(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システム
(51)【国際特許分類】
B63B 35/00 20200101AFI20221019BHJP
B63B 35/38 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
B63B35/00 T
B63B35/38 B
(21)【出願番号】P 2018072437
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 賢五
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰人
(72)【発明者】
【氏名】四谷 友騎
(72)【発明者】
【氏名】小橋 健太
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113123(JP,A)
【文献】特開2016-166527(JP,A)
【文献】特開平08-167729(JP,A)
【文献】特開2003-229593(JP,A)
【文献】登録実用新案第3193799(JP,U)
【文献】特開2015-226393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0006391(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106926977(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
B63B 35/38
H02S 10/40
H02S 10/00
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の太陽電池モジュールと、これらの太陽電池モジュールを支持して水面に浮くフロートとを有する水上太陽光発電システムの支持構造であって、
前記フロートには、該フロートを水面の定位置に拘束する係留部材が備えられ、
前記複数の太陽電池モジュールは前記フロート上に傾斜状態で支持されて、かつ各太陽電池モジュールの受光面の傾斜方向が特定方向に揃えられており、
前記係留部材は、前記フロートの辺縁部であって、前記受光面の傾斜方向に対して左右両側となる位置に接続され
、前記受光面の傾斜方向に対して交差する方向に配設された第一の係留部材と第二の係留部材とを有し、
前記第一の係留部材と前記第二の係留部材とは前記フロートを挟んで互いに対向して複数配列され、
前記第一の係留部材および前記第二の係留部材は総数nの係留杭を備え、各係留杭が支持する荷重をqとし、前記複数の太陽電池モジュールの受光面に対して垂直に作用する風圧荷重の総和をWとし、前記太陽電池モジュールの受光面の前記フロートに対する傾斜角度をθ(°)(θ<90°)とするとき、
前記第一の係留部材において支持する荷重の総和Q
1
および第二の係留部材において支持する荷重の総和Q
2
について、
Q
1
+Q
2
=nq>Wsinθ
の関係式を満たすことを特徴とする水上太陽光発電システムの支持構造。
【請求項2】
請求項
1に記載の水上太陽光発電システムの支持構造において、
前記フロートに作用する水平地震力である地震荷重をKとするとき、前記第一の係留部材において支持する荷重の総和Q
1について、Q
1>Kの関係式を満たし、
前記第二の係留部材において支持する荷重の総和Q
2について、Q
2>Kの関係式を満たすことを特徴とする水上太陽光発電システム。
【請求項3】
請求項
2に記載の水上太陽光発電システムの支持構造において、
前記第一の係留部材および前記第二の係留部材は、前記地震荷重Kを支持する複数の係留杭を備えることを特徴とする水上太陽光発電システムの支持構造。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一つの請求項に記載の水上太陽光発電システムの支持構造において、
前記フロートは、複数のフロート単体が連結されて一体とされた水上構造物であり、各フロート単体に前記太陽電池モジュールが傾斜状態で備えられていることを特徴とする水上太陽光発電システムの支持構造。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一つの請求項に記載の水上太陽光発電システムの支持構造によって、複数の太陽電池モジュールを水上に支持してなる水上太陽光発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電システムを水上に設置するための支持構造および水上に設置されて発電する水上太陽光発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水上太陽光発電システムとして、太陽光発電設備を湖や池などの水面に設置することが行われている。この種の水上太陽光発電システムでは、太陽電池モジュールを水面のフロートの上に載せて、太陽電池モジュールを水上に浮かせるように構成されている。通常、一つのフロートに対して一つの太陽電池モジュールが載せられ、複数のフロートが連結されて水上太陽光発電システムが形成されている。
【0003】
一般に、太陽電池モジュールは、その傾斜角度を太陽光の最適入射角に設置することで発電効率が高められる。水上太陽光発電システムにおいても、同様に、太陽電池モジュールを傾斜させて配置することが好ましい。一方で、太陽電池モジュールを陸屋根や地面等の水平面に設置する場合とは異なり、風などで波打ち、上下動する水面において、太陽電池モジュールを備えたフロートを安定的に支持し、強風で吹き上げられたり反転したりしないように繋ぎ止めておくことも求められる。
【0004】
例えば特許文献1には、複数の太陽電池ユニット同士を連結し、隣り合う太陽電池ユニットの互いの揺動を許容した状態で水面に設置するという連結構造が開示されている。また、連結した太陽電池ユニットの外周角部に固定用索を連結し、斜め外方に延びる固定用索の端部をアンカーによって水中に固定することで、太陽電池ユニットの反転を防止する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示された連結構造では、碁盤目状索の4つの角部から対角方向外方へ延びる固定用索の端部をアンカーで固定して太陽電池ユニットを係留しているが、4つの角部を係留するだけでは強風時や地震時に耐えられないことが考えられる。特に、フロートの大きさや太陽電池モジュールの設置数によっては、1箇所の係留にかかる負荷が格段に大きくなり、風圧荷重に十分に耐えることができず、強風でフロートが吹き上げられたり反転したりする危険性がある。
【0007】
このように、水上に設置される太陽光発電システムでは、太陽電池モジュールの受光面に対して垂直方向に風圧荷重が作用することに加え、地震力がフロートに対して水平方向に作用することを考慮に含めなければならない。例えば、
図6に模式的に示すように、発電効率を高めるべく南向きで水上に設置された太陽電池モジュール61への風圧荷重を考慮すると、通常、フロート62の北側と南側とに多数の係留部材63が必要となり、これによって南北方向の地震荷重も負担させなければならない。加えて、作用方向が特定されない地震荷重に対応するために、さらにフロート62の東側と西側にも多数の係留部材64が必要になるという実情があった。
【0008】
そのため、従来の水上太陽光発電システムでは、フロート62への係留数が増加して設置作業に手間がかかるとともに、水上太陽光発電システムを設置するために要するコストも増大するという問題点を有していた。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、水上における太陽電池モジュールの配置形態にかかわらず安定的な係留と係留数の低減との両方を実現し得る、新たな水上太陽光発電システムの支持構造およびこの支持構造を用いた水上太陽光発電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、複数の太陽電池モジュールと、これらの太陽電池モジュールを支持して水面に浮くフロートとを有する水上太陽光発電システムの支持構造であって、前記フロートには、該フロートを水面の定位置に拘束する係留部材が備えられ、前記複数の太陽電池モジュールは前記フロート上に傾斜状態で支持されて、かつ各太陽電池モジュールの受光面の傾斜方向が特定方向に揃えられており、前記係留部材は、前記フロートの辺縁部であって、前記受光面の傾斜方向に対して左右両側となる位置に接続されたことを特徴としている。
【0011】
この特定事項により、複数の太陽電池モジュールと、これらの太陽電池モジュールを支持して水面に浮くフロートとを安定的に係留し、水面に拘束することが可能となり、太陽電池モジュールの配置形態にかかわらず、吹き上げられたり反転したりすることを防ぐことができる。また、前記係留部材を少なくとも前記受光面の傾斜方向に対して左右両側となる位置に配置することで対応し得るので、その係留数を低減することが可能となる。
【0012】
また、前記構成の水上太陽光発電システムの支持構造において、前記係留部材は、前記受光面の傾斜方向に対して交差する方向に配設された第一の係留部材と第二の係留部材とを有し、これらの第一の係留部材と第二の係留部材とは前記フロートを挟んで互いに対向して複数配列されていることが好ましい。
【0013】
これにより、前記第一の係留部材および前記第二の係留部材がフロートに対してバランスよく配列され、太陽電池モジュールの受光面に作用する風圧荷重とフロートに作用する地震荷重とを分担させて、太陽電池モジュールを安定的に支持することが可能となる。
【0014】
より具体的に、前記構成の水上太陽光発電システムの支持構造において、前記第一の係留部材および前記第二の係留部材は総数nの係留杭を備え、各係留杭が支持する荷重をqとし、前記複数の太陽電池モジュールの受光面に対して垂直に作用する風圧荷重の総和をWとし、前記太陽電池モジュールの受光面の前記フロートに対する傾斜角度をθ(°)(θ<90°)とするとき、前記第一の係留部材において支持する荷重の総和Q1および第二の係留部材において支持する荷重の総和Q2について、
Q1+Q2=nq>Wsinθ
の関係式を満たす構成であることが好ましい。
【0015】
これにより、前記第一の係留部材および前記第二の係留部材は、太陽電池モジュールの受光面に作用する風圧荷重の水平成分を複数の係留杭に分担させて、水上の太陽電池モジュールを安定的に支持することが可能となる。
【0016】
また、前記構成の水上太陽光発電システムの支持構造において、前記フロートに作用する水平地震力である地震荷重をKとするとき、前記第一の係留部材において支持する荷重の総和Q1について、Q1>Kの関係式を満たし、前記第二の係留部材において支持する荷重の総和Q2について、Q2>Kの関係式を満たす構成であることが好ましい。
【0017】
これにより、前記第一の係留部材および前記第二の係留部材は地震荷重を分担し、水上の太陽電池モジュールを安定的に支持することが可能となる。
【0018】
また、前記構成の水上太陽光発電システムの支持構造において、前記第一の係留部材および前記第二の係留部材は、前記地震荷重Kを支持する複数の係留杭を備えることが好ましい。
【0019】
これにより、前記第一の係留部材および前記第二の係留部材が備える係留杭によって、フロートに作用する地震荷重を負担することが可能となる。
【0020】
また、前記構成の水上太陽光発電システムの支持構造において、前記フロートは、複数のフロート単体が連結されて一体とされた水上構造物であり、各フロート単体に前記太陽電池モジュールが傾斜状態で備えられていることが好ましい。
【0021】
これにより、本太陽光発電システムを適用する池や湖など、設置場所の形状に合わせて多様な配置形態により太陽電池モジュールおよびフロートを設置することができる。
【0022】
前記の目的を達成するため前記いずれかの構成を備える水上太陽光発電システムの支持構造によって、複数の太陽電池モジュールを水上に支持してなる水上太陽光発電システムも本発明の技術的思想の範疇である。
【0023】
これにより、水上に太陽電池モジュールを安定的に設置するとともに低コスト化を可能にした水上太陽光発電システムを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、水上における太陽電池モジュールの配置形態にかかわらず安定的な係留と係留数の低減との両方を実現することが可能となり、設置作業の手間を低減するとともに低コスト化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態1に係る水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システムを示す平面図である。
【
図2】前記水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システムにおけるフロート単体を示す斜視図である。
【
図3】前記水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システムにおけるフロートを拡大して部分的に示す平面図である。
【
図4】前記水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システムにおける風圧荷重を説明する模式図であり、
図4(a)は順風のときの様子、
図4(b)は逆風のときの様子を示す。
【
図5】本発明の実施形態2に係る水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システムを示す平面図である。
【
図6】従来の水上太陽光発電システムの支持構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態に係る水上太陽光発電システムの支持構造およびこの支持構造を適用した水上太陽光発電システムについて、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る水上太陽光発電システム1の支持構造および水上太陽光発電システムを示す平面図である。また、
図2は実施形態1において適用されるフロート3を構成するフロート単体31の一例を示す斜視図であり、
図3はフロート3の構成を部分的に拡大して平面図である。
【0028】
図示するように、水上太陽光発電システム1は、複数の太陽電池モジュール2と、これらの太陽電池モジュール2を支持して水面に浮くフロート3とを有して構成されている。
図1では、水面に浮かんだ状態のフロート3および太陽電池モジュール2を上方から見て模式的に示している。
【0029】
略矩形状のフロート3の上面には、複数の太陽電池モジュール2がマトリクス状に並べられ、フロート3に一体に固定されている。なお、フロート3同士の間にはメンテナンス作業を行う歩行スペースとなる補助フロートが接続されていてもよい。太陽電池モジュール2は、例えば矩形状のものとされ、ガラスやフィルム等からなる受光面保護材と裏面保護材との間に図示しない複数の太陽電池を挟み込んで封止された構造を有している。太陽電池モジュール2に用いられる太陽電池の種類は特に限定されず、例えば、単結晶、多結晶、薄膜等のシリコン系太陽電池、GaAs、CdTe、CdS等の化合物系太陽電池、色素増感、有機薄膜等の有機系太陽電池等が挙げられる。
【0030】
具体的に、
図2および
図3に示すように、フロート3は、複数のフロート単体31が相互に連結されて一体に形成されている。
図2に示すように、フロート単体31は、例えば、内部が中空の樹脂成形浮体であり、太陽電池モジュール2が設置された状態で十分な浮力が得られる水上構造物とされている。
【0031】
フロート単体31には複数の連結部32が備えられている。各連結部32は、フロート単体31の側面から外方へ突出するように設けられている。また、連結部32には軸孔33が設けられており、連結部32同士を連結するための連結軸部材34が挿通させられる。
【0032】
隣り合うフロート単体31は、軸孔33同士が合致するように互いの連結部32を重ね合わせ、これらの軸孔33に連結軸部材34を挿通して連結されている。連結軸部材34は、例えばボルト状部材とナット状部材とを有して、それらの軸方向がほぼ水平方向となるように連結部32の軸孔33に挿通されて螺合されている。連結されたフロート単体31同士は、連結部32において連結軸部材34を回動中心として回動可能となされている。
【0033】
太陽電池モジュール2は、太陽光の受光効率を高めるため、フロート単体31の上面35に対して太陽電池モジュール2の受光面21が傾斜した状態となるようにフロート単体31に取り付けられている。水上太陽光発電システム1は、太陽電池モジュール2を一体に備えた複数のフロート単体31を水面に浮かべ、これらのフロート単体31が相互に連結されて形成されている。
【0034】
このように、本実施形態1に係る水上太陽光発電システム1では、フロート3が、連結された複数のフロート単体31を備えており、フロート単体31同士が上下方向に回動可能であることから、水面に生じる波の影響でフロート単体31が上下変位したとしても、その上下変位を許容し得るように構成されている。また、これによって、フロート単体31や連結部32に過剰な負荷がかかるのを防止し、破損の発生を抑制することが可能とされている。
【0035】
各太陽電池モジュール2の受光面21は、傾斜方向が特定方向に揃えられており、共通の方向に向くように設置されている。
図1に示すように、例えば、水上には、矩形状のフロート3の一辺が南北方向に沿うように配置され、該一辺に隣接する他の一辺が東西方向に沿うように配置されている。そして、
図2に示すように、フロート3上の複数の太陽電池モジュール2は、各受光面21が南向きとなるように傾斜方向が揃えられている。
【0036】
このように傾斜方向を特定方向に揃えた太陽電池モジュール2は、フロート3が水面に拘束されることで、受光面21の向きが一定に保持される。
図1に模式的に示すように、フロート3には、フロート3の全体を水面の定位置に拘束するための係留部材5が備えられている。
【0037】
係留部材5は、フロート3の辺縁部であって、受光面21の傾斜方向である南北方向に対して交差する方向となる、東側辺縁部3aと西側辺縁部3bとに接続されている。この場合、フロート3は南北方向に沿って配置されており、太陽電池モジュール2の南向きの受光面21に向かって左右両側に係留部材5が配置されている。
【0038】
係留部材5として、フロート3の東側辺縁部3aには第一の係留部材51が設けられ、西側辺縁部3bには第二の係留部材52が設けられている。第一の係留部材51と第二の係留部材52とは、フロート3を挟んで互いに対向して配列され、受光面21の傾斜方向(南北方向)に対して交差する方向に配設されている。
【0039】
第一の係留部材51および第二の係留部材52は、それぞれ、複数の係留杭55と、係留杭55とフロート3とを繋ぐ係留索56とを備えている。係留杭55は、アンカー等の柱状体であり、水底、水中の壁面または岸辺の構造物に打ち込まれて定着されている。係留索56は、ケーブル、ロープ、またはチェーン等の索条体であり、一端がフロート3に連結され、他端が係留杭55に連結されている。
【0040】
第一の係留部材51および第二の係留部材52は、太陽電池モジュール2への風圧荷重を考慮して設置されている。風圧荷重は、太陽電池モジュール2の受光面21に作用する風圧力による荷重である。風圧荷重を考慮して、第一の係留部材51および第二の係留部材52は、総数nの係留杭55とこれに連結されたn本の係留索56とを備えている。
【0041】
図4(a)および
図4(b)に示すように、太陽電池モジュール2の受光面21は、フロート単体31の上面35に対して傾斜角度θ(°)(θ<90°)で傾斜させて備えられている。フロート単体31に対して傾斜状態で設けられた太陽電池モジュール2は、受光面21の全体が受風面となり、受光面21に対して垂直方向に風圧荷重が作用するものとなる。
図4(a)では、受光面21は南側からの風による順風を受け、受光面21に正圧の風圧荷重Wが作用する。
図4(b)では、受光面21は北側からの風による逆風を受け、太陽電池モジュール2の裏面側に風が入り込み、受光面21に負圧の風圧荷重Wが作用する。
【0042】
このような場合に、各係留杭55が支持する荷重をq(N)とし、複数の太陽電池モジュール2の受光面21に対して垂直に作用する風圧荷重をW(N)とする。また、第一の係留部材51において支持する荷重の総和Q1(N)、および第二の係留部材52において支持する荷重の総和Q2(N)とすると、これらの荷重Q1、Q2について、次式(1)の関係が成り立つように係留部材5が設けられている。
【0043】
Q
1+Q
2=nq>Wsinθ …(1)
図1に示す例では、第一の係留部材51として12本の係留索56と係留杭55とが備えられている。同様に、第二の係留部材52として12本の係留索56と係留杭55とが備えられている。これにより、第一の係留部材51および第二の係留部材52は、総数24本の係留杭55とこれにそれぞれ連結された係留索56とを備えて構成されている。
【0044】
係留部材5は、南北方向に傾斜された受光面21に作用する風圧荷重Wに対し、その水平成分Wsinθを、n本の係留杭55により支持してフロート3を安定的に拘束することができる。そして、係留部材5として、東側辺縁部3aの第一の係留部材51に1/2n本の係留杭55を配置し、これに対向させて西側辺縁部3bの第二の係留部材52に1/2n本の係留杭55を配置して、風圧荷重Wの水平成分Wsinθを均等に分散させて支持し、水平成分Wsinθを超える荷重に耐え得るように構成されている。
【0045】
この風圧荷重Wは、JIS C 8955「太陽電池アレイ用支持物の設計用荷重算出方法」に規定される設計用風圧荷重を想定荷重として採用することができる。なお、風圧荷重Wは、前記JIS C 8955に規定される風圧荷重のほか、水上太陽光発電システム1を設置する国において規定されている各種法令や、設置地域の平均風速などの気象条件および安全率等を考慮して、任意の荷重を設定することができる。
【0046】
これにより、水上太陽光発電システム1は、第一の係留部材51および第二の係留部材52により水面にフロート3が安定的に支持されている。また、かかる水上太陽光発電システム1の支持構造によって、複数の太陽電池モジュール2を水面に安定的に拘束した水上太陽光発電システム1を構築することができる。この水上太陽光発電システム1では、
図6に示した従来の水上太陽光発電システムに比べて、係留部材5の数を格段に低減することが可能となり、設置作業の手間を低減するとともに低コスト化を図ることが可能となる。
【0047】
なお、フロート単体31は樹脂成形浮体であるに限定されず、例えば浮体内部が発泡スチロール等の発泡プラスチックで充填されていてもよいし、金属製の中空タンク等であってもよく、水面に浮く構造を有するものであればどのような構成とされてもよい。また、太陽電池モジュール2の配置形態およびフロート3の形状は、
図1等に示した形態であるに限られず、設置される池や湖等の形状や環境条件等に合わせてどのような形態とされてもよい。その場合にも、前記支持構造を採用することにより、水上における太陽電池モジュール2を安定的に係留して水面の定位置に拘束することができ、係留数を低減することが可能となる。
【0048】
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係る水上太陽光発電システムの支持構造および水上太陽光発電システムを示す平面図である。この形態において、太陽電池モジュール2、フロート3および係留部材5の基本構成は前記実施形態1と共通することから、その共通する構成については前記実施形態1と共通の参照符号により示し、これらの詳細な説明を省略する。
【0049】
実施形態2に係る水上太陽光発電システム1の支持構造および水上太陽光発電システム1では、風圧荷重に加えて、さらに地震荷重を考慮に含めた場合を示し、複数の係留部材5によって支持された構造を有している。
【0050】
図4(a)および
図4(b)に示したように、水上太陽光発電システム1において、フロート単体31上に傾斜状態で設けられた太陽電池モジュール2は、受光面21の全体が受風面となる。太陽電池モジュール2の受光面21は、フロート単体31の上面35に対して傾斜角度θ(°)(θ<90°)で傾斜させて備えられ、風圧荷重Wが作用する。
【0051】
一方、地震による影響については、フロート3に作用する水平地震力を地震荷重K(N)として考慮する。地震荷重Kは、地域的な地震頻度を考慮して決定される層剪断係数の割引係数である地震地域係数を用いて算定することができる。
【0052】
この実施形態2に係る水上太陽光発電システム1においても、係留部材5は、それぞれ、複数の係留杭55と、係留杭55とフロート3とを繋ぐ係留索56とを備えている。そして、水上太陽光発電システム1の支持構造として、まず、前記JIS C 8955に基づいて、フロート3上の太陽電池モジュール2の受光面21に作用する風圧荷重W、および風圧荷重Wの水平成分であるWsinθを算定する。
【0053】
図5に示すように、略矩形状のフロート3の一辺が南北方向に沿って配置され、太陽電池モジュール2の受光面21が南向きである水上太陽光発電システム1を支持することを目的としたとき、南北方向の設計最大荷重は風圧荷重Wの水平成分Wsinθとなり、東西方向の設計最大荷重は地震荷重Kとなる。
【0054】
そこで、まず、フロート3の南北方向の設計最大荷重について検討する。この場合、風圧荷重Wについては、第一の係留部材51および第二の係留部材52が、総数nの係留杭55とこれに連結されたn本の係留杭55とを備え、各係留杭55が支持する荷重をq(N)とし、第一の係留部材51が支持する荷重の総和Q1(N)および第二の係留部材52が支持する荷重の総和Q2(N)について、次式(1)の関係式を満たす構成とされる。
【0055】
Q1+Q2=nq>Wsinθ …(1)
これにより、南北方向の設計最大荷重を、第一の係留部材51と第二の係留部材52とに均等に分散させて負担させることができる。また、地震荷重Kは、作用方向が特定されない水平地震力であるので、地震荷重Kについて、第一の係留部材51は支持する荷重の総和Q1が、次式(2)の関係式を満たすことを確認する。
【0056】
Q1>K …(2)
同様に、第二の係留部材52においても、支持する荷重の総和Q2が、次式(3)の関係式を満たすことを確認する。
【0057】
Q2>K …(3)
したがって、水上太陽光発電システム1において、フロート3の東側辺縁部3aに配列される第一の係留部材51と、西側辺縁部3bに配列される第二の係留部材52とは、独立してそれぞれ算定された前記(1)~(3)式を満たすものであり、係留杭55および係留索56の本数が決定される。
【0058】
図5に示す例では、第一の係留部材51として19本の係留杭55とこれらの係留杭55とフロート3とを繋ぐ係留索56とが備えられている。また、第二の係留部材52として、19本の係留杭55とこれらの係留杭55とフロート3とを繋ぐ係留索56とが同様に備えられている。加えて、荷重q以上の負荷に耐え得る強度を有する係留杭55および係留索56が選定されている。
【0059】
次いで、フロート3の東西方向の設計最大荷重となる地震荷重Kについて検討する。この場合、南北方向については考慮済みであるので、フロート3の北側辺縁部3cに第三の係留部材53が設けられ、フロート3の南側辺縁部3dに第四の係留部材54が設けられることで、東西方向の地震荷重Kに対応することができる。
【0060】
したがって、第三の係留部材53において支持する荷重の総和Q3(N)について、Q3>Kの関係式を満たすように係留杭55および係留索56の本数が決定される。また、第四の係留部材54において支持する荷重の総和Q4(N)について、Q4>Kの関係式を満たすように係留杭55および係留索56の本数が決定される。
【0061】
図5に示す例では、第三の係留部材53として10本の係留杭55とこれらの係留杭55とフロート3とを繋ぐ係留索56とが備えられている。また、第四の係留部材54として、10本の係留杭55とこれらの係留杭55とフロート3とを繋ぐ係留索56とが同様に備えられている。これにより、フロート3の東西南北の全方位に作用する荷重が係留部材5により支持された構造となされている。
【0062】
その結果、
図6に示した従来の水上太陽光発電システムの支持構造に比べて、係留部材5の数を格段に少なくすることが可能となるうえ、フロート3上の多数の太陽電池モジュール2を安定的に係留することが可能となり、設置作業の手間を軽減するとともに低コスト化を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、水上に設置される太陽光発電システムにおいて好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 水上太陽光発電システム
2 太陽電池モジュール
21 受光面
3 フロート
3a 東側辺縁部
3b 西側辺縁部
3c 北側辺縁部
3d 南側辺縁部
31 フロート単体
32 連結部
33 軸孔
34 連結軸部材
35 上面
5 係留部材
51 第一の係留部材
52 第二の係留部材
53 第三の係留部材
54 第四の係留部材
55 係留杭
56 係留索