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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20221019BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20221019BHJP
   B24B 1/00 20060101ALI20221019BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G11B5/84 A
B24B37/00 H
B24B1/00 D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018203066
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020071890
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-198976(JP,A)
【文献】国際公開第98/021289(WO,A1)
【文献】特開2009-172709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B24B 37/00
B24B 1/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の粗研磨において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bであり、
コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有し、
前記コロイダルシリカがHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であり、
前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
前記水溶性高分子化合物であるカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる単量体である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
(1)α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の粗研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、後段の粗研磨を行う工程。
【請求項2】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の粗研磨において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bであり、
コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有し、
前記コロイダルシリカがHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であり、
前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
(1)α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の粗研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、後段の粗研磨を行う工程。
【請求項3】
前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である請求項1または2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる1種または2種以上の単量体である請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記研磨剤組成物Bが有機硫酸エステル塩化合物をさらに含有し、前記有機硫酸エステル塩化合物が下記一般式(1)で表される請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
R-O-SO M (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンまたは有機カチオンを表す。
【請求項6】
前記研磨剤組成物が有機硫酸エステル塩化合物をさらに含有し、前記有機硫酸エステル塩化合物が下記一般式()で表される請求項1~のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
R-O-(AO) -SO M (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の自然数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンまたは有機カチオンを表す。
【請求項7】
前記研磨剤組成物酸および/またはその塩をさらに含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある請求項1~のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
前記研磨剤組成物酸化剤をさらに含有している請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の粗研磨に用いられる請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用される研磨剤組成物に関する。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用される研磨剤組成物に関する。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の粗研磨工程に使用される研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。そこで、高記録密度磁気信号の検出感度を向上させる必要があり、磁気ヘッドの浮上高さをより低下し、単位記録面積を縮小する技術開発が進められている。磁気ディスク基板は、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、平滑性および平坦性の向上(表面粗さ、うねりの低減)や表面欠陥の低減(砥粒残渣、研磨屑、スクラッチ、ピットなどの低減)が厳しく要求されている。
【0003】
このような要求に対して、砥粒残渣低減、研磨屑低減、さらにはうねりの改善といった表面品質向上と生産性向上を両立させる観点から、α-アルミナ、中間アルミナを含む研磨剤組成物を使用することにより、高い研磨速度を達成し、うねりを低減できるとの提案がなされている(特許文献1)。しかしながら、うねり低減効果は不十分であり、改善が求められている。また、磁気ディスク基板の研磨方法においては、2段階以上の研磨工程を有する多段研磨方式が採用されることが多い(特許文献2)。一般に、多段研磨方式の最終研磨工程、すなわち、仕上げ研磨工程では、表面粗さの低減、スクラッチ、付着物、ピット等の低減の観点から、シリカ粒子を含む研磨剤組成物が使用される。一方、それより前の研磨工程(粗研磨工程ともいう)では、生産性向上の観点から、アルミナ粒子を含む研磨剤組成物が使用される場合が多い。
【0004】
しかし、アルミニウムハードディスク基板の研磨を行う場合、アルミナ粒子はアルミニウム合金基板に比べてかなり硬度が高いため、砥粒残渣および研磨屑の基板表面への付着、さらにはうねり悪化などが起こり、それが仕上げ研磨に悪影響を与えることが問題になっていた。
【0005】
このような問題の解決策として、粗研磨工程において同一研磨機でアルミナ含有研磨剤組成物を使用した研磨と、コロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨を行う研磨方法が開示されている(特許文献3)。さらに、アルミナ含有研磨剤組成物を使用した研磨とコロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨との間に砥粒を含まない洗浄液を供給する研磨方法も開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-23266号公報
【文献】特開昭62-208869号公報
【文献】特開2012-25873号公報
【文献】特開2012-43493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、磁気ディスク基板の研磨工程において、生産性を維持しつつ、基板表面上の砥粒残渣、研磨屑などの付着物を低減し、さらにうねりを低減することが求められている。特許文献1~4の提案では十分に要求特性に応えることは困難である。
【0008】
本発明の課題は、生産性を維持しつつ、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面の砥粒残渣、研磨屑などの付着物を低減し、さらにうねりの低減を実現できる磁気ディスク基板用研磨剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討した結果、多段研磨方式における粗研磨工程の後段研磨において、以下の研磨剤組成物を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の研磨剤組成物である。
【0010】
[1] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の粗研磨において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bであり、コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有し、前記コロイダルシリカがHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であり、前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、前記水溶性高分子化合物であるカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる単量体である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
(1)α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の粗研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、後段の粗研磨を行う工程。
【0011】
[2] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の粗研磨において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bであり、
コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有し、
前記コロイダルシリカがHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であり、
前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物であ
る磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
(1)α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の粗研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、後段の粗研磨を行う工程。
【0013】
] 前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である前記[1]または2]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0014】
]前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる1種または2種以上の単量体である前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0015】
] 前記研磨剤組成物が有機硫酸エステル塩化合物をさらに含有し、前記有機硫酸エステル塩化合物が下記一般式(1)で表される前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
R-O-SOM (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンまたは有機カチオンを表す。
【0016】
] 前記研磨剤組成物が有機硫酸エステル塩化合物をさらに含有し、前記有機硫酸エステル塩化合物が下記一般式(2)で表される前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
R-O-(AO)-SOM (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の自然数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンまたは有機カチオンを表す。
【0017】
] 前記研磨剤組成物が酸および/またはその塩をさらに含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0018】
] 前記研磨剤組成物が酸化剤をさらに含有している前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0019】
] 無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の粗研磨に用いられる前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いることにより、多段研磨方式における粗研磨工程後の、基板表面上の砥粒残渣、研磨屑などの付着物が低減し、さらにうねりが低減された基板を、生産性よく製造できるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
1.研磨剤組成物
本発明の研磨剤組成物(本発明の研磨剤組成物は、以下で述べる研磨剤組成物Bである。)は、コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する。コロイダルシリカはHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下である。水溶性高分子化合物はカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物、および/またはカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である。また、本発明の研磨剤組成物は、任意成分として有機硫酸エステル塩化合物、酸および/またはその塩、酸化剤、その他の添加剤などを含む研磨剤組成物である。
【0023】
本発明の研磨剤組成物は、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の粗研磨において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bである。
(1)α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の粗研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、後段の粗研磨を行う工程。
以下、詳しく説明する。
【0024】
1-1.コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物Bで用いられるコロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法で得られる。またはテトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で、酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法によっても得られる。
【0025】
コロイダルシリカは球状、鎖状、金平糖型、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。コロイダルシリカの形状は、球状または球状に近いものが好ましい。
【0026】
コロイダルシリカの平均粒子径(D50)は、10~100nmであることが好ましく、より好ましくは20~80nmである。さらに、Heywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上であり、かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下である。
【0027】
ここでいう累積体積頻度(%)とは、通常用いられている意味と同じであり、対象となる粒子の集まりについての粒子径の最も小さい粒子を起点として粒子径の大きさの順に体積を積算していった分布において、ある数値以下の粒子径を有した粒子の体積の合計が、対象となる全ての粒子の体積の合計に対して占めている割合(%)を表す。例えば、粒子径15nmの累積体積頻度が50%の時は、粒子径15nm以下の粒子の体積の合計が全ての粒子の体積の合計の50%を占めていることを意味する。尚、Heywood径とは、電子顕微鏡観察によって得られた画像を解析し、投射面積円相当径を求めて得られた結果である。
【0028】
本発明の研磨剤組成物に含まれるコロイダルシリカは、粒子径50nm以上の大きな粒子と粒子径15nm以下の小さな粒子の占める割合が比較的少なく抑えられている。このような粒度分布のコロイダルシリカは、研磨パッドによって擦られている対象物の表面に供給された場合、研磨パッドに十分保持されやすい。また、上記の粒度分布であるため、コロイダルシリカと対象物の表面との間にできる隙間は、砥粒や対象物の削りくずなどの残留物の大きさよりも小さくなっている傾向にある。そのため、残留物がコロイダルシリカと対象物の表面との隙間に逃げ込みにくくなって、残留物とコロイダルシリカの衝突頻度が高まり、対象物の表面から残留物を効率的に除去することができる。
【0029】
また、粒子径50nm以下のコロイダルシリカの粒子が相当な数を確保されていることによって、あるコロイダルシリカと対象物の表面との間の隙間に、さらに別の小さい粒子径のコロイダルシリカが入り込む状態が生じやすくなっている。これにより、コロイダルシリカと対象物の表面との隙間に、対象物の削りくずなどの残留物が逃げ込みにくくなって、残留物は対象物の表面から除去されやすくなる。また、コロイダルシリカは球状または球状に近い形状であるため、対象物の表面に付着したり突き刺さったりしにくい傾向にある。したがって、コロイダルシリカ自体は、対象物の表面に残留しにくい。
【0030】
研磨剤組成物中のコロイダルシリカの濃度は、0.1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~10質量%である。
【0031】
1-2.水溶性高分子化合物
本発明の研磨剤組成物Bで用いられる水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物、および/またはカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である。また、これら以外の単量体も使用することができる。カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体以外の単量体としては、例えばアミド基を有する単量体が挙げられる。
【0032】
1-2-1.カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0033】
水溶性高分子化合物中で、カルボン酸基を有する単量体が、酸の状態で存在する割合が多いか、塩の状態で存在する割合が多いかについては、水溶性高分子化合物のpH値で評価できる。酸として存在する割合が多ければpH値は低くなるし、塩として存在する割合が多ければ、pH値は高くなる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液におけるpH値(25℃)が0.1~13の範囲の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0034】
1-2-2.スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。これらの中から、1種または2種以上を選択し、単量体として使用できる。好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0035】
1-2-3.その他の単量体
本発明の研磨剤組成物Bで使用される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体が必須単量体であるが、これら以外の単量体も使用することができる。例えば、アミド基を有する単量体も使用することができる。具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどを使用することができる。
【0036】
N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドの具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0037】
1-2-4.重合体の混合物
本発明の研磨剤組成物Bで使用される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物であってもよい。その場合、混合物を構成する重合体として、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体としては、カルボン酸基を有する単量体を重合して得られる重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0038】
また、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体としては、スルホン酸基を有する単量体を重合して得られる重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体との共重合体、スルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0039】
カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体と、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の混合物は、これらのカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体から、それぞれ1種以上の重合体の混合物であってもよい。混合物中のカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合は、5~95質量%が好ましく、8~92質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。混合物中のスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合は、5~95質量%が好ましく、8~92質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。
【0040】
1-2-5.共重合体
本発明の研磨剤組成物Bで使用される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であってもよい。
【0041】
共重合体中の、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。
【0042】
本発明の研磨剤組成物Bで使用される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることも好ましい。
【0043】
1-2-6.水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0044】
上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えても良い。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では、公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0046】
ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても、または2種類以上併用してもよい。上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0047】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0048】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0049】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノールおよびチオフェノール等が挙げられる。
【0050】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。
【0051】
また、重合反応は、加圧または減圧下に行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は2~20時間、特に3~10時間で行うことが好ましい。
【0052】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0053】
中和後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2~9が好ましく、さらに好ましくは3~8である。
【0054】
1-2-7.重量平均分子量
本発明の研磨剤組成物Bで使用される水溶性高分子化合物を構成する、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体および、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量は、それぞれ1,000~1,000,000であることが好ましく、より好ましくは3,000~800,000であり、さらに好ましくは5,000~600,000である。尚、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、1,000未満の場合は、研磨後のうねりが悪化する。また1,000,000を超える場合には、水溶液の粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0055】
1-2-8.濃度
研磨剤組成物B中の水溶性高分子化合物の濃度は、通常、固形分換算で0.0001~3.0質量%であり、好ましくは0.001~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.005~1.0質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分に得られず、3.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することになるので、経済的でない。
【0056】
1-3.有機硫酸エステル塩化合物
本発明の研磨剤組成物Bには、有機硫酸エステル塩化合物を任意成分として添加することができる。有機硫酸エステル塩化合物としては、以下一般式(1)および一般式(2)で表される化合物を使用できる。
【0057】
有機硫酸エステル塩化合物として、以下一般式(1)で表される化合物が使用できる。
R-O-SOM (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0058】
上記一般式(1)においてRの炭素数は8~14であることが好ましく、10~14であることがさらに好ましい。また、Rはアルキル基であることが好ましい。
【0059】
具体的にRが示すアルキル基の例としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、t-ブチル基、イソオクチル基、イソドデシル基等が挙げられる。Rは酸化安定性、分散安定性の点からアルキル基であることが好ましい。
【0060】
上記一般式(1)におけるMの例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0061】
上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物の具体例としては、ヘプチル硫酸塩、オクチル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、高級アルコール(ヤシ油)硫酸塩、ステアリル硫酸塩等が挙げられ、オクチル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、ステアリル硫酸塩を用いることが好ましい。上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物は、1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
研磨剤組成物中の一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物の含有量は、通常0.0001~2.0質量%であり、好ましくは0.0005~1.0質量%である。
【0063】
有機硫酸エステル塩化合物として、以下一般式(2)で表される化合物が使用できる。
R-O-(AO)-SOM (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の自然数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0064】
上記一般式(2)においてnは2~4の自然数であることが好ましい。上記一般式(2)においてMの具体例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0065】
上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物の具体例としては、オキシエチレントリデシルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が2個または3個)、オキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が2個または3個)、オキシエチレンノニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)などが挙げられ、特に、オキシエチレントリデシルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)を用いることが好ましい。
【0066】
上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物は、本発明の研磨剤組成物中に1種または2種以上を組み合わせて含有させることができる。また、上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0067】
上記一般式(2)の有機硫酸エステル塩化合物の研磨剤組成物中の含有量は、通常0.0001~2.0質量%であり、好ましくは0.0005~1.0質量%である。
【0068】
1-4.酸および/またはその塩
本発明の研磨剤組成物Bは、pH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を使用することができる。使用される酸および/またはその塩としては、無機酸および/またはその塩と有機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0069】
無機酸および/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0070】
有機酸および/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸および/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸および/またはその塩、有機ホスホン酸および/またはその塩が挙げられる。これらの酸および/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0071】
有機ホスホン酸および/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0072】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせ、リン酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0073】
1-5.酸化剤
本発明の研磨剤組成物Bは、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0074】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸およびその塩などが好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0075】
研磨剤組成物中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0076】
2.研磨剤組成物の物性(pH)
本発明の研磨剤組成物BのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0である。より好ましくは、0.5~3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0077】
本発明の研磨剤組成物は、ハードディスクといった磁気記録媒体などの種々の電子部品の研磨に使用することができる。特に、アルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に用いられる。さらに好適には、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いることができる。無電解ニッケル-リンめっきは、通常、pH値(25℃)が4~6の条件下でめっきされる。pH値(25℃)が4以下の条件下で、ニッケルが溶解傾向に向かうため、めっきしにくくなる。一方、研磨においては、例えば、pH値(25℃)が4以下の条件でニッケルが溶解傾向となるため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることができる。
【0078】
3.磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、アルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。
【0079】
本発明の研磨剤組成物は、多段研磨方式における粗研磨工程と仕上げ工程とを含む磁気ディスク基板の研磨方法において、粗研磨工程を以下の工程(1)から工程(3)の3段階で行う際の工程(3)で使用される研磨剤組成物Bである。具体的な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法がある。例えば、磁気ディスク基板のおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤および下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤および下定盤に貼り付けた研磨パッドで磁気ディスク基板を挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、磁気ディスク基板のおもて面と裏面を研磨する。研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【0080】
工程(1):前段の粗研磨
α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の粗研磨を行う工程であり、被研磨対象基板の研磨対象面と研磨パッドを接触させ、前記研磨パッドおよび/または前記被研磨対象基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程である。
【0081】
この工程で使用される研磨剤組成物Aは、α-アルミナと中間アルミナと水を含有する研磨剤組成物であり、さらに任意成分として研磨剤組成物Bと同様に、水溶性高分子化合物、有機硫酸エステル塩化合物、酸および/またはその塩、酸化剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0082】
研磨剤組成物Aはα-アルミナと中間アルミナを含有し、中間アルミナとしては、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなどが挙げられる。α-アルミナと中間アルミナの混合比は、中間アルミナ/α-アルミナ(質量比)=0.05~2.0が好ましく、より好ましくは、0.1~1.0であり、さらに好ましくは0.15~0.5である。
【0083】
アルミナの平均粒子径は、好ましくは0.1~2.0μmであり、より好ましくは0.2~1.0μmである。アルミナの平均粒子径が0.1μm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。アルミナの平均粒子径が2.0μm以下であることにより、研磨後のうねり悪化を抑制することができる。
【0084】
アルミナの研磨剤組成物A中の濃度は、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは2~40質量%である。アルミナの濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。アルミナの濃度が50質量%以下であることにより、不必要にアルミナを使用することなく、経済的に研磨することができる。
【0085】
研磨剤組成物Aの酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0086】
研磨剤組成物AのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0であり、さらに好ましくは0.5~3.0である。
【0087】
工程(2):リンス処理
多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面のうねりを低減させる観点から、前記工程(1)の後に、同一の研磨機において、前記工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程(2)を実施する。リンス処理に用いるリンス液としては、特に制限されないが経済性の観点からは蒸留水、イオン交換水、純水、および超純水等の水が使用される。工程(2)では、生産性の観点から、工程(1)で使用した研磨機から被研磨基板を取り出すことなく、同じ研磨機内で行う。
【0088】
工程(3):後段の粗研磨
多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面上の付着物低減およびうねりを低減する観点から、コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水を含有する研磨剤組成物Bをリンス処理工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドおよび/または前記被研磨対象基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程(3)を実施する。生産性向上の観点、および粗研磨工程後の基板表面上の付着物低減およびうねり低減の観点から、工程(1)~(3)は、同一の研磨機で行う。本発明の研磨剤組成物は、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bである。
【実施例
【0089】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0090】
[研磨剤組成物の調製方法]
実施例1、2、参考例1~8、比較例1~7で使用した研磨剤組成物は、表1に記載の材料を、表1に記載の含有量で含んだ研磨剤組成物である。なお、表1でアクリル酸(カルボン酸基を有する単量体)の略号をAA、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(スルホン酸基を有する単量体)の略号をATBS、N-tert-ブチルアクリルアミド(アミド基を有する単量体)の略号をTBAAとした。また、各実施例と各比較例の研磨試験の結果を表2にした。なお、略号が330Tのポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウムは、一般式(2)の有機硫酸エステル塩化合物、LS-30のラウリル硫酸ナトリウムは、一般式(1)の有機硫酸エステル塩化合物である。
【0091】
【表1】
【0092】
[平均粒子径]
アルミナの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製 SALD2200)を用いて測定した。アルミナの平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0093】
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV)を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver. 4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0094】
[重量平均分子量]
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
【0095】
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)+G2500PWXL(東ソー(株)製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容積比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:210nm(UV)
サンプル:濃度5mg/ml(注入量100μl)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(ピークトップ分子量:Mp)11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp)
【0096】
[研磨条件]
無電解ニッケル-リンめっきされた外径95mmのアルミニウム磁気ディスク基板(以下アルミディスクと略す。)を研磨対象として、下記研磨条件で研磨を行った。
【0097】
[前段粗研磨条件]
研磨機:スピードファム(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 -7.5rpm
下定盤 22.5rpm
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 4.5分
加工圧力: 100g/cm
尚、前段粗研磨では、研磨剤組成物Aを使用した。
【0098】
[リンス条件]
研磨機:前段粗研磨と同じ
研磨パッド:前段粗研磨と同じ
定盤回転数:前段粗研磨と同じ
リンス液供給量:3L/min
リンス時間:20秒
加工圧力:15g/cm
尚、リンス液には純水を使用した。
【0099】
[後段粗研磨条件]
研磨機:前段粗研磨と同じ
研磨パッド:前段粗研磨と同じ
定盤回転数:前段粗研磨と同じ
研磨剤組成物供給量:100ml/min
研磨時間:80秒
加工圧力:100g/cm
尚、後段粗研磨では、研磨剤組成物Bを使用した。
上記研磨条件で研磨試験を行った結果を表2に示す。
【0100】
[研磨速度比]
研磨速度比は、研磨後に減少したアルミディスクの質量を測定し、下記式に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスク質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm)/無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度(g/cm)/2×10
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は65.9cm、無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度は、8.0g/cm
研磨速度比は、上記式を用いて求めた比較例3の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。比較例3の実測値は0.335μm/minであった。
【0101】
[付着物カウント比]
研磨後のアルミディスク基板表面上の砥粒残渣などの付着物の有無を評価する目的で、走査型電子顕微鏡観察を用い、下記条件により付着物カウントとして評価した。
測定装置:日本電子株式会社製、電界放出型走査型電子顕微鏡「JSM-7100F」
測定条件:加速電圧 15kV、観測倍率 2万倍
測定方法:後段研磨まで行ったアルミニウム磁気ディスク基板を上記装置および条件で基板上の砥粒残渣などの付着物が白く見えるコントラストで二次電子像を取り込む。フォトレタッチソフトウェアを用いて、取り込んだ画像の白黒二値化を行ったのち、白色部分の画素数を計算し、付着物の個数としてカウントする。
付着物カウント比は、上記方法を用いて求めた比較例3の付着物カウントを1(基準)とした場合の相対値である。比較例3の付着物カウントは1501であった。
【0102】
[うねり]
アルミディスクのうねりは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。測定条件は、アメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:1.4倍、ズーム:1.0倍)、波長500~1000μmとし、測定エリアは、6mm×6mmとし、アメテック社製の解析ソフト(Mx)を用いて解析を行った。尚、表2に示した値は、比較例3のうねりを1(基準)とした場合の相対値である。比較例3の実測値は1.06Åであった。
【0103】
【表2】
【0104】
[考察]
比較例3は、コロイダルシリカの粒度分布が本発明の範囲内にあるものの、特定の水溶性高分子化合物を含有しない研磨剤組成物を用いているため、研磨速度、付着物カウント、うねりなどの研磨性能のバランスにおいて、特定の共重合体である水溶性高分子化合物を含有する参考例1,2,5,6,および実施例2よりも劣る結果となっている。言い換えると、本発明の効果は、コロイダルシリカの粒度分布が特定の範囲内にあることに加えて、ひとつの態様として、特定の共重合体を含有する研磨剤組成物を用いることにより発揮される。
【0105】
別の態様として、上記共重合体を構成する必須単量体の単独重合によって得られる単独重合体を2種類混合して得られた水溶性高分子化合物を含有する研磨剤組成物を用いることによっても、本発明の効果が得られることが実施例に示されている。
【0106】
しかし、本発明の効果は、1種類の単独重合体のみを含有した研磨剤組成物を用いた場合には得られない。このことは、比較例4,5によって示されている。
【0107】
任意成分として、有機硫酸エステル塩化合物を加えた研磨剤組成物を用いた場合にも、参考例3,4で示されるように本発明の効果が得られる。
【0108】
一方、コロイダルシリカの粒度分布が本発明の範囲外の場合には、比較例1,2,6,7で示されるように、特定の共重合体を含有させても研磨性能のバランスは改善されない。
【0109】
以上のことから、本願発明の研磨剤組成物を使用することにより、研磨速度向上、基板表面上の付着物低減、うねり改善の全てを達成できることが明らかである。なお、研磨速度向上、基板表面上の付着物低減、うねり改善の全てについて同時に達成することは、容易ではない。本願発明により、多段研磨方式における粗研磨工程後の、基板表面上の付着とうねりが低減された基板を、生産性よく製造できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用することができる。