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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/22 20060101AFI20221019BHJP
   G05B 19/42 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
B25J9/22 A
G05B19/42 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018143137
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019080
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 繁次
(72)【発明者】
【氏名】掃部 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】丸山 佳彦
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033356(WO,A1)
【文献】特開2007-249267(JP,A)
【文献】特開昭55-048594(JP,A)
【文献】特開2011-224696(JP,A)
【文献】特開2014-065100(JP,A)
【文献】特開2004-243516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/22
G05B 19/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット本体と、
前記ロボット本体に所定の動作をさせるための自動動作情報を記憶する記憶部と、
前記自動動作情報に基づいて前記ロボット本体の動作を制御する動作制御部と、
前記自動動作情報に基づく動作中にある前記ロボット本体の動作を修正するための修正操作に基づいて修正操作情報を生成する操作部と、を備え、
前記動作制御部は、前記操作部からの入力に基づいて、前記自動動作情報に基づき前記ロボット本体を制御する自動モードと、前記修正操作情報を取得し、前記修正操作情報に基づく修正動作を行うよう前記ロボット本体を制御する修正自動モードとを含む複数の動作モードの中から実行する動作モードを選択可能とし、
前記記憶部は、前記修正動作に基づく修正動作情報を次回の前記自動動作情報として記憶可能に構成され、
前記自動動作情報は、前記ロボット本体の動作軌道における第1位置と、前記第1位置より動作方向下流側に設けられ、前記ロボット本体の動作の基準位置となる第2位置との位置情報を含み、
前記動作制御部は、
前記ロボット本体が前記第1位置に位置した場合、前記ロボット本体を停止させ、前記操作部からの前記動作モードの選択操作を受け付け、
前記第1位置において前記修正自動モードが選択された場合に、前記第2位置の位置座標を、前記自動動作情報における前記第2位置から変更可能とし、
前記第2位置の位置座標が変更された場合に、前記修正自動モードにおいて前記自動動作情報に基づくロボット本体の動作軌道のうちの前記第2位置を含む所定の動作区間における動作軌道の外形を保持しつつ前記ロボット本体が前記変更後の第2位置に到達するように、前記自動動作情報を補正するように構成される、ロボットシステム。
【請求項2】
前記第2位置は、前記ロボット本体が所定のワークに対して所定の作業を行うための基準位置として設定されている、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
ロボット本体と、
前記ロボット本体に所定の動作をさせるための自動動作情報を記憶する記憶部と、
前記自動動作情報に基づいて前記ロボット本体の動作を制御する動作制御部と、
前記自動動作情報に基づく動作中にある前記ロボット本体の動作を修正するための修正操作に基づいて修正操作情報を生成する操作部と、を備え、
前記動作制御部は、前記操作部からの入力に基づいて、前記自動動作情報に基づき前記ロボット本体を制御する自動モードと、前記修正操作情報を取得し、前記修正操作情報に基づく修正動作を行うよう前記ロボット本体を制御する修正自動モードとを含む複数の動作モードの中から実行する動作モードを選択可能とし、
前記記憶部は、前記修正動作に基づく修正動作情報を次回の前記自動動作情報として記憶可能に構成され、
前記自動動作情報は、前記ロボット本体の動作軌道における第1位置と、前記第1位置より動作方向下流側に設けられ、前記ロボット本体の動作の基準位置となる第2位置との位置情報を含み、
前記動作制御部は、
前記ロボット本体が前記第1位置に位置した場合、前記ロボット本体を停止させ、前記操作部からの前記動作モードの選択操作を受け付け、
前記第1位置において前記修正自動モードが選択された場合に、前記第2位置の位置座標を、前記自動動作情報における前記第2位置から変更可能とし、
前記第2位置の位置座標が変更された場合に、前記修正自動モードにおいて前記自動動作情報のうちの一部の要素を保持しつつ前記ロボット本体が前記変更後の第2位置に到達するように、前記自動動作情報を補正するように構成され、
前記第2位置は、前記ロボット本体が所定のワークに対して所定の作業を行うための基準位置として設定されており、
前記自動動作情報は、前記動作軌道の動作方向において前記第1位置と前記第2位置との間の第3位置の位置情報を含み、
前記動作制御部は、
前記第2位置の位置座標が変更された場合に、前記自動動作情報に基づく前記ロボット本体の動作軌道のうちの前記第3位置以降の所定の動作区間における動作軌道を算出する修正動作区間算出処理を行うよう構成され、
前記修正動作区間算出処理は、前記自動動作情報に基づくロボット本体の動作軌道のうちの前記第2位置を含む前記第3位置以降の所定の動作区間を前記第2位置の変更に合わせて平行移動させる処理を含むロボットシステム。
【請求項4】
前記ロボット本体は、スレーブアームを備え、前記操作部は、前記スレーブアームの作業領域外に設置されたマスターアームを備えている、請求項1から3の何れかに記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造現場では溶接、塗装、部品の組付け、シール剤の塗布などの繰り返し作業が産業用ロボットにより自動で行われている。ロボットに作業を行わせるためには、作業に必要な情報をロボットに指示し、記憶させる教示が必要になる。ロボットの教示方式としては、例えば、教示者がロボットを直接触って動かすことによるダイレクト教示、ティーチングペンダントを用いた遠隔操縦による教示、プログラミングによる教示、マスタースレーブによる教示などがある。例えば特許文献1には、ダイレクト教示によりロボットアームに作業の軌道を記憶させる教示作業の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-71231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、種々の理由からロボットに教示した動作を部分的に変更する必要が生じる場合がある。例えば、ワークのロット変更等によるロボットの作業対象の位置などが教示時のものから部分的に変化した場合には、ロボットが目的の作業を遂行できなくなったり、作業の精度が悪化したりするなどの問題が生じ得る。また、教示作業を終えた後に、当初作成した教示情報では作業の一部において不具合があることが発見される場合もある。このような場合には、改めて教示作業を行うことにより、ロボットの自動運転に使用される教示情報を変更することになる。しかし、教示には熟練者の技術が必要になることが多く、多くの時間と労力を要するため教示者に負担となっており、これは、ロボット動作の一部を変更する場合であっても同様である。
【0005】
そこで、本発明は、予め設定されたロボットの動作を容易かつ適切に修正可能なロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るロボットシステムは、ロボット本体と、前記ロボット本体に所定の動作をさせるための自動動作情報を記憶する記憶部と、前記自動動作情報に基づいて前記ロボット本体の動作を制御する動作制御部と、前記自動動作情報に基づく動作中にある前記ロボット本体の動作を修正するための修正操作に基づいて修正操作情報を生成する操作部と、を備え、前記動作制御部は、前記操作部からの入力に基づいて、前記自動動作情報に基づき前記ロボット本体を制御する自動モードと、前記修正操作情報を取得し、前記修正操作情報に基づく修正動作を行うよう前記ロボット本体を制御する修正自動モードとを含む複数の動作モードの中から実行する動作モードを選択可能とし、前記記憶部は、前記修正動作に基づく修正動作情報を次回の前記自動動作情報として記憶可能に構成され、前記自動動作情報は、前記ロボット本体の動作軌道における第1位置と、前記第1位置より動作方向下流側に設けられ、前記ロボット本体の動作の基準位置となる第2位置との位置情報を含み、前記動作制御部は、前記ロボット本体が前記第1位置に位置した場合、前記ロボット本体を停止させ、前記操作部からの前記動作モードの選択操作を受け付け、前記第1位置において前記修正自動モードが選択された場合に、前記第2位置の位置座標を、前記自動動作情報における前記第2位置から変更可能とし、前記第2位置の位置座標が変更された場合に、前記修正自動モードにおいて前記自動動作情報のうちの一部の要素を保持しつつ前記ロボット本体が前記変更後の第2位置に到達するように、前記自動動作情報を補正するように構成される。
【0007】
上記構成によれば、自動動作情報に基づくロボット本体の動作中に、操作部による修正操作に基づいてロボット本体の動作をリアルタイムに修正することができる。また、修正操作として、第2位置の位置座標(変更後の位置座標)を指定するだけで、元の自動動作情報のうちの一部の要素が保持された状態で、指定された第2位置にロボット本体が到達するようにロボット本体の動作が補正される。元の自動動作情報のうちの一部の要素が保持されることにより、教示時に熟練者が行った動作のコツ等を含むロボット本体の主要な動きを継承しつつ、所望の第2位置にロボット本体を位置させるように動作させることができる。したがって、予め設定されたロボットの動作を容易かつ適切に修正することができる。
【0008】
前記第2位置は、前記ロボット本体が所定のワークに対して所定の作業を行うための基準位置として設定されていてもよい。
【0009】
これにより、ロットの変更等でワークの設置位置が変わった場合であっても、作業位置を変えつつロボット本体の主要な動きが変わることを防止することができる。したがって、位置調整によってロボット本体の作業効率が悪化することを防止することができる。
【0010】
前記自動動作情報は、前記動作軌道の動作方向において前記第1位置と前記第2位置との間の第3位置の位置情報を含み、前記動作制御部は、前記第2位置の位置座標が変更された場合に、前記自動動作情報に基づく前記ロボット本体の動作軌道のうちの前記第3位置以降の所定の動作区間における動作軌道を算出する修正動作区間算出処理を行うよう構成され、前記修正動作区間算出処理は、前記自動動作情報に基づくロボット本体の動作軌道のうちの前記第2位置を含む前記第3位置以降の所定の動作区間を前記第2位置の変更に合わせて平行移動させる処理を含んでもよい。
【0011】
これにより、第2位置の位置座標が変更されても、第2位置を含む第3位置以降の所定の動作区間におけるロボット本体の動作軌道の外形は再現されるため、ロボット本体の主要な動きの継承を容易に実現することができる。
【0012】
前記ロボット本体は、スレーブアームを備え、前記操作部は、前記スレーブアームの作業領域外に設置されたマスターアームを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、予め設定されたロボットの動作を容易かつ適切に修正可能なロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施の形態の形態に係るロボットシステムの構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示すロボットシステムの制御系統の構成を示す模式図である。
図3図3は、図2に示す動作制御部の制御系のブロック図の一例を示す図である。
図4A図4Aは、本実施の形態におけるロボットシステムのハンド部の動作例を示す図である。
図4B図4Bは、図4Aに示すハンド部の自動動作情報に基づく動作軌道を示す図である。
図4C図4Cは、図4Bにおける基準位置変更後の動作軌道の一例を示す図である。
図5図5は、本実施の形態における基準位置の変更に基づく自動動作情報の補正処理についての流れを示すフローチャートである。
図6図6は、図4Bに示す動作軌道から基準位置を変更した後の動作軌道の他の例を示す図である
図7A図7Aは、本実施の形態の変形例におけるハンド部の自動動作情報に基づく動作軌道を示す図である。
図7B図7Bは、図7Aにおける基準位置変更後の動作軌道の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、一実施の形態の形態に係るロボットシステムの構成を示す模式図である。本実施の形態におけるロボットシステム100は、マスタースレーブ方式のロボットを利用したシステムである。図1に示すように、本実施の形態におけるロボットシステム100は、ロボット10と、マスターアーム70を含む入力装置2と、記憶装置4と、を備えている。
【0017】
ロボットシステム100では、スレーブアーム1の作業領域から離れた位置(作業領域外)にいるオペレータがマスターアーム70を動かして指令を入力することで、スレーブアーム1が該指令に対応した動作を行い、特定の作業を行うことができる。また、ロボットシステム100では、スレーブアーム1は、オペレータによるマスターアーム70の操作なしに、所定の作業を自動的に行うこともできる。
【0018】
本明細書では、マスターアーム70を介して入力された指令に従って、スレーブアーム1を動作させる動作モードを「手動モード」と称する。この手動モードでは、記憶装置4に記憶されている自動動作情報を用いることなく、操作者が操作する入力装置2からの操作情報(動作指令)を受けて、その操作情報に基づいて制御装置3がスレーブアーム1を動作制御する。なお、上述の「手動モード」には、オペレータがマスターアーム70を操作することによって入力された指令に基づいて動作中のスレーブアーム1の動作の一部が自動で動作補正される場合も含む。
【0019】
また、予め設定されたタスクプログラムに従ってスレーブアーム1を動作させる動作モードを「自動モード」と称する。この自動モードでは、記憶装置4に記憶されている自動動作情報に基づいて制御装置3がスレーブアーム1を動作制御する。
【0020】
さらに、本実施の形態におけるロボットシステム100では、スレーブアーム1の自動動作中に、マスターアーム70の操作をスレーブアーム1の動作に反映させて、自動で行うことになっていた動作を修正することができるように構成されている。本明細書では、マスターアーム70による修正操作に基づく修正操作情報を自動動作情報に基づくスレーブアーム1の動作に反映可能な状態で、予め設定されたタスクプログラムに従ってスレーブアーム1を動作させる動作モードを「修正自動モード」と称する。なお、上述の「自動モード」は、スレーブアーム1を動作させる動作モードが自動モードであるときはマスターアーム70の操作がスレーブアーム1の動作に反映されないという点で、「修正自動モード」と区別される。
【0021】
(ロボット10)
ロボット10は、スレーブアーム1と、スレーブアーム1の先端に装着されるエンドエフェクタ(図示略)と、スレーブアーム1およびエンドエフェクタの動作を制御する制御装置3とを備えている。スレーブアーム1は、基台15と、基台15に支持された腕部13と、腕部13の先端に支持され、エンドエフェクタが装着される手首部14とを備えている。本実施の形態において、スレーブアーム1と、エンドエフェクタとでロボット本体を構成している。
【0022】
スレーブアーム1は、図1に示すように3以上の複数の関節JT1~JT6を有する多関節ロボットアームであって、複数のリンク11a~11fが順次連結されて構成されている。より詳しくは、第1関節JT1では、基台15と、第1リンク11aの基端部とが、鉛直方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第2関節JT2では、第1リンク11aの先端部と、第2リンク11bの基端部とが、水平方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第3関節JT3では、第2リンク11bの先端部と、第3リンク11cの基端部とが、水平方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第4関節JT4では、第3リンク11cの先端部と、第4リンク11dの基端部とが、第4リンク11cの長手方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第5関節JT5では、第4リンク11dの先端部と、第5リンク11eの基端部とが、リンク11dの長手方向と直交する軸回りに回転可能に連結されている。第6関節JT6では、第5リンク11eの先端部と第6リンク11fの基端部とが、捻れ回転可能に連結されている。そして、第6リンク11fの先端部にはメカニカルインターフェースが設けられている。このメカニカルインターフェースには、作業内容に対応したエンドエフェクタが着脱可能に装着される。
【0023】
上記の第1関節JT1、第1リンク11a、第2関節JT2、第2リンク11b、第3関節JT3、及び第3リンク11cから成るリンクと関節との連結体によって、スレーブアーム1の腕部13が形成されている。また、上記の第4関節JT4、第4リンク11d、第5関節JT5、第5リンク11e、第6関節JT6、及び第4リンク11fから成るリンクと関節との連結体によって、スレーブアーム1の手首部14が形成されている。
【0024】
関節JT1~JT6のそれぞれには、それが連結する2つの部材を相対的に回転させるアクチュエータの一例としての駆動モータM(図3参照)が設けられている。駆動モータMは、例えば、制御装置3によってサーボ制御されるサーボモータである。また、関節JT1~JT6には、駆動モータMの回転位置を検出するための回転センサE(図3参照)と、駆動モータMの回転を制御する電流を検出するための電流センサC(図3参照)とが設けられている。回転センサEは、例えばエンコーダである。
【0025】
制御装置3は、例えば、マイクロコントローラ、MPU、PLC(Programmable Logic Controller)、論理回路等からなる演算部(図示せず)と、ROMやRAM等からなるメモリ部(図示せず)とにより構成することができる。
【0026】
図2は、図1に示すロボットシステム100の制御系統の構成を示す模式図である。制御装置3は、図2に示すように、機能ブロックとして、動作制御部31を備えている。この機能ブロックは、例えば、制御装置3の演算部がメモリ部に格納されているプログラムを読み出し実行することにより実現できる。動作制御部31は、スレーブアーム1の動作を制御する。動作制御部31によるスレーブアーム1の動作の制御についての詳細は後述する。
【0027】
(入力装置2)
入力装置2は、スレーブアーム1の作業領域外に設置され、オペレータからの操作指示を受け付け、受け付けた操作指示を制御装置3に送信する操作部を構成する装置である。入力装置2は、所定の設定入力等を行う入力部7と、マスターアーム70とを備えている。入力部7は、例えば、スイッチ、調整ツマミ、操作レバー、操作パネルまたは携帯端末(タブレット等)の表示画面に表示される仮想の入力ボタン等により構成され得る。
【0028】
図2に示すように、入力部7は、モード選択部71と、動作情報選択部72と、基準位置入力部73を備えている。モード選択部71は、スレーブアーム1を動作させる動作モードを、上述した自動モード、修正自動モードおよび手動モードからオペレータが選択するためのものである。動作情報選択部72は、スレーブアーム1に動作させるための複数の動作情報の中から、自動モードまたは修正自動モードでスレーブアーム1を動作させるときに動作制御部31が用いる動作情報を選択するためのものである。基準位置入力部73は、所定の作業の基準となる基準位置(後述する第2位置)をオペレータが入力するためのものである。
【0029】
マスターアーム70は、スレーブアーム1と相似構造をしているためマスターアーム70の構成に関する説明は省略する。ただし、マスターアーム70は、スレーブアーム1と非相似構造をしていてもよい。マスターアーム70を動かすことにより操作情報が生成され、生成された操作情報は制御装置3に送られる。本実施の形態のロボットシステム100では、スレーブアーム1を動作させる動作モードが手動モードであるときに操作情報が制御装置3に送られると、スレーブアーム1が制御装置3によりマスターアーム70の動きに追随して動くよう制御される。スレーブアーム1を動作させる動作モードが修正自動モードであるときに操作情報(修正操作情報)が制御装置3に送られると、当該修正操作情報に基づいて自動動作情報が修正され、修正後の修正動作情報に基づいてスレーブアーム1の動作が制御される。
【0030】
(カメラ51およびモニタ52)
さらに、ロボットシステム100は、カメラ51と、モニタ52と、を備えている。カメラ51は、スレーブアーム1の作業状況を撮影するカメラであり、モニタ52は、オペレータがスレーブアーム1による作業状況を確認するためモニタである。カメラ51は、スレーブアーム1が設けられている空間に設置されており、モニタ52は、マスターアーム70が設けられている空間に設置されている。オペレータは、モニタ52に表示されたスレーブアーム1の作業状況を見ながらマスターアーム70を操作する。カメラ51およびモニタ52は、制御装置3を介して接続されており、カメラ51により撮像された撮像情報は、制御装置3を介してモニタ52に送られる。ただし、カメラ51およびモニタ52は、制御装置3を介さずに、互いに直接または別の装置を介して接続されてもよい。カメラ51およびモニタ52は、互いに有線により接続されてもよいし、無線により接続されてもよい。
【0031】
(記憶装置4)
記憶装置4は、読み書き可能な記録媒体であり、スレーブアーム1に自動で所定の動作をさせるための情報が自動動作情報41として記憶されている。自動動作情報41は、スレーブアーム1に自動で所定の動作をさせるのに必要な全ての情報である必要はなく、一部の情報であってもよい。また、自動動作情報41は、スレーブアーム1の動作に関する情報であれば、いかなる情報であってもよい。例えば、自動動作情報41は、時系列データを含む軌道情報であってもよいし、所定の時間間隔ごと離散的な位置におけるスレーブアーム1の姿勢を表した経路情報であってもよい。自動動作情報41は、例えば、スレーブアーム1の軌道に沿った速度を含んでもよい。
【0032】
記憶装置4には、少なくとも1つの自動動作情報41が記憶されており、そのうちの1つは、例えば、教示作業により所定の作業を行うようスレーブアーム1を動作させて記憶された教示情報41aである。本実施の形態では、教示情報41aとしての自動動作情報41は、マスターアーム70を操作することによりスレーブアーム1の動作を指示し記憶させた情報であるが、これに限定されず、いかなる教示方式で記憶されたものであってもよい。例えば教示情報41aとしての自動動作情報41は、ダイレクト教示により記憶された情報であってもよい。なお、本実施の形態に係るロボットシステム100では、記憶装置4は、制御装置3と別体に設けられているが、制御装置3と一体として設けられていてもよい。
【0033】
(スレーブアーム1の動作制御)
以下では、動作制御部31によるスレーブアーム1の動作の制御について図2を参照して説明する。
【0034】
動作制御部31には、記憶装置4に記憶された少なくとも1つの自動動作情報41のうちの1つが、スレーブアーム1に自動で動作させるための自動動作情報として送られる。また、動作制御部31には、マスターアーム70を操作することにより生成された操作情報が送られる。
【0035】
動作制御部31は、モード選択部71で選択されている動作モードに従い、自動動作情報および操作情報の一方または両方を用いる。
【0036】
モード選択部71で選択されている動作モードが手動モードであるとき、動作制御部31は操作情報を用いる。より詳しくは、動作制御部31は、スレーブアーム1を動作させる動作モードが手動モードであるとき、記憶装置4に記憶された自動動作情報41を用いずに、マスターアーム70を操作することにより送られた操作情報(入力指令)に従って、スレーブアーム1の動作を制御する。
【0037】
また、モード選択部71で選択されている動作モードが自動モードであるとき、動作制御部31は自動動作情報を用いる。より詳しくは、動作制御部31は、スレーブアーム1を動作させる動作モードが自動モードであるとき、マスターアーム70から送られた操作情報を用いずに、予め設定されたタスクプログラムに従って記憶装置4から送られた自動動作情報に基づいてスレーブアーム1の動作を制御する。
【0038】
また、モード選択部71で選択されている動作モードが修正自動モードであるとき、動作制御部31は、自動動作情報および操作情報(修正操作情報)の両方を用いる。なお、動作モードが修正自動モードであるときに、修正操作情報が動作制御部31に送られていない場合は、動作制御部31は自動動作情報のみを用いる。より詳しくは、動作制御部31は、スレーブアーム1を動作させる動作モードが修正自動モードであるとき、スレーブアーム1が自動動作情報を用いた自動動作中に修正操作情報を受けると、修正操作情報に基づいて自動動作情報を修正し、修正後の修正動作情報に基づいてスレーブアーム1の動作を制御する。これにより、スレーブアーム1は、自動動作情報に関する動作、すなわち自動で行うことになっていた動作から修正された動作を行う。
【0039】
以下では、スレーブアーム1を動作させる動作モードが修正自動モードであるときのスレーブアーム1の動作修正について、図3を参照して説明する。図3は、図2に示す動作制御部31の制御系のブロック図の一例を示す図である。この例では、自動動作情報および修正操作情報は、例えば時系列データを含む軌道情報である。
【0040】
動作制御部31は、加算器31a、減算器31b,31e,31g、位置制御器31c、微分器31d、速度制御器31fを備え、自動動作情報に基づく指令値および修正操作情報に基づく指令値により、スレーブアーム1の駆動モータMの回転位置を制御する。
【0041】
加算器31aは、自動動作情報に基づく位置指令値に、修正操作情報に基づく修正指令値を加算することによって、修正された位置指令値を生成する。加算器31aは、修正された位置指令値を減算器31bに送る。
【0042】
減算器31bは、修正された位置指令値から、回転センサEで検出された位置現在値を減算して、角度偏差を生成する。減算器31bは、生成した角度偏差を位置制御器31cに送る。
【0043】
位置制御器31cは、予め定められた伝達関数や比例係数に基づいた演算処理により、減算器31bから送られた角度偏差から速度指令値を生成する。位置制御器31cは、生成した速度指令値を減算器31eに送る。
【0044】
微分器31dは、回転センサEで検出された位置現在値情報を微分して、駆動モータMの回転角度の単位時間あたりの変化量、すなわち速度現在値を生成する。微分器31dは、生成した速度現在値を減算器31eに送る。
【0045】
減算器31eは、位置制御器31cから送られた速度指令値から、微分器31dから送られた速度現在値を減算して、速度偏差を生成する。減算器31eは、生成した速度偏差を速度制御器31fに送る。
【0046】
速度制御器31fは、予め定められた伝達関数や比例係数に基づいた演算処理により、減算器31eから送られた速度偏差からトルク指令値(電流指令値)を生成する。速度制御器31fは、生成したトルク指令値を減算器31gに送る。
【0047】
減算器31gは、速度制御器31fから送られたトルク指令値から、電流センサCで検出された電流現在値を減算して、電流偏差を生成する。減算器31gは、生成した電流偏差を駆動モータMに送り、駆動モータMを駆動する。
【0048】
このように動作制御部31は駆動モータMを制御して、自動動作情報に関する動作から修正された動作を行うようスレーブアーム1を制御する。なお、スレーブアーム11の動作モードが自動モードであるときは、減算器31bに自動動作情報に基づく位置指令値が送られ、スレーブアーム11の動作モードが手動モードであるときは、減算器31bに操作情報に基づく位置指令値が送られる。
【0049】
記憶装置4は、修正された動作をスレーブアーム1が行ったときに、修正された動作をスレーブアーム1が行うための修正動作情報を、自動動作情報41として自動的に記憶するように構成されている。ただし、記憶装置4は、修正された動作をスレーブアーム1が行ったときに、上記の修正動作情報を自動動作情報41として記憶するか否かを選択できるように構成されてもよい。この場合、例えば、スレーブアーム1の修正された動作が終了した後に、制御装置3から入力装置2に修正された動作を記憶するか否かを問い合わせるよう構成されてもよい。
【0050】
動作制御部31は、次回以降の動作において、記憶装置4に自動動作情報41として記憶された修正動作情報を、自動動作情報として用いることが可能である。本実施の形態では、動作制御部31は、記憶装置4に記憶された最新の自動動作情報41を自動動作情報として用いてスレーブアーム1の動作を制御するよう構成されている。なお、修正操作を完全に反映した修正動作情報を次回の自動動作情報とする代わりに、修正操作を一部または所定割合反映したものを次回の自動動作情報としてもよい。
【0051】
(自動動作情報の補正処理)
以下、図4Aから図4Cを参照して、ロボットシステム100によるスレーブアーム1の動作修正の具体例について説明する。本例においては、孔61aが形成されたワーク61をスレーブアーム1が把持して、ワーク61の孔61aが所定位置に固定されたピン62に嵌合するようにワーク61を操作するという作業工程を例示する。
【0052】
図4Aは、本実施の形態におけるロボットシステムのハンド部の動作例を示す図である。図4Aに示すように、ピン62はある製品のフレーム63に設けられたものであり、そのフレーム63は工場の床に固定されている。ピン62はフレーム63から鉛直上方の方向に突出している。そして、ワーク61は、フレーム63に取り付けるべきブラケットであり、平板状である。スレーブアーム1の手首部14には、エンドエフェクタとしてワーク61を把持するハンド部12が装着される。ワーク61はスレーブアーム1のハンド部12に保持される。
【0053】
この作業において、例えば、予め手動モードにおいてオペレータがマスターアーム70を操作してスレーブアーム1を動作させることにより、動作制御部31が自動動作情報41(教示情報41a)を作成し、記憶装置4に記憶する。
【0054】
図4Bは、図4Aに示すハンド部12の自動動作情報に基づく動作軌道を示す図であり、図4Cは、図4Bにおける基準位置変更後の動作軌道の一例を示す図である。図4Bおよび図4Cにおいてはハンド部12およびワーク61については図示を省略している。動作修正モードにおいて、動作制御部31は、操作部であるマスターアーム70による修正操作がない限り、ハンド部12が動作軌道T1に沿って移動するようにスレーブアーム1を制御する。なお、図6Bにおいて、動作軌道T1は、ハンド部12に把持されたワーク61の孔61aの位置を示している。
【0055】
本作業工程における動作軌道T1は、第1区間L1、第2区間L2および第3区間L3を有している。第1区間L1は、ハンド部12がワーク61を把持してからフレーム63の近傍領域(作業領域)に近接する所定の第1位置P1まで移動するための動作区間(移動区間)である。
【0056】
第2区間L2は、第1位置P1より動作方向下流側に設けられ、上記作業工程を実施するためのスレーブアーム1(ハンド部12)の動作の基準位置となる第2位置P2を含み、当該基準位置によってハンド部12の動作位置が定められる動作区間(作業区間)である。本実施の形態において、ワーク61の孔61aをピン62に嵌合する作業の終了位置(ピン62の位置)を第2位置P2としている。また、第2区間L2の開始位置を第3位置P3とする。第3位置P3は、動作軌道T1の動作方向において第1位置P1と第2位置P2との間に位置する。以上より、第2区間L2は、動作軌道T1における第2位置P2を含む第3位置P3以降の所定の動作区間(図4Bの例では、第3位置P3から第2位置P2までの動作区間)である。
【0057】
第2区間L2には、ワーク61の孔61aにピン62を嵌合させやすくするための倣い動作(または探り動作)が含まれる。倣い動作は、ピン62の先端部近傍(第2位置P2近傍)において、ワーク61をピン62の周囲を周回しながらピン62の先端部位置に近づけていく動作である。このような倣い動作を行うことにより、ワーク61の孔61aの縁とピン62との接触時にかかる負荷の増大を抑制しつつ効率よく孔61aにピン62を嵌合させることができる。また、第2位置P2とピン62の位置とが完全に一致していなくても、嵌合作業を実現することができる。このような倣い動作は、手動モードにおいて熟練者がマスターアーム70を操作することによりスレーブアーム1の動作を教示することにより自動動作情報41に組み込まれる。
【0058】
第3区間L3は、第1区間L1と第2区間L2とを接続するための動作区間(接続区間)である。すなわち、第3区間L3は、動作軌道T1における第1位置P1から第3位置P3までの区間である。自動動作情報41には、第1位置P1、第2位置P2および第3位置P3の位置情報が含まれている。さらに、自動動作情報41には、各位置P1~P3におけるスレーブアーム1および/またはハンド部12の姿勢が含まれ得る。
【0059】
図5は、本実施の形態における基準位置の変更に基づく自動動作情報の補正処理についての流れを示すフローチャートである。本作業工程を修正自動モードまたは自動モードで実施した場合、動作制御部31は、自動動作情報41に基づいてスレーブアーム1を動作させる。修正自動モードにおいて、その動作中に、マスターアーム70からの修正操作が行われた場合、その修正操作に基づいて動作軌道T1を修正した修正動作情報を生成し、当該修正動作情報に基づいてスレーブアーム1を動作させる。修正操作によって、各位置P1~P3も変更され得る。次回の本作業工程において、動作制御部31は、生成された修正動作情報を自動動作情報41としてスレーブアーム1を動作させる。すなわち、修正後の動作軌道T1上をハンド部12が移動するように制御される。
【0060】
自動モードまたは修正自動モードにおいて、動作制御部31は、動作開始位置から第1位置P1に向けてハンド部12(スレーブアーム1)を移動させ、ハンド部12が第1位置P1に到達したかどうかを判定する(ステップS1)。ハンド部12が第1位置P1に到達した場合(ステップS1でYes)、動作制御部31は、第1位置P1でスレーブアーム1を一時停止させる(ステップS2)。なお、手動モードにおいて、ハンド部12が第1位置P1に到達した場合にも、動作制御部31は、第1位置P1でスレーブアーム1を一時停止させ、以降の動作制御を行ってもよい。
【0061】
スレーブアーム1の一時停止時において、動作制御部31は、入力装置2に対し、動作モードの情報とともに動作モードの変更の要否を問い合わせるモード変更問い合わせ情報を送信する。入力装置2は、モード変更問い合わせ情報を受けて、オペレータのモード選択部71による動作モードの選択操作を受け付ける。モード選択部71による動作モードの切り替え操作(動作モードを維持する操作を含む)が行われると、動作モード入力情報が入力装置2から動作制御部31に送信される。動作制御部31は、受信した動作モード入力情報に応じた動作モードにおいて第1位置P1以降の動作制御を行う。
【0062】
例えば、動作軌道T1のうち、ワーク61を把持する前のハンド部12の位置である工程開始位置(図示せず)からワーク61を把持した後の第1位置P1までの間において、スレーブアーム1を自動モードで動作させた後、動作モードを切り替えることにより、第1位置P1から第2位置P2までの間において、スレーブアーム1を修正自動モードで動作させることができる。
【0063】
動作制御部31は、修正自動モードが選択されたか否かを判定する(ステップS3)。すなわち、動作制御部31は、入力装置2から受信した動作モード入力情報に含まれる動作モードが修正自動モードであるか否かを判定する。第1位置P1において修正自動モードが選択された場合(ステップS3でYes)、動作制御部31は、基準位置である第2位置P2の位置座標を、自動動作情報における第2位置P2から変更可能とする。より具体的には、動作制御部31は、入力装置2に対し、基準位置(第2位置P2)の位置変更の要否を問い合わせる基準位置変更問い合わせ情報を送信する。入力装置2は、基準位置変更問い合わせ情報を受けて、オペレータの基準位置入力部73による基準位置の変更入力操作を受け付ける(ステップS4)。基準位置入力部73による基準位置の変更入力操作が行われると、入力装置2は、基準位置の変更位置情報を修正操作情報として動作制御部31に送信する。
【0064】
例えば、入力装置2が表示画面を備えている場合、作業領域(ピン62設置位置近傍)の上方からの画像をカメラ51により撮像し、撮像された画像(平面視画像)が表示画面に表示される。スレーブアーム1の動作の基準となる座標情報が平面視画像に対応付けられており、自動動作情報に基づく第1位置P1および第2位置P2を示すマーカが平面視画像上に表示される。すなわち、表示画面には、図4Bのような画像が表示される。さらに、動作軌道T1が平面視画像に重ねて表示されてもよい。
【0065】
上記の表示画面において、基準位置入力部73は、オペレータが所望の位置に基準位置を設定入力可能に構成される。例えば、基準位置入力部73は、表示画面上をタッチ入力可能なタッチパネルで構成されてもよい。この場合、表示画面に表示される平面視画像上の所望の位置(例えばピン62の位置)をタッチ入力することにより、対応する位置座標が基準位置の変更位置情報として生成される。これに代えて、基準位置入力部73は、表示画面において平面視画像上を移動可能に表示される入力カーソルをレバー等の操作子によって移動させ、所望の位置で決定ボタン等を押下することにより、対応する位置座標が基準位置の変更位置座標として生成されてもよい。
【0066】
上述したように、自動動作情報に基づく動作軌道T1の第2区間L2には、倣い動作が含まれるため、第2位置P2とピン62の位置とが完全に一致していなくても、ワーク61の孔61aにピン62を嵌合させることは可能である。ただし、ピン62が設けられるフレーム63の載置位置が、フレーム63の製品ロットの変更等またはフレーム63の製造業者の変更等により、グループ単位でずれる場合が考えられる。この結果、例えば図4Bに示されるように、第3区間L3における倣い動作の範囲内にピン62が位置していない場合が生じ得る。このような場合、スレーブアーム1は、上記の倣い動作だけでは適切な作業を行うことができなくなる。また、嵌合作業が可能であるとしても嵌合するまでの平均時間が長くなり、作業効率が悪化する可能性がある。
【0067】
そのため、複数の製品のそれぞれに対して繰り返し作業を行う途中で、自動動作情報に基づく作業の基準位置が実際の基準位置からある程度ずれた位置となった場合に、当該基準位置を変更する必要性が生じる。しかし、単純に修正自動モードにおいてマスターアーム70を操作して基準位置を変更すると、上記の倣い動作のような熟練者でしか教示し得ない動作に影響を与えてしまい、結果として作業効率が悪化することが予想される。
【0068】
そこで、本実施の形態において、動作制御部31は、スレーブアーム1が作業を行うための基準位置となる第2位置P2の位置座標が第2位置P2cに変更された場合に、修正自動モードにおいて自動動作情報のうちの一部の要素を保持しつつスレーブアーム1が変更後の第2位置P2cに到達するように、自動動作情報41を補正するように構成される。
【0069】
より具体的には、基準位置入力部73による基準位置の変更入力操作に基づく変更位置情報(修正操作情報)を受信すると(ステップS4でYes)、スレーブアーム1の動作の基準位置となる第2位置P2の位置座標を当該変更位置情報に基づく第2位置(以下、変更後の第2位置)P2cに設定する(ステップS5)。
【0070】
また、動作制御部31は、第2位置P2の位置座標が変更された場合に、自動動作情報に基づくスレーブアーム1の動作軌道T1のうちの第3位置P3以降の動作区間(第2区間L2)における動作軌道を算出する修正動作区間算出処理を行う。より具体的には、動作制御部31は、修正動作区間算出処理として、第2区間L2を第2位置のP2からP2cへの変更に合わせて平行移動させて修正第2区間L2cにおける動作軌道を算出する処理を実行する(ステップS6)。この結果、修正第2区間L2cは、変更後の第2位置P2cを含む変更後の第3位置P3c以降の任意の動作位置の位置座標が、修正前の第2区間L2において対応する動作位置から第2位置P2および変更後の第2位置P2cの間の位置偏差(方向および距離)と同じだけ変位するように修正される。
【0071】
さらに、動作制御部31は、変更後の第3位置P3cの位置座標に基づいて、第1位置P1から変更後の第3位置P3cに至る修正第3区間L3cにおける動作軌道を算出する(ステップS7)。動作制御部31は、第1位置P1の位置座標および姿勢の情報と、変更後の第3位置P3cの位置座標および姿勢の情報とに基づいて、第1区間L1と修正第2区間L2cとを滑らかに繋ぐような修正第3区間L3cを算出することが好ましい。このようにして修正された第1位置P1以降の修正動作軌道T1cは、修正第3区間L3cおよび修正第2区間L2cを繋いだものとなる。
【0072】
修正動作軌道T1cの演算後、動作制御部31は、スレーブアーム1(ハンド部12)を第1位置P1から変更後の第3位置P3cを経由して変更後の第2位置P2cへ向かうように修正動作軌道T1c(修正第3区間L3cおよび修正第2区間L2c)に基づいて動作させる(ステップS8)。動作制御部31は、スレーブアーム1が変更後の第2位置P2cに到達したか否かを判定する(ステップS9)。
【0073】
スレーブアーム1が変更後の第2位置P2cに到達した場合(ステップS9でYes)、動作制御部31は、当該作業工程における動作を終了し、自動動作情報41に基づく動作軌道T1の第1区間L1および修正動作軌道T1c(修正第3区間L3cおよび修正第2区間L2c)を繋いだ動作軌道を含む修正動作情報を次回の作業工程における自動動作情報41として記憶装置4に記憶させる(ステップS10)。この結果、次回の作業工程において、自動動作情報41に基づく動作軌道T1は、図4Cに示すように、上記変更後の第2位置P2cを第2位置P2とし、変更後の第3位置P3cを第3位置P3とし、修正第3区間L3cを第3区間L3とし、修正第2区間L2cを第2区間L2としたものとなる。
【0074】
上記構成によれば、自動動作情報41に基づくスレーブアーム1(ロボット本体)の動作中に、入力装置2による修正操作に基づいてスレーブアーム1の動作をリアルタイムに修正することができる。また、修正操作として、変更後の第2位置P2cの位置座標を指定するだけで、元の自動動作情報41のうちの一部の要素(第2区間L2の外形)が保持された状態で、指定された変更後の第2位置P2cにスレーブアーム1が到達するようにスレーブアーム1の動作が補正される。元の自動動作情報41のうちの一部の要素が保持されることにより、教示時に熟練者が行った動作のコツ等を含むスレーブアーム1の主要な動きを継承しつつ、所望の第2位置P2cにスレーブアーム1を位置させるように動作させることができる。したがって、予め設定されたスレーブアーム1の動作を容易かつ適切に修正することができる。
【0075】
また、本実施の形態において、変更を指定可能な第2位置P2が、スレーブアーム1がワーク61の孔61aをフレーム63に設けられたピン62に嵌合する作業を行う基準位置として設定されているため、ロットの変更等でピン62が設けられるフレーム63の設置位置が変わった場合であっても、作業位置を変えつつスレーブアーム1の主要な動きが変わることを防止することができる。したがって、位置調整によってスレーブアーム1の作業効率が悪化することを防止することができる。
【0076】
また、本実施の形態において、第2位置P2の位置座標が変更された場合に、動作軌道T1のうちの嵌合作業を行う作業区間である修正第2区間L2cにおけるスレーブアーム1の動作は、元の第2区間L2の外形が保持されたものとなる。これにより、第2位置P2の位置座標が変更されても、変更後の第2位置P2cを含む変更後の第3位置P3c以降の所定の動作区間におけるスレーブアーム1の動作軌道(修正第2区間L2c)の外形は、元の動作軌道(第2区間L2)を再現したものとなる。したがって、スレーブアーム1の主要な動きの継承を容易に実現することができる。
【0077】
なお、第2区間L2におけるスレーブアーム1の動作中に、マスターアーム70等の修正操作に基づく修正操作情報が動作制御部31に入力された場合、動作制御部31は、当該修正操作情報に基づいて第2区間L2の動作位置を修正した修正動作情報を生成し、当該修正動作情報に基づいてスレーブアーム1を動作させる。すなわち、動作制御部31は、第2位置P2の変更がない場合と同様の修正操作を許容する。これにより、基準位置の変更とともに倣い動作自体の修正も可能となる。
【0078】
これに代えて、修正動作モードが、第2区間L2に対するマスターアーム70等による修正操作を許容する第1動作モードと、第2位置P2の位置変更操作は許容するが、第2区間L2自体の修正操作を禁止する第2動作モードとを含み、これらの動作モードが入力装置2により切り替え可能に構成されてもよい。
【0079】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0080】
例えば、上記実施の形態において、動作制御部31は、第2区間L2を第2位置のP2からP2cへの変更に合わせて平行移動させた動作軌道を、修正第2区間L2cにおける動作軌道とすることを例示したが、平行移動後に追加的な所定の処理を行ってもよい。図6は、図4Bに示す動作軌道から基準位置を変更した後の動作軌道の他の例を示す図である。
【0081】
図6の例においても、動作制御部31は、修正動作区間算出処理として、第2区間L2を第2位置のP2からP2cへの変更に合わせて平行移動させる処理(ステップS6)を実行する。このとき動作軌道が算出される動作区間を、平行移動後第2区間L2c’とする。その後、動作制御部31は、第1位置P1と変更後の第2位置P2cとを結ぶ仮想線Kを設定し、平行移動後第2区間L2c’を変更後の第2位置P2cを回転中心として回転させて、平行移動後第2区間L2c’における第3位置P3c’が仮想線K上の位置となるように移動させる。
【0082】
動作制御部31は、このときの仮想線K上の位置となった第3位置P3に対応する位置を変更後の第3位置P3cとし、変更後の第3位置P3cと変更後の第2位置P2cとの間の動作区間を修正第2区間L2cとする。その後、上記実施の形態と同様に、動作制御部31は、変更後の第3位置P3cの位置座標に基づいて、第1位置P1から変更後の第3位置P3cに至る修正第3区間L3cにおける動作軌道を算出する(ステップS7)。
【0083】
このように、第2区間L2を第2位置P2の位置変更に応じて平行移動させるだけでなく、回転させることにより、第1位置P1と変更後の第3位置P3cとの間の修正第3区間L3cをより滑らかな動作軌道にする(第1区間L1と修正第2区間L2cとをより滑らかに接続させる)ことができる。
【0084】
このように、第2区間L2に対する修正動作区間算出処理は、上記実施の形態に限られず種々の態様を採用可能である。例えば、修正動作区間算出処理は、平行移動処理、回転処理、および鏡映処理のうちの何れか1つを含む、第2区間L2の変更前後の外形同士が合同となる処理を含んでもよい。これに加えて、またはこれに代えて、修正動作区間算出処理は、拡大処理および縮小処理を含む、第2区間L2の変更前後の外形同士が相似となる処理を含んでもよい。例えば、位置変更の基準位置となる第2位置P2の変更前後の位置偏差(距離)が大きいほど第2区間L2の拡大率が大きくなるような処理が行われてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態において、図4B等に示すように、位置変更の基準位置となる第2位置P2を所定の作業の終了位置に設定した例を説明したが、第2位置P2の位置はこのような位置に限られない。例えば、所定の作業の開始位置(直前の位置)に設定してもよい。
【0086】
図7Aは、本実施の形態の変形例におけるハンド部の自動動作情報に基づく動作軌道を示す図であり、図7Bは、図7Aにおける基準位置変更後の動作軌道の一例を示す図である。本変形例においては、スレーブアーム1を用いて曲面を有するワーク64の表面を塗装する塗装工程を例示する。本変形例において、スレーブアーム1のハンド部12には、塗料を噴射するノズル(図示せず)が取り付けられる。
【0087】
本作業工程における自動動作情報41には、第2区間L2として、ワーク64の表面を塗装するための往復動作が含まれている。ワーク64の表面は、上端部から下端部にかけて湾曲するような曲面を有している。往復動作は、ワーク64の上端部および下端部間を往復しながら横方向へ移動する動作と、上端部および下端部においてワーク64の表面から裏側に向けて回り込むような動作と、を含んでいる。このうち、上端部および下端部においてワーク64の表面から裏側に向けて回り込むような動作は、熟練者による教示を要する動作である。
【0088】
本変形例において、作業の基準位置となる第2位置P2は、ワーク64への塗装前(直前)の位置に設定される。したがって、動作軌道T1のうちの第2区間L2は、第2位置P2より動作方向上流側の第3位置P3から第2位置P2を経由して塗装作業の終了後の第4位置P4までの区間に設定される。
【0089】
本変形例においても、動作制御部31は、上記実施の形態と同様にスレーブアーム1の動作制御を行う。すなわち、第1位置P1において修正自動モードが選択され、基準位置である第2位置P2の変更入力操作が行われた場合、動作制御部31は、修正自動モードにおいて自動動作情報のうちの一部の要素である第2区間L2の動作を保持しつつスレーブアーム1が変更後の第2位置P2cに到達するように、自動動作情報41を補正する。
【0090】
本変形例においても、上記実施の形態と同様に、動作制御部31は、修正動作区間算出処理として、第2区間L2を第2位置のP2からP2cへの変更に合わせて平行移動させて修正第2区間L2c(図7B)における動作軌道を算出する処理を実行する。本変形例では、この処理により、自動動作情報における第3位置P3から第4位置P4までの区間における動作位置が平行移動され、変更後の第3位置P3cから変更後の第4位置P4cまでの区間が修正第2区間L2cとして生成される。さらに、動作制御部31は、変更後の第3位置P3cの位置座標に基づいて、第1位置P1から変更後の第3位置P3cに至る修正第3区間L3cにおける動作軌道を算出する。このようにして修正された第1位置P1以降の修正動作軌道T1cは、修正第3区間L3cおよび修正第2区間L2cを繋いだものとなる。
【0091】
その他、位置変更の基準位置である第2位置P2は、作業に関連する基準位置以外に設定してもよい。例えば、A点からB点まで移動する工程における中点位置を第2位置P2に設定してもよいし、A点またはB点から所定距離(または所定時間)離れた位置を第2位置P2に設定してもよい。
【0092】
また、上記実施の形態および変形例において、保持される一部の要素がロボット本体(スレーブアーム1)の先端部(ハンド部12)の移動位置であることを説明したが、これに限られない。例えば、これに加えてまたはこれに代えて、各移動位置におけるハンド部12の姿勢または速度等が保持され得る。また、第2位置P2の変更方法は、上記実施の形態に限られず、例えば、入力装置2において座標入力を行う等、種々適用可能である。また、変更される第2位置P2の位置座標は、平面座標であってもよいし、3次元座標であってもよい。さらに、変更後の第2位置P2におけるハンド部12の姿勢を入力可能としてもよい。
【0093】
また、上記実施の形態および変形例においては、第2位置P2を変更した場合に、元の自動動作情報41のうちの保持される一部の要素が倣い動作および塗装のための往復動作である場合について説明したが、これらの態様に限られない。例えば、一部の要素には、所定の障害物を回避する回避動作、回転動作、らせん移動動作、往復移動動作およびこれらを適宜組み合わせた動作等の動作軌道T1の一部の区間における姿勢変化の情報を含み得る。
【0094】
また、一部の要素は、連続したものでなくてもよい。例えば、所定の往復移動動作が含まれる第1区間と、所定のらせん移動動作が含まれる第2区間と、第1区間と第2区間とを繋ぐ第3区間とを含む作業工程において、第1区間の開始位置を基準位置(第2位置P2)として変更可能とした場合、第1区間および第2区間の動作が保持され、第3区間の動作(動作軌道)が基準位置の変更に応じて変更されてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態においては、マスタースレーブ方式のロボットを利用したロボットシステム100について説明したが、マスタ-スレーブ方式のロボットシステム以外のロボットシステムにも適用可能である。すなわち、修正動作モードにおける修正操作を行う操作部は、マスターアーム70を備えていなくてもよい。
【0096】
例えば、マスターアーム70の代わりに、入力装置2として、オペレータの操作に基づいて、動作中にあるスレーブアーム1の自動動作情報に基づく動作軌道T1における動作位置を変更するための修正位置入力部を備えていてもよい。修正位置入力部は、操作可能に構成されており、例えば方向スイッチ、操作レバーまたはタブレットなどの携帯端末が例示できる。このような修正位置入力部を用いてオペレータが所定方向への操作入力を行うと、スレーブアーム1の動作位置から所定方向へ操作入力期間または操作入力量に応じた操作量分の位置修正を行うための修正操作情報が生成される。このような態様でも、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
【0097】
また、上記実施の形態では、モード選択部71や動作情報選択部72などの各操作部は、1つの入力装置2に備えられているが、別々の入力装置に設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、予め設定されたロボットの動作を容易かつ適切に修正可能なロボットシステムを提供するために有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 スレーブアーム(ロボット本体)
4 記憶装置(記憶部)
31 動作制御部
41 自動動作情報
70 マスターアーム(操作部)
73 基準位置入力部(操作部)
100 ロボットシステム
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B