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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】カラオケシステム
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
G10K15/04 302D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018065483
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019174752
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390004710
【氏名又は名称】株式会社第一興商
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 豪
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】樫本 剛
【審判官】木方 庸輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-194389(JP,A)
【文献】特開2004-205818(JP,A)
【文献】特開平9-212185(JP,A)
【文献】特開2008-152169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/04 - 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽曲を構成する各ノートの音高、及び各ノートに付された、裏声で歌唱すべきかどうかを示す裏声フラグに基づき、地声で歌唱すべき地声音域と裏声で歌唱すべき裏声音域とを楽曲毎に特定する音域特定部と、
楽曲のカラオケ演奏に伴うカラオケ歌唱により得られる音声データに基づいて所定のサンプリング周期で算出した倍音比率と、当該カラオケ演奏の開始から当該倍音比率を算出した時点までの経過時間と、当該倍音比率を算出した時点における当該音声データの音高とを対応付けた音声情報データを作成する作成部と、
ある歌唱者のカラオケ歌唱に応じて作成された音声情報データに基づいて、当該ある歌唱者が地声で発声可能な音高の範囲を示す地声声域と、当該ある歌唱者が裏声で発声可能な音高の範囲を示す裏声声域とを特定する声域特定部と、
前記ある歌唱者からの指示入力に基づいて、前記楽曲毎の裏声音域及び地声音域と、前記ある歌唱者について特定された地声声域及び裏声声域とを比較し、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれる楽曲を抽出する抽出部と、
前記ある歌唱者に対し、抽出された前記楽曲を推奨楽曲として提示する提示部と、
を有するカラオケシステム。
【請求項2】
前記抽出部は、前記楽曲毎の地声音域及び裏声音域が、特定された地声声域及び裏声声域に近くなるように前記楽曲のキーをシフトして比較することを特徴とする請求項1記載のカラオケシステム。
【請求項3】
前記声域特定部は、前記ある歌唱者の複数回のカラオケ歌唱に応じて作成された複数の前記音声情報データに基づいて、前記地声声域及び前記裏声声域を特定することを特徴とする請求項1または2記載のカラオケシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカラオケシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
カラオケ装置には、何万曲もの楽曲が記憶されている。カラオケ歌唱を行う歌唱者は、リモコン装置を介して所望の楽曲を選曲する。具体的に、歌唱者は、リモコン装置に表示される楽曲検索画面において、歌手名や楽曲名等の検索要件を入力し、検索条件に一致した楽曲の中からカラオケ歌唱を希望する一の楽曲を選択する。カラオケ装置は、歌唱者が選択した楽曲を予約待ち行列に登録し、カラオケ演奏を行う。
【0003】
一方、ある楽曲のカラオケ歌唱を終えた歌唱者が、次にカラオケ歌唱する楽曲をなかなか決められないという場合がありうる。このような問題を解決するため、カラオケシステムにおいては、歌唱者に適当な楽曲を推奨(リコメンド)する技術が検討されている。この際、歌唱者の声域(歌唱者が発声可能な音高の範囲)に適合する音域(楽曲を構成するノートに設定されている音高の範囲)の楽曲を推奨できれば、当該歌唱者は快適にカラオケ歌唱を楽しむことができ、レパートリーの増加にも繋がる可能性がある。
【0004】
たとえば、特許文献1には、演奏曲の楽音データを、その演奏曲の歌唱部の音域と対応付けて記憶し、歌唱者の音声入力を誘導するための誘導音を発声させ、歌唱者の音声の音高が誘導音に対して一致しているか否かにより歌唱者の歌唱可能な声域を解析し、歌唱者の声域に適合する演奏曲を検索することで、歌唱者自身の声域を考慮すると共に歌唱中に声域上の破綻を生じにくい楽曲を選曲することができる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、歌唱者の歌唱した楽曲を歌唱者毎に歌唱履歴管理テーブルに記録し、歌唱履歴管理テーブルに記録されている歌唱者の各楽曲について、それぞれの原曲キーでの楽曲音域に基づいて、所定のアルゴリズムにて歌唱者声域を算出し、算出された歌唱者の歌唱者声域とカラオケ楽曲の楽曲音域を比較し、各歌唱者の歌唱者声域内に含まれる楽曲音域を備えたカラオケ楽曲を選定することで、歌唱者が上手に歌えそうな楽曲を選曲することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-212185号公報
【文献】特開2008-152169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、カラオケ歌唱を行う際、歌唱者によっては、地声だけでなく、地声から裏返った状態の声である裏声を使用する者もいる。しかし、特許文献1及び特許文献2の技術においては、裏声の使用については何ら考慮されていない。従って、当該技術により選曲された楽曲をカラオケ歌唱する際、歌手が地声で歌唱している箇所であっても、ある歌唱者にとっては音高が高すぎるため裏声で歌わなければならないといった問題が生じる可能性がある。また、地声の声域と裏声の声域とが離れている歌唱者もいる。そのような場合に特許文献1及び特許文献2の技術を利用すると、歌唱者がそもそもカラオケ歌唱できない楽曲(歌唱者の声域から外れた音域を有する楽曲)を提示してしまう可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、歌唱者の地声声域と裏声声域とを考慮して楽曲を推奨するカラオケシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための主たる発明は、楽曲を構成する各ノートの音高、及び各ノートに付された、裏声で歌唱すべきかどうかを示す裏声フラグに基づき、地声で歌唱すべき地声音域と裏声で歌唱すべき裏声音域とを楽曲毎に特定する音域特定部と、楽曲のカラオケ演奏に伴うカラオケ歌唱により得られる音声データに基づいて所定のサンプリング周期で算出した倍音比率と、当該カラオケ演奏の開始から当該倍音比率を算出した時点までの経過時間と、当該倍音比率を算出した時点における当該音声データの音高とを対応付けた音声情報データを作成する作成部と、ある歌唱者のカラオケ歌唱に応じて作成された音声情報データに基づいて、当該ある歌唱者が地声で発声可能な音高の範囲を示す地声声域と、当該ある歌唱者が裏声で発声可能な音高の範囲を示す裏声声域とを特定する声域特定部と、前記ある歌唱者からの指示入力に基づいて、前記楽曲毎の裏声音域及び地声音域と、前記ある歌唱者について特定された地声声域及び裏声声域とを比較し、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれる楽曲を抽出する抽出部と、前記ある歌唱者に対し、抽出された前記楽曲を推奨楽曲として提示する提示部と、を有するカラオケシステムである。
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歌唱者の地声声域と裏声声域とを考慮して楽曲を推奨できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るカラオケシステムの概略を示す図である。
図2】実施形態に係るカラオケ装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】実施形態に係るサーバ装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】ある楽曲における裏声フラグのON/OFFの数を示した図である。
図5】歌唱者毎の地声声域及び裏声声域を示した図である。
図6】歌唱者の地声声域及び裏声声域と、楽曲の地声音域及び裏声音域との関係を示した図である。
図7】実施形態に係るカラオケシステムの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
図1図7を参照して、実施形態に係るカラオケシステム1について説明する。
【0013】
==カラオケシステム==
図1に示すように、カラオケシステム1は、複数のカラオケ装置(カラオケ装置K1~カラオケ装置Kn)、及びサーバ装置Sを備える。各カラオケ装置とサーバ装置Sとは、ネットワークNを介して通信可能となっている。ネットワークNは、たとえば公衆電話回線網やインターネット回線等の伝送路である。
【0014】
==カラオケ装置==
カラオケ装置は、楽曲のカラオケ演奏、及び歌唱者がカラオケ歌唱を行うための装置である。以下では、カラオケ装置K1について説明を行うが、他のカラオケ装置も同様の構成を備える。
【0015】
図2に示すように、カラオケ装置K1は、カラオケ本体10、スピーカ20、表示装置30、マイク40、及びリモコン装置50を備える。
【0016】
スピーカ20はカラオケ本体10からの放音信号に基づいて放音するための構成である。表示装置30はカラオケ本体10からの信号に基づいて映像や画像を画面に表示するための構成である。マイク40は歌唱者の歌唱音声(マイク40への入力音声)をアナログの音声信号に変換してカラオケ本体10に入力するための構成である。リモコン装置50は、カラオケ本体10に対する各種操作をおこなうための装置である。歌唱者はリモコン装置50を用いてカラオケ歌唱を希望する楽曲の検索や選曲(予約)等を行うことができる。リモコン装置50の表示画面には各種操作の指示入力を行うためのアイコン等が表示される。
【0017】
カラオケ本体10は、選曲された楽曲のカラオケ演奏制御、歌詞や背景映像等の表示制御、マイク40を通じて入力された音声信号の処理といった、カラオケ歌唱に関する各種の制御を行う。図2に示すように、カラオケ本体10は、制御部11、通信部12、記憶部13、音響処理部14、表示処理部15及び操作部16を備える。各構成はインターフェース(図示なし)を介してバスBに接続されている。
【0018】
制御部11は、CPUおよびメモリ(図示なし)を備える。CPUは、メモリに記憶された動作プログラムを実行することにより各種の制御機能を実現する。メモリは、CPUに実行されるプログラムを記憶したり、プログラムの実行時に各種情報を一時的に記憶したりする記憶装置である。本実施形態において制御部11は、作成部100及び提示部200として機能する。
【0019】
[作成部]
作成部100は音声情報データを作成する。音声情報データは、倍音比率、経過時間、及び音高を対応付けたものである。
【0020】
倍音比率は、周波数成分が持つパワーを縦軸とし、周波数を横軸とした2軸の座標系において、「基本周波数のパワー」を「基本周波数のピークを中心とし、幅がピークの開始からピークの終了までの周波数の幅に相当する、基本周波数の周波数成分が持つパワーの面積」として定義し、「倍音の周波数のパワー」を「基本周波数の2~n倍の周波数のピークを中心とし、幅がピークの開始からピークの終了までの周波数の幅に相当する、倍音の周波数の周波数成分が持つパワーの面積の合計」と定義した場合、「倍音の周波数のパワー/基本周波数のパワー」で表される(特開2012-194389号公報参照)。すなわち、倍音比率は、基音の周波数に対する倍音の周波数であるともいえる。ここで、あるノートの音声に基づく信号が正弦波の合成で表されたときの最も低い周波数成分の周波数を基本周波数とする。この場合、あるノートの音高の成分が基音に相当する。また、倍音とは、基音の周波数に対して、2以上の整数倍の周波数を持つ音の成分である。本実施形態において、作成部100は、楽曲のカラオケ演奏に伴うカラオケ歌唱により得られる音声データに基づいて所定のサンプリング周期で倍音比率を算出する。従って、一の楽曲のカラオケ演奏中に、複数の倍音比率が算出される。すなわち、一の音声情報データは、複数の倍音比率を含む。
【0021】
経過時間は、カラオケ演奏の開始から倍音比率を算出した時点までの時間である。倍音比率及び経過時間と対応付けられる音高は、倍音比率を算出した時点における音声データが示す音高である。
【0022】
たとえば、カラオケ装置K1においてカラオケ歌唱を行う場合、歌唱者Aは、リモコン装置50を介して自己の歌唱者ID及びパスワード等を入力し、カラオケシステム1にログインする。そして、歌唱者Aは、リモコン装置50を介して楽曲Xのカラオケ歌唱の予約を行う。カラオケ装置K1は、予約待ち行列に楽曲Xの登録を行い、順番に応じて楽曲Xのカラオケ演奏を行う。歌唱者Aは、カラオケ演奏に伴って楽曲Xのカラオケ歌唱を行う。
【0023】
この場合、作成部100は、歌唱者Aのカラオケ歌唱により得られる音声データに基づいて、所定のサンプリング周期(たとえば、20ms)で倍音比率R1を算出する。また、作成部100は、倍音比率R1を算出した時点までの経過時間T1と、倍音比率R1を算出した時点における音声データの音高P1とを求め、倍音比率R1と対応付けたデータd1を作成する。作成部100は、楽曲Xのカラオケ歌唱が終了するまで、所定のサンプリング周期で倍音比率Rn(nはサンプリングの回数)を算出する。そして作成部100は、算出した倍音比率Rnを、経過時間Tn、及び音高Pnそれぞれと対応付けたデータdnを作成する(nはサンプリングの回数)。作成部100は、楽曲Xのカラオケ演奏が終了した後、データd1~dnをまとめ、歌唱者Aが楽曲Xのカラオケ歌唱を行った際の音声情報データDXを作成する。作成部100は、作成した音声情報データDXを歌唱者Aの歌唱者IDと関連付けてサーバ装置Sに送信する。
【0024】
[提示部]
提示部200は、ある歌唱者に対し、抽出された楽曲を推奨楽曲として提示する。
【0025】
推奨楽曲は、ある歌唱者に対してカラオケ歌唱を薦める楽曲である。推奨楽曲は、サーバ装置Sの抽出部500により抽出された楽曲に相当する(詳細は後述)。
【0026】
推奨楽曲の提示は、たとえば、リモコン装置50の表示画面に推奨楽曲の楽曲名や楽曲IDを表示させることにより行う。
【0027】
なお、抽出された楽曲が複数ある場合、提示部200は、一部の楽曲のみを推奨楽曲として歌唱者に提示することでもよい。たとえば、提示部200は、歌唱者の歌唱履歴に基づいて、抽出された複数の楽曲のうち、過去にカラオケ歌唱したことのある楽曲(或いはカラオケ歌唱したことがない楽曲)を推奨楽曲として提示してもよい。
【0028】
通信部12は、ルーター(図示なし)を介してカラオケ本体10を通信回線に接続するためのインターフェースを提供する。
【0029】
記憶部13は、各種のデータを記憶する大容量の記憶装置であり、たとえばハードディスクドライブなどである。記憶部13は、たとえば、サーバ装置Sから配信された楽曲データや、歌唱者の歌唱履歴を記憶する。楽曲データは、定期的(たとえば、週1回)に配信される。また、歌唱履歴は、歌唱者がリモコン装置50を介してカラオケシステム1にログインした際に、サーバ装置Sから送信される。なお、楽曲データは、予め記憶部13に記憶せず、カラオケ演奏の都度、サーバ装置Sからダウンロードすることでもよい。
【0030】
音響処理部14は、制御部11の制御に基づき、楽曲に対するカラオケ演奏の制御およびマイク40を通じて入力された歌唱音声信号の処理を行う。表示処理部15は、制御部11の制御に基づき、表示装置30やリモコン装置50における各種表示に関する処理を行う。たとえば、表示処理部15は、カラオケ演奏時における背景映像に歌詞テロップや各種アイコンが重ねられた映像を表示装置30に表示させる。或いは、表示処理部15は、リモコン装置50の表示画面に操作入力用の各種アイコンを表示させる。操作部16は、パネルスイッチおよびリモコン受信回路などからなり、歌唱者によるカラオケ装置K1のパネルスイッチあるいはリモコン装置50の操作に応じて選曲信号、演奏中止信号などの操作信号を制御部11に対して出力する。制御部11は、操作部16からの操作信号を検出し、対応する処理を実行する。
【0031】
==サーバ装置==
サーバ装置Sは、カラオケ装置に関する各種情報を管理したり、カラオケ装置から送信されるデータを処理するコンピュータである。図3はサーバ装置Sのハードウェア構成例を示す図である。サーバ装置Sは、記憶部60、通信部70及び制御部80を備える。各構成はインターフェース(図示なし)を介してバスBに接続されている。
【0032】
[記憶部]
記憶部60は、各種のデータを記憶する大容量の記憶装置である。記憶部60は、各カラオケ装置においてカラオケ演奏を行うための複数の楽曲(楽曲データ)を記憶する。楽曲データは、個々の楽曲を特定するための楽曲ID(識別情報)が付与されている。楽曲データは、伴奏データ、リファレンスデータ、歌詞テロップデータ、背景画像データ、及び楽曲の属性情報(楽曲名、歌手名、作詞・作曲者名、ジャンル等の楽曲に関する情報)を含む。また、各楽曲には所定のキー(デフォルトキー)が設定されている。
【0033】
リファレンスデータは、楽曲において歌唱すべき旋律の内容を示すデータである。リファレンスデータは複数のノートから構成されている。各ノートは、所定の音高(ピッチ)が設定されている。また、本実施形態において、各ノートには裏声フラグが付されている。裏声フラグは、あるノートを裏声で歌唱すべきかどうかを示すものである。具体的に、楽曲の歌手本人があるノートを地声で歌唱している場合、当該あるノートの裏声フラグは「OFF」が付される。逆に、楽曲の歌手本人が別のノートを裏声で歌唱している場合、当該別のノートの裏声フラグは「ON」が付される。
【0034】
なお、記憶部60は、各歌唱者の地声声域及び裏声声域、楽曲毎の地声音域及び裏声音域(いずれも詳細は後述)、或いは各歌唱者の歌唱履歴を記憶する。
【0035】
[通信部]
通信部70は、サーバ装置Sと各カラオケ装置とを接続するためのインターフェースを提供する。
【0036】
[制御部]
制御部80は、サーバ装置Sにおける各種の制御を行う。制御部80はCPUおよびメモリ(いずれも図示無し)を備える。本実施形態において制御部80は、音域特定部300、声域特定部400、及び抽出部500として機能する。
【0037】
(音域特定部)
音域特定部300は、楽曲を構成する各ノートの音高、及び各ノートに付された、裏声で歌唱すべきかどうかを示す裏声フラグに基づき、地声で歌唱すべき地声音域と裏声で歌唱すべき裏声音域とを楽曲毎に特定する。
【0038】
「地声音域」は、楽曲を歌唱する歌手本人が地声で歌唱している音高の範囲である。「裏声音域」は、楽曲を歌唱する歌手本人が裏声で歌唱している音高の範囲である。
【0039】
音域特定部300は、記憶部60に新たな楽曲が追加される都度、当該楽曲の地声音域及び裏声音域の特定を行う。
【0040】
具体的に、音域特定部300は、新たな楽曲のリファレンスデータを参照し、裏声フラグが「OFF」になっているノート全ての音高、及び裏声フラグが「ON」になっているノート全ての音高をそれぞれ抽出する。図4は、楽曲ID「1234-56」で特定される楽曲の音高毎のフラグ数を示したものである。たとえば、音高「C5」のノートについては、裏声フラグ「ON」が「15」、「OFF」が「22」となっている。
【0041】
音域特定部300は、抽出した裏声フラグが「OFF」の音高について、一番低い音高から一番高い音高までの範囲を当該楽曲の地声音域として特定する。図4の例において、音域特定部300は、音高「B3」~音高「D5」の範囲を楽曲ID「1234-56」で特定される楽曲の地声音域として特定する。
【0042】
また、音域特定部300は、抽出した裏声フラグが「ON」の音高について、一番低い音高から一番高い音高までの範囲を当該楽曲の裏声音域として特定する。図4の例において、音域特定部300は、音高「B4」~音高「G5」の範囲を楽曲ID「1234-56」で特定される楽曲の裏声音域として特定する。なお、図4の例のように地声音域と裏声音域が一部重複する楽曲だけでなく、地声音域と裏声音域が重複しない楽曲も存在する。
【0043】
音域特定部300は、特定した地声音域及び裏声音域を楽曲IDと関連付けて記憶部60に記憶させる。
【0044】
(声域特定部)
声域特定部400は、ある歌唱者のカラオケ歌唱に応じて作成された音声情報データに基づいて、当該ある歌唱者の地声声域と裏声声域とを特定する。
【0045】
「地声声域」は、ある歌唱者が地声で発声可能な音高の範囲を示すものであり、ある歌唱者の地声における一番低い音高から一番高い音高までの範囲である。「裏声声域」は、ある歌唱者が裏声で発声可能な音高の範囲を示すものであり、ある歌唱者の裏声における一番低い音高から一番高い音高までの範囲である。なお、地声声域及び裏声声域の特定に関しては、特開2012-194389号公報に記載の技術を利用できる。
【0046】
たとえばカラオケ装置K1の作成部100から、音声情報データDX及び歌唱者Aの歌唱者IDが送信されたとする。この場合、声域特定部400は、縦軸を倍音比率、横軸を音高とした2軸の座標系の表である音声分布表に対し、音声情報データDXに含まれる各データdnの音高及び倍音比率により特定される点をプロットする。声域特定部400は、プロットした点の集合のうち、音高について比較的低いほうから中程度までの高さに分布し、且つ倍音比率について低いほうから高いほうまで満遍なく分布している領域を地声に対応する領域として特定する。一方、声域特定部400は、プロットした点の集合のうち、音高について中程度から比較的高い高さに分布し、且つ倍音比率について低いほうから中程度まで分布している領域を裏声に対応する領域として特定する。
【0047】
そして、声域特定部400は、特定した地声に対応する領域において、最も左端に位置する音高を歌唱者Aが地声で歌唱可能な最も低い音高Pvlowとし、最も右端に位置する音高を歌唱者Aが地声で歌唱可能な最も高い音高Pvhighとし、音高Pvhighから音高Pvlowまでの範囲を歌唱者Aの地声声域として特定する。また、声域特定部400は、特定した裏声に対応する領域において、最も左端に位置する音高を歌唱者Aが裏声で歌唱可能な最も低い音高Pflowとし、最も右端に位置する音高を歌唱者Aが裏声で歌唱可能な最も高い音高Pfhighとし、音高Pfhighから音高Pflowまでの範囲を歌唱者Aの裏声声域として特定する。
【0048】
声域特定部400は、特定した地声声域と裏声声域を歌唱者Aの歌唱者IDと関連付けて記憶部60に記憶させる。図5は、記憶部60に記憶された各歌唱者の地声声域と裏声声域の例を示している。図5において、たとえば、歌唱者Aが地声で歌唱可能な最も低い音高Pvlowは「B3」であり、歌唱者Aが地声で歌唱可能な最も高い音高Pvhighは「A#4」であり、歌唱者Aが裏声で歌唱可能な最も低い音高Pflowは「C5」であり、歌唱者Aが裏声で歌唱可能な最も高い音高Pfhighは「F5」である。
【0049】
なお、声域特定部400は、ある歌唱者の複数回のカラオケ歌唱に応じて作成された複数の音声情報データに基づいて、地声声域及び裏声声域を特定することができる。
【0050】
たとえば、上記例において、歌唱者Aの音声情報データが複数存在する場合、カラオケ装置K1の作成部100は、全ての音声情報データを歌唱者Aの歌唱者IDと関連付けて送信する。この場合、声域特定部400は、上述の音声分布表に対し、全ての音声情報データに含まれる各データdnの音高及び倍音比率により特定される点をプロットする。その後、声域特定部400は、上述の処理と同様の処理を行うことで歌唱者Aの地声声域及び裏声声域を特定する。
【0051】
(抽出部)
抽出部500は、ある歌唱者からの指示入力に基づいて、楽曲毎の裏声音域及び地声音域と、ある歌唱者について特定された地声声域及び裏声声域とを比較し、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれる楽曲を抽出する。
【0052】
たとえば、既に自己の地声声域及び裏声声域が特定されている歌唱者Aがカラオケ装置K1を利用する際に、自己の声域に合った楽曲のリコメンド(声域適合楽曲リコメンド)を希望したとする。
【0053】
この場合、歌唱者Aは、リモコン装置50を介して自己の歌唱者ID等を入力し、カラオケシステム1にログインする。その後、歌唱者Aは、リモコン装置50の画面に表示されるアイコンを選択し、声域適合リコメンドの開始を指示する。
【0054】
抽出部500は、歌唱者Aの歌唱者IDに基づいて、記憶部60から歌唱者Aの地声声域及び裏声声域のデータを読み出す。ここでは、歌唱者Aの地声声域が音高B3~A#4の範囲であり、裏声声域が音高C5~F5の範囲であるとする(図5参照)。
【0055】
抽出部500は、読み出した歌唱者Aの地声声域及び裏声声域と、記憶部60に記憶されている楽曲毎の地声音域及び裏声音域とを比較する。そして、抽出部500は、所定の条件に適合する楽曲を抽出する。所定の条件は、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれることである。
【0056】
図6は、歌唱者Aの地声声域及び裏声声域と、楽曲M1~M3の地声音域及び裏声音域との関係を示した図である。
【0057】
図6において、楽曲M1の地声音域(音高C4~A4の範囲)は、歌唱者Aの地声声域(音高B3~A#4の範囲)に含まれ、且つ楽曲M1の裏声音域(音高C#5~E5の範囲)は、歌唱者Aの裏声声域(音高C5~F5の範囲)に含まれる。よって、抽出部500h、楽曲M1を所定の条件に適合する楽曲として抽出する。
【0058】
一方、楽曲M2や楽曲M3のように、歌唱者Aの地声声域や裏声領域から外れた地声音域や裏声声域を有する楽曲も存在する。このような楽曲は所定の条件に適合しないため、抽出部500は楽曲の抽出を行わない。
【0059】
抽出部500は、抽出した楽曲M1の楽曲IDを歌唱者Aが利用するカラオケ装置K1に送信する。カラオケ装置K1の提示部200は、受信した楽曲IDに基づいて、リモコン装置50の画面に抽出された楽曲M1を推奨楽曲として表示させる。
【0060】
なお、抽出部500は、楽曲毎の地声音域及び裏声音域が、特定された地声声域及び裏声声域に近くなるように楽曲のキーをシフトして比較することもできる。この場合、抽出部500は、抽出した楽曲についてシフトしたキーに関する情報を関連付けてカラオケ装置に送信する。提示部200は、推奨楽曲を提示させる際、キーのシフト量(デフォルトキーからのシフト量)に関する情報に基づいて、カラオケ歌唱の際の推奨キーを併せて提示することも可能である。
【0061】
==カラオケシステムにおける処理について==
次に、図7を参照して本実施形態に係るカラオケシステム1における処理の具体例について述べる。図7は、カラオケシステム1における処理例を示すフローチャートである。この例では、楽曲毎に特定された地声音域及び裏声音域がサーバ装置Sの記憶部60に記憶されているとする。
【0062】
カラオケ装置K1は、歌唱者Aが予約した楽曲Xのカラオケ演奏を行う(カラオケ演奏。ステップ10)。歌唱者Aは、カラオケ演奏に伴って楽曲Xのカラオケ歌唱を行う。
【0063】
カラオケ装置K1の作成部100は、楽曲Xのカラオケ歌唱により得られる音声データに基づいて所定のサンプリング周期で算出した倍音比率と、楽曲Xのカラオケ演奏の開始から当該倍音比率を算出した時点までの経過時間と、当該倍音比率を算出した時点における当該音声データの音高とを対応付けた音声情報データを作成する(音声情報データの作成。ステップ11)。作成部100は、ステップ11で作成した音声情報データをサーバ装置Sに送信する(音声情報データの送信。ステップ12)。
【0064】
サーバ装置Sの声域特定部400は、ステップ11で作成された音声情報データに基づいて、歌唱者Aが地声で発声可能な音高の範囲を示す地声声域と、歌唱者Aが裏声で発声可能な音高の範囲を示す裏声声域とを特定する(地声声域及び裏声声域の特定。ステップ13)。
【0065】
ここで、歌唱者Aがリモコン装置50を介して声域適合リコメンドの開始を指示したとする(リコメンドの指示入力。ステップ14)。
【0066】
サーバ装置Sの抽出部500は、記憶部60に記憶されている楽曲毎の裏声音域及び地声音域と、ステップ13で特定された歌唱者Aの地声声域及び裏声声域とを比較し、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれる楽曲を抽出する(楽曲の抽出。ステップ15)。抽出部500は、抽出した楽曲の楽曲IDをカラオケ装置K1に送信する(抽出した楽曲の楽曲IDを送信。ステップ16)。
【0067】
カラオケ装置K1の提示部200は、ステップ16で送信された楽曲IDに基づいて、ステップ15で抽出された楽曲を推奨楽曲として歌唱者Aに提示する(推奨楽曲の提示。ステップ17)。
【0068】
このように、本実施形態に係るカラオケシステム1は、楽曲を構成する各ノートの音高、及び各ノートに付された、裏声で歌唱すべきかどうかを示す裏声フラグに基づき、地声で歌唱すべき地声音域と裏声で歌唱すべき裏声音域とを楽曲毎に特定する音域特定部300と、楽曲のカラオケ演奏に伴うカラオケ歌唱により得られる音声データに基づいて所定のサンプリング周期で算出した倍音比率と、当該カラオケ演奏の開始から当該倍音比率を算出した時点までの経過時間と、当該倍音比率を算出した時点における当該音声データの音高とを対応付けた音声情報データを作成する作成部100と、ある歌唱者のカラオケ歌唱に応じて作成された音声情報データに基づいて、当該ある歌唱者が地声で発声可能な音高の範囲を示す地声声域と、当該ある歌唱者が裏声で発声可能な音高の範囲を示す裏声声域とを特定する声域特定部400と、ある歌唱者からの指示入力に基づいて、楽曲毎の裏声音域及び地声音域と、ある歌唱者について特定された地声声域及び裏声声域とを比較し、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれる楽曲を抽出する抽出部500と、ある歌唱者に対し、抽出された楽曲を推奨楽曲として提示する提示部200と、を有する。
【0069】
特定された地声声域及び裏声声域は、歌唱者が地声及び裏声を無理なく発声できる音高の範囲に相当する。従って、地声声域に地声音域が含まれ、且つ裏声声域に裏声音域が含まれる楽曲については、歌手本人が地声で歌唱する箇所については歌唱者も地声で歌唱でき、歌手本人が裏声で歌唱する箇所については歌唱者も裏声で歌唱できる。このような楽曲を推奨楽曲として提示することにより、歌唱者は快適にカラオケ歌唱できる楽曲を把握できる。すなわち、本実施形態に係るカラオケシステム1によれば、歌唱者の地声声域と裏声声域とを考慮して楽曲を推奨することができる。
【0070】
また、抽出部500は、楽曲毎の地声音域及び裏声音域が、特定された地声声域及び裏声声域に近くなるように楽曲のキーをシフトして比較することができる。このようにキーをシフトして比較を行うことにより、歌唱者の地声声域及び裏声声域により近い楽曲を抽出することができる。
【0071】
また、声域特定部400は、ある歌唱者の複数回のカラオケ歌唱に応じて作成された複数の音声情報データに基づいて、地声声域及び裏声声域を特定することができる。一の楽曲において全ての音高が含まれているとは限らない。従って、一の楽曲のカラオケ歌唱に基づいて特定した地声声域及び裏声声域は、歌唱者が歌唱できる音高の範囲を必ずしも正確に示しているとは限らない。一方、複数の音声情報データを用いることにより、歌唱者本来の地声声域及び裏声声域をより正確に特定できる。
【0072】
<その他>
上記実施形態で説明した各種構成をカラオケ装置単独で備えていてもよい。すなわち、カラオケ装置が、作成部100及び提示部200だけでなく、音域特定部300、声域特定部400、及び抽出部500を備えていてもよい。この場合、カラオケ装置は「カラオケシステム」に相当する。
【0073】
たとえば、新たな楽曲が配信される都度、サーバ装置Sは、カラオケ装置K1に対して当該楽曲の楽曲データを送信する。音域特定部300は、当該楽曲について、地声音域及び裏声音域を特定し、記憶部13に記憶させる。また、声域特定部400は、作成部100により作成された音声情報データに基づいて、歌唱者の地声声域及び裏声声域を特定する。
【0074】
ここで、ある歌唱者がリモコン装置50の画面に表示されるアイコンを選択し、声域適合リコメンドの開始を指示したとする。
【0075】
抽出部500は、記憶部13に記憶されている楽曲毎の裏声音域及び地声音域と、特定されたある歌唱者の地声声域及び裏声声域とを比較し、特定された地声声域内に地声音域が含まれ、且つ特定された裏声声域内に裏声音域が含まれる楽曲を抽出する。抽出部500は、抽出した楽曲の楽曲IDを提示部200に出力する。提示部200は、出力された楽曲IDに基づいて推奨楽曲を歌唱者に提示する
【0076】
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 カラオケシステム
100 作成部
200 提示部
300 音域特定部
400 声域特定部
500 抽出部
K1~Kn カラオケ装置
S サーバ装置
図1
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図7