(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】片吸込ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/22 20060101AFI20221019BHJP
F04D 29/42 20060101ALI20221019BHJP
F04D 29/66 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
F04D29/22 C
F04D29/22 E
F04D29/42 E
F04D29/66 B
(21)【出願番号】P 2018154896
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】兼森 祐治
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-009081(JP,A)
【文献】実開昭53-090202(JP,U)
【文献】実開平05-087292(JP,U)
【文献】特開2003-184781(JP,A)
【文献】実開平04-075194(JP,U)
【文献】特開平09-068193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/041
F04D 29/22
F04D 29/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
上記ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、
上記ケーシング内に配置されると共に上記回転軸に連結され、上記回転軸の軸方向の一方に設けられた吸込口から吸い込んだ流体を径方向外側に吐出する羽根車と
を備え、
上記羽根車の後シュラウドまたは上記後シュラウドに対向する上記ケーシングの部分の少なくとも一方に環状の絞り凸部を設けると共に、
上記羽根車の吐出側から上記環状の絞り凸部による流体絞りを経て上記羽根車内の流路または上記羽根車の吸込口の上流側に連なる流体通路を設け
、
上記流体通路は、上記羽根車の背面側と上記羽根車内の流路とが連通するように、上記羽根車の上記後シュラウドかつ上記羽根車の羽根板の負圧面側に設けられたバランスホールであって、上記流体を液体としたときに上記羽根車内に発生したキャビテーション泡が上記羽根板に再付着して崩壊する位置に配置されていることを特徴とする片吸込ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の片吸込ポンプにおいて、
半径が異なる複数の上記環状の絞り凸部を同心円状に設けることによって半径流ラビリンスを形成していることを特徴とする片吸込ポンプ。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の片吸込ポンプにおいて、
上記バランスホールは、上記バランスホールの回転軌跡の少なくとも一部が、上記環状の絞り凸部と重なるように、該環状の絞り凸部の最外径よりも径方向内側に設けられていることを特徴とする片吸込ポンプ。
【請求項4】
請求項
1から3までのいずれか一項に記載の片吸込ポンプにおいて、
上記バランスホールは、上記羽根車の吸込口側の外周半径をRsとするとき、上記バランスホールの中心位置と上記羽根車の中心軸との径方向の距離Rrは、上記羽根車の中心軸から0.8Rs以上かつRs以下であることを特徴とする片吸込ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、片吸込ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、片吸込ポンプとしては、ケーシングと、ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、ケーシング内に配置されると共に回転軸に連結され、回転軸の軸方向の一方に設けられた吸込口から吸い込んだ流体を径方向外側に吐出する羽根車とを備え、羽根車の後シュラウドにバランスホールを設けたものがある(非特許文献1参照)。
【0003】
上記片吸込ポンプは、羽根車の後シュラウドにも受けたバランスホールによって、軸スラストを低減している(釣合い穴法(balance hole))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】ターボ機械協会編、「ターボ機械 入門編」、日本工業出版、2005年9月、p.131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の片吸込ポンプのバランスホールを用いた釣合い穴法では、軸スラストが完全には無くならないため、運転時にスラスト軸受に常に荷重がかかって信頼性が低下したり破損したりするという問題がある。
【0006】
また、上記片吸込ポンプでは、バランスホールからの流体の漏れ量が多くなるため、漏れ損失が大きくなってポンプ効率が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、この発明の課題は、簡単な構成で軸スラストを自動的にキャンセルでき、信頼性とポンプ効率を向上できる片吸込ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一態様に係る片吸込ポンプは、
ケーシングと、
上記ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、
上記ケーシング内に配置されると共に上記回転軸に連結され、上記回転軸の軸方向の一方に設けられた吸込口から吸い込んだ流体を径方向外側に吐出する羽根車と
を備え、
上記羽根車の後シュラウドまたは上記後シュラウドに対向する上記ケーシングの部分の少なくとも一方に環状の絞り凸部を設けると共に、
上記羽根車の吐出側から上記環状の絞り凸部による流体絞りを経て上記羽根車内の流路または上記羽根車の吸込口の上流側に連なる流体通路を設け、
上記流体通路は、上記羽根車の背面側と上記羽根車内の流路とが連通するように、上記羽根車の上記後シュラウドかつ上記羽根車の羽根板の負圧面側に設けられたバランスホールであって、上記流体を液体としたときに上記羽根車内に発生したキャビテーション泡が上記羽根板に再付着して崩壊する位置に配置されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、回転軸の回転により羽根車が回転して、回転軸の軸方向の一方に設けられた吸込口から吸い込んだ流体を径方向外側に吐出する。このとき、羽根車の前シュラウド側は吐出側の圧力を受けて、羽根車は、後面側に向かってほぼ一定のスラスト力Fsを受ける。一方、羽根車の後シュラウド側は吐出側の圧力を受けて、羽根車は、前面側(吸込口側)に向かってスラスト力Fbを受ける。
【0010】
羽根車が後面側に移動すると、羽根車の後シュラウドとその後シュラウドに対向する環状の絞り凸部の先端との隙間が狭くなる。このため、羽根車の吐出側から環状の絞り凸部による流体絞りを経て羽根車内の流路(または羽根車の吸込口の上流側)に連なる流体通路を流れる流体の速度が遅くなり、羽根車の背面の圧力が上昇して、羽根車に対して前面側(吸込口側)に向かって作用するスラスト力Fbが増大し、Fb>Fsとなって羽根車を前面側に移動させる。
【0011】
逆に、羽根車が前面側(吸込口側)に移動すると、羽根車の後シュラウドとその後シュラウドに対向する環状の絞り凸部の先端との隙間が広くなる。このため、羽根車の吐出側から環状の絞り凸部による流体絞りを経て羽根車内の流路(または羽根車の吸込口の上流側)に連なる流体通路を流れる流体の速度が速くなり、羽根車の背面の圧力が下降して、羽根車に対して前面側(吸込口側)に向かって作用するスラスト力Fbが減少し、Fb<Fsとなって羽根車を後面側に移動させる。
【0012】
そうして、羽根車は、後面側に向かって働くスラスト力Fsと前面側(吸込口側)に向かって作用するスラスト力Fbとが等しくなる平衡点X0で安定的に留まる。このようにして、簡単な構成で軸スラストを自動的にキャンセルできる。また、軸スラストをキャンセルすることで、スラスト軸受の信頼性を向上できる。さらに、羽根車の吐出側から環状の絞り凸部による流体絞りを経て羽根車内の流路(または羽根車の吸込口の上流側)に連なる流体通路を流れる流体の漏れ量を少なくして漏れ損失を低減することで、ポンプ効率を向上できる。
また、羽根車の後シュラウドに設けられたバランスホールを、流体を液体としたときに羽根車内に発生したキャビテーション泡が羽根板に再付着して崩壊する位置に配置することによって、羽根車から吐出される流体が液体である場合、バランスホールを介して羽根車の背面側の高圧液体を羽根車内の流路に吐出させてキャビテーションの発生を抑制でき、キャビテーションエロージョンを低減できる。
【0013】
また、一実施形態の片吸込ポンプでは、
半径が異なる複数の上記環状の絞り凸部を同心円状に設けることによって半径流ラビリンスを形成している。
【0014】
上記実施形態によれば、複数の環状の絞り凸部で半径流ラビリンスを形成することによって、羽根車の軸方向の位置変化に対して、前面側(吸込口側)に向かって羽根車に作用するスラスト力Fbの変化量が大きくなり、羽根車を平衡点X0に戻す復元力を大きくできる。
【0015】
【0016】
【0017】
また、一実施形態の片吸込ポンプでは、
上記バランスホールは、上記バランスホールの回転軌跡の少なくとも一部が、上記環状の絞り凸部と重なるように、該環状の絞り凸部の最外径よりも径方向内側に設けられている。
【0018】
上記実施形態によれば、バランスホールの回転軌跡の少なくとも一部が環状の絞り凸部と重なるように、該環状の絞り凸部の最外径よりも径方向内側にバランスホールを設けることによって、羽根車の吐出側から環状の絞り凸部による流体絞りを経て羽根車内の流路(または羽根車の吸込口の上流側)に連なる流体通路を流れる流体の流量を効果的に絞ることができる。
【0019】
また、一実施形態の片吸込ポンプでは、
上記バランスホールは、上記羽根車の吸込口側の外周半径をRsとするとき、上記バランスホールの中心位置と上記羽根車の中心軸との径方向の距離Rrは、0.8Rs以上かつRs以下である。
【0020】
ここで、バランスホールの中心位置とは、バランスホールの幾何中心である。
【0021】
上記実施形態によれば、バランスホールの中心位置と羽根車の中心軸との径方向の距離Rrを0.8Rs以上かつRs以下とすることによって、羽根車の背面側と羽根車内の流路との差圧を小さくでき、流体の漏れ量を抑制して漏れ損失を低減でき、ポンプ効率が向上する。
【発明の効果】
【0022】
以上より明らかなように、この発明によれば、羽根車の後シュラウドまたは後シュラウドに対向するケーシングの部分の少なくとも一方に環状の絞り凸部を設けると共に、羽根車の吐出側から環状の絞り凸部による流体絞りを経て羽根車内の流路または羽根車の吸込口の上流側に連なる流体通路を設けることによって、簡単な構成で軸スラストを自動的にキャンセルでき、信頼性とポンプ効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の第1実施形態の片吸込ポンプの断面図。
【
図2】第1実施形態の片吸込ポンプの要部を示す断面図。
【
図3】第1実施形態の環状の絞り凸部を有するリング部材の斜視図。
【
図4】第1実施形態の片吸込ポンプの軸スラストを説明する図である。
【
図5】第1実施形態の片吸込ポンプの羽根車位置と軸スラストとの関係を示す図。
【
図6】第1実施形態の片吸込ポンプの羽根車のバランスホールの位置を示す図。
【
図7】変形例の片吸込ポンプの軸スラストを説明する図である。
【
図8】この発明の第2実施形態の片吸込ポンプの断面図。
【
図9】第2実施形態の片吸込ポンプの要部を示す断面図。
【
図10】第2実施形態の環状の絞り凸部を有するリング部材の斜視図。
【
図11】第2実施形態の片吸込ポンプの軸スラストを説明する図である。
【
図12】第2実施形態の片吸込ポンプの羽根車位置と軸スラストとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の片吸込ポンプを図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0025】
〔第1実施形態〕
図1はこの発明の第1実施形態の片吸込ポンプ100の断面図を示している。この第1実施形態の片吸込ポンプ100は、片吸込遠心渦巻ポンプである。
図1において、左右方向をX、上下方向をY、紙面に垂直な方向をZとしている。
【0026】
片吸込ポンプ100は、
図1に示すように、ケーシング1と、ケーシング1に回転可能に支持された回転軸2と、ケーシング1内に配置されると共に回転軸2に連結されたクローズ型の羽根車3とを備える。羽根車3は、回転軸2の軸方向(X方向)の一方に設けられた吸込口3aから吸い込んだ液体を径方向外側に吐出する。
【0027】
ケーシング1は、ケーシング本体10と、ケーシング本体10に固定されたケーシングカバー20と、ケーシングカバー20の外側に固定されたベアリングケース30とを備える。ケーシング本体10には、左側に円形状の吸込口11が形成されている。ケーシング本体10は、吸込口11の奥側に、羽根車3を配置する配置空間部12が形成されている。配置空間部12の外周部には、ケーシング1内に吸い込んだ液体を吐出するボリュート通路13が形成されている。また、ケーシング本体10には、
図1において上側に位置するように、ボリュート通路13の出口である吐出口14が形成されている。
【0028】
回転軸2は、ケーシング1に対してX方向に延びるように回転可能に配置されている。回転軸2は、一端がケーシングカバー20のシャフト穴21から配置空間部12内に突出している。シャフト穴21の周囲には、液密性を保持するためのメカニカルシール22が取り付けられている。回転軸2は、ベアリングケース30に固定されたベアリング31,32によって回転可能に支持されている。ベアリングケース30から突出した回転軸2の外端には、図示しないモータ等の駆動装置が接続される。
【0029】
<羽根車3の概要>
羽根車3は、回転軸2の一端に固定され、ケーシング1の配置空間部12に配置されている。羽根車3は、X方向から見て円形状であり、前シュラウド4と、後シュラウド5と、前シュラウド4と後シュラウド5との間に設けられた渦巻状の複数の羽根板6とを備える。羽根車3が回転すると、吸込口3aから吸い込まれた液体は、ボリュート通路13へ送出され、吐出口14から吐出される。
【0030】
図1において左側に位置する前シュラウド4は、X方向における羽根板6の前端(一端)に固定されている。前シュラウド4は、漏斗形状をしており、外周側がX方向に対して直交方向(YZ方向)に延びている。前シュラウド4には、回転軸2と同心円形状の開口である吸込口3aが設けられている。
【0031】
図1において右側に位置する後シュラウド5は円板状であり、X方向における羽根板6の後端(他端)に配置されている。後シュラウド5は、前シュラウド4に対してX方向に間隔をあけて配置している。後シュラウド5の中心には、回転軸2を連結するための連結部3bが設けられている。
【0032】
羽根車3には、隣接する羽根板6,6と、前シュラウド4と後シュラウド5とで画定された筒状の流路7が渦巻き状に複数形成される。この筒状の流路7は、羽根板6の内周側の端部が流入口を構成し、羽根板6の外周側の端部が流出口を構成する。
【0033】
ケーシング本体10には、配置空間部12の吸込口3a側と前シュラウド4との間を仕切るウェアリング15が配置されている。また、後シュラウド5とケーシングカバー20との間には、ケーシングカバー20と羽根車3の吐出口14側とを仕切るウェアリング23が配置されている。ウェアリング15とウェアリング23は、羽根車3との干渉による損傷を防ぐために、例えばステンレス、鋳鉄、青銅等の摺動性が良好な材料からなる。
【0034】
羽根車3の後シュラウド5に対向するケーシング1の部分に環状の絞り凸部41,42(
図2に示す)を有するリング部材40を設けている。
【0035】
図2は第1実施形態の片吸込ポンプ100の要部を示す断面図であり、
図1と同一の構成部には同一参照番号を付している。また、
図3は環状の絞り凸部41,42を有するリング部材40の斜視図である。
図3において、リング部材40の斜線部分は、後シュラウド5の背面と対向する先端面である。リング部材40には、羽根車3に接触しても焼付くことがない樹脂系の材料を用いている。
【0036】
図2,
図3に示すように、リング部材40は、同心円状に設けられた半径の異なる環状の絞り凸部41,42を備えている。外周側の環状の絞り凸部41と内周側の環状の絞り凸部42によって半径流ラビリンスを形成している。
【0037】
環状の絞り凸部41の先端面と後シュラウド5の背面との間隔δ1と、環状の絞り凸部42の先端面と後シュラウド5の背面との間隔δ2との関係は、
δ1 > δ2
となっている。
【0038】
後シュラウド5の背面と環状の絞り凸部41との隙間で流体絞りが形成され、後シュラウド5の背面と環状の絞り凸部42との隙間で流体絞りが形成されている。
【0039】
また、径方向内側の環状の絞り凸部42に対向する後シュラウド5の部分に、周方向に間隔をあけてバランスホール5aを設けている。羽根車3の背面側と羽根車3内の流路7とは、バランスホール5aを介して連通する。このバランスホール5aの中心位置と羽根車3の中心軸O1との径方向の距離をRrとしている。この距離Rrは、羽根車3の吸込口3a側の外周半径をRsと同じにしている。
【0040】
また、バランスホール5aは、流体通路の一例であり、環状の絞り凸部42の最外径よりも径方向内側に設けている。
【0041】
図4は片吸込ポンプ100の軸スラストFを説明する図である。
図4では、左側に羽根車3の前面の圧力分布を示し、右側に羽根車3の背面の圧力分布を示している。ここで、羽根車3の吸込口3aにおける圧力をPin、羽根車3の吐出側の圧力をPoutとする。
【0042】
図4に示すように、平衡点X
0から羽根車3が右方向に+△x移動すると、間隔δ1,δ2が狭くなって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5aを流れる液体の速度が遅くなり、羽根車3の背面の圧力が上昇する。したがって、平衡点X
0の背面側のスラスト力Fbが増大し、羽根車3を左側に戻すような軸スラストFが発生する。
【0043】
逆に、平衡点X0から羽根車3が左方向に-△x移動すると、間隔δ1,δ2が広くなって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5aを流れる液体の速度が速くなり、羽根車3の背面の圧力が下降する。したがって、平衡点X0の背面側のスラスト力Fbが減少し、羽根車3を右側に戻すような軸スラストFが発生する。
【0044】
図5は片吸込ポンプ100の羽根車位置Xと軸スラストFとの関係を示している。
【0045】
前シュラウド4側のスラスト力Fsは、
図4の左側に羽根車3の前面の圧力分布に示すように、羽根車3の前シュラウド4側の圧力により発生する。この前シュラウド4側のスラスト力Fsは、
図5に示すように、羽根車3の位置に無関係であるためほぼ一定になる。
【0046】
また、羽根車3の背面側のスラスト力Fbは、
図4の右側の羽根車3の背面の圧力分布に示すように、羽根車3の移動量△xに応じて変化する。
【0047】
したがって、
図5に示すように、羽根車3を平衡点X
0の位置に戻す復元力は、(Fs-Fb)となり、前シュラウド4側のスラスト力Fsと後シュラウド5側のスラスト力Fbが一致する平衡位置(平衡点X
0)で、羽根車3は安定的に留まる。
【0048】
片吸込ポンプ100の組立時に羽根車3を平衡位置(平衡点X0)に設置すると、軸スラストFが自動的にキャンセルされて安定した運転ができる。
【0049】
図6は片吸込ポンプ100の羽根車3のバランスホール5aの位置を示している。
図6では、図を見やすくするため前シュラウド4を省略しており、吸込側から見た図である。また、
図6において、羽根車3は、反時計方向(矢印Aの方向)に回転する。
【0050】
図6に示すように、バランスホール5aは、羽根板6の負圧面側に、翼面に沿った楕円形状に設けられている。
【0051】
羽根車3の背面側からバランスホール5aを介して羽根車3内の流路7に吐出した液体は、羽根板6の負圧面に沿って流れる。この羽根板6の負圧面に沿った楕円形状のバランスホール5aは、機械加工で加工してもよいし、鋳抜穴として形成してもよい。
【0052】
羽根車3のバランスホール5aの形状を変えることにより、ポンプ仕様に合わせたエロージョンの発生を防止できる。これらのバランスホール5aは、ポンプの構成などに応じて位置と形状を変えて組み合わせてもよい。
【0053】
また、羽根車3の背面側からバランスホール5aを介して羽根車3内の流路7に液体を吐出する吐出位置は、キャビテーション泡が羽根板6に再付着して崩壊する位置が好ましく、そのような位置に吐出圧力を加えることによりエロージョンを小さくできる。これにより、キャビテーションエロージョンを緩和することができる。
【0054】
なお、羽根車3のバランスホール5aは、翼面に沿った楕円形の溝穴としたが、円穴など他の形状でもよい。
【0055】
上記第1実施形態では、径方向に間隔をあけて設けられた2つの環状の絞り凸部41,42を備えたが、流体絞りを形成する環状の絞り凸部は1つでもよい。
【0056】
また、バランスホール5aは、バランスホール5aの回転軌跡がオーバーラップしている環状の絞り凸部42の最外径よりも径方向内側に配置する。
【0057】
バランスホール5aによって、羽根車3内の流路7(羽根流路)の中央部(圧力Pr)に高圧側からの液体を吐出するため、バランスホール5aの入口と出口での差圧が小さくなり、液体の漏れ量も少なく抑えられるため、漏れ損失を小さくし、ポンプ効率を向上できる。
【0058】
上記構成の片吸込ポンプ100では、回転軸2の回転により羽根車3が回転して、回転軸2の軸方向の一方に設けられた吸込口3aから吸い込んだ液体を径方向外側に吐出する。このとき、羽根車3は、前シュラウド4側に吐出側の圧力Poutを受けて、後面側に向かってほぼ一定のスラスト力Fsを受ける。一方、羽根車3は、後シュラウド5側に吐出側の圧力Poutを受けて、前面側(吸込口11側)に向かってスラスト力Fbを受ける。
【0059】
羽根車3が平衡点X0から後面側に移動すると、羽根車3の後シュラウド5とその後シュラウド5に対向する環状の絞り凸部41,42の先端との隙間が狭くなる。このため、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5a(流体通路)を流れる液体の速度が遅くなり、羽根車3の背面側の圧力が上昇して、羽根車3に対して前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbが増大し、Fb>Fsとなって羽根車3を前面側に移動させる。
【0060】
逆に、羽根車3が平衡点X0から前面側(吸込口11側)に移動すると、羽根車3の後シュラウド5とその後シュラウド5に対向する環状の絞り凸部41,42の先端との隙間が広くなる。このため、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5a(流体通路)を流れる液体の速度が速くなり、羽根車3の背面側の圧力が下降して、羽根車3に対して前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbがスラスト力Fsよりも減少し、Fb<Fsとなって羽根車3を後面側に移動させる。
【0061】
そうして、羽根車3は、後面側に向かって働くスラスト力Fsと前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbとが等しくなる平衡点X0で安定的に留まる。
【0062】
このようにして、上記第1実施形態の片吸込ポンプでは、簡単な構成で軸スラストFを自動的にキャンセルすることができる。また、軸スラストFをキャンセルすることで、スラスト軸受の信頼性を向上できる。さらに、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5a(流体通路)を流れる液体の漏れ量を少なくすることで漏れ損失を低減でき、ポンプ効率を向上できる。
【0063】
また、半径の異なる複数の環状の絞り凸部41,42を同心円状に設けて半径流ラビリンスを形成することによって、羽根車位置Xの変化に対して、前面側(吸込口11側)に向かって羽根車3に作用するスラスト力Fbの変化量が大きくなり、羽根車3を平衡点X0に戻す復元力を大きくできる。
【0064】
また、羽根車3の後シュラウド5のバランスホール5aを、羽根車3内に発生したキャビテーション泡が羽根板6に再付着して崩壊する位置に設けて、バランスホール5aを介して羽根車3の背面側の高圧液体を羽根車3内の流路7に吐出させることで、キャビテーションの発生を抑制してキャビテーションエロージョンを低減できる。
【0065】
また、バランスホール5a(流体通路)の回転軌跡の一部が環状の絞り凸部42と重なるように、該環状の絞り凸部42の最外径よりも径方向内側にバランスホール5aを設けることによって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5a(流体通路)を流れる液体の流量を効果的に絞ることができる。
【0066】
なお、環状の絞り凸部41,42の先端面を波打ち形状にしたり凹凸形状にしたりすることにより、流体に対する摩擦係数が大きくなって流体絞りの作用を大きくできると共に、環状の絞り凸部41,42と羽根車3の後シュラウド5とが万一接触したときに焼き付きを防止することができる。
【0067】
また、
図7に示す変形例のように、環状の絞り凸部41がなく環状の絞り凸部42のみを備えた片吸込ポンプにおいても、前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbは小さくなるが、片吸込ポンプ100と同様の効果を奏する。
【0068】
〔第2実施形態〕
図8はこの発明の第2実施形態の片吸込ポンプ200の断面図を示している。
図8において、左右方向をX、上下方向をY、紙面に垂直な方向をZとしている。
【0069】
この第2実施形態の片吸込ポンプ200は、
図8に示すように、リング部材140を除いて第1実施形態の片吸込ポンプ100と同一の構成をしており、同一構成部には同一参照番号を付している。
【0070】
図9は片吸込ポンプ200の要部を示す断面図であり、
図8と同一の構成部には同一参照番号を付している。また、
図10は環状の絞り凸部141,142,143を有するリング部材140の斜視図である。
図10において、リング部材140の斜線部分は、後シュラウド5の背面と対向する先端面である。リング部材140には、羽根車3に接触しても焼付くことがない樹脂系の材料を用いている。
【0071】
図9,
図10に示すように、リング部材140は、同心円状に設けられた半径の異なる環状の絞り凸部141,142,143を備えている。外周側の環状の絞り凸部141と、内周側の環状の絞り凸部142と、環状の絞り凸部142よりも内周側の環状の絞り凸部143によって、半径流ラビリンスを形成している。
【0072】
環状の絞り凸部141の先端面と後シュラウド5の背面との間隔δ1と、環状の絞り凸部142の先端面と後シュラウド5の背面との間隔δ2と、環状の絞り凸部143の先端面と後シュラウド5の背面との間隔δ3との関係は、
δ1 > δ3 > δ2
となっている。
【0073】
後シュラウド5の背面と環状の絞り凸部141との隙間で流体絞りが形成され、後シュラウド5の背面と環状の絞り凸部142との隙間で流体絞りが形成され、後シュラウド5の背面と環状の絞り凸部143との隙間で流体絞りが形成されている。
【0074】
また、環状の絞り凸部142に対向する後シュラウド5の部分に、周方向に間隔をあけて複数のバランスホール5aを設けている(
図6と同様)。羽根車3の背面側と羽根車3内の流路7とは、バランスホール5aを介して連通する。このバランスホール5aの中心位置と羽根車3の中心軸O1との径方向の距離をRrとする。この第2実施形態では、距離Rrは、羽根車3の吸込口3a側の外周半径Rsと同じにしている。
【0075】
また、環状の絞り凸部143に対向する後シュラウド5の部分に、周方向に間隔をあけて複数のバランスホール5bを設けている。羽根車3の背面側と羽根車3内の流路7とは、バランスホール5bを介して連通する。このバランスホール5bの中心位置は、バランスホール5aよりも径方向内側とする。
【0076】
バランスホール5a,5bは、流体通路の一例である。また、バランスホール5aは、バランスホール5aの回転軌跡がオーバーラップしている環状の絞り凸部142の最外径よりも径方向内側に設けている。また、バランスホール5bは、バランスホール5bの回転軌跡がオーバーラップしている環状の絞り凸部143の最外径よりも径方向内側に設けている。
【0077】
図11は片吸込ポンプ200の軸スラストFを説明する図である。
図11では、左側に羽根車3の前面の圧力分布を示し、右側に羽根車3の背面の圧力分布を示している。ここで、羽根車3の吸込口3aにおける圧力をPin、羽根車3の吐出側の圧力をPoutとする。
【0078】
図11に示すように、平衡点X
0から羽根車3が右方向に+△x移動すると、間隔δ1,δ2,δ3が狭くなって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5aを流れる液体の速度が遅くなると共に、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142,143による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5bを流れる液体の速度が遅くなり、羽根車3の背面の圧力が上昇する。したがって、平衡点X
0の背面側のスラスト力Fbが増大して、Fb>Fsとなって羽根車3を左側に戻すような軸スラストFが発生する。
【0079】
逆に、平衡点X0から羽根車3が左方向に-△x移動すると、間隔δ1,δ2,δ3が広くなって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5aを流れる液体の速度が速くなると共に、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142,143による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5bを流れる液体の速度が速くなり、羽根車3の背面の圧力が下降する。したがって、平衡点X0の背面側のスラスト力Fbが減少し、Fb<Fsとなって羽根車3を右側に戻すような軸スラストFが発生する。
【0080】
前シュラウド4側のスラスト力Fsは、
図11の左側に羽根車3の前面の圧力分布に示すように、羽根車3の前シュラウド4側の圧力により発生する。この前シュラウド4側のスラスト力Fsは、羽根車3の位置に無関係であるためほぼ一定になる。
【0081】
羽根車3の背面側のスラスト力Fbは、
図11の右側の羽根車3の背面の圧力分布に示すように、羽根車3の移動△xに応じて変化する。
【0082】
したがって、
図12に示すように、前シュラウド4側のスラスト力Fsと後シュラウド5側のスラスト力Fbが一致する平衡位置(平衡点X
0)で、羽根車3は安定的に留まる。
【0083】
片吸込ポンプ200の組立時に羽根車3を平衡位置(平衡点X0)に設置すると、軸スラストFは自動的にバランスされて安定した運転ができる。
【0084】
上記第2実施形態の片吸込ポンプ200では、羽根車3のX方向の移動に対するスラスト力Fbの大きさと特性を細やかに調整することができる。
【0085】
図12は片吸込ポンプ200の羽根車位置Xと軸スラストFとの関係を示している。なお、
図12では、第1実施形態の片吸込ポンプ100の羽根車位置Xと軸スラストFとの関係を点線で示している。
【0086】
図12に示すように、この第2実施形態の片吸込ポンプ200(
図12に示す「3凸部」)は、第1実施形態の片吸込ポンプ100(
図12に示す「2凸部」)に比較して、羽根車3内の流路7のバランスホール5bに対応する位置の圧力が吸込口3a側の圧力Pinであり、羽根車3の背面に働くスラスト力Fbを大きくすることができる。これにより、第2実施形態の片吸込ポンプ200は、第1実施形態の片吸込ポンプ100よりも、平衡点X
0が吸込口3a側に移動すると共に、羽根車位置Xが平衡点X
0からずれたときに復元力となる軸スラストFが大きくなる。
【0087】
上記構成の片吸込ポンプ200では、簡単な構成で軸スラストFを自動的にキャンセルすることができる。また、軸スラストFをキャンセルすることで、スラスト軸受の信頼性を向上できる。さらに、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5a,5b(流体通路)を流れる液体の漏れ量を少なくすることで漏れ損失を低減でき、ポンプ効率を向上できる。
【0088】
また、半径の異なる複数の環状の絞り凸部141,142,143を同心円状に設けて半径流ラビリンスを形成することによって、羽根車位置Xの変化に対して、前面側(吸込口11側)に向かって羽根車3に作用するスラスト力Fbの変化量が大きくなり、羽根車3を平衡点X0に戻す復元力を大きくできる。
【0089】
また、羽根車3の後シュラウド5のバランスホール5aを、羽根車3内に発生したキャビテーション泡が羽根板6に再付着して崩壊する位置に設けて、バランスホール5aを介して羽根車3の背面側の高圧液体を羽根車3内の流路7に吐出させることで、キャビテーションの発生を抑制してキャビテーションエロージョンを低減できる。
【0090】
また、バランスホール5a(流体通路)の回転軌跡の一部が環状の絞り凸部142と重なるように、該環状の絞り凸部142の最外径よりも径方向内側にバランスホール5aを設けることによって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5a(流体通路)を流れる液体の流量を効果的に絞ることができる。
【0091】
同様に、バランスホール5b(流体通路)の回転軌跡の一部が環状の絞り凸部143と重なるように、該環状の絞り凸部143の最外径よりも径方向内側にバランスホール5bを設けることによって、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部141,142,143による流体絞りを経て羽根車3内の流路7に連なるバランスホール5b(流体通路)を流れる液体の流量を効果的に絞ることができる。
【0092】
上記第1,第2実施形態では、バランスホール5aの中心位置と羽根車3の中心軸O1との径方向の距離Rrを、羽根車3の吸込口3a側の外周半径Rsと同じにしたが、距離Rrが0.8Rs以上かつRs以下となるようにするのが好ましい。これによって、羽根車3の背面側と羽根車3内の流路7との差圧を小さくでき、液体の漏れ量を抑制して漏れ損失を低減でき、ポンプ効率が向上する。
【0093】
なお、第2実施形態の片吸込ポンプ200において、バランスホール5aがなくバランスホール5bのみの場合も、軸スラストFを自動的にキャンセルすることは可能である。
【0094】
〔第3実施形態〕
この発明の第3実施形態の片吸込ポンプは、バランスホールの代わりに、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て羽根車3の吸込口3aの上流側に連なるバランスパイプ(流体通路)を設けた点を除いて第1実施形態の片吸込ポンプと同一の構成をしており、
図1を援用する。
【0095】
詳しくは、第3実施形態の片吸込ポンプは、羽根車3の背面側かつ環状の絞り凸部41,42よりも径方向内側に一端が開口し、他端が吸込口3aの上流側に開口するように設けられたバランスパイプを備える。
【0096】
上記第3実施形態の片吸込ポンプでは、回転軸2の回転により羽根車3が回転して、回転軸2の軸方向の一方に設けられた吸込口3aから吸い込んだ液体を径方向外側に吐出する。このとき、羽根車3は、前シュラウド4側に吐出側の圧力Poutを受けて、後面側に向かってほぼ一定のスラスト力Fsを受ける。一方、羽根車3は、後シュラウド5側に吐出側の圧力Poutを受けて、前面側(吸込口11側)に向かってスラスト力Fbを受ける。
【0097】
羽根車3が平衡点X0から後面側に移動すると、羽根車3の後シュラウド5とその後シュラウド5に対向する環状の絞り凸部41,42の先端との隙間が狭くなる。このため、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て吸込口3aの上流側に連なるバランスパイプ(流体通路)を流れる液体の速度が遅くなり、羽根車3の背面側の圧力が上昇して、羽根車3に対して前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbがスラスト力Fsよりも増大し、Fb>Fsとなって羽根車3を前面側に移動させる。
【0098】
逆に、羽根車3が平衡点X0から前面側(吸込口11側)に移動すると、羽根車3の後シュラウド5とその後シュラウド5に対向する環状の絞り凸部41,42の先端との隙間が広くなる。このため、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て吸込口3aの上流側に連なるバランスパイプ(流体通路)を流れる液体の速度が速くなり、羽根車3の背面側の圧力が下降して、羽根車3に対して前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbがスラスト力Fsよりも減少し、Fb<Fsとなって羽根車3を後面側に移動させる。
【0099】
そうして、羽根車3は、後面側に向かって働くスラスト力Fsと前面側(吸込口11側)に向かって作用するスラスト力Fbとが等しくなる平衡点X0で安定的に留まる。
【0100】
このようにして、上記第3実施形態の片吸込ポンプでは、簡単な構成で軸スラストFを自動的にキャンセルすることができる。また、軸スラストFをキャンセルすることで、スラスト軸受の信頼性を向上できる。さらに、羽根車3の吐出側から環状の絞り凸部41,42による流体絞りを経て吸込口3aの上流側に連なるバランスパイプ(流体通路)を流れる液体の漏れ量を少なくすることで漏れ損失を低減でき、ポンプ効率を向上できる。
【0101】
また、複数の環状の絞り凸部41,42で半径流ラビリンスを形成することによって、羽根車位置Xの変化に対して、前面側(吸込口11側)に向かって羽根車3に作用するスラスト力Fbの変化量が大きくなり、羽根車3を平衡点X0に戻す復元力を大きくできる。
【0102】
上記第1~第3実施形態では、液体を送り出す片吸込ポンプ100,200について説明したが、気体を送り出す片吸込ポンプにこの発明を適用してもよい。
【0103】
また、上記第1~第3実施形態では、羽根車3の後シュラウド5に対向するケーシングカバー20の部分に、環状の絞り凸部41,42を備えたリング部材40や環状の絞り凸部141,142,143を備えたリング部材140を設けたが、羽根車3の後シュラウド5に対向するケーシング1の部分を加工して、環状の絞り凸部をケーシング1と一体に形成してもよい。この場合、後シュラウド5とケーシング1とが接触したときの焼き付きを防止するために、ケーシング1に後シュラウド5と異なる材料を用いる。
【0104】
また、羽根車3の後シュラウド5に対向するケーシング1の部分でなく、羽根車3の後シュラウド5側に環状の絞り凸部を設けてもよい。
【0105】
さらに、羽根車の後シュラウドに対向するケーシングの部分に環状の絞り凸部を設けると共に、後シュラウド側に環状の絞り凸部を設けて、半径流ラビリンス(くい違いラビリンス)を形成してもよい。
【0106】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記第1~第3実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0107】
1…ケーシング
2…回転軸
3…羽根車
3a…吸込口
4…前シュラウド
5…後シュラウド
5a,5b…バランスホール(流体通路)
6…羽根板
7…筒状の流路
10…ケーシング本体
11…吸込口
12…配置空間部
13…ボリュート通路
14…吐出口
15…ウェアリング
20…ケーシングカバー
21…シャフト穴
22…メカニカルシール
30…ベアリングケース
31,32…ベアリング
40,140…リング部材
41,42,141,142,143…環状の絞り凸部
100,200…片吸込ポンプ