(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】Wnt10b産生促進剤、及びそれを含有する頭皮頭髪用化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20221019BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20221019BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20221019BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20221019BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20221019BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20221019BHJP
A61K 36/234 20060101ALI20221019BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20221019BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20221019BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221019BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q5/02
A61Q5/12
A61Q7/00
A61K36/752
A61K36/185
A61K36/234
A61K36/736
A61K36/28
A61P43/00 105
A61P17/14
(21)【出願番号】P 2018068176
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 文香
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義宣
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-233207(JP,A)
【文献】特開平03-188014(JP,A)
【文献】特開2012-236774(JP,A)
【文献】特開平03-188013(JP,A)
【文献】特開2006-282597(JP,A)
【文献】特開2011-084523(JP,A)
【文献】特開2014-122183(JP,A)
【文献】特開平10-226628(JP,A)
【文献】特開2013-203730(JP,A)
【文献】特開2007-022957(JP,A)
【文献】特開2000-086459(JP,A)
【文献】特開平02-121911(JP,A)
【文献】特開2002-284648(JP,A)
【文献】特開2014-185131(JP,A)
【文献】特開2009-107941(JP,A)
【文献】特開平10-036229(JP,A)
【文献】米国特許第05407675(US,A)
【文献】Wella, Japan,Gentle Care Treatment (Fresh),Mintel GNPD [online],2005年03月,<URL:https://WWW.portal.mintel.com>,ID#351132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チンピ抽出物およびセイヨウイラクサ抽出物を含有し、両者の配合比率が抽出物の乾燥物の重量比で25:75~75:25であることを特徴とするWnt10b産生促進剤。
【請求項2】
センキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物をさらに含有することを特徴とする請求項
1に記載のWnt10b産生促進剤。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のWnt10b産生促進剤を含有する頭皮頭髪用化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛乳頭細胞におけるWnt10b発現を促進させるWnt10b産生促進剤、及び該Wnt10b産生促進剤を含有する頭皮頭髪用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
不規則な生活やストレス等の社会環境、食生活の変化により、抜け毛や脱毛、細毛、薄毛の悩みは、壮年男性だけでなく、若年層や女性にも広がっていることから、養育毛用の頭皮頭髪用化粧料に対する社会的期待は高まっている。
【0003】
これを受けて、育毛促進、保湿、フケやかゆみの予防、抗炎症、脱毛予防等を目的とした多くの頭皮頭髪用化粧料が上市されている。しかし、毛髪を育てる・太くするという従来の養育毛理論では、毛髪のボリュームアップ効果は不十分であった。
【0004】
毛髪は、毛母細胞が分化し角化することで形成される。毛母細胞はまた、内毛根鞘細胞にも分化し、毛髪を固定したり、毛髪の角化が終わるまで保護し表皮に送り届けたりする役割を担う。
【0005】
このような毛母細胞の分化を担っている因子の一つが毛乳頭細胞で産生されるWnt10bであり(非特許文献1)、Wnt10bの産生が促進されると、毛母細胞は増加し、毛幹や内毛根鞘細胞への分化が活性化されるため、ハリやコシのある丈夫な毛髪が形成されると考えられている。
【0006】
Wnt10b産生促進剤としては、カルシトリオールが知られている。これまでに、カルシトリオールによりWnt10bの産生が促進された毛乳頭細胞を、マウスの無毛部に移植すると毛が生えることが報告されている(非特許文献2)。
【0007】
カルシトリオールは、強力なカルシウム代謝作用を有することから血中のカルシウム値を上昇させ、蕁麻疹や高血圧、不整脈、筋脱力などの副作用の懸念がある。
【0008】
現在、毛乳頭細胞における十分なWnt10b産生促進作用を有し、安全性が高く、化粧料に配合可能な、更なる優れたWnt10b産生促進剤は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Biochem Biophys Res Commun. 2007、359巻、p516-522
【文献】Stem Cells Transl Med. 2012、8巻、p615-626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、毛乳頭細胞におけるWnt10b産生促進剤、及び該Wnt10b産生促進剤を含有する頭皮頭髪用化粧料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の植物抽出物を用いることにより毛乳頭細胞における優れたWnt10b産生促進効果が得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物、センキ
ュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含有することを特徴とするWnt10b産生促進剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明のWnt10b産生促進剤は、チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも2種の植物抽出物を含有することが好ましく、さらにセンキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物から選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含有することがより好ましい。
【0013】
前記のWnt10b産生促進剤は、頭皮頭髪用化粧料に含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のWnt10b産生促進剤は、毛乳頭細胞におけるWnt10b産生を飛躍的に増大させるため、これを用いて薄毛や脱毛の改善を図ることが出来る。すなわち、本発明のWnt10b産生促進剤は、特に毛母細胞の分化を飛躍的に促進する顕著な効果があることから、これを配合することにより、優れた育毛効果を有する頭皮頭髪用化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のWnt10b産生促進剤は、チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物、センキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含有する。
【0016】
本発明における育毛効果とは、頭髪が増える、太くなる、薄毛の予防、脱毛抑制、ハリやコシのある丈夫な毛髪になることなどを意味する。
【0017】
これらの植物抽出物は、いずれも医薬又は民間薬、食品、化粧料の成分として一般的に用いられているものであり、安全性が高い。
【0018】
本発明におけるチンピ抽出物とは、ミカン科ミカン属ウンシュウミカン(Citrus unshiu)または、マンダリンオレンジ(Citrus reticulata)の果皮から得られる抽出物であり、同属植物から得られる抽出物も含まれる。
【0019】
本発明におけるセイヨウイラクサ抽出物とは、イラクサ科イラクサ属セイヨウイラクサ(Urtica dioica)の全草の各部位、好ましくは葉から得られる抽出物であり、同属植物から得られる抽出物も含まれる。
【0020】
本発明におけるボタン抽出物とは、ボタン科ボタン属ボタン(Paeonia suffruticosa)の全草、好ましくは根から得られる抽出物であり、同属植物から得られる抽出物も含まれる。
【0021】
本発明におけるセンキュウ抽出物とは、セリ科ハマゼリ属センキュウ(Cnidium officinale Makino)の全草、好ましくは根茎から得られる抽出物であり、同属植物から得られる抽出物も含まれる。
【0022】
本発明におけるウメ抽出物とは、バラ科サクラ属ウメ(Prunus mume)の果実から得られる抽出物であり、同属植物から得られる抽出物も含まれる。
【0023】
本発明におけるステビア抽出物とは、キク科ステビア属ステビア(Stevia rebaudiana)の全草、好ましくは葉及び/又は茎から得られる抽出物であり、同属植物から得られる抽出物も含まれる。
【0024】
本発明における上記植物抽出物としては従来の抽出方法により抽出したものを用いてもよいし、市販のものを用いても良い。
【0025】
抽出方法としては例えば、植物の各部位を適当な溶媒に浸漬して抽出する方法が挙げられる。
【0026】
抽出の際は、使用する植物をそのまま用いてもよいし、粉砕や乾燥等を施して用いてもよいが、粉砕して用いることが好ましく、乾燥させたものを用いることがさらに好ましい。また、抽出溶媒に浸漬している間、攪拌していてもよく、静置していてもよい。本発明の植物抽出物は、抽出操作を繰り返して高濃度の植物抽出物とすることもできる。
【0027】
抽出に使用する溶媒に特に制限はなく、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級1価アルコール類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類などの極性溶媒や、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類を用いることができる。またこれらのうち、1種を単独で用いても、2種以上からなる混合溶媒を用いてもよい。特に、極性溶媒を用いることが好ましく、水、エタノールを用いることがさらに好ましい。
【0028】
抽出手順は特に制限はなく、例えば、抽出に使用する植物を20~40℃の前記溶媒中に1時間~7日間浸漬し、濾過する手順が挙げられる。
【0029】
また、得られた抽出液は、そのまま植物抽出物として用いても良いし、希釈、濃縮、凍結乾燥、精製等を行ったものを植物抽出物として用いることもできる。
【0030】
本発明のWnt10b産生促進剤は、Wnt10b産生促進効果が優れていることから、チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも2種が含まれていることがより好ましい。
【0031】
Wnt10b産生促進効果がさらに優れていることから、チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも2種の植物抽出物と、センキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物から選ばれる少なくとも1種の植物抽出物とが含まれていることがより好ましい。
【0032】
チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物からなる群より選ばれる2種を組み合わせる場合、その割合としては、Wnt10b産生促進効果がより優れるという観点から、抽出物の乾燥物の質量比で10:90~90:10が好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。
【0033】
チンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物からなる群より選ばれる2種以上と、センキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物から選ばれる1種以上とを組み合わせる場合、それらの割合としては、Wnt10b産生促進効果がより優れるという観点から、抽出物の乾燥物の質量比で95:5~5:95が好ましく、93:7~50:50がさらに好ましい。
【0034】
本発明のWnt10b産生促進剤においては、上記植物抽出物の少なくとも1種をそのまま本発明のWnt10b産生促進剤としてもよいし、以下に示す他の成分をさらに含ん
でいてもよい。
【0035】
本発明のWnt10b産生促進剤に使用可能な他の成分としては、例えば賦形剤、増粘剤、溶剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、細胞賦活化剤、抗炎症剤、抗菌剤、過酸化物抑制剤、界面活性剤、基材成分、コンディショニング剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、キレート剤、香料、着色剤、育毛養毛効果を有する成分、上記以外の植物や動物や微生物由来の各種抽出物等が挙げられる。
【0036】
具体的には、乳糖、白糖等の賦形剤;天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体、塩化ナトリウム等の増粘剤;注射用水、プロピレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、エタノール、ブチレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル等の溶剤;リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩等の緩衝剤;メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、安息香酸等の防腐剤;亜硫酸塩、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)、酢酸トコフェロール、アルブチン等の抗酸化剤;グリセリン、尿素、アミノ酸、ヒアルロン酸、スクワラン、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油、シリコン油等の保湿剤;ビタミンE類、トウガラシチンキ等の血行促進剤;核酸等の細胞賦活化剤;グルチルリチン、アラントイン、ピロクトンオラミン等の抗炎症剤;ヒノキチオール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩等の抗菌剤;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)等の過酸化物抑制剤;ポリエキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、コカミドプロピルベタイン、コカミドモノエタノールアミド、ココイルメチルタウリンナトリウム、ベヘントリモニウムクロリド、ステアルトリモニウムクロリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;セタノール、パルミチン酸イソプロピル等の基材成分;ポリクオタニウム-10等のコンディショニング剤;クエン酸、リンゴ酸等のpH調整剤;メトキシケイヒ酸エチルヘキシル等の紫外線吸収剤;EDTA-2Na等のキレート剤;香料;カラメル等の着色剤;アロエ、ショウキョウ、ソウハクヒ等の生薬及びこれらの抽出物や、パントテニルエチルエーテル、酢酸トコフェロール、フォルスコリン等の化合物等の育毛養毛効果を有する成分;イチョウエキス、胎盤抽出物、乳酸菌培養抽出物等の上記以外の植物や動物や微生物由来の各種抽出物等が挙げられる。
【0037】
本発明のWnt10b産生促進剤は、医薬品、医薬部外品、薬用又は化粧用の製剤類をはじめとする各種の外用剤に配合することが可能であるが、その優れたWnt10b産生促進効果により優れた育毛効果が得られるため、頭皮頭髪に適用する頭皮頭髪用化粧料に配合することが好適である。
【0038】
本発明の頭皮頭髪用化粧料は、上記本発明のWnt10b産生促進剤を含有するものである。
【0039】
本発明の頭皮頭髪用化粧料としては、例えば整髪料、ヘアトニック、シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアリンス、養毛剤、育毛剤等が挙げられる。
【0040】
本発明の頭皮頭髪用化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で、頭皮頭髪用化粧料に従来から使用される成分を配合することもできる。このような成分としてはWnt10b産生促進剤に使用可能な前記の他の成分を挙げることができる。
本発明の頭皮頭髪用化粧料における上記植物抽出物の総含有量は、特に限定されないが、製剤化する場合、剤形や使用回数、配合する賦形剤や添加剤の種類などに応じて適宜選択され得る。
【0041】
例えばいずれも抽出物を用いたヘアトニックの場合、上記植物抽出物の総含有量が例えば乾燥物の質量で好ましくは0.000001~10質量%、より好ましくは0.00001~5質量%、さらにより好ましくは0.0001~3質量%であるという量が挙げられる。本発明の頭皮頭髪用化粧料においては、植物抽出物の総含有量がこのような範囲となるように、適宜Wnt10b産生促進剤の配合量を調節すればよい。
【0042】
総含有量が前記下限未満であると本発明の作用が得られない恐れがあり、前記上限を超えると含有量に見合った作用が得られない傾向があり、コスト的に不利である。
【0043】
本発明の効果を得るために有効な上記植物抽出物の総量は、例えば抽出物の乾燥物として通常成人1日当たり0.00005~0.01gである。この範囲の量を1日数回、例えば1~2回で頭皮に使用することが好ましく、毛髪量、使用回数、剤形に応じて化粧料を使用すれば良い。
【0044】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
(1)製造方法
(原料製造例1)チンピ抽出物
ウンシュウミカンの果皮を50g採取し、375mlの50質量%エタノール水溶液に室温(約25℃)下で浸漬した。24時間後これをろ過し、得られた抽出液から水、エタノールを減圧留去後、凍結乾燥しチンピ抽出物14.3g得た。
【0046】
(原料製造例2)セイヨウイラクサ抽出物
セイヨウイラクサの葉を50g採取し、375mlの50質量%エタノール水溶液に室温(約25℃)下で浸漬した。24時間後これをろ過し、得られた抽出液から水、エタノールを減圧留去後、凍結乾燥しセイヨウイラクサ抽出物4.8g得た。
【0047】
(原料製造例3)ボタン抽出物
ボタンの根を50g採取し、375mlの50質量%エタノール水溶液に室温(約25℃)下で浸漬した。24時間後これをろ過し、得られた抽出液から水、エタノールを減圧留去後、凍結乾燥しボタン抽出物6.5g得た。
【0048】
(原料製造例4)センキュウ抽出物
センキュウの根茎を50g採取し375mlの50質量%エタノール水溶液に室温(約25℃)下で浸漬した。24時間後これをろ過し、得られた抽出液から水、エタノールを減圧留去後、凍結乾燥センキュウ抽出物7.4g得た。
【0049】
(原料製造例5)ウメ抽出物
ウメの果実を50g採取し375mlの50質量%エタノール水溶液に室温(約25℃)下で浸漬した。24時間後これをろ過し、得られた抽出液から水、エタノールを減圧留去後、凍結乾燥ウメ抽出物10.3g得た。
【0050】
(原料製造例6)ステビア抽出物
ステビアの葉、茎を50g採取し、375mlの50質量%エタノール水溶液に室温(約25℃)下で浸漬した。24時間後これをろ過し、得られた抽出液から水、エタノールを減圧留去後、凍結乾燥しステビア抽出物17.2g得た。
【0051】
(2)Wnt10b産生促進試験
(2-1)細胞培養
細胞はヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡(株))を使用した。サブコンフルエント状態の毛乳頭細胞をトリプシン処理で剥離し、24ウェルプレートの各ウェルに播種し、10%胎仔ウシ血清含有ダルベッコ改変イーグル培地で、37℃、5%CO2条件下でサブコンフ
ルエントになるまで培養した。乾燥物換算で表2に記載の濃度となるように原料製造例1~6の各植物抽出物、比較成分であるカルシトリオール(Cayman CHEMICAL製)を同培地にそれぞれ添加し48時間培養した。培養後、培地を除去し毛乳頭細胞にISOGEN-II((株)ニッポンジーン製)を添加し付属のプロトコルに従って、トータルRNAを得た。
【0052】
(2-2)cDNAの合成
精製したトータルRNAを元に、PrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ(株)製)を用い、付属のプロトコルに従ってcDNAを合成した。
【0053】
(2-3)リアルタイムRT-PCRによるWnt10bのmRNA発現量の定量
PCR用の96ウェルプレートの各ウェルへ、SYBR Premix Ex TaqII(タカラバイオ(株)製)12.5μL、フォワードプライマー(0.4μM)1μL、リバースプライマー(0.4μM)1μL、cDNA(20ng/μL)2μL、RNaseフリー水8.5μLを加え、Thermal Cycler Dice Real Time System Software(タカラバイオ(株)製)用いてリアルタイムRT-PCRを行った。リアルタイムRT-PCRの反応は、95℃で30秒の初期変性、95℃で5秒の変性、60℃で30秒のアニーリング・伸長反応からなるサイクルを40回行った。表1にWnt10b増幅用プライマー及びハウスキーピング遺伝子として使用したグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)の増幅用プライマー(インビトロジェン社製)の配列を示す。
【0054】
増幅過程の蛍光強度からthreshold cycle値(一定の蛍光強度に到達するのに要したサイクル数)を解析し、ΔΔCt法によりWnt10b及びGAPDHのmRNA発現強度を算出した。Wnt10bの発現強度をGAPDHの発現強度で補正し、Wnt10bのmRNA発現量を求めた。
【0055】
実施例1~36と比較例1~2においてWnt10bmRNA発現量を(a)、比較例1のWnt10bmRNA発現量を(b)とし、(a)/(b)で表される値を発現量比とした。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
表2~3に示すように、カルシトリオールは、Wnt10b産生効果が認められた(比較例2)。一方、本発明のチンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物、センキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物は優れたWnt10b産生促進剤が認められ(実施例1~12)、さらにこれらを組み合わせると相乗効果がみられた(実施例13~36)。
【0060】
(3)育毛作用試験
本発明のWnt10b産生促進剤としてチンピ抽出物、セイヨウイラクサ抽出物、ボタン抽出物、センキュウ抽出物、ウメ抽出物、ステビア抽出物を頭皮頭髪用化粧料(シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック)に配合して育毛効果を評価した。
【0061】
(3-1)頭皮頭髪用化粧料の調製
試験用頭皮頭髪用化粧料として、シャンプー、コンディショナー及びヘアトニックを以下の組成で調製した。なお、配合量の単位は質量部で、精製水の「残量」とは全量を100質量部とするのに要する量である。また、シャンプーにおけるクエン酸25質量%水溶液の適量とはpHを4~6に調整するのに要する量、塩化ナトリウム10質量%水溶液の適量とは粘度を1000~3000mPa・sに調製するのに要する量である。コンディショナーにおけるクエン酸25質量%水溶液の適量とは、pHを3~6に調製するのに要する量である。
【0062】
(i)シャンプー
ポリクオタニウム-10 0.3
コカミドプロピルベタイン 10
ココイルメチルタウリンナトリウム 5
コカミドモノエタノールアミド 1
メチルパラベン 0.2
クエン酸25質量%水溶液 適量
塩化ナトリウム10質量%水溶液 適量
香料 0.4
精製水 残量
Wnt10b産生促進剤 表4に記載の量
比較成分 表4に記載の量
────────────────────────────────────
合計 100
(ii) コンディショナー
ジメチコン 3
セタノール 4
パルミチン酸イソプロピル 1
ステアルトリモニウムクロリド 2.5
メチルパラベン 0.2
クエン酸25質量%水溶液 適量
香料 0.4
精製水 残量
Wnt10b産生促進剤 表4に記載の量
比較成分 表4に記載の量
────────────────────────────────────
合計 100
(iii)ヘアトニック
エタノール 40
ポリオキシエチレン(40モル)硬化ヒマシ油 1
メチルパラベン 0.2
香料 0.1
精製水 残量
Wnt10b産生促進剤 表4に記載の量
比較成分 表4に記載の量
────────────────────────────────────
合計 100
【0063】
【0064】
(3-2)評価
実施例37~42、比較例3~4の頭皮頭髪用化粧料組成物(シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック)について、それぞれ30~60歳代の男女5名8グループを被験者とした。
【0065】
シャンプー及びコンディショナーは、毎日の入浴時に頭髪に3~10g使用してもらい、ヘアトニックは毎日の入浴後及び朝に頭皮に約1.3mL使用してもらった。このモニター試験を6ヶ月間継続し、試験開始前と終了後の各3日間において、1日1回の洗髪時の抜け毛数を数えた。1日当たりの抜け毛数を3日分の抜け毛数の平均値として算出し、試験開始前の平均抜け毛数に対する終了後の平均抜け毛数の減少率を算出し、下記の評価点基準に従って点数をつけた。次に、各被験者5名の評価点を合計し、合計点が大きいほどより育毛効果があると判定した。尚、この期間中、前記以外の頭皮頭髪用化粧料については、通常使用しているものをそのまま使用した。使用期間中に皮膚や身体の異常を訴えた者はいなかった。
【0066】
上記の結果から明らかなとおり、本発明のWnt10b産生促進剤は、頭皮頭髪用化粧料に配合することにより、顕著な育毛効果を発揮することが確認できた。
【0067】
(評価点基準)
5点:40%以上の減少
4点:30%以上から40%未満の減少
3点:20%以上から30%未満の減少
2点:10%以上から20%未満の減少
1点:1%以上から10%未満の減少
0点:1%未満の減少、変化なし、抜け毛が増加した
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のWnt10b産生促進剤は、毛乳頭細胞における優れたWnt10b産生促進効果を有しており、抜け毛や薄毛の予防などの頭髪状態改善を目的とした化粧料をはじめとする各種外用剤への利用が可能となる。
【0069】
また、本発明の頭皮頭髪用化粧料は優れた育毛作用を有しており、抜け毛や薄毛の予防や改善を図ることができる。