(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】植物栽培棚用の送風装置、植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/02 20060101AFI20221019BHJP
A01G 9/00 20180101ALI20221019BHJP
A01G 9/18 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
A01G7/02
A01G9/00 B
A01G9/18
(21)【出願番号】P 2018120329
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136331
【氏名又は名称】小林 陽一
(72)【発明者】
【氏名】久保 義治
(72)【発明者】
【氏名】多田 拓平
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴雄
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-070230(JP,A)
【文献】特開2015-167481(JP,A)
【文献】登録実用新案第3212877(JP,U)
【文献】特開2018-068135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00- 7/02
A01G 9/00- 9/04
A01G 9/18
A01G 9/24- 9/26
A01G 31/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気装置と、圧力調整室と、送風管とを備え、給気装置は、二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室に供給するものであり、圧力調整室は、植物栽培棚の側方に上下方向に設けてあり、内部の圧力が一定に保たれるものであり、植物栽培棚の各段毎に空気吹出口が設けてあり、送風管は、一端部が圧力調整室の空気吹出口に連結してあることを特徴とする植物栽培棚用の送風装置。
【請求項2】
植物栽培棚と、送風装置とを備え、送風装置は、給気装置と、圧力調整室と、送風管とを有し、給気装置は、二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室に供給するものであり、圧力調整室は、植物栽培棚の側方に上下方向に設けてあり、内部の圧力が一定に保たれるものであり、植物栽培棚の各段毎に空気吹出口が設けてあり、送風管は、一端部が圧力調整室の空気吹出口に連結してあることを特徴とする植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培棚用の送風装置と植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場内に植物栽培棚を設置し、人工光源を使用して葉物野菜等の植物を栽培することが行われている。植物栽培棚の内部は、植物の蒸散によって湿気や熱がこもり、こもった湿気や熱を拡散して棚の内部を均一な温度に保つために、棚の植物に適度な風を送ってやる必要がある。
特許文献1に記載されたものは、棚の幅方向の一方側に給気ユニット23を、他方側に排気ユニット24を備え、給気ユニット23の矩形状の給気孔23cから棚の栽培空間に空気が吐出され、排気ユニット24は栽培空間の空気を吸い込んで棚の外に排気する。この栽培装置では、給気孔23cの近くでは風が強く、棚の幅方向の中央付近では風が弱くなり、そのために植物の生育にばらつきが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、棚の全ての植物に均一に適切な風を送り、均質な生育を行うことのできる植物栽培棚用の送風装置と植物栽培装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明による植物栽培棚用の送風装置は、給気装置と、圧力調整室と、送風管とを備え、給気装置は、二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室に供給するものであり、圧力調整室は、植物栽培棚の側方に上下方向に設けてあり、内部の圧力が一定に保たれるものであり、植物栽培棚の各段毎に空気吹出口が設けてあり、送風管は、一端部が圧力調整室の空気吹出口に連結してあることを特徴とする。ここで、「植物栽培棚の側方」には、植物栽培棚の正面から見て右側及び左側の側方の他、植物栽培棚の前方及び後方も含まれる。また、圧力調整室は、植物栽培棚の高さに応じて、少なくとも一番下の段の棚の送風管の高さ位置から一番上の段の棚の送風管の高さ位置に亘って、上下方向に設けてあればよい。
【0006】
請求項2記載の発明による植物栽培装置は、植物栽培棚と、送風装置とを備え、送風装置は、給気装置と、圧力調整室と、送風管とを有し、給気装置は、二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室に供給するものであり、圧力調整室は、植物栽培棚の側方に上下方向に設けてあり、内部の圧力が一定に保たれるものであり、植物栽培棚の各段毎に空気吹出口が設けてあり、送風管は、一端部が圧力調整室の空気吹出口に連結してあることを特徴とする。ここで、「植物栽培棚の側方」には、植物栽培棚の正面から見て右側及び左側の側方の他、植物栽培棚の前方及び後方も含まれる。また、圧力調整室は、植物栽培棚の高さに応じて、少なくとも一番下の段の棚の送風管の高さ位置から一番上の段の棚の送風管の高さ位置に亘って、上下方向に設けてあればよい。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明による植物栽培棚用の送風装置は、植物栽培棚の側方に上下方向に圧力調整室が設けてあることで、植物栽培棚の各段毎の送風管を圧力調整室に直接連結できるため、圧力損失が発生せず、また、送風管を通じて植物に向けて空気を送ることで、圧力調整室から離れるにつれて風が減衰するようなこともないから、棚の全ての植物に均一に適切な風を送り、均質な生育を行うことができる。さらに本発明の送風装置は、給気装置が二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室に供給することで、植物に適切な二酸化炭素濃度の空気を送ることができ、植物の光合成が活発になり生育も良くなる上、二酸化炭素濃度の調整を部屋全体で行うので、調整が簡単である。
【0008】
請求項2記載の発明による植物栽培装置は、植物栽培棚と送風装置とを備え、送風装置は、植物栽培棚の側方に上下方向に圧力調整室が設けてあることで、植物栽培棚の各段毎の送風管を圧力調整室に直接連結できるため、圧力損失が発生せず、また、送風管を通じて植物に向けて空気を送ることで、圧力調整室から離れるにつれて風が減衰するようなこともないから、棚の全ての植物に均一に適切な風を送り、均質な生育を行うことができる。送風装置は、給気装置が二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室に供給することで、植物に適切な二酸化炭素濃度の空気を送ることができ、植物の光合成が活発になり生育も良くなる上、二酸化炭素濃度の調整を部屋全体で行うので、調整が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】植物栽培装置の一実施形態を示す正面図である。
【
図4】送風管の周囲を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】(a)は送風装置(送風管連結前)の平面図、(b)は同送風装置の植物栽培棚側の側面図、(c)は同送風装置の正面図である。
【
図6】植物栽培装置が設置された植物工場の縦断面図である。
【
図7】植物栽培棚の各所で風速を測定した結果を示す表である。
【
図8】植物栽培棚の各所で測定した風速のばらつきを示すグラフである。
【
図9】(a)は比較例としての従来の植物栽培棚の平面図、(b)は同植物栽培棚の正面図である。
【
図10】本発明の植物栽培棚と比較例とで風速を測定した結果を示すグラフと表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図6は、野菜等を生産する植物工場を示しており、工場内の閉鎖された部屋8内に植物栽培装置1が複数設置してある。部屋8内には空調機9が備えてあり、空調機9により部屋8内の気温と湿度が一定に保たれている。具体的には、気温は22~26℃、湿度は60~80%に保たれている。
また、部屋8内には二酸化炭素濃度調整装置10を備えており、部屋8内の二酸化炭素濃度を大気の3~5倍に調整している。具体的には、大気の二酸化炭素濃度は約400ppmであるから、1200~2000ppm(実際には、1500ppmねらい)としている。
【0011】
植物栽培装置1は、
図1~3に示すように、植物栽培棚2と送風装置3とを備える。植物栽培棚2は、上下5段の棚板11,11,…と天板12とが支柱13に支持してある。植物栽培棚2は、左右方向の長さが約6m、奥行き(前後方向長さ)が約1.3m、高さが約2.5mある。各段の棚板11の上には、
図1,3に示すように、植物栽培用のトレー14が設置してある。天板12の下面と、上から1~4段目の棚板11の下面には、照明15が取付けてある。栽培する植物16は、特に限定されるものではないが、例えばレタス等の葉物野菜があげられる。
【0012】
送風装置3は、
図1~3に示すように、給気装置4と、圧力調整室5と、送風管6,6,…を有している。給気装置4と圧力調整室5は、
図1に示すように、植物栽培棚2の右側の側方に配置した架台17に設置してある。
給気装置4は、市販のシロッコファンを用いたもので、架台17の下部に設置してあり、モーターでファンを回転させることで部屋8の空気を吸い込んで圧力調整室5に送り込む。
圧力調整室5は、
図1,2に示すように、直方体の箱状のものであり、植物栽培棚2の正面から見て右側の側方に、一番下の段の棚の送風管6の高さ位置から一番上の段の棚の送風管6の高さ位置に亘って上下方向に設けてある。圧力調整室5は、上面が植物栽培棚2と略同じ高さであり、奥行き寸法は植物栽培棚2より少し小さくなっている。圧力調整室5は、
図5に示すように、底面に設けた孔18に給気装置4の排気口が短いダクト19で接続されており、当該孔18より給気装置4から空気が直接的に送り込まれることで、内部の圧力が一定に保たれる。また圧力調整室5は、
図1,2,5に示すように、植物栽培棚2側の側面に空気吹出口7,7,…が設けてある。空気吹出口7は、植物栽培棚2の各段毎に、前後方向に間隔をおいて3つずつ設けてある。
【0013】
送風管6は、ポリエチレン製のチューブで形成したものであり、
図1に示すように、植物栽培棚2の左右方向の全長に跨って設けてあり、右側の端部は圧力調整室5の空気吹出口7に連結され、左側の端部は閉じられている。送風管6は、
図3に示すように、植物栽培棚2の各段毎に前後方向に間隔をあけて3本ずつ設けてある。送風管6は、天板12及び棚板11の下面に取付けた略U字形の支持具20で支持してある。
送風管6は、長手方向に一定の間隔をおいて空気吹出口21が設けてある。空気吹出口21は、
図4に示すように、送風管6の下面側に垂直方向から前方及び後方に所定角度傾いた位置に設けてある。このように送風管6から風22を斜めに吹出すことで、植物の蒸散によりトレー14上にこもる湿気や熱を拡散させ、送風管6から送られてくる新しい空気で効率よく置換できる。送風管6の直径は48mmであり、空気吹出口21の直径は8mmとしてある。
風22の風速は、植物16に当たる近辺において、0.3~0.7m/secであることが好ましい。これは、自然界の平均風速に近く、植物の生育に好ましいからである。
送風管6は、全部で15本あるが、全て同じ長さ(6m)となっている。先に述べたように、圧力調整室5は給気装置4より常に空気が送り込まれることで内部の圧力が一定に保たれ、圧力調整室5の側面に設けた空気吹出口7,7,…に同じ直径・長さの送風管6,6,…を連結することで、上下位置にかかわらず全ての送風管6内の圧力が圧力調整室5内の圧力と略同じになっている。そして、送風管6の直径(48mm)に対して空気吹出口21の直径が8mmと非常に小さいため、空気吹出口21から空気が吹き出すことによる影響(圧力ロス)は殆ど無く、送風管6内の圧力が一定に保たれることによって、圧力調整室5からの距離が近い・遠いにかかわらず、各送風管6の全ての空気吹出口21からバランスよく風22が出て、風22の強さが略均一になる。
【0014】
圧力調整室5内の圧力は、送風管6の空気吹出口21から出る風22の風速が上記の範囲内となるように調整する。すなわち、風が弱い場合には、給気装置4の出力を上げて圧力調整室5の圧力を高め、反対に風が強すぎる場合には、給気装置4の出力を下げて圧力調整室5の圧力を下げる。
【0015】
本植物栽培棚2の各所で、送風管6の空気吹出口21から出る風22の風速を測定した結果を
図7に示す。風速の測定は、植物栽培棚2の各段の前後3本の各送風管6について、それぞれ圧力調整室5に近い右端の空気吹出口21、中央の空気吹出口21、圧力調整室5から最も離れた左端の空気吹出口21の、
図4に示すように、吹出口21付近とトレー14付近の2箇所ずつ測定した。
図7の表と
図8のグラフより明らかなように、高さの違いや圧力調整室からの距離等に関係なく、トレー14付近では風速が0.5~0.64m/secであり、ほとんどが0.51~0.58m/secに集中しており、ばらつきが小さいことが分かる。このとき、給気装置4の風量は、1650m
3/hであった。
【0016】
また、
図9に示すような従来の植物栽培棚を用い、棚の各所で風速がどのように変化するか測定し、本発明の植物栽培棚2との比較を行った。
図9に示す従来の植物栽培棚は、棚90の段数が4段で、棚の左右寸法が5m(本発明のものは6m)、棚90の各段の右端の位置に風を送るファン91が一つずつ設けられており、各段について右端位置と中央位置(約3m)と左端位置において、前後方向の中央位置で風速を測定した。本発明の植物栽培棚2についても、各段について右端位置と中央位置と左端位置において、前後方向の中央位置で風速を測定した。各段の風速を測定する際には、比較例と条件を同じにするため、当該段の前後方向に3本ある送風管6のうち前後の2本を閉じ、真ん中の送風管6だけから風が出る状態で測定した。測定結果を
図10に示す。
図10より明らかなように、比較例の従来の植物栽培棚では、ファンの近くの右端位置では風速が約1m/sと大きく、ファンから離れるにつれて風速が減衰し、左端位置では約0.2m/sまで減衰した。これに対し本発明の植物栽培棚2では、6mの棚の横幅全長にわたり風速がほとんど減衰せず、0.53~0.63m/sに風速が維持されている。
【0017】
以上に述べたように、本発明の植物栽培棚用の送風装置3は、植物栽培棚2の側方に上下方向に圧力調整室5が設けてあることで、植物栽培棚2の各段毎の送風管6,6,…を圧力調整室5に直接連結できるため、圧力損失が発生せず、また、送風管6,6,…を通じて植物16に向けて空気を送ることで、圧力調整室5から離れるにつれて風が減衰するようなこともないから、棚の全ての植物16に均一に適切な風を送り、均質な生育を行うことができる。さらに本発明の送風装置3は、給気装置4が二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室5に供給することで、植物16に適切な二酸化炭素濃度の空気を送ることができ、植物16の光合成が活発になり生育も良くなる上、二酸化炭素濃度の調整を部屋8全体で行うので、調整が簡単である。
本送風装置3は、送風管6,6,…の長さを全部同じにすることで、全ての送風管6,6,…でバランス良く空気を送ることができる。
また本送風装置3は、1つの給気装置4で植物栽培棚2の全ての段に送風でき、低コストである。さらに本送風装置3は、給気装置4を圧力調整室5に直接繋げ、送風管6,6,…を圧力調整室5の空気吹出口7に連結するだけでよく、複雑なダクト等が不要であり、簡単に設置できる。
【0018】
本発明の植物栽培装置1は、上述の送風装置3を備えることで、植物栽培棚2の全ての植物16に均一に適切な風を送り、均質な生育を行うことができる。しかも、送風装置3の給気装置4が二酸化炭素濃度が調整された部屋空気を吸い込んで圧力調整室5に供給することで、植物16に適切な二酸化炭素濃度の空気を送ることができ、植物16の光合成が活発になり生育も良くなる上、二酸化炭素濃度の調整を部屋8全体で行うので、調整が簡単である。
【0019】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。植物栽培棚の大きさ、形態等は、適宜変更することができる。圧力調整室の大きさ、送風管の長さ・本数などは、植物栽培棚の大きさ等に合わせて変更される。送風管は、チューブに孔(空気吹出口)を開けたものに限らず、全長から空気を出すことのできるソックダクトを用いることもできる。
【符号の説明】
【0020】
1 植物栽培装置
2 植物栽培棚
3 送風装置
4 給気装置
5 圧力調整室
6 送風管
7 空気吹出口