(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】園芸施設における潅水チューブの配設並びに環境制御方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/24 20060101AFI20221019BHJP
A01G 9/18 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
A01G9/24 X
A01G9/18
(21)【出願番号】P 2018206383
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 玄太
(72)【発明者】
【氏名】中島 広志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-075573(JP,A)
【文献】特開平03-004720(JP,A)
【文献】実開昭55-131652(JP,U)
【文献】特開2012-000003(JP,A)
【文献】実公昭44-001553(JP,Y1)
【文献】特開2015-002741(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0392460(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14 - 9/26
A01G 13/00 - 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
園芸施設内に設置された培地
2を有する栽培ベッド
1にマルチシート
5で覆われて配設される潅水チューブ
3であって、
該潅水チューブ
3は
、円弧状の複数の支持部材
4により培地
2との間に所要の空間部をもって上方に配設
され、
前記支持部材4は、針金を前記円弧状に形成すると共に、円弧の頂部を凹ませて凹状支持部4aを形成し、
前記支持部材4の両脚部を栽培ベッド1の両側の側壁上部に固定させて前記円弧状が維持されるようにし、
前記凹状支持部4aに前記潅水チューブ3を乗せて支持させることにより前記培地2との間に前記所要の空間部を形成したこと
を特徴とする園芸施設における潅水チューブの配設方法。
【請求項2】
園芸施設内に設置された培地
2を有する栽培ベッド
1にマルチシート
5で覆われて配設される潅水チューブ
3であって、
該潅水チューブ
3は
、円弧状の複数の支持部材
4により培地
2との間に所要の空間部をもって上方に配設され、
前記支持部材4は、針金を前記円弧状に形成すると共に、円弧の頂部を凹ませて凹状支持部4aを形成し、
前記支持部材4の両脚部を栽培ベッド1の両側の側壁上部に固定させて前記円弧状が維持されるようにし、
前記凹状支持部4aに前記潅水チューブ3を乗せて支持させることにより前記培地2との間に前記所要の空間部を形成し、
該空間部に環境制御装置およびCO2 の供給装置
8のパイプ
9を臨ませて環境制御を行うこと
を特徴とする園芸施設における環境制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の農作物を栽培するためのビニールハウスに代表される園芸施設における潅水チューブの配設並びに環境制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の園芸施設としては、複数の施設が公知技術として知られており、潅水チューブの配設については、第1の公知技術がある。この公知技術は、硬質合成樹脂を素材として外周面に多数の孔(1)を開孔した適当高巾長さの角型パイプ(2)を形成し、該角型パイプ(2)の上面中央部に中心線と平行な切れ目(3)を設けて潅水チューブ(4)を挿入することを特徴として成る、施設園芸ビニールハウスにおける潅水チューブの保護パイプ、(特許文献1)である。
【0003】
この第1の公知技術に係る潅水チューブの保護パイプ(5)は、床土の畝(6)の上に設置し、該保護パイプ(5)内に挿通させて潅水チューブ(4)を設けたものであり、潅水チューブ(4)は直接床土にまみえることなく、散水用の微小穴(8)への床土の付着或いは潅水チューブ(4)の踏み潰しや折れ曲がり等が防止され、潅水チューブ(4)内へ水や液肥を送給すると、保護パイプ(5)内で潅水チューブは円型に膨張すると共に微小孔(8)より噴射された水は、ネット状の多数の孔(1)より畝(6)の床土内へ効率的に浸潤してゆくものである、というものである。
【0004】
ハウス内の環境制御については第2の公知技術がある。この公知技術は、ハウス栽培施設(BH)において、電気加熱式温水器(H1、H2)の入側に温水管(IN)を接続すると共に出側に排出管(OUT)を接続し、前記排出管(OUT)に気液間接熱交換機(HE)と冷水供給可能にしたクッションタンク(CT)と循環ポンプ(P1)を順次介して前記給水管(IN)を連通接続して温水・冷水循環装置を構成し、及び電気加熱式温水器(H1、H2)とクッションタンク(CT)との間にハウス栽培施設(BH)内の培地(G)に配置した加温パイプ(HP)に温水を循環可能に連通接続して培地温度調整装置を構成し、前記気液間接熱交換機(HE)の気体入側の吸引ダクト(WD1)に風量調整ダンバー(SD)を介して送風機(DCF)を接続すると共に気体出側の送風ダクト(WD2)をハウス栽培施設(BH)に連通接続して温風・冷風供給装置を構成し、気液間接熱交換機(HE)には冷水又は温水を循環供給可能にしたことを特徴とするハウス栽培施設の空調・培地温度調節装置、(特許文献2)である。
【0005】
この第2の公知技術に係るハウス栽培施設の空調・培地温度調節装置は、前記コンパクトで簡易な構成により、ボイラー運転時のような騒音もなく、取扱いも容易で殆んどメンテナンスフリーで、且つ燃料補充することなく、且つ高いエネルギー効率により、ハウス栽培施設内空気及び培地の温度を季節に応じ且つ栽培植物の種類に応じた適切な温度に維持管理する。これにより光合成を活発にすると共に植物の葉及び根を適温に温め施設園芸における植物の生育を促進し、葉、根、果実等の成長を助長して、農産物の収穫量を増大させることを有利に可能にしたものである、というものである。
【0006】
さらに、この種のハウス栽培施設において、実際に実施されている周知の潅水チューブ等の配管例を示した
図5について説明する。栽培ベッド21に収容した培地22の上に潅水チューブ23を直接配設すると共に、夏季及び冬季において培地22や周囲の温度、即ち環境制御のための冷却・温湯管24も隣接状態で配設し、これら培地22、潅水チューブ23及び冷却・温湯管24をカバーするマルチシート(ビニールシート)25を被覆し、該マルチシート25に所要の孔を開けて培地22に栽培用植物26を植え付け、さらにマルチシート25の上にはCO
2 供給管27を配設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭57-79823号の公開公報
【文献】実用新案登録第3195434号の登録実用新案公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記第1の公知技術の発明においては、多数の孔を有する角型の保護パイプを床土の畝の上に直接設置し、該保護パイプ内に散水用の微小孔を有する潅水チューブを挿通させて設けたものであるが、潅水チューブが床土上に接触する状態であるため、栽培植物の根が給水する水の方に必然的に延びて微小孔に入り込むようになり、微小孔が目詰まりして給水できなくなるという問題点(課題)を有している。
【0009】
また、前記第2の公知技術の考案においては、ハウス外に設けた栽培施設の空調・培地温度調節装置によって、電気的にハウス内の環境を制御するというものであるが、水や液状肥料を供給する潅水チューブの配設について何ら記載されていないばかりでなく、植物にとって必要なCO2 の供給配管についても記載されていないため、実質的に環境管理だけでは農産物の収穫量を増大させることはできないという問題点(課題)を有している。
【0010】
さらに、前記周知例においては、潅水チューブ23を培地22の上に直接配設しているため、植物26の根が潅水チューブ23の散水孔やスリットに入り込んで目詰まりさせてしまったり、さらに、各栽培ベッドごとに環境制御用の配管が必要になり、施設における余剰の配管が必要であって配管のコストが増加するという問題点(課題)を有している。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、潅水チューブ散水孔が土壌や作物の根で目詰まりしないように配設すると共に、余剰の配管を省略しても環境制御やCO2 の供給ができるようにした園芸施設における潅水チューブの配設並びに環境制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前述の課題を解決する具体的手段として、園芸施設内に設置された培地2を有する栽培ベッド1にマルチシート5で覆われて配設される潅水チューブ3であって、該潅水チューブ3は、円弧状の複数の支持部材4により培地2との間に所要の空間部をもって上方に配設され、前記支持部材4は、針金を前記円弧状に形成すると共に、円弧の頂部を凹ませて凹状支持部4aを形成し、前記支持部材4の両脚部を栽培ベッド1の両側の側壁上部に固定させて前記円弧状が維持されるようにし、前記凹状支持部4aに前記潅水チューブ3を乗せて支持させることにより前記培地2との間に前記所要の空間部を形成したことを特徴とする園芸施設における潅水チューブの配設方法を提供するものである。
【0013】
本発明は前述の課題を解決する具体的手段として、園芸施設内に設置された培地2を有する栽培ベッド1にマルチシート5で覆われて配設される潅水チューブ3であって、該潅水チューブ3は、円弧状の複数の支持部材4により培地2との間に所要の空間部をもって上方に配設され、前記支持部材4は、針金を前記円弧状に形成すると共に、円弧の頂部を凹ませて凹状支持部4aを形成し、前記支持部材4の両脚部を栽培ベッド1の両側の側壁上部に固定させて前記円弧状が維持されるようにし、前記凹状支持部4aに前記潅水チューブ3を乗せて支持させることにより前記培地2との間に前記所要の空間部を形成し、該空間部に環境制御装置およびCO2 の供給装置8のパイプ9を臨ませて環境制御を行うことを特徴とする園芸施設における環境制御方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る潅水チューブの配設方法によれば、潅水チューブは円弧状の複数の支持部材により培地との間に所要の空間部をもって上方に配設されるので、潅水チューブの散水孔やスリットに土壌や根が浸入することがなく、目詰まりする可能性を排除し、さらに、環境制御方法によれば、支持部材により潅水チューブを持ち上げて形成された円弧状の空間部を環境制御に利用できるので、余剰の環境制御のためのパイプ配管を省略でき、設備費のコストダウンを図ることができる等の種々の優れた効果を奏するのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る園芸施設における潅水チューブの配設状況を示した栽培ベッドの一端部側から見た側面を略示的に示した側面図である。
【
図2】同栽培ベッドの長さ方向の一部を略示的に示した側面図である。
【
図3】同栽培ベッドのマルチシートに所要の孔を開けて培地に栽培用植物を植え付けた状況を示した一端部側から見た側面を略示的に示した側面図である。
【
図4】同栽培ベッドの一端部側に環境制御装置やCO
2 の供給装置を設置した状況を略示的に示した長さ方向の一部の側面図である。
【
図5】この種のハウス栽培施設において、実際に実施されている周知の潅水チューブ等の配管例を略示的に示した一端部側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を図示の実施の形態に基づいて詳しく説明する。まず、
図1、2に示した栽培ベッド1は、一般的にビニールハウスに代表される園芸施設内に複数個が隣接状態に密集して設置されるものであって、該栽培ベッド1内には培地2が収容されており、該培地2に水や液状肥料を供給するための潅水チューブ3を配設(配管)するにあたって、培地2上に直接載置しないで、支持部材4により所要間隔(空間部)をもって培地2の上方に配管する。
【0017】
前記支持部材4としては、例えば、針金を半円弧状に加工すると共に円弧の頂部を凹ませて凹状支持部4aとし、該支持部材4を栽培ベッド1の長さ方向の上部に所要間隔をもって取り付け、支持部材4の両脚部を栽培ベッド1の両側の側壁上部に係合固定させて半円弧状が維持されるように取り付け、前記凹状支持部4aに潅水チューブ3を乗せて支持させることにより培地2との間に所要の空間部をもって配管する。
【0018】
さらに、潅水チューブ3と支持部材4の上部を覆うようにマルチシート(ビニールシート)5を配設する。なお、前記支持部材4としては針金の外に、例えば、強靭なプラスチック材で型成型した樹脂製のものも使用できる。そして、潅水チューブ3には水や液状肥料が水滴状6に滴下する複数の小孔が所要間隔をもって形成されており、前記被覆させたマルチシート5の両端部は開放状態になっている。
【0019】
このように、培地2の上方に空間部をもって潅水チューブ3を配管した栽培ベッド1に対して、
図3に示したように、栽培しようとする農作物、例えば、イチゴ等の苗7をマルチシート5に所要の間隔で所要の大きさの孔を開けて培地2に植え付け、適宜に水や液状肥料をやりながら適宜の期間に亘ってビニールハウス内で栽培するので、潅水チューブ3は、土壌や培地2から隔離した状態で配設され、散水孔やスリットに土壌や根が浸入することがなく、目詰まりする可能性を排除しているのである。
【0020】
ところで、ビニールハウスの栽培の効率を安定させるためには、地域によってハウス内の環境を制御しなければならないのである。例えば、冬季と夏季では温度を上げたり下げたりしなければならないし、植物に必要なCO
2 の供給も行わなければならないのである。そのために、
図4に示したように、本願発明では、既設の環境制御装置およびCO
2 の供給装置8を利用し、該装置8をハウス内に設置したことで、該装置からの送気パイプ9をマルチシート5の開口部に臨ませて円弧状の空間部を環境制御パイプの代わりに利用するのである。
【0021】
つまり、冬季においては、環境制御装置8から暖かい空気を送風すると共に、必要と認められる暖かい所要量のCO2 の供給もできるようにし、夏季においては、これとは逆に冷たい空気を送風すると共に、必要と認められる冷たい所要量のCO2 の供給もできるようにしたのである。いずれにしても、これらの供給においては、別段のパイプを必要とせずに、円弧状に囲ったマルチシート5が送気パイプの役目を果たし、しかも、苗を植えた培地2自体を速やかに加温または冷却できると共に、苗を植えるために開けた多数の孔から、ハウス内にも送気されるので、ハウス内の温度も効率よく加温又は冷却できるのであり、それによってシーズンを通して栽培植物の育成に適した環境に制御できるので、設備コストを安価にすることができる。
【0022】
前記した環境制御装置およびCO2 の供給装置8については、例えば、送気パイプ9を複数本設けることによって、隣接する複数の栽培ベッド1に同時に送気することができ、少ない台数の装置であっても広いハウス内の環境制御を効率良く行うことができるのである。なお、本願発明は、栽培ベッドに限らず床土の畝にも適用できることは言うまでもないことである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る園芸施設における潅水チューブの配設方法は、園芸施設内に設置された培地を有する栽培ベッドにマルチシートで覆われて配設される潅水チューブであって、該潅水チューブは円弧状の複数の支持部材により培地との間に所要の空間部をもって上方に配設されることにより、栽培される植物の根が潅水チューブ3の散水孔に入り込むことがないので、目詰まりトラブルを避けることができるし、さらに、園芸施設における環境制御方法は、潅水チューブを円弧状の支持部材で持ち上げて培地との間に円弧状の空間部を形成し、該円弧状の空間部に環境制御装置およびCO2 の供給装置のパイプを臨ませて環境制御を行うようにしたので、余剰の環境制御のためのパイプ配管を省略でき、設備費のコストダウンを図ることができると共に、収穫量を大幅に増加させることができるので、この種のハウス栽培において広い範囲で使用可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 栽培ベッド
2 培地
3 潅水チューブ
4 支持部材
4a 凹状支持部
5 マルチシート
6 水滴状
7 苗
8 環境制御装置およびCO2 の供給装置
9 パイプ