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特許7161196口腔・嚥下機能のリハビリテーションに適した手作り造形物の芯体
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  • 特許-口腔・嚥下機能のリハビリテーションに適した手作り造形物の芯体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】口腔・嚥下機能のリハビリテーションに適した手作り造形物の芯体
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20221019BHJP
   A63H 3/00 20060101ALI20221019BHJP
   A63H 3/33 20060101ALI20221019BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20221019BHJP
   A63H 33/00 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
A61H1/02 Z
A63H3/00 Z
A63H3/33 C
A61B5/08
A63H33/00 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019018834
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020124382
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月27日、日本感性工学会発行の第13回日本感性工学会春季大会予稿集、WP2-1にて発表。 平成30年3月28日、第13回日本感性工学会春季大会にて発表。 平成30年6月21日、日本デザイン学会、第65回春季研究発表大会の大会概要集のウェブサイトにて発表。 該当アドレス https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssd/65/0/65_370/_article/-char/ja/ 該当アドレス https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssd/65/0/65_372/_article/-char/ja/ 平成30年6月23日、日本デザイン学会、第65回春季研究発表大会にて発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】500132214
【氏名又は名称】学校法人明星学苑
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 聖美
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0180603(US,A1)
【文献】特開平10-203099(JP,A)
【文献】特開平08-313408(JP,A)
【文献】特開2000-020222(JP,A)
【文献】登録実用新案第3216020(JP,U)
【文献】登録実用新案第3191062(JP,U)
【文献】特開2010-142262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0081321(US,A1)
【文献】特開2013-022302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A63H 3/00
A63H 3/33
A61B 5/08
A63H 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者のリハビリテーションに用いられ、利用者自身が制作する手作り造形物の芯体であって、
呼気を検知するための呼気センサを内蔵することを特徴とする手作り造形物の芯体。
【請求項2】
前記呼気センサに呼気を導入するための管体を備えることを特徴とする、
請求項1に記載の手作り造形物の芯体。
【請求項3】
呼気の検知に応答して音声を出力する音声出力手段を内蔵することを特徴とする、
請求項1または2に記載の手作り造形物の芯体。
【請求項4】
呼気の検知に応答して発光する発光手段を内蔵することを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の手作り造形物の芯体。
【請求項5】
携帯可能なサイズを有することを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の手作り造形物の芯体。
【請求項6】
検知した呼気に関するデータを記録する機能を内蔵することを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の手作り造形物の芯体。
【請求項7】
検知した呼気に関するデータを外部に出力する機能を内蔵することを特徴とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載の手作り造形物の芯体。
【請求項8】
前記造形物は、擬人化された造形物である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の手作り造形物の芯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手作り造形物の芯体に関し、より詳細には、口腔・嚥下機能のリハビリテーションに適した手作り造形物の芯体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では、超高齢社会が急速に進む中で、要介護高齢者が増加の一途を辿っている。一般に、高齢者は嚥下機能が低下する傾向にあるが、嚥下機能の低下は誤嚥性肺炎のリスクを増大させるため、要介護高齢者を対象とする特別養護老人ホームでは、入所者の嚥下機能の維持向上が重要な課題となっている。
【0003】
この点につき、意識的に息を吹く動作(強制呼気)が嚥下機能の維持向上に有効であるとの研究報告を受けて、ゴム風船、吹き戻し、吹き矢などのおもちゃを入所者に与え、遊びの中で強制呼気を行わせるといったプログラムを実践している施設がある。また、そのようなプログラムに適用可能な装置も種々検討されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
上述したような遊びを取り入れたプログラムは、認知機能を健康に維持している高齢者には、一定の効果が期待できる。しかしながら、認知症を患っている高齢者の場合は、物事への関心が薄くなっていることが多く、上述した遊びに積極的に参加してもらうことが非常に困難であることから、実効性に欠けるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-142262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、口腔・嚥下機能のリハビリテーションに適した手作り造形物の芯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、要介護高齢者に嚥下機能のリハビリテーションを行わせる方法について検討する中で、物事への関心が薄くなっている認知症患者であっても、こと自分が作った人形に対しては、強い愛着を持つ傾向があることを発見し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、呼気を検知するための呼気センサを内蔵する手作り造形物の芯体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、呼気センサを内蔵する手作り造形物の芯体を用いた口腔・嚥下機能のリハビリテーションが可能となる。特に、呼気センサを内蔵する手作り人形の芯体を用いた人形制作プログラムを通して、要介護高齢者(とりわけ、認知症患者)に嚥下機能のリハビリテーションを行わせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の手作り人形の芯体を示す図。
図2】本実施形態の手作り人形に内蔵されるモジュールの構成を示す図。
図3】本実施形態の手作り人形の芯体の構造を説明するための図。
図4】本実施形態の手作り人形を含むシステムの構成図。
図5】本実験で作成された手作り人形の写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0012】
以下、本発明の手作り造形物の芯体の一実施形態として、「手作り人形の芯体」を例にとって説明する。
【0013】
現在、要介護高齢者を対象とする特別養護老人ホームなどの施設(以下、施設という場合がある)では、レクリエーションの一環として、折り紙、塗り絵、手芸などのプログラムが広く実施されている。本実施形態の手作り人形の芯体は、その種のプログラムの1つに位置づけられる「人形制作プログラム」において利用されることを想定する。
【0014】
図1は、本実施形態の手作り人形の芯体10を示す。図1(a)は、芯体10の上面図を示し、図1(b)は、芯体10の正面図を示す。本実施形態の芯体10は、手作り人形の骨組みとして機能するものであり、適切な位置にスリットが形成された7枚の段ボールの紙片(2枚の瓢箪型の紙片a,a、および、5枚の円型の紙片b,c,d,e,f)の嵌め合いにより形成されている。なお、芯体10は、携帯可能なサイズを有しており、その完成体である人形は容易に持ち運びできるサイズを想定している。
【0015】
図1(b)に示すように、芯体10は、モジュール12と、LEDアレイ17(発光手段)と、小型スピーカー18(音声出力手段)を内蔵する。そして、モジュール12の筐体には、呼気を取り込むための開口部13が形成されている。
【0016】
図2は、モジュール12の内部構成を示す。図2に示すように、モジュール12は、マイコン14と、呼気センサ15と、通信インターフェース16を内蔵する。
【0017】
呼気センサ15は、呼気を検知するためのセンサであり、開口部13を介して導入される呼気を検知できるように、モジュール12内の適切な位置に搭載されている。なお、呼気センサ15は、呼気の導入に伴って生じる気圧変動を検知するセンサであってもよいし、呼気の導入時に発生する音を検知するセンサであってもよい。
【0018】
マイコン14は、呼気センサ15からのセンサ出力を受けて呼気が導入されたことを検知し、検知した呼気に関するデータを記録する機能を有する。加えて、マイコン14は、呼気の検知に応答して、LEDアレイ17を発光させたり、小型スピーカー18から所定の音声を出力させたりする機能を有する。さらに、モジュール12は、記録した呼気に関するデータを通信インターフェース16を介して外部に出力する機能を有している。なお、通信インターフェース16は、有線または無線のいずれの規格であってもよいし、LAN、インターネットなどのネットワークに接続可能なネットワーク・インターフェースであってもよい。
【0019】
以上、本実施形態の手作り人形の芯体10の構成について説明してきたが、続いて、手作り人形の芯体10を用いた「人形制作プログラム」の概要を説明する。
【0020】
まず、芯体10に形成された空間(段ボールの紙片に囲まれた空間)に適当な詰め物(例えば、丸めた新聞紙など)を詰めて肉付けを行った後に、紙テープなどを使用して詰め物を段ボールの骨組みに固定する。ここで、詰め物を骨組みに固定する際に、モジュール12に内蔵された呼気センサ15に呼気を導入するための管体19を固定する。その結果、図2(a)に示すような手作り人形の芯体20が出来上がる。
【0021】
図2(b)は、管体19を備える手作り人形の芯体20の透視図を示す。図2(b)に示すように、管体19は、その一方の端の開口が、モジュール12の開口部13と一致するように位置決めされ、その他方の端の開口が芯体20の最外表面に露出する形で芯体20に固定されている。
【0022】
なお、実際のプログラムでは、事前に芯体20を作って用意しておき、嚥下機能のリハビリテーションを行わせようとするレクリエーションの参加者(以下、対象者という)の一人一人に芯体20を配布することを想定する。ただし、対象者の能力に応じて、可能であれば、芯体20を作成する工程をプログラムに取り入れてもよい。
【0023】
続いて、補助スタッフは、対象者に、芯体20に対して思い思いの加工を施して人形を完成させるように促す。ここでいう加工としては、絵の具やカラーペンで芯体20の頭部に顔を描いてもらう、適当な大きさにちぎった色紙を芯体20に貼り付けて人形に服を着せてもらう、といったことが想定される。図2(c)は、対象者が芯体20に手を加えて出来上がったマトリョーシカ風の手作り人形30を例示的に示す。
【0024】
人形作りが終わると、補助スタッフは、適切なタイミングを見計らって、各対象者に対して、自分が作った手作り人形30の管体19にストローを差し込んで息を吹き込むように促す。対象者がこれに応じて、手作り人形30に息を吹き込むと、対象者の呼気が、モジュール12の開口部13を介して導入され、内蔵された呼気センサ15がこれを検知する。呼気の検知を受けて、モジュール12のマイコン14は、LEDアレイ17を発光させ、小型スピーカー18から所定の音声を出力させる。
【0025】
以上、本実施形態の手作り人形の芯体10を用いた「人形制作プログラム」について説明した。上述したように、本実施形態の手作り人形の芯体10は、主に、認知症患者を対象としたレクリエーション用のキットとして施設に提供されることを想定する。この場合、図1に示す芯体10と管体19のセットをキットとして提供する態様の他、図2(a)に示した中間体(詰め物と管体19を固定した芯体20)を提供する態様も考えられる。
【0026】
続いて、「人形制作プログラム」で制作した手作り人形30を用いた嚥下機能のリハビリテーションについて説明する。
【0027】
施設の介助スタッフは、日常生活の中で、折に触れて、対象者が制作した手作り人形30を対象者の目の前に置き、手作り人形30に息を吹き込むよう対象者を促す。
【0028】
ここで、物事への関心が薄くなっている認知症患者の目の前に、仮に、既成の人形を置いたとしても、それに関心を向けさせることは非常に困難であるが、これが自分が手間をかけて作った手作り人形30の場合、認知症患者であっても、それに強い関心を示し、強い愛着を持つ傾向がある。そして、手作り人形30を手に載せてこれを眺めたりする行為や、息を吹き込むことに呼応したリアクション(光、音声)の経験を通して、認知症患者は、手作り人形30に対してより深い愛着を持つようになる。
【0029】
本実施形態によれば、このように醸成された手づくり人形30に対する愛着が、手づくり人形30に息を吹き込む動作(強制呼気)の習慣化に大きく寄与し、その結果として、認知症患者の嚥下機能のリハビリテーションが実効性をもって実現される。
【0030】
図4は、対象者が制作した手作り人形30を利用したネットワークシステムを示す。本実施形態では、図4に示すように、対象者と手作り人形30に内蔵されるモジュール12を紐づけた上で、各モジュール12をネットワーク40に接続することによって、各対象者が行った強制呼気に関するデータを、管理者のPC50やサーバ60に蓄積することができ、蓄積したデータをグラフ化して機能評価を行ったり、蓄積したデータに基づいてリハビリテーションの進捗管理を行ったりすることができる。
【0031】
以上、本発明の手作り造形物の芯体の一実施形態として、手作り人形の芯体10について説明してきたが、本発明における「手作り造形物」とは、上述したマトリョーシカ風の手作り人形のように、人間をモチーフにした造形物に限定されるものではなく、そのモチーフは、擬人化しうる対象である限り、何であってもよい。というのも、擬人化された造形物を作成する際の、目と口を付加する作業が誘因となって、その造形物に対する強い愛着が醸成されると考えられるからである。したがって、本発明の手作り造形物のモチーフは、擬人化しうる対象であれば、生物であっても、無生物であってもよく、また、実在するものであっても、架空のものであってもよい。
【0032】
また、本発明における手作り造形物の「芯体」とは、想定される造形物の完成体に対して、手を加える余地を残した造形物の未完成体と観念しうるもの全般を意味する。
【0033】
また、本発明における手作り造形物の「芯体」は、必ずしも、完成体の形状を象った骨組を備えている必要はなく、上述したモジュール12、LEDアレイ17、小型スピーカー18と同等の機能を内蔵する任意形状(立方体、卵型、球状など)の筐体に、直接、粘土を付けて造形物を作らせるようなケースでは、当該筐体自体が手作り造形物の「芯体」に該当する。
【0034】
また、上述した実施形態では、本発明の手作り造形物の芯体の利用シーンとして、要介護高齢者の嚥下機能のリハビリテーションを例に挙げて説明したが、本発明は、対象者の年齢や症状を問わず、強制呼気を継続的に行うことによって効果が期待できる口腔・嚥下機能のリハビリテーション全般に適用可能である。そのようなリハビリテーションとしては、小児を対象とした口蓋裂や口開け等のリハビリテーションなどを例示することができる。
【0035】
以上、本発明について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その他、当業者が推考しうるその他の実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0036】
特別養護老人ホームの入所者12名(男性2名、女性10名、要介護2~4)を対象として、マトリョーシカ風の人形を制作するプログラムを実施した。本プログラムでは、各対象者に図5(a)に示す本発明の手作り人形の芯体を配布し、様々な色の和紙や、紙・目・頬のパーツを提供して人形の制作を促したところ、全員が1時間程度で作品を完成させることができた。完成した作品の一部を図5(b)、(c)に示す。
【0037】
プログラム終了後、制作した人形を用いて、9日間にわたってリハビリテーションを試みた。具体的には、施設の介助スタッフが、各対象者のお茶の時間に各自が制作した人形を目の前に置き、ストローで息を吹き込むように促す、ということを繰り返し行った。その結果、全ての対象者について、人形に息を吹き込む動作を継続的に行わせることができた。
【0038】
これに並行して、各対象者の自身の作品(人形)に対する関わり方を観察したところ、半数以上の対象者が、自分が作った人形のことを覚えていて、人形の名前を呼んだり、人形の表情を見たり、自ら人形の置き場に行ったりする愛着反応を示した。また、リハビリテーションの試行期間が終わった後は、ほとんどの対象者が自分の人形を自室に持ち帰り、家族の遺影の横に飾るなどして大切に扱っている様子が窺えた。
【0039】
加えて、プログラム参加者のうち、体調や認知能力を考慮して選出した2名の女性(要介護2~3)を対象として、各自が制作した人形に10回続けてプーッと勢いよく息を吹き込むという内容のリハビリテーションを1日1セット30日間にわたって実施したところ、2名ともに、30日間連続して1日も欠かすことなくリハビリテーションを行わせることに成功した。
【符号の説明】
【0040】
10…芯体、12…モジュール、13…開口部、14…マイコン、15…呼気センサ、16…通信インターフェース、17…LEDアレイ、18…小型スピーカー、19…管体、20…芯体、30…手作り人形、40…ネットワーク、50…PC、60…サーバ
図1
図2
図3
図4
図5