(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】食品及びその製造方法並びに剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/17 20160101AFI20221019BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20221019BHJP
A21D 13/06 20170101ALI20221019BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20221019BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20221019BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20221019BHJP
【FI】
A23L33/17
A23L5/00 M
A21D13/06
A23L7/109 C
A23L7/10 A
A23L13/00 A
(21)【出願番号】P 2019220350
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591137628
【氏名又は名称】中野BC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】門脇 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柏木 千陽
(72)【発明者】
【氏名】我藤 伸樹
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-063332(JP,A)
【文献】特開平09-084568(JP,A)
【文献】特開2003-079335(JP,A)
【文献】特開2016-086705(JP,A)
【文献】特開平06-261710(JP,A)
【文献】特開2004-141022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0051626(US,A1)
【文献】特開昭60-248150(JP,A)
【文献】特開2001-046037(JP,A)
【文献】はるにゃ,紅茶でフレンチトースト風♪,クックパッド,クックパッド株式会社,2019年04月17日,URL: https://cookpad.com/recipe/5595047
【文献】坂本彬, 井上博之, 中川致之,12種類の紅茶の化学成分,日本食品科学工学会誌,2012年07月,第59巻, 第7号,p326-330
【文献】きゃんちむ,簡単赤飯,クックパッド,2019年03月02日,URL: https://cookpad.com/recipe/5534583
【文献】シェルト,炊飯器で! 簡単お赤飯!(3合分),クックパッド,2017年08月09日,URL: https://cookpad.com/recipe/4658918
【文献】plumoon,炊飯器で時短+簡単お赤飯,クックパッド,2018年01月28日,URL: https://cookpad.com/recipe/4907727
【文献】小豆の煮汁は栄養抜群だから捨てずに活用! あんこも作れて一石二鳥,主婦わざ 主婦業を楽しむ秘密の知恵袋,2018年07月23日,URL: https://syufuwaza.com/known-66-4816
【文献】堀米隆雄、大熊哲夫、牟田誠,蛋白質の消化に対するニセアカシア葉縮合性タンニンの影響,日本畜産學會報,日本畜産學會,1984年05月25日,第55巻、第5号,299-306
【文献】Carmen Alzueta et al.,Effect of Tannins from Faba Beans on Protein Utilisation in Rats,Journal of the Science of Food Agriculture,WILEY,1992年,Vol. 59, Issue 4,551-553
【文献】P. Yuste et al.,The effect of proanthocyanidin-rich hulls and proanthocyanidin extracts from bean (Vicia faba L.) hulls on nutrient digestibility and digestive enzyme activities in young chicks,The British Journal of Nutrition,Cambridge University Press,1992年,Vol 67, Issue 1,57-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/17
A23L 5/00
A21D 2/36
A21D 2/14
A21D 13/06
A23L 7/109
A23L 7/10
A23L 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニン濃度が1mg/mL以上のタンニン含有液への浸漬処理がされているタンパク質含有食品であって、
タンパク質の消化率が、タンニン含有液への浸漬処理がされていないタンパク質含有食品に対して70%以下であること
、
タ
ンパク質の摂取制限を要する腎臓病患者用であること
、及び
タンパク質含有食品が、バゲットを含むパン、茹でたうどん、炊飯米又は白米及びトリササミからなる群より選ばれる少なくとも1種であること
を特徴とするタンパク質含有食品。
【請求項2】
タンパク質の消化率が、タンニン含有液への浸漬処理がされていないタンパク質含有食品に対して50%以下である、請求項1に記載の食品。
【請求項3】
タンニンに対するタンパク質の割合が、0.08~1.0の質量比である、請求項1又は2に記載の食品。
【請求項4】
タンパク質含有食品をタンニン濃度が1mg/mL以上のタンニン含有液へ浸漬する工程を含むこと
、及び
タンパク質含有食品が、バゲットを含むパン、茹でたうどん、炊飯米又は白米及びトリササミからなる群より選ばれる少なくとも1種であること
を特徴とし、
タンパク質の消化率が、タンニン含有液への浸漬処理がされていないタンパク質含有食品に対して70%以下であり、かつ、
タンパク質の摂取制限を要する腎臓病患者用であるタンパク質含有食品の製造方法。
【請求項5】
タンパク質含有食品をタンニン濃度が1mg/mL以上のタンニン含有液へ浸漬する工程を含むこと、
タンパク質含有食品が、バゲットを含むパン、茹でたうどん、炊飯米又は白米及びトリササミからなる群より選ばれる少なくとも1種であること、
及び
タンパク質含有食品をタンニン含有液へ浸漬する工程の前及び/又は後に、タンパク質含有食品を乾燥する工程を含むことを特徴とする、タンパク質の摂取制限を要する腎臓病患者用のタンパク質含有食品の製造方法。
【請求項6】
タンニン含有液へ浸漬する工程を10分以上行うことを特徴とする、請求項
4又は
5に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質含有食品をタンニン含有液へ浸漬する工程の前に、タンパク質含有食品を乾燥する工程を含むことを特徴とする、請求項
4~
6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品及びその製造方法並びに肥満防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓病患者の食事療法として、タンパク質の含有量を低減させた食品を摂取し、腎臓への負担を減らす低タンパク食療法が行われている。タンパク質はほとんどの食品素材中に含まれることから、摂取制限を達成しようとすると献立や食事量にかなりの注意を要する。タンパク質摂取量を厳密に守るためには、食材一つ一つ計量しながら分量を決めなければならないなど、患者並びにその家族に多大な負担を課す。また、家族と同じものを食べられないという精神的な負担も大きい。食事を楽しめないことは、Quality Of Lifeを大きく損なうこととなる。
【0003】
低タンパク食療法に用いられる食品として、原料の小麦粉の一部又は全部を澱粉に置換することによりタンパク質の含有量を低減させた低蛋白パン(特開2015-033370号公報、特開2014-060945号公報及び国際公開第2013/058309号参照)や、米中のタンパク質を蛋白質分解酵素等を用いて分解処理した低蛋白質米(国際公開第2017/037799号、国際公開第2014/024642号及び特開2010-252714号公報参照)等が検討されている。
【0004】
消費者庁が許可する特別用途食品の低タンパク質食品の基準としては、タンパク質含有量が通常の同種の食品の30%以下であることとされている。また、腎臓専門医、栄養指導に当たる管理栄養士からは、元のタンパク質含有量の50%以下に低減された食品であれば食事療法として活用できるとのヒアリング結果が得られている。
【0005】
しかし、これら従来の低タンパク質食品は、タンパク質の含有量を低減させたものであり、本来の食品と比較して良好な風味が損なわれているという不都合がある。主食であるご飯やパンにおいても、その課題はある。風味良い低タンパク質食品を提供することは、患者の切実な想いに応えることであり、社会的意義が大変大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-033370号公報
【文献】特開2014-060945号公報
【文献】国際公開第2013/058309号
【文献】国際公開第2017/037799号
【文献】国際公開第2014/024642号
【文献】特開2010-252714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、良好な風味を維持しつつ、タンパク質の消化が抑制された食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、食品等が含有するタンパク質を、タンニンで処理することによって、食品等が有する良好な風味を維持しつつ、タンパク質の消化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、タンパク質のタンニン処理物を含有する食品である。
【0010】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、タンパク質含有材料をタンニン処理する工程を含む食品の製造方法である。
【0011】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、タンパク質のタンニン処理物を含有する肥満防止剤である。
【0012】
さらに詳しくは、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]タンパク質のタンニン処理物を含有する食品。
[2]タンニン処理物が、タンパク質含有材料のタンニン含有液への浸漬処理物である[1]に記載の食品。
[3]タンパク質の消化が抑制されている[1]又は[2]に記載の食品。
[4]タンニンの渋味が低減されている[1]~[3]のいずれかに記載の食品。
[5]タンニン処理物がタンニンとタンパク質とを含み、タンニンとタンパク質との割合が、タンニン/タンパク質(質量比)=0.08~0.6である[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[6]パン、うどん、米及び肉からなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]~[5]のいずれかに記載の食品。
[7]腎臓病患者用である[1]~[6]のいずれかに記載の食品。
[8]タンパク質含有材料をタンニン処理する工程を含む食品の製造方法。
[9]タンニン処理をタンニン含有液で行う[8]に記載の方法。
[10]タンニン処理工程前に、タンパク質含有材料を乾燥する工程をさらに含む[8]又は[9]に記載の方法。
[11]タンパク質のタンニン処理物を含有する肥満防止剤。
[12]食品である[11]に記載の剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の食品によれば、風味を維持しつつ、タンパク質の消化を抑制することができる。本発明の食品の製造方法によれば、このような優れた特性を有する食品を、簡便かつ確実に製造することができる。本発明の肥満防止剤によれば、タンパク質の消化を抑制することにより、体重の増加を抑制することができる。従って、これらは、腎臓病患者用、肥満治療用、ダイエット用の食品等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】パンにおける用いた処理液の種類と消化率との関係を示すグラフである。
【
図2】パンにおけるタンニン酸の濃度と消化率との関係を示すグラフである。
【
図3】パンにおける浸漬時間と消化率との関係を示すグラフである。
【
図4】タンニン処理後のパンの内相の断面の写真である。
【
図5】パンにおける各種カキタンニンによる消化率の低減を示すグラフである。
【
図6】パンにおけるプロアントシアニジンを用いるタンニン処理による消化率の低減を示すグラフである。
【
図7】うどんにおけるタンニン処理による消化率の低減を示すグラフである。
【
図8】炊飯米の凍結乾燥品におけるタンニン処理による消化率の低減を示すグラフである。
【
図9】タンニン酸を入れた炊飯におけるタンニン酸の濃度と消化率との関係を示すグラフである。
【
図10】トリササミにおけるタンニン処理による消化率の低減を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<食品>
本発明の食品は、タンパク質のタンニン処理物を含有する。すなわち、当該食品中のタンパク質は、タンニンで処理されている。当該食品は、タンパク質のタンニン処理物以外に、任意成分を含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0016】
[タンニン処理物]
「タンパク質のタンニン処理物」とは、タンパク質をタンニン処理して得られる物をいう。このタンパク質は、通常、タンパク質含有材料中に含まれる。「タンパク質のタンニン処理」とは、タンパク質にタンニンを接触させる処理をいい、通常、タンパク質含有材料等と、タンニンを含む液体とを接触させることにより行われる。
【0017】
(タンニン)
「タンニン」とは、多数の植物、特にカシワ、オーク、松、アカシア、ミモザ、ナラなど(ブナ科)の樹皮、ハゼ、ルルデ、ウルシなど(ウルシ科)の葉、カリロク(熱帯アジア産、シフンシ科)の果実、タマリンドの種皮、栗皮など、これら広く植物界に分布する多数のフェノール性ヒドロキシ基を有する複雑な芳香族化合物の総称である。タンニンの分子量は500程度から30000程度である。タンニンは、金属塩やタンパク質と反応し、沈殿を生じる。また、タンニンは、非常に強い渋味を呈する。
【0018】
タンニンは、加水分解性タンニンと縮合型タンニンとに大別される。加水分解性タンニンは、酸、アルカリ又は酵素により、多価フェノール酸と多価アルコールとに加水分解されるものである。加水分解性タンニンとしては、ガロタンニン、エラジタンニン等が挙げられる。ガロタンニンは、加水分解により没食子酸を生じるものであり、例えば、タンニン酸等が挙げられる。タンニン酸は、下記式(1)で表される化合物であり、糖と没食子酸とから構成される。原料として、主に中国、韓国、北朝鮮産の五倍子が使われ、抽出・精製によって得られる。エラジタンニンは、加水分解によりエラグ酸及び糖類を生じるものであり、例えば、ストリクチニン、エラグ酸、ゲラニイン、ケブリン酸、エラエオカルプシン、ケブラグ酸、コリラギン、エンブリカニン、プニグルコニン、ペデュンキュラギン、コルヌシインA、アグリモニイン、テリマグランジン、カスアリクチン、ルゴシンC、カスアリニン等が挙げられる。縮合型タンニンとしては、カキタンニン、プロアントシアニジン等が挙げられる。カキタンニンは、柿に存在するポリフェノールであり、下記式(2)で表されるようにカテキン類が分子間炭素-炭素結合で結ばれた多量縮合体である。構成するカテキン類として、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートが知られている。プロアントシアニジンは、カテキン類がC-4位とC-8位との間で炭素-炭素結合した構造を有する二量体以上の縮合体をいう。プロアントシアニジンとしては、例えば、ブドウ種子ポリフェノール、リンゴポリフェノール等が挙げられる。
【0019】
【0020】
【0021】
上記式(2)中、R1は、水素原子又はフェノール性ヒドロキシ基を表す。R2は、水素原子又はガロイル基を表す。nは、繰り返し数を表し、0~110の整数である。
【0022】
タンニンとしては、タンニン酸、カキタンニン又はプロアントシアニジンが好ましい。なお、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン等の非ガレート体;エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のガレート体などの非重合体カテキン類及び没食子酸は、タンニンには含まれない。
【0023】
タンニンの分子量の下限としては、300が好ましく、500がより好ましく、1000がさらに好ましい。タンニンの分子量の上限としては、100000が好ましく、50000がより好ましい。
【0024】
タンニンとして、例えば、カキタンニンは、柿果実等をエタノール溶液等で抽出することにより得ることができる。また、タンニンの精製は、例えば、合成吸着剤による処理、透析膜を用いた透析等により行うことができる。透析膜を用いた透析を行うことにより、一定の分子量以下の低分子量部分を除くことができる。
【0025】
タンパク質のタンニン処理物を得る方法としては、例えば、タンパク質含有材料とタンニン含有液とを接触させる方法等が挙げられる。タンパク質含有材料とタンニン含有液とを接触させる方法としては、例えば、タンパク質含有材料をタンニン含有液に浸漬する方法、タンパク質含有材料にタンニン含有液を塗布する方法、タンパク質含有材料にタンニン含有液を噴霧する方法等が挙げられる。これらの中で、タンニン処理の効率の観点から、タンパク質含有材料をタンニン含有液に浸漬する方法が好ましい。タンパク質含有材料とタンニン粉末とを混合する方法では、タンパク質のタンニン処理物を得ることはできない。
【0026】
タンニン処理物としては、タンパク質含有材料のタンニン含有液への浸漬処理物が好ましい。
【0027】
当該食品は、タンパク質のタンニン処理物を含有することで、良好な風味を維持しつつ、タンパク質の消化が抑制されている。また、タンニンの渋味が低減されている。
【0028】
当該食品が上記構成を備えることで、上記効果を奏する理由については、必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。すなわち、タンパク質は、タンニン処理することで、例えば、タンパク質にタンニンが吸着することによって、又はタンパク質の分子鎖をタンニンの分子鎖が被覆することによって、消化酵素により消化できないものに変化する。その結果、当該食品におけるタンパク質の消化が抑制される。また、タンニンは、タンパク質に吸着、被覆等すると、渋味が抑制されると考えられる。その結果、当該食品は、良好な風味を維持することができる。
【0029】
タンニン処理物は、通常、タンニンとタンパク質とを含む。
【0030】
タンニン処理物におけるタンニンとタンパク質との割合としては、タンニン/タンパク質(質量比)の下限としては、0.08が好ましく、0.15がより好ましく、0.25がさらに好ましく、0.35が特に好ましく、0.45がさらに特に好ましい。タンニン/タンパク質(質量比)の上限としては、1.0が好ましく、0.8がより好ましく、0.75がさらに好ましく、0.7が特に好ましく、0.65がさらに特に好ましく、0.6が最も好ましい。タンニンとタンパク質との割合を上記範囲とすることで、良好な風味をより維持しつつ、タンパク質の消化をより抑制することができる。タンニン/タンパク質(質量比)が上記下限未満であると、消化抑制が不十分となる場合がある。タンニン/タンパク質(質量比)が上記上限を超えると、強い渋味によって風味が損なわれる場合がある。
【0031】
当該食品におけるタンパク質の消化率の上限としては、70%が好ましく、60%がより好ましく、50%がさらに好ましく、30%が特に好ましい。当該食品におけるタンパク質の消化率の下限としては、例えば0%であり、0.1%が好ましい。
【0032】
タンパク質の消化率は、例えば、食品において、タンパク質を消化酵素で分解し、生じた遊離アミノ酸量を定量することにより求めることができる。
【0033】
当該食品は、タンパク質のタンニン処理物以外に、任意成分として、例えば、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、水分等をさらに含有していてもよい。
【0034】
食品としては、例えば、パン、ケーキ、クッキー、うどん、そば、ラーメン、パスタ、米(炊飯米)、肉(牛肉、豚肉、鶏肉、ハム、ソーセージ等を含む)、魚肉(イカ、エビ等を含む)、卵(卵製品を含む)、大豆(大豆製品を含む)、乳製品などが挙げられる。これらの中で、パン、うどん、米及び肉からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0035】
当該食品は、タンパク質の消化が抑制されているので、タンパク質の摂取を制限されている腎臓病患者用として好適である。また、当該食品は、タンパク質の消化が抑制されているので、この食品を食した人間、動物等の体重の増加を抑制することができ、肥満治療用、ダイエット用の食品等として好適に用いることができる。
【0036】
<食品の製造方法>
本発明の食品は、例えば、タンパク質を含有する材料をタンニン処理することにより製造することができる。
【0037】
本発明の食品の製造方法は、タンパク質含有材料をタンニン処理する工程(以下、「タンニン処理工程」ともいう)を含む。
【0038】
タンパク質含有材料としては、例えば、タンパク質を含有する食品等が挙げられる。タンパク質を含有する食品としては、例えば、パン、ケーキ、クッキー、うどん、そば、ラーメン、パスタ、米、肉、魚肉、卵、大豆、乳製品等が挙げられる。
【0039】
良好な食感を有する食品を製造する観点からは、タンパク質含有材料として、焼成して製造したパン、茹でたうどん、炊いていない米又は炊飯米を用いることが好ましい。
【0040】
当該製造方法は、タンニン処理工程前に、タンパク質含有材料を乾燥する工程(以下、「前乾燥工程」ともいう)をさらに含むことができる。
【0041】
当該製造方法は、例えば、タンニン処理工程後に、タンニン処理工程後のタンパク質含有材料を乾燥する工程(以下、「後乾燥工程」ともいう)、タンニン処理工程後に、タンニン処理工程後のタンパク質含有材料を放置する工程(以下、「放置工程」ともいう)等を含むことができる。
以下、各工程について説明する。
【0042】
[前乾燥工程]
本工程では、タンニン処理工程前に、タンパク質含有材料を乾燥する。タンパク質含有材料を前乾燥することにより、タンニン処理をより効果的に行うことができ、タンパク質の消化がより抑制される。
【0043】
タンパク質含有材料を乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を広く採用でき、例えば、自然乾燥法、送風乾燥法、温風乾燥法、加熱乾燥法、遠赤外線乾燥法、減圧・真空乾燥法、フリーズドライ法(凍結乾燥法)等が挙げられる。これらの中で、フリーズドライ法が好ましい。
【0044】
前乾燥することが好ましいタンパク質含有材料としては、例えば、炊飯米、肉等が挙げられ、フリーズドライした炊飯米又はフリーズドライしたトリササミが好ましい。
【0045】
[タンニン処理工程]
本工程では、タンパク質含有材料をタンニン処理する。これにより、タンパク質のタンニン処理物を含有する食品等が得られる。
【0046】
タンニン処理の方法としては、例えばタンニン含有液を用いる方法等が挙げられる。
【0047】
タンニン含有液を用いる方法としては、タンパク質含有材料にタンニン含有液を塗布する方法、タンパク質含有材料にタンニン含有液を噴霧する方法、タンパク質含有材料をタンニン含有液に浸漬する方法等が挙げられる。これらの中で、タンニン処理の効率の観点から、タンパク質含有材料をタンニン含有液に浸漬する方法が好ましい。
【0048】
タンニン含有液に浸漬する方法としては、例えば、タンニン含有液を入れた容器に、タンパク質含有材料を投入する方法等が挙げられる。
【0049】
タンニン含有液におけるタンニンの濃度の下限としては、0.1mg/mLが好ましく、1mg/mLがより好ましく、2mg/mLがさらに好ましく、5mg/mLが特に好ましい。タンニン含有液におけるタンニンの濃度の上限としては、200mg/mLが好ましく、100mg/mLがより好ましく、50mg/mLがさらに好ましく、20mg/mLが特に好ましい。タンニン含有液における溶媒としては、例えば、水、アルコール等が挙げられる。これらの中で、水が好ましい。
【0050】
タンニン含有液への浸漬は、通常、常温で行われる。
【0051】
浸漬時間の下限としては、1分が好ましく、5分がより好ましく、10分がさらに好ましく、20分が特に好ましく、1時間がさらに特に好ましく、2時間が最も好ましい。浸漬時間の上限としては、例えば1日であり、12時間が好ましい。
【0052】
浸漬後は、タンパク質含有材料の表面のタンニンを除去するため、水等を用いて洗浄処理することが好ましい場合がある。
【0053】
[後乾燥工程]
本工程では、タンニン処理工程後のタンパク質含有材料を乾燥する。これにより、調製される食品の食感等をより適度に調整することができる。
【0054】
タンニン処理工程後のタンパク質含有材料を乾燥する方法としては、例えば、温風乾燥機等を用いて加熱乾燥する方法、真空乾燥機等を用いて真空乾燥する方法などが挙げられる。
【0055】
乾燥する際の温度の下限としては、30℃が好ましく、45℃がより好ましい。乾燥する際の温度の上限としては、100℃が好ましく、70℃がより好ましい。乾燥時間の下限としては、1分が好ましく、1時間がより好ましく、2時間がさらに好ましい。乾燥時間の上限としては、例えば1日であり、12時間が好ましい。
【0056】
後乾燥工程後の食品の水分量の上限としては、75質量%が好ましく、65質量%がより好ましい。後乾燥工程後の食品の水分量の下限としては、30質量%が好ましく、35質量%がより好ましい。
【0057】
[放置工程]
本工程では、タンニン処理工程後のタンパク質含有材料を放置する。タンニン処理したタンパク質含有材料を放置しておくと、渋味がより低減する場合がある。
【0058】
放置工程は、通常、容器中もしくは大気中にタンニン処理工程後のタンパク質含有材料を置いておくことにより行う。
【0059】
放置する温度の下限としては、0℃が好ましく、3℃がより好ましい。放置する温度の上限としては、35℃が好ましく、25℃がより好ましい。
【0060】
放置時間の下限としては、1分が好ましく、1時間がより好ましく、12時間がさらに好ましく、1日が特に好ましい。放置時間の上限としては、例えば1週間であり、2日が好ましい。
【0061】
<肥満防止剤>
本発明の肥満防止剤は、タンパク質のタンニン処理物を含有する。
【0062】
当該肥満防止剤は、タンパク質の消化が抑制されているので、この肥満防止剤を摂取した人間、動物等が肥満になるのを防止することができる。
【0063】
当該肥満防止剤は、タンパク質のタンニン処理物以外に、任意成分として、例えば、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、水分等をさらに含有していてもよい。
【0064】
当該肥満防止剤は、食品であってもよい。
【0065】
当該肥満防止剤は、上述の当該食品の製造方法と同様の方法により製造することができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
<カキタンニンの調製>
[調製例1]
7月下旬(開花後80日以内)に収穫した平種無柿を用いた。へたを除いた柿果実1kgをスライス状に裁断して、遠赤外線乾燥機(ヴィアノーベ社製)により、60℃で20時間乾燥させ、柿果実乾燥物約0.15kgを得た。この柿果実乾燥物を、ミルミキサー(大阪ケミカル社製)により粉末状に粉砕し、柿乾燥粉末を得た。
柿乾燥粉末10gを、70体積%エタノール溶液300mLで、80℃で30分間抽出し、遠心分離を行い、抽出液と残渣とを得た。次に、残渣に1体積%濃塩酸(35質量%)-70体積%エタノール溶液300mLを加えて、80℃で60分間抽出した。得られた抽出液をエバポレーターにかけて濃縮した。濃縮時のバス温度を80℃とし、随時、水を加え、乾固させずに濃縮した。最終的にエタノールを除去したカキタンニン(KT(Kaki-tannin))水溶液150mLを得た。なお、含有されるカキタンニンは、4300をピークとした570~34300の分子量分布を有する。
得られたKT水溶液のpHは約1.0であった。このKT水溶液100mLに1N水酸化ナトリウム水溶液約21mLを加え、pH7.0にした中和液(KT-中和液)を調製した。なお、このKT水溶液には没食子酸換算で11mg/mL、KT-中和液には10mg/mLのカキタンニンが含まれる。
【0068】
さらに、KT水溶液からカキタンニンを精製したものを調製した。オープンカラム(内径25mm、長さ300mm)に合成吸着剤(三菱ケミカル社の「DIAION-HP20」)を約80mL充填し、そこに適量のKT水溶液を負荷した。水300mLで洗浄した後、50体積%エタノール溶液300mLでカキタンニンを溶出した。この作業を繰り返したのち、溶出した液をエバポレーター(バス温度80℃)で濃縮するとともにエタノールを除去し、KT精製(KT-P)水溶液70mLを得た。この液には13.8mg/mLのカキタンニンが含まれる。
【0069】
また、上記得られた1質量%濃塩酸(35質量%)-70体積%エタノール溶液で抽出した液を透析膜(RC透析チューブ スペクトラ/ポア3、分画分子量3500)に掛けたものを調製した。透析膜に抽出液200mLを封入して、水に対して透析を行った。水は適宜入れ替え、合計48時間、透析を行った。透析チューブの中の液380mLを取り出し、エバポレーター(バス温度80℃)にて濃縮し、KT-透析液を100mL得た。この液には9.5mg/mLのカキタンニンが含まれる。
【0070】
<パンの調製>
[実施例1]
食パン(水分約43質量%)の白い部分である内相を2~3cm角(厚み2cm)に切り、試料とした。
またタンニン酸(Tannic acid、以後「TA」と表記する)(富士化学工業社製、分子量:1701)の水溶液(6mg/mL)を調製した。パン20gをTA水溶液100mLに2時間、浸漬させた。その後、ざるを用いて水切りし、パンを乾燥機に入れた。乾燥には温風乾燥機(丸隆社製)を用い、条件は60℃、4時間とした。なお、乾燥中は1時間に1回、パンを反転させた。最終の水分率は約43質量%であった。
【0071】
また、パン20gをKT-透析水溶液100mLに2時間、浸漬させた。その後、ざるを用いて水切りし、パンを温風乾燥機に入れた。乾燥条件は60℃、4時間とした。
その他、6mg/mLの没食子酸水溶液(ナカライテスク社:16533-24)、6mg/mLのカテキン水溶液(ナカライテスク社:07425-24、D-(+)-カテキン水和物)、6mg/mLのエピガロカテキンガレート水溶液(Sigma-Aldrich:E4143-50MG)、6mg/mLの緑茶抽出物(丸善製薬社製、緑茶抽出物MF)に浸漬したパンも同様に調製した。それぞれのパンの最終水分量は、49.5質量%、48.3質量%、47.0質量%、49.2質量%であった。
乾燥したパンをコーヒーミルで粉砕した後、消化実験用試料とした。
【0072】
<評価>
[消化率の測定]
消化率は、タンパク質を消化酵素で分解し、生じた遊離アミノ酸量を定量することで求めた。消化実験は、M.Minekusらの方法(Food Funct.,2014,5,1113-1124.)を一部改変して行った。
食パンの内相0.25g分に相当する各試料を採取し遠沈管に入れた。それに対しSSF(Simulated Salivary Fluid,pH7)溶液2.25mL、0.3M塩化カルシウム溶液6.25μL、及び水244μLを順に加えて、室温で2分間、静置した。次に、SGF(Simulated Gastric Fluid,pH3)溶液1.875mL、ペプシン溶液(ペプシン粉末(Sigma-Aldrich:P7000、284U/mg)をSGFに溶かして18mg/mLに調製したもの)0.4mL、0.3M塩化カルシウム溶液1.25μL、1N塩酸50μL、及び水174μLを加え、37℃で2時間振とうさせた。振とうはミニローテーター(アズワン社の「ACR-100」)、温度調節はインキュベーター(ヤマト科学社の「IC101W」)を用いた。
【0073】
その後、SIF(Simulated Intestinal Fluid,pH7)溶液3.375mL、パンクレアチン溶液(パンクレアチン粉末(Sigma-Aldrich;P1750、5U/mgトリプシン活性として)をSIFに溶かして40mg/mLに調製したもの)1.25mL、0.3M塩化カルシウム溶液10μL、1N水酸化ナトリウム37.5μL、及び水327.5μLを加え、37℃で2時間振とうさせた。
【0074】
さらに、遊離のタンニンの影響を除去するために、最初に試料をSSF溶液で洗浄したサンプルを調製した。洗浄はパンの内相0.25g相当の試料に対して、SSF8mLを添加し、振とう、遠心分離して上澄みを除去することで行った。この工程を3回繰り返した。この処理をしたサンプルに対しても消化実験を行った。
【0075】
これらの消化液サンプル中の遊離アミノ酸量は、TNBS法にて次のようにして求めた。なお、TNBS法による定量は、消化によるタンパク質の分解で生じたアミノ基に比例するため、遊離アミノ酸量の他、一部、遊離ペプチドも含まれると考えられるが、ここでは遊離アミノ酸として扱う。遊離アミノ酸は、TNBS(2,4,6-trinitrobenezenesulfonic acid)と反応し、黄色発色する。よって、吸光度により、遊離アミノ酸量を求めることができる。ここでは、420nmの吸光度からアミノ酸量を求めた。
【0076】
消化液サンプルを遠心分離機(3000rpm、3分)にかけ、上澄みを得た。上澄み650μLに10%(質量/体積)トリクロロ酢酸650μLを加え、室温下で10分間放置した。その後、遠心分離機にて上澄みを採取した。この時、未分解のタンパク質は沈殿として除去される。上澄み200μLを0.2Mホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.4)2mLに加え、次いで、4mMのTNBS1mLを加えて30分放置した。その後、18mM炭酸ナトリウムを含む2Mリン酸二水素ナトリウム溶液1mLを加え、420nmの吸光度を分光光度計(日立製作所社の「U-3210」)で測定した。この吸光度が遊離アミノ酸量を示す。なお、Blankは消化サンプルのかわりに精製水を用いた。
【0077】
消化率は遊離アミノ酸量から下記数式(A)を用いて求めた。すなわち、消化で生じたタンニン処理したパン由来の遊離アミノ酸量を、消化で生じたタンニンで処理していないパン由来の遊離アミノ酸量で除して、消化率(%)とした。
【0078】
【0079】
n1:タンニン処理した食品(パン)を消化・除タンパクした後の系の遊離アミノ酸量
n2:消化酵素由来の遊離アミノ酸量
b:未消化時のタンニン処理した食品(パン)由来の遊離アミノ酸量(タンニン処理に用いたタンニン(タンニン抽出物)由来の遊離アミノ酸量を含む)
N:タンニン処理していない食品(パン)を消化・除タンパクした後の系の遊離アミノ酸量
B:未消化時のタンニン処理していない食品(パン)由来の遊離アミノ酸量
【0080】
結果は、
図1に示すとおりであり、TA、KT-透析液に浸漬・乾燥したものは、control(タンニン処理なし)のパンの14%、15%に消化率が抑えられていた。このことからパン中のタンパク質が難消化となったことが示された。
また、消化抑制は、洗浄処理したサンプルでも確認され、それぞれcontrolの10%以下の消化率であった。このことから、遊離のタンニンが消化抑制に寄与しているのではなく、タンパク質と相互作用しているタンニンが消化を抑制したことが示唆される。
【0081】
タンパク質の消化抑制は、消化吸収されるタンパク質量の低減につながる。従って、消化抑制をタンパク質含有量の低減と読み替えれば、消化率が10%であることは、タンパク質含有量が元のタンパク質量の10%であることに等しい。すなわち、タンニン処理したパンの消化率が30%以下であることは、消費者庁が示す低タンパク質食品の基準であるタンパク質含有量が30%以下になる低減と同等と考えることができる。
【0082】
一方でタンニン酸の構成ユニットである没食子酸、カキタンニンの構成ユニットであるカテキン、エピガロカテキンガレートでは、わずかな消化抑制しか見られなかった。さらに各カテキン類を含む緑茶抽出物でも同様であった。
また、タンニン処理したパンはいずれも、渋味を呈さず、風味も良く、パンの風味を維持していた。TAパンはわずかに茶色を、KT-透析パンは赤色を呈していた。
【0083】
(消化率におけるタンニン酸濃度依存性)
TA水溶液の濃度を1.5、3、6、9、11、15mg/mLとしたものを調製した。それらについて消化率を求めた。またTA水溶液の代わりに水で浸漬したものについても消化実験を行った。
さらに遊離のTAの影響を除去するために、試料をSSF溶液で洗浄したサンプルを調製した。洗浄はパンの内相0.25g相当の試料に対して、SSF8mLを添加し、振とうし、遠心分離して上澄みを除去することで行った。この操作を3回繰り返した。
【0084】
結果を
図2に示す。
図2中のTAの後の数字は、浸漬したTA水溶液の濃度(mg/mL)を意味する。TAの濃度が上がるにつれて、消化の抑制率も上がった。また、この傾向は洗浄したサンプルでも見られた。これについては遊離のタンニン酸による消化酵素阻害ではなく、タンパク質の難消化性化によって、消化率が抑制されたものと考えられる。
なお、TA水溶液1.5~11mg/mLで処理したものは渋味をほとんど呈していなかったが、15mg/mLで調製したパンは、渋味を呈していた。
【0085】
[浸漬時間の検討]
食パン(水分約43質量%)の白い部分である内相を2~3cm程度に切り、試料とした。パン20gをTA水溶液(6mg/mL)に10、30、120分浸漬させた。その後、ざるを用いて水切りし、パンを乾燥機に入れた。乾燥には温風乾燥機(丸隆社製)を用い、条件は60℃、4時間とした。最終の水分率は約45質量%であった。
乾燥したパンをコーヒーミルで粉砕した後、消化実験用試料とした。
結果を
図3に示す。各浸漬時間の消化率は、10分浸漬:45%、30分浸漬:35%、120分浸漬:14%であった。パンの場合、消化率50%以下とするには浸漬時間が10分以上であれば良いことが示された。
【0086】
[製パン性の評価]
表1の配合で作ったcontrolパン100gを、10mg/mLのTA水溶液500mLに浸漬、乾燥して調製したパンをTA浸漬パンとした。
さらに、パン作製時に小麦粉などの原料にTA粉末を加えたもの(TAミックス)や、TA処理した小麦粉を用いてパンを作成したもの(TA処理小麦粉)とのパン特性の違いを評価した。
TA処理した小麦粉は、強力粉360gに対し、10.8mg/mLのTA水溶液を2000mL加えて、2時間撹拌し、遠心分離したものを遠赤外線乾燥機(60℃、12時間)で乾燥させて、調製した。
パンの焼成は、ホームベーカリー(Panasonic社の「SD-BMT2000」)を用いて行った。
【0087】
【0088】
パン特性の評価として、パン内相を4cmの立方体に切り、その質量を測った。また、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社の「TA.XT.Plus」)での圧縮試験から、最大荷重(g)と、荷重と時間の曲線下の面積(g・sec)とを求めた。測定は、直径2cmの円柱形のプランジャー(P/20)を用い、120mm/minで5mm押し込み行った(トリガー荷重は0.049N)。
またパン内相の断面を写真に取り(
図4)、画像処理によってパンの断面積における気泡面積の割合を空隙率として求めた。なお、画像処理はphotoshop(Adobe社製)を用いて、気泡の色情報をひろい、その面積を求めた。
図4におけるスケールバーの長さは1cmである。
【0089】
結果を表2に示す。各パンに含まれるTAとタンパク質(P)の量比はほとんど差がない。練り込み時にTAを添加したもの(TAミックス)や、TA処理した小麦粉で作ったパンは、膨らまず、団子状のものとなった。その性状を調べると、controlやタンニン酸を浸漬・乾燥させたパンよりも重く、パンとしての柔らかさがないことが分かった。また、テクスチャーアナライザーの測定から、タンニン酸を浸漬・乾燥させたパンは最大荷重も小さく、また荷重と時間の積もより小さかった。このことは、タンニン酸を浸漬・乾燥させたパンは柔らかく、良い食感を持つことを示している。また、空隙率からもタンニン酸を浸漬・乾燥させたパンは気泡が多く、柔らかいことが明らかとなった。
【0090】
実際に食し官能したところ、controlやTA浸漬したパンは、柔らかく風味も良いものであった。一方で、TAミックスやTA処理小麦粉で作ったパンは、固く小麦の塊のようであり、味も塩辛く感じ、パンとは呼べないものであった。このことから、製パン時に単にTAを混ぜ合わせたり、あらかじめTA処理した小麦を用いて作製しても、パンにならず、実用性はない。
【0091】
【0092】
[パンの官能評価]
バゲット(タンパク質9.1g/100g)を3cm厚の輪切りにしたもの58g分に対して、8mg/mLのTA水溶液300mLに浸漬した。1時間後に水切りを行い、50℃の温風乾燥機にて、4時間乾燥した。これにより、元のバゲットに対し、消化率を3%に抑えたバゲットが調製できた。これを官能サンプルとした。官能評価は、7名のパネラーが、下記に示す内容に従って風味と渋味強度を3段階評価して行った。
【0093】
A.パンの風味を感じるか
3 パンの風味を十分に感じる
2 やや不十分だが、パンの風味を感じる
1 パンの風味を感じない
【0094】
B.パンの渋味を感じるか
3 渋味をあまり感じない
2 渋味を感じるが、許容できる
1 渋味を強く感じる
【0095】
結果、各評価の平均点として風味は2.9点、渋味は2.7点であり、このTA処理したパンは、パンの風味を残し、かつ渋味の許容されるものであることが分かった。
【0096】
[パンの官能評価・統計処理]
バゲット(タンパク質9.1g/100g)を3cm厚の輪切りにしたもの58g分に対して、8mg/mLのTA水溶液300mLに浸漬した。1時間後に水切りを行い、50℃の温風乾燥機にて、4時間乾燥した。これにより元のバゲットに対し、消化率を3%に抑えたバゲットが調製できた。
未処理のバゲット(対照)、TA処理したバゲットの2種類を官能サンプルとした。
【0097】
官能評価は、中野BC社の社員(20~50代の男女)で、官能訓練を受けた13名で行った。評価は採点法によって行い、採点尺度は5点法(-2~+2)とした。評価項目は、風味(-2:悪い~+2:良い)と渋味(-2:弱い~+2:強い)とした。
統計処理は、EXCELのアドインソフトStatcel4(オーエムエス出版社製)を用いて、ウィルコクソン符号付順位和検定により有意差検定(危険率5%)を行った。
結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
風味の評価(平均値±標準偏差値)は、対照:0.5±0.9、TA処理:-0.1±0.8であった。渋味の評価は、対照:-0.2±0.9、TA処理:0.2±0.8であった。検定の結果、風味、渋味とも対照とTA処理間で有意差はつかなかった。よって、このTA処理したパンは、パンの風味を残し、かつ渋味が許容され、通常のパンと遜色ないものであることが分かった。
また、食した時の感想として、対照に比べて、TA処理パンは塩味の少ない自然な風味という意見があった。そこで、バゲットをミルで粉砕したもの5gに対し、水50mLを加えた試料を調製し、その上澄みの塩分濃度を測定した。塩分計(アタゴ社の「PAL-SIO」)で測定したところ、対照:0.15%、TA処理:0.09%であった。このことより、処理したバゲットは、塩分濃度が低いことが明らかとなった。これはTA水溶液に浸漬した時に、塩が溶解除去されたためと思われるが、腎臓病療養食として考えた時に、低塩は望ましく、その観点からも優れた食品と言える。
【0100】
<各種カキタンニンによるパンの消化抑制の検討>
食パン20gを調製したKT液、KT-中和液、KT-P液、KT-透析液の各100mLに2時間、浸漬させた。その後、ざるを用いて水切りし、パンを乾燥棚に入れた。室温下で送風乾燥を6時間行った。最終水分量は、KT、KT-中和、KT-P、KT-透析でそれぞれ、40.1質量%、41.9質量%、36.4質量%、45.0質量%であった。消化率は
図5のとおりであり、いずれも消化率20%まで抑制された。上述のように、これは低タンパク質食品(消費者庁)の低減基準に相当する消化抑制率である。
また、パンの色及び味はKTパン:赤色、またわずかに酸味、KT-中和パン:茶色、わずかに塩味、KT-Pパン:茶色、わずかに酸味、渋味ほとんどなし、KT-透析パン:赤茶色、渋味がなくほとんど味への影響がなかった。
【0101】
<プロアントシアニジンによる消化抑制の検討>
プロアントシアニジンとして、ブドウ種子ポリフェノール(サビンサ ジャパン コーポレーション社製、ブドウ種子抽出物)、リンゴポリフェノール(フロンティアフーズ社製、リンゴポリフェノール粉末、未成熟果由来)を用いた。それぞれの6mg/mL、12mg/mL水溶液を調製した。
食パン(水分約43質量%)の白い部分である内相を2~3cm程度に切り、試料とした。パン20gを各液100mLに120分浸漬させた。その後、ざるを用いて水切りし、パンを乾燥機に入れた。乾燥には温風乾燥機(丸隆社製)を用い、条件は60℃、約4時間とした。最終の水分率は、ブドウ種子:約47質量%、リンゴ:40質量%であった。乾燥したパンをコーヒーミルで粉砕した後、消化実験用試料とした。
【0102】
結果を
図6に示す。
図6中のサンプル名の後の数字は、浸漬した水溶液の濃度(mg/mL)を意味する。ブドウ種子は濃度依存的に消化を抑制した。一方、リンゴは両濃度でも60%程度の消化率となった。また、洗浄サンプルでも同様の傾向にあった。
なお、タンニン/タンパク質(g/g)は、ブドウ種子(6mg/mL):0.206g/g、ブドウ種子(12mg/mL):0.327g/g、リンゴ(6mg/mL):0.172g/g、リンゴ(12mg/mL):0.296g/gであった。
但し、この試料には、プロアントシアニジン以外のポリフェノールも含まれている。
【0103】
ブドウ種子、リンゴのプロアントシアニジンで処理したパンは両方とも、ほとんど渋味を呈していなかった。
このように、プロアントシアニジンの形態をとるタンニンもタンパク質の消化が抑制されかつ風味良い食品を提供できることが示された。
【0104】
<うどんの調製>
うどんの乾麺(中尾食品社製、タンパク質量8.8g/100g)10gを、水200mLで5分間茹でた(これをControlとした)。水切りした麺を、TA水溶液(6mg/mL)200mLに2時間浸漬し、タンニン処理うどんを調製した。最終的な水分はControl:58.8質量%、TA処理:56.6質量%であった。
このうどん3gに対してSSF9mLを加えて、ホモジナイズし、ペーストを調製した。このペースト3gを消化実験に供した。以下の消化実験は、上述と同様にして行った。
なお、消化率を求めるにあたり、水分量やタンニン付加量による差異を考慮して、うどん由来の溶質が等しくなるように補正した。
また、作製したペーストをSSFで洗浄処理したサンプルも調製した。(洗浄はSSF10mLを加えて振とう、遠心分離後、10mLの上澄みを除去して行い、この操作を3回行った)
【0105】
結果は
図7に示すとおり、TA処理によって、消化率を36%に抑えることができた。また、洗浄処理したものはTA浸漬により23%まで抑制された。
TA処理したうどんは、表面のTAを水で洗い流せば、渋味も少なく、うどんの風味が保たれていた。さらに処理したうどんを1日、冷蔵庫(4℃)に入れておいたものは、渋味がほとんどなくなっていた。また、それを80℃のお湯に2分間漬けて温めても、渋味はほとんど感じられなかった。
TA処理により、色味がやや白くなったが、気にするほどではなかった。
【0106】
<炊飯米の調製>
新潟県産こしひかり(伊丹産業社製)165gをといだ後、水210mLに30分間浸漬した。電子ジャー炊飯器(Panasonic社の「SR-CL05P」)で炊き、炊飯米を得た。
炊飯米173gを、凍結乾燥機(東京理化器械社の「FDU-2100」)を用いて凍結乾燥させ、104gのフリーズドライ(FD)米を得た。FD米32gに、タンニン水溶液37mLを加えた。ここで、タンニン水溶液の添加量は、凍結乾燥で減じた水の量とほぼ同じとした。なお、タンニン水溶液として、TA水溶液(15mg/mL)、KT-透析液を用いた。また、FD米32gに、水37mLを加えたものをControlとした。
タンニン水溶液添加後30分ほどで、炊飯米は凍結乾燥する前と同じ食感となった。これをタンニン処理炊飯米とした。
【0107】
なお、KT-透析液で処理したものは赤色を呈した。しかし、渋味は呈さず、風味が良かった。また、タンニン水溶液添加直後に渋味を呈していたものも、一晩、室温又は4℃で冷蔵すると渋味が軽減した。
それぞれの最終的な水分量は、Control:59質量%、TA:55質量%、KT-透析:53質量%であった。
各炊飯米3gに対してSSF9mLを加えて、ホモジナイザー(IKA社の「T10basic」)を用いてホモジナイズし、ペーストを調製した。そのペースト2.5gを消化実験に供した。以下の消化実験は、上述と同様にして行った。なお、消化率を求めるにあたり、水分量やタンニン付加量による差異を考慮して、米由来の溶質が等しくなるように補正した。
また、作製したペーストをSSFで洗浄処理したサンプルも調製した。(洗浄はSSF10mLを加えて振とう、遠心分離後、10mLの上澄みを除去して行い、この操作を3回行った)
【0108】
結果を
図8に示す。各タンニン水溶液とも消化率を30%以下に抑制することができた。また、それは洗浄処理したものでも同じ傾向にあった。こちらも上述のように消費者庁の低タンパク質食品に相当するタンパク質消化抑制率を達成している。
【0109】
[炊飯米の官能評価]
炊飯米をフリーズドライした米40gに対して、15mg/mLのTA水溶液49mLを添加し、官能サンプルとした。官能評価は、5名のパネラーが、下記に示す内容に従って風味と渋味強度を3段階評価して行った。
【0110】
A.ご飯の風味を感じるか
3 ご飯の風味を十分に感じる
2 やや不十分だが、ご飯の風味を感じる
1 ご飯の風味を感じない
【0111】
B.ご飯の渋味を感じるか
3 渋味をあまり感じない
2 渋味を感じるが、許容できる
1 渋味を強く感じる
【0112】
結果、各評価の平均点として風味は2.8点、渋味は2.8点であり、このTA処理した炊飯米は、ご飯の風味を残しかつ渋味をほとんど有さないものであることが分かった。
さらにタンニン処理した炊飯米を電子レンジで温めても、渋くなく、呈味性が保たれていた。
【0113】
[炊飯米の官能評価・統計処理]
新潟県産コシヒカリを炊飯し、その炊飯米をフリーズドライした米40gに対して、15mg/mLのTA水溶液50mLを添加し、1日冷蔵庫で置いたものを調製し、TA処理サンプルとした。なお、官能試験には電子レンジで温めたものを用いた。
さらに、未処理の炊飯米(対照サンプル)と、この対照サンプルにTA粉末を100gあたり0.42g添加し、混合したTA添加サンプルを調製し、3種を官能サンプルとした。なお、TA添加サンプルにはTA処理サンプルの半分のTAが含まれることになる。
【0114】
官能評価は、官能訓練を受けた中野BC社の社員(20~40代の男女)で行った。評価は採点法によって行った。評価項目は、風味(-2:悪い~+2:良い、5段階尺度、14名)と渋味(0:普通~+2:強い、3段階尺度(対照サンプルを0点として)、15名)とした。
統計処理は、EXCELのアドインソフトStatcel4(オーエムエス出版社製)を用いて、風味に関しては、一元配置分散分析法の後、Tukey-Kramer法にて多重比較を行った。渋味に関しては、ウィルコクソン符号付順位和検定により有意差検定を行った。
【0115】
風味に関する結果を表4に示す(平均値±標準偏差値)。本発明のTA処理サンプルは平均点では、対照サンプルに至らないが、TA添加よりも風味良いことが分かった。また、検定の結果、対照とTA処理間には有意差がつかず、対照とTA添加間で危険率1%、TA処理とTA添加間で危険率5%の有意差がついた。対照とTA処理間には有意差がつかなかったことで、風味は遜色ないことが示された。
【0116】
【0117】
渋味に関する結果を表5に示す(平均値±標準偏差値)。本発明のTA処理サンプルはTA添加よりも渋味が低いことが分かった。また、検定の結果、TA処理とTA添加間で危険率1%の有意差がついた。このことからも、渋味の違いが明確に示された。
【0118】
【0119】
TA添加サンプルはTA処理サンプルの半分量のTAしか含まない。TA処理サンプルと等量のTAを添加、混合した場合は、さらに風味が落ち、渋味が増すことになる。よって、TAを単に混ぜ合わせるだけでは、満足のゆく食品を提供できない。
中野BC社の社員(20~40代の男女、18名)にTA処理サンプルが、毎日食するご飯として許容できるかとアンケートを取ったところ、89%の者が許容できると答えた。よって、腎臓病患者の方においても食事療法として、日常的に取り入れられるものと考える。
【0120】
<タンニン酸を入れた炊飯>
タンニン酸3g、4.5g、6gを水210mLに溶かし、各タンニン酸水溶液を調製した。新潟県産こしひかり(伊丹産業社製)165gを、水でとぎ、水切りした後、各タンニン酸水溶液(210mL)を加えて、30分間浸漬した。その後、そのまま電子ジャー炊飯器(Panasonic社の「SR-CL05P」)で炊き、炊飯米を得た(Controlは、タンニン酸の代わりに水で浸漬した)。
それぞれの炊飯米の水分量は、Control:59質量%、TA3g:56質量%、TA4.5g:56質量%、TA6g:53質量%であった。
炊飯米3gに対してSSF9mLを加えて、ホモジナイザー(IKA社の「T10basic」)を用いてホモジナイズし、ペーストを調製した。そのペースト2.5gを消化実験に供した。以下の消化実験は、上述と同様である。なお、消化率を求めるにあたり、米由来の溶質が等しくなるように補正した。また、作製したペーストをSSFで洗浄処理したサンプルも調製した。(洗浄はSSF10mLを加えて振とう、遠心分離後、10mLの上澄みを除去して行い、この操作を3回行った)
【0121】
結果を
図9に示す。
図9中のTAの後の数字は、添加したTAの量(g)を意味する。タンニン酸3gを添加したものは消化率を50%以下に、4.5gを添加したものは30%以下に、6gを添加したものは0%に抑制することができた。またそれは、洗浄処理したものでも同じ傾向にあった。
6g添加のものにおいても、渋味は低減されていた。また、色味はほのかに赤ワイン色を呈していた(胚芽跡が特に赤い)。実際に食した者において、この色が健康食として好意的に受け入れるものもいた。また他には、食感としてコシが強いという意見もあった。
これらのことからタンニン処理した炊飯米は、腎臓病患者が日常的に食事療法に取り入れられる実用性の高いものであることが示された。
【0122】
<トリササミの調製>
フリーズドライ(FD)した鶏ササミ(猫用、ママクック社製)20gに、87mg/mL、170mg/mLの各TA水溶液60mLを加えることにより、タンニン処理トリササミを調製した。Controlは、ササミ20gに60mLの水を添加したものとした。それぞれの最終水分量は、Control:65質量%、TA-87:64質量%、TA-170:53質量%であった。
各トリササミ1gに対してSSF11mLを加えて、ホモジナイザー(IKA社の「T10basic」)を用いてホモジナイズし、ペーストを調製した。そのペースト2.5gを消化実験に供した。また、このペーストをSSFで洗浄し、遊離のTAを除去した洗浄処理サンプルも調製した。その後の消化実験は、上述と同様にして行った。なお、消化率を求めるにあたり、ササミ由来の溶質が等しくなるように補正した。
【0123】
結果を
図10に示す。
図10中のTAの後の数字は、浸漬したTA水溶液の濃度(mg/mL)を意味する。トリササミにおいても、消化率を50%以下に抑制することができた。
処理したトリササミは、元のタンニン液よりも渋味が格段に軽減されていた。さらに処理したものを1日、冷蔵庫(4℃)に置いていたものは、ほとんど渋味を感じられなかった。また、それを電子レンジで温めたり、茹でたり、焼いたりしても、渋味はほとんど感じられなかった。
また、色味はやや白くなっていたが、品質に著しい影響を及ぼすほどではなかった。
【0124】
[タンニン吸着量]
浸漬後のタンニン溶液のタンニン量を求め、元の浸漬液のタンニン量との差から、パンに吸着したタンニン量を求めた。
タンニン量は、フォーリンシオカルト法で求めた。すなわち、測定サンプルを水で適宜希釈したもの30μLに、水2400μL、フォーリンシオカルト薬(Sigma-Aldrich、F9252-100ML)150μL、20%(w/v)炭酸ナトリウム450μLを加えて混合し、50℃の湯浴で5minインキュベートした。さらに、室温下で15minインキュベートして、均一化後、分光光度計(日立製作所社の「U-3900」)にて765nmの吸収を測定した。没食子酸(ナカライテスク社の「16533-24」)で検量線を作成し、タンニン量を没食子酸換算で求めた。
【0125】
結果は、食パンのタンパク質(Protein)1gあたりのタンニン(T)吸着量として、T/protein(g/g)で示す。TAにおいては濃度依存的に吸着量が増加した。
また、炊飯米やササミでは、添加したタンニン酸量を食品中のタンパク質量で除して求めた。下記表6に食パン中のタンパク質に対するタンニン酸の含有量を、表7に食パン中のタンパク質に対するカキタンニンの含有量を、表8に米中のタンパク質に対するタンニンの含有量をそれぞれ示す。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
その他の食品におけるタンニン/タンパク質(g/g)の値を以下に示す。
うどん(TA6mg/mLに浸漬):0.363g/g
ササミ(TA87mg/mLに浸漬):0.298g/g
ササミ(TA170mg/mLに浸漬):0.565g/g
タンニン酸溶液で炊飯した米(3g添加):0.302g/g
タンニン酸溶液で炊飯した米(4.5g添加):0.447g/g
タンニン酸溶液で炊飯した米(6g添加):0.595g/g
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の食品によれば、風味を維持しつつ、タンパク質の消化を抑制することができる。本発明の食品の製造方法によれば、このような優れた特性を有する食品を、簡便かつ確実に製造することができる。本発明の肥満防止剤によれば、タンパク質の消化を抑制することにより、体重の増加を抑制することができる。従って、これらは、腎臓病患者用、肥満治療用、ダイエット用の食品等として好適に用いることができる。