(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】二重殻タンクおよび液化ガス運搬船
(51)【国際特許分類】
F17C 3/08 20060101AFI20221019BHJP
B65D 90/02 20190101ALI20221019BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
F17C3/08
B65D90/02 Z
B63B25/16 F
B63B25/16 Z
(21)【出願番号】P 2018037208
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 巧
(72)【発明者】
【氏名】江口 雄三
(72)【発明者】
【氏名】和泉 徳喜
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敦司
(72)【発明者】
【氏名】今井 達也
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-004383(JP,A)
【文献】特開2014-118206(JP,A)
【文献】特開2011-007320(JP,A)
【文献】特開2015-4382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/166662(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102338279(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110056761(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
B65D 88/00-90/66
B63B 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留する内槽本体部、および前記内槽本体部から上向きに突出する内槽ドーム、を含む内槽と、
前記内槽ドームの上部に設けられた内槽マンホールと、
第1真空空間を隔てて前記内槽本体部を取り囲む外槽本体部、および第2真空空間を隔てて前記内槽ドームを取り囲む外槽ドーム、を含む外槽と、
前記外槽ドームの上部に設けられた外槽マンホールと、
前記外槽ドームを下側の固定部と上側の可動部とに分割するように前記外槽ドームに組み込まれたベローズと、
前記第2真空空間内で前記内槽ドームに固定された内側リングと、
前記第2真空空間内で前記外槽ドームの可動部に固定された、前記内側リングよりも下方に位置する外側リングと、
前記内側リングと前記外側リングとを連結し、前記第2真空空間を前記内槽マンホールと前記外槽マンホールの間の領域を含む上側真空空間と下側真空空間とに仕切る筒状の隔壁と、を備え、
前記内側リング、前記隔壁および前記外側リングは、前記外槽ドームの前記可動部を支持する吊り下げ構造を構成し、
前記隔壁の中央部の厚さは、当該隔壁の両端部の厚さよりも薄い、二重殻タンク。
【請求項2】
前記隔壁の外周面は、当該隔壁の中央部において径方向内向きに凹んでいる、請求項1に記載の二重殻タンク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二重殻タンクを備える液化ガス運搬船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重殻タンクおよびこの二重殻タンクを備える液化ガス搬船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低温の液化ガス用の二重殻タンクが知られている。例えば、特許文献1には、内槽と外槽との間に真空断熱層が形成された二重殻タンクが開示されている。
【0003】
具体的に、内槽は、液化ガスを貯留する内槽本体部と、内槽本体部から上向きに突出する内槽ドームを含み、外槽は、内槽本体部を取り囲む外槽本体部と、内槽ドームを取り囲む外槽ドームを含む。内槽ドームは内槽を貫通する配管を集約するためものであり、それらの配管は、内槽ドームおよび外槽ドームを貫通するように配置される。内槽本体部と外槽本体部との間は第1真空空間であり、内槽ドームと外槽ドームとの間は第2真空空間である。
【0004】
内槽内に液化ガスが投入されると内槽が熱収縮する。この内槽の熱収縮によって配管に大きな応力が作用することを防止するために、特許文献1の二重殻タンクでは、外槽ドームにベローズが組み込まれている。このベローズによって、外槽ドームが、配管によって貫通される上側の可動部と、下側の固定部とに分割されている。
【0005】
外槽ドームの可動部は、内槽ドームによって支持されている。特許文献1の
図12には、吊り下げ構造によって、外槽ドームの可動部を支持する構成が開示されている。具体的に、内槽ドームと外槽ドームとの間の第2真空空間内には、内側リング、筒状の隔壁および外側リングが配置されている。内側リングは内槽ドームに固定され、外側リングは内側リングよりも下方で外槽ドームの可動部に固定されている。隔壁は、内側リングと外側リングとを連結している。
【0006】
隔壁は、第2真空空間を下側真空空間と上側真空空間とに仕切る役割も果たしている。特許文献1の
図12では、内槽ドームの上部に内槽マンホールが設けられているとともに、外槽ドームの上部に外槽マンホールが設けられている。隔壁によって第2真空空間が下側真空空間と上側真空空間とに仕切られることによって、外槽マンホールが開かれたときに真空断熱層における大気圧となる容積が小さく抑えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1の
図12の構成では、内槽と外槽との間の真空断熱層によって外槽外から内槽内への熱の侵入を防止しているものの、外側リング、隔壁および内側リングを介した熱伝導による熱侵入をさらに低減したいという要望がある。このような観点からは、隔壁の厚さは薄い方が望ましい。一方で、隔壁と外側リングおよび内側リングとの接合部の強度の観点からは、隔壁の厚さは厚い方が望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、隔壁と外側リングおよび内側リングとの接合部の強度を十分に確保しつつ外側リング、隔壁および内側リングを介した熱浸入を低減することができる二重殻タンクおよびこの二重殻タンクを含む液化ガス運搬船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の二重殻タンクは、液化ガスを貯留する内槽本体部、および前記内槽本体部から上向きに突出する内槽ドーム、を含む内槽と、前記内槽ドームの上部に設けられた内槽マンホールと、第1真空空間を隔てて前記内槽本体部を取り囲む外槽本体部、および第2真空空間を隔てて前記内槽ドームを取り囲む外槽ドーム、を含む外槽と、前記外槽ドームの上部に設けられた外槽マンホールと、前記外槽ドームを下側の固定部と上側の可動部とに分割するように前記外槽ドームに組み込まれたベローズと、前記第2真空空間内で前記内槽ドームに固定された内側リングと、前記第2真空空間内で前記外槽ドームの可動部に固定された、前記内側リングよりも下方に位置する外側リングと、前記内側リングと前記外側リングとを連結し、前記第2真空空間を前記内槽マンホールと前記外槽マンホールの間の領域を含む上側真空空間と下側真空空間とに仕切る筒状の隔壁と、を備え、前記隔壁の中央部の厚さは、当該隔壁の両端部の厚さよりも薄い、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、隔壁の中央部の厚さが薄くなっているので、隔壁が一定の厚さの筒状である場合に比べて、外側リング、隔壁および内側リングを介した熱浸入を低減することができる。しかも、内槽が熱収縮するときには内槽ドームも縮径するが、このときは、隔壁の中央部の厚さが薄くなっているので、隔壁が断面略S字状となるように変形する。従って、隔壁と外側リングとの接合部および隔壁と内側リングとの接合部に大きな応力が作用することが防止される。これにより、隔壁と外側リングおよび内側リングとの接合部の強度が十分に確保される。
【0012】
前記隔壁の外周面は、当該隔壁の中央部において径方向内向きに凹んでいてもよい。この構成によれば、内槽ドームの軸方向から見たときの隔壁の中央部の断面積は、隔壁の内周面が中央部において径方向外向きに窪んでいる場合に比べ、小さくなる。従って、隔壁の内周面が中央部において径方向外向きに窪んでいる場合に比べて、外側リング、隔壁および内側リングを介した熱浸入を効果的に低減することができる。
【0013】
また、本発明の液化ガス運搬船は、上記の二重殻タンクを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、隔壁と外側リングおよび内側リングとの接合部の強度を十分に確保しつつ外側リング、隔壁および内側リングを介した熱浸入を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二重殻タンクの断面図である。
【
図4】内槽ドームが縮径したときの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る二重殻タンク2を示す。この二重殻タンク2は、例えば、液化ガス運搬船1にカーゴタンクとして搭載される。ただし、二重殻タンク2は、必ずしも液化ガス運搬船1にカーゴタンクとして搭載される必要はなく、その他の船舶に燃料タンクとして搭載されてもよい。あるいは、二重殻タンク2は、地上に設置されてもよい。
【0017】
本実施形態では、二重殻タンク2が水平方向に長い円筒状である。ただし、二重殻タンク2の形状は、球形状であってもよいし、立方体状または直方体状であってもよい。
【0018】
二重殻タンク2は、内槽3と外槽4を含み、内槽3と外槽4との間に真空断熱層が形成されている。外槽4は、二重殻タンク2の軸方向に互いに離間する位置で、船体11に設けられた一対のサドル12により支持されている。一方、内槽3と外槽4の間には、サドル12と同じ位置で内槽3を支持する一対の支持部材13が配置されている。
【0019】
具体的に、内槽3は、液化ガスを貯留する内槽本体部31と、内槽本体部31から上向きに突出する内槽ドーム32を含む。外槽4は、第1真空空間21を隔てて内槽本体部31を全体的に取り囲む外槽本体部41と、第2真空空間22を隔てて内槽ドーム32を全体的に取り囲む外槽ドーム42を含む。
【0020】
液化ガスは、例えば、液化石油ガス(LPG、約-45℃)、液化エチレンガス(LEG、約-100℃)、液化天然ガス(LNG、約-160℃)、液化水素(LH2、約-250℃)、液化ヘリウム(LHe、約-270℃)である。
【0021】
内槽本体部31は、一定の断面形状で水平方向に延びる胴部と、この胴部の両側の開口を塞ぐ半球状の閉塞部を含む。ただし、閉塞部は、胴部と垂直なフラットであってもよいし、皿状であってもよい。内槽ドーム32は、内槽本体部31の胴部から上向きに突出している。内槽ドーム32の突出方向は、本実施形態では鉛直方向と平行であるが、鉛直方向に対して多少傾いていてもよい。
【0022】
内槽ドーム32は、内槽を貫通する複数の配管14(
図1では、図面の簡略化のために1本の配管14のみを図示)を集約するためものであり、それらの配管14は、内槽ドーム32および外槽ドーム42を貫通するように配置される。
【0023】
外槽本体部41は、内槽本体部31を拡大した形状を有する。すなわち、外槽本体部41は、一定の断面形状で水平方向に延びる、内槽本体部31の胴部よりも大径の胴部と、この胴部の両側の開口を塞ぐ半球状の閉塞部を含む。外槽ドーム42も、内槽ドーム32を拡大した形状を有する。
【0024】
次に、
図2を参照して、内槽ドーム32および外槽ドーム42について詳細に説明する。
【0025】
内槽ドーム32は、内槽本体部31から立ち上がる管状の周壁33と、周壁33の上側開口を閉塞する天井壁34を含む。内槽ドーム32の上部には、内槽マンホール5が設けられている。本実施形態では、天井壁34に内槽マンホール5が設けられている。図例では、内槽マンホール5が天井壁34の中心に設けられているが、内槽マンホール5は天井壁34の中心からずれた位置に設けられてもよい。あるいは、内槽マンホール5は、後述する内側リング7よりも上方で周壁33に設けられてもよい。
【0026】
内槽マンホール5は、天井壁34を貫通するマンホール管51によって形成され、マンホール蓋52によって閉塞されている。マンホール蓋52は、マンホール管51の上端に設けられたフランジにボルトなどによって固定されている。
【0027】
同様に、外槽ドーム42は、外槽本体部41から立ち上がる管状の周壁43と、周壁43の上側開口を閉塞する天井壁44を含む。外槽ドーム42の上部には、外槽マンホール6が設けられている。本実施形態では、天井壁44に外槽マンホール6が設けられている。図例では、外槽マンホール6が天井壁44の中心に設けられているが、外槽マンホール6は天井壁44の中心からずれた位置に設けられてもよい。あるいは、外槽マンホール6は、後述する外側リング9よりも上方で周壁43に設けられてもよい。
【0028】
外槽マンホール6は、天井壁44を貫通するマンホール管61によって形成され、マンホール蓋62によって閉塞されている。マンホール蓋62は、マンホール管61の上端に設けられたフランジにボルトなどによって固定されている。
【0029】
図例では、上述した配管14が内槽ドーム32の周壁33および外槽ドーム42の周壁43を貫通しているが、配管14は、内槽ドーム32の天井壁34および外槽ドーム42の天井壁44を貫通してもよい。
【0030】
外槽ドーム42の周壁43には、ベローズ45が組み込まれている。ベローズ45は、外槽ドーム42を下側の固定部42Aと上側の可動部42Bとに分断する。可動部42Bは、配管14によって貫通される部分であるとともに、外槽マンホール6が設けられる部分である。
【0031】
内槽ドーム32と外槽ドーム42との間の第2真空空間22内には、内側リング7、筒状の隔壁8および外側リング9が配置されている。内側リング7、隔壁8および外側リング9は、外槽ドーム42の可動部42Bを支持する吊り下げ構造を構成する。
【0032】
内側リング7は、内槽ドーム32の軸方向(突出方向)と直交する径方向に平行な板である。内側リング7は、内槽ドーム32に固定されている。例えば、内側リング7の内周縁部は、周壁33の外周面に溶接によって接合される。
【0033】
外側リング9は、内側リング7と平行な板である。外側リング9は、内側リング7よりも下方に位置しており、外槽ドーム42の可動部42Bに固定されている。例えば、外側リング9の外周縁部は、周壁43の内周面に溶接によって接合される。
【0034】
隔壁8は、内側リング7と外側リング9とを連結している。これにより、第2真空空間22が上側真空空間24と下側真空空間23とに仕切られている。上側真空空間24は、内槽マンホール5と外槽マンホール6の間の領域を含む空間である。すなわち、上側真空空間24は、外槽マンホール6が開かれたときに外槽マンホール6を通じて大気空間と連通し、内槽マンホール5が開かれたときに内槽マンホール5を通じて内槽3内の空間と連通する。
【0035】
本実施形態では、隔壁8の内周面に内側リング7の外周縁部が接合されており、外側リング9の上面に隔壁8の下端部が接合されている。これらの接合には、例えば溶接が用いられる。ただし、隔壁8の上端部が内側リング7の下面に接合されてもよいし、外側リング9の内周縁部が隔壁8の外周面に接合されてもよい。
【0036】
図3に示すように、隔壁8の中央部8bの厚さは、当該隔壁8の上端部8aおよび下端部8cの厚さよりも薄い。なお、隔壁8の上端部8aの厚さと下端部8cの厚さは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0037】
本実施形態では、隔壁8の外周面が中央部8bにおいて径方向内向きに窪んでいる。換言すれば、隔壁8の中央部8bに、径方向外向きに開口する、周方向に連続する溝が形成されている。ただし、隔壁8の内周面が中央部8bにおいて径方向外向きに窪んでもよい。
【0038】
さらに、本実施形態では、隔壁8の上端部8a、中央部8bおよび下端部8cで形成される溝の形状が上下対称となっている。つまり、上端部8aと中央部8bの間の傾斜面の角度は、下端部8cと中央部8bの間の傾斜面の角度と同じである。ただし、隔壁8の上端部8a、中央部8bおよび下端部8cで形成される溝の形状は上下非対称であってもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の二重殻タンク2では、隔壁8の中央部8bの厚さが薄くなっているので、隔壁8が一定の厚さの筒状である場合に比べて、外側リング9、隔壁8および内側リング7を介した熱浸入を低減することができる。しかも、内槽3が熱収縮するときには内槽ドーム32も縮径するが、このときは、隔壁8の中央部8bの厚さが薄くなっているので、隔壁8が
図4に示すように断面略S字状となるように変形する。従って、隔壁8と外側リング9との接合部および隔壁8と内側リング7との接合部に大きな応力が作用することが防止される。これにより、隔壁8と外側リング9および内側リング8との接合部の強度が十分に確保される。
【0040】
また、本実施形態では、隔壁8の外周面が中央部8bにおいて径方向内向きに窪んでいるので、内槽ドーム32の軸方向から見たときの隔壁8の中央部8bの断面積は、隔壁8の内周面が中央部8bにおいて径方向外向きに窪んでいる場合に比べ、小さくなる。従って、隔壁8の内周面が中央部8bにおいて径方向外向きに窪んでいる場合に比べて、外側リング9、隔壁8および内側リング7を介した熱浸入を効果的に低減することができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 液化ガス運搬船
2 二重殻タンク
21 第1真空空間
22 第2真空空間
23 下側真空空間
24 上側真空空間
3 内槽
31 内槽本体部
32 内槽ドーム
4 外槽
41 外槽本体部
42 外槽ドーム
5 内槽マンホール
6 外槽マンホール
7 内側リング
8 隔壁
8a 上端部
8b 中央部
8c 下端部
9 外側リング