(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】保護膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20221019BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20221019BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20221019BHJP
C09D 139/06 20060101ALI20221019BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20221019BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20221019BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20221019BHJP
C08L 35/06 20060101ALI20221019BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20221019BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20221019BHJP
B23K 26/364 20140101ALN20221019BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/20
C09D129/04
C09D139/06
C09D5/20
C09D7/48
H01L21/78 B
H01L21/78 M
C08L35/06
C08L101/14
C08L29/04 Z
B23K26/364
(21)【出願番号】P 2018199196
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】村上 貴志
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098299(JP,A)
【文献】特開2017-098298(JP,A)
【文献】特表2011-522411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子
、レーザー光吸収剤及び溶媒を含み、溶媒が、水とプロピレングリコール誘導体を質量比9:1~0:10で含
み、ポリエチルオキサゾリン及びポリビニルピロリドンのいずれも含まない、保護膜形成用組成物。
【請求項2】
水溶性高分子が、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリビニルピロリドン系樹脂から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
レーザー光吸収剤
が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤及びフェルラ酸から選択された少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
プロピレングリコール誘導体が、プロピレングリコールモノアルキルエーテルを含む請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
プロピレングリコールモノアルキルエーテルが、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル及びプロピレングリコールモノブチルエーテルから選択される少なくとも1種を含む請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が60モル%以上96モル%未満である請求項2~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が100~4000である請求項2~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
水溶性高分子におけるナトリウムの含有量が300ppm以下である請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
水溶性高分子におけるナトリウムの含有量が1ppm以下である請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
半導体加工用である請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
半導体レーザー加工用である請求項1~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、各成分の混合液をイオン交換処理する工程を含む製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、各成分の混合液を孔径1μm以下のフィルターで濾過する工程を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な保護膜形成用組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
基材(例えば、ガラス、半導体ウェーハ、樹脂成形品など)に対して加工を行う際に、基材表面に保護膜を形成させて非加工箇所を保護した状態で加工を行い、加工後に保護膜を除去する方法が知られている。
【0003】
このような方法は、例えば、半導体ウェーハの加工において使用されている。
半導体ウェーハは、シリコンなどの半導体基板の表面に絶縁膜と機能膜が積層された積層体であるが、この半導体ウェーハに、レーザー光を照射して溝を作製した後、溝に添った切断を行うことによって、半導体チップが製造される。
しかしながら、半導体ウェーハにレーザー光を照射すると、レーザー光が半導体基板に吸収されてしまうため、半導体基板の溶融物や熱分解物が発生し、これら溶融物や熱分解物が、付着物(デブリ)として半導体ウェーハや半導体チップ表面に付着してしまうという問題があった。
【0004】
このような中、半導体ウェーハ表面に、水洗による除去が可能な保護膜を形成させ、レーザー光を照射して加工を行う方法(レーザーダイシング)が知られている。保護膜を介してレーザー光を照射することにより、デブリを保護膜表面上に付着させ、水洗によって保護膜と共にデブリを除去することができる。
【0005】
このような保護膜を形成する剤として、例えば、特許文献1には、水溶性樹脂と、特定の範囲の吸光度を有する水溶性のレーザー光吸収剤とを含む保護膜剤が記載されている。
なお、特許文献1には、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリビニルピロリドン系樹脂から選択される少なくとも1種、水及びプロピレングリコール誘導体の具体的な組み合わせは、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規な保護膜形成用組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、効率良く除去できる保護膜を形成する、保護膜形成用組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、効率良く付着物を除去できる保護膜を形成する、保護膜形成用組成物を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、このような組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、特許文献1の実施例に記載の保護膜剤は、理由は定かではないが、塗布性が悪い場合があることや、形成された保護膜がレーザー加工などにおいて十分な加工性を有していない場合があることを見出した。
【0012】
このような中、本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水溶性高分子とプロピレングリコール誘導体との組み合わせが、塗布性に優れることなどを見出し、さらに鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、次の発明などに関する。
[1]
水溶性高分子及び溶媒を含み、溶媒が、水とプロピレングリコール誘導体を質量比9:1~0:10で含む、保護膜形成用組成物。
[2]
水溶性高分子が、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリビニルピロリドン系樹脂から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の組成物。
[3]
さらに、レーザー光吸収剤を含む[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]
プロピレングリコール誘導体が、プロピレングリコールモノアルキルエーテルを含む[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]
プロピレングリコールモノアルキルエーテルが、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル及びプロピレングリコールモノブチルエーテルから選択される少なくとも1種を含む[4]に記載の組成物。
[6]
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が60モル%以上96モル%未満である[2]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が100~4000である[2]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
水溶性高分子におけるナトリウムの含有量が300ppm以下である[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]
水溶性高分子におけるナトリウムの含有量が1ppm以下である[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]
半導体加工用である[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]
半導体レーザー加工用である[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、各成分の混合液をイオン交換処理する工程を含む製造方法。
[13]
[1]~[11]のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、各成分の混合液を孔径1μm以下のフィルターで濾過する工程を含む製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規な保護膜形成用組成物を提供できる。
このような組成物によれば、形成された保護膜や、加工などで発生した付着物を、水洗によって容易に除去することができる。
また、本発明の組成物は、基材への塗布性や、形成された保護膜の加工性に優れるため、基材への加工を効率良く行うことができる。
また、本発明の組成物は、保管安定性に優れるため、長期保管後も上記のような特性を発揮し得る。
【0015】
そして、本発明では、上記のような組成物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(組成物)
本発明の組成物は、通常、水溶性高分子と後述する特定の溶媒とを含む。本発明の組成物は、特に、保護膜形成用に使用することができる。
【0017】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリグリセリン(例えば、ジグリセリン、トリグリセリンなどのポリアルカントリオール)、ポリアクリル酸及びそのブロック共重合体(例えば、ポリビニルアルコールポリアクリル酸ブロック共重合体など)などが挙げられる。
水溶性高分子としては、代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂などであり、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリビニルピロリドン系樹脂から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0018】
なお、水溶性高分子は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
(ポリビニルアルコール系樹脂)
ポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂、PVAなどということがある)は、通常、ビニルエステル系重合体(少なくともビニルエステルを重合成分とする重合体)の鹸化物である。
【0020】
ビニルエステル(ビニルエステル系単量体)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸ビニルエステル[例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニルなどのC1-20脂肪酸ビニルエステル(例えば、C1-16アルカン酸-ビニルエステル)など]、芳香族カルボン酸ビニルエステル[例えば、安息香酸ビニルなどのアレーンカルボン酸ビニル(例えば、C7-12アレーンカルボン酸-ビニルエステル)など]などが挙げられる。
【0021】
ビニルエステルは、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ビニルエステルは、少なくとも脂肪酸ビニルエステル(例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどのC1-10アルカン酸-ビニルエステルなど)を含んでいるのが好ましく、工業的観点などから、特に、酢酸ビニルを含んでいてもよい。
【0023】
ビニルエステル系重合体は、ビニルエステル単位を有していればよく、必要に応じて、他の単量体(ビニルエステルと共重合可能な単量体)由来の単位を有していてもよい(他の単量体により変性されていてもよい)。
【0024】
他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、α-オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレンなど)、(メタ)アクリル酸エステル類[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル]、不飽和アミド類[例えば、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドなど]、不飽和酸類{例えば、不飽和酸[例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸など]、不飽和酸エステル[(メタ)アクリル酸以外の不飽和酸エステル、例えば、アルキル(メチル、エチル、プロピルなど)エステルなど]、不飽和酸無水物(無水マレイン酸など)、不飽和酸の塩[例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩など]など}、グリシジル基含有単量体[例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなど]、スルホン酸基含有単量体(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、その塩類など)、リン酸基含有単量体[例えば、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレートなど]、ビニルエーテル類(例えば、アルキルビニルエーテル類)、アリルアルコールなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0025】
他の単量体は、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
なお、PVA系樹脂は、ビニルアルコール単位の一部が、アセタール化、エーテル化、アセトアセチル化、カチオン化などの反応によって、変性されたものであってもよい。
また、PVA系樹脂は、レーザー光吸収能を有するもの(例えば、炭素―炭素二重結合を有するもの)であってもよい。
【0027】
PVA系樹脂は、1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
なお、PVA系樹脂としては、市販品を使用してもよい。
【0029】
PVA系樹脂の製造方法としては、特に限定されず、例えば、ビニルエステル系重合体をけん化する方法などの公知の方法を用いてよい。
ビニルエステル系重合体の重合方法としては、特に限定されず、例えば、従来公知の塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、溶液重合(例えば、溶剤としてメタノールを用いた溶液重合など)が工業的に好ましい。
該溶液重合には、過酸化物系、アゾ系などの公知の開始剤を用いることができ、ビニルエステル系単量体と溶剤の配合比、重合収率を変えることにより、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調整することができる。
【0030】
ビニルエステル系重合体のけん化方法としては、従来から公知のアルカリ触媒又は酸触媒を用いたけん化方法を使用することができる。中でも、ビニルエステル系重合体のメタノール溶液又はビニルエステル系重合体のメタノール、水、酢酸メチルなどの混合溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを加えて、撹拌して混合しながら、加アルコール分解する方法が、工業的に好ましい。
その後、得られた塊状物、ゲル状物あるいは粒状物を粉砕し、必要に応じて添加したアルカリを中和した後、固形物と液体成分を分離し、固形物を乾燥することによりPVA系樹脂を得てもよい。
【0031】
PVA系樹脂のけん化度は、特に限定されないが、溶媒への溶解性や組成物の保管安定性が優れるなどの観点から、例えば、60モル%以上96モル%未満が好ましく、65~95モル%がより好ましく、70~90モル%が特に好ましい。
【0032】
なお、PVA系樹脂のけん化度は、例えば、JIS K6726のけん化度測定方法などによって、測定してもよい。
【0033】
PVA系樹脂の平均重合度は、特に限定されないが、100~4000が好ましく、200~2000がより好ましく、300~1000が特に好ましい。
【0034】
なお、PVA系樹脂の平均重合度は、例えば、JIS K6726に規定された方法などによって、測定してもよい。
【0035】
(ポリビニルピロリドン系樹脂)
ポリビニルピロリドン系樹脂(PVP系樹脂、PVPなどということがある)は、通常、N-ビニル-2-ピロリドン系重合体(少なくともN-ビニル-2-ピロリドンを重合成分とする重合体)である。
PVP系樹脂は、N-ビニル-2-ピロリドン単位を有していればよく、必要に応じて、他の単量体(N-ビニル-2-ピロリドンと共重合可能な単量体)由来の単位を有していてもよい(他の単量体により変性されていてもよい)。
【0036】
他の単量体としては、特に限定されず、例えば、上記したビニルエステル系重合体におけるビニルエステルや他の単量体などが挙げられる。なお、他の単量体は、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
PVP系樹脂は、1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0038】
なお、PVP系樹脂としては、市販品を使用してもよい。
【0039】
PVP系樹脂の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いてよい。
PVP系樹脂は、例えば、アセチレン、アンモニア及びホルムアルデヒドからN-ビニル-2-ピロリドンを合成し、これを酸化剤などの存在下で重合させることによって製造することができる。
【0040】
PVP系樹脂のK値は、特に限定されないが、例えば、K12~120であり、形成した保護膜を効率良く除去できるなどの観点から、K20~K100が好ましく、K30~K90がより好ましい
【0041】
なお、PVP系樹脂のK値は、フィケンチャー法によるK値であってよい。K値の測定方法は、特に限定されず、公知の方法に従って測定してよい。
【0042】
水溶性高分子におけるナトリウムの含有量は、特に限定されないが、例えば、300ppm以下であり、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、特に好ましくは1ppm以下であってもよい。
【0043】
なお、水溶性高分子におけるナトリウムの含有量は、例えば、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)などを用いた公知の方法によって、測定してもよい。
【0044】
(溶媒)
本発明の組成物において、溶媒は、通常、水とプロピレングリコール誘導体を質量比9:1~0:10で含む。
【0045】
プロピレングリコール誘導体としては、例えば、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノC1-4アルキルエーテル)、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールモノC1-4アルキルエーテルアセテート)などが挙げられ、これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMEということがある)などが特に好ましい。
【0046】
プロピレングリコール誘導体は、1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0047】
溶媒は、水とプロピレングリコール誘導体の他に、他の溶媒を含んでいてもよい。
他の溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール{例えば、1価アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール)}、エステル類(例えば、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネートなどのカルボン酸アルキルエステル)、プロピレングリコール誘導体以外の多価アルコール誘導体[例えば、エチレングリコール誘導体{例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノC1-4アルキルエーテル)、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエチレングリコールモノC1-4アルキルエーテルアセテート)}など]などが挙げられる。
【0048】
他の溶媒は、1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0049】
(他の成分)
本発明の組成物は、水溶性高分子及び溶媒の他に、他の成分を含んでいてもよい。
【0050】
他の成分としては、特に限定されず、例えば、レーザー光吸収剤、可塑剤などの添加剤、塩基性化合物[例えば、アンモニア、水酸化第4級アンモニウム{例えば、水酸化テトラアルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウムなどの水酸化テトラC1-8アルキルアンモニウム)}]などが挙げられる。
【0051】
これらの他の成分の中でも、レーザー光吸収剤が特に好ましい。
レーザー光吸収剤としては、特に限定されず、例えば、紫外線吸収剤、色素などが挙げられ、水溶性のものが好ましい。
【0052】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤{例えば、ポリヒドロキシベンゾフェノン(例えば、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)}、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(例えば、2,2’-メチレンビス[6-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール])、フェルラ酸などが挙げられる。
【0053】
色素としては、例えば、食品添加用色素{例えば、食用赤色色素(例えば、食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号)、食用黄色色素(例えば、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号)、食用青色色素(例えば、食用青色1号、食用青色2号)、食用緑色色素(例えば、食用緑色3号)}などが挙げられる。
【0054】
これらの紫外線吸収剤の中でも、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、フェルラ酸などが好ましく、ポリヒドロキシベンゾフェノン、フェルラ酸などが特に好ましい。
【0055】
他の成分は、1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0056】
(組成物の態様)
組成物において、水溶性高分子の割合(組成物全体に対する水溶性高分子の割合)は、特に限定されないが、例えば、1~30質量%(例えば、5~30質量%)、好ましくは1~25質量%(例えば、5~25質量%)、より好ましくは1~20質量%(例えば、5~20質量%、1~15質量%)であってもよい。
【0057】
組成物において、溶媒の割合(組成物全体に対する溶媒の割合)は、特に限定されないが、例えば、50~99質量%(例えば、50~95質量%)、好ましくは60~99質量%(例えば、60~95質量%)、より好ましくは70~99質量%(例えば、70~95質量%)であってもよい。
【0058】
組成物が他の成分を含む場合、組成物において、他の成分の割合(組成物全体に対する他の成分の割合)は、特に限定されないが、例えば、0.01~30質量%、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%であってもよい。
【0059】
特に、組成物がレーザー光吸収剤を含む場合、組成物において、レーザー光吸収剤の割合(組成物全体に対するレーザー光吸収剤の割合)は、特に限定されないが、例えば、0.01~5質量%(例えば、0.01~3質量%)、好ましくは0.01~1質量%(例えば、0.01~0.5質量%)、より好ましくは0.05~0.5質量%であってもよい。
【0060】
組成物において、水溶性高分子と溶媒との割合は、特に限定されないが、水溶性高分子:溶媒(質量比)が、例えば、1:99~40:60(例えば、5:95~30:70)、好ましくは1:99~25:75(例えば、5:95~25:75)、より好ましくは5:95~20:80であってもよい。
【0061】
組成物中の溶媒において、水とプロピレングリコール誘導体との割合は、水:プロピレングリコール誘導体(質量比)が、通常、9:1~0:10であり、9:1~1:9が好ましく、9:1~2:8がより好ましく、9:1~3:7(例えば、9:1~4:6)が特に好ましい。
【0062】
組成物が他の成分を含む場合、組成物において、水溶性高分子と他の成分との割合は、特に限定されないが、水溶性高分子100質量部に対して、他の成分が、例えば、0.01~20質量部、好ましくは0.01~10質量部であってもよい。
【0063】
特に、組成物がレーザー光吸収剤を含む場合、組成物において、水溶性高分子とレーザー光吸収剤との割合は、特に限定されないが、水溶性高分子100質量部に対して、レーザー光吸収剤が、例えば、0.01~20質量部(例えば、0.05~15質量部)、好ましくは0.01~10質量部(例えば、0.05~10質量部、0.1~10質量部、0.1~8質量部)であってもよい。
【0064】
本発明の組成物の粘度は、組成物の用途等に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、B型回転粘度計を用いて測定した200℃における粘度が、例えば、10~800mPa・s、好ましくは20~700mPa・sであってもよい。
【0065】
組成物は、レーザー光の吸収波長における吸光度が、高過ぎず低過ぎない範囲であってよい。
例えば、組成物は、水で100倍希釈した水溶液の355nmにおける吸光度が、加工(特に、レーザー加工)部周辺の剥がれを低減できるなどの観点から、例えば、0.1~0.9abs、好ましくは0.2~0.8abs、より好ましくは0.2~0.7absなどであってもよい。
組成物の吸光度は、レーザー光吸収剤と水溶性高分子の種類やそれらの含有割合などによって調整することができる。特に、本発明で使用される特定の溶媒によれば、上記吸光度の範囲に調整しやすい。
なお、上記吸光度は、例えば、後述の実施例に記載の方法などによって測定してもよい。
【0066】
(組成物の製造方法)
組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、水溶性高分子及び溶媒(さらに、必要に応じて他の成分)を混合してもよい。混合は、常温で行ってもよいし、加熱しながら行ってもよい。また、混合は、撹拌しながら行ってもよい。
なお、組成物中の各成分の添加順序は、特に限定されない。
【0067】
組成物の製造方法について、好ましい一態様を以下に示す。
例えば、水溶性高分子としてPVA系樹脂を溶解する場合、生産性などの観点から、水(例えば、冷水)に、(好ましくは、水を攪拌しながら)PVA系樹脂を投入してもよい。その後、攪拌をしながら加熱(例えば、80℃以上に加熱)して、PVA系樹脂を溶解させてもよい。その後、好ましくは攪拌しながら室温まで冷却し、PVA系樹脂水溶液を得てもよい。
【0068】
また、レーザー光吸収剤を使用する場合、溶解性などの観点から、例えば、プロピレングリコール誘導体にレーザー光吸収剤を溶解させた溶液を得てから、これを別途作製した水溶性高分子の水溶液と混合ししてもよい。
【0069】
組成物の製造工程では、組成物をイオン交換処理してもよい。
組成物のイオン交換処理は、組成物に含まれる各成分をイオン交換処理してもよいし、各成分の混合液をイオン交換処理してもよい。
イオン交換処理方法としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を含むミックス型イオン交換樹脂)を充填したカラムに、上記混合液を通液させることによって行ってもよい。
【0070】
また、組成物の製造工程では、組成物に含まれる各成分の混合液を濾過してもよい。
濾過方法としては、特に限定されず、例えば、フィルターを用いて濾過してもよい。
フィルターとしては、特に限定されず、組成物の用途などに応じて適宜選択し得る。
フィルターの孔径は、例えば、10μm以下、好ましくは1μm以下などであってもよい。
【0071】
また、組成物中の他の成分として塩基性化合物を使用する場合、上記したイオン交換処理や濾過を経た混合液に、塩基性化合物を添加することによって、組成物のpHを、組成物の用途に適したpHに調整してもよい。
【0072】
(保護膜)
本発明の組成物を、基材表面に塗布することによって、保護膜を形成することができる。
【0073】
基材としては、特に限定されず、例えば、ガラス、合成石英、樹脂成形品、半導体(例えば、半導体ウェーハ)などが挙げられる。
【0074】
塗布方法としては、特に限定されず、基材の種類などによって適宜選択することができるが、例えば、スピンコーター法、スクリーン印刷法、コンマコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法などが挙げられる。
【0075】
保護膜の厚みは、特に限定されず、組成物の用途に応じて適宜選択し得るが、例えば、0.01~50μm(例えば、0.01~30μm)であり、好ましくは0.01~20μm(例えば、0.01~15μm)、より好ましくは0.01~10μmであってもよい。
【0076】
(組成物の用途)
上記のようにして基材表面に形成された保護膜を介して、基材の加工を行うことにより、非加工箇所を保護した状態で基材の加工を行うことができる。
【0077】
加工方法は、特に限定されず、基材の種類などによって適宜選択できるが、例えば、機械加工(例えば、切削加工、研削加工)、レーザー加工(例えば、レーザーダイシング)などが挙げられる。
【0078】
特に、レーザー加工を行う場合、レーザー光の波長は、例えば、355nm、532nmなどであってもよい。なお、組成物がレーザー光吸収剤を含む場合、レーザー光の波長は、レーザー光吸収剤の吸収波長であってもよい。
【0079】
上記加工を行った後、保護膜を洗浄することにより、保護膜を除去することができる。
洗浄方法は、特に限定されないが、本発明の組成物で形成された保護膜は、水洗{例えば、水、温水(例えば、40~90℃の温水)など}によって効率良く除去することができる。
また、このような保護膜の洗浄を行うことによって、加工の際に発生した付着物(例えば、溶融物、熱分解物など)も効率良く除去することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
(組成物の作製)
後述の表1に記載の各組成となる様に、水溶性高分子、溶媒及びレーザー光吸収剤を混合した液を、撹拌しながら90℃で1時間加熱し、水溶性高分子及びレーザー光吸収剤を溶媒に溶解させた。
なお、表1に記載の水溶性高分子としては、以下のものを使用した。
PVA-1:日本酢ビ・ポバール製 JP-03(ケン化度88モル%、重合度300、酢酸ナトリウム0.7wt%(ナトリウム換算濃度1963ppm))
PVA-2:日本酢ビ・ポバール製 PXP-18(ケン化度88モル%、重合度1800、ナトリウム1ppm未満)
PVP-1:和光純薬製PVP K-30(K値30、ナトリウム1.1ppm)
PVP-2:和光純薬製PVP K-90(K値90、ナトリウム0.1ppm)
なお、上記PVPのナトリウム含有量は、ICP-MS法によって測定した。
【0082】
上記のようにして溶解させた溶液を室温まで冷却したものを原液タンクに入れ、原液タンクからポンプで送液して、陽イオン交換樹脂(オルガノ社製 AMBERJET 1024(H)-HG)を詰めたカラムを通過させ、更に濾過フィルター(アドバンテック社製 孔径1μm PP製フィルター(型番:MCP-JX-D10S))を通過させ、原液タンクへと戻る方法で、イオン交換処理と濾過処理とを3時間循環処理して行い、精製処理された組成物を得た。
なお、カラム通液時は、組成物の組成が変化しない様に、カラムに充填された樹脂容量の2倍量の初流液(通液時に最初に出てきた液)を処分してから、循環処理を行った。
前記イオン交換処理と濾過処理の循環処理を経て得られた組成物を、撹拌しながらpHが5.0~7.0になるように水酸化テトラメチルアンモニウムを少量添加した。
【0083】
(355nm吸光度)
組成物を超純水で100倍希釈した水溶液の吸光スペクトルを測定した。355nmにおける吸光度を表1に示す。なお、吸光スペクトルの測定は、ジャスコエンジニアリング株式会社製の紫外可視分光高度計V-750を用い、光路長1cmで測定した。
【0084】
(スピン塗布)
直径6インチのシリコン半導体ミラーウェーハのミラー面側に、各組成物を滴下し、膜厚が0.5~1.5μmとなる様にスピン塗布条件(滴下量、回転数、保持時間、スピンカップの排気量)を調整し、保護膜を形成した。
【0085】
(レーザー加工)
上記半導体ミラーウェーハの保護膜面側に、以下の仕様のレーザー加工機を用いて、レーザー加工を行った。
レーザー光の光源 :YVO4レーザー
波長 :355nm
繰り返し周波数 :50~100kHz
出力 :0.3~4.0W
集光スポット径 :φ9.2μm
加工送り速度 :1~800mm/秒
【0086】
(水洗)
上記レーザー加工後の半導体ミラーウェーハの保護膜塗布面に、20℃の冷水を、60秒間掛け流しながらスピン洗浄を行った。
【0087】
各組成物について、塗布性、レーザー加工性、水洗後の塗膜残渣、水洗後のデブリを、以下の評価基準によって評価した。
【0088】
(塗布性)
目視により、以下のように評価した。
◎:面内均一に塗布できた。
○:放射線状のスジや塗布ムラが若干見られたが、概ね面内均一に塗布できた。
△:放射線状のスジや塗布ムラが多く見られた。
×:塗布条件を調整しても、塗布液が面内全体に塗り広がらず、未塗布領域が見られた。
【0089】
(レーザー加工性)
レーザー加工ラインに沿って長さ100mm分をレーザー顕微鏡(キーエンス社製 VK-X200、倍率150倍)で観察し、レーザー加工の集光スポット径を100%とした場合のレーザー加工線幅の最大箇所の線幅を、以下の分類で評価した。
○:最大線幅が120%未満
△:最大線幅が120%以上~200%未満
×:最大線幅が200%以上
【0090】
(水洗後の残渣)
目視により、以下のように評価した。
○:水洗後、塗膜は綺麗に除去された。
△:水洗後、塗膜が除去されず残った部分があった。
×:水洗後、塗膜が殆ど溶けずに全面に残った。
【0091】
(水洗後のデブリ)
水洗後、半導体ミラーウェーハのレーザー加工箇所周辺部を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製 VK-X200、対物レンズ倍率150倍)で観察し、以下のように評価した。
○:水洗後、デブリの付着は観察されなかった。
△:水洗後、塗膜が残った部分に、若干デブリの付着が観察された。
×:水洗後、デブリの付着が観察された。
【0092】
上記のようにして各実施例及び参考例の組成物を評価した結果を、表2に示す。
また、各組成物の外観を目視で評価した結果も、表2に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
表2が示すように、実施例の組成物は、塗布性に優れた。
また、実施例の組成物で形成された保護膜は、加工性に優れた。
そして、実施例では、水洗によって、保護膜とデブリを綺麗に除去することができた。
【0096】
実施例2、6及び参考例1の組成物をポリプロピレン製ボトルに充填、密閉し、25℃で1年間保管し、保管後の物性についても調べた。結果を表3に示す。表3が示すように、実施例の組成物は、保管安定性が優れ、特に、PVPを使用した実施例6において保管安定性が優れていた。
【0097】
【0098】
(フィルムの溶解性)
平らなガラス板上にPETフィルムを張り合わせ、四辺をガムテープで固定した。
前記PETフィルム上に、乾燥後のフィルム厚さが40μm程度となる様に各組成物を流延し、恒温室内(20℃、65%RH)にて水平な作業台の上で48時間乾燥させた。
出来上がったフィルムサンプルを1cm×1cmの大きさに切り分け、厚み計でフィルムの厚さ(μm)を測定した。1cm×1cmのフィルムの中心部にクリップの針金の先端部を貫通させ、フィルムがクリップの針金の先端部にぶら下がった状態にした。
300mLトールビーカーに純水を入れ、20±0.1℃に温度調整し、前記クリップの針金の先端部にぶら下がったフィルムを浸漬し、水に漬けてからフィルムがクリップの針金から溶け落ちるまでの時間(溶断時間(秒))を測定した。
実施例1、2及び6、並びに参考例1の組成物について、フィルム厚さの異なるフィルムサンプル6点以上の溶断時間を求め、フィルム厚さと溶断時間の関係から、厚さ40μm相当の溶断時間を算出し比較した。評価結果を、表4に示す。
【0099】
【0100】
表4が示すように、実施例の組成物で形成されたフィルムは、水への溶解性が優れ、特に、PVPを使用した実施例6において水への溶解性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の組成物は、基材への塗布性などが優れるため、表面に保護膜を形成させた基材の加工を効率良く行うことができ、工業的に極めて有用である。