が示す液面100aまでの距離を参考にしてもよい。次に、距離センサ12を動作させる(ステップS4)。このステップS4において、ディスプレイ15に液面100aまでの距離を表示してもよい。
【0028】
ここで、粘度(η)の測定は、粘度測定装置4と液面100aとの距離を利用するものであることはすでに述べた。そして、測定に利用する距離の変化は、噴射装置11から提供される圧縮空気102によるものである。そうすると、意図しない要因によって液面100aが振動している場合には、当該振動がノイズとなる場合もあり得る。そこで、必要に応じて、試料100が静定状態であるか否かを判定してもよい(ステップS5)。この動作は、静定状態判定部28によって行われる。具体的には、粘度測定装置4と液面100aとの距離の変位幅が、閾値よりも小さいことを確認することとしてもよい。換言すると、「静定状態である」とは、粘度測定装置4と液面100aとの距離の変位幅が、閾値よりも小さい状態をいう。そして、試料100が静定状態であると判断された場合(ステップS5:YES)には、次のステップS6に移行する。一方、試料100が静定状態でないと判断された場合(ステップS5:NO)には、所定の待機時間をおいて、再びステップS5を実行する。
【0029】
次に、データ取得を開始する(ステップS6)。このステップS6は、センサ制御部24と、データ取得部27と、によって行われる。このステップS6によって、噴射開始前における粘度測定装置4と液面100aとの距離が得られる。つまり、このステップS6において得られるデータは、一定値である。
【0030】
次に、圧縮空気102を噴射する(ステップS7)。このステップS7は、噴射制御部23によって行われる。噴射制御部23は、電磁弁11bに対してバルブを開くための制御信号を提供する。その結果、ガスタンク11aからノズル11cへ圧縮空気102が提供され、ノズル11cから液面100aに向けて圧縮空気102が吹き付けられる。例えば、噴射制御部23は、0.1ミリ秒だけ電磁弁11bを開状態とする(
図4のグラフG4a参照)。そして、噴射制御部23は、再び電磁弁11bを閉状態とする制御信号を電磁弁11bに提供する。このステップS7によって、液面100aに圧縮空気102が衝突するので、液面100aの変位が励起される。このステップS7の前におけるステップS6によって、距離の取得はすでに開始されているので、静定状態である液面100aの位置から、噴射によって、液面100aが下方に変形する状態もデータとして記録される。
【0031】
次に、試料100の状態が静定状態に至ったか否かを判定する(ステップS8)。つまり、圧縮空気102の噴射によって変位が励起された状態から、噴射前の状態に復帰したか否かを判定する。この判定は、粘度測定装置4と液面100aとの距離の測定を終了するか否かの判断材料の一つであるともいえる。このステップS8は、先に実施したステップS5と同じ処理である。そして、試料100が静定状態であると判断された場合(ステップS8:YES)には、次のステップS9に移行する。一方、試料100が静定状態でないと判断された場合(ステップS8:NO)には、所定の待機時間をおいて、再びステップS8を実行する。
【0032】
次に、データ取得を終了する(ステップS9)。このステップS9は、センサ制御部24とデータ取得部27とによって行われる。
【0033】
次に、液面100aの変位と時間との関係を示すグラフを得る(ステップS10)。液面100aの変位とは、粘度測定装置4と液面100aとの距離であるとしてよい。このステップS10は、グラフ処理部29によって行われる。グラフ処理部29は、例えば、
図4に例示されるような変位量の履歴を示すグラフを出力する。
【0034】
次に、変位量回復速度(Vdr)を得る(ステップS12)。このステップS12は、粘度取得部31の変位量回復速度取得部33によって行われる。ここでいう「変位量回復速度」とは、噴射後の液面100aの位置が、単位時間あたりに静定状態に近づく変位量をいう。例えば、
図4のグラフG4bにおいて、変位量(P1)から変位量(P2)に近づくために、時間(Tob)を要したとすると、変位量回復速度(Vdr)は、(P1-P2)/Tobである。なお、液面100aの変位量と時間との関係は、上記の変位量回復速度(Vdr)のように、単位時間当たりの変位量(距離)として扱ってよい。また、液面100aの変位量と時間との関係は、当該変位量回復速度(Vdr)の逆数として扱ってもよい。つまり、液面100aの変位量と時間との関係は、単位変位量だけ液面100aが変化するに必要な時間であると定義してもよい。なお、開始点と終点とは、任意の点を選択してよい。例えば、開始点は、最大変位量としてもよいし、最大変位量よりも小さい変位量としてもよい。また、終点は、静定状態後の変位量(つまり、閾値よりも小さい変位量)としてもよいし、静定状態前の変位量としてもよい。要するに、開始点の変位量が終点の変位量よりも大きければよい。例えば、
図4に示した、変位量(P1)は、ピーク(最大値)に対して90%となる量と定義してよい。変位量(P2)は、ピークに対して5%となる量と定義してよい。
【0035】
次に、変位量回復速度(Vdr)を粘度(η)に換算する(ステップS13)。このステップS13は、粘度換算部34と換算情報保持部36とにより行われる。換算情報保持部36は、例えば、
図5のグラフG5aに示すような第2試料情報(又は第3試料情報)を保持している。つまり、変位量回復速度(Vdr)と粘度(η)との関係である。従って、当該情報に対して変位量回復速度(Vdr)を当てはめることにより、粘度(η)を得ることができる。この情報は、予備的な試験によって予め取得しておく。例えば、粘度(η)が明らかであり、かつ粘度(η)を制御可能な物質を利用して、変位量回復速度(Vdr)と粘度(η)との関係を得る。このような物質として、ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールは、濃度に応じて粘度(η)を精度よく制御することができる。また、情報は、グラフの形式に限定されない。変位量回復速度(Vdr)を変数とする数式であってもよいし、変位量回復速度(Vdr)と粘度(η)とが対応付けられた表であってもよい。
【0036】
そして、結果を表示する(ステップS20)。このステップS20は、表示制御部26とディスプレイ15によって行われる。
【0037】
以上のステップS1~S20によって、試料100の粘度(η)が得られる。第1実施形態の粘度測定システム1及び粘度測定装置4によれば、数百ミリPa・sより大きい(例えば900ミリPa・s)粘度(η)を非接触検査によって得ることができる。
【0038】
粘度測定システム1及び粘度測定装置4は、試料100に変位を生じさせ、当該変位量と時間との関係を示す測定情報を利用して、試料100の粘度(η)を得る。ここで、粘度測定装置4は、圧縮空気102をパルス状に噴射して試料100の液面100aに変位を生じさせる。つまり、試料100に直接に接触することなく、試料100に対して変位を生じさせることができる。従って、粘度測定システム1及び粘度測定装置4は、試料100に触れることなく試料100の粘度(η)を得ることができる。
【0039】
要するに、粘度測定システム1及び粘度測定装置4は、圧縮空気102を試料100に噴射した際の試料100の液面100aの変位を測定して、粘度(η)を測定する。具体的には、粘度測定システム1及び粘度測定装置4は、圧縮空気102を試料100の液面100aに当てた時に生じる試料100のへこみの発生の時間遅れ、または、圧縮空気102の供給を停止したときのへこみの戻りの時間遅れを利用して粘度(η)を得る。
【0040】
上記の作用効果を奏する粘度測定システム1及び粘度測定装置4によれば、非接触及び非破壊である検査を行うことができる。そして、測定後に粘度測定装置4を洗浄する必要がない。さらに、粘度測定装置4の下方に試料100を搬送する動作を自動化することにより、試料100の連続測定及び全数検査を行うことも可能である。
【0041】
〔第2実施形態〕
第1実施形態では、変位量回復速度(Vdr)を利用して粘度(η)を得た。この手法は、試料100の粘度(η)が中程度から比較的大きい(例えば数百ミリPa・s以上)である場合に有効である。例えば、試料100の粘度(η)が小さい(例えば数十ミリPa・s以上)場合、圧縮空気102を液面100aに吹き付けると、液面100aは、
図8に示されるような振動を生じる。この場合には、単位時間当たりの変位量回復速度(Vdr)が大きくなる。要するに、試料100の粘度(η)が低い場合には、試料100が波打つので、時間遅れを精度よく得ることが困難になり得る。
【0042】
そこで、第2実施形態では、変位量回復速度(Vdr)とは別のパラメータと粘度(η)との関係を利用する。別のパラメータとは、具体的には、減衰特性を示す係数(a)である。つまり、第2実施形態の粘度測定システム1A及び粘度測定装置4Aは、より低粘度の試料100を測定対象とし得るように、圧縮空気102によって液面100aに振動波形を積極的に発生させ、当該波の減衰の速さを利用して粘度(η)を得る。要するに、第2実施形態は、その処理方法が第1実施形態と異なるだけであり、粘度測定システム1Aの物理的な構成は、第1実施形態と共通である。第2実施形態では、処理装置13Aにおける算出部22Aの粘度取得部31Aの機能ブロックが第1実施形態と相違する。以下、
図6、
図7を参照しつつ、第1実施形態と相違する点に注目して説明する。
【0043】
図6に示すように、第2実施形態の粘度測定システム1Aにおける処理装置13Aは、粘度取得部31Aが高粘度取得部32に代えて、低粘度取得部37を有する。低粘度取得部37は、包絡線取得部38と、係数取得部39(第1測定情報取得部)と、粘度換算部41(第1換算部)と、換算情報保持部42(第1情報保持部)と、を有する。
【0044】
図7に示すフロー図を参照しつつ、処理装置13Aの動作について説明する。特に、低粘度取得部37の動作について詳細に説明する。
【0045】
まず、ステップS1~S10を行う。つまり、測定の準備から測定データを取得するまでの動作は、第1実施形態の動作と共通である。ステップS10の結果、
図8に例示されるような試料100の液面100aを示すグラフG8aが得られる。
【0046】
次に、包絡線を得る(ステップS14)。このステップS14は、包絡線取得部38によって行われる。
図8のグラフG8aを例に説明すると、このグラフG8aには、包絡線G8bを規定することができる。この包絡線G8bを得る処理には特に制限はなく、所望のアルゴリズムを用いてよい。包絡線G8bは、例えば、下記式に示す関数によって示される。
y=C×exp^(ax)…(1)
【0047】
次に、包絡線G8bから減衰特性を示す係数(a)を得る(ステップS15)。このステップS15は、係数取得部39によって行われる。減衰特性を示す係数(a)は、式(1)における係数aである。本実施形態では、式(1)における係数(a)を、減衰特性を示す係数(a)と定義する。
【0048】
次に、減衰特性を示す係数(a)を粘度(η)に変換する(ステップS16)。このステップS16は、粘度換算部34と換算情報保持部36とによって行われる。換算情報保持部36は、例えば、
図9のグラフG9aに示すような第1試料情報を保持している。つまり、係数(a)と粘度(η)との関係である。従って、当該情報に対して係数(a)を当てはめることにより、粘度(η)を得る。そして、最後に結果を表示する(ステップS20)。
【0049】
上記のステップS14、S15、S16を含むステップS1~S20によれば、比較的粘度(η)の低い試料100を測定することができる。例えば、第2実施形態の粘度測定システム1A及び粘度測定装置4Aによれば、試料100の粘度(η)が数ミリPa・s以上数百ミリPa・s以下の範囲において、良好な結果を得ることができる。
【0050】
ところで、試料100を入れる容器3は、容器3の壁面からの振動波形の反射波の影響を受けないように、極力大きな断面積の円形の形状であってもよい。しかし、少量の試料100で粘度(η)を測定するためには、容器3をそれほど大きくすることはできない場合も多い。そのため、容器3の壁面は波の反射が少なくなるような柔らかい構造であってもよい。また、容器3の直径は、発生させた振動波形の位相と、容器3の壁面から反射してきた振動波形の位相と、が揃って、同位相となるような寸法であってもよい。この容器3の直径の選択は、高さ調整部8の調整と併用することにより、元の振動波形と反射してきた振動波形の位相を同位相にすることが容易となる。
【0051】
〔第3実施形態〕
第3実施形態の粘度測定システム1Bは、第1実施形態の粘度測定システム1が対象とする比較的高い粘度(η)を有する試料100及び第2実施形態の粘度測定システム1Aが対象とする比較的低い粘度(η)を有する試料100の両方を測定対象とする。具体的には、第3実施形態の粘度測定システム1Bは、ステップS10によって得られるグラフG4b又はグラフG8aに例示されるデータを利用して、第1実施形態に示す動作(変位量回復速度を利用する動作)又は第2実施形態に示す動作(減衰特性を示す係数を利用する動作)のいずれかを選択する。従って、第2実施形態と同様に第3実施形態は、その処理方法が第1実施形態と異なるだけであり、粘度測定システム1Bの物理的な構成は、第1実施形態と共通である。第3実施形態では、処理装置13Bにおける算出部22Bの粘度取得部31Bの機能ブロックが第1実施形態と相違する。以下、
図10及び
図11を参照しつつ、第1実施形態と相違する点に注目して説明する。
【0052】
図10に示すように、第3実施形態の粘度測定システム1Bの粘度測定装置4Bにおける処理装置13Bは、ピーク判定部43を有する。さらに、処理装置13Bは、粘度取得部31Bが高粘度取得部32と低粘度取得部37とを有する。
【0053】
図11に示すフロー図を参照しつつ、処理装置13Bの動作について説明する。第3実施形態における粘度(η)を得る動作(ステップS12、S13)は、第1実施形態と同じであり、別の粘度(η)を得る動作(ステップS14、S15、S16)は、第2実施形態と同じである。つまり、第3実施形態における特有の動作は、ピーク判定部43の動作である。以下、ピーク判定部43の動作について詳細に説明する。
【0054】
まず、ステップS1~S10を行う。つまり、測定の準備から測定データを取得するまでの動作は、第1実施形態の動作と共通である。
【0055】
次に、ピーク(極値)の数を判定する(ステップS11)。粘度(η)が比較的大きい場合には、グラフG4bに示されるように、極大値としてのピークは1つである。一方、粘度(η)が比較的小さい場合には、グラフG8aに示されるように、ピークは2以上である。そこで、ステップS11において得られたグラフが有するピークの数を抽出する。ピークの数の抽出には、所望のプログラムを用いてよい。そして、ピークの数が2以上であるか否かを判断する。ピークの数が2以上である場合(ステップS11:YES)には、第2実施形態に示した減衰特性を示す係数(a)を用いる処理が適している。そこで、ステップS14、S15、S16を実行する。一方、ピークの数が2以上でない(つまり1つ)である場合(ステップS11:NO)には、第1実施形態に示した変位量回復速度(Vdr)を用いる処理が適している。そこで、ステップS12、S13を実行する。
【0056】
つまり、処理装置13Bは、ステップS11の結果に応じて、ステップS12、S13の処理又はステップS14、S15、S16のいずれかを実行する。最後に、処理装置13Bは、結果を表示する(ステップS20)。
【0057】
第3実施形態の粘度測定システム1Bによれば、測定可能な粘度(η)の範囲を拡大することができる。
【0058】
〔変形例〕
本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の趣旨を変更しない範囲で適宜変更してよい。
【0059】
例えば、第2実施形態及び第3実施形態では、比較的低い粘度(η)を有する試料100を測定することがある。粘度(η)が低い試料100は変形しやすく、減衰しにくい。そうすると、圧縮空気102の噴射によって生じた波が、容器3の壁面まで伝わり、当該波が壁面において反射することが生じる。そうすると、距離センサ12の測定点において生じる波(液面100aの高さの変動)は、圧縮空気102の噴射に直接に起因する成分(以下「励起成分」と呼ぶ)と反射波の成分(以下「反射成分」)とを含む場合があり得る。反射波の成分を含む場合には、波形が乱れることがある(
図12の(a)部、グラフG12a参照)。その結果、乱れた波形から得た包絡線G12bに基づく粘度(η)は、試料100が有する粘度(η)からずれることが生じ得る。
【0060】
そこで、第2実施形態及び第3実施形態では、測定の前に良好な波形が得られるように、予備的な試験を行い、構成要素の調整を行ってもよい。具体的には、容器3の直径を最適化する。例えば、測定点において励起成分に影響を及ぼす程度の反射成分が戻ってこないように、容器3の直径を設定してよい。つまり、容器3の壁面に至るまで、または、反射した波が測定点に至るまでに、十分に減衰するような距離に設定してよい。また、測定点において励起成分に影響を及ぼす程度の反射成分が戻ってきたとしても、励起成分と反射成分の位相が一致している場合には、粘度(η)への影響が少ない。ここでいう位相の一致とは、位相差が0度(ピークが一致する)場合と、位相差が180度(最大ピークと最小ピークとが一致する)場合を含む。位相差は、圧縮空気102を当てる位置から容器3の壁面までの距離と、壁面から測定点までの距離によって制御できる。従って、圧縮空気102を当てる位置と容器3の直径とを所定の関係に設定することにより、励起成分の位相と反射成分の位相とを一致させることが可能である。その結果、波形の乱れが抑制された波形(グラフG12c参照)が得られるので、当該グラフG12cから良好な包絡線G12dが得られる。その結果、粘度(η)の測定精度の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0061】
1,1A,1B…粘度測定システム、2…フレームユニット、3…容器、4,4A,4B…粘度測定装置、6…ベース、7…コラム、8…高さ調整部、9…防振装置、11…噴射装置(噴射部)、11a…ガスタンク、11b…電磁弁、11c…ノズル、12…距離センサ(変位量取得部)、13,13A,13B…処理装置(処理部)、15…ディスプレイ、17…発光素子、18…受光素子、21…制御部、22,22A,22B…算出部、23…噴射制御部、24…センサ制御部、26…表示制御部、27…データ取得部、28…静定状態判定部、29…グラフ処理部、31,31A,31B…粘度取得部、32…高粘度取得部、33…変位量回復速度取得部(第2測定情報取得部、第3測定情報取得部)、34…粘度換算部(第2換算部、第3換算部)、36…換算情報保持部(第2情報保持部、第3情報保持部)、37…低粘度取得部、38…包絡線取得部、39…係数取得部(第1測定情報取得部)、41…粘度換算部(第1換算部)、42…換算情報保持部(第1情報保持部)、43…ピーク判定部、100…試料、100a…液面、102…圧縮空気(ガス)、L1…測定光、L2…反射光。